説明

ポリウレタン樹脂水分散液及びそれを用いた難燃性ポリエステル系繊維の製造方法

【課題】 ポリエステル系繊維の難燃硬仕上げ加工や難燃コーティング加工等の樹脂加工時に、従来よりも著しく少ない量の難燃成分(リン系化合物)の使用で充分な難燃性を付与することを可能にし、染色堅牢度の低下を充分に防止しつつ充分な難燃性を付与することができる非ハロゲン系の樹脂加工薬剤を提供すること。
【解決手段】 A)有機ポリイソシアネート及び高分子ポリオールから得られたイソシアネート基末端プレポリマーと、(B)下記一般式(1):
【化1】


[式(1)中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基又は置換若しくは未置換のアラルキル基を表す。]
により表されるリン系化合物(b)との混合物を水に乳化分散させて得られた分散液に、(C)水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖延長剤を添加して水中で鎖伸長反応せしめて得られたものであることを特徴とするポリウレタン樹脂水分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリウレタン樹脂水分散液及びそれを用いた難燃性ポリエステル系繊維の製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、ポリエステル系繊維等の難燃硬仕上げ加工や難燃コーティング加工に用いる難燃硬仕上げ加工剤や難燃コーティング加工剤(以下、場合により「難燃樹脂加工薬剤」と総称する)として好適なポリウレタン樹脂水分散液、並びにそのポリウレタン樹脂水分散液を用いた難燃性ポリエステル系繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル系繊維及びその編織物からなるカーシート、ロールスクリーン、フィルター濾材等の繊維材料においては、難燃性に加えて、強度向上や硬い風合いを付与する硬仕上げの目的のために、各種高分子化合物を付与する所謂樹脂加工を施すことが一般的に行われている。さらにこれらの繊維材料に難燃性を付与させるためには、樹脂加工時に難燃剤を併用して加工するのが一般的である。要求される難燃性のレベル、繊維材料の燃焼のしやすさに応じて樹脂加工前に難燃剤処理を実施する場合も多いが、たとえ基材となる繊維材料が難燃性であってもこれに付着させる樹脂が燃焼しやすいために、やはり難燃剤の併用が必要となることが殆どである。
【0003】
しかしその場合には、併用する難燃剤が樹脂の風合を損ねたり、強度向上効果を低下させるために、樹脂の付与量がより多く必要となって、その結果として、難燃性の阻害も非常に大きくなり、難燃剤も多量に付与しなければいけないといった悪循環に陥ることが多かった。また従来は、例えば特開平9−250086号公報(特許文献1)に開示されているようにハロゲン系の難燃剤が用いられていたが、近年においては、環境汚染防止の観点から非ハロゲン系の難燃剤が要望されており、例えば特開平11−269766号公報(特許文献2)、特開2000−126523号公報(特許文献3)には、難燃剤としてリン系化合物が用いられることが開示されている。しかしながら、ハロゲン系化合物に比較すると難燃性が弱いのが現状であり、よりいっそうの難燃剤の併用が必要となって、通常は樹脂の付与量と難燃剤の付与量がほぼ等しいか、後者の方が多いのが現状であった。また、難燃剤は染料のブリードアウトを誘発する傾向があるので、多量に用いると染色堅牢度を低下させる問題も発生しやすくなるという問題点があった。
【特許文献1】特開平9−250086号公報
【特許文献2】特開平11−269766号公報
【特許文献3】特開2000−126523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ポリエステル系繊維の難燃硬仕上げ加工や難燃コーティング加工等の樹脂加工時に、従来よりも著しく少ない量の難燃成分(リン系化合物)の使用で充分な難燃性を付与することを可能にし、染色堅牢度の低下を充分に防止しつつ充分な難燃性を付与することができる非ハロゲン系の樹脂加工薬剤、並びにそのポリウレタン樹脂水分散液を用いた難燃性ポリエステル系繊維の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、樹脂加工薬剤であるポリウレタン樹脂水分散液を製造する際に、イソシアネート基末端プレポリマー又はその中和物を特定のリン系化合物と共に水に乳化分散させた後、特定の鎖延長剤を用いて水中で鎖伸長反応せしめることによって、ポリウレタン樹脂の水分散物にリン系化合物の水分散物を併用する従来の処方よりもはるかに少ない量のリン系化合物ポリエステル系繊維等に対して充分な難燃性を付与することができるようになることを見出し、この知見に基づき本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明の第一のポリウレタン樹脂水分散液は、
(A)有機ポリイソシアネート及び高分子ポリオールから得られたイソシアネート基末端プレポリマーと、(B)下記リン系化合物(b)〜(b)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物との混合物を水に乳化分散させて得られた分散液に、(C)水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖延長剤を添加して水中で鎖伸長反応せしめて得られたものであることを特徴とするものである。
【0007】
<リン系化合物(b)>
下記一般式(1):
【0008】
【化1】

【0009】
[式(1)中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基又は置換若しくは未置換のアラルキル基を表す。]
により表される化合物。
【0010】
<リン系化合物(b)>
下記一般式(2):
【0011】
【化2】

【0012】
[式(2)中、Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は置換若しくは未置換のアラルキル基を表す。]
により表される化合物。
【0013】
<リン系化合物(b)>
下記一般式(3):
【0014】
【化3】

【0015】
[式(3)中、nは1以上の整数を表し、Xは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜4のアルコキシ基又は下記一般式(i):
【0016】
【化4】

【0017】
(式(i)中、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。)
で表されるフェノキシ基を表す。]
により表される化合物。
【0018】
<リン系化合物(b)>
前記リン系化合物(b)の少なくとも一つのXとして下記一般式(ii):
【0019】
【化5】

【0020】
[式(ii)中、Aは−C(CH−、−SO−、−S−又は−O−を表す。]
で表される基のいずれか一方の結合手が結合しており、且つ、該基の他方の結合手が他の前記リン系化合物(b)のいずれか一つのXが脱離したリン原子に結合している、前記リン系化合物(b)の架橋体。
【0021】
<リン系化合物(b)>
下記一般式(4):
【0022】
【化6】

【0023】
[式(4)中、mは0以上の整数を表し、Yは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜4のアルコキシ基又は下記一般式(iii):
【0024】
【化7】

【0025】
(式(iii)中、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。)
で表されるフェノキシ基を表す。]
により表される化合物。
【0026】
<リン系化合物(b)>
前記リン系化合物(b)の少なくとも一つのYとして下記一般式(iv):
【0027】
【化8】

【0028】
[式(iv)中、Bは−C(CH−、−SO−、−S−又は−O−を表す。]
で表される基の一方の結合手が結合しており、且つ、該基の他方の結合手が他の前記リン系化合物(b)のいずれか一つのYが脱離したリン原子に結合している、前記リン系化合物(b)の架橋体。
【0029】
また、本発明の第二のポリウレタン樹脂水分散液は、
(A)有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールと分子中にアニオン性親水基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物及び/又は鎖伸長剤とから得られたイソシアネート基末端プレポリマーの中和物と、(B)前記リン系化合物(b)〜(b)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物との混合物を水に乳化分散させて得られた分散液に、(C)水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖延長剤を添加して水中で鎖伸長反応せしめて得られたものであることを特徴とするものである。
【0030】
このような本発明の第二のポリウレタン樹脂水分散液においては、前記アニオン性親水基が、カルボキシル基であることが好ましい。
【0031】
また、前記本発明の第一及び第二のポリウレタン樹脂水分散液においては、前記有機ポリイソシアネートが脂肪族ジイソシアネート又は脂環式ジイソシアネートであることが好ましい。
【0032】
また、前記本発明の第一及び第二のポリウレタン樹脂水分散液においては、前記高分子ポリオールが、平均分子量500〜4000のものであることが好ましい。
【0033】
さらに、本発明の第一及び第二のポリウレタン樹脂水分散液においては、前記リン系化合物の含有量が、前記ポリウレタン樹脂水分散液中のポリウレタン樹脂100質量部に対して1〜30質量部であることが好ましい。
【0034】
さらに、本発明の難燃性ポリエステル系繊維の製造方法は、前記本発明の第一及び第二のポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液をポリエステル系繊維に付与し、乾燥することを特徴とする方法である。
【0035】
従来のポリウレタン樹脂分散液とリン系化合物分散液を混合した処理浴を用いて処理した場合には、ポリウレタン樹脂及びリン系化合物を本発明によるポリウレタン樹脂水分散液を用いた処理布と同量に付着するように処理しても、難燃性は本発明によるポリウレタン樹脂水分散液を用いた処理布には遠く及ばず、同等の難燃性を得るためには、本発明によるポリウレタン樹脂水分散液よりもはるかに多量のリン系化合物を必要とする。この理由については必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明のポリウレタン樹脂分散液を用いた処理においては、前記本発明にかかるリン系化合物がポリウレタン樹脂エマルジョンのミセル中に存在し、ポリウレタン樹脂水分散液中でポリウレタン樹脂とリン系化合物の両者が微細な状態で共存しているために、リン系化合物の難燃性が効果的に発揮されるようになっているものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0036】
本発明のポリウレタン樹脂水分散液をポリエステル系繊維のポリエステル系繊維の難燃硬仕上げ加工や難燃コーティング加工等の樹脂加工時に難燃樹脂加工薬剤として用いると、難燃成分としてのリン系化合物の使用量を従来よりもはるかに少なくしても充分な難燃性を付与することが可能になり、染色堅牢度の低下を充分に防止しつつ難燃性を付与することができる。また、本発明の難燃性ポリエステル系繊維の製造方法によれば、難燃性が充分に高く且つ染色堅牢度の低下が充分に防止された難燃性ポリエステル系繊維を効率良く且つ確実に得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下、ポリウレタン樹脂水分散液及びそれを用いた難燃性ポリエステル系繊維の製造方法をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0038】
先ず、本発明の第一及び第二のポリウレタン樹脂水分散液について説明する。
【0039】
本発明の第一のポリウレタン樹脂水分散液は、(A)有機ポリイソシアネート及び高分子ポリオールから得られたイソシアネート基末端プレポリマーと、(B)前記リン系化合物(b)〜(b)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物との混合物を水に乳化分散させて得られた分散液に、(C)水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖延長剤を添加して水中で鎖伸長反応せしめて得られたものであることを特徴とするものである。
【0040】
また、本発明の第二のポリウレタン樹脂水分散液は、(A)有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールと分子中にアニオン性親水基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物及び/又は鎖伸長剤とから得られたイソシアネート基末端プレポリマーの中和物と、(B)前記リン系化合物(b)〜(b)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物との混合物を水に乳化分散させて得られた分散液に、(C)水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖延長剤を添加して水中で鎖伸長反応せしめて得られたものであることを特徴とするものである。
【0041】
本発明の第一及び第二のポリウレタン樹脂水分散液を製造する際に用いられる前記有機ポリイソシアネートとしては特に制限されず、従来よりポリウレタン樹脂の合成で用いられている種々の有機ポリイソシアネート化合物を用いることができる。例えば、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート;m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、テトラメチレンキシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート等を挙げることができる。これら有機ポリイソシアネートのうち、脂肪族ジイソシアネート又は脂環式ジイソシアネートを用いると、得られるポリウレタン樹脂がより無黄変性となる傾向があるので好ましく、特に、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが好適である。これらの有機ポリイソシアネートは、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0042】
本発明の第一及び第二のポリウレタン樹脂水分散液を製造する際に用いられる前記高分子ポリオールに関しても特に制限されず、例えば、ポリエステル系ポリオール、ポリカーボネート系ポリオール、ポリエーテル系ポリオール、ダイマージオールを好ましいものとして挙げることができる。
【0043】
本発明に好適なポリエステル系ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、分子量300〜1000のポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ビスヒドロキシエトキシベンゼン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ハイドロキノン及びこれらのアルキレンオキシド付加体等のジオール成分と、ダイマー酸、琥珀酸、アジピン酸、アゼライン酸、セパシン酸、ドデカンジカルボン酸、無水マレイン酸、フマル酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ナフタル酸、ビフェニルジカルボン酸、1,2−ビスフェノキシエタン−p,p’−ジカルボン酸、ジカルボン酸の無水物並びにエステル形成性誘導体等のジカルボン酸成分との脱水縮合反応によって得られるポリエステル系ポリオール、ε−カプロラクトン等の環状エステル化合物の開環重合反応により得られるポリエステル系ポリオール、及びこれらを共重合したポリエステル系ポリオール等が挙げられ、具体的には、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンイソフタレートアジペートジオール、3−メチル−1,5−ペンタンイソフタレートジオール、3−メチル−1,5−ペンタンテレフタレートジオール、1,6−ヘキサンジオールとダイマー酸の重縮合物等が挙げられる。
【0044】
また、本発明に好適なポリカーボネート系ポリオールとしては、例えば、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール等のグリコールと、ジフェニルカーボネート、ホスゲン等との反応によって得られるポリカーボネート系ポリオールを挙げることができ、具体的には、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、3−メチルー1,5−ペンタンジオールカーボネートジオール等を挙げることができる。
【0045】
さらに、本発明に好適なポリエーテル系ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ソルビトール、しょ糖、ビスフェノールA、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、アコニット酸、トリメリット酸、ヘミメリット酸、燐酸、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリイソプロパノールアミン、ピロガロール、ジヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシフタール酸、1,2,3−プロパントリチオール等の活性水素を少なくとも2個を有する化合物に、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロロヒドリン、テトラヒドロフラン、シクロヘキシレン等のモノマーの1種又は2種以上を常法により付加重合した単独重合体、ブロック共重合体及びランダム共重体等のポリエーテル系ポリオールが挙げられ、具体的には、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の単独重合体、ブロック共重合体、及びランダム共重合体等が挙げられる。
【0046】
また、本発明に好適なダイマージオールとしては、重合脂肪酸を還元して得られるジオールを主成分とするものが挙げられる。このような重合脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸等の炭素数18の不飽和脂肪酸、乾性油脂肪酸、半乾性油脂肪酸、これらの脂肪酸の低級モノアルコールエステル等を、触媒の存在下又は不存在下に、ディールスアルダー型の二分子重合反応させたものを挙げることができる。種々のタイプの重合脂肪酸が市販されているが、代表的なものとしては、炭素数18のモノカルボン酸0〜5質量%、炭素数36のダイマー酸70〜98質量%、炭素数54のトリマー酸0〜30質量%からなるものがある。
【0047】
また、前記高分子ポリオールとしては、ポリエーテル系とポリエステル系とを組み合わせたポリエーテル・エステル系を用いることも可能である。
【0048】
これらの高分子ポリオールは、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもでき、平均分子量が500〜4000のものであることが好ましい。
【0049】
なお、本発明の第一のポリウレタン樹脂水分散液においては(A)前述の有機ポリイソシアネート及び高分子ポリオールから得られたイソシアネート基末端プレポリマーを用いる。
【0050】
また、本発明の第二のポリウレタン樹脂水分散液においては(A)前述の有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールと共に、後述する分子中にアニオン性親水基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物及び/又は鎖伸長剤とから得られたイソシアネート基末端プレポリマーの中和物を用いる。
【0051】
このように本発明の第二のポリウレタン樹脂水分散液においては、イソシアネート基末端プレポリマーを合成する際に、分子中にアニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素を有する化合物を用いることができる。分子中にアニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素を有する化合物としては特に制限されず、例えば、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロールヘプタン酸等のカルボキシル基含有低分子ジオール、2−スルホ−1,3−プロパンジオール、2−スルホ−1,4−ブタンジオール等のスルホン基含有低分子ジオール、及びこれらカルボキシル基含有低分子ジオール又はスルホン基含有低分子ジオールのアンモニウム塩、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリブチルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルジエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン等の有機アミン塩、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0052】
本発明の第二のポリウレタン樹脂水分散液においては、前記の分子中にアニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素を有する化合物が酸の場合に、アニオン性親水基は、前記有機ポリイソシアネート化合物と、前記高分子ポリオールと、分子中にアニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素を有する化合物とを反応せしめて、イソシアネート基末端プレポリマーを得た後中和することができ、あるいは、前記有機ポリイソシアネート化合物と、前記高分子ポリオールと、分子中に中和されたアニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素を有する化合物とを反応せしめて、イソシアネート基末端プレポリマーの中和物を直接得ることもできる。
【0053】
本発明の第二のポリウレタン樹脂水分散液においては、分子中にアニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素を有する化合物のアニオン性親水基が、カルボキシル基又はカルボキシル基塩(好ましくは、トリエチルアミン等のトリアルキルアミンの塩)であることが好ましく、カルボキシル基又はカルボキシル基塩の含有量は、ポリウレタン樹脂水分散液中のポリウレタン樹脂100質量部に対して0.7〜2質量部であることが好ましい。この含有量が前記下限未満では乳化が困難になり、あるいは乳化安定性が不十分となる傾向にあり、前記上限を超えるとポリウレタン樹脂水分散液の粘度が高くなり取扱いにくい傾向になる。
【0054】
また、本発明の第二のポリウレタン樹脂水分散液においては、イソシアネート基末端プレポリマーを合成する際に、鎖伸長剤を用いることができる。好適な鎖伸長剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の低分子量多価アルコール等が挙げることができる。これらの鎖伸長剤は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0055】
次に、本発明の第一のポリウレタン樹脂水分散液を製造する際に用いる末端にイソシアネート基を有するプレポリマー、並びに本発明の第二のポリウレタン樹脂水分散液を製造する際に用いる末端にイソシアネート基を有するプレポリマー又はその中和物の製造方法について説明する。
【0056】
前記有機ポリイソシアネート及び前記高分子ポリオールと、前記リン系化合物と、必要に応じて前記の分子中にアニオン性親水基と少なくとも2個の活性水素を有する化合物及び/又は前記鎖伸長剤とを用いて、末端にイソシアネート基を有するプレポリマー又はその中和物を製造する。このようなイソシアネート基末端プレポリマー又はその中和物の製造方法としては特に制限されず、例えば、ワンショット法(1段式)又は多段式のイソシアネート重付加反応法によって、温度40〜150℃で反応させることができる。この際、必要に応じて、ジブチル錫ジラウレート、スタナスオクトエート、ジブチル錫−2−エチルヘキソエート、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルモルホリン等の反応触媒、あるいは、リン酸、リン酸水素ナトリウム、パラトルエンスルホン酸等の反応抑制剤を添加することができる。また、反応段階において、あるいは、反応終了後に、イソシアネート基と反応しない有機溶媒を添加することができる。このような有機溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、酢酸ブチル等を挙げることができる。
【0057】
このようなイソシアネート基末端プレポリマー又はその中和物を製造する際の反応においては、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーの反応をNCO/OHのモル比が1.1/1.0〜1.7/1.0の範囲で行うことが好ましく、特に1.2/1.0〜1.5/1.0であることが好ましい。そして、ウレタンプレポリマーの反応終了時におけるイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー又はその中和物の中の遊離イソシアネート基含有量が、0.8〜5.0質量%で有ることが好ましい。遊離イソシアネート基の含有量が0.8質量%未満であると、反応時の粘度が著しく上昇するために、有機溶媒を多量に必要として、コスト的に不利になったり、乳化分散が困難になる傾向がある。一方、遊離イソシアネート基の含有量が5.0質量%を超えると、乳化分散後と鎖延長剤による鎖伸長反応後のバランスが大きく変化することになり、製品の経時貯蔵安定性あるいは加工安定性に支障をきたす傾向にある。
【0058】
次に、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー又はその中和物の溶液に混合する本発明にかかるリン系化合物(b)〜(b)について説明する。
【0059】
前記リン系化合物(b)は、下記一般式(1):
【0060】
【化9】

【0061】
により表される化合物である。
【0062】
一般式(1)において、R1は、炭素数1〜4のアルキル基又は置換若しくは未置換のアラルキル基を表す。そして、炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が挙げられる。また、アラルキル基としては、例えば、ベンジル基、フェニルエチル基、メチルベンジル基、ナフチルメチル基が挙げられる。なお、アラルキル基は置換基を有していてもよく、かかる置換基としては、例えば、炭素数1〜4のアルキル基、フェニル基が挙げられる。
【0063】
このようなリン系化合物(b)としては、例えば、下記構造式(5)、(6)で表される化合物等が好適なものとして挙げられる。
【0064】
【化10】

【0065】
【化11】

【0066】
また、前記リン系化合物(b)は、下記一般式(2):
【0067】
【化12】

【0068】
により表される化合物である。
【0069】
一般式(2)において、Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は置換若しくは未置換のアラルキル基を表す。このような炭素数1〜4のアルキル基並びに置換若しくは未置換のアラルキル基としては、一般式(1)中のR1としての炭素数1〜4のアルキル基並びに置換若しくは未置換のアラルキル基と同様のものが挙げられる。
【0070】
このようなリン系化合物(b)としては、例えば、下記構造式(7)、(8)で表される化合物が好適なものとして挙げられる。
【0071】
【化13】

【0072】
【化14】

【0073】
これらのリン系化合物は、例えば、特公昭50−17979号公報、特開昭55−124792号公報、特公昭56−9178号公報等に開示されている製造方法によって製造することができる。
【0074】
また、前記リン系化合物(b)は、下記一般式(3):
【0075】
【化15】

【0076】
により表される化合物である。
【0077】
一般式(3)において、nは1以上の整数を表すが、好ましくは1〜14である。また、Xは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜4のアルコキシ基又は一般式(i):
【0078】
【化16】

【0079】
で示されるフェノキシ基である。そして、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が挙げられる。
【0080】
このようなリン系化合物(b)としては、例えば、アルコキシ基やフェノキシ基で置換された環状ホスファゼン化合物が好適なものとして挙げられる。
【0081】
また、前記リン系化合物(b)は、前記リン系化合物(b)の少なくとも一つのXとして下記一般式(ii):
【0082】
【化17】

【0083】
[式(ii)中、Aは−C(CH−、−SO−、−S−又は−O−を表す。]
で表される基のいずれか一方の結合手が結合しており、且つ、該基の他方の結合手が他の前記リン系化合物(b)のいずれか一つのXが脱離したリン原子に結合している、前記リン系化合物(b)の架橋体である。
【0084】
このようなリン系化合物(b)としては、例えば、アルコキシ基やフェノキシ基で置換された環状ホスファゼン化合物の2量体〜10量体が好適なものとして挙げられる。
【0085】
また、前記リン系化合物(b)は、下記一般式(4):
【0086】
【化18】

【0087】
により表される化合物である。
【0088】
一般式(4)において、mは0以上の整数を表すが、好ましくは0〜15である。また、Yは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜4のアルコキシ基又は一般式(iii):
【0089】
【化19】

【0090】
で示されるフェノキシ基である。そして、炭素数1〜4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基が挙げられる。
【0091】
このようなリン系化合物(b)としては、例えば、アルコキシ基やフェノキシ基で置換された線状ホスファゼン化合物が好適なものとして挙げられる。
【0092】
また、前記リン系化合物(b)は前記リン系化合物(b)の少なくとも一つのYとして下記一般式(iv):
【0093】
【化20】

【0094】
[式(iv)中、Bは−C(CH−、−SO−、−S−又は−O−を表す。]
で表される基の一方の結合手が結合しており、且つ、該基の他方の結合手が他の前記リン系化合物(b)のいずれか一つのYが脱離したリン原子に結合している、前記リン系化合物(b)の架橋体である。
【0095】
このようなリン系化合物(b)としては、例えば、アルコキシ基やフェノキシ基で置換された線状ホスファゼン化合物の2量体〜10量体が好適なものとして挙げられる。
【0096】
そして、リン系化合物(b)〜(b)のホスファゼン化合物の中でも、難燃性の耐久性能を考慮すると、環状ホスファゼン化合物が特に好ましく、例えば、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン、ヘキサメトキシシクロトリホスファゼン、テトラフェノキシジメトキシシクロトリホスファゼン等が挙げられる。これらのホスファゼン系化合物は、例えば、特開平10−298188公報に開示されているように、ジクロロシクロホスファゼンオリゴマーとフェノキシド類及び/又はアルコキシドとの反応により得られる。また、前記の環状ホスファゼン化合物の架橋体は、一部のフェノキシド類又はアルコキシドに代えて、ビスフェノールAやビスフェノールSのような芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩を使用することにより得られ、その架橋体は下記示性式(9):
[N=P(-O-C6H4-A-C6H4-O-)a(-O-X)b]n+2 ・・・(9)
[式(9)中、X及びnはそれぞれ前記一般式(3)中のX及びnと同義であり、Aは前記一般式(ii)中のAと同義であり、a及びbは、a>0、b>0であって2a+b=2の条件を満たす実数である。]
で表される。
【0097】
ここで、aは0.3以下であることが好ましく、aが0.3を超えると架橋体が前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー又は前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーの有機溶媒溶液に溶解しにくくなる傾向にある。なお、aの値は、前記芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩の使用量を調整することにより可能であるが、得られる架橋体は、環状ホスファゼン化合物である前記リン系化合物(b)と、2量体〜数量体の架橋体が混合したものであり、例えば、合成の際にフェノキシドとビスフェノールSのアルカリ金属塩をモル比8/1で用いた時の反応物である下記示性式(10):
[N=P(-O-C6H4-SO2-C6H4-O-)0.2(-O-C6H5)1.6]n+2 ・・・(10)
[式(10)中、nは前記一般式(3)中のnと同義である。]
で表されるスルホニルジフェノキシ基を結合手としたフェノキシシクロトリホスファゼンの架橋体についても、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン及び2量体〜数量体の架橋体の混合物であって、aの平均値が0.2である架橋体が挙げられる。
【0098】
また、直鎖状ホスファゼン化合物の架橋体も同様にして得ることができ、本発明においては、環状ホスファゼン化合物の架橋体、直鎖状ホスファゼン化合物の架橋体をそれぞれ単独で、又は両者を混合して用いてもよく、合成の際に副生してくる環状ホスファゼン化合物と直鎖状ホスファゼン化合物が架橋した架橋体であってもよい。これら環状ホスファゼン化合物の架橋体、直鎖状ホスファゼン化合物の架橋体の製造方法については、例えば、特開平11−181429号公報に開示されている。
【0099】
これらのリン系化合物は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。そしてこれらのリン系化合物は、最終的に得られるポリウレタン樹脂水分散液に含有されるポリウレタン樹脂100質量部に対して、1〜30質量部含有するのが好ましく、特に3〜15質量部含有ことが好ましい。含有量が1質量部未満であると、ポリウレタン樹脂への難燃性付与効果が弱くなる傾向にあり、含有量が30質量部を超えると乳化分散が困難になったり、製品の経時貯蔵安定性を落とす傾向にある。
【0100】
前記リン系化合物をイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー又はその中和物に混合するにあたっては、無溶媒でイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー又はその中和物を得た後に、前記リン系化合物を混合、溶解してもよいし、有機溶媒中でイソシアネート基末端ウレタンプレポリマー又はその中和物を得た後に、前記リン系化合物を混合、溶解してもよい。
【0101】
本発明の第一及び第二のポリウレタン樹脂水分散液は、前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー又はその中和物及び前記リン系化合物の混合溶液を水に乳化分散した後に、水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の前記鎖延長剤を添加して水中で鎖伸長反応せしめて水性ポリウレタン樹脂組成物を得る。
【0102】
前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー又はその中和物と前記リン系化合物との混合溶液を水に乳化分散する際には、必要に応じて乳化剤を用いてもよい。好適な乳化剤としては従来公知のものでよく、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル及びそれらの脂肪酸エステル又は芳香族カルボン酸エステル;ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー等のポリオキシアルキレングリコール類とそれらの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル等のポリオキシアルキレンエーテル誘導体とそれらの脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレングリコール類又はポリオキシアルキレンエーテル誘導体の硫酸エステル化物、芳香族スルホン酸類等のアニオン界面活性剤を使用することができる。
【0103】
本発明の第一及び第二のポリウレタン樹脂水分散液において、乳化分散の方法としては特に制限されず、前記イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー又はその中和物と前記リン系化合物との混合溶液に、必要に応じて前記乳化剤を混合し、ホモミキサーやホモジナイザー等を用いて水に乳化分散後、前記鎖延長剤を添加して鎖伸長する方法が好ましい。乳化分散は、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基と水との反応を極力抑えるため、室温から40℃の温度範囲で行うことが好ましく、さらには前述したリン酸、リン酸水素ナトリウム等の反応抑制剤を添加してもよい。
【0104】
本発明の第一及び第二のポリウレタン樹脂水分散液に用いる前記鎖延長剤である水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体としては、例えば、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジアミノシクロヘキシルメタン、ヒドラジン、ピペラジン、2−メチルピペラジン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジ第一級アミンとモノカルボン酸から誘導されるアミドアミン、ジ第一級アミンのモノケチミン、分子中に少なくとも2個のヒドラジノ基を有する炭素数2〜4の脂肪族の水溶性ジヒドラジン化合物である1,1’−エチレンジヒドラジン;1,1’−トリメチレンジヒドラジン、1,1’−(1,4−グチレン)ジヒドラジン、炭素数2〜10のジカルボン酸のジヒドラジド化合物であるシュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等を挙げることができる。これら鎖延長剤は、1種を単独で用いることができ、あるいは、2種以上を組み合わせて用いることもできる。イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと水溶性ポリアミン等の鎖延長剤との反応は、20〜50℃の反応温度で、通常イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーと水溶性ポリアミンとの混合後、30〜120分間で完結する。この時、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーの遊離イソシアネート基に対し、0.9〜1.1当量のアミノ基を含む量の鎖延長剤を用いることが好ましい。
【0105】
本発明の第一及び第二のポリウレタン樹脂水分散液において、イソシアネート基末端プレポリマーの製造の際に有機溶媒を用いた場合には、末端イソシアネート基を封鎖した後、例えば、減圧蒸留等により有機溶媒を除去することが望ましい。有機溶媒を除去する際には、乳化性を保持する目的で、高級脂肪酸塩、樹脂酸塩、長鎖脂肪アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、スルホン化ひまし油、スルホコハク酸エステル塩等のアニオン界面活性剤、エチレンオキサイドと長鎖脂肪アルコール又はフェノール類との反応生成物等のノニオン界面活性剤等を添加してもよい。
【0106】
次に、本発明のポリウレタン樹脂水分散液を用いた難燃性ポリエステル系繊維の製造方法について説明する。
【0107】
本発明の難燃性ポリエステル系繊維の製造方法は、前述の本発明のポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液をポリエステル系繊維に付与し、乾燥することを特徴とする方法である。ここで用いる処理液としては、本発明のポリウレタン樹脂水分散液をそのまま用いてもよいが、前記ポリウレタン樹脂水分散液を適宜希釈したものを処理液として用いることが好ましい。かかる処理液の濃度や前記ポリウレタン樹脂水分散液以外の成分は特に制限されないが、処理液中のポリウレタン樹脂の濃度としては1〜20質量%程度が好ましい。
【0108】
また、本発明の第一又は第二のポリウレタン樹脂水分散液を用いて処理されるポリエステル系繊維や処理の方法は特に制限されず、例えば、編織物、不織布等の各種ポリエステル系繊維素材に対し、前記ポリウレタン樹脂水分散液をそのまま又は希釈して、パディング法、コーティング法、スプレー法等の任意の方法で付与し、乾燥することによって難燃性ポリエステル系繊維を得ることが可能である、これにより、被処理布の難燃性を低下させることなく、引っ張り、引き裂き、摩耗等の各種強度を向上させることが可能となる。また、本発明の第一又は第二のポリウレタン樹脂水分散液をポリエステル系繊維素材に付与した後の乾燥温度に関しても特に制限はなく、室温で風乾してもよいし、加熱乾燥してもよい。通常は、処理効率の観点から、80〜200℃で30秒〜3分間程度の乾燥工程を行う。また、ポリエステル系繊維素材への処理に際しては、水系のポリイソシアネート系、カルボジイミド系、オキサゾリン系、エポキシ系の架橋剤を併用したり、難燃性の補助として任意の難燃剤を併用することも可能である。
【0109】
さらに、得られる難燃性ポリエステル系繊維に付与されているポリウレタン樹脂の量は、特に制限されないが、ポリウレタン樹脂の担持量はポリエステル系繊維100質量部に対して0.5〜10質量部程度が好ましい。また、得られる難燃性ポリエステル系繊維に付与されているリン系化合物の量も、特に制限されないが、本発明によれば従来よりも著しく少ない量の難燃成分(リン系化合物)の使用で充分な難燃性を付与することを可能になることから、リン系化合物の担持量はポリエステル系繊維100質量部に対して0.1〜2質量部程度が好ましい。
【実施例】
【0110】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0111】
(合成例1)
攪拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた四つ口フラスコに、3−メチル−1,5−ペンタンテレフタレートジオール(平均分子量2000)101.3g、ジメチロールブタン酸6.0g、1,4−ブタンジオール1.3g、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン60.0gを採り、均一混合後、イソホロンジイソシアネート31.3gを加え、80℃で180分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.1%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液に前記構造式(5)で表されるリン系化合物15.0gを均一混合後、トリエチルアミン4.1gで中和してから別容器に移し、30℃以下で水359gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。これにイソホロンジアミンの30質量%水溶液20.0gを添加後、90分間反応せしめた。次いで、得られたポリウレタン樹脂分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行うことにより、不揮発分33質量%(ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、構造式(5)で表される化合物の不揮発分3質量%)のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0112】
(合成例2)
前記構造式(5)で表されるリン系化合物15.0gの代わりに、前記構造式(6)で表されるリン系化合物15.0gを用いる以外は、合成例1と同様にして不揮発分33質量%のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0113】
(合成例3)
前記構造式(5)で表されるリン系化合物15.0gの代わりに、前記構造式(8)で表されるリン系化合物15.0gを用いる以外は、合成例1と同様にして不揮発分33質量%のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0114】
(合成例4)
前記構造式(5)で表されるリン系化合物15.0gの代わりに、テトラフェノキシジメトキシシクロトリホスファゼン15.0gを用いる以外は、合成例1と同様にして不揮発分33質量%のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0115】
(合成例5)
前記構造式(5)で表されるリン系化合物15.0gの代わりに、テトラフェノキシジメトキシホスファゼン15.0gを用いる以外は、合成例1と同様にして不揮発分33質量%のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0116】
(合成例6)
前記構造式(5)で表されるリン系化合物15.0gの代わりに、前記示性式(10)で表されるリン系化合物15.0gを用いる以外は、合成例1と同様にして不揮発分33質量%のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0117】
(合成例7)
合成例1で用いたものと同様な反応装置に、3−メチル−1,5−ペンタンテレフタレートジオール(平均分子量2000)52.3g、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量2000)52.3g、ジメチロールブタン酸5.8g、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン59.7gを採り、均一混合後、イソホロンジイソシアネート29.0gを加え、80℃で200分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.4%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液に前記構造式(6)で表されるリン系化合物15.0gを均一混合後、トリエチルアミン4.0gで中和してから別容器に移し、30℃以下で水357gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。これにイソホロンジアミンの30質量%水溶液22.3gを添加後、90分間反応せしめた。次いで、得られたポリウレタン樹脂分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行うことにより、不揮発分33質量%(ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、前記構造式(6)で表されるリン系化合物の不揮発分3質量%)のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0118】
(合成例8)
前記構造式(6)で表されるリン系化合物15.0gの代わりに、前記構造式(6)で表されるリン系化合物7.5g及びテトラフェノキシジメトキシシクロトリホスファゼン7.5gを用いる以外は、合成例7と同様にして不揮発分33質量%のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0119】
(合成例9)
前記構造式(6)で表されるリン系化合物15.0gの代わりに、前記構造式(6)で表されるリン系化合物7.5g及び前記示性式(10)で表されるリン系化合物7.5gを用いる以外は、合成例7と同様にして不揮発分33質量%のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0120】
(合成例10)
合成例1で用いたものと同様な反応装置に、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量2000)98.9g、ネオペンチルグリコール1.5g、ジメチロールブタン酸6.3g、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン61.5gを採り、均一混合後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート37.0gを加え、80℃で240分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.1%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液に前記構造式(6)で表されるリン系化合物15.0gを均一混合後、トリエチルアミン4.3gで中和してから別容器に移し、30℃以下で水365gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。これにエチレンジアミンの20質量%水溶液10.5gを添加後、90分間反応せしめた。次いで、得られたポリウレタン樹脂分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行うことにより、不揮発分33質量%(ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、構造式(6)で表される化合物の不揮発分3質量%)のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0121】
(合成例11)
合成例1で用いたものと同様な反応装置に、3−メチル−1,5−ペンタンイソフタレートジオール(平均分子量2000)56.1g、ポリテトラメチレングリコール(平均分子量2000)28.0g、ジメチロールブタン酸7.8g、1,4−ブタンジオール1.6g、トリメチロールプロパン0.9g、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン60.1gを採り、均一混合後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート45.9gを加え、80℃で220分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が3.1%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液に前記示性式(10)で表されるリン系化合物15.0gを均一混合後、トリエチルアミン5.2gで中和してから別容器に移し、30℃以下で水362gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。これにピペラジンの30質量%水溶液15.0gを添加後、90分間反応せしめた。次いで、得られたポリウレタン樹脂分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行うことにより、不揮発分33質量%(ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、前記示性式(10)で表されるリン系化合物の不揮発分3質量%)のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0122】
(合成例12)
合成例1で用いたものと同様な反応装置に、ポリヘキサメチレンイソフタレートアジペートジオール(平均分子量2000)106.3g、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン62.6gを採り、均一混合後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート39.8gを加え、80℃で200分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.6%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液に前記構造式(6)で表されるリン系化合物15.0gを均一混合後、トリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド20モルを付加した化合物6.0gを混合してから別容器に移し、30℃以下で水353gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。これにピペラジンの20質量%水溶液19.5gを添加後、90分間反応せしめた。次いで、得られたポリウレタン分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行うことにより、不揮発分33質量%(ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、前記構造式(6)で表されるリン系化合物の不揮発分3質量%)のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0123】
(合成例13)
合成例1で用いたものと同様な反応装置に、ポリヘキサメチレンイソフタレートアジペートジオール(平均分子量1000)75.2g、ポリテトラメチレグリコール(平均分子量2000)30.1g、1,4−ブタンジオール1.4g、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン62.6gを採り、均一混合後、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート39.4gを加え、80℃で190分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.6%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液に前記構造式(6)で表されるリン系化合物15.0gを均一混合後、トリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド20モルを付加した化合物6.0gを混合してから別容器に移し、30℃以下で水353gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。これにピペラジンの20質量%水溶液19.5gを添加後、90分間反応せしめた。次いで、得られたポリウレタン樹脂分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行うことにより、不揮発分33質量%(ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、前記構造式(6)で表されるリン系化合物の不揮発分3質量%)のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0124】
(合成例14)
合成例1で用いたものと同様な反応装置に、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール(平均分子量2000)107.3g、1,4−ブタンジオール2.2g、ジメチロールブタン酸2.4g、ジブチルチンジラウレート0.005g及びメチルエチルケトン59.3gを採り、均一混合後、イソホロンジイソシアネート29.8gを加え、80℃で200分間反応させ、不揮発分に対する遊離イソシアネート基含有量が2.4%のウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。この溶液に前記構造式(8)で表されるリン系化合物15.0gを均一混合後、トリエチルアミン1.6gで中和してから別容器に移し、トリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド15モルを付加した後スルホン化しアンモニウム塩とした化合物4.5gを加え、30℃以下で水353gを徐々に加えながら、ディスパー羽根を用いて乳化分散させた。これにイソホロンジアミンの30質量%水溶液22.5gを添加後、90分間反応せしめた。次いで、得られたポリウレタン樹脂分散液を減圧下に50℃で脱溶剤を行うことにより、不揮発分33質量%(ポリウレタン樹脂の不揮発分30質量%、構造式(8)で表される化合物の不揮発分3質量%)のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0125】
(比較合成例1)
前記構造式(5)で表されるリン系化合物15.0gを用いない以外は、合成例1と同様にして、不揮発分30質量%のポリウレタン樹脂水分散液を得た。
【0126】
(リン系化合物分散液A)
前記構造式(5)で表される化合物30gに、分散剤としてトリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド15モルを付加した後スルホン化しアンモニウム塩とした化合物1.5g、及び、水68.5gを加えた後、ガラスビーズ粉砕機を用いて18時間粉砕処理し、平均粒子径0.6μmの白色分散液を得た。
【0127】
(リン系化合物分散液B)
前記構造式(6)で表される化合物30gに、分散剤としてトリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド15モルを付加した後スルホン化しアンモニウム塩とした化合物1.5g、及び、水68.5gを加えた後、ガラスビーズ粉砕機を用いて18時間粉砕処理し、平均粒子径0.5μmの白色分散液を得た。
【0128】
(リン系化合物分散液C)
前記示性式(10)で表される化合物30gに、分散剤としてトリスチレン化フェノールにエチレンオキサイド15モルを付加した後スルホン化しアンモニウム塩とした化合物1.5g、及び、水68.5gを加えた後、ガラスビーズ粉砕機を用いて18時間粉砕処理し、平均粒子径0.9μmの白色分散液を得た。
【0129】
(供試布)
目付100g/mのポリエステルサテン織物を、浴比1:10、分散染料(C.I.Disperse Blue 60)2%owf、分散均染剤RM−EX(日華化学(株)製)0.5g/L、酢酸0.2cc/Lで、ミニカラー染色機(テクサム技研社製)を使用して、130分で30分間染色処理をした。その後、ソーピング剤サンモールRC−700E(日華化学(株)製)1g/L、ハイドロサルファイト2g/L、苛性ソーダ1g/Lを加えた水溶液中で、80℃で20分間還元洗浄し、湯洗、水洗の後、140℃で3分間乾燥させたものを供試布とした。
【0130】
(実施例1)
合成例1で得られたポリウレタン樹脂水分散液をポリウレタン樹脂が15質量%含まれるように希釈した処理液で、絞り率60%でパディング処理した後、140℃で3分間乾燥し、樹脂加工布を得た。
【0131】
(実施例2〜14)
実施例1の合成例1のポリウレタン樹脂水分散液を合成例2〜14のポリウレタン樹脂水分散液に代える以外は実施例1と同様に処理して、実施例2〜14の樹脂加工布を得た。
【0132】
(比較例1)
実施例1の合成例1のポリウレタン樹脂水分散液を比較合成例1のポリウレタン樹脂水分散液に代える以外は実施例1と同様に処理して、樹脂加工布を得た。
【0133】
(比較例2)
比較合成例1で得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いてポリウレタン樹脂が15質量%含まれ、かつ、リン系化合物分散液Aを用いてリン系化合物が1.5質量%含まれるように調整した処理液で、絞り率60%でパディング処理した後、140℃で3分間乾燥し、樹脂加工布を得た。
【0134】
(比較例3)
比較合成例1で得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いてポリウレタン樹脂が15質量%含まれ、かつ、リン系化合物分散液Bを用いてリン系化合物が1.5質量%含まれるように調整した処理液で、絞り率60%でパディング処理した後、140℃で3分間乾燥し、樹脂加工布を得た。
【0135】
(比較例4)
比較合成例1で得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いてポリウレタン樹脂が15質量%含まれ、かつ、リン系化合物分散液Cを用いてリン系化合物が1.5質量%含まれるように調整した処理液で、絞り率60%でパディング処理した後、140℃で3分間乾燥し、樹脂加工布を得た。
【0136】
(比較例5)
比較合成例1で得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いてポリウレタン樹脂が15質量%含まれ、かつ、リン系化合物分散液Bを用いてリン系化合物が7.5質量%含まれるように調整した処理液で、絞り率60%でパディング処理した後、140℃で3分間乾燥し、樹脂加工布を得た。
【0137】
(比較例6)
比較合成例1で得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いてポリウレタン樹脂が15質量%含まれ、かつ、リン系化合物分散液Bを用いてリン系化合物が15質量%含まれるように調整した処理液で、絞り率60%でパディング処理した後、140℃で3分間乾燥し、樹脂加工布を得た。
【0138】
(比較例7)
比較合成例1で得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いてポリウレタン樹脂が15質量%含まれ、かつ、リン系化合物分散液Cを用いてリン系化合物が7.5質量%含まれるように調整した処理液で、絞り率60%でパディング処理した後、140℃で3分間乾燥し、樹脂加工布を得た。
【0139】
(比較例8)
比較合成例1で得られたポリウレタン樹脂水分散液を用いてポリウレタン樹脂が15質量%含まれ、かつ、リン系化合物分散液Cを用いてリン系化合物が15質量%含まれるように調整した処理液で、絞り率60%でパディング処理した後、140℃で3分間乾燥し、樹脂加工布を得た。
【0140】
<難燃性及び摩擦堅牢度の評価>
得られた実施例1〜14、比較例1〜8の樹脂加工布の難燃性、摩擦堅牢度を、以下の方法で評価した結果を表1に示す。
【0141】
難燃性
(45度ミクロバーナー法)
JIS L 1091に記載されているA−1法に準じて難燃性を測定した。なお、残炎が3秒以内の場合を合格と判定した。
(45度コイル法)
JIS L 1091に記載されているD法に準じて難燃性を測定した。なお、接炎回数が3回以上の場合を合格と判定した。
【0142】
摩擦堅牢度
JIS L 0849に記載されている摩擦堅牢度の測定方法に準じて測定した。なお、評価は汚染用グレースケールで級数を判定した。
【0143】
【表1】

【0144】
上記の表1に記載した結果からも明らかなように、本発明のポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液で加工した樹脂加工布(実施例1〜14)は、充分な難燃性を付与でき、摩擦堅牢度の低下が非常に少なかった。一方、リン系化合物を含まないポリウレタン樹脂単独の分散液とリン系化合物分散液とを含有する従来の処理液で加工した樹脂加工布の場合(比較例2〜8)には、充分な難燃性を得るためには多量のリン系化合物を併用する必要があり、その結果として摩擦堅牢度の低下が見られるようになることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0145】
以上説明したように、本発明によれば、従来より著しく少量の非ハロゲン系の難燃剤で難燃性を付与することができ、廃棄焼却時に塩素ガス等のハロゲンガスの発生を抑えるという環境汚染対策上の効果を有すると共に、染色堅牢度を維持したまま難燃性の優れたポリエステル系繊維を提供することが可能となる。
【0146】
したがって、本発明のポリウレタン樹脂水分散液は、ポリエステル系繊維の難燃硬仕上げ加工剤、難燃コーティング加工剤等として有用である。また、本発明の難燃性ポリエステル系繊維の製造方法により得られたポリエステル系繊維は、カーシート、ロールスクリーン、フィルター濾財等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)有機ポリイソシアネート及び高分子ポリオールから得られたイソシアネート基末端プレポリマーと、(B)下記リン系化合物(b)〜(b)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物との混合物を水に乳化分散させて得られた分散液に、(C)水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖延長剤を添加して水中で鎖伸長反応せしめて得られたものであることを特徴とするポリウレタン樹脂水分散液。
<リン系化合物(b)>
下記一般式(1):
【化1】

[式(1)中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基又は置換若しくは未置換のアラルキル基を表す。]
により表される化合物。
<リン系化合物(b)>
下記一般式(2):
【化2】

[式(2)中、Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は置換若しくは未置換のアラルキル基を表す。]
により表される化合物。
<リン系化合物(b)>
下記一般式(3):
【化3】

[式(3)中、nは1以上の整数を表し、Xは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜4のアルコキシ基又は下記一般式(i):
【化4】

(式(i)中、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。)
で表されるフェノキシ基を表す。]
により表される化合物。
<リン系化合物(b)>
前記リン系化合物(b)の少なくとも一つのXとして下記一般式(ii):
【化5】

[式(ii)中、Aは−C(CH−、−SO−、−S−又は−O−を表す。]
で表される基のいずれか一方の結合手が結合しており、且つ、該基の他方の結合手が他の前記リン系化合物(b)のいずれか一つのXが脱離したリン原子に結合している、前記リン系化合物(b)の架橋体。
<リン系化合物(b)>
下記一般式(4):
【化6】

[式(4)中、mは0以上の整数を表し、Yは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜4のアルコキシ基又は下記一般式(iii):
【化7】

(式(iii)中、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。)
で表されるフェノキシ基を表す。]
により表される化合物。
<リン系化合物(b)>
前記リン系化合物(b)の少なくとも一つのYとして下記一般式(iv):
【化8】

[式(iv)中、Bは−C(CH−、−SO−、−S−又は−O−を表す。]
で表される基の一方の結合手が結合しており、且つ、該基の他方の結合手が他の前記リン系化合物(b)のいずれか一つのYが脱離したリン原子に結合している、前記リン系化合物(b)の架橋体。
【請求項2】
(A)有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールと分子中にアニオン性親水基及び少なくとも2個の活性水素を有する化合物及び/又は鎖伸長剤とから得られたイソシアネート基末端プレポリマーの中和物と、(B)下記リン系化合物(b)〜(b)からなる群から選択される少なくとも1種の化合物との混合物を水に乳化分散させて得られた分散液に、(C)水溶性ポリアミン、ヒドラジン及びそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の鎖延長剤を添加して水中で鎖伸長反応せしめて得られたものであることを特徴とするポリウレタン樹脂水分散液。
<リン系化合物(b)>
下記一般式(1):
【化9】

[式(1)中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基又は置換若しくは未置換のアラルキル基を表す。]
により表される化合物。
<リン系化合物(b)>
下記一般式(2):
【化10】

[式(2)中、Rは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は置換若しくは未置換のアラルキル基を表す。]
により表される化合物。
<リン系化合物(b)>
下記一般式(3):
【化11】

[式(3)中、nは1以上の整数を表し、Xは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜4のアルコキシ基又は下記一般式(i):
【化12】

(式(i)中、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。)
で表されるフェノキシ基を表す。]
により表される化合物。
<リン系化合物(b)>
前記リン系化合物(b)の少なくとも一つのXとして下記一般式(ii):
【化13】

[式(ii)中、Aは−C(CH−、−SO−、−S−又は−O−を表す。]
で表される基の一方の結合手が結合しており、且つ、該基の他方の結合手が他の前記リン系化合物(b)のいずれか一つのXが脱離したリン原子に結合している、前記リン系化合物(b)の架橋体。
<リン系化合物(b)>
下記一般式(4):
【化14】

[式(4)中、mは0以上の整数を表し、Yは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ炭素数1〜4のアルコキシ基又は下記一般式(iii):
【化15】

(式(iii)中、Rは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜3のアルコキシ基を表す。)
で表されるフェノキシ基を表す。]
により表される化合物。
<リン系化合物(b)>
前記リン系化合物(b)の少なくとも一つのYとして下記一般式(iv):
【化16】

[式(iv)中、Bは−C(CH−、−SO−、−S−又は−O−を表す。]
で表される基の一方の結合手が結合しており、且つ、該基の他方の結合手が他の前記リン系化合物(b)のいずれか一つのYが脱離したリン原子に結合している、前記リン系化合物(b)の架橋体。
【請求項3】
前記有機ポリイソシアネートが、脂肪族ジイソシアネート又は脂環式ジイソシアネートであることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリウレタン樹脂水分散液。
【請求項4】
前記高分子ポリオールが、平均分子量500〜4000のものであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のポリウレタン樹脂水分散液。
【請求項5】
前記アニオン性親水基が、カルボキシル基であることを特徴とする請求項2〜4のうちのいずれか一項に記載のポリウレタン樹脂水分散液。
【請求項6】
前記リン系化合物の含有量が、前記ポリウレタン樹脂水分散液中のポリウレタン樹脂100質量部に対して1〜30質量部であることを特徴とする請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のポリウレタン樹脂水分散液。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか一項に記載のポリウレタン樹脂水分散液を含有する処理液をポリエステル系繊維に付与し、乾燥することを特徴とする難燃性ポリエステル系繊維の製造方法。

【公開番号】特開2006−206839(P2006−206839A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24286(P2005−24286)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【Fターム(参考)】