説明

ポリオレフィン微多孔膜、蓄電デバイス用セパレータ及び蓄電デバイス

【課題】高強度かつ高温での保存特性に優れた蓄電デバイスを実現し得るポリオレフィン微多孔膜を提供する。
【解決手段】ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜であって、前記ポリオレフィン樹脂は高密度ポリエチレンを含み、前記無機粒子は化学式Al23・nH2O(ただしn>0)で表される無機物を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリオレフィン微多孔膜、蓄電デバイス用セパレータ及び蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
微多孔膜は、様々な孔径、孔形状、孔数を有し、その特異な構造により発現され得る特性から幅広い分野に利用されている。リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタなどの蓄電デバイスである蓄電池には、正負極間の接触を防ぎ、イオンを透過させる機能を有するセパレータと呼ばれる電解液を保持した多孔膜が正負極間に設けられている。近年、リチウムイオン二次電池の性能競争激化に伴い、セパレータとして用いられるポリオレフィン微多孔膜に対する要求も厳しく、かつ多岐にわたりつつある。
【0003】
このような事情のもと、例えば特許文献1には、ガス吸収剤を混ぜ込んだセパレータを作製し適用することで、電池内部に発生したガスに起因する電池性能のロスを抑えることができる非水電解質二次電池が記載されている。
【0004】
また特許文献2には、無機粉体を混ぜ込んだセパレータを作製し適用することで、正極及び負極間の直接のショートを防止し、内部ショートが拡大しないようにすることができるセパレータが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−146963号公報
【特許文献2】特許第3831017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、リチウムイオン二次電池には長期間にわたる信頼性や安全性が求められている。PEV(電気自動車)やHEV(ハイブリッドカー)、電動バイクなどは、運転時の排熱や直射日光及び外気温による車体の温度上昇に伴い、電池自体の温度が上昇することが考えられる。そのような環境下、リチウムイオン二次電池は高温に曝されると、電池に膨れが生じたり、サイクル特性、電気容量、保存安定性などの電池性能が劣化したりしてしまう場合がある。劣化の原因としては高温に晒された電池内部での電解液の分解やそれに伴うガス発生などが考えられる。そのため、高温でも電池性能を損なわない安定なリチウムイオン二次電池が望まれている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のセパレータでは、ガスを吸収することでガス発生による影響を抑制することができても、ガス発生の原因である電解液の分解自体を抑制していないため、電解液の分解による電池性能の低下が避けられない場合がある。
【0008】
また、特許文献2のような微多孔膜は、高強度化の点でなお改良の余地を有する。ポリオレフィン樹脂と無機粉体と可塑剤とを混練する工程で無機粉体同士が凝集しやすく、このような場合に混練物に高倍率の延伸を施すと、凝集物を起点とし孔構造が粗大化し、さらには膜破断を起こしやすくなる。そのため、高突刺強度を達成できない傾向にある。
【0009】
本発明は、高強度かつ高温での保存特性に優れた蓄電デバイスを実現し得るポリオレフィン微多孔膜、そのポリオレフィン微多孔膜を含む蓄電デバイス用セパレータ、及びそのセパレータを備える蓄電デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意検討した結果、ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜であって、特定の組成を有するものが上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜であって、前記ポリオレフィン樹脂は高密度ポリエチレンを含み、前記無機粒子は化学式Al23・nH2O(ただしn>0)で表される無機物を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜。
[2]前記ポリオレフィン樹脂と前記無機粒子との総量中に占める前記無機粒子の割合が10質量%以上85質量%以下である、[1]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[3]前記無機粒子は、熱重量分析による100℃までの重量減少率が5%以下である、[1]又は[2]に記載のポリオレフィン微多孔膜。
[4]前記無機粒子は、その平均粒径が0.1μm以上5μm以下である、[1]〜[3]のいずれか一つに記載のポリオレフィン微多孔膜。
[5]前記無機粒子は、1μm以上の粒径を有する粒子の累積頻度が50%以下である、[1]〜[4]のいずれか一つに記載のポリオレフィン微多孔膜。
[6]前記ポリオレフィン樹脂が、粘度平均分子量が70万以上500万以下であるポリエチレン樹脂を含む、[1]〜[5]のいずれか一つに記載のポリオレフィン微多孔膜。
[7][1]〜[6]のいずれか一つに記載のポリオレフィン微多孔膜の製造方法であって、ポリオレフィン樹脂と、化学式Al23・nH2O(ただしn>0)で表される無機物を主成分として含む無機粒子と、可塑剤と、を含む混合物を溶融混練して混練物を得る工程と、前記混練物をシート状に成形して成形体を得る工程と、前記成形体又はその加工物から可塑剤を抽出して微多孔膜を得る工程とを有し、前記可塑剤は、SP値が7.5以上8.5未満である可塑剤(I)と、SP値が8.5以上9.9未満である可塑剤(II)とを含む混合可塑剤である製造方法。
[8]前記混合可塑剤に占める前記可塑剤(I)の割合は、15〜85質量%である、[7]に記載の製造方法。
[9]前記混合物において、前記ポリオレフィン樹脂と前記無機粒子と前記可塑剤との総量中に占める前記無機粒子の割合が5質量%以上45質量%以下である、[7]又は[8]に記載の製造方法。
[10][1]〜[6]のいずれか一つに記載のポリオレフィン微多孔膜又は[7]〜[9]のいずれか一つに記載の製造方法により得られるポリオレフィン微多孔膜を含む蓄電デバイス用セパレータ。
[11][10]に記載の蓄電デバイス用セパレータと、正極と、負極と、電解液とを含む蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高強度かつ高温での保存特性に優れた蓄電デバイスを実現し得るポリオレフィン微多孔膜、そのポリオレフィン微多孔膜を含む蓄電デバイス用セパレータ、及びそのセパレータを備える蓄電デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、「実施の形態」と略記する。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0014】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜(以下、単に「微多孔膜」ともいう。)は、ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含むポリオレフィン樹脂組成物にて形成される。
本実施の形態において用いられるポリオレフィン樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、及び1−オクテン等のモノマーを重合して得られる重合体(ホモ重合体や共重合体、多段重合体等)が挙げられる。これらの重合体は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0015】
また、上記ポリオレフィン樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(密度0.910g/cm3以上0.930g/cm3未満)、線状低密度ポリエチレン(密度0.910〜0.940g/cm3)、中密度ポリエチレン(密度0.930g/cm3以上0.942g/cm3未満)、高密度ポリエチレン(密度0.942g/cm3以上)、超高分子量ポリエチレン(密度0.910〜0.970g/cm3)、アイソタクティックポリプロピレン、アタクティックポリプロピレン、ポリブテン、エチレンプロピレンラバーが挙げられる。
【0016】
ここで、ポリオレフィン微多孔膜を電池セパレータとして用いる場合に、電池の高温保存特性を向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂が高密度ポリエチレンを含むことが好ましい。高密度ポリエチレンのポリオレフィン樹脂中に占める割合は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは35質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0017】
また、ポリオレフィン微多孔膜の耐熱性を向上させる観点から、ポリオレフィン樹脂はポリプロピレンを含むことが好ましい。ポリプロピレンのポリオレフィン樹脂中に占める割合は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは15質量%以上である。また、ポリプロピレンのポリオレフィン樹脂中に占める割合は、好ましくは50質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、特に好ましくは30質量%以下である。ポリプロピレンの割合を1質量%以上とすることは、ポリオレフィン微多孔膜の耐熱性を向上させる観点から好ましい。また、ポリプロピレンの割合を20質量%以上とすることは、延伸性をより良好にし、更に透気度の優れる微多孔膜を実現する観点から好ましい。一方、ポリプロピレンの割合を50質量%以下とすることは、延伸性をより良好にし、更に高突刺強度な微多孔膜を実現する観点から好ましい。
【0018】
前記ポリオレフィン樹脂は、特定の粘度平均分子量(なお、複数のポリオレフィン樹脂が用いられる場合には、各々のポリオレフィン樹脂について測定される値を意味する。)を有するポリオレフィン樹脂を含むことが好ましい。粘度平均分子量としては、好ましくは70万以上、より好ましくは100万以上、更に好ましくは150万以上、特に好ましくは180万以上であり、上限として好ましくは500万以下、より好ましくは450万以下である。当該粘度平均分子量を70万以上とすることは、ポリオレフィン樹脂組成物を溶融成形する際にメルトテンションを高く維持し良好な成形性を確保する観点、並びに、ポリオレフィン樹脂の分子に対して十分な絡み合いを付与し微多孔膜の強度を高める観点から好ましい。一方、粘度平均分子量を500万以下とすることは、微多孔膜として用いた場合のイオン透過性を高め、ポリオレフィン樹脂組成物の均一な溶融混練を実現し、そのシートの成形性、特に厚み安定性を向上させる観点から好ましい。
【0019】
本実施の形態において、無機粒子は「化学式Al23・nH2O(ただしn>0)」で表される無機物を主成分として含むものであり、好ましくはn<3であり、より好ましくはn=1で表されるAlOOH又はAl23・H2Oで示されるベーマイト又は擬ベーマイトを主成分として含む。なお、本実施の形態においてはベーマイト、及び擬ベーマイトをいずれも「ベーマイト」として扱う。0<n<3であると、高温での保存特性に優れ、かつ高強度を発現する観点から好ましく、また、ハンドリング性の観点からも好ましい。また、0<n<3であると、アルミナのような金属酸化物と比較して軟らかいため、無機粒子を含有するセパレータの製造時に出てくるような問題、すなわち、セパレータに含まれる無機粒子によって、製造時の各工程にて使用する部品が磨耗してしまうといった、ハンドリング性に関する問題が発生し難いという点でも好ましい。
そして、このことを一因として、本実施の形態の微多孔膜は、高温での保存特性に優れた蓄電デバイスを実現し得るものとなる。ベーマイトを主成分として含む無機粒子は、市販品又は天然に存在するものを入手、あるいは常法により合成することができるが、中でも、粒径、形状を制御しやすく、電気化学素子に悪影響するイオン性不純物の量をコントロールできる合成ベーマイトがさらに望ましい。市販のベーマイトを主成分として含む無機粒子としては、例えば、巴工業株式会社製「CAM9010」、河合石灰工業株式会社製「BMM」「BMB」、大明化学工業株式会社製「ベーマイトP−10」、サソール社製「CATAPAL D」などのCATAPALシリーズ、「DISPERAL」などのDISPERALシリーズ、「PURAL SB」などのPURALシリーズ、ユニオン昭和株式会社製「VERSAL」シリーズが挙げられる。
【0020】
ここで、「化学式Al23・nH2O(ただしn>0)で表される無機物を主成分とする」とは、上記無機物の無機粒子中に占める割合が30質量%以上であることを意味する。上記無機物の無機粒子中に占める割合は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、100質量%であってもよい。
【0021】
本実施の形態に係る無機粒子は、その平均粒径が0.1μm以上であると好ましく、0.2μm以上であるとより好ましい。また、その平均粒径は50μm以下であると好ましく、5μm以下であるとより好ましく、1μm以下であると更に好ましく、0.5μm以下であると特に好ましい。平均粒径が0.1μm以上であると、無機粒子の取り扱いの観点から好ましい。一方、平均粒径を50μm以下とすることは、微多孔膜中での無機粒子の分散性を向上させる観点から好ましい。ここで、無機粒子の分散性を向上させることは、マクロボイドの発生を抑制出来る傾向にあり膜に高倍率の延伸を施すことを可能にする観点から好ましい。
【0022】
本実施の形態に係る無機粒子は、1μm以上の粒径を有する粒子の累積頻度(以下、単に「累積頻度」ともいう。)が50%以下であると好ましく、40%以下であるとより好ましく、35%以下であると更に好ましい。その累積頻度を50%以下とすることは、無機粒子が全体として小さな粒子を多く含むことになるため、微多孔膜中での無機粒子の分散性を更に高める観点から好ましい。この累積頻度の下限は特に限定されず、0%、すなわち全ての無機粒子が1μm未満であっても良いし、好ましくは10%以上である。
【0023】
本実施の形態に係る無機粒子は、熱重量(TG)分析による100℃までの重量減少率(以下、単に「100℃重量減少率」ともいう。)が7%以下であると好ましく、5%以下であるとより好ましく、3%以下であると更に好ましく、1%以下であると特に好ましく、0.5%以下であると極めて好ましい。その重量減少率を7%以下とすることは、無機粒子に物理的に吸着した水分を少なくすることを意味し、それにより水分による無機粒子同士の凝集を抑制し、微多孔膜中での無機粒子の分散性を向上させる観点から好ましい。この重量減少率の下限は特に限定されず、検出限界以下であると最も好ましい。
【0024】
本実施の形態に係る無機粒子は、TG分析による280℃までの重量減少率(以下、単に「280℃重量減少率」ともいう。)が15%以下であると好ましく、10%以下であるとより好ましく、5%以下であると更に好ましく、1.5%以下であると特に好ましい。その重量減少率を15%以下とすることは、無機粒子から揮発する物質が少ないことを意味し、それにより製膜安定性が高まることで薄膜を安定生産させる観点から好ましい。この重量減少率の下限は特に限定されず、検出限界以下であると最も好ましい。
【0025】
本実施の形態に係る無機粒子は、その比表面積が280m2/g以下であると好ましく、200m2/g以下であるとより好ましく、160m2/g以下であるとより好ましく、120m2/g以下であると更に好ましい。その比表面積を280m2/g以下とすることは、同程度の平均粒径であれば粒子の形状をより真球に近づけることを意味し、無機粒子同士の接触面積が小さくなりその凝集を抑制して、微多孔膜中での無機粒子の分散性を更に高める観点から好ましい。この比表面積の下限は特に限定されず、例えば50m2/gであってもよい。
【0026】
本実施の形態に係る無機粒子は、その平均一次粒子径(結晶径)が100nm以下であると好ましく、50nm以下であるとより好ましい。また、その平均一次粒子径が3nm以上であると好ましく、10nm以上であるとより好ましく、30nm以上であると更に好ましい。その平均一次粒子径を100nm以下とすることは、延伸等を施した場合でもポリオレフィンと無機粒子間での剥離が生じにくいためにマクロボイドの発生を抑制出来る傾向にあり高強度となりやすい。また無機粒子がポリオレフィン中に分散し融着した状態となるために耐熱性においても優れる傾向がある。観点から好ましい。また、その平均一次粒子径を3nm以上とすることは、一次粒子同士の凝集を抑制して、無機粒子の分散性を高める観点から好ましい。
【0027】
本実施の形態に係る無機粒子は複数種の配合物であってもよく、例えば、上記無機物に加えて、その他の無機粒子を含んでもよい。そのような無機粒子としては、例えば、アルミナ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、酸化亜鉛、セリア、イットリア、酸化鉄などの酸化物系セラミックス、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス、硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、ゼオライト等のセラミックス、ガラス繊維が挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。そのような無機粒子の含有量は、無機粒子全体に対して、通常30質量%以下、好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。当該割合を30質量%以下とすることは、電気化学的安定性の観点から好ましい。
【0028】
本実施の形態に係るポリオレフィン樹脂組成物において、上記ポリオレフィン樹脂と上記無機粒子との総量中に占める上記無機粒子の割合が、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上、特に好ましくは30質量%以上であり、通常80質量%以下、好ましくは75質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは60質量%以下である。当該割合を15質量%以上とすることは、ポリオレフィン微多孔膜を高気孔率に成膜する観点から好ましい。一方、当該割合を80質量%以下とすることは、高強度を達成する観点から好ましい。
【0029】
上記ポリオレフィン樹脂組成物には必要に応じて、フェノール系、リン系及びイオウ系等の酸化防止剤;ステアリン酸カルシウム及びステアリン酸亜鉛等の金属石鹸類;紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、防曇剤、着色顔料など、各種添加剤を混合してもよい。
そのような添加剤の、ポリオレフィン樹脂組成物への配合量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上であり、通常10質量部以下、好ましくは5質量部以下である。
【0030】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜の製造方法としては、例えば、下記(1)〜(5)の各工程を含む製造方法を用いることができる。
(1)ポリオレフィン樹脂、無機粒子、及び可塑剤を混練して混練物を形成する混練工程、
(2)上記混練工程の後、上記混練物をシート状成形体に加工する成形工程、
(3)上記成形工程の後、上記シート状成形体を好ましくは20倍以上200倍以下の面倍率で延伸し、延伸物を形成する延伸工程、
(4)上記延伸工程の前、及び/又は後に、可塑剤を抽出して多孔体を形成する多孔体形成工程、
(5)上記多孔体形成工程の後、上記多孔体に対し、上記ポリオレフィン樹脂の(融点−10℃)以上、(ポリオレフィン樹脂の融点+40℃)以下の温度条件で熱処理を行う熱処理工程。
【0031】
上記(1)の工程で用いられる可塑剤は、ポリオレフィン樹脂と混合した際にポリオレフィン樹脂の融点以上において均一溶液を形成し得る不揮発性溶媒であることが好ましい。また、可塑剤は常温において液体であることが好ましい。
【0032】
さらに、可塑剤は、SP値が7.5以上8.5未満である可塑剤(I)と、SP値が8.5以上9.9未満である可塑剤(II)とを含む混合可塑剤であると、ポリオレフィン樹脂と無機粒子との混合物に対して混合可塑剤の相溶性が高く、延伸時に均一に延伸が行われる観点から好ましい。ここで、本実施の形態でいう「SP値」とは、溶解度パラメータであり、秋山三郎らによる「ポリマーブレンド」の125頁〜(1981年シーエムシー刊)に記載されている方法や、SmallによるJournal of Applied Chemistry 第3巻71頁〜(1953年)に記載されている方法により計算される値である。
【0033】
SP値が7.5以上8.5未満の可塑剤(可塑剤(I))としては、例えば、流動パラフィン(以下、「LP」と略記することがある。SP値8.4)、プロセスオイル等の鉱物油、キシレン、デカリン等の炭化水素油が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0034】
一方、SP値が8.5以上9.9未満の可塑剤(可塑剤(II))としては、例えば、フタル酸ジブチル(以下、「DBP」と略記することがある。SP値9.4、融点−35℃)、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(以下、「DOP」と略記することがある。SP値8.9、融点−55℃)等のフタル酸エステル、セバシン酸ジオクチル(以下、「DOS」と略記することがある。SP値8.6、融点−62℃)等のセバシン酸エステル、アジピン酸ジオクチル(以下、「DOA」と略記することがある。SP値8.6、融点−70℃)等のアジピン酸エステル、トリメリット酸トリオクチル(以下、「TOTM」と略記することがある。SP値9.5、融点−30℃)等のトリメリット酸エステル、リン酸トリオクチル(以下、「TOP」と略記することがある。SP値9.2、融点−70℃)等のリン酸エステルが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0035】
特にポリオレフィン樹脂にポリエチレンが含まれる場合、可塑剤として流動パラフィンを用いることは、ポリオレフィン樹脂と可塑剤との界面剥離を抑制し、均一な延伸を実施する観点、及び高突刺強度を実現する観点から好ましい。また、可塑剤としてフタル酸ジ−2−エチルヘキシルを用いることは、混練物を溶融押出しする際の負荷を上昇させ、無機粒子の分散性を向上させる(品質の良い微多孔膜を実現する)観点から好ましい。また、混合可塑剤が流動パラフィンとフタル酸ジ−2−エチルヘキシルとの組合せであると好ましい。このような混合可塑剤は、ポリエチレンと無機粒子との混合物に対して相溶性が高く、延伸時にポリエチレンと無機粒子と可塑剤との界面剥離が起こり難いため、均一な延伸を実施しやすく、その結果、強度の高い微多孔膜を実現できる。
【0036】
上記(1)の工程の混合物において、ポリオレフィン樹脂と無機粒子と可塑剤との総量中に占める無機粒子の割合が5質量%以上であると好ましく、10質量%以上であるとより好ましく、15質量%以上であるとさらに好ましく、45質量%以下であると好ましく、40質量%以下であるとより好ましく、35質量%以下であるとさらに好ましい。その割合が5質量%以上であることにより、ポリオレフィン樹脂を含有する微多孔膜において耐熱性に優れるという効果を得やすい傾向にある。一方、その割合が45質量%以下であることにより、高強度が得られるという効果を得やすい傾向にある。また電池用セパレータとして使用した際に、高温保存時の容量低下が起こり難く、信頼性に優れる。特に、30質量%以下である場合、当該傾向が顕著となり好ましい。
【0037】
可塑剤(I)の混合可塑剤中に占める割合は、好ましくは15〜85質量%、より好ましくは20〜80質量%である。当該割合が15質量%以上の場合、ポリオレフィン樹脂に無機粒子が無機粒子の凝集が起こり難く均一な延伸が行われやすい傾向があるので好ましい。一方、当該割合が85質量%以下の場合、高分散しやすい傾向があるので好ましい。
【0038】
上記可塑剤が、上記混練物中に占める割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。当該割合を80質量%以下とすることは、溶融成形時のメルトテンションを高く維持し、成形性を確保する観点から好ましい。一方、当該割合を30質量%以上とすることは、成形性を確保する観点、及び、ポリオレフィンの結晶領域におけるラメラ晶を効率よく引き伸ばす観点から好ましい。ここで、ラメラ晶が効率よく引き伸ばされることは、ポリオレフィン鎖の切断が生じずにポリオレフィン鎖が効率よく引き伸ばされることを意味し、均一かつ微細な孔構造の形成や、ポリオレフィン微多孔膜の強度及び結晶化度の向上に寄与し得る。
【0039】
ポリオレフィン樹脂と無機粒子と可塑剤とを混練する方法としては、例えば、以下の(a)及び(b)の方法が挙げられる。
(a)ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを押出機、ニーダー等の樹脂混練装置に投入し、樹脂を加熱溶融してそれらを混練しながら更に可塑剤を導入し混練する方法。
(b)予めポリオレフィン樹脂と無機粒子と可塑剤とを、ヘンシェルミキサー等を用い所定の割合で予備的に混練する工程を経て、それらの混練物を押出機に投入し、樹脂を加熱溶融させながら更に可塑剤を導入し混練する方法。
【0040】
上記(b)の方法における予備混練に際しては、無機粒子の分散性を向上させ、高倍率の延伸を破膜することなく実施する観点から、ポリオレフィン樹脂及び無機粒子に対し、下記式(A)で表される条件を満足する量の可塑剤を配合して予備的に混練することが好ましい。
0.2≦(可塑剤質量/無機粒子質量)≦1.2 (A)
【0041】
上記(2)の工程は、例えば、上記混練物をTダイやサーキュラーダイ等を介してシート状に押し出し、熱伝導体に接触させて冷却固化させる工程である。当該熱伝導体としては、金属、水、空気、又は可塑剤自身を使用できる。また、冷却固化をロール間で挟み込むことにより行うことは、シート状成形体の膜強度を増加させる観点、並びにシート状成形体の表面平滑性を向上させる観点から好ましい。
【0042】
上記(3)の工程における延伸方法としては、例えば、二軸延伸(同時二軸延伸、逐次二軸延伸)、多段延伸、多数回延伸等の方法が挙げられる。中でも、同時二軸延伸を採用することは、ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度向上及び膜厚均一化の観点から好ましい。また、上記(3)の工程における面倍率は、好ましくは20倍以上、より好ましくは25倍以上であり、好ましくは200倍以下、より好ましくは100倍以下、更に好ましくは50倍以下である。当該面倍率を20倍以上とすることは、ポリオレフィン樹脂と無機粒子との界面を密着させ、ポリオレフィン微多孔膜の局所的かつ微小領域での耐圧縮特性を向上させる観点から好ましい。
【0043】
上記(3)の工程における延伸温度としては、ポリオレフィン樹脂の融点を基準温度として、好ましくは(融点−50℃)以上、より好ましくは(融点−30℃)以上、更に好ましくは(融点−20℃)以上であり、好ましくは(融点−2℃)以下、より好ましくは(融点−3℃)以下である。延伸温度を(融点−50℃)以上とすることは、ポリオレフィン樹脂と無機粒子との界面、又はポリオレフィン樹脂と可塑剤との界面を良好に密着させ、ポリオレフィン微多孔膜の局所的かつ微小領域での耐圧縮特性を向上させる観点から好ましい。例えば、ポリオレフィン樹脂として高密度ポリエチレンを用いた場合、延伸温度は115℃以上132℃以下が好適である。ポリオレフィン樹脂として複数のポリオレフィンを混合して用いた場合、その融解熱量が大きい方のポリオレフィンの融点を基準とすることができる。
【0044】
上記(4)の工程は、ポリオレフィン微多孔膜の突刺強度を向上させる観点から、上記(3)の工程の後に行うことが好ましい。抽出方法としては、上記可塑剤の溶剤に対して上記延伸物を浸漬する方法が挙げられる。なお、抽出後の微多孔膜中の可塑剤残存量を1質量%未満にすることが好ましい。
【0045】
上記(5)の工程は、熱固定、及び/又は熱緩和を行う工程であることが好ましい。
ここで、(5)の工程における延伸倍率は、面倍率として好ましくは4倍未満、より好ましくは3倍未満である。面倍率を4倍未満とすることは、微多孔膜においてマクロボイドの発生や突刺強度低下を抑制する観点から好ましい。また、熱処理温度は、ポリオレフィン樹脂の融点を基準として、好ましくは(融点+40℃)以下、より好ましくは(融点+30℃)以下であり、好ましくは(融点−10℃)以上である。熱処理温度を(融点−10℃)以上とすることは、膜の破れ等の発生を抑制し、また、ポリオレフィン微多孔膜の140℃条件下での熱収縮率を低減する観点から好適である。一方、熱処理温度を(融点+40℃)以下とすることは、ポリオレフィン樹脂の収縮を抑制し、ポリオレフィン微多孔膜の熱収縮率を低減する観点から好適である。
【0046】
なお、上記(5)の工程の後、得られたポリオレフィン微多孔膜に対して後処理を施してもよい。このような後処理としては、例えば、界面活性剤等による親水化処理、電離性放射線等による架橋処理が挙げられる。
【0047】
本実施の形態のポリオレフィン微多孔膜について、その突刺強度は、好ましくは1.0N/20μm以上、より好ましくは1.5N/20μm以上、更に好ましくは2.0N/20μmであり、好ましくは20.0N/20μm以下、より好ましくは15.0N/20μm、更に好ましくは10.0N/20μm以下である。突刺強度を1.0N/20μm以上とすることは、電池捲回時における脱落した活物質等による破膜を抑制する観点から好ましい。即ち、捲回性の観点から好ましい。また、充放電に伴う電極の膨張収縮によって短絡する懸念を抑制し得る観点からも好ましい。一方、突刺強度を20.0N/20μm以下とすることは、加熱時の配向緩和による幅収縮を低減できる観点から好ましい。なお、上記突刺強度は、ポリエチレン分子量、ポリオレフィン樹脂の割合、及び、上記(3)の工程における延伸温度、延伸倍率を調整する方法等により調節可能である。
【0048】
上記微多孔膜の気孔率は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上であり、好ましくは95%以下、より好ましくは85%以下である。気孔率を50%以上とすることは、微多孔膜をリチウムイオン二次電池等の蓄電システムに用いた際に出力を確保する観点から好適である。一方、気孔率を95%以下とすることは、高い突刺強度を確保する観点から好ましい。なお、上記気孔率は、上記(3)の工程における延伸温度、延伸倍率を調整する、及び/又は、上記(5)の熱処理工程の温度、倍率を調整する方法等により調節可能である。
【0049】
上記微多孔膜の最終的な膜厚は、好ましくは2μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは9μm以上であり、好ましくは100μm未満、より好ましくは60μm未満、更に好ましくは40μm未満である。膜厚を5μm以上とすることは、微多孔膜の機械強度を向上させる観点から好適である。一方、膜厚を40μm未満とすることは、微多孔膜の捲回性を良好にし、セパレータとして用いた場合の占有体積が低下するため、電池の高容量化の点において有利となる傾向があるので好ましい。
【0050】
上記微多孔膜の透気度は20μm換算で、好ましくは10秒以上、より好ましくは15秒以上、更に好ましくは20秒以上であり、好ましくは1000秒以下、好ましくは500秒以下、更に好ましくは400秒以下、特に好ましくは300秒以下である。透気度を10秒以上とすることは、蓄電デバイスの自己放電を抑制する観点から好適である。一方、透気度を1000秒以下とすることは、良好な充放電特性が得る観点から好ましい。なお、上記透気度は、上記(5)の熱固定及び熱緩和工程の温度、倍率を調整する方法等により調節可能である。
【0051】
上記微多孔膜の高温保存試験でのガス発生は、好ましくはガス発生が観察されないことである。ガス発生が観察されないということは、電池内部において電解液の分解が生じていないことであり、優れた高温保存特性を発現させる観点から好ましい。
【0052】
本実施の形態の蓄電デバイス用セパレータは上記微多孔膜を含むものであれば特に限定されず、本実施の形態の微多孔膜は、特に非水電解液を用いるような蓄電デバイス用セパレータとして有用である。また、本実施の形態の蓄電デバイスは、上述の蓄電デバイス用セパレータを備えるものであれば特に限定されず、そのセパレータと、正極と、負極と、電解液とを含む。これらの蓄電デバイス用セパレータ及び蓄電デバイスは、上記微多孔膜を用いる他は、従来の構成と同様であってもよい。
【0053】
上記蓄電デバイスは、例えば、上記微多孔膜を幅10〜500mm、好ましくは80〜500mm、長さ200〜4000m、好ましくは1000〜4000m、の縦長形状のセパレータとして作製し、当該セパレータを、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は、負極−セパレータ−正極−セパレータの順で重ね、円又は扁平な渦巻状に巻回して巻回体を得、当該巻回体を電池缶内に収納し、更に電解液を注入することにより製造することができる。なお、上記蓄電デバイスは、正極−セパレータ−負極−セパレータ、又は負極−セパレータ−正極−セパレータの順に平板状に積層し、袋状のフィルムでラミネートし、電解液を注入する工程を経て製造することもできる。
【0054】
なお、上述の各種パラメータについては、特に記載のない限り、後述する実施例における測定方法に準じて測定される。
【実施例】
【0055】
次に、実施例及び比較例を挙げて本実施の形態をより具体的に説明するが、本実施の形態はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の各物性、特性は以下の方法により測定した。
【0056】
(1)粘度平均分子量
ポリエチレンの粘度平均分子量は、溶剤としてデカリンを用い、測定温度135℃で測定し、粘度[η]から次式により算出した。
[η]=6.77×10-4Mv0.67(Chiangの式)
また、ポリプロピレンについては、次式によりMvを算出した。
[η]=1.10×10-4Mv0.80
【0057】
(2)重量減少率(%)
熱重量分析装置(SIIナノテクノロジー製、商品名「TG/DTA6200」)を用いて無機粒子の室温から所定温度(100℃又は280℃)までの重量減少率を測定した。重量減少率は、室温での無機粒子の重量を基準として、所定温度まで昇温したときの重量減少を百分率で示すものとした。測定条件は下記のとおりとした。
昇温速度: 10℃/分
参照物質:なし
雰囲気:窒素雰囲気下
【0058】
(3)無機粒子の平均粒径(μm)、累積頻度(%)
50mlのポリ容器に無機粒子10質量部を精製水20質量部に加え、分散剤ディスパーサント5468(サンノプコ社製、ポリカルボン酸アンモニウム)を0.025質量部添加して蓋を閉めてから手で良く振って分散させた直後に、粒度分布測定装置(日機装(株)製マイクロトラックMT3300II、レーザー回折・散乱法)を用いて粒径分布を測定した。累積頻度が50%となる粒径を平均粒径(体積平均粒子径)とした。また、1μm以上の粒径を有する粒子の割合を、累積頻度とした。なお、無機粒子は、微多孔膜をデカリンに溶解した後、ろ過することにより微多孔膜から抽出した(取り出した)ものを用いた。
【0059】
(4)比表面積
BET法により測定した。
【0060】
(5)平均一次粒子径(結晶径)
走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡により、目視で観察して測定した。
【0061】
(6)膜厚(μm)
東洋精機製の微小測厚器、KBM(商標)を用いて室温23℃で微多孔膜の膜厚を測定した。
【0062】
(7)気孔率(%)
10cm×10cm角の試料を微多孔膜から切り取り、その体積(cm3)と質量(g)を求め、それらと膜密度(g/cm3)より、次式を用いて計算した。
気孔率(%)=(体積−質量/膜密度)/体積×100
なお、膜密度(混合組成物の密度)は、用いたポリオレフィン樹脂及び無機粒子の各々の密度並びに混合比より計算で求められる値を用いた。
【0063】
(8)透気度(秒)
JIS P−8117に準拠し、東洋精器(株)製のガーレー式透気度計、G−B2(商標)により、微多孔膜の透気度を測定した。
【0064】
(9)突刺強度(N)
カトーテック製のハンディー圧縮試験器KES−G5(商標)を用いて、開口部の直径11.3mmの試料ホルダーに微多孔膜を固定した。次に固定された微多孔膜の中央部に対して、針先端の曲率半径0.5mm、突刺速度2mm/秒の条件で、25℃雰囲気下にて突刺試験を行うことにより、最大突刺荷重として生の突刺強度(N)を得た。
【0065】
(10)高温保存試験
微多孔膜(一方の主面の面積:0.1m2)を100cm3の内装ポリエチレンのアルミニウム製袋状容器に入れ、後述の非水電解液2〜6mLをその容器に注入し、微多孔膜に電解液を浸透させた。その後、可能な限り容器内の空気を除いてヒートシーラーで容器の入り口をシールして密閉した。その容器を80℃オーブンに4時間静置した後取り出して、室温まで自然冷却した。
次に、冷却後の容器にガラス板を載置して、容器の膨れの有無(ガス発生の有無)を評価した。微量でもガスが発生した場合、オーブン内で加熱された容器が室温に冷却された際に容器の表面にシワとなって現れるので、この場合を「あり」と評価し、シワの発生が認められない場合を「なし」と評価した。
【0066】
a.非水電解液の調製
エチレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:2(体積比)の混合溶媒に、溶質としてLiPF6を濃度1.0mol/リットルとなるように溶解させて非水電解液を調製した。
b.正極の作製
活物質としてリチウムコバルト複合酸化物LiCoO2を92.2質量%、導電剤としてリン片状グラファイトとアセチレンブラックとをそれぞれ2.3質量%、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)3.2質量%をN−メチルピロリドン(NMP)中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを正極集電体となる厚さ20μmのアルミニウム箔の両面にダイコーターで塗布し、130℃で3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、正極の活物質塗布量は250g/m2、活物質嵩密度は3.00g/cm3になるようにした。これを電池幅に合わせて切断して帯状にして正極を得た。
c.負極の作製
活物質として人造グラファイト96.9質量%、バインダーとしてカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩1.4質量%とスチレン−ブタジエン共重合体ラテックス1.7質量%とを精製水中に分散させてスラリーを調製した。このスラリーを負極集電体となる厚さ12μmの銅箔の両面にダイコーターで塗布し、120℃で3分間乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成形した。このとき、負極の活物質塗布量は106g/m2、活物質嵩密度は1.35g/cm3になるようにした。これを電池幅に合わせて切断して帯状にして負極を得た。
d.電池組立
幅約42mmに切断した帯状ポリオレフィン微多孔膜(セパレータ)と帯状正極及び帯状負極を、帯状負極、セパレータ、帯状正極、セパレータの順に重ねて渦巻状に複数回捲回した後、平板状にプレスを行うことによって電極板積層体を作製した。その電極板積層体を蓋を備えるアルミニウム製容器に収納し、正極集電体から導出したアルミニウム製リードを容器壁に、負極集電体から導出したニッケル製リードを上記容器の蓋にある端子部にそれぞれ接続した。さらにこの容器内に上述の非水電解液を注入し封口して電池を得た。
e.高温保存維持率
各セルにおける6.0mA(1C)放電時の放電容量を100%とし、満充電したセルを60℃で30日間保存した後に取り出して測定した6.0mA(1C)放電時の放電容量を比較した。充放電は充放電装置(型式HJ−201BS、北斗電工社製)を用いて実施した。
初回放電容量に対する60℃で30日間保存した後の容量の割合(%)を高温保存維持率(高温保存特性の指標)として表した。
高温保存維持率(%)=(60℃で30日間保存した後の放電容量/初期放電容量)×100
【0067】
実施例で用いたベーマイト等の無機粒子の各種物性を表1にまとめた。
また、その他の原料については以下の通りである。
MU2608P(商標):Mv15万の線状低密度ポリエチレン、三菱化学(株)製
UH850(商標):Mv200万の超高分子量ポリエチレン、旭化成ケミカルズ(株)製
SH800(商標):Mv27万の高密度ポリエチレン、旭化成ケミカルズ(株)製
LP:流動パラフィン(スモイルP−350P(商標)、松村石油研究所製)
DOP:フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP(商標)、チッソ社製)
【0068】
[実施例1]
表2に示す配合量のポリオレフィン、無機粒子、及び可塑剤、並びに酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.2質量部、滑剤としてステアリン酸カルシウムを0.4質量部配合し、東洋精機製作所社製プラストミルを用いて加熱混合(混練)した。加熱混合は、プラストミルの温度を200℃、回転数を50rpmに設定して10分間行った。溶融した混合物をプラストミルから取り出して冷却し、得られた固化物をポリイミドフィルムを介して金属板の間に挟み、200℃に設定した熱プレス機を用い10MPaで圧縮し、厚さ1000μmのシートを作製した。得られたシートに対して、岩本製作所社製二軸延伸機を用いて、120℃で縦方向に7倍、横方向に7倍に同時二軸延伸を行った(延伸1)。得られた延伸シートを、ステンレスの枠でその四方を固定した状態で、塩化メチレンに浸漬して可塑剤を除去した後、室温で乾燥して塩化メチレンを除去して微多孔膜を得た。その微多孔膜について各種物性を評価した。結果を表2に示す。
【0069】
[実施例2、4、5、7〜18、比較例1〜4]
表2に記載の条件以外は実施例1と同様にして微多孔膜を得た。その微多孔膜について各種物性を評価した。結果を表2に示す。
【0070】
[実施例3]
表2に示す配合量のポリオレフィン、及び無機粒子、並びに可塑剤として流動パラフィン(LP)を27質量部、更に、酸化防止剤としてペンタエリスリチル−テトラキス−[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.2質量部、滑剤としてステアリン酸カルシウムを0.2質量部の割合で、ヘンシェルミキサーにて予備混合(混練)した。得られた予備混合物(予備混練物)をフィーダーにより二軸同方向スクリュー式押出機のフィード口に供給した。また溶融混練し押し出される全混合物(100質量部)中に占める流動パラフィン量の割合が62質量部となるように、流動パラフィンを二軸押出機シリンダーにサイドフィードした(流動パラフィンの配合量は総量で185質量部となった)。溶融混練条件を、設定温度180℃、スクリュー回転数100rpm、吐出量15kg/時間に設定して、予備混合物を溶融混練し、溶融混練物を得た。続いて、得られた溶融混練物をTダイを経て表面温度50℃に制御された冷却ロール間に押し出し、厚み1500μmのシート状のポリオレフィン組成物を得た。次に連続して同時二軸テンターへ導き、縦方向に7倍、横方向に6.1倍に同時二軸延伸を行った(延伸1)。この時、同時二軸テンターの設定温度は120℃であった。得られた延伸シートを、塩化メチレン槽に導き、十分に塩化メチレンに浸漬して可塑剤である流動パラフィンを抽出除去した。その後、室温で乾燥して塩化メチレンを除去した。さらに横テンターに導き横方向に1.7倍延伸した後(延伸2)、最終出口で1.5倍となるように13%緩和して(熱緩和)、巻取りを行って微多孔膜を得た。横方向への延伸(延伸2)時の設定温度は131℃、熱緩和時の設定温度は136℃であった。その微多孔膜について各種物性を評価した。結果を表2に示す。
なお、得られた微多孔膜は膜厚が安定しており、1000m巻きが可能であった。
【0071】
[実施例6]
微多孔膜の原料及び製膜条件を表2に示すように代えた以外は実施例1と同様にして、微多孔膜を得た。その微多孔膜について各種物性を評価した。結果を表2に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表2の記載から、下記(1)〜(4)の内容が読み取れる。
(1)実施例1〜18の微多孔膜は、比較例1〜4の微多孔膜に比して、高強度でかつ高温保存維持率が良好であった。
(2)実施例1〜16の微多孔膜は粘度分子量200万の超高分子量ポリエチレンを含み、実施例17の微多孔膜に比して、高温保存維持率が良好であった。
(3)実施例1〜8及び11〜16の微多孔膜は粒度分布、1μm以上の粒子の累積頻度、100℃までの重量減少率が一定範囲の無機粒子を含み、実施例9、10の微多孔膜に比して、高い強度を有していた。
(4)実施例5の微多孔膜は、実施例6の微多孔膜に比して、高温保存維持率が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明によれば、高強度かつ高温での保存特性に優れたリチウムイオン二次電池などの蓄電システムを実現し得るポリオレフィン微多孔膜が提供される。当該ポリオレフィン微多孔膜は、安全性及び信頼性に優れた非水電解液電池等の蓄電池用セパレータとして、あるいは、燃料電池の一構成部品、加湿膜、ろ過膜等として好適に利用できる。特に、電気自動車やハイブリッド自動車用の電池分野において有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン樹脂と無機粒子とを含む微多孔膜であって、前記ポリオレフィン樹脂は高密度ポリエチレンを含み、前記無機粒子は化学式Al23・nH2O(ただしn>0)で表される無機物を主成分として含むポリオレフィン微多孔膜。
【請求項2】
前記ポリオレフィン樹脂と前記無機粒子との総量中に占める前記無機粒子の割合が10質量%以上85質量%以下である、請求項1に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項3】
前記無機粒子は、熱重量分析による100℃までの重量減少率が5%以下である、請求項1又は2に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項4】
前記無機粒子は、その平均粒径が0.1μm以上5μm以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項5】
前記無機粒子は、1μm以上の粒径を有する粒子の累積頻度が50%以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項6】
前記ポリオレフィン樹脂が、粘度平均分子量が70万以上500万以下であるポリエチレン樹脂を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載のポリオレフィン微多孔膜。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリオレフィン微多孔膜の製造方法であって、ポリオレフィン樹脂と、化学式Al23・nH2O(ただしn>0)で表される無機物を主成分として含む無機粒子と、可塑剤と、を含む混合物を溶融混練して混練物を得る工程と、前記混練物をシート状に成形して成形体を得る工程と、前記成形体又はその加工物から可塑剤を抽出して微多孔膜を得る工程とを有し、前記可塑剤は、SP値が7.5以上8.5未満である可塑剤(I)と、SP値が8.5以上9.9未満である可塑剤(II)とを含む混合可塑剤である製造方法。
【請求項8】
前記混合可塑剤に占める前記可塑剤(I)の割合は、15〜85質量%である、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記混合物において、前記ポリオレフィン樹脂と前記無機粒子と前記可塑剤との総量中に占める前記無機粒子の割合が5質量%以上45質量%以下である、請求項7又は8に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のポリオレフィン微多孔膜又は請求項7〜9のいずれか一項に記載の製造方法により得られるポリオレフィン微多孔膜を含む蓄電デバイス用セパレータ。
【請求項11】
請求項10に記載の蓄電デバイス用セパレータと、正極と、負極と、電解液とを含む蓄電デバイス。

【公開番号】特開2011−102368(P2011−102368A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258326(P2009−258326)
【出願日】平成21年11月11日(2009.11.11)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】