説明

ポイントツーポイント(P2P)トラヒック制御システム及び方法

【課題】 ネットワークの境界ルータにおいてISPがP2Pトラフィックを監視し、他のISPがP2Pアプリケーション自体と直接連携することなしに、ISP間で交換されるP2Pトラフィックを削減する。
【解決手段】 本発明は、境界ルータにおいて、受信したパケットがファイル共有系P2Pトラフィックであるか否かを判定し、通信先ISPまでの経由ISP数を取得し、該経由ISP数が多いほど、値が大きくなるよう遅延値Aを計算し、該遅延値Aを経由ISP数に応じた所望の遅延時間として、ファイル共有系P2Pトラフィックに対して付加して送出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、P2P(Point to Point)トラヒック制御システム及び方法に係り、特に、P2Pトラフィックに対して故意に遅延を与えることのみによってISP(Internet Services Provider)間のP2Pトラフィックの削減を実現するためのP2Pトラヒック制御システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インターネットの利用形態が多様化するに伴い、トラヒックがネットワークに与える影響についての研究はより重要となってきている。実トラヒックデータの分析結果に関する報告は多く上げられており、それらによると、近年ではYouTubeのようなウェブベースの動画コンテンツ配信サービスの発展によって、過去にネットワークを支配していたP2Pトラヒックに代わり、HTTPトラヒックが支配的になってきているとされている(例えば、非特許文献1,2,3参照)。しかし、国内においては、いまだP2Pトラヒックはネットワーク全体のトラヒックに大きな影響を与えており、一部のユーザによる大容量のトラヒック生成が大きな問題となっている(例えば、非特許文献4参照)。また、先述のコンテンツ配信についても、サーバ側の容量や負荷の問題を抱えるクライアントサーバ型に代わる、P2P型での配信モデルが注目を浴びており(例えば、非特許文献5,6参照)、P2Pトラヒックがネットワークに与える影響は、いまだ大きな問題であると言える。
【0003】
このような問題に対し、一定以上のトラヒックを送出するユーザに対して帯域制御を行うといった対策について検討されている(例えば、非特許文献7参照)。一方で、上記のように規制をする代わりに、ISP(IPネットワーク側)とP2P事業者(オーバレイ側)で協調するアプローチ(P4Pと呼ばれる)も検討されている(例えば、非特許文献8参照)。この方法では、ISP側がIPネットワークのトポロジやリンク負荷情報を開示し、特定のリンクに負荷が集中しないようなダウンロード元ノードをP2Pが選択できるようにする.こうすることにより、P2Pアプリケーションにとって高品質(ダウンロード時間の短縮)であり、ISPにとって負荷分散を図ることが可能となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Cisco Visual Networking Index: Forecast and Methodology, 2008-2013, (http://www.cisco.com/en/US/solutions/collateral/ns341/ns525/ns537/ns705/ns827/white_paper_c11-481360.pdf)
【非特許文献2】Gregor Maier, Anja Feldmann, Vern Paxson, Mark Allman, "On dominant characteristics of residential broadband internet traffic," ACM IMC, 2009.
【非特許文献3】Nate Anderson, "The YouTube effect: HTTP traffic now eclipses P2P," http://arstechnica.com/old/content/2007/06/the-youtube-effect-http-traffic-now-eclipses-p2p.ars)
【非特許文献4】Kenjiro Cho, Kensuke Fukuda, Hiroshi Esaki, Akira Kato, "Observing slow crustal movement in residential user traffic," ACM CoNEXT, 2008.
【非特許文献5】Ryoichi Kawahara, Noriaki Kamiyama, Tatsuya Mori, Haruhisa Hasegawa, "Performance evaluation of peer-assisted content distribution," IEEE CCNC, 2011.
【非特許文献6】Dongyan Xu, Sunil Suresh Kulkarni, Catherine Rosenberg, Heung-Keung Chai, "Analysis of a CDN-P2P Hybrid Architecture for Cost-Effective Streaming Media Distribution," Multimedia Systems, 2006.
【非特許文献7】帯域制御ガイドライン(http://www.jaipa.or.jp/other/bandwidth/info_080523.html)
【非特許文献8】Haiyong Xie, Y. Richard Yang, "P4P: Provider Portal for Applications" SIGCOMM, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の非特許文献8の手法では、P2PアプリケーションとISPが協調動作する必要があり、P2Pアプリケーションに対してそのようにさせるインセンティブを与えなければならないという問題と、ISPに対してネットワークの情報を開示させるための仕組みを用意しなければならない、という課題があった。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みなされたもので、ISPがP2Pアプリケーション自体と直接連携することなしに、ISP間で交換されるP2Pトラフィックの削減を実現することが可能なP2Pトラヒック制御システムおよび方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、ネットワークの境界ルータにおいて、ISP(Internet Service Provider)がP2P(Point to Point)トラフィックを監視し、他ISPと同士で通信を行っているP2Pトラフィックを制御するトラヒック制御システムであって、
前記境界ルータは、
受信したパケットがファイル共有系P2Pトラフィックであるか否かを判定するP2P判断手段と、
通信先ISPまでの経由ISP数を取得し、該経由ISP数が多いほど、値が大きくなる遅延値を計算し、記憶手段に格納する遅延値算出手段と、
前記記憶手段に格納されている遅延値を経由ISP数に応じた所望の遅延時間として、前記ファイル共有系P2Pトラフィックに対して付加して送出するパケット遅延手段と、
を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ネットワークの境界ルータにおいてISPがP2Pトラフィックを監視し、故意に遅延を付加することにより、他のISPがP2Pアプリケーション自体と直接連携することなしに、ISP間で交換されるP2Pトラフィックの削減を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明が適用されるネットワーク基本構成の一例である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における境界ルータの構成例(自社ISP内からパケット受信)である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における境界ルータの構成例(他社ISP内からパケット受信)である。
【図4】本発明の第1の実施の形態における図2の境界ルータの動作のフローチャートである。
【図5】本発明の第1の実施の形態における図3の境界ルータの動作のフローチャートである。
【図6】本発明の第2の実施の形態における図2の境界ルータの動作のフローチャートである。
【図7】本発明の第2の実施の形態における図3における境界ルータの動作のフローチャートである。
【図8】本発明の第3の実施の形態における図2の境界ルータの動作のフローチャートである。
【図9】本発明の第5の実施の形態におけるシステム構成例である。
【図10】本発明の第5の実施の形態におけるアクセス網境界ルータの構成図である。
【図11】本発明の第5の実施の形態におけるISP境界ルータの構成図である。
【図12】本発明のシミュレーショントポロジの例である。
【図13】本発明のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面と共に、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明が適用されるネットワークの基本構成の一例を示す。
【0012】
ISP(ISP A,ISP B)は、キャッシュ機能を有したキャッシュノードをネットワークの境界ルータとして配置するものとする。
【0013】
図2および図3は、キャッシュノード(境界ルータ)の構成例を示すブロック図である。図2は、自社ISP内ユーザaからパケットが送られてきたときの境界ルータのブロック図であり、図3は、他社ISP内ユーザbからパケットが送られてきたときの境界ルータのブロック図であり、パケット送信元が自社ISP内ユーザか他社ISP内ユーザかによって分けているのみであり、同一の装置である。
【0014】
図2、図3に示すキャッシュノードは、P2P判断部11、ハッシュ値計算部12、フローキー管理部13、パケット遅延部14、遅延値計算部15を有する。
【0015】
本実施の形態では、ISPがネットワークの境界ルータにおいて、P2P判断部11がファイル共有系P2Pトラフィックを監視し、遅延値計算部15が他ISP同士で通信を行っているようなファイル共有系P2Pトラフィックに対して、遅延を計算して付加させる。その際に、通信先ISPまでの経由ISP数が多いほど、与える遅延の値も大きくする。
【0016】
以下、図4のフローチャートにおいて、自社ISP内のユーザaからパケットが送られてきたときの動作フローを、図5のフローチャートにおいて、他社ISP内のユーザbからパケットが送られてきたときの動作フローを説明する。
【0017】
図4について、自ISP内のユーザaからパケットが到着した場合、まずP2P判断部11Aに転送する(図4のステップ101)。
【0018】
P2P判断部11Aでは、送られてきたパケットの特徴から、パケットがファイル共有系P2Pトラフィックであるかどうかを判断する(図4のステップ102)。ファイル共有系P2Pと判断されなかった場合、そのパケットはそのままユーザbに転送する(図4のステップ109)。ファイル共有系P2Pであると判断された場合、パケットをハッシュ値計算部12Aに転送する。
【0019】
ハッシュ値計算部12Aでは、予め用意したハッシュ関数に対して、{送信者(ユーザa)のIPアドレス,受信者(ユーザb)のIPアドレス,送信者(ユーザa)のポート番号,受信者(ユーザb)のポート番号}のフローキーを入力し、ハッシュ値を得る(図4のステップ103)。得られたハッシュ値が、フローキー管理部13Aのフローテーブルにエントリされているかどうか確認する(図4のステップ104)。もし既にエントリされている場合、フローテーブルを参照して得られた遅延値の時間だけ、パケット遅延部14Aにてパケットをキャッシュし、遅延を発生させる(図4のステップ105)。その後、パケットをユーザbに転送する(図4のステップ108)。
【0020】
もし、ブローテーブルにエントリされておらず、新規である場合(ステップ104、No)、遅延値計算部15Aに準備したマップを参照し、送信先ISPまでの経由ISP数を呼び出し、その数に応じた遅延値を決定する(図4のステップ106)。このとき、経由ISP数が大きいほど、遅延値も大きくなるようにする。得られた{ハッシュ値,遅延値}の組を、フロー管理部13Aのフローテーブルに新しくエントリする(図4のステップ107)。その後、パケット遅延部14Aにて遅延値の長さだけパケットをキャッシュし(図4のステップ105)、パケットをユーザbに転送する(図4のステップ108)。
【0021】
一方、図5について、他ISPのユーザbからパケットが到着した場合、まずP2P判断部11Bに転送する(図5のステップ201)。
【0022】
P2P判断部11Bでは、送られてきたパケットの特徴から、パケットがファイル共有系P2Pトラフィックであるかどうかを判断する(図5のステップ202)。ファイル共有系P2Pと判断されなかった場合、そのパケットはそのままユーザaに転送する(図5のステプ208)。ファイル共有系P2Pであると判断された場合、パケットをハッシュ値計算部12Bに転送する。
【0023】
ハッシュ値計算部12Bでは、予め用意したハッシュ関数に対して、パケットの発着IP、発着ポート番号を入れ替えた{受信者(ユーザa)のIPアドレス,送信者(ユーザb)のIPアドレス,受信者(ユーザa)のポート番号,送信者(ユーザb)のポート番号}の逆転フローキーを入力し、ハッシュ値を得る(図5のステップ203)。得られたハッシュ値が、フローキー管理部13Bのフローテーブルにエントリされているかどうか確認する(図5のステップ204)。もし既にエントリされている場合は(図5のステップ204、Yes)、フローテーブルを参照して得られた遅延値の時間だけ、パケット遅延部14Bにてパケットをキャッシュし、遅延を発生させる(図5のステップ205)。その後、パケットをユーザaに転送する(図5のステップ208)。
【0024】
もし新規である場合は(図5のステップ204、No)、遅延値計算部15Bに準備したマップを参照し、送信元ISPまでの経由ISP数を呼び出し、その数に応じた遅延値を「実際にネットワーク上で発生した遅延」として、決定する(図5のステップ206)。なお、ここで、参照されるマップとは、送信元ISPに対してそのISPまでの経由ISP数を与えるテーブルである。このとき、経由ISP数が大きいほど、遅延値も大きくなるようにする。得られた{ハッシュ値,遅延値}の組を、フローキー管理部13Bのフローテーブルに新しくエントリする(図5のステップ207)。その後、パケット遅延部14Bにて遅延値の長さだけパケットをキャッシュし(図5のステップ205)、パケットをユーザaに転送する(図5のステップ208)。
【0025】
上記のような処理を行うことで、P2Pアプリケーション自体の持つ最適化アルゴリズムにより、遅延の少ない同ISP内や近隣ISP内のピアが選択されやすくなり、ISPをまたぐようなファイル共有系P2Pトラフィックを減少させることが可能となる。
【0026】
[第2の実施の形態]
本実施の形態では、前述の第1の実施の形態における制御手法で、遅延値計算部15における遅延値の計算において、ISP間の境界ルータから送信先ピアまでのRTT(Round Trip Time)を「実際にネットワーク上で発生した遅延」として考慮し、RTTに追加して与えた遅延の和が、経由ISP数に応じた所望の遅延時間になるように遅延を与える場合について説明する。
【0027】
キャッシュノードの構成は前述の第1の実施の形態と同様である。
【0028】
図6にユーザaからパケットが送られてきたときの動作フローを、図7にユーザbからパケットが送られてきたときの動作フローを示す。
【0029】
本実施の形態では、データをダウンロードする側からのパケットには遅延を与えず、データをアップロードする側のみのパケットに対し遅延を与える。
【0030】
例えば、ユーザaがユーザbからデータをダウンロードする場合、キャッシュノード10Aにおいて、ユーザaからのパケットには遅延を与えず、その代わりにユーザaからパケットが到着した時刻をタイムスタンプとしてパケット遅延部14A内のメモリ(図示せず)に記録する(図6のステップ305)。その他の動作は図4の動作と同様である。
【0031】
一方で、キャッシュノード10Bにおいて、ユーザaが送ったパケットのACK番号と同じSEQ番号のパケットがユーザbから届いた場合、パケット遅延部14Bは、ユーザaのパケットが届いたタイムスタンプと、ユーザbのパケットが届いたタイムスタンプから、ISP間の境界ルータからユーザbまでのRTTを「実際にネットワーク上で発生した遅延」として計算する(図7のステップ405)。ここで、RTTが200msecであったとし、遅延値計算部15Bで求められたユーザaとユーザb間の経由ISP数に基づき与えるべき遅延が2000msecであったとすると、パケット遅延部14Bはユーザbからのパケットに対して2000-200=1800msecの遅延を与える(図7のステップ406)。
【0032】
[第3の実施の形態]
本実施の形態における境界ルータ10A,10Bは図2,図3の構成と同様である。
【0033】
本実施の形態では、前述の第1の実施の形態における制御手法で、遅延値計算15における遅延値の計算において、経由ISP数に加えて、ISP間の境界ルータにおけるルータの輻輳度合いを考慮し、ルータのバッファの占有率が高いほど大きな遅延を与える。
【0034】
本実施の形態では、パケットの損失率を考慮した遅延を計算する。
【0035】
例えば、ユーザaがユーザbからデータをダウンロードする場合、ユーザaから送られてきたパケットのACK番号から、その時点までのISP間の境界ルータとユーザb間におけるパケットの損失率pを計算することができる。当該処理はキャッシュノード10Aのパケット遅延部14Aにおいて行う(図8のステップ506)。この時、パケット損失率pを考慮したISP間の境界ルータとユーザb間のネットワークで発生する遅延の期待値を、
【0036】
【数1】

として求める。ユーザbからパケットが届いたとき、キャッシュノード10Bのパケット遅延部14Bはこのネットワークで発生する遅延の期待値を「実際にネットワーク上で発生した遅延」として考慮して、ネットワークで発生する遅延の期待値とパケット遅延部14Bで与える遅延が所望の遅延時間になるように、パケット遅延部14Bで遅延を与える。
【0037】
例えば、パケットの損失率がp=0.01であり、RTTが200msec、遅延値計算部15Bで求められた所望の遅延が2000msecであったとすると、パケット遅延部14Bはユーザbから届いたパケットに対して、
【0038】
【数2】

の遅延を与える。
【0039】
[第4の実施の形態]
本実施の形態における境界ルータ10A,10Bは図2,図3の構成と同様である。
【0040】
本実施の形態では、前述の第1の実施の形態の遅延値の計算を、経由ISP数のみならず、ISP間の境界ルータの輻輳状態を加味して行う。
【0041】
例えば、第1の実施の形態により、ISP数に基づいて計算された規定の遅延値を2000msecとする。ルータのバッファサイズが10GBであったとし、そのうち5GBパケットで埋められているとすると、パケット遅延部14は以下の計算を行い、パケットに対し、
【0042】
【数3】

の遅延を与える。このように遅延を与えることで、経由する境界ルータが混雑しているようなピアは選択されにくくなり、ルータの負荷を軽減させることができる。
【0043】
[第5の実施の形態]
図9は、本発明の第5の実施の形態におけるシステム構成例を示す。
【0044】
本実施の形態では、前述の第1の実施の形態における遅延値の計算において、経由ISP数に基づいて計算された遅延値に対して、ユーザがレアピースをダウンロードしている場合には遅延値を小さくし、同ISP内にピースが多く存在する場合には、遅延値を大きくする制御を行う。そうすることによって、ユーザのダウンロード時間に大きな影響を与えることなく、トラヒックをISP内に閉じ込めることができる。
【0045】
図10は、本発明の第5の実施の形態におけるアクセス網境界ルータの構成を示し、図11は、ISP境界ルータの構成を示す。
【0046】
図10に示すアクセス網境界ルータ20Aは、P2P判断部21A、ピースハッシュ値計算部22A、ピーステーブル管理部23Aを有する。図11に示すISP境界ルータ20Bは、P2P判断部21B、ピースハッシュ値計算部22B、ピーステーブル管理部23B、ハッシュ値計算部24、フローキー管理部25、遅延値計算部26、パケット遅延部27を有する。
【0047】
例えば、図9に示すシステムにおいて、アクセス網境界ルータ20Aは、P2P判断部21Aが、アクセス網側からのデータを含むパケットを受信し、ファイル共有系P2Pトラフィックであると判断した場合、ピースハッシュ値計算部22Aにおいてデータ部分を予め用意したハッシュ関数を用いてハッシュ化する。アクセス網境界ルータ20Aは、ピーステーブル管理部23Aにおいてハッシュ値ごとにパケットを送信したユニークユーザ数をカウントしたピーステーブル({ハッシュ値,当該データを送信したISP境界ルータ内のユーザ数}の組)を、常にISP境界ルータのピーステーブル管理部23Bと共有する。
【0048】
共有の方法としては、各アクセス網境界ルータ20Aと各ISP境界ルータ20Bのピーステーブル管理部23A、23Bが相互に直接ピーステーブルの変更情報を送信し合い、各々が最新のピーステーブル情報を更新することで共有する場合と、ピーステーブル共有用のサーバを別途用意し、各アクセス網境界ルータ20Aと各ISP境界ルータ20Bは変更情報を一度ピーステーブル共有用のサーバ(図示せず)に送信して、ピーステーブル共有用のサーバは送られてきた変更情報を元に最新のピーステーブル情報を更新し、それを各アクセス網境界ルータ20Aと各ISP境界ルータ20Bに送信することで共有をする場合の二通りを考える。また、それぞれの場合における、共有するタイミングについても、ピーステーブルに変更があった際に共有を行う場合と、5分に1回のように決められた時間間隔で共有を行う場合の二通りを考える。
【0049】
ISP境界ルータ20Bは、他ISPのユーザbから受け取った、データを含むパケットについて、P2P判断部21Bにおいて、ファイル共有系P2Pトラフィックであると判断された場合、ハッシュ値計算部24でデータ部分をアクセス網境界ルータ20Aと同様のハッシュ関数を用いてハッシュ化する。遅延値計算部26は、ハッシュ値を、アクセス網境界ルータ20Aから受け取ったピーステーブルで参照し、アクセス網境界ルータ20Aが同じデータを多くのユーザから受け取っていた場合、ユーザbが送信しようとしているファイルのピースはISP A内に多く存在するとみなし、遅延値を大きくする。
【0050】
例えば、規定の遅延値を2000msecとする。ある係数を50と設定し、ユーザaがユーザbからダウンロードしようとしているデータが、ISP Aのアクセス網境界ルータに10ユーザから届いていたとする(ISP A内に同じピースが少ないレアピースである)。その時、与える遅延値は、
【0051】
【数4】

となる。
【0052】
また、ISP Aのアクセス網境界ルータ20Aに同じデータが100ユーザから届いていたとする(ISP A内に同じピースを持つユーザが多く存在する)。その時、与える遅延値は、
【0053】
【数5】

となる。
【0054】
上記のように、ISPはP2Pアプリケーション自身と直接連携することなく、ISP間のP2Pトラフィックの削減を実現する。
【0055】
実際に、第1の実施の形態の手法について、図12のようなトポロジ上でシミュレーションを行った結果を図13に示す。シミュレーション時のパラメータは、
・総ピア数:500(AS1〜AS5に100ずつ)
・総シーダ数:5(AS1〜AS5に1ずつ)
・交換するファイル:50MB
(256KBのチャンクが200,チャンクは16KBのピースが16)
である。また、本シミュレーションにおいては、経由AS数に関わらず与える遅延は一定とした。
【0056】
図13のグラフは、横軸がシミュレーション時間(sec)を示し、縦軸がトラフィック量(ピース数)である。白いグラフは、AS内を流れるピース数を表しており、黒いグラフは、AS間を流れるピース数を表している。同図(A)は、AS間のトラフィックに与える遅延を50msecのまま固定した時のグラフであり、同図(B)は、シミュレーション時間1000msecにおいて、AS間のトラフィックに与える遅延を50msecから2000msecに変更した時のグラフである。同図(B)より、大きな遅延を与えることによってAS間のトラフィックが大きく減少していることが確認できる。
【0057】
上記の図2、図3に示す第1〜5の実施の形態の各動作をプログラムとして構築し、境界ルータとして利用されるコンピュータにインストールして実行させる、または、ネットワークを介して流通されることが可能である。
【0058】
なお、本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲内において種々変更・応用が可能である。
【符号の説明】
【0059】
10A,10B 境界ルータ
11A,11B P2P判断部
12A,12B ハッシュ値計算部
13A,13B フローキー管理部
14A,14B パケット遅延部
15A,15B 遅延値計算部
20A アクセス網境界ルータ
20B ISP境界ルータ
21A,21B P2P判断部
22A,22B ピースハッシュ値計算部
23A,23B ピーステーブル管理部
24 ハッシュ値計算部
25 フローキー管理部
26 遅延値計算部
27 パケット遅延部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークの境界ルータにおいて、ISP(Internet Service Provider)がP2P(Point to Point)トラフィックを監視し、他ISPと同士で通信を行っているP2Pトラフィックを制御するトラヒック制御システムであって、
前記境界ルータは、
受信したパケットがファイル共有系P2Pトラフィックであるか否かを判定するP2P判断手段と、
通信先ISPまでの経由ISP数を取得し、該経由ISP数が多いほど、値が大きくなる遅延値を計算し、記憶手段に格納する遅延値算出手段と、
前記記憶手段に格納されている遅延値を経由ISP数に応じた所望の遅延時間として、前記ファイル共有系P2Pトラフィックに対して付加して送出するパケット遅延手段と、
を有することを特徴とするトラフィック制御システム。
【請求項2】
前記パケット遅延手段は、
前記遅延値を計算する際に、前記ISP間の境界ルータから送信元ピアまでのRTT(Round Trip Time)を求め、前記記憶手段に格納されている前期遅延値から該RTTを引いた値を、前記ファイル共有系P2Pトラフィックに与える遅延時間とする手段を更に有する
請求項1記載のトラフィック制御システム。
【請求項3】
前記パケット遅延手段は、
前記遅延値を計算する際に、前記ISP間の境界ルータから送信先ピアまでのRTTとパケット損失率を求め、前記記憶手段に格納されている前記遅延値、該RTT、該パケット損失率から該パケット損失率に基づいて、ネットワークで発生する遅延の期待値を求め、該期待値を前記ファイル共有系P2Pトラフィックに与える遅延時間とする手段を更に有する
請求項1記載のトラフィック制御システム。
【請求項4】
前記パケット遅延手段は、
前記遅延値を計算する際に、前記ISP間の境界ルータにおけるルータの輻輳度合いを取得し、前記記憶手段に格納されている前記遅延値に対し、ルータのバッファの占有率が高いほど値が大きくなる遅延値を求め、該遅延値を前記ファイル共有系P2Pトラフィックに与える遅延時間とする手段を更に有する
請求項1記載のトラフィック制御システム。
【請求項5】
前記パケット遅延手段は、
前記遅延値を計算する際に、前記記憶手段に格納されている前記遅延値に対し、前記ISP内に存在するピースの数を取得し、レアピースをダウンロードしているユーザに対しては与える遅延を小さく、同ISP内にピースを持つユーザが存在する場合には遅延を大きくする遅延値を求め、該遅延値を前記ファイル共有系P2Pトラフィックに与える遅延時間とする手段を更に有する
請求項1記載のトラフィック制御システム。
【請求項6】
ネットワークの境界ルータにおいて、ISPがP2Pトラフィックを監視し、他ISPと同士で通信を行っているP2Pトラフィックを制御するトラヒック制御方法であって、
前記境界ルータにおいて、
受信したパケットがファイル共有系P2Pトラフィックであるか否かを判定するP2P判断ステップと、
通信先ISPまでの経由ISP数を取得し、該経由ISP数が多いほど、値が大きくなる遅延値を計算し、記憶手段に格納する遅延値算出ステップと、
前記記憶手段に格納されている遅延値を経由ISP数に応じた所望の遅延時間として、前記ファイル共有系P2Pトラフィックに対して付加して送出するパケット遅延ステップと、
を有することを特徴とするトラフィック制御方法。
【請求項7】
前記パケット遅延ステップにおいて、
前記遅延値を計算する際に、前記ISP間の境界ルータから送信元ピアまでのRTT(Round Trip Time)を求め、前記記憶手段に格納されている前期遅延値から該RTTを引いた値を、前記ファイル共有系P2Pトラフィックに与える遅延時間とする
請求項6記載のトラフィック制御方法。
【請求項8】
前記パケット遅延ステップにおいて、
前記遅延値を計算する際に、前記記憶手段に格納されている前記遅延値に対し、前記ISP内に存在するピースの数を取得し、レアピースをダウンロードしているユーザに対しては与える遅延を小さく、同ISP内にピースを持つユーザが存在する場合には遅延を大きくする遅延値を求め、該遅延値を前記ファイル共有系P2Pトラフィックに与える遅延時間とする請求項6記載のトラフィック制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−74542(P2013−74542A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213465(P2011−213465)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】