説明

ポリイミド膜除去用洗浄液および洗浄方法

【課題】無機塩水溶液を用いて基材面のポリイミド膜を除去するにあたり、洗浄能力を高める洗浄液の組成を検討し、ポリイミド膜を効率よく除去する技術を確立する。
【解決手段】水酸化ナトリウムなどのアルカリ性無機塩と過硫酸ナトリウムなどの酸化剤を必須成分として含むアルカリ水溶液を洗浄液とし、この洗浄液にポリイミドが蒸着した石英管などの被洗浄材を浸漬し、必要に応じ加熱、振とうしながら洗浄する。酸化剤がポリイミド膜の組成を変化させ、あるいはポリイミド膜を酸化分解し、アルカリ水溶液によるポリイミド膜の加水分解と溶解を促進させて、無機塩だけの水溶液の場合に比してポリイミド膜の洗浄効果を格段に高める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基材面のポリイミド膜を除去する技術に関し、とくに半導体製造工程で使用されポリイミドが蒸着した石英器具表面のポリイミド膜を除去するのに好適な洗浄液および洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造における成膜工程やエッチング工程においては、石英器具を備えた装置が使用される。たとえば、CVD(Chemical Vapor Deposition)装置では、石英からなる処理チャンバー内に石英チューブが立設され、この石英チューブ内に半導体ウエハを保持した石英ボートが配置される。
【0003】
このCVD装置では、CVD法によって半導体ウエハに蒸着される膜と同一材質の蒸着膜が石英器具の露出表面に形成される。CVD法によって蒸着される膜が石英器具と同じ材質であるSiO2膜以外の膜である場合、石英器具表面に蒸着膜が形成された状態で加熱、冷却などの温度変化が伴う処理が繰り返されると、熱膨張係数の違いから石英器具と蒸着膜の間に引張応力が生じ、この引張応力により石英器具表面の蒸着膜が剥がれ、パーティクル発生の原因となる。このため、蒸着膜が形成された石英器具は、洗浄により蒸着膜を除去する必要がある。
【0004】
このような石英器具の蒸着膜の一つとしてポリイミド膜がある。ポリイミドは、半導体装置の保護膜や絶縁膜を形成するのに使用されるもので、保護膜や絶縁膜は塗布法によって形成される場合もあるが、層間絶縁膜などのような薄膜はCVD法によって形成される。CVD法によって層間絶縁膜を形成する場合は、石英器具の露出表面にもポリイミドが蒸着するので、この石英器具に蒸着したポリイミド膜を洗浄により除去する必要がある。
【0005】
従来、半導体製造に関連したポリイミド膜の除去のための洗浄剤としては、特許文献1および特許文献2に記載されているような有機溶剤と、特許文献3および特許文献4に記載されているような無機系の洗浄液とがある。特許文献1および特許文献2に記載の有機溶剤は、基板の裏面などに付着した不要のポリイミド前駆体を除去するための有機溶剤であり、特許文献3に記載の洗浄液は、基板にポリイミド樹脂配向膜を印刷した後の印刷版に付着したポリイミド樹脂を除去するための無機塩水溶液であり、特許文献4に記載の洗浄剤は、基板に形成したポリイミド樹脂配向膜を剥離するための水酸化カリウム水溶液である。
【特許文献1】特開平8−165495号公報
【特許文献2】特開2001−11494号公報
【特許文献3】特開2000−25205号公報
【特許文献4】特開2002−107732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および特許文献2に記載の有機溶剤は、高価であるうえに、換気や防爆などの作業環境の整備や廃液処理にコストがかかるという問題がある。特許文献3および特許文献4に記載の洗浄液は、有機溶剤の問題点に鑑みて、無機系の洗浄液を採用し、無機系の洗浄液の洗浄力の不足分を超音波振動の付加や紫外線の照射で補うようにしたものである。
【0007】
ところで、特許文献1および特許文献2に記載の洗浄において除去されるポリイミド前駆体は、基板に塗布されたポリイミド前駆体である。また特許文献3および特許文献4に記載の洗浄において除去されるポリイミド膜は、基板に印刷または塗布されたポリイミド膜である。このように印刷または塗布により形成されたポリイミド膜であれば、無機系の洗浄液であっても超音波振動の付加や紫外線の照射で洗浄力の不足分を補うことにより、ある程度の洗浄効果を得ることはできる。
【0008】
しかし前記したような、CVD法によってポリイミド膜を形成する工程で石英器具に蒸着したポリイミド膜の除去の場合は、ポリイミドが高温で蒸着重合されたものであるので、無機塩水溶液に浸漬するだけでは、ポリイミド膜の除去完了までに約1ヶ月という長期間を要する。特許文献3に記載の洗浄においては洗浄効果をあげるための補助手段として超音波振動を付加しているが、石英器具に対して超音波振動を付加することは、石英器具を破損するおそれがあるので採用することはできず、また特許文献3に記載のような紫外線の照射を行っても、高温で蒸着重合されたポリイミドの除去には長時間を要し、いずれの場合もポリイミドを短時間で除去することは難しい。
【0009】
このような無機塩水溶液の洗浄能力上の問題は石英器具に蒸着したポリイミド膜の除去の場合に限らず、たとえば、プリント配線板の製造工程で、ポリイミドフィルムの表面にメッキや接着した金属皮膜をエッチングし、樹脂と積層して回路基板を形成した後にポリイミドフィルムを洗浄除去するのに無機塩水溶液が使用されているが、このような場合にも無機塩水溶液による洗浄には長時間を要しており、洗浄能力の向上が望まれている。
本発明の解決すべき課題は、無機系の洗浄液を使用して基材面のポリイミド膜を除去するにあたり、洗浄能力を高めるアルカリ水溶液の組成を検討し、とくに石英器具に蒸着したポリイミド膜のような洗浄除去に長時間を要するポリイミド膜を効率よく除去する技術を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、石英器具およびその他の耐アルカリ性の基材に付着したポリイミド膜を洗浄除去する方法について鋭意検討した結果、無機塩水溶液と酸化剤水溶液を併用した洗浄液がポリイミド膜を効率的に除去できることを知見し、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明に係る洗浄液は、耐アルカリ性の基材に付着したポリイミド膜を除去する洗浄液であって、必須成分として無機塩と酸化剤を含む水溶液からなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る洗浄方法は、耐アルカリ性の基材に付着したポリイミド膜を除去する洗浄方法であって、必須成分として無機塩と酸化剤を含む水溶液からなる洗浄液に前記ポリイミドが付着した基材を浸漬することを特徴とする。
【0013】
ここで、前記無機塩としては、水溶液がアルカリ性を呈する無機塩類を使用することができ、なかでも水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することが望ましい。水酸化ナトリウム、水酸化カリウムは、安価で入手しやすく、化学的に安定しており、水溶液が強アルカリ性であり、使用後はpH調整のみで排水することができるという利点がある。また前記酸化剤としては、過硫酸塩類、過酸化物、硝酸塩類、亜硝酸塩類、過塩素酸塩類、過塩素酸、塩素酸塩類、亜塩素酸塩類、次亜塩素酸塩類、次亜塩素酸のいずれか1種以上を使用することができ、なかでも過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムを使用することが望ましい。過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムは、安価であり、毒性が低く、酸化力の持続性があるので長時間の洗浄に使用でき、ガスを発生しないという利点がある。
【発明の効果】
【0014】
耐アルカリ性の基材に付着したポリイミド膜を除去するのに、アルカリ性の無機塩と酸化剤を含むアルカリ水溶液からなる洗浄液を使用することにより、酸化剤がポリイミド膜の組成を変化させ、あるいはポリイミド膜を酸化分解し、アルカリ水溶液によるポリイミド膜の加水分解と溶解を促進させて、無機塩だけの水溶液の場合に比してポリイミド膜の洗浄効果を格段に高める。たとえば、ポリイミドが蒸着した石英器具の洗浄の場合、洗浄液中にポリイミドが蒸着した石英器具を浸漬すると、酸化剤がポリイミドのイミド間の結合を分解し、表面のポリイミド膜を壊しながらアルカリ水溶液が内部に染み込んでいき、アルカリ水溶液が石英の表面に到達後、ポリイミド膜と石英の結合を分解し引き剥がすことにより、短時間で石英器具に蒸着したポリイミド膜の除去が行われる。
さらに無機系の洗浄液であるので、有機溶剤使用上の作業環境や廃液処理の問題がなく、また、無機塩と酸化剤を併用することによる洗浄力の向上で、超音波振動の付加や紫外線の照射などの補助手段を講じる必要もなくなる。
【0015】
水溶液中の無機塩と酸化剤の濃度および配合割合、洗浄液の温度を適正な範囲に設定することにより、良好な作業環境のもとで十分な洗浄効果が得られる。また、洗浄液と被洗浄材との間に相対的な動きを付与することによっても洗浄効果を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を実施するためには、被洗浄材の最大寸法に応じた大きさの洗浄タンクと、洗浄タンク内の洗浄液を振とうあるいはバブリングするための装置、および洗浄液の循環装置ならびに洗浄液を準備する。
【0017】
洗浄液の主剤である水溶性の無機塩としては、水溶液がアルカリ性を呈する無機塩類を使用する。水溶液がアルカリ性を呈する無機塩類には、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属炭酸塩類、アルカリ金属炭酸水素塩類、アンモニアなどがあるが、そのなかでも、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムを使用するのが望ましい。水酸化ナトリウムと水酸化カリウムは、化学的に安定しており、水溶液が強アルカリ性であり、使用後はpH調整のみで廃水することができるという利点がある。また、入手が容易でかつ安価であるので、洗浄コストの低減に有効である。
【0018】
また、同じく洗浄液の主剤である酸化剤としては、過硫酸塩類、過酸化物、硝酸塩類、亜硝酸塩類、過塩素酸塩類、過塩素酸、塩素酸塩類、亜塩素酸塩類、次亜塩素酸塩類、次亜塩素酸のいずれか1種以上を使用する。これらに含まれる化合物は数多くあるが、そのなかで重金属を含む化合物は人体や環境に悪影響を与える可能性があるので、重金属を含む化合物は使用しないほうがよい。アルカリ性無機塩類とともに併用してポリイミド膜の洗浄に効果的な化合物としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸カルシウムなどが挙げられる。これらの化合物は、強力な酸化剤であるが人体への影響が少なく、かつ安価に入手できるので、作業の安全性やコスト低減に有効である。なかでも、コスト、洗浄効果、溶液の安定性、作業性、安全性など総合的観点からみて、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムを使用するのが望ましい。
【0019】
水溶液中の無機塩と酸化剤の濃度は、以下の説明においてすべて質量%で表すものとする。無機塩の濃度は1.0〜20.0%の範囲が好ましい。無機塩の濃度が1.0%より低いと、酸化剤の存在のもとでも、ポリイミド膜の十分な除去効果が得られず、20.0%を超えるとアルカリ性の溶液が蒸気となって分散しやすくなり、作業環境の悪化につながるので、上記範囲が適当である。より望ましい濃度の範囲は5.0〜11.0%である。また、酸化剤の濃度は1.0〜30.0%の範囲が好ましい。酸化剤の濃度が1.0%より低いと、無機塩の洗浄効果を高める作用が不足し、30.0%を超えて添加してもその効果は飽和するので、上記範囲が適当である。より望ましい濃度の範囲は3.0〜15.0%である。
【0020】
無機塩と酸化剤の配合割合は、それぞれの濃度が上記範囲のもとで、無機塩:酸化剤が1:1/10〜1:20の範囲であることが好ましい。無機塩に対する酸化剤の割合が1/10より低いと、アルカリ性無機塩が酸化剤の還元を促進して酸化力は一時的に高まるが、酸化力は短期間で急速に低下してしまうので好ましくない。無機塩に対する酸化剤の割合が20倍より高くなってもその効果は飽和するので、上記範囲が適当である。より望ましい割合は1:1/5〜1:10の範囲である。
【0021】
上記の濃度および配合割合の範囲のなかで、無機塩と酸化剤のそれぞれの化合物の組み合わせによって最適な範囲は多少異なる。たとえば、無機塩と酸化剤の組み合わせとして、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムと、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムのいずれかを組み合わせて使用した場合の、無機塩と酸化剤の最適な濃度と配合割合の範囲は、無機塩の濃度は2.0〜20.0%、より望ましくは4.0〜8.0%、酸化剤の濃度は1.0〜30.0%、より望ましくは1.0〜10.0%の範囲であり、配合割合は無機塩:酸化剤=1:1/5〜1:5、より望ましくは1:1/5〜1:2の範囲である。
【0022】
無機塩と酸化剤を溶解させる水としては、超純水、純水、蒸留水、水道水、地下水のいずれでもよいが、石英器具その他の基材への影響をできる限り除くためには、純水、蒸留水を使用するのが好ましい。いずれの水を使用するにしても、水中に不可避的に含有される無機物、有機物は微量であるので、洗浄液の洗浄効果には影響しない。
【0023】
洗浄時における洗浄液の温度は、室温程度以上であれば無機塩と酸化剤の水への溶解度の点からも洗浄効果の点からもとくに問題はないが、洗浄効果をより高めて洗浄時間を短縮するためには、40℃以上に加熱するのが好ましい。ただし、洗浄液の温度を高くしすぎると作業環境が悪化するので、作業場所の隔離や局所排気装置などの排気設備の設置を行う必要がある。安全性を考慮すると加熱温度は80℃以下とするのがよい。また、洗浄効果を高めるために、洗浄液を振とうあるいはバブリングなどの補助手段を講じて洗浄液を対流させ、洗浄液と被洗浄材との間に相対的な動きを付与するのも有効である。また、無機塩と酸化剤を含む水溶液に界面結成剤を添加してもよい。
【実施例】
【0024】
本発明の効果を確認するために、各種の洗浄液と洗浄条件で洗浄試験を行った。
〔試験例1〕
従来の洗浄液として、ジメチルホルムアミド、50%ヒドラジン水和物溶液、5%NaOH水溶液の3種の洗浄液、および、本発明に係る洗浄液である無機塩と酸化剤を含む水溶液として、(5%NaOH+15%H22)水溶液(洗浄液1)を作成し、石英ウエハに蒸着したポリイミド膜の洗浄試験を行った。サンプルはポリイミドが蒸着した200mm径石英ウエハを約5cm2に分割した小片で、50mlの各洗浄液に室温で3日間浸漬し、超音波洗浄を行ってポリイミド膜の剥離状況を観察した。試験結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
従来の洗浄液のうち50%ヒドラジン水和物溶液は3日間でポリイミド膜を除去することができたが、ジメチルホルムアミドは3日間では完全に除去することができず、5%NaOH水溶液は3日間ではほとんど洗浄効果がみられなかった。一方、本発明に係る洗浄液1では、2日間でポリイミド膜を完全に除去することができた。
【0027】
〔試験例2〕
実際の洗浄時に超音波振動を付加すると石英器具が破損するおそれがあるので、超音波振動を付加しない状態での洗浄試験を行った。試験例1の50%ヒドラジン水和物溶液と、本発明に係る洗浄液である無機塩と酸化剤を含む水溶液として、(11%NaOH+15%H22)水溶液(洗浄液2)および(11%NaOH+1.5%K228)水溶液(洗浄液3)の、3種の洗浄液を作成し、石英ウエハに蒸着したポリイミド膜の洗浄試験を行った。サンプルは試験例1とは別のポリイミドが蒸着した200mm径石英ウエハを約5cm2に分割した小片で、50mlの各洗浄液に4日間浸漬し、ポリイミド膜の剥離状況を観察した。試験開始後1日目は静置状態で洗浄を行っていたが、洗浄効果がみられなかったので2日目からは振とう装置に入れ、3日目からは装置内の温度を50℃にして洗浄を行った。試験結果を表2に示す。
【0028】
【表2】

【0029】
超音波振動を付加しない状態での洗浄の場合は、従来の洗浄液としては洗浄効果の高い50%ヒドラジン水和物溶液でも、4日間ではほとんど洗浄効果がみられなかった。一方、本発明に係る洗浄液2および洗浄液3では、4日間でポリイミド膜を完全に除去することができた。
【0030】
〔試験例3〕
洗浄条件の検討のために、静置、振とう、バブリングの比較試験と温度の比較試験を行った。洗浄液は試験例2の洗浄液2と洗浄液3を用い、試験例1,2とは別のポリイミドが蒸着した200mm径石英ウエハを約5cm2に分割した小片を50mlの各洗浄液にそれぞれの条件下で浸漬し、ポリイミド膜が完全に除去されるまでの時間を測定した。試験結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
表3の結果からわかることは、洗浄効果を高めるためには、まず洗浄液の温度を上げること、つぎに洗浄液を対流させることである。とくに酸化剤としてH22を用いた場合は、加熱により反応速度が高まり、洗浄所要時間が大幅に短縮される。
【0033】
〔試験例4〕
洗浄液として、(6%NaOH+1.5%K228)水溶液(洗浄液4)、(6%NaOH+1.5%Na228)水溶液(洗浄液5)、(6%NaOH+1.5%(NH4228)水溶液(洗浄液6)の3種の水溶液を用いて、洗浄液を更新せずに繰返し利用した洗浄試験を行った。サンプルは試験例1〜3とは別のポリイミドが蒸着した200mm径石英ウエハを約5cm2に分割した小片で、洗浄液を40℃で振とうし、新たなサンプルごとにポリイミド膜が完全に除去されるまでの時間を測定した。試験結果を表4に示す。
【0034】
【表4】

【0035】
無機塩と併用する酸化剤として使用した過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムの3種の化合物は、洗浄効果に関してはほぼ同等であると考えられる。ただし、過硫酸カリウムは水への溶解度が低いので洗浄液の製造に時間がかかり、高濃度溶液の製造が困難であること、および、過硫酸アンモニウムは金属とアンモニア錯体を形成し結晶化する可能性があることから、この3種の化合物のなかでは、過硫酸ナトリウムの使用が最も適しているといえる。
【0036】
〔試験例5〕
無機塩としての水酸化ナトリウムと酸化剤としての過硫酸ナトリウムの濃度による洗浄効果の影響について調査した。同時に洗浄力の目安となる洗浄液の酸化還元電位の測定を行った。水酸化ナトリウムと過硫酸ナトリウムの濃度の組み合わせは、(2%NaOH+1.5%Na228)水溶液(洗浄液7)、(6%NaOH+1.5%Na228)水溶液(洗浄液8)、(6%NaOH+3.0%Na228)水溶液(洗浄液9)、(6%NaOH+5.0%Na228)水溶液(洗浄液10)の4種である。試験要領は試験例4と同じである。試験結果を表5および表6に示す。
【0037】
【表5】

【表6】

【0038】
表5および表6からわかるように、水酸化ナトリウム、過硫酸ナトリウムともに、濃度が高いほど洗浄時間が短縮され、また、洗浄処理量が増加することが確認された。ただし水酸化ナトリウムの濃度は、作業環境の悪化と石英への影響の点からはあまり高濃度にしないほうがよい。酸化還元電位は処理量が増加するほど減少(酸化力が低下)し、それに伴い洗浄力も衰えた。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上、石英に蒸着したポリイミド膜の洗浄除去を中心にして説明したが、本発明に係る洗浄技術は、石英に蒸着したポリイミド膜の洗浄除去に限らず、半導体製造工程その他の工程で耐アルカリ性の基材に付着したポリイミド膜の洗浄除去に適用して極めて効果的な洗浄液および洗浄方法である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐アルカリ性の基材に付着したポリイミド膜を除去する洗浄液であって、必須成分として無機塩と酸化剤を含む水溶液からなることを特徴とするポリイミド膜除去用洗浄液。
【請求項2】
前記無機塩がアルカリ性を呈する無機塩類であり、前記酸化剤が過硫酸塩類、過酸化物、硝酸塩類、亜硝酸塩類、過塩素酸塩類、過塩素酸、塩素酸塩類、亜塩素酸塩類、次亜塩素酸塩類、次亜塩素酸のいずれか1種以上である請求項1記載のポリイミド膜除去用洗浄液。
【請求項3】
前記無機塩が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムであり、前記酸化剤が過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムのいずれかである請求項2記載のポリイミド膜除去用洗浄液。
【請求項4】
前記水溶液中の無機塩の濃度が1.0〜20.0質量%であり、前記水溶液中の酸化剤の濃度が1.0〜30.0質量%である請求項1ないし3のいずれかに記載のポリイミド膜除去用洗浄液。
【請求項5】
前記無機塩と前記酸化剤の配合割合が、無機塩:酸化剤が1:1/10〜1:20の範囲である請求項4記載のポリイミド膜除去用洗浄液。
【請求項6】
耐アルカリ性の基材に付着したポリイミド膜を除去する洗浄方法であって、必須成分として無機塩と酸化剤を含む水溶液からなる洗浄液に前記ポリイミドが付着した基材を浸漬することを特徴とする洗浄方法。

【公開番号】特開2007−141888(P2007−141888A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−329264(P2005−329264)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(398045865)室町ケミカル株式会社 (7)
【Fターム(参考)】