説明

ポリイソシアネートの製造方法

【課題】エネルギー消費を低減しつつ未精製ポリイソシアネートを精製できながら、着色が少なく酸度の低い製品ポリイソシアネートを製造することのできる、ポリイソシアネートの製造方法を提供すること。
【解決手段】未精製ポリイソシアネートを精製する精製工程を含むポリイソシアネートの製造方法において、精製工程は、未精製ポリイソシアネートからタール成分を除去するタール成分除去工程と、タール成分が除去された未精製ポリイソシアネートを、仕切壁蒸留塔により蒸留する蒸留工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイソシアネートの製造方法に関し、詳しくは、未精製ポリイソシアネートを精製する精製工程を含むポリイソシアネートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイソシアネートは、ポリウレタンの原料として用いられ、工業的には、例えば、ポリアミンと塩化カルボニルとを、溶媒下、反応させることにより、製造されている。
ポリイソシアネートの製造プラントでは、まず、溶媒回収槽において、上記反応により得られる反応液から溶媒を除去して未精製ポリイソシアネートを抜き出し、次いで、蒸留塔において、未精製ポリイソシアネートからタール成分を除去することにより、未精製ポリイソシアネートを精製している(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
タール成分が除去された未精製ポリイソシアネート(以下、粗ポリイソシアネートとする。)は、さらに蒸留塔において、低沸点不純物および高沸点不純物が除去され、製品ポリイソシアネートとして抜き出される。
【特許文献1】特開2006−281083号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかるに、製品ポリイソシアネートには、色相(着色)や酸度などの品質が要求される。一方、粗ポリイソシアネートを蒸留する場合、蒸留方式は、2塔方式または1塔方式(サイドカット方式)から選択される。
2塔方式では、まず、1段目の蒸留塔において、塔頂から低沸点不純物が留去され、塔底から高沸点不純物を含む粗ポリイソシアネートが抜き出され、次いで、2段目の蒸留塔において、塔底から高沸点不純物が留去され、塔頂から製品ポリイソシアネートが抜き出される。
【0005】
2塔方式では、蒸留塔が2塔であるため、エネルギー消費が多大となる。また、製品ポリイソシアネートの品質に関し、着色は少ないものの、酸度が高いという不具合がある。
一方、1塔方式では、蒸留塔において、塔頂から低沸点不純物を留去し、塔底から高沸点不純物を留去し、塔中間から製品ポリイソシアネートが抜き出される。
1塔方式では、蒸留塔が1塔であるため、2塔方式に比べてエネルギー消費を低減できるが、製品ポリイソシアネートの品質に関し、着色が多く、酸度も高いという不具合がある。
【0006】
本発明の目的は、エネルギー消費を低減しつつ未精製ポリイソシアネートを精製できながら、着色が少なく酸度の低い製品ポリイソシアネートを製造することのできる、ポリイソシアネートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明のポリイソシアネートの製造方法は、未精製ポリイソシアネートを精製する精製工程を含むポリイソシアネートの製造方法において、前記精製工程は、未精製ポリイソシアネートからタール成分を除去するタール成分除去工程と、タール成分が除去された未精製ポリイソシアネートを、仕切壁蒸留塔により蒸留する蒸留工程とを備えていることを特徴としている。
【0008】
本発明のポリイソシアネートの製造方法では、前記精製工程は、前記タール成分除去工程の前工程として、溶媒および未精製ポリイソシアネートを含む反応液から溶媒を除去する溶媒除去工程を備えていることが好適である。
本発明のポリイソシアネートの製造方法では、前記蒸留工程後に得られる製品ポリイソシアネートの酸度が、50ppm以下であることが好適である。
【0009】
本発明のポリイソシアネートの製造方法では、前記蒸留工程では、ポリイソシアネートの抜出温度が、100〜200℃であることが好適である。
本発明のポリイソシアネートの製造方法では、前記精製工程は、前記蒸留工程の後工程として、蒸留により抜き出したポリイソシアネートを冷却する冷却工程を備え、前記蒸留工程から前記冷却工程に至る滞留時間が、30分以内であることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリイソシアネートの製造方法によれば、タール成分除去工程において、未精製ポリイソシアネートからタール成分を除去し、次いで、蒸留工程において、タール成分が除去された未精製ポリイソシアネートを、仕切壁蒸留塔により蒸留する。
蒸留工程においては、仕切壁蒸留塔により蒸留するので、2塔方式に比べてエネルギー消費を低減することができる。
【0011】
また、既にタール成分が除去されている未精製ポリイソシアネートを、仕切壁蒸留塔により蒸留すれば、着色が少なく酸度の低い製品ポリイソシアネートを抜き出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、本発明のポリイソシアネートの製造方法に用いられる精製システムの一実施形態を示す概略構成図である。以下、この精製システム1を参照して、本発明のポリイソシアネートの製造方法の一実施形態を説明する。
図1において、精製システム1は、ポリイソシアネートの製造プラントにおいて、ポリイソシアネートを製造する製造工程の、次の工程において、未精製ポリイソシアネートを精製する精製工程のために設備されている。
【0013】
精製システム1は、脱溶媒装置2、脱タール装置3および精製装置4を備えている。
脱溶媒装置2は、反応液を溶媒と未精製ポリイソシアネートとに分離できれば、特に制限されないが、例えば、蒸留塔5から構成される。蒸留塔5は、単蒸留塔でもよく、必要な理論段数で設計される棚段塔や充填塔でもよく、また、図示しないが、通常、塔底にリボイラを備え、塔頂にコンデンサを備えている。
【0014】
蒸留塔5の中段(中間部)には、供給管6が接続されており、蒸留塔5の塔頂には、留出液抜出管7の上流側端部が接続されており、蒸留塔5の塔底には、缶出液抜出管8の上流側端部が接続されている。なお、留出液抜出管7の下流側端部は、ドレインとされるか、あるいは、点線で示すように、ポリイソシアネートの製造工程へ戻される。
蒸留塔5には、供給管6から反応液が供給される。反応液は、ポリイソシアネートの製造工程において、例えば、塩化カルボニルとポリアミンとの反応により製造されるポリイソシアネート、および、その反応に用いられる溶媒を含んでいる。反応液は、好ましくは、反応後に余剰の塩化カルボニルや副生する塩化水素ガスが、オフガスとして除去されており、具体的には、ポリイソシアネートが5〜40重量%、溶媒が60〜95重量%の割合で含まれており、さらに、塩化カルボニル、塩化水素、タール成分および不純物などがそれぞれ少量含まれている。
【0015】
ポリイソシアネートは、製造プラントに対応して異なるが、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート(MDI)などの芳香族ジイソシアネート、例えば、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香脂肪族ジイソシアネート、例えば、ビス(イソシアナトメチル)ノルボルナン(NBDI)、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)、4,4'−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)(H12MDI)、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(HXDI)などの脂環族ジイソシアネート、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などの脂肪族ジイソシアネート、および、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(クルードMDI、ポリメリックMDI)などが挙げられる。
【0016】
溶媒は、塩化カルボニル、ポリアミンおよびポリイソシアネートに対して不活性な有機溶媒であり、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、例えば、クロロトルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素類、例えば、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル類、例えば、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などが挙げられる。好ましくは、クロロベンゼンまたはジクロロベンゼンが挙げられる。
【0017】
タール成分は、高分子量化ポリイソシアネートを主成分とするポリイソシアネート残渣であって、ポリイソシアネートのダイマー、トリマーまたはそれ以上の多量体、あるいは、カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトンイミンなどが含まれる。
そして、蒸留塔5内には、供給管6から反応液が連続的に供給される。蒸留塔5内は、その塔底がリボイラ(図示せず。)によって加熱(例えば、150〜200℃)され、反応液が沸騰するように減圧(例えば、5〜20kPa)される。蒸留塔5内の塔底温度および減圧度は、反応液に含まれるポリイソシアネートや溶媒の種類・濃度、缶出液中のポリイソシアネートの所望濃度、さらには、蒸留塔5の形式・能力などの要因を総合的に判断して、適宜、上記範囲から選択される。
【0018】
蒸留塔5の塔底においては、ポリイソシアネートやタール成分に富む未精製ポリイソシアネートが、缶出液として抜き出され、缶出液抜出管8へ連続的に流出される。
蒸留塔5の塔頂においては、溶媒や、塩化水素および塩化カルボニルなどの塩素含有ガスが、留出液として抜き出され、留出液抜出管7から連続的に流出される。
つまり、脱溶媒装置2では、反応液から溶媒が除去されて、未精製ポリイソシアネートが、缶出液として抜き出される(溶媒除去工程)。
【0019】
なお、缶出液として抜き出される未精製ポリイソシアネートにおいて、ポリイソシアネートおよびタール成分の含有割合は、例えば、ポリイソシアネート90〜99重量%、タール成分1〜10重量%である。また、未精製ポリイソシアネート中の溶媒の含有割合は、9重量%以下、酸度は、0.05〜0.2%である。
脱タール装置3は、未精製ポリイソシアネートを粗ポリイソシアネートとタール成分とに分離できれば、特に制限されないが、例えば、蒸発器9から構成される。蒸発器9は、特に制限されないが、例えば、薄膜蒸発器であり、ケーシング10内に、ワイパ11および内部コンデンサ12を備えている。
【0020】
ケーシング10は、下部が漏斗形状に形成される密閉円筒形状に形成されている。ケーシング10の周側壁には、缶出液抜出管8の下流側端部が接続されている。また、ケーシング10の下部側壁には、高沸点留分抜出管13の上流側端部が接続されている。なお、高沸点留分抜出管13の下流側端部は、ドレインとされる。さらに、ケーシング10の底壁には、低沸点留分抜出管14の上流側端部が接続されている。なお、ケーシング10には、ケーシング10内を減圧するための真空吸引管(図示せず。)が接続されている。
【0021】
ワイパ11は、ケーシング10の周側壁の内周面と、わずかな隙間を隔てて対向配置されており、モータMの駆動により周方向に回転するように、設けられている。
内部コンデンサ12は、冷媒が循環される熱交換器からなり、ケーシング10の軸線方向に沿って底壁に配置され、低沸点留分抜出管14に連通している。
また、ケーシング10の周側壁の外周面には、ケーシング10内を加熱するためのジャケット15が設けられている。
【0022】
そして、蒸留塔5から缶出液抜出管8へ連続的に流出される未精製ポリイソシアネートは、ケーシング10内へ流入される。
ケーシング10内においては、モータMの駆動によりワイパ11がケーシング10の周側壁の内周面とわずかな隙間を隔てて、周方向に移動している。また、ケーシング10内は、真空吸引管(図示せず。)により、0.01〜20kPaに減圧されるとともに、ジャケット15により、80〜230℃に加熱されている。
【0023】
未精製ポリイソシアネートは、ケーシング10内に流入すると、周方向に移動しているワイパ11の遠心力によって、ワイパ11とケーシング10の周側壁の内周面と隙間において、液膜に形成される。そして、その液膜に含有されている粗ポリイソシアネートは、ジャケット15からの加熱により蒸発し、内部コンデンサ12で濃縮され、低沸点留分として抜き出され、低沸点留分抜出管14から流出される。
【0024】
一方、液膜に含有されているタール成分は、液膜から蒸発することなく、そのまま濃縮され、高沸点留分として抜き出され、高沸点留分抜出管13から流出される。
つまり、脱タール装置3では、未精製ポリイソシアネートからタール成分が除去されて、粗ポリイソシアネート(すなわち、タール成分が除去された未精製ポリイソシアネート)が、低沸点留分として抜き出される(タール成分除去工程)。
【0025】
なお、低沸点留分として抜き出される粗ポリイソシアネートにおいて、ポリイソシアネートの含有割合は、90〜99.5重量%であり、ポリイソシアネート以外の低沸点不純物(例えば、溶媒や、ポリイソシアネートが例えばTDIの場合には、クロルトルエンイソシアネートが含まれる。)の含有割合は、10重量%以下であり、高沸点不純物(例えば、ポリイソシアネートが例えばTDIの場合には、エチルベンゼンジイソシアネートが含まれる。)の含有割合は、0.01〜1重量%であり、酸度が、100〜500ppmである。
【0026】
なお、脱タール装置3は、上記した内部コンデンサを装備する薄膜蒸発器に限らず、外部コンデンサを装備する薄膜蒸発器や、多管式の流下型薄膜蒸発器などから構成することもできる。
精製装置4は、仕切壁蒸留塔16および冷却器32を備えている。
仕切壁蒸留塔16は、蒸留塔17、加熱部18および冷却部19を備えている。
【0027】
蒸留塔17は、必要な理論段数で設計される棚段塔や充填塔から構成されている。例えば、蒸留塔17内の上部には、塔頂より下方において、上側充填層30が設けられ、蒸留塔17内の下部には、塔底より上方において、下側充填層31が設けられている。上側充填層30および下側充填層31には、規則充填物や不規則充填物が充填されている。なお、充填層の数や配置は、適宜選択され、後述する供給側空間21および抜出側空間22にも、それぞれ、鉛直方向に間隔を隔てて2層配置されている。
【0028】
蒸留塔17内において、上側充填層30と下側充填層31との間の中間部には、仕切壁20が設けられている。仕切壁20は、中間部において、蒸留塔17内の直径方向に沿って、蒸留塔17内を区画するように、設けられている。これによって、蒸留塔17内の中間部は、供給側空間21と抜出側空間22とに、鉛直方向に2分割されている。
蒸留塔17の中間部には、供給側空間21に連通するように、低沸点留分抜出管14の下流側端部が接続されており、抜出側空間22に連通するように、製品抜出管23の上流側端部が接続されている。
【0029】
製品抜出管23の上流側端部は、蒸留塔17の鉛直方向において、製品ポリイソシアネートを100〜200℃、好ましくは、160〜190℃で抜き出すことのできる位置に設けられている。また、製品抜出管23の下流側端部は、冷却器32に接続されている。製品抜出管23は、製品ポリイソシアネートが、蒸留塔17と冷却器32との間において、30分以内、好ましくは、15分以内、さらに好ましくは、10分以内の滞留時間で、滞留することができるように、その内径や全長が設定されている。
【0030】
また、蒸留塔17の塔底には、缶出液抜出管24の上流側端部が接続されている。なお、缶出液抜出管24の下流側端部は、ドレインとされるか、あるいは、点線で示すように、缶出液を再度蒸留すべく缶出液抜出管8の途中に接続される。
また、蒸留塔17の塔頂には、留出液抜出管25の上流側端部が接続されている。なお、留出液抜出管25の下流側端部は、ドレインとされるか、あるいは、点線で示すように、留出液を再度蒸留すべく供給管6の途中に接続される。
【0031】
加熱部18は、加熱循環ライン26およびヒータ27を備えている。加熱循環ライン26の上流側端部は、缶出液抜出管24の途中に接続される。加熱循環ライン26の下流側端部は、蒸留塔17の塔底に接続される。ヒータ27は、熱媒が供給されるリボイラ(熱交換器)からなり、加熱循環ライン26の途中に介在されている。加熱部18では、ヒータ27での熱媒温度が、例えば、200〜260℃に設定されており、加熱循環ライン26において循環する缶出液が加熱される。
【0032】
なお、加熱部18は、熱媒が供給されるジャケットやコイルなどを装備する加熱釜から構成することもできる。
冷却部19は、冷却循環ライン28およびクーラ29を備えている。冷却循環ライン28の上流側端部は、留出液抜出管25の途中に接続される。冷却循環ライン28の下流側端部は、蒸留塔17の塔頂に接続される。クーラ29は、冷媒が供給されるコンデンサ(凝縮器となる熱交換器)からなり、冷却循環ライン28の接続部分よりも上流側の留出液抜出管25の途中に介在されている。冷却部19では、クーラ29での冷却温度が、例えば、50〜150℃に設定され、留出液抜出管25へ流出する留出液が冷却される。
【0033】
なお、冷却部19は、冷却循環ライン28を設けずに、構成することもできる。
そして、蒸留塔17内は、塔底が加熱部18によって加熱(例えば、160〜200℃)され、粗ポリイソシアネートが沸騰するように減圧(例えば、5〜20kPa)される。蒸留塔17内の塔底温度および減圧度は、粗ポリイソシアネートに含まれるポリイソシアネートの種類・濃度、抜き出す製品ポリイソシアネートの所望純度、さらには、蒸留塔17の形式・能力などの要因を総合的に判断して、適宜、上記範囲から選択される。
【0034】
そして、蒸発器9から低沸点留分抜出管14へ連続的に流出される粗ポリイソシアネートは、蒸留塔17の供給側空間21内へ流入される。供給側空間21内では、粗ポリイソシアネート中の高沸点不純物およびポリイソシアネートに富む成分が塔底へ向かって下降し、粗ポリイソシアネート中の低沸点不純物およびポリイソシアネートに富む成分が塔頂へ向かって上昇する。
【0035】
蒸留塔17の塔底では、高沸点不純物が、缶出液として抜き出され、缶出液抜出管24から連続的に流出される。なお、缶出液の一部は、ヒータ27により加熱され、加熱循環ライン26から塔底へ還流される。これによって、塔底は、加熱部18によって加熱される。また、蒸留塔17の塔底では、上記した加熱部18の加熱により、ポリイソシアネートに富む成分が、再度、供給側空間21内および抜出側空間22内に向けて上昇する。
【0036】
蒸留塔17の塔頂では、低沸点不純物が、留出液として抜き出され、留出液抜出管25から連続的に流出される。なお、留出液の一部は、クーラ29により冷却され、冷却循環ライン28から塔頂へ還流される。これによって、塔頂は、冷却部19によって冷却される。また、蒸留塔17の塔頂では、上記した冷却部19の冷却により、ポリイソシアネートに富む成分が、再度、供給側空間21内および抜出側空間22内に向けて下降する。
【0037】
そのため、蒸留塔17の抜出側空間22内には、ポリイソシアネートに富む成分が流入する。抜出側空間22内のポリイソシアネートに富む成分は、製品抜出管23から、製品ポリイソシアネートとして連続的に抜き出される。製品ポリイソシアネートは、ポリイソシアネートを高純度(例えば、純度99〜100重量%、好ましくは、99.5〜100重量%)で含んでいる。
【0038】
つまり、精製装置4では、粗ポリイソシアネートを仕切壁蒸留塔16により蒸留することで、製品ポリイソシアネートが抜き出される(蒸留工程)。
冷却器32は、製品ポリイソシアネートを冷却できれば、特に制限されず、例えば、冷媒が供給されるクーラ(熱交換器)から構成されている。冷却器32には、製品抜出管23の下流側端部が接続されている。
【0039】
蒸留塔17から抜き出された製品ポリイソシアネートは、製品抜出管23において、30分以内の滞留時間で滞留させた後、冷却器32に流入される。
蒸留塔17から抜き出された製品ポリイソシアネートは、比較的高温(100〜200℃)であり、そのため、製品抜出管23で抜き出した後、速やかに冷却することにより、副反応を抑制して、製品ポリイソシアネートの品質低下を防止する。
【0040】
その後、製品ポリイソシアネートは、冷却器32において、例えば、100℃以下、好ましくは、60℃以下に冷却され、その後、製品ポリイソシアネートとして提供される。
つまり、冷却器32において、製品ポリイソシアネートは冷却される(冷却工程)。
上記したポリイソシアネートの製造方法によれば、タール成分除去工程において、未精製ポリイソシアネートからタール成分を除去して、粗ポリイソシアネートを抜き出し、次いで、蒸留工程において、粗ポリイソシアネートを、仕切壁蒸留塔16により蒸留することで、製品ポリイソシアネートを抜き出している。
【0041】
蒸留工程においては、仕切壁蒸留塔16により蒸留するので、2塔方式に比べてエネルギー消費を低減することができる。また、蒸留工程においては、既にタール成分が除去されている粗ポリイソシアネートを、仕切壁蒸留塔16により蒸留しているので、着色が少なく酸度の低い製品ポリイソシアネートを抜き出すことができる。
すなわち、着色に関して、通常の1塔方式(サイドカット方式)では、蒸留塔内に流入される粗ポリイソシアネートは、その高沸点不純物が塔底へ分配され、その低沸点不純物が塔頂へ分配され、製品ポリイソシアネートが、そのまま中間部から抜き出される。そうすると、製品ポリイソシアネートには、不純物(とりわけ高沸点不純物)が多く含まれ、その結果、着色が多くなる。
【0042】
一方、上記方法では、粗ポリイソシアネートは、仕切壁蒸留塔16の供給側空間21内へ流入され、一旦、塔底または塔頂へ分配される。その後、ポリイソシアネートに富む成分が、抜出側空間22内へ流入される。そのため、製品抜出管23から抜き出される製品ポリイソシアネートは、不純物(とりわけ高沸点不純物)が少なく、その結果、着色の少ない製品ポリイソシアネートとして、抜き出すことができる。
【0043】
上記方法によれば、製品ポリイソシアネートの色相(ハーゼン単位)を、具体的には、20以下、さらには、10以下にすることができる。なお、色相(ハーゼン単位)は、JIS K 0071−1(1998)化学製品の色試験方法―第1部:ハーゼン単位色数により測定することができる。
また、酸度に関して、2塔方式では、2段目の蒸留塔において、塔底から高沸点不純物が留去され、塔頂から製品ポリイソシアネートが抜き出される。つまり、製品ポリイソシアネートは、比較的低温で抜き出されるので、製品ポリイソシアネートと、低沸点不純物である塩化水素との反応により副生するカルバモイルクロライドの生成が増加し、その結果、酸度が多くなる。
【0044】
また、通常の1塔方式(サイドカット方式)でも、上記したように、製品ポリイソシアネートは、蒸留塔の中間部からそのまま抜き出される。つまり、製品ポリイソシアネートは、副生するカルバモイルクロライドを伴ったまま、抜き出され、その結果、酸度が多くなる。
一方、上記方法では、塔頂において、低沸点不純物は、留出液抜出管25から連続的に流出される一方、冷却部19の冷却により、ポリイソシアネートに富む成分が抜出側空間22内へ流入される。そして、ポリイソシアネートに富む成分が、蒸留塔17の中間部に配置される製品抜出管23から、製品ポリイソシアネートとして連続的に抜き出される。
【0045】
つまり、上記方法では、カルバモイルクロライドを副生する塩化水素が、塔頂から抜き出されるため、ポリイソシアネートに富む成分に含有される塩化水素を、低減することができる。しかも、製品抜出管23は、蒸留塔17の中間部に配置されるため、塔頂に配置される場合に比べて、製品ポリイソシアネートを比較的高温で抜き出すことができる。そのため、製品ポリイソシアネートと塩化水素との反応を抑制することができ、カルバモイルクロライドの生成を低減することができる。
【0046】
とりわけ、製品抜出管23は、蒸留塔17の鉛直方向において、製品ポリイソシアネートを100〜200℃、好ましくは、160〜190℃で抜き出すことのできる位置に設けられているので、製品ポリイソシアネートは、上記抜出温度で抜き出される。そのため、製品ポリイソシアネートと塩化水素との反応を、より一層、抑制することができ、カルバモイルクロライドの生成を、より一層、低減することができる。その結果、上記方法では、酸度の低い製品ポリイソシアネートとして、抜き出すことができる。
【0047】
上記方法によれば、製品ポリイソシアネートの酸度を、具体的には、50ppm以下、さらには、20ppm以下、とりわけ、10ppm以下にすることができる。なお、酸度は、JIS K 1556(2006)ポリウレタン原料−トルエンジイソシアネート試験方法の附属書2に記載される芳香族イソシアネートの酸度試験方法により測定することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1
図1に示す精製システムを用いて、反応液から製品トリレンジイソシアネート(TDI)を精製した。
1)溶媒除去工程
まず、製造工程において得られた反応液(トリレンジイソシアネート19重量%、ジクロロベンゼン(DCB)80重量%、塩化カルボニル0.01重量%、タール成分1重量%)を、脱溶媒装置2の蒸留塔5において、下記運転条件下、未精製TDIとDCBとに分離した。
(蒸留塔5の運転条件)
塔底温度:180℃
塔内減圧度:10kPa
反応液供給量:200kg/h
缶出液(未精製TDI)抜出量:50kg/h
留出液(DCB)抜出量:150kg/h
抜き出された未精製TDIは、TDI96.3重量%、タール成分2.6重量%、DCB0.5重量%を含有し、酸度が0.1%であった。
2.タール成分除去工程
次いで、抜き出された未精製TDIを、脱タール装置3の蒸発器9(内部コンデンサを装備する薄膜蒸発器)において、下記運転条件下、粗TDIとタール成分とに分離した。
(蒸発器9の運転条件)
ジャケット加熱温度:200℃
ケーシング内減圧度:1kPa
未精製TDI供給量:50kg/h
高沸点留分(タール成分)抜出量:1kg/h
低沸点留分(粗TDI)抜出量:49kg/h
抜き出された粗TDIは、TDI98.7重量%、高沸点不純物0.1重量%、低沸点不純物(溶媒を含む)1.2重量%を含有し、酸度が150ppmであった。
3.蒸留工程・冷却工程
次いで、抜き出された粗TDIを、精製装置4の仕切壁蒸留塔16(充填物:理論段数7段×3層、製品抜出管:187℃位置(第2層下部))において、下記運転条件下、製品TDIと、高沸点不純物および低沸点不純物とに分離した(蒸留工程)。
(仕切壁蒸留塔16の運転条件)
熱媒温度:220℃
クーラ冷却温度:55℃
塔底温度:190℃
塔内減圧度:17kPa
粗TDI供給量:50.6kg/h
製品TDI抜出量:46.7kg/h
缶出液(高沸点不純物)抜出量:2.2kg/h
留出液(低沸点不純物)抜出量:1.7kg/h
抜き出した製品TDIを、滞留時間7分で、冷却器32により60℃以下に冷却した(冷却工程)。
【0049】
得られた製品TDIは、純度99.5重量%以上、色相(ハーゼン単位)5以下、酸度6ppmであった。
比較例1
蒸留工程において、仕切壁蒸留塔16から仕切壁20を取り外した蒸留塔を用いて、下記運転条件にて、製品TDIと、高沸点不純物および低沸点不純物とに分離した以外は、実施例1と同様の方法により、製品TDIを得た。
(蒸留塔(仕切壁なし)の運転条件)
熱媒温度:220℃
クーラ冷却温度:85℃
塔底温度:189℃
塔内減圧度:17kPa
粗TDI供給量:61.7kg/h
製品TDI抜出量:56.9kg/h
缶出液(高沸点不純物)抜出量:2.7kg/h
留出液(低沸点不純物)抜出量:2.1kg/h
得られた製品TDIは、純度99.5重量%以上、色相(ハーゼン単位)20以上、酸度33ppmであった。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明のポリイソシアネートの製造方法に用いられる精製システムの一実施形態を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0051】
1 精製システム
2 脱溶媒装置
3 脱タール装置
4 精製装置
16 仕切壁蒸留塔
30 冷却器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未精製ポリイソシアネートを精製する精製工程を含むポリイソシアネートの製造方法において、
前記精製工程は、
未精製ポリイソシアネートからタール成分を除去するタール成分除去工程と、
タール成分が除去された未精製ポリイソシアネートを、仕切壁蒸留塔により蒸留する蒸留工程と
を備えていることを特徴とする、ポリイソシアネートの製造方法。
【請求項2】
前記精製工程は、前記タール成分除去工程の前工程として、溶媒および未精製ポリイソシアネートを含む反応液から溶媒を除去する溶媒除去工程を備えていることを特徴とする、請求項1に記載のポリイソシアネートの製造方法。
【請求項3】
前記蒸留工程後に得られる製品ポリイソシアネートの酸度が、50ppm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリイソシアネートの製造方法。
【請求項4】
前記蒸留工程では、ポリイソシアネートの抜出温度が、100〜200℃であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリイソシアネートの製造方法。
【請求項5】
前記精製工程は、前記蒸留工程の後工程として、蒸留により抜き出したポリイソシアネートを冷却する冷却工程を備え、
前記蒸留工程から前記冷却工程に至る滞留時間が、30分以内であることを特徴とする、請求項4に記載のポリイソシアネートの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−120528(P2009−120528A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−295868(P2007−295868)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【出願人】(501140544)三井化学ポリウレタン株式会社 (115)
【Fターム(参考)】