説明

ポリエステル樹脂及びその製造方法

【課題】 エステル化、重縮合反応におけるtrans−1,4−CHDAの異性化を抑制し、融点が高く耐熱性に優れた、1,4−CHDAを主たるジカルボン酸単位とするポリエステル樹脂、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、ジオール成分とのエステル化反応によってオリゴマーを調製し、このオリゴマーを重縮合触媒の存在下に重縮合させて得られるポリエステル樹脂であって、塩基性化合物を用いてエステル化反応を行った後、重縮合触媒を用いて重縮合反応を行うことを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法である。本発明で得られる、原料1,4−シクロヘキサンジカルボン酸中のトランス体のモル%をT0、得られるポリエステル樹脂中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のトランス体のモル%をTpとしたとき、T0とTpが、0≦{(T0−Tp)/T0}×100≦12、を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、耐熱性に優れ、耐加水分解性にも優れたポリエステル樹脂、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂の中で、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(以下、1,4−CHDAと略称することがある)単位を主たるジカルボン酸単位として含むポリエステル樹脂は、透明性、耐加水分解性(加水分解し難い性質)、耐候性などが優れているので、用途が拡大しつつある。1,4−CHDA単位を主たるジカルボン酸単位として含むポリエステル樹脂は、1,4−CHDA又は1,4−CHDAのエステル形成誘導体と、ジオール成分とのエステル化反応、又は、エステル交換反応を経て得られるエステル化反応物(オリゴマー)を、重縮合触媒の存在下に重縮合させて得られる。オリゴマーの調製法には、(1)ジカルボン酸成分とジオール成分とを原料とする直接エステル化法と、(2)ジカルボン酸のエステル形成誘導体成分と、ジオール成分とのエステル交換法がある。(2)のエステル交換法によると、得られるポリエステル樹脂は耐加水分解性が劣るという欠点があり、かつ、1,4−CHDAのエステル形成誘導体のコストが1,4−CHDAより高いという欠点がある。
【0003】
一方、1,4−CHDAには、通常、トランス体とシス体の異性体が存在し、エステル化反応中及び重縮合反応中に、トランス体がシス体に異性化する。ポリエステル樹脂中に含まれる1,4−CHDA単位中のシス体のモル%が増加すると、融点の高いポリエステル樹脂が得られず、耐熱性の点で劣るという問題がある。特開2000−290356号公報には、100モル%のトランス体を含む1,4−CHDAを原料として脂環式ポリエステルを製造する技術が開示されている。しかし、得られるポリエステル樹脂の1,4−CHDA単位中に含まれるシス体の割合と耐熱性との関係や、重縮合反応過程でトランス体がシス体に異性化することや、この異性化を防ぐ方法については示唆されていない。
【0004】
また、米国特許2901466号明細書は、原料としてtrans体100%の1,4−ジメチルシクロヘキサンジカルボキシレート及びtrans体100%の1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下、シクロヘキサンジメタノールを「CHDM」と略記することがある)とを用いる脂環式ポリエステルの製造例を記載している。しかし、このようなtrans体100%のCHDA及びCHDMを調製するためには、極めて煩雑で困難な精製操作が通常必要である。また上記trans体の異性化防止については何らの示唆がなされていない。
また、米国公開特許第2003−232958号には、1,4−CHDAを原料として脂環式ポリエステルを製造する技術が提案されている。しかし、1,4−CHDAに含まれるシス体の割合とポリエステル樹脂の物性との関係や、重縮合反応過程でトランス体がシス体に異性化することや、この異性化を防ぐ方法については示唆されていない。
さらに、米国特許第6084055号明細書には、原料に1,4−ジメチルシクロヘキサンジカルボキシレート及び1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下、1,4−CHDMと略称することがある)とを使用した脂環式ポリエステルの製造例が記載されている。しかし、重縮合反応過程でトランス体がシス体に異性化することについては、示唆されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、上記状況に鑑み、本発明が属する技術分野に存在していた諸欠点を一挙に解消したポリエステル樹脂及びその製造方法を提供することを目的として、鋭意検討した結果、本発明を完成したものである。すなわち、本発明の目的は、次のとおりである。
1.エステル化、重縮合反応におけるtrans−1,4−CHDAの異性化を抑制し、融点の高い1,4−CHDA単位を主たるカルボン酸単位とする、耐熱性に優れたポリエステル樹脂を提供する。
2.重縮合反応過程で、原料1,4−CHDAトランスのシス体への異性化を抑制したポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するべく検討し、本発明に到達した。即ち、本発明の要旨は、下記のとおりである。
1.1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸とジオールのエステル化及び重縮合反応において、塩基性化合物を用いてエステル化反応を行った後、重縮合触媒を用いて重縮合反応を行うことを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
2.1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、ジオール成分とのエステル化反応によってオリゴマーを調製し、このオリゴマーを重縮合触媒の存在下に重縮合させて得られるポリエステル樹脂であって、原料1,4−シクロヘキサンジカルボン酸中のトランス体のモル%をT0、得られるポリエステル樹脂中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のトランス体のモル%をTpとしたとき、T0とTpが、次の(I)式すなわち、0≦{(T0―Tp)/T0}×100≦12、を満たすことを特徴とするポリエステル樹脂。
3.1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、ジオール成分とのエステル化反応によってオリゴマーを調製する工程、このオリゴマーを重縮合触媒の存在下に重縮合させる工程を含む方法によってポリエステル樹脂を製造するにあたり、原料1,4−シクロヘキサンジカルボン酸中のトランス体のモル%をT0、得られるポリエステル樹脂中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のトランス体のモル%をTp、エステル化率60%でのオリゴマー中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のトランス体のモル%をT60としたとき、T0、T60及びTpが、次の(II)式すなわち、0≦{(T0―T60)/T0}×100≦5、を満たし、かつ、得られたポリエステル樹脂のT0とTpが、次の(I)式すなわち、0≦{(T0―Tp)/T0}×100≦12、を満たすことを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、次のような有利な効果を奏し、その産業上の利用価値は極めて大である。
1.本発明によれば、1,4−CHDA単位を主たるジカルボン酸単位とする、融点の高い耐熱性に優れたポリエステル樹脂が提供される。
2.本発明によれば、重縮合反応過程で、トランス1,4−CHDAのシス1,4−CHDAへの異性化が抑制され、トランス1,4−CHDA単位の含有割合の高いポリエステル樹脂を得ることができる。
3.本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、1,4−CHDAの直接エステル化法によるので、エステル形成誘導体を使用するエステル交換法に比べて、工業的に有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の代表例であり、これらの内容に限定されるものではない。
本発明に係るポリエステル樹脂は、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(1,4−CHDA)を主成分とするジカルボン酸成分と、ジオール成分とのエステル化反応によってオリゴマーを調製し、このオリゴマーを重縮合触媒の存在下に重縮合させて得られるポリエステル樹脂である。ここで、「主成分とする」とは、ジカルボン酸成分の主成分が1,4−CHDAであることを意味する。具体的には、全カルボン酸成分に占める1,4−CHDAの割合が80モル%以上であり、残りが1,4−CHDA以外のジカルボン酸であることを意味する。全ジカルボン酸成分に占める1,4−CHDAの割合が80モル%未満であると、得られるポリエステル樹脂の耐熱性が十分でない場合があり、好ましくない。1,4−CHDAの全ジカルボン酸成分に占める割合は、好ましくは90モル%以上、中でも95モル%以上がより好ましい。1,4−CHDAには、通常、トランス体とシス体の異性体が存在し、そのトランス体/シス体の比は、トランス体の割合が多くなるように選ばれる。トランス体/シス体の好ましいモル比は80/20以上であり、より好ましいのは85/15以上、とりわけ好ましいのは90/10以上である。
【0009】
本発明に係るポリエステル樹脂の製造に供されるジカルボン酸成分は、上記した1,4−CHDAを主成分とするが、上記のとおり、1,4−CHDA以外のジカルボン酸成分を共重合成分とすることができる。該当する共重合成分としては、例えば、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、1,4−フェニレンジオキシジカルボン酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、及び、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸などが挙げられる。これら共重合成分は、一種でも二種以上の混合物であってもよい。中でも、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく使用される。ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、例えば、上記ジカルボン酸の、炭素数1〜4の脂肪族アルコールジエステルが挙げられ、中でもジメチルエステルが好ましく用いられる。
【0010】
本発明の製造方法においてエステル化反応に供するジオールは、1,4−CHDMを含むことが好ましい。ジオール中の1,4−CHDMは60モル%以上であるのが好ましく、60モル%未満では重合性が劣る傾向となる。
また、1,4−CHDMは入手の容易さの点から通常trans体とcis体との混合物であるが用途により、求められる耐熱性等に応じて、そのtrans/cis比は通常100/0〜60/40から選ばれるのが好ましい。trans/cis比が60/40よりも低いと、得られるポリエステル樹脂の耐熱性が劣る傾向となる。
【0011】
本発明に係るポリエステル樹脂の製造に供されるジオール成分は、上記ジカルボン酸成分と直接エステル化できるものであれば特に制限はないが、1,4−シクロヘキサンジメタノール(1,4−CHDM)を含むものが好ましい。1,4−CHDMの比率は、全ジオール成分に対して30モル%以上とするのが好ましい。1,4−CHDMの比率が30モル%未満であると、得られるポリエステル樹脂の強度が低下するので好ましくない。1,4−CHDMの比率は50モル%以上がより好ましく、とりわけ70モル%以上が好ましい。また、1,4−CHDMには異性体があり、通常は、トランス体とシス体の混合物である。異性体の比率は重量比で、トランス体/シス体の比は60/40〜100/0、トランス体の比率が60%未満であると、エステル化反応性が低下する傾向にあり、好ましくない。
【0012】
ポリエステル樹脂の製造に供されるジオール成分は、上記のとおり1,4−CHDMを含むが、1,4−CHDM以外のジオール成分を共重合成分とすることができる。使用できる共重合成分としては、例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールなどの脂肪族ジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,1−シクロヘキサンジメチロールなどの脂環式ジオール、及び、キシリレングリコール、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン酸などの芳香族ジオールが挙げられる。これら共重合成分は、一種類でも二種類以上の混合物であってもよい。
【0013】
ポリエステル樹脂を製造する際には、ジカルボン酸成分及びジオール成分の外に、さらに他の共重合成分を、本発明の目的・効果を損わない範囲で使用することができる。他の共重合成分としては、例えば、グリコール酸、p−ヒドロキシ安息香酸、p−β−ヒドロキシエトキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸や、アルコキシカルボン酸、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸などの単官能成分、トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステルなどの三官能以上の多官能成分などが挙げられる。
本発明に係るポリエステル樹脂は、以下の工程に従って製造することができる。すなわち、1,4−CHDAを主成分とするジカルボン酸成分とジオール成分、必要に応じ、他の共重合成分とを、重縮合触媒の不存在下又は存在下に、連続的に又は回分式にエステル化反応を行い、オリゴマーを調製する。このエステル化反応は、攪拌機、還流冷却器を装備したエステル化反応槽に、上記原料成分を仕込み、必要に応じ、触媒、塩基性化合物、その他の添加物を加え、不活性ガス雰囲気下、攪拌しつつ、反応によって生ずる水を留去しつつ反応を行う。エステル化反応終了後は、反応混合物をエステル化反応槽と同一反応槽で、又は、反応混合物をエステル化反応槽から重縮合反応槽に移送し、移送後の反応混合物に、重縮合触媒、塩基性化合物、その他の添加物を仕込み、不活性ガス雰囲気下、攪拌しつつ、温度、圧力を調節しながら、連続的に又は回分式に重縮合反応を行う
【0014】
使用される重縮合触媒としては、少なくとも一種の金属元素を含む金属化合物が挙げられる。なお、重縮合触媒はエステル化反応においても使用することができる。金属元素としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、コバルト、ロジウム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。より好ましい金属としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、スズなどであり、中でも、チタン化合物はエステル化反応と重縮合反応との双方の反応で、高い活性を発揮するので特に好ましい。
【0015】
重縮合触媒として好適なチタン化合物の具体例としては、例えば、テトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラ−tert−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェエルチタネート、テトラベンジルチタネート、蓚酸チタン酸リチウム、蓚酸チタン酸カリウム、蓚酸チタン酸アンモニウム、酸化チタン、チタンのオルトエステル又は縮合オルトエステル、チタンのオルトエステル又は縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、チタンのオルトエステル又は縮合オルトエステルとヒドロキシカルボン酸とリン化合物からなる反応生成物、チタンのオルトエステル又は縮合オルトエステルと少なくとも2個のヒドロキシル基を有する多価アルコール、2−ヒドロキシカルボン酸、又は塩基からなる反応生成物などが挙げられる。
【0016】
アンチモン化合物の例としては、例えば三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイドなどが挙げられる。ゲルマニウム化合物の例としては、例えば二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム、水酸化ゲルマニウム、蓚酸ゲルマニウム、ゲルマニウムテトラエトキシド、ゲルマニウムテトラ−n−ブトキシド等が挙げられる。
【0017】
アルミニウム化合物としては、例えば、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、蓚酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウム−n−プロポキサイド、アルミニウムイソプロポキサイド、アルミニウム−n−ブトキサイド、アルミニウム−tert−ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロポキサイドなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物又はこれらの部分加水分解物、酸化アルミニウムなどが挙げられる。
これらのアルムニウム化合物のうち、カルボン酸塩、無機酸塩又はキレート化合物が好ましく、これらの中でもさらに塩基性酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム又はアルミニウムアセチルアセトネートが特に好ましい。塩基性酢酸アルミニウムはホウ酸等の添加剤で安定化されたものを用いてもよい。
【0018】
これらの触媒は単独でも、あるいは併用してもよい。またこれらのエステル化反応及び重縮合反応に用いる触媒の使用量は、単独あるいは併用した系において、通常生成するポリエステルに対して、金属原子換算で5ppm以上1000ppm以下が好ましく、特に好ましくは10ppm以上500ppm以下となる量である。
【0019】
本発明に係るポリエステル樹脂の製造方法において、エステル化反応の際、好ましくは、エステル化反応混合物に、塩基性化合物を添加すると、1,4−CHDAのトランス体がシス体に異性化するのを抑制する効果があり好ましい。なお、本発明において「反応混合物」とは、反応途中の混合物のほか、反応開始前の原料物質の混合物も含まれるものとする。塩基性化合物の例としては、アルカリ金属を含む化合物、アルカリ土類金属を含む化合物、有機アミン、有機アンモニウム化合物などが挙げられる。アルカリ金属を含む化合物中のアルカリ金属の例としては、リチウム,ナトリウム,カリウム、ルビジウム、セシウムなどが挙げられる。アルカリ土類金属を含む化合物中のアルカリ土類金属の例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどが挙げられる。
これらの金属を含む化合物としては、例えば、これら金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸などの飽和脂肪族カルボン酸の塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸の塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸の塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸の塩、炭酸、ホスホン酸、炭酸水素などの無機酸の塩、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、iso−プロポキシ、n−ブトキシ、tert−ブトキシなどのアルコキサイド、アセチルアセトネートなどのキレート化合物、酸化物、水酸化物などが挙げられる。なお、塩基性の強い水酸化物などは重縮合反応時に加水分解反応が起こることがあるため、弱酸との塩が好ましく用いられる。中でも、アルカリ金属カルボン酸塩やアルカリ土類金属のカルボン酸塩が好ましく用いられる。特に、これら金属の酢酸塩及びその水和物が好適に用いられる。
【0020】
有機アミン化合物の例としては、トリエチルアミン、アンモニア、モルホリン、ピペリジンなどが挙げられる。また有機アンモニウム化合物の例としでは、アンモニウム、トリメチルアンモニウム、テトラメチルアンモニウムなどが挙げられる。中でも、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモエウム、水酸化テトラブチルアンモニウムなどの水酸化テトラアルキルアンモニウム化合物、テトラメチルアンモニウムアセテート、テトラエチルアンモニウムアセテート、テトラプロピルアンモニウムアセテートなどのテトラアルキルアンモニウムアセテート化合物、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライドなどの塩化物、ハロゲン化テトラアルキルアンモニウム化合物などの四級アンモニウム塩が好ましい。特に、エステル化反応時及び縮重合反応時に分解し難く、かつ揮発性であるために縮重合反応後のポリエステル樹脂中の残留しない水酸化テトラアルキルアンモニウム化合物が好適である。これらの塩基性化合物は、一種類又は二種類以上を併用してもよい。
【0021】
本発明で用いられる塩基性化合物の酸塩基当量と用いられる重縮合触媒のモル当量との比(*アルカリ金属,アルカリ土類金属:アルカリ金属、アルカリ土類金属mol/価数 /重合触媒金属mol、有機アミン、有機アンモニウム塩:有機アミン、有機アンモニウム塩mol/重合触媒金属mol)が0.1以上10以下であることが好ましい。さらに塩基性化合物がアルカリ金属又はアルカリ土類金属のカルボン酸塩である場合は該モル比は0.1以上1以下であるのが好ましく、より好ましくは0.2以上0.8以下であるのがより好ましい。
塩基性化合物が有機アミン化合物又は有機アンモニウム化合物である場合は該モル比は1以上10以下であるのが好ましく、より好ましくは該モル比が2以上8以下である。該モル比が1未満であると、trans−1,4−CHDAからcis−1,4−CHDAへの異性化抑制効果が低下する傾向となる。一方、該モル比が10を越えると重合活性が低下する傾向となり、また得られるポリエステル樹脂の熱安定性も悪化する傾向となる。
【0022】
また、本発明に係るポリエステル樹脂の製造方法において、反応混合物に、上記した塩基性化合物の他に、触媒活性向上や分子量のコントロールを目的としてリン化合物を、また、熱安定性の改良を目的として抗酸化剤を添加することもできる。これら化合物は、一種類でも二種類以上の混合物であってもよい。添加物の量は特に限定はされないが、通常、生成するポリエステル樹脂に対して100〜5000ppmの範囲で選ばれる。
使用できるリン化合物としては特に限定はされないが、リン酸、又はリン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸フェニル、リン酸トリフエニルなどのリン酸エステル類、亜リン酸、又はトリメチルホスフアイト、トリフェニルホスファイト、トリス(2,4一ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなどの亜リン酸エステル類、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジフェニル、ベンジルホスホン酸ジメチル、ベンジルホスホン酸ジエチルなどのホスホン酸系化合物類、ジフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸メチル、ジフェニルホスフィン酸フェニル、フェニルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸メチル、フェニルホスフィン酸フェニルなどのホスフィン酸系化合物類、ジフェニルホスフィンオキサイド、メチルジフェニルホズフィンオキサイド、トリフェニルホスフィンオキサイド、トリフェニルホスホプロピオネートなどのホスフィンオキサイド化合物類、亜ホスホン酸化合物、亜ホスフィン酸化合物、ホスフィン化合物、ホスホニウムベタイン化合物などが挙げられる。
【0023】
抗酸化剤としては、例えば、フェノ一ル系化合物が好ましい。フェノ一ル系化合物としては、フェノ−ル性水酸基を有する化合物であれば特に限定されない。具体的には、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノ一ル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノ一ル、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサン−1,6−ジイルビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド]]、ベンゼンプロパン酸,3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ,C7-C9アルキルエステル、2,4−ジメチル−6−(1−メチルペンタデシル)フェノ一ル、ジエチル[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート、3,3’,3”,5,5’,5”−へキサ−tert−ブチルa,a’,a”−(メシチレン−2,4,6−トリル)トリ−p−クレゾール、カルシウムジエチルビス[[[3,5−ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシフェニル]メチル]ホスホネート]、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、へキサメチレンビス・[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリス(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノ一ル、2’,3−ビス[[3−[3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル]プロピオニル]]プロピオノヒドラジドなどが挙げられる。
これらの添加剤は単独でも併用して用いてもよい。使用する添加剤の量は特に限定はされないが、通常生成するポリエステル樹脂に対して100〜5000ppm程度である。
【0024】
<その他添加剤>
本発明のポリエステル樹脂の製造方法においては、必要に応じて本発明の目的効果を損なわない範囲で各種の添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えばガラスビーズ、ガラスパウダー、ガラスバルーン、マイカ、タルク、炭酸カルシウム等の無機充填材、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、相溶化剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、パラフィンオイル等の可塑剤、フッ素樹脂パウダー、スリップ剤、分散剤、着色剤、防菌剤、蛍光増白剤等が挙げられる。
【0025】
<製造>
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、1,4−CHDAを主成分とするジカルボン酸成分とジオール成分とを、塩基性化合物を用いて無触媒又は触媒存在下でエステル化反応を行った後、重縮合触媒を用いて重縮合反応することにより行われる。また、このエステル化反応においてジカルボン酸とジオールの仕込みの際、スラリー粘度を低下させて仕込みを容易にするために、ジオールに対して5〜60重量%程度の水を添加してもよい。
【0026】
重縮合触媒の使用量は、生成するポリエステルに対して金属原子換算で通常5ppm以上1000ppm以下、好ましくは10ppm以上500ppm以下となる量がよい。これらの触媒の添加時期は特に限定はされず、エステル化反応初期から添加してもよく、重縮合反応時に添加してもよい。また、一部をエステル化反応時に、残部を重縮合反応時に添加してもよい。
【0027】
本発明の製造方法で用いる塩基性化合物はそのままで用いてもよく、水溶液あるいは溶液として用いてもよい。また、塩基性化合物はエステル化反応開始前に添加するのがよい。塩基性化合物は単独で使用しても併用してもよいが、有機アミン又は有機アンモニウム化合物とアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩とを併用することが異性化抑制にはより好ましい。
ジカルボン酸とジオールとのエステル化反応は、通常攪拌機及び留出管を備えたエステル化反応槽にジカルボン酸とジオール及び塩基性化合物とを仕込み、必要に応じて反応触媒を加え不活性雰囲気下攪拌しながら反応によって生ずる水を留去しつつ行われる。ジオール成分とジカルボン酸成分との使用割合は、ジカルボン酸成分1モルに対して、ジオール成分を通常1乃至2モル使用する。本発明の好ましい態様であるジオール成分として、1,4−CHDMを80モル%以上含有するジオール成分を用いてポリエステル樹脂を製造する場合には、ジカルボン酸成分1モルに対するジオール成分のモル比は1乃至1.2が好ましく、1乃至1.1がより好ましく、1乃至1.05が特に好ましい。
【0028】
エステル化反応は、通常反応圧力は絶対圧力で10kPa以上200kPa以下、反応温度は通常150℃以上230℃以下、好ましくは180℃以上220℃以下で、反応時間10分以上10時間以下、好ましくは30分以上5時間以下行われる。このエステル化反応によってポリエステル前駆体としての反応物が得られる。
重縮合反応は、通常エステル化反応終了温度乃至280℃以下、好ましくは260℃以下で、通常10分乃至10時間、好ましくは30分乃至5時間行われる。温度が高すぎると、重合反応中に熱分解が起こるためか、重縮合反応が進まない傾向となる。槽内圧力は常圧から最終的に絶対圧力で1kPa以下となる圧力であり、好ましくは0.5kPa以下とする。
【0029】
反応終了後、得られたポリエステルを、通常、槽底部よりストランド状に抜き出し、水冷しつつカッティングし、ペレットを得る。なお、反応は回分法で行っても連続法で行ってもよい。
【0030】
エステル化反応の時間は、反応温度、触媒存在の有無、触媒の種類、触媒の量、その他の化合物の種類、添加(使用)量にもよるが、通常は、10分〜10時間の範囲、好ましくは30分〜5時間の範囲で選ばれる。反応混合物には、その粘度を低下させる目的で、ジオール成分に対して、5〜60重量部程度の水を添加することができる。エステル化反応で使用できる触媒は、重縮合触媒と同種でよく、反応混合物への添加は、(1)一部をエステル化反応前及び/又はエステル化反応途中で、残部を重縮合工程への移行時及び/又は重縮合反応途中に添加する方法、(2)全部を重縮合工程への移行時及び/又は重縮合反応途中に添加する方法、のいずれであってもよい。
【0031】
本発明者らの研究によると、エステル化反応の初期温度を高温とすると、エステル化反応速度は上昇するが、1,4−CHDAのトランス体がシス体に異性化し易いので、好ましくないことが分かった。また、エステル化率が60%を超えた後のエステル化反応温度を220℃以下とすると、1,4−CHDAのトランス体がシス体に異性化し難いので、好ましいことが分かった。エステル化反応は、絶対圧力10〜200kPa、220℃以下の温度で漸次昇温しながら遂行し、かつ、エステル化率が60%に達するまでの工程を、185℃を上限とする温度範囲で遂行するのが好ましい。
昇温の過程において、エステル化反応が開始する温度を明確に定めるのは困難であるが、例えば常圧でエステル化反応を行う場合、100℃を越えた時点で反応に伴い副生する水が留出し始めるので、100℃前後で反応が開始しているものと推察される。
【0032】
重縮合反応は、エステル化反応においてエステル化率が60%を超えた後、反応槽に重縮合触媒、必要に応じ塩基性化合物、及び上記したその他の化合物などを、エステル化反応工程で一部を反応混合物に添加している場合には残部を、エステル化反応工程で添加していない場合には、全部を一時に又は分割して重縮合反応混合物に添加する。重縮合反応は、180℃乃至250℃の温度範囲で、減圧下に遂行するのが好ましい。重縮合反応時間は、温度、触媒の種類、触媒の量、その他の化合物の種類、添加量にもよるが、10分〜10時間の範囲、好ましくは30分〜5時間の範囲で選ばれる。重縮合反応温度が高すぎると、反応中に熱分解が起こるためか、重縮合反応が進み難いことが観察される。重縮合反応を遂行する際の反応槽の圧力は、常圧から最終的には通常絶対圧力で1kPa以下、好ましくは0.5kPa以下に減圧される。重縮合反応終了後は、反応生成物を重縮合反応槽の底部からストランド状に抜き出し、ストランドを水冷して切断することによって、ポリエステル樹脂のペレットが得られる。
【0033】
本発明者らの研究によると、本発明の目的を効果的に達成するには、原料の1,4−CHDA中のトランス体のモル%をT0(%)、得られるポリエステル樹脂中の1,4−CHDA単位中のトランス体のモル%をTp(%)、エステル化率60%でのオリゴマー中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のトランス体のモル%をT60としたとき、T0、T60及びTpが次の(II)式すなわち、0≦{(T0−T60)/T0}×100≦5、を満たし、かつ、得られたポリエステル系樹脂の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のトランス体のモル%が、次の(I)式、すなわち、0≦{(T0−Tp)/T0}×100≦12、を満たすことが必要であることが分かった。
【0034】
エステル化反応において、T0とエステル化率60%でのT60の値が次の(II)式、すなわち、0≦{(T0−T60)/T0}×100≦5、を満たさない(上限を超える)ときは、最終的に得られるポリエステル樹脂の融点が低くなる傾向となり、好ましくない。エステル化率60%での上記式で算出される値は、より好ましいのは4以下であり、とりわけ好ましいのは2以下である。また、T0とポリエステル樹脂中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のトランス体のモル%Tpが、次の(I)式すなわち、0≦{(T0−Tp)/T0}×100≦12、を満たさない(上限を超える)ときもまた、最終的に得られるポリエステル樹脂の融点が低くなる傾向となり、好ましくない。
【0035】
原料1,4−CHDA中のトランス体のモル%T0は、液体クロマトグラフィ法によって測定することができる。また、オリゴマーのエステル化率は、まず、定法に従ってオリゴマーの遊離カルボン酸末端基量(AV)を定量し、ついで、定法に従ってオリゴマーの全カルボン酸由来基量(SV)を定量し、次式すなわち、エステル化率(%)={(SV−AV)/SV}×100、によって算出することができる。さらに、エステル化率60%でのT60もまた、液体クロマトグラフィ法によって測定することができる。ポリエステル樹脂中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のトランス体単位のモル%(Tp)は、核磁気共鳴分光法によって定量することができる。
【0036】
本発明に係るポリエステル樹脂の固有粘度は、0.6〜1.5dl/gの範囲のものが好ましい。固有粘度が0.6dl/g未満であると、ポリエステル樹脂の機械的強度が不十分な場合があり、1.5dl/gを超えると流動性が低下し、成形性が劣る場合があるので、いずれも好ましくない。固有粘度のさらに好ましい範囲は、0.7〜1.4dl/gの範囲である。
【0037】
本発明に係るポリエステル樹脂はそれ自体で、又は、他の熱可塑性樹脂と混合して、さらに、本発明の目的・効果を損なわない範囲で、上記した化合物以外の各種樹脂添加剤を配合することができる。例えば、樹脂添加剤としてはガラスビーズ、ガラスパウダー、ガラスバルーン、マイカ、タルク、炭酸カルシウムなどの無機充填材、酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、相溶化剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、フッ素樹脂パウダー、スリップ剤、分散剤、着色剤、防菌剤、蛍光増白剤、防錆剤などが挙げられる。
【0038】
本発明に係るポリエステル樹脂と混合できる他の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなど上記ポリエステル樹脂とは組成の異なるポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマーなどが挙げられる。本発明に係るポリエステル系樹脂、これに他の熱可塑性樹脂を混合した樹脂組成物は、押出成形法、射出成形法、押出しブロー成形法、カレンダー成形法により、各種の製品を製造することができる。
得られたペレット状ポリエステル樹脂は、必要に応じて更に固相重合を行いより高い固有粘度とすることもできる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例によって限定されるものではない。
なお、次の実施例及び比較例における各種物性の測定法を以下に示す。
(モノマーCHDA中のtrans体の定量)
50mlのメスフラスコにCHDA0.2gに対して4規定の水酸化ナトリウム1.2mlで溶解する。更に純水40mlを加えてリン酸200μlでpHを5に調整した後、純水を加えて50mlにする。これを液体クロマトグラフィにより下記条件で測定した。
【0040】
装置:島津製作所社製LC−10AD
カラム:J'sphere ODS−H80 4.6mm×250
温度:500℃
移動相:AcN/H2O/H3PO4=200/800/4
流量:0.6ml/min
検出器:UV (210nm)
注入量:20μl
それぞれのピークの面積よりtrans体及びcis体の割合を求めた。
【0041】
(ポリマー中のジカルボン酸単位、ジオール単位の定量、及びCHDA、CHDMのtrans体及びcis体の定量)
溶媒としてD化クロロホルムを用い、ポリエステル樹脂を溶解させ、1H−NMR(日本電子社製GSX−400)を用いてポリマー中のジカルボン酸単位、ジオール単位を定量し、更にCHDA成分及びCHDM成分のtrans体及びcis体の定量を行った。
【0042】
(ポリマーの融点の測定)
ポリマーの融点は、JIS K7121に従い、セイコー社製DSC220(示差走査熱量計)を用いて測定した。ポリマー約10mgを同社製アルミパンに入れて密封し、昇温速度20℃/分で室温から300℃まで加熱し、300℃で3分間保持した後、室温まで20℃/分で降温した。更に3分間保持した後、室温から300℃まで20℃/分で昇温した。ポリマーの融点Tmは二回目の昇温時の値とした。Tm値はピークの極大部分の温度とした。
【0043】
(固有粘度)
ポリエステル樹脂試料0.5gを用い、フェノール/テトラクロロエタン(重量比1/1)の混合液を溶媒として、濃度(c)が1.0g/dlの溶液を調製した。なお試料が溶融重縮合樹脂の場合は110℃に加温して30分間保持することにより溶解させた。この溶液を30℃にてウベローデ型粘度計を用いて、溶媒のみ(c=0)に対する相対粘度(ηrel)を測定し、この相対粘度(ηrel)から1を減じて比粘度(ηsp)とし、濃度(c)との比(ηsp/sc)を求めた。同様にして濃度(c)を0.5g/dl、0.2g/dl、0.1g/dlとして、それぞれの比(ηsp/c)を求め、これらの値より、濃度(c)を0に外挿したときの比(ηsp/c)を固有粘度〔η〕(dl/g)として求めた。
【0044】
実施例1−1
攪拌機、留出管及び減圧装置を装備した反応器に1,4−CHDA(trans/cis=98/2) 92.12gと1,4−CHDM 79.07g(CHDM/CHDA仕込みモル比が、102.5/100)、及びテトラエチルアンモニウムハイドライド10wt%水溶液0.54g(0.31 mmol)を仕込み、窒素流通下油浴中で150℃まで加熱した後1時間かけて200℃まで昇温し、その後1時間200℃に保持しエステル化反応を行った。その後反応器にテトラn−ブチルチタネート6wt%−n−ブタノール溶液0.88g(0.155mmol)を加え、内温を45分かけて200℃から250℃に昇温させながら徐々に反応器内を減圧にし、重縮合反応を行った。反応器内圧を絶対圧力で0.1kPa、温度を250℃に保ち、2.5時間反応後、得られたポリエステル樹脂をストランド状に水中に抜き出しペレット状にした。得られたポリエステル樹脂の固有粘度、融点、1,4−CHDA成分のtrans/cis比を表1−1に示す。
【0045】
実施例1−2
テトラエチルアンモニウムハイドライド10wt%水溶液を酢酸ナトリウム10wt%水溶液64mg(0.078mmol)に変更したこと以外は、実施例1−1と同様の条件で、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂の固有粘度、融点、1,4−CHDA成分のtrans/cis比を表1−1に示す。
【0046】
実施例1−3
テトラエチルアンモニウムハイドライド10wt%水溶液を酢酸カリウム10wt%水溶液77mg(0.078mmol)に変更したこと以外は、実施例1−1と同様の条件で、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂の固有粘度、融点、1,4−CHDA成分のtrans/cis比を表1−1に示す。
【0047】
実施例1−4
テトラエチルアンモニウムハイドライド10wt%水溶液を酢酸マグネシウム10wt%水溶液170mg(0.078mmol)に変更したこと以外は実施例1−1と同様の条件で、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂の固有粘度、融点、1,4−CHDA成分のtrans/cis比を表1−1に示す。
【0048】
実施例1−5
重縮合反応時、反応器にテトラn−ブチルチタネート6wt%n−ブタノール溶液0.88g(0.155mmol)とともに酢酸ナトリウム10wt%水溶液64mg(0.078mmol)を加えたこと以外は実施例1−1と同様の条件で、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂の固有粘度、融点、1,4−CHDA成分のtrans/cis比は表1−1を示す。
【0049】
比較例1−1
テトラエチルアンモニウムハイドライド10wt%水溶液を用いないこと以外は、実施例1−1と同様の条件で、重縮合反応を行った。得られたポリエステル樹脂の固有粘度、融点、1,4−CHDA成分のtrans/cis比を表1−1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
本発明の製造方法に従い、塩基性化合物をエステル化反応に用いた実施例1−1から実施例1−5で得られたポリエステル樹脂は、225℃以上の高い融点を有しており、1,4−CHDA単位のtrans/cis比も90/10以上の高いtrans比を有していた。一方、エステル化反応及び重縮合反応に塩基性化合物を用いなかった比較例1−1では融点が低く、trans/cis比が低下したポリエステル樹脂しか得られなかった。
【0052】
なお、次の実施例及び比較例においては、原料の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸(1,4−CHDA)中のトランス体のモル%をT0(%)、得られるポリエステル樹脂中の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のトランス(t)体単位のモル%をTp(%)、エステル化率60%での異性化率をT60(%)、及び、オリゴマーのエステル化率、ポリエステル樹脂の融点などは以下に記載の方法で測定したものである。
【0053】
(1)1,4−CHDA中のトランス体(t)(T0)(単位:モル%)の定量:容量が50mlのメスフラスコに1,4−CHDA0.2gを秤量し、これを4規定の水酸化ナトリウム1.2mlに溶解し、これに純水40ml加え、リン酸200μlでpHを5に調節した後、純水を加えて50mlとした。この試料を、液体クロマトグラフィ(島津製作所社製、型式:LC−10AD)によって、測定した。定法に従って装置を操作し、それぞれの成分のピーク面積によって、トランス体(t)とシス体(c)の割合を算出した。測定条件は、次のとおりとした。
カラム:J’sphere ODS−H80 4.6mm×250。
温度:50℃、移動相:アセトニトリル/水/リン酸。
流量:0.6ml/分、検量器:UV(210nm)、注入量:20μl。
【0054】
(2)オリゴマーのエステル化率(単位:%)の測定:まず、オリゴマーの遊離カルボン酸末端基量(AV)を、以下の(2-1)に記載した方法に従って定量し、次いで、オリゴマーの全カルボン酸由来基量(SV)を、以下の(2-2)に記載した方法に従って定量し、次式すなわち、エステル化率(%)={(SV−AV)/SV}×100、によって算出することができる。
【0055】
(2−1)遊離カルボン酸末端基量(AV)の定量:試験管にオリゴマー10mgを採取し、ベンジルアルコール25mlを加え、マグネットスターラーで内容物を攪拌しながら、195プラス/マイナス3℃に温度調節した油浴に浸漬し、オリゴマーをベンジルアルコールに溶解させる。得られた溶解溶液を常温まで放冷し、エチルアルコール2mlを静かに加えた。得られた溶液を、自動滴定装置(東亜DKK社製、型式:AUT−501)によって、複合pH電極を用いて、0.01Nの水酸化ナトリウム・ベンジルアルコール溶液で滴定した。なお、0.01Nの水酸化ナトリウム・ベンジルアルコール溶液は、JIS K8006に準拠して調製・標定を行い、ファクターを算出した。得られた滴定曲線の変曲点から滴定量を求め、次式すなわち、AV={(A−B)×0.01N×F}/W、に基づいてAVを算出した。この式において、AVはオリゴマーの遊離カルボン酸末端基量(meq/g)、Aは測定滴定量(ml)、Bはブランク滴定量(ml)、Fは0.01N水酸化ナトリウム・ベンジルアルコール溶液力価、Wはオリゴマー重量(g)である。
【0056】
(2−2)オリゴマーの全カルボン酸由来基量(SV)の定量:乳鉢で粉砕した試料のオリゴマーを0.3g、容量が50mlの三角フラスコに精秤し、これに、0.5N水酸化カリウム/エタノール溶液を、ホールピペットで20ml加え、続いて純水10mlを加えて、還流冷却器をセットした。表面温度を200℃に調節した熱板上で、時々攪拌しながら2時間加熱還流し、試料を加水分解した。得られた試料液は、透明であった。放冷後、フェノールフタレインを指示薬として、0.5N塩酸水溶液で滴定した。なお、0.5N水酸化カリウム/エタノール溶液と0.5N塩酸水溶液は、JIS K8006に準拠して調製・標定した。フェノールフタレインを指示薬は、1gをエタノール90mlに溶解し、純水を加えて100mlとしたものである。次式すなわち、SV={(Vb−Vs)×f×(1/2)}/W、に基づいてSVを算出した。この式において、SVはオリゴマー全カルボン酸由来基量(meq/g)、Vsは試料の滴定量(ml)、Vbはブランクの滴定量、fは0.5N塩酸水溶液のファクター、Wはオリゴマーの重量(g)である。
【0057】
(3)反応生成物、オリゴマー中の1,4−CHDAトランス体(t)単位(単位:モル%)の定量:容量が50mlの三角フラスコに反応生成物又はオリゴマー0.1gを採取し、これに0.5モル/lのエタノール性水酸化カリウム10mlを加え、三角フラスコを80〜90℃の温度とした油浴に浸漬して振とうし、反応生成物又はオリゴマーを溶解させる。得られた溶液を容量が50mlのメスフラスコに移し、これに純水とリン酸を加えてpHを6に調節した後、純水を加えて50mlとする。この試料を、液体クロマトグラフィ(島津製作所社製、型式:LC−10AD)によって、測定した。測定条件は、上記(1)におけると同じ条件とした。
【0058】
(4)ポリエステル樹脂中の1,4−CHDAトランス体(t)とシス体(c)の定量:重水素化クロロホルムを溶媒とし、これにポリエステル樹脂を溶解させ、核磁気共鳴分光器(日本電子社製、型式:GSX−400)を使用して、定法に従って、ポリエステル樹脂中のトランス体(t)とシス体(c)を定量した。
(5)固有粘度:フェノールとテトラクロロエタンとを重量比で1対1の混合溶媒とし、この混合溶媒に試料ポリエステル樹脂を精秤1.0g/dlの溶液を調製し、温度30℃でウベローデ型粘度計によって測定した値である。
(6)融点(Tm)(単位:℃):JIS K7121に準拠して測定した。
【0059】
実施例2−1
攪拌機、還流冷却器、加熱装置、圧力計、温度計及び減圧装置を装備し、容量が200ミリリットルのステンレス製反応器に、1,4−CHDA(トランス体/シス体モル比=98/2)92.12g、1,4−CHDM(トランス体/シス体モル比=70/30)79.07g(1,4−CHDAと1,4−CHDMとのモル比は、1/1.025)、及び、テトラ−n−ブチルチタネート(触媒)の6重量%のブタノール溶液0.88gを仕込み、反応器内を窒素ガスで置換した。反応器内を窒素ガスでシールしながら、油浴中で内温を常温から150℃に昇温し、150℃から30分間で180℃に昇温し、さらに、180℃の温度で2時間保持しエステル化反応を行った。
【0060】
内温が180℃に達した時点と、この後15分ごとに反応器から反応液を採取し、採取した試料につきエステル化率、オリゴマー中の1,4−CHDA単位の、トランス体(t)/シス体(c)のモル比を測定し、エステル化率とトランス体/シス体のモル比との関係曲線を描いた。この関係曲線から、エステル化率60%におけるトランス体/シス体のモル比を読みとり、このモル比とエステル化率0%時のトランス体/シス体のモル比(98/2)とから異性化率を算出した。180℃の温度で2時間エステル化反応を行った後のエステル化率は、60%であった。続いて、内温を180℃から2時間かけて250℃に昇温させつつ、反応器内圧を減圧にしながら重縮合反応を行った。反応器内圧力を絶対圧力0.1kPa、反応温度を250℃として2時間維持し、重縮合反応を終了した。重縮合反応終了後、得られた樹脂をストランド状に水中に抜き出し、切断してペレットとした。
【0061】
1,4−CHDAのトランス体とシス体の比、エステル化反応の際の温度・時間条件、エステル化率60%での反応温度、エステル化率、エステル化率60%でのオリゴマー中の1,4−CHDA単位のトランス体とシス体との比、(I)式の値(T60)、エステル化反応終了時のオリゴマーのエステル化率、重縮合反応の際の温度・時間条件、ポリエステル樹脂中の1,4−CHDA単位のトランス体とシス体との比、(II)式の値(Tp)、固有粘度、融点(Tm)などを、上記方法によって測定し、表2−1に記載した。
【0062】
実施例2−2
実施例2−1で使用した同じ反応器に、原料1,4−CHDAと1,4−CHDM、触媒を同例におけると同じ量仕込み、反応器内を窒素ガスで置換した。反応器内を窒素ガスでシールしながら、油浴中で内温を常温から150℃に昇温し、150℃から30分間で180℃に昇温した。この180℃で2時間保持した後、さらに180℃から1時間かけて215℃に昇温してエステル化反応を行い、オリゴマーを得た。この際のエステル化率は、85%であった。続いて、内温を215℃から30分かけて250℃に昇温させつつ、反応器内圧を減圧にしながら重縮合反応を行った。反応器内圧力を絶対圧力0.1kPa、反応温度を250℃として2時間維持し、重縮合反応を終了した。重縮合反応終了後、得られた樹脂をストランド状に水中に抜き出し、切断してペレットとした。オリゴマー、ポリエステル樹脂などについて、実施例2−1におけると同様に測定し、その結果を表2−1に記載した。
【0063】
実施例2−3
実施例2−1で使用した同じ反応器に、原料1,4−CHDAと1,4−CHDM、触媒を同例におけると同じ量仕込み、反応器内を窒素ガスで置換した。反応器内を窒素ガスでシールしながら、油浴中で内温を常温から150℃に昇温し、150℃から30分間で200℃に昇温した。この200℃で1時間保持してエステル化反応を行い、オリゴマーを得た。この際のエステル化率は、80%であった。続いて、内温を200℃から45分かけて250℃に昇温させつつ、反応器内圧を減圧にしながら重縮合反応を行った。反応器内圧力を絶対圧力0.1kPa、反応温度を250℃として2時間維持し、重縮合反応を終了した。重縮合反応終了後、得られた樹脂をストランド状に水中に抜き出し、切断してペレットとした。オリゴマー、ポリエステル樹脂などについて、実施例2−1におけると同様に測定し、その結果を表2−1に記載した。
【0064】
実施例2−4
実施例2−1に記載の例において、エステル化反応の段階で、反応器にテトラエチルアンモニウム10%水溶液を0.54g仕込んだ他は、同例におけると同様の手順で、エステル化反応と縮重合反応を行った。重縮合反応終了後、得られた樹脂をストランド状に水中に抜き出し、切断してペレットとした。オリゴマー、ポリエステル樹脂などについて、実施例2−1におけると同様に測定し、その結果を表2−1に記載した。
【0065】
比較例2−1
実施例2−1で使用した同じ反応器に、原料1,4−CHDAと1,4−CHDM、触媒を同例におけると同じ量仕込み、反応器内を窒素ガスで置換した。反応器内を窒素ガスでシールしながら、油浴中で内温を常温から150℃に昇温し、150℃から30分間で220℃に昇温した。この220℃で1時間保持してエステル化反応を行い、オリゴマーを得た。続いて、内温を220℃から30分かけて250℃に昇温させつつ、反応器内圧を減圧にしながら重縮合反応を行った。反応器内圧力を絶対圧力0.1kPa、反応温度を250℃として2時間維持し、重縮合反応を終了した。重縮合反応終了後、得られた樹脂をストランド状に水中に抜き出し、切断してペレットとした。オリゴマー、ポリエステル樹脂などについて、実施例2−1におけると同様に測定し、その結果を表2−1に記載した。
【0066】
比較例2−2
実施例2−1で使用した同じ反応器に、原料1,4−CHDAと1,4−CHDM、触媒を同例におけると同じ量仕込み、反応器内を窒素ガスで置換した。反応器内を窒素ガスでシールしながら、油浴中で内温を常温から150℃に昇温し、150℃から30分間で200℃に昇温した。この200℃で4時間保持してエステル化反応を行い、オリゴマーを得た。続いて、内温を200℃から30分かけて270℃に昇温させつつ、反応器内圧を減圧にしながら重縮合反応を行った。反応器内圧力を絶対圧力0.1kPa、反応温度を270℃として2時間維持し、重縮合反応を終了した。重縮合反応終了後、得られた樹脂をストランド状に水中に抜き出し、切断してペレットとした。オリゴマー、ポリエステル樹脂などについて、実施例2−1におけると同様に測定し、その結果を表2−1に記載した。
【0067】
【表2】

【0068】
表2−1から、次のことが明らかになる。
1.本発明の実施例2−1〜実施例2−5のポリエステル樹脂は、前記(I)式によって算出される値(異性化率)が12以下であって、請求項1の要件を満たしており、融点が220℃以上で、耐熱性に優れている。
2.本発明の実施例2−1〜実施例2−4のポリエステル樹脂は、前記(II)式によって算出される値(オリゴマーの異性化率)が請求項3の要件を満たしており、融点が220℃以上で、耐熱性に優れている。
3.ポリエステル化反応工程で、反応系に塩基性化合物を加えた場合は、前記(II)式によって算出される値(オリゴマーの異性化率)が0.51、前記(I)式によって算出される値(異性化率)が3.06と低く、ポリエステル樹脂の融点が231℃と、とりわけ高い(実施例2−4参照)。
4.一方、比較例1及び比較例2のポリエステル樹脂は、前記(II)式によって算出される値(オリゴマーの異性化率)が5以上で、前記(I)式によって算出される値(異性化率)が12を越えているので、融点が低い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係るポリエステル樹脂は、押出成形法、射出成形法、押出しブロー成形法、カレンダー成形法により耐熱性が要求される各種製品を製造する原料樹脂として使用できる。製品としては、中空成形品、管状体、板状体、シート、フィルム、モノフィラメント、結束バンド、食品、医薬品、化粧品などを収納する容器などのほか、自動車部品、OA機器部品、家庭電器製品部品などが挙げられる。特に、高温下で水分と接触する機会の多い自動車部品の製造用原料として、好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、ジオール成分とのエステル化反応によってオリゴマーを調製し、このオリゴマーを重縮合触媒の存在下に重縮合させて得られるポリエステル樹脂であって、原料に含まれる1,4−シクロヘキサンジカルボン酸中のトランス体のモル%をT0、得られるポリエステル樹脂に含まれる1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のトランス体のモル%をTpとしたとき、T0とTpが、次の(I)式を満たすことを特徴とするポリエステル樹脂。
0≦{(T0−Tp)/T0}×100≦12 (I)式
【請求項2】
ポリエステル樹脂に含まれる1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のトランス体のモル%(Tp)が80モル%以上である、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、ジオール成分とのエステル化反応によってオリゴマーを調製する工程、このオリゴマーを重縮合触媒の存在下に重縮合させる工程を含む方法によってポリエステル樹脂を製造するにあたり、原料に含まれる1,4−シクロヘキサンジカルボン酸中のトランス体のモル%をT0、得られるポリエステル樹脂に含まれる1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のトランス体のモル%をTp、エステル化率60%での1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のトランス体のモル%をT60としたとき、T0、T60およびTpが、次の(II)式を満たし、かつ、得られるポリエステル樹脂のT0とTpが、次の(I)式を満たすことを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
0≦{(T0−Tp)/T0}×100≦12 (I)式
0≦{(T0−T60)/T0}×100≦5 (II)式
【請求項4】
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分と、ジオール成分とのエステル化反応によってオリゴマーを調製する工程、このオリゴマーを重縮合触媒の存在下に重縮合させる工程を含む方法によってポリエステル樹脂を製造するにあたり、エステル化反応を220℃以下の温度で漸次昇温しながら行い、かつ、エステル化率が60%に達するまでの工程を、185℃以下の温度範囲で行うことを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
エステル化反応を220℃以下の温度で漸次昇温しながら行い、かつ、エステル化率が60%に達するまでの工程を185℃以下の温度範囲で行う請求項3に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を主成分とするジカルボン酸成分とジオール成分とのエステル化反応および重縮合反応を行うポリエステル樹脂の製造方法において、塩基性化合物を用いてエステル化反応を行った後、重縮合触媒を用いて重縮合反応を行うことを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
エステル化反応を行う際に、塩基性化合物を用いる、請求項3乃至5のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項8】
塩基性化合物が、アルカリ金属のカルボン酸塩、アルカリ土類金属のカルボン酸塩、有機アミン、及び有機アンモニウム化合物の群から選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項6または7に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項9】
塩基性化合物の酸塩基当量と重縮合触媒のモル当量との比が、0.1以上10以下である請求項6乃至8のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項10】
重縮合反応を、180℃乃至250℃の温度範囲で、減圧下に行う、請求項3乃至9のいずれか一項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項11】
重縮合触媒が、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、コバルト、ロジウム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、リチウム、カルシウム、及びマグネシウムよりなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素を含む金属化合物である、請求項3乃至10のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項12】
ジオール成分が、1,4−シクロヘキサンジメタノールを含むジオールである、請求項3乃至11のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項13】
ポリエステル樹脂に含まれる1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位中のtrans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位が、80モル%以上である請求項3乃至12のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。

【公開番号】特開2006−28482(P2006−28482A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138942(P2005−138942)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】