説明

ポリオレフィン多層微多孔膜及び電池用セパレータ

【課題】ポリエチレン系樹脂層とポリプロピレン含有層とを有し、透過性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れたポリオレフィン多層微多孔膜及びその製造方法並びに電池用セパレータを提供する。
【解決手段】(1) ポリエチレン系樹脂からなる多孔質層Aと、ポリプロピレン及び融点又はガラス転移温度が170℃以上の耐熱性樹脂を含有する多孔質層BとからなるA/B/A構成、又は(2) ポリエチレン系樹脂からなる多孔質層A’と、ポリプロピレン及びアスペクト比が2以上の無機フィラーを含有する多孔質層B’とからなるA’/B’/A’構成を有するポリオレフィン多層微多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレン系樹脂層とポリプロピレン含有層とを有し、透過性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れたポリオレフィン多層微多孔膜及び電池用セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン微多孔膜は、リチウム電池用を始めとする電池用セパレータ、電解コンデンサ用隔膜、各種フィルタ、透湿防水衣料等に広く用いられている。ポリオレフィン微多孔膜を電池用セパレータとして用いる場合、その性能は電池の特性、生産性及び安全性に深く関わる。そのためポリオレフィン微多孔膜には、優れた透過性、機械的特性、耐熱収縮性、シャットダウン特性、メルトダウン特性等が要求される。
【0003】
一般にポリエチレンのみからなる微多孔膜はメルトダウン温度が低く、またポリプロピレンのみからなる微多孔膜はシャットダウン温度が高い。そのため、電池用セパレータにはポリエチレン及びポリプロピレンを主成分とする微多孔膜が好ましい。そこで、ポリエチレン及びポリプロピレンの混合樹脂からなる微多孔膜や、ポリエチレン層及びポリプロピレン層からなる多層微多孔膜が提案されている。
【0004】
例えば特開平05-251069号(特許文献1)及び特開平05-251070号(特許文献2)は、熱暴走の発生を防止するセパレータとして、エチレン−ブテン共重合体又はエチレン−ヘキセン共重合体からなり、80〜150℃でシャットダウンを起こす第一層と、ポリプロピレンからなり、第一層より10℃以上高い温度でシャットダウンを起こす第二層とを有する微多孔性多層シートからなるセパレータを記載している。
【0005】
特許文献1は、微多孔性多層シートの製造方法として、上記共重合体及び抽出可能溶媒からなる層と、ポリプロピレン及び抽出可能溶媒からなる層とを有する積層シートを作製し、これから抽出可能溶媒を除去することにより得られた微多孔性シートを、25〜110℃の温度で延伸する方法を記載している。特許文献2は、微多孔性多層シートの製造方法として、上記共重合体の溶融物及びポリプロピレン溶融物を同時に押出し、冷却することにより得られた積層シートを−198℃〜−70℃の温度で延伸した後、熱処理する方法を記載している。
【0006】
しかし本発明者らが調べた結果、上記各文献に記載の方法により得られるポリプロピレン層とポリエチレン層とを有する多層微多孔膜はポリプロピレン層の細孔径が小さく、透過性が不十分であることが分かった。
【0007】
特開昭62-10857号(特許文献3)は、寸法安定性及びシャットダウン特性に優れた電池用セパレータとして、(a) ポリエチレン又はポリプロピレンにより形成された微細孔性シートからなり、約80℃〜150℃の温度で実質的に寸法を保持したまま無孔化する第1層と、(b) ポリエチレン又はポリプロピレンと粒状充填材とから形成された微細孔性シートからなり、常温〜第1層の無孔化温度より少なくとも約10℃高い温度まで微細孔構造及び寸法を保持する第2層とを有する電池用セパレータを提案している。しかし、特許文献3の電池用セパレータは、粒状充填材のアスペクト比を最適化していないので、機械的強度が不十分である。
【0008】
従って、ポリエチレンを含む層とポリプロピレンを含む層とを有し、透過性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性をバランス良く有するポリオレフィン多層微多孔膜が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平05-251069号公報
【特許文献2】特開平05-251070号公報
【特許文献3】特開昭62-10857号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、ポリエチレン系樹脂層とポリプロピレン含有層とを有し、透過性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れたポリオレフィン多層微多孔膜及びその製造方法並びに電池用セパレータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、(1) ポリエチレン系樹脂からなる多孔質層と、ポリプロピレン及び融点又はガラス転移温度が170℃以上の耐熱性樹脂を含有する多孔質層とを組み合せるか、(2) ポリエチレン系樹脂からなる多孔質層と、ポリプロピレン及びアスペクト比が2以上の無機フィラーを含有する多孔質層とを組み合せると、透過性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れたポリオレフィン多層微多孔膜が得られることを見出し、本発明に想到した。
【0012】
すなわち、本発明の第一のポリオレフィン多層微多孔膜は、ポリエチレン系樹脂からなる多孔質層Aと、ポリプロピレン及び融点又はガラス転移温度が170℃以上の耐熱性樹脂を含有する多孔質層Bとを有し、両表層を前記多孔質層A、内層を前記多孔質層Bで構成されたことを特徴とする。
【0013】
本発明の第二のポリオレフィン多層微多孔膜は、ポリエチレン系樹脂からなる多孔質層A’と、ポリプロピレン及びアスペクト比が2以上の無機フィラーを含有する多孔質層B’とを有し、両表層を前記多孔質層A’、内層を前記多孔質層B’で構成されたことを特徴とする。
【0014】
前記ポリオレフィン多層微多孔膜は、(a)20〜400秒/100 cm3の透気度、(b)140℃以下のシャットダウン温度、(c)3,000 mN/20μm以上の突刺強度、及び(d)160℃以上のメルトダウン温度の少なくとも一の物性を有するのが好ましい。
【0015】
本発明の第一のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法は、ポリエチレン系樹脂及び成膜用溶剤を溶融混練してポリエチレン溶液を調製するとともに、ポリプロピレン、融点又はガラス転移温度が170℃以上の耐熱性樹脂及び成膜用溶剤を溶融混練してポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を調製し、(1) 得られたポリエチレン溶液とポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液とをダイより同時に押出し、得られた押出し成形体を冷却してゲル状積層シートを形成し、前記ゲル状積層シートから前記成膜用溶剤を除去するか、(2) 前記ポリエチレン溶液と前記ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液とを個別にダイより押し出し、得られた各押出し成形体を冷却してゲル状シートを形成し、前記ゲル状シートを積層し、得られたゲル状積層シートから前記成膜用溶剤を除去するか、(3) 前記ポリエチレン溶液と前記ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液とを個別にダイより押し出し、得られた各押出し成形体を冷却してゲル状シートを形成し、前記ゲル状シートから前記成膜用溶剤を除去し、得られたポリエチレン微多孔膜及びポリプロピレン微多孔膜を積層することを特徴とする。
【0016】
上記第一の方法において、前記工程(1)を、前記ゲル状積層シートを延伸した後前記成膜用溶剤を除去するか、前記成膜用溶剤の除去後に得られた積層微多孔膜を延伸するか、前記ゲル状積層シートの延伸及び前記成膜用溶剤の除去を順に行った後得られた積層微多孔膜をさらに延伸することにより行うのが好ましい。前記工程(2)を、(2) (i) 前記ゲル状シートを延伸した後積層するか、(2) (ii) 前記ゲル状積層シートを延伸した後前記成膜用溶剤を除去するか、(2) (iii) 前記成膜用溶剤の除去後に得られた積層微多孔膜を延伸するか、(2) (iv) 前記工程(2) (i)〜(2) (iii)のうちから少なくとも二つの工程を選択することにより行うのが好ましい。前記工程(3)を、(3) (i) 前記各ゲル状シートを延伸した後前記成膜用溶剤を除去するか、(3) (ii) 前記ポリエチレン微多孔膜及び前記ポリプロピレン微多孔膜を延伸した後積層するか、(3) (iii) 前記ポリエチレン微多孔膜及び前記ポリプロピレン微多孔膜を積層した後延伸するか、(3) (iv) 前記工程(3) (i)〜(3) (iii)のうちから少なくとも二つの工程を選択することにより行うのが好ましい。
【0017】
本発明の第二のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法は、ポリエチレン系樹脂及び成膜用溶剤を溶融混練してポリエチレン溶液を調製するとともに、ポリプロピレン及び成膜用溶剤の溶融混練物にアスペクト比が2以上の無機フィラーを分散させて無機フィラー含有ポリプロピレン溶液を調製し、(1) 得られたポリエチレン溶液と無機フィラー含有ポリプロピレン溶液とをダイより同時に押出し、得られた押出し成形体を冷却してゲル状積層シートを形成し、前記ゲル状積層シートから前記成膜用溶剤を除去するか、(2) 前記ポリエチレン溶液と前記無機フィラー含有ポリプロピレン溶液とを個別にダイより押し出し、得られた各押出し成形体を冷却してゲル状シートを形成し、前記ゲル状シートを積層し、得られたゲル状積層シートから前記成膜用溶剤を除去するか、(3) 前記ポリエチレン溶液と前記無機フィラー含有ポリプロピレン溶液とを個別にダイより押し出し、得られた各押出し成形体を冷却してゲル状シートを形成し、前記ゲル状シートから前記成膜用溶剤を除去し、得られたポリエチレン微多孔膜及びポリプロピレン微多孔膜を積層することを特徴とする。
【0018】
上記第二の方法において、前記工程(1)を、前記ゲル状積層シートを延伸した後前記成膜用溶剤を除去するか、前記成膜用溶剤の除去後に得られた積層微多孔膜を延伸するか、前記ゲル状積層シートの延伸及び前記成膜用溶剤の除去を順に行った後得られた積層微多孔膜をさらに延伸することにより行うのが好ましい。前記工程(2)を、(2) (i) 前記ゲル状シートを延伸した後積層するか、(2) (ii) 前記ゲル状積層シートを延伸した後前記成膜用溶剤を除去するか、(2) (iii) 前記成膜用溶剤の除去後に得られた積層微多孔膜を延伸するか、(2) (iv) 前記工程(2) (i)〜(2) (iii)のうちから少なくとも二つの工程を選択することにより行うのが好ましい。前記工程(3)を、(3) (i) 前記各ゲル状シートを延伸した後前記成膜用溶剤を除去するか、(3) (ii) 前記ポリエチレン微多孔膜及び前記ポリプロピレン微多孔膜を延伸した後積層するか、(3) (iii) 前記ポリエチレン微多孔膜及び前記ポリプロピレン微多孔膜を積層した後延伸するか、(3) (iv) 前記工程(3) (i)〜(3) (iii)のうちから少なくとも二つの工程を選択することにより行うのが好ましい。
【0019】
本発明の電池用セパレータは上記第一又は第二のポリオレフィン多層微多孔膜により形成される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ポリエチレン系樹脂層とポリプロピレン含有層とを有し、透過性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れたポリオレフィン多層微多孔膜が得られる。かかる多層微多孔膜は、特にポリプロピレンを含む多孔質層の細孔径が十分に大きいので、電解液の透過性に優れている。本発明のポリオレフィン多層微多孔膜を電池用セパレータとして用いると、容量特性、サイクル特性、放電特性、耐熱性、保存特性及び生産性に優れた電池が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[1] 第一のポリオレフィン多層微多孔膜
第一のポリオレフィン多層微多孔膜は、ポリエチレン系樹脂からなる多孔質層(以下特段の断りがない限り、「ポリエチレン系樹脂層」とよぶ)と、ポリプロピレン及び融点又はガラス転移温度が170℃以上の耐熱性樹脂を含有する多孔質層(以下特段の断りがない限り、「ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層」とよぶ)とを有する。
【0022】
(A) ポリエチレン系樹脂層
(1) ポリエチレン系樹脂
ポリエチレン系樹脂は、(a) 超高分子量ポリエチレン、(b) 超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレン、(c) 超高分子量ポリエチレンとそれ以外のポリエチレンとの混合物(ポリエチレン組成物)、又は(d) これらの(a)〜(c)のいずれかと、ポリエチレン以外のポリオレフィンとの混合物(ポリオレフィン組成物)である。いずれの場合も、ポリエチレン系樹脂の質量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、好ましくは1×104〜1×107であり、より好ましくは1×104〜5×106であり、特に好ましくは1×104〜4×106である。
【0023】
(a) 超高分子量ポリエチレンからなる場合
超高分子量ポリエチレンは5×105以上のMwを有する。超高分子量ポリエチレンは、エチレンの単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを少量含有するエチレン・α-オレフィン共重合体でもよい。エチレン以外のα-オレフィンとしては、プロピレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、及びスチレンが好ましい。超高分子量ポリエチレンのMwは1×106〜15×106が好ましく、1×106〜5×106がより好ましい。超高分子量ポリエチレンは単独物に限定されず、二種以上の超高分子量ポリエチレン同士の混合物であってもよい。混合物として、例えばMwの異なる二種以上の超高分子量ポリエチレン同士の混合物が挙げられる。
【0024】
(b) 超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレンからなる場合
超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレンは1×104以上〜5×105未満のMwを有し、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン及び鎖状低密度ポリエチレンが好ましく、高密度ポリエチレンがより好ましい。Mwが1×104以上〜5×105未満のポリエチレンは、エチレンの単独重合体のみならず、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1等の他のα-オレフィンを少量含有する共重合体でも良い。このような共重合体としてシングルサイト触媒により製造されたものが好ましい。超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレンは単独物に限定されず、二種以上の超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレンの混合物であってもよい。混合物として、例えばMwの異なる二種以上の高密度ポリエチレン同士の混合物、同様な中密度ポリエチレン同士の混合物、同様な低密度ポリエチレン同士の混合物等が挙げられる。
【0025】
(c) ポリエチレン組成物からなる場合
ポリエチレン組成物は、Mwが5×105以上の超高分子量ポリエチレンと、それ以外のMwが1×104以上〜5×105未満のポリエチレン(高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレン、及び鎖状低密度ポリエチレンからなる群から選ばれた少なくとも一種)とからなる混合物である。超高分子量ポリエチレン及びそれ以外のポリエチレンは上記と同じで良い。このポリエチレン組成物は、用途に応じて分子量分布[質量平均分子量/数平均分子量(Mw/Mn)]を容易に制御することができる。ポリエチレン組成物としては、上記超高分子量ポリエチレンと高密度ポリエチレンとの組成物が好ましい。ポリエチレン組成物中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、ポリエチレン組成物全体を100質量%として、1質量%以上が好ましく、10〜80質量%がより好ましい。
【0026】
(d) ポリオレフィン組成物からなる場合
ポリオレフィン組成物は、超高分子量ポリエチレン、それ以外のポリエチレン又はポリエチレン組成物と、ポリエチレン以外のポリオレフィンとの混合物である。超高分子量ポリエチレン、それ以外のポリエチレン及びポリエチレン組成物は上記と同じで良い。
【0027】
ポリエチレン以外のポリオレフィンとして、各々のMwが1×104〜4×106のポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリペンテン-1、ポリメチルペンテン、ポリヘキセン-1、ポリオクテン-1、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン及びエチレン・α-オレフィン共重合体、並びにMwが1×103〜1×104のポリエチレンワックスからなる群から選ばれた少なくとも一種を用いることができる。ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリペンテン-1、ポリメチルペンテン、ポリヘキセン-1、ポリオクテン-1、ポリ酢酸ビニル、ポリメタクリル酸メチル及びポリスチレンは単独重合体のみならず、他のα-オレフィンを含有する共重合体であってもよい。ポリエチレン以外のポリオレフィンの割合は、ポリオレフィン組成物全体を100質量%として20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。
【0028】
(e) 分子量分布Mw/Mn
Mw/Mnは分子量分布の尺度であり、この値が大きいほど分子量分布の幅は大きい。ポリエチレン系樹脂のMw/Mnは限定的でないが、ポリエチレン系樹脂が超高分子量ポリエチレンからなる場合、その他のポリエチレンからなる場合、又はポリエチレン組成物からなる場合、5〜300が好ましく、10〜100がより好ましい。Mw/Mnが5未満だと高分子量成分が多過ぎて溶融押出が困難であり、またMw/Mnが300超だと低分子量成分が多過ぎて微多孔膜の強度低下を招く。ポリエチレン(単独重合体又はエチレン・α-オレフィン共重合体)のMw/Mnは、多段重合により適宜調整することができる。多段重合法としては、一段目で高分子量ポリマー成分を生成し、二段目で低分子量ポリマー成分を生成する二段重合が好ましい。ポリエチレン組成物の場合、Mw/Mnが大きいほど超高分子量ポリエチレンとその他のポリエチレンとのMwの差が大きく、またその逆も真である。ポリエチレン組成物のMw/Mnは、各成分の分子量及び混合割合により適宜調整することができる。
【0029】
(2) ポリエチレン系樹脂層の作用
ポリエチレン系樹脂層は、ポリオレフィン多層微多孔膜に優れたシャットダウン特性(低いシャットダウン温度及び高いシャットダウン速度)、及び優れた機械的強度を与える。
【0030】
(B) ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層
(1) ポリプロピレン
ポリプロピレンの種類は特に限定されず、プロピレンの単独重合体、プロピレンと他のオレフィン及び/又はジオレフィンとの共重合体、あるいはこれらの混合物のいずれでも良いが、単独重合体が好ましい。共重合体としてはランダム共重合体又はブロック共重合体のいずれも用いることができる。プロピレン以外のオレフィンとしてはエチレン、ブテン-1、ペンテン-1、ヘキセン-1、4-メチルペンテン-1、オクテン-1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、及びスチレンが好ましい。ジオレフィンの炭素数は4〜14が好ましい。炭素数4〜14のジオレフィンとして、例えばブタジエン、1,5-ヘキサジエン、1,7-オクタジエン、1,9-デカジエン等が挙げられる。
【0031】
共重合体中のプロピレン以外のオレフィン及びジオレフィンの含有量は、ポリプロピレンの耐熱性、耐圧縮性、耐熱収縮性等の物性を損なわない範囲であるのが好ましい。具体的には、他のオレフィン及びジオレフィンの含有量は、共重合体全体を100モル%として10モル%未満であるのが好ましい。
【0032】
ポリプロピレンの質量平均分子量(Mw)は1×104〜4×106が好ましく、1×105〜8×105がより好ましい。ポリプロピレンの分子量分布(Mw/Mn)は1.01〜100であるのが好ましく、1.1〜50であるのがより好ましい。
【0033】
(2) 耐熱性樹脂
耐熱性樹脂は融点又はガラス転移温度(Tg)が170℃以上である。耐熱性樹脂としては、融点が170℃以上の結晶性樹脂(部分的に結晶性である樹脂を含む)、及びTgが170℃以上の非晶性樹脂が好ましい。ここでTgはJIS K7121により測定することができる(以下同じ)。
【0034】
耐熱性樹脂をポリプロピレンに添加すると、多層微多孔膜からなるセパレータのメルトダウン特性が向上するので、電池の高温保存特性が向上する。また耐熱性樹脂は、溶融混練により球状又は回転楕円体状の微粒子としてポリプロピレン中で分散する。そして延伸時に、耐熱性樹脂からなる微粒子を核として、ポリプロピレン相からなるフィブリルが開裂し、中心部に微粒子が保持されたクレーズ状の細孔が形成される。そのため多層微多孔膜からなる電池用セパレータの透過性及び耐圧縮性は一層向上する。耐熱性樹脂からなる微粒子の粒径(球状の場合は直径、楕円体状の場合は長径)は、0.1〜15μmが好ましく、0.5〜10μmがより好ましく、1〜10μmが特に好ましい。
【0035】
融点が170℃未満の結晶性樹脂又はTgが170℃未満の非晶性樹脂を用いると、溶融混練によりこれらの樹脂がポリプロピレン中で高分散したり、冷却時にポリプロピレンと耐熱性樹脂の凝固速度が近くなったりしてしまい、適度な径の微粒子が形成されない。そのため樹脂微粒子を核として開裂する空隙が小さくなり、透過性及び耐圧縮性の向上が望めない。耐熱性樹脂の融点又はTgの上限は特に制限されないが、ポリプロピレンとの混練容易性の観点から350℃が好ましい。耐熱性樹脂の融点又はTgは180〜260℃であるのがより好ましい。
【0036】
耐熱性樹脂の好ましいMwは、樹脂の種類により異なるが、一般的に1×103〜1×106であり、より好ましくは1×104〜7×105である。Mwが1×103未満の耐熱性樹脂を用いると、ポリプロピレン中で高分散してしまい、微粒子が形成されない。一方1×106超の耐熱性樹脂を用いると、ポリプロピレンとの混練が困難になる。
【0037】
耐熱性樹脂の具体例としては、ポリエステル、ポリアミド(融点:215〜265℃)、フッ素樹脂、ポリカーボネート(融点:220〜240℃)、ポリアリレンスルフィド、ポリメチルペンテン、ポリスチレン(融点:230℃)、ポリビニルアルコール(融点:220〜240℃)、ポリイミド(Tg:280℃以上)、ポリアミドイミド(Tg:280℃)、ポリエーテルサルフォン(Tg:223℃)、ポリエーテルエーテルケトン(融点:334℃)、セルロースアセテート(融点:220℃)、セルローストリアセテート(融点:300℃)、ポリスルホン(Tg:190℃)、ポリエーテルイミド(融点:216℃)等が挙げられる。中でもポリエステル、ポリアミド、ポリメチルペンテン、フッ素樹脂、ポリカーボネート及びポリアリレンスルフィドが好ましい。耐熱性樹脂は、単一樹脂成分からなるものに限定されず、複数の樹脂成分からなるものでもよい。
【0038】
(a) ポリエステル
ポリエステルとしては、ポリブチレンテレフタレート(PBT、融点:約160〜230℃)、ポリエチレンテレフタレート(PET、融点:約230〜270℃)、ポリエチレンナフタレート(融点:272℃)、ポリブチレンナフタレート(融点:245℃)等が挙げられるが、PBTが好ましい。
【0039】
PBTは、基本的に1,4-ブタンジオールとテレフタル酸とからなる飽和ポリエステルである。但し耐熱性、耐圧縮性、耐熱収縮性等の物性を損なわない範囲で、1,4-ブタンジオール以外のジオール成分、又はテレフタル酸以外のカンボン酸成分を共重合成分として含んでいてもよい。そのようなジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンメタノール等が挙げられる。またジカルボン酸成分としては、例えば、イソフタル酸、セバシン酸、アジピン酸、アゼライン酸、コハク酸等が挙げられる。ただしPBTは、単一組成物からなるものに限定されず、複数のPBT樹脂成分からなるものでもよい。PBTのMwは2×104以上〜3×105以下であるのが特に好ましい。
【0040】
(b) ポリアミド
ポリアミドとしてはポリアミド6(6-ナイロン)、ポリアミド66(6,6-ナイロン)、ポリアミド12(12-ナイロン)及びアモルファスポリアミドが好ましい。
【0041】
(c) ポリメチルペンテン
ポリメチルペンテン(PMP)は、基本的に4-メチル-1-ペンテン、2-メチル-1-ペンテン、2-メチル-2-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン及び3-メチル-2-ペンテンのいずれかからなるポリオレフィンであるが、4-メチル-1-ペンテンの単独重合体であるのが好ましい。ただしPMPは耐熱性、耐圧縮性、耐熱収縮性等の物性を損なわない範囲で、メチルペンテン以外の他のα-オレフィンを少量含有する共重合体であってもよい。メチルペンテン以外の他のα-オレフィンとしてはエチレン、プロピレン、ブテン-1、ヘキセン-1、ペンテン-1、オクテン-1、酢酸ビニル、メタクリル酸メチル、スチレン等が好適である。PMPの融点は通常230〜245℃である。PMPのMwは3×105以上〜7×105以下が特に好ましい。
【0042】
(d) フッ素樹脂
フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF、融点:171℃)、ポリテトラフルオロエチレン(融点:327℃)、テトラフルオロエチレン・ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(融点:310℃)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体(融点:295℃)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(融点:275℃)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(融点:270℃)等が挙げられる。
【0043】
フッ素樹脂としてはPVDFが好ましい。PVDFは他のオレフィンとの共重合体(フッ化ビニリデン共重合体)でもよい。フッ化ビニリデン共重合体のフッ化ビニリデン単位含有率は75質量%以上であるのが好ましく、90質量%以上であるのがより好ましい。フッ化ビニリデンと共重合するモノマーの例としては、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、エチレン、プロピレン、イソブチレン、スチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ジフルオロクロロエチレン、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、アクリル酸及びその塩、メタクリル酸メチル、メタクリル酸アリル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、N-ブトキシメチルアクリルアミド、酢酸アリル、酢酸イソプロペニル等がある。フッ化ビニリデン共重合体としては、ポリ(ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン)共重合体が好ましい。
【0044】
(e) ポリカーボネート
ポリカーボネート(PC)としてはビスフェノールA系PCが好ましい。ビスフェノールA系PCは、(i) ビスフェノールAとジフェニルカーボネートを無溶媒下でエステル交換反応させる方法(エステル交換法)、(ii) ビスフェノールAとホスゲンを酸結合剤及び溶媒の存在下で脱塩重縮合反応させる方法(ホスゲン法)、又は(iii) ビスフェノールAをアルカリとともに溶解させた水溶液と、有機溶媒との懸濁液にホスゲンを添加し、水相と有機溶媒相の界面で反応させる方法(界面重縮合法)のいずれの方法により製造されたものでもよい。PCのMwは2×104以上〜4×104以下が好ましい。
【0045】
(f) ポリアリレンスルフィド
ポリアリレンスルフィドとしてはポリフェニレンスルフィド(PPS、融点:285℃)を使用するのが好ましい。PPSは線状又は分岐状のいずれのものでも使用することができる。
【0046】
(3) 無機フィラー
ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層は無機フィラーを含有してもよい。無機フィラーとしては、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、ゼオライト、マイカ、クレイ、カオリン、タルク、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、ガラス粉末、水酸化アルミニウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、サチンホワイト、酸性白土等が挙げられる。無機フィラーは、一種のみならず複数種を併用してもよい。
【0047】
無機フィラーの粒子形状に特に制限はない。例えば球状、破砕状等の無機フィラーを適宜選択することができる。無機フィラーは表面処理されたものであってもよい。無機フィラーの表面処理剤として、例えば各種シランカップリング剤や、脂肪酸(例えばステアリン酸等)又はその誘導体等が挙げられる。
【0048】
耐熱性樹脂とともに無機フィラーを含有することにより、透過性が一層向上する。それは、耐熱性樹脂だけでなく無機フィラー粒子も起点としてポリプロピレンフィブリルが開裂し、クレーズ状の空隙(細孔)が形成され、空隙(細孔)容積が一層増加するためであると推測される。
【0049】
(4) 配合割合
耐熱性樹脂の割合は、ポリプロピレン及び耐熱性樹脂の合計を100質量%として3〜30質量%が好ましく、5〜25質量%がより好ましい。この割合を3質量%未満とすると、空孔率と透気度とのバランスが悪くなる。この割合を30質量%超とすると、膜の突刺強度、引張破断強度及び平滑性が低下する。無機フィラーの割合は、ポリプロピレン及び耐熱性樹脂の合計100質量%に対して、0.1〜15質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。
【0050】
(5) ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層の作用
ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層は、ポリオレフィン多層微多孔膜に、優れた透過性、機械的強度、耐熱収縮性、メルトダウン特性及び耐圧縮性を与える。
【0051】
(C) 層構成例
第一のポリオレフィン多層微多孔膜は、ポリエチレン系樹脂層A及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層Bを、それぞれ少なくとも一層有すればよい。ポリエチレン系樹脂層A又はポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層Bを複数設ける場合、同種層同士の組成は同じであっても、異なっていてもよい。例えば多孔質層の組合せとしては、層A/層B、層A/層B/層A、層B/層A/層B等が挙げられる。電池用セパレータとして用いる場合、両表層をポリエチレン系樹脂層Aとし、内層をポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層Bとすると(例えば層A/層B/層A等)、特にシャットダウン特性、透過性及び機械的強度のバランスが向上する。
【0052】
(D) ポリエチレン系樹脂層とポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層の膜厚比
ポリエチレン系樹脂層Aとポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層Bの膜厚比(A/B)は限定的ではないが、70/30〜10/90であるのが好ましく、60/40〜20/80であるのがより好ましい。
【0053】
[2] 第二のポリオレフィン多層微多孔膜
第二のポリオレフィン多層微多孔膜は、ポリエチレン系樹脂層と、ポリプロピレン及びアスペクト比が2以上の無機フィラーを含有する多孔質層(以下特段の断りがない限り、「ポリプロピレン・無機フィラー混合層」とよぶ)とを有する。
【0054】
(A) ポリエチレン系樹脂層
ポリエチレン系樹脂は、第一のポリオレフィン多層微多孔膜と同じでよいので、説明を省略する。ポリエチレン系樹脂層の作用は第一のポリオレフィン多層微多孔膜と同じである。
【0055】
(B) ポリプロピレン・無機フィラー混合層
(1) ポリプロピレン
ポリプロピレンは、第一のポリオレフィン多層微多孔膜と同じでよいので、説明を省略する。
【0056】
(2) 無機フィラー
第二のポリオレフィン多層微多孔膜は、アスペクト比が2以上の無機フィラーを必須とする。ポリプロピレンにアスペクト比が2以上の無機フィラーを添加することにより、ポリプロピレンを含む多孔質層の空孔率、透過性、機械的強度及びメルトダウン特性が向上する。無機フィラーのアスペクト比は4以上が好ましく、8以上がより好ましい。アスペクト比は、第二のポリオレフィン多層微多孔膜を焼成した後に残留した無機フィラーの顕微鏡写真において100個以上の無機フィラー粒子の長径及び短径を測定し、長径/短径の比を平均することにより求めた。
【0057】
アスペクト比が2以上の無機フィラーとしては、ガラス繊維、カーボン繊維、ドーソナイト、マイカ、タルク、水酸化アルミニウム等が挙げられる。これらの無機フィラーは一種のみならず複数種を併用してもよい。これらの無機フィラーは上記の表面処理剤により処理されたものであってもよい。アスペクト比が2以上の無機フィラーの円相当径(顕微鏡写真において無機フィラー粒子の面積と同じ面積を持つ円の直径)は0.1〜100μmであるのが好ましく、0.5〜15μmであるのがより好ましい。
【0058】
(3) 耐熱性樹脂
ポリプロピレン・無機フィラー混合層は上記耐熱性樹脂を含有してもよい。
【0059】
(4) 配合割合
無機フィラーの含有量は、ポリプロピレン・無機フィラー混合層の樹脂成分(ポリプロピレンのみからなる場合と、ポリプロピレン及び耐熱性樹脂の混合物からなる場合とがある)を100質量%として、0.1〜15質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。この割合を0.1質量%未満とすると、機械的強度が不十分となる。一方15質量%超とすると、突刺強度が低下するだけでなく、積層微多孔膜をスリットした時の無機フィラーの脱落が増加する。無機フィラーの脱落による粉発生が多いと、多層微多孔膜製品にピンホールや黒点等の欠陥が生じる恐れがある。
【0060】
ポリプロピレン・無機フィラー混合層が耐熱性樹脂を含む場合、耐熱性樹脂の割合は、ポリプロピレン及び耐熱性樹脂の合計を100質量%として3〜30質量%が好ましく、5〜25質量%がより好ましい。
【0061】
(5) ポリプロピレン・無機フィラー混合層の作用
ポリプロピレン・無機フィラー混合層は、ポリオレフィン多層微多孔膜に、優れた透過性、機械的強度、耐熱収縮性及びメルトダウン特性を与える。
【0062】
(C) 層構成例
第二のポリオレフィン多層微多孔膜は、ポリエチレン系樹脂層A'及びポリプロピレン・無機フィラー混合層B'を、それぞれ少なくとも一層有すればよい。ポリエチレン系樹脂層A'又はポリプロピレン・無機フィラー混合層B'を複数設ける場合、同種層同士の組成は同じであっても、異なっていてもよい。例えば多孔質層の組合せとしては、層A'/層B'、層A'/層B'/層A'、層B'/層A'/層B'等が挙げられる。電池用セパレータとして用いる場合、両表層をポリエチレン系樹脂層A'とし、内層をポリプロピレン・無機フィラー混合層B'とすると(例えば層A'/層B'/層A'等)、特にシャットダウン特性、透過性及び機械的強度のバランスが向上する。
【0063】
(D) ポリエチレン系樹脂層とポリプロピレン・無機フィラー混合層の膜厚比
ポリエチレン系樹脂層A'とポリプロピレン・無機フィラー混合層B'の膜厚比(A'/B')は限定的ではないが、70/30〜10/90であるのが好ましく、60/40〜20/80であるのがより好ましい。
【0064】
[3] 第一のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法
(A) 第一の製造方法
第一のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第一の方法は、(1) (a) 上記ポリエチレン系樹脂及び成膜用溶剤を溶融混練してポリエチレン溶液を調製する工程、(b) 上記ポリプロピレン、耐熱性樹脂及び成膜用溶剤を溶融混練してポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を調製する工程、(2) ポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液をダイより同時に押出す工程、(3) 得られた押出し成形体を冷却してゲル状積層シートを形成する工程、(4) 成膜用溶剤除去工程、及び(5) 乾燥工程を含む。必要に応じて、工程(3)と(4)の間に(6) 延伸工程、(7) 熱溶剤処理工程等を設けてもよい。工程(5)の後、(8) 積層微多孔膜を延伸する工程、(9) 熱処理工程、(10) 熱溶剤処理工程、(11) 電離放射による架橋処理工程、(12) 親水化処理工程、(13) 表面被覆処理工程等を設けてもよい。
【0065】
(1) ポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液の調製
(a) ポリエチレン溶液の調製工程
ポリエチレン系樹脂に適当な成膜用溶剤を溶融混練し、ポリエチレン溶液を調製する。ポリエチレン溶液には必要に応じて酸化防止剤等の各種添加剤を本発明の効果を損なわない範囲で添加することができる。例えば孔形成剤として微粉珪酸を添加することができる。
【0066】
成膜用溶剤は室温で液体であるのが好ましい。液体溶剤を用いることにより比較的高倍率の延伸が可能となる。液体溶剤としては、ノナン、デカン、デカリン、パラキシレン、ウンデカン、ドデカン、流動パラフィン等の鎖状又は環式の脂肪族炭化水素、及び沸点がこれらに対応する鉱油留分、並びにジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等の室温では液状のフタル酸エステルが挙げられる。液体溶剤の含有量が安定なゲル状シートを得るためには、流動パラフィンのような不揮発性の液体溶剤を用いるのが好ましい。また溶融混練状態ではポリエチレンと混和するが室温では固体の溶剤を液体溶剤に混合してもよい。このような固体溶剤として、ステアリルアルコール、セリルアルコール、パラフィンワックス等が挙げられる。ただし固体溶剤のみを使用すると、延伸むら等が発生する恐れがある。
【0067】
液体溶剤の粘度は25℃において30〜500 cStであるのが好ましく、30〜200 cStであるのがより好ましい。25℃における粘度が30 cSt未満では発泡し易く、混練が困難である。一方500 cSt超では液体溶剤の除去が困難である。
【0068】
ポリエチレン溶液の均一な溶融混練は特に限定されないが、二軸押出機中で行うのが好ましい。二軸押出機中での溶融混練は高濃度のポリエチレン溶液を調製するのに適する。溶融混練温度は、ポリエチレン系樹脂が上記のいずれの場合であっても、ポリエチレン系樹脂の融点Tm1+10℃〜Tm1+100℃とするのが好ましい。ポリエチレン系樹脂の融点Tm1は、ポリエチレン系樹脂が(a) 超高分子量ポリエチレン、(b) 超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレン、又は(c) ポリエチレン組成物の場合、これらの融点であり、ポリエチレン系樹脂が(d) ポリオレフィン組成物の場合、上記(a)〜(c)のうちポリオレフィン組成物が含むものの融点である(以下同じ)。上記の超高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレン及びポリエチレン組成物は約130〜140℃の融点を有する。よって溶融混練温度は140〜250℃の範囲内であるのが好ましく、170〜240℃の範囲内であるのがより好ましい。成膜用溶剤は混練開始前に添加しても、混練中に二軸押出機の途中から添加してもよいが、後者が好ましい。溶融混練に当たってポリエチレン系樹脂の酸化を防止するために、酸化防止剤を添加するのが好ましい。
【0069】
二軸押出機のスクリュの長さ(L)と直径(D)の比(L/D)は20〜100の範囲が好ましく、35〜70の範囲がより好ましい。L/Dを20未満にすると、溶融混練が不十分となる。L/Dを100超にすると、ポリエチレン溶液の滞留時間が増大し過ぎる。二軸押出機のシリンダ内径は40〜80 mmであるのが好ましい。
【0070】
ポリエチレン溶液を100質量%として、ポリエチレン系樹脂の含有量は10〜50質量%であるのが好ましく、20〜45質量%であるのがより好ましい。ポリエチレン系樹脂が10質量%未満では押出し成形体を形成する際にダイス出口でスウェルやネックインが大きくなり、押出し成形体の成形性及び自己支持性が低下する。一方ポリエチレン系樹脂が50質量%を超えると、押出し成形体の成形性が低下する。
【0071】
(b) ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液の調製工程
ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液はポリプロピレン及び耐熱性樹脂に上記成膜用溶剤を添加した後、溶融混練することにより調製する。ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液の調製方法は、耐熱性樹脂の種類に応じて溶融混練温度を結晶性耐熱性樹脂の融点又は非晶性耐熱性樹脂のTg以上とするのが好ましい点、及び溶液中の樹脂成分(ポリプロピレン+耐熱性樹脂)の含有量を10〜60質量%とするのが好ましい点以外ポリエチレン溶液の調製方法と同じである。
【0072】
ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液中の樹脂成分の割合が10質量%未満ではゲル状積層シートを形成する際にダイ出口でスウェルやネックインが大きくなり、押出し成形体の成形性及び自己支持性が低下する。溶液中の樹脂成分の割合が60質量%を超えると延伸後の空孔率が著しく低下する。ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液中の樹脂成分含有量は20〜50質量%がより好ましい。
【0073】
溶融混練温度を結晶性耐熱性樹脂の融点以上又は非晶性耐熱性樹脂のTg以上とすることにより、後段の冷却によるゲル状積層シート形成時に耐熱性樹脂がポリプロピレン中に微粒子状に分散する。溶融混練温度は結晶性耐熱性樹脂の融点又は非晶性耐熱性樹脂のTg以上〜ポリプロピレンの融点+100℃以下がより好ましい。ポリプロピレンの融点は通常155〜175℃である。例えば耐熱性樹脂としてポリアミド(融点:215〜265℃)を含む場合、溶融混練温度は215〜270℃であるのが好ましい。耐熱性樹脂としてPBT(融点:約160〜230℃)を含む場合、溶融混練温度は160〜270℃であるのが好ましく、180〜270℃であるのがより好ましい。耐熱性樹脂としてPET(融点:約230〜270℃)を含む場合、230〜270℃であるのが好ましい。
【0074】
(2) 押出工程
ポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を1つのダイ内で層状に組み合せてから同時にシート状に押し出す場合(ダイ内接着)、1つのダイに複数の押出機を接続し、また両溶液を別々のダイからシート状に押し出した後で積層する場合(ダイ外接着)、複数の押出機の各々に各ダイを接続する。ダイ内接着の方が好ましい。
【0075】
同時押出にはフラットダイ法及びインフレーション法のいずれを用いてよい。いずれの方法においても、ダイ内接着する場合、溶液を多層用ダイの別々のマニホールドに供給してダイリップ入口で層状に積層する方法(多数マニホールド法)、又は溶液を予め層状の流れにしてダイに供給する方法(ブロック法)のいずれを用いてよい。多数マニホールド法及びブロック法自体は公知であるので、その詳細な説明は省略する。多層用のフラットダイ及びインフレーションダイとしては公知のものが使用できる。多層用フラットダイのギャップは0.1〜5mmの範囲内であるのが好ましい。フラットダイ法によりダイ外接着する場合、各ダイから押し出したシート状溶液を、一対のロール間に通すことにより圧接する。上記いずれの方法においても、ダイは押し出し時には140〜250℃の温度に加熱する。加熱溶液の押し出し速度は0.2〜15 m/分の範囲内であるのが好ましい。ポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液の各押出量を調節することにより、ポリエチレン系樹脂層及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合層の割合を調節することができる。
【0076】
(3) ゲル状積層シートの形成工程
押出により得られた層状の押出し成形体を冷却することによりゲル状積層シートを形成する。冷却は少なくともゲル化温度まで50℃/分以上の速度で行うのが好ましい。このような冷却を行うことによりポリエチレン系樹脂相及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物相が成膜用溶剤によりミクロ相分離された構造を固定化できる。冷却は25℃以下まで行うのが好ましい。一般に冷却速度を遅くすると擬似細胞単位が大きくなり、得られるゲル状積層シートの高次構造が粗くなるが、冷却速度を速くすると密な細胞単位となる。冷却速度を50℃/分未満にすると結晶化度が上昇し、延伸に適したゲル状積層シートとなりにくい。冷却方法としては冷風、冷却水等の冷媒に接触させる方法、冷却ロールに接触させる方法等を用いることができる。
【0077】
(4) 成膜用溶剤除去工程
成膜用溶剤の除去(洗浄)には洗浄溶媒を用いる。ポリエチレン系樹脂相及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物相は成膜用溶剤相と分離しているので、成膜用溶剤を除去すると、微細な三次元網目構造を形成するフィブリルからなり、三次元的に不規則に連通する孔(空隙)を有する多孔質の膜が得られる。洗浄溶媒としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の飽和炭化水素、塩化メチレン、四塩化炭素等の塩素化炭化水素、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類、メチルエチルケトン等のケトン類、三フッ化エタン,C6F14,C7F16等の鎖状フルオロカーボン、C5H3F7等の環状ハイドロフルオロカーボン、C4F9OCH3,C4F9OC2H5等のハイドロフルオロエーテル、C4F9OCF3,C4F9OC2F5等のパーフルオロエーテル等の易揮発性溶媒が挙げられる。これらの洗浄溶媒は低い表面張力(例えば25℃で24 mN/m以下)を有する。低表面張力の洗浄溶媒を用いることにより、微多孔を形成する網状組織が洗浄後の乾燥時に気−液界面の表面張力により収縮するのが抑制され、もって高い空孔率及び透過性を有する積層微多孔膜が得られる。
【0078】
ゲル状積層シートの洗浄は、洗浄溶媒に浸漬する方法、洗浄溶媒をシャワーする方法、又はこれらの組合せにより行うことができる。洗浄溶媒は、膜100質量部に対し、300〜30,000質量部使用するのが好ましい。洗浄温度は通常15〜30℃でよく、必要に応じて加熱洗浄すればよい。加熱洗浄の温度は80℃以下であるのが好ましい。洗浄溶媒による洗浄は、液体溶剤の残留量が当初の添加量の1質量%未満になるまで行うのが好ましい。
【0079】
(5) 膜の乾燥工程
成膜用溶剤除去により得られた積層微多孔膜を、加熱乾燥法又は風乾法により乾燥する。乾燥温度は、ポリエチレン系樹脂の結晶分散温度Tcd1以下であるのが好ましく、特にTcd1より5℃以上低いのが好ましい。ポリエチレン系樹脂の結晶分散温度Tcd1は、ポリエチレン系樹脂が上記の(a) 超高分子量ポリエチレン、(b) 超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレン、又は(c) ポリエチレン組成物の場合、これらの結晶分散温度であり、ポリエチレン系樹脂が(d) ポリオレフィン組成物の場合、上記(a)〜(c)のうちポリオレフィン組成物が含むものの結晶分散温度である(以下同じ)。ここで結晶分散温度とは、ASTM D 4065に基づいて動的粘弾性の温度特性測定により求められる値を言う。上記の超高分子量ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン以外のポリエチレン及びポリエチレン組成物は約90〜100℃の結晶分散温度を有する。
【0080】
乾燥は、積層微多孔膜を100質量%(乾燥重量)として、残存洗浄溶媒が5質量%以下になるまで行うのが好ましく、3質量%以下になるまで行うのがより好ましい。乾燥が不十分であると、後段で再延伸工程や熱処理工程を行った場合に積層微多孔膜の空孔率が低下し、透過性が悪化するので好ましくない。
【0081】
(6) 延伸工程
洗浄前のゲル状積層シートを延伸するのが好ましい。ゲル状積層シートは、加熱後、テンター法、ロール法、インフレーション法、圧延法又はこれらの方法の組合せにより所定の倍率で延伸するのが好ましい。ゲル状積層シートは成膜用溶剤を含むので、均一に延伸できる。延伸により機械的強度が向上するとともに、細孔が拡大するので、電池用セパレータとして用いる場合に特に好ましい。延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよいが、二軸延伸が好ましい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸、逐次延伸又は多段延伸(例えば同時二軸延伸及び逐次延伸の組合せ)のいずれでもよいが、特に同時二軸延伸が好ましい。
【0082】
延伸倍率は、一軸延伸の場合、2倍以上が好ましく、3〜30倍がより好ましい。二軸延伸ではいずれの方向でも3倍以上とし、面積倍率で9倍以上とするのが好ましく、面積倍率で25倍以上とするのがより好ましい。面積倍率が9倍未満では延伸が不十分であり、高弾性及び高強度の多層微多孔膜が得られない。一方面積倍率が400倍を超えると、延伸装置、延伸操作等の点で制約が生じる。
【0083】
延伸温度は、ポリエチレン系樹脂の融点Tm1+10℃以下にするのが好ましく、上記結晶分散温度Tcd1以上〜上記融点Tm1未満の範囲内にするのがより好ましい。この延伸温度が融点Tm1+10℃を超えるとポリエチレン系樹脂が溶融し、延伸による分子鎖の配向ができない。一方結晶分散温度Tcd1未満ではポリエチレン系樹脂の軟化が不十分で、延伸により破膜しやすく、高倍率の延伸ができない。上記のようにポリエチレン系樹脂は、約90〜100℃の結晶分散温度を有する。よって延伸温度を通常90〜140℃の範囲内にし、好ましくは100〜130℃の範囲内にする。
【0084】
以上のような延伸によりポリエチレン結晶ラメラ層間の開裂が起こり、ポリエチレン相(超高分子量ポリエチレン、それ以外のポリエチレン又はポリエチレン組成物)が微細化し、多数のフィブリルが形成される。得られるフィブリルは三次元網目構造(三次元的に不規則に連結したネットワーク構造)を形成する。またポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物を含む層では、耐熱性樹脂からなる微粒子を核として、ポリプロピレンからなるフィブリルが開裂し、中心部に微粒子が保持されたクレーズ状の細孔が形成される。
【0085】
所望の物性に応じて、膜厚方向に温度分布を設けて延伸してもよく、これにより一層機械的強度に優れた多層微多孔膜が得られる。その方法は、具体的には、特許第3347854号に記載されている。
【0086】
(7) 熱溶剤処理工程
ゲル状積層シートを熱溶剤に接触させる処理を施してもよい。熱溶剤処理により、延伸により形成されたフィブリルが葉脈状になり、かつその幹となる繊維が比較的太くなる。そのため細孔径が大きく、強度及び透過性に優れた積層微多孔膜が得られる。ここで「葉脈状のフィブリル」とは、フィブリルが太い幹の繊維とその外方に連なる細い繊維とからなり、細い繊維が複雑な網状構造を形成している状態をいう。熱溶剤処理方法は、具体的には、WO 2000/20493に記載されている。
【0087】
(8) 積層微多孔膜を延伸する工程
乾燥後の積層微多孔膜を、少なくとも一軸方向に延伸してもよい。積層微多孔膜の延伸は、膜を加熱しながら、上記と同様にテンター法等により行うことができる。この延伸は一軸延伸でも二軸延伸でもよい。二軸延伸の場合、同時二軸延伸又は逐次延伸のいずれでもよいが、同時二軸延伸が好ましい。
【0088】
延伸温度は、上記融点Tm1以下にするのが好ましく、上記結晶分散温度Tcd1〜融点Tm1の範囲内にするのがより好ましい。延伸温度が融点Tm1を超えると耐圧縮性が低下したり、横手方向(TD)に延伸した場合にシート幅方向において物性(特に透気度)のばらつきが大きくなったりする。一方延伸温度が結晶分散温度Tcd1未満ではポリエチレン系樹脂の軟化が不十分で、延伸において破膜しやすく、均一に延伸できない。具体的には、延伸温度を通常90〜135℃の範囲内にし、好ましくは95〜130℃の範囲内にする。
【0089】
延伸の一軸方向への倍率は1.1〜2.5倍にするのが好ましく、これにより積層微多孔膜の細孔径が一層大きくなるとともに耐圧縮性が一層向上する。例えば一軸延伸の場合、長手方向(MD)又はTD方向に1.1〜2.5倍にする。二軸延伸の場合、MD方向及びTD方向に各々1.1〜2.5倍にする。二軸延伸の場合、MD方向及びTD方向の各延伸倍率は1.1〜2.5倍である限り、MD方向とTD方向で同じでも異なってもよいが、同じであるのが好ましい。この倍率が1.1倍未満だと、耐圧縮性が十分に向上しない。一方この倍率を2.5倍超とすると、破膜する可能性が高くなるとともに耐熱収縮性が低下するので、好ましくない。この延伸の倍率は1.1〜2.0倍にするのがより好ましい。
【0090】
(9) 熱処理工程
乾燥後の積層微多孔膜を熱処理するのが好ましい。熱処理によって結晶が安定化し、ラメラ層が均一化される。熱処理方法としては、熱固定処理及び/又は熱緩和処理を用いればよい。熱固定処理は、テンター方式、ロール方式又は圧延方式により行うのがより好ましい。熱固定処理は上記融点Tm1+10℃以下、好ましくは上記結晶分散温度Tcd1以上〜融点Tm1以下の温度範囲内で行う。
【0091】
熱緩和処理は、上記方式の他に、ベルトコンベア又はエアフローティング式加熱炉を用いて行ってもよい。熱緩和処理は上記融点Tm1以下の温度、好ましくは60℃以上〜上記融点Tm1−10℃以下の温度範囲内で行う。以上のような熱緩和処理により、透過性の良好な高強度の積層微多孔膜が得られる。また熱固定処理及び熱緩和処理を多数組み合せて行ってもよい。
【0092】
(10) 膜の架橋処理工程
乾燥後の積層微多孔膜に対して、α線、β線、γ線、電子線等の電離放射線の照射により架橋処理を施してもよい。電子線の照射の場合、0.1〜100 Mradの電子線量が好ましく、100〜300 kVの加速電圧が好ましい。架橋処理により積層微多孔膜のメルトダウン温度が上昇する。
【0093】
(11) 親水化処理工程
乾燥後の積層微多孔膜に親水化処理を施してもよい。親水化処理は、モノマーグラフト、界面活性剤処理、コロナ放電等により行うことができる。モノマーグラフトは架橋処理後に行うのが好ましい。
【0094】
界面活性剤処理の場合、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤又は両イオン系界面活性剤のいずれも使用できるが、ノニオン系界面活性剤が好ましい。界面活性剤を水又はメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールに溶解してなる溶液中に積層微多孔膜を浸漬するか、積層微多孔膜にドクターブレード法により溶液を塗布する。
【0095】
(12) 表面被覆処理工程
乾燥後の積層微多孔膜は、ポリプロピレン多孔質体;ポリビニリデンフルオライド、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂多孔質体;ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド等の多孔質体等で表面を被覆することにより、電池用セパレータとして用いた場合のメルトダウン特性が一層向上する。被覆層用のポリプロピレンは、Mwが5,000〜500,000の範囲内が好ましく、25℃の温度における100 gのトルエンに対する溶解量が0.5 g以上が好ましい。このポリプロピレンは、ラセミダイアド(連なった2つの単量体単位が互いに鏡像異性の関係にある構成単位)の分率が0.12〜0.88であるのがより好ましい。表面被覆層は、例えば上記被覆層用の樹脂とその良溶媒とを含む混合液を積層微多孔膜に塗布し、良溶媒を除去して樹脂濃度を上げることにより、樹脂相と良溶媒相とに分離した構造とした後、良溶媒の残部を除去することにより形成できる。
【0096】
(B) 第二の製造方法
第一のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第二の方法は、(1) 第一の製造方法と同様にしてポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を調製する工程、(2) ポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を個別にダイより押し出す工程、(3) 得られた各押出し成形体を冷却してゲル状シートを形成する工程、(4) 各ゲル状シートを積層する工程、(5) 成膜用溶剤除去工程、及び(6) 乾燥工程を有する。必要に応じて、工程(3)と(4)の間に、(7) 延伸工程、(8) 熱溶剤処理工程等を設けてもよい。工程(4)と(5)の間に、(9) 延伸工程、(10) 熱溶剤処理工程等を設けてもよい。工程(6)の後、(11) 積層微多孔膜を延伸する工程、(12) 熱処理工程、(13) 熱溶剤処理工程、(14) 電離放射による架橋処理工程、(15) 親水化処理工程、(16) 表面被覆処理工程等を設けてもよい。
【0097】
上記の各工程のうち、工程(1)は第一の方法と同じでよく、工程(2)はポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を個別にダイより押し出す以外第一の方法と同じでよく、工程(3)は個別のゲル状シートを形成する以外第一の方法と同じでよく、工程(5)及び(6)は第一の方法と同じでよい。
【0098】
以下ポリエチレン系樹脂及び成膜用溶剤からなるゲル状シートAと、ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物及び成膜用溶剤からなるゲル状シートBとを積層する工程(4)について説明する。積層方法は特に限定されないが、熱積層法が好ましい。熱積層法としては、ヒートシール法、インパルスシール法、超音波積層法等が挙げられるが、ヒートシール法が好ましい。ヒートシール法としては熱ロールを用いたものが好ましい。熱ロール法では、一対の加熱ロール間、又は加熱ロールと受台の間に、重ねたゲル状シートA及びBを通し、ヒートシールする。ヒートシール時の温度及び圧力は、ゲル状シートが十分に接着し、かつ得られる多層微多孔膜の特性が低下しない限り特に制限されない。ヒートシール温度は、例えば90〜135℃とし、好ましくは90〜115℃とする。ヒートシール圧力は0.01〜50 MPaが好ましい。ゲル状シートA及びBの各厚さを調節することにより、ポリエチレン系樹脂層A及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物層Bの割合を調節することができる。
【0099】
工程(3)と(4)の間の延伸工程(7)及び熱溶剤処理工程(8)は、ゲル状シートA及びBのいずれかに施す以外第一の方法と同じでよい。ただし延伸工程(7)では、延伸温度は、ゲル状シートAを延伸する場合、上記融点Tm1+10℃以下が好ましく、結晶分散温度Tcd1以上〜融点Tm1未満の範囲内がより好ましい。ゲル状シートBを延伸する場合、ポリプロピレンの融点Tm2+10℃以下が好ましく、ポリプロピレンの結晶分散温度Tcd2以上〜融点Tm2未満の範囲内がより好ましい。ポリプロピレンの結晶分散温度は通常約100〜110℃である。
【0100】
工程(4)と(5)の間の延伸工程(9)及び熱溶剤処理工程(10)は、第一の方法と同じでよい。工程(6)の後の積層微多孔膜の延伸工程(11)、熱処理工程(12)、熱溶剤処理工程(13)、電離放射による架橋処理工程(14)、親水化処理工程(15)、及び表面被覆処理工程(16)はいずれも第一の方法と同じでよい。
【0101】
(C) 第三の製造方法
第一のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第三の方法は、(1) 第一の製造方法と同様にしてポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を調製する工程、(2) ポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を個別にダイより押し出す工程、(3) 得られた各押出し成形体を冷却してゲル状シートを形成する工程、(4) 各ゲル状シートから成膜用溶剤を除去する工程、(5) 乾燥工程、並びに(6) 得られたポリエチレン微多孔膜及びポリプロピレン微多孔膜を積層する工程を有する。必要に応じて、工程(3)と(4)の間に、(7) 延伸工程、(8) 熱溶剤処理工程等を設けてもよい。工程(5)と(6)の間に(9) 微多孔膜を延伸する工程、(10) 熱処理工程、(11) 熱溶剤処理工程等を設けてもよい。工程(6)の後、(12) 積層微多孔膜を延伸する工程、(13) 熱処理工程、(14) 熱溶剤処理工程、(15) 電離放射による架橋処理工程、(16) 親水化処理工程、(17) 表面被覆処理工程等を設けてもよい。
【0102】
上記の各工程のうち、工程(1)は第一の方法と同じでよく、工程(2)はポリエチレン溶液及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液を個別にダイより押し出す以外第一の方法と同じでよく、工程(3)は個別のゲル状シートを形成する以外第一の方法と同じでよく、工程(4)は個別のゲル状シートから成膜用溶剤を除去する以外第一の方法と同じでよく、工程(5)は個別の微多孔膜を乾燥する以外第一の方法と同じでよい。
【0103】
ポリエチレン微多孔膜及びポリプロピレン微多孔膜を積層する工程(6)について説明する。積層方法は特に限定されないが、第二の方法でのゲル状シートを積層する場合と同様に熱積層法が好ましく、ヒートシール法が好ましい。ヒートシール温度は、例えば90〜135℃とし、好ましくは90〜115℃とする。ヒートシール圧力は0.01〜50 MPaが好ましい。
【0104】
工程(3)と(4)の間の延伸工程(7)及び熱溶剤処理工程(8)は、第二の方法と同じでよい。工程(5)と(6)の間の微多孔膜を延伸する工程(9)、熱処理工程(10)及び熱溶剤処理工程(11)は、ポリエチレン微多孔膜及びポリプロピレン微多孔膜のいずれかに施す以外第一の方法と同じでよい。ただし、工程(5)と(6)の間の微多孔膜を延伸する工程(9)では、延伸温度は、ポリエチレン微多孔膜を延伸する場合、上記融点Tm1以下が好ましく、上記結晶分散温度Tcd1〜融点Tm1の範囲内がより好ましい。ポリプロピレン微多孔膜を延伸する場合、上記融点Tm2以下が好ましく、上記結晶分散温度Tcd2〜融点Tm2の範囲内がより好ましい。
【0105】
工程(5)と(6)の間の熱処理工程(10)では、ポリエチレン微多孔膜を熱固定処理する場合、上記融点Tm1+10℃以下、好ましくは上記結晶分散温度Tcd1以上〜融点Tm1以下の温度範囲内で行うのが好ましい。ポリエチレン微多孔膜を熱緩和処理する場合、上記融点Tm1以下、好ましくは60℃以上〜上記融点Tm1−10℃以下の温度範囲内で行うのが好ましい。ポリプロピレン微多孔膜を熱固定処理する場合、上記融点Tm2+10℃以下、好ましくは上記結晶分散温度Tcd2以上〜融点Tm2以下の温度範囲内で行うのが好ましい。ポリプロピレン微多孔膜を熱緩和処理する場合、上記融点Tm2以下、好ましくは60℃以上〜上記融点Tm2−10℃以下の温度範囲内で行うのが好ましい。
【0106】
工程(6)の後の積層微多孔膜を延伸する工程(12)、熱処理工程(13)、熱溶剤処理工程(14)、電離放射による架橋処理工程(15)、親水化処理工程(16)、及び表面被覆処理工程(17)はいずれも第一の方法と同じでよい。
【0107】
[4] 第二のポリオレフィン多層微多孔膜の製造方法
(A) 第一の製造方法
第二のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第一の方法は、(1) (i) 上記ポリエチレン系樹脂及び成膜用溶剤を溶融混練してポリエチレン溶液を調製する工程、(ii) 上記ポリプロピレン及び成膜用溶剤の溶融混練物にアスペクト比が2以上の無機フィラーを分散させて無機フィラー含有ポリプロピレン溶液を調製する工程、(2) ポリエチレン溶液及び無機フィラー含有ポリプロピレン溶液をダイより同時に押出す工程、(3) 得られた押出し成形体を冷却してゲル状積層シートを形成する工程、(4) 成膜用溶剤除去工程、及び(5) 乾燥工程を含む。必要に応じて、工程(3)と(4)の間に(6) 延伸工程、(7) 熱溶剤処理工程等を設けてもよい。工程(5)の後、(8) 積層微多孔膜を延伸する工程、(9) 熱処理工程、(10) 熱溶剤処理工程、(11) 電離放射による架橋処理工程、(12) 親水化処理工程、(13) 表面被覆処理工程等を設けてもよい。
【0108】
上記工程のうち無機フィラー含有ポリプロピレン溶液を調製する工程(1) (ii)以外は第一のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第一の方法と同じでよいので、工程(1) (ii)だけを以下説明する。無機フィラー含有ポリプロピレン溶液は、ポリプロピレン及び成膜用溶剤の溶融混練物にアスペクト比が2以上の無機フィラーを分散させることにより調製する。無機フィラー含有ポリプロピレン溶液の調製方法は、溶融混練温度をポリプロピレンの融点Tm2〜Tm2+90℃とするのが好ましい点、溶液中のポリプロピレン含有量を10〜50質量%とするのが好ましい点以外、ポリエチレン溶液の調製方法と同じである。溶液中のポリプロピレン含有量は20〜45質量%がより好ましい。無機フィラーはポリプロピレンに予めドライブレンドしておくのが好ましい。
【0109】
(B) 第二の製造方法
第二のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第二の方法は、(1) 第一の製造方法と同様にしてポリエチレン溶液及び無機フィラー含有ポリプロピレン溶液を調製する工程、(2) ポリエチレン溶液及び無機フィラー含有ポリプロピレン溶液を個別にダイより押し出す工程、(3) 得られた各押出し成形体を冷却してゲル状シートを形成する工程、(4) 各ゲル状シートを積層する工程、(5) 成膜用溶剤除去工程、及び(6) 乾燥工程を有する。必要に応じて、工程(3)と(4)の間に、(7) 延伸工程、(8) 熱溶剤処理工程等を設けてもよい。工程(4)と(5)の間に、(9) 延伸工程、(10) 熱溶剤処理工程等を設けてもよい。工程(6)の後、(11) 積層微多孔膜を延伸する工程、(12) 熱処理工程、(13) 熱溶剤処理工程、(14) 電離放射による架橋処理工程、(15) 親水化処理工程、(16) 表面被覆処理工程等を設けてもよい。
【0110】
工程(2)は、ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液に代えて無機フィラー含有ポリプロピレン溶液を用いる以外、第一のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第二の方法と同じでよい。工程(3)〜(16)は、第一のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第二の方法と同じでよいので、説明を省略する。
【0111】
(C) 第三の製造方法
第二のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第三の方法は、(1) 第一の製造方法と同様にしてポリエチレン溶液及び無機フィラー含有ポリプロピレン溶液を調製する工程、(2) ポリエチレン溶液及び無機フィラー含有ポリプロピレン溶液を個別にダイより押し出す工程、(3) 得られた各押出し成形体を冷却してゲル状シートを形成する工程、(4) 各ゲル状シートから成膜用溶剤を除去する工程、(5) 乾燥工程、並びに(6) 得られたポリエチレン微多孔膜及びポリプロピレン微多孔膜を積層する工程を有する。必要に応じて、工程(3)と(4)の間に、(7) 延伸工程、(8) 熱溶剤処理工程等を設けてもよい。工程(5)と(6)の間に (9) 微多孔膜を延伸する工程、(10) 熱処理工程、(11) 熱溶剤処理工程等を設けてもよい。工程(6)の後、(12) 積層微多孔膜を延伸する工程、(13) 熱処理工程、(14) 熱溶剤処理工程、(15) 電離放射による架橋処理工程、(16) 親水化処理工程、(17) 表面被覆処理工程等を設けてもよい。
【0112】
工程(2)は、ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液に代えて無機フィラー含有ポリプロピレン溶液を用いる以外、第一のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第三の方法と同じでよい。工程(3)〜(17)は、第一のポリオレフィン多層微多孔膜を製造する第三の方法と同じでよいので、説明を省略する。
【0113】
[5] ポリオレフィン多層微多孔膜の物性
本発明の好ましい実施態様による第一及び第二のポリオレフィン多層微多孔膜は次の物性を有する。
【0114】
(a) 25〜80%の空孔率
空孔率が25%未満では、ポリオレフィン多層微多孔膜は良好な透気度を有さない。一方80%を超えていると、多層微多孔膜を電池セパレータとして用いた場合の強度が不十分であり、電極が短絡する危険が大きい。
【0115】
(b) 20〜400秒/100 cm3の透気度(膜厚20μm換算)
透気度が20〜400秒/100 cm3であると、ポリオレフィン多層微多孔膜を電池用セパレータとして用いたとき、電池の容量が大きく、電池のサイクル特性も良好である。透気度が400秒/100 cm3を超えると、電池の容量が小さくなる。一方透気度が20秒/100 cm3未満では電池内部の温度上昇時にシャットダウンが十分に行われないおそれがある。
【0116】
(c) 3,000 mN/20μm以上の突刺強度
突刺強度が3,000 mN/20μm未満では、ポリオレフィン多層微多孔膜を電池用セパレータとして電池に組み込んだ場合に短絡が発生する恐れがある。突刺強度は3,500 mN/20μm以上が好ましい。
【0117】
(d) 80,000 kPa以上の引張破断強度
引張破断強度が長手方向(MD)及び横手方向(TD)のいずれにおいても80,000 kPa以上であると、電池用セパレータとして用いたときに破膜の心配がない。引張破断強度はMD方向及びTD方向のいずれにおいても100,000 kPa以上であるのが好ましい。
【0118】
(e) 100%以上の引張破断伸度
引張破断伸度が長手方向(MD)及び横手方向(TD)のいずれにおいても100%以上であると、電池用セパレータとして用いたときに破膜の心配がない。
【0119】
(f) 10%以下の熱収縮率
105℃に8時間暴露した後の熱収縮率が長手方向(MD)及び横手方向(TD)ともに10%以下である。熱収縮率が10%を超えると、ポリオレフィン多層微多孔膜を電池用セパレータとして用いた場合、電池の発熱によりセパレータが収縮し、その端部で短絡が発生する可能性が高くなる。熱収縮率はMD方向及びTD方向ともに8%以下であるのが好ましい。
【0120】
(g) 140℃以下のシャットダウン温度
シャットダウン温度が140℃を超えると、多層微多孔膜をリチウム電池用セパレータとして用いた場合に、過熱時の遮断応答性が低下する。
【0121】
(h) 160℃以上のメルトダウン温度
メルトダウン温度は好ましくは160〜190℃である。
【0122】
特に第一のポリオレフィン多層微多孔膜は次の物性も有する。
【0123】
(i) 20%以上の加熱圧縮後膜厚変化率
5MPa(51 kgf/cm2)の圧力下、90℃で5分間加熱圧縮した後の膜厚変化率は、圧縮前の膜厚を100%として20%以上である。膜厚変化率が20%以上であると、微多孔膜を電池セパレータとして用いた場合に、充電時の電極の膨張を吸収でき、電極に圧迫されても透過性の変化が小さい。この膜厚変化率は25%以上が好ましい。
【0124】
(j) 700 sec/100 cm3以下の到達透気度
上記条件で加熱圧縮した後の到達透気度(ガーレー値)は700 sec/100 cm3/20μm以下である。到達透気度が700 sec/100 cm3/20μm以下であると、電池セパレータとして用いた場合に、電池容量が大きく、電池のサイクル特性も良好である。到達透気度は600 sec/100 cm3/20μm以下であるのが好ましい。
【0125】
[6] 電池用セパレータ
上記ポリオレフィン多層微多孔膜からなる電池用セパレータは、電池の種類に応じて適宜選択しうるが、5〜50μmの膜厚を有するが好ましく、10〜35μmの膜厚を有するのがより好ましい。
【実施例】
【0126】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0127】
実施例1
(1) ポリエチレン溶液の調製
質量平均分子量(Mw)が2.0×106の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)25質量%、及びMwが3.5×105の高密度ポリエチレン(HDPE)75質量%からなるポリエチレン(PE)組成物100質量部に、テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジターシャリーブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]メタン0.2質量部をドライブレンドした。UHMWPE及びHDPEからなるPE組成物について測定した融点は135℃であり、結晶分散温度は90℃であった。得られた混合物30質量部を二軸押出機(内径58 mm、L/D=42、強混練タイプ)に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン[35 cSt(40℃)]70質量部を供給し、230℃及び250 rpmの条件で溶融混練して、ポリエチレン溶液Aを調製した。
【0128】
(2) ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液の調製
Mwが5.3×105のポリプロピレン(PP)90質量%、及びMwが1.1×104のポリアミド6(PA6)10質量%からなる混合物100質量部に、上記酸化防止剤0.2質量部をドライブレンドした。得られた混合物30質量部を二軸押出機に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン70質量部を供給し、230℃及び250 rpmの条件で溶融混練して、ポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液Bを調製した。
【0129】
UHMWPE、HDPE及びPPのMwは以下の条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により求めた(以下同じ)。
・測定装置:Waters Corporation製GPC-150C
・カラム:昭和電工株式会社製Shodex UT806M
・カラム温度:135℃
・溶媒(移動相):o-ジクロルベンゼン
・溶媒流速:1.0 ml/分
・試料濃度:0.1質量%(溶解条件:135℃/1h)
・インジェクション量:500μl
・検出器:Waters Corporation製ディファレンシャルリフラクトメーター
・検量線:単分散ポリスチレン標準試料を用いて得られた検量線から、所定の換算定数を用いて作成した。
【0130】
(3) 成膜
得られたポリエチレン溶液A及びポリプロピレン・耐熱性樹脂混合物溶液Bを、各二軸押出機から三層用Tダイに供給し、溶液A/溶液B/溶液Aの順で積層した成形体となるように押し出した。押し出した成形体を、18℃に温調した冷却ロールで引き取りながら冷却し、ゲル状三層シートを形成した。得られたゲル状三層シートを、テンター延伸機により115℃で長手方向(MD)及び横手方向(TD)ともに5倍となるように同時二軸延伸した。延伸ゲル状三層シートを枠板[サイズ:20 cm×20 cm、アルミニウム製]に固定し、25℃に温調した塩化メチレンの洗浄槽中に浸漬し、100 rpmで3分間揺動させながら洗浄し、流動パラフィンを除去した。洗浄した膜を室温で風乾し、テンターに固定し、125℃で10分間熱固定処理することによりポリオレフィン三層微多孔膜を作製した(層厚比:PE組成物層/PP・耐熱性樹脂混合物層/PE組成物層=20/60/20)。
【0131】
実施例2
ポリアミド6の代わりにMwが3.8×104のポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いた以外実施例1と同様にして、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
【0132】
実施例3
ポリアミド6の代わりにMwが3.5×104のポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた以外実施例1と同様にして、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
【0133】
実施例4
(1) ポリエチレン溶液の調製
溶融混練温度を210℃とした以外実施例1と同様にして、ポリエチレン溶液を調製した。
【0134】
(2) 無機フィラー含有ポリプロピレン溶液の調製
Mwが5.3×105のポリプロピレン(PP)90質量部と、ガラス繊維(GF)のチョップドストランド(単繊維径5μm、カット長1mm、旭ファイバーグラス株式会社製)10質量部とからなる混合物に、上記酸化防止剤0.2質量部をドライブレンドした。得られた混合物30質量部を二軸押出機に投入し、二軸押出機のサイドフィーダーから流動パラフィン70質量部を供給し、210℃及び250 rpmの条件で溶融混練して、無機フィラー含有ポリプロピレン溶液を調製した。
【0135】
(3) 成膜
得られたポリエチレン溶液A'及び無機フィラー含有ポリプロピレン溶液B'を、各二軸押出機から三層用Tダイに供給し、溶液A'/溶液B'/溶液A'の順で積層した成形体となるように押し出した。得られた押し出し成形体から、各々実施例1と同様にしてゲル状三層シートを形成し、同時二軸延伸し、洗浄し、風乾し、熱固定処理することによりポリオレフィン三層微多孔膜を作製した(層厚比:PE組成物層/無機フィラー含有PP層/PE組成物層=25/50/25)。
【0136】
(4) 無機フィラーのアスペクト比
得られたポリオレフィン三層微多孔膜を焼成し、残留したガラス繊維の顕微鏡写真を撮影し、得られた写真中の100個の粒子の長径及び短径を測定し、その比(長径/短径)の平均値を計算することにより求めたアスペクト比は40であった。
【0137】
実施例5
GFチョップドストランドの代わりにマイカ(製品名:A-11、株式会社山口雲母工業所製)を用い、無機フィラー含有ポリプロピレン溶液中の混合物(PP+マイカ)の濃度を27質量%とした以外実施例4と同様にして、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。上記と同様にして求めたマイカのアスペクト比は30であった。
【0138】
実施例6
GFチョップドストランドの代わりにタルク(製品名:ハイミクロン HE5、竹原化学工業株式会社製)を用い、無機フィラー含有ポリプロピレン溶液中の混合物(PP+タルク)の濃度を27質量%とした以外実施例4と同様にして、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。上記と同様にして求めたタルクのアスペクト比は20であった。
【0139】
比較例1
実施例1と同様にしてポリエチレン溶液を調製した。ポリプロピレンのみを用いた以外実施例1と同様にして、耐熱性樹脂を含まないポリプロピレン溶液を調製した。得られたポリエチレン溶液及びポリプロピレン溶液を用いた以外実施例1と同様にしてポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。
【0140】
比較例2
ポリエチレン溶液のみを用いて成膜した以外実施例1と同様にして、ポリエチレン微多孔膜を作製した。
【0141】
比較例3
GFチョップドストランドの代わりに炭酸カルシウム(CaCO3)(製品名:サンライト、竹原化学工業株式会社製)を用い、無機フィラー含有ポリプロピレン溶液中の混合物(PP+CaCO3)の濃度を27質量%とした以外実施例4と同様にして、ポリオレフィン三層微多孔膜を作製した。上記と同様にして求めた炭酸カルシウムのアスペクト比は1.1であった。
【0142】
実施例1〜6及び比較例1〜3で得られたポリオレフィン(三層)微多孔膜の物性を以下の方法により測定した。結果を表1〜3に示す。
【0143】
(1) 平均膜厚(μm)
多層微多孔膜の30 cmの幅にわたって5mmの間隔で接触厚み計により膜厚を測定し、膜厚の測定値を平均した。
【0144】
(2) 透気度(sec/100 cm3/20μm)
膜厚T1の多層微多孔膜に対してJIS P8117に準拠して測定した透気度P1を、式:P2=(P1×20)/T1により、膜厚を20μmとしたときの透気度P2に換算した。
【0145】
(3) 空孔率(%)
質量法により測定した。
【0146】
(4) 突刺強度(mN/20μm)
先端が球面(曲率半径R:0.5 mm)の直径1mmの針で、膜厚T1の多層微多孔膜を2mm/秒の速度で突刺したときの最大荷重を測定した。最大荷重の測定値L1を、式:L2=(L1×20)/T1により、膜厚を20μmとしたときの最大荷重L2に換算し、突刺強度とした。
【0147】
(5) 引張破断強度及び引張破断伸度
幅10 mmの短冊状試験片を用いてASTM D882により測定した。
【0148】
(6) 熱収縮率(%)
多層微多孔膜を105℃に8時間暴露したときの長手方向(MD)及び横手方向(TD)の収縮率をそれぞれ3回ずつ測定し、平均値を算出することにより求めた。
【0149】
(7) シャットダウン温度
熱機械的分析装置(セイコー電子工業株式会社製、TMA/SS6000)を用い、10 mm(TD)×3mm(MD)の試験片を、荷重2gで試験片の長手方向に引っ張りながら、5℃/minの速度で室温から昇温し、融点付近で観測された変曲点の温度をシャットダウン温度とした。
【0150】
(8) メルトダウン温度(℃)
上記熱機械的分析装置を用い、10 mm(TD)×3mm(MD)の試験片を、荷重2gで試験片の長手方向に引っ張りながら、5℃/minの速度で室温から昇温し、溶融により破膜した温度を測定した。
【0151】
(9) シャットダウン速度
135℃に温調したプレート上に面接触するように固定し、接触時間を種々変えて熱処理した複数の多層微多孔膜について透気度を測定し、透気度が100,000秒/100 cm3(膜厚20μm換算)に達するのに要した時間(秒)をシャットダウン速度とした。
【0152】
(10) 加熱圧縮による膜厚変化率
高平滑面を有する一対のプレス板の間に微多孔膜サンプルを挟み、これをプレス機により、5MPa(51 kgf/cm2)の圧力下、90℃で5分間加熱圧縮し、上記の方法により平均膜厚を測定した。圧縮前の平均膜厚を100%として膜厚変化率を算出した。
【0153】
(11) 到達透気度(sec/100 cm3/20μm)
上記条件で加熱圧縮した後の微多孔膜サンプル(膜厚T1')に対してJIS P8117に準拠して測定した透気度P1'を、式:P2'=(P1'×20)/T1'により、膜厚を20μmとしたときの透気度P2'に換算した値を到達透気度とした。
【0154】
【表1】

【0155】
注:(1) Mwは質量平均分子量を表す。
(2) Aはポリエチレン組成物の溶液を表し、BはPP・耐熱性樹脂混合物の溶液を表す。
(3) MDは長手方向を表し、TDは横手方向を表す。
(4) PA6はポリアミド6を表す。
【0156】
【表2】

【0157】
注:(1) Mwは質量平均分子量を表す。
(2) ポリオレフィン三層微多孔膜を焼成し、残留した無機フィラーの顕微鏡写真を撮影し、得られた写真中の100個の無機フィラー粒子の長径及び短径を測定し、その比(長径/短径)の平均値を計算することにより求めた。
(3) A'はポリエチレン組成物の溶液を表し、B'は無機フィラーを含有するPP溶液を表す。
(4) MDは長手方向を表し、TDは横手方向を表す。
(5) ガラス繊維(GF)のチョップドストランド(単繊維径5μm、カット長1mm、旭ファイバーグラス株式会社製)。
(6) 製品名:A-11、株式会社山口雲母工業所製。
(7) 製品名:ハイミクロン HE5、竹原化学工業株式会社製。
【0158】
【表3】

【0159】
注:(1) Mwは質量平均分子量を表す。
(2) ポリオレフィン三層微多孔膜を焼成し、残留した無機フィラーの顕微鏡写真を撮影し、得られた写真中の100個の無機フィラー粒子の長径及び短径を測定し、その比(長径/短径)の平均値を計算することにより求めた。
(3) A''はポリエチレン組成物の溶液を表し、B''はPPを含む溶液を表す。
(4) MDは長手方向を表し、TDは横手方向を表す。
(5) 製品名:サンライト、竹原化学工業株式会社製。
【0160】
表1及び2から明らかなように、実施例1〜6のポリオレフィン三層微多孔膜は、透過性、機械的強度、耐熱収縮性、シャットダウン特性及びメルトダウン特性のバランスに優れていた。特に実施例1〜3のポリオレフィン三層微多孔膜は、耐圧縮性(圧縮時の変形性及び圧縮後の透過性)に優れていた。
【0161】
これに対して、比較例1のポリオレフィン三層微多孔膜は、ポリプロピレン含有層に耐熱性樹脂、又はアスペクト比が2以上の無機フィラーを添加していないので、実施例1〜6に比べて透過性、突刺強度及びメルトダウン特性が劣っていた。さらに比較例1の三層微多孔膜は、実施例1〜3に比べて、加熱圧縮による変形性が劣っており、加熱圧縮による透気度の悪化が大きかった。比較例2の微多孔膜はポリエチレン組成物のみからなるので、実施例1〜6に比べて突刺強度及びメルトダウン特性が劣っていた。さらに比較例2の三層微多孔膜は、実施例1〜3に比べて、加熱圧縮による変形性が劣っており、加熱圧縮による透気度の悪化が大きかった。比較例3のポリオレフィン三層微多孔膜は、ポリプロピレン含有層に、アスペクト比が2未満の無機フィラーを添加したので、実施例4〜6に比べて機械的強度及びメルトダウン特性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレン系樹脂からなる多孔質層Aと、ポリプロピレン及び融点又はガラス転移温度が170℃以上の耐熱性樹脂を含有する多孔質層Bとを有し、両表層を前記多孔質層A、内層を前記多孔質層Bで構成されたことを特徴とするポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項2】
ポリエチレン系樹脂からなる多孔質層A’と、ポリプロピレン及びアスペクト比が2以上の無機フィラーを含有する多孔質層B’とを有し、両表層を前記多孔質層A’、内層を前記多孔質層B’で構成されたことを特徴とするポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のポリオレフィン多層微多孔膜において、(a)20〜400秒/100 cm3の透気度、(b)140℃以下のシャットダウン温度、(c)3,000 mN/20μm以上の突刺強度、及び(d)160℃以上のメルトダウン温度の少なくとも一の物性を有することを特徴とするポリオレフィン多層微多孔膜。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン多層微多孔膜からなる電池用セパレータ。

【公開番号】特開2012−179910(P2012−179910A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−94260(P2012−94260)
【出願日】平成24年4月17日(2012.4.17)
【分割の表示】特願2007−542569(P2007−542569)の分割
【原出願日】平成18年10月23日(2006.10.23)
【出願人】(510157580)東レバッテリーセパレータフィルム株式会社 (31)
【Fターム(参考)】