説明

ポリイミドフィルム

【課題】本発明は、無機粒子を有するポリイミドフィルムに関するものである。
【解決手段】本発明の無機粒子を有するポリイミドフィルムは、厚さが12〜250μmであり、ポリイミド約50〜約90重量部と、無機粒子約10〜約50重量部とを含有する。無機粒子は粒径が約0.1μm〜約5μmである。このポリイミドフィルムは、フィルム表面における如何なる方向における熱膨張係数が30ppm/℃以下であり、フィルム表面における任意の二つの垂直方向における熱膨張係数差が10ppm/℃より小さく、且つ如何なる方向におけるヤング率が約4GPaより大きい。製作されたポリイミドフィルムの如何なる方向における寸法安定性は、IPC−TM−650規格による測定値が、0.10%より小さい。ここで、上記ポリイミドフィルムの製造方法も開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルム及びその製造方法に関し、特に、無機粒子を有するポリイミドフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド高分子は、優れた機械的強度、絶縁性及び耐熱性という特性を有するため、広い応用範囲に用いられている。例えば、各種の電子製品におけるフレキシブルプリント回路基板(Flexible printed circuits;FPC)に用いられている。一般的に、フレキシブルプリント回路基板は、フレキシブル銅張積層板(Flexible Cupper Clad Laminate;FCCL)をエッチングにより各種の回路素子の電気伝導配線を形成してから、接着剤を塗布したポリイミドフィルム(Coverlay)に覆われる。ポリイミドフィルムは、フレキシブルプリント回路基板に対して、一番重要な基礎原料(upstream raw material)である。
【0003】
フレキシブル銅張積層板(FCCL)は、また、3層式フレキシブル銅張積層板(3L FCCL)と、2層式フレキシブル銅張積層板(2L FCCL)という二種類に分けられる。3層式フレキシブル銅張積層板は、ポリイミドフィルムを製作してから、接着剤で銅箔に張付けることで形成され、2層式フレキシブル銅張積層板は、直接にポリイミド接着剤を銅箔に塗布し、焼いて成形する。
【0004】
フレキシブルプリント回路基板において、ポリイミドフィルムは、銅箔としっかり接合しなければならなく、かつフレキシブルプリント回路基板の製作過程中、塗布、伸び、積層、エッチングや半田付け等の高温工程は必要であるため、ポリイミドフィルム自体と銅箔との間の加工後寸法変化は、かなり重要になっている。そのため、銅箔の熱膨張係数及び高い寸法安定性のポリイミドフィルムが求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、ポリイミドフィルムの制作は、更に以下のような三つのステップに細分できる。まず、反応性モノマーを反応させポリアミック酸溶液を形成する。続いて、フィルム状にするようにポリアミック酸溶液を支持用鋼ベルト又はロールに形成させてから、加熱、乾燥及び剥離によりポリアミック酸フィルムを得る。最後、高温でポリアミック酸フィルムを加熱し、ポリアミック酸フィルムをイミド化反応(imidization)させ、ポリイミドフィルムを形成する。これは、連続的なスクロール処理(continuous scrolling process)である。イミド化工程において、ポリアミック酸フィルムは、高温変化による収縮又は伸びなどの作用で、そのポリイミドフィルムの物性が異方性を有することとなる。例えば、フィルム層は、塗布方向(Machine Direction; MD)と塗布方向に対して直角方向(Transverse Direction; TD)においての熱膨張係数及び機械的強度が同様ではない。
【0006】
上記問題を改善するために、業界は、フィルム層がMD方向とTD方向における熱膨張係数及び機械的強度を同じにするように、二軸延伸技術を開発した。しかしながら、二軸延伸技術を量産する設備は、価格が高いし、メンテナンスが簡単ではない。かつTD方向の延伸は、ジグ又はピンで両側を固定して、フィルム自体が空にかかるため、フィルムの厚さが≧125μmである比較的に厚いフィルムの場合では、重量及びそれ自体が熱による変化により、両端のジグ又はピンのみで両側を支持することは困難である。そこで、上記問題を解決するために、現在、改良されたポリイミドフィルム及びその製造方法が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、一軸延伸(Uniaxial Stretch)方式で等方性熱膨張係数を有し、且つ優れたヤング率性質及び良い寸法安定性を持つポリイミドフィルムを製造可能な、無機粒子を有するポリイミドフィルムの製造方法を提供する。即ち、本発明は、二軸延伸技術を用いなくても、塗布方向(MD)及び塗布方向に対して直角方向(TD)の両方向の熱膨張係数及び寸法変化の等方性を達することができる。かつこの無機粒子を有するポリイミドフィルムは、適用するフィルムの厚さが12μm〜250μmまで達せる。
【0008】
上記無機粒子を有するポリイミドフィルムの製造方法は、(a)粒径が約0.1μm〜約5μmである無機粒子と溶剤を混合・攪拌し、懸濁溶液を形成するステップと、(b)攪拌状態で、ジアミンモノマー及びテトラカルボン酸二無水物モノマーと、懸濁溶液とを混合し、ジアミンモノマーとテトラカルボン酸二無水物モノマーとを重合反応させ、無機粒子を含有するポリアミック酸混合物を形成するステップと、(c)ポリアミック酸混合物を基材に塗布し、乾燥工程を行い、基材に乾燥したポリアミック酸混合物層を形成するステップと、(d)乾燥したポリアミック酸混合物層と基材を分離させ、ポリアミック酸混合物フィルムを形成するステップと、(e)ポリアミック酸混合物フィルムに対して一軸延伸と加熱を行って、ポリアミック酸混合物フィルムをポリイミドフィルムに変換するステップと、を含む。
【0009】
本発明の一実施形態によると、ステップ(a)の無機粒子は、雲母粉、シリカ粉末、タルク、セラミック粉末、粘土粉末、カオリン又はこれらの組み合わせからなる群から選ばれるものである。
【0010】
本発明の一実施形態によると、ステップ(a)の溶剤は、N,N‐ジメチルホルムアミド(N,N−Dimethyl formamide;DMF)、ジメチルアセトアミド(Dimethylacetamide;DMAc)、ジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide;DMSO)、N‐メチル‐2‐ピロリドン(N−methyl−2−pyrrolidone;NMP)又はこれらの組み合わせからなる群から選ばれるものである。
【0011】
本発明の一実施形態によると、ステップ(b)に記載のジアミンモノマー及びテトラカルボン酸二無水物モノマーと、懸濁溶液とを混合するステップは、以下のようなステップを含む。まず、ジアミンモノマーを懸濁溶液に加え、ジアミンモノマーを溶解させ、ジアミンモノマーを含有する混合物を形成する。続いて、テトラカルボン酸二無水物モノマーをジアミンモノマーを含有する混合物に加える。
【0012】
本発明の一実施形態によると、ステップ(b)の攪拌時間は、約4時間〜約36時間である。
【0013】
本発明の一実施形態によると、ステップ(b)のテトラカルボン酸二無水物モノマーとジアミンモノマーとのモル比は、0.9:1〜1.1:1である。
【0014】
本発明の一実施形態によると、ステップ(b)のポリアミック酸を含有する混合物は、粘度が約100ポアズ(poise)〜約1000ポアズ(poise)である。
【0015】
本発明の一実施形態によると、ステップ(b)のジアミンモノマーは、1,4‐ジアミノベンゼン(1,4‐diamino benzene)、1,3‐ジアミノベンゼン(1,3‐diamino benzene)、4,4’‐ジアミノジフェニルエーテル(4,4’‐oxydianiline)、3,4’‐ジアミノジフェニルエーテル(3,4’‐oxydianiline)、4,4’‐メチレンジアニリン(4,4’‐methylene dianiline)、N,N’‐ジフェニルエチレンジアミン(N,N’‐Diphenylethylenediamine)、ジアミノベンゾフェノン(diaminobenzophenone)、ジアミノジフェニルスルホン(diamino diphenyl sulfone)、1,5‐ナフタレンジアミン(1,5‐naphenylene diamine)、4,4’‐ジアミノジフェニルスルフィド(4,4’‐diamino diphenyl sulfide)、1,3‐ビス(3‐アミノフェノキシ)ベンゼン(1,3‐Bis(3‐aminophenoxy)benzene)、1,4‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン(1,4‐Bis(4‐aminophenoxy)benzene)、1,3‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン(1,3‐Bis(4‐aminophenoxy)benzene)、2,2‐ビス[4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(2,2‐Bis[4‐(4‐amino phenoxy)phenoxy]propane)、4,4’‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ビフェニル(4,4’‐bis‐(4‐aminophenoxy)biphenyl)、4,4’‐ビス(3‐アミノフェノキシ)ビフェニル(4,4’‐bis‐(3‐aminophenoxy)biphenyl)、1,3‐ビス(3‐アミノプロピル)‐1,1,3,3‐テトラメチルジシロキサン(1,3‐Bis(3‐aminopropyl)‐1,1,3,3‐tetramethyldisiloxane)、1,3‐ビス(3‐アミノプロピル)‐1,1,3,3‐テトラフェニルジシロキサン(1,3‐Bis(3‐aminopropyl)‐1,1,3,3‐tetraphenyldisiloxane)、1,3‐ビス(アミノプロピル)‐ジメチルジフェニルジシロキサン(1,3‐Bis(aminopropyl)‐dimethyldiphenyldisiloxane)又はこれらの組み合わせからなる群から選ばれるものである。
【0016】
本発明の一実施形態によると、ステップ(b)のテトラカルボン酸二無水物モノマーは、1,2,4,5‐ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(1,2,4,5‐Benzene tetracarboxylic dianhydride)、3,3’,4,4’‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’‐Biphenyl tetracarboxylic dianhydride)、4,4’‐オキシジフタル酸二無水物(4,4’‐Oxydiphthalic anhydride)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(Benzophenonetetracarboxylic dianhydride)、3,3,4,4‐ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’‐diphenyl sulfonetetracarboxylic dianhydride)、1,2,5,6‐ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(1,2,5,6‐naphthalene tetracarboxylic dianhydride)、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(Naphthalenetetracarboxylic Dianhydride)、ビス‐(3,4‐ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物(bis(3,4‐dicarboxyphenyl)dimethylsilane dianhydride)、1,3‐ビス(4’‐無水フタル酸)テトラメチルジシロキサン(1,3‐bis(4’‐phthalic anhydride)‐tetramethyldisiloxane)又はこれらの組み合わせからなる群から選ばれるものである。
【0017】
本発明の一実施形態によると、ステップ(c)の乾燥工程は、温度が約120℃〜約200℃の雰囲気で行われる。
【0018】
本発明の一実施形態によると、ステップ(e)に記載のポリアミック酸混合物フィルムを加熱するステップは、温度が約270℃〜約400℃の雰囲気で行われる。
【0019】
本発明の一実施形態によると、ステップ(e)に記載の一軸延伸ステップは、ポリアミック酸混合物フィルムの長辺に平行する方向に行われる。
【0020】
本発明の一実施形態によると、ポリイミドフィルムにおける上記無機粒子は、重量百分率濃度が10〜50%である。
【0021】
本発明の別の一態様は、無機粒子を有するポリイミドフィルムを提供する。このポリイミドフィルムは、上記いずれかの実施形態に記載の方法で製作されたものである。且つ、このポリイミドフィルムは、フィルム表面における如何なる方向における熱膨張係数が30ppm/℃以下であり、フィルム表面における任意の二つの垂直方向の熱膨張係数差が10ppm/℃より小さく、かつ如何なる方向におけるヤング率が約4GPaより大きい。製作されたポリイミドフィルムの如何なる方向における寸法安定性は、テスト方法IPC−TM−650による測定値が0.10%より小さい。
【0022】
本発明の別の一態様は、無機粒子を有するポリイミドフィルムを提供する。このポリイミドフィルムは、ポリイミド約50〜約90重量部と、無機粒子約10〜約50重量部とを含有する。無機粒子は粒径が約0.1μm〜約5μmである。このポリイミドフィルムは、フィルム表面における如何なる方向における熱膨張係数が30ppm/℃以下であり、フィルム表面における任意の二つの垂直方向における熱膨張係数差が10ppm/℃より小さく、かつ如何なる方向におけるヤング率(Young’s modulus)が約4GPaより大きい。製作されたポリイミドフィルムの如何なる方向における寸法安定性は、テスト方法IPC−TM−650による測定値が0.10%より小さい。
【0023】
本発明の一実施形態によると、上記無機粒子の粒径が約0.5μm〜約3μmである。
【0024】
本発明の一実施形態によると、ポリイミドフィルムにおける上記無機粒子は、重量百分率濃度が25%〜38%である。
【0025】
本発明のさらに一つの態様は、無機粒子を有するポリイミドフィルムを提供する。このポリイミドフィルムは、金属層体に接触せず、かつ実質上、ポリイミド約50〜約90重量部と、無機粒子約10〜約50重量部とから構成されるものであり、前記無機粒子の粒径が約0.5μm〜約3μmである。
【0026】
上記一般的な説明及び以下の詳細な説明は、すべて例示だけであり、かつこれらの説明は、主張される発明の更なる解釈を提供しようとすることを理解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
以下の図面を参照し、上記実施例に対する詳細な説明を閲読した後、本発明を更に全面的に理解できる。
【0028】
【図1】本発明の一実施形態による無機粒子を有するポリイミドフィルムの製造方法を示すフロー図である。
【図2】比較例1による加熱熟成するステップを示す上面図(schematic top view)である。
【図3】比較例3による加熱熟成するステップを示す上面図である
【図4】本発明の一実施形態による加熱熟成するステップを示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
ここで、本発明を詳しく説明する実施形態と、これらの実施形態の実施例図面とを添付された図面に示す。できる限り、付図と説明において、同様な素子符号で同様又は類似な素子を表示する。以下のような詳細な説明において、解釈を目的として、読者が十分に開示された実施例を理解するように、特定の細部を述べる。しかしながら、明らかに分かるのは、これらの特定の細部がない状況でも、一つ又は複数の実施形態を実践してもよい。その他の状況では、図面を簡易化させるため、習熟の構造と装置は、ただ模式的に図面に示された。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態による無機粒子を有するポリイミドフィルムの製造方法100を示すフロー図である。
【0031】
ステップ110において、複数の無機粒子と溶剤を混合し、攪拌して懸濁溶液を形成する。ステップ110において、沈殿しないように攪拌により無機粒子を溶剤に分散させ、懸濁溶液を形成する。上記目的を達成できる如何なる攪拌方式又は手段は、すべて本発明に適用されることができる。
【0032】
無機粒子は粒径が約0.1μm〜約5μmである。無機粒子の粒径が5μmを超えれば、最後に出来たポリイミドフィルムの表面が粗すぎで、電子製品に不適用となる。それに対して、無機粒子の粒径が0.1μm未満であれば、後続のステップにおいて、これらの無機粒子が凝集現象が発生しやすくなり、簡単に分散できなくなったことで、プロセスに重大な問題を引き起こす。そのため、一実施形態において、無機粒子は、粒径が好ましく約0.5μm〜約3μmであってもよい。
【0033】
一実施形態において、無機粒子は、例えば、雲母粉、シリカ粉末、タルク、セラミック粉末、粘土粉末、カオリナイト粘土又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0034】
一実施形態において、溶剤は、例えば、N,N‐ジメチルホルムアミド(N,N‐Dimethyl formamide;DMF)、ジメチルアセトアミド(Dimethylacetamide;DMAC)、ジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide;DMSO)、N‐メチル‐2‐ピロリドン(N‐methyl‐2‐pyrrolidone;NMP)又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0035】
別の一実施形態において、後続の工程中の分散性、粘度、及び乾燥などを考え、無機粒子が懸濁溶液においての重量百分率が約1%〜約20%であってもよく、さらに好ましくは、3〜12%であってもよい。
【0036】
ステップ120において、攪拌する状態では、ジアミンモノマー及びテトラカルボン酸二無水物モノマーと懸濁溶液を混合し、ジアミンモノマーとテトラカルボン酸二無水物モノマーに重合反応をさせて、無機粒子を有するポリアミック酸混合物を形成する。
【0037】
重合反応を行う過程中に、無機粒子が沈殿しないように、少なくとも反応の初期で攪拌し続ける。具体的に、重合反応が発生した後、重合反応により出来たポリアミック酸高分子は、混合物全体の粘度を高めることができる。混合物は、粘度が特定の値まで増加した場合、混合物の中の無機粒子が短時間に沈殿しないようになる。一実施形態において、混合物の粘度が100ポアズ(poise)〜約1000ポアズ(poise)(即ち10,000−100,000cps)に増加する場合、ポリアミック酸混合物は、7〜14日連続して、無機粒子の沈降という問題が生じない。そのため、ポリアミック酸混合物は、その安定のままの時間が後続のステップに対してかなり十分となり、そして、製造過程中の生産スケジューリングに大きな利点がある。
【0038】
一実施形態において、上記のようなジアミンモノマー、テトラカルボン酸二無水物モノマーと懸濁溶液を混合するステップでは、まず、ジアミンモノマーを懸濁溶液に加え、ジアミンモノマーを溶解させた後、続いてテトラカルボン酸二無水物モノマーをゆっくりと上記ジアミンモノマーが溶解される混合物に加えて、重合反応を行う。この実施形態において、攪拌する時間は約4時間〜約36時間である。重合反応の温度が約10℃〜約50℃である。重合反応は放熱反応であるため、一実施形態において、重合反応は温度制御器が装設された反応器で行われて、重合反応を適当な温度、例えば、約20℃〜約30℃という範囲に制御できる。
【0039】
テトラカルボン酸二無水物モノマーとジアミンモノマーとのモル比は、最終の重合体の性質に影響することがある。一実施形態において、テトラカルボン酸二無水物モノマーとジアミンモノマーとのモル比は、0.9:1〜1.1:1である。さらに他の実施形態において、テトラカルボン酸二無水物モノマーのモル値は、ジアミンモノマーのモル値より小さく、最終の重合体の性質が好ましい。例えば、テトラカルボン酸二無水物モノマーとジアミンモノマーとのモル比は、0.9:1〜1:1である。一特定の実施例において、テトラカルボン酸二無水物モノマーとジアミンモノマーとのモル比は、0.98:1である。
【0040】
上記ジアミンモノマーは、例えば、1,4‐ジアミノベンゼン(1,4‐diamino benzene)、1,3‐ジアミノベンゼン(1,3‐diamino benzene)、4,4’‐オキシジアニリン(4,4’‐oxydianiline)、3,4’‐オキシジアニリン(3,4’‐oxydianiline)、4,4’‐メチレンジアニリン(4,4’‐methylene dianiline)、N,N’‐ジフェニルエチレンジアミン(N,N’‐Diphenylethylenediamine)、ジアミノベンゾフェノン(diaminobenzophenone)、ジアミノジフェニルスルホン(diamino diphenyl sulfone)、1,5‐ナフタレンジアミン(1,5‐naphenylene diamine)、4,4’‐ジアミノジフェニルスルフィド(4,4’‐diamino diphenyl sulfide)、1,3‐ビス(3‐アミノフェノキシ)ベンゼン(1,3‐Bis(3‐aminophenoxy)benzene)、1,4‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン(1,4‐Bis(4‐aminophenoxy)benzene)、1,3‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン(1,3‐Bis(4‐aminophenoxy)benzene)、2,2‐ビス[4‐(4‐アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(2,2‐Bis[4‐(4‐amino phenoxy)phenoxy]propane)、4,4’‐ビス(4‐アミノフェノキシ)ビフェニル(4,4’‐bis‐(4‐aminophenoxy)biphenyl)、4,4’‐ビス(3‐アミノフェノキシ)ビフェニル(4,4’‐bis‐(3‐aminophenoxy)biphenyl)、1,3‐ビス(3‐アミノプロピル)‐1,1,3,3‐テトラメチルジシロキサン(1,3‐Bis(3‐aminopropyl)‐1,1,3,3‐tetramethyldisiloxane)、1,3‐ビス(3‐アミノプロピル)‐1,1,3,3‐テトラフェニルジシロキサン(1,3‐Bis(3‐aminopropyl)‐1,1,3,3‐tetraphenyldisiloxane)、1,3‐ビス(3‐アミノプロピル)‐ジメチルジフェニルジシロキサン(1,3‐Bis(aminopropyl)‐dimethyldiphenyldisiloxane)又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
上記テトラカルボン酸二無水物モノマーは、例えば、1,2,4,5‐ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(1,2,4,5‐Benzene tetracarboxylic dianhydride)、3,3’,4,4’‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’‐Biphenyl tetracarboxylic dianhydride)、4,4’‐オキシジフタル酸二無水物(4,4’‐Oxydiphthalic anhydride)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(Benzophenonetetracarboxylic dianhydride)、3,3’,4,4’‐ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’‐diphenyl sulfonetetracarboxylic dianhydride)、1,2,5,6‐ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(1,2,5,6‐naphthalene tetracarboxylic dianhydride)、ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(Naphthalenetetracarboxylic Dianhydride)、ビス‐(3,4‐ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物(bis(3,4‐dicarboxyphenyl)dimethylsilane dianhydride)、1,3‐ビス(4‐無水フタル酸)‐テトラメチルジシロキサン(1,3‐bis(4’‐phthalic anhydride)‐tetramethyldisiloxane)又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0042】
ステップ130において、ポリアミック酸混合物を基材に塗布し、続いて乾燥工程を行い、基材において乾燥したポリアミック酸混合物層を形成する。如何なる従来の塗布技術は、本発明に適用でき、例えば、スリットコーティング(slit coating)又はダイコーティング(Die coating)を用いて、ポリアミック酸混合物を支持用鋼ベルト又はロールなどの基材に塗布し、ポリアミック酸混合物フィルム層を形成することができる。続いて、塗布されたポリアミック酸混合物層の中の溶剤を除くように、乾燥工程を行う。一実施形態において、温度が約120℃〜約200℃という雰囲気で乾燥をおこない、乾燥のポリアミック酸混合物層を形成できる。
【0043】
ステップ140において、乾燥されたポリアミック酸混合物層と基材を分離し、ポリアミック酸混合物フィルム材を形成する。ステップ130により乾燥されたポリアミック酸混合物層は、ある程度の機械的強度及び強靭性を有するため、それを基材から剥離して、ポリアミック酸混合物フィルム材を形成できる。
【0044】
注意すべきなのは、上記剥離されたポリアミック酸混合物フィルム材は、如何なる金属シート又は金属層体(metal body)に貼り付けなく、裸シート(bare sheet)の形で存する。言い換えれば、ポリアミック酸混合物フィルムは、別の金属シートに形成されないという。即ち、ステップ110〜ステップ140により形成された上記ポリアミック酸混合物フィルムは、2層式フレキシブル銅張積層板の製造方法と同様ではない。2層式フレキシブル銅張積層板において、ポリアミック酸溶液を銅箔に塗布してから、乾燥を行う。そのため、2層式フレキシブル銅張積層板の乾燥のポリアミック酸層は、銅箔に付着される。
【0045】
ステップ150において、ポリアミック酸混合物フィルムに対して一軸延伸を行い、ポリアミック酸混合物フィルムを加熱して、ポリアミック酸混合物フィルムを無機粒子を含有するポリイミドフィルムに変換する。ポリアミック酸混合物フィルムを加熱するステップは、イミド化反応(又は加熱熟成という)に用いられる。一実施形態において、ポリアミック酸フィルムを加熱する温度が約270℃〜約400℃である。
【0046】
上記「一軸延伸」という用語とは、実際的にポリアミック酸混合物フィルムに対して一つの方向の引張り張力を与えるが、上記引張り張力の方向に垂直する方向では、実際的にポリアミック酸混合物フィルムに規定外の張力を与えない。一実施形態において、形成されたポリアミック酸混合物フィルムは、長いストリップの形を呈し、かつ加熱熟成のステップは、ポリアミック酸混合物フィルムをゆっくりと高温炉を通過させる。一軸延伸の方向は、ポリアミック酸混合物フィルムの移動方向に平行し、即ち一軸延伸の方向は、ポリアミック酸混合物フィルムの長辺方向に平行する。
【0047】
ステップ140の通り、ポリアミック酸混合物フィルム材が裸シートの形で存するため、ステップ150は、ポリアミック酸混合物フィルムが如何なる金属層体に貼り付けられなく又は接触されない状態で実施する。
【0048】
本発明の実施形態によって製作されたポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムがすべての方向における熱膨張係数を低減でき、そして異なる方向における熱膨張係数差を減少できる。これ以外、ヤング率及び寸法安定性を増加できる。詳しく言えば、従来の技術は、二軸延伸技術を使用しない時に、製作されたポリイミドフィルムが異なる方向(即ち、MDとTD)において、異なる熱膨張係数値及びヤング率が生じることがある。本発明の上記実施形態によると、ポリイミドフィルムの熱膨張係数及びヤング率の異方性を低減し又は無くすことができる。更に、本発明の上記実施形態によって製作されたポリイミドフィルムは、優れた機械的性質を有し、そのヤング率(Young’s modulus)が4GPaを超えてもよい。優れた寸法安定性を有する。
【0049】
一実施形態において、ポリイミドフィルムの中の無機粒子は、重量百分率濃度が10〜50%であり、好ましくは20〜40%であり、更に好ましくは25−38%である。無機粒子は、ポリイミドフィルムにおける含有量が50%を超えれば、ポリイミドフィルムの機械的性質に不利である。例えば、ポリイミドフィルムは、脆化の現象が生じることがある。これに反して、無機粒子の含有量が低く過ぎれば、例えば、10%未満であれば、上記二つの異なる方向における熱膨張係数差及び上記二つの異なる方向における機械的強度の差異を低減することが困難である。
【0050】
本発明の別の一態様は、無機粒子を有するポリイミドフィルムを提供する。このポリイミドフィルムは、上記いずれか実施形態に記載の方法によって製作され、かつポリイミドフィルムがフィルム表面における如何なる方向の熱膨張係数が30ppm/℃以下であり、かつこのポリイミドフィルムがフィルム表面における如何なる二つの垂直方向の熱膨張係数差が10ppm/℃より小さく、かつポリイミドフィルムの如何なる方向のヤング率が約4GPaより大きい。製作されたポリイミドフィルムは、如何なる方向における寸法安定性が0.10%より小さい。本文において、他の備考又は説明がなければ、「寸法安定性」は、IPC−TM−650のテスト方法により測定される。
【0051】
本発明のさらに一つの態様は、無機粒子を有するポリイミドフィルムを提供する。このポリイミドフィルムは、ポリイミド約50〜約90重量部と、無機粒子約10〜約50重量部とを含有する。無機粒子は、粒径が約0.5μm〜約5μmである。このポリイミドフィルムは、フィルム表面における如何なる方向の熱膨張係数が30ppm/℃以下であり、かつこのポリイミドフィルムは、フィルム表面における如何なる二つの垂直方向の熱膨張係数差が10ppm/℃より小さく、かつポリイミドフィルムの如何なる方向のヤング率が約4GPaより大きい。製作されたポリイミドフィルムの如何なる方向における寸法安定性は、IPC−TM−650規格による測定値が0.10%より小さい。一実施形態において、無機粒子は、粒径が約0.5μm〜約3μmであり、かつ無機粒子は、ポリイミドフィルムにおいての含有量が、ポリイミドフィルムの総重量の約25%〜約38%を占めている。
【0052】
本発明のさらに一つの態様は、無機粒子を有するポリイミドフィルムを提供する。このポリイミドフィルムは、金属層体に接触せず、かつ実質上、ポリイミド約50〜約90重量部と、無機粒子約10〜約50重量部とから構成されるものである。上記無機粒子の粒径が約0.1μm〜約5μmである。
【実施例】
【0053】
以下の実施例は、詳しく本発明の特定な態様を説明するのに用いられ、同業者に本発明を実施できるようにさせる。以下の実施例は、本発明を限定するために使用すべきではない。
【比較例1】
【0054】
80Kgのジメチルアセトアミド(DMAC)の溶剤に、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)を9.62Kg加え、攪拌して溶解させた。続いて、ピロメリット酸二無水物(PDMA)を10.38Kg加え、6時間攪拌し、重合反応を行って、ポリアミック酸溶液を得た。上記重合反応の温度を20〜30℃に制御した。
【0055】
上記ポリアミック酸溶液を支持用鋼ベルトに塗布した。続いて、150℃の温度で乾燥して、支持用鋼ベルトにおいて1層のポリアミック酸層体を形成した。それから、ポリアミック酸層体を支持用鋼ベルトから剥離して、ポリアミック酸フィルムを得た。このステップにおいて、ポリアミック酸フィルムを幅が約75センチであるストリップ状に製作した。
【0056】
続いて、ポリアミック酸フィルムに対して一軸延伸を行う状態で、ポリアミック酸フィルムを300℃の高温炉に入れ、加熱熟成を行って(即ち、イミド化反応を行って)、ポリイミドフィルムを得た。加熱熟成ステップの上面図を示す図2を参照する。このステップにおいて、ストリップ状のポリアミック酸フィルム160は、高温炉において、ゆっくりと矢印Fの方向に沿って移動し、高温炉の加熱領域がHRでマークされた。加熱熟成が完成した場合(即ち、フィルム層が高温炉の加熱領域HRから離れた)、ポリアミック酸フィルム160は、ポリイミドフィルム200に変換された。この比較例において、一軸延伸の方向はMDでマークされ、即ち一軸延伸の方向であるMDは、ポリアミック酸フィルム160の移動方向Fに平行した。言い換えれば、一軸延伸の方向であるMDは、ポリアミック酸フィルム160の長辺方向に平行した。比較例1において、ポリアミック酸フィルム160は、加熱熟成を行う過程中に、MD方向に垂直するTD方向に、収縮が生じることがある。図2に示すように、ポリアミック酸フィルム160は、高温炉に入れられる前の幅D1が約75センチであった。加熱熟成が完成したポリイミドフィルム200は、幅D2が約60センチのみであった。この比較例によって製作されたポリイミドフィルム200は、厚さが約50μmであった。
【0057】
上記のようなTD方向における収縮のため、ポリイミドフィルム200の熱膨張係数(CTE)に異方性を持たせるようになった。比較例1によって製作されたポリイミドフィルム200は、MD方向における熱膨張係数が37ppm/℃であり、TD方向における熱膨張係数が56ppm/℃であった。比較例1によって製作されたポリイミドフィルムは、MD方向とTD方向を問わず、熱膨張係数が高目になって、業界の需要に適わなかった。
【0058】
また、比較例1によって製作されたポリイミドフィルム200は、MD方向におけるヤング率(Young’s modulus)が3.1GPaであり、TD方向におけるヤング率が2.9GPaであり、ヤング率が低目になった。
【0059】
比較例1において、ポリイミドフィルムは、MD方向における寸法安定性が0.12%であり、TD方向における寸法安定性が0.05%であった。IPC−TM−650規格により、寸法安定性の数値が小さければ、寸法安定性がすぐれていると表示された。比較例1の寸法安定性は、理想的ではなかった。
【比較例2】
【0060】
この比較例において、モノマーの成分を変更することで、比較例1のポリイミドフィルムの熱膨張係数及び机械特性を改善した。詳細なステップは、以下のように記載された。80KgのDMAC溶剤に、ODAを5.41Kg、1,4‐ジアミノベンゼン(PPDA)を2.92Kg加え、攪拌して溶解させた。続いて、PDMAを11.67Kg加え、6時間攪拌し、重合反応を行って、ポリアミック酸溶液を得た。上記反応の温度を20〜30℃に制御した。その後続のステップは、比較例1と同様であった。
【0061】
比較例2によって製作されたポリアミック酸フィルムは、加熱熟成を行う過程中に、TD方向において同様に収縮が生じた。ポリアミック酸フィルム160は、高温炉に入れられる前の幅D1が約75センチであった。加熱熟成が完成したポリイミドフィルムは、幅D2が約60センチであった。ポリイミドフィルム200は、厚さが約50μmであった。
【0062】
比較例2によって製作されたポリイミドフィルムは、MD方向における熱膨張係数が19ppm/℃であって、業界に求められる17ppm/℃に近かった。しかしながら、TD方向における熱膨張係数が46ppm/℃であって、やはり業界の需要をはるかに超えた。
【0063】
比較例2によって製作されたポリイミドフィルムは、MD方向におけるヤング率(Young’s modulus)が3.3GPaであり、TD方向におけるヤング率が2.9GPaであって、この比較例のヤング率も同様に低目になった。
【0064】
比較例2において、ポリイミドフィルムは、MD方向における寸法安定性が0.10%であり、TD方向における寸法安定性が0.05%であった。寸法安定性も良くない。
【比較例3】
【0065】
この比較例において、二軸延伸の方式によりポリイミドフィルムを製造した。比較例3によりポリアミック酸溶液を製造するステップは、比較例2と同様であり、また、同様な方式でストリップ状のポリアミック酸フィルムを形成した。しかしながら、図3に示したように、加熱熟成を行う時にポリアミック酸フィルムのTD方向における収縮を避けるように、加熱熟成を行う過程中に、MD方向及びTD方向の両方に同時に張力を与えた。この比較例において、ポリアミック酸フィルム160は、高温炉に入れられる前の幅D1が約75センチであった。加熱熟成が完成したポリイミドフィルム200の幅D2が、同様に約75センチであった。ポリイミドフィルム200は、厚さが約50μmであった。
【0066】
比較例3によって製作されたポリイミドフィルムは、MD方向における熱膨張係数が19ppm/℃であり、TD方向における熱膨張係数も、同様に19ppm/℃であった。両方とも、業界に求められる17ppm/℃に近かった。比較例3によって製作されたポリイミドフィルムは、MD方向におけるヤング率(Young’s modulus)が3.3GPaであり、TD方向におけるヤング率も、同様に3.3GPaであった。MD方向における寸法安定性が0.05%であり、TD方向における寸法安定性が0.05%であった。
【0067】
以上の比較例1〜3から、二軸延伸の方式は、ポリイミドフィルムのMD方向とTD方向における熱膨張係数差及び寸法安定性の差異を効果的に改善できることが判明した。ただし、量産型の二軸延伸による設備は、構造設計が複雑であるため、価格が非常に高かった。更に、構造設計が複雑であるため、その修理とメンテナンスは、かなりコストがかかった。
【実施例1】
【0068】
6.98Kgのシリカ粉末を、79.07Kgのジメチルアセトアミド(DMAC)溶剤に加え、継続的に攪拌し、シリカ粉末をDMAC溶剤に懸濁させた。上記シリカ粉末は、粒径が約1−3μmであった。それから、6.71KgのODAを加え、それが溶解するまで待った。続いて、ゆっくりとPDMAを加え、6時間攪拌し、重合反応を行って、ポリアミック酸溶液を得た。上記反応温度を20〜30℃に制御した。
【0069】
注意すべきなのは、攪拌し続ける状態で重合反応を行うため、その中のシリカ粉末が沈降せず、均一的にポリアミック酸溶液に分散された。重合反応が完成した場合、ポリアミック酸溶液は、ある程度の粘度を有し、攪拌し続けなくても、その中のシリカ粉末が、短時間に重力により沈降しなかった。更に、この実施例では、マイクロスケールである粒径のシリカ粉末を用いるため、シリカ粉末は、ポリアミック酸溶液において、簡単に攪拌することにより、均一的に分散されることができる。粒径が100nmより小さいナノスケールであるシリカ粒子を使用すれば、その粒径が小さすぎるため、粒子の間に凝集現象が発生しやすくなり、その分散性は、はるかにマイクロスケールのシリカに及ばなかった。
【0070】
得たシリカ粉末を含有するポリアミック酸溶液を、支持用鋼ベルトに塗布した。続いて、150℃の温度で乾燥して、1層のシリカ粉末を含有するポリアミック酸層体を形成した。それから、ポリアミック酸層体を支持用鋼ベルトから剥離して、ポリアミック酸フィルムを得た。
【0071】
続いて、ポリアミック酸フィルムに対して一軸延伸を行い、300℃の高温炉に入れ、加熱熟成を行って、ポリイミドフィルムを得た。図3に示すように、このステップにおいて、ストリップ状のポリアミック酸フィルム160は、高温炉でゆっくりと矢印Fの方向に沿って移動し、高温炉の加熱領域がHRにマークされた。加熱熟成が完成した場合、ポリアミック酸フィルム160は、ポリイミドフィルム200に変わった。この実施例において、一軸延伸の方向であるMDは、ポリアミック酸フィルム160の移動方向Fに平行した。言い換えれば、一軸延伸の方向であるMDは、ポリアミック酸フィルム160の長辺方向に平行した。実施例1において、ポリアミック酸フィルム160は、加熱熟成を行う過程中に、TD方向では、わずかの収縮が生じた。ポリアミック酸フィルム160は、高温炉に入れられる前の幅D1が約75センチであり、加熱熟成が完成したポリイミドフィルム200は、幅D2が約72センチであった。ポリイミドフィルム200は、厚さが約50μmであった。この実施例において、ポリイミドフィルムの中のシリカ粉末の重量百分率が約33.3%であった。
【0072】
実施例1によって製作されたポリイミドフィルムは、MD方向における熱膨張係数が15ppm/℃であり、TD方向における熱膨張係数が18ppm/℃であった。この実施例によって製作されたポリイミドフィルムは、MD方向及びTD方向の両方の熱膨張係数とも、業界に求められる17ppm/℃に近かった。ポリイミドフィルムに、シリカ粉末を加えて、熱膨張係数(CTE)の異方性を効果的に改善できる。
【0073】
これ以外、実施例1によって製作されたポリイミドフィルムは、MD方向におけるヤング率(Young’s modulus)が7.0GPaであり、TD方向におけるヤング率も、同様に7.0GPaであった。ヤング率が大幅に高められて、ポリイミドフィルムに優れた機械特性を持たせた。
【0074】
実施例1において、ポリイミドフィルムは、MD方向における寸法安定性が0.02%であり、TD方向における寸法安定性が0.02%であった。寸法安定性は、はるかに比較例1〜3より優れている。
【実施例2】
【0075】
実施例1に比べて、この実施例は、主にシリカ粉末の添加量を変換することであった。詳細なステップは、以下のように記載された。5.66Kgのシリカ粉末を、80.19KgのDMAC溶剤に加え、攪拌し続けて、シリカ粉末をDMAC溶剤に懸濁させた。上記シリカ粉末は、粒径が約1〜3μmであった。それから、6.81KgのODAを加え、それが溶解するまで待った。続いて、ゆっくりとPDMAを加え、6時間攪拌し、重合反応を行って、ポリアミック酸溶液を得た。上記反応温度を20〜30℃に制御した。後続のステップは、実施例1と同様であった。この実施例において、ポリイミドフィルムの中のシリカ粉末は、重量百分率が約28.6%であった。
【0076】
実施例2によって製作されたポリイミドフィルムは、厚さが約50μmであった。ポリイミドフィルムは、MD方向における熱膨張係数が21ppm/℃であり、TD方向における熱膨張係数が26ppm/℃であった。この実施例によって製作されたポリイミドフィルムは、MD方向及びTD方向の両方の熱膨張係数とも、業界に求められる17ppm/℃よりやや高かった。ポリイミドフィルムの中のシリカ粉末の含有量は、直接にポリイミドフィルムの熱膨張係数及びその等方性に影響した。
【0077】
これ以外、実施例2によって製作されたポリイミドフィルムは、MD方向におけるヤング率が6.2GPaであり、TD方向におけるヤング率が6.0GPaであった。実施例2によって製作されたポリイミドフィルムは、ヤング率が実施例1よりやや小さかった。ポリイミドフィルムの中のシリカ粉末の含有量は、同時にポリイミドフィルムのヤング率に影響することがある。
【0078】
実施例2において、ポリイミドフィルムは、MD方向における寸法安定性が0.04%であり、TD方向における寸法安定性が0.04%であった。寸法安定性も、比較例1〜3より優れている。
【実施例3】
【0079】
実施例1に比べて、この実施例は、主にモノマーの成分及びシリカ粉末の添加量を変換することであった。詳細なステップは、以下のように記載された。6.32Kgのシリカ粉末を、79.63KgのDMAC溶剤に加え、攪拌し続けて、シリカ粉末をDMAC溶剤に懸濁させた。シリカ粉末は、粒径が約1〜3μmであった。それから、4.45KgのODA及び1.60KgのPPDAを加え、攪拌してそれを溶解させた。続いて、ゆっくりと10.38KgのPDMAを加え、6時間攪拌し、重合反応を行って、ポリアミック酸溶液を得た。反応温度を20〜30℃に制御した。後続のステップは、実施例1と同様であった。この実施例において、ポリイミドフィルムの中のシリカ粉末は、重量百分率が約31%であった。
【0080】
実施例3によって製作されたポリイミドフィルムは、厚さが約50μmであった。ポリイミドフィルムは、MD方向における熱膨張係数が17ppm/℃であり、TD方向における熱膨張係数が19ppm/℃であった。この実施例によって製作されたポリイミドフィルムは、MD方向及びTD方向の両方の熱膨張係数が、業界に求められる17ppm/℃に近かった。
【0081】
これ以外、実施例3によって製作されたポリイミドフィルムは、MD方向におけるヤング率(Young’s modulus)が6.4GPaであり、TD方向におけるヤング率も、同様に6.4GPaであった。実施例3によって製作されたポリイミドフィルムは、ヤング率が実施例1よりやや小さかった。
【0082】
実施例3において、ポリイミドフィルムは、MD方向における寸法安定性が0.02%であり、TD方向における寸法安定性が0.02%であった。寸法安定性は、比較例1〜3より優れている。
【実施例4】
【0083】
この実施例によるポリイミドフィルムは、タルク粉末がシリカ粉末に取って代わることと、この実施例によるポリイミドフィルムの厚さが約125μmであること以外に、調製方法がほぼ実施例1と同様であった。
【0084】
実施例4において、ポリイミドフィルムは、MD方向における熱膨張係数が21ppm/℃であり、TD方向における熱膨張係数が23ppm/℃であった。MD方向におけるヤング率が5.0GPaであり、TD方向におけるヤング率も、同様に5.0GPaであった。ポリイミドフィルムは、MD方向における寸法安定性が0.02%であり、TD方向における寸法安定性が0.02%であった。
【実施例5】
【0085】
この実施例によるポリイミドフィルムは、タルク粉末がシリカ粉末に取って代わることと、この実施例によるポリイミドフィルムの厚さが約175μmであること以外に、調製方法がほぼ実施例1と同様であった。
【0086】
実施例5において、ポリイミドフィルムは、MD方向における熱膨張係数が21ppm/℃であり、TD方向における熱膨張係数が23ppm/℃であった。MD方向におけるヤング率が4.8GPaであり、TD方向におけるヤング率も、同様に4.8GPaであった。ポリイミドフィルムは、MD方向における寸法安定性が0.02%であり、TD方向における寸法安定性が0.02%であった。
【0087】
本発明は、粒径が0.1μmより小さいナノスケールである無機粒子の添加物を捨てた。この領域の技術者は、ナノテクノロジーの影響を受け、ナノ技術に当惑している。本発明の発明者は、研究によると、ポリイミドフィルムにナノスケールの無機粒子(例えば、粒径が100nmより小さい無機粒子)を加えて、ポリイミドフィルムの機械的強度を増加できるが、粒径が小さ過ぎるため、規定外の分散技術を用いてこれらのナノ粒子を均一的に反応系の中に分散させらなければならないことが判明した。そして、先進的な分散技術を応用しても、ナノ無機粒子の添加量は、ポリイミドフィルム総重量の10%を超えることが困難であった。これは、ナノ無機粒子の添加量が高すぎる場合、粒子が凝集する現象は、非常に発生しやすくなるためであった。一般的に、添加されたナノ無機粒子は、ポリイミドフィルムの総重量の2〜6%のみ占めている。ナノ無機粒子は含有量が高くない場合では、加熱熟成のステップを実施する時に、やはりフィルム層が収縮する現象が発生することがある。これによって製作されたポリイミドフィルムは、熱膨張係数がやはり異方性があった。熱膨張係数の異方性を改善するために、それは、二軸延伸の技術で製造されなければならない。
【0088】
本発明は、一軸延伸の方式によりポリイミドフィルムを製造する。本発明の実施形態によると、粒径が0.1μmより大きい無機粒子を用いる場合、粒子が凝集する現象が重大ではなく、簡単な攪拌により分散させる効果を果たすことができる。ポリイミドフィルムの中の無機粒子の含有量は、ポリイミドフィルムの総重量の約45%に増加できる。一軸延伸の方式のみでポリイミドフィルムを製造することで、製造されたポリイミドフィルムの熱膨張係数及び機械的強度に、ほぼ等方性を持たせることができる。
本発明の一実施形態によると、製造されたポリイミドフィルムは、裸シートの形で存在され、金属層体に付着する必要がない。2層式フレキシブル銅張積層板では、ポリアミック酸溶液を銅箔に塗布し、それから、乾燥及び加熱熟成を行った。この工程において、ポリイミドフィルムは、銅箔に付着され加熱熟成が行われて、一軸延伸又は二軸延伸という問題がないため、本発明と、完全に同様ではなかった。
【0089】
明らかに分かるのは、当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、多様の変更や修正を加えることができる。以上をまとめると、本発明は、本発明による変更や修正を包括しようとして、かつこれらの変更や修正が、下記特許請求の保護範囲に入れられる。
【符号の説明】
【0090】
100 方法、
110〜150 ステップ、
160 ポリアミック酸フィルム、
200 ポリイミドフィルム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが約12μm〜約250μmである、無機粒子を有するポリイミドフィルムの製造方法であって、
(a)それぞれの粒径が約0.1μm〜約5μmである複数の無機粒子と溶剤を混合・攪拌し、懸濁溶液を形成するステップと、
(b)ジアミンモノマー及びテトラカルボン酸二無水物モノマーと、前記懸濁溶液とを攪拌・混合し、前記ジアミンモノマーと前記テトラカルボン酸二無水物モノマーを重合反応させ、前記無機粒子を含有するポリアミック酸混合物を形成するステップと、
(c)前記ポリアミック酸混合物を、基材に塗布してから、乾燥工程を行い、前記基材に乾燥した前記ポリアミック酸混合物層を形成するステップと、
(d)乾燥した前記ポリアミック酸混合物層と前記基材を分離させ、ポリアミック酸混合物フィルムを形成するステップと、
(e)前記ポリアミック酸混合物フィルムに対して一軸延伸を行うと共に、前記ポリアミック酸混合物フィルムを加熱し、前記ポリアミック酸混合物フィルムを前記ポリイミドフィルムに変換するステップと、
を備える、無機粒子を有するポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
ステップ(a)の前記無機粒子の粒径は、約0.5μm〜約3μmである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(b)の前記無機粒子は、雲母粉、シリカ粉末、タルク粉末、セラミック粉末、粘土粉末、カオリナイト粘土又はこれらの組み合わせからなる群から選ばれるものである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)は、前記ジアミンモノマーを、前記懸濁溶液に加え溶解させ、ジアミンモノマーを含有する混合物を形成するステップと、前記テトラカルボン酸二無水物モノマーを、前記ジアミンモノマーを含有する混合物に加えるステップと、を含む請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)によるポリアミック酸混合物は、粘度が約100ポアズ(poise)〜約1000ポアズ(poise)である請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(c)による乾燥工程は、温度が約120℃〜約200℃の雰囲気で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(e)による前記ポリアミック酸混合物フィルムを加熱する動作は、温度が約270℃〜約400℃の雰囲気で行われる請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ステップ(e)による前記一軸延伸は、前記ポリアミック酸混合物フィルムの長辺に平行する方向に実施される請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリイミドフィルムにおける前記無機粒子は、重量濃度百分率が総重量の10〜50%である請求項1に記載の方法。
【請求項10】
厚さが約12μm〜約250μmであり、フィルム表面における任意の二つの垂直方向において、熱膨張係数差が、10ppm/℃より小さく、かつ前記二つの熱膨張係数のいずれも30ppm/℃以下であり、如何なる方向におけるヤング率が約4GPaより大きく、如何なる方向における寸法安定性が、テスト方法IPC−TM−650による測定値が0.10%より小さい、請求項1に記載の方法によって製作された無機粒子を有するポリイミドフィルム。
【請求項11】
厚さが約12μm〜約250μmであり、
ポリイミド約50〜約90重量部と、それぞれの粒径が約0.1μm〜約5μmである無機粒子約10〜約50重量部と、を含み
フィルム表面における任意二つの垂直方向において、熱膨張係数差が10ppm/℃より小さく、かつ前記二つの熱膨張係数が30ppm/℃以下であり、如何なる方向におけるヤング率が約4GPaより大きく、如何なる方向における寸法安定性が、テスト方法IPC−TM−650による測定値が0.10%より小さい、無機粒子を有するポリイミドフィルム。
【請求項12】
前記粒径は、約0.5μm〜約3μmである請求項11に記載のポリイミドフィルム。
【請求項13】
前記ポリイミドフィルムにおける前記無機粒子は、重量濃度百分率が総重量の25〜38%である請求項11に記載のポリイミドフィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−60596(P2013−60596A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−203144(P2012−203144)
【出願日】平成24年9月14日(2012.9.14)
【出願人】(508015829)達勝科技股▲ふん▼有限公司 (3)
【Fターム(参考)】