説明

ポリアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂組成物、塗料、摺動部用塗料及び摺動部用塗膜

【課題】冷媒の変更に伴う摺動部の更なる高荷重化に対応すべく、高強度性を有し、かつ高温雰囲気下においても高強度性を維持する耐熱性樹脂組成物及びこれを塗膜成分としてなる塗料を提供する。
【解決手段】縮合多環式芳香族構造及び非縮合多環式芳香族構造からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を含有するポリアミドイミド樹脂組成物及びこれを塗膜成分としてなる塗料を用いることにより、冷媒の変更に伴う摺動部の更なる高荷重化に対応可能であり、常温において高強度性を有するとともに、かつ高温雰囲気下においても高強度性を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂組成物、塗料、摺動部用塗料及び摺動部用塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂は高絶縁性、高耐熱性、高強度性、高耐摩耗性及び高耐溶剤性などの優れた特性を多数有することから、各種工業分野の様々な用途において優れた保護コート材として使用されている。
【0003】
ポリアミドイミド樹脂の一般的な製造法については公知(例えば特許文献1)であり、従来のポリアミドイミド樹脂は、ジフェニルメタンジイソシアネートと無水トリメリット酸を材料に使用し、大量のポリアミドイミド樹脂を連続的かつ安価に製造できるという工業的に優れたイソシアネート法により製造されている。
【特許文献1】特公昭44−19274号公報
【0004】
ポリアミドイミド樹脂は、近年、特に自動車のエンジンやエアコンコンプレッサーのピストン部分に代表される各種摺動部用途向けのバインダーとして需要が拡大している。摺動部用途向けの塗料は、高強度性、耐摩耗性及びアルミなどの基材との密着性に優れるポリアミドイミド樹脂をバインダーとして使用し、これに滑り性に優れる二硫化モリブデンに代表される硫化物やポリテトラフルオロエチレンに代表されるフッ素化合物などの固体潤滑剤を混合して作製される。
【0005】
前述の自動車用エアコンコンプレッサーのピストン用途においては、地球温暖化対策を目的とした環境対応のために、冷媒を現在主に使用されている1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)などに代表される代替フロンからCOへ切りかえる動きがあり、この冷媒の変更に伴う摺動部の高荷重化のために、バインダー樹脂であるポリアミドイミド樹脂には更なる高強度化が要求されているが、従来のジフェニルメタンジイソシアネートと無水トリメリット酸からなるポリアミドイミド樹脂では強度の不足から耐摩耗性が不十分であり、特に摺動時における高温雰囲気下において強度の低下が著しいこともあり、強度の向上及び高温雰囲気下での強度の維持が強く求められている。
【0006】
この摺動部用途向けの塗料の製法に関しては、バインダーとなるポリアミドイミド樹脂の設計や固体潤滑剤の選定及び配合など各種特許や出願にて多数報告されているが、特に高温雰囲気下で強度が十分に維持されるポリアミドイミド樹脂は現在まで実用化に至っていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、冷媒の変更に伴う摺動部の更なる高荷重化に対応すべく、常温において高強度性を有するとともに、かつ高温雰囲気下においても高強度性を維持する耐熱性ポリアミドイミド樹脂、それを含有する耐熱性ポリアミドイミド樹脂組成物及びこれを塗膜成分としてなる塗料を提供するものである。具体的には、摺動時における高温雰囲気下を想定した条件において、ポリアミドイミドフィルムの機械的特性を測定した際に、引張り強度が75MPa以上であり、かつ引張り弾性率が1.9GPa以上、を維持する耐熱性樹脂組成物及びこれを塗膜成分としてなる塗料を提供するものである。この機械的特性の測定条件は、ポリアミドイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂組成物をフィルム状に成形して硬化させ、引張り速度5mm/分、温度23±2℃(常温における機械的特性測定温度)及び温度150±2℃(高温雰囲気における機械的特性測定温度)で測定するものとする。なお、具体的測定方法としては、例えば、下記の表1及び表2に示す条件で、ガラス基板の表面処理を行ない、処理された表面にポリアミドイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂組成物を塗布し、硬化させてフィルムを形成して試験片を切り出し、表1及び表2に記載の試験器を用いて同表記載の条件で引張り強度及び引張り弾性率を測定する。引張り速度、測定温度以外の条件は、表1及び表2に記載の条件、装置の限定されるものではない。例えば、より低温での硬化条件での使用を目的として硬化剤を加えたポリアミドイミド樹脂組成物などの場合には、硬化時の最終加熱条件を表1及び表2に記載の270℃−30分から、230℃−30分にするなど、適宜変更することができる。また、フィルムの厚さによっては特性に変化が出ることがあるため、厚み誤差を含めて、15±2μmのフィルムを用いて測定することが好ましい。
【0008】
【表1】

【0009】
【表2】

【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の常温における高強度性を有し、かつ高温雰囲気下においても高強度性を保持するポリアミドイミド樹脂組成物に関して検討した結果、特定の芳香族構造をポリアミドイミド樹脂構造中に導入することによって従来のポリアミドイミド樹脂塗膜と比較して飛躍的に強度を向上させることが可能であり、また高温雰囲気下でも高強度性を維持することが可能であることを見出して本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、下記のポリアミドイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂組成物、塗料、摺動部用塗料及び摺動部用塗膜に関する。
(1)一般式(I)で表される縮合多環式芳香族構造からなる群より選ばれた少なくとも1種の縮合多環式芳香族構造、又は、一般式(I)で表される縮合多環式芳香族構造からなる群より選ばれた少なくとも1種の縮合多環式芳香族構造と一般式(II)で表される非縮合多環式芳香族構造からなる群より選ばれた少なくとも1種の非縮合多環式芳香族構造とを含有することを特徴とするポリアミドイミド樹脂。
【化1】

【化2】

、R、R、R、R、R、R及びRはそれぞれ−H、−CH、−CHCH等のアルキル基、−OH又は−O−CH等のアルコキシ基を意味する)
【0012】
(2)更に、三価の単環式芳香族構造を含有する(1)に記載のポリアミドイミド樹脂。
(3)ナフタレンジイソシアネート、ナフタレンジカルボン酸、ジヒドロキシナフタレン、ナフタレンジスルホン酸及びそれらの誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のモノマを共重合成分の1種として合成されたものであることを特徴とする(1)又は(2)に記載のポリアミドイミド樹脂。
【0013】
(4)(a1)ジイソシアネート及び/又は(a2)ジアミンからなる(A)成分と、(b1)トリカルボン酸無水物又は(b2)ジカルボン酸及びテトラカルボン酸二無水物を必須成分とする(B)酸成分とを重合させて得られ、(A)成分が(A)成分の総量中、ナフタレンジイソシアネート及び/又はジアミノナフタレンを合計で5〜100重量%含有するものである(1)又は(2)に記載のポリアミドイミド樹脂。
【0014】
(5)(A)成分が、(a1)ジイソシアネート成分からなり、ナフタレンジイソシアネートを5〜100重量%含有するものである(4)に記載のポリアミドイミド樹脂。
(6)(a1)ジイソシアネート及び/又は(a2)ジアミンからなる(A)成分と、(b1)トリカルボン酸無水物又は(b3)ジカルボン酸、芳香族ジオール化合物若しくは芳香族ジスルホン酸及びテトラカルボン酸二無水物を必須成分とする(B)酸成分とを重合させて得られ、(A)成分が(A)成分の総量中、ナフタレンジイソシアネート及び/又はジアミノナフタレンを合計で5〜100重量%含有するものである(1)又は(2)に記載のポリアミドイミド樹脂。
【0015】
(7)(A)成分が、(a1)ジイソシアネート成分からなり、ナフタレンジイソシアネートを5〜100重量%含有するものである(6)に記載のポリアミドイミド樹脂。
(8)ポリアミドイミド樹脂をフィルム状に成形して硬化させ、引張り速度5mm/分、温度23±2℃で測定したときの引張り強度が110MPa以上であり、かつ引張り弾性率が2.6GPa以上である(1)〜(7)いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂。
【0016】
(9)ポリアミドイミド樹脂をフィルム状に成形して硬化させ、引張り速度5mm/分、温度150±2℃で測定したときの引張り強度が75MPa以上であり、かつ引張り弾性率が1.9GPa以上である(1)〜(8)いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂。
(10)(1)〜(9)いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂100重量部及び硬化剤1〜100重量部を含有することを特徴とするポリアミドイミド樹脂組成物。
【0017】
(11)硬化剤が、多官能型エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アミン化合物、メラミン化合物又はポリエステル化合物である(10)に記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
(12)硬化剤が多官能型エポキシ化合物である(11)に記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【0018】
(13)ポリアミドイミド樹脂組成物をフィルム状に成形して硬化させ、引張り速度5mm/分、温度23±2℃で測定したときの引張り強度が110MPa以上であり、かつ引張り弾性率が2.6GPa以上である(10)〜(12)いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【0019】
(14)ポリアミドイミド樹脂組成物をフィルム状に成形して硬化させ、引張り速度5mm/分、温度150±2℃で測定したときの引張り強度が75MPa以上であり、かつ引張り弾性率が1.9GPa以上である(10)〜(13)いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【0020】
(15)(1)〜(9)いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂を塗膜成分として含有する塗料。
(16)(10)〜(14)いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分として含有する塗料。
【0021】
(17)(1)〜(9)いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂を塗膜成分として含有する摺動部用塗料。
(18)(10)〜(14)いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分として含有する摺動部用塗料。
【0022】
(19)さらに固体潤滑剤を含有してなる(17)又は(18)に記載の摺動部用塗料。
(20)固体潤滑剤が硫化物、フッ素化合物又は黒鉛から選ばれる少なくとも1種を含有してなる(19)に記載の摺動部用塗料。
(21)硫化物が、二硫化モリブデン及び/又は二硫化タングステンである(20)に記載の摺動部用塗料。
【0023】
(22)フッ素化合物が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド及びトリクロロトリフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である(20)に記載の摺動部用塗料。
(23)(17)〜(22)いずれかに記載の摺動部用塗料から形成された摺動部用塗膜。
【発明の効果】
【0024】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、従来のポリアミドイミド樹脂塗膜と比較して飛躍的に強度を向上させることが可能であり、また高温雰囲気下でも高強度性を維持することが可能である。これらは今後の摺動部における更なる高荷重化に対して多大な有益性を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、イソシアネート成分及び/又はアミン成分と酸成分とを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂中に、前記一般式(I)で表される縮合多環式芳香族構造からなる群より選ばれた少なくとも1種の縮合多環式芳香族構造、又は、一般式(I)で表される縮合多環式芳香族構造からなる群より選ばれた少なくとも1種の縮合多環式芳香族構造及び前記一般式(II)で表される非縮合多環式芳香族構造からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造が導入されたものである。イソシアネート成分、アミン成分及び酸成分は、それぞれ芳香族化合物を使用することが好ましい。
【0026】
例えば、本発明のポリアミドイミド樹脂は、(a1)ジイソシアネート及び/又は(a2)ジアミンからなる(A)成分と、(b1)トリカルボン酸無水物又は(b2)ジカルボン酸及びテトラカルボン酸二無水物を必須成分とする(B)酸成分とを重合させて得ることができる。また、例えば、(a1)ジイソシアネート及び/又は(a2)ジアミンからなる(A)成分と、(b1)トリカルボン酸無水物又は(b3)ジカルボン酸、芳香族ジオール化合物若しくはジスルホン酸及びテトラカルボン酸二無水物を必須成分とする(B)酸成分とを重合させて得ることができる。(B)酸成分としてはトリカルボン酸無水物を用いることが好ましく、(b1)トリカルボン酸無水物は、(b2)成分及び(b3)成分の1種以上と併用してもよい。
(A)成分の(a1)ジイソシアネート及び(a2)ジアミンとしては、例えば、下記の一般式で表される縮合多環式芳香族ジイソシアネート、縮合多環式芳香族ジアミン、非縮合多環式芳香族ジイソシアネート、非縮合多環式芳香族ジアミンが挙げられる。
【0027】
【化3】

(式中、X、R、R、R、R、R、R、R及びRは上記と同じ意味を有し、Rはイソシアナト基又はアミノ基を意味する。)
【0028】
(B)酸成分の(b1)トリカルボン酸無水物としては、芳香族トリカルボン酸無水物が好ましく、また、無水トリメリット酸及びその誘導体などの単環式芳香族トリカルボン酸無水物が好ましい。単環式芳香族トリカルボン酸無水物を用いることにより、三価の単環式芳香族構造が導入される。
【0029】
(B)酸成分の(b2)ジカルボン酸及びテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、下記の一般式で表される縮合多環式芳香族ジカルボン酸、縮合多環式芳香族テトラカルボン酸二無水物、非縮合多環式芳香族ジカルボン酸及び非縮合多環式テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【化4】

【0030】
【化5】

(式中、X、R、R、R、R、R、R、R及びRは上記と同じ意味を有し、R10はカルボキシル基を意味し、R11とR12とは互いに結合して−CO−O−CO−を形成しており、R13とR14とは互いに結合して−CO−O−CO−を形成している。)
【0031】
なお、本発明のポリアミドイミド樹脂の製造に使用されるイソシアネート成分、アミン成分及び酸成分は、上記の化合物に限定されるものではなく、前記一般式(I)で表される縮合多環式芳香族構造や一般式(II)で表される非縮合多環式芳香族構造を導入するために、他の多種多様な化合物を使用できることは言うまでもない。そのような化合物としては、例えば、上記の(b3)成分中の芳香族ジオール化合物(例えば、ジヒドロキシナフタレン又はその誘導体など)又は芳香族ジスルホン酸(例えば、ナフタレンジスルホン酸又はその誘導体など)が挙げられる。この芳香族ジオール化合物及び芳香族ジスルホン酸としては、例えば、下記の一般式で表される縮合多環式芳香族ジオール、縮合多環式芳香族ジスルホン酸、非縮合多環式芳香族ジオール、非縮合多環式芳香族ジスルホン酸などが挙げられる。
【0032】
【化6】

(式中、X、R、R、R、R、R、R、R及びRは上記と同じ意味を有し、R15はヒドロキシ基を意味する。)
【0033】
【化7】

(式中、X、R、R、R、R、R、R、R及びRは上記と同じ意味を有し、R16はスルホン基を意味する。)
【0034】
また、必要に応じ、上記の単環式芳香族トリカルボン酸無水物以外にも、単環式芳香族ジイソシアネート、単環式芳香族ジアミン、単環式芳香族ジカルボン酸、単環式芳香族テトラカルボン酸二無水物、単環式芳香族ジオール、単環式芳香族ジスルホン酸、単環式芳香族等の単環式芳香族化合物の1種又は2種以上をさらに用い、二価又は四価の単環式芳香族構造を導入してもよい。さらに、必要に応じ、脂肪族トリカルボン酸無水物、脂肪族ジイソシアネート、脂肪族ジアミン、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂肪族ジオール、脂肪族ジスルホン酸等の脂肪族化合物の1種又は2種以上をさらに用い、二価又は四価の脂肪族構造を導入してもよい。
【0035】
上記製造法に用いられる代表的な化合物を次に列挙する。
まず、イソシアネート成分としては、上記一般式で表されるナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等や、更に、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等が挙げられる。
【0036】
また、アミン成分としては、上記一般式で表されるトリジン、ジヒドロキシベンジジン、ジアニシジン、ジアミノジフェニルメタン、ジメチルジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、トルエンジアミン、ビス(トリフルオロメチル)ジアミノジフェニル、トリジンスルホン、ジアミノベンゾフェノン、チオジアニリン、スルホニルジアニリン、ジアミノベンズアニリド、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(アミノフェノキシフェニル)プロパン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[(アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、ジアミノベンジジン等や、更にビス(アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン等が挙げられる。
【0037】
また、酸成分としては、ナフタレンジカルボン酸、ヒドロキシナフトエ酸、オキシナフトエ酸、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、無水トリメリット酸、無水トリメリット酸クロライド、セバシン酸、アジピン酸、コハク酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヒドロキシビフェニルカルボン酸、無水ピロメリット酸、オキシジフタル酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物、ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、ジヒドロキシナフタレン、ナフタレンジスルホン酸又はそれらの誘導体、ビス(ジメチルヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン、ビスフェノールAなどが挙げられる。
【0038】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、前記一般式(I)で表される縮合多環式芳香族構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造、又は、一般式(I)で表される縮合多環式芳香族構造からなる群より選ばれる少なくとも1種の構造及び一般式(II)で表される非縮合多環式芳香族構造からなる群より選ばれた少なくとも1種の構造を導入することで、従来のポリアミドイミド樹脂に比較して飛躍的に強度を向上させ、かつ高温雰囲気下においてもこの高強度性を維持させるものであり、この構造の導入のために、上記のイソシアネート成分、アミン成分及び酸成分のいずれを使用しても良いが、強度の向上及び高温雰囲気下での強度の維持のためには、ナフタレンジイソシアネート、ジアミノナフタレン、ナフタレンジカルボン酸、ジヒドロキシナフタレン、ナフタレンジスルホン酸、又はそれらの誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のモノマを共重合していることが好ましく、高温雰囲気下での強度の維持のために、ナフタレンジイソシアネート又はジアミノナフタレンを共重合していることがより好ましい。
【0039】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、強度の向上及びび高温雰囲気下での強度の維持のためには、ポリアミドイミド樹脂が原料の全イソシアネート成分中又は全アミン成分中にナフタレンジイソシアネート又はジアミノナフタレンを5〜100重量%含んで重合されていることが好ましい。ナフタレンジイソシアネート又はジアミノナフタレンの量が5重量%未満では従来のポリアミドイミド樹脂と比較して強度の向上が見られず、また高温雰囲気下で満足な強度が得られない。強度向上の効果及び高温雰囲気下での強度維持の効果を十分に発現させるためには、ナフタレンジイソシアネート又はジアミノナフタレンの量を10〜100重量%とすることがより好ましい。
【0040】
前記イソシアネート成分又はアミン成分と酸成分の使用量は、生成されるポリアミドイミド樹脂の分子量、架橋度の観点から酸成分の総量1.0モルに対してイソシアネート成分又はアミン成分を0.8〜1.2モルとすることが好ましく、0.95〜1.1モルとすることがより好ましい。
【0041】
また、反応に用いられるイソシアネート成分、アミン成分、酸成分の総量中、上記の各種の縮合多環式芳香族化合物の少なくとも1種を5〜80モル%用いることが好ましく、20〜60モル%用いることがより好ましく、上記の各種の非縮合多環式芳香族化合物の少なくとも1種を5〜80モル%用いることが好ましく、5〜75モル%用いることがより好ましく、5〜50モル%用いることがさらに好ましく、単環式芳香族化合物を5〜70モル%用いることが好ましく、10〜50モル%用いることがより好ましい。脂肪族化合物の使用量は、0〜20モル%とすることが好ましく、0〜10モル%とすることがより好ましい。
【0042】
反応に用いられるイソシアネート成分、アミン成分、酸成分の総量中、縮合多環式芳香族化合物の使用量が16モル%未満であると、高温雰囲気下で引張り強度及び引張り弾性率が低下する傾向があり、80モル%を超えると、ポリアミドイミド樹脂の溶解性が低下し、濁りが生じやすくなる傾向がある。非縮合多環式芳香族化合物の使用量が5モル%未満であると、ポリアミドイミド樹脂の溶解性が低下し、濁りが生じやすくなる傾向がある。80モル%を超えると、高温雰囲気下で引張り強度及び引張り弾性率が低下する傾向があり、構造によってはポリアミドイミド樹脂の溶解性が低下し、濁りが生じやすくなる傾向がある。トリメリット酸無水物又はその誘導体(例えばトリメリット酸無水物クロライドや、ベンゼン環に置換基を有するもの)等の単環式芳香族化合物の使用量が4モル%未満であると、ポリアミドイミド樹脂の溶解性が低下し、濁りが生じやすくなる傾向があり、50モル%を超えると、高分子量のポリアミドイミド樹脂が得られがたく、高温雰囲気下で引張り強度及び引張り弾性率が低下する傾向がある。また、脂肪族化合物の使用量が20モル%を超えると、高温雰囲気下で引張り強度及び引張り弾性率が低下する傾向がある。
【0043】
本発明のポリアミドイミド樹脂を上記のイソシアネート成分又はアミン成分と酸成分とを反応させて製造する場合、それらの反応原料を塩基性極性溶媒中で反応させる。ここで、塩基性極性溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド又はジメチルホルムアミド等を用いることが出来るが、ポリアミドイミド化反応を高温で短時間に行うためには、N−メチル−2−ピロリドンなどの高沸点溶媒を用いることが好ましい。
【0044】
また、溶媒の使用量には得に制限はないが、イソシアネート成分又はアミン成分と酸成分の総量100重量部に対して50〜500重量部とすることが好ましい。ポリアミドイミド樹脂の合成条件は多様であり、一概に特定できないが、通常、120〜155℃の温度で行われ、空気中の水分の影響を低減するため、窒素などの雰囲気下で行うことが好ましい。
【0045】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、数平均分子量が10,000〜100,000のものが好ましい。数平均分子量が10,000未満では、塗膜とした時の、塗膜の耐熱性や機械的特性などの諸特性が低下する傾向があり、100,000を超えると、塗料として適正な濃度で溶媒に溶解した時に粘度が高くなり、塗装時の作業性に劣る傾向がある。このことから、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は15,000〜80,000とすることがより好ましい。
なお、ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、樹脂合成時にサンプリングしてゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により、標準ポリスチレンの検量線を用いて測定し、目的の数平均分子量になるまで合成を継続することにより上記範囲に管理される。
【0046】
このようにして得られたポリアミドイミド樹脂は、使用する際に必要に応じて適当な濃度に希釈される。希釈溶媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、キシレン、ジメチルスルホキサイド、N−メチル−2−ピロリドン等の極性溶媒の他に、助溶媒として、ポリオール類、これらの低級アルキルエーテル化物、アセチル化物等を用いても良い。例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、イソプロピルアルコール又はそれらのモノメチルエーテル化物、モノエチルエーテル、モノイソプロピルエーテル化物、モノブチルエーテル化物、ジメチルエーテル化物及びこれらのモノアセチル化物などが使用される。
【0047】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、摺動部塗料用のバインダーという用途から、ポリアミドイミド樹脂をフィルム状に成形して硬化させたときの引張り強度及び引張り弾性率ができるだけ高い方が好ましい。例えば、硬化したフィルムの機械的特性を引張り速度5mm/分、温度23±2℃で測定したときに、引張り強度が110MPa以上であることが好ましく、120MPa以上であることがより好ましく、かつ引張り弾性率が2.6GPa以上であることが好ましく、3.0GPa以上であることがより好ましい。引張り強度が110MPa未満及び引張り弾性率が2.6GPa未満の場合は、摺動時における高温雰囲気下において塗膜強度が不足し耐摩耗性が不良となる恐れがあり、また塗膜の破壊及び剥離を起こす恐れがある。また、高温雰囲気下での特性としては、硬化したフィルムの機械的特性を引張り速度5mm/分、温度150±2℃で測定したときに、引張り強度が75MPa以上であることが好ましく、80MPa以上であることがより好ましく、かつ引張り弾性率が1.9GPa以上であることが好ましく、2.0GPa以上であることがより好ましい。
【0048】
本発明のポリアミドイミド樹脂は、270℃−30分という硬化温度が推奨されるが、例えば230℃−30分などより低温での硬化条件にて使用する場合は、加熱硬化時における樹脂同士の重合反応および架橋反応を促進させるために、多官能型エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アミン化合物、メラミン化合物、ポリエステル化合物等の硬化剤を併用して、ポリアミドイミド樹脂組成物として用いることが好ましい。本発明のポリアミドイミド樹脂との反応性及び得られる塗膜特性から、特に多官能型エポキシ化合物の併用が好ましい。
【0049】
多官能型エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ノボラック型、アミン型、アルコール型、ビフェニル型、エステル型等特に制限はなく、通常公知のものは何でも使用でき、複数のものを同時に併用することができるが、本発明のポリアミドイミド樹脂との反応性及び塗料の保存安定性などから、ビスフェノールA型エポキシ化合物の使用が特に好ましい。
多官能型エポキシ化合物の使用量は、ポリアミドイミド樹脂100重量部に対して1〜100重量部とすることが好ましく、3〜50重量部とすることがより好ましい。エポキシ化合物の量が1重量部未満であると重合反応及び架橋反応の促進効果が十分に得られなくなる傾向があり、100重量部を超えると得られる塗膜の耐熱性が低下し高温雰囲気下において強度が低下し易くなる傾向がある。
【0050】
本発明になるポリアミドイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂組成物は、被塗物に塗布、硬化させて、被塗物表面に塗膜を形成する。特に本発明によるポリアミドイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂組成物は、従来のポリアミドイミド樹脂と比較して飛躍的に優れた強度を有する塗膜を形成することができ、かつ高温雰囲気下においてもこの高強度性を維持することができることから、特に二硫化モリブデン、ポリテトラフルオロエチレン等の各種固体潤滑剤を混合して作製される各種摺動部用途向けの塗料における耐熱バインダーとして多大な有益性を有している。
【0051】
本発明の摺動部用塗料は、本発明のポリアミドイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分として含有するものであり、さらに固体潤滑剤を含有することが好ましい。固体潤滑剤としては、例えば、硫化物、フッ素化合物、黒鉛等が挙げられ、これらを1種又は2種以上用いることができ、微粉末として用いることが好ましい。
【0052】
固体潤滑剤として用いられる硫化物としては、二硫化モリブデン、二硫化タングステン等が挙げられ、フッ素化合物としては、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、トリクロロトリフルオロエチレン等が挙げられる。
【0053】
固体潤滑剤の配合量は、本発明のポリアミドイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂組成物100重量部に対して1〜100重量部とすることが好ましく、10〜50重量部とすることがより好ましい。
また、本発明の摺動部用塗料には、必要に応じて耐摩耗材を配合してもよい。耐摩耗材としては、窒化珪素、炭化珪素、窒化ホウ素、アルミナ、シリカ、珪酸ガラス、ダイヤモンド等が挙げられ、これらも微粉末として用いることが好ましい。
【0054】
耐摩耗材を配合する場合、耐摩耗材の配合量は、本発明のポリアミドイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂組成物100重量部に対して、1〜100重量部とすることが好ましく、10〜50重量部とすることがより好ましい。
【0055】
本発明の摺動部用塗料を被塗物に塗布、硬化させることにより、摺動部用塗膜が形成される。硬化条件としては、通常、100〜500℃で1〜120分間加熱することが好ましく、200〜350℃で20〜60分間加熱することがより好ましい。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではなく、発明の主旨に基づいたこれら以外の多くの実施態様を含むことは言うまでもない。
実施例1
イソシアネート成分として1,5−ナフタレンジイソシアネート0.8モル及び4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート0.2モル、酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸0.2モル、ビフェニル−3,4,3′,4′−テトラカルボン酸二無水物0.1モル及び無水トリメリット酸0.7モル、合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して150重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら約2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら130℃を保持し、このまま約8時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、20,000であった。
【0057】
実施例2
イソシアネート成分として1,5−ナフタレンジイソシアネート0.5モル及びo−トリジンジイソシアネート0.5モル、酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸0.2モル、1,4−ナフタレンジカルボン酸0.1モル、ビフェニル−3,4,3′,4′−テトラカルボン酸二無水物0.1モル及び無水トリメリット酸0.6モル、合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して150重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら約2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら130℃を保持し、このまま約6時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、23,000であった。
【0058】
実施例3
イソシアネート成分として1,5−ナフタレンジイソシアネート1.0モル、酸成分としてビフェニル−3,4,3′,4′−テトラカルボン酸二無水物0.2モル及び無水トリメリット酸0.8モル、合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して150重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら約2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら130℃を保持し、このまま約7時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、21,000であった。
【0059】
実施例4
イソシアネート成分として1,5−ナフタレンジイソシアネート0.8モル及び4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート0.2モル、酸成分として無水トリメリット酸1.0モル、合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して150重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら約2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら130℃を保持し、このまま約7時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、25,000であった。
このポリアミドイミド樹脂溶液にビスフェノールA型エポキシ化合物(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名エピコート828)を添加(ビスフェノールA型エポキシ樹脂の使用量はポリアミドイミド樹脂の100重量部に対して10重量部とした。)し、ポリアミドイミド樹脂組成物溶液を得た。
【0060】
実施例5
イソシアネート成分として1,5−ナフタレンジイソシアネート0.6モル及び4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート0.1モル及びトリレンジイソシアネート0.3モル、酸成分として無水トリメリット酸0.9モル及び無水ピロメリット酸0.1モル、合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して200重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら約2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら130℃を保持し、このまま約5時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、36,000であった。
【0061】
実施例6
イソシアネート成分として1,5−ナフタレンジイソシアネート0.8モル及び4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート0.2モル、酸成分として無水トリメリット酸0.9モル及びセバシン酸0.1モル、合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して200重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら約2時間かけて徐々に昇温して140℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら140℃を保持し、このまま約10時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、30,000であった。
【0062】
実施例7
イソシアネート成分として1,5−ナフタレンジイソシアネート0.8モル及び4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート0.2モル、酸成分として無水トリメリット酸0.8モル及びイソフタル酸0.2モル、合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して230重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら約2時間かけて徐々に昇温して140℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら140℃を保持し、このまま約7時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、41,000であった。
【0063】
実施例8
イソシアネート成分として1,5−ナフタレンジイソシアネート0.1モル及びo−トリジンジイソシアネート0.8モル及び4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート0.1モル、酸成分として無水トリメリット酸0.8モル及びイソフタル酸0.2モル、合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して230重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら約2時間かけて徐々に昇温して120℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら120℃を保持し、このまま約7時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、44,000であった。
【0064】
実施例9
イソシアネート成分として1,5−ナフタレンジイソシアネート0.5モル及びo−トリジンジイソシアネート0.3モル及び4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート0.2モル、酸成分として2,6−ナフタレンジカルボン酸0.1モル、ビフェニル−3,3′,4,4′−テトラカルボン酸二無水物0.1モル及び無水トリメリット酸0.8モル、合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して400重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら約2時間かけて徐々に昇温して140℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら140℃を保持し、このまま約8時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、26,000であった。
このポリアミドイミド樹脂溶液にビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名エピコート828)を添加(ビスフェノールA型エポキシ樹脂の使用量はポリアミドイミド樹脂の100重量部に対して8重量部とした。)し、ポリアミドイミド樹脂組成物溶液を得た。
【0065】
比較例1
イソシアネート成分として4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート1.0モル、酸成分として無水トリメリット酸1.0モル、合成溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン(N−メチル−2−ピロリドンの使用量はイソシアネート成分及び酸成分の総量100重量部に対して150重量部とした)を、温度計、冷却管を備えたフラスコに入れ、乾燥させた窒素気流中で攪拌しながら約2時間かけて徐々に昇温して130℃まで上げた。反応により生ずる炭酸ガスの急激な発泡に注意しながら130℃を保持し、このまま約8時間加熱を続けた後反応を停止させ、ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。ポリアミドイミド樹脂の数平均分子量は、48,000であった。
【0066】
試験例
実施例1〜9及び比較例1で得たポリアミドイミド樹脂溶液又はポリアミドイミド樹脂組成物溶液からそれぞれポリアミドイミドフィルムを作製し、前記の表1に記載の条件(試験条件1)及び表2に記載の条件(試験条件2)において、機械的特性を測定した。それぞれの測定条件における引張り強度及び引張り弾性率を表3に示す。
【0067】
【表3】

*1 実施例4及び実施例9の塗膜のみ硬化条件(雰囲気温度)は、80℃−10分 + 200℃−10分 + 230℃−30分で行った(熱風乾燥機中で加熱硬化を行った)。
【0068】
表3に示されるように、実施例1〜9で得たポリアミドイミド樹脂溶液又はポリアミドイミド樹脂組成物溶液から作製したポリアミドイミドフィルムは、摺動時における高温雰囲気下を想定した前記の表2の150℃雰囲気下において、比較例1で得た従来のポリアミドイミド樹脂溶液から作製したポリアミドイミドフィルムと比較して、引張り強度及び引張り弾性率が飛躍的に向上しており、引張り強度が75MPa以上であり、かつ引張り弾性率が1.9GPa以上を維持していることが分かる。
【0069】
また、実施例1〜9及び比較例1で得たポリアミドイミド樹脂溶液又はポリアミドイミド樹脂組成物溶液にN−メチル−2−ピロリドンを加え、これに固体潤滑剤として微粉末のポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製、商品名ルブロンL−2、白色超微粉末タイプ)を、耐摩耗材として窒化珪素(信越化学工業株式会社製、商品名KSN−10M−TX)を加え、ボールミルで分散して摺動部用塗料を作製した。それぞれの配合量は、ポリアミドイミド樹脂溶液又はポリアミドイミド樹脂組成物溶液100重量部に対してN−メチル−2−ピロリドン300重量部とし、各溶液中のポリアミドイミド樹脂又はポリアミドイミド樹脂組成物100重量部に対して、固体潤滑剤を30重量部、耐摩耗材を10重量部とした。これらの摺動部用塗料をアルミニウムの基板にスプレー塗装法で塗布し、熱風乾燥機中で硬化して摺動部用塗膜を作製した。この摺動部用塗膜を表4に記載の条件にて試験を行ない、試験後の塗膜表面の表面粗さを測定し、摩耗量を求めた。
【0070】
【表4】

試験の結果を表5に示す。
【0071】
【表5】

表5より明らかなように、実施例1〜9は比較例1に比べて摩耗量が少なく、摺動部用塗膜として優れていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表される縮合多環式芳香族構造からなる群より選ばれた少なくとも1種の縮合多環式芳香族構造、又は、一般式(I)で表される縮合多環式芳香族構造からなる群より選ばれた少なくとも1種の縮合多環式芳香族構造と一般式(II)で表される非縮合多環式芳香族構造からなる群より選ばれた少なくとも1種の非縮合多環式芳香族構造とを含有することを特徴とするポリアミドイミド樹脂。
【化1】

【化2】

、R、R、R、R、R、R及びRはそれぞれ−H、−CH、−CHCH、−OH又は−O−CHを意味する)
【請求項2】
更に、三価の単環式芳香族構造を含有する請求項1記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項3】
ナフタレンジイソシアネート、ナフタレンジカルボン酸、ジヒドロキシナフタレン、ナフタレンジスルホン酸及びそれらの誘導体よりなる群から選ばれた少なくとも1種のモノマを共重合成分の1種として合成されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項4】
(a1)ジイソシアネート及び/又は(a2)ジアミンからなる(A)成分と、(b1)トリカルボン酸無水物又は(b2)ジカルボン酸及びテトラカルボン酸二無水物を必須成分とする(B)酸成分とを重合させて得られ、(A)成分が(A)成分の総量中、ナフタレンジイソシアネート及び/又はジアミノナフタレンを合計で5〜100重量%含有するものである請求項1又は2記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項5】
(A)成分が、(a1)ジイソシアネート成分からなり、ナフタレンジイソシアネートを5〜100重量%含有するものである請求項4記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項6】
(a1)ジイソシアネート及び/又は(a2)ジアミンからなる(A)成分と、(b1)トリカルボン酸無水物又は(b3)ジカルボン酸、芳香族ジオール化合物若しくはジスルホン酸及びテトラカルボン酸二無水物を必須成分とする(B)酸成分とを重合させて得られ、(A)成分が(A)成分の総量中、ナフタレンジイソシアネート及び/又はジアミノナフタレンを合計で5〜100重量%含有するものである請求項1又は2記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項7】
(A)成分が、(a1)ジイソシアネート成分からなり、ナフタレンジイソシアネートを5〜100重量%含有するものである請求項6記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項8】
ポリアミドイミド樹脂をフィルム状に成形して硬化させ、引張り速度5mm/分、温度23±2℃で測定したときの引張り強度が110MPa以上であり、かつ引張り弾性率が2.6GPa以上である請求項1〜7いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項9】
ポリアミドイミド樹脂をフィルム状に成形して硬化させ、引張り速度5mm/分、温度150±2℃で測定したときの引張り強度が75MPa以上であり、かつ引張り弾性率が1.9GPa以上である請求項1〜8いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂。
【請求項10】
請求項1〜9いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂100重量部及び硬化剤1〜100重量部を含有することを特徴とするポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項11】
硬化剤が、多官能型エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アミン化合物、メラミン化合物又はポリエステル化合物である請求項10記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項12】
硬化剤が多官能型エポキシ化合物である請求項11記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項13】
ポリアミドイミド樹脂組成物をフィルム状に成形して硬化させ、引張り速度5mm/分、温度23±2℃で測定したときの引張り強度が110MPa以上であり、かつ引張り弾性率が2.6GPa以上である請求項10〜12いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項14】
ポリアミドイミド樹脂組成物をフィルム状に成形して硬化させ、引張り速度5mm/分、温度150±2℃で測定したときの引張り強度が75MPa以上であり、かつ引張り弾性率が1.9GPa以上である請求項10〜13いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項15】
請求項1〜9いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂を塗膜成分として含有する塗料。
【請求項16】
請求項10〜14いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分として含有する塗料。
【請求項17】
請求項1〜9いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂を塗膜成分として含有する摺動部用塗料。
【請求項18】
請求項10〜14いずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物を塗膜成分として含有する摺動部用塗料。
【請求項19】
さらに固体潤滑剤を含有してなる請求項17又は18記載の摺動部用塗料。
【請求項20】
固体潤滑剤が硫化物、フッ素化合物又は黒鉛から選ばれる少なくとも1種を含有してなる請求項19記載の摺動部用塗料。
【請求項21】
硫化物が、二硫化モリブデン及び/又は二硫化タングステンである請求項20記載の摺動部用塗料。
【請求項22】
フッ素化合物が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド及びトリクロロトリフルオロエチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項20記載の摺動部用塗料。
【請求項23】
請求項17〜22いずれかに記載の摺動部用塗料から形成された摺動部用塗膜。

【公開番号】特開2007−146141(P2007−146141A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290307(P2006−290307)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】