説明

ポリエステルジオールとポリ(プロピレンオキシド)ジオールとの混合物を使用して調製される熱可塑性ポリウレタン

本発明は、ポリエステルジオールおよびプロピレンオキシドの二官能性ホモポリマーを含むジオール混合物から調製される低ヘイズ熱可塑性ポリウレタン(TPU)エラストマーである。本発明のTPUエラストマーは、射出成形プロセスにおいて迅速に凝固し、従って、サイクル時間および製造コストを低下させる。別の実施形態において、本発明は、TPUエラストマーであり、これは、(1)20〜80重量%の少なくとも1種の高当量ポリ(カプロラクトン)ジオールと、80〜20重量%の少なくとも1種の高当量ポリ(プロピレンオキシド)ジオールとを含む混合物、(2)1,4−ブタンジオールもしくは少なくとも1種の他の鎖伸長剤とのその混合物、および(3)少なくとも1種のジイソシアネートのポリマーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2008年3月29日に出願された、米国仮特許出願第60/920,628号からの利益を主張する。
【0002】
本発明は、熱可塑性ポリウレタンに関する。
【0003】
熱可塑性ポリウレタン(「TPU」)エラストマーは、種々の適用(例えば、ギア、ベアリング、精密機械用の継手、電子機器様の部品、競技用シューズおよびスキーブーツのソール、内袋(bladder)およびアッパー、自動車部品、シール、ガスケット、ならびに油圧作動油系(hydraulic fluid system)のパッケージング、ならびに他の適用において使用される。TPUエラストマーは、代表的には、1種以上のジイソシアネート化合物、1種以上の高当量ジオールおよび1種以上の鎖伸長剤の反応生成物である。
【0004】
多くの適用について、選択された高当量ジオールは、ポリエステルジオール(例えば、アジペートポリエステルもしくはポリカプロラクトン)である。上記ポリエステルジオールは、上記TPUエラストマーに特定の望ましい機械的特性を付与する。ポリエステルジオールはまた、耐摩耗性に寄与し、この耐摩耗性によって、上記TPUエラストマーが、この耐摩耗性が重要な特性であるフットウェア適用などにおいて有用になる。しかし、サイクル時間は、ときおり、軟らかいから中程度の硬さの(Aスケールで60からDスケールで約75のショアー硬度)ポリエステルベースのTPUエラストマーが溶融処理される場合、望まれる時間よりも長い。サイクル時間がより長くなると、製造設備の生産性が低下し、その点では、コストが増大する。
【0005】
いくつかの場合においては、ポリエステルポリオールと、種々のタイプのポリエーテルポリオールとの混合物は、TPUエラストマーを作製するために使用されてきた。従って、例えば、特許文献1は、ポリエステルジオールと最大14モル%のポリエーテルジオールとの混合物を使用することを記載する。種々のタイプのポリエーテルジオールが記載されており、ポリ(テトラメチレンオキシド)タイプが最も好ましいと言われている。特許文献2は、ポリエステルジオールと、25〜60重量%のポリマー化エチレンオキシドを含むプロピレンオキシド−エチレンオキシドコポリマーとの混合物を記載する。TPUエラストマーを作製することにおける使用のための他のタイプのポリオール混合物は、例えば、特許文献3(ポリ(テトラメチレンオキシド)と、ポリ(プロピレンオキシド)もしくはポリ(エチレンオキシド))および特許文献4(ポリカーボネートジオールとポリ(テトラメチレンオキシド)ジオールとの混合物)が記載される。
【0006】
経済的で、良好な物理的特性、特に、良好な耐摩耗性を示し、短いサイクル時間で溶融処理され得るTPUエラストマーを提供することが望ましい。上記TPUエラストマーの硬さは、適切には、ショアー Aデュロメーター硬度60からショアー Dデュロメーター硬度75の間である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,980,445号明細書
【特許文献2】米国特許第4,124,572号明細書
【特許文献3】米国特許第5,648,447号明細書
【特許文献4】米国特許第5,013,811号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、熱可塑性ポリウレタン(TPU)エラストマーであり、これは、(1)少なくとも1種の高当量ポリエステルジオールと少なくとも1種のプロピレンオキシドの二官能性の高当量ホモポリマーとの混合物、(2)少なくとも1種の鎖伸長剤、および(3)少なくとも1種のジイソシアネートのポリマーである。
【0009】
別の実施形態において、本発明は、TPUエラストマーであり、これは、(1)20〜80重量%の少なくとも1種の高当量ポリ(カプロラクトン)ジオールと、80〜20重量%の少なくとも1種の高当量ポリ(プロピレンオキシド)ジオールとを含む混合物、(2)1,4−ブタンジオールもしくは少なくとも1種の他の鎖伸長剤とのその混合物、および(3)少なくとも1種のジイソシアネートのポリマーである。
【0010】
本発明はまた、熱可塑性ポリウレタンの溶融物を形成する工程、上記溶融物を型へと射出する工程、上記熱可塑性ポリウレタンを上記型内で凝固させて、成形部分を形成する工程、および上記成形部分を離型する工程を包含するプロセスであり、ここで上記熱可塑性ポリウレタンは、先の2つの段落のいずれかに記載されるような熱可塑性ポリウレタンである。
【0011】
本発明のTPUエラストマーは、良好な物理的特性を示し、DIN 53516−10N/40mもしくはASTM D1044 H−22に従って測定される場合、特に、良好な耐摩耗性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書で使用される場合、用語「熱可塑性ポリウレタン」もしくは省略表現として意図される「TPU」は、ウレタン基(ヒドロキシル含有化合物とイソシアネート含有化合物との反応において形成される場合)を有する物質、ならびにウレタン基およびウレア基の両方を有する物質(イソシアネート含有化合物と、ヒドロキシル含有化合物および一級アミノ基もしくは二級アミノ基を含む化合物の両方との反応において形成される場合)を含む。
【0013】
本発明のTPUエラストマーは、少なくとも2種の高当量二官能性化合物の混合物を使用して調製される。本発明において、上記高当量二官能性化合物は、少なくとも1種のポリエステルジオールおよび少なくとも1種のプロピレンオキシドの二官能性ホモポリマーを含む。上記ポリエステルジオールもしくはジオールは、上記高当量二官能性化合物の重量で、20〜80%、好ましくは、40〜80%を構成する。上記二官能性プロピレンオキシドホモポリマーは、上記高当量二官能性化合物の重量で、80〜20%、好ましくは、60〜20%を構成する。
【0014】
本発明の目的で、「高当量二官能性化合物」は、名目上は、1分子あたり2.0 イソシアネート反応性基およびイソシアネート反応性基1つあたり少なくとも300の当量を有する物質である。上記イソシアネート反応性基は、例えば、ヒドロキシル、一級アミノ、二級アミノもしくはチオール基であり得る。上記高当量イソシアネート反応性基は、好ましくは、脂肪族ヒドロキシル基である。上記ヒドロキシル当量は、好ましくは、500〜2000およびより好ましくは、700〜1200である。
【0015】
適切なポリエステルジオールとしては、脂肪族ポリエステルおよび芳香族ポリエステルが挙げられる。脂肪族ポリエステルとしては、1種以上の環状ラクトン(例えば、カプロラクトン)のポリマーおよびコポリマー;ヒドロキシルアルカン酸(例えば、乳酸、3−ヒドロキシプロピオン酸(proprionic acid)もしくはグリコール酸(またはその環状二無水物ダイマー(例えば、ラクチドもしくはグリコリド)))のポリマーおよびコポリマー;ならびに1種以上のグリコールと1種以上の脂肪族ジカルボン酸との反応生成物に対応するA−Bタイプのポリエステルが挙げられる。芳香族ポリエステルは、一般に、少なくとも1種のグリコールと、少なくとも1種の芳香族カルボン酸との反応生成物に対応するA−Bタイプポリエステルである。「少なくとも1種のグリコールと少なくとも1種の(脂肪族もしくは脂肪族(aliphatic or aliphatic))ジカルボン酸との反応生成物に対応する」とは、上記ポリエステルが、各グリコールの構造(各ヒドロキシル水素の除去後)に対応する反複単位および上記ジカルボン酸の構造(各カルボン酸基からの−OH基の除去後)に対応する反復単位を含むことを意味する。この用語は、上記ポリエステルを、いずれか特定の方法において作製されたものに限定することを意図しない。以下に議論されるように、種々の合成スキームは、A−Bタイプポリエステルを作製するために使用され得る。「グリコール」とは、正確に2つのヒドロキシル基/分子および最大300の分子量、好ましくは、最大200の分子量、およびより好ましくは、最大100の分子量を有する化合物を意味する。A−Bタイプポリエステルは、少量の枝分かれ因子(branching agent)(代表的には、3個以上のヒドロキシル基/分子を有するポリオール)と作製され得るが、このような枝分かれ因子は、小さな比で使用されるべきである。
【0016】
有用な脂肪族A−Bタイプポリエステルの例としては、グリコール(例えば、1,4−ブタンジオール、ヒドロキノンビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2−メチル−2−エチル−1,3 プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、チオジグリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−ジメチル−1,2−シクロペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−ジメチル−1,2−シクロヘキサンジオールなどと、ジカルボン酸(例えば、アジピン酸、コハク酸、グルタル酸、アゼライン酸、セバシン酸、マロン酸、マレイン酸もしくはフマル酸)との反応生成物に対応するものが挙げられる。これら脂肪族A−Bタイプポリエステルのうち、アジピン酸に基づくもの(例えば、ポリ(プロピレンアジペート)、ポリ(ブチレンアジペート)およびポリ(エチレンアジペート))は、特に好ましい。適切な市販のグレードのアジペートポリエステルとしては、商品名Fomrez 44−56およびFomrez 44−57の下でCrompton Chemicalsによって販売されるものが挙げられる。
【0017】
有用な芳香族A−Bタイプポリエステルの例としては、グリコール(例えば、1,4−ブタンジオール、ヒドロキノンビス(2−ヒドロキシエチル)エーテル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、2−メチル−2−エチル−1,3 プロパンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、チオジグリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,2−ジメチル−1,2−シクロペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−ジメチル−1,2−シクロヘキサンジオールなどと、芳香族ジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸およびクロレンド酸(chlorendic acid))との反応生成物に対応するものが挙げられる。イソフタル酸もしくはテレフタル酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコールおよび1,4−ブタンジオールとのポリマーは、好ましいタイプのA−B芳香族ポリエステルである。
【0018】
種々の反応スキームは、A−Bタイプポリエステルを形成するために使用され得る。上記に記載される1種以上の二酸は、上記に記載される1種以上のグリコールと直接反応して、上記ポリエステルを形成し得る。あるいは、上記のジカルボン酸の無水物、ジアルキルエステル、および酸ハライドが、ジカルボン酸自体の代わりに、またはそれに加えて、重合反応において原材料として使用され得る。いくつかの場合において、上記グリコールおよび上記ジカルボン酸(もしくは対応するジアルキルエステルもしくは無水物)の環状オリゴマーを形成し、そして上記環状オリゴマーを重合して、上記ポリエステルを形成することもまた、考えられる。環状オリゴマーが、低分子量ポリマーを上記ポリオールおよびジカルボン酸(もしくは対応するジアルキルエステルもしくは無水物)から形成し、そして上記低分子量ポリマーを脱重合して、上記環状オリゴマーを形成することによって調製され得る。上記環状オリゴマーは、1つのポリオール分子および1つのジカルボン酸分子のものに対応する環化反応(cyclic reaction)生成物であり得るか、または高程度の重合を有し得る。
【0019】
特に好ましいポリエステルは、ポリカプロラクトンである。ポリカプロラクトンは、容易に商業的に入手可能である。
【0020】
上記プロピレンオキシドのホモポリマーは、プロピレンオキシドを二官能性開始剤化合物に付加することによって、都合良く調製される。上記開始剤化合物は、ポリ(エチレングリコール)でもポリ(エチレンオキシド)でもないべきであるが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、最大約400の分子量のポリ(プロピレンオキシド)ジオールなどであり得る。
【0021】
いくつかの市販の、プロピレンオキシドのポリマーは、特定の量の一官能性不純物を含む傾向があり、よって、2.0よりいくらか小さい(例えば、1.6〜1.99である)実際のヒドロキシル官能基を有する傾向がある。これら市販のポリ(プロピレンオキシド)は、本明細書における使用に適しており、それらの2.0の名目上(nominal)官能基に基づいて、本発明の目的に関して二官能性であるとみなされる。このような場合において、上記二官能性プロピレンオキシドホモポリマーと、より高い名目上官能基を有する別の高当量プロピレンオキシドホモポリマー(特に、3.0の名目上官能基を有するもの)とを混合することはまた、本発明の範囲内である。望ましい場合、上記二官能性およびより高い官能性ポリ(プロピレンオキシド)の相対的割合は、上記混合物の平均実際官能基が2.0に近い(例えば、1.9〜2.2もしくは1.9〜2.05)ように、選択され得る。
【0022】
同様に、低レベルの一官能性不純物を有する1種以上のプロピレンオキシドホモポリマーを使用することは、本発明の範囲内である。上記一官能性不純物は、通常、不飽和末端基を有する。従って、ポリ(プロピレンオキシド)中の一官能性不純物の上記レベルは、その末端不飽和の量に関して表され得る。望ましい場合、上記プロピレンオキシドホモポリマーは、1gにつきわずか0.02ミリ当量(meq:millequivalent)の末端不飽和を有し得る。1gあたりの末端不飽和の量は、わずか0.01もしくは0.002〜0.008meq/gであり得る。このような低レベルの不飽和を有するプロピレンオキシドホモポリマーは、種々の周知の二金属シアニド触媒(DMC)複合体を使用して調製し得る。
【0023】
本発明において使用される鎖伸長剤は、2つのイソシアネート基/分子を有しかつ最大約400の分子量および好ましくは最大約250の分子量を有する1種以上の物質である。ジアミンおよびジオール鎖伸長剤(特に、ジオール鎖伸長剤)が好ましい。上記鎖伸長剤は、環式物質もしくは非環式物質であり得る。環式鎖伸長剤は、芳香族であってもよいし、芳香族でなくてもよい。適切な鎖伸長剤の例としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,5−ヘプタンジオール、エチレンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジン、アミノエチルピペラジン、メチレンビス(アニリン)、ジエチルトルエンジアミン、ヒドロキノンビス(2−ヒドロキシエチルエーテル)、エトキシル化ビスフェノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。1,3−シクロヘキサンジメタノールおよび1,4−シクロヘキサンジメタノールの各々は、シス異性体、トランス異性体、もしくはシス異性体およびトランス異性体両方の混合物として存在し得る。シクロヘキサンジメタノール混合物は、cis−1,3−シクロヘキサンジメタノール、trans−1,4−シクロヘキサンジメタノール、cis−1,4−シクロヘキサンジメタノールおよびtrans−1,4−シクロヘキサンジメタノールの4種すべてを含み得る。ここで上記1,3−異性体は、上記混合物の40〜60重量%を構成し、上記1,4−異性体は、上記混合物の約60〜40重量%を構成する。
【0024】
上記鎖伸長剤のうちの2種以上の混合物が、使用され得る。少なくとも50モル% 1,4−ブタンジオールを含む1,4−ブタンジオールおよび鎖伸長剤の混合物は、これらの中でも、最も好ましい。
【0025】
本発明に従ってTPUエラストマーを調製することにおいて使用するために適したジイソシアネートは、当該分野で周知であり、芳香族、脂肪族、および脂環式のジイソシアネートならびにこれらの組み合わせが挙げられる。これらジイソシアネートの代表例は、米国特許第4,385,133号、同第4,522,975号、および同第5,167,899号(これらの教示は、本明細書に参考として援用される)において見いだされ得る。好ましいジイソシアネートとしては、4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン(4,4’−MDI)、2,4’−ジイソシアナトジフェニルメタン(2,4’−MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、1,3−ビス(イソシアナトメチル)−シクロヘキサン、1,4−ジイソシアナト−シクロヘキサン、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニルジイソシアネート、4,4’−ジイソシアナト−ジシクロヘキシルメタン、2,6−トルエンジイソシアネートおよび2,4−トルエンジイソシアネートが挙げられる。より好ましいのは、4,4’−ジイソシアナト−ジシクロヘキシルメタンおよび4,4’−ジイソシアナトジフェニルメタンである。最も好ましいのは、4,4’−MDIである。
【0026】
前述の物質に加えて、少量の架橋剤が、上記TPUエラストマーを作製することにおいて使用され得る。これら物質は、初期の重合もしくはその後の溶融プロセス操作の間にゲルの形成を生じない量で使用され得る。架橋剤は、1分子につき3個以上のイソシアネート反応性基および1イソシアネート反応性基につき300未満の当量、好ましくは、200未満、および特に、30〜150の当量を有する物質である。架橋剤の例としては、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、テトラエチレントリアミン、ソルビトール、グルコース、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、上記のうちのいずれかのアルコキシル化誘導体などが挙げられる。
【0027】
さらに、3個以上のイソシアネート反応性基を有する少量の1種以上の高当量物質は、上記TPUエラストマーを作製するために使用され得る。先に議論されるように、これらは、いくつかの実施形態において、いくつかのポリ(プロピレンオキシド)ジオール中に存在する一官能性不純物を補うために、付加され得る。これらはまた、上記溶融TPUエラストマーもしくは上記処理に関連する他の目的のためにレオロジー特性を改変するために使用され得る。これら物質は、初期の重合もしくはその後の溶融プロセス操作の間にゲルの形成を生じない量で使用され得る。これら物質を省くことが好ましい。
【0028】
前述の成分の比は、熱可塑性かつエラストマー性であるポリマーを形成するために、いっしょに選択される。軟らかいから中程度の硬さのエラストマーが好ましい。TPUエラストマーは、それらのショアーデュロメーター硬度によって特徴づけられ得る。上記TPUエラストマーは、適切には、少なくとも60のショアー Aデュロメーター硬度を有する。上記TPUエラストマーは、最大75またはより高いショアー Dデュロメーター硬度を有し得る。上記TPUエラストマーのショアー Aデュロメーター硬度は、いくつかの適用に関して、好ましくは、少なくとも75およびより好ましくは、少なくとも80である。いくつかの適用に関して、上記ショアー Aデュロメーター硬度は、100より大きくないのが好ましく、95より大きくないことがより好ましい。
【0029】
上記TPUエラストマーの硬度は、通常、その「硬セグメント」含有量に関連する。「硬セグメント」含有量とは、重合化イソシアネート、鎖伸長剤および存在し得る任意の架橋剤から作製される上記TPUエラストマーの割合をいう。上記TPUエラストマーは、一般に、上記硬セグメント含有量が上記TPUエラストマーの総重量(上記ポリウレタンポリマーの一部を形成しない添加剤は数えない)の約20〜約80%である場合に、先に記載されるショアー A硬度を有する。すなわち、
【0030】
【数1】

ここでWCEは、すべての鎖伸長剤の合わせた重量であり、Wは、すべてのイソシアネート化合物の合わせた量であり、WXLは、すべての架橋剤(あるとすれば)の合わせた重量であり、WHEWは、すべての高(≧300)当量イソシアネート反応性物質の合わせた重量である。好ましくは、上記硬セグメント含有量は、30〜70重量%である。特に好ましい硬セグメントは、35〜55重量%である。本発明の利点は、良好な視覚的透明性が、いくらか高い硬セグメント含有量(例えば、35重量%を超える)を有するエラストマーにおいてすら得られ得ることである。
【0031】
軟セグメント含有量は、上記TPUエラストマーを作製するために使用される高当量イソシアネート反応性物質の割合に対応し、100%から上記硬セグメント含有量を差し引いたものに等しい。従って、上記軟セグメント含有量は、一般に、20〜80重量%、好ましくは、30〜70重量%およびより好ましくは、45〜65重量%である。
【0032】
上記イソシアネート指数は、上記TPUエラストマーを作製するために使用される反応性混合物中のイソシアネート反応性基1当量あたりのイソシアネート基の当量の比である。このイソシアネート指数は、好ましくは、0.95〜1.20である。最大約1.08(約1.08を含む)がより好ましく、最大約1.05(約1.05を含む)がさらにより好ましく、そして最大約1.01(約1.01を含む)がなおより好ましい。
【0033】
本発明のTPUエラストマーは、好都合には、上記高当量二官能性ポリエステルポリオール、上記プロピレンオキシドの高当量ホモポリマー、上記鎖伸長剤、および上記ジイソシアネート(および必要に応じて、前述に記載されるような反応性成分)を含む反応混合物を形成し、上記混合物を、これが反応して、高当量熱可塑性ポリマーを形成するような条件に供することによって、調製される。このような出発物質の反応のための条件は周知であり、例えば、米国特許第3,214,411号、同第4,371,684号、同第4,980,445号、同第5,013,811号、同第5,648,447号、同第6,521,164号および同第7,045,650号に記載される。上記反応条件は、上記重合反応を駆動するために熱への適用を包含し、重合触媒の存在を包含し得る。上記物質は、これらをいっしょにして、反応させて、上記TPUエラストマーを形成する前に、別個に加熱され得る。上記出発物質は、好ましくは、水の実質的な非存在下で反応させられる。なぜなら、水は、上記ジイソシアネートと反応して、ポリウレア連結を形成し、二酸化炭素を発生させる。
【0034】
望ましい場合、上記重合は、上記ジイソシアネートと、上記鎖伸長剤混合物もしくは上記高当量二官能性化合物のすべてもしくは一部とを最初に反応させて、プレポリマーを形成することによる段階で、行われ得る。上記プレポリマーは、次いで、上記イソシアネート反応性物質の残りと反応させられ、上記プレポリマーを促進し、上記TPUエラストマーを形成させる。
【0035】
上記重合は、好ましくは、反応性押し出しプロセスにおいて行われる。このようなプロセスにおいて、上記出発物質は、押し出しデバイス(例えば、シングルスクリュー押し出し機もしくはツインスクリュー押し出し機)へと充填され、上記押し出しデバイスは、上記重合温度へと加熱される。上記出発物質は、上記装置へと充填する前に、上記重合温度へと予め加熱され得る。上記反応混合物は、次いで、上記重合が行われる加熱ゾーンを通過する。次いで、上記溶融ポリマーは、ダイを通して押し出される。大部分の場合において、上記溶融ポリマーは、その後の溶融処理操作において使用するために、フレークもしくはペレットへと冷却および形成されるが、上記重合反応と組み合わせて、上記溶融処理操作を行うことが可能である。
【0036】
必要に応じて、種々のタイプの成分が、上記重合反応の間に存在し得、そして/または上記TPUエラストマーに組み込まれ得る。
【0037】
1種以上の抗酸化剤を上記TPUエラストマーに組み込むことは、通常好ましい。これらは、上記重合反応の間に添加され得るか、または上記予め形成されたポリマーへとブレンドされ得る。適切な抗酸化剤としては、フェノールタイプ、有機ホスファイト、ホスフィンおよびホスホナイト(phosphonite)、ヒンダードアミン、有機アミン、有機イオウ化合物、ラクトンおよびヒドロキシルアミン化合物が挙げられる。透明性が要求される適用のために、上記抗酸化剤は、好ましくは、上記TPUエラストマーにおいて可溶性であるか、または非常に細かい小滴もしくは粒子として上記エラストマー中に分散可能である。多くの適切な抗酸化物質が市販されている。これらとしては、IrganoxTM 1010、IrganoxTM MD1024、IrgaphosTM168、IrgphosTM126(すべて、Ciba Specialtiesなどから市販されている)が挙げられる。
【0038】
UV安定化剤は、特に、透明性が要求されるか、またはその一部が日光もしくは他の紫外線源に曝される適用において、別の好ましい添加剤である。UV安定化剤としては、置換されたベンゾフェノン、ベンゾトリアゾールおよびベンゾオキサジノン、置換されたトリアジン、ヒンダードアミン、ならびにジフェニルアクリレートタイプが挙げられる。これら物質は、とりわけ、Cytek Industries、Ciba GiegyおよびBASFから市販されている。
【0039】
1種以上の重合触媒は、上記重合反応の間に存在し得る。ポリイソシアネートと、ポリオールおよびポリアミン化合物との反応の触媒は、周知であり、三級アミン、三級ホスフィン、種々の金属キレート、酸性金属塩、強塩基、種々の金属アルコール化合物、およびフェノレートならびに有機酸の金属塩が挙げられる。最も重要な触媒は、三級アミンおよび有機スズ触媒である。このような触媒を省くことは、少なくとも2つの理由から、しばしば好ましい。第1に、触媒は、しばしば、上記TPUエラストマーが溶融処理されているときに脱重合反応を触媒する傾向があり、このことは、上記ポリマーの分解および特性の喪失をもたらす。第2に、触媒残渣は、上記TPUエラストマーに望ましくない色を付与し得る。
【0040】
充填剤および補強剤(reinforcing agent)は、上記TPUエラストマーに組み込まれ得るが、これらは、好ましくは、透明部分が望ましいときに省かれ得る。充填剤は、広範な範囲の粒状物質(タルク、マイカ、モンモリロナイト、大理石、花崗岩、すりつぶした硝子、炭酸カルシウム、アルミニウム三水和物、炭素、アラミド、二酸化ケイ素、シリカ−アルミナ、二酸化ジルコニウム、タルク、ベントナイト、三酸化アンチモン、カオリン、石炭ベースのフライアッシュ(coal−based fly ash)、窒化ホウ素ならびに種々の再生されかつ再研削された(reclaimed and reground)熱硬化性ポリウレタンおよび/もしくはポリウレアポリマーが挙げられる)を含む。補強剤は、高アスペクト比の物質(例えば、小板(platelet)および線維)を含み、これら物質は、硝子、炭素、アラミド、種々の他のポリマーなどのものであり得る。
【0041】
他の選択肢的添加剤としては、滑り添加剤(slip additive)、離型剤(mold release agent)、可塑剤、レオロジー改変剤、着色剤、殺生物剤などが挙げられる。
【0042】
本発明のTPUエラストマーは、広い範囲の適用において有用である。本発明のTPUエラストマーは、成形物品(例えば、コーティング、フィルム、シーラント、ギア、ベアリング、精密機械用の継手、電子機器用の部品、競技用シューズおよびスキーブーツのためのソール、内袋、およびアッパー、自動車部品、シール、ガスケット、ならびに油圧作動油系のパッケージング、ホースジャケット(hose jacketing)、チュービング、キャスターホイール(castor wheel)、病院用ガウンのためのバリア層として、ならびに多くの他の適用部品を形成するために多くの方法で溶融処理され得る。
【0043】
上記溶融処理工程は、上記重合プロセス全体の一部として行われ得る。このような場合において、上記重合した反応混合物は、その凝固温度未満に冷却されることなく、下流操作に移され、この下流操作において、上記混合物は、望ましい製品に形成される。上記下流操作は、例えば、押し出し工程、溶融キャスト工程、打ち出し工程(stamping step)、射出成形工程、もしくは他のタイプの成形操作であり得る。
【0044】
しかし、上記重合したTPUエラストマーを冷却して、固体粒子を形成し、上記溶融処理工程を別個に行うことは、より代表的である。
【0045】
本発明の利点は、特定の溶融処理操作において、低下したサイクル時間が、上記ポリエステルジオールのみを使用するTPUエラストマーで認められるものと比較して達成され得ることである。このことは、より速い相分離、続いて、冷却されることから、上記TPUの結晶化に起因すると考えられる。このことは、上記溶融TPUをより迅速に凝固させる。成形プロセスにおいて、より速い凝固とは、上記部品が長時間上記型中に存在する必要はないことを意味する。必要とされる型内滞在時間がより短くなると、上記成形プロセスのサイクル時間全体が減少し得る。
【0046】
以下の実施例は、例示目的のためのみであって、本発明の範囲を限定することを意図しない。すべての部およびパーセンテージは、別段記載されなければ、重量による。
【実施例】
【0047】
(実施例1および比較サンプルA)
TPUエラストマー実施例1および比較サンプルAを、表1に記載される処方から調製する。その成分を乾燥させ、ツインスクリュー押し出し機の供給のど部に直接射出され、220℃までの温度で完全に反応させる。上記押し出し物をダイに通過させ、その後、水に沈めて切断して、ペレットを形成する。上記水を、スピンドライヤーを使用して、上記ペレットから除去する。次いで、上記ペレットを、80℃の乾燥剤乾燥器に移し、乾燥させた。TPUエラストマー実施例1を、226℃、210℃、210℃、201℃および193℃に加熱されたゾーンを有する押し出し機中で溶融し、3.125mm厚×125.7cm幅×125.7cm長である小板型に射出する。射出圧は1034psi(約7.1MPa)であり、保持圧は、800psi(約5.5MPa)である。上記型は、38℃で維持され、その入り口末端(gate end)近くに圧力変換器を備えている。上記圧力変換器は、上記エラストマー組成物が射出されかつ凝固するときに発揮される圧力を測定する。凝固は、上記部品のわずかな収縮を生じ、このことは、上記変換器によって調べられた圧力低下によって実証される。上記圧力低下が上記変換器によって調べられるまで、上記TPUエラストマーを射出した後の秒単位の時間が、TPUエラストマー実施例1が凝固し、離型する準備ができるために必要とされる時間の代表として理解される。結果は、表1に示されるとおりである。
【0048】
TPUエラストマー比較サンプルAのペレットを重合化し、調製し、押し出し機ゾーン温度が218℃、196℃、193℃、188℃および182℃であることを除いて、同じ様式で成形する。上記射出圧を再現し、実施例1において使用される圧力を保持しようとして、低温が使用される。実際の射出圧は、1080psi(約7.4MPa)であり、保持圧は、750psi(約5.2MPa)である。第2の成形は、TPUエラストマー実施例1を成形するために使用される同じ押し出し機温度で行う。結果は、以下の表1に示されるとおりである。
【0049】
【表1】

2000の分子量のポリカプロラクトンジオール。2000の分子量を有する名目上二官能性ポリ(プロピレンオキシド)ホモポリマー。滑り剤、1種以上の抗酸化剤および1種以上のUV安定化剤の混合物。実施例1において使用される場合とほぼ等しい成形圧において16秒、実施例1において使用されるものと等しい加熱条件で14秒。
【0050】
表1の結果は、上記ポリ(プロピレンオキシド) ホモポリマーの存在が、上記射出成形部分のより速い凝固を生じ、このことによって、上記射出成形プロセスのより短いサイクル時間が直接的にもたらされることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)少なくとも1種の高当量ポリエステルジオールと、少なくとも1種のプロピレンオキシドの二官能性高当量ホモポリマーとの混合物、(2)少なくとも1種の鎖伸長剤および(3)少なくとも1種のジイソシアネートのポリマーである、熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項2】
前記ポリエステルジオールおよび前記プロピレンオキシドの二官能性高当量ホモポリマーは各々、約500〜2000の当量を有する、請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項3】
前記ポリエステルジオールは、脂肪族ポリエステルジオールである、請求項2に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項4】
前記鎖伸長剤のうちの少なくとも50重量%は1,4−ブタンジオールである、請求項3に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項5】
前記ジイソシアネートは4,4’−MDIである、請求項4に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項6】
少なくとも60のショアー Aデュロメーター硬度かつ最大75のショアー Dデュロメーター硬度を有する、請求項5に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項7】
35〜55重量%の硬セグメント含有量を有する、請求項6に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項8】
前記ポリエステルジオールおよび前記プロピレンオキシドの二官能性高当量ホモポリマーは、各々、約700〜1200の当量を有する、請求項7に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項9】
前記ポリエステルジオールはポリカプロラクトンである、請求項8に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項10】
射出成形された物品の形態で存在する、請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項11】
射出成形された物品の形態で存在する、請求項4に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項12】
射出成形された物品の形態で存在する、請求項9に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項13】
(1)20〜80重量%の少なくとも1種の高当量ポリ(カプロラクトン)ジオールと、80〜20重量%の少なくとも1種のプロピレンオキシドの二官能性高当量ホモポリマーとの混合物、(2)1,4−ブタンジオールもしくは少なくとも1種の他の鎖伸長剤混合物と1,4−ブタンジオールとの混合物、および(3)少なくとも1種のジイソシアネートのポリマーである、熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項14】
少なくとも60のショアー Aデュロメーター硬度かつ最大75のショアー Dデュロメーター硬度を有する、請求項13に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項15】
射出成形された物品の形態で存在する、請求項14に記載の熱可塑性ポリウレタンエラストマー。
【請求項16】
熱可塑性ポリウレタンの溶融物を形成する工程、該溶融物を型に射出する工程、該熱可塑性ポリウレタンを該型内で凝固させて、成形部分を形成する工程、および該成形部分を離型する工程、を包含し、ここで該熱可塑性ポリウレタンは、請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタンである、プロセス。
【請求項17】
熱可塑性ポリウレタンの溶融物を形成する工程、該溶融物を型に射出する工程、該熱可塑性ポリウレタンを該型内で凝固させて、成形部分を形成する工程、および該成形部分を離型する工程、を包含し、ここで該熱可塑性ポリウレタンは、請求項13に記載の熱可塑性ポリウレタンである、プロセス。

【公表番号】特表2010−522811(P2010−522811A)
【公表日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−501118(P2010−501118)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際出願番号】PCT/US2008/057773
【国際公開番号】WO2008/121579
【国際公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(506347528)ルブリゾル アドバンスド マテリアルズ, インコーポレイテッド (74)
【Fターム(参考)】