説明

ポリエステル重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステル並びにポリエステルの製造方法

【課題】触媒活性に優れ、かつ成形品の透明性に優れたポリエステルを与えるポリエステル重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステル並びにポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】アルミニウム化合物とリン化合物を含む溶液からなるポリエステル重合触媒において、特定のリン化合物を用いることを特徴とする重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステルおよびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエステル重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステルならびにポリエステルの製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、ゲルマニウム、アンチモン化合物を触媒主成分として用いない新規のポリエステル重合触媒、およびこれを用いて製造されたポリエステル、並びにポリエステルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル、特にポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略す)は、機械的特性および化学的特性に優れており、多用途への応用、例えば、衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などの各種フィルムやシート、ボトルやエンジニアリングプラスチックなどの成形物への応用がなされている。
【0003】
PET は、工業的にはテレフタル酸もしくはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールとのエステル化もしくはエステル交換によってビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレートを製造し、これを高温、真空下で触媒を用いて重縮合することで得られる。
【0004】
重縮合時に用いられる触媒としては、三酸化アンチモンが広く用いられている。三酸化アンチモンは、安価で、かつ優れた触媒活性をもつ触媒であるが、重縮合時に金属アンチモンが析出するため、PETに黒ずみや異物が発生するという問題点を有している。また、最近環境面からアンチモンの安全性に対する問題が指摘されている。このような経緯で、アンチモンを含まないか極少量のみ含むポリエステルが望まれている。
【0005】
重縮合触媒として、三酸化アンチモンを用いて、かつ PET の黒ずみや異物の発生を抑制する試みが行われている。例えば、特許文献1においては、重縮合触媒として三酸化アンチモンとビスマスおよびセレンの化合物を用いることで、PET中の黒色異物の生成を抑制している。また、特許文献2においては、重縮合触媒としてナトリウムおよび鉄の酸化物を含有する三酸化アンチモンを用いると、金属アンチモンの析出が抑制されることを述べている。ところが、これらの重縮合触媒では、結局アンチモンを含まないポリエステルという目的は達成できない。
【0006】
三酸化アンチモンの代わりとなる重縮合触媒の検討も行われている。特に、テトラアルコキシチタネートに代表されるチタン化合物がすでに提案されているが、これを用いて製
造された PET は著しく着色すること、ならびに熱分解を容易に起こすという問題がある。
【0007】
このような、テトラアルコキシチタネートを重縮合触媒として用いたときの問題点を克服する試みとして、例えば、特許文献3では、テトラアルコキシチタネートをコバルト塩およびカルシウム塩と同時に用いる方法が提案されている。また、特許文献4によると、重縮合触媒としてテトラアルコキシチタネートをコバルト化合物と同時に用い、かつ蛍光増白剤を用いる方法が提案されている。ところが、これらの提案では、テトラアルコキシチタネートを重縮合触媒として用いたときの PET の着色は低減されるものの、一方 PETの熱分解を効果的に抑制することは達成されていない。
【0008】
【特許文献1】特許第2666502号公報
【特許文献2】特開平9-291141号公報
【特許文献3】特開昭55-116722号公報
【特許文献4】特開平8-73581号公報
【0009】
三酸化アンチモンの代わりとなる重縮合触媒でかつ、テトラアルコキシチタネートを用いたときのような問題点を克服する重縮合触媒としては、ゲルマニウム化合物が実用化されているが、この触媒は非常に高価であるという問題点や、重合中に反応系から外へ留出しやすいため反応系の触媒濃度が変化し重合の制御が困難になるという問題点を有している。
【0010】
アルミニウム化合物は一般に触媒活性に劣ることが知られている。アルミニウム化合物の中でも、アルミニウムのキレート化合物は他のアルミニウム化合物に比べて重縮合触媒として高い触媒活性を有することが報告されているが、上述のアンチモン化合物やチタン化合物と比べると十分な触媒活性を有しているとは言えず、しかもアルミニウム化合物を触媒として用いて長時間を要して重合したポリエステルは熱安定性に劣るという問題や、アルミニウム化合物由来の異物や着色といった問題点を十分に回避できなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ゲルマニウム、アンチモン化合物を触媒主成分として用いない新規のポリエステル重合触媒、およびこれを用いて製造されたポリエステル、並びにポリエステルの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の筆者らは、上記課題の解決を目指して鋭意検討を重ねた結果、アルミニウム化合物はもともと触媒活性に劣るが、アルミと特定のリン化合物とを溶液中で混合したものを用いることで触媒活性に優れたポリエステル重合触媒となる事を見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち本発明は、
(1)ポリエステル重合触媒であって、アルミニウムおよびその化合物とリン化合物を含む溶液からなり、下記一般式(化2)で表されるリン化合物の少なくとも一種を含むことを特徴とするポリエステル重合触媒。
【化2】

(式(化2)中、R1は炭素数1〜50の脂肪族炭化水素基(直鎖状あるいは脂環構造あるいは分岐構造であってもよい)あるいは炭素数6〜50の芳香環構造あるいは炭素数4〜50の複素環構造を表し、該脂肪族炭化水素あるいは芳香環構造あるいは複素環構造は置換基を有していてもよい。また、脂肪族炭化水素基の構造中に異種の置換基を含んでもよい。具体的には、−O−、−OCH2−、−SO2−、−CO−、−COCH2−、−CH2OCO−、−NHCO−、−NH−、−NHCONH−、−NHSO2−、−NHC36OCH2CH2O−から選ばれる。R2およびR3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜20の炭化水素基を表す。炭化水素基は脂環構造や分岐構造や芳香環構造を有していてもよい。)
(2)式(化2)のR1が炭素数1〜50の脂肪族炭化水素(直鎖状あるいは脂環構造あるいは分岐構造であってもよい)であることを特徴とするポリエステル重合触媒。
(3)式(化2)中で表されるリン化合物の置換基において、ハロゲン置換された炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基、炭素数1〜10のアルコキシル基およびアルカノール基、ハロゲン基、ニトリル基、シアノアルキル基、アミノ基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)あるいはニトロ基あるいはカルボキシル基あるいは炭素数1〜10の脂肪族カルボン酸エステル基あるいはホルミル基あるいはアシル基あるいはスルホン酸基、スルホン酸アミド基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)から選ばれる1種もしくは2種以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のポリエステル重合触媒。
(4)上記脂肪族炭化水素基が炭素数1〜18の炭化水素基から選ばれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル重合触媒。
(5)前記R2およびR3の少なくとも一方が水素原子であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステル重合触媒。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の重合触媒を用いることを特徴とするポリエステルの製造方法。
(7)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の重合触媒を用いて製造されたポリエステル。
(8)前記(1)〜(5)のいずれかに記載のポリエステル重合触媒を用いることを特徴とするポリエステルの製造方法。
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来のアンチモン、ゲルマニウムおよびチタン触媒を主触媒としないにもかかわらず、触媒活性に優れ、成形品の透明性に優れ、色調に優れ、異物の低減されたポリエステルを与えるポリエステル重合触媒およびこれを用いて製造されたポリエステル並びにポリエステルの製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の重合触媒はアルミニウム化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、リン化合物から選ばれる少なくとも1種からなるポリエステル重合触媒であり、アルミニウム化合物およびリン化合物が予め溶媒中で混合された溶液またはスラリーからなることを特徴とするポリエステル重合触媒である。より好ましくは、該アルミニウム化合物と該リン化合物の少なくとも一方が予め溶媒中で加熱処理されたものを用いて混合された溶液またはスラリーからなることを特徴とするポリエステル重合触媒である。
【0016】
(リン化合物の調製法)
加熱処理の温度は特に限定はされないが、20〜250℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは、100〜200℃の範囲である。温度の上限は、用いる溶媒の沸点付近とすることが好ましい。加熱時間は、温度等の条件によっても異なるが、溶媒の沸点付近の温度だと1分〜50時間の範囲であることが好ましく、より好ましくは30分〜10時間、さらに好ましくは1〜5時間の範囲である。加熱処理の系の圧力は常圧、もしくはそれ以上あるいは以下であってもよく特に限定されない。溶液の濃度は、リン化合物として1〜500g/lであることが好ましく、より好ましくは5〜300g/l、さらに好ましくは10〜100g/lである。加熱処理は窒素等の不活性気体の雰囲気下で行うことが好ましい。加熱後の溶液もしくはスラリーの保管温度は特に限定はされないが、0℃〜100℃の範囲であることが好ましく、20℃〜60℃の範囲であることがより好ましい。溶液の保管は窒素等の不活性気体の雰囲気下で行うことが好ましい。
【0017】
本発明のポリエステル重合触媒を構成するリン化合物を予め加熱処理する時に使用する溶媒としては、水およびアルキレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、リン化合物を溶解する溶媒を用いることが好ましい。アルキレングリコールとしては、エチレングリコール等の目的とするポリエステルの構成成分であるグリコールを用いることが好ましい。溶媒中での加熱処理は、リン化合物を溶解してから行うのが好ましいが、完全に溶解していなくてもよい。また、加熱処理の後に、化合物がもとの構造を保持している必要はない。
【0018】
本発明のアルミニウム化合物とリン化合物を混合する際に用いる溶媒としては、水およびアルキレングリコールからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルミニウム化合物とリン化合物を溶解する溶媒を用いることが好ましい。アルキレングリコールとしては、エチレングリコール等の目的とするポリエステルの構成成分であるグリコールを用いることが好ましい。アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液あるいはスラリーと上記リン化合物のエチレングリコール溶液あるいはスラリーを攪拌混合し、溶液状あるいはスラリー状の重合触媒を得ることが可能である。さらに、上記溶液またはスラリーを加熱処理してもよい。これらの操作で得られた溶液もしくはスラリーを本発明の重合触媒として用いることが可能である。
【0019】
本発明のポリステル重合触媒は、アルミニウムおよびその化合物とリン化合物を含む溶液またはスラリーからなり、下記一般式(化3)で表されるリン化合物の少なくとも一種を含むことを特徴とするポリエステル重合触媒である。
【化3】

(式(化3)中、R1は炭素数1〜50の脂肪族炭化水素基(直鎖状あるいは脂環構造あるいは分岐構造であってもよい)あるいは炭素数6〜50の芳香環構造あるいは炭素数4〜50の複素環構造を表し、該脂肪族炭化水素あるいは芳香環構造あるいは複素環構造は置換基を有していてもよい。また、脂肪族炭化水素基の構造中に異種の原子を含んでもよい。具体的には、−O−、−OCH2−、−SO2−、−CO−、−COCH2−、−CH2OCO−、−NHCO−、−NH−、−NHCONH−、−NHSO2−、−NHC36OCH2CH2O−などから選ばれる。R2およびR3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜20の炭化水素基を表す。炭化水素基は脂環構造や分岐構造や芳香環構造を有していてもよい。)
【0020】
式(化3)中で表されるリン化合物の置換基は、ハロゲン置換された炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基、炭素数1〜10のアルコキシル基およびアルカノール基、ハロゲン基、ニトリル基、シアノアルキル基、アミノ基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)あるいはニトロ基あるいはカルボキシル基あるいは炭素数1〜10の脂肪族カルボン酸エステル基あるいはホルミル基あるいはアシル基あるいはスルホン酸基、スルホン酸アミド基(炭素数1〜10のアルキルあるいはアルカノール置換されていてもかまわない)から選ばれる1種もしくは2種以上であることが好ましい。
また、R2およびR3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜20の炭化水素基を表し、炭化水素基は脂環構造や分岐構造や芳香環構造を有していてもよいが、少なくとも一方が水素原子であることが好ましい。
しかしながら、前記一般式(化3)中のR2およびR3の両者共が炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜20の炭化水素基であってもアルキレングリコール中で事前に加熱処理する場合は、本発明のリン化合物として好適に使用できる。
【0021】
上記脂肪族炭化水素基は炭素数1〜18の炭化水素基が触媒活性や物性改善効果が高く好ましい。さらに好ましくは3〜12の炭化水素基、さらに好ましくは6〜8の炭化水素基である。
【0022】
本発明のリン化合物の具体例としては、以下のようなものが例示される。
【0023】
【化4】

【0024】
【化5】

【0025】
【化6】

【0026】
【化7】

【0027】
【化8】

【0028】
【化9】

【0029】
【化10】

【0030】
【化11】

【0031】
【化12】

【0032】
【化13】

【0033】
【化14】

【0034】
【化15】

【0035】
この様な特定の構造を有するリン化合物を使用する事により、アンチモン化合物またはゲルマニウム化合物を触媒主成分として含まず、アルミニウムを主たる金属成分とし、触媒活性に優れ、かつ触媒の失活もしくは除去をする事無しに、溶融成形時の熱劣化が効果的に抑制されて熱安定性に優れ、更に耐加水分解性にも優れたポリエステルを与え、なおかつ透明性や物性に優れた成形品を与えるポリエステル重合触媒が得られる。
【0036】
本発明のリン化合物を併用することにより、ポリエステル重合触媒中のアルミニウムとしての添加量が少量でも十分な触媒効果を発揮する触媒が得られる。
【0037】
本発明のリン化合物の使用量としては、得られるポリエステルのポリカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して0.0001〜0.1モル%が好ましく、0.005〜0.05モル%であることがさらに好ましい。リン化合物の添加量が0.0001モル%未満の場合には添加効果が発揮されない場合があり、0.1モル%を超えて添加すると逆にポリエステル重合触媒としての触媒活性が低下する場合があり、その低下の傾向は、アルミニウムの使用量等により変化する。
【0038】
リン化合物を使用せず、アルミニウム化合物を主たる触媒成分とする技術であって、アルミニウム化合物の使用量を低減し、さらにコバルト化合物を添加してアルミニウム化合物を主触媒とした場合の熱安定性の低下による着色を防止する技術があるが、コバルト化合物を十分な触媒活性を有する程度に添加するとやはり熱安定性が低下する。従って、この技術では両者を両立することは困難である。
【0039】
本発明によれば、上述の特定の化学構造を有するリン化合物の使用により、熱安定性の低下、異物発生等の問題を起こさず、しかも金属含有成分のアルミニウムとしての添加量が少量でも十分な触媒効果を有する重合触媒が得られ、この重合触媒を使用する事によりポリエステルフィルム、ボトル等の中空成形品、繊維やエンジニアリングプラスチック等の溶融成形時の熱安定性が改善される。本発明のリン化合物に代えてリン酸やトリメチルリン酸等のリン酸エステルを添加しても添加効果が見られず、実用的でない。また、本発明のリン化合物を本発明の添加量の範囲で従来のアンチモン化合物、チタン化合物、スズ化合物、ゲルマニウム化合物等の金属含有ポリエステル重合触媒と組み合わせて使用しても、溶融重合反応を促進する効果は認められない。なお、本発明のリン化合物を単独で本発明の添加量の範囲で使用しても触媒活性は認められない。
【0040】
本発明の重合触媒を構成するアルミニウム化合物としては、公知のアルミニウム化合物は限定なく使用できる。
【0041】
アルミニウム化合物としては、具体的には、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、プロピオン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、アクリル酸アルミニウム ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、安息香酸アルミニウム、トリクロロ酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、サリチル酸アルミニウムなどのカルボン酸塩、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、ホスホン酸アルミニウムなどの無機酸塩、アルミニウムメトキサイド、アルミニウムエトキサイド、アルミニウムn−プロポキサイド、アルミニウムiso−プロポキサイド、アルミニウムn−ブトキサイド、アルミニウムt−ブトキサイドなどアルミニウムアルコキサイド、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウムアセチルアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテート、アルミニウムエチルアセトアセテートジiso−プロポキサイドなどのアルミニウムキレート化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムなどの有機アルミニウム化合物及びこれらの部分加水分解物、アルミニウムのアルコキサイドやアルミニウムキレート化合物とヒドロキシカルボン酸からなる反応生成物、酸化アルミニウム、超微粒子酸化アルミニウム、アルミニウムシリケート、アルミニウムとチタンやケイ素やジルコニウムやアルカリ金属やアルカリ土類金属などとの複合酸化物などが挙げられる。これらのうちカルボン酸塩、無機酸塩及びキレート化合物が好ましく、これらの中でもさらに酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウム及びアルミニウムアセチルアセトネートがとくに好ましい。
【0042】
これらのアルミニウム化合物の中でも、アルミニウム含有量が高い酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムが好ましく、さらに溶解度の観点から酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化塩化アルミニウムが好ましい。さらに、装置を腐食しない観点から、酢酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウムの使用が特に好ましい。
【0043】
ここで、水酸化塩化アルミニウムは一般にポリ塩化アルミニウムや塩基性塩化アルミニウムなどとも呼ばれるものの総称であり、水道用に使われるものなどが使用できる。これらは、例えば一般構造式[Al2(OH)nCl6-n]m(ただし1≦n≦5)で表される。これらの中でも、装置を腐食しない観点から塩素含有量の少ないものが好ましい。
【0044】
上述の酢酸アルミニウムは、塩基性酢酸アルミニウム、トリ酢酸アルミニウム、酢酸アルミニウム溶液などに代表される酢酸のアルミニウム塩の構造を有するものの総称であり、これらの中でも、溶解性および溶液の安定性の観点から、塩基性酢酸アルミニウムの使用が好ましい。塩基性酢酸アルミニウムの中でも、モノ酢酸アルミニウム、ジ酢酸アルミニウム、あるいはこれらがホウ酸で安定化されたものが好ましい。ホウ酸で安定化されたものを用いる場合、塩基性酢酸アルミニウムに対して等モル以下の量のホウ酸で安定化されたものを用いることが好ましく、とくに1/2〜1/3モル量のホウ酸で安定化された塩基性酢酸アルミニウムの使用が好ましい。塩基性酢酸アルミニウムの安定剤としては、ホウ酸以外に尿素、チオ尿素などが挙げられる。上述のいずれの塩基性酢酸アルミニウムも水やグリコールなどの溶剤に可溶化したもの、とくに水および/またはエチレングリコールに可溶化したものを用いることが触媒活性や得られるポリエステルの品質の観点から好ましい。
【0045】
本発明で使用できる溶媒とは、水およびアルキレングリコール類である。アルキレングリコール類には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ジテトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどが挙げられる。好ましくは、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、さらに好ましくはエチレングリコールである。
【0046】
以下に、塩基性酢酸アルミニウム溶液の調製方法の具体例を示す。
(1)塩基性酢酸アルミニウムの水溶液の調製例
塩基性酢酸アルミニウムに水を加え室温で数時間以上攪拌する。攪拌時間は、12時間以上であることが好ましい。その後、60℃以上で数時間以上攪拌を行う。この場合の温度は、60〜80℃の範囲であることが好ましい。攪拌時間は、3時間以上であることが好ましい。水溶液の濃度は、10g/l〜30g/lが好ましく、とくに15g/l〜20g/lが好ましい。
(2)塩基性酢酸アルミニウムのエチレングリコール溶液の調製例
上述の水溶液に対してエチレングリコールを加える。エチレングリコールの添加量は水溶液に対して容量比で1〜5倍量が好ましい。より好ましくは2〜3倍量である。該溶液を数時間常温で攪拌することで均一な水/エチレングリコール混合溶液を得る。その後、該溶液を加熱し、水を留去することでエチレングリコール溶液を得ることができる。温度は60℃以上が好ましく、120℃以下が好ましい。より好ましくは80〜110℃で数時間攪拌して水を留去することが好ましい。さらに好ましくは、減圧下および/または窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で加熱し、水を留去し触媒溶液あるいはスラリーを調製することである。
【0047】
上述の乳酸アルミニウムは水やグリコールなどの溶媒に可溶化したもの、とくに水および/またはエチレングリコールに可溶化したものを用いることが触媒活性や得られるポリエステルの品質の観点から好ましい。
【0048】
以下に、乳酸アルミニウムのエチレングリコール溶液の調製方法の具体例を示す。
乳酸アルミニウムの水溶液を調製する。調製は室温下でも加熱下でもよいが室温下が好ましい。水溶液の濃度は20g/l〜100g/lが好ましく、50〜80g/lがとくに好ましい。該水溶液にエチレングリコールを加える。エチレングリコールの添加量は水溶液に対して容量比で1〜5倍量が好ましい。より好ましくは2〜3倍量である。該溶液を常温で攪拌し均一な水/エチレングリコール混合溶液を得た後、該溶液を加熱し、水を留去することでエチレングリコール溶液を得ることができる。温度は80℃以上が好ましく、120℃以下が好ましい。より好ましくは90〜110℃で数時間攪拌して水を留去することが好ましい。
【0049】
本発明のアルミニウム化合物の使用量としては、得られるポリエステルのジカルボン酸や多価カルボン酸などのカルボン酸成分の全構成ユニットのモル数に対して0.001〜0.05モル%が好ましく、更に好ましくは0.005〜0.02モル%である。使用量が0.001モル%未満であると触媒活性が十分に発揮されない場合があり、使用量が0.05モル%以上になると、熱安定性や熱酸化安定性の低下、アルミニウムに起因する異物の発生や着色の増加が問題になる場合が発生する。この様にアルミニウム成分の添加量が少なくても本発明の重合触媒は十分な触媒活性を示す点に大きな特徴を有する。その結果熱安定性や熱酸化安定性が優れ、アルミニウムに起因する異物や着色が低減される。
【0050】
本発明においてアルミニウムもしくはその化合物に加えて、アルカリ金属、アルカリ土類金属、若しくはこれらの化合物使用することが好ましい。これら物質を構成するアルカリ金属、アルカリ土類金属としては、Li、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、アルカリ金属ないしその化合物の使用がより好ましい。アルカリ金属ないしその化合物を使用する場合、特にLi、Na、Kの使用が好ましい。
【0051】
アルカリ金属やアルカリ土類金属の化合物としては、例えば、これらの金属のギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、蓚酸などの飽和脂肪族カルボン酸塩、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和脂肪族カルボン酸塩、安息香酸などの芳香族カルボン酸塩、トリクロロ酢酸などのハロゲン含有カルボン酸塩、乳酸、クエン酸、サリチル酸などのヒドロキシカルボン酸塩、炭酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホスホン酸、炭酸水素、リン酸水素、硫酸水素、亜硫酸、チオ硫酸、塩酸、臭化水素酸、塩素酸、臭素酸などの無機酸塩、1-プロパンスルホン酸、1-ペンタンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などの有機スルホン酸塩、ラウリル硫酸などの有機硫酸塩、メトキシ、エトキシ、n-プロポキシ、iso-プロポキシ、n-ブトキシ、t−ブトキシなどのアルコキサイド、アセチルアセトネートなどのキレート化合物、酸化物、水酸化物などが挙げられる。
【0052】
これらのアルカリ金属、アルカリ土類金属またはそれらの化合物のうち、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いる場合は、これらはエチレングリコール等のジオールもしくはアルコール等の有機溶剤に溶解しにくい傾向がある為、水溶液で重合系に添加しなければならず重合工程上問題となる場合がある。さらに、水酸化物等のアルカリ性の強いものを用いた場合、重合時にポリエステルが加水分解等の副反応を受けやすくなるとともに、重合したポリエステルは着色しやすくなる傾向がり、耐加水分解性も低下する傾向がある。従って、本発明のアルカリ金属またはそれらの化合物あるいはアルカリ土類金属またはそれらの化合物として好適なものは、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の飽和脂肪族カルボン酸塩、不飽和脂肪族カルボン酸塩、芳香族カルボン酸塩、ハロゲン含有カルボン酸塩、ヒドロキシカルボン酸塩、無機酸塩、有機硫酸塩、アルコキサイド、キレート化合物、酸化物である。これらの中でもさらに、取り扱い易さや入手のし易さ等の観点から、アルカリ金属あるいはアルカリ土類金属の飽和脂肪族カルボン酸塩が好ましく、酢酸塩がとくに好ましい。
【0053】
アルカリ金属、アルカリ土類金属並びにその化合物を添加する場合、その使用量M(モル%)は、ポリエステルを構成する全ポリカルボン酸ユニットのモル数に対して、1×10-6以上0.1モル%未満であることが好ましく、より好ましくは5×10-6〜0.05モル%であり、さらに好ましくは1×10-5〜0.03モル%であり、特に好ましくは、1×10-5〜0.01モル%である。アルカリ金属、アルカリ土類金属の添加量が少量であるため、熱安定性低下、異物の発生、着色等の問題を発生させることなく、反応速度を高めることが可能である。アルカリ金属、アルカリ土類金属並びにその化合物の使用量Mが0.1モル%以上になると熱安定性や耐加水分解性の低下、異物の発生や着色の増加が製品加工上問題となる場合が発生する。Mが1×10-6未満では、添加してもその効果が明確ではない。
【0054】
本発明のポリエステル重合触媒には、さらに、コバルト化合物をコバルト原子としてポリエステルに対して10ppm未満の量で添加する事が好ましい態様である。より好ましくは5ppm未満の量で添加する事であり、さらに好ましくは3ppm以下の量で添加する事である。
【0055】
コバルト化合物はそれ自身ある程度の重合活性を有していることは知られているが、前述の様に十分な触媒効果を発揮する程度に添加すると熱安定性が低下する。本発明によれば得られるポリエステルは熱安定性が良好であるが、コバルト化合物を上記の様な少量で、触媒効果が明確でないような添加量にて添加することにより、得られるポリエステルの着色をさらに効果的に消去できる。なお、本発明におけるコバルト化合物は、着色の消去が目的であり、添加時期は重合のどの段階であっても良く、重合反応終了後であってもかまわない。
【0056】
コバルト化合物としては特に限定はないが、具体的には例えば、酢酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト、コバルトアセチルアセトネート、ナフテン酸コバルトおよびそれらの水和物等が挙げられる。その中でも特に酢酸コバルト四水塩が好ましい。
【0057】
本発明によるポリエステルの製造は、触媒として本発明のポリエステル重合触媒を用いる点以外は従来公知の工程を備えた方法で行うことができる。例えば、PETを製造する場合は、テレフタル酸とエチレングリコールとのエステル化後、重縮合する方法、もしくは、テレフタル酸ジメチルなどのテレフタル酸のアルキルエステルとエチレングリコールとのエステル交換反応を行った後、重縮合する方法のいずれの方法でも行うことができる。また、重合の装置は、回分式であっても、連続式であってもよい。
【0058】
本発明の触媒は、重合反応のみならずエステル化反応およびエステル交換反応にも触媒活性を有する。例えば、テレフタル酸ジメチルなどのジカルボン酸のアルキルエステルとエチレングリコールなどのグリコールとのエステル交換反応による重合は、通常チタン化合物や亜鉛化合物などのエステル交換触媒の存在下で行われるが、これらの触媒に代えて、もしくはこれらの触媒に共存させて本発明の触媒を用いることもできる。また、本発明の触媒は、溶融重合のみならず固相重合や溶液重合においても触媒活性を有しており、いずれの方法によってもポリエステルを製造することが可能である。
【0059】
本発明の重合触媒は、重合反応の任意の段階で反応系に添加することができる。例えばエステル化反応もしくはエステル交換反応の開始前および反応途中の任意の段階あるいは重縮合反応の開始直前あるいは重縮合反応途中の任意の段階で反応系への添加することが出きる。特に、アルミニウムないしその化合物は重縮合反応の開始直前に添加することが好ましい。
【0060】
本発明の重縮合触媒であるアルミとリン以外の成分の添加方法は、粉末状もしくはニート状での添加であってもよいし、エチレングリコールなどの溶媒のスラリー状もしくは溶液状での添加であってもよく、特に限定されない。また、本発明の重合触媒であるアルミ化合物とリン化合物とそれ以外の成分を予め混合したものを添加してもよいし、これらを別々に添加してもよいが、各成分を予め混合したものを用いることが好ましい。混合後に加熱処理を行うことがより好ましい。また、本発明の重合触媒であるアルミ化合物とリン化合物とそれ以外の成分を同じ添加時期に重合系に添加しても良いし、それぞれを異なる添加時期に添加してもよい。
【0061】
本発明の重合触媒は、アンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物、スズ化合物等の他の重合触媒を、これらの成分の添加が前述の様なポリエステルの特性、加工性、色調等製品に問題が生じない添加量の範囲内において共存させて用いることは、重合時間の短縮による生産性を向上させる際に有利であり、好ましい。
【0062】
ただし、アンチモン化合物としては重合して得られるポリエステルに対してアンチモン原子として50ppm以下の量で添加可能である。より好ましくは30ppm以下の量で添加することである。アンチモンの添加量を50ppmより多くすると、金属アンチモンの析出が起こり、ポリエステルに黒ずみや異物が発生するため好ましくない。
【0063】
チタン化合物としては重合して得られるポリマーに対して10ppm以下の範囲で添加する事が可能である。より好ましくは5ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下の量で添加することである。チタンの添加量を10ppmより多くすると得られるレジンの熱安定性が著しく低下する。
【0064】
ゲルマニウム化合物としては重合して得られるポリエステル中にゲルマニウム原子として20ppm以下の量で添加することが可能である。より好ましくは10ppm以下の量で添加することである。ゲルマニウムの添加量を20ppmより多くするとコスト的に不利となるため好ましくない。
【0065】
本発明の重合触媒を用いてポリエステルを重合する際には、アンチモン化合物、チタン化合物マニウム化合物、スズ化合物を1種又は2種以上使用できる。
【0066】
本発明で用いられるアンチモン化合物、チタン化合物、ゲルマニウム化合物およびスズ化合物は特に限定はない。
【0067】
具体的には、アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酢酸アンチモン、アンチモングリコキサイドなどが挙げられ、これらのうち三酸化アンチモンが好ましい。
【0068】
また、チタン化合物としてはテトラ−n−プロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトライソブチルチタネート、テトラ−tert−ブチルチタネート、テトラシクロヘキシルチタネート、テトラフェニルチタネート、蓚酸チタン等が挙げられ、これらのうちテトラ−n−ブトキシチタネートが好ましい。
【0069】
そしてゲルマニウム化合物としては二酸化ゲルマニウム、四塩化ゲルマニウムなどが挙げられ、これらのうち二酸化ゲルマニウムが好ましい。
【0070】
また、スズ化合物としては、ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、モノブチルヒドロキシスズオキサイド、トリイソブチルスズアデテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズサルファイド、ジブチルヒドロキシスズオキサイド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸などが挙げられ、特にモノブチルヒドロキシスズオキサイドの使用が好ましい。
【0071】
本発明に言うポリエステルとは、ジカルボン酸を含む多価カルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体から選ばれる一種または二種以上とグリコールを含む多価アルコールから選ばれる一種または二種以上とから成るもの、またはヒドロキシカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体から成るもの、または環状エステルから成るものをいう。
【0072】
ジカルボン酸としては、蓚酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、 テトラデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、1,3−シクロブタンジカルボン酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3ーシクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,5ーノルボルナンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5ー(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、ジフェニン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルジカルボン酸、4、4’−ビフェニルスルホンジカルボン酸、4、4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタンーp,p’−ジカルボン酸、パモイン酸、アントラセンジカルボン酸などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0073】
これらのジカルボン酸のうちテレフタル酸およびナフタレンジカルボン酸とくに2,6−ナフタレンジカルボン酸が、得られるポリエステルの物性等の点で好ましく、必要に応じて他のジカルボン酸を構成成分とする。
【0074】
これらジカルボン酸以外の多価カルボン酸として、エタントリカルボン酸、プロパントリカルボン酸、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3、4、3’、4’ービフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0075】
グリコールとしてはエチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、ジエチレングリ コール、トリエチレングリコール、1、2−ブチレングリコール、1、3−ブチレングリコール、2、3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1、5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオー ル、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,10−デカメチレングリコール、1、12−ドデカンジオール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4, 4’−ジヒドロキシビスフェノール、1,4−ビス(βーヒドロキシエトキシ)ベン ゼン、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)メタン、1、2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、ビスフェノールA、ビスフェノールC、2,5−ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコール、などに例示される芳香族グリコールが挙げられる。
【0076】
これらのグリコールのうちエチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
【0077】
これらグリコール以外の多価アルコールとして、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
【0078】
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、ヒドロキシ酢酸、3ーヒドロキシ酪酸、p−ヒドロキシ安息香酸、pー( 2ーヒドロキシエトキシ)安息香酸、4ーヒドロキシシクロヘキサンカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0079】
環状エステルとしては、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、β-メチル-β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0080】
多価カルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、これらのアルキルエステル、酸クロライド、酸無水物などが挙げられる。
【0081】
本発明で用いられるポリエステルは主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体もしくはナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体であり、主たるグリコール成分がアルキレングリコールであるポリエステルが好ましい。より好ましくは、主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体であり、主たるグリコール成分がアルキレングリコールであるポリエステルである。
【0082】
主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体もしくはナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体であるポリエステルとは、全酸成分に対してテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を合計して70モル%以上含有するポリエステルであることが好ましく、より好ましくは80モル%以上含有するポリエステルであり、さらに好ましくは90モル%以上含有するポリエステルである。主たる酸成分がテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体であるポリエステルとは、全酸成分に対してテレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体を70モル%以上含有するポリエステルであることが好ましく、より好ましくは80モル%以上含有するポリエステルであり、さらに好ましくは90モル%以上含有するポリエステルである。
【0083】
主たるグリコール成分がアルキレングリコールであるポリエステルとは、全グリコール成分に対してアルキレングリコールを合計して70モル%以上含有するポリエステルであることが好ましく、より好ましくは80モル%以上含有するポリエステルであり、さらに好ましくは90モル%以上含有するポリエステルである。ここで言うアルキレングリコールは、分子鎖中に置換基や脂環構造を含んでいても良い。
【0084】
本発明で用いられるナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、またはこれらのエステル形成性誘導体が好ましい。
【0085】
本発明で用いられるアルキレングリコールとしては、エチレングリコール、1、2−プロピレングリコール、1、3−プロピレングリコール、1、2−ブチレングリコール、1、3−ブチレングリコール、2、3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1、5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオー ル、1,2−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジエタノール、1,10−デカメチレングリコール、1、12−ドデカンジオール等があげられる。これらは同時に2種以上を使用しても良い。
【0086】
本発明のポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートおよびこれらの共重合体が好ましく、これらのうちポリエチレンテレフタレートおよびこの共重合体が特に好ましい。
【0087】
また、本発明のポリエステルには公知のリン化合物を共重合成分として含むことができる。リン系化合物としては二官能性リン系化合物が好ましく、例えば(2−カルボキシルエチル)メチルホスフィン酸、(2−カルボキシエチル)フェニルホスフィン酸、9,10−ジヒドロ−10−オキサ−(2,3−カルボキシプロピル)−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイドなどが挙げられる。これらのリン系化合物を共重合成分として含むことで、得られるポリエステルの難燃性等を向上させることが可能である。
【0088】
本発明のポリエステルの構成成分として、ポリエステルを繊維として使用した場合の染色性改善のために、スルホン酸アルカリ金属塩基を有するポリカルボン酸を共重合成分とすることは好ましい態様である。
【0089】
共重合モノマーとして用いる金属スルホネート基含有化合物としては、特に限定されるものではないが、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、2−ナトリウムスルホテレフタル酸、5−リチウムスルホイソフタル酸、2−リチウムスルホテレフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、2−カリウムスルホテレフタル酸、またはそれらの低級アルキルエステル誘導体などが挙げられる。本発明では特に5−ナトリウムスルホイソフタル酸またはそのエステル形成性誘導体の使用が好ましい。
【0090】
金属スルホネート基含有化合物の共重合量はポリエステルを構成する酸性分に対して、0.3〜10.0モル%が好ましく、より好ましくは0.80〜5.0モル%である。共重合量が少なすぎると塩基性染料可染性に劣り、多すぎると繊維とした場合、製糸性に劣るだけでなく、増粘現象により繊維として十分な強度が得られなくなる。また、金属スルホネート含有化合物を2.0モル%以上共重合すると、得られた改質ポリエステル繊維に常圧可染性を付与することも可能である。また適切な易染化モノマーを選択することで金属スルホネート基含有化合物の使用量を適宜減少させることは可能である。易染化モノマーとしては特に限定はしないが、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールに代表される長鎖グリコール化合物やアジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸に代表される脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
【0091】
本発明の方法に従ってポリエステル重合をした後に、このポリエステルから触媒を除去するか、またはリン系化合物などの添加によって触媒を失活させることによって、ポリエステルの熱安定性をさらに高めることができる。
【0092】
本発明のポリエステル中には、有機系、無機系、および有機金属系のトナー、並びに蛍光増白剤などを含むことができ、これらを1種もしくは2種以上含有することによって、ポリエステルの黄み等の着色をさらに優れたレベルにまで抑えることができる。また他の任意の重合体や制電剤、消泡剤、染色性改良剤、染料、顔料、艶消し剤、蛍光増白剤、安定剤、酸化防止剤、その他の添加剤が含有されてもよい。酸化防止剤としては、芳香族アミン系、フェノール系などの酸化防止剤が使用可能であり、安定剤としては、リン酸やリン酸エステル系等のリン系、イオウ系、アミン系などの安定剤が使用可能である。
【0093】
以下に重合触媒の調製法を示すがこれに制限されるものではない。
【0094】
(アルミニウム化合物の調製例1)
撹拌下80℃で2時間加熱処理して調製され、かつ、塩基性酢酸アルミニウム(ヒドロキシアルミニウムジアセテート;アルドリッチ社製)の20g/l水溶液に対して、等量(容量比)のエチレングリコールを共にフラスコへ仕込み、室温で6時間攪拌した後、減圧(133Pa)下、90〜110℃で数時間攪拌しながら系から水を留去し、20g/lのアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液を調製した。
【0095】
(リン化合物の調製例1)
リン化合物として(化7)で表されるn-ヘキシルホスホン酸ジエチルをエチレングリコールと共にフラスコへ仕込み、窒素置換下攪拌しながら還流温度で3時間加熱し、30g/lのリン化合物のエチレングリコール溶液を調製した。
【0096】
(アルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液 の混合物の調製例)
上記アルミニウム化合物の調製例1および上記リン化合物の調製例1で得られたそれぞれのエチレングリコール溶液をフラスコに仕込み、アルミニウム原子とリン原子がモル比で1:2となるように室温で混合し、1日間攪拌して触媒溶液を調製した。
【実施例】
【0097】
以下、本発明を実施例により説明するが本発明はもとよりこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各実施例および比較例においてポリエステルの固有粘度(IV)は次のようにして測定した。フェノール/1,1,2,2-テトラクロロエタンの6/4混合溶媒(重量比)を用いて、温度30℃で測定した。
【0098】
(オリゴマーAVo(酸価)の測定)
オリゴマーを粉砕し、110℃で15時間以上減圧乾燥する。試料1gを精秤し、ピリジン20mlを加える。15分間煮沸還流し溶解させる。溶解後、10mlの純水を添加し、室温まで放冷する。フェノールフタレインを指示薬としてN/10-NaOHで滴定する。試料を入れずにブランクも同じ作業を行う。
下記式に従って、AV0=(A−B)×0.1×f×1000/W
(A=滴定数(ml)、B=ブランクの滴定数(ml)、f=N/10-NaOHのファクター、W=試料の重さ(g))
【0099】
(オリゴマーOHVo(OH価)の測定)
オリゴマーを粉砕し、110℃で15時間以上減圧乾燥する。試料約0.5gを精秤し、アセチル化剤(無水酢酸ピリジン溶液0.5モル%/L)10mlを加える。95℃以上の水槽に1.5時間浸漬したあと、純水10mlを添加し室温まで放冷する。フェノールフタレインを指示薬としてN/5-NaOHで滴定する。試料を入れずにブランクも同じ作業を行う。
下記式に従って、OHV0={(B−A)×0.2×f×1000/W}+AV0
(A=滴定数(ml)、B=ブランクの滴定数(ml)、f=N/5-NaOHのファクター、W=試料の重さ(g))
【0100】
(オリゴマーOH%の計算)
OH(%)=OHVo/(OHVo+AVo)×100
【0101】
(PET色調)
得られたポリマーの色調を次に示すような目視による2段階評価法を用いて評価した。
○:透明性および色調に優れる
×:透明性に劣り着色している
【0102】
(実施例1)
高純度テレフタル酸とエチレングリコールを仕込み、常法に従ってエステル化反応を行いオリゴマーのOH%が約54%のオリゴマー混合物を得た。このオリゴマー混合物に重縮合触媒として、上記"アルミニウム化合物エチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例"の重合触媒を用い、ポリエステル中の酸成分に対してアルミニウム原子およびリン原子としてそれぞれ表1に記載の値になるように加え、次いで窒素雰囲気下、常圧にて260℃で10分間攪拌した。その後、40分間かけて275℃まで昇温しつつ反応系の圧力を徐々に下げて0.3mmHgとして、さらに同温同圧で3時間重縮合反応を行った。得られたポリマーの物性値を表1に示す。
【0103】
(実施例2)
触媒を変更したこと以外は実施例1と全く同様にしてポリエステルを重合した。触媒の調製は上記“アルミニウム化合物の調製例1およびリン化合物の調製例1およびアルミニウム化合物のエチレングリコール溶液/リン化合物のエチレングリコール溶液の混合物の調製例”と全く同様にして行った。得られたポリマーの物性値を表1に示す。
【0104】
(比較例1〜2)
触媒としてアルミ化合物またはリン化合物を単独で用いたこと以外は実施例1と全く同様にしてポリエステルを重合した。得られたポリマーの物性値を表1に示す。
【0105】
(比較例3)
触媒として実施例1で記載したアルミ化合物とリン化合物を用いて、両者を予め混合せず、実施例1と全く同様にしてポリエステルを重合した。得られたポリマーの物性値を表1に示す。
【0106】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の重合触媒は、触媒活性に優れ、透明性に優れ、色調等に優れたポリエステル成形物を与えるため、例えば衣料用や産業資材用の繊維、包装用や磁気テープ用などのフィルムやシート、中空成形品であるボトル、電気・電子部品のケーシング、その他エンジニアリングプラスチック成形品等の広範な分野で利用することができ、産業界に寄与するところ大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル重合触媒であって、アルミニウムおよびその化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種類と、リン化合物から選ばれる少なくとも1種類を含む溶液またはスラリーからなり、下記一般式(化1)で表されるリン化合物の少なくとも一種を含むことを特徴とするポリエステル重合触媒。
【化1】

(式(化1)中、R1は炭素数1〜50の脂肪族炭化水素基あるいは炭素数6〜50の芳香環構造あるいは炭素数4〜50の複素環構造を表す。R2およびR3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、水酸基またはアルコキシル基を含む炭素数1〜20の炭化水素基を表す。
【請求項2】
式(化1)のR1が炭素数1〜50の脂肪族炭化水素であることを特徴とするポリエステル重合触媒。
【請求項3】
式(化1)中で表されるリン化合物のR1中の置換基が、ハロゲン置換された炭素数1〜50の炭化水素基、水酸基、炭素数1〜10のアルコキシル基およびアルカノール基、ハロゲン基、ニトリル基、シアノアルキル基、アミノ基あるいはニトロ基あるいはカルボキシル基あるいは炭素数1〜10の脂肪族カルボン酸エステル基あるいはホルミル基あるいはアシル基あるいはスルホン酸基、スルホン酸アミド基から選ばれる1種もしくは2種以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のポリエステル重合触媒。
【請求項4】
上記脂肪族炭化水素基が炭素数1〜18の炭化水素基から選ばれることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステル重合触媒。
【請求項5】
2およびR3の少なくとも一方が水素原子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステル重合触媒。
【請求項6】
請求項1〜5に記載のいずれかの重合触媒を用いることを特徴とするポリエステルの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5に記載のいずれかの重合触媒を用いて製造されたポリエステル。
【請求項8】
請求項7に記載のポリエステルからなる中空成形体。
【請求項9】
請求項7に記載のポリエステルからなる繊維。
【請求項10】
請求項7に記載のポリエステルからなるフィルム。

【公開番号】特開2007−56133(P2007−56133A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−242831(P2005−242831)
【出願日】平成17年8月24日(2005.8.24)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】