説明

ポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体、その製造方法、及び、それを含んでなるハイドロゲル

【課題】所望の品質を有するポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体を安定に提供する。
【解決手段】本発明のポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体は、ポリ−γ−L−グルタミン酸分子同士の架橋構造を有する。ポリ−γ−L−グルタミン酸はL−グルタミン酸のみからなるため、これにより得られるポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の品質は、架橋体を作製した際にロット間で不均一となることが無く、安定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体、その製造方法、及び、それを含んでなるハイドロゲルに関する。さらに詳しくは、吸水性及び生分解性に優れ、かつ所望の品質を安定的に供給することができるポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体、その製造方法、及び、それを含んでなるハイドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸水性樹脂は、紙オムツや生理用品、医療、建設、土木工学、建築分野、感触改善剤、食品のための鮮度保持剤、さらには園芸等の農学分野における緑化工学のための重要な基材等として、多くの分野で用いられている。
【0003】
吸水性樹脂の中でも、アクリル酸系の吸水性樹脂は、優れた吸水性を有し、かつ安価であるため、幅広い分野で用いられている。しかし、アクリル酸系の吸水性樹脂は、ほとんど生分解性を有していない。そのため、微生物等による分解によって、アクリル酸系の給水性樹脂を処理することは困難である。例えば、コンポスト処理のようなバイオ処理には適しておらず、また、埋立て処分場等においても、分解されずに残存することになる。
【0004】
この問題を解決する吸水性樹脂として、例えば特許文献1では、ポリ−γ−グルタミン酸架橋体からなる生分解性吸水樹脂が開示されている。ポリ−γ−グルタミン酸(以下、「PGA」と表記する)は、様々な生物により合成される高分子化合物であり、生分解性に優れている。そのため、特許文献1に係る生分解性吸水性樹脂は、廃棄処分を安全かつ簡便に行なうことができるとされている。
【0005】
なお、PGAとしては、特許文献1で用いられているPGAのように、L−グルタミン酸及びD−グルタミン酸の両光学異性体が不規則に結合してなるPGAが一般的であるが、L−グルタミン酸のみが結合してなるPGA(特許文献2、非特許文献1〜3)や、D−グルタミン酸のみが結合してなるPGA(非特許文献4)も報告されている。
【0006】
なお、本明細書では、説明の便宜のため、D−グルタミン酸及びL−グルタミン酸が結合してなるPGAを「DL−PGA」と表記する。また、D−グルタミン酸のみからなるPGAを「D−PGA」と表記し、L−グルタミン酸のみからなるPGAを「ポリ−γ−L−グルタミン酸」又は「L−PGA」と表記する。
【特許文献1】特開平10−251402号公報(1998年9月22日公開)
【特許文献2】特表2002−517204号公報(2002年6月18日公表)
【非特許文献1】Aono, R., M. Ito, and T. Machida, Contribution of the Cell Wall Component Teichuronopeptide to pH Homeostasis and Alkaliphily in the Alkaliphile Bacillus lentus C-125, Journal of Bacteriology, 1999, Vol. 181, 6600-6606.
【非特許文献2】Weber, J., Poly(gamma-glutamic acid)s are the major constituents of nematocysts in Hydra (Hydrozoa, Cnidaria), Journal of Biological Chemistry, 1990, Vol. 265, 9664-9669.
【非特許文献3】Hezayen, F. F., B. H. A. Rehm, B. J. Tindall and A. Steinbuchel, Transfer of Natrialba asiatica B1T to Natrialba taiwanensis sp. nov. and description of Natrialba aegyptiaca sp. nov., a novel extremely halophilic, aerobic, non-pigmented member of the Archaea from Egypt that produces extracellular poly(glutamic acid), International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, 2001, 51, 1133-1142.
【非特許文献4】Makino, S., I. Uchida, N. Terakado, C. Sasakawa, and M. Yoshikawa, Molecular characterization and protein analysis of the cap region, which is essential for encapsulation in Bacillus anthracis, Journal of Bacteriology, 1989, 171, 722-730.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に係る生分解性吸水性樹脂では、所望の品質を有する生分解性吸水性樹脂を、安定して製造することが困難であるという問題や、そもそも当該生分解性吸水性樹脂を構成するDL−PGAの架橋体を製造すること自体が困難であるという問題を生じる。
【0008】
具体的には、特許文献1に開示されているDL−PGA架橋体の原料であるDL−PGAは、バチルス・ズブチルス等の納豆菌やその類縁菌によって合成されている。しかし、納豆菌やその類縁菌から得られるDL−PGAでは、D−グルタミン酸及びL−グルタミン酸が不規則に結合し、D−グルタミン酸及びL−グルタミン酸の含有比率や配列は生産菌を培養する毎に変動する。そのため、DL−PGA架橋体は、分子毎に構造が異なり、その性質も分子毎に異なることとなる。これでは、架橋体を作製した際に、使用するDL−PGAのロット間により、品質の差が生じ易く、所望の品質を有するPGA架橋体を安定して製造することが困難である。
【0009】
さらに、上述のように、原料となるDL−PGAの品質が一定していないと、安定して架橋体を得ることが困難であるといわれている。本発明者らの検討においてもDL−PGAの架橋体は得られなかった。これは、上述のようにDL−PGAは、分子毎にその構造が異なるためであると考えられる。つまり、PGAの架橋体を作製する際の架橋効率は分子の構造に依存しており、分子毎の構造が不規則に異なる場合は、架橋効率が著しく低下する。よって、分子毎に構造が異なるDL−PGAを架橋させることは困難であり、架橋体の収率も極めて低いものとなる。
【0010】
ところで、従来、L−PGAの架橋体を得たという報告はない。これには次の理由が考えられる。即ち、従来、液体培養では、平均分子量が大きいL−PGAは得られていない。一方で、低分子量の有機化合物の架橋体を得ることが極めて困難であることは技術常識である。これでは、当業者は、低分子量のL−PGAの架橋体を得ることを着想することすら困難である。そのため、L−PGAの架橋体を得ることを試みたという報告すら無い。なお、工業的な用途のPGAは、液体培養によって製造可能であることが要求される。平板培養では一度に大量の微生物を培養することが難しく、また、平板培地上からL−PGAを回収すると効率が悪いからである。
【0011】
例えば、L−PGAを合成する生物として、非特許文献1では好アルカリ性細菌Bacillus haloduransが開示され、及び非特許文献2ではヒドラが開示されている。しかし、これらの生物により合成されるL−PGAの分子量は10万程度であり、極めて小さい。
【0012】
また、特許文献2及び非特許文献3では、好塩性古細菌であるNatrialba aegyptiacaは、平板培地で培養すれば、分子量10万〜100万程度のL−PGAを生産することが報告されている。しかし、当該Natrialba aegyptiacaが液体培養条件下で合成するL−PGAは、分子量10万程度であり、かつ、その合成効率は極めて低い。
【0013】
D−PGAの架橋体は、仮に得ることができたとしても、産業上の利用に適していない。
【0014】
何故なら、非特許文献4で開示されているD−PGAを合成する菌は、強い病原性を有する炭疸菌Bacillus anthracisである。産業上利用するPGAの製造に、炭疸菌を使用することは極めて不適切である。
【0015】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、所望の品質を有するL−PGA架橋体を安定に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
【0017】
すなわち、本発明に係るポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体は、上記課題を解決するために、ポリ−γ−L−グルタミン酸分子同士の架橋構造を有することを特徴としている。
【0018】
本発明に係るポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体では、上記ポリ−γ−L−グルタミン酸の平均分子量が100万以上であることがより好ましい。
【0019】
本発明に係るポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体では、上記ポリ−γ−L−グルタミン酸の平均分子量が200万以上であることがより好ましい。
【0020】
本発明に係るポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体では、上記ポリ−γ−L−グルタミン酸の平均分子量が350万以上であることがより好ましい。
【0021】
本発明に係るポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体では、吸水倍率が10倍以上5000倍以下であることがより好ましい。
【0022】
本発明に係るハイドロゲルは、上記課題を解決するために、上記の本発明に係るポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体を含んでなることを特徴としている。
【0023】
本発明に係るポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の製造方法は、上記課題を解決するために、ポリ−γ−L−グルタミン酸の分子同士を架橋させる架橋工程を含むことを特徴としている。
【0024】
本発明に係るポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の製造方法では、上記架橋工程では、放射線を照射することで、ポリ−γ−L−グルタミン酸の分子同士を架橋させることがより好ましい。
【0025】
本発明に係るポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の製造方法では、上記放射線がγ線であることがより好ましい。
【0026】
本発明に係るポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の製造方法では、上記架橋工程におけるゲル化率が50%以上100%以下であることがより好ましい。
【0027】
本発明に係るポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の製造方法では、Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)を用いて、上記ポリ−γ−L−グルタミン酸を合成するポリ−γ−L−グルタミン酸合成工程を、さらに含むことがより好ましい。
【0028】
本発明に係るポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の製造方法では、上記Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)が、Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)0830−82株(受託番号:FERM P−20872)、Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)0830−243株(受託番号:FERM P−20873)、及び、Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)0831−264株(受託番号:FERM P−20874)からなる群から選択される少なくとも一つの菌株であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るL−PGA架橋体は、以上のように、L−PGA分子同士の架橋構造を有している。そのため、生分解性及び吸水性に優れたL−PGA架橋体を、所望の品質で安定に提供することができるという効果を奏する。
【0030】
また、本発明に係るL−PGA架橋体の製造方法によれば、L−PGAの分子同士を架橋させる架橋工程を含んでいる。そのため、生分解性及び吸水性に優れたL−PGA架橋体を、所望の品質で安定に提供することができるという効果を奏する。さらに、L−PGAからL−PGA架橋体を得るときのゲル化率が高いため、高い製造効率でL−PGA架橋体を製造することができるというさらなる効果を奏する。
【0031】
また、本発明に係るハイドロゲルは、本発明に係るL−PGAを含んでなる。そのため、所望の品質を有するハイドロゲルを安定して製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の実施の一形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0033】
〔本発明に係るL−PGA架橋体〕
本発明に係るL−PGA架橋体は、L−PGA分子同士の架橋構造を有するものであればよく、その他の具体的な構成は特に限定されるものではない。
【0034】
L−PGAは、L−グルタミン酸のみからなるため、光学活性が均一であり、分子毎の性質も均一である。そのため、所望の品質を有するL−PGA架橋体を安定して得ることができる。つまり、本発明に係るL−PGA架橋体は、L−グルタミン酸のみからなるホモポリマーであり、その構造は下記式(1)にて示される構造を有する。
【0035】
【化1】

【0036】
本明細書において「架橋構造」とは、直鎖状の高分子化合物の分子同士が、物理的あるいは化学的な方法で連結した構造を意図する。また、本明細書において「架橋体」とは、架橋構造を有することで、物理的、化学的性質が変化した高分子化合物のことを意図する。
【0037】
本発明に係るL−PGA架橋体では、L−PGAの分子同士が、共有結合によって、3次元状に連結している。具体的には、L−PGAの分子間で、上記式(1)におけるH以外のいずれかの元素同士が共有結合することにより、L−PGA分子同士が3次元状に連結している。換言すれば、本発明に係るL−PGA架橋体は、L−PGA分子同士が3次元状に繋がったポリマー、即ち、L−PGAを構成分子とするネットワークポリマーである。なお、L−PGAの分子間で、一方のL−PGA分子における、上記式(1)に示すNと、他方のL−PGA分子における、上記式(1)の最右端に示すCとが結合したものは、L−PGAの分子同士の重合であって、「架橋構造」の意図するところではない。
【0038】
本発明に係るL−PGA架橋体を構成するL−PGAの平均分子量は、その分子同士が架橋している限り、限定されるものではないが、100万以上が好ましく、さらに好ましくは200万以上であり、さらに好ましくは350万以上である。分子量が100万以上であれば、原料であるL−PGAからハイドロゲルを製造したときのゲル化率が向上するため、ハイドロゲルの収率を向上させることができる。
【0039】
L−PGAの平均分子量が高ければ高いほど、得られるL−PGA架橋体の吸水倍率が向上する。そのため、本発明に係るL−PGA架橋体を構成するL−PGAの平均分子量の上限値は特に限定されるものではない。なお、後述するL−PGAの製造方法によれば、例えば、平均分子量600万、最大で1500万のL−PGAを得ることができる。
【0040】
なお、本明細書において「平均分子量」とは、プルラン標準物質の分子量換算にて算出した数平均分子量(Mn)を意図する。
【0041】
本発明に係るL−PGA架橋体の吸水倍率は、特に限定されるものではないが、後述する本発明に係るL−PGA架橋体の製造方法によれば、例えば10倍以上5000倍以下、特に1900倍以上4400倍以下のものを好適に得ることができる。特に、PGAを材料した吸水性樹脂として、吸水倍率が3300倍より大きいものは、上記特許文献1においてDL−PGAを用いても得ることができなかった、画期的なPGA性の生分解性吸水性樹脂である。
【0042】
なお、本明細書において「吸水倍率」とは、物質が、水等の親水性液体を含んで膨潤することによる重量の増加率を意図する。本発明に係るL−PGA架橋体の吸水倍率は、例えば次のように算出すればよい。即ち、L−PGA架橋体の粉末を、当該L−PGA架橋体が膨潤するために十分な量の水に入れ、4℃にて1週間静置させることで十分に膨潤させた後、80メッシュの金網で水切りした後のL−PGAの湿重量から、当該L−PGA架橋体の粉末の乾燥重量を引いた値を、当該L−PGA架橋体の粉末の乾燥重量で割って算出することができる。
【0043】
なお、本発明に係るL−PGA架橋体は、L−PGAのみからなる架橋体であることが好ましいが、DL−PGA分子やD−PGA分子を含んでいてもよい。ただし、製造するL−PGA架橋体毎の品質を安定にするため、その含有量は0重量%以上20重量%以下であることが好ましい。
【0044】
〔本発明に係るL−PGA架橋体の製造方法〕
本発明に係るL−PGA架橋体の製造方法は、L−PGAの分子同士を架橋させる架橋工程を含んでいればよい。L−グルタミン酸のみからなる、光学活性が均一なL−PGAを原料として、これを架橋させることで、L−PGA架橋体の分子毎の性質が均一となる。よって、所望の品質を有するL−PGA架橋体を安定して製造することができる。
【0045】
L−PGAは、溶媒に溶解させてL−PGAの溶液を作製した上で、架橋反応に供すればよい。L−PGAを溶解させる溶媒としては、L−PGAを溶解させることができる限り限定されるものではないが、例えば、水、アルコ−ル、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル等が挙げられ、中でも、水、メチルアルコ−ル、エチルアルコ−ルが好ましく、水がさらに好ましい。これらの溶媒に溶解させるときのL−PGAの濃度は、特に限定されるものではないが、好ましくは1重量%以上10重量%以下であり、さらに好ましくは2重量%以上8重量%以下であり、特に好ましくは2重量%以上7重量%以下である。また、L−PGAの溶液のpHは、特に限定されるものではないが、5.0以上9.0以下が好ましく、さらに好ましくはpH6.0以上8.0以下である。
【0046】
L−PGAの溶液に架橋反応を施すと、当該溶液中でL−PGAの架橋体が形成され、当該L−PGA架橋体が当該溶媒を含んで膨潤することで、ハイドロゲルが得られる。これは後述する本発明に係るハイドロゲルの態様の一つである。さらに、当該ハイドロゲルを凍結乾燥等することによって、溶媒成分を除去することによって、当該溶媒成分を含まないL−PGA架橋体を得ることができる。なお、本発明に係るハイドロゲルについては後述する。
【0047】
本発明に係るL−PGA架橋体の製造方法によれば、上述した架橋反応において、例えば、50%以上100%以下、特に70%以上100%以下のゲル化率でL−PGAを得ることができる。
【0048】
なお、本明細書において「ゲル化率」とは、原料として用いたL−PGAの重量に対する、架橋反応によって架橋体を形成したL−PGAの重量の百分率を意図する。換言すれば、「ゲル化率」とは、原料として用いたL−PGAに対して、得られるL−PGA架橋体ひいてはハイドロゲルの収率を表す。具体的には、架橋反応によって得たハイドロゲルの乾燥重量を、当該架橋反応に供したL−PGAの乾燥重量で割って得た数値に、百を乗じて算出する。
【0049】
L−PGAの架橋反応の方法は、L−PGAの分子同士を架橋させることができる限り限定されるものではなく、従来公知の方法で行なえばよい。例えば、架橋剤を用いてもよく、放射線を用いてもよいが、中でも放射線を用いることが好ましい。放射線を用いれば、架橋反応後に、架橋剤を除去する操作を必要とせず、高純度のL−PGA架橋体を製造することができる。
【0050】
本発明に係るL−PGA架橋体の製造方法で使用可能な放射線としては、特に限定されるものではなく、α線、β線、γ線、電子線、中性子線、X線等を用いればよい。中でも、γ線が好ましい。γ線は、例えばコバルト60を線源とする照射装置等、従来公知の方法、機器を用いて発生させればよい。
【0051】
また、L−PGAに照射する放射線の照射線量は、0.5kGy以上20kGy以下が好ましく、さらに好ましくは2kGy以上10kGy以下であり、特に好ましくは3kGy以上7kGy以下であるが、製造するL−PGA架橋体の用途等に応じて適宜設定すればよい。一般に照射線量が多ければ硬質のハイドロゲルを得ることができ、照射線量が少なければ軟質のハイドロゲルを得ることができる。例えば、照射線量を1kGy、3kGyとした場合、平板上に置いても自然に水平方向に広がる、流動性の高いハイドロゲルが得られ、照射線量が5kGy、7kGyでは、平板上に置いても水平方向に広がることなく静置可能な、流動性の低いハイドロゲルが得られる。
【0052】
また、L−PGAの架橋に放射線を用いる場合、L−PGAの溶液を放射線透過性容器に入れて用いればよい。放射線透過性容器としては、特に限定されるものではなく、例えばガラス製バイアル瓶等、ガラス製容器等を用いることができる。
【0053】
L−PGAの溶液を放射線透過性容器に入れた後は、そのまま放射線を照射してもよいが、予め、当該溶液に対して窒素を用いてバブリングしておくことが好ましい。当該溶液中に含有される酸素を除去することで、架橋反応の阻害を防ぐことができる。
【0054】
なお、L−PGAの架橋に架橋剤を用いる場合は、エポキシ化合物、カルボン酸基及び/又はカルボキシレート基を含有する多糖、アミノ酸等、従来公知の架橋剤を用いればよく、特に限定されるものではない。例えば、エポキシ化合物としては、グリセリントリグリシジルエーテル、ジ−グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリ−グリセリンポリグリシジルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールポリグリシジルエーテル、多糖類としては、グルコースとフルクトースとガラクトースとグルクロン酸とからなる混合物、ラムノースとグルコースとガラクトースとグルクロン酸とからなる混合物、及びヒアルロン酸を主成分とするポリカルボン酸、アミノ酸としては、ポリアスパラギン酸、ポリリシン、アスパラギン酸、リシン、アルギニン、及びこれらの混合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、適宜2種類以上を混合して用いてもよい。
【0055】
本発明に係るL−PGA架橋体の製造方法で用いるL−PGAとしては、L−PGAの分子同士が架橋することができる限り、限定されるものではないが、上述の通り、平均分子量が大きいL−PGAであることが好ましい。
【0056】
また、本発明に係るL−PGA架橋体の製造方法に用いるL−PGAは、塩の状態であってもよく、例えばナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等を用いることができる。中でも、ナトリウム塩が好ましい。
【0057】
本発明に係るL−PGA架橋体の製造方法で用いるL−PGAとしては、従来公知の種々の方法で得たL−PGAを用いればよく、例えば、L−PGAを生産する微生物を用いて得たL−PGAを用いればよい。
【0058】
L−PGAを生産する微生物としては、L−PGAを合成する微生物である限り限定されるものではなく、L−PGAを生産する微生物の野生型、その変異株、又は、遺伝子組換え技術により、L−PGAの生産能力を付与、又は強化された微生物を用いればよい。中でも、好塩菌、好ましくは好塩古細菌、さらに好ましくは高度好塩古細菌の内、L−PGAの生産能を有する微生物を用いるとよい。
【0059】
また、高度好塩古細菌としては、例えば、Halobacterium(ハロバクテリウム)属、Haloarcula(ハロアルクラ)属、Haloferax(ハロフェラックス)属、Halococcus(ハロコッカス)属、Halorubrum(ハロルブルム)属、Halobaculum(ハロバキュラム)属、Natrialba(ナトリアルバ)属、Natronomonas(ナトロノモナス)属、Natronobacterium(ナトロノバクテリウム)属、Natronococcus(ナトロノコッカス)属等が挙げられるが、Natrialba属が好ましく、Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)がさらに好ましく、Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)0830−82株(受託番号:FERM P−20872)、Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)0830−243株(受託番号:FERM P−20873)、及び、Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)0831−264株(受託番号:FERM P−20874)からなる群から選択される少なくとも一つの菌株を用いることがさらに好ましい。N. aegyptiacaを用いれば、より分子量の大きいL−PGAを得ることができる。特に、N. aegyptiaca FERM P−20872、N. aegyptiaca FERM P−20873、N. aegyptiaca FERM P−20874は、いずれもの菌株も平均分子量100万以上のL−PGAを、液体培養条件下で合成することができる。よって、L−PGAの架橋体の収率がよく、また、L−PGAの製造効率もよい。
【0060】
N. aegyptiaca FERM P−20872、N. aegyptiaca FERM P−20873、及び、N. aegyptiaca FERM P−20874は、特願2006‐142685に記載のスクリーニング方法及び変異処理方法に基づいて、本発明者らが独自に見出したN. aegyptiacaの変異株である。このように、本発明に係るL−PGA架橋体の製造方法では、上記スクリーニング方法及び/又は変異処理方法に基づいて、平均分子量の大きいL−PGAを生産するN. aegyptiacaを選抜して用いてもよい。なお、本明細書において、単に「N. aegyptiaca」と表記したときは、N. aegyptiacaの変異株をもその意味に含む。
【0061】
以下に、L−PGAの製造方法の一実施形態として、N. aegyptiacaを用いた場合について説明するが、これに限定されるものではない。
【0062】
N. aegyptiacaを培養する培地は、当該N. aegyptiacaが生育可能で、かつ、L−PGAを合成可能である培地である限り、特に限定されるものではないが、液体培地であることが好ましい。液体培地を用いれば、一度に大量にN. aegyptiacaを培養できるため、L−PGAの製造効率が極めて向上する。
【0063】
N. aegyptiacaの培養に用いる培地の成分は、N. aegyptiacaが摂取可能な炭素源及び無機塩類を含めばよく、必要に応じてYeast Extract等、その他の栄養物を添加すればよい。例えば、本発明者らは、後述する実施例において、22.5% NaCl、2% MgSO4・7H2O、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acidの培地を用いてN. aegyptica FERM P−20874を培養している。なお、Yeast Extractを培地に添加する場合、その濃度は0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましく、0.5重量%以上5.0重量%以下がさらに好ましい。
【0064】
N. aegyptiacaは高度好塩菌であるので、L−PGAの製造に用いるN. aegyptiacaの生育特性に応じて、培地に塩を添加してもよい。培養時の塩濃度は10重量%以上30重量%以下、好ましくは15重量%以上25重量%以下で培養すればよい。
【0065】
N. aegyptiacaの培養に用いる培地のpHは、特に限定されるものではないが、5.0以上10以下が好ましく、さらに好ましくは6.0以上8.5以下である。なお、pHの調整には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、塩酸、硫酸、これらの水溶液等を用いればよいが、pHを調整可能な限り限定されるものではない。
【0066】
培地を作製した後は、通常の方法で殺菌した後に、L−PGAの生産に用いるN. aegyptiacaを添加して培養すればよい。なお、培地の殺菌は、従来公知の方法で行なえばよく、例えば、110〜140℃で8〜20分行なえばよい。なお、培地のNaClの濃度を飽和濃度にすることで、殺菌工程を省略することもできる。上述のように、N. aegyptiacaは高度好塩菌であるため、飽和濃度のNaCl存在下でも生育可能であるが、他の微生物は生育不可能であるからである。
【0067】
N. aegyptiacaを液体培養する場合には、振とう培養、通気攪拌培養等を行なうことが好ましい。また、培養温度は、特に限定されるものではないが、25℃以上50℃以下が好ましく、30℃以上45℃以下がさらに好ましい。
【0068】
N. aegyptiacaの培養期間は、他の培養条件、目的とするL−PGAの生産量に応じて適宜設定すればよく特に限定されるものではなく、例えば2〜4日間程度でよい。
【0069】
上述の培養条件等に基づいてN. aegyptiacaの培養を行なうと、L−PGAは、主として菌体外に蓄積される。
【0070】
N. aegyptiacaを培養した後の培地から、L−PGAを分離、回収する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、(1)固体培養物から20%以下の食塩水により抽出分離する方法(例えば特開平3−30648号公報を参照)、(2)硫酸銅による沈殿法(例えばThrone.B.C., C.C.Gomez,N.E.Noues and R.D.Housevright:J.Bacteriol.,68巻、307頁、1954年を参照)、(3)アルコ−ル沈殿法(例えばR.M.Vard,R.F.Anderson and F.K.Dean:Biotechnology and Bioengineering,5巻、41頁、1963年を参照)、(4)架橋化キトサン成形物を吸着剤とするクロマトグラフィ−法(例えば特開平3−244392号公報を参照)、(5)分子限外濾過膜を使用する分子限外濾過法、(6)上記(1)〜(5)を適宜組み合わせた方法などが挙げられる。また、これらの方法は、L−PGAの生産にN. aegyptiaca以外の微生物を用いた場合にも適用することができる。このようにして分離、回収したL−PGAは、L−PGA含有液として後述のL−PGA架橋体の製造に用いてもよく、必要に応じて、スプレ−ドライ、凍結乾燥等、従来公知の方法で粉末にしてもよい。
【0071】
以下に、N. aegyptiacaを培養した後の培地からL−PGAを分離、回収する方法の一例を説明するが、これに限定されるものではない。
【0072】
まず、遠心分離等により、N. aegyptiacaを培養した後の培養液から菌体を取り除き、次に、得られた上清から、エタノール等の低級アルコールを加えることで、L−PGAを沈殿させるとよい。当該沈殿物は、適宜緩衝液に溶解させた上で、透析等により、不純物を除去することが好ましい。なお、本発明者らは、後述する実施例でも示すように、菌体を回収した後の上清に、3倍量の水を加えて希釈して、さらに、pHを3.0に調整した後、5時間、室温で攪拌した上で、3倍量のエタノ−ルを加えることで沈殿物を回収した。また、当該沈殿物を0.1mM Tris-HCl緩衝液(pH8.0)に溶解させ、これを透析することにより、不純物を除去した。
【0073】
透析を行なっても、核酸やタンパク質が混入していることが考えられるため、DNase処理、RNase処理、Proteinase処理等を行なうことが好ましい。また、これらの処理後、さらに透析等の精製処理をすることで、より高純度のL−PGAを得ることができる。
【0074】
以上により、L−PGAを含有する溶液を得ることができる。さらに、得られた溶液に対して凍結乾燥等を行なえば、粉末状のL−PGA架橋体を得ることができる。また、必要に応じて、さらに、当該溶液の精製を行なってもよい。精製は、従来公知の方法で行なえばよく、例えば上述の透析を行なってもよく、陰イオン交換樹脂を用いればよい。
【0075】
なお、DL−PGA分子やD−PGA分子を含んだ、L−PGA架橋体を製造する場合は、DL−PGA分子及び/又はD−PGA分子を、上述のL−PGAの溶液に混合した上で、上述の架橋反応に当該溶液を供すればよい。
【0076】
〔本発明に係るハイドロゲル〕
本発明に係るハイドロゲルは、上記の本発明に係るL−PGA架橋体を含んでなる。本発明に係るハイドロゲルは、L−PGA架橋体を含んでなるため、無色透明であり、生分解性も有している。
【0077】
なお、本明細書において「ハイドロゲル」とは、ポリマーが水等の溶媒を含むことにより膨潤して形成したゲルを意図する。換言すれば、ポリマーと溶媒等の水分とを主成分とするポリマーの溶媒膨潤体である。ハイドロゲルは、多量の水を含んでおり、液体と固体との中間の状態にある物質であり、流動性がない点で液体と異なる。また、押す等して加圧しても、ハイドロゲル中の溶媒が滲み出ることはない。
【0078】
つまり、本発明に係るハイドロゲルとは、L−PGA架橋体と溶媒とを主成分とする溶媒膨潤体と言える。
【0079】
本発明に係るハイドロゲルは、本発明に係るL−PGA架橋体の製造方法において説明した通り、水等の溶媒にL−PGAを溶解した溶液に、架橋反応を施すことで、得ることができる。
【0080】
また、上述の粉末状のL−PGA架橋体に、水等の溶媒を加えることにより、本発明に係るハイドロゲルを得ることができる。このとき、当該溶媒の量を少量とした上でハイドロゲルを得ておけば、さらに水等の溶媒を吸収可能な、吸水性に優れたハイドロゲルを得ることができる。また、本発明に係るハイドロゲルを構成するL−PGA架橋体に吸収された溶媒は、当該ハイドロゲルから滲み出ることがないため、本発明に係るハイドロゲルは保湿性に優れている。
【0081】
本発明に係るハイドロゲルは、所定の形状に均一に造粒してもよく、また、不定形破砕状、球状等であってもよい。また、衛生分野のみならず、多種多様な分野においても利用可能である。例えば、保湿剤としての化粧品、紙オムツ等のトイレタリ−品、体液吸収体等の医療品等、土壌改良剤として利用することもできる。
【0082】
保湿剤としての化粧品とはフェイスケア製品、ハンドケア製品、ボディケア製品、フットケア製品、ヘッドケア製品、及びヘアケア製品、ネイルケア製品、又はマウスケア製品等が挙げられる。
【0083】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0084】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0085】
〔実施例1;ポリ−γ−L−グルタミン酸の製造〕
Natrialba aegyptica(受託番号:FERM P−20874)のL乾燥アンプルに、0.4mlのPGA生産液体培地(22.5% NaCl、2% MgSO4・7H2O、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid)を加えて懸濁液を得た。0.2mlの当該懸濁液を、PGA寒天培地(10% NaCl、2% MgSO4・7H2O、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid、2% Agar)に接種し、37℃で3日間培養して、シングルコロニーを得た。
【0086】
次に、5本の18ml容試験管に、それぞれ、3mlのPGA生産液体培地(22.5% NaCl、2% MgSO4・7H2O、0.2% KCl、3% Trisodium Citrate、1% Yeast Extract、0.75% Casamino acid、pH7.2)を入れ、さらに、上記シングルコロニ−を白金耳で1白金耳掻き取り植菌した。植菌後の試験管を、37℃、300rpmで3日間培養して、さらに、得られた培養液0.5mlを、50ml PGA生産液体培地を入れた500ml容坂口フラスコ10本にそれぞれ植菌し、37℃で5日間培養した。培養後、得られた培養液を遠心し、菌体を取り除いて上清を回収した。
【0087】
次に、回収した上清に3倍量の水を加え希釈した後、1N硫酸でpHを3.0に調整した。pHを調整した後、室温で5時間攪拌した。その後、3倍量のエタノ−ルを加えて遠心分離を行い、沈殿物を回収した。この沈殿物がL−PGAである。
【0088】
回収したL−PGAを0.1mM Tris−HCl緩衝液(pH8.0)に溶解して、これを、低分子物質等の不純物を除去するために透析した。次に、透析後の液体に含まれる核酸を除去するために、当該液体に、MgClが1mM、DNaseI(TAKARA社製)が10U/ml、RNaseI(NIPPON GENE社製)が20μg/mlとなるように加えて、37℃で2時間インキュベ−トした。次いでタンパク質を除去するために、核酸を除去した後の液体にProteinase K(TAKARA社製)を3U/mlとなるように添加して、37℃で5時間インキュベ−トしてProteinase K処理を行なった。
【0089】
Proteinase K処理の後、超純水で透析し、低分子物質を除去した。次に、L−PGAを陰イオン交換樹脂(Q sepharose Fast Flow、GE ヘルスケア バイオサイエンス社製)に吸着させ、0.5MのNaCl水溶液で洗浄した後、1MのNaCl水溶液で溶出した。得られた溶液を、さらに超純水で透析し、透析後の溶液を凍結乾燥することにより、L−PGAのナトリウム塩(以下、「L−PGA・Na塩」と表記する)を得た。なお、超純水は、MilliQ(Millipore社製の純水製造装置)で作製した。
【0090】
〔実施例2;ポリ−γ−L−グルタミン酸の分子量分析−1〕
実施例1で得たL−PGA・Na塩の平均分子量を、GPC分析にて測定した。その結果、Mw=7,522,000、Mn=3,704,000、Mw/Mn=2.031であることが確認された(プルラン換算)。
【0091】
なお、GPC分析は、以下の条件で行なった。装置:HLC−8220GPC(東ソー社製)、カラム:TSKgel α−M(東ソー社製)、流速:0.6ml/min、溶出液:0.15M NaCl水溶液、カラム温度:40℃、注入量:10μl、検出器:示差屈折計。
【0092】
〔実施例3;ポリ−γ−L−グルタミン酸の分子量分析−2〕
実施例1において、陰イオン交換樹脂に吸着したL−PGAの溶出を、0.7M、0.8M、1.0MのNaCl水溶液で段階的に溶出した以外は、実施例1と同様の操作を行なって得たL−PGA・Na塩の平均分子量をGPC分析により測定した。その結果、0.7M NaCl水溶液による溶出で得たL−PGA・Na塩は、Mw=2,135,000、Mn=1,021,000、Mw/Mn=2.091であり、1.0M NaCl水溶液による溶出で得たL−PGA・Na塩は、Mw=7,522,000、Mn=3,704,000、Mw/Mn=2.031であることが確認された(プルラン換算)。なお、本実施例におけるGPC分析は、実施例2と同様の操作で行なった。
【0093】
〔実施例4;ポリ−γ−L−グルタミン酸の構造確認〕
実施例1で得たL−PGA・Na塩を、H−NMRに供して、その構造を分析した。その結果を図1に示す。なお、H-NMRによる分析は、以下の条件で行なった。装置:フーリエ変換核磁気共鳴装置(BRUKER製AVANCE500)、測定溶媒:重水、試料溶液濃度:0.5〜1.0%、1H共鳴周波数:500MHz、化学シフト基準:TSP(トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム-2,2,3,3‐d4),δ=0.0ppm。
【0094】
〔実施例5;ハイドロゲルの作製と吸水倍率の評価〕
本実施例では、L−PGAを架橋させるために用いるγ線の照射線量と、γ線を照射するL−PGA・Na塩水溶液の濃度と、得られるL−PGA架橋体の吸水倍率との関係を、実施例1及び実施例3で得たL−PGA・Na塩の2種類を用いて検討した。
【0095】
まず、当該2種類のL−PGA・Na塩について、それぞれ2重量%水溶液及び5重量%水溶液を作製し、合計4種類のL−PGA・Na塩水溶液を得た。
【0096】
次に、それぞれのL−PGA・Na塩水溶液を、窒素を用いて3分間バブリングした後、それぞれ2mlを、蓋付き10mlサンプル瓶に分取して蓋を閉めた。後述するように本実施例では、6種類のγ線照射線量について検討を行なったため、当該サンプル瓶を、当該4種類のL−PGA・Na塩水溶液についてそれぞれ6本作製し、合計24本作製した。
【0097】
次に、それぞれのサンプル瓶に、線源をコバルト60とするγ線照射装置を用いてγ線を照射した。照射線量は、当該6本のサンプル瓶に対して、それぞれ1kGy、3kGy、5kGy、7kGy、10kGy、20kGyとなるように照射した。γ線照射後に得られた生成物を、サンプル瓶から取り出し、余分な水分を80メッシュの金網で水切りした後、凍結乾燥することで、L−PGA架橋体粉末を得た。なお、上記余分な水分には、未架橋のL−PGAが含まれており、当該水切りは、未架橋のL−PGAを除去することが主たる目的である。
【0098】
次に、得られたL−PGA架橋体粉末を、当該L−PGA架橋体粉末が膨潤するために十分な量の水に入れて1週間静置した。静置した後、80メッシュの金網で濾過することで、未架橋のL−PGAを除去して、ハイドロゲルを得た。
【0099】
本実施例により得たL−PGA架橋体の吸水倍率は、本実施例により得たハイドロゲルの湿重量から、当該ハイドロゲルの作製に用いたL−PGA架橋体粉末の乾燥重量を引いた値を、当該L−PGA架橋体粉末の乾燥重量で割って算出した。
【0100】
算出したL−PGAの吸水倍率と、L−PGA架橋体の作製において照射したγ線の照射線量との関係を比較した結果を表1、表2、図2及び図3に示す。表1及び図2は、L−PGA架橋体の作製に2重量%のL−PGA・Na塩水溶液を用いた場合であり、図2は表1に示す数値をグラフにしたものである。表2及び図3は、L−PGA架橋体の作製に5重量%のL−PGA・Na塩水溶液を用いた場合であり、図3は表2に示す数値をグラフにしたものである。また、表1及び表2に示す数値は、上述した2種類のL−PGA・Na塩から得たL−PGA架橋体の、吸水倍率の平均値である。なお、図2及び図3において、縦軸は吸水倍率を示し、横軸はγ線の照射線量を示す。
【0101】
【表1】

【0102】
【表2】

【0103】
表1、表2、図2及び3に示すとおり、本実施例おいて得られたL−PGA架橋体は、吸水倍率が10倍〜4400倍であることが確認できた。
【0104】
〔実施例6 ゲル化率の評価〕
本実施例では、L−PGAを架橋させるために用いるγ線の照射線量と、L−PGAからハイドロゲルを作製する際のゲル化率との関係を検討した。
【0105】
まず、実施例5で用いた、γ線照射前のL−PGA・Na塩の乾燥重量を測定した(当該乾燥重量を「仕込みL−PGA重量」とする)。次に、実施例5において得られたL−PGA架橋体の粉末の乾燥重量を測定した(当該重量を「架橋L−PGA重量」とする)。そして、仕込みL−PGA重量に対する架橋L−PGA重量の割合(%)をゲル化率として算出した。表3に示す値は、上述した4種類のL−PGA・Na塩水溶液を用いて作製したハイドロゲルのゲル化率の、当該L−PGA・Na塩水溶液に照射したγ線の照射線量毎の平均値である。
【0106】
【表3】

【0107】
〔実施例7;ポリ−γ−L−グルタミン酸ハイドロゲルのロット間差による吸水倍率〕
実施例1に記載の方法と同じ方法で、L−PGAの製造を3回行なった(得られたL−PGAを、それぞれロットA、ロットB、ロットCとする)。実施例5に記載の方法と同じ方法で、γ線の照射線量を5kGyとして、ロットA〜CのL−PGAから、ハイドロゲルを作製した。さらに、実施例5に記載の方法と同じ方法で、ロットA〜CのL−PGAから得たハイドロゲルの吸水倍率を算出した。その結果を表4に示す。
【0108】
【表4】

【0109】
表4に示すように、再現性が高く、異なるロットのL−PGAを用いても一定の性質のハイドロゲルを安定して製造することが可能であることが確認された。
【0110】
〔比較例1;ポリ−γ−DL−グルタミン酸を用いたハイドロゲルの作製〕
平均分子量150万〜250万及び400万〜600万の2種類のDL−PGAナトリウム塩(和光純薬製)用いた以外は、実施例5と同様の操作を行い、DL−PGAのハイドロゲルの製造を試みた。しかし、いずれのDL−PGAナトリウム塩においても、DL−PGAのハイドロゲルを得ることはできなかった。従って、DL−PGAからDL−PGAのハイドロゲルを得る際のゲル化率は、表5に示すように全てゼロである。なお、DL−PGA架橋体を得ることができなかったため、吸水倍率を算出できなかった。
【0111】
【表5】

【0112】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明に係るL−PGA架橋体及び本発明に係るハイドロゲルは、紙オムツ等の衛生分野、医療分野、建築分野、食品分野、農業・園芸分野等への幅広い分野へ応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施例1において得たL−PGAの、H−NMRのスペクトルである。
【図2】本発明の実施例5において、2重量%L−PGA・Na塩水溶液を用いて得たL−PGA架橋体の吸水倍率と、L−PGA架橋体の作製において照射したγ線の照射線量との関係を検討した結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例5において、5重量%L−PGA・Na塩水溶液を用いて得たL−PGA架橋体の吸水倍率と、L−PGA架橋体の作製において照射したγ線の照射線量との関係を検討した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ−γ−L−グルタミン酸分子同士の架橋構造を有することを特徴とするポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体。
【請求項2】
上記ポリ−γ−L−グルタミン酸の平均分子量が100万以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体。
【請求項3】
上記ポリ−γ−L−グルタミン酸の平均分子量が200万以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体。
【請求項4】
上記ポリ−γ−L−グルタミン酸の平均分子量が350万以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体。
【請求項5】
吸水倍率が10倍以上5000倍以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体を含んでなることを特徴とするハイドロゲル。
【請求項7】
ポリ−γ−L−グルタミン酸の分子同士を架橋させる架橋工程を含むことを特徴とするポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の製造方法。
【請求項8】
上記架橋工程では、放射線を照射することで、ポリ−γ−L−グルタミン酸の分子同士を架橋させることを特徴とする請求項7に記載のポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の製造方法。
【請求項9】
上記放射線がγ線であることを特徴とする請求項8に記載のポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の製造方法。
【請求項10】
上記架橋工程におけるゲル化率が50%以上100%以下であることを特徴とする請求項7に記載のポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の製造方法。
【請求項11】
Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)を用いて、上記ポリ−γ−L−グルタミン酸を合成するポリ−γ−L−グルタミン酸合成工程を、さらに含むことを特徴とする請求項7に記載のポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の製造方法。
【請求項12】
上記Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)が、Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)0830−82株(受託番号:FERM P−20872)、Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)0830−243株(受託番号:FERM P−20873)、及び、Natrialba aegyptiaca(ナトリアルバ エジプチアキア)0831−264株(受託番号:FERM P−20874)からなる群から選択される少なくとも一つの菌株であることを特徴とする請求項11に記載のポリ−γ−L−グルタミン酸架橋体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−120910(P2008−120910A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305894(P2006−305894)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【Fターム(参考)】