説明

ポリアミック酸の製造方法

【課題】ポリアミック酸の重合度について、安定簡便に高重合度に調整する方法を提供する。
【解決手段】
ジアミンと酸無水物を反応させてポリアミック酸を製造する際に、
(a)1段目反応:極性溶媒に溶解したジアミンに対して、ジアミンと等モル当量未満の酸無水物を添加してアミノ末端のポリアミック酸(PAA)を重合し、
(b)2段目反応:1段目反応における反応速度R(モル/分)よりも遅い速度で酸無水物を追加添加し、1段目反応で得られたアミノ末端のポリアミック酸と反応させることで、ポリアミック酸を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミック酸の重合度を高重合度に安定簡便に調整する製造方法に関するものである。
【0002】
詳しくは本発明は、耐熱性、耐薬品性、電気特性、機械特性に優れ、電子デバイス材料、電気絶縁材料、被覆材、接着剤塗料、成型品、積層品、繊維あるいはフィルム材料などに広く利用されているポリイミド樹脂を形成するためのポリアミック酸重合度を高重合度に安定簡便に調整する製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来より、ポリアミック酸の製造方法としては、様々な方法が開示されている。例えば、特許文献1、特許文献2、あるいは特許文献3等に開示されている。これらは溶媒中にジアミンを溶解しておき、酸無水物を徐々に添加する手法や分割添加する手法あるいは一定時間内に添加する手法、または、あらかじめ粉体のジアミンと酸無水物を混合したものを溶媒に添加する手法、あるいはジアミンと酸無水物の粉体を交互に攪拌した溶媒に添加して反応させる手法等が開示されている。
【0004】
しかしながらいずれの方法も、ポリアミック酸の重合度を制御するには不十分であり、高重合度のポリアミック酸を安定簡便に調整する製造方法は知られていない。
【特許文献1】特開平5−255499号公報
【特許文献2】特開2003−160666号公報
【特許文献3】特開2004−359874号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の製造方法は優れた製造方法ではあるが、何れの手法においても、ポリアミック酸の重合度については、目標の重合度が大きいほど、重合度調節方法として満足するものではない。
【0006】
これは、縮合重合系ポリマーの重合度は、Floryの縮合重合における酸/ジアミンのモノマーモル比(以下、酸/ジアミンモル比)から求める理論重合度によく一致することが知られており、例えば酸/ジアミンモル比に対する重合度は図1の曲線の様に描かれ、モル比が1.000(酸/ジアミンモル比=1.000/1.000)に近づくと急激に重合度が上昇する。このため、高重合度領域では、モル比の僅かな違いで重合度に大きな差がでるため、目標の重合度が大きいほど重合度調節が難しくなるからである。
【0007】
(Floryの式)
DPn(重合度)=(1+r)/(1−r)、r=酸/ジアミン(モル比)、p(モノマー反応度)=0.997
【0008】
例えば下記(1)式の構造で示される代表的なポリアミック酸は、ピロメリット酸二無水物(PMDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)を出発原料として、モノマーの反応性が高い故に常圧下の低温溶液重合法によって比較的簡単に高重合度のポリマーが得られ、その重合度は酸/ジアミンモル比から求めるFloryの縮合重合の理論重合度とよく一致することが知られているものの、安定して高重合度ポリマーとするために酸/ジアミンモル比を所望のモル比に、例えば1.000に調整しようとすると、特には工業的な生産においては、モノマー純度(分析値と実際値の誤差)や計量の誤差(計量器の精度や、計量器への付着など)、投入誤差(投入時の随伴空気による系外抜け出し、投入管への付着など)などが生じて、簡便には調整できないという問題点があった。。
【0009】
【化1】

【0010】
例えば、モノマー純度に誤差がある場合のモル比への影響は、PMDA/DDE=1.000のモル比でDDE仕込み量を25kg(純度99.8%)の設定で、PMDA(純度99.8%)を所望のモル比となる様に重量計量し仕込む場合、純度が分析値と実際が0.1%異なると、表1の様に設定モル比から外れることなる。しかしながら分析値と実際の純度がどれだけ差異があるのか否かは、推定できないので調整手段がない。
【0011】
【表1】

【0012】
また、仕込み量に誤差がある場合には、言うまでも無く設定モル比から外れることになるが、例えばモノマー重量計量を精密に自動化した設備であっても、計量器や投入器への付着や計量秤の精度によって、仕込み量誤差が生じ、重合度の不安定化の原因となっていた。酸とジアミンのモノマーは共に、通常は粉末状であり、計量時または計量後の重合槽への投入時には、随伴空気に伴って系外に散逸することがあり、計量誤差や投入量誤差を生じて設定モル比から外れる原因となっていた。
【0013】
例えばDDEの実投入量誤差が100gあった場合、モル比は下表2のとおり設定モル比からずれることになる。
【0014】
【表2】

【0015】
この様に、酸/ジアミンモル比は、所望のモル比に特には1.000(=酸/ジアミン(モル比)=1.000/1.000)のモル比とするには、非常に困難である。更には、溶媒にジアミンを溶解しておいて粉体の酸無水物を添加する手法においては、均一に反応が進行しないといった現象、溶媒中の水分が酸無水物を失活する現象、あるいは反応が平衡状態になるまでに膨大な時間を必要とすること等のために、重合度と最も因果関係のあるモノマーモル比を、モノマーの追加添加で調整することが困難であるといった問題があった。
【0016】
従来は、これらの問題に対して、工業的生産におけるモノマー重量約25〜50kgといったモノマー重量の計量を、最小目盛り0.1gの計量目盛り(精度)の計量器を用いることを必要としたりした。また、一旦重合反応の終了を確認し、粘度を測定し計算によってモノマーの追加添加量を求めて、微量なモノマーを追加添加して重合度を調整していた。また、自動計量器を用いて投入したりするなど設備化費用をかけていた。ただし、自動計量化した設備でもモノマー純度の誤差は、消去できなかった。
【0017】
本発明の目的は、モノマーの純度や計量や仕込み量に誤差が生じても、ポリアミック酸の重合度を、高重合度に安定簡便に調整する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明者らは、鋭意検討の結果、特に、溶媒にジアミンを溶解しておいて粉体の酸無水物を添加する手法においては、Floryの酸/ジアミンモノマーモル比(以下、酸/ジアミンモル比)とポリアミック酸の重合度の関係は、酸モノマーの添加時間に依存することを見出し、1段目反応をジアミン過剰の状態で実施し、2段目反応を行う際に、酸無水物の添加を非常にゆっくりとした速度で行うことで、ポリアミック酸の重合度を制御できることを見いだし、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明は次のとおりである。
1.ジアミンと酸無水物を反応させてポリアミック酸を製造する際に、以下の(a)、(b)工程を含むことを特徴とするポリアミック酸の製造方法。
(a)1段目反応:極性溶媒に溶解したジアミンに対して、ジアミンと等モル当量未満の酸無水物を添加してアミノ末端のポリアミック酸(PAA)を重合する工程。
(b)2段目反応:下記(I)式で定義する1段目反応における反応速度R(モル/分)と2段目反応における酸無水物添加速度T(モル/分)が下記(II)式を満たす速度で、1段目に仕込んだジアミンとのモル比が当量以上となる量の酸無水物を追加添加し、1段目反応で得られたアミノ末端のポリアミック酸と反応させる工程。
1段目反応速度:R(モル/分)=ジアミン総量(モル)/A(分)・・・(I)
2段目反応における酸無水物の添加速度:T(モル/分)<R(モル/分)・・・(II)
ここで、A(分)は、1段目反応における攪拌動力の上昇し安定し平衡状態に到達した時点までの時間を表す。
2.1段目反応における酸無水物の添加量が、ジアミン100モル当量に対して93〜99モル当量である1記載のポリアミック酸の製造方法。
3.前記極性溶媒に含有される水分率が、100〜1000ppmであることを特徴とする1または2記載のポリアミック酸の製造方法。
4.ジアミンが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルであることを特徴とする1〜3のいずれかに記載のポリアミック酸の製造方法。
5.酸無水物が、ピロメリット酸二無水物あることを特徴とする1〜4のいずれかに記載のポリアミック酸の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明のポリアミック酸の製造方法を用いることによって、モノマー仕込み量を精密計量もしくは精密調整する必要がなく、単に2段目に追添加する酸無水物の添加速度を本発明の条件を満たす範囲で一定とすることにより、所望の重合度のポリアミック酸を安定して、製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<ポリアミック酸>
本発明におけるポリアミック酸とは、ポリイミド前駆体のことであり、加熱処理を行ったときにポリイミドを形成するものならば、特にその構造は限定されない。
【0022】
すなわち本発明は、たとえば一般式(2)で示される1種以上のジアミン化合物と一般式(3)で表される1種以上の酸無水物とを反応させてポリイミド前駆体のポリアミック酸重合を製造する方法において、少なくとも、次の(a)1段目反応、(b)2段目反応、の工程を含むことを特徴とするポリアミック酸の製造方法である。
【0023】
N−R−NH ・・・(2)
〔式中、Rは炭素数2以上の脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、芳香族基が直接または架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基からなる群より選ばれた二価の基を表す。〕
【0024】
【化2】

【0025】
〔式中、R’は炭素数2以上の脂肪族基、環式脂肪族基、単環式脂肪族基、縮合多環式芳香族基、芳香族基が直接または架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基からなる群より選ばれた四価の基を表す。〕
(a)1段目反応:極性溶媒に溶解したジアミンに対して、ジアミンと等モル当量未満の酸無水物を添加してアミノ末端のポリアミック酸(PAA)を重合する工程。
(b)2段目反応:下記(I)式で定義する1段目反応における反応速度R(モル/分)と2段目反応における酸無水物添加速度T(モル/分)が下記(II)式を満たす速度で、1段目に仕込んだジアミンとのモル比が当量以上となる量の酸無水物を追加添加し、1段目反応で得られたアミノ末端のポリアミック酸と反応させる工程。
1段目反応速度:R(モル/分)=ジアミン総量(モル)/A(分)・・・(I)
2段目反応における酸無水物の添加速度:T(モル/分)<R(モル/分)・・・(II)
ここで、A(分)は、1段目反応における攪拌動力の上昇し安定し平衡状態に到達した時点までの時間を表す。
【0026】
本発明におけるポリアミック酸は、一般式(4)で示されるような繰り返し単位で表される構造を有するものである。ここで、アミド結合のN原子とカルボキシル基のC原子は近接しており、芳香環におけるオルト位であることなどが好ましい。又、H原子はハロゲンなどの他の原子乃至は原子団により置換されていても良い。たとえば、R’が芳香環、例えばベンゼン環であるようなポリアミック酸等が好適な例として挙げられる。
【0027】
【化3】

【0028】
この場合、R’の2つのアミド結合(又はカルボキシル基)同士はメタ位であってもパラ位であっても良い。場合によってはオルト位であるものがあっても良い。又、前記ポリイミド前駆体は、若干比率であるならば、部分的にイミド化していても良い。
【0029】
<ジアミン>
本発明において、ポリアミック酸を製造するために用いられるジアミンは、下記一般式(2)で示される構造を有するものである。
【0030】
N−R−NH ・・・(2)
〔式中、Rは炭素数2以上の脂肪族基、環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基、芳香族基が直接または架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基からなる群より選ばれた二価の基を表す。〕
【0031】
Rとしては、特に限定されるものではないが耐熱性の点からは、ベンゼン環が好ましい。ジアミン化合物のより具体的な例としては、次のものがあるがこれらに限定されない。例えば、2,2−ビス(4−アミノ−フェニル)プロパン、2,6−ジアミノ−ピリジン、ビス−(4−アミノ−フェニル)ジエチルシラン、ビス−(4−アミノ−フェニル)ジフェニルシラン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ベンジジン、3,3’−ジクロル−ベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、ビス−(4−アミノ−フェニル)エチルホスフィンオキサイド、ビス−(4−アミノ−フェニル)−N−ブチルアミン、ビス−(4−アミノ−フェニル)−N−メチルアミン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニル、N−(3−アミノフェニル)−4−アミノベンズアミド、4−アミノフェニル−3−アミノ安息香酸、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジフロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジブロム−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ビス(3−アミノ−フェノキシフェニル)スルホン、ビス(4−アミノ−フェノキシフェニル)スルホン、ビス(3−アミノ−フェノキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジアミノジフェニルスルファイド、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルファイド、2,4−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルスルファイド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’−ジメトキシベンジジン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス−p−(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、ビス−(p−β−アミノ−t−ブチル−フェニル)エーテル、ビス−p−(β−メチル−δ−アミノ−ペンチル)ベンゼン、ビス−p−(1,1−ジメチル−5−アミノ−ペンチル)ベンゼン、1−イソプロピル−2,4−メタフェニレンジアミン、m−キシレンジアミン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジアミノフェニルエーテル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジクロロ−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、3,3’−ジスルホ−4,4’−ジアミノジフェニルプロパン(前記におけるいくつかのフェニルプロパン系化合物でプロパン骨格へのフェニル系置換基位置が記載されていないものについては、その位置は特に限定されず何れでも良いが、1,3位であることが好ましい)、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルスルファイド、3,3’−ジエトキシ−4,4’−ジアミノジフェニルスルファイド、3,3’−ジカルボキシ−4,4’−ジアミノジフェニルスルファイド、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジアミノジフェニルスルファイド、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノジフェニルスルファイド、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ジアミノ−プロピルテトラメチレンジアミン、3−メチルへプタメチレンジアミン、4,4’−ジメチルへプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノ−ドデカン、1,2−ビス−(3−アミノ−プロポキシ)−エタン、2,2−ジメチル−プロピレンジアミン、3−メトキシ−ヘキサメチレンジアミン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルへプタメチレンジアミン、5−メチル−ノナメチレンジアミン、2,17−ジアミノ−アイコサデカン、1,4−ジアミノ−シクロヘキサン、1,10−ジアミノ−1,10−ジメチルデカン、1,12−ジアミノ−オクタデカン等が挙げられる。これらジアミン類を2種以上混合して用いることもできる。これらにおいて、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン等が特に好ましい。
【0032】
<酸無水物>
また、本発明において、ポリアミック酸を製造するために用いられる酸無水物は、下記一般式(3)で示される構造を有するものである。
【0033】
【化4】

【0034】
〔式中、R’は炭素数2以上の脂肪族基、環式脂肪族基、単環式脂肪族基、縮合多環式芳香族基、芳香族基が直接または架橋員により相互に連結された非縮合多環式芳香族基からなる群より選ばれた四価の基を表す。〕
【0035】
R’としては、特に限定されるものではないが耐熱性の点からは、ベンゼン環が好ましい。酸無水物のより具体的な例としては、ピロメリット酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’ジフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルファイド二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ナフタレン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロルナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロルナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロルナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,8,9,10−テトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−カルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、エチレンテトラカルボン酸二無水物、デカヒドロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ−(2,2,2,)−オクト(7)−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メチルフェニルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェニルジメチルシリル)ベンゼン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン二無水物、p−フェニレン−ビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレングリコールビス(トリメリット酸無水物)、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフロロプロパン二無水物、2,2−ビス〔4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕ヘキサフロロプロパン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルファイド二無水物、ビス〔4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕スルホン二無水物、などが挙げられる。これらにおいて、ピロメリット酸二無水物、3,4,3’、4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等が特に好ましい。
【0036】
<極性溶媒>
本発明のポリアミック酸の製造方法は、極性溶媒中で反応を実施する。反応の際の原料モノマーおよび反応で得られるポリアミック酸の濃度は、0.1〜40重量%が好ましく、1〜30重量%がより好ましい。
【0037】
極性溶媒としては、、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトン、などの極性溶媒を単独にまたは混合して用いることができる。また、これらの極性溶媒の単独または混合溶媒に一般的有機溶媒であるケトン類、エステル類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素類、炭化水素類、エチレン性不飽和結合を含有するアミド化合物などがある。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジエチル、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、1,2−ジクロルエタン、1,4−ジクロルブタン、トリクロルエタン、クロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドンなどを混合してもかまわない。これらにおいて、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等が特に好ましい。
【0038】
<ポリアミック酸の生成>
本発明のポリアミック酸の製造方法においては、あらかじめ極性溶媒に溶解したジアミンに酸無水物を添加するものである。酸無水物は水分により失活し易いので、溶媒に溶解するなどした状態で保持することは好ましくなく、溶媒に溶解した場合は直ちにジアミン化合物と反応させることが好ましい。従って、予め酸無水物を溶媒に溶解などしておいてから、そこへジアミンを添加したり、酸無水物の添加の際に予め溶媒に溶解などしておくことは好ましくない。
【0039】
本発明の製造方法において、少なくとも反応当初においてはポリアミック酸の原料であるジアミンが溶解した極性溶媒に、酸無水物を添加することにより、ジアミンと酸無水物が反応し、ポリアミック酸が生成する。失活し易い酸無水物が即座にジアミンと反応し易いように予め反応に使うジアミンを全量極性溶媒に溶解しておいて、その後、酸無水物の添加を始める方法が好ましい。
【0040】
反応系は、0〜30℃に維持するのが好ましい。ただし、モノマーの選定によっては30〜90(より好ましくは60〜90)℃に維持する場合もある。このような温度範囲で反応させることで、反応系の粘度を適当な範囲とすることができ、反応速度を適当に制御し、イミド化の進行を抑えることができるので好ましい。また、反応系は常時攪拌翼等で攪拌していることが好ましい。
【0041】
又、水分の侵入を防ぐために、乾燥した窒素などの不活性ガス雰囲気下で反応を進めることが好ましい。
【0042】
<原料のモル比>
前記ジアミンと酸無水物は、酸/ジアミン(モル当量比)=1.05〜0.95の範囲で反応させることが好ましく、更に好ましく理想的には酸/ジアミン(モル当量比)=1.000である。
【0043】
本発明の2段目反応で酸無水物の添加速度を制御する方法を採用することで、酸/ジアミン(モル等量比)が1.000からずれることがあっても、安定した重合度のポリアミック酸を得ることができる。
【0044】
本発明においては、従来の製造方法(溶媒にジアミンを溶解しておいて、粉体の酸無水物を添加する手法)において発生する重合度調整にかかる問題点を解決することができる。すなわち、酸無水物の分割投入や粉体のジアミンと酸無水物を混合したものを溶媒に添加する手法、あるいはジアミンと酸無水物の粉体を交互に攪拌した溶媒に添加して反応させる手法など、酸をあらかじめ溶媒に溶かしておき添加する方法などの添加手順を変える手段では、高重合度ポリアミック酸を安定して製造することができなかった。
【0045】
すなわち、従来の方法で高重合度のポリアミック酸を得るには酸/ジアミンモル比を本質的に1.000にする必要があり、モノマー純度や計量誤差仕込み量誤差のため、自動計量投入設備化しても、精密に酸/ジアミン(モル当量比)を1.000とすることは非常に困難であった。
【0046】
すなわち、1段目反応で、ジアミンが過剰となるような、好ましくは、酸無水物/ジアミン(モル当量比)が0.93〜0.99となる系でジアミンと酸無水物を反応させ、アミノ末端のポリアミック酸を得る。その後、2段目反応として酸無水物を追加添加する際に、1段目反応における酸無水物/ジアミンの反応速度より遅い速度で、酸無水物を追加添加することが重要である。このような方法を採用することで、酸無水物/ジアミンのモル当量比が1.000からどちらかにずれることがあっても、高い重合度のポリアミック酸を得ることができる。
【0047】
たとえば、2段目反応で追加添加する酸無水物が過剰に添加されて、酸/ジアミン(モル当量比)が1を越える値となっても、一旦、高重合度のポリアミック酸が重合された後は、重合度の低下は全く観察されない。更には、2段目反応の添加速度(モル/分)を変えることで、最終的に到達するポリアミック酸重合度を調整できることがわかった。
【0048】
すなわち、本発明において重要な点は、2段目反応における酸無水物の添加速度である。
【0049】
2段目反応における酸無水物の添加速度は、下記(I)式で定義する1段目反応における反応速度R(モル/分)と2段目反応における酸無水物添加速度T(モル/分)が下記(II)式を満たす速度であることが重要である。
1段目反応速度:R(モル/分)=ジアミン総量(モル)/A(分)・・・(I)
2段目反応における酸無水物の添加速度:T(モル/分)<R(モル/分)・・・(II)
ここで、A(分)は、1段目反応における攪拌動力の上昇し安定し平衡状態に到達した時点までの時間を表す。
【0050】
<1段目反応におけるジアミン/酸無水物のモル当量比>
1段目反応では、ジアミンに対して、等モル当量未満の酸無水物を反応させることが重要である。ここで好ましくは、ジアミン100モル当量に対し、酸無水物93〜99モル当量である。
【0051】
<2段目反応>
2段目反応では、1段目反応で不足した酸無水物を前述のとおり、1段目反応の反応速度よりも遅い速度で追加添加する。このような添加方法を採用することで、高重合度のポリアミック酸を安定に製造することができる。
【0052】
これは1段目反応をジアミン過剰で実施するため、1段目反応で得られるポリアミック酸の末端基はアミノ基となり、アミノ末端のポリアミック酸であれば、極性溶媒中の水分の影響を受けることが少なく、酸無水物の追加添加により酸無水物/ジアミンの反応を継続することができるからである。
【0053】
逆に酸無水物が過剰の系でポリアミック酸が生成すると、ポリアミック酸の末端基が、酸無水物末端となり、極性溶媒中の水分によって失活してしまい、このあと、ジアミンを追加添加しても、これ以上が反応が進行することがなく、高重合度のポリアミック酸を得ることができない。
【0054】
本発明における2段階で酸無水物を添加する方法においては、1段目の酸無水物の添加量は、必ずジアミン過剰の系となる量である必要がある。
【0055】
ジアミン過剰であればよいが、2段目は1段目の反応速度よりも遅い速度で酸無水物を添加することを考慮すると、酸無水物の追加添加に必要な時間を短縮するために、1段目の酸無水物の添加量は、酸無水物/ジアミン(モル当量比)で0.93〜0.99が好ましく、0.95〜0.98が更に好ましい。
【0056】
<1段目反応速度(R)>
1段目反応の反応終了の判定は、反応系液体の粘度変化が認められなくなった時点を終了と判定する。すなわち反応系液体を攪拌する動力が上昇し安定し平衡状態に到達した時点を終了とする。この際、1段目に添加する酸無水物の全量の投入開始と同時に時間を計測し、攪拌動力が上昇し安定し平衡状態に到達した時点までの時間をA分とする。
【0057】
このとき、平衡に到達したかは、攪拌モーターの動力計(kw)あるいはトルクメーター(A、アンペア)の値が、増加しなくなったとき、もしくは、動力計あるいはアンペア計の数値の変化率が20秒あたりの数値変化率が5%以内(±5%/20sec)となったときとする。
【0058】
<2段目の酸無水物の添加速度(T)>
本発明では、2段目反応として、1段目に仕込んだジアミンに対して、不足している酸無水物を上記1段目の反応速度よりも遅い速度で追加添加する。また、2種類以上の酸無水物を添加する際には、順次添加するのではなく、混合して同時に投入することが好ましい。これにより、異なる酸無水物が不均一になることも防止できる。酸無水物を2種以上混合して用いる手法としては、あらかじめ2種以上の酸無水物を1つの容器に混合しておいてから反応系に添加する手法をとるのが好ましい。
【0059】
一方、2段目の酸無水物の添加速度が、1段目の反応速度と比べ同等か、早く添加した場合には(すなわち、T≦Rの場合)、得られるポリアミック酸の重合度を安定に高くすることができない。
【0060】
本発明による方法を採用することで、安定して高重合度のポリアミック酸を得ることができる。この方法は、工場生産など規模の大きなスケールの場合に特に有効である。従って、本発明の製造方法を適用するスケールとしては、好適には10L(より好適には50L)以上のスケールレベルの場合、各モノマー量としては200g〜50kg以上のスケールレベルの場合に特に有効である。
【0061】
<極性溶媒に含有される水分率>
本発明の製造方法において使用する極性溶媒は、含有する水分率が、100〜1000ppmであるものが好ましい。すなわち、2段目に追加添加する酸無水物が、結果的にあらかじめ系に存在したジアミンに対して過剰に添加されてしまうことがあっても、重合溶媒である極性溶媒に水分がある程度存在することによって、酸無水物が過剰になった場合、極性溶媒中の水分によって酸無水物が失活され、好ましくない反応が起きることを防ぐ効果がある。
【0062】
一旦高重合度化されたポリアミック酸は、系に過剰な酸無水物が存在したとしても重合度が低下することはないが、過剰に存在する酸無水物は失活される方が好ましい。通常、酸無水物が関与する反応系においては、酸無水物の失活を防ぐため、極性溶媒中の水分は極力低く管理することが必要されているが、本発明の製造方法においては、驚くべきことには、極性溶媒中に100〜1000ppmの水分が存在しても問題なく実施できることがわかった。
【0063】
このことは、酸無水物としてPMDA、ジアミンとしてDDEを用いる反応系に於いて顕著である。これは、PMDAとDDEの反応においては、酸無水物と極性溶媒に含まれる水分との反応速度が酸無水物/ジアミンの反応速度より速いためと考えられる。このとき、極性溶媒中に含まれる100〜1000ppmの範囲の水分の存在は、過剰な酸無水物を失活し、安定にポリアミック酸を製造するのに好ましいことが判った。一方、1段目反応を安定に実施するために、好ましくは極性溶媒中の水分は、100〜500ppmである。
【0064】
極性溶媒中の水分量の制御は、モレキュラーシーブなど乾燥剤を用いて行うことができる。
【0065】
<極性溶媒に含まれる水分の測定方法>
極性溶媒に含有される水分率は、JIS K0068:2001に準拠し、平沼産業株式会社製AQ−6型微量水分測定装置(カール・フィッシャー電量滴定方式自動水分測定装置)を用いて測定する。
【0066】
測定は、シリンジを用いて1mlの測定対象の極性溶媒を、測定器に注入して測定した。電解液としては発生液にHYDEANALクーロマットAK(林純薬工業(株))を、対極液にはHYDRANALクーロマットCK(林純薬工業(株))を用いた。
【0067】
極性溶媒の水分率は、AQ−6の測定水分量(μg)を用いて、下式(5)によって算出した。
水分率(ppm)=測定水分量(μg)/〔サンプリング量(1ml)×サンプル液の比重〕 (5)
【0068】
本発明の製造方法により得られる高重合度のポリアミック酸を含む極性溶媒は、そのままワニスとして使用することもできる。極性溶媒中のポリアミック酸の濃度によっては極端に溶液粘度が高くなり、そのままワニスとして使用するには不適当な場合に、特に電子デバイス用途に用いられる場合は、0.1〜5μmの孔径のメンブレンフィルターにて精密濾過を実施し、極性溶媒中の微細異物を除去することが好ましい。そのため、粘性が高くなると精密濾過に莫大な時間がかかり、著しく生産性が低下する問題も生じる。
【0069】
そこで一旦所望の高重合度としてから溶媒を追加添加して粘度調整することが可能である。2段目の酸無水物の添加後は、反応系液体が所定の粘度に達した時点を反応終了時間とすることができる。また、本発明におけるポリアミック酸の溶液におけるポリアミック酸の濃度は、0.1〜40重量%が好ましく、1〜30重量%がより好ましいが、その場合、反応系液体の粘度が好適には0.1〜30(より好適には1〜20、更に好適には2〜10)Pa・sとなった時点で反応終了とするよう調整するのが好ましい。
【0070】
すなわち、2段目の反応が終了し、所望の高重合度のポリアミック酸を得た後に、極性溶媒を添加して溶液としての粘度を調整することも可能である。
【0071】
またはあらかじめ重合濃度を低く行うことができる。あるいは、2段目反応における酸無水物の添加速度:Tを調整することで、安定して所望の溶液粘度のものを得ることもできる。
【0072】
反応を終了するための後処理としては、反応がそれ以上進行して、粘度が高くなりすぎたりするの防ぐために反応槽のジャケットに冷却水などを用いて、冷却することが好ましい。
【0073】
<対数粘度(ηinh)>
本発明におけるポリアミック酸ポリマーの対数粘度は、JIS K7367−1(2002)に準拠して測定する。
【0074】
例えば重合をモノマー濃度10wt%で行う場合、重合溶媒のN−メチル−2−ピロリドン溶媒中のポリアミド酸ポリマーの濃度も10wt%であることから、重合溶液の2.5g、すなわち樹脂量0.25gに相当量の重合液をメスフラスコに採取し、50mlのN−メチル−2−ピロリドンにて希釈して50mlとし、30℃でウベローデ粘度管を用いて測定したものをいう。詳しくは、次のとおり測定する。
【0075】
樹脂量0.25gに相当する重合液を吸水しないように天秤(正確さ0.1mg)で50mlメスフラスコの秤量し(この樹脂量の値をx(g)とする。)、50mlメスフラスコに移し、N−メチル−2−ピロリドン溶媒40mlを加え、振とうして樹脂が溶解するまで攪拌する(このとき溶液の温度を30℃以上に加熱して溶解してはならない。)。溶解が完了後、50mlに定溶することによって、樹脂濃度C(g/dl)のNーメチル−2−ピロリドン溶液を調製する。
C(g/dl)=x(g)/50(ml)
ウベローデ粘度計は、30℃±0.05℃に制御した恒温槽に固定し、調製した樹脂溶液の流下時間(t)及び溶媒N−メチルーピロリドンの流下時間(t0)を測定し、次の式で表される対数粘度を求める。
ηinh(dl/g)=ln(t/t0)/C
【実施例】
【0076】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0077】
実施例1 4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)250.8g(1.25モル)を 水分率230ppmのジメチルアセトアミド(DMAC)4067gに10℃で溶解した。
【0078】
次に設定モル比を酸/ジアミンモル比=1.001として、DDEの総量1.25モルに対して97.5モル%当量のとなる様に、1段目のピロメリット酸二無水物(PMDA)を、1.2188モル(265.83g)、2段目のPMDAとして、0.0325モル(7.089g)を計量した。
【0079】
次に、1段目のピロメリット酸二無水物の粉末265.83gを、一括で添加した。次に重合液の攪拌羽根の攪拌動力(攪拌モータkw)を確認して、攪拌する動力が上昇し安定し平衡状態に到達するまでの時間A(min)が14分であった。次に1段目添加の酸モノマーモル数1.2188モルを時間Aの14分で除し、1段目反応速度(R)を求め、0.087モル/minを求めた。
【0080】
次に2段目のPMDA0.0325モル(7.089g)を、2段目の添加速度(T)が(R)より遅くなる様に、10分かけて追加添加した。このときRは、0.0325モル/10min=0.003モル/minとなる。したがい2段目添加速度(R)<(T)となり、1段目の見かけの酸/ジアミン反応速度より遅い速度で追加添加できた。
【0081】
次の攪拌動力を確認し、系の粘度が更に増粘し攪拌する動力が上昇し安定し平衡状態に到達するまでまった。
【0082】
その後、系の重合液をサンプリングして、ポリアミック酸のηinhを測定した結果、2.85(dl/g)であった。
【0083】
実施例2から14、比較例1から11は、表3のとおりの条件で、前記実施例1と同様に実施した。
【0084】
このうち、実施例15については、重合溶媒としての極性溶媒の水分率が約1000ppmとなる様に、蒸留水3.08gをDMAC4004gにあらかじめ投入し攪拌することで調整した。溶媒をサンプリングして溶媒中の水分率を測定した結果、990ppmであった。それ以外は前記実施例1と同様に表3の条件で実施した。
【0085】
実施例16については、重合溶媒としての極性溶媒の水分率が約3000ppmとなる様に、蒸留水12.0gをDMAC3995gにあらかじめ投入し攪拌することで調整した。溶媒をサンプリングして溶媒中の水分率を測定した結果、3120ppmであった。それ以外は前記実施例1と同様に表3の条件で実施した。。
【0086】
【表3】

【0087】
【表4】

【0088】
表3中の記号:
BPDA:ビフェニルー3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物
BTDA:ベンゾフェノン−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物
DDM:4,4’−ジアミノジフェニルメタン
比較例8から11は、酸成分を2段階で添加せずに、1活添加した。
【0089】
表中の1段目の酸の“投入時間“は、酸を投入開始から投入完了にかかった時間であり、酸/ジアミン反応の平衡到達時間(R)は、酸の投入開始から平衡に到達した時間である。
【0090】
表3のとおり、特に、溶媒にジアミンを溶解しておいて粉体の酸無水物を添加する手法においては、Floryの酸/ジアミンモノマーモル比とポリアミック酸の重合度の関係は、酸モノマーの添加時間に依存することがわかった。
【0091】
すなわち例えば、比較例1〜11に示すとおり酸無水物の一括添加または急速に添加する手段では酸/ジアミンモル比が1.000から外れるとポリアミック酸の重合度は、モル比に相当する低い重合度のものしか得られないが、驚くべくことに、本発明の手段を用いた実施例1〜14では、酸/ジアミンモル比が、1.000から大きく外れて、1.010あるいは1.050の場合でも、高重合度ののポリアミック酸を得ることができた。
【0092】
さらには、到達ηinhは2段目の添加速度に依存していることがわかる。例えば、実施例6〜8における2段目の添加時間10分((T)≒0.01モル/分)では、ηinh≒2.8に調整でき、実施例9〜11における2段目の添加時間15分((T)≒0.002モル/min)では、ηinh≒3.3に調整することができた。
【0093】
すなわち本発明の方法を採用することで、モノマー純度やモノマー計量誤差などでモル比が1.000から外れても、所望の重合度(ηinh)のポリアミック酸を製造することができる。
【0094】
したがって、従来の方法においては、モノマー純度(分析値と実際値の誤差)や計量の誤差(計量器の精度や、計量器への付着など)、投入誤差(投入時の随伴空気による系外抜け出し、投入管への付着など)などが生じて、簡便には、高重合度に調整できなかったが、本発明の方法により、2段目の酸無水物の投入速度を制御することで、特にジアミン/酸無水物のモル比がずれることがあっても、高重合度のポリアミック酸を得ることができた。
【0095】
また、2段目に添加した酸無水物の量が不足し、所望の重合度に到達できない場合すなわち酸/ジアミンモル比が1.000に到達できていない場合であっても、酸無水物を本発明の添加速度で追加添加することによって、高重合度のポリアミック酸を得ることができる。
【0096】
本発明のポリアミック酸の製造方法を用いることによって、モノマー仕込み量を精密計量もしくは精密調整する必要がなく、単に2段目に追添加する酸無水物の添加速度を本発明の条件を満たす範囲で制御することにより、所望の重合度のポリアミック酸を安定して、製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0097】
このようにして得られたポリアミック酸はフィルム、電線ワニス、カバーレー、コーティング材、接着剤として、或いは繊維状補強材に含浸することにより複合材としての使用等、各種分野で使用出来る。その際、ポリアミック酸を更に100〜300℃に加熱するか、或いは無水酢酸のような脱水剤を用いて、閉環イミド化することにより使用に供される。
【0098】
ポリアミック酸の重合度調整は高重合度であるほど困難であるが、ポリアミック酸から得られる最終生成ポリイミドが充分な機械的強度、優れた電気特性等を有するためには、その前駆体、即ちポリアミック酸が充分大きな分子量を有していなければならない。また、その分子量は単に大きな分子量であれば良いのではなく、他のエンプラと同様に、例えばグレード別に安定して均一な重合度であることが好ましく、前記の用途すべてにおいて、重合度の制御は重大な課題である。
【0099】
例えばポリイミドフィルムではポリアミック酸フィルムを製膜する必要があるが、膜厚が均一で再現性の良いポリアミック酸フィルムを得るには第一にポリアミック酸溶液粘度の管理が重要となるが、例えば電子材料用途でシリコンなどの基板上にポリアミック酸をスピンコートする場合、所望する膜厚は溶液粘度(ポリアミック酸分子量)と回転板の回転数で制御するので、ポリアミック酸の分子量制御は重大な課題である。
【0100】
更に具体的には、前記式(1)の繰り返し単位で示されるポリアミック酸の場合、最終生成ポリイミドが満足な物性を有するには、対数粘度ηinh(N−メチル−2−ピロリドン溶媒中、濃度0.5g/100ml溶媒、35℃で測定)が0.5以上、好ましくは0.8〜2.0、特に成形用途では2.0〜3.5が必要といわれている。
【0101】
ここで、重合度の指標として例えばηinh2.5や3.0、あるいはηinh=1.8のポリアミック酸を安定して生産するには従来開示されている方法では、簡便に安定して製造することができず、仕込み量の精密計量や、重合途中で重合度(ポリマーの溶液粘度)を求め追加添加量を求めるなどして重合度を調整しており、生産性に優れる方法が無かった。
【0102】
本発明によって、ポリアミック酸の重合度を安定簡便に高重合度に調整する方法を提供することができ、ポリアミック酸から製造されるワニス、フィルム、成形用粉末、電線用ワニス、カバーレー、コーティング材、接着剤に応用できるが、その応用範囲がこれらに限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】酸無水物/ジアミンモル当量比と重合度の関係を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミンと酸無水物を反応させてポリアミック酸を製造する際に、以下の(a)、(b)工程を含むことを特徴とするポリアミック酸の製造方法。
(a)1段目反応:極性溶媒に溶解したジアミンに対して、ジアミンと等モル当量未満の酸無水物を添加してアミノ末端のポリアミック酸(PAA)を重合する工程。
(b)2段目反応:下記(I)式で定義する1段目反応における反応速度R(モル/分)と2段目反応における酸無水物添加速度T(モル/分)が下記(II)式を満たす速度で、1段目に仕込んだジアミンとのモル比が当量以上となる量の酸無水物を追加添加し、1段目反応で得られたアミノ末端のポリアミック酸と反応させる工程。
1段目反応速度:R(モル/分)=ジアミン総量(モル)/A(分)・・・ (I)
2段目反応における酸無水物の添加速度:T(モル/分)<R(モル/分)・・・(II)
ここで、A(分)は、1段目反応における攪拌動力の上昇し安定し平衡状態に到達した時点までの時間を表す。
【請求項2】
1段目反応における酸無水物の添加量が、ジアミン100モル当量に対して93〜99モル当量である請求項1記載のポリアミック酸の製造方法。
【請求項3】
前記極性溶媒に含有される水分率が、100〜1000ppmであることを特徴とする請求項1または2記載のポリアミック酸の製造方法。
【請求項4】
ジアミンが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミック酸の製造方法。
【請求項5】
酸無水物が、ピロメリット酸二無水物あることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミック酸の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−84339(P2009−84339A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253498(P2007−253498)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】