説明

ポリウレタン樹脂およびその製造方法

耐熱性、耐水性に優れ、低温で柔らかい皮膜を与えるポリウレタン樹脂の製造方法の提供。 ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリオキシテトラメチレンポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1つのポリオ−ル(A)、分子内部に10〜50質量%のオキシエチレン基(内部オキシエチレン基)を有し、かつ、分子末端に10〜50質量%のオキシエチレンブロック鎖(末端オキシエチレン鎖)を有する、全オキシエチレン基含有量が30〜80質量%のポリオキシアルキレンポリオール(B)、および、ポリイソシアネート(C)を反応させることを特徴とする、ポリウレタン樹脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成皮革などの用途に使用できる皮膜状のポリウレタン樹脂(以下、ポリウレタン樹脂皮膜ともいう。)を形成しうるポリウレタン樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、合成皮革などの用途に使用しうる皮膜状のポリウレタン樹脂を製造する方法としては、湿式法や乾式法が知られている。湿式法によれば、ポリウレタン樹脂の水混和性有機溶剤溶液を基材に塗布、含浸させた後、水等の凝固液中に基材を浸漬して、基材上でポリウレタン樹脂を凝固させ、次いで、その基材を水洗し残存する溶剤を除去し乾燥することにより、基材上に積層されたポリウレタン樹脂皮膜を製造できる。また、乾式法によれば、ポリウレタン樹脂の揮発性有機溶剤溶液を基材に塗布、含浸させた後、溶剤を揮発させることにより基材上でポリウレタン樹脂を凝固させ、基材上に積層されたポリウレタン樹脂皮膜を製造できる。
【0003】
また、このような皮膜を形成しうるポリウレタン樹脂としては、ポリエステルポリオール、ポリオキシテトラメチレンポリオールまたはポリオキシプロピレンポリオールをポリイソシアネートと反応させて得られるポリウレタン樹脂が使用されていた。
【特許文献1】特開平8−253547号公報
【特許文献2】特開2000−103831号公報
【特許文献3】特開平9−3183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ポリエステルポリオールを使用してポリウレタン樹脂皮膜を製造した場合には、充分な膜厚を有する皮膜が製造できる特徴があるが、耐水性や耐久性が悪く、風合いに劣る問題があり、特に衣料用途の合成皮革には不適であった。ポリオキシテトラメチレンポリオールを使用して製造したポリウレタン樹脂皮膜は、耐水性や耐久性は比較的よいが、低温での伸び特性や弾性回復率が不充分であり、衣料用途の合成皮革にはやはり不適であった。
【0005】
一方、ポリオキシプロピレンポリオールは、低粘度であり、常温で固体であるポリオキシテトラメチレンポリオールに比較して取り扱いやすく、また、これを使用して製造したポリウレタン樹脂皮膜は、耐水性、柔軟性に優れるなどの特徴があるが、強度が不足する、樹脂表面にタックが残りやすい、耐熱性や耐水性が不充分であるなどの欠点があった。
【0006】
上記課題を解決すべく、耐熱性、耐水性が高く、低温特性に優れる皮膜が得られるポリウレタン樹脂の製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するものであり、合成皮革用に適した皮膜状のポリウレタン樹脂を与えるポリウレタン樹脂の製造およびポリウレタン樹脂に関する下記の発明である。
【0008】
ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリオキシテトラメチレンポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1つのポリオール(A)、分子内部に10〜50質量%のオキシエチレン基(内部オキシエチレン基)を有し、かつ、分子末端に10〜50質量%のオキシエチレンブロック鎖(末端オキシエチレン鎖)を有する、全オキシエチレン基含有量が30〜80質量%のポリオキシアルキレンポリオール(B)、および、ポリイソシアネート(C)を反応させることを特徴とする、ポリウレタン樹脂の製造方法。
【0009】
不活性の有機溶剤中で、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリオキシテトラメチレンポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1つのポリオ−ル(A)、分子内部に10〜50質量%のオキシエチレン基(内部オキシエチレン基)を有し、かつ、分子末端に10〜50質量%のオキシエチレンブロック鎖(末端オキシエチレン鎖)を有する、全オキシエチレン基含有量が30〜80質量%のポリオキシアルキレンポリオール(B)、および、ポリイソシアネート(C)を反応させることによりポリウレタン樹脂の溶液を得た後、得られたポリウレタン樹脂の溶液を基材に塗布し、次いで溶剤を除去することを特徴とする、皮膜状のポリウレタン樹脂の製造方法。
【0010】
ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリオキシテトラメチレンポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1つのポリオール(A)、分子内部に10〜50質量%のオキシエチレン基(内部オキシエチレン基)を有し、かつ、分子末端に10〜50質量%のオキシエチレンブロック鎖(末端オキシエチレン鎖)を有する、全オキシエチレン基含有量が30〜80質量%のポリオキシアルキレンポリオール(B)、および、ポリイソシアネート(C)を反応させて得られるポリウレタン樹脂。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、耐熱性、耐水性に優れ、また、ガラス転移点が低く、モジュラスが小さく、低温で柔らかい物性を有する皮膜状のポリウレタン樹脂が得られる。したがって、風合いがよい合成皮革が得られ、特に衣料用途の合成皮革に適する。また、特に湿式法によって皮膜状ポリウレタン樹脂を製造した場合には、充分な膜厚を有する皮膜状のポリウレタン樹脂が得られる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(ポリオール(A))
本発明において、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリオキシテトラメチレンポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1つのポリオ−ル(A)を使用する。
【0013】
ポリカーボネートポリオールとしてはポリカーボネートジオールが好ましく、低分子ジオール類とジアルキルカーボネートとの脱アルコール縮合反応、低分子ジオール類とジフェニルカーボネート類の脱フェノール縮合反応、または低分子ジオール類とアルキレンカーボネート類やジアルキルカーボネート類との脱グリコール縮合反応などで得られるものが挙げられる。
【0014】
低分子ジオール類としては、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、エチレングリコール、プロピレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。ジアルキルカーボネートとしてはジメチルカーボネートやジエチルカーボネートが挙げられる。アルキレンカーボネート類としてはエチレンカーボネートが挙げられる。ポリカーボネートポリオールとしては、1,6−ヘキサンジオールとジエチルカーボネートとの縮合反応によって得られるポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオールが特に好ましい。
【0015】
ポリカーボネートポリオールの数平均分子量は500〜4000が好ましく、1000〜2000が特に好ましい。
【0016】
ポリエステルポリオールとしては、ポリエステルジオールが好ましく、低分子ジオール類やポリオキシアルキレンジオールとジカルボン酸類やその誘導体とを反応させて得られる縮合ポリエステルジオール、および低分子ジオール類などの開始剤にラクトンを開環付加重合して得られるポリラクトンジオール挙げられる。
【0017】
低分子ジオール類としては、上記例示のものの1種または2種以上が使用できる。またジカルボン酸やその誘導体としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、などが挙げられる。ラクトンとしてはバレロラクトン、メチルバレロラクトン、ε−カプロラクトン、トリメチルカプロラクトンなどが挙げられる。
【0018】
ポリエステルポリオールの数平均分子量は500〜4000が好ましく、1000〜2000が特に好ましい。
【0019】
ポリオキシテトラメチレンポリオールとしては、ポリオキシテトラメチレンジオールが好ましい。数平均分子量500〜4000が好ましく、800〜2500が特に好ましい。
【0020】
ポリオール(A)としては、ポリカーボネートポリオールまたはポリエステルポリオールが好ましい。ポリカーボネートポリオールがより好ましく、なかでもポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオールが特に好ましい。
【0021】
(ポリオール(B))
本発明では、分子内部に10〜50質量%のオキシエチレン基(内部オキシエチレン基)を有し、かつ、分子末端に10〜50質量%のオキシエチレンブロック鎖(末端オキシエチレン鎖)を有する、全オキシエチレン基含有量が30〜80質量%のポリオキシアルキレンポリオール(B)を使用する。
【0022】
ポリオキシアルキレンポリオール(B)は、多価の開始剤および触媒の存在下、エチレンオキシドおよび他のアルキレンオキシドを反応させて製造できる。
【0023】
多価の開始剤は、アルキレンオキシドが反応しうる活性水素原子を2個以上有する化合物であり、多価アルコール、多価フェノール、ポリアミン、アルカノールアミンなどがある。2価〜6価が好ましく、2価〜3価がより好ましく、2価が最も好ましい。2価の開始剤としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ビスフェノールAまたはこれらに少量のアルキレンオキシドを開環付加重合して得られる比較的低分子量のポリオキシアルキレンジオールなどがある。これらは1種のみを用いても2種以上を併用してもよい。なお、ポリオキシアルキレンポリオール(B)の水酸基数は使用する開始剤の活性水素原子の数に等しく、2〜6が好ましく、2〜3がより好ましく、2が特に好ましい。
【0024】
上記触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の汎用アルカリ触媒、水酸化セシウム等のセシウム系アルカリ触媒、複合金属シアン化物錯体触媒、フォスファゼン触媒などが挙げられる。
【0025】
ポリオキシアルキレンポリオール(B)は総不飽和度が0.015meq/g以下が好ましく、0.01meq/g以下であることが特に好ましい。このような総不飽和度の低いポリオキシアルキレンポリオールを製造するためには、セシウム系アルカリ触媒、複合金属シアン化物錯体触媒、フォスファゼン触媒などを用いることが好ましい。さらに具体的には、セシウム金属、水酸化セシウム、セシウムアルコキシド(セシウムメトキシド、セシウムエトキシド、セシウムプロポキシド等)、炭酸セシウムなどのセシウム触媒、亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体触媒などの複合金属シアン化物錯体触媒が好ましく、複合金属シアン化物錯体触媒が最も好ましい。ただし、複合金属シアン化物錯体触媒を用いた場合には、エチレンオキシドを単独で重合することは困難であるので、ポリオキシアルキレンポリオール(B)の末端オキシエチレン鎖を形成するためには他の触媒を用いることが好ましい。
【0026】
エチレンオキシド以外のアルキレンオキシドとしては、炭素数3〜6のアルキレンオキシドが好ましく、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、2,3−ブチレンオキシド、などがある。プロピレンオキシドが特に好ましい。
【0027】
ポリオキシアルキレンポリオール(B)における内部オキシエチレン基は、エチレンオキシドと他のアルキレンオキシドとの混合物を開環付加重合して得られるランダム重合鎖中のオキシエチレン基であることが特に好ましい。さらに内部オキシエチレン基の含有量はポリオキシアルキレンポリオール(B)中、10〜50質量%であり、10〜40質量%が好ましく、10〜30質量%が特に好ましい。
【0028】
また、ポリオキシアルキレンポリオール(B)は、末端オキシエチレン鎖を有することを特徴とする。これによりポリオキシアルキレンポリオール(B)は、高い反応性を有する水酸基、すなわち1級水酸基を高い割合で含む。このようなポリオキシアルキレンポリオールは、ポリオキシアルキレンポリオールの末端にエチレンオキシドを開環付加重合することによって得られる。また、末端オキシエチレン鎖の含有量はポリオキシアルキレンポリオール(B)中、10〜50質量%であり、15〜45質量%が好ましく、15〜30質量%が特に好ましい。
【0029】
ポリオキシアルキレンポリオール(B)中の全オキシエチレン基の含有量は30〜80質量%であり、30〜60質量%が好ましく、30〜50質量%が特に好ましい。
【0030】
ポリオキシアルキレンポリオール(B)は、10〜40質量%の内部オキシエチレン基を有し、かつ、15〜45質量%の末端オキシエチレン鎖を有し、全オキシエチレン基の含有量が30〜60質量%であることが好ましく、10〜30質量%の内部オキシエチレン基を有し、かつ、15〜30質量%の末端オキシエチレン鎖を有し、全オキシエチレン基の含有量が30〜50質量%であることが特に好ましい。
【0031】
さらに、ポリオキシアルキレンポリオール(B)は、触媒および開始剤の存在下、プロピレンオキシドを開環付加重合させ、次いで、プロピレンオキシドとエチレンオキシドの混合物を開環付加重合させ、さらにエチレンオキシドを開環付加重合させて得られるものが好ましい。または、触媒および開始剤の存在下、プロピレンオキシドとエチレンオキシドの混合物を開環付加重合させ、さらにエチレンオキシドを開環付加重合させて得られるものが好ましい。
【0032】
上述の通り、総不飽和度の低いポリオキシアルキレンポリオールが得られることから、ポリオキシアルキレンポリオール(B)における末端オキシエチレン鎖以外のオキシアルキレン鎖は複合金属シアン化物錯体触媒を用いてアルキレンオキシドを開環付加重合して得られるものであることが好ましい。
【0033】
本発明においてポリオキシアルキレンポリオール(B)は、複合金属シアン化物錯体触媒および開始剤の存在下、プロピレンオキシドを開環付加重合させ、次いで、プロピレンオキシドとエチレンオキシドの混合物を開環付加重合させた後、アルカリ触媒を用いてさらにエチレンオキシドを開環付加重合させて得られるものが好ましい。または、開始剤の存在下、プロピレンオキシドとエチレンオキシドの混合物を開環付加重合させた後、アルカリ触媒を用いてさらにエチレンオキシドを開環付加重合させて得られるものが最も好ましい。
【0034】
ポリオキシアルキレンポリオール(B)の水酸基価は11.2〜112が好ましく、20〜80がより好ましく、20〜60がさらに好ましく、28〜56が特に好ましい。
【0035】
ポリオキシアルキレンポリオール(B)は2種以上の混合物であってもよく、その場合においても平均の総不飽和度、水酸基価、は上記の範囲内にあることが好ましい。
【0036】
(ポリイソシアネート)
ポリイソシアネートとしては特にイソシアネート基を2個有するジイソシアネートが好ましい。ジイソシアネートには芳香族、脂肪族および脂環族等のジイソシアネートがある。
【0037】
具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,4/2,6−トリレンジイソシアネート混合物、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、イソプロピリデン−ビス(4−フェニルイソシアネート)、ナフタレンジイソシアネートなどがある。これらは単独または2種以上の混合で使用できる。
【0038】
(鎖延長剤(D))
本発明においては、ポリオール(A)、ポリオキシアルキレンポリオール(B)とともに鎖延長剤(D)を使用できる。鎖延長剤としてはアミノ基、水酸基などの活性水素含有基を2個以上含む、分子量500未満の化合物が好ましく、分子量300以下の化合物が特に好ましい。鎖延長剤(D)は使用することが好ましい。
【0039】
たとえばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の2価アルコール類、トリメチロールプロパン、グリセリン等の3価アルコール類、エタノールアミン、アミノプロピルアルコール、3−アミノシクロヘキシルアルコール、p−アミノベンジルアルコールのようなアミノアルコール類、エチレンジアミン、1,2−プロピレンジアミン、1,4−ブチレンジアミン、2,3−ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、シクロヘキサンジアミン、ピペラジン、キシリレンジアミン、トリレンジアミン、フェニレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、3,3’−ジクロルジフェニルメタンジアミン等のジアミン類、ヒドラジン、モノアルキルヒドラジン、1,4−ジヒドラジノジエチレン等のヒドラジン類、カルボヒドラジド、アジピン酸ヒドラジド等のジヒドラジド類などが用いられる。多価アルコール類が好ましく、特に2価アルコール類が好ましい。
【0040】
(ポリウレタン樹脂の製造方法)
本発明は、ポリオ−ル(A)、ポリオキシアルキレンポリオール(B)(以下、単にポリオール(B)ともいう。)と、ポリイソシアネート(C)とを反応させることを特徴とするポリウレタン樹脂の製造方法である。本発明は特に、不活性の有機溶剤中で、上記ポリオ−ル(A)と、ポリオール(B)と、ポリイソシアネート(C)とを反応させることにより、ポリウレタン樹脂の溶液を得た後、得られたポリウレタン樹脂の溶液を基材に塗布し、次いで溶剤を除去することを特徴とする、皮膜状のポリウレタン樹脂の製造方法である。
【0041】
また、ポリオール(A)とポリオール(B)ともに、鎖延長剤(D)を任意に反応させることもできる。鎖延長剤(D)が使用することが好ましい。
【0042】
ポリオール(A)、ポリオール(B)、ポリイソシアネート(C)および鎖延長剤(D)を反応させる方法としては、ポリオール(A)、ポリオール(B)、任意に鎖延長剤(D)、ポリイソシアネート(C)を同時に反応させる方法、ポリオール(A)とポリオール(B)の混合物をポリイソシアネート(C)と反応させ、ついで鎖延長剤(D)と反応させる方法、ポリイソシアネート(C)を、ポリオール(A)とポリオール(B)と準じ反応させ、ついで鎖延長剤(D)と反応させる方法などが採用できる。
【0043】
ポリオール(A)とポリオキシアルキレンポリオール(B)の使用割合は質量比で、20/80〜80/20であることが好ましく、40/60〜60/40であることが特に好ましい。
【0044】
ポリオール(A)の使用割合が少なすぎると得られるポリウレタン樹脂の耐熱性や耐水性が充分でない。また、特に湿式法によりポリウレタン樹脂皮膜を製造する際には充分な膜厚が得られない。また、ポリオール(B)の使用が割合が少なすぎると硬度が高くなり特に低温での柔軟性に劣る。本発明においては、ポリオール(A)とポリオール(B)を上記の使用割合で混合して使用することにより、耐熱性や耐水性、および低温での柔軟性のいずれも満足するポリウレタン樹脂が得られ、また特に湿式法でポリウレタン樹脂皮膜を製造する場合には、充分な膜厚を有するポリウレタン樹脂皮膜を製造できる。
【0045】
また鎖延長剤(D)を使用する場合は、鎖延長剤(D)の使用割合は、ポリオール(A)とポリオール(B)の合計1モルに対し、鎖延長剤(D)が0.1〜10モルとなる割合が好ましく、0.5〜5モルとなる割合がより好ましく、1〜3モルとなる割合が最も好ましい。
【0046】
ポリオール(A)、ポリオール(B)および鎖延長剤(D)からなる活性水素原子化合物とポリイソシアネート(C)との反応割合はイソシアネート基/活性水素基が当量比で0.8〜1.2となる割合が好ましく、0.9〜1.1の割合が好ましい。
【0047】
また、反応は不活性な有機溶剤(ポリイソシアネートなどのポリウレタン樹脂原料と反応しない有機溶剤)中で行うことが好ましい。ポリウレタン樹脂皮膜を製造する方法は後述の通り、湿式法と乾式法があるが、湿式法では、有機溶剤として、水混和性の有機溶剤を用いることが好ましく、乾式法では、揮発性の高い有機溶剤を用いることが好ましい。
【0048】
ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、トルエン、メチルエチルケトン、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン等は湿式法、乾式法いずれの方法であっても好ましく使用でき、DMF、DMAcが特に好ましい。これらを混合して使用してもよい。
【0049】
反応は通常、反応温度10〜150℃、好ましくは20〜100℃で、0.5〜12時間反応させることにより行うことが好ましい。この際触媒を使用してもよく、例えばトリエチルアミン、トリエチレンジアミン、モルホリンなどのアミン化合物、オクチル酸錫、ジブチル錫ジラウレートなどの有機金属化合物が挙げられる。また、重合停止剤を使用してもよく、ジエチルアミン、ジブチルアミンなどの2級アミンなどが使用できる。
【0050】
本発明は上記の反応を有機溶剤中で行い、ポリウレタン樹脂の溶液を得た後、得られたポリウレタン樹脂の溶液を基材に塗布し、次いで溶剤を除去することを特徴とする、皮膜状のポリウレタン樹脂の製造方法である。
【0051】
基材としては、繊維質基材、合成樹脂フィルム基材、合成樹脂表面、ガラス板、合成樹脂板、紙、離型紙、金属箔などが挙げられる。繊維質基材とは、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル等の合成繊維、綿、麻などの天然繊維、レーヨンなどの再生繊維などの単独または混紡繊維よりなる編布、織布、不織布、などが好ましい。
【0052】
ポリウレタン樹脂皮膜を製造する方法としては、湿式法と乾式法とがある。前者は、ポリウレタン樹脂溶液組成物を塗布した基材を、水等の凝固液に浸漬し、有機溶剤を凝固液中に溶出させ、その後、乾燥させることにより皮膜を得る方法である。得られる皮膜を湿式膜という。また、後者は、ポリウレタン樹脂溶液組成物を塗布した基材を、加熱、乾燥させることにより溶剤を揮発させ、凝固させることにより皮膜を得る方法である。得られるポリウレタン皮膜を乾式膜という。
【0053】
湿式法における凝固液としては、水が好ましい。また、ポリウレタン樹脂を製造する際に用いた有機溶剤を少量水に混合したものを使用してもよい。また、製膜性を改良するために、各種界面活性剤を使用してもよい。本発明のポリウレタン樹脂皮膜は特に湿式法によりポリウレタン樹脂皮膜を製造する用途に特に適する。
【0054】
(合成皮革)
本発明によれば、合成皮革として適した皮膜状のポリウレタン樹脂を製造することができる。
【0055】
湿式法では、繊維質基材などの基材を用い、該基材に直接、上記ポリウレタン樹脂溶液を塗布含浸させ、凝固させることにより、多孔質であり、孔径が細かく、充分な膜厚を有するポリウレタン樹脂皮膜(湿式膜)を基材上に形成することができる。得られる積層体は、ボリューム感を有し、風合いに優れ、そのまま、または、他の基材と接着させることにより合成皮革とすることができる。湿式膜の膜厚は50μm〜50mmが好ましく、1mm〜3mmが特に好ましい。充分な膜厚を得るために、発泡助剤を使用することが特に好ましい。
【0056】
乾式法では、基材に直接、ポリウレタン樹脂溶液を塗布、含浸させた後ポリウレタン樹脂を凝固させることにより、基材上に、ポリウレタン樹脂皮膜を形成することができる。また、離型紙などの離型性の基材上に、ポリウレタン樹脂溶液を塗布し、ポリウレタン樹脂を凝固した後、離型性の基材をはずして、ポリウレタン樹脂皮膜を得ることができる。このようにして得られたポリウレタン樹脂皮膜は、繊維質基材、合成樹脂層を形成した繊維質基剤、合成樹脂フィルム基材などに、接着剤を介して接着させることにより、合成皮革とすることができる。また、離型性の基材に模様を施すことにより、その模様が転写されたポリウレタン樹脂皮膜を製造できる。このように製造されたポリウレタン樹脂皮膜は、強度に優れ、なおかつ風合いに優れたものとなる。乾式膜の膜厚は25μm〜500μmが好ましく、50μm〜200μmが特に好ましい。
【0057】
本発明において、皮膜状のポリウレタン樹脂の要求される特性に応じて、任意に、染料、顔料、増量剤、微粉シリカ、安定剤、発泡助剤等の添加剤を使用してもよい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を説明する。部は質量部を示す。
(原料)
ポリオールとしては、下記に示すポリオキシアルキレンポリオール(ポリオール(B1)〜(B3)、および(G1)〜(G5))ならびにポリオール(A1)〜(A3)を使用した。
【0059】
ポリオール(B1)は、亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体触媒を用い、分子量700のポリオキシプロピレンジオールを開始剤として最終生成ポリオールに対して18%に相当するプロピレンオキシド(以下、PO)を反応させ、次いでエチレンオキシド(以下、EO)とPOの混合物を反応させた後、次いでKOH触媒を用いEOを反応させて製造した。
【0060】
ポリオール(B2)、(B3)は、亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体触媒を用い、分子量700のポリオキシプロピレンジオールを開始剤としてPOとEOの混合物を反応させた後、次いでKOH触媒を用いEOを反応させて製造した。
【0061】
ポリオール(G1)は、KOH触媒を用い、プロピレングリコールを開始剤としてPOを反応させた後、EOを反応させて製造した。
【0062】
ポリオール(G2)は、亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体触媒を用い、分子量700のポリオキシプロピレンジオールを開始剤としてPOを反応させて製造した。
【0063】
ポリオール(G3)は、亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体触媒を用い、分子量700のポリオキシプロピレンジオールを開始剤としてEOとPOの混合物を反応させて製造した。
【0064】
ポリオール(G4)は、亜鉛ヘキサシアノコバルテート錯体触媒を用い、分子量700のポリオキシプロピレンジオールを開始剤としてPOを反応させた後、次いでKOH触媒を用いEOを反応させて製造した。
【0065】
ポリオール(G5)は、KOH触媒を用い、グリセリンを開始剤としてPOを反応させて製造した。
【0066】
上記ポリオキシアルキレンポリオールの構造[水酸基数、内部オキシエチレン基含有量(内部EO基含量)、末端オキシエチレン鎖含有量(末端EO基含量)、全オキシエチレン基含有量(全EO含量)、水酸基価、総不飽和度]を表1に示す。オキシエチレン基の含有量はポリオキシアルキレンポリオール全体における割合をいう。
【0067】
【表1】

ポリオール(A1):1,6−ヘキサメチレンジオールとジアルキルカーボネートとを反応させて得られた数平均分子量2000のポリカーボネートジオール。日本ポリウレタン社製、商品名ニッポラン980。
【0068】
ポリオール(A2):1,4−ブタンジオールとアジピン酸とを合反応させて得られた、数平均分子量2000のポリエステルポリオール。大日本インキ化学工業社製、商品名OD−X−668。
【0069】
ポリオール(A3):数平均分子量2000のポリオキシテトラメチレンジオール。保土谷化学工業社製、商品名PTG−2000SN。
【0070】
(製造例1)
1Lの容量の反応容器にポリオール(B1)41.3部、ポリオール(G5)0.42部、ポリオール(A1)62.7部、1,4−ブタンジオール(1,4−BD)9.4部、および最終生成ポリウレタン樹脂に対して50ppmに相当するジブチル錫ジラウレート(DBTDL)を投入した。ついで、ジフェニルメタンジイソシアネート(p−MDI、日本ポリウレタン工業社製、ミリオネートMT)をイソシアネート基/水酸基(当量比)が約0.9となるような量加え、次いで、ジメチルホルムアミド(DMF)450部を加えた。さらにp−MDIを加えた。p−MDIの添加量の総量は37.3部であった(イソシアネート基/水酸基(当量比)が約1.02に相当)。窒素雰囲気下、50〜90℃で8時間反応させ、ポリウレタン溶液1を得た。
【0071】
(製造例2〜14)
ポリオールとして、表2〜3に示す種類と部数のポリオールを用いる以外は、製造例1と同様に行いポリウレタン溶液2〜14を得た。
【0072】
(実施例1〜6および比較例1〜8)「乾式膜」の製造例
得られたポリウレタン溶液1〜14をガラス板上に、アプリケーターを用いて500μmの厚さに塗布し、80℃で一晩乾燥して約120μmの乾式膜を作成した。その100%モジュラス(M100)、300%モジュラス(M300)、破断強度、引裂き強度、破断伸びおよびガラス転移点(T)を測定した。結果を表4〜5に表す。
【0073】
また、得られた乾式膜を、(1)120℃で1週間加熱後(表中、「耐熱性(1週間後)」)、(2)120℃で2週間加熱後(表中、「耐熱性(2週間後)」、および(3)10%の水酸化ナトリウム水溶液中に24時間侵漬した後(表中、「耐アルカリ性」)に、破断強度を測定し、破断強度の保持率を算出した。結果を表6に示す。
【0074】
(実施例7〜12および比較例9〜16)「湿式膜」の製造例
得られたポリウレタン溶液1に発泡助剤(大日本インキ化学工業社製、CRISVON ASSISTOR SD−7)を3部加えたものを、アプリケーターを使用して不織布(東洋紡績社製、商品名エクーレ、厚さ約0.25mm)に、1mmの膜厚に塗布し、ポリウレタン樹脂溶液を含浸させた。ポリウレタン樹脂溶液を塗布含浸させた基材を、凝固液として水を入れた凝固槽に浸漬した。基材上のDMFが凝固液中に溶出しポリウレタン樹脂が凝固した後、基材を取り出し、ついで水を入れた洗浄槽に入れ、基材上のDMFを完全に除去した。基材を80℃のオーブンで1時間乾燥した。不織布に積層された湿式膜が得られた。湿式膜は厚さが約2mmであり、充分な厚みがあり、ボリューム感があった。
【0075】
ポリウレタン溶液2〜14を使用して同様に行い、湿式膜を得た。溶液得られた湿式膜と不織布の積層体について、風合いとボリューム感を評価した。評価方法は下記に示す。
【0076】
風合い ○:柔らかく、しなやかである、△:しなやかであるが、やや固い、×:硬く、柔らかさ、しなやかさが不足している。
ボリューム感 ○:厚みがあり、ボリューム感がある、×:厚みが不足し、ボリューム感がない。
【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
【表5】

【0081】
【表6】

【0082】
【表7】

実施例で得られたポリウレタン樹脂皮膜は耐熱性、耐水性に優れるものであった。また、特に湿式法で製造された皮膜からは、充分な膜厚を有するのでボリューム感を有し、かつ風合いに優れた合成皮革が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、低温でも柔らかく、風合いのよいポリウレタン樹脂皮膜が得られるので、合成皮革材料として特に好適である。また、繊維処理剤、塗料用樹脂、接着剤、バインダー、コーティング剤としても利用できる。さらにフィルムに成形してラミネート材料としたり、板状に成形して合成木材としたり、湿式膜として濾過膜等に利用できるほか、湿式または乾式紡糸して吸湿性にすぐれ、柔軟風合いを有する天然繊維様の繊維とすることもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリオキシテトラメチレンポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1つのポリオ−ル(A)、分子内部に10〜50質量%のオキシエチレン基(内部オキシエチレン基)を有し、かつ、分子末端に10〜50質量%のオキシエチレンブロック鎖(末端オキシエチレン鎖)を有する、全オキシエチレン基含有量が30〜80質量%のポリオキシアルキレンポリオール(B)、および、ポリイソシアネート(C)を反応させることを特徴とする、ポリウレタン樹脂の製造方法。
【請求項2】
不活性の有機溶剤中で、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリオキシテトラメチレンポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1つのポリオ−ル(A)、分子内部に10〜50質量%のオキシエチレン基(内部オキシエチレン基)を有し、かつ、分子末端に10〜50質量%のオキシエチレンブロック鎖(末端オキシエチレン鎖)を有する、全オキシエチレン基含有量が30〜80質量%のポリオキシアルキレンポリオール(B)、および、ポリイソシアネート(C)を反応させることによりポリウレタン樹脂の溶液を得た後、得られたポリウレタン樹脂の溶液を基材に塗布し、次いで溶剤を除去することを特徴とする、皮膜状のポリウレタン樹脂の製造方法。
【請求項3】
ポリオール(A)とポリオキシアルキレンポリオール(B)とともに鎖延長剤(D)を、ポリイソシアネートと反応させる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
ポリオキシアルキレンポリオール(B)が、水酸基数2〜3であり、かつ総不飽和度が0.015meq/g以下である、請求項1、2または3に記載の製造方法。
【請求項5】
ポリオキシアルキレンポリオ−ル(B)における内部オキシエチレン基が、エチレンオキシドと他のアルキレンオキシドとの混合物を開環付加重合して得られるランダム重合鎖中のオキシエチレン基である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
ポリオキシアルキレンポリオール(B)が、複合金属シアン化物錯体触媒および開始剤の存在下、プロピレンオキシドを開環付加重合した後、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの混合物を開環付加重合し、ついで、アルカリ触媒の存在下、エチレンオキシドを開環付加重合して得られるポリオキシアルキレンポリオールである、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
ポリオキシアルキレンポリオール(B)が、複合金属シアン化物錯体触媒および開始剤の存在下、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの混合物を開環付加重合し、ついで、アルカリ触媒の存在下、エチレンオキシドを開環付加重合して得られるポリオキシアルキレンポリオールである、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオールおよびポリオキシテトラメチレンポリオールからなる群から選ばれる少なくとも1つのポリオ−ル(A)、分子内部に10〜50質量%のオキシエチレン基(内部オキシエチレン基)を有し、かつ、分子末端に10〜50質量%のオキシエチレンブロック鎖(末端オキシエチレン鎖)を有する、全オキシエチレン基含有量が30〜80質量%のポリオキシアルキレンポリオール(B)、および、ポリイソシアネート(C)を反応させて得られるポリウレタン樹脂。
【請求項9】
ポリウレタン樹脂が、ポリオール(A)とポリオキシアルキレンポリオール(B)とともに鎖延長剤(D)を、ポリイソシアネート(C)と反応させて得られるポリウレタン樹脂である、請求項8に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項10】
皮膜状に、基材に積層されてなる請求項8または9に記載のポリウレタン樹脂。
【請求項11】
合成皮革用途に使用する、請求項8、9または10に記載のポリウレタン樹脂。

【国際公開番号】WO2005/010068
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【発行日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512036(P2005−512036)
【国際出願番号】PCT/JP2004/010506
【国際出願日】平成16年7月23日(2004.7.23)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】