説明

ポリイミドフィルムおよびその製造方法

【課題】 ポリイミドフィルムに含まれる金属イオン性不純物を劇的に低減せしめ、高い耐マイグレーション性を有するポリイミドフィルムとその製造方法を提供する。
【解決手段】 流延製膜方法により得られるポリイミドフィルムであって、該フィルムのFe、Ni、Crの含有総和量が20ppm以下であるポリイミドフィルムである。またポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得るための重合容器の接液部、輸送配管がオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼から選ばれるいずれかの材料で構成されているポリイミドフィルムの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムに関し、さらに詳しくは、ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸溶液を支持体上に塗布、乾燥して自己支持性フィルムを得る、所謂、流延製膜方法で製造されるところの優れた性能のポリイミドフィルムとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは電子情報用途に幅広く用いられている。特に近年ではポリイミドフィルムを基材として用いたプリント配線板が高密度実装基板として広く用いられている。 かかるプリント配線板においてはポリイミドフィルム上に接着剤を介することなく銅箔を形成して回路パターンを形成する方法が普及しつつある。ポリイミドフィルムはイミド構造を有するがゆえにある程度の吸湿性を有する。ポリイミドフィルムの吸湿性の影響は特に電圧印可された状態においては顕著となる。すなわち加湿下にて電圧印可を行うと、電極間のポリイミド樹脂内ないし表面にエレクトロマイグレーションと呼ばれる金属の樹脂状突起が生成する。かかる樹脂状突起は成長を続け、やがては電極間を短絡し電気絶縁破壊をもたらす場合がある。かかる問題は、特に比較的高電圧を用いる電源系や、表示素子駆動用の回路において大きな問題となっている。
エレクトロマイグレーションを防止するためにはポリイミドフィルム自身の吸湿性を下げると同時にフィルム内のイオン性不純物を低減させることが有効であると考えられている。特に鉄やアルカリ金属類やリンについては、原料段階よりその管理がなされている。
【0003】
ポリイミドフィルムの製造方法においてはその製造方法上、溶液状態で金属と直接接触する箇所が存在する。ポリイミドフィルムの前駆体であるポリアミド酸溶液は、自身が多価カルボン酸であり、溶媒もまた高極性の溶解力の強い溶媒である場合が多い。かかる前駆体溶液と直接的に接する流延支持体については耐食性の高いステンレス鋼性のベルトないしドラムを用いることが一般的である。
芳香族ポリアミドフィルムや芳香族ポリイミドフィルムは、磁気記録分野等に使用されているが、高密度化・小型化等の要請から表面の平滑化の要求がある。これらに対して、3つの方法が提案されている。1の方法は、ステンレス等のいわば汎用の金属材料からなる支持体を用いることである(特許文献1参照)。この場合、製膜に用いる溶剤、含有成分、高温環境等のためにおうおうにして、支持体の表面が腐食・荒れ等をきたし、その結果得られるフィルムの表面が徐々に平滑性を失っていく。
2の方法は、耐食性に優れた貴金属または準貴金属を用いる方法である(特許文献2、3参照)が、高価な上、硬度が非常に小さく使用中の傷つけ等で表面性を良好なレベルに維持していくのが困難であった。
3の方法として、耐食性の優れたフッ素樹脂等を汎用金属材料上にコーティングする(特許文献4参照)方法があるが、フッ素樹脂層の微細な欠陥のために、表面性のレベルが必ずしも満足いくものではない上に、支持体の耐食性を長期に維持するのが困難であった。
【特許文献1】特開平09−29852号公報
【特許文献2】特開昭63−84908号公報
【特許文献3】特開昭63−4914号公報
【特許文献3】特開昭64−75211号公報
【0004】
さらに、芳香族ポリイミドなどのポリマー溶液を支持体上に流延してフィルムに成形するフィルム製造法において、該支持体の少なくとも表面層にアモルファス金属を使用する方法が開示され、フィルムの表面平滑度を向上することが記載されている(特許文献5参照)。
また、表面の耐久性、耐腐食性のすぐれた表面に、クロムのスピネル型酸化水和物からなる被膜(以下薄膜クロム層という)と硬膜層とを設けたことを特徴とするロールおよびそれを用いた溶液製膜フィルムの製造方法で、延伸装置内でこのフィルムを走行させた時の装置腐蝕によるコンタミネ−ションとフィルム表面傷を抑制し、平滑な面を有するフィルムを安定して得ることができる。
支持体上に流延してフィルム(ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の自己支持性フィルムであるグリーンフィルム)に成形した後、溶媒・各種塩などの除去および延伸する際、該ロールを用いて溶液製膜フィルムを製造する製膜方法が開示されている(特許文献6参照)。
【特許文献5】特開2001−009852号公報
【特許文献6】特開平11−138626号公報
【0005】
しかしながら、かかる対策が施されているにもかかわらず一般に流通しているポリイミドフィルムの耐マイグレーション性は必ずしも高いものではなく、特に耐マイグレーション性、絶縁信頼性に影響の大なるFe、Ni、Crの含有総和量において、またFeの含有量について抑制・制御されたものはなく、さらなる改善が求められていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
すなわち、本発明は耐マイグレーション性に優れ、高い絶縁信頼性を有する、これらに大きく影響を及ぼすと考えられるFe、Ni、Cr特にFe含有量の少ないポリイミドフィルムとその製造方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意研究を続けた結果、製造装置の特定の箇所に特定の材質を用いる事によりポリイミドフィルムに含まれる金属イオン性不純物を劇的に低減せしめ、高い耐マイグレーション性を有するフィルムを得ることができることを見いだし、次なる発明に到達した。
すなわち本発明は、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の溶液を支持体上に塗布乾燥する工程を少なくとも有する流延製膜方法により得られるポリイミドフィルムであって、該フィルムのFe、Ni、Crの含有総和量が20ppm以下であることを特徴とするポリイミドフィルムであり、中でもFe、Ni、Crの含有総和量において、Feの含有量が含有総和量の1/2以上である前記のポリイミドフィルムであり、さらにまたポリイミドが、テトラカルボン酸無水物とベンゾオキサゾール構造を有するジアミンとの縮合から得られるポリイミドベンゾオキサゾールである前記のポリイミドフィルムである。
また、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得るための重合容器の接液部、輸送配管がオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼から選ばれるいずれかの材料で構成されていることを特徴とする上記ポリイミドフィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
先に述べたように、従来のポリイミド前駆体が直接的に接する金属部分については耐食性の高い素材を用いることが意図されてきた。しかしながら、それらの提案は、製造装置の長寿命化を主眼にした物であって必ずしも得られるポリイミドフィルムに含まれる金属性不純物を低減させることを目的とした物ではなかった。製造装置からの金属イオン溶出を低減させるためには極論すれば、すべて貴金属で構成ないし被覆すれば良いことになるが、コスト的に非現実的である。また、必ずしも支持体であるベルトやロールからの金属イオン不純物の溶出は特性上問題となるレベルにはなく、むしろ重合装置や液送ポンプ等のように比較的高ストレスが加わる部分からの溶出や磨耗が問題であり、溶出や磨耗を防止するためには必ずしも一般的に耐食性が高いとされている材料より、別の観点となる強靱さから素材を選定した方が、結果的に金属不純物量を減らすことができ、特にFe、Ni、Crの含有量、中でもFeの含有量を抑えることで、耐マイグレーションの高い高絶縁信頼性ポリイミドフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のポリイミドフィルムは、芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを反応させて得られるポリイミドからなるものである。
ポリイミドを得る反応は、まず、溶媒中で芳香族ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸無水物類とを開環重付加反応に供してポリアミド酸溶液を得て、次いで、このポリアミド酸溶液からグリーンフィルムを成形した後に脱水縮合(イミド化)することによりなされる。
本発明においては、特にこれら芳香族ジアミン類の中でベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類が好適なジアミンであり、この好適ジアミンを使用する際、本発明におけるFe、Ni、Crの含有総和量の抑制効果が特定材質の金属を使用することにおいて顕著となる。
【0010】
本発明で特に好適に用いられるベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類としては、具体的には以下のものが挙げられる。
【0011】
【化1】

【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

【0015】
【化5】

【0016】
【化6】

【0017】
【化7】

【0018】
【化8】

【0019】
【化9】

【0020】
【化10】

【0021】
【化11】

【0022】
【化12】

【0023】
【化13】

【0024】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」〜「化4」に記載の各化合物)。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
本発明においては、前記ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミンを70モル%以上使用することが好ましい。
【0025】
本発明は、前記事項に限定されず下記の芳香族ジアミンを使用してもよい。好ましくは全芳香族ジアミンの30モル%未満において下記に例示されるベンゾオキサゾール構造を有しないジアミン類を一種または二種以上、併用してのポリイミドフィルムである。
そのようなジアミン類としては、例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、
【0026】
3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、
【0027】
1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、
【0028】
1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、
【0029】
3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルおよび上記芳香族ジアミンにおける芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0030】
本発明で用いられるテトラカルボン酸無水物は芳香族テトラカルボン酸無水物類である。芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられる。
【0031】
【化14】

【0032】
【化15】

【0033】
【化16】

【0034】
【化17】

【0035】
【化18】

【0036】
【化19】

【0037】
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
本発明においては、全テトラカルボン酸二無水物の30モル%未満であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種または二種以上、併用しても構わない。そのようなテトラカルボン酸無水物としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、
【0038】
ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0039】
芳香族ジアミン類と、芳香族テトラカルボン酸無水物類とを重合してポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの重量が、通常5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるような量が挙げられる。
【0040】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌および/または混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の重量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは20〜2000Pa・sであり、より好ましくは200〜1000Pa・sである。
本発明におけるポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)は、特に限定するものではないが3.0以上が好ましく、4.0以上がさらに好ましく、なおさらに5.0以上が好ましい。
【0041】
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸の有機溶媒溶液を製造するのに有効である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
【0042】
重合反応により得られるポリアミド酸溶液からポリイミドフィルムを形成する方法としては、ポリアミド酸溶液を支持体上に塗布して乾燥するなどによりグリーンフィルムを得て、次いで、グリーンフィルムを熱処理に供することでイミド化反応させる方法が挙げられる。
【0043】
本発明のポリイミドフィルムにおけるフィルムのFe、Ni、Crの含有総和量とは、Fe、Ni、および/又はCrの元素のポリイミドフィルム中の含有総和量の質量分率である。本発明のフィルムのFe、Ni、Crの含有総和量は、20ppm以下である事が必須である。フィルムのFe、Ni、Crの含有総和量は、より好ましくは10ppm以下であり、更に好ましくは5ppm以下である。かかる金属不純物量は金属状態で含まれるもの、金属化合物として含まれるものイオン状態で含まれるものとその他のフィルム中にFe、Ni、Crの元素としてフィルムに含まれる総計である。フィルムのFe、Ni、Crの含有総和量がこの範囲を超える場合には耐マイグレーション性が著しく低下する。下限は特に限定されず理想的にはゼロであることが好ましい。
【0044】
本発明ではFe、Ni、Crの含有総和量の内、Feの含有量が1/2以上であることが好ましい。Feの含有量がこの範囲に満たない場合には耐マイグレーション性が悪化するとともに、フィルム自体の絶縁性が低下する場合がある。すなわち、Fe分は主に酸化物として存在するため、常態では比較的絶縁性が高く、主に電圧印可され酸化還元反応が電気的に誘起される場合に問題が顕著になるのに比較し、Ni、Cr元素は金属状態で存在する割合が高く、常態において絶縁性低下に直接的に関与するためであると推察される。
これらのFe、Ni、Crのフィルム中での含有形態としては、0.1μm以上の粒子としてフィルム中に存在しないことが、より好ましい。
【0045】
フィルムのFe、Ni、Crの含有総和量を20ppm以下にする方法としては、ポリアミド酸の重合に用いられる重合容器の溶液と接する部分(接液部)、溶液の輸送配管がオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼から選ばれるいずれかの材料で構成される特定の素材とすることで実現可能である。重合容器の接液部としては容器内壁、および攪拌羽根、である。輸送配管にはバルブなども含まれる。
本発明においては重合容器の接液部および輸送配管の金属部分をオーステナイト系ステンレス鋼ないしフェライト系ステンレス鋼で構成する。オーステナイト系ステンレス鋼としては、SUS301、SUS301L、SUS630、SUS631、SUS302、SUS302B、SUSXM15J1、SUS303、SUS303Se、SUS304、SUS304L、SUS304J1、SUS304J2、SUS305、SUS309S、SUS310S、SUS316、SUS316L、SUS316J1、SUS316J1L、SUS317、SUS317L、SUS321、SUS347等を用いることが出来る。またフェライト系ステンレス鋼としてはSUS405、SUS406、SUH409、SUH409L、SUS430、SUS430F、SUS430LX、SUS430J1L、SUS434、SUS436L、SUS436J1L、SUS444、SUSXM27、SUS447J1を用いることができる。
本発明においては、これらの内、より好ましくは耐腐食性の高いSUS301L、SUS304L、SUS316、SUS316L、SUS317、SUS317L、SUS321、SUS347であり、なおさらに好ましくは低炭素のSUS304L、SUS316L、SUS317Lである。
【0046】
本発明においては、さらに送液に使用されるギヤポンプの接液部をマルテンサイト系ステンレス鋼で構成することが好ましい。
マルテンサイト系ステンレス鋼としてはSUS410、SUS410S、SUS410F2、SUS416、SUS420J1、SUS420J2、SUS420F、SUS420F2、SUS431、SUS440、SUS440Cなどを用いることが出来る。これらの内、特に高度が高いSUS420J1、SUS420J2、SUS440Cを好ましく用いることができる。
これらの他ステンレス鋼としてはSUS329J1、SUS39J3L、SUS329J4L、NSS431DPI、HT980、HT1770、HT1960等を用いることができる。
【0047】
本発明においては、使用する原料モノマー(芳香族ジアミン類、芳香族テトラカルボン酸無水物類など)、溶剤、その他添加物に含まれるFe、Ni、Crの含有総和量を所定の範囲以下に制御することも肝要である。
【0048】
本発明においてグリーンフィルムを得るためにポリアミド酸溶液を塗布する支持体としては、長尺のフィルム、エンドレスベルト、ロールなどが挙げられる。長尺のフィルムとしてはポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリイミドフィルムなどの高分子フィルムを用いることが出来る。エンドレスベルトとしては、厚さが5mm以下、好ましくは3mm以下、なお好ましくは1mm以下の湾曲可能な素材からなるエンドレスベルトが挙げられる。エンドレスベルトの幅と長さ(周囲)は特に限定されないが、幅が30cm以上、好ましくは50cm以上であり、長さ(周囲)が100cm以上、好ましくは300cm以上である。厚さがこの範囲を超えると湾曲性に問題が出る場合がある。ロールとしては表面粗度が制御された幅30cm以上、直径30cm以上のロールなどを用いることが出来る。
【0049】
支持体の材質は、金属、非金属を問わず、フィルムにしようとする素材の乾燥温度において、顕著な変形や寸法変化を生じない物であれば、特に限定されない。金属素材としては、鉄、ステンレス(SUS)、ニッケル、チタン、タンタル、銅、ハステロイ等がある。金属素材としてはステンレス鋼の使用が好ましく、特に好ましいのはオーステナイト系のステンレス鋼である。これらの表面には、耐食性、硬度の向上や粘着性低下等のために、クロム、金、銀、ニッケルなどのメッキや表面処理を施してもよい。表面処理の一例としてはクロムの薄膜酸化水和物皮膜形成、シリコーン樹脂あるいはフッソ樹脂の皮膜形成などがある。
【0050】
支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、スキージコーティング、リバースコーティング、ダイコーティング、アプリケータコーティング、ワイヤーバーコーティング等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0051】
本発明でのポリイミド前駆体であるポリアミド酸の自己支持性フィルムであるグリーンフィルムを得る際の乾燥方法は加熱乾燥である。加熱方法としては、赤外線加熱、温風加熱、マイクロ波加熱など公知の方法を用いることができる。
支持体上で乾燥し、自己支持性となったフィルム(グリーンフィルム)は支持体より剥離され、150〜500℃の温度にて最終乾燥(熱処理)によってアミド酸の脱水閉環を行いポリイミドフィルムが得られる。
本発明のポリイミドフィルムの厚さは特に限定されないが、電子基板の基材に用いることを考慮すると、通常1〜150μm、好ましくは3〜50μmである。この厚さはポリアミド酸溶液を支持体に塗布する際の塗布量や、ポリアミド酸溶液の濃度によって容易に制御し得る。
【0052】
本発明ではフィルムの生産性、巻き取り性、操作性の向上のために、滑剤を添加することができる。滑剤としては、無機または有機の微粒子を用いることができ、無機微粒子としては、無機や有機の0.03μm〜3μm程度の平均粒子径を有する微粒子が使用でき、具体例として、酸化チタン、アルミナ、シリカ、炭酸カルシウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ピロ燐酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、粘土鉱物などが挙げられる。好ましく用いることができる滑剤の粒子径は0.01〜10μmの範囲であり、その添加量はフィルム全体の0.001〜1質量%程度の範囲である。
【0053】
本発明のポリイミドフィルムは、通常は無延伸フィルムであるが、1軸または2軸に延伸しても構わない。ここで、無延伸フィルムとは、テンター延伸、ロール延伸、インフレーション延伸などによってフィルムの面拡張方向に機械的な外力を意図的に加えずに得られるフィルムをいう。
【0054】
得られたポリイミドフィルムをそのままフィルム基材として用いてもよい。上記フィルムを表面処理剤や表面活性化剤で処理していない場合には、コロナ放電処理、低温または常圧プラズマ処理、紫外線照射、火炎処理等といった表面処理を施すことが好ましい。
上記のとおりポリアミド酸を重合する際のモノマー、溶剤、添加物、および反応装置の材質、フィルムの製造装置の材質などの制御によって、フィルムのFe、Ni、Crの含有総和量が20ppm以下であるポリイミドフィルムを得ることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
1.ポリアミド酸の還元粘度(ηsp/C)
ポリマー濃度が0.2g/dlとなるようにN−メチル−2−ピロリドンに溶解した溶液をウベローデ型の粘度管により30℃で測定した。
【0056】
2.ポリイミドフィルムのフィルム厚さ
フイルムの厚さは、マイクロメーター(ファインリューフ社製、ミリトロン1245D)を用いて測定した。
【0057】
3.ポリイミドフィルムの引張弾性率、引張破断強度および引張破断伸度
乾燥後のフィルムを長手方向(MD方向)および幅方向(TD方向)にそれぞれ長さ100mm、幅10mmの短冊状に切り出して試験片とし、引張試験機(島津製作所株式会社製、オートグラフ(R)機種名AG−5000A)を用い、引張速度50mm/分、チャック間距離40mmで測定し、引張弾性率、引張強度及び引張破断伸度を求めた。
【0058】
4.ポリイミドフィルムの線膨張係数(CTE)
下記条件で伸縮率を測定し、30〜300℃までを15℃間隔で分割し、各分割範囲の伸縮率/温度の平均値より求めた。
装置名 ; MACサイエンス社製TMA4000S
試料長さ ; 20mm
試料幅 ; 2mm
昇温開始温度 ; 25℃
昇温終了温度 ; 400℃
昇温速度 ; 5℃/min
雰囲気 ; アルゴン
【0059】
5.ポリイミドフィルムの金属不純物の定量
試料2gを白金製坩堝に精秤・採取し、電気炉で灰化した後、残さを1.2mol/L塩酸溶液20mlで溶解させたものを測定液とした。測定液中の金属量は、高周波プラズマ発光分析装置(リガク株式会社製、CIROS−120)により求めた。測定した発光線はそれぞれ次のとおりである。
鉄 :259.94nm
クロム :205.552nm
ニッケル:231.604nm
【0060】
<参考例1>
(無機粒子の予備分散)
アモルファスシリカの球状粒子シーホスターKE−P30(日本触媒株式会社製)を0.81質量部、N−メチル−2−ピロリドン420質量部を、容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである容器に入れホモジナイザーT−25ベイシック(IKA Labor technik社製)にて、回転数1000回転/分で1分間攪拌し予備分散液を得た。予備分散液中の平均粒子径は0.38μm、標準偏差0.032μm、CV値8.4%、であり、球形度0.98であった。
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、223質量部の5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールを入れた。次いで、4000質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液を420質量部と217質量部のピロメリット酸二無水物を加えて、25℃にて50時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液Aが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は5.2であった。
【0061】
<参考例2>
窒素導入管,温度計,攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後,5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール223質量部、N,N−ジメチルアセトアミド4416質量部を加えて完全に溶解させた後,コロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなるスノーテックスDMAC−ST30(日産化学工業株式会社製)4.05質量部(シリカを0.81質量部含む)、ピロメリット酸二無水物217質量部を加え,25℃の反応温度で40時間攪拌すると,褐色で粘調なポリアミド酸溶液Bが得られた。このもののηsp/Cは4.6であった。
【0062】
<参考例3>
(無機粒子の予備分散)
アモルファスシリカの球状粒子シーホスターKE−P30(日本触媒株式会社製)を0.76質量部、N−メチル−2−ピロリドン390質量部を容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである容器に入れホモジナイザーT−25ベイシック(IKA Labor technik社製)にて、回転数1000回転/分で1分間攪拌し予備分散液を得た。
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、200質量部のジアミノジフェニルエーテルを入れた。次いで、3800質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液を390質量部と217質量部のピロメリット酸二無水物を加えて、25℃にて5時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液Cが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は3.8であった。
【0063】
<参考例4>
(無機粒子の予備分散)
アモルファスシリカの球状粒子シーホスターKE−P30(日本触媒株式会社製)を0.73質量部、N−メチル−2−ピロリドン420質量部を容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである容器に入れホモジナイザーT−25ベイシック(IKA Labor technik社製)にて、回転数1000回転/分で1分間攪拌し予備分散液を得た。
(ポリアミド酸溶液の調製)
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、108質量部のフェニレンジアミンを入れた。次いで、3600質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、先に得た予備分散液を420質量部と292.5質量部のジフェニルテトラカルボン酸二無水物を加えて、25℃にて10時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液Dが得られた。この還元粘度(ηsp/C)は4.3であった。
【0064】
(実施例1〜4)
参考例1〜4で得たポリアミド酸溶液を、それぞれ支持体上に送液するギヤポンプのギヤがマルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cであるギヤポンプを使用して送液し、ポリエチレンテレフタレート製フィルムの支持体上にコーティングし(スキージ/ベルト間のギャップは、150μm)、90℃にて60分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムを支持体から剥離して、厚さ17μmのそれぞれのグリーンフィルムを得た。
得られたこれらのグリーンフィルムを、窒素置換された連続式の熱処理炉に通し、第1段が180℃で3分、昇温速度4℃/秒で昇温して第2段として460℃で5分の条件で2段階の加熱を施して、イミド化反応を進行させた。その後、5分間で室温にまで冷却することで、褐色を呈する実施例1〜4のそれぞれのポリイミドフィルムを得た。
得られたポリイミドフィルムの性能などの測定結果を表1に記載する。
【0065】
(比較例1〜4)
無機粒子の予備分散およびポリアミド酸溶液を得る際の容器の接液部、および輸液用配管をオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lからマルテンサイト系ステンレス鋼SUS410に変更した以外は、参考例1〜4に代わる参考例5〜8のポリアミド酸溶液をそれぞれ得た。
これらの参考例5〜8のポリアミド酸溶液を、それぞれ支持体上に送液するギヤポンプのギヤがタングステン鋼SKH51であるギヤポンプを使用して送液し、ポリエチレンテレフタレート製フィルムの支持体上にコーティングし(スキージ/ベルト間のギャップは、150μm)、90℃にて60分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムを支持体から剥離して、厚さ17μmのそれぞれのグリーンフィルムを得た。
得られたこれらのグリーンフィルムを、窒素置換された連続式の熱処理炉に通し、第1段が180℃で3分、昇温速度4℃/秒で昇温して第2段として460℃で5分の条件で2段階の加熱を施して、イミド化反応を進行させた。その後、5分間で室温にまで冷却することで、褐色を呈する比較例1〜4のそれぞれのポリイミドフィルムを得た。
得られたポリイミドフィルムの性能などの測定結果を表1に記載する。
【0066】
(比較例5〜8)
参考例5〜8のポリアミド酸溶液を、それぞれ支持体上に送液するギヤポンプのギヤがオーステナイト系ステンレス鋼SUS304であるギヤポンプを使用して送液し、ポリエチレンテレフタレート製フィルムの支持体上にコーティングし(スキージ/ベルト間のギャップは、150μm)、90℃にて60分間乾燥した。乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムを支持体から剥離して、厚さ17μmのそれぞれのグリーンフィルムを得た。
得られたこれらのグリーンフィルムを、窒素置換された連続式の熱処理炉に通し、第1段が180℃で3分、昇温速度4℃/秒で昇温して第2段として460℃で5分の条件で2段階の加熱を施して、イミド化反応を進行させた。その後、5分間で室温にまで冷却することで、褐色を呈する比較例5〜8のそれぞれのポリイミドフィルムを得た。
得られたポリイミドフィルムの性能などの測定結果を表2に記載する。
【0067】
(金属化ポリイミドフィルムの製造)
各実施例、比較例で得られたポリイミドフィルムを25cm×25cmの正方形に切り取り、直径24cmの開口部を有するステンレス製の枠に挟んで固定した。次いでフィルム表面のプラズマ処理を行った。プラズマ処理条件はキセノンガス中で、周波数13.56MHz、出力100W、ガス圧0.8Paの条件であり、処理時の温度は25℃、処理時間は5分間であった。次いで、周波数13.56MHz、出力400W、ガス圧0.8Paの条件、モリブデンターゲットを用い、キセノン雰囲気下にてRFスパッタ法により、50Åのモリブデン合金被膜を形成した。次いで、基板の温度を250℃に上げ、100Å/秒の速度で銅を蒸着し、厚さ0.5μmの銅薄膜を形成させた。
得られたそれぞれの金属化フィルムをプラスチック製の枠に固定し直し、硫酸銅めっき浴を用いて、厚さ12μmの厚付け銅メッキ層を形成し、引き続き300℃で10分間熱処理し目的とする金属化ポリイミドフィルムを得た。
【0068】
(評価パターンの形成)
得られたこれらの金属化ポリイミドフィルムを使用し、フォトレジスト(シプレー社製、FR−200)を塗布・乾燥後にガラスフォトマスクで密着露光し、さらに1.2%KOH水溶液にて現像した。次に、HClと過酸化水素を含む塩化第二銅のエッチングラインで、40℃、2kgf/cm2のスプレー圧でエッチングし、後述する耐マイグレーション評価試験に必要な40μmピッチの櫛形電極のテストパターンを形成した。
【0069】
(金属化ポリイミドフィルムの耐マイグレーション性評価)
上記で得られたそれぞれのポリイミドフィルムからの40μmピッチの櫛形電極に、電圧(DC60V)を印可し、85℃・85%RHの恒温恒湿槽(エタック社製、FX412Pタイプ)の中に入れ電圧負荷状態のまま5分毎に絶縁抵抗値を測定記録し、線間の抵抗値が100Mオーム以下に達する時間を測定しマイグレーション評価とした。
【0070】
【表1】

表中、耐マイグレーション性以外はポリイミドフィルムの物性である。なお引張破断強度、引張弾性率、引張破断伸度、CTEの欄において、上段はフィルムの長手方向であるMD方向の値で下段はフィルムの幅方向であるTD方向の値を示す。
【0071】
【表2】

表中、耐マイグレーション性以外はポリイミドフィルムの物性である。なお引張破断強度、引張弾性率、引張破断伸度、CTEの欄において、上段はフィルムの長手方向であるMD方向の値で下段はフィルムの幅方向であるTD方向の値を示す。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のポリイミドフィルムは、フィルムのFe、Ni、Crの含有量、中でもFeの含有量を抑えることで、耐マイグレーションの高い高絶縁信頼性ポリイミドフィルムである。したがって、本発明のポリイミドフィルムは、極めて高温で使用するフレキシブルプリント配線用銅張基板(FPC)やテープ・オートメーテッド・ボンディング(TAB)用キャリアテープなどの製造に用いる基材フィルムなどはもちろん、より高い電圧で用いられる電源回路、プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッション型ディスプレイパネル、エレクトロルミネッセンス型表示パネル、冷陰極線管表示パネル、小型、平面型のブラウン管等の駆動回路用ベース基板、無線送信機器関係のベース基板等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の溶液を支持体上に塗布乾燥する工程を少なくとも有する流延製膜方法により得られるポリイミドフィルムであって、該フィルムのFe、Ni、Crの含有総和量が20ppm以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項2】
フィルムのFe、Ni、Crの含有総和量において、Feの含有量がFe、Ni、Crの含有総和量の1/2以上である請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
ポリイミドが、テトラカルボン酸無水物とベンゾオキサゾール構造を有するジアミンとの縮合から得られるポリイミドベンゾオキサゾールである請求項1又は2いずれかに記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得るための重合容器の接液部、および/又は輸送配管がオーステナイト系ステンレス鋼、フェライト系ステンレス鋼から選ばれるいずれかの材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2006−104383(P2006−104383A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295038(P2004−295038)
【出願日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】