説明

ポリエステルエラストマー樹脂組成物

【課題】低融点にも関わらず結晶性に優れ、かつ柔軟性、難燃性、熱安定性に優れ、各種部品やフィルム、繊維等の成形品に加工することが容易であり、各種の接着用途にも好適に使用することができるポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供する。
【解決手段】テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを主成分とするジオール成分からなり、有機リン化合物が共重合されたポリエステルをハードセグメント、平均分子量500〜5000のポリアルキレングリコールをソフトセグメントとしたポリエステルエラストマー樹脂組成物であって、ソフトセグメントの占める割合が5〜50質量%、融点が100〜150℃、リン原子の含有量が2000〜15000ppmであり、結晶核剤を0.01〜3.0質量%含有し、かつショア硬度が20〜60であるポリエステルエラストマー樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低融点にも関わらず結晶性が高く、柔軟性を有しており、かつ難燃性を有し、操業性や生産性にも優れるポリエステルエラストマー樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルエラストマーは、柔軟性、弾性回復性、強度、耐衝撃性等の優れた機械特性を有しているのに加えて熱可塑性を有しており、成形加工が容易に可能であることから、自動車部品、電気部品、成形品、フィルム及び繊維に幅広く用いられている。
【0003】
しかしながら、現在ポリエステルエラストマーとして一般的とされている、ハードセグメントにポリブチレンテレフタレートを用い、ソフトセグメントにポリ(アルキレンオキシド)グリコールのような脂肪族ポリエーテル単位及び/又はポリラクトンのような脂肪族ポリエステル単位を用いたポリエステルエラストマー(特許文献1)は、融点が低いタイプでも160℃と、成形材料として最も一般的であるポリエチレンの融点130℃より高いため、成形加工の際に過剰なエネルギーコストが必要となる。
【0004】
加えて、ソフトセグメントにポリ(アルキレンオキシド)グリコールのような脂肪族ポリエーテル単位及び/又はポリラクトンのような脂肪族ポリエステル単位を用いたポリエステルエラストマーは難燃性に乏しいことや、熱分解による粘度低下が激しいことも一般的であり、難燃性及び熱安定性の付与が課題の1つとなっている。
【0005】
また、ポリエステル系樹脂においては、低融点化したものの要求が高く、バインダー繊維や接着剤等に用いられている。このような用途には、一般に共重合ポリエステルが用いられており、例えば、特許文献2には好適なポリマーとして、130℃付近の低融点域の結晶融点を示し、寸法安定性に優れたバインダー繊維を可能とする共重合ポリエステルが提案されている。
【0006】
しかしながら、これらのポリマーは柔軟性に欠けるため、バインダー繊維や接着剤として用いた場合、接着点での強力が低く、接着強力に劣る場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平06−329888号公報
【特許文献2】特開2008−248218号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであって、低融点にも関わらず結晶性に優れ、かつ柔軟性、難燃性、熱安定性に優れ、各種部品やフィルム、繊維等の成形品に加工することが容易であり、各種の接着用途にも好適に使用することができるポリエステルエラストマー樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを主成分とするジオール成分からなり、有機リン化合物が共重合されたポリエステルをハードセグメント、平均分子量500〜5000のポリアルキレングリコールをソフトセグメントとしたポリエステルエラストマー樹脂組成物であって、ソフトセグメントの占める割合が5〜50質量%、融点が100〜150℃、リン原子の含有量が2000〜15000ppmであり、結晶核剤を0.01〜3.0質量%含有し、かつショア硬度が20〜60であることを特徴とするポリエステルエラストマー樹脂組成物を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、低融点にも関わらず結晶性に優れており、チップ化する際又はチップ化後のブロッキングの発生が少なく、操業性に優れている。さらに、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、柔軟性や難燃性にも優れており、シート、フィルム、各種部品や繊維に加工することが容易であり、様々な成形品を得ることが可能である。また、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は柔軟性を有しているため、バインダー繊維や接着剤として用いた場合、接着点での強力が高くなり、各種の接着用途に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明におけるポリエステルエラストマー樹脂組成物のDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、ポリエステルのハードセグメントとポリアルキレングリコールのソフトセグメントから構成されるものである。
【0013】
まず、ハードセグメントについて説明する。ハードセグメントのポリエステルは、ジカルボン酸成分がテレフタル酸を主成分とするものであり、ジオール成分が1,6−ヘキサンジオールを主成分とするものである。
【0014】
ジカルボン酸成分としては、テレフタル酸(TPA)が60モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。TPAが60モル%未満であると、ポリマーの融点が本発明の範囲外のものとなり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0015】
なお、TPA以外の共重合成分としては、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5−(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。ジカルボン酸以外の多価カルボン酸として、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0016】
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、ヒドロキシ酢酸、3−ヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
多価カルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、これらのアルキルエステル、酸クロライド、酸無水物などが挙げられる。
【0017】
ジオール成分としては、1,6−ヘキサンジオール(以下、HDとする)が60モル%以上、中でも80モル%以上であることが好ましい。HDが60モル%未満であると、ポリマーの融点が本発明の範囲外のものとなり、結晶性が低下しやすくなるため好ましくない。
【0018】
なお、ジオール成分には、HD以外の他の共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、エチレングリコール(以下、EGとする)、1,4−ブタンジオール(以下、BDとする)、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
【0019】
グリコール以外の多価アルコールとして、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
環状エステルとしては、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、β-メチル-β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0020】
そして、ハードセグメントのポリエステルには、有機リン化合物が共重合されている。有機リン化合物の共重合量は、ポリエステルエラストマー樹脂組成物中において、リン原子の含有量が2000〜15000ppmとなる量とすることが必要であり、中でもリン原子の含有量が4000〜10000ppmであることが好ましい。
【0021】
有機リン化合物の共重合量が、リン原子の含有量として2000ppm未満になると、十分な難燃性能が得られない。一方、15000ppmを超えると、結晶性が低下すると同時にポリエステルの重合性が悪くなるため、重合度を十分に上げることが困難となる。その結果、ポリエステルエラストマー樹脂組成物から得られる成形体の強度等が不足するので好ましくない。
【0022】
本発明において用いる有機リン化合物としては、中でも下記一般式〔1〕で表される有機リン化合物が好ましく、さらに具体的には下記式(a)〜(c)で示される有機リン化合物が好ましい。
【0023】
【化1】

【0024】
これらの中でも、有機リン化合物の安定性、リン原子含有率の高さ、製造工程での有機リン化合物の揮発、飛散の少なさ等を総合的に判断すると、上記の式(a)で示される化合物である、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシドのイタコン酸付加体 (以下、HCA-IAと略す。)が好ましい。その他にも、ホスホラン、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジフェニル、(2−カルボキシルエチル)メチルホスフィン酸、(2−カルボキシルエチル)フェニルホスフィン酸、(2−メトキシカルボキシルエチル)フェニルホスフィン酸メチル、(4−メトキシカルボニルフェニル)フェニルホスフィン酸メチル、〔2−(β−ヒドロキシエトキシカルボニル) エチル〕メチルホスフィン酸のエチレングリコールエステル等が挙げられる。
【0025】
上記のような有機リン化合物をポリエステルに共重合する方法としては、ポリエステルを製造する際に有機リン化合物をそのまま反応系に添加して反応させる方法が工業的に好ましいが、有機リン化合物をエチレングリコール、メタノール等と反応させてエステル体の形にしてから反応系に添加してもよい。
【0026】
次に、ソフトセグメントについて説明する。ソフトセグメントのポリアルキレングリコールは、分子量が 500〜5000、好ましくは1000〜3000のポリアルキレングリコールが用いられ、中でもポリテトラメチレングリコール(PTMG)やポリエチレングリコール(PEG)が好ましく用いられる。
【0027】
ポリアルキレングリコールの平均分子量が500未満であると、十分な弾性特性が得られず、得られるポリエステルエラストマー樹脂組成物はショア硬度が高く、柔軟性に乏しいものとなる。一方、5000を超えるものではハードセグメントを形成するポリエステルとの相溶性が悪くなり、均一な重合体が得られず、弾性特性も低下する。
【0028】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物において、ソフトセグメントの占める割合は、5〜50質量%であり、中でも10〜40質量%、さらには15〜35質量%であることが好ましい。ソフトセグメントの占める割合が5質量%未満であると、十分な接着性や弾性特性が得られず、ショア硬度も高いものとなる。一方、50質量%を超えると、一部のソフトセグメントがハードセグメントと共重合しきれずに分離したり、ポリマーの溶融粘度が低くなり、ポリマー払い出し工程やその後の加工工程の作業性に劣るものとなる。
【0029】
そして、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、ソフトセグメントとしてポリアルキレングリコールを使用したときに問題となる経時の熱安定性を向上させるために、ヒンダードフェノール系酸化防止剤やリン系酸化防止剤を含有することが好ましく、中でもヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有することが好ましい。これらの酸化防止剤のポリエステルエラストマー樹脂組成物の含有量は、0.05〜1.0質量%であることが好ましく、中でも0.07〜0.7質量であることが好ましい。これらの酸化防止剤の含有量が0.05質量%未満では、ポリエステルエラストマー樹脂組成物の熱安定性が向上せず、長期経過すると、極限粘度の低下や成形後の色調悪化が起こりやすくなる。一方、含有量が1.0質量%を超えると、重縮合反応速度の低下やポリエステルエラストマー樹脂組成物の色調・透明性が悪化しやすくなる。
【0030】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、n−オクタデシル−3−(3',5'−ジ−t−ブチル−4'−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4'−ブチリデンビス−(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9−ビス{2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1'−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が用いられるが、効果とコストの点で、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが好ましい。
【0031】
リン系酸化防止剤の例としては、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスルトール-ジホスファイト、ビス(3-メチル-1,5-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジフェニルホスファイトなどのホスファイト系抗酸化剤とジエチル〔〔3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル〕メチル〕ホスフォネート、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウムなどのホスホン酸エステル系酸化防止剤が挙げられる。
【0032】
そして、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物の融点は、100〜150℃であり、中でも110〜140℃であることが好ましく、さらには115〜135℃であることが好ましい。ポリエステルエラストマー樹脂組成物の融点が100℃未満であると、熱安定性が悪くなるため、操業性や生産性も低下する。一方、融点が150℃を超えると、成形加工時や接着用途に用いる際に高温での熱処理が必要となり、コスト的に不利となる。
【0033】
また、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、ショア硬度が20〜60であり、中でも30〜55であることが好ましい。ショア硬度が20より小さいと、得られる成形品や繊維の機械強度が低いものとなり、一方、60を超えると柔軟性に劣るものとなる。
本発明におけるショア硬度は、ASTM D−2240に従い、タイプDのデュロメータを使用して測定するものである。
【0034】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、上記のような組成であることにより、結晶性を有しているものであるが、結晶核剤を含有することによって降温時の結晶化速度を向上させることができ、そして、後述する(1)式を満足することが好ましいものである。
【0035】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、結晶核剤を0.01〜3.0質量%含有するものであり、中でも0.1〜1.0質量%含有することが好ましい。ポリエステルエラストマー樹脂組成物中の結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、降温時の結晶化速度を向上させることができず、ポリエステルエラストマー樹脂組成物は後述する(1)式を満足することが困難となる。一方、3.0質量%を超えると、結晶核剤の含有量が多くなりすぎ、重合性や加工性が悪化し、樹脂の製造および成形体にする際の操業性が悪化する。
【0036】
結晶核剤としては、無機系微粒子やポリオレフィンからなる有機化合物、硫酸塩等を使用することができ、中でもポリオレフィンからなる有機化合物が好ましい。無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m2/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。
【0037】
また、ポリオレフィンからなる有機化合物としては、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものが挙げられる。中でもワックス状のものが好ましい。
【0038】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。また、ポリオレフィンは、どのような製造方法、触媒で得られたものであってもよい、たとえば、従来のチーグラー・ナッタ型触媒により得られたポリオレフィンだけでなく、メタロセン触媒により得られたポリオレフィンも好適に使用できる。このようなポリオレフィンは、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0039】
結晶核剤として含有させる硫酸塩としては、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
【0040】
そして、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記(1)式を満足することが好ましく、中でもb/a≧0.04であることが好ましい。一方、b/aが大きいほど降温時の結晶性に優れるものとなるが、本発明で目的とする効果を奏するには、b/aを0.5以下とすることが好ましい。
b/a≧0.03 (mW/mg・℃) (1)
【0041】
本発明におけるポリエステルエラストマー樹脂組成物の融点とDSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線は、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲−20℃〜250℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量2mgで測定するものである。
【0042】
上記b/aは、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線より求められる。そして、図1に示すように、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【0043】
b/aは、降温時の結晶性を表す指標であり、b/aの値が高いと結晶化速度が速く、逆に0に近いほど、結晶化速度が遅いことを示している。b/aの値が0.03以上であると、樹脂組成物の結晶化速度が速くなるため、樹脂組成物をチップ化する際やチップ化後、貯蔵、運搬、乾燥工程等においてブロッキングが生じにくいものとなる。一方、b/aが0.03(mW/mg・℃)未満の場合、結晶化速度が遅くなるため、樹脂組成物をチップ化する際や、チップ化後、貯蔵、運搬、乾燥工程等においてブロッキングが生じやすくなる。
【0044】
上記b/aは、ポリエステルエラストマー樹脂組成物の共重合組成や結晶核剤の含有量を調節することにより、本発明で規定する範囲に設定することができる。
【0045】
また、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、極限粘度が0.5以上であることが好ましい。極限粘度が0.5未満のものでは、各種の物理的、機械的、化学的特性が劣るため好ましくない。一方、極限粘度が高すぎても溶融粘度が高くなるため、押出が困難になりやすく、実用上1.5以下であることが好ましい。
【0046】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物中には、目的を損なわない範囲内で、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、易染化剤などの各種添加剤を1種類または2種類以上添加してもよい。
【0047】
次に、本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物の製造方法について、一例を用いて説明する。本発明におけるポリエステルエラストマー樹脂組成物は、ジカルボン酸成分とジオール成分とポリアルキレングリコールとをエステル化反応またはエステル交換反応させ、重縮合反応を行うことにより本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物を製造することができる。
【0048】
具体的には、重縮合反応は通常 0.01〜10hPa程度の減圧下、220〜280℃の温度で所定の極限粘度のものが得られるまで行う。また、重縮合反応は、触媒存在下で行われるが、触媒としては従来一般に用いられているアンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マンガンおよびコバルト等の金属化合物のほか、スルホサリチル酸、o-スルホ安息香酸無水物等の有機スルホン酸化合物を用いることができる。
【0049】
有機リン化合物や結晶核剤、各種添加剤(本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる)は、粉体またはジオールスラリー等の形態で、ポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。
【0050】
そして、重縮合反応においてポリエステルが所定の極限粘度に到達したら、ストランド状に払い出して、冷却、カットすることによりチップ化する。
【0051】
本発明のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、射出成形、ブロー成形、押出成形等によりシート、フィルム、各種部品等に加工することが容易であり、また、溶融紡糸することにより繊維化し、バインダー繊維とすることも可能である。さらには、接着剤として各種の接着用途にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0052】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
(a)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
(b)融点、DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線
前記の方法により測定した。
(c)ポリマー組成
得られたポリエステルエラストマー樹脂組成物を重水素化ヘキサフルオロイソプロパノールと重水素化クロロホルムとの容量比1/20の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製LA-400型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
(d)ショア硬度
前記の方法により測定した。
(e)難燃性
得られたポリエステルエラストマー樹脂組成物の難燃性を、JIS K 7201に従って、LOI値(限界酸素指数)を測定し、23以上のものを合格(○)とし、23未満のものを不合格(×)とした。
(f)熱安定性
得られたポリエステルエラストマー樹脂組成物を窒素下で250℃、1時間処理し、処理前後の極限粘度差が0.05以内のものを合格(○)とし、0.05を超えるものを不合格(×)とした。
(g)操業性
〔チップ化〕
ポリエステルエラストマー樹脂組成物をAUTOMATIK社製USG-600型カッターでチップ化する際、フィードローラーまたはカッターブレードへのポリエステルの巻き付きやストランド間の融着により2つ以上のチップが融着したものの発生等により、カッターの運転を中断した場合を×、融着等の問題が生じ、時折中断するもののチップ化できた場合を△、融着等の問題は生じながらも、カッターの運転を中断することなくチップ化できた場合を○、融着による問題が生じることなくチップ化できた場合を◎とした。○、◎を合格とした。
〔チップのブロッキング〕
チップの貯蔵・運搬および乾燥工程で、崩れないブロック状の塊や壁面への融着物が生じた場合を×、ブロック状の塊や壁面への付着物があり、ハンマー等で直接衝撃を加えるなどある程度の力により解消される場合を△、ブロック状の塊や壁面への付着物があるものの、手で触れたり、ハンマー等により壁面へ衝撃を加えることによりそれらが解消される程度である場合を○、ブロック状の塊や壁面への融着が全く発生しなかった場合を◎とした。○と◎を合格とした。
【0053】
実施例1
エステル化反応缶に、TPAを22kg、HDを22kg、平均分子量1000のPTMGを15kg、有機リン化合物としてHCA−IAを63質量%含有するHD溶液を6kg、結晶核剤としてポリエチレンワックスを50g、触媒としてモノブチルスズヒドロキシオキサイドを10g供給し、温度250℃、常圧の条件で反応させ、透明化させたエステル化反応物を得た。この反応物を重縮合反応缶に移送し、重縮合触媒としてテトラブチルチタネートを4質量%含有するEG液1.1kgを重縮合反応缶に投入し、温度250℃にて反応器内の圧力を徐々に減じ、70分後に1.2hPa以下にした。この条件下で撹拌しながら重縮合反応を約8時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
【0054】
実施例2〜5、比較例1〜8
樹脂組成物中のPTMGの含有量、結晶核剤の含有量、有機リン化合物の含有量が表1に示す値となるように変更した以外は、実施例1と同様にして重縮合反応を行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
【0055】
実施例1〜5、比較例1〜8で得られた樹脂組成物の特性値及びチップ化時の操業性の評価結果を表1に示す。なお、比較例2、4〜6、8においてはチップ化できなかったが、ストランド状に払い出した際に得られたポリマー塊から粘度、融点、(1)式、ポリマー組成の測定を行った。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から明らかなように、実施例1〜5のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、融点が低く、柔軟性、難燃性に優れており、また(1)式が0.03以上であり、良好な結晶性能を有するものであった。また、チップ化工程での操業性も良好であった。
一方、比較例1の樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールの分子量が低かったため、比較例3の樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールの含有量が少なかったため、ともに硬度が高く、柔軟性に乏しいものであった。比較例2の樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールの分子量が高かったため、比較例4の樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールの含有量が多かったため、ともに相溶性が悪く、(1)式の値も低くなり、比較例4の樹脂組成物はさらに融点も低くなりすぎ、両者ともにチップ化工程での操業性に劣るものであり、チップ化できなかった。比較例5の樹脂組成物は、結晶核剤を有していなかったため、(1)式の値が低くなり、チップ化工程での操業性に劣るものであり、チップ化できなかった。比較例6の樹脂組成物は、結晶核剤の含有量が多すぎたため、重合性が悪く、チップ化工程での操業性に劣るものであり、チップ化できなかった。比較例7の樹脂組成物は、有機リン化合物の含有量が少なすぎたため、LOI値が23未満となり、難燃性に劣るものであった。比較例8の樹脂組成物は、有機リン化合物の含有量が多すぎたため、非晶性のポリエステル樹脂となり、融点、(1)式の値が測定できないものであり、チップ工程での操業性にも劣り、チップ化できなかった。
【0058】
実施例6
エステル化反応缶に、ヒンダードフェノール系酸化防止剤としてテトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン(チバスペシャリティーズ社製イルガノックス−1010)100gを供給した以外は、実施例1と同様にして重縮合反応を行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
【0059】
実施例7〜12、比較例9〜16
樹脂組成物中のPTMGの含有量、結晶核剤の含有量、有機リン化合物、酸化防止剤の含有量が表2に示す値となるように変更した以外は、実施例6と同様にして重縮合反応を行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
【0060】
実施例6〜12、比較例9〜16で得られた樹脂組成物の特性値及びチップ化時の操業性の評価結果を表2に示す。なお、比較例10、12〜14、16においてはチップ化できなかったが、ストランド状に払い出した際に得られたポリマー塊から粘度、融点、(1)式、ポリマー組成の測定を行った。
【0061】
【表2】

【0062】
表2から明らかなように、実施例6〜12のポリエステルエラストマー樹脂組成物は、融点が低く、柔軟性、難燃性に優れており、かつ、酸化防止剤を適量含有しているため、熱安定性にも優れるものであった。また(1)式が0.03以上であり、良好な結晶性能を有し、チップ化工程での操業性も良好であった。
一方、比較例9の樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールの分子量が低かったため、比較例11の樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールの含有量が少なかったため、ともに硬度が高く、柔軟性に乏しいものであった。比較例10の樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールの分子量が高かったため、比較例12の樹脂組成物は、ポリアルキレングリコールの含有量が多かったため、ともに相溶性が悪く、(1)式の値も低くなり、比較例12の樹脂組成物はさらに融点も低くなりすぎ、両者ともにチップ化工程での操業性に劣るものであり、チップ化できなかった。比較例13の樹脂組成物は、結晶核剤を有していなかったため、(1)式の値が低くなり、チップ化工程での操業性に劣るものであり、チップ化できなかった。比較例14の樹脂組成物は、結晶核剤の含有量が多すぎたため、重合性が悪く、チップ化工程での操業性に劣るものであり、チップ化できなかった。比較例15の樹脂組成物は、有機リン化合物の含有量が少なすぎたため、LOI値が23未満となり、難燃性に劣るものであった。比較例16の樹脂組成物は、有機リン化合物の含有量が多すぎたため、非晶性のポリエステル樹脂となり、融点、(1)式の値が測定できず、チップ化工程での操業性にも劣り、チップ化できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、1,6−ヘキサンジオールを主成分とするジオール成分からなり、有機リン化合物が共重合されたポリエステルをハードセグメント、平均分子量500〜5000のポリアルキレングリコールをソフトセグメントとしたポリエステルエラストマー樹脂組成物であって、ソフトセグメントの占める割合が5〜50質量%、融点が100〜150℃、リン原子の含有量が2000〜15000ppmであり、結晶核剤を0.01〜3.0質量%含有し、かつショア硬度が20〜60であることを特徴とするポリエステルエラストマー樹脂組成物。
【請求項2】
DSCより求めた降温結晶化を示すDSC曲線が下記式(1)を満足する請求項1記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。
b/a≧0.03 (mW/mg・℃) ・・・ (1)
なお、aは、降温結晶化を示すDSC曲線における傾きが最大である接線とベースラインとの交点の温度A1(℃)と、傾きが最小である接線とベースラインとの交点の温度A2(℃)との差(A1−A2)であり、bは、ピークトップ温度におけるベースラインの熱量B1(mW)とピークトップの熱量B2(mW)との差(B1−B2)を試料量(mg)で割った値である。
【請求項3】
樹脂組成物中にヒンダードフェノール系酸化防止剤を0.1〜2.0質量%含有する請求項1又は2記載のポリエステルエラストマー樹脂組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−231178(P2011−231178A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100946(P2010−100946)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000228073)日本エステル株式会社 (273)
【Fターム(参考)】