説明

ポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた二軸配向フィルム

【課題】フィルムなどに成形したときに優れた寸法安定性を有し、しかも耐加水分解性にも優れたポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた二軸配向フィルムを提供する。
【解決手段】下記式(I)または下記式(II)で表されるジカルボン酸成分の合計の割合が全ジカルボン酸成分の90〜100モル%であると共に、下記式(I)で表されるジカルボン酸成分が全ジカルボン酸成分の5モル%以上、50モル%未満を占め、かつ、全ジオール成分の90〜100モル%が炭素数2〜10のアルキレングリコールである共重合ポリエステル100質量部に対して、環状イミノエーテル化合物またはカルボジイミド化合物からなる改質剤を0.05〜10質量部含有するポリエステル樹脂組成物。
HO(O)C−R−ORO−R−C(O)OH (I)
[上記式(I)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基を表す。]
HO(O)C−R−C(O)OH (II)
[上記式(II)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寸法安定性に優れると共に耐加水分解性も良好な新規なポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた二軸配向フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)に代表される芳香族ポリエステルは、優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、フィルムなどに幅広く使用されている。特にポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートは、ポリエチレンテレフタレートよりも優れた機械的特性、寸法安定性および耐熱性を有することから、それらの要求の厳しい用途、例えば高密度磁気記録媒体などのベースフィルムなどに使用されている。しかしながら、近年の高密度磁気記録媒体などでの寸法安定性の要求はますます高くなってきており、さらなる特性の向上が求められている。
【0003】
一方、特許文献1〜5には6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸を主とする酸成分と、アルキレングリコールを主とするジオール成分からなるポリエステルが提案され、結晶性で、融点が294℃のポリエステルも具体的に開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの文献に開示されたポリエステルは、融点が非常に高く、また結晶性も非常に高いことからフィルムなどに製膜しようとすると、溶融状態での流動性に乏しくて押出しが不均一化したり、押出した後延伸しようとしても結晶化が進んで高倍率で延伸すると破断したりするなどの問題があった。さらに、特許文献3の実施例を見れば、湿度膨張係数は低いものの温度膨張係数が高いという問題もあった。
【0005】
かかる問題を改善するため、本発明者らは、先にテレフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸などをジカルボン酸成分とするポリエステルに、所定量の6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分を共重合させた共重合ポリエステルを提案した。確かにかかる共重合ポリエステルによれば、機械的強度に優れ、温度膨張係数(αt)および湿度膨張係数(αh)も良好なフィルムが、優れた製膜性の下に提供できる。しかしながら、例えば太陽電池のバックシート用フィルムなどの用途では長期間の経時耐久性が要求され、例えば耐加水分解性の面で不十分な場合があり、さらなる改善が望まれる。
【0006】
【特許文献1】特開昭60−135428号公報
【特許文献2】特開昭60−221420号公報
【特許文献3】特開昭61−145724号公報
【特許文献4】特開平6−145323号公報
【特許文献5】国際公開第2008/010607号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、フィルムなどに成形したときに優れた寸法安定性を有し、しかも耐加水分解性にも優れたポリエステル樹脂組成物およびそれを用いた二軸配向フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために検討を重ねた結果、上記の共重合ポリエステルに環状イミノエーテル化合物やカルボジイミド化合物を所定量配合すれば、温度膨張係数(αt)および湿度膨張係数(αh)などの共重合ポリエステルが有している優れた性能を維持しながら、耐加水分解性などの経時耐久性に優れた成形体が容易に得られることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
かくして本発明によれば、「下記式(I)または下記式(II)で表されるジカルボン酸成分の合計の割合が全ジカルボン酸成分の90〜100モル%であると共に、下記式(I)で表されるジカルボン酸成分が全ジカルボン酸成分の5モル%以上、50モル%未満を占め、かつ、全ジオール成分の90〜100モル%が炭素数2〜10のアルキレングリコールである共重合ポリエステル100質量部に対して、環状イミノエーテル化合物またはカルボジイミド化合物からなる改質剤を0.05〜10質量部含有するポリエステル樹脂組成物。」が提供される。
HO(O)C−R−ORO−R−C(O)OH (I)
[上記式(I)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基を表す。]
HO(O)C−R−C(O)OH (II)
[上記式(II)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表す。]
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物を用いて得られるフィルムなどの成形品は、温度膨張係数(αt)および湿度膨張係数(αh)が低く、機械的強度なども高いことから、温度や湿度などの環境変化に対して優れた寸法安定性を有し、しかも耐加水分解性などの経時耐久性にも優れているので、これらの性能が要求される、例えば太陽電池のバックシートなどのベースフィルムとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[共重合ポリエステル]
本発明のポリエステル樹脂組成物を形成する共重合ポリエステルは、前記式(I)または式(II)で表されるジカルボン酸成分と、炭素数2〜10のアルキレングリコールであるジオール成分とからなる共重合ポリエステルである。
【0012】
〔ジカルボン酸成分〕
前記式(I)で表されるジカルボン酸成分は、式中のRが炭素数2〜10のアルキレン基、Rが2,6−ナフタレンジイル基であるものであり、なかでもRの炭素数が2〜4の6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸、6,6’−(トリメチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸、6,6’−(ブチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸が好ましく、さらにはRの炭素数が偶数のものが好ましい。これらの中でも、温度や湿度などの環境変化に対する寸法安定性の点からは、特にRの炭素数が2である6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸が好ましい。
【0013】
一方前記式(II)で表されるジカルボン酸成分は、式中のRがフェニレン基またはナフタレンジイル基であるものであり、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、機械的特性などの点からテレフタル酸または2、6−ナフタレンジカルボン酸が好ましく、特に2、6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
【0014】
上記式(I)および式(II)で表されるジカルボン酸成分の合計の割合は、共重合ポリエステルの全ジカルボン酸成分を基準として90〜100モル%、好ましくは95〜100モル%、特に好ましくは100モル%であり、10モル%以下の割合であれば、例えばアジピン酸、セバシン酸、ジフェニルジカルボン酸などの他のジカルボン酸成分を共重合していてもよい。上記式(I)および式(II)で表されるジカルボン酸成分の合計割合が90モル%未満の場合には、寸法安定性や機械的特性が低下して本発明の目的を達成できなくなる。
【0015】
本発明においては、さらに、前記式(I)で表されるジカルボン酸成分が全ジカルボン酸成分の5モル%以上、50モル%未満を占めていることが大切である。前記式(I)で表されるジカルボン酸成分の割合は、好ましくは7モル%以上、より好ましくは10モル%以上、特に好ましくは15モル%以上であり、5モル%未満の場合には、湿度膨張係数の低減効果が不十分となる。一方、50モル%以上の場合には、湿度膨張係数の低減効果はそれ以上増大しないだけでなく、製膜性が低下する。なお、式(I)成分による湿度膨張係数低減効果は少量でも非常に効率的に発現されるので、湿度膨張係数の観点に加えて製膜性も向上できるという観点から、好ましい6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分の共重合割合は、40モル%未満、さらに35モル%以下、特に30モル%以下が好ましい。
【0016】
このような特定量の式(I)および式(II)で表されるジカルボン酸成分が共重合された共重合ポリエステルを用いることによって、温度膨張係数と湿度膨張係数の小さい寸法安定性に優れた成形品、例えばフィルムを製造することができる。
【0017】
〔ジオール成分〕
ジオール成分は、全ジオール成分を基準として炭素数2〜10のアルキレングリコールが90〜100モル%であり、好ましくは95〜100モル%、特に好ましくは98〜100モル%である。10モル%以下の割合であれば、例えばジエチレングリコール、ビスフェノールAなどの他のジオール成分を共重合していてもよい。
【0018】
好ましく用いられる炭素数2〜10のアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等があげられ、これらの中でも特にエチレングリコールが好ましい。
【0019】
上記ジカルボン酸成分とジオール成分とからなる共重合ポリエステルは、P−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(重量比40/60)の混合溶媒を用いて35℃で測定した固有粘度が0.4〜3dl/gの範囲が好ましく、さらには0.4〜1.5dl/g、特に0.5〜1.2dl/gの範囲が好ましい。
【0020】
また、DSCで測定した融点は、200〜260℃の範囲が好ましく、さらには210〜255℃、特に220〜253℃の範囲が好ましい。この融点が上限を越えると、溶融押出して成形する際に、流動性を高めるにはより高温にすることが必要になって熱劣化しやすくなり、一方、下限未満になると、製膜性は優れるものの、ポリエステルの持つ機械的特性などが損なわれやすくなる。
【0021】
一般に共重合ポリエステルは、ホモポリエステルに比較すると融点が低く、機械的強度が低下する傾向にある。しかし、本発明の共重合ポリエステルは、式(I)または式(II)で表されるジカルボン酸成分の合計の割合が全ジカルボン酸成分に対して90モル%以上を占める共重合ポリエステルであり、式(I)で表されるジカルボン酸成分のホモポリエステルに比べて融点は低くなるものの、成形品の機械的強度は同じ程度であるという優れた特性を有する。
【0022】
本発明における共重合ポリエステルのDSCで測定したガラス転移温度(以下、Tgと称することがある。)は、好ましくは80〜125℃、より好ましくは95〜123℃、特に好ましくは110〜120℃の範囲にある。Tgがこの範囲にあると、耐熱性および寸法安定性に優れたフィルムなどの成形体を得ることができる。融点やガラス転移温度は、共重合成分の種類と共重合量の制御などによって調整できる。
【0023】
[共重合ポリエステルの製造方法]
上記共重合ポリエステルは、公知のポリエステル製造方法にしたがって製造することができる。例えば、6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸もしくはそのエステル形成性誘導体と例えば2,6−ナフタレンジカルボン酸やテレフタル酸もしくはそのエステル形成性誘導体と、例えばエチレングリコールとをエステル化反応もしくはエステル交換反応させ、ポリエステル前駆体を製造する。そして、得られたポリエステル前駆体を重縮合触媒の存在下で重縮合し、さらに必要に応じて固相重合することにより製造することができる。なお、前述の式(I)と(II)の割合が異なる2種類のポリマーを作り、前述の式(I)と(II)の割合が目的となるようにそれらを溶融混練してもよい。この場合、一方のポリエステルとして前記式(I)で表される芳香族ジカルボン酸成分が含まれないものを用いても構わない。
【0024】
上記ポリエステル前駆体を製造する工程では、エチレングリコールを全酸成分のモル数に対して、1.1〜6倍モル、さらに2〜5倍モル、特に3〜5倍モル用いることが生産性の点から好ましい。
【0025】
また、ポリエステル前駆体を製造する際の反応温度としては、エチレングリコールの沸点以上で行うことが好ましく、特に190〜250℃の範囲で行なうことが好ましい。190℃よりも低いと反応が十分に進行しにくく、250℃よりも高いと副反応物であるジエチレングリコールが生成しやすい。また、反応を常圧下で行うこともできるが、さらに生産性を高めるために加圧下で行ってもよい。より詳しくは、絶対圧力で10kPa以上200kPa以下、反応温度は通常150℃以上250℃以下、好ましくは180℃以上230℃以下で、反応時間10分以上10時間以下、好ましくは30分以上7時間以下行われるのが好ましい。
【0026】
このポリエステル前駆体を製造する工程では、公知のエステル化もしくはエステル交換反応触媒を用いてもよい。例えばアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、チタン化合物などがあげられる。
【0027】
つぎに、重縮合温度は、得られる共重合ポリエステルの融点以上でかつ230〜280℃以下、より好ましくは融点より5℃以上高い温度から融点より30℃高い温度の範囲である。重縮合反応では通常50Pa以下の減圧下で行うのが好ましい。50Paより高いと重縮合反応に要する時間が長くなり且つ重合度の高い共重合ポリエステルを得ることが困難になる。
【0028】
重縮合触媒としては、少なくとも一種の金属元素を含む金属化合物が挙げられる。なお、重縮合触媒はエステル化反応やエステル交換反応の触媒として併用してもよい。金属元素としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、コバルト、ロジウム、イリジウム、ジルコニウム、ハフニウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。より好ましい金属としては、チタン、ゲルマニウム、アンチモン、アルミニウム、スズなどであり、中でも、チタン化合物はエステル化反応やエステル交換反応と重縮合反応との双方の反応で、高い活性を発揮するので好ましい。
【0029】
これらの触媒は単独でも、あるいは併用してもよい。かかる触媒量は、共重合ポリエステルの全酸成分に対して、0.001〜0.5モル%、さらには0.005〜0.2モル%が好ましい。
【0030】
[組成物]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、上記の共重合ポリエステルに、環状イミノエーテル化合物またはカルボジイミド化合物からなる改質剤を含有している必要がある。
【0031】
[環状イミノエーテル化合物]
本発明で用いられる環状イミノエーテル化合物は、分子内に環状イミノエーテル基を有するものであれば特に限定されないが、例えば環状イミノエーテル基としてオキサゾリン基またはオキサジン基を有する化合物が好ましい。好ましく用いられる環状イミノエーテル化合物としては、例えば2,2'−ビス(2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4−メチル−2−オキサゾリン)、2,2'−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン)、2,2'−p−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−m−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−o−フェニレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−エチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−テトラメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−ヘキサメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−オクタメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−デカメチレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−シクロヘキシレンビス(2−オキサゾリン)、2,2'−ジフェニレンビス(2−オキサゾリン)等のビスオキサゾリン化合物、2,2'−ビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−メチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−エチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−プロピレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−ブチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−ヘキサメチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−p−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−m−フェニレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、2,2'−ナフチレンビス(5,6−ジヒドロ−4H−1,3−オキサジン)、等のビスオキサジン化合物をあげることができる。
【0032】
なかでも、下記式(A)で表されるビスオキサゾリン化合物が好ましく、なかでも2,2'−ビス(2−オキサゾリン)が特に好ましい。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ水素原子または1価の有機基であり、Xは2価の有機基であり、nは0または1である。)
【0033】
[カルボジイミド化合物]
一方カルボジイミド化合物は、分子中にカルボジイミド結合を有するものであれば1官能性のカルボジイミドであっても、2官能以上のポリカルボジイミドであってもよい。例えば1官能性カルボジイミド化合物としては、ジメチルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジイソブチルカルボジイミド、ジ−t−ブチルカルボジイミド、ジオクチルカルボジイミド、t−ブチルイソプロピルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ジ−β−ナフチルカルボジイミド等が挙げられる。また、ポリカルボジイミド化合物としては、芳香族ジイソシアネート化合物、脂肪族ジイソシアネート化合物または脂環族ジイソシアネート化合物を反応して得られるポリカルボジイミドがあげられ、例えば1,5−ナフタレンカルボジイミド、4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド、4,4’−ジフェニルジメチルメタンカルボジイミド、1,3−フェニレンカルボジイミド、1,4−フェニレンカルボジイミド、2,4−トリレンカルボジイミド、2,6−トリレンカルボジイミド、2,4−トリレンカルボジイミドと2,6−トリレンカルボジイミドの混合物、ヘキサメチレンカルボジイミド、シクロヘキサン−1,4−カルボジイミド、キシリレンカルボジイミド、イソホロンカルボジイミド、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−カルボジイミド、メチルシクロヘキサンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、2,6−ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミドなどがあげられる。
【0034】
また、上記ポリカルボジイミド化合物の場合は、モノイソシアネート等の、ポリカルボジイミド化合物の末端イソシアネートと反応する化合物を用いて、適当な重合度に制御することもできる。このようなポリカルボジイミド化合物の末端を封止してその重合度を制御するためのモノイソシアネートとしては、例えば、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ジメチルフェニルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、ブチルイソシアネート、ナフチルイソシアネート等を例示することができる。
【0035】
これらのポリカボジイミド化合物の中でも、4,4’−ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド、下記式(B)で表される例えば1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミドが好ましく、
【化2】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の分岐を有していても良いアルキル基であり、nは3〜150の整数である。)
特に式(B)で表されるポリカルボジイミドが好ましい。ポリカルボジイミドの平均重合度としては3〜150であることが好ましい。なお、1官能性のカルボジイミド化合物の場合には、本発明の目的である経時耐久性の改善効果が小さくなることがあるので、ポリカルボジイミドであることが好ましい。しかしながら、平均重合度が大きくなりすぎると、カルボジイミドの合成において反応物の固化やゲル化が生じたり、またポリエステル樹脂組成物中での分散性が低下して十分な耐久性改善効果が得られないことがある。
【0036】
上記の環状イミノエーテル化合物またはカルボジイミド化合物からなる改質剤は、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよいが、前記共重合ポリエステル100質量部に対して、合計で0.05〜10質量部、好ましくは0.08〜8質量部、さらに好ましくは0.1〜5質量部、特に好ましくは0.3〜2質量部含有している必要がある。該改質剤の合計の含有量が0.05質量部未満の場合には、耐加水分解性の向上効果が不十分となり、一方、10質量部を超える場合にはポリエステル樹脂の溶融粘度が高くなり過ぎ、溶融押出の際に負荷が大きくなるので好ましくない。
【0037】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、そのカルボキシル末端基量が1〜20当量/10gであることが好ましく、より好ましい範囲は1〜18当量/10g、特に好ましい範囲は1〜15当量/10gである。この末端基量が20当量/10gを超える場合には、耐加水分解性などの経時耐久性の改善効果が小さくなる場合があり、一方、1当量/10g未満とするためには、前記改質剤を多量に添加したり、共重合ポリエステルを長時間固相重合することが必要となり、生産性が低下しやすい。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法は、前記環状イミノエーテル化合物またはカルボジイミド化合物などの改質剤を、前記共重合ポリエステルの重合反応系に添加しても、重合反応が完了した後に溶融混合してもよいが、重合反応が完了した後に混合するのが好ましい。また、一旦チップ化した共重合ポリエステルを溶融押出し機を用いて溶融混合してもよく、この場合には、前記改質剤を比較的高濃度に含有するポリエステルチップ(いわゆるマスターバッチ)をチップの状態で混合し、次いで溶融混合する方法が好ましい。この場合、前述の式(I)と(II)の割合が異なる2種類のポリマーを、前述の式(I)と(II)の割合が目的となるように溶融混練してもよく、もちろん、一方のポリエステルとして前記式(I)で表される芳香族ジカルボン酸成分が含まれないものを用いても構わない。
【0039】
このようにして得られる本発明のポリエステル樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の熱可塑性ポリマー、紫外線吸収剤等の安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、離型剤、顔料、核剤、充填剤あるいはガラス繊維、炭素繊維、層状ケイ酸塩などを必要に応じて配合してもよい。なお、他種熱可塑性ポリマーとしては、液晶性樹脂、脂肪族ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリエーテルイミド、ポリイミドなどが挙げられる。
【0040】
<フィルムの製造方法>
本発明のポリエステル樹脂組成物を原料とし、これを乾燥後、該ポリエステル樹脂組成物の融点(Tm:℃)ないし(Tm+50)℃の温度に加熱された押出機に供給して、例えばTダイなどのダイよりシート状に押出す。なお、使用するポリエステル樹脂組成物は、1種類に限られず、例えば前述の式(I)の割合が多いポリマーと、前述の式(II)の多いポリマーとを作り、前述の式(I)と(II)の割合が目的の範囲となるように前記改質剤と共に溶融混練して用いてもよく、そのような方法を採用することで、前述の式(I)と(II)の割合を任意に且つ簡便に変更することができる。この押出されたシート状物を回転している冷却ドラムなどで急冷固化して未延伸フィルムとし、さらに該未延伸フィルムを二軸延伸することで二軸配向フィルムとすることができる。
【0041】
なお、後述の延伸を進行させやすくする観点から、冷却ドラムによる冷却は非常に速やかに行なうことが好ましく、20〜60℃の低温で行なうことが好ましい。このような低温で行うことで、未延伸フィルムの状態での結晶化が抑制され、その後の延伸をよりスムーズに行うことができる。
【0042】
二軸延伸としては、逐次二軸延伸でも同時二軸延伸でもよい。
ここでは、逐次二軸延伸で、縦延伸、横延伸および熱処理をこの順で行う製造方法を一例として挙げて説明する。まず、最初の縦延伸はポリエステルのガラス転移温度(Tg:℃)ないし(Tg+40)℃の温度で、3〜8倍に延伸し、次いで横方向に先の縦延伸よりも高温で(Tg+10)〜(Tg+50)℃の温度で3〜8倍に延伸し、さらに熱処理としてポリマーの融点以下の温度でかつ(Tg+50)〜(Tg+150)℃の温度で1〜20秒熱固定処理するのが好ましい。なお、熱固定の時間はさらに1〜15秒が好ましい。
【0043】
なお、通常であれば、延伸倍率を上げると製膜安定性が損なわれるが、本発明のポリエステル樹脂組成物は延伸性が高いので、そのような問題は無く、特に延伸倍率をより高くできることから、厚みが10μm以下、特に8μm以下の薄いフィルムでも安定して製膜することができる。フィルム厚みの下限は特に制限されないが、通常1μm程度、好ましくは3μmである。
一方、縦延伸と横延伸とを同時に行う同時二軸延伸でも同様に延伸でき、上記逐次二軸延伸で説明した延伸倍率や延伸温度などを参考にすればよい。
【0044】
また、二軸配向フィルムが積層フィルムの場合、2種以上の溶融ポリエステル樹脂組成物をダイ内で積層してからフィルム状に押出し、好ましくはそれぞれのポリエステル樹脂組成物の融点(Tm:℃)ないし(Tm+70)℃の温度で押出すか、2種以上の溶融ポリエステル樹脂組成物をダイから押出した後に積層し、急冷固化して積層未延伸フィルムとし、ついで前述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行うとよい。このとき、全てのフィルム層が本発明のポリエステル樹脂組成物である必要はなく、少なくとも一つのフィルム層が本発明のポリエステル樹脂組成物からなるものであれば良い。また、二軸配向フィルムの表面に塗布層を設けてもよく、その場合、前記した未延伸フィルムまたは一軸延伸フィルムの片面または両面に所望の塗布液を塗布し、後は前述の単層フィルムの場合と同様な方法で二軸延伸および熱処理を行うことが好ましい。
【0045】
以上のようにして得られる本発明の二軸配向フィルムは、製膜方向(MD方向)、幅方向(TD方向)の少なくともいずれか一方の温度膨張係数(αt)が、好ましくは14×10−6/℃以下、より好ましくは10×10−6/℃以下、さらに好ましくは7×10−6℃以下、特に好ましくは5×10−6/℃以下の範囲であることが、雰囲気の温度変化による寸法変化に対して優れた寸法安定性を発現できることから好ましい。
【0046】
また、二軸配向フィルムの製膜方向、幅方向の少なくともいずれか一方の温度膨張係数(αt)の下限は、好ましくは−15×10−6/℃、より好ましくは−10×10−6/℃、さらに好ましくは−7×10−6/℃である。
【0047】
なお、特許文献3によれば、ポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートを共重合したポリエステルフィルムの温度膨張係数(αt)は大きくなることが予想される。しかし、本発明によれば、特定の共重合比のポリエステルを採用し、かつ延伸することにより、温度膨張係数(αt)を小さくすることができる。
【0048】
本発明の二軸配向フィルムは、製膜方向、幅方向の少なくともいずれか一方の湿度膨張係数(αh)が1×10−6〜7×10−6/%RH、さらに1×10−6〜6×10−6/%RHの範囲にあることが好ましい。
【0049】
さらに、本発明の二軸配向フィルムは、フィルムの製膜方向のヤング率が、好ましくは4.5GPa以上、より好ましくは5GPa以上であることが、高温加工時の伸びを抑制する点から好ましい。フィルムの製膜方向のヤング率(Y)の上限は12GPa程度がフィルムの幅方向にも十分なヤング率を具備させやすいことから好ましい。
一方、フィルムの幅方向のヤング率が、6〜14GPa、より好ましくは7〜12GPaの範囲にあることが、フィルムの幅方向の温度膨張係数や湿度膨張係数を上記範囲内に調整しやすいことから好ましい。
【実施例】
【0050】
以下に実施例および比較例をあげて、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明では、以下の方法により、その特性を測定および評価した。
【0051】
(1)固有粘度
得られたポリエステルの固有粘度はP−クロロフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン(40/60重量比)の混合溶媒を用いてポリマーを溶解して35℃で測定して求めた。
【0052】
(2)ガラス転移点および融点
ガラス転移点および融点はDSC(TAインスツルメンツ社製、商品名:Q100)により昇温速度20℃/minで測定した。
【0053】
(3)共重合量
(グリコール成分)試料10mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに80℃で溶解し、イソプロピルアミンを加えて十分に混合した後に、600MHzのH−NMRを日本電子株式会社製、JEOL A600を用いて80℃で測定し、それぞれのグリコール成分量を求めた。
(酸成分)試料60mgをp−クロロフェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=3:1(容積比)混合溶液0.5mlに140℃で溶解し、150MHzの13C−NMRを日本電子株式会社製、JEOL A600を用いて140℃で測定し、それぞれの酸成分量を求めた。
【0054】
(4)温度膨張係数(αt)
得られたフィルムを、フィルムのTD方向(またはMD方向)が測定方向となるように長さ20mm、幅4mmに切り出し、セイコーインスツル製TMA/SS6000にセットし、窒素雰囲気下(0%RH)、80℃で30分前処理し、その後室温まで降温させた。その後30℃から80℃まで2℃/minで昇温して、各温度でのサンプル長を測定し、次式より温度膨張係数(αt)を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値を用いた。
αt={(L60−L40)}/(L40×△T)}+0.5×10−6
ここで、上記式中のL40は40℃のときのサンプル長(mm)、L60は60℃のときのサンプル長(mm)、△Tは20(=60−40)℃、0.5×10−6/℃は石英ガラスの温度膨張係数(αt)である。
【0055】
(5)湿度膨張係数(αh)
得られたフィルムを、フィルムのTD方向(またはMD方向)が測定方向となるように長さ15mm、幅5mmに切り出し、ブルカーAXS製TMA4000SAにセットし、30℃の窒素雰囲気下で、湿度20%RHと湿度80%RHにおけるそれぞれのサンプルの長さを測定し、次式にて湿度膨張係数(αh)を算出した。なお、測定方向が切り出した試料の長手方向であり、5回測定し、その平均値をαhとした。
αh=(L80−L20)/(L20×△H)
ここで、上記式中のL20は20%RHのときのサンプル長(mm)、L80は80%RHのときのサンプル長(mm)、△H:60(=80−20)%RHである。
【0056】
(6)カルボキシル末端基量
得られたフィルムを、窒素雰囲気下、200℃でベンジルアルコールに溶解させた後、滴定法によりカルボキシル末端基量(当量/10g)を測定した。
【0057】
(7)耐加水分解性
得られたフィルムについて、フィルムの縦方向(MD方向)に100mm長、横方向(HD方向)に10mm幅に切り出して短冊状の試料片とし、121℃・2atm・濡れ飽和モード・100%RHに設定した環境試験機内に一定時間(100時間)放置する。その後試料片を取り出し、その縦方向の破断強度を5回測定し、平均値を求めた。その平均値を放置前の破断強度の測定値で割った値を破断強度保持率(%)とし、下記基準にて耐加水分解性を評価した。なお、耐加水分解性は破断強度保持率の高いものが良好と判断される。
破断強度保持率(%)=(処理時間100時間後の破断強度)/(処理前の破断強度)×100
◎:破断強度保持率 75%以上
○:破断強度保持率 60%以上75%未満
△:破断強度保持率 40%以上60%未満
×:破断強度保持率 40%未満
【0058】
[参考例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の30モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の70モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステル(PB1)を得た。なお、該芳香族ポリエステルには、重縮合反応の前に平均粒径0.4μmのシリカ粒子を、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.3重量%となるように含有させた。
【0059】
[参考例2]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル、6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸そしてエチレングリコールとを、チタンテトラブトキシドの存在下でエステル化反応およびエステル交換反応を行い、さらに引き続いて重縮合反応を行って、固有粘度0.62dl/gで、酸成分の99.5モル%が2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、酸成分の0.5モル%が6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、グリコール成分がエチレングリコールである芳香族ポリエステル(PA1)を得た。なお、該芳香族ポリエステルには、重縮合反応の前に平均粒径0.4μmのシリカ粒子を、得られる樹脂組成物の重量を基準として、0.3重量%となるように含有させた。
【0060】
[実施例1]
参考例1および2で得られた芳香族ポリエステル(PA1)と(PB1)とを、質量比で61:39の割合で、さらに改質剤として2,2'−ビス(2−オキサゾリン)を芳香族ポリエステル100質量部に対して1質量部の割合で混合し、押し出し機に供給して295℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度55℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が133℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.0倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、横延伸温度135℃で横延伸倍率8.3倍、熱固定処理(202℃で10秒間)および冷却を行い、厚さ5.0μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0061】
[実施例2]
実施例1において、改質剤の種類をポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)(分子量:約10000)に変更した以外は同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0062】
[実施例3]
参考例1および2で得られた芳香族ポリエステル(PA1)と(PB1)とを、質量比で52:48の割合で、さらに改質剤としてポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)(分子量:約10000)を芳香族ポリエステル100質量部に対して1質量部の割合で混合し、押し出し機に供給して300℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度55℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が130℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.7倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、横延伸温度130℃で横延伸倍率8.3倍、熱固定処理(194℃で10秒間)および冷却を行い、厚さ5.0μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0063】
[実施例4]
参考例1および2で得られた芳香族ポリエステル(PA1)と(PB1)とを、質量比76:24の割合で、さらに改質剤としてポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)(分子量:約10000)を芳香族ポリエステル100質量部に対して1質量部の割合で混合し、押し出し機に供給して300℃(平均滞留時間:15分)でダイから溶融状態で回転中の温度55℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が136℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率5.2倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、横延伸温度138℃で横延伸倍率8.2倍、熱固定処理(212℃で10秒間)および冷却を行い、厚さ5.0μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0064】
[実施例5]
参考例1および2で得られた芳香族ポリエステル(PA1)と(PB1)とを、質量比で40:60の割合で、さらに改質剤としてポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)(分子量:約10000)を芳香族ポリエステル100質量部に対して0.5質量部の割合で混合し、押し出し機に供給して300℃(平均滞留時間:20分)でダイから溶融状態で回転中の温度55℃の冷却ドラム上にシート状に押し出し未延伸フィルムとした。そして、製膜方向に沿って回転速度の異なる二組のローラー間で、上方よりIRヒーターにてフィルム表面温度が125℃になるように加熱して縦方向(製膜方向)の延伸を、延伸倍率6.2倍で行い、一軸延伸フィルムを得た。そして、この一軸延伸フィルムをステンターに導き、横延伸温度125℃で横延伸倍率9.5倍、熱固定処理(190℃で10秒間)および冷却を行い、厚さ4.5μmの二軸延伸フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0065】
[実施例6]
実施例2において、改質剤(ポリ(1,3,5−トリイソプロピルフェニレン−2,4−カルボジイミド)(分子量:約10000))の添加量を2質量部に変更した以外は同様な操作を繰り返した。得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0066】
[比較例1]
実施例1において、改質剤を添加しなかった以外は同様な操作を繰り返した。
得られた二軸配向フィルムの特性を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1中の、B成分は2,6−ナフタレンジカルボン酸成分、A成分は6,6’−(エチレンジオキシ)ジ−2−ナフトエ酸成分、Tgはガラス転移温度、Tmは融点、TDはフィルムの幅方向を示す。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明のポリエステル樹脂組成物からなる二軸配向ポリエステルフィルムは、従来のポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートやポリアルキレン−6,6’−(アルキレンジオキシ)ジ−2−ナフトエートでは達成できなかったような優れた寸法安定性を有し、さらに耐加水分解性などの経時耐久性にも優れた性能を有することから、高密度磁気記録媒体のベースフィルムや太陽電池のバックシート用ベースフィルムとして、好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)または下記式(II)で表されるジカルボン酸成分の合計の割合が全ジカルボン酸成分の90〜100モル%であると共に、下記式(I)で表されるジカルボン酸成分が全ジカルボン酸成分の5モル%以上、50モル%未満を占め、かつ、全ジオール成分の90〜100モル%が炭素数2〜10のアルキレングリコールである共重合ポリエステル100質量部に対して、環状イミノエーテル化合物またはカルボジイミド化合物からなる改質剤を0.05〜10質量部含有するポリエステル樹脂組成物。
HO(O)C−R−ORO−R−C(O)OH (I)
[上記式(I)中、Rは炭素数2〜10のアルキレン基、Rは2,6−ナフタレンジイル基を表す。]
HO(O)C−R−C(O)OH (II)
[上記式(II)中、Rはフェニレン基またはナフタレンジイル基を表す。]
【請求項2】
改質剤が、下記式(A)で表されるオキサゾリン化合物である請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【化1】

(式中、R〜Rはそれぞれ水素原子または1価の有機基であり、Xは2価の有機基であり、nは0または1である。)
【請求項3】
改質剤が、下記式(B)で表されるカルボジイミド化合物である請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【化2】

(式中、Rは水素原子または炭素数1〜5の分岐を有していてもよいアルキル基であり、nは3〜150の整数である。)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物からなる二軸配向フィルム。

【公開番号】特開2010−31174(P2010−31174A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196199(P2008−196199)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】