説明

ポリエステルフィルム

【課題】安価で簡便なレーザー光照射によってカラーチェンジすることが可能であり、インクジェット法における環境に対する負荷や、コストアップなどの問題が生じることがなく、生活用品や電子部品におけるドライな方法による装飾技術やレーザー光感光マーカーとしての用途への適用も可能であるポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】極限粘度の維持率が95%以上のポリエステルフィルムであり、当該ポリエステルフィルム中にレーザーマーキング顔料を0.015〜1重量%含有することを特徴とするポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光照射によってカラ−チェンジ(着色)するポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂への意匠性を加える方法は、レーザー感光顔料を含む樹脂へのレーザー光照射が1つ挙げられる。我々が目的とするポリエステルの世界においても、この方法はいくつか報告されている。レーザー光について敏感な顔料をポリエステルフィルムに含有させたならば、安価で、環境調和型のドライな方法による意匠性の付与ができると期待される。
【0003】
しかし、ポリエステルフィルムの製造過程の押出工程において、300℃近くの熱がかかることから、カラーチェンジ性能を出すためにレーザーマーキング顔料を多量に配合した時に、レーザーマーキング顔料が熱分解を起こしてしまう可能性が高い。そのため、フィルム外観を損ねる、そして、生産性を著しく低下させるというような問題が起こり、レーザーマーキング顔料を含有させることが難しい。
【0004】
従来の報告では、共重合レジンによる融点降下などによるケアが必要であったが、この方法では、製膜過程など生産性の問題や、コスト面で不利となる問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−55110号公報
【特許文献2】特開2008−80805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであって、その解決課題は、ポリエステルフィルムの製造工程で熱安定的なレーザーマーキング顔料を選択し、含有させることで綺麗な外観を有するポリエステルフィルムを作製し、さらには、レーザー光照射により高感度にカラーチェンジを引き起こすことができるポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成を有するポリエステルフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、極限粘度の維持率が95%以上のポリエステルフィルムであり、当該ポリエステルフィルム中にレーザーマーキング顔料を0.015〜1重量%含有することを特徴とするポリエステルフィルムに存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のレーザー光照射によりカラーチェンジ性能を有するポリエステルフィルムによれば、レーザーマーキング顔料を適量範囲内で表層でも中間層でもどちらに練り込んでも透明性が高いカラーチェンジ性能を有するポリエステルフィルムを提供することができる。本発明のポリエステルフィルムは、生産工程における何らかの目印として利用できる。また、ドライな方法で、ポリエステルフィルムへの意匠性を加えることができるため、レーザー感光着色技術を用いた環境調和型の美しい生活用品への応用が期待でき、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明におけるポリエステルフィルムを構成する、ポリエステルフィルムは単層構成であっても多層構成であってもよく、2層、3層構成以外にも本発明の要旨を越えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
【0011】
本発明におけるポリエステルフィルムにおいて使用するポリエステルは、生産コストの削減や工程作業容易化を追及した結果、ホモポリエステルであることが好ましい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。
【0012】
本発明におけるポリエステルフィルムの中には、易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として、粒子を配合することが好ましい。配合する粒子の種類は、易滑性付与可能な粒子であれば特に限定されるものではなく、具体例としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化チタン等の粒子が挙げられる。また、特公昭59−5216号公報、特開昭59−217755号公報等に記載されているような耐熱性有機粒子を用いてもよい。この他の耐熱性有機粒子の例として、熱硬化性尿素樹脂、熱硬化性フェノール樹脂、熱硬化性エポキシ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。さらに、ポリエステル製造工程中、触媒等の金属化合物の一部を沈殿、微分散させた析出粒子を用いることもできる。
【0013】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0014】
また、用いる粒子の平均粒径は、通常0.01〜3μm、好ましくは0.1〜2μmの範囲である。平均粒径が0.01μm未満の場合には、易滑性を十分に付与できない場合がある。一方、3μmを超える場合には、フィルムの製膜時に、その粒子の凝集物のために透明性が低下することがある他に、破断などを起こし易くなり、生産性の面で問題になることがある。
【0015】
さらに本発明におけるポリエステルフィルム中の粒子含有量は、通常0.001〜5重量%、好ましくは0.005〜3重量%の範囲である。粒子含有量が0.001重量%未満の場合には、フィルムの易滑性が不十分な場合があり、一方、5重量%を超えて添加する場合には、フィルムの透明性が不十分な場合がある。
【0016】
本発明におけるポリエステルフィルム中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化もしくはエステル交換反応終了後、添加するのが良い。
【0017】
また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0018】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には、上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0019】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常10〜350μm、好ましくは50〜250μmの範囲である。
【0020】
次に本発明におけるポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。すなわち、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高めることが好ましく、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する方向に延伸するが、その場合、延伸温度は通常70〜170℃であり、延伸倍率は通常3〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0021】
また、本発明のポリエステルフィルム製造に関しては、同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法であり、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、170〜250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来公知の延伸方式を採用することができる。
【0022】
本発明において使用するレーザーマーキング顔料について利用可能なものとしては、以下のような化合物が挙げられる。
【0023】
レーザーマーキング顔料の具体例としては、金属酸化物では、銅化合物、モリブデン化合物、鉄化合物、ニッケル化合物、クロム化合物、ジルコニウム化合物およびアンチモン化合物から選ばれる1種以上であることが好ましく、ジルコニウム化合物およびアンチモン化合物から選ばれる1種以上であることがさらに好ましい。これらを用いる時には、さらに補助的に、無機金属化合物である酸化チタン、硫化亜鉛、酸化亜鉛、沈降性硫酸バリウム、炭酸バリウムおよび沈降性炭酸カルシウムや染料であるカーボンブラック、グラファイトおよびブラックレーキ、ロイコ染料を用途や使用環境に応じて選択して併用することが望ましい。
【0024】
上記レーザーマーキング顔料では、ポリエステルフィルムへ少量配合することでカラーチェンジ性能が付与できる。しかし、用途によっては、よりコントラスト比を大きくするなどの高いカラーチェンジ性能要求が出てくることがある。その時、レーザーマーキング顔料を多量に配合すると、フィルムの押出工程で熱分解を引き起こしやすい。つまり、上記金属酸化物では、熱安定性から配合量の範囲が小さく限られてしまう傾向がある。
【0025】
そこで、本発明において、ポリエステルフィルム作製時に、より好ましいレーザーマーキング顔料として用いたカーボンブラックについて説明する。
【0026】
一般にポリエステル樹脂からなる基材に対するカーボンブラックによる着色性、特に黒着色における漆黒度と、カーボンブラック配合樹脂に対するレーザーマーキング性とは、配合するカーボンブラックの平均粒子径、すなわち、カーボンブラック粒子単独の大きさである粒子径と粒子が凝集した大きさであるストラクチャー、そして、DBP吸油量、すなわち、カーボンブラックの配合量に依存する。なお、本発明でのレーザーマーキング性とは、上記ポリエステル樹脂を含有するポリエステルフィルムが、レーザー光を照射することで、照射部分のみ部分的に着色、すなわちマーキングされる性質のことを言う。また、本発明での黒着色における漆黒度とは、レーザー照射後の着色の黒さを示す値のことをいう。これは、スガ試験機株式会社製カラーコンピューターSM−4型で測定したL値が例えば、17.5以下となるものが、本発明に用いられるレーザーマーキング用樹脂組成物として好ましいとされる(特開平11−140284)。
【0027】
一方、着色性、特に漆黒度とレーザーマーキング性とは、カーボンブラックの添加量によって相反する傾向が強く、良好な着色性と優れたレーザーマーキング性を並立させるためのカーボンブラックの選択は極めて困難なものであった。本発明においては、上記のような困難な課題を解決し、相反すると思われていた2つの性能を同時に満足させるため、平均粒子径とストラクチャーを高度に制御したカーボンブラック、即ち平均粒子径が20nm以下であり、かつDBP吸油量が35〜130ml/100gであるカーボンブラックを選択的に使用する。
【0028】
平均粒子径が20nmより大きい場合、あるいはDBP吸油量が130ml/100gより大きいか又は35ml/100gより小さい場合、着色により多くのカーボンブラックの配合が必要となり、さらに鮮明な白系のマーキングが得られないという問題がある。また、平均粒子径は小さくなる程、カーボンブラックを樹脂に配合した際の分散性は劣るものとなる。従って、着色性、レーザーマーキング性及びカーボンブラックの分散性等を考慮すると、カーボンブラックの平均粒子径は20nm以下が好ましく、より好ましくは10〜18nm、更に好ましくは12〜16nmである。また、DBP吸油量は35〜130ml/100g、より好ましくは50〜115ml/100gである。
【0029】
レーザーマーキング顔料の本発明におけるポリエステルフィルム中の含有量は、0.015〜1重量%の範囲である。含有量が0.015重量%未満では、フィルムの変色効果(カラーチェンジング)が劣る。一方、1重量%を超えて含有する場合、フィルム中での劣化物により、不具合が生じる。
【0030】
本発明における、カラ−チェンジ(着色)とは、フィルム外観における色の変化である。詳しくは、輝度測定におけるコントラスト比で表現することができ、具体的には、レーザー照射部分と未照射部分の比から求められる相対輝度が102〜300の値、好ましくは150〜250の値、さらに好ましくは180〜220の値である。また、L*a*b*色差評価から求められるΔEによっても、着色を表現することができ、ΔE値が0.5〜10、好ましくは2〜7、さらに好ましくは4〜6の値の値である。
【0031】
本発明におけるレーザー照射で不可逆的にカラ−チェンジを引き起こすレーザーマーキング顔料のポリエステルへの含有方法としては、例えば練り込み方法と塗布方法が挙げられる。本発明では、着色効率を考慮して、練り込み方法を採用したが、そのポリエステルへの練り込みについて説明する。それらの化合物は、工程での汚染や熱安定性を考慮したとき、直接添加よりは、バインダーとなる樹脂に練り込んだマスターバッチとして用いる方が好ましい。本発明では、レーザーマーキング顔料をポリエステルフィルムへと5%練り込んだマスターバッチを利用した。
【0032】
本発明におけるレーザー照射によりカラーチェンジ性能を有するポリエステルフィルムについて、レーザーマーキング顔料の練り込みの層構成について説明する。レーザーマーキング顔料はホモポリエステルフィルムの表層、もしくは中間層どちらへの練り込みでも構わない。フィルム全体として、前記の含有量となるように表層あるいは中間層の含有量を調整すればよい。
【0033】
本発明を実施するにあたっては、レーザー光源およびその照射方法等には特に限定はなく、公知の各種Nd:YAGレーザー、COレーザー、各種エキシマレーザー等が使用できる。それらの中でも、Nd:YAGレーザーを用いたマーキングにおいて、その効果は顕著となる。
【0034】
本発明における、極限粘度の維持率とは、得られた加熱処理前の本発明の方法で得られたレーザーマーキング顔料を含有するポリエステルフィルムとそのポリエステルフィルムを窒素雰囲気下、280℃、20分加熱処理を行ったポリエステルの極限粘度の値の比較である。この値が90〜100%の値、好ましくは93〜99%の値、さらに好ましくは95〜98%の値である。この極限粘度の維持率が上記値を満たすものは、熱安定で、レーザーマーキング顔料の分解などによるポリエステルフィルムの外観の悪化が起こり難い。また、熱安定が故に、生産工程におけるリサイクル原料としても利用できる。極限粘度の維持率は、加熱処理時間、加熱処理温度、顔料含有量を調整することにより調節することが可能である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明におけるポリエステルフィルムに関しての測定法および評価方法は次のとおりである。
【0036】
(1)本発明におけるポリエステルフィルムの透過率測定
透明性の基準として、目視による透明性の評価と透過率測定が挙げられる。次のような基準で判断する。
・目視に関して
○:ほぼ透明である
△:透明であるが、少し着色している
×:着色(カーボンブラックは白色、CuO・xMoOは黄色)が強く、曇っている
・透過率測定に関して
JIS − K7105に準じ、日本電色工業社製積分球式濁度計NDH−300Aによりフィルムの全光線透過率を測定した。一般的なポリエステルフィルムの透過率に対して、0.5〜1%の範囲内の透過率の低下を◎、1〜2%の範囲内の透過率の低下を○、2〜4%の範囲内の透過率の低下を△、4%を超える透過率の低下を×として評価した。
【0037】
(2)レーザー照射後の本発明におけるポリエステルフィルムの評価
レーザーマーキング条件としては、以下のとおりである。
レーザーマーキング装置:キーエンス(株)製レーザーマーカー MD−V9900
レーザーの種類:YVOレーザー(波長1064nm)
照射方式:XYZ3軸同時スキャニング方式(CW(連続発振)、Qスイッチ周波数1〜400kHz)
マーキング部のパワー:13W
スキャンスピード:1500mm/s
【0038】
・ポリエステルフィルムのレーザー照射後の着色強度のコントラスト評価
輝度計を用いて、レーザー照射前のフィルムの非着色部分とレーザー照射後の着色部分のコントラスト比の評価を行った。具体的には、電通産業製フラットイルミネーター:HF−SL−A48LCFにサンプルを置き、さらに、コニカミノルタセンシング社製:CS−200を用い、測定視野角1°、サンプルと輝度計との距離を500mmとし、輝度値(cd/m)を測定した。なお、相対輝度(%)を下記式より求めた。
【0039】
相対輝度=(レーザー未照射部分の測定値)÷(レーザー照射部分の測定値)×100 得られた相対輝度の値から下記基準で評価した。
○:200を超える(強い着色)
△:102〜200(着色している)
×:102未満(ほとんど着色していない)
【0040】
・ポリエステルフィルムのレーザー照射後の着色強度のL*a*b*色差評価
得られたレーザー照射後のポリエステルフィルムについて、色差計を用いて、レーザー照射前のフィルムの非着色部分とレーザー照射後の着色部分のL*a*b*色差の評価を行った。具体的には、JIS Z 8729に従い、コニカミノルタ製色彩色差計CR−410(サンプル径50mm)を用いて、レーザー照射部分と非照射部分のL*a*b*色差値を測定した。このとき、光源はC/D65で、背面を白色とし、反射法にて測定を行った。測定回数は3回行い、平均値を採用した。その後、ΔL*(照射部分のL*値−非照射部分L*値)、Δa*(照射部分のa*値−非照射部分a*値)、Δb*(照射部分のb*値−非照射部分b*値)をそれぞれ求め、ΔE値を算出し、評価した。
なお、ΔE値を下記式より求めた。
ΔE={(ΔL*)+(Δa*)+(Δb*)1/2
得られたΔEの値から下記基準で評価した。
○:6.0を超える(強い着色)
△:0.5〜6.0(着色している)
×:0.5未満(ほとんど着色していない)
【0041】
・ポリエステルフィルムのレーザー照射後の着色強度の目視評価
レーザー照射後のポリエステルフィルムについて、目視による強度の判断を下記基準にしたがって行った。
○:強い着色
△:着色している
×:着色していない
【0042】
(3)本発明におけるポリエステルフィルムの極限粘度評価
極限粘度 〔η〕
ポリエステルフィルム1gをフェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100ml中に溶解し、30℃で測定した。
このとき、測定に用いたポリエステルフィルムは、本発明の方法で作製したもので、何も処理をしていないものと、エスペックのイナートオーブン(型番:IPHH−200)で窒素雰囲気下、280℃、20分加熱処理したものである。これらについて、上記の方法で極限粘度測定を行った。極限粘度維持率の求め方は以下の通りである。
【0043】
加熱処理前のポリエステルフィルムの極限粘度:η
加熱処理後のポリエステルフィルムの極限粘度:η
極限粘度の維持率(%)=(η/η)×100
得られた極限粘度の維持率の値から下記基準で評価した。
○:95%を超える
△:90〜95%
×:90%未満
【0044】
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
<ポリエステル(A)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒としてテトラブトキシチタネートを加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた後、4時間重縮合反応を行った。
すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、極限粘度0.63のポリエステル(A)を得た。
【0045】
<ポリエステル(B)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし、触媒として酢酸マグネシウム・四水塩を加えて反応器にとり、反応開始温度を150℃とし、メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ、3時間後に230℃とした。4時間後、実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物を重縮合槽に移し、正リン酸を添加した後、二酸化ゲルマニウム加えて、4時間重縮合反応を行った。すなわち、温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方、圧力は常圧より徐々に減じ、最終的には0.3mmHgとした。反応開始後、反応槽の攪拌動力の変化により、極限粘度0.65に相当する時点で反応を停止し、窒素加圧下ポリマーを吐出させ、極限粘度0.65のポリエステル(B)を得た。
【0046】
<ポリエステル(C)の製造方法>
ポリエステル(A)の製造方法において、エチレングリコールに分散させた平均粒子径2.0μmのシリカ粒子を0.2部を加えて、極限粘度0.66に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は、ポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いて、極限粘度0.66のポリエステル(C)を得た。
【0047】
実施例1:
表層の原料として、ポリエステル(A)、(B)、(C)をそれぞれ85%、5%、10%の割合で混合した混合原料を用いて、
中間層の原料として、ポリエステル(A)、(B)をそれぞれ95%、5%の割合で混合した混合原料とレーザーマーキング顔料である5%レーザーマーキングマスターバッチ(大日精化株式会社製 品名 PT−RM AZ MK2266 LMN;樹脂成分ポリブチレンテレフタレート:カーボンブラック14nm〜18nm、DBP吸油量54ml/100g〜130ml/100g)を99.55:0.45の割合で混合した混合原料を用いた。表層のポリエステルと中間層の原料を1:4の割合で2台の押出機に各々を供給し、各々290℃で溶融した後、40℃に設定した冷却ロール上に、2種3層(表層/中間層/表層)の層構成で共押出し、冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで、ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後、テンターに導き、横方向に120℃で4.0倍延伸し、225℃で熱処理を行った後、横方向に2%弛緩し、厚さ100μm(表層5μm、中間層90μm)の透明ポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムは、無色透明なフィルムであった。そのポリエステルフィルムについて、YVOレーザー(キーエンス株式会社:MD−V9900)光照射(1064nm)を行い、カラーチェンジ性能を評価したところ、灰色着色状態への変化は良好なものであった。また、レーザー処理をしていない得られたポリエステルフィルムについて、極限粘度の維持率の測定を行ったが、顕著な極限粘度の維持率の低下は見られず、良好なものであった。
【0048】
実施例2:
原料と5%レーザーマーキングマスターバッチの比をそれぞれ77.5:22.5の割合で混合した混合原料を中間層の原料として用いること以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムは、無色透明なフィルムであった。そのポリエステルフィルムについて、実施例1と同様の方法でレーザー照射を行い、カラーチェンジ(着色)性能を評価したところ、灰色着色状態への変化は良好なものであった。また、レーザー処理をしていない得られたポリエステルフィルムについて、極限粘度の維持率の測定を行ったが、顕著な極限粘度の維持率の低下は見られず、良好なものであった。
【0049】
比較例1:
原料と5%レーザーマーキングマスターバッチの比をそれぞれ99.75:0.25の割合で混合した混合原料を中間層の原料として用いて、ポリエステルフィルムを得るということ以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムは、透明なフィルムであった。そのポリエステルフィルムについて、実施例1と同様の方法でレーザー照射行い、カラーチェンジ(着色)性能を評価したところ、灰色着色状態への変化は確認できなかった。また、レーザー処理をしていない得られたポリエステルフィルムについて、極限粘度の維持率の測定を行ったが、顕著な極限粘度の維持率の低下は見られず、良好なものであった。
【0050】
比較例2:
原料と5%レーザーマーキングマスターバッチの比をそれぞれ70:30の割合で混合した混合原料を中間層の原料として用いて、ポリエステルフィルムを得るということ以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムは、曇り度の高い白っぽいフィルムであった。そのポリエステルフィルムについて、実施例1と同様の方法でレーザー照射を行い、カラーチェンジ(着色)性能を評価したところ、灰色着色状態への変化は顕著であった。また、レーザー処理をしていない得られたポリエステルフィルムについて、極限粘度の維持率の測定を行ったが、極限粘度の維持率の低下が少しあった。
【0051】
比較例3:
レーザーマーキング顔料を代表的な金属酸化物である銅、モリブデンの複合酸化物:CuO・xMoO(東罐マテリアル・テクノロジ株式会社製)にしてマスターバッチではなく、押出時に顔料の直接添加方法を用いてポリエステルフィルムの作製を試みた。原料とCuO・xMoOの比をそれぞれ99.9775:0.0225の割合で混合した混合原料を中間層の原料として用いて、ポリエステルフィルムを得るということ以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムは、透明なフィルムであった。そのポリエステルフィルムについて、実施例1と同様の方法でレーザー照射行い、カラーチェンジ(着色)性能を評価したところ、灰色着色状態への変化は確認できなかった。また、レーザー処理をしていない得られたポリエステルフィルムについて、極限粘度の維持率の測定を行ったが、極限粘度の維持率の低下が少しあった。
【0052】
比較例4:
原料とCuO・xMoOの比をそれぞれ98.875:1.125の割合で混合した混合原料を中間層の原料として用いて、ポリエステルフィルムを得るということ以外は比較例3と同様の方法でフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムは、レーザーマーキング顔料の熱分解のため、製膜時に白煙が発生し、ポリエステルフィルムの外観も黄色のものとなってしまった。また、ポリエステルの分子量低下を引き起こすことも同時に確認でき、生産性の観点で不利となった。また、レーザー処理をしていない得られたポリエステルフィルムについて、極限粘度の維持率の測定を行ったが、極限粘度の維持率の低下が顕著であった。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のポリエステルフィルムは、生産工程における何らかの目印やドライな方法による、電子部品におけるレーザー感光マーカーとしての用途可能性があるばかりではなく、レーザー感光着色技術を用いた美しい生活用品への応用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極限粘度の維持率が95%以上のポリエステルフィルムであり、当該ポリエステルフィルム中にレーザーマーキング顔料を0.015〜1重量%含有することを特徴とするポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2011−26363(P2011−26363A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170104(P2009−170104)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】