説明

ポリオレフィン系グラフト共重合体、組成物およびその製造方法

オレフィン系モノマーとマクロモノマーとのグラフト共重合において、ハンドリング性が良好で熱可塑性樹脂への分散性に優れ、その組成物の表面ぬれ性が優れ弾性率上昇が抑えられたポリオレフィン系グラフト共重合体およびその製造方法を提供する。さらには、該共重合体を含む組成物およびその製造方法を提供する。配位重合触媒の存在下、オレフィン系モノマーと、多層構造を持つマクロモノマーを水系においてグラフト共重合させることにより達成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、配位重合触媒を用いてオレフィン系モノマーと多層構造を持つマクロモノマーとを共重合させて得られるポリオレフィン系グラフト共重合体とその製造方法に関する。さらにはその組成物に関する。
【背景技術】
塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、含浸重合などの様々な重合方法により、様々な高分子材料が製造され、利用されている。乳化重合を利用して得られるグラフト共重合体としては、コアシェルポリマーが有名である。例えば、ブタジエン系ゴム重合体にメタクリル酸メチルやスチレンをグラフト共重合させたMBS樹脂、あるいは耐衝撃性に優れた(メタ)アクリル系ゴム重合体にメタクリル酸メチルなどをグラフト共重合させたものなどが知られており、これらはポリ塩化ビニルなどの熱可塑性樹脂の耐衝撃性改良に用いられている。しかし、これらのコアシェルポリマーは、一般に極性が高いため、ポリオレフィン樹脂に対しては分散性が低いという問題があった。コアシェルポリマーのような高極性の微粒子をポリオレフィン樹脂中に分散させる技術が待望されていたが、例えば分散性向上のために低極性であるオレフィン系モノマーを共重合させることは困難であった。
一方、ポリオレフィン樹脂は工業的には配位重合により製造されている。オレフィンの配位重合触媒としては、チーグラーナッタ触媒、メタロセン触媒が有名である。が、このような前周期遷移金属系の配位重合触媒を用いる場合、極性化合物が錯体や触媒活性種と反応あるいは配位して、その活性を失わせたり分解したりする問題があった。そのため、ポリオレフィンに極性官能基を持つモノマーを共重合して機能性を付与することや、乳化重合系でオレフィン重合を行うことは困難であった。
極性化合物に対する耐性が高い配位重合触媒としては、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒が知られている。各種総説中(ケミカル・レビュー(Chemical Review),2000年,100巻,1169頁、有機合成化学協会誌,2000年,58巻,293頁、アングバンテ・ケミー国際版(Angewandte Chemie International Edition),2002年,41巻,544頁)に例示されるように、極性溶媒、例えばテトラヒドロフラン、エーテル、アセトン、酢酸エチル、水の存在下でも活性を失わずにポリオレフィンを重合でき、極性モノマー、例えばアクリル酸アルキル等の極性ビニル系モノマーとの共重合体を得ることもできる。しかし、これらの触媒を用いてもポリオレフィンと共重合できる極性モノマーの量には限界があった。極性モノマーの含量の多いポリオレフィン共重合体を得る技術が待望されていた。
極性モノマーの含量の多い共重合体を得るため、ビニル系モノマーと共重合可能な官能基をもつポリオレフィンと、ビニル系モノマーとを反応させる技術も知られており、特表2001−524996などに開示されている。しかし、この方法で得られるグラフト共重合体は、コアシェルポリマーのように多層構造部位を導入して高機能化したり複数の機能を兼ね備えた共重合体にするのが困難であった。例えば、ゴム状の共重合体を熱可塑性樹脂に配合すると弾性率を下げて柔軟な組成物を作ることができるが、共重合体が保管中にブロッキングを起こす、加工時に装置内で樹脂詰まりを起こす、ハンドリング性(粉体として取り扱う際の作業性の良さ)が悪いという問題がある。共重合体のハンドリング性、熱可塑性樹脂への分散性、熱可塑性樹脂との組成物にした時の低弾性率、表面ぬれ性などの特性を全て兼ね備えた共重合体を得るのは困難であった。
【発明の開示】
従って、本発明の目的は、オレフィン系モノマーと非ポリオレフィン系マクロモノマー、特に極性基を有するマクロモノマーとのグラフト共重合において、複数の機能を兼ね備えた共重合体、例えばハンドリング性が良好でありその組成物の弾性率上昇が少なく、表面ぬれ性が高いというコアシェルポリマーの機能とポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂への分散性に優れるというオレフィン共重合体の機能とを兼ね備えた新規なポリオレフィン系グラフト共重合体およびその組成物を提供し、それらの製造方法を提供することにある。
上記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、乳化重合による多層構造ポリマー製造技術とオレフィン配位重合技術という全く異質の技術を組み合わせることが可能であることを見出し、多層構造を持つマクロモノマーを用いてオレフィン系モノマーとの共重合を行う場合に、得られる共重合体をハンドリング性が良好な粉末状にするのが容易であり、さらにその共重合体はポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂への分散性に優れ、その組成物の弾性率上昇が抑制され、その組成物は表面ぬれ性に優れることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、配位重合触媒の存在下、オレフィン系モノマーと、多層構造を持つマクロモノマーとを、水系において共重合させてなることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、多層構造を持つマクロモノマーがゴム状重合体からなる層10〜95重量%と、硬質重合体からなる層5〜90重量%とからなる二層構造を持つマクロモノマーであることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、多層構造を持つマクロモノマーが、レドックス系開始剤を用いて乳化重合により製造されたものであることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、配位重合触媒が、2つのイミン窒素を有する配位子と周期表8〜10族から選ばれる後周期遷移金属とからなる錯体であることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
好ましい実施態様としては、オレフィン系モノマーがα−オレフィンであることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体に関する。
さらには、多層構造を持つマクロモノマー、オレフィン系モノマー、配位重合触媒を水系において反応させることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体の製造方法に関する。
さらには、ポリオレフィン系グラフト共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物であり、好ましい実施態様としては、組成物の成分としてポリオレフィン樹脂を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物に関する。
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体はハンドリング性が良好である。また、該グラフト共重合体は、熱可塑性樹脂、特にポリオレフィンに良好な分散性を示し、その組成物の弾性率が低く抑えられ、その組成物は表面ぬれ性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、後周期遷移金属錯体系の配位重合触媒の存在下、オレフィン系モノマーと、多層構造を持つマクロモノマーを水系においてグラフト共重合させて得られたポリオレフィン系グラフト共重合体およびその製造方法に関するものである。なお、本発明でいう水系とは、水が連続層となっている系中に触媒やモノマーなどの原料を分散させて重合反応を行う条件、例えば乳化重合的または懸濁重合的な条件のことを指す。触媒、原料及び生成物は必ずしも水溶性である必要は無く、水に不溶または難溶のものであって良い。本発明で言うポリオレフィン系グラフト共重合体とは、オレフィンをマクロモノマーとグラフト共重合させて得られる共重合体のことである。
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、多層構造を持つマクロモノマーとオレフィン系モノマーを原料として製造されるため、単層構造のマクロモノマーを原料とする場合よりもさらに産業上の利用価値が高いものを得ることができる。例えば、硬質重合体からなる単層構造のマクロモノマーを用いた場合はハンドリング性に優れた共重合体が得られる。ゴム状重合体からなる単層構造のマクロモノマーを用いた場合は、得られる共重合体を熱可塑性樹脂に配合した時に組成物の弾性率を低くすることができる。ゴム状重合体と硬質重合体の両方を含有する多層構造を持つマクロモノマーを用いた場合は共重合体のハンドリング性と共重合体を熱可塑性樹脂に配合した時の低弾性率とを兼ね備えるというような単層構造マクロモノマーでは成し得ないような特性を発現させることができる。
なお、本発明で言うマクロモノマーとは、オリゴマーまたはポリマーであって、他のモノマーと共重合しうる官能基を有するものをいう。マクロモノマーは、オレフィン系、ビニル系、シリコーン系など様々な組成のものが知られ、構造も直鎖状、環状、高分岐状、架橋粒子、非架橋粒子、多層構造粒子など様々な構造のものが知られている。製造方法はアニオン重合、カチオン重合、ラジカル重合、配位重合、重縮合、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合など様々な方法で合成されうる。無機微粒子の表面を重合性官能基を有するシランカップリング剤などの表面処理剤で処理したものや、さらにモノマーをグラフト共重合させ重合性官能基を持たせた無機−有機複合体もマクロモノマーとなりうる。
オレフィン系モノマーとグラフト共重合するためにはマクロモノマーがオレフィンと共重合しうる基を持つ必要がある。グラフト効率が良いという点から、マクロモノマー1分子あたり少なくとも1個以上、好ましくは10個以上のオレフィンと共重合しうる基を持つことが好ましい。このオレフィンと共重合しうる基は、どのような官能基でも特に制限はないが、配位重合の反応性が高いという点から、アリル末端、環状オレフィン末端、スチリル末端、(メタ)アクリル末端のものが好ましく、特に、(メタ)アクリル末端、アリル末端、ジシクロペンテニル末端のものが、好ましい。
本発明で用いられる多層構造をもつマクロモノマーとは、乳化重合可能なモノマーの少なくとも1種以上を乳化重合させて得られる重合体に、これとは種類または組成の異なるモノマーを乳化重合によりグラフト共重合して得られるマクロモノマーである。乳化重合により多層構造を持つポリマーを製造する技術は公知であり、特開2001−89648、特開2002−363372、特開平10−316724などに開示されている。水中に分散させた無機微粒子の表面にモノマーをグラフト共重合させた無機−有機複合体も多層構造を持つマクロモノマーの1種と見なすことができる。得られるポリオレフィン系マクロモノマーを熱可塑性樹脂に分散させた時の弾性率が低く押さえられるという点からは、多層構造をもつマクロモノマーの全ての層が有機化合物のみからなることが好ましい。
本発明で用いられる多層構造を持つマクロモノマーのそれぞれの層を構成するポリマーの種類と組み合わせは特に制限無く従来公知のものを使えば良い。それぞれの層を構成するポリマーは結晶性のものでも良く、非結晶性のものでも良い。ゴム状重合体でもよく、硬質重合体でも良い。なお、ここで言うゴム状重合体、硬質重合体とは、コアシェルポリマー分野においてこれらの語が一般的に意味するものと同じ物である。
層の数は2層以上であれば特に制限は無い。層の数の数え方は、原料となるモノマーの種類または/および組成が異なっている物ごとに一と数える。同じ種類のモノマーの組み合わせからなる共重合体であっても、その物性(例えばガラス転移温度、密度、弾性率、色、など)のうち少なくとも1つ以上が異なっていれば別の層と数える。例えば、アクリル酸n−ブチル50%およびメタクリル酸メチル50%の共重合体からなる層は、アクリル酸n−ブチル20%およびメタクリル酸メチル80%の共重合体からなる層とは別の層である。
本発明で用いられる多層構造を持つマクロモノマーは、オレフィン系モノマーと共重合して得られる共重合体のハンドリング性が良好であり、熱可塑性樹脂との組成物の弾性率をより低くしうるという点から、低い弾性率を付与するための層とハンドリング性を改善するための層とをもつ多層構造のマクロモノマーであることが好ましい。このような好ましい多層構造の例としては、たとえばゴム状重合体と硬質重合体の2層からなる2層構造、半ゴム状重合体とゴム状重合体と硬質重合体の3層からなる3層構造、複数のゴム状重合体層および複数の硬質重合体層からなる4層以上の構造、およびこれらの構造の内部に空洞を持つ中空構造、硬質重合体層の中にゴム状重合体が分散したサラミ状構造、ゴム状重合体の中に硬質重合体層が分散したサラミ状構造などが挙げられる。得られる共重合体のハンドリング性が良好であるという点から、少なくとも1層以上のゴム状重合体と少なくとも1層以上の硬質重合体を含有する多層構造が好ましく、ゴム状重合体のコア層の周囲に硬質重合体のシェル層を持つ2層構造が特に好ましい。
多層構造のそれぞれの層を構成するポリマーの主鎖骨格は直鎖状でも分岐状でもよく、架橋により三次元的な網目構造を取っていてもよい。適度な弾性率を付与しうるという点から、架橋により三次元的な網目構造を取ることが好ましい。
本発明に用いる多層構造をもつマクロモノマーは、一般的な乳化重合技術により製造することができる。例えば、ラジカル重合できるモノマーを乳化重合して第1の層を形成した後、モノマーを追加して重合することにより第2の層を形成し、2層構造のマクロモノマーを得ることができる。あるいは、ラジカル反応しうる基を持つポリシロキサンのラテックスにラジカル重合できるモノマーとラジカル開始剤を加えて共重合し、2層構造のマクロモノマーを得ることができる。さらにモノマーを添加して重合を繰り返すことにより、層を増やすことも可能である。必要に応じて乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤などを添加しても良い。
多層構造をもつマクロモノマーの各層の重合に用いる乳化剤、重合開始剤、連鎖移動剤は、各層とも同じ種類のものを用いても良く、層ごとにそれぞれ異なる種類のものを用いても良い。
本発明に用いる多層構造をもつマクロモノマーの粒径は、20〜1500nmであり、好ましくは25〜1000nmであり、さらに好ましくは30〜500nmの範囲内であることが好ましい。この粒径であるマクロモノマーを用いた場合に、得られるポリオレフィン系グラフト共重合体の熱可塑性樹脂への分散性が特に優れる。なお、ここでいうマクロモノマーの平均粒径は、マクロモノマーを水中に分散させた試料を用いてSubmicron Particle Sizer Model 370(NICOMP社製、レーザー波長632.8nm)で動的光散乱法により測定される体積平均粒子径である。
本発明で用いられる多層構造を持つマクロモノマーがゴム状重合体と硬質重合体を含有するものである場合、ゴム状重合体層を構成するポリマーは、ガラス転移温度が20℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは0℃以下、とくに好ましくは−20℃以下が好ましい。硬質重合体層を構成するポリマーは、ガラス転移温度が30℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは50℃以上、特に好ましくは80℃以上が好ましい。なお、重合体のガラス転移温度(Tg)およびその測定方法は、単独重合体についてはポリマー・ハンドブック第4版(POLYMER HANDBOOK FORTH EDITION)(ジョンウィリー&サンズ)のデータによって求められ、共重合体については、該データを用いてフォックスの式
Tg−1=wTg−1+wTg−1
により求められる。ただし、ここでTg、Tgは各成分のガラス転移温度、w、wは各成分の重量分率である。
ゴム状重合体/硬質重合体の重量比は、得られるポリオレフィン系グラフト共重合体のハンドリング性と、該グラフト共重合体を含む熱可塑性樹脂組成物の弾性率の低さとのバランスが優れるとの観点から、10/90〜95/5が好ましく、さらに好ましくは40/60〜90/10であり、さらに特に好ましくは70/30〜85/15である。
ゴム状重合体と硬質重合体は、ゴム状重合体層が内側で硬質重合体層が外側にあるコアシェル構造を取っていても良いし、ゴム状重合体層が外側で硬質重合体層が内側にあるコアシェル構造を取っていても良い。シェル層がコア層の一部だけを覆った部分被覆コアシェル構造でも良く、シェル層の中に複数のコア粒子が分散したサラミ状構造でも良い。得られるポリオレフィン系グラフト共重合体のハンドリング性がより向上しうるという点から、ゴム状重合体層が内側(コア)で硬質重合体層が外側(シェル)にあるコアシェル構造であることが好ましい。
ゴム状重合体層を構成するポリマーの具体例としてはジエン系ゴム、(メタ)アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、スチレン−ジエン共重合体ゴム、(メタ)アクリル−シリコーン複合ゴムなどが挙げられるが、これらのうち(メタ)アクリル系ゴムおよびシリコーン系ゴムが好ましい。なお、本発明で言う(メタ)アクリル系ゴムとは、(メタ)アクリル系モノマー50重量%以上およびこれと共重合可能なモノマー50重量%未満からなるゴム状重合体である。(メタ)アクリル系ゴムを構成する(メタ)アクリル系モノマーは好ましくは75重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上であることが好ましく、これと共重合可能なモノマーは好ましくは25重量%未満、さらに好ましくは10重量%であることが好ましい。本発明で言うシリコーン系ゴムとは、オルガノシロキサン50重量%以上およびこれと共重合可能なモノマー50重量%未満からなるゴム状重合体である。シリコーン系ゴムを構成するオルガノシロキサンは好ましくは75重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上であることが好ましく、これと共重合可能なモノマーは好ましくは25重量%未満、さらに好ましくは10重量%であることが好ましい。
以下に、本発明に用いられる多層構造を持つマクロモノマーの好ましい一例である、ゴム状重合体コア−硬質重合体シェル構造を説明する。
ゴム状重合体コアを構成するポリマーの好ましい1例である(メタ)アクリル系ゴムは、(A)(メタ)アクリル系モノマー(以下、化合物(A)という)および(B)分子内に少なくとも2つのラジカル重合性不飽和基を有する単量体(以下、化合物(B)という)を共重合させてなる(メタ)アクリル系ゴムであることが好ましく、必要に応じて(C)該化合物(A)および/または該化合物(B)と共重合可能な単量体(以下、化合物(C)という)を含有していても良い。各成分の使用量には特に制限は無く任意の量で用いて良いが、好ましい使用量は、化合物(A)は好ましくは50〜99.99重量%、さらに好ましくは75〜99.9重量%である。化合物(A)の使用量が多いほどポリオレフィン系グラフト共重合体をポリオレフィン樹脂に添加した場合の弾性率上昇が抑制できる。化合物(B)は好ましくは0.01〜25重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。使用量がこの範囲にある時、ゴム状重合体と硬質重合体とのグラフト効率と低弾性率とのバランスが特に良好である。化合物(C)は好ましくは0〜50重量%、さらに好ましくは0〜25重量%である。ただし、これら化合物(A)、化合物(B)および化合物(C)の合計は100重量%である。
化合物(A)は、(メタ)アクリル系ゴムの主骨格を形成するための成分である。化合物(A)の具体例としては、たとえばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリルなどの(メタ)アクリル酸エステルが挙げられるが、これらに限定されるものではない。アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ヘキサデシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸、メタクリル酸など、単独で重合すると硬質重合体となる(メタ)アクリル系モノマーも、他の(A)成分、(B)成分、(C)成分と共重合してゴム状重合体となるように使用量を調節すれば用いる事ができる。これらのなかでは、得られる(メタ)アクリル系ゴムの入手性および経済性の点から、炭素数2〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらに好ましくはアクリル酸n−ブチルが好ましい。これら化合物(A)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
化合物(B)は、コアとなるゴム状重合体とシェルとなる硬質重合体とのグラフト共重合を可能にするための成分である。化合物(B)の一部は分子内のラジカル重合性不飽和基のうち1つのみが化合物(A)および化合物(C)と共重合して(メタ)アクリル系ゴム中に未反応のラジカル重合性不飽和基を導入し、硬質重合体との共重合を可能にする。残りは分子内の複数のラジカル重合性不飽和基が反応して(メタ)アクリル系ゴム中に架橋構造を導入する。
化合物(B)の具体例としては、たとえばメタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、フタル酸ジアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、エチレングリコールジアクリレート、メタクリル酸エチレングリコールジシクロペンテニルエーテル、などがあげられる。これら化合物(B)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、ポリオレフィン系モノマーとのグラフト効率が良好であるという点から、メタクリル酸アリルが好ましい。
化合物(C)は、(メタ)アクリル系ゴムの弾性率、Tg、屈折率など各種物性を調整するための成分である。化合物(C)としては、化合物(A)および/または化合物(B)と共重合可能なモノマーであれば特に制限無く使用でき、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。このような化合物(C)の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、1,3−ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、ビニルエチルエーテルなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(メタ)アクリル系ゴムは、通常の乳化重合法によりラジカル(共)重合させて製造し、ラテックスとして得ることができる。
乳化重合に際し、原料の全量を一度に仕込んでもよく、また一部を仕込んだ後に残りを連続的または間欠的に追加してもよい。あらかじめ化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)のうちのいずれかまたはそれらの混合物を乳化剤と水で乳化してから追加する方法や、化合物(A)、化合物(B)、化合物(C)のうちのいずれかまたはそれらの混合物とは別に乳化剤または乳化剤の水溶液などを連続または分割して追加する方法等が採用できる。
乳化重合に用いる水の量についてはとくに制限は無く、化合物(A)、化合物(B)および化合物(C)を乳化させるために必要な量であれば良く、通常化合物(A)、化合物(B)および化合物(C)の合計量に対して1〜20倍の重量を用いれば良い。
乳化重合に用いる乳化剤は公知のものを使うことができ、アニオン性、カチオン性、ノニオン性のいずれの乳化剤も特に限定なく使うことができる。乳化能が良好であるという点から、アルキルベンゼンスルホン酸のアルカリ金属塩、アルキル硫酸のアルカリ金属塩、アルキルスルホコハク酸のアルカリ金属塩などのアニオン性乳化剤が好ましい。該乳化剤の使用量には特に限定がなく、目的とする(メタ)アクリル系ゴムの平均粒子径などに応じて適宜調整すればよいが、好ましくはモノマー100重量部に対し0.1〜10重量部である。
なお、(メタ)アクリル系ゴムの平均粒子径は、乳化剤の使用量の増減などの通常の乳化重合技術を用いて制御することが可能である。共重合後に得られるポリオレフィン系グラフト共重合体を熱可塑性樹脂と配合した時に良好な分散状態を示すという点から、(メタ)アクリル系ゴムの平均粒子径は好ましくは20〜1500nm、さらに好ましくは25〜1000nm、さらに好ましくは30〜500nmの範囲内であることが望ましい。
乳化重合に用いる重合開始剤は特に限定なく公知のものを使うことができる。例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩;t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどのアルキルハイドロパーオキサイド;ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化ジアシル;ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレイトなどの過酸化ジアルキル;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物、などが挙げられる。これらのうち、過硫酸塩およびアルキルハイドロパーオキサイドが好ましい。また、これら開始剤は、熱分解的な方法の他に、重合開始剤並びに賦活剤(金属塩または金属錯体)、キレート剤、還元剤とからなるレドックス触媒として用いることもできる。
重合開始剤は熱分解的な方法でもレドックス系触媒を用いる方法でも良い。熱分解的な方法は、還元剤や賦活剤などの添加物を加える必要がないので、金属イオン含量の少ない重合体を得るのに適している。レドックス系触媒を用いる方法は、低い反応温度でも高い反応率が得られる利点がある。
レドックス触媒を構成する還元剤としては例えばグルコース、デキストロース、スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸などが好ましく使用できる。
キレート剤としてはエチレンジアミン二酢酸塩などのポリアミノカルボン酸塩、クエン酸などのオキシカルボン酸類、縮合リン酸塩など水溶性キレート化合物を形成するもの、およびジメチルグリオキシム、オキシン、ジチゾンなど油溶性キレート化合物を形成するものが挙げられる。これらの中でエチレンジアミン二酢酸塩などのポリアミノカルボン酸塩およびクエン酸などのオキシカルボン酸類が好ましい。
賦活剤としては例えば鉄、銅、マンガン、銀、白金、バナジウム、ニッケル、クロム、パラジウム、コバルトなどの金属塩または金属キレートを挙げる事ができ、好ましい例としては例えば硫酸第一鉄、硫酸銅、ヘキサシアノ鉄(III)カリウムなどが挙げられる。賦活剤とキレート剤は、別々の成分として用いても良く、予め反応させて金属錯体として用いても良い。
開始剤、賦活剤、還元剤、キレート剤の組み合わせに特に限定は無く、それぞれ任意に選べば良い。賦活剤、還元剤、キレート剤の組み合わせの好ましい例としては例えば硫酸第一鉄/グルコース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/デキストロース/ピロリン酸ナトリウム、硫酸第一鉄/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、硫酸第一鉄/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/クエン酸、硫酸銅/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/クエン酸などの組み合わせがあり、とくに好ましい組み合わせとしては硫酸第一鉄/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、硫酸第一鉄/スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド/クエン酸などを挙げることができるが、これに限定されるものではない。開始剤の好ましい使用量はモノマー100重量部に対して0.005〜2重量部、さらに好ましくは0.01〜1重量部である。キレート剤の好ましい使用量はモノマー100重量部に対して0.005〜5重量部、さらに好ましくは0.01〜3重量部である。賦活剤の好ましい使用量はモノマー100重量部に対して0.005〜2重量部、さらに好ましくは0.01〜1重量部である。使用量がこの範囲である時、重合速度が充分速く、かつ生成物の着色や析出が少なく抑えられるため好ましい。
乳化重合には必要に応じて連鎖移動剤を用いても良い。該連鎖移動剤は特に限定なく公知のものを使うことができる。具体例としてはt−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタンなどが挙げられる。
乳化重合時の反応温度に特に制限はないが、0〜100℃、好ましくは30〜95℃であるのが好ましい。反応時間についても特に制限はないが、通常、10分〜24時間、好ましくは30分〜12時間、さらに好ましくは1時間〜6時間である。
ゴム状重合体コアを構成するポリマーのもう一つの好ましい1例であるシリコーン系ゴムは、オルガノシロキサン(以下、化合物(D)という)と、分子内に該化合物(D)と反応可能な官能基およびラジカル重合性不飽和基を有する単量体(以下、化合物(E)という)とを反応させてなるシリコーン系ゴムであることが好ましく、必要に応じて該化合物(D)および/または化合物(E)と反応可能な官能基を有する化合物(以下、化合物(F)という)を含有していても良い。各成分の使用量には特に制限は無く任意の量で用いて良いが、好ましい使用量は、化合物(D)は好ましくは50〜99.99重量%、さらに好ましくは75〜99.90重量%である。多いほど、得られるポリオレフィン系グラフト重合体を熱可塑性樹脂に添加した場合の弾性率上昇を抑制できる。化合物(E)は好ましくは0.01〜25重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。使用量がこの範囲にある時、ゴム状重合体と硬質重合体とのグラフト効率が特に良好である。化合物(F)を使用する場合は、好ましくは0〜50重量%、さらに好ましくは0〜25重量%である。ただし、これら化合物(D)、化合物(E)および化合物(F)の合計は100重量%である。
化合物(D)は、シリコーン系ゴムの主骨格を構成するための成分である。化合物(D)は、乳化重合しうる液状のものであれば任意の分子量のものを使用しうるが、好ましくは分子量1000以下、特に好ましくは500以下である。化合物(D)としては、直鎖状、環状または分岐状のものを使用することが可能である。乳化重合系の経済性の点から、環状シロキサンが好ましい。かかる環状シロキサンの具体例としては、たとえばヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン、1,2,3,4−テトラハイドロ−1,2,3,4−テトラメチルシクロテトラシロキサンなどがあげられる。また、2官能性のアルコキシシランもかかる化合物(D)として用いることができ、その具体例としては、たとえばジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシランなどがあげられる。さらには、環状シロキサンと2官能性のアルコキシシランとを併用することもできる。これら化合物(D)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
化合物(E)は、それ自身が有する官能基により化合物(D)と反応する。その結果、得られるシリコーン系ゴムの側鎖または末端にラジカル重合性不飽和基を導入させることができる。このラジカル重合性不飽和基は、該シリコーン系ゴムと硬質重合体シェルとのグラフト共重合を可能にするための成分である。化合物(D)と反応するための基としては、珪素原子に結合した加水分解性アルコキシ基またはシラノール基、あるいは化合物(D)と開環共重合しうる環状シロキサン構造を持つ基を用いることが好ましい。化合物(E)の具体例としては、たとえば3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン化合物、および1,3,5,7−テトラキス((メタ)アクリロキシプロピル)−1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5−トリス((メタ)アクリロキシプロピル)−1,3,5−トリメチルシクロトリシロキサンなどのオルガノシロキサンがあげられ、このうち3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシランが反応性が良好であるという点で特に好ましい。これら化合物(E)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
化合物(F)は、化合物(D)および/または化合物(E)と反応し、シリコーン系ゴムの物性を調整するための成分である。例えば珪素原子に結合した加水分解性基を分子中に少なくとも3個有する多官能シラン化合物またはその部分加水分解縮合物を用いると、シリコーン系ゴム中に架橋構造を導入してTgや弾性率等を調整することができる。このような多官能シラン化合物の具体例としてはメチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリ(メトキシエトキシ)シラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、などのアルコキシシラン、およびその加水分解縮合物;メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、テトラアセトキシシランなどのアセトキシシラン、およびその加水分解縮合物があげられる。これら化合物(F)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
シリコーン系ゴムは、酸性もしくは塩基性条件下で行われる通常の重合方法により製造することができる。たとえば化合物(D)、化合物(E)ならびに必要に応じて用いられる化合物(F)を、乳化剤および水とともにホモミキサー、コロイドミル、ホモジナイザーなどを用いてエマルジョンとし、ついで、系のpHをアルキルベンゼンスルホン酸や硫酸などで2〜4に調整し、加熱して重合させた後、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ成分を加えて中和するなどの方法で製造することができる。
なお、原料の全部を一括添加したのち、一定時間撹拌してからpHを小さくしてもよく、また原料の一部を仕込んでpHを小さくしたエマルジョンに残りの原料を逐次追加してもよい。逐次追加するばあい、そのままの状態または水および乳化剤と混合して乳化液とした状態のいずれで添加してもよいが、重合速度の面から、乳化状態で追加する方法を用いることが好ましい。反応温度、時間に特に制限はないが、反応制御の容易さから反応温度は0〜100℃が好ましく、50〜95℃がさらに好ましい。反応時間は好ましくは1〜100時間であり、さらに好ましくは5〜50時間である。
酸性条件下で重合を行う場合、通常、ポリオルガノシロキサンの骨格を形成しているSi−O−Si結合は切断と結合生成の平衡状態にある。この平衡は温度によって変化し、低温になるほど高分子量のポリオルガノシロキサンが生成しやすくなる。したがって、高分子量のポリオルガノシロキサンを得るためには、加熱により化合物(D)を重合した後、重合温度以下に冷却して熟成を行うことが好ましい。具体的には、50℃以上で重合を行い重合転化率が75〜90%、さらに好ましくは82〜89%に達した時点で加熱を止め、10〜50℃、好ましくは20〜45℃に冷却して5〜100時間程度熟成を行うことができる。なお、ここで言う重合転化率は原料中の化合物(D)、化合物(E)、場合により化合物(F)の低揮発分への転化率を意味する。
乳化重合に用いる水の量についてはとくに制限は無く、化合物(D)、化合物(E)、および化合物(F)を乳化分散させるために必要な量であれば良く、通常化合物(D)、化合物(E)および化合物(F)の合計量に対して1〜20倍の重量を用いれば良い。
乳化重合に用いる乳化剤は、反応を行うpH領域において乳化能を失わないものであれば特に限定なく公知のものを使うことができる。かかる乳化剤の例としては、たとえばアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。また、該乳化剤の使用量にはとくに限定がなく、目的とするシリコーン系ゴムの粒子径などに応じて適宜調整すればよい。充分な乳化能が得られ、かつ得られるシリコーン系ゴムとそれから得られるポリオレフィン系グラフト共重合体の物性に悪影響を与えないという点から、エマルジョン中に0.05〜20重量%用いるのが好ましく、特には0.1〜10重量%用いるのが好ましい。シリコーン系ゴムの粒子径は、乳化剤の使用量の増減などの通常の乳化重合技術を用いて制御することが可能である。共重合後に得られるポリオレフィン系グラフト共重合体の熱可塑性樹脂への分散性が良好であるという点から、シリコーン系ゴムの粒子径は好ましくは20〜1500nm、さらに好ましくは25〜1000nm、さらに好ましくは30〜500nmの範囲内であることが好ましい。
硬質重合体シェルを構成するポリマーの例としてはポリシアン化ビニル、ポリ芳香族ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル、マレイミド系ポリマーなどが挙げられるが、これらのうちポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。
硬質重合体を構成するポリマーの好ましい1例であるポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、(G)(メタ)アクリル系モノマー(以下、化合物(G)という)および(H)分子内に少なくとも1つのラジカル重合性不飽和基および少なくとも1つのオレフィン系モノマーと共重合しうる基を有する単量体(以下、化合物(H)という)を共重合させてなる硬質重合体であることが好ましく、必要に応じて(I)該化合物(G)および/または該化合物(G)と共重合可能な単量体(以下、化合物(I)という)を含有していても良い。各成分の使用量には特に制限は無く任意の量で用いて良いが、好ましい使用量は、化合物(G)は好ましくは50〜99.99重量%、さらに好ましくは75〜99.9重量%である。多いほど得られるマクロモノマーさらにはオレフィンをグラフトした後の共重合体のハンドリング性が良好となる。化合物(H)は好ましくは0.01〜25重量%、さらに好ましくは0.1〜10重量%である。使用量がこの範囲にある時オレフィン系モノマーとのグラフト効率と低弾性率が特に良い。化合物(I)は好ましくは0〜50重量%、さらに好ましくは0〜25重量%である。ただし、これら化合物(G)、化合物(H)および化合物(I)の合計は100重量%である。
化合物(G)は、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステルの主骨格を形成し、マクロモノマーさらにはオレフィンをグラフトした後の共重合体のハンドリング性を向上するための成分である。化合物(G)の具体例としては、たとえばアクリル酸t−ブチル、アクリル酸ヘキサデシル、アクリル酸フェニル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;アクリル酸、メタクリル酸などの(メタ)アクリル酸およびその酸無水物および金属塩などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのなかでは、得られる硬質重合体の入手性および経済性の点から、炭素数2〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、さらに好ましくはアクリル酸t−ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸グリシジルが好ましい。これら化合物(G)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリルのように、単独で重合するとゴム状重合体になるモノマーも、他の(G)成分、(H)成分、(I)成分と共重合して硬質重合体となるように使用量を調節すれば用いる事ができる。 化合物(H)はそれ自身が有するラジカル重合性不飽和基により(G)成分および場合により(I)成分と共重合して共重合体をつくり、その結果、多層構造を持つマクロモノマーにオレフィン系モノマーと共重合しうる基を導入させ、該共重合体とオレフィン系モノマーとのグラフト共重合を可能にするための成分である。このオレフィン系モノマーと共重合しうる基は、どのような官能基でも特に制限はないが、配位重合の反応性が高いという点から、アリル末端、環状オレフィン末端、スチリル末端、(メタ)アクリル末端のものが好ましく、特に、(メタ)アクリル末端、アリル末端、ジシクロペンテニル末端のものが、好ましい。
オレフィン系モノマーと共重合しうる基がラジカル重合性と配位重合性を併せ持つ基である場合には、(H)成分が持つラジカル重合性不飽和基とオレフィン系モノマーと共重合しうる基は同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。同一の基である場合は(H)成分は1分子内に該ラジカル重合性不飽和基(かつオレフィン系モノマーと共重合しうる基でもある)を2つ以上含むことになるが、(メタ)アクリル系硬質シェル合成時にそれらのラジカル重合性不飽和基のうち一部のみがラジカル重合反応した時点で反応を止め、得られるマクロモノマー中に未反応のラジカル重合性不飽和基(かつオレフィン系モノマーと共重合しうる基でもある)が残るように反応を制御しうる。
化合物(H)の具体例としては、たとえばメタクリル酸アリル、アクリル酸アリル、フタル酸ジアリル、シアヌル酸トリアリル、イソシアヌル酸トリアリル、エチレングリコールジアクリレート、メタクリル酸エチレングリコールジシクロペンテニルエーテル、などがあげられる。これら化合物(H)は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのなかでは、オレフィン系モノマーとのグラフト効率が良好であるという点から、メタクリル酸アリルが好ましい。
化合物(I)は、ポリ(メタ)アクリル系硬質シェルの弾性率、Tg、屈折率など各種物性を調整するための成分であり、好ましい具体例は前記(メタ)アクリル系ゴムにおける化合物(C)の好ましい具体例と同じである。
ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、上述の(メタ)アクリル系ゴムと同様の方法で製造することができる。ゴム状重合体のラテックスと、化合物(G)、化合物(H)、および必要に応じて化合物(I)、重合開始剤、乳化剤、連鎖移動剤などを混合して重合させることにより多層構造のマクロモノマーを得ることができる。
乳化重合に用いる重合開始剤、乳化剤、連鎖移動剤などは公知のものを使うことができ、好ましい例としては上述の(メタ)アクリル系ゴムの製造方法において好ましい例として挙げた物を用いる事ができる。重合開始剤は熱分解的な方法でもレドックス系触媒を用いる方法でも良い。ハンドリング性をより向上しうるという点からはレドックス系重合開始剤を用いて硬質重合体を重合することが好ましい。
次に、本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を製造するための触媒について説明する。
本発明においては、ポリオレフィン系グラフト共重合体を製造するための触媒として配位重合触媒を用いる。配位重合触媒とは、配位重合を促進する触媒である。本発明に用いる配位重合触媒は、水および極性化合物の共存下でオレフィン重合活性を有する配位重合触媒であれば特に制限は無く用いることができる。好ましい例としては、ケミカル・レビュー(Chemical Review),2000年,100巻,1169−1203頁、ケミカル・レビュー(Chemical Review),2003年,103巻,283−315頁、有機合成化学協会誌,2000年,58巻,293頁、アングバンテ・ケミー国際版(Angewandte Chemie International Edition),2002年,41巻,544−561頁、マクロモレキュールズ(Macromolecules),2003年,36巻,6711−6715頁に記載されているものや、WO97/17380、WO97/48740に記載されているものを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。反応性が良好であるという点から、2つのイミン窒素を有する配位子と周期表8〜10族から選ばれる後周期遷移金属とからなる錯体であることが好ましく、さらに好ましくはα−ジイミン型の配位子と周期表10族から選ばれる後周期遷移金属とからなる錯体であることがさらに好ましく、さらに特に好ましくは助触媒と反応後、下記一般式(1)、または一般式(2)で示される構造の種(活性種)が好適に使用される。

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。R,Rは各々独立して水素原子、またはメチル基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子を持つ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)

(式中、Mはパラジウムまたはニッケルである。R,Rは各々独立して、炭素数1〜4の炭化水素基である。Rはハロゲン原子、水素原子、または炭素数1〜20の有機基である。XはMに配位可能なヘテロ原子を持つ有機基であり、Rにつながっていてもよい、またはXは存在しなくてもよい。Lは任意のアニオンである。)
,Rで表される炭素数1〜4の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、n−ブチル基などが好ましく、さらに好ましくはメチル基、イソプロピル基が好ましい。
Xで表されるMに配位可能な分子としては、ジエチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、アセトアルデヒド、酢酸、酢酸エチル、水、エタノール、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、炭酸プロピレンなどの極性化合物を例示することができるが、なくてもよい。またRがヘテロ原子、特にエステル結合等のカルボニル酸素を有する場合には、このカルボニル酸素がXとして配位してもよい。また、オレフィンとの重合時には、該オレフィンが配位する形になることが知られている。
また、Lで表される対アニオンは、α−ジイミン型の配位子と遷移金属とからなる触媒と助触媒の反応により、カチオン(M)と共に生成するが、溶媒中で非配位性のイオンペアを形成できるものならばいずれでもよい。
両方のイミン窒素に芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子、具体的には、ArN=C(R)C(R)=NArで表される化合物は、合成が簡便で、活性が高いことから好ましい。R、Rは炭化水素基であることが好ましく、特に、水素原子、メチル基、および一般式(2)で示されるアセナフテン骨格としたものが合成が簡便で活性が高いことから好ましい。さらに、両方のイミン窒素に置換芳香族基を有するα−ジイミン型の配位子を用いることが、立体因子的に有効で、ポリマーの分子量が高くなる傾向にあることから好ましい。従って、Arは置換基を持つ芳香族基であることが好ましく、例えば、2,6−ジメチルフェニル、2,6−ジイソプロピルフェニルなどが挙げられる。
本発明の後周期遷移金属錯体から得られる活性種中の補助配位子(R)としては、炭化水素基あるいはハロゲン基あるいは水素基が好ましい。後述する助触媒のカチオン(Q)が、触媒の金属−ハロゲン結合あるいは金属−水素結合あるいは水素−炭素結合から、ハロゲン等を引き抜き、塩が生成する一方、触媒からは、活性種である、金属−炭素結合あるいは金属−ハロゲン結合あるいは金属−水素結合を保有するカチオン(M)が発生し、助触媒のアニオン(L)と非配位性のイオンペアを形成する必要があるためである。Rを具体的に例示すると、メチル基、クロロ基、ブロモ基あるいは水素基が挙げられ、特に、メチル基あるいはクロロ基が、合成が簡便であることから好ましい。なお、M−ハロゲン結合へのオレフィンの挿入よりM−炭素結合(あるいは水素結合)へのオレフィンの挿入の方がおこりやすいため、触媒の補助配位子として特に好ましいRはメチル基である。
さらに、RとしてはMに配位可能なカルボニル酸素を持つエステル結合を有する有機基であってもよく、例えば、酪酸メチルから得られる基が挙げられる。
助触媒としては、Qで表現できる。Qとしては、Ag、Li、Na、K、Hが挙げられ、Agがハロゲンの引き拔き反応が完結しやすいことから好ましく、Na、Kが安価であることから好ましい。Lとしては、BF4、B(C4、B(C(CF4、PF6、AsF6、SbF6、(RfSOCH、(RfSOC、(RfSON、RfSOが挙げられる。特に、PF6、AsF6、SbF6、(RfSOCH、(RfSOC、(RfSON、RfSOが、極性化合物に安定な傾向を示すという点から好ましく、さらに、PF6、AsF6、SbFが、合成が簡便で工業的に入手容易であるという点から特に好ましい。活性の高さからは、BF4、B(C4、B(C(CFが、特にB(C4、B(C(CFが好ましい。Rfは複数のフッ素基を含有する炭化水素基である。これらフッ素は、アニオンを非配位的にするために必要で、その数は多いほど好ましい。Rfの例示としては、CF、C、C、C17、Cがあるが、これらに限定されない。またいくつかを組み合わせてもよい。
上述の活性化の理由から、後周期遷移金属錯体系触媒/助触媒のモル比は、1/0.1〜1/10、好ましくは1/0.5〜1/2、特に好ましくは1/0.75〜1/1.25である。
本発明に用いられる、オレフィン系モノマーは、配位重合可能な炭素−炭素二重結合を有するオレフィン化合物である。
オレフィン系モノマーの好ましい例としては炭素数2〜20のオレフィン、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ヘキサデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、ビニルシクロヘキサン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン等が挙げられる。この中でもα−オレフィン(末端に炭素−炭素二重結合を有するオレフィン化合物)、特に炭素数10以下のα−オレフィンが重合活性の高さから特に好ましく、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどが挙げられる。これらのオレフィン系モノマーは、単独で使用してもよく、また2種以上使用してもよい。
また、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,4−ヘキサジエン、3,5−ジメチル−1,5−ヘキサジエン、1,13−テトラデカジエン、1,5−シクロオクタジエン、ノルボルナジエン、5−ビニル−2−ノルボルネン、エチリデンノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、ジメタノオクタヒドロナフタリン、ジシクロペンタジエン等のジエンを少量併用してもよい。ジエンの使用量はオレフィン系モノマー100重量部に対して好ましくは0〜10重量部、さらに好ましくは0.1〜2重量部である。
オレフィン系モノマーの使用量としては、制限は無いが、分子量の大きい重合体を収率良く得られるという点から、オレフィン系モノマー/活性種がモル比で10〜10、さらには100〜10、とくには1000〜10とするのが好ましい。
次に、本発明のグラフト共重合体の製造方法について説明する。
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、多層構造を持つマクロモノマーとオレフィン系モノマーと配位重合触媒とを水中に分散させ乳化重合的な条件下で共重合を行うことを特徴とする。
水、多層構造を持つマクロモノマー、オレフィン系モノマー、触媒の仕込み順序と方法には特に制限はない。必要に応じて乳化剤や有機溶媒などの添加物を加えても良い。例えば、多層構造を持つマクロモノマーのラテックス中に配位重合触媒およびオレフィン系モノマーを添加して均一に分散させて反応を行うことができる。用いるオレフィン系モノマーが反応温度において気体である場合は、気体のまま仕込んでもよいし、または低温で該オレフィン系モノマーを凝集させた液体もしくは凝固させた固体として仕込んだ後に系を反応温度まで加熱してもよい。多層構造を持つマクロモノマー、オレフィン系モノマーおよび配位重合触媒は、反応容器内に一括して全量を仕込んでも一部を仕込んだ後に残りを連続的にまたは間欠的に追加してもよい。また、そのままの状態または水および乳化剤と混合して乳化液とした状態のいずれで仕込んでもよい。
多層構造を持つマクロモノマーとオレフィン系モノマーの使用割合は任意に設定しうるが、用いるマクロモノマー100重量部に対してオレフィン系モノマーを好ましくは1〜100重量部、さらに好ましくは2〜33重量部用いることが好ましい。オレフィン系モノマーが沸点100℃以下の揮発性液体もしくは気体である場合は、オレフィン系モノマーを大過剰に用い、上記の好ましい量が重合した時点で反応を停止しさらには加熱して未反応モノマーを除去することも可能である。
重合の際、オレフィン系モノマーおよび配位重合触媒の溶解度を高め反応を促進するために有機溶媒を少量添加してもよい。その溶媒としては、特に制限は無いが、脂肪族または芳香族溶媒が好ましく、これらはハロゲン化されていてもよい。例としては、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ブチルクロリド、塩化メチレン、クロロホルムが挙げられる。また、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、アセトン、エタノール、メタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル等の極性溶媒であってもよい。水溶性が低く、かつ使用する多層構造を持つマクロモノマーに比較的含浸しやすく、かつ触媒が溶解しやすい溶媒であることが特に好ましく、このような特に好ましい例としては塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼンおよびブチルクロリドが挙げられる。
これらの溶媒は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。溶媒の合計使用量は、反応液全体の体積に対して好ましくは30容量%以下、さらに好ましくは10容量%以下である。あるいは、使用する多層構造を持つマクロモノマー100重量部に対して好ましくは150重量部以下、さらに好ましくは50重量部以下である。反応速度がより向上するという点からは溶媒の使用量が多い方が好ましく、反応系を均一に保ちやすいという点からは溶媒の使用量は少ない方が好ましい。
本発明のグラフト共重合体を製造する反応温度、圧力、時間は、用いる原料の沸点や反応速度に応じて任意に選べばよい。特に制限は無いが、反応の制御が容易であり生産コストを抑えるという観点から、反応温度は好ましくは0〜100℃、さらに好ましくは10〜95℃、さらに特に好ましくは30〜95℃であり、反応圧力は好ましくは0.05〜10MPa、さらに好ましくは0.1〜3MPaであり、反応時間は好ましくは10分〜100時間、さらに好ましくは0.5〜50時間である。温度および圧力は、反応開始から終了まで常時一定に保ってもよいし、反応途中で連続的もしくは段階的に変化させてもよい。用いるオレフィン系モノマーが気体である場合は、重合反応によりオレフィン系モノマーが消費されるに従って徐々に圧力が低下しうるが、そのまま圧力を変化させて反応を行ってもよく、または消費量に応じてオレフィン系モノマーを供給したり加熱するなどにより常時一定の圧力を保って反応を行ってもよい。
本発明により得られるポリオレフィン系グラフト共重合体は、通常ラテックスとして得られる。ラテックスの粒径は使用した原料マクロモノマーの粒径および反応させたオレフィン系モノマーの量に応じた物が得られる。熱可塑性樹脂への分散性が特に優れるという点から、好ましくは20nm〜1500nm、さらに好ましくは25〜1000nmのものが得られる条件を選ぶのが好ましく、さらに好ましくは、30〜500nmである。反応条件によってはラテックス粒子の一部が凝集して析出したりフリーのポリオレフィンが副生成して析出する場合があるが、このような析出物の無い条件で反応を行うことが好ましい。
かくして得られた本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を含むラテックスは、そのままの状態で用いてもよいし、または添加剤を加えたり、他のラテックスとブレンドしたり、希釈・濃縮・熱処理・脱気処理などの処理を加えてから用いてもよい。プラスチック、金属、木材、ガラスなどの基材の上に塗布してコーティング剤、塗料、表面処理剤などに用いてもよいし、纎維、紙、布、カーボンファイバー、グラスウールなどに含浸させて改質剤、硬化剤などに用いてもよい。繊維強化プラスチックや、キャストフィルムの原料として用いてもよい。
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、これを含むラテックスを脱水して固形成分を回収し各種用途に供することもできる。ラテックスから固形成分を回収する方法としては、例えば塩化カルシウム、塩化マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、ギ酸カルシウムなどの電解質を加えて凝集させる方法(塩析)、メタノールなどの親水性の有機溶媒と混合して凝集させる方法、または超音波処理、高速撹拌、遠心分離などの機械的操作により固形分を凝集させる方法、または噴霧乾燥、熱乾燥、凍結乾燥、減圧乾燥などの乾燥操作により水分を除去する方法などが挙げられるが、これに限定されない。ラテックス中から本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を回収する一連の工程中のいずれかの段階で水および/または有機溶媒による洗浄操作を行ってもよい。
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、ラテックスの固形成分を凝集させたり乾燥させ水分を除去することによって、粉末状または塊状として回収することができる。乾燥物を押出機またはバンバリーミキサーなどを用いてペレット状に加工したり、凝集物から脱水(脱溶媒)を経て得られた含水(含溶媒)状態の樹脂を圧搾脱水機を経由させることによりペレット状に加工し回収することもできる。ハンドリング性が良いという点から、好ましくは粉末状として回収することが好ましい。
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を各種の熱可塑性樹脂に配合することにより本発明の熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。
熱可塑性樹脂としては、一般に用いられている樹脂、例えばポリプロピレン、ポリエチレン、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンオクテンゴム、ポリメチルペンテン、エチレン環状オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレングリシジルメタクリレート共重合体、エチレンメチルメタクリレート共重合体などのポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−スチレン共重合体スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−アクリロニトリル−N−フェニルマレイミド共重合体、α−メチルスチレン−アクリロニトリル共重合体などのビニルポリマー;ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンエーテル−ポリスチレン複合体、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルフォンなどのエンジニアリングプラスチックが好ましく例示される。これら熱可塑性樹脂は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンが、本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体の分散性が良好であるという点で好ましい。
熱可塑性樹脂とグラフト共重合体との配合割合は、成形品の物性がバランスよく得られるように適宜決定すればよいが、充分な物性を得るためにはグラフト共重合体の量が熱可塑性樹脂100部に対して0.1部以上、好ましくは5部以上であり、また熱可塑性樹脂の特性を維持するためには、グラフト共重合体の量が熱可塑性樹脂100部に対して500部以下、好ましくは100部以下が好ましい。
本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、ポリオレフィン成分を含むためポリエチレン、ポリプロピレンなど低極性の樹脂に対しても良好な分散性を示し、かつマクロモノマーの中に含まれる官能基に由来した様々な機能を付与することができる。
さらに、本発明のグラフト共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物は、プラスチック、ゴム工業において知られている通常の添加剤、例えば可塑剤、安定剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、難燃剤、難燃助剤、顔料、ガラス繊維、充填剤、高分子加工助剤などの配合剤を含有することができる。
本発明のグラフト共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物を得る方法としては、通常の熱可塑性樹脂の配合に用いられる方法を用いることができ、例えば、熱可塑性樹脂と本発明のグラフト共重合体および所望により添加剤成分とを、加熱混練機、例えば、一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ブラベンダー、ニーダー、高剪断型ミキサー等を用いて溶融混練することで製造することができる。また各成分の混練順序は特に限定されず、使用する装置、作業性あるいは得られる熱可塑性樹脂組成物の物性に応じて決定することができる。
また、その熱可塑性樹脂が乳化重合法で製造されるばあいには、該熱可塑性樹脂とグラフト共重合体とを、いずれもラテックスの状態でブレンドしたのち、共析出(共凝集)することで得ることも可能である。
かくして得られるグラフト共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物の成形法としては、通常の熱可塑性樹脂組成物の成形に用いられる、例えば射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法などの成形法が挙げられる。
【実施例】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。
なお、以下の合成例、実施例および比較例において、各物性および特性の測定は、それぞれ以下の方法にしたがって行った。
[平均粒子径]
NICOMP製のSubmicron Particle Sizer Model 370を用いて動的光散乱法により粒子径を測定し、体積平均粒子径を求めた。測定試料としてはラテックスを純水で希釈した試料を用いた。
[ゲル含量]
試料約100mgを300Meshステンレス金網の袋に入れ、トルエン100mL中に室温24時間以上浸漬した後、室温で4時間以上減圧乾燥して試料中のトルエン不溶分の重量を測定した。下記の式によりゲル含量を求めた。
ゲル含量(重量%)={(トルエン不溶分乾燥重量)/(トルエン浸漬前重量)}×100
[重合転化率]
乳化重合において、仕込んだモノマー、マクロモノマー、乳化剤および開始剤の重量の合計を反応液全体の総重量で除して、モノマーが100%重合した場合の最大固形分濃度を求めた。反応後に得られたラテックスを軟膏缶に0.5〜2g程度採取し、100℃のオーブンで熱乾燥して残留する固形分の割合を求め、これをラテックス中の固形分濃度とみなした。熱乾燥する時間は、さらに30分以上加熱しても重量変化が1%以下となるまで(通常30分〜2時間)である。以下の式に基づいて重合転化率を算出した。
重合転化率(重量%)={(ラテックス中の固形分濃度)/(最大固形分濃度)}×100
H NMRスペクトル]
グラフト共重合体ラテックスに塩化カルシウム水溶液を加えて塩析し水洗、乾燥して得られた樹脂約10mgを重水素化クロロホルム(Aldrich製)約1mLに溶かし、300MHz NMR装置(Varian社製Gemini300)により測定した。
[粉体流動性]
試料約1gを、JIS−Z8801のふるい(針金の径1.66mm、ふるい目の開き5.60mm)の上に乗せ、30秒間手で水平方向にふるった。ふるいに乗せた試料の何%が目を通過したか計量した。この数字が高いほどハンドリング性に優れていると言える。
[引張特性]
ポリプロピレンにグラフト共重合体を配合した組成物から約0.7mm厚プレスシートを作成し、そこからJIS−K7113付属書1に記載の2(1/3)号試験片を3本打ち抜いた。オートグラフ(Shimadzu製、AUTOGRAPH AG−2000A)を用いて、JIS−K7113に準じて引張速度1.0mm/minで引張試験を行い、弾性率を測定した。さらに、引張速度16.66mm/minで引張試験を行い、最大点応力(引張強度)と最大点伸びを測定して試験片3本の平均値を採用した。樹脂の分散性が悪い組成物ではポリプロピレンと樹脂の界面から亀裂が入り切れやすくなるため、最大点伸びを分散性の指標とした。
[表面ぬれ性]
ポリプロピレンに各種共重合体を配合した組成物の約0.7mm厚プレスシートを用い、JIS−K6768に準じて表面張力を測定した。1試験片の6箇所で測定を行い、その平均値を表面ぬれ性の指標として採用した。表面ぬれ性が高いものほどシート表面の極性が高いと見なすことができる。
(参考例1)ビニリデン末端ポリプロピレン系マクロモノマーの合成
300mLのステンレス−スチールオートクレーブを乾燥した後、窒素雰囲気下で乾燥トルエン84mL(和光純薬製)を入れた。ドライアイス−メタノールバスを用いて約−78℃までオートクレーブを冷却し、真空ポンプを用いて減圧状態にした後、水酸化ナトリウム(和光純薬製)と五酸化リン(和光純薬製)で乾燥したプロピレン(住友精化製)を24L凝縮させながら導入した。メチルアルミノキサンのトルエン溶液(アルミニウム濃度5.4%、東ソーファインケム製)を15.9mL、ジルコノセンジクロリド(アルドリッチ製)のトルエン溶液(20mmol/L)を0.99mL添加し、密閉した状態でオートクレーブを室温まで昇温した。室温で16時間攪拌した後、圧力を開放し、50mL塩酸(和光純薬製)/500mLメタノール溶液に注ぎ、重合を停止させた。析出物を減圧乾燥し、秤量した(収量38g、数平均分子量2200)。H NMRスペクトルでビニリデン末端プロトンを4.7ppm付近に確認した。
(参考例2)メタクリル末端ポリプロピレン系マクロモノマーの合成
参考例1で合成したビニリデン末端ポリプロピレン系マクロモノマーを6.15g入れた200mLの4つ口フラスコを乾燥した後、窒素雰囲気下で乾燥THF(和光純薬製)53.5mLを入れて氷浴を用いて約0℃に冷却した。9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナンのTHF溶液(0.5mol/L、Aldrich製)21mLを添加した後、室温で5時間反応させた。再度0℃に冷却し、水酸化ナトリウム水溶液(3N)10.5mLと過酸化水素水(35重量%、和光純薬製)3.55gを添加した後、30℃で2時間反応させた。飽和炭酸カリウム水溶液を25mL加えた後、THF溶液を分液により得、濃縮、ヘキサン可溶分を水で洗浄し、分液により得たヘキサン溶液を濃縮乾燥した(収量6.0g)。
生成物を6.0g入れた200mLの4つ口フラスコを乾燥した後、窒素雰囲気下で乾燥塩化メチレン(和光純薬製)54mL、乾燥クロロホルム(和光純薬製)6mL、モレキュラーシーブで乾燥したトリエチルアミン(和光純薬製)9mLを入れ、氷浴を用いて約0℃に冷却した。メタクリロイルクロリド(和光純薬製)4.5mLを添加し、室温で約18時間攪拌した。溶液を濃縮後、ヘキサンに溶解し、メタノールに沈殿させ、これを2回繰り返した。沈殿物を減圧乾燥し、秤量した(収量4.0g、数平均分子量2200)。H NMRスペクトルでメタクリル末端プロトンを5.5と6.1ppm付近に確認した。
(比較例1)ビニリデン末端ポリプロピレン系マクロモノマーとアクリル酸n−ブチルのラジカル共重合
200mLの4つ口フラスコに水(和光純薬製)70mL、アクリル酸n−ブチル16g、メタクリル酸アリル0.32g、参考例1で合成したビニリデン末端ポリプロピレン系マクロモノマー4gを仕込み、窒素バブリングにより脱酸素した。ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬製)1.8gを加え、撹拌して乳化させた。80℃に加熱し、過硫酸アンモニウム(2重量%水溶液、和光純薬製)を1.6mL加えて3時間反応させて共重合体のラテックスを得た。このラテックスに塩化カルシウム(和光純薬製)を加えて固形分を凝集させ、水洗、乾燥して共重合体を得た(重合添加率92.2%、平均粒子径61nm、ゲル含量90.9%)。得られた共重合体の形状を表1に示す。
試料約100mgを300Meshステンレス金網の袋に入れ、ヘキサン100mL中に室温24時間以上浸漬した後、室温で4時間以上減圧乾燥して試料中のヘキサン不溶分を得た。これのH NMRスペクトルで、ポリアクリル酸n−ブチル由来のピーク以外に、ポリプロピレン系マクロモノマー由来のポリプロピレンのメチルプロトンのピークをほとんど確認できなかった。このことからポリプロピレン系マクロモノマーとポリアクリル酸n−ブチルがほとんどグラフトしていないことがわかった。
(比較例2)メタクリル末端ポリプロピレン系マクロモノマーとアクリル酸n−ブチルのラジカル共重合
参考例1で合成したビニリデン末端ポリプロピレン系マクロモノマー4gの代わりに参考例2で合成したメタクリル末端ポリプロピレン系マクロモノマー4gを使用した以外は比較例1と同様の操作を行い、共重合体を得た(重合添加率83.9%、平均粒子径52nm、ゲル含量97.8%)。得られた共重合体の形状を表1に示す。
ヘキサン不溶分のH NMRスペクトルで、ポリアクリル酸n−ブチル由来のピーク以外に、ポリプロピレン系マクロモノマー由来のポリプロピレンのメチルプロトンのピークを0.8ppm付近に確認した。このことからポリプロピレン系マクロモノマーとポリアクリル酸n−ブチルが共重合していることがわかった。しかし、得られた生成物は粉末として取り扱うことができない高粘凋体で、ハンドリング性が悪い物であった。
(参考例3)単層構造マクロモノマーの合成(ポリアクリル酸n−ブチル)
撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した200mLガラス製4つ口フラスコに水(和光純薬製)280mL、アクリル酸n−ブチル(日本触媒製)64g、メタクリル酸アリル1.27gを仕込み、窒素バブリングにより脱酸素した。ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬製)280mgを加え、撹拌して乳化させた。窒素気流下で70℃に加熱し、過硫酸アンモニウム(和光純薬製)の2重量%水溶液6.4mLを加えて、3時間反応させた。室温まで放冷し、単層構造のポリアクリル酸n−ブチルマクロモノマーのラテックス310mLを得た(重合転化率100%、平均粒子径137nm、ゲル含量0.8%)。
(比較例3)単層構造ポリアクリル酸n−ブチルマクロモノマーとエチレンの共重合
下記化学式(3)

の構造を持つパラジウム錯体(以下[N^N]PdMeClともいう)をジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・ケミカル・ソサイエティ(J.Am.Chem.Soc.)1995年,117巻,6414頁等の文献に記載されている公知の方法によって合成した。[N^N]PdMeClの80mmol/Lジエチルエーテル溶液8mLとLiB(Cの80mmol/Lジエチルエーテル溶液8mLを混合し、LiClを沈殿させて[N^N]PdMe・B(C錯体の40mmol/Lジエチルエーテル溶液16mLを調製した。
シュレンク管に[N^N]PdMe・B(C錯体の40mmol/Lジエチルエーテル溶液15mLを入れ、室温で減圧してジエチルエーテルを除去した後、塩化メチレン15mLを加えて溶解させ、[N^N]PdMe・B(C錯体の40mmol/L塩化メチレン溶液を調整した。上記参考例3で得られたラテックス25mLとドデシル硫酸ナトリウム500mgに[N^N]PdMe・B(C錯体の40mmol/L塩化メチレン溶液0.5mLを加えて混合し、5分間超音波処理を行って錯体触媒を均一に分散させた。この反応混合液を、窒素置換した圧力容器内に仕込み、エチレンを導入して2MPaとし、室温7時間反応させた後に開放して未反応エチレンを除去した。生成物はラテックスと析出物の混合物として得られた。このうちラテックス成分を塩化カルシウム水溶液で塩析し、濾過、水洗、減圧乾燥の後処理を行ってポリオレフィン系グラフト共重合体を得た。得られた共重合体の形状を表1に示す。
これらのラテックス塩析物100mgをヘキサン100mLに室温24時間浸漬したところ、不溶物が残存した。これらの不溶物は、H NMR観測によりマクロモノマー成分とポリエチレン成分を両方含有することが確認された。フリーのポリエチレンはヘキサンに溶解するため、該不溶物はポリアクリル酸n−ブチル−エチレン共重合体である。
(比較例4)単層構造ポリアクリル酸n−ブチルマクロモノマーと1−ヘキセンの共重合
撹拌装置と窒素ラインを備えた100mLナス型フラスコに上記参考例3で得られたラテックス25mLとドデシル硫酸ナトリウム500mgを入れ、窒素バブリングした後、[N^N]PdMe・B(C錯体の40mmol/L塩化メチレン溶液0.5mLを加え、窒素気流下で撹拌し均一に分散させた。これに1−ヘキセン3mLを加え、室温常圧で7時間反応させた。析出物は無く、生成物は全てラテックスの状態で得られた。このラテックスを塩化カルシウム水溶液で塩析し、濾過、水洗、減圧乾燥の後処理を行ってポリオレフィン系グラフト共重合体樹脂を得た。得られた共重合体の形状を表1に示す。
(参考例4)単層構造マクロモノマーの合成(ポリメタクリル酸メチル)
撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した200mLガラス製4つ口フラスコに水(和光純薬製)70mL、メタクリル酸メチル(日本触媒製)16g、メタクリル酸エチレングリコールジシクロペンテニルエーテル(Aldrich製)0.84gを仕込み、窒素バブリングにより脱酸素した。ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬製)70mgを加え、撹拌して乳化させた。窒素気流下で70℃に加熱し、過硫酸アンモニウム(和光純薬製)の2重量%水溶液0.8mLを加えて、3時間反応させた。室温まで放冷し、単層構造のポリメタクリル酸メチルマクロモノマーのラテックス78mLを得た(重合転化率95.9%、平均粒子径99nm、ゲル含量18.3%)。
(比較例5)単層構造ポリメタクリル酸メチルマクロモノマーとエチレンの共重合
比較例3において上記参考例3で得られたラテックス25mLの代わりに上記参考例4で得られたラテックス25mLを用いた以外は比較例3と同様の操作を行った。生成物はラテックスと析出物の混合物として得られた。このうちラテックス成分を塩化カルシウム水溶液で塩析し、濾過、水洗、減圧乾燥の後処理を行って、得られた硬質樹脂の塊を乳鉢ですりつぶして粉末状とし、ポリオレフィン系グラフト共重合体を得た。得られた共重合体の形状を表1に示す。
(合成例1)2層構造マクロモノマーの合成(ポリアクリル酸n−ブチルコア/メタクリル酸メチルシェル、非レドックス系開始剤使用)
撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着した200mLガラス製4つ口フラスコに水70mL、アクリル酸n−ブチル12g、メタクリル酸アリル0.05g、ドデシル硫酸ナトリウム70mgを仕込んで窒素バブリングした後、撹拌開始し乳化させた。窒素気流下で70℃に加熱し2重量%過硫酸アンモニウム水溶液1.6mLを加え第1層の重合を開始した。20分後、反応熱による内温上昇が止まって反応開始前の液温に戻った後、メタクリル酸メチル4.8gとメタクリル酸アリル0.30gを滴下し、次いで2重量%過硫酸アンモニウム水溶液1.6mLを加えて、3時間反応させ、第2層の重合を完了させた。室温まで放冷し、ポリアクリル酸n−ブチル/ポリメタクリル酸メチルの2層コアシェル構造を持つマクロモノマーのラテックスを得た。(重合転化率100%、平均粒子径135nm)
(実施例1)2層構造マクロモノマーとエチレンの共重合
比較例3において上記参考例3で得られたラテックス25mLの代わりに上記合成例1で得られたラテックス25mLを用いた以外は比較例3と同様の操作を行った。生成物はラテックスと析出物の混合物として得られた。このうちラテックス成分を塩化カルシウム水溶液で塩析し、濾過、水洗、減圧乾燥の後処理を行って、得られた樹脂の塊を乳鉢ですりつぶして粉末状とし、本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を得た。得られた共重合体の形状を表1に示す。
(合成例2)2層構造マクロモノマーの合成(ポリアクリル酸n−ブチルコア/メタクリル酸メチルシェル、レドックス系開始剤使用)
撹拌装置、温度計、還流冷却管、滴下漏斗を装着した200mLガラス製4つ口フラスコに水60mL、アクリル酸n−ブチル1.5g、メタクリル酸アリル0.3g、ドデシル硫酸ナトリウム60mgを仕込んで窒素バブリングした後、撹拌開始し乳化させた。窒素気流下で50℃に加熱し10重量%スルホキシル酸ナトリウムホルムアルデヒド水溶液0.3mL、硫酸鉄0.8mgとクエン酸0.8mgを溶かした水溶液0.4mL、およびクメンハイドロパーオキサイド30mgを加えた。ただちに滴下漏斗からアクリル酸n−ブチル13.5gとメタクリル酸アリル0.27gの混合液を10分かけて滴下し、第1層の重合を開始した。反応熱による内温上昇が止まって反応開始前の液温に戻った後、滴下漏斗からメタクリル酸メチル2.64gとメタクリル酸アリル0.30gとドデシル硫酸ナトリウム12mgの混合液を滴下し、3時間加熱して第2層を重合した。室温まで放冷し、ポリアクリル酸n−ブチル/ポリメタクリル酸メチルの2層構造を持つマクロモノマーのラテックスを得た。(重合転化率98.9%、平均粒子径140nm)
(実施例2)2層構造マクロモノマーとエチレンの共重合
比較例3において上記参考例3で得られたラテックス25mLの代わりに上記合成例2で得られたラテックス25mLを用いた以外は比較例3と同様の操作を行った。生成物はラテックスと析出物の混合物として得られた。このうちラテックス成分を塩化カルシウム水溶液で塩析し、濾過、水洗、減圧乾燥の後処理を行って本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を得た。得られた共重合体の形状を表1に示す。
(実施例3)2層構造マクロモノマーと1−ヘキセンの共重合
比較例4において上記参考例3で得られたラテックス25mLの代わりに上記合成例2で得られたラテックス25mLを用いた以外は比較例4と同様の操作を行った。析出物は無く、生成物は全てラテックスの状態で得られた。このラテックスを塩化カルシウム水溶液で塩析し、濾過、水洗、減圧乾燥の後処理を行って本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体樹脂を得た。得られた共重合体の形状を表1に示す。
(合成例3)2層構造マクロモノマーの合成(ポリジメチルシロキサンコア/メタクリル酸メチルシェル、レドックス系開始剤使用)
水1600g、オクタメチルシクロテトラシロキサン1600g、3−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン80g、15%ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液53.3gをホモジナイザーで乳化し、撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着したセパラブルフラスコに仕込んで、さらに水3235gを加えた。80℃に加熱し、10%ドデシルベンゼンスルホン酸水溶液160gを加えて6時間反応させた。室温で1晩静置した後、水酸化ナトリウム水溶液で中和した。このようにして第1層であるポリジメチルシロキサンのラテックスを合成した。このラテックス500mLを撹拌装置、温度計、還流冷却管を装着したセパラブルフラスコに入れて窒素バブリングにより脱酸素した。0.2%無水クエン酸/0.2%硫酸鉄7水和物水溶液5.0mLと10%硫酸ナトリウムホルムアルデヒド水溶液1.38mLを加えて40℃に加熱した。80%クメンハイドロパーオキサイド水溶液0.05gとメタクリル酸アリル1.0gを加えて1時間反応させた後、80%クメンハイドロパーオキサイド水溶液0.08gとメタクリル酸メチル20g、メタクリル酸アリル0.5gを加えて2時間反応させ、第2層であるポリメタクリル酸メチル層を重合した。ポリジメチルシロキサン/ポリメタクリル酸メチルの2層コアシェル構造を持つマクロモノマーのラテックスを得た。
(実施例4)2層構造マクロモノマーとエチレンの共重合
比較例3において上記参考例3で得られたラテックス25mLの代わりに上記合成例3で得られたラテックス25mLを用いた以外は比較例3と同様の操作を行った。生成物はラテックスと析出物の混合物として得られた。このうちラテックス成分を、ラテックスの2倍量のメタノール中に注いで固形分を析出させ、濾過、水洗、減圧乾燥の後処理を行って、本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を得た。
【表1】

(比較例6)ポリプロピレン樹脂単体
ポリプロピレン樹脂(グランドポリマー製F232DC)20gをラボプラストミル(東洋精機製、容量30cc)を用いて200℃、100rpmで10分間混練した後、プレス(条件:200℃、無圧、10min→200℃、50kgf/cm、10min→室温、50kgf/cm、5min)して約0.7mm厚のシートを作成し引張特性、表面ぬれ性を測定した。結果を表2に示す。
(比較例7〜11)本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を含まない組成物
比較例1〜5で得た生成物4gとポリプロピレン樹脂(グランドポリマー製F232DC)20gにラボプラストミル(東洋精機製、容量30cc)を用いて200℃、100rpmで10分間混練した後、プレス(条件:200℃、無圧、10min→200℃、50kgf/cm、10min→室温、50kgf/cm、5min)して約0.7mm厚のシートを作成し引張特性、表面ぬれ性を測定した。結果を表2に示す。
(実施例5〜7)本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体を含む組成物
実施例1〜3で得た生成物4gとポリプロピレン樹脂(グランドポリマー製F232DC)20gにラボプラストミル(東洋精機製、容量30cc)を用いて200℃、100rpmで10分間混練した後、プレス(条件:200℃、無圧、10min→200℃、50kgf/cm、10min→室温、50kgf/cm、5min)して約0.7mm厚のシートを作成し引張特性、表面ぬれ性を測定した。結果を表2に示す。
【表2】

表1で示したハンドリング性と、表2で示した分散性(引張伸び)、低弾性率、表面ぬれ性とを表3にまとめた。
【表3】

以上のように、ポリオレフィン系マクロモノマーに極性ビニルモノマーを反応させる方法や、多層構造を持たないマクロモノマーとオレフィン系モノマーとを共重合する方法では、ハンドリング性、分散性(引張伸び)、組成物の低弾性率、表面ぬれ性の全てを兼ね備えた共重合体を得ることが困難である。本発明の多層構造を持つマクロモノマーを用いて得られるオレフィン系モノマーとの共重合体は、ハンドリング性に優れたものであり、ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂への分散性(引張伸び)が優れており、組成物の弾性率上昇が少なく、表面ぬれ性に優れる。
【産業上の利用可能性】
原料に(メタ)アクリル系ゴムのコアを用いた場合は、本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、低接触角、高表面張力、表面ぬれ性、接着性、塗装性、染色性、高誘電率、高周波シール性等、極性をあらわす物性あるいは極性の結果としてあらわれる物性を示す。熱可塑性樹脂用、特にポリオレフィン用の極性付与剤(接着性、塗装性、染色性、高周波シール性等)、相溶化剤、プライマー、コーティング剤、接着剤、塗料、ポリオレフィン/フイラー系複合材料やポリオレフィン系ナノコンポジットの界面活性化剤などに用いられ、また、ポリオレフィンを樹脂成分に、(メタ)アクリル系ゴムをゴム成分に有する熱可塑性エラストマー、耐衝撃性プラスチックなどに用いることができる。
原料にシリコーン系ゴムのコアを有する多層構造マクロモノマーを用いた場合は、本発明のポリオレフィン系グラフト共重合体は、低Tgに由来する優れた低温特性とシリコン含量に由来する優れた機能性、例えば離型性、成形性、ガス透過性、撥水性、耐候性、表面潤滑性を有し、熱可塑性樹脂用、特にポリオレフィン用の低温脆性改良剤、可塑剤、難燃剤、耐衝撃性改良剤、摺動性付与剤などに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配位重合触媒の存在下、オレフィン系モノマーと、多層構造を持つマクロモノマーとを、水系において共重合させてなることを特徴とするポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項2】
多層構造を持つマクロモノマーが、ゴム状重合体からなる層10〜95重量%と、硬質重合体からなる層5〜90重量%とからなる二層構造を持つマクロモノマーであることを特徴とする、請求項1に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項3】
多層構造を持つマクロモノマーが、レドックス系開始剤を用いて乳化重合により製造されたものであることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項4】
配位重合触媒が、2つのイミン窒素を有する配位子と周期表8〜10族から選ばれる後周期遷移金属とからなる錯体であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項5】
オレフィン系モノマーがα−オレフィンであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリオレフィン系グラフト共重合体。
【請求項6】
多層構造を持つマクロモノマー、オレフィン系モノマー、配位重合触媒を水系において反応させることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリオレフィン系グラフト共重合体を含有する熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
組成物の成分としてポリオレフィン樹脂を含有することを特徴とする請求項7に記載の熱可塑性樹脂組成物。

【国際公開番号】WO2005/042598
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【発行日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515129(P2005−515129)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015881
【国際出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】