説明

ポリオレフィン組成物の連続製造方法

【課題】 ループ型液相重合槽から流動床型気相重合槽へ移送する際に、ポリマーに同伴する未反応モノマーを分離回収し、下流に配置されている気相重合槽で余剰になる未反応モノマーを減少させることができるポリオレフィンを連続的に製造する方法を提供する。
【解決手段】 少なくとも1つのループ型液相重合槽と少なくとも1つの流動床型気相重合槽が直列に配置され、ループ型液相重合槽の全てが流動床型気相重合槽より上流に配置されており、最後のループ型液相重合槽と最初の流動床型気相重合槽の間に液体サイクロン分離器が設置されているオレフィンの重合装置を用いて、特定の工程を含んでなるポリオレフィンを連続的に製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのループ型液相重合槽と少なくとも1つの流動床型気相重合槽が直列に配置されているオレフィンの重合装置を用いて、ポリオレフィンを連続的に製造する方法に関するものである。
詳しくは、少なくとも1つのループ型液相重合槽と少なくとも1つの流動床型気相重合槽が直列に配置され、ループ型液相重合槽の全てが流動床型気相重合槽より上流に配置されており、最後のループ型液相重合槽と最初の流動床型気相重合槽の間に液体サイクロン分離器が設置されているオレフィンの重合装置を用いて、ループ型液相重合槽において形成したポリオレフィン粒子を含むスラリーを、ループ型液相重合槽から流動床型気相重合槽へ移送する際に、ポリマーに同伴する未反応モノマーを分離回収し、下流に配置されている気相重合槽で余剰になる未反応モノマーを減少させることができるポリオレフィンを連続的に製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンを連続的に製造する方法として、少なくとも1つのループ型液相重合槽と少なくとも1つの流動床型気相重合槽が直列に配置されているオレフィンの重合装置を用いて、ポリオレフィンを連続的に製造する方法は、従来から知られている。
例えば、特開平9−316146号公報には、剛性と耐衝撃性のバランスに優れたポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法として、第1段階重合工程で、液相を媒体とする重合を行い、第1段階重合工程の重合槽から抜き出したスラリーを、大粒径粒子を多く含むスラリーと小粒径粒子を多く含むスラリーとに分離し、小粒径粒子を多く含むスラリーは元の重合槽に戻し、大粒径粒子を多く含むスラリーを第2段階重合工程に送るシステムを使用するポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法が記載されている。
【0003】
また、特開2001−200004号公報には、連結している2個以上の反応器中でオレフィンポリマー組成物を製造する方法において、第1の反応器から回収された重合混合物から、次の反応器では望ましくない化合物を有利に除去する方法として、第1の重合反応器で希釈剤およびオレフィンポリマーの粒子を含む懸濁液を製造し、懸濁液の一部を反応器から回収し、回収した懸濁液を、希釈剤を含む流れ及び、ポリマーの粒子の濃縮懸濁液を形成して分離する液体サイクロン分離器に送り、希釈剤を含む流れを液体サイクロン分離器から回収して第1の重合反応器に再循環させ、濃縮懸濁液を液体サイクロンから回収して次の重合反応器に導入して、そこにおいてオレフィンを重合させてオレフィンポリマーを形成させる方法が記載されている。
【0004】
そして、特表2002−504953号公報には、プロピレンをスラリー反応装置および気相反応装置において、各反応装置において製造する相対的な量を目的に応じて選択することによって、循環させて戻すプロピレンの量をできるだけ少なくすることを目的とする方法として、未反応のモノマーをスラリー反応装置へリサイクルすることなく、第1の気相反応装置へ直接送ることを含むプロピレンホモポリマーおよびコポリマーを製造する方法が記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開平9−316146号公報
【特許文献2】特開2001−200004号公報
【特許文献3】特表2002−504953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の公報等に記載のポリオレフィン組成物の製造方法においても、上流の液相重合槽から下流の気相重合槽にポリマーを移送する際に、下流の気相重合槽で余剰になる未反応モノマーをさらに減少させることが求められていた。
かかる状況において、本発明の目的は、ループ型液相重合槽から流動床型気相重合槽へ移送する際に、ポリマーに同伴する未反応モノマーを分離回収し、下流に配置されている気相重合槽で余剰になる未反応モノマーを減少させることができるポリオレフィンを連続的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、鋭意検討の結果、本発明が上記課題を解決できることを見出し、これを完成させるに至った。
すなわち、本発明は、
少なくとも1つのループ型液相重合槽と少なくとも1つの流動床型気相重合槽が直列に配置され、ループ型液相重合槽の全てが流動床型気相重合槽より上流に配置されており、最後のループ型液相重合槽と最初の流動床型気相重合槽の間に液体サイクロン分離器が設置されているオレフィンの重合装置を用いて、下記の工程(a)〜(e)、すなわち、
(a)ループ型液相重合槽において、液状オレフィンモノマー中に触媒を存在させ、少なくとも1種のオレフィンを連続的に重合させて、ポリオレフィン粒子を含むスラリーを形成する工程。
(b)前記工程(a)で得られたポリオレフィン粒子を含むスラリーの一部を、最後のループ型液相重合槽から、ループ型液相重合槽に設置されているスラリー循環用軸流ポンプの昇圧能力を利用して、液体サイクロン分離器に移送する工程。
(c)前記液体サイクロン分離器において、スラリー濃度が低い希薄スラリーと、スラリー濃度が高い濃縮スラリーに分離する工程。
(d)前記工程(c)で分離された希薄スラリーを、該希薄スラリーの抜出配管に設置された流量計測器と流量調節弁によって流量を調整しつつ、少なくとも1つのループ型液相重合槽に回収する工程。
(e)前記工程(c)で分離された濃縮スラリーを、該濃縮スラリーの抜出配管に設置された排出調節弁によって流量を調整しつつ、最初の流動床型気相重合槽に移送する工程。
を含んでなるポリオレフィンを連続的に製造する方法に係るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリオレフィンを連続的に製造する方法によれば、ループ型液相重合槽から流動床型気相重合槽へ移送する際に、ポリマーに同伴する未反応モノマーを分離回収し、下流に配置されている気相重合槽で余剰になる未反応モノマーを減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図1に基づいて本発明を詳細に説明する。本発明に係るプロセスにおけるループ型液相重合槽、液体サイクロン分離器および気相重合槽との関係の一例を示す図である。なお、図1はループ型液相重合槽が1器の場合を示しているが、これよりも上流にいくつかのループ型液相重合槽が接続されている場合も同様である。ループ型液相重合槽は二重管構造であるループ型液相重合槽1と循環軸流ポンプ1aからなり、液体サイクロン導入配管2aを介して液体サイクロン分離器2が接続されている。液体サイクロン分離器2は上方ノズルに希薄スラリー回収配管2d、下部ノズルに濃縮スラリー抜出配管2cが接続される。希薄スラリー回収配管2dには、希薄スラリー流量計2eと希薄スラリー流量調節弁2fが設置され、流量調節された希薄スラリーがループ型液相重合槽1に導入回収される。濃縮スラリー抜出配管2cには濃縮スラリー排出調節弁2bが設置され、流量調節された濃縮スラリーが、次工程である気相重合槽3に移送される。
【0010】
触媒4および原料オレフィン液・副原料液・副原料ガス5は、所望の重合能力を得るよう流量コントロールされてループ型液相重合槽1の内管側に投入され、重合反応により液状オレフィンモノマー中にポリオレフィン粒子が懸濁したスラリーを形成する。このスラリーは循環軸流ポンプ1aにより循環され、ポリマー粒子の沈降防止が図られている。また、重合反応により生成する反応熱は、ループ型液相重合槽の外管側に流されている冷却水により除熱される。ループ型液相重合槽中で重合するポリオレフィンは、プロピレン液を主原料としたポリプロピレン、プロピレンランダムコポリマー、プロピレンターポリマーなどであり、そのスラリー濃度は5〜50重量%が好適である。このスラリー濃度は、投入する触媒4の量に対して、原料オレフィン液・副原料液・副原料ガス5の量が多ければ低濃度、少なければ高濃度に調節することができる。
【0011】
ループ型液相重合槽中1のスラリー循環流速は、循環軸流ポンプ1aの吐出量によって決まる。この循環流速が早いほどポリマーの沈降防止、重合熱の除熱などには有利であるが、あまり早い流速で循環しようとするとループ型液相重合槽の圧力損失特性との関係で、循環軸流ポンプの要求吐出圧力が非常に高くなり、軸流ポンプ設計限界に近づき好ましくない。ループ内循環流速は通常5m/s以上であり、7m/s以上が好適に用いられる。
【0012】
ループ型液相重合槽1で重合生成されたポリオレフィン粒子は、次工程である気相重合槽3に移送される。気相重合槽では、ループ型液相重合槽と同等あるいは異なるポリオレフィン組成物を ループ型液相重合槽とは圧力などが異なる重合条件で製造する。ここで液相重合槽中のスラリーをそのまま気相重合槽に導入すると、液相重合槽でのスラリー濃度に応じて未反応液状モノマーもポリオレフィン粒子とともに気相重合槽に流入してしまう。これは気相重合槽3中での反応ガスの組成に制約を与える等、不都合な場合があり、液体サイクロン分離器を用いて好適なスラリー濃度に濃縮することにより同伴する液状モノマー量を減少させた後、気相重合槽に移送する。
【0013】
液体サイクロン分離器は、流入スラリーの速度により発生する遠心力を用いて、ポリオレフィン粒子と液状オレフィンモノマー液との密度差を利用し、遠心分離により希薄スラリーと濃縮スラリーに分離する装置である。本発明はループ型液状重合槽中を循環しているスラリーの一部を、液体サイクロン導入配管2aへ循環軸流ポンプの吐出部付近にて分岐し、希薄スラリー回収配管2dは循環軸流ポンプの吸込み部付近に接続することで、循環軸流ポンプの昇圧能力を用いてサイクロンの分離効果を得るものである。通常の場合液体サイクロンの圧力損失ヘッドは、取扱スラリーと分離効率との関係で決定された液体サイクロンのサイズに依り、3m〜10m程度である。一方、循環軸流ポンプの昇圧能力は、循環流速、ループ型液相反応槽の圧力損失特性にもよるが、5〜25m程度であり、液体サイクロン導入配管2aの分岐位置、希薄スラリー回収配管2dの合流位置を適正に設定することにより、液体サイクロン駆動用の昇圧ポンプなど、追加の設備を必要とせず液体サイクロン分離器を稼動させることができる。
【0014】
軸流ポンプの昇圧能力に対して液体サイクロン分離器の圧力損失ヘッドが高い、などの場合には、希薄スラリー回収配管2dに昇圧ポンプを追加設置すること等で、液体サイクロン分離器を稼動させることができる。
【0015】
液体サイクロン分離器にて濃縮されたスラリーは、濃縮スラリー排出調節弁2bを経由し次工程の気相重合槽3に移送される。一般には液体サイクロン分離器の操作圧力は気相重合槽の圧力よりも十分に高いため、ここでは濃縮スラリー排出調節弁2bの開度調節により連続的に自由に移送流量を調節することができる。この流量調節は、ループ型液相反応槽が満液であるため、主に原料オレフィン液・副原料液・副原料ガス5の投入量とループ型液相重合槽における重合量等に支配されるが、コントロール方式は、弁開度指定、ループ型液相重合槽の圧力調節などが用いられる。濃縮スラリー排出弁2bは、スラリーに対する閉塞に強いタイプが好ましく、スラリー用アングル弁、切欠付偏心回転弁などが好適に用いられる。
【0016】
液体サイクロン分離器にて分離された希薄スラリーは、廃棄する、系外に抜出した後回収する、等の処理が考えられるが、いずれも原料・エネルギーなどのロスが大きく好ましくない。本発明は、ループ型液相重合槽の循環軸流ポンプの吸込み位置に回収する。液体サイクロン回収器は、液体サイクロン導入配管2aにて軸流ポンプ吐出付近に接続されているため、操作圧力は軸流ポンプ吐出圧力から配管の圧力損失分下がった圧力となる。さらに、液体サイクロン内部の圧力損失分圧力が低下した後も、その圧力が軸流ポンプの吸込み圧よりも高くなるように、配管圧力損失、液体サイクロン圧力損失を調節し、液体サイクロンで分離した希薄スラリーをそのままもとのループ型液相重合槽に回収する。
【0017】
ループ型液相重合槽が複数直列に接続されている場合、それぞれの接続配管位置を好適に定めることにより、気相重合槽の前のループ型液相重合槽に設置された液体サイクロン分離器から、更に上流のループ型液相重合槽に希薄スラリーを回収することも可能になる。
【0018】
液体サイクロン分離器から抜き出す濃縮スラリー量は、通常、製造能力等のプロセスの要求により決定される。濃縮スラリー量に対する希薄スラリーの回収流量を調節することにより、液体サイクロン分離器でのスラリーの濃縮度合いを調節することができる。本発明では、希薄スラリー回収配管2dに希薄スラリー流量計2eと希薄スラリー流量調節弁2fを設置することで、希薄スラリー回収量を連続的に調節することで、常に最適な度合いに調節された濃縮スラリーを気相重合槽に移送することができる。この希薄スラリーは、液体サイクロン分離器の分離性能によるが、5重量%未満、好ましくは1重量%未満の希薄なスラリーである。希薄スラリー流量計は、コリオリ式質量流量計などが好適に用いられる。希薄スラリー流量調節弁2fは、スラリー用アングル弁、切欠付偏心回転弁などが好適に用いられる。
【0019】
回収する希薄スラリー流量を調節することにより調整された濃縮スラリー濃度は、高濃度であるほど後工程の気相重合槽に同伴される未反応モノマーが減少し、気相重合槽での自由度が増すので好ましいが、濃縮スラリー排出調節弁、配管部での閉塞、回収する希薄スラリー流量が増加することによる希薄スラリー回収配管系の圧力損失の増大、等の制約がある。液体サイクロン分離器による濃縮スラリー濃度は、6〜60重量%が好適である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による方法を実施するプラントの略図である。
【符号の説明】
【0021】
1 ループ型液相重合槽
1a 循環軸流ポンプ
2 液体サイクロン分離器
2a 液体サイクロン導入配管
2b 濃縮スラリー排出調節弁
2c 濃縮スラリー抜出配管
2d 希薄スラリー回収配管
2e 希薄スラリー流量計
2f 希薄スラリー流量調節弁
3 気相重合槽
4 触媒
5 原料オレフィン液・副原料液・副原料ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのループ型液相重合槽と少なくとも1つの流動床型気相重合槽が直列に配置され、ループ型液相重合槽の全てが流動床型気相重合槽より上流に配置されており、最後のループ型液相重合槽と最初の流動床型気相重合槽の間に液体サイクロン分離器が設置されているオレフィンの重合装置を用いて、下記の工程(a)〜(e)を含んでなるポリオレフィンを連続的に製造する方法。
(a)ループ型液相重合槽において、液状オレフィンモノマー中に触媒を存在させ、少なくとも1種のオレフィンを連続的に重合させて、ポリオレフィン粒子を含むスラリーを形成する工程。
(b)前記工程(a)で得られたポリオレフィン粒子を含むスラリーの一部を、最後のループ型液相重合槽から、ループ型液相重合槽に設置されているスラリー循環用軸流ポンプの昇圧能力を利用して、液体サイクロン分離器に移送する工程。
(c)前記液体サイクロン分離器において、スラリー濃度が低い希薄スラリーと、スラリー濃度が高い濃縮スラリーに分離する工程。
(d)前記工程(c)で分離された希薄スラリーを、該希薄スラリーの抜出配管に設置された流量計測器と流量調節弁によって流量を調整しつつ、少なくとも1つのループ型液相重合槽に回収する工程。
(e)前記工程(c)で分離された濃縮スラリーを、該濃縮スラリーの抜出配管に設置された排出調節弁によって流量を調整しつつ、最初の流動床型気相重合槽に移送する工程。
【請求項2】
請求項1に記載の少なくとも1つのループ型液相重合槽中のスラリー濃度が5〜50重量%であり、液体サイクロン分離器から最初の流動床型気相重合槽に移送される濃縮スラリーのスラリー濃度が6〜60重量%である請求項1に記載のポリオレフィンを連続的に製造する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−45531(P2006−45531A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−191181(P2005−191181)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】