説明

ポリエーテルエステルブロック共重合体弾性糸の製造方法

【課題】製糸時の油剤飛散もなく、油剤付着斑や張力変動斑も少なく安定したパッケージが得られ、巻取パッケージからの解舒性に優れ、また糸の走行時においては静電気の発生が少ないと共に、糸導へのスカムの堆積のない、取扱い性が極めて良好なポリエーテルエステルブロック共重合体弾性糸を製造する方法を提供すること。
【解決手段】ポリエーテルエステルブロック共重合体を溶融紡糸するに際し、鉱物油及び/またはポリジメチルシリコーンを80〜98重量%、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物の部分リン酸エステル塩を1〜10重量%、並びにポリエーテル変性シリコーンを1〜10重量%含有するストレート油剤であって、25℃における粘度が4〜20×10−6mm/sである油剤を付与することを特徴とする。さらには、該ポリエーテル変性シリコーンの25℃における粘度が20〜200×10−6mm/sであることや、主成分である鉱物油またはポリジメチルシリコーンの25℃における粘度が2〜20×10−6mm/sであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリエーテルエステルブロック共重合体弾性糸の製造方法に関し、さらに詳しくは、本発明は製糸時のパフォーマンスが極めて良好なポリエーテルエステルブロック共重合体弾性糸を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、弾性糸としてはゴム、ポリウレタン系の弾性糸が使用され、身体へのフィット性が要求される分野、例えば海水着、スキーズボン、トレーニングパンツ等の多方面に利用されている。
【0003】
近年、ポリブチレンテレフタレートのようなポリエステルをハードセグメントとし、ポリテトラメチレングリコールをソフトセグメントとするポリエーテルエステルブロック共重合体からの弾性糸は、その化学構造がポリエステル繊維に類似していることから、従来の弾性糸では耐熱性、耐薬品性不足でポリエステル繊維と同等の条件で後加工(例えば、アルカリ減量加工等)するには耐えられなかった問題を解決するものとして期待され、種々実用化検討がなされてきている。しかしながら、かかるポリエーテルエステルブロック共重合体弾性糸は、大量に商業的に生産・使用する場合、製糸時にローラーや巻取機周辺に油剤が飛散したり、張力変動斑による巻取パッケージ不良(綾落ち)の発生、及び糸走行時静電気が発生し製編織撚糸工程で各種のトラブルを惹起するという問題があった。
【0004】
そこで従来、ポリウレタン系弾性糸においては、シリコーンや鉱物油を主体成分とし、これに種々の高級脂肪酸エステル、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、高級脂肪酸金属塩、変性シリコーン等を配合した非水系処理剤が数多く提案されていた。しかし、静電気によるトラブルや処理剤中のオリゴマー成分等が繊維表面に抽出されて生じるスカムの発生により、糸切れしやすくなるなどの問題があった。
【0005】
そこで、例えば特許文献1には、シリコーンや鉱物油主体成分に分岐アルキルホスフェート塩のアルキレンオキサイド付加物を添加した非水系処理剤が提案されている。しかし、このものは、静電気発生こそ極めて少なく、張力変動斑も比較的抑えられているものの、保管時の環境条件が高温、高湿の過酷な条件に曝される生産現場にあっては、スカムの発生をまだ十分に抑制できないという問題があった。
【特許文献1】特開平7−207575号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記のような問題点に着目してなされたものであり、その目的は、製糸時の油剤飛散もなく、油剤付着斑や張力変動斑も少なく安定したパッケージが得られ、巻取パッケージからの解舒性に優れ、また糸の走行時においては静電気の発生が少ないと共に、糸導へのスカムの堆積のない、取扱い性が極めて良好なポリエーテルエステルブロック共重合体弾性糸を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体弾性糸の製造方法は、ポリエーテルエステルブロック共重合体を溶融紡糸するに際し、鉱物油及び/またはポリジメチルシリコーンを80〜98重量%、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物の部分リン酸エステル塩を1〜10重量%、並びにポリエーテル変性シリコーンを1〜10重量%含有するストレート油剤であって、25℃における粘度が4〜20×10−6mm/sである油剤を付与することを特徴とする。
【0008】
さらには、該ポリエーテル変性シリコーンの25℃における粘度が20〜200×10−6mm/sであることや、主成分である鉱物油またはポリジメチルシリコーンの25℃における粘度が2〜20×10−6mm/sであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、製糸時の油剤飛散もなく、油剤付着斑や張力変動斑も少なく安定したパッケージが得られ、巻取パッケージからの解舒性に優れ、また糸の走行時においては静電気の発生が少ないと共に、糸導へのスカムの堆積のない、取扱い性が極めて良好なポリエーテルエステルブロック共重合体弾性糸が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明のポリエーテルエステルブロック共重合体は、テレフタル酸を主とするジカルボン酸成分と、1,4−ブタンジオール又はエチレングリコールを主とするグリコール成分と、平均分子量が400〜4000のポリオキシアルキレングリコールを構成成分とする共重合体である。なかでもポリオキシアルキレングリコールとしては、平均分子量が1000〜3000のポリテトラメチレングリコール又はポリエチレングリコールが好ましい。
【0011】
ポリエーテルエステルブロック共重合体中のポリオキシアルキレングリコールの含有量は50〜80重量%の範囲にあることが好ましく、80重量%を越えると、弾性的には性能の優れた弾性糸が得られるものの、該共重合体の融点が低くなりすぎるため、乾熱処理、湿熱処理時の弾性的性能が急激に低下し耐久性の劣る弾性糸となってしまう傾向にある。また、50重量%未満では、永久歪が大きく弾性的性質に劣る弾性糸しか得られにくい。
【0012】
さらに、耐紫外線、耐熱性等の耐久性を向上するため、上述のポリエ−テルエステルブロック共重合体には酸化防止剤、紫外線吸収剤等を添加するのが好ましい。かかる酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、硫黄原子含有エステル化合物等を、また、紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サシレート系化合物等が例示される。
【0013】
本発明の製造方法は、このポリエーテルエステルブロック共重合体に、鉱物油及び/またはポリジメチルシリコーンを80〜98重量%、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物の部分リン酸エステル塩を1〜10重量%、並びにポリエーテル変性シリコーンを1〜10重量%含有する油剤を、ストレート油剤として付与することを必須とする。
【0014】
ここで、本発明に使用する鉱物油は、特に限定されるものではないが、25℃における粘度が2×10−6〜20×10−6mm/sであること必須である。さらには7×10−6〜12×10−6mm/sであることが好ましい。この範囲未満では油剤成分が揮散して弾性糸上の油剤組成比率が変化して平滑性が不充分となる。一方、高粘度の場合には、油剤系の粘度が高くなりすぎ糸への給油が不均一になりやすく、糸の平滑性も低下しやすい。
【0015】
また、ポリジメチルシリコーンは、25℃における粘度が2×10−6〜20×10−6mm/sであることが、さらには4×10−6〜20×10−6mm/sであることが好ましい。この範囲未満では後述するエチレンオキサイド付加アルキルホフェート塩を用いても該シリコーンの揮発性を抑制することが困難となり、保存中に該シリコーン成分が揮散して弾性糸上の油剤組成比率が変化して平滑性が不充分となる。一方、高粘度の場合には、糸への給油が不均一になりやすく、得られる弾性糸の平滑性が不充分となるので好ましくない。
【0016】
本発明において用いられる油剤には上記に詳述した鉱物油とジメチルシリコーンの合計量が油剤有効成分に対して80〜98重量%含まれている必要がある。この含有量が80重量%未満の場合には、平滑性が不十分となって、糸の異常伸長が発生するので好ましくない。逆にこの含有量が98重量%超える場合には、静電気の発生による走行安定性が不良となるために好ましくない。
【0017】
本発明に用いられる高級アルコールのエチレンオキサイド付加物の部分リン酸エステル塩は、制電剤の働きを有するエチレンオキサイド付加アルキルホスフェート塩である。このときエチレンオキサイド付加モル数が、多いと静電気発生防止能力が低下しやすく、逆に少なすぎると平滑性が低下しやすい傾向にある。したがって、エチレンオキサイドの付加モル数は高級アルコール1モルに対して2〜10モルの範囲であることが好ましい。
【0018】
一方高級アルコールのアルキル基の炭素数は、その静電気発生防止の観点から8〜18が好ましく、またホスフェート塩の対イオンとしてはNa、Kなどのアルカリ金属イオン、アンモニウムカチオン等を例示することができ、特にNa、Kは静電気発生防止能力が大きいので好ましい。
【0019】
好ましく用いられるEO付加アルキルホスフェート塩としては、EO付加イソオクチルホスフェートK塩、EO付加ラウリルホスフェートK塩、EO付加セカンダリーアルコール(炭素数12〜14のアルコール)ホスフェートK塩、EO付加セカンダリーアルコールホスフェートジブチルエータノールアミン塩等をあげることができる。
【0020】
次に、本発明においては上記成分とともに、ポリエーテル変性シリコーンが併用され、そして該ポリエーテル変性シリコーンの25℃における粘度が20〜200×10−6mm/sであることが好ましい。このような粘度のポリエーテル変性シリコーンを添加した場合には、シリコーンや鉱物油をベースとしたストレート油剤に、制電剤であるエチレンオキサイド付加アルキルホスフェート塩をより均一に分散、溶解させることが可能となる。ポリエーテル変性シリコーンはポリオルガノシロキサンの分子鎖にエーテル結合を含有するアルキルエーテルが分岐として導入された化合物であり、好ましいポリエーテル変性シリコーンとしてはポリオルガノシロキサンに分岐として、―(EO)m― 単位と―(PO)n― 単位からなるポリエーテル(ここでEOはエチレンオキサイド、POはプロピレンオキサイドでm、nはm-=1〜20、n=0〜20の整数でn/m=2)を有するものが挙げられる。このとき導入されるEOとPOは単独及びランダム又はブロック共重合体のいずれの形であってもよい。ここで用いられるポリエーテル変性シリコーンの粘度は25℃において、20×10−6〜200×10−6mm/sであることが好ましい。粘度が20×10−6mm/s未満では相溶化剤として作用しにくい傾向にあり、また200×10−6mm/sを超えると平滑性が劣る傾向にあり、使用しにくい。
【0021】
本発明における油剤は、上記の成分を基剤とするものであるが、必要に応じて他の配合剤、例えば抗酸化剤、安定性向上剤等や、脂肪酸又はアルコールで変性したシリコーン化合物等の平滑助剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
【0022】
そしてこのようにして得られた本発明に用いられる油剤は、25℃において4×10−6〜20×10−6mm/sであること必須である。粘度が低いと揮発性を抑えにくく、経時変化が起こりやすくなり、粘度が高いと平滑性が低下する。
【0023】
以上に説明した油剤を弾性糸に付着せしめるには、原液をそのまま用いるストレート型処理方法が適用される。油剤の弾性糸への付与は、通常一般に公知の任意の手段を採用することができるが、中でも糸に与える抵抗を少なくするオイリングノズルを介して計量された量を付与する方法がより好ましい方法としてとられる。
【0024】
油剤の弾性糸への付着量は、糸重量に対して有効成分として1.5〜5重量%であることが好ましい。付着量が少なすぎる場合には糸の平滑性能及び制電性能が不充分となって糸切れ、スカム発生などのトラブルを惹き起こしやすい傾向にある。一方、付着量が多すぎる場合には、スカム及び静電気の抑制効果は向上せず、過剰の油剤が糸導等を汚染する問題が発生する傾向にある。
【0025】
本発明の製造方法では、平滑性に優れた低粘度のポリジメチルシリコーンと鉱物油の比率が高いので、摩擦による静電気の発生が少なくなり、少量の制電剤添加でも有効に静電気の発生が抑制できる。更にストレート油剤であるので、膨潤しやすい乳化剤が不要となり、スカムの発生がほとんど起こらない。また、ポリエーテル変性シリコーンを添加することによって、通常はストレート油剤に可溶化しにくいエチレンオキサイド付加物の部分リン酸エステル塩の制電剤を均一に可溶化することが可能となった。この結果、本発明の製造方法では、高温高湿な過酷な条件に原糸が曝されても、膨潤が起こらず、経時によるスカム発生が極めて少ない方法である。
【0026】
したがって、本発明の弾性糸の製造方法では、どのような条件下でも巻取パッケージからの原糸の解舒性が良好で、また製糸工程及び製編織等の後加工工程での静電気発生・糸導ガイドへのスカム堆積が安定して著しく低減され、極めて品位の良好な製品を得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。なお、実施例中の測定値は以下の方法で測定した。
【0028】
(1)油剤粘度
25℃に設定した恒温水槽中、キャノンフェンスケ粘度管を用いて常法により粘度を測定した。
【0029】
(2)相溶性
口径約5cmの円筒状容器に入れた20ccの油剤を、40mmHgの減圧下、50℃で1時間脱水処理した後、油剤の相溶の程度を目視判定し、下記基準により評定した。
○:透明(相溶性良好)
△:若干濁り有(相溶性難)
×:白濁沈澱物生成(相溶性不良)
【0030】
(3)制電性
得られた弾性糸を、240本の枠立てにより整経機にかけ、経糸用ビームとして20m/分の速度で20000m巻取る。この時、静電気発生状況を春日式集電気式電位測定器で測定した。なお、評価は下記の基準により評定した。
○:帯電圧0.5kV未満
△:帯電圧0.5kV以上1.0kV未満
×:帯電圧1.0kV以上
【0031】
(4)平滑性
得られた弾性糸を15m/分の速度で解舒し途中径60mm、表面粗度11sの梨地クロムピンを180°の接触角で接触して巻取った。この時のピンの前後の張力(各々T、T:単位g)から次式により摩擦係数(μ)を算出した。なおTは約5gに調整した。
μ=1/π[ln(T/T)]
評価は次の基準で評定した。
○:0.35未満、△:0.35以上0.40未満、×:0.40以上
【0032】
(5)スカム発生状況
供糸ローラーと引取りローラー間のドラフトが1.75の速度比をもったローラー間に角度が110°となるように市販のカミソリ刃を糸にあて、引取りローラーを175mmの速度で3分間引取った。この時カミソリ刃上に発生したスカムの堆積状態によりスカム発生性を下記のとおり評価した。
○:全く無し〜わずかに濡れた痕跡を示している
△:やや白っぽいスカムとして判断される
×:白い粘稠もしくは白粉状として、明らかにスカムとして認められる
【0033】
[実施例1〜7]
ブチレンテレフタレートをハードセグメントとし、ポリテトラメチレングリコールをソフトセグメントとする、ハードセグメントの含有量が40wt%であるポリエーテルエステルブロック共重合体であって、ヒンダードアミン系酸化防止剤を0.2wt%、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を0.2wt%含有するブロック共重合体を、245℃で溶融し紡糸口金より押出し1000m/分の速度で捲取り40デニール/1フィラメントの弾性糸を得た。この際、紡出糸には計量ノズルを介して表1記載の組成部数の油剤を、非含水状態(ストレート型)で繊維重量に対して3重量%となるように付与した。評価結果は表1にあわせて示す。
【0034】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエーテルエステルブロック共重合体を溶融紡糸するに際し、鉱物油及び/またはポリジメチルシリコーンを80〜98重量%、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物の部分リン酸エステル塩を1〜10重量%、並びにポリエーテル変性シリコーンを1〜10重量%含有するストレート油剤であって、25℃における粘度が4〜20×10−6mm/sである油剤を付与することを特徴とするポリエーテルエステルブロック共重合体弾性糸の製造方法。
【請求項2】
該ポリエーテル変性シリコーンの25℃における粘度が20〜200×10−6mm/sである請求項1記載のポリエーテルエステルブロック共重合体弾性糸の製造方法。
【請求項3】
主成分である鉱物油またはポリジメチルシリコーンの25℃における粘度が2〜20×10−6mm/sである請求項1または2記載のポリエーテルエステルブロック共重合体弾性糸の製造方法。
【請求項4】
油剤の付与量が、繊維重量に対して1.5〜5重量%である請求項1〜3のいずれか1項記載のポリエーテルエステルブロック共重合体弾性糸の製造方法。

【公開番号】特開2006−274485(P2006−274485A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−94531(P2005−94531)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】