説明

ポリウレタン弾性繊維混用織編物及びその製造方法

100%伸長した状態で150℃、45秒間の乾熱処理後の強力保持率が50%以上であり、且つ180℃以下の融点を有する高融着ポリウレタン弾性繊維と、少なくとも1種類の非弾性糸とを含み、乾熱又は湿熱セットにより高融着ポリウレタン弾性繊維相互又はこれと非弾性糸との交差部を熱融着させてなるポリウレタン弾性繊維混用織編物及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、ポリウレタン弾性繊維と他の繊維とを混合使用した織編物及びその製造方法に関する。更に詳述すると、該織編物から作られた製品が着用中に繰り返し伸長されることにより生じる生地の「変形、目ずれ、わらい」、裁断部より糸が抜け出す所謂「ほつれ」、組織に発生したはしご状の傷やずれ、即ち「ラン、デンセン」、生地が湾曲した状態になる「カール」及び裁断、縫製した製品の縫目部分から弾性繊維のみが抜け出し部分的に生地の伸縮性がなくなる「スリップイン」等を起き難くした天竺編み、ゴム編み、パール編み等の丸編地やその他の緯編地、クサリ編、デンビ編、コード編、アトラス編等の経編地、織物等のポリウレタン弾性繊維混用織編物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
ポリウレタン弾性繊維を混用した緯編地、経編地、織物等のストレッチ生地を使用した製品は、伸びが大きく、伸長状態からの回復力やフィット性が良いため広く利用されている。しかし、ポリウレタン弾性繊維を混用した生地を裁断、縫製して作られた製品を繰り返し伸張すると、変形して不均一な生地になり「変形、目ずれ、わらい」、糸が抜け出す「ほつれ」、生地の組織にはしご状の傷やずれが発生した「ラン、デンセン」、生地が湾曲した「カール」等の問題が起き易い。また、繰り返し伸長により縫製部分でポリウレタン弾性繊維が縫目から抜け出す、いわゆる「スリップイン」も起き易い。このスリップインが発生して弾性繊維が抜け出した生地の部分は、当然のことであるが、収縮力が無くなるので生地に密度斑が発生し、着用できなくなり問題である。
これらの現象は、ポリウレタン弾性繊維以外の弾性繊維を使用した織編物でも起きるが、伸縮性の強いポリウレタン弾性繊維の場合は特に顕著である。
これらの問題の対策としてこれまでに以下の提案がなされている。
(1)ポリウレタン弾性繊維の収縮力を抑制する。
(i)ポリウレタン弾性繊維の伸長倍率をあまり高くしない。
(ii)織編物の加工温度を高くしてポリウレタン弾性繊維の収縮力を抑える。
(iii)セット性が高い弾性繊維を選択する。
(2)セット温度を高くすることにより、ポリウレタン弾性繊維同士の交点で相互に融着させる。
(3)低融点のポリウレタン弾性繊維を使用し低温で融着させて防止する。
(4)縫製時の縫目密度を高くしてポリウレタン弾性繊維の滑りを抑え、スリップインを起き難くする。
(5)カバリング糸の形で使用される場合には、撚数を高くしたり、ダブルカバリングの形にする。また、カバリング糸とさらに別な糸をエア交絡する方法も提案されている(特開平04−11036号公報参照)。
(6)スリップインや目ずれし難い織り方、編み方にする(特開2002−69804号公報,特開2002−13052号公報参照)。
しかしながら、(1)(i)のようにポリウレタン弾性繊維の伸長倍率を落とす方法は、生地の伸縮性が低下し、ポリウレタン弾性繊維の使用量増加によりコストアップとなる。また、(1)(ii)のようにセット温度を高くしてポリウレタン弾性繊維の収縮力を弱くする方法は、混用相手繊維の風合い変化、織編物の染色堅牢度低下の原因となり、好ましくない。更に、(2)のように緯編地、経編地で弾性繊維同士の交点のある編地は、弾性繊維を融着させる方法でカールやスリップイン等の問題を防止できるが、高温でのセットが必要なので、やはり混用相手繊維の風合い変化や堅牢度低下が起きるという問題がある。また、(4)のように縫製の縫目密度を上げることは、縫製部分が分厚くなり、製品の着心地が悪くなるため、市場の要請には合致しない。
一方、(3)のように低温で融着する弾性繊維を使うと、140〜160℃の低いセット温度で融着させることができるが、高融点ポリウレタン弾性繊維と混合使用する際、高融点ポリウレタン弾性繊維がセット不充分となり、生地の寸法安定性が悪くなり、高融点ポリウレタン弾性繊維が充分にセットできる高温領域でセットすると、一般的に低温で融着する弾性繊維は、強力低下が大きく、生地の伸長回復力が弱くなるので好ましくない。また、(4)、(5)のように特殊な複合糸を使ったり、特殊な編み方にする方法は、製品の性状を制限することになる。
融点の異なる2つのポリエーテルエステル弾性繊維を使用した編織物を200℃で熱処理して目ずれを防止する方法も提案されている(特開2001−159052号公報参照)が、ポリエーテルエステル弾性繊維は、ポリウレタン弾性繊維に比較して弾性回復力、歪の点で性能が不十分であり、満足できるものではない。
本発明は、裁断、縫製部分から使用したポリウレタン弾性繊維や非弾性糸が抜け出すことがなく、生地が安定し、目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、デンセン、カールやスリップインの起こり難い弾性繊維織編物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【発明の開示】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ポリオールとジイソシアネートを反応させて得られるプレポリマーから合成したポリマーを溶融紡糸する等して得られ、好ましくは原料ポリオール全量に対してポリエーテルポリオールを50質量%以上含有する高融着ポリウレタン弾性繊維と、非弾性繊維とを含む織編物を熱セットすることにより、ポリウレタン弾性繊維が非弾性繊維に接触している部分や、ポリウレタン弾性繊維相互が接触している部分で熱融着を生じ、強度が低下することなく、目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、デンセン、カール、スリップインや目ずれが生じにくい生地が得られることを発見し、本発明をなすに至った。
即ち、本発明は下記のポリウレタン弾性繊維混用織編物及びその製造方法を提供する。
[I]100%伸長した状態で150℃、45秒間の乾熱処理後の強力保持率が50%以上であり、且つ180℃以下の融点を有する高融着ポリウレタン弾性繊維と、少なくとも1種類の非弾性糸とを含み、乾熱又は湿熱セットにより高融着ポリウレタン弾性繊維相互又はこれと非弾性糸との交差部、好ましくは高融着ポリウレタン弾性繊維と非弾性糸との交差部を熱融着させてなるポリウレタン弾性繊維混用織編物。
[II]更に200℃以上の融点を有する高融点ポリウレタン弾性繊維を含み、この高融点ポリウレタン弾性繊維と上記高融着ポリウレタン弾性繊維との交差部を熱融着させた[I]記載のポリウレタン弾性繊維混用織編物。
[III]100%伸長した状態で150℃、45秒間の乾熱処理後の強力保持率が50%以上であり、且つ180℃以下の融点を有する高融着ポリウレタン弾性繊維と、少なくとも1種類の非弾性糸を用いて織地又は編地を形成した後、乾熱又は湿熱セットにより高融着ポリウレタン弾性繊維相互又はこれと非弾性糸との交差部、好ましくは高融着ポリウレタン弾性繊維と非弾性糸との交差部を熱融着させてなるポリウレタン弾性繊維混用織編物の製造方法。
[IV]更に200℃以上の融点を有する高融点ポリウレタン弾性繊維を用いて、この高融点ポリウレタン弾性繊維と上記高融着ポリウレタン弾性繊維との交差部を熱融着させた[III]記載のポリウレタン弾性繊維混用織編物の製造方法。
【図面の簡単な説明】
図1は、クサリ編地の組織図の一例である。
図2は、クサリ編地の組織図の一例である。
図3は、経編地の組織図の一例である。
図4は、経編地の組織図の一例である。
図5は、経編地の組織図の一例である。
図6は、経編地の組織図の一例である。
図7は、経編地の組織図の一例である。
図8は、経編地の組織図の一例である。
図9は、経編地の組織図の一例である。
図10は、経編地の引張り試験用試験片である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
本発明に用いられるポリウレタン弾性繊維は、低い温度でも融着しやすく、且つ耐熱性を有する高融着ポリウレタン弾性繊維であれば、その組成、製造方法等は特に制限されるものはなく、例えば、ポリオールと過剰モル量のジイソシアネートを反応させ、両末端にイソシアネート基を有するポリウレタン中間重合体を製造し、該中間重合体のイソシアネート基と容易に反応し得る活性水素を有する低分子量ジアミンや低分子量ジオールを不活性な有機溶剤中で反応させポリウレタン溶液(ポリマー溶液)を製造した後、溶剤を除去し糸条に成形する方法や、ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジアミン又は低分子量ジオールとを反応させたポリマーを固化し溶剤に溶解させた後、溶剤を除去し糸条に成形する方法、前記固化したポリマーを溶剤に溶解させることなく加熱により糸条に成形する方法、前記ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとを反応させてポリマーを得、該ポリマーを固化することなく糸条に成形する方法、更には、上記のそれぞれの方法で得られたポリマー又はポリマー溶液を混合した後、混合ポリマー溶液から溶剤を除去し糸条に成形する方法等がある。これらの中で特に、(A)ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマー(以下「両末端NCO基プレポリマー」とする)と、(B)ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとを、反応させて得られる両末端水酸基プレポリマー(以下「両末端OH基プレポリマー」とする)とを反応させて得られるポリマーを固化することなく溶融紡糸する方法が、低温で融着しやすく、且つ耐熱性を有する高融着ポリウレタン弾性繊維を得る上で好ましく、また溶剤の回収を含まないため経済的である。
この場合、(A)、(B)成分のプレポリマーを構成するポリオールは、同じであっても違っていても良いが、数平均分子量が800〜3,000程度のポリマージオールを用いることが好ましい。
このようなポリマージオールとしては、ポリエーテルグリコール、ポリエステルグリコール、ポリカーボネートグリコール等を用いることができる。
ポリエーテルグリコールとしては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルの開環重合により得られるポリエーテルジオール;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のグリコールの重縮合により得られるポリエーテルグリコール等が例示できる。
ポリエステルグリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等のグリコール類から選ばれる少なくとも1種と、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸等の二塩基酸類から選ばれる少なくとも1種との重縮合によって得られるポリエステルグリコール;ε−カプロラクトン、バレロラクトン等のラクトン類の開環重合により得られるポリエステルグリコール等が例示される。
ポリカーボネートグリコールとしては、例えばジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;ジフェニルカーボネート、ジナフチルカーボネート等のジアリールカーボネート等から選ばれる少なくとも1種の有機カーボネートと、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等から選ばれる少なくとも1種の脂肪族ジオールとのエステル交換反応によって得られるカーボネートグリコール等が例示される。
上記例示したポリエーテルグリコール、ポリエステルグリコール、又はポリカーボネートグリコールは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、良好な融着性を得るためには使用する合計量のポリマージオールに対してポリエーテルジオール成分を50質量%以上、好ましくは60質量%以上使用することが望ましく、ポリエーテルジオール成分が100質量%であってもよい。なお、ポリエーテルジオール成分としては、特にポリテトラメチレンエーテルグリコールが好適に使用される。
(A)、(B)成分のプレポリマーを構成するジイソシアネートとしては、ポリウレタンの製造に際して通常使用されている脂肪族系、脂環式系、芳香族系、芳香脂肪族系等の任意のジイソシアネートを使用することができる。
このようなジイソシアネートとしては、例えば4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、メタ−テトラメチルキシレンジイソシアネート、パラ−テトラメチルキシレンジイソシアネート等が挙げられ、これらの1種を単独で又は組み合わせて用いることができるが、中でも4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好ましく用いられる。
鎖長延長剤である低分子量ジオールや低分子量ジアミンは、反応速度が適当であり、適度な耐熱性を与えるものが好ましく、イソシアネートと反応し得る2個の活性水素原子を有し、一般に分子量が500以下の低分子量化合物が使用される。
このような低分子量ジオールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール等の脂肪族ジオール類を用いることができ、紡糸性を阻害しない範囲内でグリセリン等3官能グリコール類も使用することができる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができるが、作業性や得られる繊維に適度な物性を与える点からエチレングリコール、1,4−ブタンジオールが好ましい。
また、このような低分子量ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ブタンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4−ジアミノジフェニルメタン、ヒドラジン等を用いることができる。
低分子量ジオールと低分子量ジアミンを併用することもできるが、本発明においては、鎖長延長剤として低分子量ジオールをより好ましく使用することができる。
また、反応調整剤又は重合度調整剤として、ブタノール等の1官能性のモノオールやジエチルアミンやジブチルアミン等の1官能性のモノアミンを混合して用いることもできる。
ポリウレタン重合反応の際、もしくは紡糸溶液として使用される不活性溶媒としては、N,N−ジメチルフォルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N,N’,N’−テトラメチル尿素、N−メチルピロリドン、ジメチルスルフォキシド等の極性溶媒が挙げられる。
上記(A)、(B)成分のプレポリマーには、耐候性、耐熱酸化性、耐黄変性改善のために、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の任意成分を添加することができる。
紫外線吸収剤としては、例えば2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ビスフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤が挙げられる。
酸化防止剤としては、例えば3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸、ペンタエリスルチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。
光安定剤としては、例えばビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、コハク酸ジメチル−1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン縮合物等ヒンダードアミン系光安定剤を挙げることができる。
次に、本発明のポリウレタン弾性繊維を得る方法は、特に制限されるものではないが、例えば、溶融紡糸法として以下の3つの方法が知られている。
(1)ポリウレタン弾性体チップを溶融紡糸する方法。
(2)ポリウレタン弾性体チップを溶融した後、ポリイソシアネート化合物を混合して紡糸する方法。
(3)ポリオールとジイソシアネートを反応させたプレポリマーと低分子量ジオールとを反応させた紡糸用ポリマーを合成した後、固化させることなく紡糸する反応紡糸方法。
(3)の方法は、(1)、(2)の方法に比べ、ポリウレタン弾性体チップを取り扱う工程が無いため簡略であり、また、プレポリマーの反応機への注入割合を調節して、紡糸後のポリウレタン弾性繊維中の残留NCO基の量を調整でき、この残留NCO基による鎖延長反応で耐熱性の向上を得ることもできるため、好適な方法である。更に、(3)の方法では、特表平11−839030号公報に開示されているように、低分子量ジオールをプレポリマーの一部と事前に反応させ、OH基過剰のプレポリマーとして反応機に注入する方法も行なうことができる。
本発明のポリウレタン弾性繊維は、(3)の方法に従い、(A)、(B)成分のプレポリマーを反応機に連続して定量的に注入し、得られた紡糸用ポリマーを固化することなく溶融紡糸することにより得ることが特に好ましい。
この場合、紡糸用ポリマーの合成は、(I)両末端NCO基プレポリマーの合成と、(II)両末端OH基プレポリマーの合成と、(III)これら二つのプレポリマーを反応機に導き、連続的に反応させる紡糸用ポリマーの合成の3つの反応で構成されるが、原料の組成比は上記3つの反応を通算して、全ジイソシアネートのモル量と、全ポリマージオール及び全低分子量ジオールの合計モル量とのモル比が1.02〜1.20であることが好ましい。
具体的には、上記(I)の両末端NCO基プレポリマーは、例えば温水ジャケット及び撹拌機を具備したタンクに所定量のジイソシアネートを仕込んだ後、撹拌しながら所定量のポリマージオールを注入し、80℃で1時間窒素パージ下で撹拌することで得ることができる。この反応で得られた両末端NCO基プレポリマーは、ジャケット付きギアポンプ(例えば、KAP−1 川崎重工業株式会社製)を用いてポリウレタン弾性繊維用反応機に注入する。
(II)の両末端OH基プレポリマーは、温水ジャケット及び撹拌機を具備したタンクに所定量のジイソシアネートを仕込んだ後、撹拌しながら所定量のポリマージオールを注入し、80℃で1時間窒素パージ下で撹拌して前駆体を得、次いで、低分子量ジオールを注入し、撹拌して前駆体と反応させることで得ることができる。得られた両末端OH基プレポリマーはジャケット付きギアポンプ(例えば、KAP−1 川崎重工業株式会社製)を用いてポリウレタン弾性繊維用反応機に注入する。
なお、この両プレポリマー合成時に、耐候性、耐熱酸化性、耐黄変性等を改善するための上記各種薬品類を添加することができる。
(III)の紡糸用ポリマーの合成は、一定比率で送り込まれた(A)、(B)のプレポリマーを、連続反応させて得ることができる。この場合、反応機としては、通常のポリウレタン弾性繊維の溶融紡糸法に用いられるものでよく、紡糸用ポリマーを加熱、溶融状態で撹拌、反応させ、更に紡糸ヘッドに移送する機構を備えた反応機が好ましい。反応条件は、160〜220℃で1〜90分、好ましくは180〜210℃で3〜80分である。
本発明のポリウレタン弾性繊維は、合成された紡糸用ポリマーを固化させることなく紡糸ヘッドに移送し、ノズルから吐出、紡糸して得ることができるが、紡糸用ポリマーの反応機内での平均滞留時間は反応機の種類によって異なり、下式により計算される。
反応機内での平均滞留時間=
(反応機容積/紡糸用ポリマー吐出量)×紡糸用ポリマーの比重
一般的に円筒形反応機を用いる場合は約1時間であり、2軸押出し機を用いる場合は5〜10分である。紡糸温度は180〜230℃で、ノズルより連続的に押出した後、冷却し、紡糸油剤を付着して巻取ることによって得ることができる。
ここで、両末端NCO基プレポリマーと両末端OH基プレポリマーとの比率は紡糸した直後の糸中にNCO基が0.3〜1質量%、より好ましくは0.35〜0.85質量%残るように注入ギアポンプの回転比率を適宜調整することが好ましい。NCO基が0.3質量%以上過剰に含まれていると、紡糸後の鎖延長反応により強伸度、耐熱性等の物性を向上させることもできる。しかし、NCO基が0.3質量%より少ないと、得られるポリウレタン弾性繊維の耐熱強力保持率が低下するおそれがあり、また、1質量%を超えると紡糸用ポリマーの粘度が低くなり、紡糸が困難になる場合が生じる。
なお、紡糸した繊維中のNCO基の含有率は以下のように測定する。
紡糸した繊維(約1g)をジブチルアミン/ジメチルフォルムアミド/トルエン溶液で溶解した後、過剰のジブチルアミンと試料中のNCO基を反応させ、残ったジブチルアミンを塩酸で滴定し、NCO基の含有量を算出する。
本発明で用いられるポリウレタン弾性繊維は、上述のようにポリエーテルジオールを主原料に用い、溶融反応紡糸法で製造されたポリウレタン弾性繊維であることが特に好ましい。
本発明で使用するポリウレタン弾性繊維は、100%伸長状態で150℃、45秒間乾熱処理した後の強力保持率が50%以上、好ましくは55%以上である。強力保持率が50%より低いと熱セット後の製品の伸縮性が低下し好ましくない。
なお、強力保持率の上限は特に制限されないが、通常90%以下、特に80%以下である。
また、ポリウレタン弾性繊維の融点は、180℃以下であり、好ましくは175℃以下である。180℃より高いと、融着させる為の熱処理温度が高くなり過ぎ製品の風合い、染色堅牢度等に悪い影響を与え好ましくない。
なお、融点の下限は150℃以上、特に155℃以上であることが、高融点ポリウレタン弾性繊維との混合使用の際の寸法安定性や、生地の伸長回復力の点から好ましい。
なお、強力保持率の測定方法は後述の通りである。
本発明のポリウレタン弾性繊維混用織編物は、上記高融着ポリウレタン弾性繊維及び非弾性糸を用い、更に、例えば200℃以上の融点を有する高融点ポリウレタン弾性繊維も混用した以下の構造を有するものとすることができる。
(1)高融着ポリウレタン弾性繊維と少なくとも1種類の非弾性糸とを含む複合糸を経糸及び/又は緯糸に使用した織物。組織は平織、綾織、朱子織等のいずれでもよく、織機についてもシャトル式織機、レピア式織機、エアージェット式織機等を使用することができる。更に、経糸及び緯糸は全部該複合糸であっても良いし、複合糸と非弾性糸とを1:1、1:2又は1:3等の打ち込み比率で混合使用しても良い。
(2)編機の同じコースに高融着ポリウレタン弾性繊維及び少なくとも1種類以上の非弾性糸を混用した緯編地。高融着ポリウレタン弾性繊維及び非弾性糸を編み込んだ緯編地の編組織は平編、ゴム編、パール編、両面編、及びこれらを組み合わせたり、変化させたりした組織等のいずれの組織でも編成することができ、編機についても丸編機、横編機、フルファッション編機、靴下編機等の全ての編機を使用することができる。高融着ポリウレタン弾性繊維は挿入又は編み込みのどちらでも良い。また、高融着ポリウレタン弾性繊維と非弾性糸のプレーティング編でも良いし、高融着ポリウレタンと非弾性糸の複合糸を使用しても良い。(1)と同様に全コースに高融着ポリウレタン弾性繊維を編み込んでも良いし、1コース以上おきに編み込んでも良い。高融着ポリウレタン弾性繊維と非弾性糸を交互、又は適当な間隔おきに編み込んでも良い。更に、高融点ポリウレタン弾性繊維を混用してもよい。以下に例を示すがこれに限定されるものではない。
(2)−1 全コースの例:
1口目 高融着糸及び非弾性糸、又は複合糸
2口目 高融着糸及び非弾性糸、又は複合糸
3口目 高融着糸及び非弾性糸、又は複合糸
4口目 高融着糸及び非弾性糸、又は複合糸
(2)−2 1コースおきの例:
1口目 高融着糸及び非弾性糸、又は複合糸
2口目 非弾性糸
3口目 高融着糸及び非弾性糸、又は複合糸
4口目 非弾性糸
(2)−3 高融着糸と高融点糸を1コースおきに使用した例:
1口目 高融着糸及び非弾性糸、又は複合糸
2口目 高融点糸及び非弾性糸、又は複合糸
3口目 高融着糸及び非弾性糸、又は複合糸
4口目 高融点糸及び非弾性糸、又は複合糸
(2)−4 交互の例:
1口目 高融着糸
2口目 非弾性糸、又は高融着糸及び非弾性糸
3口目 高融着糸
4口目 非弾性糸、又は高融着糸及び非弾性糸
(3)高融着ポリウレタン弾性繊維及び少なくとも1種類以上の非弾性糸を混用した経編地。高融着ポリウレタン弾性繊維及び非弾性糸を編み込んだ経編地の編組織はクサリ編、デンビ編、コード編、アトラス編、及びこれらを組み合わせたり、変化させたりした組織等のいずれの組織でも編成することができ、編機についてもトリコット編機、ラッシェル編機、ミラニーズ編機等の全ての編機を使用することができる。(1)と同様に全面に高融着ポリウレタン弾性繊維を編み込んでも良いし、適当な間隔おきに編み込んでも良い。また、高融着ポリウレタン弾性繊維は挿入又は編込みのどちらでもよい。更に、高融点ポリウレタン弾性繊維を混用してもよい。以下に例を示すがこれに限定されるものではない。
(3)−1 クサリ組織の編地
図1及び図2はレース地等に多く用いられるクサリ組織を示す。このクサリ組織は切り口縫製後にラン、ほどけ等の欠点がおきやすい。対策としてラン止め組織が提案されているが、ラン止め組織の跡が生地に汚く残り、高級感を阻害する問題が残る。そこで、図1及び図2において、aを非弾性糸として、bを本発明の高融着ポリウレタン弾性繊維、又は高融着ポリウレタン弾性繊維と高融点ポリウレタン弾性繊維の引き揃えとして編み込み熱セットすると、図1に示すX部において、高融着ポリウレタン弾性繊維と非弾性糸、及び高融着ポリウレタン弾性繊維と高融点ポリウレタン弾性繊維とが接触して熱融着し、伸長回復性が良く、且つラン・ほどけ等の欠点を防止し、また審美性も何等損なうことのない編地を得ることが可能となる。
(3)−2 クサリ組織以外の編地
クサリ組織以外で一般に使用されている組織でも、本発明の高融着ポリウレタン弾性繊維を挿入又は編み込み使用すると、非弾性糸との融着、更にはポリウレタン弾性繊維相互の融着により、わらい(弾性繊維のずれ、抜け、飛び出し)等が起こり難くなり、実質的に生地の耐久性を格段に向上することができる。また、生地がより安定し、カールが起き難くなり、縫製時のコストダウンも見込むことができる。
例えば、図3〜8に示した組織図において、高融着ポリウレタン弾性繊維を適宜使用することによって、目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、デンセン、カールやスリップインが生じにくい編地を得ることが可能となる。
図3において、L1及びL2は全面挿入(All−in)、図4中のL1とL2、L3とL4は1本おきに挿入(1in−1out)、図5〜8中のL1、L2、L3は全面挿入(All−in)である。また、図3〜8のaは非弾性糸、bは本発明の高融着ポリウレタン弾性繊維を単独で又は高融点ポリウレタン弾性繊維との引き揃えで使用し、図5及び図6のcは本発明の高融着ポリウレタン弾性繊維を2本使用するか、本発明の高融着ポリウレタン弾性繊維と高融点ポリウレタン弾性繊維とを各1本ずつ使用することができる。
更に、使用用途によっては、断ち切り口を無縫製でそのまま使用する場合、従来は洗濯や着用時等のすれにより、ほつれ等の耐久性に問題があったが、これも大きく改善することができる。
ここで、高融着ポリウレタン弾性繊維と混用される非弾性糸としては、特に制限は無く、例えば木綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック等の再生繊維、アセテート等の半再生繊維、ナイロン、ポリエステル、アクリル等の化学合成繊維等の繊維を使用することができるが、ポリウレタン弾性繊維の混用割合は、1〜40%程度が好ましい。
また、本発明のポリウレタン弾性繊維混用織編物においては、ジアミンで鎖長反応を行なった乾式紡糸法による耐熱性、弾性回復性に優れた200℃以上、好ましくは210℃以上の融点を有する高融点ポリウレタン弾性繊維を混合使用することにより、融着性を保ちながら良好な弾性性能を有する織編物を得ることも可能である。この場合、この高融点ポリウレタン弾性繊維の使用量は、2〜40%程度が好ましい。
ここで、乾熱セットの方法は、ピンテンターのようなセット機を使い、熱風による熱固定することにより行なうことができる。この場合、セット温度は140〜200℃、特に170〜190℃であり、セット時間は10秒〜3分、特に30秒〜2分とすることができる。
一方、湿熱セットの方法は、編地等を型板に入れた状態で所定圧力の飽和蒸気により熱固定することにより行なうことができる。この場合、セット温度は100〜130℃、特に105〜125℃であり、セット時間は2〜60秒、特に5〜30秒とすることができる。
本発明によれば、低いセット温度で加工でき、目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、カール、スリップインや目ずれ現象が生じにくいポリウレタン弾性繊維混用織編物を得ることができる。
以下、実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。なお、以下の例において、部はいずれも質量部である。
【実施例1】
ポリウレタン弾性繊維合成用の原料として、以下の両末端NCO基プレポリマーと両末端OH基プレポリマーを合成した。
両末端OH基プレポリマーの合成
ジイソシアネートとして、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下MDIとする)25部を窒素ガスでシールされた80℃の温水ジャケット付き反応釜に仕込み、ポリマージオールとして、数平均分子量2,000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下PTMGとする)100部を撹拌しながら注入した。1時間反応後、低分子量ジオールとして、1,4−ブタンジオール27.6部を更に注入し、両末端OH基プレポリマーを合成した。
両末端NCO基プレポリマーの合成
窒素ガスでシールした80℃の反応釜にジイソシアネートとしてMDIを47.4部仕込み、紫外線吸収剤(2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール:20%)、酸化防止剤(3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン:50%)、光安定剤(ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート:30%)の混合物2.2部を添加し、撹拌しながらポリマージオールとして数平均分子量2,000のPTMGを100部注入し、1時間撹拌を継続して、両末端NCO基プレポリマーを得た。
得られた両末端NCO基プレポリマーと両末端OH基プレポリマーを1:0.475の質量比で撹拌翼を有する容量2,200mlのポリウレタン弾性繊維用円筒形反応機に連続的に供給した。供給速度は両末端NCO基プレポリマー28.93g/分、両末端OH基プレポリマー13.74g/分であった。反応機内での平均滞留時間は約1時間、反応温度は約190℃であった。
得られたポリマーを固化することなく、192℃の温度に保った8ノズルの紡糸ヘッド2台に導入した。紡糸用ポリマーをヘッドに設置したギアポンプにより計量、加圧し、フィルターでろ過後、径0.6mm、1ホールのノズルから2.67g/分の速度で、長さ6mの紡糸筒内に吐出させ(ノズルからの吐出総量:42.67g/分)、油剤を付与しながら600m/分の速度で巻き取り、44デシテックスのポリウレタン弾性繊維を得た。
吐出直後のポリウレタン弾性繊維のNCO基含有率は0.42質量%であった。このポリウレタン弾性繊維の物性を下記方法により測定した結果、融点は168℃、耐熱強力保持率は65%であった。更に、この弾性繊維を使用して下記方法にて編地を作成し、熱セット後の編地の解編張力を測定した。結果を表1に示す。
融点の測定方法
測定装置:TMA(熱機器測定装置)
石英プローブ使用
把握長:20mm
伸長:0.5%
温度範囲:室温〜250℃
昇温速度:20℃/min
評価:熱応力が0mgfになったときの温度を融点と定義した。
耐熱強力保持率の測定方法
ポリウレタン弾性繊維を10cmの把握長で保持し、20cmに伸長する。伸長した状態で150℃に保った熱風乾燥機中に45秒間入れ、熱処理を行なった。熱処理後のポリウレタン弾性繊維の強力を、定伸長速度の引っ張り試験機を使用し、把握長5cm、伸長速度500mm/分で測定した。測定時の環境は温度20℃、相対湿度65%であった。熱処理前の繊維に対する耐熱強力保持率を表示する。
編地の作成
パンスト編機(ロナティ社製、針数400本)の給糸口2、4口にそれぞれ6−ナイロンフィラメント糸13デシテックス7フィラメント、1、3口にポリウレタン弾性繊維を給糸し交編を行なった。
熱セット
作成した編地を160℃及び180℃に保った乾燥機中にて1分間乾熱処理した。
解編張力の測定
ナイロン糸及びポリウレタン弾性繊維の編地からの解編張力を測定した。解編速度は100mm/分とし、1分間の平均張力を計算した。
【実施例2】
PTMGの代わりに数平均分子量2,000のポリエチレングリコールアジペートを使う以外は実施例1と同様な方法でポリエステルジオールを用いたポリウレタン弾性繊維を製造した。吐出直後のポリウレタン弾性繊維のNCO基含有率は0.45質量%であった。実施例1と同様に物性を測定した結果、この44デシテックスポリウレタン弾性繊維の融点は170℃、耐熱強力保持率は62%であった。
この弾性繊維を使用して実施例1と同様に編地を作成し、熱セット後の編地の解編張力を測定した。結果を表1に示す。
〔比較例1〕
ポリマージオールとしてPTMGを、鎖長延長剤としてジアミンを用いた44デシテックスのポリウレタン弾性繊維(モビロンPタイプ糸 日清紡績(株)製)を使用した。実施例1と同様に物性を測定した結果、このポリウレタン弾性繊維の融点は221℃、耐熱強力保持率は95%であった。
この弾性繊維を使用して実施例1と同様に編地を作成し、熱セット後の編地の解編張力を測定した。結果を表1に示す。
〔比較例2〕
実施例1と同じ方法で紡糸用ポリマーを合成し、反応機から径4mmのオリフィスを通してストランド状に押出し、冷却後、カットしてポリウレタン弾性体ペレットを得た。このペレットを真空乾燥機で乾燥後、単軸押出機で再溶融し、実施例1と同様に紡糸ヘッドに設置したギアポンプにより計量、加圧し、フィルターでろ過後、径0.6mm、1ホールのノズルから毎分2.67gの速度で長さ6mの紡糸筒内に吐出させ(ノズルからの吐出総量:42.67g/分)、油剤を付与しながら600m/分の速度で巻き取り、44デシテックスのポリウレタン弾性繊維を得た。吐出直後のポリウレタン弾性繊維のNCO基含有率は0.13質量%であった。
実施例1と同様に物性を測定した結果、このポリウレタン弾性繊維の融点は152℃、耐熱強力保持率は38%であった。この弾性繊維を使用して実施例1と同様に編地を作成し、熱セット後の編地の解編張力を測定した。結果を表1に示す。

実施例1、2では融着のため解編張力が高く、実施例1のポリエーテルジオールを用いたポリウレタン弾性繊維の場合は特に解編張力が高かった。また、実施例1、2共に180℃熱セットでも編地中の弾性繊維は糸切れしなかった。比較例1の高融点ポリウレタン弾性繊維との組み合わせでは融着が生じ難く、比較例2では160℃熱セットによる解編張力は高いが、180℃熱セットにより編地中でポリウレタン弾性繊維の糸切れが発生した。
【実施例3】
実施例1で得られたポリウレタン弾性繊維を用いて、下記方法にて作成した編地を熱セット後、洗濯試験を行ない、編地のほつれ、スリップイン、編地面を目視観察した。結果を表2に示す。
編地の作成
パンスト編機(ロナティ社製、針数400本)の給糸口1、3口に6−ナイロン仮撚加工糸Z撚33デシテックス10フィラメント、2、4口に6−ナイロン仮撚加工糸S撚33デシテックス10フィラメント、更に全4口にポリウレタン弾性繊維を給糸し、プレーティング編で編地を作成した。編み込み倍率は2.5倍に設定した。
熱セット
作成した編地を180℃に保った乾燥機中にて1分間乾熱処理した。
洗濯試験
セット後の編地から15×20cmのカット試料を作成し、スガ試験機(株)LM−160洗濯試験機を使用して繰り返し20回の洗濯を行なった。
液量:150ml
鋼球10個使用
温度:50℃
時間:1サイクル30分
評価方法
ほつれ:編地のコース方向に平行にカットした編地端を観察した。
スリップイン:編地ウェル方向にカットした編地端を観察し、弾性繊維が編地端から5mm以上スリップインしている本数の比率(%)で評価した。
目ずれ:編地の平滑度合いを観察した。
カール:編地端を観察した。
【実施例4】
実施例3と同様の編機を使用し、1、3口に実施例1のポリウレタン弾性繊維、2、4口に比較例1の弾性繊維を給糸して実施例3と同様に編地を作成し、実施例3と同様の試験を行なった。結果を表2に示す。
〔比較例3〕
比較例1の弾性繊維のみを使って、実施例3と同様に編地を作り、同様の試験を行なった。結果を表2に示す。
〔比較例4〕
比較例2の弾性繊維のみを使って、実施例3と同様に編地を作り、同様の試験を行なった。結果を表2に示す。

比較例4では、編地中でポリウレタン弾性繊維の糸切れが発生した。
【実施例5】
実施例1と同じ方法にて156デシテックスのポリウレタン弾性繊維を得た。実施例1と同様に物性を測定した結果、このポリウレタン弾性繊維の融点は170℃、耐熱強力保持率は68%であった。更に、この弾性繊維を使用して下記方法にて経編地を作成し、熱セット後の編地よりポリウレタン弾性繊維の引き抜き抵抗値を測定した。結果を表3に示す。
編地の作成
ラッシェル編機(カールマイヤ社製、28ゲージ)を使用し、図9のL1のa及びL3のcに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L2のbにポリウレタン弾性繊維を使用し、経編地を作成した。
熱セット
上記編地を190℃に保った乾燥機にて1分間、乾熱処理した。
引き抜き抵抗値の測定
上記編地から、図10に示した通り緯方向(幅)25mm×経方向(長さ)100mmの試験片を採取した。この時、ポリウレタン弾性繊維の引き抜き方向が編み始め及び編み終わり方向となるように、試験片は各5枚ずつ合計10枚採取した。
続いて、試験片を図10の通り作成した。当該試験片下端(D−D’)より40mmの位置(B−B’)で、経方向に挿入したポリウレタン弾性繊維1を1本残した状態で試験片を切り取った。次いで、残した当該ポリウレタン弾性繊維を、上部つかみ2の方向に向かって5mm分(E−F)試験片から取り出した。更に、当該ポリウレタン弾性繊維の延長線上で、且つ試験片上端より30mmの位置で緯方向に幅3mmの切り込み3を入れた。
引き抜き抵抗値を引張試験機で測定する場合、引張試験機のつかみ間隔を40mmに調整し、次いで、当該試験片の2の上部つかみ代25mm(A−A’より上部)で試験片上部を把握し、当該ポリウレタン弾性繊維に0.1cN初荷重をかけ、4の下部つかみ代35mm(C−C’より下部)で当該ポリウレタン弾性繊維を把握し、引張速度100mm/minで引張り、当該ポリウレタン弾性繊維が引き抜かれるまでの最大引き抜き荷重を測定した。これを編み始め及び編み終わり方向とも各5回、合計10回実施して、その平均値を計算し引き抜き抵抗値を求めた。
〔比較例5〕
ポリマージオールとしてPTMGを、鎖長延長剤としてジアミンを用いた156デシテックスのポリウレタン弾性繊維(モビロンPタイプ糸 日清紡績(株)製、融点217℃、耐熱強力保持率93%)を図9のL2のbに挿入糸として使用した以外は実施例5と同様に経編地を作成した。熱セット後、実施例5と同様にL2のb糸の引き抜き抵抗値を測定した。結果を表3に示す。
【実施例6】
実施例5と同様の編機を使用し、図3のL1のaに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L2のbに実施例5のポリウレタン弾性繊維を使用して経編地を作成し、実施例5と同様の試験を行った。結果を表3に示す。
〔比較例6〕
比較例5と同様の弾性繊維を図3のL2のbに使用した以外は実施例6と同様に編地を作成し、同様の試験を行った。結果を表3に示す。
【実施例7】
実施例5と同様の編機を使用し、図4のL1及びL2のaに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L3及びL4のbに実施例5のポリウレタン弾性繊維を使用して経編地を作成し、実施例5と同様の試験を行った。結果を表3に示す。
〔比較例7〕
比較例5の弾性繊維を図4のL3及びL4のbに使用した以外は実施例7と同様に経編地を作成し、同様の試験を行った。結果を表3に示す。

実施例5、7では融着のため引き抜き抵抗値が高くなっており、実施例6では、引き抜けない程度に融着しており、目ずれ、わらいの生じにくい編地が得られた。比較例5、6、7の高融点ポリウレタン弾性繊維との組み合わせでは融着が生じ難く、引き抜き抵抗値も低く、目ずれ、わらいが発生した。
【実施例8】
下記の方法にて編地を作成し、熱セット後、編地の解編張力の測定とポリウレタン弾性繊維相互の融着状況の確認、並びに洗濯試験により編地の傷み(洗濯耐久性)を目視評価した。結果を表4に示す。
編地の作成
ラッシェル編機(カールマイヤ社製、28ゲージ)を使用し、図5に示した組織図の編地を作成した。図5において、L1のaに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L2のcに比較例5と同じ弾性繊維を、L3のcに実施例1のポリウレタン弾性繊維を使用して経編地を編成し主編地とした。更に、主編地の間に抜き糸として、ナイロンフィラメント糸110デシテックス24フィラメントを使用して経編地を作成した。
熱セット
上記編地を190℃に保った乾燥機にて1分間、乾熱処理した。
解編張力の測定
抜き糸のナイロン糸の解編張力を測定した。解編速度は100mm/分とし、1分間の解編張力を測定し、ピーク点5箇所の平均値を計算した。
融着状況の確認
主編地のナイロン糸を20%希塩酸にて溶解し、ポリウレタン弾性繊維相互の接触部の融着状況を観察した。
編地の傷み評価における試料の作成
熱セットした編地の編方向に対してタテ3.3cm、ヨコ24.0cmの短冊状試料を切り取り、ヨコ方向の裁断面より編方向に対して40度の角度に切れ目を入れ、「編み始め側」と「編み終わり側」に分け、タテ方向の裁断部を合わせてオーバーロックミシンで縫製し環状の試料を作成した。
編地の傷み評価における試料の洗濯
作成した試料を、下記の条件にて連続300分の洗濯を行った。
洗濯機:家庭用二槽式洗濯機
洗剤量:1.3g/Lに調整(弱アルカリ洗剤使用)
水量 :30L
負荷布:綿、ポリウレタン弾性繊維混用ベア天竺編地、1.0kg
編地の傷み評価
「編み始め側」、「編み終わり側」の裁断部の傷みの程度を観察し、下記の4段階で評価した。
◎:傷みが認められない
○:やや傷みが認められる
△:傷みが認められる
×:傷みが激しい
このうち、△と×は衣料として着用をためらう程度の傷みであり、◎ないし○が洗濯耐久性の点で好ましい。
〔比較例8〕
比較例1の弾性繊維を図5のL3のcに使用した以外は実施例8と同様に経編地を作成した。熱セット後、抜き糸の解編張力を測定し、ポリウレタン弾性繊維の融着状況を確認し、実施例8と同様の試験を行った。結果を表4に示す。
【実施例9】
実施例8と同様の編機を使用し、図6のL1のaに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L2のcに比較例1のポリウレタン弾性繊維を、L3のcに実施例1のポリウレタン弾性繊維を使用して経編地を作成し、実施例8と同様の試験を行った。結果を表4に示す。
〔比較例9〕
比較例1の弾性繊維を図6のL3のcに使用した以外は実施例9と同様に経編地を作成し、同様の試験を行った。結果を表4に示す。
【実施例10】
実施例8と同様の編機を使用し、図7のL1のaに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L2のbに実施例1のポリウレタン弾性繊維を使用し、抜き糸は使用せず経編地を作成し、実施例8と同様の試験を行った。結果を表4に示す。
〔比較例10〕
比較例1の弾性繊維を図7のL2のbに使用した以外は実施例10と同様に経編地を作成し、同様の試験を行った。結果を表4に示す。
【実施例11】
実施例8と同様の編機を使用し、図8のL1のaに6−ナイロンフィラメント糸56デシテックス17フィラメントを、L2のbに実施例1のポリウレタン弾性繊維を使用し、抜き糸は使用せず経編地を作成し、実施例8と同様の試験を行った。結果を表4に示す。。
〔比較例11〕
比較例1の弾性繊維を図8のL2のbに使用した以外は実施例11と同様に経編地を作成し、同様の試験を行った。結果を表4に示す。

実施例8、9では抜き糸の解編張力が高くなり、抜き糸と高融着ポリウレタン弾性繊維が強く融着していることを示している。比較例8、9では抜き糸の解編張力が低く、高融点ポリウレタン弾性繊維との融着が生じにくいことを示している。また、ポリウレタン弾性繊維相互の融着状況についても、実施例8、9では高融着ポリウレタン弾性繊維と高融点ポリウレタン弾性繊維が完全に融着しており、接触部を引っ張っても剥離することが出来なかった。比較例8、9の高融点ポリウレタン弾性繊維相互では融着は弱く、接触部を引っ張ると接触部が分離した。また、実施例10、11では高融着ポリウレタン弾性繊維相互が完全に融着しており、融着部を剥離することは出来なかった。比較例10、11では高融点ポリウレタン弾性繊維相互の融着は弱く、剥離可能であった。
洗濯による編地の傷み具合について、高融着ポリウレタン弾性繊維を使用し熱融着が進んだ実施例8、9、10、11については「編み始め側」、「編み終わり側」の裁断部共に◎又は○となり、洗濯耐久性の点で好ましい結果となった。高融点ポリウレタン弾性繊維を使用し熱融着の弱い比較例8、9、10、11については「編み始め側」、「編み終わり側」の裁断部共に△又は×となり、洗濯により衣料として着用をためらう程度の傷みが発生しており、好ましくない結果となった
クサリ組織又はクサリ組織以外で一般に使用されている組織(弾性繊維の挿入又は編みこみ)でも、本発明の高融着ポリウレタン弾性繊維を使用すると、非弾性糸との融着、更にポリウレタン弾性繊維相互の融着により、目ずれ、わらい、ほつれ、ラン、デンセン、カールやスリップインが生じ難くなり、実質的に生地の耐久性が格段に向上した。また、断ち切り口は洗濯によってもほつれ難いあるいは傷み難いものであった。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
100%伸長した状態で150℃、45秒間の乾熱処理後の強力保持率が50%以上であり、且つ180℃以下の融点を有する高融着ポリウレタン弾性繊維と、少なくとも1種類の非弾性糸とを含み、乾熱又は湿熱セットにより高融着ポリウレタン弾性繊維相互又はこれと非弾性糸との交差部を熱融着させてなるポリウレタン弾性繊維混用織編物。
【請求項2】
更に200℃以上の融点を有する高融点ポリウレタン弾性繊維を含み、この高融点ポリウレタン弾性繊維と上記高融着ポリウレタン弾性繊維との交差部を熱融着させた請求項1記載のポリウレタン弾性繊維混用織編物。
【請求項3】
高融着ポリウレタン弾性繊維が、(A)ポリオールとジイソシアネートとを反応させて得られる両末端イソシアネート基プレポリマーと、(B)ポリオールとジイソシアネートと低分子量ジオールとを反応させて得られる両末端水酸基プレポリマーとを反応させて得られるポリマーを溶融紡糸してなり、且つ原料ポリオール中にポリエーテルポリオールを50質量%以上含むことを特徴とする請求項1又は2記載のポリウレタン弾性繊維混用織編物。
【請求項4】
100%伸長した状態で150℃、45秒間の乾熱処理後の強力保持率が50%以上であり、且つ180℃以下の融点を有する高融着ポリウレタン弾性繊維と、少なくとも1種類の非弾性糸を用いて織地又は編地を形成した後、乾熱又は湿熱セットにより高融着ポリウレタン弾性繊維相互又はこれと非弾性糸との交差部を熱融着させてなるポリウレタン弾性繊維混用織編物の製造方法。
【請求項5】
更に200℃以上の融点を有する高融点ポリウレタン弾性繊維を用いて、この高融点ポリウレタン弾性繊維と上記高融着ポリウレタン弾性繊維との交差部を熱融着させた請求項4記載のポリウレタン弾性繊維混用織編物の製造方法。

【国際公開番号】WO2004/053218
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【発行日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558453(P2004−558453)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015778
【国際出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【出願人】(000004374)日清紡績株式会社 (370)
【Fターム(参考)】