説明

ポリイミド前駆体水溶液組成物

【課題】水溶媒を使用することによって環境適応性が良好であって、しかも、それを用いて得られる芳香族ポリイミドは高い結晶性を有するために耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの特性が優れる、ポリイミド前駆体水溶液組成物。
【解決手段】下記化学式(1)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸が、前記ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分に対して1.6倍モル以上の、置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類と共に、水溶媒中に溶解してなるポリイミド前駆体水溶液組成物。


化学式(1)において、Aテトラカルボン酸に基づく4価の基であり、Bは、芳香族ジアミンに基づく基であって、前記芳香族ジアミンの25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド前駆体水溶液組成物に関する。このポリイミド前駆体水溶液組成物は、有機溶媒を用いたポリイミド前駆体溶液組成物に較べて環境適応性が高いので好適である。しかも、このポリイミド前駆体水溶液組成物を用いて得られる芳香族ポリイミドは、高い結晶性を有し、したがって耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの優れた特性を有する。
【背景技術】
【0002】
芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンから得られる芳香族ポリイミドは、耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの特性が優れるために、電気電子産業分野などで広く用いられている。しかし、芳香族ポリイミドは有機溶媒への溶解性が悪いので、通常は、ポリイミド前駆体のポリアミック酸を有機溶媒に溶解した溶液組成物を、例えば基材表面上に塗布し、次いで高温で加熱して脱水閉環(イミド化)させることで芳香族ポリイミドを得ている。このポリアミック酸溶液組成物は、有機溶媒を用いることや高温の熱処理が必要なことから、環境面で必ずしも好適とは云えず、場合によっては用途が限定されることもあった。
【0003】
このために、水溶性ポリイミド前駆体が提案されている。例えば、特許文献1には、有機溶媒中で得られたポリアミド酸を加水分解した後で水中に投入してポリアミド酸粉末を得、そのポリアミド酸粉末をさらに温水中で粉砕及び洗浄し、次いで、水及び2−メチルアミノジエタノールなどの特定のアミン化合物と混合してポリアミド酸塩水溶液組成物を得ることが提案されている。しかし、このポリアミド酸塩水溶液組成物は、高分子量化し難く、また得られるポリイミドの特性にも改良の余地があった。
【0004】
さらに、特許文献2には、有機溶媒中で得られたポリアミック酸と1,2−ジメチルイミダゾ−ル及び/又は1−メチル−2−エチルイミダゾ−ルとの反応混合物から分離取得した水溶性ポリイミド前駆体が提案されている。しかし、ここで具体的に提案された水溶性ポリイミド前駆体は、それを用いて得られる芳香族ポリイミドが非結晶性のものであった。さらに、ここでは、水溶性ポリイミド前駆体は、有機溶媒中で調製後、分離し、水溶媒に溶解されるが、有機溶媒中で調製された水溶性ポリイミド前駆体からは有機溶媒を完全に除去できない(完全に除去しようとして加熱処理するとイミド化が起こる)ために、水溶液組成物中に有機溶媒が同伴するなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−59832号公報
【特許文献2】特開2002−226582公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、水溶媒を使用することによって環境適応性が良好であって、しかも、それを用いて得られる芳香族ポリイミドは高い結晶性を有するために耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの特性が優れる、好ましくは高分子量であって水溶媒が水以外の有機溶媒を含まない、ポリイミド前駆体水溶液組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の各項に関する。
【0008】
1. テトラカルボン酸成分とジアミン成分とが反応して得られる、下記化学式(1)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸が、前記ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分に対して1.6倍モル以上の、置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類と共に、水溶媒中に溶解してなるポリイミド前駆体水溶液組成物。
【0009】
【化1】

化学式(1)において、Aは、2〜3個の芳香族環を有するテトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基であり、Bは、1〜2個の芳香族環を有する芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基であって、前記芳香族ジアミンの25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上である。
【0010】
2. 置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類が、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、4−エチル−2−メチルイミダゾール、及び1−メチル−4−エチルイミダゾールからなる群から選択されるイミダゾール類であることを特徴とする前記求項1に記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。
【0011】
3. 化学式(1)のAが、下記化学式(2)〜(7)或いはそれらの混合物であることを特徴とする前記項1または2に記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。
【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

【0015】
【化5】

【0016】
【化6】

【0017】
【化7】

【0018】
4. 化学式(1)のBが、下記化学式(8)〜(9)或いはそれらの混合物であることを特徴とする前記項1〜3のいずれかに記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。
【0019】
【化8】

【0020】
【化9】

【0021】
5. 対数粘度が0.2以上であることを特徴とする前記項1〜4のいずれかに記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。
【0022】
6. 有機溶媒の含有量が5%未満であることを特徴とする前記項1〜5のいずれかに記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。
【0023】
7. 水溶媒が、実質的に水以外の有機溶媒を含まないことを特徴とする前記項1〜6のいずれかに記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。
【発明の効果】
【0024】
本発明によって、水溶媒を使用することによって環境適応性が良好であって、しかも、それを用いて得られる芳香族ポリイミドは高い結晶性を有するために耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの特性が優れる、好ましくは高分子量であって水溶媒が水以外の有機溶媒を含まない、ポリイミド前駆体水溶液組成物を提供することができる。
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物から得られる芳香族ポリイミドは、耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの特性が優れているので電気・電子機器や複写機などの各種精密機器用の部品として、例えばフレキシブルプリント配線板などの各種材料、複写機の中間転写、定着、或いは搬送用のシームレスベルトなどとして好適に用いることができる。また、電池環境下でも膨潤度が小さく、また優れた靱性を有することから、電池の電極バインダー用途などにも好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物を構成するポリアミック酸は、前記化学式(1)で表される繰返し単位からなる。
【0026】
化学式(1)のAは、2〜3個の芳香族環を有するテトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基であって、好ましくは前記化学式(2)〜(7)或いはそれらの混合物である。すなわち、本発明で用いるポリアミック酸のテトラカルボン酸成分は、2〜3個の芳香族環を有するテトラカルボン酸類(テトラカルボン酸、その二無水物或いはエステル化物など)であって、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸類、4,4’−オキシジフタル酸類、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸類、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸類、p−ターフェニルテトラカルボン酸類、m−ターフェニルテトラカルボン酸類など、及びそれらの混合物を好適に例示することができる。この中で好ましくは、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸類、4,4’−オキシジフタル酸類であり、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸類、4,4’−オキシジフタル酸類、及びそれらの混合物がより好ましい。これら以外のテトラカルボン酸成分を用いると、水溶性のポリイミド前駆体を得るのが難しくなったり、得られるポリイミドの結晶性が低下して高い特性が得られなくなったりする場合がある。
【0027】
前記化学式(1)のBは、1〜2個の芳香族環を有する芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基であって、前記芳香族ジアミンの25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上のものである。すなわち、本発明で用いるポリアミック酸の芳香族ジアミン成分は、1〜2個の芳香族環を有する芳香族ジアミンあって、前記芳香族ジアミンの25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上のものである。
芳香族ジアミンが2個を越える芳香族環を持つ場合には、通常芳香族ジアミン分子中に複数の屈曲性が高い結合が含まれるので、その様な芳香族ジアミンから得られる芳香族ポリイミドは結晶性が低下して高い特性を得ることが難しくなる。
また、芳香族ジアミンの25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上であることは、ポリイミド前駆体水溶液組成物を得るために特に必要な特性であって、水に対する溶解度が0.1g/L未満では、均一に溶解したポリイミド前駆体水溶液組成物を得るのが難しくなるので好ましくない。
【0028】
本発明で用いる芳香族ジアミン成分としては、p−フェニレンジアミン(25℃における水に対する溶解度は120g/L、以下同様)、m−フェニレンジアミン(77g/L)、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.19g/L)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.24g/L)、4,4’−ジアミノジフェニルメタン(0.54g/L)、2,4−トルエンジアミン(62g/L)、3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(1.3g/L)、ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン(200g/L)、2,4−TDA:2,4−ジアミノトルエン(62g/L)などを例示できるが、水溶性が高く、且つ得られるポリイミドの結晶性が高くて優れた特性を得ることができるので、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及びそれらの混合物が好ましく、さらにp−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、及びそれらの混合物がより好ましい。
なお、25℃おける水に対する溶解度は、当該物質が、25℃の水1L(リットル)に溶解する限界量(g)を意味する。この値は、ケミカル・アブストラクトなどのベータベースに基づいた検索サービスとして知られるSciFinder(登録商標)によって容易に検索することができる。ここでは、種々の条件下での溶解度のうち、Advanced Chemistry Development(ACD/Labs)Software V11.02(Copyright 1994−2011 ACD/Labs)によって算出されたpHが7における値を採用した。
【0029】
本発明で用いる置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類(化合物)は、好ましくは下記化学式(10)の化合物が好適である。
【0030】
【化10】

化学式(10)において、X〜Xは、それぞれ独立に、水素原子、或いは炭素数が1〜5のアルキル基であって、X〜Xのうち少なくとも2個は炭素数が1〜5のアルキル基である。
【0031】
置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類は、水に対する溶解性が高いので、それらを用いることによって、ポリイミド前駆体組成物を容易に製造することができる。これらのイミダゾール類としては、1,2−ジメチルイミダゾール(25℃における水に対する溶解度は239g/L、以下同様)、2−エチル−4−メチルイミダゾール(1000g/L)、4−エチル−2−メチルイミダゾール(1000g/L)、及び1−メチル−4−エチルイミダゾール(54g/L)などが好適である。
なお、25℃おける水に対する溶解度は、当該物質が、25℃の水1L(リットル)に溶解する限界量(g)を意味する。この値は、ケミカル・アブストラクトなどのベータベースに基づいた検索サービスとして知られるSciFinder(登録商標)によって容易に検索することができる。ここでは、種々の条件下での溶解度のうち、Advanced Chemistry Development(ACD/Labs)Software V11.02(Copyright 1994−2011 ACD/Labs)によって算出されたpHが7における値を採用した。
【0032】
本発明で用いる置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類の使用量は、原料のテトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応によって生成するポリアミック酸のカルボキシル基に対して、好ましくは0.8倍当量以上、より好ましくは1.0倍当量以上、さらに好ましくは1.2倍当量以上である。イミダゾール類の使用量がポリアミック酸のカルボキシル基に対して0.8倍当量未満では、均一に溶解したポリイミド前駆体水溶液組成物を得るのが容易でなくなる場合がある。また、イミダゾール類の使用量の上限は、特に限定されないが、通常は10倍当量未満、好ましくは5倍当量未満、より好ましくは3倍当量未満である。イミダゾール類の使用量が多過ぎると、非経済的になるし、且つ組成物の保存安定性が悪くなることがある。
本発明において、イミダゾール類の量を規定するポリアミック酸のカルボキシル基に対する倍当量とは、ポリアミック酸のアミド酸基を形成するカルボキシル基1個に対して何個(何分子)の割合でイミダゾール類を用いるかを表す。なお、ポリアミック酸のアミド酸基を形成するカルボキシル基の数は、原料のテトラカルボン酸成分1分子当たり2個のカルボキシル基を形成するものとして計算される。
したがって、本発明で用いるイミダゾール類の使用量は、ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分に対して、つまり原料のテトラカルボン酸二無水物に対して、好ましくは1.6倍モル以上、より好ましくは2.0倍モル以上、さらに好ましくは2.4倍モル以上である。
【0033】
本発明で用いるイミダゾール類の特徴は、ポリアミック酸のカルボキシル基と塩を形成して水に対する溶解性を高めるだけでなく、さらにポリイミド前駆体をイミド化(脱水閉環)してポリイミドにする際に、極めて高い触媒的な作用を有することにある。この結果、本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物を用いると、例えばより低温且つ短時間の加熱処理によっても容易に、極めて高い物性を有する芳香族ポリイミドを得ることが可能になる。
【0034】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物は、特許文献1,2などの方法に準じ、
(i) 有機溶媒を反応溶媒とし、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応して得られたポリアミド酸を水中に投入してポリアミド酸粉末を得、そのポリアミド酸粉末を水溶媒中でイミダゾール類(好ましくは2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類)と共に混合溶解して水溶液組成物を得る方法、
(ii) 有機溶媒を反応溶媒とし、イミダゾール類(好ましくは2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類)の存在下にテトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応して水溶性ポリイミド前駆体を得、それを分離後、水溶媒に溶解する方法、或いは、
(iii) 有機溶媒を反応溶媒とし、テトラカルボン酸成分とジアミン成分とを反応してポリアミック酸を得、そのポリアミック酸を、有機溶媒を反応溶媒として、イミダゾール類(好ましくは2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類)と反応して水溶性ポリイミド前駆体を得、それを分離後、水溶媒に溶解する方法
などでも得ることができる。但し、前述の通り、有機溶媒の含有量が極めて少ない、さらには有機溶媒を含まないポリイミド前駆体水溶液組成物を得るためには、ポリイミド前駆体を有機溶媒中で調製することは好ましくない。
【0035】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物は、好ましくは、水を反応溶媒として、置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類の存在下に、テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とを反応することによって、極めて簡便に(直接的に)製造することが可能である。
【0036】
この反応は、テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分を略等モル用い、イミド化反応を抑制するために100℃以下好ましくは80℃以下の比較的低温で行なわれる。限定するものではないが、通常の反応温度は、25℃〜100℃、好ましくは40℃〜80℃、より好ましくは50℃〜80℃であり、反応時間は0.1〜24時間程度、好ましくは2〜12時間程度が好適である。反応温度及び反応時間を前記範囲内とすることによって、生産効率よく高分子量のポリイミド前駆体水溶液組成物を容易に得ることができる。なお、反応は、空気雰囲気下でも構わないが、通常は不活性ガス好ましくは窒素ガス雰囲気下で好適に行われる。
また、テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分を略等モルとは、具体的にはモル比[テトラカルボン酸成分/ジアミン成分]で0.90〜1.10程度、好ましくは0.95〜1.05程度である。
【0037】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物においては、ポリイミド前駆体(実質的にポリアミック酸)に起因する固形分濃度に基づいて温度30℃、濃度0.5g/100mL(水溶解)で測定した対数粘度が0.2以上、好ましくは0.4以上、より好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.8以上、特に好ましくは1.0以上または超の高分子量であることが好適である。対数粘度が前記範囲よりも低くい場合には、ポリイミド前駆体の分子量が低いことから、本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物を用いても、高い特性の芳香族ポリイミドを得ることが難しくなることがある。
【0038】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物は、水溶媒を用いるが、水以外のポリアミック酸を調製する際に用いられる公知の有機溶媒を全溶媒中50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下の割合で用いても構わない。
【0039】
「水を反応溶媒として」とは、溶媒の主成分として水を用いることを意味する。したがって、水以外の有機溶媒を全溶媒中50質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下の割合で用いてもよい。なお、ここで言う有機溶媒には、テトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸成分、ジアミン成分、ポリアミック酸等のポリイミド前駆体、及びイミダゾール類は含まれない。
【0040】
前記有機溶媒とは、例えばN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ヘキサメチルホスホロトリアミド、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、テトラヒドロフラン、ビス[2−(2−メトキシエトキシ)エチル]エーテル、1,4−ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジフェニルエーテル、スルホラン、ジフェニルスルホン、テトラメチル尿素、アニソール、m−クレゾール、フェノール、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。
【0041】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物の製造方法においては、環境適応性が高いので、反応溶媒が、有機溶媒の含有量が5%未満である溶媒であることが好ましく、水以外の有機溶媒を含まない水溶媒であることが特に好ましい。反応溶媒の組成は、製造するポリイミド前駆体水溶液組成物の所望の溶媒組成に応じて適宜選択することができ、ポリイミド前駆体水溶液組成物の所望の溶媒組成と同一であることが好ましい場合がある。
【0042】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物は、ポリイミド前駆体(実質的にポリアミック酸)に起因する固形分濃度が、限定されないが、ポリイミド前駆体と溶媒との合計量に対して、好ましくは5質量%〜45質量%、より好ましくは7質量%〜40質量%、さらに好ましくは9質量%〜30質量%であることが好適である。固形分濃度が5質量%より低いと著しく生産性が悪くなることがあり、45質量%より高いと溶液の流動性がなくなることがある。また本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物の30℃における溶液粘度は、限定されないが、好ましくは1000Pa・sec以下、より好ましくは0.5〜500Pa・sec、さらに好ましくは1〜300Pa・sec、特に好ましくは3〜200Pa・secであることが取り扱い上好適である。
溶液粘度が1000Pa・secを超えると、流動性がなくなるため金属やガラスなどへの均一な塗布が困難となり、また、0.5Pa・secよりも低いと、金属やガラスなどへの塗布時にたれやハジキなどが生じるので好ましくなく、また高い特性の芳香族ポリイミドを得ることが難しくなることがある。
【0043】
本発明のポリイミド前駆体水溶液組成物は、通常は加熱処理によって水溶媒を除去するとともにイミド化(脱水閉環)することによって好適に芳香族ポリイミドを得ることができる。加熱処理条件は、特に限定されないが、概ね100℃以上、好ましくは120℃〜600℃、より好ましくは150℃〜500℃で、0.01時間〜30時間、好ましくは0.01〜10時間である。
本発明のポリイミド前駆体水溶液を用いて得られる芳香族ポリイミドの特性は、比較的低温(例えば150℃〜300℃、好ましくは200℃〜280℃)で加熱処理しただけで、通常の有機溶媒を用いたポリイミド前駆体(ポリアミック酸)溶液組成物に較べて遜色なく、好適には、例えば金属類などとの接着性が高いというような優れた特性を発揮することができる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものではない。
【0045】
以下の例で用いた特性の測定方法を以下に示す。
<固形分濃度>
試料溶液(その質量をw1とする)を、熱風乾燥機中120℃で10分間、250℃で10分間、次いで350℃で30分間加熱処理して、加熱処理後の質量(その質量をw2とする)を測定する。固形分濃度[質量%]は、次式によって算出した。
固形分濃度[質量%]=(w2/w1)×100
【0046】
<対数粘度>
試料溶液を、固形分濃度に基づいて濃度が0.5g/dl(溶媒は水)になるように希釈した。この希釈液を、30℃にて、キャノンフェンスケNo.100を用いて流下時間(T)を測定した。対数粘度は、ブランクの水の流下時間(T)を用いて、次式から算出した。
対数粘度={ln(T/T)}/0.5
【0047】
<溶液粘度(回転粘度)>
トキメック社製E型粘度計を用いて30℃で測定した。
【0048】
<ポリイミドフィルムサンプルの作成>
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物を、基材のガラス板上にバーコーターによって塗布し、その塗膜を、減圧下25℃で30分間、脱泡及び予備乾燥した後で、常圧下、熱風乾燥器に入れて、80℃で30分間、120℃で30分間、200℃で10分間、次いで250℃で10分間加熱処理して、厚さが50μmのポリイミドフィルムを形成した。このポリイミドフィルムを用いて特性を評価した。
【0049】
<機械的特性(引張試験)>
引張り試験機(オリエンテック社製RTC−1225A)を用いて、ASTM D882に準拠して引張試験を行い、引張弾性率、引張破断伸び、引張破断強度を求めた。
【0050】
<ガラス転移温度測定>
TAインスツルメンツ(株)製 固体粘弾性アナライザー RSAIII(圧縮モード 動的測定、周波数62.8rad/sec(10Hz)、歪量はサンプル高さの3%に設定)を用い、雰囲気窒素気流中、−140℃から450℃まで温度ステップ3℃で、各温度到達後30秒後に測定を行ない次の温度に昇温して測定を繰り返す方法で、損失弾性率(E'')の極大点を求め、その温度をガラス転移点(Tg)として求めた。
【0051】
以下の例で使用した化合物の略号について説明する。
s−BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
ODPA:4,4’−オキシジフタル酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
a−BPDA:2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
i−BPDA:2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DSDA:3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
PPD:p−フェニレンジアミン(25℃における水に対する溶解度:120g/L、以下同様)
ODA:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(0.19g/L)
MPD:m−フェニレンジアミン(77g/L)
2,4−TDA:2,4−ジアミノトルエン(62g/L)
HAB:3,3’−ジヒドロキシ−4,4’−ジアミノビフェニル(1.3g/L)
MBAA:ビス(4−アミノ−3−カルボキシフェニル)メタン(200g/L)
BAPP:2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン(0.000019g/L)
TPE−R:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(0.0018g/L)
1,2−DMZ:1,2−ジメチルイミダゾ−ル
2E4MZ:2−エチル−4−メチルイミダゾール
2MZ:2−メチルイミダゾ−ル
DBU:1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
【0052】
〔実施例1〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、1,2−DMZの29.87g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、25℃で12時間撹拌して、固形分濃度9.0質量%、溶液粘度16.3Pa・s、対数粘度0.95のポリイミド前駆体水溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物及びポリイミドフィルムについて、その特性を表1に示した。
【0053】
〔実施例2〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、1,2−DMZの29.87g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、50℃で8時間撹拌して、固形分濃度9.1質量%、溶液粘度35.5Pa・s、対数粘度1.25のポリイミド前駆体水溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物及びポリイミドフィルムについて、その特性を表1に示した。
【0054】
〔実施例3〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、1,2−DMZの29.87g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度9.1質量%、溶液粘度63.0Pa・s、対数粘度1.86のポリイミド前駆体水溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物及びポリイミドフィルムについて、その特性を表1に示した。
【0055】
〔実施例4〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、2E4MZの34.23g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度9.6質量%、溶液粘度10.3Pa・s、対数粘度0.64のポリイミド前駆体水溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物及びポリイミドフィルムについて、その特性を表1に示した。
【0056】
〔実施例5〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにODAの20.25g(0.101モル)と、1,2−DMZの24.31g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの29.75g(0.101モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度8.7質量%、溶液粘度32.0Pa・s、対数粘度0.42のポリイミド前駆体水溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物及びポリイミドフィルムについて、その特性を表1に示した。
【0057】
〔実施例6〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにMPDの13.44g(0.124モル)と、1,2−DMZの29.87g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度8.9質量%、溶液粘度13.5Pa・s、対数粘度0.75のポリイミド前駆体水溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物及びポリイミドフィルムについて、その特性を表1に示した。
【0058】
〔実施例7〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これに2,4−TDAの14.67g(0.120モル)と、1,2−DMZの28.86g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの35.33g(0.120モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度8.8質量%、溶液粘度1.0Pa・s、対数粘度0.21のポリイミド前駆体水溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物について、その特性を表1に示した。
【0059】
〔実施例8〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにHABの21.18g(0.098モル)と、1,2−DMZの47.09g(カルボキシル基に対して2.50倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの28.82g(0.098モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度9.4質量%、溶液粘度1.5Pa・s、対数粘度0.50のポリイミド前駆体水溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物について、その特性を表1に示した。
【0060】
〔実施例9〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにMBAAの24.66g(0.086モル)と、1,2−DMZの41.41g(カルボキシル基に対して2.50倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの25.34g(0.086モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度9.5質量%、溶液粘度2.0Pa・s、対数粘度0.75のポリイミド前駆体水溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物について、その特性を表1に示した。
【0061】
〔実施例10〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの12.93g(0.120モル)と、1,2−DMZの28.73g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にODPAの37.07g(0.120モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度8.9質量%、溶液粘度2.0Pa・s、対数粘度0.58のポリイミド前駆体水溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物について、その特性を表1に示した。
【0062】
〔実施例11〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、1,2−DMZの29.87g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にi−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度8.6質量%、溶液粘度0.8Pa・s、対数粘度0.22のポリイミド前駆体水溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物について、その特性を表1に示した。
【0063】
〔実施例12〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの11.59g(0.107モル)と、1,2−DMZの25.77g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にDSDAの38.41g(0.107モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度8.7質量%、溶液粘度1.2Pa・s、対数粘度0.35のポリイミド前駆体水溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物について、その特性を表1に示した。
【0064】
〔実施例13〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの12.57g(0.116モル)と、1,2−DMZの27.93g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にBTDAの37.43g(0.116モル)を加え、70℃で4時間撹拌して、固形分濃度8.8質量%、溶液粘度73.8Pa・s、対数粘度0.45の水溶性ポリイミド前駆体溶液を得た。
得られたポリイミド前駆体水溶液組成物について、その特性を表1に示した。
【0065】
〔比較例1〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、1,2−DMZの17.92g(カルボキシル基に対して0.75倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、ポリイミド前駆体水溶性を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0066】
〔比較例2〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、2MZの25.50g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、ポリイミド前駆体水溶性を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0067】
〔比較例3〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの13.44g(0.124モル)と、DBUの47.29g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの36.56g(0.124モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、ポリイミド前駆体水溶性を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0068】
〔比較例4〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにBAPPの29.13g(0.071モル)と、1,2−DMZの17.05g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にs−BPDAの20.87g(0.071モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、ポリイミド前駆体水溶性を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0069】
〔比較例5〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにTPE−Rの24.92g(0.085モル)と、1,2−DMZの20.49g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にa−BPDAの25.08g(0.085モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、ポリイミド前駆体水溶性を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0070】
〔比較例6〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにODAの23.93g(0.120モル)と、1,2−DMZの28.73g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にPMDAの26.07g(0.120モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、ポリイミド前駆体水溶性を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0071】
〔比較例7〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにTPE−Rの24.26g(0.083モル)と、2E4MZの22.86g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にODPAの25.74g(0.083モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、ポリイミド前駆体水溶性を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0072】
〔比較例8〕
攪拌機、窒素ガス導入・排出管を備えた内容積500mLのガラス製の反応容器に、溶媒として水の450gを加え、これにPPDの8.94g(0.083モル)と、ODAの11.03g(0.055モル)と、1,2−DMZの33.10g(カルボキシル基に対して1.25倍当量)とを加え25℃で1時間攪拌し、溶解させた。この溶液にPMDAの30.03g(0.138モル)を加え、70℃で4時間撹拌したが、均一に溶解することがなく、ポリイミド前駆体水溶性を得ることができなかった。
結果を表2に示した。
【0073】
〔参考例1〕
TPE−Rの29.23g(0.1モル)とDMAcの234.60gとを、攪拌機、還流冷却器(水分分離器付き)、温度計、窒素導入管を備えた1000mLのガラス製反応容器に、25℃において添加し、その混合液に窒素ガス流通下攪拌しながら、a−BPDAの29.42g(0.1モル)を添加し、2時間反応させポリイミド前駆体溶液を得た。そして、この溶液をDMAcの293.25gで希釈し30℃において1.3ポイズとした。この溶液にDMZの5.87g(0.06モル)を添加し、この溶液を、ホモジナイザーを備えたアセトン(6.5L)に徐々に加えポリイミド前駆体粉末を析出させた。この懸濁液を濾過し、アセトン洗浄し、40℃で10時間真空乾燥して、60.52gのポリイミド前駆体の粉末を得た。
【0074】
このポリイミド前駆体粉末3gに対して、水の26.10gおよび1,2−DMZの0.9g(0.0094モル)を加え、60℃で攪拌しながら2時間で溶解し均一なポリイミド前駆体水溶液を得た。この水溶液をGC−MSを用いて発生ガスの分析を行ったところ、6.28%のDMAcが検出され、有機溶媒の残存が確認された。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によって、水溶媒を使用することによって環境適応性が良好であって、しかも、それを用いて得られる芳香族ポリイミドは高い結晶性を有するために耐熱性、機械的強度、電気特性、耐溶剤性などの特性が優れる、好ましくは高分子量であって水溶媒が水以外の有機溶媒を含まない、ポリイミド前駆体水溶液組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸成分とジアミン成分とが反応して得られる、下記化学式(1)で表される繰返し単位からなるポリアミック酸が、前記ポリアミック酸のテトラカルボン酸成分に対して1.6倍モル以上の、置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類と共に、水溶媒中に溶解してなるポリイミド前駆体水溶液組成物。
【化1】

化学式(1)において、Aは、2〜3個の芳香族環を有するテトラカルボン酸からカルボキシル基を除いた4価の基であり、Bは、1〜2個の芳香族環を有する芳香族ジアミンからアミノ基を除いた2価の基であって、前記芳香族ジアミンの25℃における水に対する溶解度が0.1g/L以上である。
【請求項2】
置換基として2個以上のアルキル基を有するイミダゾール類が、1,2−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、4−エチル−2−メチルイミダゾール、及び1−メチル−4−エチルイミダゾールからなる群から選択されるイミダゾール類であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。
【請求項3】
化学式(1)のAが、下記化学式(2)〜(7)或いはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【請求項4】
化学式(1)のBが、下記化学式(8)〜(9)或いはそれらの混合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。
【化8】

【化9】

【請求項5】
対数粘度が0.2以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。
【請求項6】
有機溶媒の含有量が5%未満であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。
【請求項7】
水溶媒が、実質的に水以外の有機溶媒を含まないことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のポリイミド前駆体水溶液組成物。

【公開番号】特開2012−36382(P2012−36382A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154896(P2011−154896)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】