説明

ポリアミド樹脂組成物

【課題】結晶化速度が速く、高剛性、高強度を両立したポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】(A)ペンタメチレンジアミンと炭素数6以上のジカルボン酸を主要成分として含有するポリアミド樹脂100重量部に対し、(B)タルク、ワラストナイト、およびカオリンから選ばれる無機充填材の少なくとも1種0.1〜100重量部、膨潤性層状珪酸塩0.1重量部未満を配合してなるポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化速度が速く、高剛性、高強度を両立したポリペンタメチレンアジパミド樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミド樹脂を高剛性、高強度化する方法として、タルク、ガラス繊維などの無機充填材を配合する技術が知られている。また、特許文献1には、ポリアミド樹脂中に膨潤性層状珪酸塩を劈開させてナノオーダーで分散させることによって、少量の配合量で飛躍的に剛性、強度を向上させることができるナノコンポジットに関する技術が記載されている。無機充填材としての膨潤性層状珪酸塩の使用は、ポリアミド樹脂の高剛性、高強度化技術として非常に有効であると考えられている。
【0003】
一方、ペンタメチレンジアミンは非石油原料として、医薬中間体などの合成原料や高分子原料として期待され、近年需要が高まっている。ペンタメチレンジアミンとアジピン酸を原料としたポリペンタメチレンアジパミド樹脂を高剛性化する手法として、特許文献2には膨潤性層状珪酸塩を配合したポリペンタメチレンアジパミド樹脂組成物が開示されている。しかし、この組成物では、膨潤性層状珪酸塩の配合量に伴い剛性は飛躍的に向上するが、数%の配合量で強度は頭打ちとなり、また、ポリペンタメチレンアジパミド樹脂単体に比べて結晶化速度は遅いという課題があった。
【0004】
また、特許文献3には、ポリペンタメチレンアジパミド樹脂と充填剤から構成される溶着接合用部材が開示されている。実施例には、ガラス繊維を配合したポリペンタメチレンアジパミド樹脂が示されており、ガラス繊維の配合量増大に伴い、弾性率、強度は向上するものの、ポリペンタメチレンアジパミド樹脂の結晶化速度の改良効果はほとんどなかった。
【0005】
さらに、特許文献4には、ポリペンタメチレンアジパミド単位とポリヘキサメチレンアジパミド単位から構成されるポリアミド樹脂が開示されている。このポリアミド樹脂はポリペンタメチレンアジパミド単位に対するポリヘキサメチレンアジパミド単位の共重合量が多いために結晶性に劣り、核剤等を添加しても依然として結晶化速度は遅いままであった。
【特許文献1】特開昭62−74957号公報
【特許文献2】特開2004−269549号公報
【特許文献3】特開2004−269634号公報
【特許文献4】特開2006−348057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、結晶化速度が速く、高剛性、高強度、外観に優れる、ペンタメチレンジアミンを構成成分とするポリアミド樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等はペンタメチレンジアミンを構成成分とするポリアミド樹脂における上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、無機充填材として、タルク、カオリン、ワラストナイトが有効であることを見い出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち本発明は、
(i)(A)ペンタメチレンジアミンと炭素数6以上のジカルボン酸を主要成分として含有するポリアミド樹脂100重量部に対し、(B)タルク、ワラストナイト、およびカオリンから選ばれた無機充填材の少なくとも1種0.1〜100重量部、膨潤性層状珪酸塩0.1重量部未満を配合してなるポリアミド樹脂組成物、
(ii)膨潤性層状珪酸塩を配合しない請求項1記載のポリアミド樹脂組成物、
(iii)(B)無機充填材の平均粒子径が0.05〜10μmである(i)または(ii)記載のポリペンタメチレンアジパミド樹脂組成物
(iv)有機官能基が導入された(B)無機充填材を配合してなる(i)〜(iii)いすれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(v)さらに、(C)無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、およびポリ無水マレイン酸から選ばれた少なくとも1種を配合する(i)〜(iv)いずれか記載のポリアミド樹脂組成物、
(vi)前記(A)ポリアミド樹脂の0.01g/mlの98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が、1.8〜3.8である(i)〜(v)いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物、
(vii)炭素数6以上のジカルボン酸がアジピン酸またはセバシン酸である請(i)〜(vi)いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、結晶化速度が速く、剛性、強度、外観に優れる、ペンタメチレンジアミンを構成成分とするポリアミド樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用する(A)ペンタメチレンジアミンと炭素数6以上のジカルボン酸を主要成分として含有するポリアミド樹脂とは、ペンタメチレンジアミンと炭素数6以上のジカルボン酸の総量が95.1wt%以上であるポリアミド樹脂である。より好ましくは96wt%以上、さらに好ましくは97wt%以上である。
【0011】
炭素数6以上のジカルボン酸としては、炭素数6〜20のジカルボン酸が好ましく、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、1、2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸などが挙げられる。特に、ジカルボン酸の入手性が容易であり、得られるポリアミド樹脂組成物の結晶性、強度のバランスに優れるアジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸が好ましい。
【0012】
(A)成分に含有される4.9wt%未満の共重合単位としては、ポリカプロアミド単位、ポリヘキサメチレンアジパミド単位、ポリテトラメチレンアジパミド単位、ポリヘキサメチレンセバカミド単位、ポリヘキサメチレンドデカミド単位、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド単位、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド単位、ポリキシリレンアジパミド単位などが挙げられる。
【0013】
本発明を構成するペンタメチレンジアミンの製法に制限はないが、例えば、2−シクロヘキセン−1−オンなどのビニルケトン類を触媒としてリジンから合成する方法や、リジン脱炭酸酵素を用いてリジンから転換する方法などが既に提案されている。前者の方法では、反応温度が約150℃と高いのに対し、後者の方法は100℃未満であり、後者の方法を用いる方が、副反応をより低減できると考えられるため、原料としては後者の方法によって得られたペンタメチレンジアミンを用いることが好ましい。
【0014】
後者の方法で使用するリジン脱炭酸酵素は、リジンをペンタメチレンジアミンに転換させる酵素であり、Escherichia coli K12株をはじめとするエシェリシア属微生物のみならず、多くの生物に存在することが知られている。
【0015】
本発明において使用するのが好ましいリジン脱炭酸酵素は、これらの生物に存在するものを使用することができ、リジン脱炭酸酵素の細胞内での活性が上昇した組換え細胞由来のものも使用できる。
【0016】
組換え細胞としては、微生物、動物、植物、または昆虫由来のものが好ましく使用できる。例えば動物を用いる場合、マウス、ラットやそれらの培養細胞などが用いられる。植物を用いる場合、例えばシロイヌナズナ、タバコやそれらの培養細胞が用いられる。また、昆虫を用いる場合、例えばカイコやその培養細胞などが用いられる。また、微生物を用いる場合、例えば、大腸菌などが用いられる。
【0017】
また、リジン脱炭酸酵素を複数種組み合わせて使用しても良い。
【0018】
このようなリジン脱炭酸酵素を持つ微生物としては、バシラス・ハロドゥランス(Bacillus halodurans)、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、エシェリシア・コリ(Escherichia coli)、セレノモナス・ルミナンチウム(Selenomonas ruminantium)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、ストレプトマイセス・コエリカーラ(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・ピロサス(Streptomyces pilosus)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、イユバクテリウム・アシダミノフィルム(Eubacterium acidaminophilum)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、ナイセリア・メニンギチデス(Neisseria meningitidis)、テルモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)、ピロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)またはコリネバクテリウム・グルタミカス(Corynebacterium
glutamicum)等が挙げられる。
【0019】
リジン脱炭酸酵素を得る方法に特に制限はないが、例えば、リジン脱炭酸酵素を有する微生物や、リジン脱炭酸酵素の細胞内での活性が上昇した組換え細胞などを適当な培地で培養し、増殖した菌体を回収し、休止菌体として用いることも可能であり、また当該菌体を破砕して無細胞抽出液を調製して用いることも可能であり、また必要に応じて精製して用いることも可能である。
【0020】
リジン脱炭酸酵素を抽出するために、リジン脱炭酸酵素を有する微生物や組換え細胞を培養する方法に特に制限はないが、例えば微生物を培養する場合、使用する培地は、炭素源、窒素源、無機イオンおよび必要に応じその他有機成分を含有する培地が用いられる。例えば、E.coliの場合しばしばLB培地が用いられる。炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボースや澱粉の加水分解物などの糖類、グリセロール、マンニトールやソルビトールなどのアルコール類、グルコン酸、フマール酸、クエン酸やコハク酸等の有機酸類を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有機微量栄養素としては、各種アミノ酸、ビタミンB1等のビタミン類、RNA等の核酸類などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。それらの他に、必要に応じて、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0021】
培養条件にも特に制限はなく、例えばE.coliの場合、好気条件下で16〜72時間程度実施するのが良く、培養温度は30℃〜45℃に、特に好ましくは37℃に、培養pHは5〜8に、特に好ましくはpH7に制御するのがよい。なおpH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、さらにアンモニアガス等を使用することができる。
【0022】
増殖した微生物や組換え細胞は、遠心分離等により培養液から回収することができる。回収した微生物や組換え細胞から無細胞抽出液を調整するには、通常の方法が用いられる。すなわち、微生物や組換え細胞を超音波処理、ダイノミル、フレンチプレス等の方法にて破砕し、遠心分離により菌体残渣を除去することにより無細胞抽出液が得られる。
【0023】
無細胞抽出液からリジン脱炭酸酵素を精製するには、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、等電点沈殿、熱処理、pH処理等酵素の精製に通常用いられる手法が適宜組み合わされて用いられる。精製は、完全精製である必要は必ずしもなく、リジン脱炭酸酵素以外のリジンの分解に関与する酵素、生成物であるペンタメチレンジアミンの分解酵素等の夾雑物が除去できればよい。
リジン脱炭酸酵素によるリジンからペンタメチレンジアミンへの変換は、上記のようにして得られるリジン脱炭酸酵素を、リジンに接触させることによって行うことができる。
【0024】
反応溶液中のリジンの濃度については、特に制限はない。
【0025】
リジン脱炭酸酵素の量は、リジンをペンタメチレンジアミンに変換する反応を触媒するのに十分な量であればよい。
【0026】
反応温度は、通常、28〜55℃、好ましくは40℃前後である。
反応pHは、通常、5〜8、好ましくは、約6である。ペンタメチレンジアミンが生成するにつれ、反応溶液はアルカリ性へ変わるので、反応pHを維持するために無機あるいは有機の酸性物質を添加することが好ましい。好ましくは塩酸を使用することができる。
【0027】
反応には静置または攪拌のいずれの方法も採用し得る。
【0028】
リジン脱炭酸酵素は固定化されていてもよい。
【0029】
反応時間は、使用する酵素活性、基質濃度などの条件によって異なるが、通常、1〜72時間である。また、反応は、リジンを供給しながら連続的に行ってもよい。
【0030】
このように生成したペンタメチレンジアミンを反応終了後、反応液から採取する方法としては、イオン交換樹脂を用いる方法や沈殿剤を用いる方法、溶媒抽出する方法、単蒸留する方法、その他通常の採取分離方法が採用できる。
【0031】
本発明の(A)ポリアミド樹脂の製造方法としては、実質的にペンタメチレンジアミンと炭素数6以上のジカルボン酸の塩、および水の混合物を、加熱して脱水反応を進行させる加圧加熱重縮合法が用いられる。加圧加熱重縮合とは、原料を水の共存下で加熱して、発生する水蒸気により重合系内を加圧状態としてプレポリマーを生成させた後、放圧して常圧に戻し、重合系内の温度を生成ポリマーの融点以上に上昇させ、さらに常圧あるいは減圧下に保持して重縮合させる方法である。
【0032】
(A)ポリアミド樹脂の加圧加熱重縮合においては、高温で重合反応を行うため、ペンタメチレンジアミンが重合系内から揮発する、および/あるいは脱アンモニア反応により環化するなどの理由で、重合の進行に伴い、重合系内では全カルボキシル基量に対する全アミノ基量が少なくなる可能性がある。そのため、原料を仕込む段階で、あらかじめ特定量のペンタメチレンジアミンを過剰に添加して、重合系内のアミノ基量を制御することが、高分子量のポリアミド樹脂(A)を合成するのに好ましい。原料として使用するペンタメチレンジアミンのモル数をa、炭素数6以上のジカルボン酸のモル数をbとしたとき、その比a/bが1.005〜1.05となるように原料組成比を調整することが好ましく、1.01〜1.03となるように原料組成比を調整することがより好ましい。a/bが1.005未満の場合には、重合系内の全アミノ基量が、全カルボキシル基量よりも極めて少なくなり、十分に高分子量のポリマーが得られにくくなる。一方、a/bが1.05より大きい場合には、重合系内の全カルボキシル基量が、全アミノ基量よりも極めて少なくなり、十分に高分子量のポリマーが得られにくくなる。更にジアミン成分の揮散量も増加し、生産性、環境の点からも好ましくない。
【0033】
(A)ポリアミド樹脂の加圧加熱重縮合においては、溶融重合において通常必要とされる、重合系内を加圧状態で保持して、プレポリマーを生成させる工程が必要であり、水共存下で行うことが必要である。水の仕込量は、原料と水をあわせた全仕込量に対して10〜70重量%とすることが好ましい。水が10重量%未満の場合には、ナイロン塩の均一溶解に時間がかかり、過度の熱履歴がかかる傾向があり好ましくない。逆に、水が70重量%より多い場合には、水の除去に多大な熱エネルギーが費やされ、プレポリマーを生成させるのに、時間がかかるため、好ましくない。さらに、加圧状態で保持する圧力は、10〜20kg/cmとすることが好ましい。10kg/cm未満に保持する場合には、ペンタメチレンジアミンが重合系外へ揮発し易いため好ましくない。また、20kg/cmより高く保持する場合には、重合系内の温度を高くする必要があり、結果としてペンタメチレンジアミンが系外へ揮発し易くなるため好ましくない。
【0034】
(A)ポリアミド樹脂の加圧加熱重縮合においては、ペンタメチレンジアミンの揮発や、脱アンモニア反応による環化を抑制するためには、重合工程全体でポリマーが受ける熱履歴を極力小さくすることが重要であり、その手段として、重合系内の最高到達温度を低くすることが有効であるが、高分子量のポリアミド樹脂を得るためには、重合系内の最高到達温度は特定の温度領域に制御することが好ましい。本発明では、重合系内の最高到達温度を、得られる(A)ポリアミド樹脂の融点以上300℃以下にすることが好ましく、より好ましくは融点〜融点+40℃にすることがより好ましい。最高到達温度が融点未満の場合には、重合系内でポリマーが析出し、生産性が大幅に低下するので好ましくない。また、300℃より高い温度の場合には、ペンタメチレンジアミンの揮発や環化が促進される上、得られるポリアミド樹脂が劣化する傾向がある。
【0035】
(A)ポリアミド樹脂は、加圧加熱重縮合後、さらに固相重合あるいは溶融押出機で高重合度化することによって、分子量を上昇させることも可能である。固相重合は、100℃〜融点の温度範囲で、真空中、あるいは不活性ガス中で加熱することにより進行する。
【0036】
(A)ポリアミド樹脂の重合度は、特に制限されないが、0.01g/mlとした98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が、1.8〜3.8であることが好ましく、2.1〜3.2であることが更に好ましい。相対粘度が1.8未満では、強度が低下する傾向があるため好ましくない。一方、相対粘度が3.8を超えると(B)成分であるタルク、ワラストナイト、カオリンが均一に分散せず、外観不良が生じやすいため好ましくない。
【0037】
本発明では、結晶化速度の速いポリアミド樹脂組成物を得ようとするものであるので、示差走査熱量計を用いて、不活性ガス雰囲気下、溶融状態から20℃/minの降温速度で30℃まで降温したときに現れる発熱ピークの温度が、(A)成分のポリアミド樹脂単体のそれよりも高いことが好ましい。本発明では、(B)無機充填材として、タルク、ワラストナイト、およびカオリンから選ばれる少なくとも1種を使用することにより、結晶化温度を上昇させることができる。
【0038】
ナイロン6の高剛性・高強度化するために有効であることが知られる膨潤性層状珪酸塩は、ナイロン6の結晶核剤としても効果的であるが、本発明の(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して0.1重量部以上配合した場合には、膨潤性層状珪酸塩を配合しない場合に比較して、結晶化温度は低下する。一般的に知られる炭素数が偶数であるナイロン6や、炭素数が偶数のジアミンと炭素数が偶数のジカルボン酸から構成されるナイロン66とは異なり、本発明で使用する炭素数が奇数のペンタメチレンジアミンを主成分として含有するポリアミド樹脂は、無機充填材によって結晶化挙動が異なると考えられ、本発明においては、特定の無機充填材が有効であること、および膨潤性層状珪酸塩を特定量未満配合することを見いだしたことに特徴がある。
【0039】
本発明では、(B)成分の平均粒子径は0.05〜10μmであることが好ましい。平均粒子径が0.05μmを下回る場合は、(B)無機充填材の凝集によって、強度を低下させるため好ましくない。また、粒径10μmを上回る場合には、成形品表面外観が悪化する傾向がある。平均粒子径は好ましくは0.1〜5μm、さらに好ましくは0.1〜3μmである。なお、これらの平均粒子径は、沈降法によって測定される。
【0040】
また、これら(B)無機充填材はイソシアネート系化合物、有機シラン系化合物、有機チタネート系化合物、有機ボラン系化合物、エポキシ化合物などのカップリング剤で予備処理して使用することは、より優れた機械的強度を得る意味において好ましい。特に好ましいのは、有機シラン系化合物であり、その具体例としては、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシランなどのメルカプト基含有アルコキシシラン化合物、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、γ−ウレイドプロピルトリメトキシシシラン、γ−(2−ウレイドエチル)アミノプロピルトリメトキシシランなどのウレイド基含有アルコキシシラン化合物、γ−イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ−イソシアナトプロピルトリクロロシランなどのイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−ヒドロキシプロピルトリエトキシシランなどの水酸基含有アルコキシシラン化合物、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、N―β―(N−ビニルベンジルアミノエチル)―γ―アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩等の炭素炭素不飽和基含有アルコキシシラン化合物、3−トリメトキシシリルプロピルコハク酸などの酸無水物基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。特に、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリメトキシシリルプロピルコハク酸が好ましく用いられる。これらの、シランカップリング剤は常法に従って、予め充填剤を表面処理し、ついでポリアミド樹脂と溶融混練する方法が好ましく用いられるが、予め充填剤の表面処理を行わずに、充填剤とポリアミド樹脂を溶融混練する際に、これらカップリング剤を添加するいわゆるインテグラルブレンド法を用いてもよい。
【0041】
これらカップリング剤の処理量は(B)無機充填材100重量部に対して、0.05〜10重量部が好ましい。より好ましくは0.1〜5重量部、最も好ましくは0.5〜3重量部である。0.05重量部未満の場合には、カップリング剤で処理することによる機械特性の改良効果が小さく、10重量部を上回る場合には、(B)無機充填材が凝集しやすく、(A)ポリアミド樹脂の分散不良が生じる傾向がある。
【0042】
本発明における(B)無機充填材の配合量は、(A)成分のポリアミド樹脂100重量部に対して、0.1〜100重量部である。より好ましくは、1.1〜90重量部、さらに好ましくは5〜80重量部、最も好ましくは10.5〜70重量部である。0.1重量部未満では、剛性、強度の改良効果が小さく、100重量部を上回る場合には、(A)ポリアミド樹脂中に均一に分散させることが困難となり、強度が低下する傾向がある。
【0043】
また、本発明で、(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して0.1重量部未満配合する膨潤性層状珪酸塩としては、例えばアルミニウム、マグネシウム、リチウム等から選ばれる元素を含む8面体シートの上下に珪酸4面体シートが重なって1枚の板状結晶層を形成している2:1型の構造を持ち、その板状結晶層の層間に交換性の陽イオンを有しているものである。通常、幅0.05〜0.5μm、厚さ6〜15オングストロームの板状物が積層した構造を持ち、カチオン交換容量が0.2〜3meq/gのものが挙げられ、好ましくはカチオン交換容量が0.8〜1.5meq/gのものである。ここで、(A)ポリアミド樹脂に対する膨潤性層状珪酸塩の配合量は、無機灰分量として計算したものである。膨潤性層状珪酸塩の配合量は、0.05重量部未満がより好ましく、配合しないことが最も好ましい。
【0044】
その具体例としては、モンモリロナイト、サポナイト、バイデライト、ノントロナイト、ヘクトライト、ステイブンサイトなどのスメクタイト系粘土鉱物やバーミキュライト、ハロイサイト、カネマイト、ケニヤイト、燐酸ジルコニウム、燐酸チタニウムなどの各種粘土鉱物、Li型フッ素テニオライト、Na型フッ素テニオライト、Na型四珪素フッ素雲母、Li型四珪素フッ素雲母等の膨潤性フッ素雲母などを挙げることができ、これらは天然のものであっても、合成されたものであってもよい。これらの中でもモンモリロナイト、ヘクトライトなどのスメクタイト系粘土鉱物やNa型四珪素フッ素雲母などの膨潤性合成雲母が好ましく、さらにはこれら膨潤性層状珪酸塩は、層間に存在する交換性陽イオンが有機オニウムイオンで交換された層状珪酸塩であることが好ましい。
【0045】
本発明では、(A)ポリアミド樹脂と(B)無機充填剤の界面を強化するために、カップリング剤による(B)無機充填材の処理に加え、(C)成分として、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、またはポリ無水マレイン酸から選ばれる少なくとも1種を配合することが好ましい。これらの中で、無水マレイン酸、ポリ無水マレイン酸が延性、剛性のバランスに優れるため好ましく用いられる。ポリ無水マレイン酸としては、例えばJ. Macromol. Sci.−Revs. Macromol. Chem.,C13(2), 235(1975)等に記載のものを用いることができる。
【0046】
これら(C)の添加量は(A)ポリアミド樹脂100重量部に対して0.05〜10重量部が延性の向上効果、得られる組成物の流動性の点から好ましく、さらに0.1〜5重量部の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜3重量部であり、さらに好ましくは0.1〜1重量部である。
【0047】
なお、(C)成分は、実質的に(A)ポリアミド樹脂、(B)無機充填材と溶融混練する際に無水物の構造を取ればよく、加水分解してカルボン酸あるいはその水溶液の様な形態で溶融混練に供し、溶融混練の際の加熱により脱水反応させ、実質的に無水酸の形でナイロン樹脂と溶融混練してもかまわない。
【0048】
本発明では、さらに(D)成分として、耐衝撃性改良材を配合することができる。耐衝撃性改良材としては、オレフィン系化合物および/または共役ジエン系化合物を重合して得られる(共)重合体が挙げられる。オレフィン系化合物としては、エチレンなどのα−オレフィン、酢酸ビニル、ビニルアルコールおよび芳香族ビニルなどのビニル系化合物、非共役ジエン、α,β−不飽和カルボン酸およびそれらの誘導体等が挙げられる。上記(共)重合体としては、エチレン系共重合体、共役ジエン系重合体、共役ジエン−芳香族ビニル炭化水素系共重合体などが好ましく挙げられる。ここでいうエチレン系共重合体とは、エチレンと他の単量体との共重合体および多元共重合体をさし、エチレンと共重合する他の単量体としては炭素数3以上のα−オレフィン、非共役ジエン、酢酸ビニル、ビニルアルコール、α,β−不飽和カルボン酸およびその誘導体などの中から選択することができる。
【0049】
炭素数3以上のα−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1、3−メチルペンテン−1、オクタセン−1などが挙げられ、プロピレン、ブテン−1が好ましく使用できる。非共役系ジエンとしては5−メチリデン−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−ビニル−2−ノルボルネン、5−プロペニル−2−ノルボルネン、5−イソプロペニル−2−ノルボルネン、5−クロチル−2−ノルボルネン、5−(2−メチル−2−ブテニル)−2−ノルボルネン、5−(2−エチル−2−ブテニル)−2−ノルボルネン、5−メチル−5−ビニルノルボルネンなどのノルポルネン化合物、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、4,7,8,9−テトラヒドロインデン、1,5−シクロオクタジエン1,4−ヘキサジエン、イソプレン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、11−トリデカジエンなどが挙げられ、好ましくは5−メチリデン−2−ノルブルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエンなどである。α,β−不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ブテンジカルボン酸などが挙げられ、その誘導体としてはアルキルエステル、アリールエステル、グリシジルエステル、酸無水物、イミドを例として挙げることができる。また、共役ジエン系重合体とは1種以上の共役ジエン単量体に由来する共重合体すなわち単一の共役ジエン例えば1,3−ブタジエンの単独重合体あるいは2種またはそれ以上の共役ジエン例えば1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンの共重合体が挙げられる。これらの重合体の不飽和結合の一部または全部が水添により還元しているものも好ましく使用できる。
【0050】
共役ジエン−芳香族ビニル炭化水素系共重合体とは共役ジエンと芳香族ビニル炭化水素の比がさまざまのブロック共重合体またはランダム共重合体であり、これを構成する共役ジエンの例としては前記の単量体が挙げられ、特に1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。芳香族ビニル炭化水素の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、1,3−ジメチルスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられ、中でもスチレンが好ましく使用できる。また、共役ジエン−芳香族ビニル炭化水素系共重合体の芳香環以外の二重結合以外の不飽和結合の一部または全部が水添により還元されているものも好ましく使用できる。
【0051】
これら(D)耐衝撃性改良剤はガラス転移温度(ここでは周波数1Hzの動的粘弾性測定から得られる損失粘弾性(E”)のピーク温度として定義する)が−20℃以下のものを使用することが、より高い衝撃強度を得るために好ましい。
【0052】
また、これらの(E)耐衝撃性改良材は2種以上併用することも可能である。
【0053】
さらに、樹脂組成物中の上記耐衝撃性改良剤の分散粒子径を微細にするために、その一部または全部に、さらに種々の不飽和カルボン酸をおよび/またはその誘導体やビニル単量体をグラフト反応によりグラフト変性して得られる、あるいは共重合して得られる(共)重合体も好ましく使用できる。この場合、(E)耐衝撃改良剤全体に対して、グラフト反応あるいは共重合されている不飽和カルボン酸および/またはその誘導体やビニル単量体の量は0.01〜20重量%が好ましい。グラフト反応あるいは共重合に用いる不飽和カルボン酸としてはアクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ブテンジカルボン酸などが挙げられる。また、それらの誘導体としては、アルキルエステル、グリシジルエステル、ジ−またはトリ−アルコキシシリル基を有するエステル、酸無水物またはイミドなどが挙げられ、これらの中で、グリシジルエステル、ジ−またはトリ−アルコキシシリル基を有する不飽和カルボン酸エステル、酸無水物、イミドが好ましい。
【0054】
不飽和カルボン酸またはその誘導体の好ましい例としては、マレイン酸、フマル酸、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸ジグリシジルエステル、シトラコン酸ジグリシジルエステル、ブテンジカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテンジカルボン酸モノグリシジルエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸イミド、イタコン酸イミド、シトラコン酸イミドなどであり、特にメタクリル酸グリシジル、無水マレイン酸、無水イタコン酸、マレイン酸イミドが好ましく使用できる。また、ビニル単量体の例としてはスチレンなどの芳香族ビニル化合物、アクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物、ビニルトリメトキシシランなどのビニルシラン化合物を例示することができ、これらの不飽和カルボン酸またはその誘導体あるいはビニル単量体は2種以上を併用してもよい。なお、これら不飽和カルボン酸またはその誘導体あるいはビニル単量体をグラフトさせる方法については公知の手法を用いることができる。
【0055】
本発明に於ける(D)耐衝撃性改良剤のポリアミド樹脂100重量部に対する配合量は5〜100重量部の範囲であり、靱性と剛性をバランスよく付与するには5〜70重量部が好ましい。
【0056】
本発明のポリアミド樹脂組成物の調製方法としては特に制限はないが、具体例として、原料の(A)ポリアミド樹脂、(B)無機充填材を単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーおよびミキシングロールなど公知の溶融混練機に供給して溶融混練する方法などを挙げることができる。
【0057】
(A)ポリアミド樹脂に(B)無機充填材を均一に分散させる方法として、溶融混練機を用いた場合、混練機のL/D(スクリュー長/スクリュー径)、ベントの有無、混練温度、滞留時間、それぞれの成分の添加位置、添加量をコントロールすることが有効である。一般に溶融混練機のL/Dを長く、滞留時間を長くすることは(B)無機充填剤の均一分散を促進するため好ましい。
【0058】
本発明のポリアミド樹脂組成物には本発明の効果を損なわない範囲で他の成分、例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、他の重合体(他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等)を任意の時点で添加することができる。
【0059】
本発明のポリアミド樹脂、およびポリアミド樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、溶融紡糸、フィルム成形などの任意の成形方法により、所望の形状に成形でき、自動車部品、機械部品などの樹脂成形品などに使用することができる。具体的な用途としては、自動車エンジン冷却水系部品、特にラジエタータンクのトップおよびベースなどのラジエタータンク部品、冷却液リザーブタンク、ウォーターパイプ、ウォーターポンプハウジング、ウォーターポンプインペラ、バルブなどのウォーターポンプ部品など自動車エンジンルーム内で冷却水との接触下で使用される部品、スイッチ類、超小型スライドスイッチ、DIPスイッチ、スイッチのハウジング、ランプソケット、結束バンド、コネクタ、コネクタのハウジング、コネクタのシェル、ICソケット類、コイルボビン、ボビンカバー、リレー、リレーボックス、コンデンサーケース、モーターの内部部品、小型モーターケース、ギヤ・カム、ダンシングプーリー、スペーサー、インシュレーター、ファスナー、バックル、ワイヤークリップ、自転車ホイール、キャスター、ヘルメット、端子台、電動工具のハウジング、スターターの絶縁部分、スポイラー、キャニスター、ラジエタータンク、チャンバータンク、リザーバータンク、ヒューズボックス、エアークリーナーケース、エアコンファン、ターミナルのハウジング、ホイールカバー、吸排気パイプ、ベアリングリテーナー、シリンダーヘッドカバー、インテークマニホールド、ウォーターパイプインペラ、クラッチレリーズ、スピーカー振動板、耐熱容器、電子レンジ部品、炊飯器部品、プリンタリボンガイドなどに代表される電気・電子関連部品、自動車・車両関連部品、家電・事務電気製品部品、コンピューター関連部品、ファクシミリ・複写機関連部品、機械関連部品、その他各種用途に有用である。
【実施例】
【0060】
[相対粘度(ηr)]
98%硫酸中、0.01g/ml濃度、25℃でオストワルド式粘度計を用いて測定を行った。
【0061】
[融点、降温結晶化温度]
セイコーインスツル製 ロボットDSC RDC220を用い、試料を約5mg採取し、窒素雰囲気下、次の条件で測定した。融点+35℃に昇温して溶融状態とした後、20℃/分の降温速度で、30℃まで降温したときに観測される発熱ピークトップの温度(降温結晶化温度:Tc)を求めた。これに続いて、30℃で3分間保持した後、20℃/分の昇温速度で融点+35℃まで昇温したときに観測される吸熱ピークの温度(融点:Tm)を求めた。
【0062】
[曲げ強度、曲げ弾性率]
射出成形 (住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度を融点+25℃、金型温度を80℃に設定)により調製した1/2インチ×5インチ×1/4インチの棒状試験片を用い、ASTM−D790に従って曲げ試験を行った。
【0063】
[引張強度]
射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度を融点+25℃、金型温度を80℃に設定)により調製したASTM1号ダンベルを用い、ASTM−D638に従って引張試験を行った。
【0064】
[Izod衝撃強度]
射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度を融点+25℃、金型温度を80℃に設定)により調製した厚さ1/8インチのモールドノッチ試験片を用い、ASTM D256に従って測定した。
【0065】
[表面外観]
射出成形(住友重機社製SG75H−MIV、シリンダー温度を融点+25℃、金型温度を80℃に設定)により調製した80×80×3mmの鏡面磨き角板を用い、その表面で蛍光灯の反射像の鮮明度を目視観察し、下記とおり評価した。
◎:光沢があり、蛍光灯の反射像が明瞭に観察される。
○:光沢はあるが、蛍光灯の反射像はやや不鮮明に観察される。
△:光沢はわずかにあるが、蛍光灯の反射像は観察できない。
×:光沢は無く、蛍光灯の反射像は全く観察できない。
【0066】
参考例1(カオリンの表面処理)
カオリン(サチントンNo.5(BASF製))1kgをヘンシェルミキサー中で攪拌しながら、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(SZ6030(東レ・ダウコーニング・シリコン社製))30g、メタノール45g、5ppm塩酸水溶液25gの混合溶液を噴霧した。30分間撹拌を続け、回収して、130℃で12時間熱風オーブンで乾燥し、表面に不飽和基が導入されたカオリンを得た。
【0067】
参考例2(カオリンの表面処理)
カオリン(サチントンNo.5(BASF製))1kgをヘンシェルミキサー中で攪拌しながら、3−トリメトキシシリルプロピルコハク酸(X−12−967(信越化学工業製))30g、メタノール70gの混合溶液を噴霧した。30分間撹拌を続け、回収して、130℃で12時間熱風オーブンで乾燥し、表面に酸無水物基が導入されたカオリンを得た。
【0068】
参考例3(有機化層状珪酸塩の調製)
Na型モンモリロナイト(クニミネ工業:クニピアF、陽イオン交換容量120m当量/100g)100gを温水10リットルに攪拌分散し、ここにトリオクチルメチルアンモニウムクロライド48g(陽イオン交換容量と等量)を溶解させた温水2Lを添加して1時間攪拌した。生じた沈殿を濾別した後、温水で洗浄した。この洗浄と濾別の操作を3回行い、得られた固体を80℃で真空乾燥して有機化層状珪酸塩を得た。有機化層状珪酸2gを500℃の電気炉で3時間灰化させて無機灰分量を求めたところ、68.1wt%であった。
【0069】
参考例4(リジン脱炭酸酵素の調整)
E.coli JM109株の培養は以下のように行った。まず、この菌株をLB培地5mlに1白金耳植菌し、30℃で24時間振とうして前培養を行った。次に、LB培地50mlを500mlの三角フラスコに入れ、予め115℃、10分間蒸気滅菌した。この培地に前培養した上記菌株を植え継ぎ、振幅30cmで、180rpmの条件下で、1N塩酸水溶液でpHを6.0に調整しながら、24時間培養した。こうして得られた菌体を集め、超音波破砕および遠心分離により無細胞抽出液を調製した。これらのリジン脱炭酸酵素活性の測定を定法に従って行った(左右田健次,味園春雄,生化学実験講座,vol.11上,P.179−191(1976))。リジンを基質とした場合、本来の主経路と考えられるリジンモノオキシゲナーゼ、リジンオキシダーゼおよびリジンムターゼによる転換が起こり得るので、この反応系を遮断する目的で75℃で5分間、E.coli JM109株の無細胞抽出液を加熱した。さらにこの無細胞抽出液を40%飽和および55%飽和硫酸アンモニウムにより分画した。こうして得られた粗精製リジン脱炭酸酵素溶液を用いて、リジンからペンタメチレンジアミンの生成を行った。
【0070】
参考例5(ペンタメチレンジアミンの製造)
50mM リジン塩酸塩(和光純薬工業製)、0.1mM ピリドキサルリン酸(和光純薬工業製)、40mg/L−粗精製リジン脱炭酸酵素(参考例1で調製)となるように調製した水溶液1000mlを、0.1N塩酸水溶液でpHを5.5〜6.5に維持しながら、45℃で48時間反応させ、ペンタメチレンジアミン塩酸塩を得た。この水溶液に水酸化ナトリウムを添加することによってペンタメチレンジアミン塩酸塩をペンタメチレンジアミンに変換し、クロロホルムで抽出して、減圧蒸留(10mmHg、60℃)することにより、ペンタメチレンジアミンを得た。
【0071】
参考例6(ポリペンタメチレンアジパミド樹脂(ナイロン56)の製造)
参考例5で製造したペンタメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩の50重量%水溶液1500g(3.02mol)およびペンタメチレンジアミン4.63g(0.0453mol)を圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。加熱を開始して、缶内圧力が17.5kg/cmに到達した後、水分を系外へ放出させながら缶内圧力を17.5kg/cm2で1.5時間保持した。その後1時間かけて缶内圧力を常圧に戻し、更に−160mmHgの減圧下270℃で30分間反応させ重合を完了した。その後、重合缶からポリマーをガット状に吐出してペレタイズし、これを80℃で24時間真空乾燥して、ηr=2.72、Tm=254℃のポリペンタメチレンアジパミド樹脂を得た。
【0072】
参考例7(ポリペンタメチレンセバカミド樹脂(ナイロン510)の製造)
参考例5で製造したペンタメチレンジアミンとセバシン酸の等モル塩の50重量%水溶液1500g(2.46mol)およびペンタメチレンジアミン2.46g(0.0241mol)を圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。加熱を開始して、缶内圧力が17.5kg/cmに到達した後、水分を系外へ放出させながら缶内圧力を17.5kg/cm2で1.7時間保持した。その後1時間かけて缶内圧力を常圧に戻し、更に−160mmHgの減圧下262℃で1時間反応させ重合を完了した。その後、重合缶からポリマーをガット状に吐出してペレタイズし、これを80℃で24時間真空乾燥して、ηr=2.76、Tm=218℃のポリペンタメチレンセバカミド樹脂を得た。
【0073】
参考例8(ナイロン6の製造)
ε−カプロラクタム700g、イオン交換水700gを圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。加熱を開始して、缶内圧力が15.0kg/cmに到達した後、水分を系外へ放出させながら缶内圧力を15.0kg/cm2で1.5時間保持した。その後1時間かけて缶内圧力を常圧に戻し、0.5L/minで窒素ガスを流しながら、260℃で1時間反応させ重合を完了した。その後、重合缶からポリマーをガット状に吐出してペレタイズし、これを80℃で24時間真空乾燥して、ηr=2.73、Tm=222℃のナイロン6を得た。
【0074】
参考例9(ポリペンタメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンアジパミド共重合体(ナイロン56/66共重合体)の製造)
参考例5で製造したペンタメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩の50重量%水溶液1200g(2.42mol)およびヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の等モル塩の50重量%水溶液300g(0.572mol)、ペンタメチレンジアミン4.59g(0.0449mol)を圧力容器に仕込んで密閉し、窒素置換した。加熱を開始して、缶内圧力が17.5kg/cmに到達した後、水分を系外へ放出させながら缶内圧力を17.5kg/cm2で1.5時間保持した。その後1時間かけて缶内圧力を常圧に戻し、更に−160mmHgの減圧下270℃で30分間反応させ重合を完了した。その後、重合缶からポリマーをガット状に吐出してペレタイズし、これを80℃で24時間真空乾燥して、ηr=2.76、Tm=243℃のポリペンタメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンアジパミド共重合体を得た。
【0075】
実施例1〜14、比較例1〜8、比較例14、15
参考例6、7で製造したポリアミド樹脂と無機充填材を、表1、表2に示す組成となるように配合して、プリブレンドした。これを、シリンダー温度270℃、スクリュー回転数250rpmに設定した二軸押出機(日本製鋼所製TEX30型)へ供給し溶融混練した。ただし、無機充填材としてガラス繊維を使用する場合のみ、ポリアミド樹脂をメインフィーダー、ガラス繊維をサイドフィーダーから投入し溶融混練した。また、ポリアミド樹脂単体においても、無機充填材配合処方と同様の熱履歴を与えるため、同条件で溶融混練した。押出されたガットはペレタイズした後、80℃で24時間真空乾燥した。ついで、種々の試験片を射出成形し、機械物性を評価した。結果を表1に示す。
【0076】
無機充填材は以下に示すものを用いた。
【0077】
タルク(LMS300(富士タルク工業社製)、粒子径:4.5μm)
カオリン(サチントンNo.5(BASF製)、粒子径:0.8μm)
アミノシラン処理カオリン(トランスリンク555(BASF製)、粒子径:0.8μm)
ワラストナイト(KAP−150(関西マテック社製)、粒子径:4.9μm)
ガラス繊維(T289(日本電気硝子社製)、繊維径13μm、繊維長3mmチョップドストランド)
実施例15、比較例16
表1,表2に示す組成で、シリンダー温度を240℃に変更する以外は、実施例1と全く同様の方法でポリアミド樹脂組成物を得た。
【0078】
比較例9〜13
表2に示す組成で、シリンダー温度を250℃に変更する以外は、実施例1と全く同様の方法でポリアミド樹脂組成物を得た。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
実施例1〜13と比較例1、2の比較から、無機充填材を特定量添加することで、降温結晶化温度(Tc)が上昇し、結晶化速度の指標となるTm−Tcが小さくなり、結晶化速度が速くなるとともに、曲げ弾性率、引張強度も向上する。
【0082】
比較例4〜6と比較例1の比較から、無機充填材として膨潤性層状珪酸塩を0.1重量部以上添加すると、Tcが低下することから、結晶化が遅延する。また、数%の添加で引張強度は頭打ちとなる。
【0083】
比較例1と比較例3の比較から、膨潤性層状珪酸塩の配合量が0.1重量部未満の場合には、結晶化速度の指標となるTm−Tcの変化はない。
【0084】
比較例6と比較例7の比較から、膨潤性層状珪酸塩とタルクを併用すると、Tcは向上するものの、引張強度は低下する。
【0085】
比較例8と比較例1の比較から、無機充填材としてガラス繊維を用いた場合には、Tcの上昇効果は見られず、表面外観は悪化する。
【0086】
比較例9〜11から、ポリアミド樹脂としてナイロン6を使用する場合には、無機充填材として、膨潤性層状珪酸塩を0.1重量部以上添加しても、Tcの上昇、弾性率、強度の向上が見られる。
【0087】
比較例9と比較例12の比較から、ポリアミド樹脂としてナイロン6を使用する場合には、タルクの添加により、Tcの上昇、弾性率、強度の向上が見られる。
【0088】
比較例9、10と比較例13の比較から、ナイロン6では、膨潤性層状珪酸塩とタルクを併用しても、強度は向上する。
【0089】
比較例14のナイロン56/66共重合体では、比較例1のナイロン56よりもTcは低下する。比較例15に示す通り、タルクを添加することによりTcは上昇する傾向にあるが、Tm−Tcは、実施例1のナイロン56を使用した場合に比べて、依然として大きく、結晶化は遅い。この共重合体は、ペンタメチレンジアミンとアジピン酸の総量が95重量%以下であり、この場合には、主成分となるナイロン56の結晶性、機械的特性を低下させる。
【0090】
実施例15と比較例16の比較から、ポリアミド樹脂としてナイロン510を使用した場合にも、Tcは上昇し、結晶化が促進されるとともに、曲げ弾性率、引張強度も向上する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ペンタメチレンジアミンと炭素数6以上のジカルボン酸を主要成分として含有するポリアミド樹脂100重量部に対し、(B)タルク、ワラストナイト、およびカオリンから選ばれる無機充填材の少なくとも1種0.1〜100重量部、膨潤性層状珪酸塩0.1重量部未満を配合してなるポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
膨潤性層状珪酸塩を配合しない請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
(B)無機充填材の平均粒子径が0.05〜10μmである請求項1または2記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項4】
有機官能基が導入された(B)無機充填材を配合してなる請求項1〜3いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、(C)無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水グルタコン酸、無水シトラコン酸、無水アコニット酸、およびポリ無水マレイン酸から選ばれた少なくとも1種を配合する請求項1〜4いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項6】
前記(A)ポリアミド樹脂の0.01g/mlの98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が、1.8〜3.8である請求項1〜5いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項7】
炭素数6以上のジカルボン酸がアジピン酸またはセバシン酸である請求項1〜6いずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。

【公開番号】特開2010−31179(P2010−31179A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196293(P2008−196293)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】