説明

ポリイミドフィルム

【課題】フィルム表層とフィルム内部との構造に差がなく、均一な構造を有し、寸法安定性に優れた回路基板を形成することが可能なポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】励起波長を1064nm、レーザースポットを1〜2μm、波数分解能(サンプリング間隔)を1cm−1以上に設定したラマン分光分析により、1610〜1630cm−1付近のラマンスペクトルバンドの半値幅(Δw)を測定した際に、フィルム内部とフィルム表層とのΔwの差が1.3cm−1以内であるポリイミドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミドフィルムに関するものであり、さらに詳しくは、フィルム表層とフィルム内部との構造に差がなく均一な構造を有しており、物性ばらつきが小さく、寸法安定性に優れた回路基板を形成することが可能なポリイミドフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐熱フィルムは種々の用途に広く用いられているが、とりわけ半導体や実装回路基板用途に幅広く使用されている。このような耐熱フィルムの代表としては、ポリイミドフィルムが挙げられる。ポリイミドフィルムの代表的なものは、ピロメリット酸ニ無水物と4,4'−ジアミノジフェニルエーテルからなるポリイミド、ビフェニルテトラカルボン酸とパラフェニレンジアミンからなるポリイミドなどからなるフィルムである。そして、これらのポリイミドからなるフィルムは機械的、熱的特性のバランスに優れた構造であり、汎用の製品として広く工業的に用いられている。
【0003】
ポリイミドフィルムを製造するに際しては、通常前駆体としてのポリアミック酸をイミド化する工程を踏むが、ポリアミック酸を十分イミド化するためには高温での加熱が必要となる。しかるに、この高温での加熱の際に、フィルムの表層と内部とで熱履歴に差が生じ、表層と内部とでイミド化率や分子の配向状態に差が生じる。そのため、出来上がったポリイミドフィルムの表層と内部とでは、強度、伸度、弾性率などの物性に差が生じてしまっていた。この表層と内部との物性差は、ポリイミドフィルム単体では識別することが困難であるが、ポリイミドフィルムを用いて回路基板を形成する際には、基板の反りやゆがみなどの好ましくない現象として現れていた。
【0004】
なお、無機充填剤を加えることにより、意図的にポリイミドフィルムの表層と内部とに差をつける方法(例えば、特許文献1参照)などは知られているが、逆にポリイミドフィルムの表層と内部との構造の均一についての有効な指標は存在していなかったのが実情である。
【特許文献1】特開平5−28458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものであり、フィルム表層とフィルム内部との構造に差がなく均一な構造を有しており、物性ばらつきが小さく、寸法安定性に優れた回路基板を形成することが可能なポリイミドフィルムの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明によれば、励起波長を1064nm、レーザースポットを1〜2μm、波数分解能(サンプリング間隔)を1cm−1以上に設定したラマン分光分析により、1610〜1630cm−1付近のラマンスペクトルバンドの半値幅(Δw)を測定した際に、フィルム内部とフィルム表層とのΔwの差が1.3cm−1以内であることを特徴とするポリイミドフィルムが提供される。
【0007】
なお、本発明のポリイミドフィルムにおいては、
1560cm−1の測定点と1660cm−1の測定点を結ぶ直線をベースラインと定め、このベースラインを基準にラマン強度を読みとり、1610cm−1〜1630cm−1付近のラマンバンドの最大強度をlmaxとした時、1560cm−1〜1660cm−1までの領域で強度がlmax/2となる2つの測定点の間隔を半値幅Δwと定義し、この半値幅Δwが1.3cm−1以内であること、
フィルム厚みが5μm以上225μm以下であること、
ポリイミドのジアミン成分の50%以上がジアミノジフェニルエーテルであること、
ポリイミドフィルムの酸成分の50%以上がピロメリット酸であること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下に説明するとおり、フィルム表層とフィルム内部との構造に差がなく均一な構造を有しており、強度、伸度、弾性率などの物性ばらつきが小さく、寸法安定性に優れ反りやゆがみが発生しない回路基板を形成することが可能なポリイミドフィルムを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明のポリイミドフィルムについて具体的に説明する。
【0010】
本発明の特徴は、ラマン分光分析により半値幅(Δw)を測定し、フィルムの内部と表層との△wの差が一定範囲内となるように規定することにある。
【0011】
ラマン分光分析としては、一般的なラマン分光分析でもよいが、好ましくは顕微鏡ラマン分光分析により、レーザースポットを微細にするのがよい。ここで、レーザースポットは1〜2μmが選ばれる。レーザースポットが大きすぎると正確な半値幅を掴むことができず、逆にレーザースポットが小さすぎると誤差が発生しやすくなるため、1〜2μmが好ましい。
【0012】
また、ラマン分光分析に使用する励起波長は1064nm、波長分解能(サンプリング間隔)は1cm−1 以上とすることも重要である。これらの設定を変更すると、分解能が得られるデータが正確で無いため、正確な半値幅を議論することができなくなる。
【0013】
次に、半値幅(Δw)の測定方法について説明する。本発明においては、1610〜1630cm−1付近に現れる芳香環起因のピークの半値幅を用いる。まずベースラインであるが、1560cm−1の測定点と1660cm−1の測定点を結ぶ直線をベースラインと定める。次に、このベースラインを基準にピークの最大強度を読みとり、この時の値をlmaxとする。それから1560〜1660cm−1までの領域でlmaxの半分の値、すなわちlmax/2となる2つの測定点を決める。最後に、このlmax/2となる2つの測定点の間隔を半値幅(Δw)と定める。
【0014】
ここで、半値幅(Δw)は、ポリイミドフィルムの表層と内部との構造の差を示している。すなわち、Δwの値が小さいほど構造の差も小さくなり、均一なフィルムであることを示している。通常、ポリイミドフィルムはイミド化しながら製膜する方法を取るため、どうしても表層と内部とで差が生じ、完全に均一なフィルムを得ることは困難であるが、この表層と内部との差を一定範囲に収めることで、実用上反りやひずみ等が問題とならないポリイミドフィルムを得ることが可能となる。具体的には、Δwが0cm−1以上1.3cm−1以内、より好ましくは0cm−1以上1.0cm−1以内であるのが好ましい。半値幅が1.3cm−1を超えると、表層と内部の差が無視できなくなるため好ましくない。
【0015】
本発明のポリイミドフィルムは、通常酸二無水物成分とジアミン成分との反応によって得られるポリアミック酸を更にイミド化反応させて合成されるものである。ポリイミドフィルムの合成に使用される酸二無水物成分及びジアミン成分の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0016】
(1)酸二無水物
ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンジカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ピリジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−デカヒドロナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,5,6−ヘキサヒドロナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロロ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロロ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テトラクロロ−1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,8,9,10−フェナントレンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、3,4,3',4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物等。
【0017】
(2)ジアミン
4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,3'−ジアミノジフェニルエーテル、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、4,4'−ジアミノジフェニルプロパン、3,4'−ジアミノジフェニルプロパン、3,3'−ジアミノジフェニルプロパン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジアミノジフェニルメタン、ベンチジン、4,4'−ジアミノジフェニルサルファイド、3,4'−ジアミノジフェニルサルファイド、3,3'−ジアミノジフェニルサルファイド、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、2,6−ジアミノピリジン、ビス−(4−アミノフェニル)ジエチルシラン、3,3'−ジクロロベンチジン、ビス−(4−アミノフェニル)エチルホスフィノキサイド、ビス−(4−アミノフェニル)フェニルホスフィノキサイド、ビス−(4−アミノフェニル)−N−フェニルアミン、ビス−(4−アミノフェニル)−N−メチルアミン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、3,4'−ジメチル−3',4−ジアミノビフェニル3,3'−ジメトキシベンチジン、2,4−ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、p−ビス(2−メチル−4−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス−(1,1−ジメチル−5−アミノペンチル)ベンゼン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、1,3−ジアミノアダマンタン、3,3'−ジアミノ−1,1'−ジアミノアダマンタン、3,3'−ジアミノメチル1,1'−ジアダマンタン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、3−メチルヘプタメチレンジアミン、4,4'−ジメチルヘプタメチレンジアミン、2,11−ジアミノドデカン、1,2−ビス(3−アミノプロポキシ)エタン、2,2−ジメチルプロピレンジアミン、3−メトキシヘキサエチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘプタメチレンジアミン、5−メチルノナメチレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,12−ジアミノオクタデカン、2,5−ジアミノ−1,3,4−オキサジアゾール、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、N−(3−アミノフェニル)−4−アミノベンズアミド、4−アミノフェニル−3−アミノベンゾエート等。
【0018】
これらの酸二無水物及びジアミンの中では、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ジアミノジフェニルエーテル、フェニレンジアミンなどを適宜用いて合成するのがよい。極端に反応の速い酸無水物やジアミンを用いると、分子量のばらつきが大きくなり、構造の違いを生じやすいので好ましくない。また、極端に反応の遅い酸無水物やジアミンを用いると、分子量が上がらず、やはり構造の違いを生じやすい。それ故、ピロメリット酸二無水物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ジアミノジフェニルエーテル、フェニレンジアミンなどを適宜用いるのがよい。これらの酸二無水物及びジアミンを用いることにより、表層と内部とで差がないポリイミドフィルムを得ることが可能となる。
【0019】
ポリイミドフィルムを合成する際には、通常まず酸二無水物とジアミンとを溶媒中で反応させ、しかる後にフィルム形状にしながら溶媒除去とイミド化反応を同時に実施する。この時に用いる溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が挙げられるが、これらに限定されない。また、ポリイミドを合成する際には、第三級アミン類に代表される各種触媒、有機カルボン酸無水物に代表される各種脱水剤等を適宜使用してもよい。
【0020】
ポリイミドフィルムの厚みについては特に限定されないが、好ましくは5〜225μm、より好ましくは5〜175μmである。あまり厚すぎるとどうしても表層と内部とで構造の差が生じてしまう。また、あまり薄すぎるとポリイミドフィルムの機械的強度に問題が生じるため好ましくない。
【0021】
次に、本発明のポリイミドフィルム合成の一般的な手順について説明するが、手順についてはこれらに限定されない。
【0022】
まず、酸二無水物とジアミンとを等モルずつ混合し、溶媒中で反応させる。反応が進むに連れて、分子量が上がるため、粘度が上昇する。適当な粘度になったところで各種触媒や脱水剤を添加する。次に、キャスティングベルト或いはキャスティングドラム上に流延してフィルム状にすると共に、ある一定レベル以下まで溶媒を除去する。この際、表層と内部とに差が生じないようにするため、キャスティングベルト或いはキャスティングドラムの温度は100℃以下に設定する。その後、キャスティングベルト或いはキャスティングドラムから引き剥がし、得られたフィルムをオーブン内で徐々に加熱していき、溶媒除去とイミド化を行うことにより、ポリイミドフィルムを得る。加熱の際に、急激に温度を上げると表層だけが先にイミド化が進むため、少しずつ温度勾配をつけながら加熱していくことが望ましい。加熱方法としては、熱風とラジエーションヒーターとを適当に使い分け、更に反射板を用いて効率よく均一に熱がかかるようにする。加熱の最終温度については特に限定されないが、表層と内部との差を小さくするためには、最終温度を400℃以上、好ましくは500℃以上とすることが好ましい。このように温度勾配をつけながら徐々に加熱することにより、表層と内部との差をなくし、均一なポリイミドフィルムを得ることが可能となる。
【0023】
かくして得られる本発明のポリイミドフィルムは、フィルム表層とフィルム内部との構造に差がなく均一な構造を有しており、強度、伸度、弾性率などの物性ばらつきが小さいため、寸法安定性に優れ反りやゆがみが発生しない回路基板を形成することが可能である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例にて本発明のポリイミドフィルムについて更に具体的に説明するが、以下の実施例における物性値は下記の方法により測定した。
【0025】
[半値幅(Δw)]
ラマン分光装置として、フォトンデザイン社製PDP320を用いた。励起波長を1064nmとし、顕微ラマンを用いてレーザースポットを1〜2μmとし、波長分解能(サンプリング間隔)を1cm-1以上とし、1610〜1630cm-1付近のラマンバンドの半値幅(Δw)を読みとった。
【0026】
[強度ばらつき]
JIS C 2318の規定に準じて引っ張り強度を測定した。サンプル数を30とし、30のサンプルの測定結果から算出される標準偏差を強度ばらつきとした。
【0027】
[伸度ばらつき]
JIS C 2318の規定に準じて引っ張り伸度を測定した。サンプル数を30とし、30のサンプルの測定結果から算出される標準偏差を伸度ばらつきとした。
【0028】
[弾性率ばらつき]
ASTM D882の規定に準じて引っ張り弾性率を測定した。サンプル数を30とし、30のサンプルの測定結果から算出される標準偏差を弾性率ばらつきとした。
【0029】
[線膨張係数ばらつき]
温度範囲を50〜200℃、昇温速度を10℃/分として線膨張係数を測定した。サンプル数を30とし、30のサンプルの測定結果から算出される標準偏差を線膨張係数ばらつきとした。
【0030】
[実施例1]
酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物を用いた。また、ジアミン成分としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンとを用いた。ここで、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンとのモル比は1:1とした。また、酸二無水物とジアミンとがモル比で1:1となるようにした。溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを用いた。ピロメリット酸二無水物218.1g(1.0mol)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル100.1g(0.5mol)、パラフェニレンジアミン54.1g(0.5mol)とからなるポリイミドをN,N−ジメチルホルムアミド溶媒中に溶解し、ポリアミック酸状態に合成した。このポリアミック酸溶液に触媒として無水酢酸とβ−ピコリンとをそれぞれ0.3重量%ずつ加えた後、キャスティングベルト上に乾燥膜厚で75μmになるように塗布し、ベルト上で50℃で1分加熱することにより、自己支持性を有するフィルムを得た。
【0031】
次に、この自己支持性を有するフィルムをキャスティングベルトから剥離し、ピンによりフィルムの両端を固定した。固定後、加熱炉内に搬送し、100℃×1分、200℃×1分、300℃×1分、400℃×1分、500℃×1分、600℃×1分加熱処理した。この際、最初の2分は主として熱風により加熱し、溶媒除去とポリアミック酸の分子量増加を促進させた。後半の4分は主としてラジエーションヒーターを用い、イミド化反応を促進させた。ラジエーションヒーターで加熱する際には反射板を用い、フィルム全体に均一に熱をかけ、イミド化が均一に進むようにした。
【0032】
このようにして得られたポリイミドフィルムの表層と内部の構造をラマン分光分析によって比較した。結果は表1に示す通りであり、フィルム内部とフィルム表層とのΔwの差は0.7cm−1であった。
【0033】
このポリイミドフィルムについて、引っ張り強度、伸度、引っ張り弾性率、線膨張係数のばらつきを調べた結果は表1に示す通りであり、ばらつきが少なく、均一な物性のフィルムであった。
【0034】
[実施例2]
酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物を用いた。また、ジアミンとしては4,4’−ジアミノジフェニルエーテルを用いた。酸二無水物とジアミンとがモル比で1:1となるようにした。溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを用いた。ピロメリット酸二無水物218.1g(1.0mol)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル200.2g(1.0mol)とからなるポリイミドをN,N−ジメチルホルムアミド溶媒中に溶解し、ポリアミック酸状態に合成した。このポリアミック酸溶液に触媒として無水酢酸とβ−ピコリンとをそれぞれ0.3重量%ずつ加えた後にキャスティングドラム上に乾燥膜厚で125μmになるように塗布し、ドラム上で75℃で1分加熱することにより、自己支持性を有するフィルムを得た。
【0035】
次に、この自己支持性を有するフィルムをキャスティングドラムから剥離し、ピンによりフィルムの両端を固定した。固定後、加熱炉内に搬送し、100℃×30秒、150℃×1分、250℃×1分、350℃×1分、450℃×1分、550℃×1分、600℃×30秒加熱処理した。この際、最初の1分30秒は主として熱風により加熱し、溶媒除去とポリアミック酸の分子量増加を促進させた。後半の4分30秒は主としてラジエーションヒーターを用い、イミド化反応を促進させた。ラジエーションヒーターで加熱する際には反射板を用い、フィルム全体に均一に熱をかけ、イミド化が均一に進むようにした。
【0036】
このようにして得られたポリイミドフィルムの表層と内部の構造をラマン分光分析によって比較した結果は表1に示す通りであり、フィルム内部とフィルム表層とのΔwの差は0.3cm−1であった。
【0037】
このポリイミドフィルムについて、引っ張り強度、伸度、引っ張り弾性率、線膨張係数のばらつきを調べた結果は表1に示す通りであり、ばらつきが少なく、均一な物性のフィルムであった。
【0038】
[実施例3]
酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とを用いた。また、ジアミンとしては4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンとを用いた。酸二無水物とジアミンとがモル比で1:1となるようにした。溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミドを用いた。ピロメリット酸二無水物109.1g(0.5mol)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物147.1g(0.5mol)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル100.1g(0.5mol)、パラフェニレンジアミン54.1g(0.5mol)とからなるポリイミドをN,N−ジメチルホルムアミド溶媒中に溶解し、ポリアミック酸状態に合成した。このポリアミック酸溶液に触媒として無水酢酸とβ−ピコリンとをそれぞれ0.1重量%ずつ加えた後にキャスティングドラム上に乾燥膜厚で25μmになるように塗布し、ドラム上で50℃で2分加熱することにより、自己支持性を有するフィルムを得た。
【0039】
次に、この自己支持性を有するフィルムをキャスティングドラムから剥離し、ピンによりフィルムの両端を固定した。固定後、加熱炉内に搬送し、75℃×1分、100℃×1分、150℃×1分、200℃×1分、300℃×1分、400℃×1分、500℃×1分、600℃×1分加熱処理した。この際、最初の3分は主として熱風により加熱し、溶媒除去とポリアミック酸の分子量増加を促進させた。後半の4分30秒は主としてラジエーションヒーターを用い、イミド化反応を促進させた。ラジエーションヒーターで加熱する際には反射板を用い、フィルム全体に均一に熱をかけ、イミド化が均一に進むようにした。
【0040】
このようにして得られたポリイミドフィルムの表層と内部の構造をラマン分光分析によって比較した結果は表1に示す通りであり、フィルム内部とフィルム表層とのΔwの差は0.1cm−1であった。
【0041】
このポリイミドフィルムについて、引っ張り強度、伸度、引っ張り弾性率、線膨張係数のばらつきを調べた結果は表1に示す通りであり、ばらつきが少なく、均一な物性のフィルムであった。
【0042】
[実施例4]
酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物を用いた。また、ジアミン成分としては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを用いた。ここで、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとのモル比は1:1とした。また、酸二無水物とジアミンとがモル比で1:1となるようにした。溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミドを用いた。ピロメリット酸二無水物218.1g(1.0mol)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル100.1g(0.5mol)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル100.1g(0.5mol)とからなるポリイミドをN,N−ジメチルアセトアミド溶媒中に溶解し、ポリアミック酸状態に合成した。このポリアミック酸溶液に触媒として無水酢酸とβ−ピコリンとをそれぞれ0.2重量%ずつ加えた後にキャスティングベルト上に乾燥膜厚で12.5μmになるように塗布し、ベルト上で50℃で1分加熱することにより、自己支持性を有するフィルムを得た。
【0043】
次に、この自己支持性を有するフィルムをキャスティングベルトから剥離し、ピンによりフィルムの両端を固定した。固定後、加熱炉内に搬送し、75℃×1分、100℃×1分、150℃×1分、300℃×1分、450℃×1分、600℃×1分加熱処理した。この際、最初の3分は主として熱風により加熱し、溶媒除去とポリアミック酸の分子量増加を促進させた。後半の3分は主としてラジエーションヒーターを用い、イミド化反応を促進させた。ラジエーションヒーターで加熱する際には反射板を用い、フィルム全体に均一に熱をかけ、イミド化が均一に進むようにした。
【0044】
このようにして得られたポリイミドフィルムの表層と内部の構造をラマン分光分析によって比較した結果は表1に示す通りであり、フィルム内部とフィルム表層とのΔwの差は0.4cm−1であった。
【0045】
このポリイミドフィルムについて、引っ張り強度、伸度、引っ張り弾性率、線膨張係数のばらつきを調べた結果は表1に示す通りであり、ばらつきが少なく、均一な物性のフィルムであった。
【0046】
[比較例1]
実施例1において、加熱炉内での搬送の際の加熱を、200℃×1分、400℃×3分、600℃×1分に変更し、最初の1分は主として熱風により加熱し、溶媒除去とポリアミック酸の分子量増加を促進させ、後半の4分は主としてラジエーションヒーターを用い、イミド化反応を促進させた。ラジエーションヒーターで加熱する際には反射板を用いなかった。
【0047】
このようにして得られたポリイミドフィルムの表層と内部の構造をラマン分光分析によって比較した結果は表1に示す通りであり、フィルム内部とフィルム表層とのΔwの差は2.0cm−1と大きかった。
【0048】
このポリイミドフィルムについて、引っ張り強度、伸度、引っ張り弾性率、線膨張係数のばらつきを調べた結果は表1に示す通りであり、ばらつきが大きく、不均一な物性のフィルムであった。
【0049】
[比較例2]
実施例2において、加熱炉内での搬送の際の加熱を、250℃×2分、450℃×2分、500℃×1分、600℃×1分加熱処理した。この際、最初の2分は主として熱風により加熱し、溶媒除去とポリアミック酸の分子量増加を促進させた。後半の4分は主としてラジエーションヒーターを用い、イミド化反応を促進させた。ラジエーションヒーターで加熱する際には反射板を用いなかった。
【0050】
このようにして得られたポリイミドフィルムの表層と内部の構造をラマン分光分析によって比較した結果は表1に示す通りであり、フィルム内部とフィルム表層とのΔwの差は2.0cm−1と大きかった。
【0051】
このポリイミドフィルムについて、引っ張り強度、伸度、引っ張り弾性率、線膨張係数のばらつきを調べた結果は表1に示す通りであり、ばらつきが大きく、不均一な物性のフィルムであった。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のポリイミドフィルムは、フィルム表層とフィルム内部との構造に差がなく均一な構造を有しており、強度、伸度、弾性率などの物性ばらつきが小さいため、半導体や実装回路基板用途に幅広く使用することができ、寸法安定性に優れ反りやゆがみが発生しない回路基板を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起波長を1064nm、レーザースポットを1〜2μm、波数分解能(サンプリング間隔)を1cm−1以上に設定したラマン分光分析により、1610〜1630cm−1付近のラマンスペクトルバンドの半値幅(Δw)を測定した際に、フィルム内部とフィルム表層とのΔwの差が1.3cm−1以内であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項2】
1560cm−1の測定点と1660cm−1の測定点を結ぶ直線をベースラインと定め、このベースラインを基準にラマン強度を読みとり、1610cm−1〜1630cm−1付近のラマンバンドの最大強度をlmaxとした時、1560cm−1〜1660cm−1までの領域で強度がlmax/2となる2つの測定点の間隔を半値幅Δwと定義し、この半値幅Δwが1.3cm−1以内であることを特徴とする請求項1記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
フィルム厚みが5μm以上225μm以下であることを特徴とする請求項1または2記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
ポリイミドのジアミン成分の50%以上がジアミノジフェニルエーテルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
ポリイミドフィルムの酸成分の50%以上がピロメリット酸であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のポリイミドフィルム。

【公開番号】特開2006−160974(P2006−160974A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357823(P2004−357823)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】