説明

ポリイミド前駆体、ポリイミド前駆体を含む組成物、及び該組成物から得られる透明ポリイミド成形体

【課題】十分な透明性を有し、CTEが小さく、弾性率が小さく、かつ複屈折の小さいポリイミド成形体を与える、ポリイミド前駆体を提供する。
【解決手段】1,4−ジアミノシクロヘキサンと3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物から得られる共重合体で、1,4−ジアミノシクロヘキサンと3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が縮合した構造単位と1,4−ジアミノシクロヘキサンと2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物が縮合した構造単位のモル比が)95:5〜75:25であるポリイミド前駆体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体、該ポリイミド前駆体を含む組成物、及び該組成物から得られる透明ポリイミド成形体に関する。
また、透明ポリイミド成形体からなる透明基板及び保護膜、該透明基板及び該保護膜を備えた電子部品及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、電子ペーパー等の表示装置の分野では、耐破損性の向上、軽量化、薄型化等の要望から、ガラス基板、カバーガラス等の透明基板を、樹脂を用いた透明基板に置き換えることが検討されている。特に、携帯電話、電子手帳、ラップトップ型パソコン等の携帯情報端末を含む移動型情報通信機器用表示装置では、従来のガラス基板に代わる、樹脂を用いた透明基板に対する強い要望がある。
【0003】
表示装置に用いられる透明基板は、耐熱性及び機械特性に加え、高い視認性の観点から、透明性が高く、複屈折が低いという特性が求められる。さらに、表示装置に用いられる透明基板は、TFT(Thin Film Transistor、薄膜トランジスタ)形成時の加熱による位置あわせ精度の悪化を防ぐために、熱膨張係数(CTE(Coefficient Of Thermal Expansion))が小さいことも求められている。
【0004】
上記の透明基板として、ポリイミド樹脂が注目されている。ポリイミド樹脂は、高い耐熱性に加え、絶縁性に優れた電気特性、及び機械特性を有することから、半導体装置の表面保護膜及び層間絶縁膜として用いられている。
一般にポリイミド樹脂は、分子内共役及び電荷移動錯体の形成により、黄褐色に着色するため、ポリイミド樹脂へフッ素を導入する、主鎖に屈曲性を与える、嵩高い側鎖を導入する等により、電荷移動錯体の形成を阻害し、透明性を発現させる方法が提案されている(非特許文献1)。また、電荷移動錯体を形成しない半脂環式又は全脂環式ポリイミド樹脂を用いることにより透明性を発現させる方法も提案されている(特許文献1及び2)。
しかし、これらのポリイミド樹脂を用いて透明基板を形成した場合であっても、CTEが大きいために(例えば、50×10−6−1)、位置あわせ精度が悪化する問題がある。
【0005】
透明性に優れ、且つCTEの小さいポリイミド樹脂として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とトランス‐1,4−ジアミノシクロヘキサンとから形成されるポリイミド(特許文献3)が提案されている。
しかし、特許文献3のポリイミド樹脂を用いた場合、CTEは小さくなるものの(例えば、20×10−6−1)、弾性率(引張弾性率)が大きく、また複屈折も大きいため、表示装置の透明基板又は保護膜として用いることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−348374号公報
【特許文献2】特開2005−015629号公報
【特許文献3】特開2002−161136号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Polymer(米国)、第47巻、p.2337−2348、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、十分な透明性を有し、CTEが小さく、弾性率が小さく、かつ複屈折の小さいポリイミド成形体を与える、ポリイミド前駆体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下のポリイミド前駆体等が提供される。
1.下記式(I)で表わされる構造単位及び下記式(II)で表わされる構造単位を有する共重合体であり、前記式(I)及び式(II)のモル比が(I):(II)=95:5〜75:25であるポリイミド前駆体。
【化1】

2.1に記載のポリイミド前駆体を含有する樹脂組成物。
3.有機溶剤を含有する2に記載の樹脂組成物。
4.表示装置の透明基板形成用である2又は3に記載の樹脂組成物。
5.1に記載のポリイミド前駆体を加熱して得られるポリイミド。
6.2又は3に記載の樹脂組成物を基材上に塗布及び乾燥して樹脂膜を形成する工程、並びに前記樹脂膜を加熱処理する工程を含むポリイミド成形体の製造方法。
7.6に記載の製造方法により得られるポリイミド成形体。
8.7に記載のポリイミド成形体からなる透明基板。
9.7に記載のポリイミド成形体からなる保護膜。
10.8に記載の透明基板又は9に記載の保護膜を有する電子部品。
11.8に記載の透明基板又は9に記載の保護膜を有する表示装置。
12.8に記載の透明基板又は9に記載の保護膜を有する太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、十分な透明性を有し、CTEが小さく、弾性率が小さく、かつ複屈折の小さいポリイミド成形体を与える、ポリイミド前駆体が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[ポリイミド前駆体]
本発明のポリイミド前駆体は、下記式(I)で表わされる構造単位及び下記式(II)で表わされる構造単位をそれぞれ有する共重合体である。
【化2】

【0012】
本発明のポリイミド前駆体は、式(I)及び式(II)のモル比が、(I):(II)=95:5〜75:25であり、得られる硬化膜の弾性率及びCTEの観点から、好ましくは95:5〜90:10である。式(I)で表わされる構造が多すぎる合、複屈折率と弾性率が悪化するおそれがある。一方、式(I)で表わされる構造が少なすぎる場合、CTEが悪化するおそれがある。
尚、ポリイミド前駆体は、式(I)で表わされる構造単位及び式(II)で表わされる構造単位の共重合体であるが、当該共重合体の重合形式は特に限定されず、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。
【0013】
ポリイミド前駆体の分子量は、好ましくは重量平均分子量で10000〜500000であり、より好ましくは10000〜300000であり、特に好ましくは20000〜200000である。
ポリイミド前駆体の重量平均分子量が10000未満の場合、ポリイミド前駆体を含む組成物を塗布・加熱する工程において、樹脂膜の形成が困難になるおそれがあるほか、得られる樹脂膜の機械特性が乏しくなるおそれがある。一方、ポリイミド前駆体の重量平均分子量が500000超の場合、ポリイミド前駆体合成時において重量平均分子量を500000超にコントロールすることが困難となるおそれがあるほか、適度な粘度を有するポリイミド前駆体を含む組成物の調製が困難になるおそれがある。
尚、ポリイミド前駆体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法を用いて、標準ポリスチレン換算により求めることができる。使用できる装置は、例えばL4000UV((株)日立製作所製)であり、使用できるカラムは、ゲルパック(日立化成工業(株)製)である。
【0014】
ポリイミド前駆体の溶液粘度は、好ましくは25℃で500〜200000mPa・sであり、より好ましくは2000〜100000mPa・sであり、特に好ましくは5000〜30000mPa・sである。
ポリイミド前駆体の溶液粘度が500mPa・s未満の場合、ポリイミド前駆体を含む組成物の塗布が困難となるおそれがある。一方、ポリイミド前駆体の溶液粘度が200000mPa・s超の場合、当該溶液粘度を有するポリイミド前駆体の合成時の撹拌が困難となるおそれがある。尚、ポリイミド前駆体の溶液粘度が200000mPa・s超であっても、反応終了後に溶媒を添加して撹拌することで、取扱い性のよい粘度のポリイミド前駆体を得ることも可能である。
ポリイミド前駆体の溶液粘度は、例えばE型粘度計(東機産業株式会社製VISCONIC EHD)を用いることで測定できる。
【0015】
[ポリイミド前駆体の製造方法]
本発明のポリイミド前駆体は、公知の合成方法で合成することができる。例えば、溶媒に所定量のジアミン類を溶解させ、得られたジアミン溶液に、テトラカルボン酸二無水物等のジカルボン酸類を所定量添加し、撹拌することでポリイミド前駆体を製造することができる。
上記テトラカルボン酸二無水物は、例えばテトラカルボン酸類を乾燥機で160℃、24時間加熱し脱水閉環させることで得られる。
各モノマー成分を溶解させるときには、必要に応じて加熱してもよい。
【0016】
具体的には、本発明のポリイミド前駆体は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、2,2-ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン無水物と、1,4−ジアミノシクロヘキサンとを重合させることにより得られる。
上記3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物は、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を加熱し、脱水閉環して得られる酸二無水物である。ジカルボン酸類として、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を用いることで、得られる硬化膜が良好な耐熱性を発現し、且つCTEを小さくすることができると考えられる。
上記2,2-ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン無水物は、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサオロプロパンを加熱し、脱水閉環して得られる酸二無水物である。ジカルボン酸類として、2,2-ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン無水物を用いることで、得られる硬化膜が、良好な耐熱性及び透明性を発現し、且つ複屈折を小さくすることができると考えられる。
また、ジアミン類として1,4−ジアミノシクロヘキサンを用いることで、得られる硬化膜が良好な透明性、耐薬品性を発現することができると考えられる。良好な透明性及び耐熱性を発現し、CTEを小さくするという観点から、トランス1,4−ジアミノシクロヘキサンを用いることが好ましい。トランス1,4−ジアミノシクロヘキサンを用いた場合、シクロヘキサン環に結合している2つのアミノ基の立体構造は、共にエクアトリアル配置であることが好ましい。
【0017】
本発明のポリイミド前駆体を合成する場合に用いられる溶媒は、ジアミン類とテトラカルボン酸二無水物、及び生じたポリイミド前駆体を溶解することのできる溶剤であれば特に制限はされない。
このような溶剤の具体例としては、非プロトン性溶媒、フェノール系溶媒、エーテル及びグリコール系溶媒等が挙げられる。
具体的には、非プロトン性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、1,3−ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等のアミド系溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;ヘキサメチルホスホリックアミド、ヘキサメチルホスフィントリアミド等の含りん系アミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等のケトン系溶媒;ピコリン、ピリジン等の3級アミン系溶媒;酢酸(2−メトキシ−1−メチルエチル)等のエステル系溶媒等が挙げられる。フェノール系溶媒としては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等が挙げられる。エーテル及びグリコール系溶媒としては、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。なかでも、溶解性や塗膜形成性の観点からN−メチル−2−ピロリドンが好ましい。これらの反応溶媒は単独で又は2種類以上混合して用いてもよい。
【0018】
ポリイミド前駆体の重合反応の反応温度は、好ましくは−30〜200℃であり、より好ましくは20〜180℃であり、特に好ましくは30〜100℃である。
反応時間は、使用するテトラカルボン酸二無水物とジアミン類の種類にもよるが、通常3〜100時間で完了できる。反応の終点は、室温(20〜25℃)又は適当な反応温度で撹拌を続け、生成物(ポリイミド前駆体)の粘度が一定になった時点とすればよい。粘度は、25℃でE型粘度計(東機産業株式会社製)を用いることで測定できる。
【0019】
本発明のポリイミド前駆体は、式(I)で表わされる構造単位及び式(II)で表わされる構造単位を、モル比で(I):(II)=95:5〜75:25で有する共重合体であるが、当該モル比は、合成に用いるテトラカルボン酸二無水物及びジアミン類の添加比率を変えることで調整することができる。例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物と、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン無水物とをモル比で(3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物):(2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン無水物)=95:5〜75:25の比率で用いて、さらに適量のトランス1,4−ジアミノシクロヘキサンを用いて合成を行なうことで、式(I)及び(II)のモル比が(I):(II)=95:5〜75:25であるポリイミド前駆体を得ることができる。
尚、式(I)及び(II)のモル比は、得られたポリイミド前駆体をH−NMRスペクトルで測定することによっても確認できる。
【0020】
[ポリイミド前駆体を含有する組成物(ポリイミド前駆体組成物)]
本発明のポリイミド前駆体組成物は、本発明のポリイミド前駆体を含む組成物であり、好ましくは有機溶媒も含む組成物である。
上記有機溶剤は、ポリイミド前駆体(ポリアミド酸)を溶解できるものであれば特に制限はなく、上述したポリイミド前駆体の合成時に使用する溶媒と同様のものが使用できる。
有機溶剤は、好ましくは常圧における沸点が60〜210℃の範囲にある有機溶剤であり、より好ましくは沸点が100〜205℃の範囲にある有機溶剤であり、特に好ましくは沸点が140〜180℃の範囲にある有機溶剤である。
沸点が210℃より高い有機溶剤であると、乾燥工程が長時間必要となって硬化膜の生産性が低下するおそれがある。一方、沸点が60℃未満の有機溶剤であると、乾燥工程において樹脂膜の表面に荒れが発生したり、樹脂膜中に気泡が入るため、均一な硬化膜が得られないおそれがある。
【0021】
ポリイミド前駆体組成物中のポリイミド前駆体の含有量は、塗膜形成性の観点から、好ましくは5〜60質量%であり、より好ましくは10〜50質量%であり、特に好ましくは10〜40質量%である。また、ポリイミド前駆体組成物中の有機溶剤の含有量は、ポリイミド前駆体組成物の25℃における粘度が0.5Pa・s〜100Pa・sとなる量とするとよい。
上記ポリイミド前駆体の含有量(樹脂不揮発分)は、あらかじめ質量の分かっている金属シャーレに(1g程度を目安に)ポリイミド前駆体組成物をとって、質量(金属シャーレ及びポリイミド前駆体組成物の質量、以下、加熱前の質量という)を測定し、その後ホットプレート上で2時間加熱して溶媒等が十分に揮発したあとの質量(金属シャーレ及びポリイミド前駆体の質量、以下、加熱後の質量という)を測定し、(加熱後の質量−金属シャーレの質量)÷(加熱前の質量−金属シャーレの質量)×100で計算できる。
【0022】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、ポリイミド前駆体及び任意に有機溶媒を含めばよく、例えばポリイミド前駆体及び有機溶媒の合計含有量が90質量%以上、95質量%以上、98質量%以上又は99質量%以上である。
ポリイミド前駆体組成物は、ポリイミド前駆体及び有機溶媒の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、接着性付与剤、界面活性剤、レベリング剤等をさらに含んでもよい。
【0023】
ポリイミド前駆体組成物は、接着性付与剤を含むことにより、ポリイミド前駆体組成物から得られる硬化膜と基板との接着性を高めることができる。
接着剤付与剤としては、有機シラン化合物、アルミキレート化合物等が挙げられる。
【0024】
上記有機シラン化合物としては、例えば、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、尿素プロピルトリエトキシシラン、メチルフェニルシランジオール、エチルフェニルシランジオール、n−プロピルフェニルシランジオール、イソプロピルフェニルシランジオール、n−ブチルフェニルシランジオール、イソブチルフェニルシランジオール、tert−ブチルフェニルシランジオール、ジフェニルシランジオール、エチルメチルフェニルシラノール、n−プロピルメチルフェニルシラノール、イソプロピルメチルフェニルシラノール、n−ブチルメチルフェニルシラノール、イソブチルメチルフェニルシラノール、tert−ブチルメチルフェニルシラノール、エチルn−プロピルフェニルシラノール、エチルイソプロピルフェニルシラノール、n−ブチルエチルフェニルシラノール、イソブチルエチルフェニルシラノール、tert−ブチルエチルフェニルシラノール、メチルジフェニルシラノール、エチルジフェニルシラノール、n−プロピルジフェニルシラノール、イソプロピルジフェニルシラノール、n−ブチルジフェニルシラノール、イソブチルジフェニルシラノール、tert−ブチルジフェニルシラノール、フェニルシラントリオール、1,4−ビス(トリヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(メチルジヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(エチルジヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(プロピルジヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ブチルジヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジメチルヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジエチルヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジプロピルヒドロキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジブチルヒドロキシシリル)ベンゼン等が挙げられる。
上記アルミキレート化合物としては、例えばトリス(アセチルアセトネート)アルミニウム、アセチルアセテートアルミニウムジイソプロピレート等が挙げられる。
【0025】
接着性付与剤の含有量は、ポリイミド前駆体100質量部に対して、好ましくは0.1〜20質量部であり、より好ましくは0.5〜10質量部である。
【0026】
ポリイミド前駆体組成物は、界面活性剤及び/又はレベリング剤を含むことにより、例えばストリエーション(膜厚のムラ)を防ぐ等の塗布性を向上させることができる。
界面活性剤及びレベリング剤としては、例えばポリオキシエチレンウラリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェノールエーテル等が挙げられる。
界面活性剤及びレベリング剤の市販品としては、メガファックスF171、F173、R−08(大日本インキ化学工業株式会社(DIC株式会社)製、商品名)、フロラードFC430、FC431(住友スリーエム株式会社製、商品名)、オルガノシロキサンポリマーKP341、KBM303、KBM403、KBM803(信越化学工業株式会社製、商品名)等が挙げられる。
【0027】
本発明のポリイミド前駆体組成物の製造方法は特に制限されず、公知の方法で製造できる。
例えばポリイミド前駆体組成物が有機溶媒を含み、当該有機溶媒がポリイミド前駆体の製造に使用した溶剤と同一である場合、有機溶媒中でポリイミド前駆体を製造し、当該ポリイミド前駆体溶液に、室温(25℃)〜80℃の温度範囲で、同一の有機溶媒及び必要に応じて添加剤を加えて、撹拌混合することでポリイミド前駆体組成物を製造することができる。
この場合、攪拌混合は撹拌翼を備えたスリーワンモータ(新東化学株式会社製)、自転公転ミキサー等の装置を用いることができる。また必要に応じて40〜100℃の熱を加えても良い。
上記の他、ポリイミド前駆体の製造に使用した溶剤と、ポリイミド前駆体組成物の有機溶媒が異なる場合には、ポリイミド前駆体溶液について、再沈殿又は留去により溶剤を除去してポリイミド前駆体のみとし、このポリイミド前駆体に、室温〜80℃の温度範囲で、有機溶剤及び必要に応じて添加剤を加えて、攪拌混合することでポリイミド前駆体組成物を製造することができる。
【0028】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、使用用途・目的にもよるが、塗布工程における作業性の観点から、好ましくは25℃における粘度が0.5〜100Pa・sであり、より好ましくは1〜30Pa・sであり、特に好ましくは5〜20Pa.sである。
組成物の粘度は、E型粘度計(東機産業株式会社製VISCONIC EHD)を用いることで測定できる。
【0029】
[ポリイミド成形体]
本発明のポリイミド成形体は、本発明のポリイミド前駆体組成物を基材上に塗布し、塗布膜を乾燥して樹脂膜を形成し、得られた樹脂膜を加熱処理(イミド化)することのより得られる。
ポリイミド成形体の形状は特に限定されず、使用用途及び使用目的により、膜状、フィルム状、シート状等の形態のいずれでもよい。
ポリイミド成形体の製造方法である(1)本発明のポリイミド前駆体組成物を基材上に塗布し、塗布膜を形成する工程、(2)塗布膜を乾燥し、樹脂膜を形成する工程、及び(3)樹脂膜を加熱処理して、組成物中のポリイミド前駆体をイミド化する工程を以下、それぞれ説明する。
【0030】
(1)塗布工程
ポリイミド前駆体組成物を塗布する基材としては、その後の乾燥工程における乾燥温度に対する耐熱性を有し、剥離性が良好であれば特に限定されない。例えば、ガラス、シリコンウエハ等からなる基材、PET(ポリエチレンテレフタレート)、OPP(延伸ポリプロピレン)等からなる支持体が挙げられる。また、ポリイミド成形体が膜上である場合は、ガラスやシリコンウエハ等からなる被コーティング物が挙げられ、ポリイミド成形体がフィルム状及びシート状である場合は、PET(ポリエチレンテレフタラート)、OPP(延伸ポリプロピレン)等からなる支持体が挙げられる。
上記の他に、ガラス基板、ステンレス、アルミナ、銅、ニッケル等の金属基板;ポリエチレングリコールテレフタレート、ポリエチレングリコールナフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンスルフィド等の樹脂基板等が使用できる。
【0031】
塗布方法は特に制限はなく、所望の塗布厚や組成物の粘度等に応じて、公知の塗布方法を適宜選択して使用できる。具体的には、ドクターブレードナイフコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、ロータリーコーター、フローコーター、ダイコーター、バーコーター等の塗布方法;スピンコート、スプレイコート、ディップコート等の塗布方法;スクリーン印刷やグラビア印刷等に代表される印刷技術を応用することもできる。
【0032】
ポリイミド前駆体組成物の塗布厚は、目的とする成形体の厚さと組成物中の樹脂不揮発成分の割合により適宜調整でき、通常1〜1000μm程度である。樹脂不揮発成分は上述の測定方法により求められる。
塗布工程は、通常室温で実施されるが、粘度を下げて作業性を良くする目的でポリイミド前駆体組成物を40〜80℃の範囲で加温して実施してもよい。
【0033】
(2)乾燥工程
乾燥工程では、塗布膜の有機溶剤除去を目的に行われる。
乾燥は、ホットプレート、箱型乾燥機やコンベヤー型乾燥機等の装置を利用することができ、乾燥温度は、好ましくは80〜200℃であり、より好ましくは100〜150℃である。
【0034】
(3)加熱工程
乾燥して得られる樹脂膜を加熱することで、樹脂膜中に残留した有機溶剤の除去を行うとともに、樹脂膜中のポリイミド前駆体のイミド化反応を進行させ、硬化膜(ポリイミド成形体)が得られる。
上記加熱は乾燥工程と同時又は逐次的に行ってもよい。
【0035】
加熱手段としては、イナートガスオーブン、ホットプレート、箱型乾燥機、コンベヤー型乾燥機等の装置を用いて行うことができる。
加熱温度は、ポリイミド前駆体組成物の有機溶媒の種類にもよるが、好ましくは250℃〜400℃であり、より好ましくは300〜350℃である。加熱温度が250℃未満の場合、イミド化が不十分となるおそれがある。一方、加熱温度が400℃超の場合、得られるポリイミド成形体の透明性が低下するおそれがあるほか、耐熱性が悪化するするれがある。
加熱時間は、通常0.5〜3時間程度である。
また、加熱雰囲気は、空気雰囲気下でもよいが、安全性及び酸化防止の観点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。この際の不活性ガスとしては窒素、アルゴン等が挙げられる。
【0036】
加熱後のポリイミド成形体中の残存有機溶剤量は、好ましくは2質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以下である。ポリイミド成形体中の残存有機溶剤量は、示差熱重量同時測定(TG−DTA)及びガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)により測定できる。
【0037】
上記の加熱を実施することにより、ポリイミド成形体が得られるが、このポリイミド成形体は基材を含む積層体として得られるので、使用用途又は目的に応じて、さらに(4)剥離工程を含んでもよい。
【0038】
(4)剥離工程
ポリイミド成形体の剥離は、加熱工程後、基材とポリイミド成形体の積層体を室温〜50℃程度まで冷却した後、実施できる。
剥離工程を容易に実施するため、本発明のポリイミド前駆体組成物を塗布する前に、必要に応じて基材へ離型剤を塗布しておいてもよい。係る離型剤としては、植物油系、シリコン系、フッ素系、アルキッド系等の離型剤が挙げられる。
【0039】
ポリイミド成形体は、用途に応じて、レジストプロセスによりパターンを形成することもできる。
レジストプロセスは例えば(3)加熱工程又は(4)剥離工程の後に、レジストを塗布し、露光及び現像等によりパターンを形成する。レジスト材料及びエッチングに用いられる材料は、通常のレジストプロセスで用いられるものであれば、特に制限はない。例えば、一般によく知られたエッチング溶液としては、ヒドラジン水和物、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等がある。また、これらの湿式エッチングの他に、酸素プラズマエッチング、酸素スパッタエッチング等の乾式方法をとることもできる。
パターン形成後、有機溶剤を用いてレジストをポリイミド成形体から剥離する。係る有機溶剤としては、エタノールアミン、NMP、DMSO等が挙げられ、これらの混合物を用いることもできる。
【0040】
以上、本発明のポリイミド成形体の製造方法を例示したが、上記製造方法は、膜厚1〜500μmのポリイミド成形体を製造する場合に有用であり、膜厚1〜100μmのポリイミド成形体は、本発明の所望する効果をより向上させることができる。
【0041】
本発明のポリイミド成形体は、ポリイミドの本来の特性である耐熱性及び機械強度を有するだけでなく、十分な透明性を有し、CTEが小さく、弾性率が小さく、且つ複屈折の小さい成形体である。
【0042】
ポリイミド成形体の透明性は、好ましくは波長400nm以上の光における透過率が、膜厚10μmで70%以上であり、より好ましくは75%以上である。また、ポリイミド成形体の複屈折は、好ましくは0.12以下であり、より好ましくは0.08以下である。
これら値は、光通信分野、表示装置分野に利用されるポリイミド成形体として十分な透明性、低複屈折率を有すると評される値である。
【0043】
ポリイミド成形体のCTE(熱膨張係数)は、好ましくは幅方向及び操作方向共に1〜45ppmであり、より好ましくは5〜40ppmであり、さらに好ましくは5〜30ppmである。
ポリイミド成形体が基板(被コーティング物)を含む積層体として使用される場合、該ポリイミド成形体の線熱膨張係数は、その被コーティング物のCTEと同程度となるように調整することが好ましい。
ポリイミド成形体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは250〜400℃であり、より好ましくは300〜400℃である。
上記のCTE及びガラス転移温度の値は、光通信分野、表示装置分野に利用されるポリイミド成形体として十分な耐熱性を有すると評される値である。該ガラス転移温度は、後述の実施例に記載した方法にて得られた値である。
CTE及びガラス転移温度(Tg)は、例えばセイコーインスツル株式会社製TMA/SS6000によってTMA測定を行うことで求められる。
【0044】
ポリイミド成形体の弾性率(引張弾性率)は、好ましくは幅方向及び操作方向共に1.5GPa〜6.0GPaであり、より好ましくは1.7〜6.0GPaであり、さらに好ましくは1.7〜5.5GPaである。ポリイミド成形体の弾性率が6.0GPa超の場合、硬化後にポリイミド成形体が反る傾向がある。
ポリイミド成形体の引張強さ(破断強度)は、好ましくは150〜300MPaであり、より好ましくは150〜200MPaである。ポリイミド成形体の引張強さが150MPa未満の場合、成形体が脆く、透明基板として用いた場合に取り扱いが難しくなるおそれがある。
ポリイミド成形体の破断伸びは、好ましくは5%以上であり、より好ましくは10%以上である。ポリイミド成形体の破断伸びが5%未満の場合、ポリイミド成形体を透明基板として用いた場合の曲げ応力が弱く、透明基板の信頼性が低下するおそれがある。
これらの機械特性(弾性率、引張強さ及び破断伸び)は、全て引張試験装置の引張試験により評価することができ、ポリイミド成形体がこれらの機械的物性を有していれば、光通信分野、表示装置分野に利用されるポリイミド成形体としては十分な靭性を有するとされ、実用的に用いることができる。
【0045】
[透明基板、保護膜及び電子部品]
本発明のポリイミド成形体は、十分な透明性を有し、CTEが小さく、弾性率が小さく、且つ複屈折の小さい成形体であるため、例えば透明基板、保護膜及び電子部品に好適用いることができる。
本発明の透明基板及び保護膜は、本発明のポリイミド成形体からなり、従来公知の製造方法を用いることができる。例えば、本発明のポリイミド前駆体組成物を仮固定基材に塗布し、乾燥及び加熱を行い、次いで用途に応じて上記レジストプロセスを行い、透明基板として使用することができる。また、本発明のポリイミド前駆体組成物を仮固定基材に塗布し、乾燥及び加熱を行い、仮固定基材から剥離して保護膜として用いることができる。
【0046】
本発明の透明基板及び保護膜は、十分な透明性を有し、CTEが小さく、弾性率が小さく、かつ複屈折が小さいため、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、電子ペーパー等の表示装置に使用することができる。具体的には、本発明の透明基板は、薄膜トランジスタ(TFT)を形成するための基板、カラーフィルタを形成するための基板、透明導電膜(ITO、Indium Thin Oxide)を形成するための基板等、として用いることができる。
【0047】
本発明の透明基板は、従来のガラス基板の課題であった、耐破損性を向上することができ、また、基板の軽量化、薄型化を実現できると考えられる。さらに、本発明の透明基板は、CTEが小さいため、TFT形成時の加熱工程における位置あわせ精度の悪化を防ぐことができ、また、透明性が高く、複屈折が小さいため、視認性に優れる。加えて、本発明の透明基板は、弾性率が小さいため、フレキシブルディスプレイの基板としても用いることができる。
本発明の保護膜は、フレキシブルディスプレイ基板、カラーフィルタ用保護膜等として用いることができ、太陽電池の表面保護膜等としても用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1
[ポリイミド前駆体の調製]
攪拌機及び温度計を備えた0.2リットルのフラスコ中に、N−メチルピロリドン56g(564mmol)と1,4−ジアミノシクロヘキサン3.43g(30mmol)を仕込み、撹拌した。乾燥機で160℃で24時間加熱し脱水閉環させた3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物7.94g(27mmol)と2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物1.33g(3mmol)をさらに添加し、95℃のウォーターバスで10分間、加熱攪拌して完全に溶解させた。その後、生成物の粘度(分子量)が一定となるまで約70時間撹拌し、ポリアミド酸であるポリイミド前駆体((I):(II)=9:1)のNMP溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体は、重量平均分子量が標準ポリスチレン換算で35,000であり、分散度は2.4であった。
ポリイミド前駆体の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC、装置は、株式会社日立製作所製、カラムは日立化成工業株式会社製ゲルパック)を用いて、標準ポリスチレン換算により求めた。具体的には、以下の装置及び条件で重量平均分子量を測定した。
【0050】
重量平均分子量の測定条件は以下の通りである:
測定装置:検出器 株式会社日立製作所社製L4000 UV
ポンプ:株式会社日立製作所社製L6000
データ処理装置:株式会社島津製作所社製C−R4A Chromatopac
カラム:Gelpack GL−S300MDT−5 x2本
溶離液:THF/DMF(容積比)=1/1である混合液であって、さらにLiBr(0.03mol/l)及びHPO(0.06mol/l)を含む混合液
流速:1.0ml/分
検出器:UV270nm
ポリマー0.5mgに対して溶媒[THF/DMF=1/1(容積比)]1mlの溶液を用いて測定。
【0051】
[ポリイミド前駆体組成物]
得られたポリイミド前駆体NMP溶液を、塗布しやすい粘度になるまでNMPをさらに添加して希釈した。希釈後のポリイミド前駆体NMP溶液の残存固形分(NV)を測定したところ14%であった。ここで、残存固形分はポリイミド前駆体NMP溶液中の樹脂不揮発分の割合であり、上述の樹脂不揮発分を測定する方法で求めた。
ポリイミド前駆体NMP溶液を5μmのフィルター(Millipore社製、SLLS025NS)を用いてろ過を行い、ポリイミド前駆体組成物を得た。
【0052】
得られたポリイミド前駆体組成物をシリコンウエハ上にスピンコートして、120℃で3分間乾燥し、膜厚14〜18μmの樹脂膜を形成した。形成した樹脂膜をイナートガスオーブンを用いて窒素雰囲気下で下記条件で加熱をし、膜厚10μmの硬化膜を得た。
【0053】
樹脂膜の加熱条件は、以下の通りである:
装置:光洋サーモシステム社製イナートガスオーブン
加熱条件:室温〜200℃(5℃/分)まで昇温
→200℃(20分)でホールド
→200℃〜300℃(5℃/分)まで昇温
→300℃(60分)でホールド
→300℃〜室温(60分)まで冷却
【0054】
得られた硬化膜について、下記の評価を行った。結果を表1に示す。
(1)複屈折
硬化膜がシリコンウエハ着いた状態で、セキテクノトロン株式会社製メトリコン2010型を用い、1300nmの波長におけるY偏波での屈折率であるTEとX偏波での屈折率であるTMの値をそれぞれ測定し、下記式により硬化膜の複屈折を算出した。
複屈折=TE−TM
得られた複屈折について、以下のように評価した。
A:複屈折が0.08以下(特に良好)
B:複屈折が0.08超で0.12以下(良好)
C:複屈折が0.12超(不良)
【0055】
(2)透過率
4.9質量%フッ酸水溶液を用いて、得られた硬化膜をシリコンウエハから剥離し、水洗、乾燥した。乾燥した硬化膜をU−3310(株式会社日立製作所製スペクトロフォトメーター)を用い、波長が400nm以上である光に対する透過率を、Lambert−Beerの法則を用いて10μm換算して求めた。
【0056】
(3)CTE
4.9質量%フッ酸水溶液を用いて、得られた硬化膜をシリコンウエハから剥離し、水洗、乾燥した。乾燥した硬化膜を2mm×3cmに切り取り、セイコー社製TMA/SS6000の熱機械測定装置を用いて、10g/分の加重をかけながら30〜420℃まで(昇温速度5℃/分)加熱した。その際の100〜200℃間の硬化膜の伸び率の傾きを測定してCTEとした。
得られたCTEの結果を、以下のように分類した。
A:30ppm/K以下(特に良好)
B:30ppm/K超で40ppm/K以下(良好)
C:40ppm/K超(不良)
【0057】
(3)ガラス転移温度Tg
4.9質量%フッ酸水溶液を用いて、得られた硬化膜をシリコンウエハから剥離し、水洗、乾燥した。乾燥した硬化膜をセイコーインスツル株式会社製TMA/SS6000を用い、昇温速度5℃/分で加熱して、熱膨張係数の変曲点よりTgを測定した。
【0058】
(4)機械強度(破断伸び、破断強度及び弾性率)
4.9質量%フッ酸水溶液を用いて、得られた硬化膜をシリコンウエハから剥離し、水洗、乾燥した。乾燥した硬化膜を島津製作所社製オートグラフAGS−100NHを用いて引張試験より、破断伸び、破断強度及び弾性率を評価した。
尚、弾性率については、得られた結果を以下のように分類した。
A:5.5GPa以下(特に良好)
B:5.5GPa超で6.0GPa以下(良好)
C:6.0GPa超(不良)
【0059】
実施例2−3及び比較例1−6
表1に示す配合比でポリアミド酸を調製した他は実施例1と同様にして、ポリアミド酸の調製及び評価、組成物の調製、並びに硬化膜の製造及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例1−3のように1,4−ジアミノシクロヘキサン、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、及び2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサオロプロパンから合成されるポリイミド前駆体を用いて形成された硬化膜は、良好な透過率を示し、CTEが小さく、複屈折も小さく、且つ弾性率も小さい硬化膜であることが分かる。
一方、比較例1の2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサオロプロパンを使用しなかった場合、硬化膜の弾性率及び複屈折が大きくなってしまっていこと、比較例2の3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸を使用しなかった場合、硬化膜のCTEが大きくなってしまっていること、比較例3の2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサオロプロパンの量が多い場合、硬化膜のCTEが大きくなってしまっていることが分かる。即ち、1,4−ジアミノシクロヘキサン、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、及び2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサオロプロパンの組み合わせから得られるポリイミド前駆体を用いない場合、得られる硬化膜は透明性、CTE、機械特性、複屈折の全てを満足させることができていないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明に係るポリイミド前駆体を含有する樹脂組成物から得られる硬化膜(ポリイミド成形体)は、透明性、低複屈折、低熱膨張係数及び低弾性率に優れているため、表示装置の透明基板や保護膜等として好適に用いることができる。また、該透明基板又は該保護膜を備えた電子部品の提供が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表わされる構造単位及び下記式(II)で表わされる構造単位を有する共重合体であり、前記式(I)及び式(II)のモル比が(I):(II)=95:5〜75:25であるポリイミド前駆体。
【化3】

【請求項2】
請求項1に記載のポリイミド前駆体を含有する樹脂組成物。
【請求項3】
有機溶剤を含有する請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
表示装置の透明基板形成用である請求項2又は3に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1に記載のポリイミド前駆体を加熱して得られるポリイミド。
【請求項6】
請求項2又は3に記載の樹脂組成物を基材上に塗布及び乾燥して樹脂膜を形成する工程、並びに前記樹脂膜を加熱処理する工程を含むポリイミド成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法により得られるポリイミド成形体。
【請求項8】
請求項7に記載のポリイミド成形体からなる透明基板。
【請求項9】
請求項7に記載のポリイミド成形体からなる保護膜。
【請求項10】
請求項8に記載の透明基板又は請求項9に記載の保護膜を有する電子部品。
【請求項11】
請求項8に記載の透明基板又は請求項9に記載の保護膜を有する表示装置。
【請求項12】
請求項8に記載の透明基板又は請求項9に記載の保護膜を有する太陽電池モジュール。


【公開番号】特開2013−79344(P2013−79344A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−220705(P2011−220705)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(398008295)日立化成デュポンマイクロシステムズ株式会社 (81)
【Fターム(参考)】