説明

ポリアリーレンスルフィド成分を有する多成分繊維

本発明は、露出外面を有し、ポリアリーレンスルフィドポリマーの少なくとも1つの第一成分と、ポリアリーレンスルフィドポリマーを含まない熱可塑性ポリマーの少なくとも1つの第二成分とを含む多成分繊維に関し、前記熱可塑性ポリマーが、多成分繊維の露出面全体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド成分を有する繊維、およびその繊維を含む製品に関する。
【背景技術】
【0002】
濾過プロセスは、流体流を濾過媒体に通過させて、一つの相の化合物を別の相の流体流から分離するために使われ、濾過媒体は、混入物もしくは懸濁物質を捕捉する。流体流は、固体粒子を含有する液体流でも、液体または固体エアロゾルを含有するガス流のいずれであってもよい。
【0003】
例えば、フィルターは、焼却炉、石炭焚きボイラー、金属溶解炉等から排出されるダストを捕集する際に使用される。このようなフィルターは、一般的に、「バグフィルター」と呼ばれる。排気ガス温度は、高くなりうるので、上記の装置や同様の装置から排出される高温ダストの捕集に使われるバグフィルターには、耐熱性が必要である。バグフィルターは、化学的腐食環境でも使用されうる。このように、ダストを捕集する環境でも、耐薬品性を呈する材料で作製されたフィルターバッグが必要でありうる。一般的な濾過媒体の例として、アラミド繊維、ポリイミド繊維、フッ素繊維およびガラス繊維で形成された布帛が挙げられる。
【0004】
ポリフェニレンスルフィド(PPS)ポリマーは、耐熱性および耐薬品性を呈する。このため、PPSポリマーは、様々な用途において有用でありうる。例えば、PPSは、自動車、電気および電子デバイス、工業/機械製品、消費者製品等のための成形部品の製造に有用でありうる。
【0005】
PPSは、濾過媒体、難燃性製品、および高性能の複合材料用の繊維としての用途が提案されてきている。しかしながら、上記のポリマーの利点にもかかわらず、PPSでの繊維の製造には、困難が伴う。
【0006】
PPSポリマーは、紡糸口金ノズルのオリフィスに粘着し易く、繊維の製造を中断させる要因となるので、連続的な工業用プロセスの条件下でPPS繊維を紡糸するのは、難しい。最終的に、ノズルが汚染されて、各々の紡糸口金孔、その紡糸口金表面に対処するため、あるいは紡糸口金全体を取り換えるために、装置の停止が必要となる。PPSが、金属表面に対して親和性を有することは公知である。この親和性は、PPSの不良な紡糸の根本的な原因であると考えられている。
【0007】
紡糸プロセスの最小限の中断で連続的に紡糸できるPPS繊維を作製できる溶融紡糸プロセスが、必要とされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリアリーレンスルフィド成分を有する多成分繊維を作製するための商業的に実現可能なプロセスを提供する。
【0009】
第一実施形態において、本発明は、露出外面を有し、ポリアリーレンスルフィドポリマーの少なくとも1つの第一成分と、ポリアリーレンスルフィドポリマーを含まない熱可塑性ポリマーの少なくとも1つの第二成分とを含む多成分繊維に関し、前記熱可塑性ポリマーは、多成分繊維の全露出面を形成する。
【0010】
本発明の他の実施形態において、多成分繊維は、二成分繊維もしくは海島繊維でありうる。
【0011】
このように、本発明は、一般的な用語で説明されてきたが、これから添付の図面を参照して説明される。図面は、必ずしも縮尺通りではない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の例示的な多成分繊維、すなわち、二成分繊維の横断面図である。
【図2】本発明の別の例示的な多成分繊維、すなわち、海島繊維の断面図である。
【図3】本発明の別の例示的な多成分繊維、すなわち、多葉断面繊維(multilobal fiber)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、添付の図面を参照して、以下でさらに十分に説明される。図面において、本発明の実施形態の全てではないが、幾つかの実施形態が示される。事実、これらの発明は、多くの異なる形で実施されてもよく、本明細書に記載される実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、むしろ、これらの実施形態は、この開示が適用可能な法的要件を満たすように、提供されている。同じ番号は全体を通して同様の要素を示す。
【0014】
背景技術で記した通り、PPSは、金属表面に対して親和性を有し、それは、PPSの不良な紡糸特性の根本的な原因であると考えられる。しかしながら、多成分繊維のポリアリーレンスルフィド成分の全露出面の周りに、ポリアリーレンスルフィドを含まない熱可塑性ポリマー第二成分を共紡糸することにより、紡糸口金ノズルの詰まりは最小限に抑えられ、それにより、紡糸口金を交換するまでの繊維の紡糸時間が延び、実行可能な工業用の紡糸プロセスが実現することが、見出された。さらに、多成分繊維のポリアリーレンスルフィド成分の全露出面の周りの、ポリアリーレンスルフィドを含まない熱可塑性ポリマーの量を最小にすることにより、意外にも、多成分繊維は、ポリアリーレンスルフィド単成分繊維と同様な有用な耐薬品性や難燃性を依然として呈することが見出された。
【0015】
本明細書で用いる用語「多成分繊維」には、領域が分散されているかランダムであるかもしくは構造化されてない傾向があるブレンドとは対照的に、繊維中の別々の構造化された領域に存在する2種以上のポリマーから調製されるステープル繊維および連続フィラメントが含まれる。2種以上の構造化された高分子成分は、多成分繊維の断面を横切る実質的に一定に位置する、異なるゾーンに配置され、また多成分繊維の長さに沿って連続的に延在する。
【0016】
あくまでも例示の目的で、本発明は、一般的に、2種の成分を含む二成分繊維の観点から説明される。しかしながら、本発明の範囲は、2種以上の構造化された成分を有する繊維を含むことを意味すると理解されるべきである。
【0017】
図1は、本発明において有用である例示的な繊維の形状の横断面図である。図1は、内側の芯ポリマー領域12と周囲の鞘ポリマー領域14とを有する二成分繊維10を示す。鞘成分14は、ポリアリーレンスルフィドポリマーを含まない熱可塑性ポリマーで形成される。芯成分12は、ポリアリーレンスルフィドポリマーで形成される。本発明において、鞘14は、連続的であり、例えば、芯12を完全に取り囲み、そして繊維10の全外面を形成する。芯12は、図1に示す通り、同心であってよい。あるいは、以下にさらに詳細に説明する通り、芯は、偏心であってもよい。さらに、プロセスの変動性が原因で、鞘の僅かな部分にポリアリーレンスルフィドポリマーが接触する場合があることを認識すべきであるが、紡糸能力に最小限の影響があるだけであろうと考えられている。いずれにせよ、鞘が、ポリアリーレンスルフィドポリマーをほとんど含有しないのが望ましい。
【0018】
ポリアリーレンスルフィドポリマーを含まない熱可塑性ポリマーが繊維の全露出外面を形成する限り、当該技術分野で公知である他の構造化された繊維の形状も、また使用されうる。一例として、別の適切な多成分繊維の構造は、「海島」配置を含む。図2は、上記の海島繊維20の断面図を示す。一般的に、海島繊維は、複数の「島」ポリマー成分24を取り囲む「海」ポリマー成分22を含む。島成分は、図2に示すように、海成分22のマトリックス内に実質的に均等に配置されうる。あるいは、島成分は、海マトリックス内にランダムに分布されうる。
【0019】
海成分22は、繊維の全外露出面を形成し、かつポリアリーレンスルフィドポリマーを含まない熱可塑性ポリマーで形成される。鞘芯二成分繊維10の芯成分12と同様に、島成分24は、ポリアリーレンスルフィドポリマーで形成される。海島繊維は、芯26も含んでもよく、芯26は、図示されるように同心であっても、以下に説明されるように偏心であってもよい。芯26(存在する場合)は、任意の適切な繊維形成ポリマーで形成される。
【0020】
本発明の繊維は、それらの中心部分から外側に伸びる3つ以上の腕部(arms)または葉部(lobes)を有する多葉断面繊維も含む。図3は、本発明の代表的な多葉断面繊維30の断面図である。繊維30は、中心の芯32とそれらから外側に伸びる腕部または葉部34とを含む。腕部または葉部34は、ポリアリーレンスルフィドポリマーを含まない熱可塑性ポリマーで形成され、かつ中心の芯32は、ポリアリーレンスルフィドポリマーで形成される。中心に位置する芯として図3に示しているが、芯は偏心であってもよい。
【0021】
繊維の全露出外面がポリアリーレンスルフィドポリマーを含まない熱可塑性ポリマーで形成される限り、上記のまたは他の多成分繊維構造のいずれかを用いてもよい。
【0022】
合成繊維の製造に典型的に使用される装置は、通常、ほぼ円形の断面を有する繊維を製造するので、繊維の断面が、円形であるのが好ましい。円形断面を有する二成分繊維において、第一および第二成分の形状は、同心形状もしくは中心のない形状のどちらかでありうる。後者の形状は、場合により、「変形サイドバイサイド」もしくは「偏心」多成分繊維として知られている。
【0023】
有利なことに、本発明の鞘/芯繊維は、同心繊維であり、それ自体、一般的に、非自己捲縮(non−self crimping)または非潜在捲縮性繊維であろう。同心形状は、実質的に均一な厚さを有する鞘成分を特徴とし、図1に示すように、芯成分が、ほぼ繊維の中心にある。これは、偏心形状とは対照的であり、偏心形状では、鞘成分の厚さが異なり、それゆえ、芯成分が、繊維の中心に存在しない。同心の鞘/芯繊維は、鞘成分の中心から、鞘/芯の二成分繊維の直径を基準として、芯成分の中心が約0〜約20パーセント以下、好ましくは約0〜約10パーセント以下だけ中心が偏っている繊維であると定義できる。
【0024】
本発明の海島および多葉断面繊維は、図2および3にそれぞれ示される芯26と32のような、繊維構造内の実質的に中心に位置する同心の芯成分を含んでもよい。あるいは、追加の高分子成分は、周囲のポリアリーレンスルフィドポリマーを含まない熱可塑性ポリマー成分の厚さが、繊維の断面を横切って異なるように、偏心に位置させうる。
【0025】
任意の追加の高分子成分は、図1、2および3にそれぞれ示される成分12、24および32のような、ほぼ円形の断面を有しうる。あるいは、本発明の繊維の任意の追加の高分子成分は、非円形断面を有しうる。
【0026】
ポリアリーレンスルフィドには、アリーレンスルフィド単位を含む直鎖、分岐もしくは架橋ポリマーが含まれる。ポリアリーレンスルフィドポリマーおよびそれらの合成は、当該技術分野で公知であり、上記のポリマーは、市販されている。
【0027】
本発明において有用な例示的なポリアリーレンスルフィドとして、式−[(Ar1n−X]m−[(Ar2i−Y]j−(Ar3)k−Z]l−[(Ar4o−W]p−[式中、Ar1、Ar2、Ar3、およびAr4は、同一かもしくは異なり、炭素原子6〜18個のアリーレン単位であり、W、X、YおよびZは、同一かもしくは異なり、−SO2−、−S−、−SO−、−CO−、−O−、−COO−または炭素原子1〜6個のアルキレンもしくはアルキリデン基から選択される二価結合基であり(二価結合基のうち少なくとも1つは、−S−である)、n、m、i、j、k、l、o、およびpは、それらの合計が2以上であることを条件として、独立して0または1、2、3、あるいは4である]の繰り返し単位を含有するポリアリーレンチオエーテルが挙げられる。アリーレン単位Ar1、Ar2、Ar3、およびAr4は、選択的に、置換でも非置換でもよい。有利なアリーレン系は、フェニレン、ビフェニレン、ナフチレン、アントラセンおよびフェナントレンである。ポリアリーレンスルフィドは、典型的に、少なくとも30モル%、特に少なくとも50モル%、さらに特に少なくとも70モル%のアリーレンスルフィド(−S−)単位を含む。好ましくは、ポリアリーレンスルフィドポリマーは、2個の芳香環に直接結合した少なくとも85モル%のスルフィド結合を含む。有利なことに、ポリアリーレンスルフィドポリマーは、ポリフェニレンスルフィド(PPS)であり、それらの成分として、フェニレンスルフィド構造−(C64−S)n−[式中、nは1以上の整数である]を含有すると本明細書で定義される。
【0028】
少なくとも1種の他の高分子成分は、ポリエステル、ポリアミドまたはポリオレフィンポリマーを含む。例示的なポリエステルとして、芳香族ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート)、脂肪族ポリエステル(例、ポリ乳酸)、およびそれらの混合物(これらに限定されない)が挙げられる。例示的なポリアミドとして、ナイロン6およびナイロン6,6が挙げられる。例示的なポリオレフィンとして、ポリプロピレン、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖の低密度ポリエチレン)、およびポリブテン、ならびにそれらのコポリマーおよびターポリマー、およびそれらの混合物(これらに限定されない)が挙げられる。
【0029】
ポリマーの混合物を用いてもよいが、少なくとも1種の他の高分子成分は、上記に定義する通り、ポリアリーレンスルフィドポリマーを含まない。このことにより、製造コストおよび複雑性が低減されうる。さらに意外なことに、芯の高分子成分のポリアリーレンスルフィドポリマーと同一でなく化学的にも類似していないポリマーが存在するにもかかわらず、本発明の繊維は、下流プロセスに対して十分な一体性を呈する。
【0030】
本発明の一実施形態において、繊維形成ポリマーは、脂肪族ポリエステルポリマー(例、ポリ乳酸(PLA))であってよい。本発明において有用でありうる脂肪族ポリエステルのさらなる例として、(1)脂肪族グリコール(例、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオールまたはデカンジオール)もしくはエチレングリコールのオリゴマー(例、ジエチレングリコールまたはトリエチレングリコール)と脂肪族ジカルボン酸(例、コハク酸、アジピン酸、ヘキサンジカルボン酸またはデカンジカルボン酸)との組み合わせ、あるいは(2)ポリ乳酸以外のヒドロキシカルボン酸の自己縮合物、(例、ポリヒドロキシブチラート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサンアジペート)、およびそれらを含有するコポリマーから形成される繊維形成ポリマー(これらに限定されない)が挙げられる。脂肪族ポリエステルは、当該技術分野で公知であり、市販されている。
【0031】
本発明の別の有利な実施形態において、本発明の繊維の繊維形成成分は、芳香族ポリエステルポリマーを含みうる。熱可塑性芳香族ポリマーとして、(1)2〜10個の炭素原子を有するアルキレングリコールと芳香族二酸のポリエステル、(2)2,6−ナフタレンジカルボン酸とアルキレングリコールのポリエステルであるポリアルキレンナフタレート(例えば、ポリエチレンナフタレート)および(3)1,4−シクロヘキサンジメタノールとテレフタル酸とから誘導されるポリエステル(例えば、ポリシクロヘキサンテレフタレート)が挙げられる。ポリアルキレンテレフタレート、殊にポリエチレンテレフタレート(PET)とポリブチレンテレフタレートは、様々な用途に特に有用である。上記のポリエステルは、当該技術分野で公知であり、市販されている。
【0032】
本発明の繊維の各々の高分子成分の重量比は、異なりうる。例えば、高分子成分の重量比は、約5:95〜約95:5の範囲でありうる。繊維の露出面に最小量のポリアリーレンスルフィドポリマーを含まない熱可塑性ポリマーを使用することにより、繊維の所望の特性(例、耐薬品性および耐熱性)への悪影響を最小限に抑えるのは、本発明の繊維の一つの利点である。この点で、ポリアリーレンスルフィド成分を含まない熱可塑性ポリマーは、繊維の総重量の約30重量%未満、さらに有利には繊維の総重量の約20重量%未満、最も有利には繊維の総重量の約10重量%未満を含む。繊維の最終用途に対して、ポリアリーレンスルフィド単成分繊維に非常に近い繊維性能が望まれるので、繊維中の表面のポリアリーレンスルフィドポリマー成分を含まない熱可塑性ポリマーは、できる限り最小限に抑えられるのが望ましい。
【0033】
ポリマーは、それらの所望の特性に悪影響を与えない他の成分を含んでもよい。追加の成分として使用されうる例示的な材料として、抗菌薬、顔料、酸化防止剤、安定剤、界面活性剤、ワックス、流れ促進剤、固体溶剤、微粒子物質、および第一および第二成分の加工性を高めるように添加される他の材料(これらに限定されない)が挙げられる。上記および他の添加物は、通常量で使用することができる。
【0034】
多成分繊維を作製する方法は、周知であるので、本明細書に詳細に説明する必要はない。一般的に、本発明の多成分繊維は、従来型の多成分紡織繊維の紡糸プロセスおよび装置を用いて、また当該技術分野で公知である機械的延伸法を利用して、調製される。ポリアリーレンスルフィドポリマーの溶融押出および繊維形成のためのプロセス条件は、当該技術分野で公知であり、本発明においても採用されてもよい。繊維中の追加のポリマー成分に有用な他の繊維形成ポリマーの溶融押出および繊維形成のためのプロセス条件は、当該技術分野で公知であり、本発明においても採用されてもよい。
【0035】
本発明の多成分繊維を形成するために、少なくとも2種のポリマー、すなわちポリアリーレンスルフィドポリマーと少なくとも1種の追加の繊維形成ポリマーが、別々に溶融押出され、ポリマー配分系に供給され、そこで、ポリマーが、紡糸口金板内に導入される。ポリマーは、繊維紡糸口金まで別々の経路をたどり、紡糸口金の孔で一体化される。紡糸口金は、押出物が所望の形状を有するように形づくられている。
【0036】
ダイを介して押出された後、結果として生じる薄い流体ストランドまたはフィラメントは、それらが周囲の流体媒体中で冷却されることによって凝固する前までは、溶融状態のままであり、その冷却は、ストランドを介しての冷却空気の吹き付けでも、または液体(例、水)の浴中での液浸でもよい。一度凝固したら、フィラメントは、ゴデットもしくは別の巻取り面上で巻取られる。連続フィラメントプロセスにおいて、ストランドは、巻取りゴデットの速度に比例して、薄い流体流を引き落とすゴデットに巻取られる。ジェットプロセスにおいて、ストランドは、ジェット(例えば、エアガンなど)に捕集され、ローラーまたは移動ベルトなどの巻取り面上に吹き込まれ、スパンボンドウェブを形成する。メルトブローンプロセスにおいて、空気が、紡糸口金の表面に吐出され、それは、薄い流体流が冷却用空気の経路で巻取り面上に析出するように、薄い流体流を同時に引き落として冷却する役目を果たし、それにより、繊維ウェブを形成する。
【0037】
使用する溶融紡糸処理法のタイプにかかわらず、薄い流体流は、溶融状態で、すなわち、凝固が起こり良好な靭性を与えるようにポリマー分子が延伸配向される前に、溶融引き落としされる。当該技術分野で公知の典型的な溶融引き落とし比(melt draw down ratios)を使用してもよい。連続フィラメントまたはステープルプロセスを用いる場合、従来型の延伸装置(例えば、差速度で作動する逐次ゴデット(sequential godet))用いて、固体状態でストランドを延伸するのが望ましい。
【0038】
固体状態で延伸した後、連続フィラメントは、捲縮または織地化(texturized)されて、所望の繊維長さに切断されてもよく、それによって、ステープル繊維が製造される。ステープル繊維の長さは、一般的に、約25〜約50ミリメートルの範囲であるが、繊維は、所望に応じてそれより長くても短くてもよい。
【0039】
本発明の繊維は、不織構造(これらに限定されない)を含む多種多様な製品(例、カードウェブ、湿式堆積ウェブ、乾式堆積ウェブ、スパンボンドウェブ、メルトブローンウェブ等)(これらに限定されない)の製造に有用である。本発明の繊維は、他の紡織構造(例、織布および編布)(これらに限定されない)を作製するのにも使用されうる。本発明の繊維以外の繊維が、当該技術分野で公知の種々の合成および/または天然繊維を含め、それから製造される製品に存在してもよい。例示的な合成繊維として、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、アクリル、レーヨン、セルロースアセテート、熱可塑性多成分繊維(例、従来の鞘/芯繊維、例えばポリエチレン鞘/ポリエステル芯繊維)等およびそれらの混合物が挙げられる。例示的な天然繊維として、ウール、綿、木材パルプ繊維等およびそれらの混合物が挙げられる。
【0040】
本発明の特に有利な一態様において、繊維は、濾過媒体を製造するために使用される。本実施形態において、本発明の繊維は、良好な耐熱性と耐薬品性を呈しうる。繊維は、良好な可撓性や引張強さも呈することが可能であり、腐蝕および/または高温環境において使用される製品を製造するために処理されうる。例えば、本発明の繊維は、容易に加工されることができ、焼却炉、石炭焚きボイラー、金属溶解炉等により発生する高温ダストを捕集するための濾過媒体(例、バグフィルターまたはバグハウスフィルター)として使用する製品を製造することが可能である。本発明の繊維の別の使用は、熱油変圧器用の絶縁体の製造である。
【0041】
試験方法
研究の基準として、燃焼性試験(NFPA−702−1980)を用いた。この試験は、主に衣類を対象とし、衣類を発火源に接触した場合の材料の難燃性を測定する。45度の角度で取り付けた6.4×15.2cmの試験片の下端部に規準の火災を衝突させる。試験方法を修正して、試料に着火するまで、接災にした。着火時間と総燃焼時間を秒で測定した。燃焼長をcmで記録した。
【実施例】
【0042】
本発明は、以下の実施例(これに限定されない)によって、さらに例示される。
【0043】
比較例A
本比較例において、ポリフェニレンスルフィド成分から二成分スパンボンド布を作製した。ポリフェニレンスルフィド成分は、1200s-1、温度316℃で、1700ポアズの公称溶融粘度(nominal melt viscosity)を有する。その樹脂は、Fortron PPS 0317 C1として、Ticonaから入手可能である。ポリフェニレンスルフィド樹脂を、温度115℃で、含水量150ppm未満まで通気乾燥機内で乾燥した。ポリマーを別々の押出機内で295℃まで加熱した。ポリマー流を紡糸パックアセンブリ(spin−pack assembly)に計量供給し、そこで、2種の溶融流を、別々に濾過した後、分配板の束を介して合わせて、鞘/芯断面を有する複数列のスパンボンド繊維が提供された。PPS成分は、鞘成分と芯成分の両方を含んでいた。
【0044】
紡糸パックアセンブリは、4316本の円形毛細管開孔(155列、毛細管の数が22本〜28本まで異なる)で構成した。各毛細管は、0.35mmの直径と140mmの長さを有する。MD方向のパックの幅は、18.02cmであり、横方向の幅は、115.09cmであった。紡糸パックアセンブリを295℃まで加熱し、1.0g/孔/分のポリマー流量で各毛細管を介してポリマーを紡糸した。繊維を長さ122cmにわたって延在する直交流のクエンチ(cross flow quench)内で冷却した。短形スロットジェットによって、繊維の束に減衰力を提供した。紡糸パックからジェットの入口までの距離は、83.82cmであった。ジェットから出る繊維を成形ベルト上に捕集した。ベルトの下を減圧して、繊維をベルトに固定させた。その後、エンボス加工ロールとアンビルロールの間でスパンボンド層を熱結合した。結合条件は、ロール温度148℃、ニップ圧300PLIであった。熱結合した後、巻取機を用いて、スパンボンドシートをロール状に成形した。
【0045】
比較例Aを製造する試みは、非常な困難を伴った。開始数分内に、初期に形成した全ての残渣を取り除くために、紡糸口金の表面をスクラップする必要がある場合もあった。1時間単位で紡糸口金のスクラップを何度も繰り返した。シート中の非減衰(un−attenuated)ポリマー、繊維材料および非繊維材料によるジェットの障害、および溶融ポリマーによる成形ベルトの汚染の存在は、多く観察される紡糸の欠陥の典型であり、それは、結果として、汚染された紡糸口金表面に対処するために、プロセスのオフラインを導いた。これらの欠陥の多くが、接合巻きつけ(bonder wraps)やシートの破断を招き、プロセスをオフラインにして対処する必要があることもあった。
【0046】
難燃性の性能データを表に示す。
【0047】
実施例1
本実施例において、繊維が、ポリ(エチレンテレフタレート)成分とポリフェニレンスルフィド成分からなることを除いて、比較例Aに記載したように二成分スパンボンド布を調製した。ポリエステル成分は、固有粘度0.53dl/gを有し、Crystar(登録商標)ポリエステル(Merge 4415)としてDuPontから入手可能である。ポリフェニレンスルフィド成分は、1200s-1、温度316℃で、公称溶融粘度1700ポアズを有する。樹脂は、Fortron PPS 0317 C1として、Ticonaから入手可能である。ポリエステル樹脂を、温度120℃で、含水量が50ppm未満まで通気乾燥機内で乾燥した。ポリフェニレンスルフィド樹脂を、温度115℃で、含水量が150ppm未満まで通気乾燥機内で乾燥した。ポリマーを別々の押出機内で加熱した。ポリエステルを290℃まで加熱し、ポリフェニレンスルフィド樹脂を295℃まで加熱した。2種のポリマーを紡糸パックアセンブリに計量供給し、そこで、2種の溶融流を、別々に濾過した後、分配板の束を介して合わせて、鞘/芯断面を有する複数列のスパンボンド繊維が提供された。PPS成分は、芯を含み、PET成分は、鞘を含む。ポリエステル成分は、スパンボンド繊維の10重量%を構成した。
【0048】
欠陥のない紡糸プロセスを維持し、実施例1を調製した。実際に、プロセス条件を実施例1に定めると、プロセスは、停止の必要もオペレーターの関与の必要もなく、3時間を超えて稼働した。必要な製品が生産されると、実施例1の製造を中止した。その期間中ずっと、紡糸口金表面は、汚染されずモノマー残渣もないことが判明した。
【0049】
難燃性の性能データを表に示す。
【0050】
実施例2
PET成分が15%であることを除いて、実施例1と同様に、実施例2を調製した。
【0051】
欠陥のない紡糸プロセスを維持して、実施例2を調製した。プロセスは、停止の必要もオペレーターの関与の必要もなく、3時間を超えて稼働した。必要な製品が生産されると、実施例2の製造を中止した。その期間中ずっと、紡糸口金表面は、汚染されずモノマー残渣もないことが判明した。
【0052】
難燃性の性能データを表に示す。
【0053】
実施例3
PET成分が20%であることを除いて、実施例1と同様に、実施例3を調製した。
【0054】
欠陥のない紡糸プロセスを維持して、実施例3を調製した。プロセスは、停止の必要もオペレーターの関与の必要もなく、3時間を超えて稼働した。必要な製品が生産されると、実施例3の製造を中止した。単独に、実施例3に関連するプロセスの連続性を立証するように努めた。プロセスをオンラインにし、中断することなく、7時間を超える稼働を可能にした。紡糸口金表面の検査から、紡糸口金表面は実質的に汚染されずモノマー残渣もないことが明らかになった。
【0055】
難燃性の性能データを表に示す。
【0056】
実施例4
PET成分が25%であることを除いて、実施例1と同様に、実施例4を調製した。
【0057】
欠陥のない紡糸プロセスを維持して、実施例4を調製した。プロセスは、停止の必要もオペレーターの関与の必要もなく、3時間を超えて稼働した。必要な製品が生産されると、実施例4の製造を中止した。その期間中ずっと、紡糸口金表面は、汚染されずモノマー残渣もないことが判明した。
【0058】
難燃性の性能データを表に示す。
【0059】
実施例5
PET成分が50%であることを除いて、実施例1と同様に、実施例5を調製した。
【0060】
欠陥のない紡糸プロセスを維持して、実施例5を調製した。プロセスは、停止の必要もオペレーターの関与の必要もなく、3時間を超えて稼働した。必要な製品が生産されると、実施例5の製造を中止した。その期間中ずっと、紡糸口金表面は、汚染されずモノマー残渣もないことが判明した。
【0061】
難燃性の性能データを表に示す。
【0062】
実施例6
PET成分が75%であることを除いて、実施例1と同様に、実施例6を調製した。
【0063】
欠陥のない紡糸プロセスを維持して、実施例6を調製した。プロセスは、停止の必要もオペレーターの関与の必要もなく、3時間を超えて稼働した。必要な製品が生産されると、実施例6の製造を中止した。その期間中ずっと、紡糸口金表面は、汚染されずモノマー残渣もないことが判明した。
【0064】
難燃性の性能データを表に示す。
【0065】
理論に縛られることを意図しないが、鞘を構成するPETを有する紡糸パックアセンブリの金属表面からPPS溶融物を分離することにより、PPS残渣の毛細管の出口端および紡糸口金の表面上での増加を回避したと考えられる。これにより、PPS単成分のスパンボンド繊維を超える鞘/芯のPET/PPSスパンボンド繊維を作製するために、紡糸プロセスが、オペレーターの関与もプロセス停止もなく、非常に長時間稼働できるようになる。
【0066】

【0067】
これらの難燃性の性能データは、ポリエステル成分の露出面を有する二成分繊維が、殊に、露出したPET鞘成分が繊維総重量の僅かな割合に相当する場合、PPS100%の繊維の特性に事実上類似した特性を有することを示す。
【0068】
本明細書に記載した本発明の多くの変更形態および他の実施形態は、当業者ならば、これらの発明が、前述の説明および添付の図面に示される教示の利点を有することに関連すると理解するだろう。したがって、本発明は、開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、変形形態およびその他の実施形態も、添付の特許請求の範囲内に含まれることを意図すると理解するべきである。特定の用語を本明細書で使用するが、それらは、一般的で説明的意味においてのみ使用され、限定する意図はない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
露出外面を有する多成分繊維であって、
ポリアリーレンスルフィドポリマーの少なくとも1つの第一成分と、
ポリアリーレンスルフィドポリマーを含まない熱可塑性ポリマーの少なくとも1つの第二成分とを含み、前記熱可塑性ポリマーが、前記多成分繊維の露出面全体を形成する繊維。
【請求項2】
前記ポリアリーレンスルフィドポリマーが、ポリフェニレンスルフィドである請求項1に記載の繊維。
【請求項3】
前記熱可塑性ポリマーが、ポリエステル、ポリアミドおよびポリオレフィンからなる群から選択される請求項1に記載の繊維。
【請求項4】
前記ポリエステルが、芳香族ポリエステル、脂肪族ポリエステル、およびそれらの混合物からなる群から選択される請求項1に記載の繊維。
【請求項5】
前記芳香族ポリエステルが、ポリアルキレンテレフタレート、ポリアルキレンナフタレート、シクロヘキサンジメタノールとテレフタル酸とから誘導されるポリエステル、およびそれらの混合物からなる群から選択される請求項4に記載の繊維。
【請求項6】
前記芳香族ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリシクロヘキサンテレフタレート、およびそれらの混合物からなる群から選択される請求項5に記載の繊維。
【請求項7】
前記芳香族ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレートである請求項6に記載の繊維。
【請求項8】
前記ポリエステルが、脂肪族ポリエステルである請求項4に記載の繊維。
【請求項9】
前記脂肪族ポリエステルが、ポリ乳酸である請求項8に記載の繊維。
【請求項10】
前記ポリアミドが、ナイロン6、ナイロン6,6、それらの混合物およびそれらのコポリマーからなる群から選択される請求項3に記載の繊維。
【請求項11】
前記ポリオレフィンが、ポリプロピレン、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、ポリブテン、それらの混合物およびそれらのコポリマーからなる群から選択される請求項3に記載の繊維。
【請求項12】
前記第二成分が、前記繊維の総重量の約30重量%未満を含む請求項1に記載の繊維。
【請求項13】
前記繊維が、多葉断面を有する請求項1に記載の繊維。
【請求項14】
前記繊維が、連続フィラメントまたはステープル繊維である請求項1に記載の繊維。
【請求項15】
前記繊維が、スパンボンド繊維またはメルトブローン繊維である請求項1に記載の繊維。
【請求項16】
前記繊維が、鞘成分と芯成分を含む二成分繊維であり、前記鞘成分が、前記繊維の全露出外面を形成し、かつ前記ポリアリーレンスルフィドポリマーを含まない熱可塑性ポリマーを含み、および前記芯成分が、ポリアリーレンスルフィドポリマーを含む請求項1に記載の繊維。
【請求項17】
前記二成分繊維が、同心鞘/芯断面または偏心鞘/芯断面を有する請求項16に記載の繊維。
【請求項18】
前記繊維が、海成分と前記海成分内に分布される複数の島成分を含む海島繊維であり、前記海成分が、前記繊維の全露出外面を形成し、かつ前記ポリアリーレンスルフィドポリマーを含まない熱可塑性ポリマーを含み、および前記複数の島成分が、ポリアリーレンスルフィドポリマーを含む請求項1に記載の繊維。
【請求項19】
請求項1に記載の繊維を含むウェブ。
【請求項20】
前記ウェブが、織材料または不織材料を含む請求項26に記載のウェブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−506790(P2011−506790A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538135(P2010−538135)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/086264
【国際公開番号】WO2009/076459
【国際公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】