説明

ポリカチオン性両親媒性環式オリゴ糖、及びその分子トランスポーターとしての使用

本発明は、一群のポリカチオン性両親媒性環式オリゴ糖に関する。当該一群のポリカチオン性両親媒性環式オリゴ糖は、その分子構造のおかげで、細胞内部への分子トランスポーターとして使用することができる。さらに、本発明はまた、医薬の調合における上記化合物の使用、遺伝子治療のためのこの医薬の使用、及び上記化合物のうちの一つを含んでいる薬学的組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、分子生物学分野、及び生体医学分野に関連する。詳細には、一群のポリカチオン性両親媒性環式オリゴ糖、その細胞内部への分子トランスポーターとしての使用、医薬の調合における当該化合物の使用、遺伝子治療のための当該医薬の使用、及び当該化合物の何れかを含んでいる薬学的組成物に関する。
【0002】
〔背景技術〕
機能性因子を正確に配列させるための分子鋳型として、大環式化合物を使用することは、生体内で生じる超分子事象を模倣、または、妨げ得る人工レセプターまたはリガンドを設計するための興味深い戦略である。この点に関し、シクロマルトオリゴ糖(シクロデキストリン、CD)は、上記目的について有利な大環式の基本骨格となり得る。なぜなら、シクロマルトオリゴ糖は、生体適合性、利用性、及びよく分化した面を有する対称な管構造を併せ持ち、又、管理された化学的機能化に感受性が高いためである(Vargas-Berenguel et al. 2007. Mini-Rev. Org. Chem. 4, 1-14; Garcia Fernandez et al. 2006. J. Incl. Phenom. Macrocycl. yhyuyujjuChem. 56, 149-159)。さらに、シクロデキストリン誘導体は、内部空洞に他の分子を含み、封入複合体を形成する能力を有している。例えば、DNAプラスミド(pDNA)を効果的に複合化及び放出し得る、高い生体適合性及び効果を有するポリカチオン性ポリマーに、化学的に修飾されたシクロデキストリンが組み込まれている(Davis and Brewster. 2004. Nat. Rev. Drug. Discov. 3, 1023-1035)。対応する粒子の表面は、シクロデキストリンの空洞と相互作用し得る化学物質との非共有結合によってさらなる修飾を受け得る。
【0003】
上述した例は、他の分子の複合化及び移送のためのポリカチオン性シクロデキストリン誘導体についての興味を(特に、他の分子がアニオン性である場合について)引き立てる。しかし、高分子性及び多分散性は、(特に、医薬の分野における)用途の開発に対して大きな制約を課す。分子的性質を有するシクロデキストリン誘導体のいくつかの例が、天然環式オリゴ糖の第1級水酸基の官能基化によって調製されている。しかし、それらの誘導体は、DNAのような生体分子を保護し、標的細胞に導くことの効果が比較的低い(Srinivasacchari et al. 2008. J. Am. Chem. Soc. 130, 4618-4627; Mourtzis et al. 2008. Chem. Eur. J. 14, 4188-4200)。当該効果は、ポリカチオン性シクロデキストリンに両親媒性を付与することによって向上させることもできるが(Diaz-Moscoso et al. 2008. Chem. Commun. 2001-2003)、このタイプの化合物の調製は非常に制限されている。なぜなら、シクロデキストリンにおける多重合成手法は、一般に効率が低いためである。ゆえに、効率よく調製することができ、かつ、他の分子(特に、核酸(DNA又はRNA)のようなポリアニオン性分子を含む)を効果的に複合化して移送することができる、ポリカチオン性両親媒性シクロデキストリンの新規構造を開発することが求められている。
【0004】
〔発明の説明〕
本発明の発明者らは、分子を細胞に導入する理想的な担体としての特性を有する一群のポリカチオン性両親媒性大環式誘導体を見出した。
【0005】
本発明の第1の形態は、式(I)の化合物、又はその有機若しくは無機の塩である:
【0006】
【化1】

【0007】
(但し、nは4、5又は6であり;R及びRは、それぞれ、水素、炭素数が1から20の範囲のアルキル基又はアシル基から独立に選択され、R及びRのうち少なくとも1つは水素ではなく;Xは−CH−、及び−CHYRから選択され;Yは、O及びSから選択され、Rは−(CH−NH−CO−(CH−であり、p及びqは、それぞれ、1から10の範囲の値を独立に取り得る。R及びRは、それぞれ、水素、及び−(CH−[(NH)−(CH−NH−Rから選択され、rは1から10の範囲の値を取り得、sは2から10の範囲の値を取り得、tは0から4の範囲の値を取り得、Rは、水素、蛍光色素、及び細胞のレセプターによって認識され得るリガンドを含んでいるG基から選択される。)
本発明において、「アルキル」という語は、直鎖状又は分岐状の炭化水素鎖ラジカルを指し、当該炭化水素鎖ラジカルは炭素及び水素原子からなり、不飽和結合を含むか、含んでおらず、炭素原子を1〜20個の範囲で含んでおり、単結合によって残りの分子と結合しており、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、i−イソプロピル、n−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル等である。アルキルラジカルは、任意に、1つ以上の置換基、例えば、アリル、ハロゲン、ヒドロキシル、カルボキシル、アシル、アルコキシカルボキシル、アミノ、ニトロ、メルカプト、アルキルチオ等と置換され得る。
【0008】
本発明において、「アシル」という語は、ヒドロキシ基の除去によって得られるカルボン酸誘導体を指している。アシル基は一般式Ra−CO−を有しており、Raは上記のアルキル基(好ましくは、炭素数が1から20の範囲のアルキル基)を指す。なお、アルキルは上述したように定義されているものとして理解される。
【0009】
本発明において、「細胞レセプター」という語は、分子又は「リガンド」を、特に認識するか、又はこれらと相互作用する細胞表面の構成要素を指す。細胞レセプターによるリガンドの相互作用は、例えば、任意の標的細胞に対する選択的送達のために好ましい。
【0010】
好ましい実施形態において、本発明は、R及びRが、炭素数が2から14の範囲のアルキル基又はアシル基である、式(I)の化合物に関する。
【0011】
好ましい実施形態において、本発明は、Xが、−CH−である式(I)の化合物に関する。
【0012】
他の好ましい実施形態において、本発明は、Xが、−CHYRであり、Yは硫黄であり、Rは−(CH2)−NH−CO−(CH−であり、pは2であり、かつqは1である、式(I)の化合物に関する。
【0013】
好ましい実施形態において、本発明は、R及びRが、−(CH−[(NH)−(CH−NHであり、rの値は1であり、sの値は2であり、かつtの値は0から4の範囲である、式(I)の化合物に関する。
【0014】
好ましい実施形態において、本発明は、上記塩が、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩及びトリフルオロメタンスルホン酸塩からなる群より選択される、式(I)の化合物に関する。
【0015】
好ましい実施形態において、本発明は、上記塩が、塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される、式(I)の化合物に関する。さらに好ましくは、上記塩は、塩化物である。
【0016】
他の好ましい実施形態において、本発明は、nが5である、式(I)の化合物に関する。
【0017】
好ましい実施形態において、本発明は、以下の群から選択される:ヘプタキス[6−(4−アミノメチル−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース、ヘプタキス[6−(4−(2,2−ジアミノエチルアミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース、ヘプタキス[6−(4−(2,2−ジアミノエチルアミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ミリストイル]シクロマルトヘプタオース、ヘプタキス[6−(2−(4−アミノメチル−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)アセトアミドエチルチオ)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース、及びヘプタキス[6−(2−(4−(2,2−ジアミノエチルアミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)アセトアミドエチルチオ)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース。
【0018】
好ましい実施形態において、本発明は、Rが、蛍光色素である、式(I)の化合物に関する。
【0019】
本発明において、「蛍光色素」という語は、分子の部分であって、当該分子を蛍光性にするものを指す。蛍光色素は、特定の波長のエネルギーを吸収し、他のより高い波長において(すなわち、より低エネルギーで)エネルギーを再放出する、上記分子の官能基を指す。放出されるエネルギー量及びその波長は、蛍光色素それ自体及びその化学的環境の両方に依存している。本発明において使用され得る蛍光色素のいくつかの例は、ローダミン、フルオレセイン又はダンシルであるが、これらに限定されない。
【0020】
他の好ましい実施形態において、本発明は、Rは、単糖、オリゴ糖、モノクローナル抗体又は葉酸誘導体から選択されるリガンドを含んでいるG基である、式(I)の化合物に関する。
【0021】
さらに好ましくは、上記単糖若しくはオリゴ糖は、マンノース、ガラクトース、グルコース、N−アセチルグルコサミン、シアル酸、ラクトース、又は、これらのうち何れか若しくは組み合わせによって形成されるオリゴ糖から選択される。
【0022】
本発明において、「単糖」という語は、もっとも単純なグルコシドを指し、当該グリコシドは、加水分解されておらず(つまり他の化合物を生じさせるために分解されておらず)、炭素原子を3から6個の範囲で含んでいる。それらの経験的な式は、(CHO)n(但し、n≧3)である。単糖の炭酸化された鎖(carbonated chain)は分岐が無く、1つの炭素原子以外はアルコール基(−OH)を含んでいる。残りの炭素原子はカルボニル基(C=O)と結合している。このカルボニル基が鎖の末端にある場合には、それはアルデヒド基(−CHO)であり、その単糖はアルドースと呼ばれる。アルドースの例は、グリセルアルデヒド、エリトロース、トレオロース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロースが挙げられるが、これらに限定されない。カルボニル炭素がその他の場所にある場合には、それはケトン(−CO−)であり、単糖はケトースと呼ばれる。ケトースの例は、ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、リブロース、キシルロース、シコース、フルクトース、ソルボース及びタガトースが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明において、「オリゴ糖」という語は、O−グリコシド結合によって結合している単糖から形成されており、モノマー単位の数が3から10の範囲であるポリマーを指している。二糖はオリゴ糖の中で注目に値し、それらはO−グリコシド結合(水分子の脱離を伴う)により、2つの同一又は相違する単糖の結合によって形成されるオリゴ糖であり、ヘミアセタール又はヘミケタールのOH基に応じてα又はβであり得るモノカルボン又はジカルボンである。もっとも一般的な二糖は、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース、イソマルトース、トレハロース及びセロビオースであるが、これらに限定されない。
【0024】
より好ましい実施形態において、Rは、以下の式のG基である。
【0025】
【化2】

【0026】
本発明の他の形態は、細胞内部に少なくとも1つの分子を移送する担体としての式(I)の化合物の使用に関する。
【0027】
本明細書において使用されているように、「トランスポーター」又は「キャリー」という語は、細胞内部に分子を移送する本発明の化合物の能力に関する。本明細書の実施例2において、細胞透過性トランスポーターとして行動する本発明の化合物の潜在能力を説明する分子として、核酸は使用される。しかし、本発明の化合物を用いて、導入され得る分子は非常に多様であり、例えば、核酸、ペプチド核酸、ペプチド、タンパク質、糖タンパク、炭水化物、脂質、グリコ脂質、蛍光プローブ又は医薬が挙げられるが、これらに限定されない。実施例2において、DNAプラスミドは野生型のチャイニーズハムスターの卵巣細胞に投与されている(CHO−k1、番号ATCC CCL−61)。しかし、本発明の化合物は他の型の真核細胞、および原核細胞に分子を導入する際にも有用である。
【0028】
本発明のこの形態の好ましい実施形態は、細胞内部への核酸のトランスポーターとしての、本発明の化合物の使用に関する。
【0029】
核酸はデオキシリボ核酸であり得、例えば、二本鎖DNA、一本鎖DNA若しくは環状DNAが挙げられるが、これらに限定されない。また、核酸はリボ核酸であり得、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)若しくはシグナル阻害RNA(siRNA)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明の化合物は、一種類より多い分子(例えば、2つの異なるDNA配列)を導入するためにも使用され得る。
【0030】
より好ましい実施形態において、核酸はDNAである。さらに好ましい実施形態において、DNAは二重鎖DNAである。さらに一層好ましい実施形態において、二重鎖DNAは環状である。
【0031】
他のより好ましい実施形態において、核酸はRNAである。さらに好ましい実施形態において、RNAはシグナル阻害RNA(siRNA)である。
【0032】
核酸トランスポーターはまた、ベクターとも呼ばれる。本発明において使用されるように、「ベクター」という語は、外在性の核酸を細胞内部に移送し、それによって細胞内部へ核酸の担体移送を可能にする工程において使用されるシステムを指す。
【0033】
従って、本発明の化合物は形質転換試薬又はトランスフェクション試薬として使用され得る。本明細書において使用されるように、「形質転換」という語は、原核細胞への外在性の核酸の導入を指している。本明細書において使用されるように、「形質転換試薬」という語は、原核細胞の内部への核酸の透過性トランスポーターを指している。本明細書において使用されるように、「トランスフェクション」という語は、真核細胞への外在性の核酸の導入を指している。本明細書において使用されるように、「トランスフェクション試薬」という語は、真核細胞の内部への核酸の透過性トランスポーターを指している。
【0034】
本観点における本発明の好ましい実施形態は、原核細胞の内部への核酸の形質転換試薬としての、式(I)の化合物の使用に関する。
【0035】
本発明のこの形態の好ましい実施形態は、真核細胞の内部への核酸のトランスフェクション試薬としての、式(I)の化合物の使用に関する。
【0036】
本発明の化合物は、生物(好ましくは哺乳類、さらに好ましくは人間)の細胞内に、治療能力を有する少なくとも1つの分子を移送するために使用され得る。実施例2は、真核細胞への核酸を導入する本発明の化合物の能力を示している。従って、本発明の化合物は、遺伝子治療という脈絡の中で、予防用の、診断用の又は治療用の核酸を移送することができるベクターとして有用である。
【0037】
本発明の他の形態は、医薬の調合のための、本発明の化合物の使用に関する。
【0038】
本発明の他の形態は、遺伝子治療のための、上記の医薬の使用に関する。
【0039】
本明細書において使用されるように、「遺伝子治療のための医薬」という語は、インビボ又はエクスビボのいずれかを問わず、予防用の、診断用の又は治療用の核酸を、動物の細胞、好ましくは人間の細胞に移送し、続いてインビボにおいてそれを発現させるすることを目的とする一群の製造工程によって得られる生産物を指す。遺伝子導入は、送達機構(distribution system)の一部を構成する発現システムを表し、ウイルス又は非ウイルス起源のベクターとして知られており、動物細胞に含まれ得る。遺伝子治療医薬は、以下のネイキッド核酸、非ウイルス性ベクター、ウイルス性ベクター又は遺伝子的に修正された細胞が含まれるが、これらに限定されない。それらは同種異系細胞(他の人間に由来する)又は異種細胞(動物に由来する)と同様に自己細胞(患者の細胞に由来する)に基づく遺伝子治療医薬であり得る。
【0040】
本発明の他の形態は、本発明の化合物を含んでいる、薬学的組成物に関する。本発明のこの形態の好ましい実施形態において、薬学的組成物は、薬学的に許容される担体をさらに含んでいる。本発明のより好ましい実施形態において、薬学的組成物は、薬学的に許容される担体と共に、他の活性成分をさらに含んでいる。
【0041】
本明細書に使用されているように、「活性成分(active principle)」、「有効成分(active substance)」、「薬学的有効成分(pharmaceutically active substance)」、「活性成分(active ingredient)」又は「薬学的活性成分(pharmaceutically active ingredient)」という語は、病気の診断、治療、軽減、処置若しくは予防において、薬理活性又は他の様々な効果を潜在的に提供する、あるいは、人間若しくは他の動物の体の構造又は機能に影響を与える、任意の成分を指している。
【0042】
本発明の薬学的組成物は、従来技術において知られている様々な形態における投与のために形成され得る。以下に限定されないが、非経口、腹腔内、静脈内、皮内、硬膜外、髄腔内、基質内、間接内、滑液嚢内(intrasinovial)、鞘内、病巣内、動脈内、嚢内、心臓内、筋肉内、鼻腔内、頭蓋内、皮下、眼窩内又は局所的投与を含んでいる様々な形態において、このような組成物及び/又はその製剤は、動物(より好ましくは人間を含む哺乳類)に投与され得る。
【0043】
治療的に効果的な量を得るための服用量は、様々な要素(例えば、動物の年齢、体重、性別又は耐性等)に依存している。本明細書において使用されている意味では、「治療的に効果的な量」という表現は、望ましい効果を作り出す薬学的に効果的な組成物の量を指し、一般的に、他の要因とともに、上記薬学的組成物及び達成すべき治療的効果の特性によって決定され得る。上記組成物において使用され得る薬学的に許容される「アジュバント」又は「担体」は、従来技術において知られている担体である。
【0044】
明細書及び請求項を通じて、「含んでいる」という語及びその変形は、他の技術的特徴、添加剤、構成要素又は工程を除外することを意図していない。当業者にとって、本発明の他の目的、長所及び特質は、本明細書から部分的に生じ得、本発明の実施から部分的に生じ得る。以下の図、及び例は、例示を目的として提供されており、本発明の範囲を制限することを意図していない。
【0045】
〔図面の説明〕
図1は、剛性(rigid)ポリカチオン性両親媒性βCD誘導体<9>〜<11>の合成を模式的に説明する図である。
【0046】
図2は、軟質(flexible)ポリカチオン性両親媒性βCD誘導体<16>及び<17>の合成を模式的に説明する図である。
【0047】
図3は、(a)N/P比を漸増させたときの、pDNAに対する、両親媒性のβCD誘導体(<9>〜<11>、<16>及び<17>)、及び非両親媒性のβCD誘導体(<18>及び<19>)の結合性を示すゲル電気泳動シフトアッセイ、並びに(b)バンドの濃さの数量化を説明する図である。
【0048】
図4は、ポリカチオン性両親媒性シクロデキストリン(<9>〜<11>、<16>及び<17>)と複合体化され、DNaseIによって処置されているpDNAサンプルに対応する、弛緩型の超ねじれ構造のpDNAの電気泳動バンドの合計の相対強度(非処置pDNAの値を100とする)の数量化を表す図である。データは平均値の標準偏差を示す(n=4)。非両親媒性の誘導体(<18>及び<19>)についてのデータが、比較のために含められている。
【0049】
図5は、pDNAと<9>〜<11>,<16>および<17>との複合体のCHO−k1細胞へのインビトロ遺伝子導入の効率性を、ポリカチオン性の非両親媒性の誘導体(<18>及び<19>)由来の複合体、リポフェクタミン(商標)2000(LP)をベースとしたポリプレックス、及びネイキッドDNA(コントロール)と比較して示す図である。データは平均値の標準偏差を示す(n=8)。
【0050】
〔実施例〕
この特許文章において提供される以下の具体例は、本発明の性質を説明するために使用される。これらの例は例証的な目的だけを含み、本発明の請求項の限定としては解釈されるべきではない。そのため、以下に記載されている実施例は本出願の範囲を限定せずに発明を説明するものである。
【0051】
〔実施例1;化合物の化学合成〕
(材料)
本発明の化合物の調製に使用されている以下の誘導体は、文献に記載されている方法に従い調製された:ヘプタキス(6−アジド−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル)シクロマルトヘプタオース(<1>)(Defaye30ら、国際公開第WO2008009831号パンフレット)、ヘプタキス(6−アジド−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ミリストイル)シクロマルトヘプタオース(<2>)(Defaye30ら、国際公開第WO2008009831号パンフレット)、N−(tert−ブトキシカルボニル)プロパルギルアミン(<3>)(Wu et al. 2007. J. Org. Chem. 72,2897-2905)、ビス[2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)エチル]アミン(Westerberg et al. 1989. J. Med.Chem. 32, 236-243)、及びヘプタキス[6−(2−アミノエチルチオ)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]−シクロマルトヘプタオースヘプタヒドロクロリド(<5>)(Diaz-Moscoso et al. 2008. Chem. Commun. 2001-2003)。
【0052】
3−[ビス−(2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)エチル)アミノ]プロペン(<4>)は、下記のようにビス[2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)エチル]アミンから調製された。つまり、臭化プロパルギル(0.90ml、8.6mmol、3.0当量)を、ビス[2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)エチル]アミン(872mg、2.86mmol)及びEtN(1.2ml、8.6mmol、3.0当量)のCHCN(15ml)溶液に添加した。そして、混合物を室温において、2時間攪拌した。そして、溶媒を真空下で除去し、残留物をCHCl(100ml)に溶解し、水(3×30ml)で洗浄し、乾燥し(MgSO)、濃縮した。結果得られた残留物を、カラムクロマトグラフィー(CHCl−MeOHが30:1)により精製した。生成量:567mg(58%);R=0.22(CHCl−MeOHが50:1);H NMR(300MHz、CDCl):δ4.93(bs,2H,NH),3.42(d,2 H,H,H=2.4Hz,CHC≡CH),3.20(q,4H,H,H=5.7Hz,CHNHBoc),2.64(t,4H,CHCHNHBoc),2.20(t,1H,C≡CH),1.45(s,18H,CMe);13C NMR(75.5MHz,CDCl):δ156.0(CO),79.2(C),77.9(C≡CH),73.4(C≡CH),52.8(CHCHNHBoc),41.8(HC≡CCH),38.0(CHNHBoc),28.4(CMe).ESI−MS:m/z364.2[M+Na],342.2[M+H]
【0053】
プラスミドpEGFP−N3(GenBank登録番号:U57609)はClontech Laboratories(Palo Alto,CA)から入手した。この4729塩基対のプラスミドは、赤色偏移した、野生型GFPの変異体をエンコードしている。プラスミドは、トランスフェクションされたバクテリアから慣習的な工程を用いて精製された(Sterzel et al. 1985. Anal. Biochem. 147, 462-467)。DNA濃度は、ヘキスト33258染色を用いて蛍光工程により測定された。
【0054】
(対応するtert−ブチルカルバメートの形態で保護されている、剛性スペーサー(式(I)、X=CH)を用いた本発明の化合物の前駆体の調製)
ヘプタキス[6−(4−tert−ブトキシカルボニルアミノメチル−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース(<6>):
Cul(EtO)P(71mg、200μmol、0.3当量)及びDIPEA(0.34ml、0,29mmol、1当量)を、<1>(765mg、0.28mmol)及びN−ブトキシカルボニルプロパルギルアミン(3、405mg、2.59mmol、1.3当量)のアセトン(10ml)溶液に添加し、反応混合物を3時間還流した。溶媒を、減圧下において蒸発させ、結果として生じた残留物をカラムクロマトグラフィー(CHCl−MeOHが50:1から20:1へと変化)によって精製した。生成量:871mg(81%).Rf0.47(CHCl−MeOHが15:1);[α]D=+24.7(c1.0,CHCl).H NMR(500MHz,CDCl,313K):δ7.62(s,7H,=CH),5.45(s,7H,H−1),5.40(s,7H,NHBoc),5.38(t,7H,J2,3=J3,4=8.0Hz,H−3),4.86(da,7H,J6a,6b=13.7Hz,H−6a),4.75(dd,7H,J1,2=2.1Hz,H−2),4.57(sa,7H,H−6b),4.48(sa,7H,H−5),4.29(dd,7H,H,H=15.2Hz,JCH,NH=5.4Hz,CHaNHBoc),4.18(dd,7H,JCH,NH=3.0Hz,CHbNHBoc),3.55(t,7H,J4,5=8.0Hz,H−4),2.36−2.13(m,28H,CHCO),1.57(m,28H,CHCHCO),1.40(s,63H,CMe),1.30(m,56H,CHCH,CHCHCH),0.90(t,42H,H,H=7.0Hz,CH)。13C NMR(125.7MHz,CDCl,313K):δ172.9,171.6(COエステル),155.8(COカルバメート),145.2(C−4トリアゾール),124.6(C−5トリアゾール),96.4(C−1),79.5(C−4,C),70.1(C−3),69.8(C−5),69.6(C−2),50.2(C−6),36.1(CHNHBoc),33.8(CHCO),31.4,31.2(CHCHCH),28.3(CMe),24.3(CHCHCO),22.3(CHCH),13.8(CH).ESI−MS:m/z1908.1[M+2Na]2+
【0055】
ヘプタキス[6−(4−(2,2−ビス−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)エトキシアミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−6−デトキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース(<7>)。
【0056】
Cul(EtO)P(15mg、41μmol、0.1当量)を、<1>(156mg、58μmol)及び3−ビス[2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)エチル]アミノプロピン(<4>、182mg、0.53mmol、1.3当量)のアセトン(10ml)溶液に添加し、反応混合物を3時間還流した。そして、溶媒を、真空下において蒸発させ、残留物をカラムクロマトグラフィー(CHCl−MeOHが30:1から9:1へと変化)によって精製した。生成量:256mg(87%);R=0.61(CHCl:MeOHが9:1);[α]=+25.9(c1.0,CHCl);H NMR(400MHz,CDCl,323K):δ7.73(s,7H,=CH),5.44(d,7H,J1,2=3.2Hz,H−1),5.36(t,7H,J2,3=J3,4=8.7Hz,H−3),5.21(sa,14H,NHBoc)4.90(da,7H,J6a,6b=13.6Hz,H−6a),4.75(dd,14H,H−2,H−6b),4.51(m,7H,H−5),3.78,3.74(2d,14H,H,H=15.6Hz,CHN),3.53(t,7H,J4,5=8.5Hz,H−4),3.16(q,28H,H,H=5.6Hz,CHNHBoc),2.56(t,28H,CHCHNHBoc),2.45−2.13(m,28H,CHCO),1.60(m,28H,CHCHCO),1.44(sa,126H,CMe),1.30−1.20(m,56H,CHCH,CHCHCH),0.94,0.93(2t,42H,H,H=7.2Hz,H,H=6.8Hz,CH);13C NMR(100.6MHz,CDCl,323K):δ172.7,171.5(COエステル),156.0(COカルバメート),143.6(C−4トリアゾール),125.4(C−5トリアゾール),96.5(C−1),78.8(C−4,C),70.0(C−3),69.7(C−5),69.3(C−2),53.0(CHCHNHBoc),50.0(C−6),48.0(CHN),38.5(CHNHBoc),33.8,33.5(CHCO),31.1,31.0(CHCHCH),28.3(CMe),24.1(CHCHCO),22.1(CHCH),13.6(CH);ESI−MS:m/z2558.2[M+2Na]2+,1713.6[M+3Na]3+
【0057】
ヘプタキス[6−(4−(2,2−ビス−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)エチルアミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ミリストイル]シクロマルトヘプタオース(<8>):
ヘプタキス[6−アジド−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ミリストイル]シクロヘプタキオース(<2>、50mg、11μmol)、3−ビス[2−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)エチル]アミノプロピン(<4>、34mg、0.1mmol、1.3当量)、Cul(EtO)P(3mg、8μmol、0.1当量)及びN−エチルジイソプロピルアミン(13μl、80μmmol、1当量)のアセトン(5ml)溶液を、6時間還流した。そして、溶媒を、減圧下において蒸発させ、無定形固体を得るために、残留物をカラムクロマトグラフィー(CHCl−MeOHが30:1から9:1へと変化)によって精製した。生成量:61.3mg(80%)であり、[α]=+26.2(c0.9,CHCl);R=0.51(CHCl−MeOHが9:1);H NMR(500MHz,CDCl,333K):δ7.28(s,7H,=CH),5.45(s,7H,H−1),5.38(t,7H,J2,3=J3,4=9.2Hz,H−3),5.19(sa,14H,NHBoc),4.90(d,7H,J6a,6b=13.7Hz,H−6a),4.75(dd,14H,J1,2=3.6Hz,H−2,H−6b),4.53(m,7H,H−5),3.78(2d,14H,Ha,Hb=15.7Hz,CHN),3.55(t,7H,J4,5=8.1Hz,H−4),3.18(qa,28H,H,H=5.2Hz,CHNHBoc),2.58(sa,28H,CHCHNHBoc),2.44−2.15(m,28H,CHCO),1.60−1.54(m,28H,CHCHCO),1.46(s,126H,CMe),1.38−1.29(m,280H,(CH10),0.92(t,42H,H,H=6.5Hz,CH);13C NMR(125.7MHz,CDCl,313K):δ172.9,171.7(COエステル),156.2(COカルバメート),143.6(C−4トリアゾール),125.7(C−5トリアゾール),96.6(C−1),79.0(C−4,C),70.1(C−3),69.7(C−5,C−2),53.1(CHCHNHBoc),50.1(C−6),48.0(CHN),38.4(CHNHBoc),34.0,33.7(CHCO),31.9(CHCHCH),29.8−28.9(CHCHCH(CH),28.5(CMe),24.6(CHCHCO),22.5(CHCH),14.0(CH);ESI−MS:m/z2228.6[M+2Na+H]3+,1681.2[M+K+2Na+H]4+
【0058】
(XがCHである場合の、式(I)の、剛性スペーサーを備えたポリカチオン性両親媒性大環式誘導体の調製のための一般的工程(化合物<9>〜<11>))
対応するヘプタカルバメート又はテトラデカカルバメート(<6>〜<8>、33μmol)を、TFA−CHCl(1:1、2ml)を用いて室温で2時間処理し、溶媒を溜去し、希釈したHCl溶液において凍結乾燥させることにより、純粋な<9>〜<11>を得た。
【0059】
ヘプタキス[6−(4−アミノメチル−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース ヘプタヒドロクロライド(<9>):
化合物<9>は、式(I)に相当し、n=5であり、R基及びR基は、同一であり、共にヘキサノイル(CH(CHCO−)で表され、XはCHであり、R及びRは同一であり、共に水素であり、対応するヘプタヒドロクロライド塩の形態である。
【0060】
生成量:106.4mg(99%);[α]=+31.5(c1.0,MeOH);H NMR(500MHz,CDOD,313K):δ7.98(s,7H,=CH),5.49(t,7H,J2,3=J3,4=9.3Hz,H−3),5.46(s,7H,H−1),4.88(d,7H,J6a,6b=14.0Hz,H−6a),4.78(dd,7H,J1,2=2.1Hz,H−2),4.65(s,7H,H−6b),4.53(sa,7H,H−5),3.91(s,14H,CHNH),3.67(t,7H,J4,5=8.5Hz,H−4),2.47−2.21(m,28H,CHCO),1.64(m,28H,CHCHCO),1.36(m,56H,CHCH,CHCHCH),0.94(t,42H,H,H=7.0Hz,CH);13C NMR(125.7MHz,CDOD,313K):δ174.3,173.4(COエステル),145.5(C−4トリアゾール),126.8(C−5トリアゾール),98.1(C−1),78.8(C−4),71.5(C−5),71.1(C−3,C−2),51.6(C−6),36.5(CHNH),35.0,34.9(CHCO),32.5,32.4(CHCHCH),25.5(CHCHCO),23.4(CHCH),14.2(CH);(ESI)MS:m/z1023.9[M+3H]3+,1535.3[M+2H]2+
【0061】
ヘプタキス[6−(4−(2,2−ジアミノエチルアミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース テトラデカヒドロクロライド(<10>):
化合物<10>は、式(I)に相当し、n=5であり、R基及びR基が、同一であり、共にヘキサノイル(CH(CHCO−)であり、XはCHであり、R及びRは、同一であり、共に水素であり、対応するテトラデカヒドロクロライド塩の形態である。
【0062】
生成量:136.4mg(99%);[α]=+18.5(c1.0,MeOH);H NMR(500MHz,CDOD,313K):δ8.11(s,7H,=CH),5.60(t,7H,J2,3=J3,4=9.9Hz,H−3),5.59(s,7H,H−1),5.15(dd,7H,J6a,6b=15.2Hz,J5,6a=2.5Hz,H−6a),4.58(dd,7H,J5,6b=3.0Hz,H−6b),4.57(m,14H,J1,2=3.5Hz,H−2,H−5),3.91,3.89(2d,14H,Ha,Hb=15.3Hz,CHN),3.54(t,7H,J4,5=8.9Hz,H−4),3.15(t,28H,H,H=6.0Hz,CHNH),2.83(t,28H,CHCHNH),2.49−2.17(m,28H,CHCO),1.73−1.58(m,28H,CHCHCO),1.37(m,56H,CHCH,CHCHCH),0.94,0.92(2t,42H,H,H=7.1Hz,H,H=6.9Hz,CH);13C NMR(125.7MHz,CDOD,313K):δ175.7,174.6(COエステル),144.6(C−4トリアゾール),129.7(C−5トリアゾール),99.2(C−1),79.4(C−4),73.0(C−2),72.9(C−5),71.7(C−3),53.0(CHCHNH),52.6(C−6),48.3(CHN),39.4(CHNH),36.3,36.2(CHCO),33.9,33.7(CHCHCH),26.8(CHCHCO),24.7(CHCH),15.6(CH);ESI−MS:m/z1837[M+2H]2+,1225.0[M+3H]3+,919.0[M+4H]4+,735.4[M+5H]5+
【0063】
ヘプタキス[6−(4−(2,2−ジアミノエチル)アミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ミリストイル]シクロマルトヘプタオース(<11>):
化合物<11>は、式(I)に相当し、n=5であり、R基及びR基が、同一であり、共にミリストイル(テトラデカノイル;CH(CH12CO−)であり、XはCHであり、R及びRは、同一であり、対応するテトラデカヒドロクロライド塩の形態である。
【0064】
生成量;178.8mg(99%);[α]=+30.7(c0.9,CHCl);H NMR(500MHz,CDOD,313K):δ8.12(s,7H,=CH),5.61(t,7H,J2,3=J3,4=9.3Hz,H−3),5.60(s,7H,H−1),5.13(d,7H,J6a,6b=13.9Hz,H−6a),4.97(d,7H,H−6b),4.57(m,14H,H−2,H−5),3.90(2d,14H,H,H=15.3Hz,CHN),3.55(t,7H,J4,5=9.2Hz,H−4),3.16(t,28H,H,H=5.5Hz,CHNH),2.82(t,28H,CHCHNH),2.50−2.15(m,28H,CHCO),1.80−1.55(m,28H,CHCHCO),1.50−1.25(m,280H,CH(CH10CHCHCO),0.93(t,42H,H,H=6.6Hz,CH);13C NMR(125.7MHz,CDCl,313K):δ172.9,171.8(COエステル),142.0(C−4トリアゾール),126.9(C−5トリアゾール),96.6(C−1),76.7(C−4),70.4(C−5,C−2),69.1(C−3),50.4(CHCHNH),49.9(C−6),45.7(CHN),36.7(CHNH),33.6(CHCO),31.7,29.8−29.1,22.3(CH(CH10CHCHCO),24.6,24.5(CHCHCO),13.0(CH);ESI−MS:m/z2622.0[M+2H]2+,1748.4[M+3H]3+,1311.7[M+4H]4+,1049.7[M+5H]5+
【0065】
(Xが−CHS(CH2-である場合の、式(I)の、軟質スペーサーを備える本発明の化合物の前駆物質の調製(化合物<12>〜<15>))
ヘプタキス[6−(2−クロロアセトアミドエチルチオ)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース(<12>):
Ar雰囲気下で、DMAP(270mg、2.24mmol、2当量)を、ヘプタヒドロクロライド<5>(500mg、0.16mmol)のドライDMF(10ml)溶液に分包的に添加し、混合物を15分間攪拌した。そして、クロロ酢酸無水物を添加し(570mg、3,36mmol、3当量)、反応を室温において夜通し攪拌して行わせた。そして、溶媒を減圧下で蒸発させ、残留物をCHClに溶解させ、わずかに酸性の水(3×20ml)、NaHCO飽和水溶液(3×20ml)および水(3×20ml)で洗浄した。有機相を乾燥(MgSO)し、ろ過し、濃縮した。そして、残留物をカラムクロマトグラフィー(CHCl−MeOHが30:1)によって精製した。生成量:325mg(59%);R=0.53(9:1ofCHCl−MeOH);[α]=+80.3(c1.0,CHCl);H NMR(CDCl,500MHz,313K)δ5.35(t,7H,J2,3=J3,4=9.5Hz,H−3),5.14(d,7H,J1,2=4Hz,H−1),4.80(dd,7H,H−2)4.21(m,7H,J4,5=9.0Hz,J5,6a=2.5Hz,J5,6b=5.0Hz,H−5)4.11(2d,14H,H,H=15.0Hz,CHCl),3.82(t,7H,H−4),3.55(m,14H,CHNHcyst),3.16(dd,7H,J6a,6b=14.0Hz,H−6a),3.10(dd,7H,H−6b),2.85(2dt,14H,H,H=13.5Hz,H,H=6.5Hz,CHcyst),2.43−2.17(m,28H,CHCO),1.70−1.57(m,28H,CHCHCO),1.36−1.29(m,56H,CHCHCH,CHCH),0.92(2t,42H,H,H=7.0Hz,H,H=7.5Hz,CH);13C NMR(125.7MHz,CDCl,313K)δ173.3,171.7(COエステル),166.5(COアミド),96.6(C−1),78.6(C−4),71.3(C−5),70.5(C−2)70.3(C−3),42.7(CHCl),39.4(CHNHcyst),34.1,33.8(CHCO,C−6),32.9(CHcyst),31.4,31.3(CHCHCH),24.3(CHCHCO),22.3(CHCH),13.8(CH);ESI−MS:m/z1175.3[M+3Na]3+,1752[M+2Na]2+,3477.7[M+Na]
【0066】
ヘプタキス[6−(2−アジドアセトアミドエチルチオ)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース(<13>):
Ar雰囲気下で、NaN(43mg、0.66mmol、3当量)を、<12>(109mg、31μmol)のドライDMF(10ml)溶液に添加し、混合物を夜通し攪拌した。そして、溶媒を真空下で蒸発させ、残留物をCHCl(50ml)に溶解し、水(3×15ml)で洗浄し、乾燥し(MgSO)、ろ過し、濃縮した。結果として得られた残留物を、カラムクロマトグラフィー(CHCl−MeOHが50:1から30:1へと変化)によって精製した。生成量:93.2mg(89%),R=0.48(CHCl:MeOHが9:1),[α]=+94.0(c1.0,CHCl);H NMR(CDCl,300MHz)δ5.34(t,7H,J2,3=J3,4=9.6Hz,H−3),5.12(d,7H,J1,2=3.6Hz,H−1),4.80(dd,7H,H−2)4.17(m,7H,H−5)4.02(s,14H,CH),3.82(t,7H,J4,5=8.7Hz,H−4)3.51(m,14H,CHNHcyst),3.10(m,14H,H−6a,H−6b),2.82(2dt,14H,H,H=13.8Hz,H,H=7.2Hz,CHcyst),2.44−2.12(m,28H,CHCO)1.62−1.55(m,28H,CHCHCO),1.34−1.30(m,56H,CHCHCH,CHCH),0.92(2t,42H,H,H=11.1Hz,H,H=11.4Hz,CH);13C NMR(75.5MHz,CDCl,313K)δ173.7,172.0(COエステル),167.7(COアミド),96.7(C−1),78.8(C−4),71.5(C−5),70.8(C−2),70.5(C−3),52.8(CH),39.2(CHNHcyst),34.3,34.1(CHCO),33.8(C−6),33.1(CHcyst),31.7,31.6(CHCHCH),24.7(CHCHCO),22.7(CHCH),14.2(CH);ESI−MS:m/z1774.6[M+2Na]2+
【0067】
ヘプタキス[6−(2−(4−(N−tert−ブトキシカルボニル)アミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)アセトアミドエチルチオ)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース(<14>):
(EtO)PCul(3mg、9μmol、0.1当量)及びDIPEA(15μl、90μmol、1当量)を、<13>(45mg、13μmol)及び<3>(40mg、0.12mmol、1.3当量)のアセトン(5ml)溶液に添加し、混合物を4時間還流した。そして、溶媒を、減圧下で蒸発させ、残留物をカラムクロマトグラフィー(CHCl:MeOHが20:1から9:1へと変化)によって精製した。生成量:53mg(89%),R=0.4(CHCl:MeOHが9:1);[α]=+67.6(c1.0,HCl);H NMR(CDOD,500MHz,323K)δ7.90(s,7H,=CH),5.32(t,7H,J2,3=J3,4=8.5Hz,H−3),5.15(d,7H,J1,2=3.6Hz,H−1),5.13(s,14H,CHCONH),4.87(dd,7H,H−2),4.34(s,14H,CHNHBoc),4.28(m,7H,H−5),3.84(t,7H,J4,5=8.0Hz,H−4),3.54(m,14H,CHNHcyst),3.40(m,7H,H−6a),3.08(dd,7H,J6a,6b=13.9Hz,J5,6b=7.0Hz,H−6b),2.88(m,14H,CHcyst),2.50−2.22(m,28H,CHCO),1.70−1.57(m,28H,CHCHCO),1.42(s,63H,CMe),1.40−1.30(m,56H,CHCHCH,CHCH),0.96,0.95(2t,42H,H,H=7.0Hz,CH);13C NMR(125.7MHz,CDOD):δ174.5,173.3(COエステル),167.9(COアミド),158.1(COカルバメート),147.4(C−4トリアゾール),125.7(C−5トリアゾール),98.3(C−1),80.6(C−4,C),72.9(C−5),72.1(C−3),71.6(C−2),53.4(CHCONH),40.7(CHNHcyst),37.0(CHNHBoc),35.1(CHCO),32.6,32.5(CHCHCH,CHcyst,C−6),28.9(CMe),25.5(CHCHCO),23.4(CHCH),14.4(CH);ESI−MS:(m/z)4606.9[M+Na],2317.9[M+2Na]2+,1552.2[M+3Na]3+
【0068】
ヘプタキス[6−(2−(4−(2,2−ビス−(tert−ブトキシカルボニルアミノ)エチルアミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)アセトアミドエチルチオ)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース(<15>):
Cul(EtO)P(4mg、10μmol、0.1当量)及びDIPEA(17μl、0.1mmol、1当量)を、<13>(48mg、14μmol)及び<4>(44mg、0.13mmol、1.3当量)のアセトン(5ml)溶液に添加し、反応混合物を3時間還流した。そして、溶媒を、真空下で除去し、<15>を得るために、残留物をカラムクロマトグラフィー(CHCl−MeOHが30:1から9:1へと変化)によって精製した。生成量:65mg(79%),R=0.36(CHCl:MeOHが9:1);[α]=+51.5(c1.0,CHCl);H NMR(500MHz,CDCl,313K):δ7.81(s,7H,=CH),5.34(s,14H,NHBoc)5.26(t,7H,J2,3=J3,4=7.9Hz,H−3),5.10(m,21H,CHCONH,H−1),4.76(da,7H,H−2),4.14(sa,7H,H−5),3.81(sa,14H,CHN),3.72(ta,7H,J4,5=6.95Hz,H−4),3.44(m,14H,CHNHcyst),3.18(sa,14H,CHNHBoc),2.98(sa,7H,H−6a),2.80(sa,14H,CHcyst),2.73(sa,7H,H−6b),2.58(s,14H,CHCHNHBoc),2.42−2.10(m,28H,CHCO),1.65−1.50(m,28H,CHCHCO),1.42(s,126H,CMe),1.38−1.20(m,56H,CHCHCH,CHCH),0.95−0.84(2t,42H,H,H=7.3Hz,H,H=7.0Hz,CH);13C NMR(125.7MHz,CDCl,313K):δ173.4,171.6(COエステル),166.0(COアミド),156.3(COカルバメート)144.1(C−4トリアゾール),125.1(C−5トリアゾール),96.6(C−1),79.1(C−4,C),71.4(C−5),70.4(C−3,C−2),53.3(CHCONH),52.4(CHCHNHBoc),48.3(CHN),39.4(CHNHcyst),38.4(CHNHBoc)34.0,33.8(CHCO),32.9(C−6,CHcyst),31.3,31.2(CHCHCH),28.5(CMe),24.3(CHCHCO),22.3(CHCH),13.8(CH);ESI−MS:m/z2969.7[M+2Na]2+,2959.0[M+H+Na]2+
【0069】
(Xが−CHS(CH−である場合の、式(I)の、軟質スペーサーを備えたポリカチオン性両親媒性大環式誘導体の調製のための一般的工程(化合物<16>及び<17>))
対応するヘプタカルバメート又はテトラデカカルバメート(<14>又は<15>、19μmol)を、TFA−CHCl(1:1、2ml)を用いて室温で2時間処理し、溶媒を溜去し、希釈したHCl溶液において凍結乾燥させることにより、純粋な<16>及び<17>を得た。
【0070】
ヘプタキス[6−(2−(4−アミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース(<16>):
化合物<16>は、式(I)に相当し、n=5、R基及びR基は、同一であり、共にヘキサノイル(CH(CHCO−)で表され、XはCHS(CHであり、R及びRは同一であり、共に水素であり、対応するヘプタヒドロクロライド塩の形態である。
【0071】
生成量72mg(91%),[α]=+22.1(c0.8,MeOH);H NMR(500MHz,CDOD,323K):δ8.21(s,7H,=CH),5.34(t,7H,J2,3=J3,4=7.9Hz,H−3),5.26(s,14H,CHCONH),5.16(d,7H,J1,2=3.2Hz,H−1),4.85(dd,7H,H−2),4.33(s,14H,CHNH),4.29(sa,7H,H−5),3.87(t,7H,J4,5=7.9Hz,H−4),3.54(m,14H,CHNHcyst),3.42(da,7H,J6a,6b=11.4Hz,H−6a),3.12(dd,7H,J5,6b=4.3Hz,H−6b),2.91(m,14H,CHcyst),2.50−2.20(m,28H,CHCO),1.65(m,28H,CHCHCO),1.45−1.30(m,56H,CHCHCH,CHCH),1.00−0.92(2t,42H,H,H=7.3Hz,H,H=6.9Hz,CH);13C NMR(100.3MHz,CDOD,313K):δ173.3,171.9(COエステル),166.3(COアミド),139.7(C−4トリアゾール),126.0(C−5トリアゾール),96.8(C−1),79.2(C−4),71.2(C−5),70.4(C−3),70.1(C−2),51.8(CHCONH),39.1(CHNHcyst),34.9(CHNH),33.6(CHCO,CHcyst,C−6),31.5,31.1(CHCHCH),24.1(CHCHCO),22.0(CHCH),13.0,12.8(CH)。ESI−MS:m/z1976.6[M+2Na]2+,1317.8[M+3Na]3+,988.1[M+2H+2Na]4+
【0072】
ヘプタキス[6−(2−(4−(2,2−ジアミノエチルアミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)アセトアミドエチルチオ)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース(<17>):
化合物<17>は、式(I)に相当し、n=5、R基及びR基は同一であり、共にヘキサノイル(CH(CHCO−)で表され、XはCHS(CHであり、R及びRは2−アミノエチル(NH(CH)であり、対応するヘプタヒドロクロライド塩の形態である。
【0073】
生成量は81.0mg(91%)。[α]=+39.6(MeOHにおいて、c1.0);H NMR(500MHz,CDOD,313K):δ8.05(s,7H,=CH),5.36(t,7H,J2,3=J3,4=8.7Hz,H−3)5.21(s,14H,CHCONH),5.17(d,7H,J1,2=3.5Hz,H−1),4.83(dd,7H,H−2),4.21(sa,7H,H−5),3.90(sa,21H,CHN,H−4),3.52(m,14H,CHNHcyst),3.15(t,14H,CHNHH,H=5.5Hz),3.11(m,7H,H−6a),2.88(m,21H,CHcyst,H−6b),2.84(t,7H,CHCHNH),2.50−2.22(m,28H,CHCO),1.73−1.58(m,28H,CHCHCO),1.43−1.30(m,56H,CHCH),0.99−0.91(2t,42H,H,H=6.9Hz,H,H=5.8Hz,CH);13C NMR(125.7MHz,CDOD,313K):δ176.0,174.7(COエステル),169.2(COアミド),145.4(C−4トリアゾール),128.5(C−5トリアゾール),99.5(C−1),81.8(C−4),74.5(C−5),73.0(C−3,C−2),54.4(CHCONH),53.4(CHCHNH),49.1(CHN),42.0(CHNHcyst),39.6(CHNH)36.4,36.3(CHCO),33.8,33.7(CHCHCH),32.0(C−6,CHcyst)26.8(CHCHCO),24.7(CHCH),15.7,15.6(CH).
【0074】
(マクロファージ細胞膜に存在するマンノース/フコースレセプターによって生物学的に認識され得るリガンドとしての、マンノース単位の組み込み)
【0075】
【化3】

【0076】
2−エチル−イソチオシアネート α−D5−マンノピラノシド(<10>におけるNH基に対して0.05、0.15、0.30又は0.50当量に一致する2.2mg、6.7mg、13.3mg又は22.3mg)のDMF(5ml)溶液を、化合物<10>(50mg、12μmol)及びEtN(47μl、0.34mmol、2当量)の乾燥DMF(5ml)溶液に添加し、混合物を室温で夜通し攪拌した。この時間が経過した時点で、溶媒を真空下で除去し、結果として生じた残留物を、溶離液として水が用いて、ゲル−排除クロマトグラフィー(Sepadex G−25)によって精製した。白い泡としてマンノースに組み込む対応する付加物を得るために、精製した生成物を0.1N HCLで希釈し、凍結乾燥した。H NMR(500MHz,DO,323K)δ8.60−8.40(m,=CH),5.80−5.60(m,H−1,H−3),5.30−5.00(m,H−6a,H−6b),5.00−4.50(H−2,H−5,H−1’),4.20−3.60(CH−トリアゾール,H−4,H−2’,CHaO,H−6a’,H−3’,CHbO,CHNHCO,H−6b’,H−4m,H−5’),3.50−2.90(CHNH,CHCHNH),2.70−2.30(COCH),1.79(COCHCH),1.50(CHCHCH),1.07(CH)。
【0077】
(ESI−MSデータ(添加試薬のパーセンテージの関数として組み込まれている、マンノース単位の数「m」が示されている)
5%試薬について、ESI−MS:m/z735.6[M+5H]5+,918.8[M+4H]4+,944.6[M+2K+Na+H]4+,985.3[M(1m)+5H]5+,1051.8[M(2m)+4H]4+,1225[M+3H]3+,1313.4[M(1m)+3H]3+
【0078】
15%試薬について、ESI−MS:m/z735.4[M+5H]5+,1052[M(2m)+4H]4+,1118.1[M(3m)+4H]4+,1401.7[M(2m)+3H]3+,1490.1[M(3m)+3H]3+
【0079】
30%試薬について、ESI−MS:m/z[M(3m)+5H]5+,946.9[M(4m)+5H]5+,1051[M(2m)+4H]4+,1116.5[M(3m)+4H]4+,1183.1[M(4m)+4H]4+,1249.6[M(5m)+4H]4+,1400.2[M(2m)+3H]3+,1577[M(4m)+3H]3+,1664.8[M(5m)+3H]3+
【0080】
50%試薬について、ESI−MS:m/z[M(6m)+5H]5+,1106.9[M(7m)+5H]5+,[M(6m)+4H]4+,1382.9[M(7m)+4H]4+,1449.4[M(8m)+4H]4+,1515.9[M(9m)+4H]4+
【0081】
〔実施例2:ポリカチオン性両親媒性大員環とプラスミドDNAとの複合体の調製〕
(ポリカチオン性両親媒性βCD(シクロデキストリン)誘導体及びプラスミドpEGDP−N3からの複合体の調製)
DNA複合体の調製及びトランスフェクション分析のため使用されるプラスミドpEGFP−N3は、4729−bp(塩基対)プラスミドである。使用されるポリカチオン性両親媒性βCD誘導体の量を、選択されたCD誘導体における望ましいDNA濃度、0.02mg/ml(50μM リン酸塩)、N/P比、分子量及び正電荷の数に基づいて計算した。N/P比が5、10、30及び50において、実験を行った。DNAを、50μMの最終リン酸塩濃度まで、ミリQ水において希釈し、次に、望ましい量のCD誘導体を、20−mg/ml溶液(1:2のMeSOおよび水)から添加した。調製液をボルテックスで数分間攪拌し、30分間培養した。
【0082】
〔実施例3:新規ポリカチオン性CDの特性分析〕
pDNAを複合体化し、保護し、トランスフェクションさせる新規ポリカチオン性両親媒性CDの能力を、ゲル電気泳動シフトアッセイ、DNaseの作用に対する保護アッセイ、及び真核細胞におけるプラスミドpEGFPのトランスフェクション効率の分析により分析した。詳細を以下に示す。
【0083】
(ゲル電気泳動遅延時間アッセイ(Gel electrophoresis lag-time assay))
ポリカチオン性両親媒性DNA−βCD複合体の結合能力を、ゲル電気泳動によって分析した。βCD誘導体のストック溶液を、1:2のMeSOおよび水によって調製し、DNAを150mM NaCl溶液に溶解させた。pEGFP−N3のDNA(0.1μg/μlで10μl)を、0から10の範囲のN/P比率を用いて、同容量のβCD誘導体に混合し、室温で30分間培養した後に、ローディングバッファー(2μl)を添加した。各サンプルの一分割単位(5μl)について、TAEバッファー(40mM トリス酢酸塩、1mM EDTA)中でのアガロースゲル電気泳動(0.8% w/v)を行った。電気泳動は、7V/cmで行った。電気泳動後に、ゲルを臭化エチジウムで着色した。そして、バンドの濃度の数量化を、NIHイメージソフトウェア(Rasband et al. 1995. Microbeam Analysis Soc. J. 4, 137-149)を用いて行った。なお、ネイキッドDNAのバンドの濃度に100の値を割り当てた。
【0084】
(DNase保護アッセイ)
pEGFP−N3のDNA(0.1μg/μlで10μl)を、N/P=5の条件を用いて、同容量のβCD誘導体のストック溶液に混合し、室温で30分間培養した。15μlのDNaseI溶液(50mMトリス−HCl中に0.1mg/ml、pH8、2000U/mg)を混合物に添加し、37℃で45分間培養した。酵素分解の後、20μlの10%SDS溶液を添加し、サンプルを85℃で2時間培養した。最終的に、各サンプル一分割単位(20μl)において、TAEバッファーでのアガロースゲル電気泳動(0.8% w/v)を行った。
【0085】
(細胞培養、及びDNAトランスフェクションアッセイ)
野生型のチャイニーズハムスター(CHO−k1;番号ATCC CCL−61)の卵巣細胞を、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中で培養した。培地には、10%(v/v)ウシ胎児血清、2mMのグルタミンプラス、100U/mlのペニシリン及び0.1μg/mlのストレプトマイシンを添加しておいた。トランスフェクションに先だって、細胞をウェルプレートに播種し、24時間培養することにより、細胞集密が80〜90%に達するようにした。トランスフェクション実験のため、プラスミドpEGFP−N3(1μg)を、対応するCD誘導体と混合した。混合は、0.1から20の範囲のN/P比で、室温にて20分間行い、最終容量を20μlとした。混合物を、血清を含まないDMEMによって0.5mlまで希釈し、各ウェルに添加した。非トランスフェクト細胞及びネイキッドpEGFP−N3をネガティブコントロールとして使用した。ポジティブコントロールとして、1μlのリポフェクトアミン(商標)2000(インビトロジェン)及び1.0μgのDNAを用いて、製造者の指示に従い、トランスフェクション実験を行った。そして、細胞を、DNA−ポリカチオン性両親媒性βCD混合物と共に、18時間培養した。続いて、トランスフェクション培地を除去し、10%FBSを加えたDMEMによって、さらに48時間、細胞を培養した。
【0086】
(蛍光測定及びタンパク質アッセイ)
トランスフェクションされた細胞を、PBS及び600μlの0.5%トリトンX−100 PBS溶液を用いて三回洗浄した。プレートを室温において10分間攪拌し、溶解物を回収した。そして、蛍光を、Shimadzu RF−5301PC蛍光光度計を用いて、460nm(5nm)の励起波長及び510nm(10nm)の発光波長にて数量化した。また、タンパク質濃度を、Bio−Radタンパク質アッセイ(Hercules、CA、USA)を用いて測定した。
【0087】
様々なN/P値(プラスミドにおけるリン酸塩基数に対する、CD担体におけるプロトン化可能な窒素数の割合)における、新規ポリカチオン性両親媒性CDの、pDNA(GFPをエンコードするpEGFP−N3プラスミド)との複合体形成能についてのデータ、対応する複合体における、DNaseの作用に対するプラスミドの保護の程度、及び、トランスフェクション(CHO−k1細胞)を促進する効率を、図3、4及び5にそれぞれ示す。単一の面のみが変性されたβCD誘導体(<18>及び<19>)は、本発明のポリカチオン性両親媒性大員環とpDNAとの間の相互作用における両親媒性の影響を評価するためのコントロール化合物として使用した。pDNAのコンパクト化、及びDNaseによる分解に対する保護において、樹枝状構造(<19>)はヘプトアミン誘導体(<18>)より効率的であったが、両者とも、遺伝子導入を十分な程度まで促進することはできなかった。
【0088】
【化4】

【0089】
テトラデカヘキサノイル化されたヘプタカチオン性誘導体(<9>)は、非両親媒性の類似化合物(<18>)に比べて、向上したpDNAとの複合体形成能力を示した。それにもかかわらず、プラスミドは、対応する<9>とpDNAとの複合体においても、依然DNase感受性であり、トランスフェクションレベルは低いままである。両親媒性によって与えられる利点は、一連の枝分かれしたポリカチオン性両親媒性誘導体(<19>、<10>及び<11>)において比較した際により明確になる。化合物<10>は、ヘキサノナート鎖を有しており、N/P値が4より高い環境に対してpDNAを確実に完全に保護する<10>とpDNAとの複合体をもたらす。さらに、それら複合体は、リポフェクトアミン(商標)2000により得られたものと同等の、非常に高いトランスフェクション効率を示した。ヘキサノナートからテトラデカノナートへのアシル鎖の長さの増加は、<11>のデータに示されるように、複合体形成効率に影響がなかったが、トランスフェクション能力を大きく減少させた。これは、疎水性および親水性のバランスを調整可能であることの重要性(ポリカチオン性両親媒性CD−DNAナノ粒子の形成を最適化するためだけでなく、細胞内への移行および遺伝子発現を行うさらなる工程のためにも重要であること)を強調する。式(I)の化合物におけるこの調整の容易さ及び有効性が、本発明の重要な特徴である。
【0090】
化合物<16>及び<17>は、<10>及び<11>のβCDの第一面及び第二面におけるポリアミノトリアゾール/テトラデカ−O−ヘキサノイルの修飾をそれぞれ再現する。しかし、化合物<16>及び<17>は、大環状コアとトリアゾール環との間にスペーサーアームを組み込む。これは、そのシステムにより大きな柔軟性をもたらす。対応するデータの分析は、<16>とpDNAとの複合体の安定性、DNaseの作用に対する保護の効率性、及びDNAトランスフェクションの効率性が、対応する<10>とpDNAとの複合体に比べて、穏やかに向上していることを示した。意外にも、<11>及び<17>についてのデータは、同様の傾向を示さなかった。この場合において、剛性モチーフは柔軟性構造よりも有利であった。
【0091】
以上のように、示された実施例は、分子及び生体分子(特に、核酸のようなポリアニオン性の化合物)の細胞の内部への移送システムとして、本発明のポリカチオン性両親媒性大員環の有用性を説明している。本発明において重視すべき点は、本発明のポリカチオン性両親媒性大員環が、非常に効果的な合成工程を組み合わせることによって調整され得ることである。当該合成工程は十分に均一な大員環を入手可能にする。上記実施例において説明された、分子多様性を目指す双方向的な戦略は、構造活性及び最適化研究を実行するのに特に適している。示されているように、分子の柔軟性、電荷密度並びに疎水性及び親水性バランスは、本発明の化合物において正確に調製され得る臨界パラメータである。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】剛性ポリカチオン性両親媒性βCD誘導体<9>〜<11>の合成を模式的に説明する図である。
【図2】柔軟性ポリカチオン性両親媒性βCD誘導体<16>及び<17>の合成を模式的に説明する図である。
【図3】(a)N/P比を漸増させたときの、pDNAに対する、両親媒性のβCD誘導体(<9>〜<11>、<16>及び<17>)、及び非両親媒性のβCD誘導体(<18>及び<19>)の結合性を示すゲル電気泳動シフトアッセイ、並びに(b)バンドの濃さの数量化を説明する図である。
【図4】ポリカチオン性両親媒性シクロデキストリン(<9>〜<11>、<16>及び<17>)と複合体化され、DNaseIによって処置されているpDNAサンプルに対応する、弛緩型の超ねじれ構造のpDNAの電気泳動バンドの合計の相対強度(非処置pDNAの値を100とする)の数量化を表す図である。データは平均値の標準偏差を示す(n=4)。非両親媒性の誘導体(<18>及び<19>)についてのデータが、比較のために含められている。
【図5】pDNAと<9>〜<11>,<16>および<17>との複合体のCHO−k1細胞へのインビトロ遺伝子導入の効率性を、ポリカチオン性の非両親媒性の誘導体(<18>及び<19>)由来の複合体、リポフェクタミン(商標)2000(LP)をベースとしたポリプレックス、及びネイキッドDNA(コントロール)と比較して示す図である。データは平均値の標準偏差を示す(n=8)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物、又はその有機若しくは無機の塩。
【化1】

(但し、nは4、5又は6であり;R及びRは、それぞれ、水素、炭素数が1から20の範囲のアルキル基又はアシル基から独立に選択され、R及びRのうち少なくとも1つは水素ではなく;Xは−CH−、及び−CHYRから選択され;Yは、O及びSから選択され、Rは−(CH−NH−CO−(CH−であり、p及びqは、それぞれ、1から10の範囲の値を独立に取り得る。R及びRは、それぞれ、水素、及び−(CH−[(NH)−(CH−NH−Rから選択され、rは1から10の範囲の値を取り得、sは2から10の範囲の値を取り得、tは0から4の範囲の値を取り得、Rは、水素、蛍光色素、及び細胞のレセプターによって認識され得るリガンドを含んでいるG基から選択される。)
【請求項2】
及びRは、炭素数が2から14の範囲のアルキル基又はアシル基である、請求項1に記載の式(I)の化合物。
【請求項3】
Xは、−CH−である、請求項1又は2に記載の式(I)の化合物。
【請求項4】
Xは、−CHYRであり、Yは硫黄であり、Rは−(CH−NH−CO−(CH−であり、pは2であり、かつqは1である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項5】
及びRは、−(CH−[(NH)−(CH−NHであり、rの値は1であり、sの値は2であり、かつtの値は0から4の範囲である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項6】
上記塩は、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、プロピオン酸塩、安息香酸塩、メタンスルホン酸塩及びトリフルオロメタンスルホン酸塩からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項7】
上記塩は、塩化物、臭化物及びヨウ化物からなる群より選択される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項8】
上記塩は、塩化物である、請求項6に記載の式(I)の化合物。
【請求項9】
nは5である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項10】
以下の群から選択される、請求項1に記載の式(I)の化合物:
ヘプタキス[6−(4−アミノメチル−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース、
ヘプタキス[6−(4−(2,2−ジアミノエチルアミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース、
ヘプタキス[6−(4−(2,2−ジアミノエチルアミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ミリストイル]シクロマルトヘプタオース、
ヘプタキス[6−(2−(4−アミノメチル−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)アセトアミドエチルチオ)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース、及び、
ヘプタキス[6−(2−(4−(2,2−ジアミノエチルアミノメチル)−1H−1,2,3−トリアゾール−1−イル)アセトアミドエチルチオ)−6−デオキシ−2,3−ジ−O−ヘキサノイル]シクロマルトヘプタオース。
【請求項11】
は、蛍光色素である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項12】
は、単糖若しくはオリゴ糖、モノクローナル抗体又は葉酸誘導体から選択されるリガンドを含んでいるG基である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の式(I)の化合物。
【請求項13】
最終化合物に含まれるG基の数が1から7の範囲である、請求項1〜12の何れか1項に記載の式(I)の化合物。
【請求項14】
単糖若しくはオリゴ糖は、マンノース、ガラクトース、グルコース、N−アセチルグルコサミン、シアル酸、ラクトース、又は、これらのうちの何れか若しくは組み合わせによって形成されるオリゴ糖から選択される、請求項12又は13に記載の式(I)の化合物。
【請求項15】
は、以下の式のG基である、請求項12〜14のいずれか一項に記載の化合物。
【化2】

【請求項16】
原核細胞又は真核細胞の内側への少なくとも一つの分子のトランスポーターとしての、請求項1〜15のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項17】
上記分子は、核酸、核酸ペプチド、ペプチド、タンパク質、糖タンパク質、炭水化物、脂質又は糖脂質を含んでなるリストのうちの一つである、請求項16に記載の化合物の使用。
【請求項18】
上記分子は、核酸である、請求項17に記載の化合物の使用。
【請求項19】
上記分子は、DNAである、請求項18に記載の化合物の使用。
【請求項20】
上記細胞は、真核細胞である、請求項16〜19のいずれか一項に記載の化合物の使用。
【請求項21】
医薬の調合のための、請求項1〜15のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項22】
遺伝子治療のための、請求項1〜15のいずれか一項に記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項23】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の式(I)の化合物を含んでいる、薬学的組成物。
【請求項24】
薬学的に許容される担体をさらに含んでいる、請求項23に記載の薬学的組成物。
【請求項25】
他の活性成分をさらに含んでいる、請求項23又は24に記載の薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−523489(P2012−523489A)
【公表日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−505192(P2012−505192)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【国際出願番号】PCT/ES2010/070228
【国際公開番号】WO2010/119158
【国際公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(511000083)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS(CSIC)
【住所又は居所原語表記】C/Serrano,117,E−28006 Madrid,Spain
【出願人】(511248951)ウニヴェルシダッド デ セビーリャ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE SEVILLA
【住所又は居所原語表記】C/San Fernando,4,E−41004 Sevilla,Spain
【出願人】(511248962)ウニヴェルシダッド デ グラナダ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSIDAD DE GRANADA
【住所又は居所原語表記】C/Cuesta del Hospicio,E−18071 Granada,Spain
【Fターム(参考)】