説明

ポリイミドフィルム及びその製造方法

【課題】ポリイミドフィルム表面の接着性が高く、さらに経時的にもその性質が変化せず品質的に安定なポリイミドフィルムを提供し、しかも、簡便な処理方法で提供する。
【解決手段】ポリイミドフィルムの少なくとも片面の表面における炭素元素(C)に対する酸素元素(O)の比(O/C比)が、内層でのO/C比に対して、0.60〜0.95倍であるポリイミドフィルム及びポリイミドの炭素元素(C)に対する酸素元素(O)の原子数比(O/C比)より小さいO/C比のゴムを用いたゴムロールに、ポリイミドフィルムを複数回接触させるポリイミドフィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミドフィルムに関するものであり、更に詳しくは、接着性に優れ、主として半導体や実装基板用途に適したポリイミドフィルム及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族ポリイミドは、ポリマーの中で高い耐熱性を有し、優れた機械的特性、耐薬品性を有していることが知られており、種々の形態に加工され、使用されている。しかしながら、一般に芳香族ポリイミドは優れた特性を有する反面、表面接着性や成形加工性に劣るという問題点を有している。
ポリイミドフィルムは表面の接着性が乏しく、接着性を高めることが課題であり、このようなポリイミドフィルムの表面改質技術の具体例としては、例えば、芳香族ポリイミドフィルムを低温プラズマ処理により改質する方法(例えば、特許文献1参照)、および少なくとも20モル%以上の希ガス類元素を含有する100〜1000Torrのガス雰囲気下において、誘電体を被覆した電極とこれと対向する誘電体で被覆した電極との間に印加された高電圧によって形成される放電によってポリイミドフィルムを処理する方法(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
厚みが20〜125μmの範囲にある芳香族ポリイミド中に微粒子状の無機フィラーが分散された芳香族ポリイミドフィルムを、少なくとも一方の側の表面における元素組成中の無機フィラーの金属元素の量が0.03〜0.5原子%増加し、かつその表面における酸素 /炭素 比 が0.01〜0.20増加するようにプラズマ放電処理することによってフィルム表面を改質すること(特許文献3参照)も提案されている。
しかしながら、これらの方法によれば、ポリイミドフィルム表面の接着性はある程度は改善されるものの、依然として接着性は不充分であり、品質的にも一定のものが得られ難く、その処理方法においても煩雑であって、さらに時間の経過によってもその性質が変化するなどの課題を抱えている。
【0003】
【特許文献1】特開昭61−141532号公報
【特許文献2】特開平01−138242号公報
【特許文献3】特開平11−209488号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ポリイミドフィルム表面の接着性が高く、さらに経時的にもその性質が変化せず品質的に安定なポリイミドフィルムを提供し、しかも、簡便な処理方法で提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らはポリイミドフィルムを製造する際に、得られるポリイミドフィルムの表面性状が、特定のロールを使用することで、表面接着性が改善されることを見出すことによりなされたものである。
すなわち本発明は、下記の構成からなる。
1. ポリイミドフィルムの少なくとも片面の表面における炭素元素(C)に対する酸素元素(O)の原子数比(O/C比)が、内層でのO/C比に対して、0.60〜0.95倍であることを特徴とするポリイミドフィルム。
2. 表面における炭素元素(C)に対する酸素元素(O)の原子数比(O/C比)が、フィルム内層でのO/C比に対して、0.70〜0.90倍である前記1.に記載のポリイミドフィルム。
3. ポリイミドフィルムが、芳香族テトラカルボン酸類とベンゾオキサゾール構造を有するジアミン類との縮合から得られるポリイミドベンゾオキサゾールを主成分とするポリイミドフィルムである前記1又は2に記載のポリイミドフィルム。
4. ポリイミドの炭素元素(C)に対する酸素元素(O)の原子数比(O/C比)より小さいO/C比のゴムを用いたゴムロールに、ポリイミドフィルムを複数回接触させることを特徴とする前記1.〜3.のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明のポリイミドフィルムは、フィルム表面のO/C比が、内層でのO/C比に対して、0.60〜0.95倍であることにより、フィルム表面の接着性が高められる。しかも、その製造方法は、極めて簡便であって、品質的にも一定で、さらには経時的もその性質が変化しない特徴を有する。
得られるポリイミドフィルムは、ポリイミドの優れた点を保持したままのフィルムであるため、金属層付き接着シート、金属箔積層フィルムの基材フィルムなどに極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明のポリイミドフィルムは、芳香族テトラカルボン酸類(無水物、酸、およびアミド結合性誘導体を総称して類という、以下同)と芳香族ジアミン類(アミン、およびアミド結合性誘導体を総称して類という、以下同)とを反応させて得られるポリアミド酸溶液を流延、乾燥、熱処理(イミド化)してフィルムとなす方法で得られるポリイミドフィルムである。これらの溶液に用いられる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。
本発明におけるポリイミドフィルムは、特に限定されるものではないが、下記の芳香族
ジアミン類と芳香族テトラカルボン酸(無水物)類との組み合わせが好ましい例として挙
げられる。
A.ピロメリット酸残基を有する芳香族テトラカルボン酸類、ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類との組み合わせ。
B.フェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類とビフェニルテトラカルボン酸骨格を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
C.ジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミン類とピロメリット酸残基を有する芳香族テトラカルボン酸類との組み合わせ。
中でも特にA.のベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン残基を有するポリイ
ミドフィルムを製造するための組み合わせが好ましい。
本発明におけるジアミノジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミン類としては、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル(DADE)、3,3′−ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4′−ジアミノジフェニルエーテルおよびそれらの誘導体が挙げられ、本発明におけるフェニレンジアミン骨格を有する芳香族ジアミン類としては、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミンおよびそれらの誘導体が挙げられ、本発明におけるベンザオキサゾ−ル骨格を有するジアミンとしては、下記具体例で示すジアミンが挙げられるが、これらのジアミンは全ジアミンの70モル%以上より好ましくは80モル%以上使用することが好ましい。

ベンゾオキサゾール構造を有する芳香族ジアミン類の分子構造は特に限定されるものではなく、具体的には以下のものが挙げられる。
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

【0010】
【化3】

【0011】
【化4】

【0012】
【化5】

【0013】
【化6】

【0014】
【化7】

【0015】
【化8】

【0016】
【化9】

【0017】
【化10】

【0018】
【化11】

【0019】
【化12】

【0020】
【化13】

【0021】
これらの中でも、合成のし易さの観点から、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールの各異性体が好ましく、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾールがより好ましい。ここで、「各異性体」とは、アミノ(アミノフェニル)ベンゾオキサゾールが有する2つアミノ基が配位位置に応じて定められる各異性体である(例;上記「化1」〜「化4」に記載の各化合物)。これらのジアミンは、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明においては、全ジアミンの30モル%以下であれば下記に例示されるジアミン類を一種または二種以上を併用しても構わない。そのようなジアミン類としては、例えば、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、m−アミノベンジルアミン、p−アミノベンジルアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ブタン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3−メチルフェニル]プロパン、2−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−2−[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)−3,5−ジメチルフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,4−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、4,4’−ビス[(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホキシド、4,4’−ビス[3−(4−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)ベンゾイル]ジフェニルエーテル、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾフェノン、4,4’−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ジフェニルスルホン、ビス[4−{4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ}フェニル]スルホン、1,4−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェノキシ−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−トリフルオロメチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−フルオロフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−メチルフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、1,3−ビス[4−(4−アミノ−6−シアノフェノキシ)−α,α−ジメチルベンジル]ベンゼン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−フェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4,5’−ジビフェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−5−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−4−ビフェノキシベンゾフェノン、3,4’−ジアミノ−5’−ビフェノキシベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−フェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノ−4−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノ−5−ビフェノキシベンゾイル)ベンゼン、2,6−ビス[4−(4−アミノ−α,α−ジメチルベンジル)フェノキシ]ベンゾニトリルおよび上記芳香族ジアミンの芳香環上の水素原子の一部もしくは全てがハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基またはアルコキシル基、シアノ基、またはアルキル基またはアルコキシル基の水素原子の一部もしくは全部がハロゲン原子で置換された炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基またはアルコキシル基で置換された芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0023】
<芳香族テトラカルボン酸無水物類>
本発明で用いられる芳香族テトラカルボン酸無水物類としては、具体的には、以下のものが挙げられる。
【0024】
【化14】

【0025】
【化15】

【0026】
【化16】

【0027】
【化17】

【0028】
【化18】

【0029】
【化19】

【0030】
これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0031】
本発明においては、全テトラカルボン酸二無水物の30モル%以下であれば下記に例示される非芳香族のテトラカルボン酸二無水物類を一種または二種以上を併用しても構わない。そのようなテトラカルボン酸無水物としては、例えば、ブタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ペンタン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン−1,2,4,5−テトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサ−1−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−メチル−3−エチルシクロヘキサ−1−エン−3−(1,2),5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−エチルシクロヘキサン−1−(1,2),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1−プロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3,4−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ジプロピルシクロヘキサン−1−(2,3),3−(2,3)−テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0032】
芳香族テトラカルボン酸類と芳香族ジアミン類とを反応(重合)させてポリアミド酸を得るときに用いる溶媒は、原料となるモノマーおよび生成するポリアミド酸のいずれをも溶解するものであれば特に限定されないが、極性有機溶媒が好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N−アセチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホリックアミド、エチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、スルホラン、ハロゲン化フェノール類等があげられる。これらの溶媒は、単独あるいは混合して使用することができる。溶媒の使用量は、原料となるモノマーを溶解するのに十分な量であればよく、具体的な使用量としては、モノマーを溶解した溶液に占めるモノマーの質量が、通常5〜40質量%、好ましくは10〜30質量%となるような量が挙げられる。
【0033】
ポリアミド酸を得るための重合反応(以下、単に「重合反応」ともいう)の条件は従来公知の条件を適用すればよく、具体例として、有機溶媒中、0〜80℃の温度範囲で、10分〜30時間連続して撹拌および/または混合することが挙げられる。必要により重合反応を分割したり、温度を上下させてもかまわない。この場合に、両モノマーの添加順序には特に制限はないが、芳香族ジアミン類の溶液中に芳香族テトラカルボン酸無水物類を添加するのが好ましい。重合反応によって得られるポリアミド酸溶液に占めるポリアミド酸の質量は、好ましくは5〜40質量%、より好ましくは10〜30質量%であり、前記溶液の粘度はブルックフィールド粘度計による測定(25℃)で、送液の安定性の点から、好ましくは10〜2000Pa・sであり、より好ましくは100〜1000Pa・sである。
【0034】
重合反応中に真空脱泡することは、良質なポリアミド酸溶液を製造するのに有効である。また、重合反応の前に芳香族ジアミン類に少量の末端封止剤を添加して重合を制御することを行ってもよい。末端封止剤としては、無水マレイン酸等といった炭素−炭素二重結合を有する化合物が挙げられる。無水マレイン酸を使用する場合の使用量は、芳香族ジアミン類1モル当たり好ましくは0.001〜1.0モルである。
重合反応により得られるポリアミド酸溶液から、ポリイミドフィルムを形成するためには、ポリアミド酸溶液を支持体上に塗布して乾燥することによりグリーンフィルム(自己支持性の前駆体フィルムを得て、次いで、グリーンフィルムを熱処理に供することでイミド化反応させる方法が挙げられる。支持体へのポリアミド酸溶液の塗布は、スリット付き口金からの流延、押出機による押出し、等を含むが、これらに限られず、従来公知の溶液の塗布手段を適宜用いることができる。
【0035】
支持体上に塗布したポリアミド酸を乾燥してグリーンシートを得る条件は特に限定はなく、温度としては70〜150℃が例示され、乾燥時間としては、5〜180分間が例示される。そのような条件を達する乾燥装置も従来公知のものを適用でき、熱風、熱窒素、遠赤外線、高周波誘導加熱などを挙げることができる。次いで、得られたグリーンシートから目的のポリイミドフィルムを得るために、イミド化反応を行わせる。その具体的な方法としては、従来公知のイミド化反応を適宜用いることが可能である。例えば、閉環触媒や脱水剤を含まないポリアミド酸溶液を用いて、必要により延伸処理を施した後に、加熱処理に供することでイミド化反応を進行させる方法(所謂、熱閉環法)が挙げられる。この場合の加熱温度は100〜500℃が例示され、フィルム物性の点から、より好ましくは、150〜250℃で3〜20分間処理した後に350〜500℃で3〜20分間処理する2段階熱処理が挙げられる。
【0036】
別のイミド化反応の例として、ポリアミド酸溶液に閉環触媒および脱水剤を含有させておいて、上記閉環触媒および脱水剤の作用によってイミド化反応を行わせる、化学閉環法を挙げることもできる。この方法では、ポリアミド酸溶液を支持体に塗布した後、イミド化反応を一部進行させて自己支持性を有するフィルムを形成した後に、加熱によってイミド化を完全に行わせることができる。この場合、イミド化反応を一部進行させる条件としては、好ましくは100〜200℃による3〜20分間の熱処理であり、イミド化反応を完全に行わせるための条件は、好ましくは200〜400℃による3〜20分間の熱処理である。
【0037】
ポリイミドフィルムは、片面又は両面の表面における炭素元素(C)に対する酸素元素(O)の原子数比(O/C比)が、内層でのO/C比に対して、0.60〜0.95倍であり、好ましくは0.65〜0.90倍である。0.60倍未満であると、表層への付着量が過多となり、逆に接着性を低下させてしまう。また0.95倍を超えると効果が小さく、接着性が乏しい。
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、特定の材質のゴムロールと複数回接触させることによって製造することができる。
ゴムロールの材質としては、ポリイミドよりO/C比の小さい、すなわちポリイミドより炭素リッチな化合物やオリゴマーがわずかに浸出するような材質のロール(例えばブチル系ゴムロール)を使用することが好ましい。
具体的には、イミド化の終了したポリイミドフィルムから表面埃や付着物を除去する工程において、清掃用ロールとして上記ロールに接触走行させてロールにその表面埃や付着物を転写させるとともに、本発明の表面処理を実施するのが好ましい。
ロールによる処理回数(スキージ回数)は、2〜99回が好ましく、より好ましくは5〜50回、さらに好ましくは10〜40回である。1回のみでは表層のO/C比の低下不十分になる場合があり、100回にもなると不経済であるとともに、表層のO/C比が低くなりすぎ、接着性が逆に低下することになる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は、前記したもの以外は以下の通りである。
【0039】
(炭素元素(C)に対する酸素元素(O)の原子数比(O/C比)の測定)
以下に示すESCA測定法によって測定した。
すなわち、測定フィルムを試料ホルダ上に導電性両面テープで固定し、予備排気室で十分に排気した後、測定室チャンバー内に投入しCCDカメラで測定位置を確定した。X線源としてAl Kα1,2を用い、出力は14kV、25mAに設定した。検出器のパスエネルギーは11.75eV、光電子の脱出角度は45度とした。測定は0.1eVピッチで行い,測定時間は1ピッチあたり100msとし50回以上積算を行った。また測定中試料チャンバー内の真空度を1×10−7Paから1×10−8Paの間に保った。測定時の帯電に伴うピークの補正として、C1sの主ピークの結合エネルギー値を284.8eVに合わせた。
C1sピーク面積(炭素量)は結合エネルギー282〜298eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求め、O1sピーク面積(酸素量)は、526〜540eVの範囲でShirley法のバックグラウンドを引くことにより求めた。バックグラウンドを引く際の2端点強度はそれぞれの端点付近の10点の強度を数値平均した値を用いた。
酸素/炭素の原子数比(O/C比)は、上記O1sピーク面積に対するC1sピーク面積の比を、装置固有の感度補正値で割ることにより算出した原子数比で表した。なお、本実施例ではX線光電子分光測定装置としてアルバック・ファイ社製、「ESCA−5801MC」を用い、かかる装置固有の感度補正値は2.40であった
試料内層の分析は、表面部位を物理的に除去した後、ESCA測定を実施することで実現した。表面部位の除去にはSAICAS DN型(ダイプラウインテス株式会社製)を使用した。ナイフはダイアモンドナイフを使用した。切削は水平速度500nm/min、垂直速度20nm/minで斜め切削し、所定の深さ200nmに達したところで、垂直速度を0nm/minとし、水平切削を実施し、表面部位を除去した。
【0040】
(剥離強度の測定)
測定対象の金属積層ポリイミドフィルムにマスキングテープを貼り付け、塩化第二鉄水溶液にてマスキングされていない部分の銅層をエッチング除去することで線幅3mmのパターンに加工した後、90度方向に引き剥がしたときに要する強度を以って剥離強度とした。常温での測定を剥離強度とした。JIS C6418に準じて引張試験機(株式会社島津製作所製、オートグラフ(商品名)機種名AG−5000A)を用いて行った。
【0041】
〔ポリアミド酸溶液の重合例1〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾオキサゾール223質量部、N,N−ジメチルアセトアミド4416質量部を加えて完全に溶解させた後、コロイダルシリカをジメチルアセトアミドに分散してなるスノーテックス(登録商標)DMAC−ST30(日産化学工業株式会社製)40.5質量部(シリカを8.1質量部含む)、ピロメリット酸二無水物217質量部を加え、25℃の反応温度で24時間攪拌すると、褐色で粘調なポリアミド酸溶液Aが得られた。このもののηsp/Cは3.9dl/gであった。
【0042】
〔ポリアミド酸溶液の重合例2〕
窒素導入管、温度計、攪拌棒を備えた容器の接液部、および輸液用配管はオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lである反応容器内を窒素置換した後、200質量部のジアミノジフェニルエーテルを入れた。次いで、4200質量部のN−メチル−2−ピロリドンを加えて完全に溶解させてから、217質量部のピロメリット酸二無水物を加えて、25℃にて5時間攪拌すると、褐色の粘調なポリアミド酸溶液が得られた。この還元粘度(ηsp/C)は3.7dl/gであった。
【0043】
〔製造例1〕
重合例1で得たポリアミド酸溶液Aを、ポリエチレンテレフタレート製フィルムA−4100(東洋紡績(株)製)の無滑剤面上に、コンマコーターを用いてコーティングし、4つの乾燥ゾーンを有する連続式乾燥炉に通して、温度90℃、各15分間で合計60分間乾燥した。
乾燥後に自己支持性となったポリアミド酸フィルムをポリエステルフィルムから剥離して、両端をカットし、幅1200mmのそれぞれのグリーンフィルムを得た。
得られたグリーンフィルムを、ピンテンターにて両端を把持した状態で窒素置換された連続式の熱処理炉に通し、第1段が170℃で3分間乾燥し、昇温速度4℃/秒で昇温して第2段として450℃で7分間の条件で2段階の加熱を施して、イミド化反応を進行させた。その後、5分間で室温にまで冷却することで、褐色を呈する厚さ20μmのポリイミドフィルム(F1)を得た。
【0044】
〔製造例2〕
重合例2で得たポリアミド酸溶液を、ポリエチレンテレフタレート製フィルムA−4100(東洋紡績(株)製)の無滑剤面上に、コンマコーターを用いてコーティングし(ギャップは、200μm、塗工幅1240mm)、4つの乾燥ゾーンを有する連続式乾燥炉に通して、温度90℃、各15分間で合計60分間乾燥し、以下製造例1と同様にして褐色を呈する厚さ15μmのポリイミドフィルム(F2)を得た。
【0045】
(実施例1)
製造例1にて得られたポリイミドフィルムの片面に、ブチルゴムからなるゴムロールで10回スキージを行なった。得られたポリイミドフィルム表面のO/C比は最表面層で0.200、内層では0.227であった。
上記ポリイミドフィルムと厚さ12μmの銅(USLP−SE、日本電解株式会社製)とをアクリル系接着剤(パイララックスLF:デュポン製)を用いて、ロール加熱温度100℃、ロール接圧6MPa、送り速度1m/分にて積層した。その後、ヒートプレス機にて180℃、10MPaにて2時間処理することにより接着剤を硬化させた。このフィルムを250mm×400mmに切り出すことで、金属積層ポリイミドフィルムを得た。得られた金属積層ポリイミドフィルムをパターン加工し、剥離強度の測定を実施した。得られた金属積層フィルムの特性などを表1に示す。
【0046】
(実施例2)
ゴムロールによるスキージ回数を20回とした以外は実施例1と同様にして、金属積層ポリイミドフィルムを得た。スキージ後のポリイミドフィルム表面のO/C比は最表面層で0.179、内層では0.226であった。得られた金属積層フィルムの特性などを表1に示す。
【0047】
(実施例3)
ゴムロールによるスキージ回数を40回とした以外は実施例1と同様にして、金属積層ポリイミドフィルムを得た。スキージ後のポリイミドフィルム表面のO/C比は最表面層で0.143、内層では0.227であった。得られた金属積層フィルムの特性などを表1に示す。
【0048】
(実施例4)
ゴムロールによるスキージを両面にそれぞれ10回とした以外は実施例1と同様にして、金属積層ポリイミドフィルムを得た。スキージ後のポリイミドフィルム表面のO/C比は最表面層で0.203、内層では0.225であった。得られた金属積層フィルムの特性などを表1に示す。
【0049】
(実施例5)
ゴムロールによるスキージ回数を20回とした以外は実施例4と同様にして、金属積層ポリイミドフィルムを得た。スキージ後のポリイミドフィルム表面のO/C比は最表面層で0.169、内層では0.225であった。得られた金属積層フィルムの特性などを表1に示す。
【0050】
(実施例6)
ゴムロールによるスキージ回数を40回とした以外は実施例4と同様にして、金属積層ポリイミドフィルムを得た。スキージ後のポリイミドフィルム表面のO/C比は最表面層で0.138、内層では0.227であった。得られた金属積層フィルムの特性などを表1に示す。
【0051】
(実施例7)
ポリイミドフィルムとして製造例2で得られたフィルムを用いたこと以外は実施例1と同様にして、金属積層ポリイミドフィルムを得た。スキージ後のポリイミドフィルム表面のO/C比は最表面層で0.199、内層では0.226であった。得られた金属積層フィルムの特性などを表1に示す。
【0052】
(比較例1)
ゴムロールによるスキージを行なわなかったこと以外は実施例1と同様にして、金属積層ポリイミドフィルムを得た。ポリイミドフィルム表面のO/C比は最表面層で0.226、内層では0.226であった。得られた金属積層フィルムの特性などを表1に示す。
【0053】
(比較例2)
ゴムロールによるスキージ回数を1回とした以外は実施例1と同様にして、金属積層ポリイミドフィルムを得た。スキージ後のポリイミドフィルム表面のO/C比は最表面層で0.220、内層では0.227であった。得られた金属積層フィルムの特性などを表1に示す。
【0054】
(比較例3)
ゴムロールによるスキージ回数を100回とした以外は実施例1と同様にして、金属積層ポリイミドフィルムを得た。スキージ後のポリイミドフィルム表面のO/C比は最表面層で0.126、内層では0.225であった。得られた金属積層フィルムの特性などを表1に示す。
【0055】
(比較例4)
製造例1にて得られたポリイミドフィルムの片面に、ブチルゴムからなるゴムロールで40回スキージを行なった。得られたポリイミドフィルム表面のO/C比は最表面層で0.200、内層では0.227であった。
このポリイミドフィルムをメタノールに10分間浸漬して洗浄した。1終夜真空乾燥機にて乾燥させた後のポリイミドフィルムの、表面のO/C比は最表面層で0.224、内層では0.226であった。
このメタノール洗浄を施したポリイミドフィルムと厚さ12μmの銅(USLP−SE、日本電解株式会社製)とをアクリル系接着剤(パイララックスLF:デュポン製)を用いて、ロール加熱温度100℃、ロール接圧6MPa、送り速度1m/分にて積層した。その後、ヒートプレス機にて180℃、10MPaにて2時間処理することにより接着剤を硬化させた。このフィルムを250mm×400mmに切り出すことで、金属積層ポリイミドフィルムを得た。得られた金属積層ポリイミドフィルムをパターン加工し、剥離強度の測定を実施した。得られた金属積層フィルムの特性などを表1に示す。
【0056】
(比較例5)
ゴムロールによるスキージを行なわなかったこと以外は実施例7と同様にして、金属積層ポリイミドフィルムを得た。ポリイミドフィルム表面のO/C比は最表面層で0.226、内層では0.225であった。得られた金属積層フィルムの特性などを表1に示す。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のポリイミドフィルムは、簡便な表面処理で安定した品質的で得ることができ、しかも、ポリイミドの優れた特徴を保持したままで接着性が向上したフィルムであるため、金属層付き接着シート、金属箔積層フィルムの基材フィルムなどに有用であり、特にフレキシブルプリント基板など回路基板として極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドフィルムの少なくとも片面の表面における炭素元素(C)に対する酸素元素(O)の原子数比(O/C比)が、内層でのO/C比に対して、0.60〜0.95倍であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項2】
表面における炭素元素(C)に対する酸素元素(O)の原子数比(O/C比)が、フィルム内層でのO/C比に対して、0.70〜0.90倍である請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
ポリイミドフィルムが、芳香族テトラカルボン酸類とベンゾオキサゾール構造を有するジアミン類との縮合から得られるポリイミドベンゾオキサゾールを主成分とするポリイミドフィルムである請求項1又は2に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
ポリイミドの炭素元素(C)に対する酸素元素(O)の原子数比(O/C比)より小さいO/C比のゴムを用いたゴムロールに、ポリイミドフィルムを複数回接触させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミドフィルムの製造方法。

【公開番号】特開2010−100671(P2010−100671A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270698(P2008−270698)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】