説明

ポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法

【課題】良好な成型性と滞留熱安定性を有し、かつ、高透明性と、寸法安定性と、優れた機械的特性を兼ね備える酸化アルミニウムナノ粒子含有ポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】有機酸と、酸化アルミニウムとを含み、JISK7210法に従って、温度280℃、公称荷重2.16Kg、ノズル寸法L/D=8/2の条件で測定されたメルトマスフローレイトが11g/10min以上であり、かつ加熱プレス成型により得られる膜厚0.2mmのフィルムのJISK7113法記載の2号ダンベル型試験片を、温度23℃、湿度50%RH、引張速度50mm/minの条件で測定した破壊応力が8MPa以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。有機酸としては、炭素数8以上の有機スルホン酸が好ましく、特に、芳香環を分子中に含むものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化アルミニウムを含むポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法に関する。詳しくは、本発明は、表面処理酸化アルミニウムナノ粒子を含む、透明性、機械的物性に優れたポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、樹脂の機械的強度、寸法安定性、耐熱性等を向上させる方法として、樹脂にフィラー(充填材)を添加する方法が試みられている。
しかし、樹脂の強化材として広く利用されているガラス繊維では、樹脂との屈折率差及びガラス繊維サイズの問題から、透明な材料を得がたいため、自動車用窓材のような透明性を要求される材料には、ガラス繊維を用いることは困難であった。
【0003】
この課題を解決するためには、より樹脂との屈折率差が小さく、より微細で、樹脂に対して均一に分散させることができるフィラーが望まれる。
酸化アルミニウムはポリカーボネート樹脂との屈折率差が小さいため、透明性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を得ることが期待される。
【0004】
従来、酸化アルミニウムを樹脂フィラーとする技術としては、様々な提案がなされている。
例えば、特許文献1では、長軸長さ1〜10μm、アスペクト比が40〜70の針状ベーマイト及び針状アルミナを、混練機で樹脂に溶融混練することにより樹脂組成物を製造しているが、用いる針状粒子のサイズが可視光線波長に比べて相当に大きく、また、分散性も十分でないため、十分な透明性を得るには至っていない。
【0005】
特許文献2,3には、酸化アルミニウムの針状ナノ粒子を用いた樹脂組成物が開示され、このうち特許文献2では、酸化アルミニウムナノ粒子を含むポリカーボネート樹脂組成物が高透明性で機械的強度に優れていることが報告されている。しかしながら、このものは、本発明者らの検討によれば、酸化アルミニウム粒子の添加量が少なく、またその分散性も不十分であるために、自動車用窓材用途などの低線熱膨張係数が要求される樹脂組成物としてはいまだ十分とは言い難かった。
【0006】
特許文献3には、針状ベーマイト粒子を表面処理無しで樹脂中に分散させることが開示されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、実質的に表面処理を施していない粒子をポリマー中に凝集塊を形成せずに分散させるためには、樹脂としてはポリマー鎖の化学構造中に強い極性基を含有する樹脂(例えば、ポリアミド、熱可塑性ポリウレタンなど)に限られ、比較的極性の小さいポリカーボネート樹脂の場合には、粒子の凝集が避けられない。また、ベーマイト自体の触媒作用のため、ポリカーボネート樹脂の分子量低下を招いてしまい、機械的物性が大幅に低下するということが判明した。
【0007】
ここで、酸化アルミニウムを改質して分散性を向上させる方法がいくつか知られている(例えば特許文献4,5)。
特許文献4では、酸化アルミニウム表面をシランカップリング剤で処理して分散性を向上させる方法が記載されているが、ここに開示されている三官能のシランカップリング剤で酸化アルミニウムを処理した場合には、樹脂組成物中の酸化アルミニウムの凝集を避けられず、結果として樹脂組成物の透明性は損なわれる。また、塩基性又は酸性の官能基を有するシランカップリング剤で処理した酸化アルミニウムをポリカーボネート樹脂に配合した場合には、ポリカーボネート樹脂の分子量を低下させてしまい、得られる樹脂組成物の機械的物性が損なわれることも本発明者らにより確認された。
【0008】
特許文献5には、酸化アルミニウムをスルホン酸で処理する方法が記載されているが、本発明者らが鋭意検討した結果、炭素数7以下のスルホン酸(例えばp−トルエンスルホン酸)で処理した酸化アルミニウムをポリカーボネート樹脂と混合すると、十分な改質効果が得られず、やはりポリカーボネート樹脂の分子量低下を招いてしまうことや、成型時における溶融流動性が十分でないこと、炭素数7以下のスルホン酸の金属腐食性により製造装置(例えば二軸押出機)からの金属成分の溶出が問題となる場合があること、が判明した。
【0009】
特許文献6には、アルミナ粒子にリン酸エステル類を化学結合させた複合体を含むポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、アルミナ粒子にリン酸エステル類を化学結合させた複合体において、リン酸エステル類は、樹脂組成物を成型する温度(例えば250℃以上)では、安定にアルミナ粒子に結合せず、その結果、樹脂組成物の性能劣化(アルミナ粒子の凝集、ポリカーボネート樹脂の加水分解)を引き起こす、という問題点があることが判明した。
【0010】
特許文献7,8にはアルミナ粒子にアルキルベンゼンスルホン酸を化学結合させた複合体を含むポリカーボネート樹脂組成物が開示されている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、これらのポリカーボネート樹脂組成物では、用いるスルホン酸量が少なく、十分にアルミナ粒子を被覆できず、その結果、アルミナ粒子によるポリカーボネート樹脂の加水分解を十分に抑制できず、また、アルミナ粒子同士の強い相互作用が残存し、溶融流動性が上がらない、という問題点があることが判明した。
【0011】
このように、従来において、酸化アルミニウムナノ粒子を含むポリカーボネート樹脂組成物において、その特性改善のために様々な検討がなされているが、現状では高透明性と寸法安定性、及び優れた機械的特性、成型性を兼ね備えた樹脂組成物は未だ提供されていない。
【特許文献1】特開2003−54941号公報
【特許文献2】特開2006−62905号公報
【特許文献3】特表2005−528474号公報
【特許文献4】特開2004−149687号公報
【特許文献5】特表2003−517418号公報
【特許文献6】特開2007−31684号公報
【特許文献7】特開2007−2089号公報
【特許文献8】特開2006−193400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、樹脂組成物の製造時及び成型加工時の良好な成型性と滞留熱安定性(以下、単に熱安定性と記す場合がある。)を有し、かつ、高透明性と、寸法安定性と、優れた機械的特性を兼ね備える酸化アルミニウムナノ粒子含有ポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の有機酸で表面処理した酸化アルミニウムナノ粒子は、ポリカーボネート樹脂に対して良好な分散性を示し、この良好な分散性により、成型時の流動性がよく、成型性に優れ、また、ポリカーボネート樹脂への混練時のポリカーボネート樹脂の加水分解の問題もないことから、ポリカーボネート樹脂の分子量低下を抑制して機械的特性に優れたポリカーボネート樹脂組成物を与えることを見出し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、本発明(請求項1)のポリカーボネート樹脂組成物は、有機酸と、酸化アルミニウムとを含み、JISK7210法に従って、温度280℃、公称荷重2.16Kg、ノズル寸法L/D=8/2の条件で測定されたメルトマスフローレイトが11g/10min以上であり、かつ加熱プレス成型により得られる膜厚0.2mmのフィルムのJISK7113法記載の2号ダンベル型試験片を、温度23℃、湿度50%RH、引張速度50mm/minの条件で測定した破壊応力が8MPa以上であることを特徴とする。
【0015】
本発明(請求項2)のポリカーボネート樹脂組成物は、請求項1において、加熱プレス成型により得られる膜厚0.2mmのフィルムについて、JISK7171法に従って測定した、温度23℃、湿度50%RHにおける弾性率が2.7GPa以上であることを特徴とする。
【0016】
本発明(請求項3)のポリカーボネート樹脂組成物は、請求項1又は2において、加熱プレス成型により得られる膜厚0.2mmのフィルムについて、JISK7105法により測定したヘイズ値が20以下であることを特徴とする。
【0017】
本発明(請求項4)のポリカーボネート樹脂組成物は、請求項1ないし3のいずれか1項において、有機酸が、炭素数8以上のスルホン酸であることを特徴とする。
【0018】
本発明(請求項5)のポリカーボネート樹脂組成物は、請求項1ないし4のいずれか1項において、有機酸が、芳香環を分子中に含むことを特徴とする。
【0019】
本発明(請求項6)のポリカーボネート樹脂組成物は、請求項1ないし5のいずれか1項において、酸化アルミニウム100重量部に対する有機酸の含有量が、5重量部以上であることを特徴とする。
【0020】
本発明(請求項7)のポリカーボネート樹脂組成物は、請求項1ないし6のいずれか1項において、酸化アルミニウムの含有量が3〜70重量%であることを特徴とする。
【0021】
本発明(請求項8)のポリカーボネート樹脂組成物は、請求項1ないし7のいずれか1項において、酸化アルミニウムのアスペクト比が、5以上であることを特徴とする。
【0022】
本発明(請求項9)のポリカーボネート樹脂組成物は、請求項1ないし8のいずれか1項において、酸化アルミニウムが、ベーマイト及び擬ベーマイトからなる群より選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする。
【0023】
本発明(請求項10)のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、酸化アルミニウムに、炭素数8以上の有機酸を作用させた後に、ポリカーボネート樹脂と混合することを特徴とする。
【0024】
本発明(請求項11)のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、請求項10において、酸化アルミニウムとポリカーボネート樹脂との混合工程において、酸化アルミニウム分散液及び/又はポリカーボネート樹脂溶液を用いることを特徴とする。
【0025】
本発明(請求項12)のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は、請求項10において、酸化アルミニウムとポリカーボネート樹脂との混合工程において、酸化アルミニウム粉体とポリカーボネート樹脂を溶融混練することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、特定の有機酸を、酸化アルミニウム表面に作用させてポリカーボネート樹脂に配合することにより、従来の酸化アルミニウム/ポリカーボネート樹脂組成物の特性を生かした状態で、ポリカーボネート樹脂本来の透明性を高く維持した上で、機械的強度及び寸法安定性を改善することができ、しかも、用いた有機酸のその嵩高い有機基によって、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性が向上し、さらに熱安定性も向上すると共に、金属材料に対する腐食性は低減される。
従って、本発明によれば、機械的強度、寸法安定性、透明性に優れ、しかも溶融流動性及び熱安定性、取り扱い性が向上した酸化アルミニウムナノ粒子含有ポリカーボネート樹脂が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に本発明のポリカーボネート樹脂組成物及びその製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されない。
【0028】
[有機酸]
本発明で用いる有機酸は、少なくとも一つ以上の酸性基とそれ以外の基とからなる。
【0029】
かかる有機酸としては特に限定されるものではないが、酸化アルミニウムに対する吸着能が高い有機スルホン酸、有機ホスホン酸、有機リン酸エステル、カルボン酸が好ましく、その中でも有機スルホン酸、有機ホスホン酸及び有機リン酸エステルが特に好ましい。最も好ましくはスルホン酸である。
【0030】
有機酸の酸性基以外を構成する基(以後、有機基とする)としては、ポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性と熱安定性向上の面で、有機酸の炭素数8以上となるものが好ましい。得られるポリカーボネート樹脂組成物の溶融流動性と熱安定性向上には、より嵩高い有機基が好ましく、有機酸の炭素数が10以上、特には15以上となるような有機基が好ましい。有機酸の炭素数の上限には特に制限はないが、樹脂組成物の線熱膨張係数を悪化させない点から通常50以下、好ましくは30以下である。
【0031】
また、樹脂組成物の線熱膨張係数と弾性率を従来の酸化アルミニウム/ポリカーボネート樹脂組成物と同等に保持するには、有機基に剛直な構造が含まれることが好ましい。具体的には、有機基中に各種芳香環構造(ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピレン環など)が含まれることが好ましく、そのなかでもベンゼン環、ナフタレン環が含まれることが特に好ましい。さらに、有機酸中の各種芳香環構造には置換基を有していてもよく、好ましい置換基としては、溶融流動性の観点から機械的物性が低下しない範囲で嵩高い構造が好ましく、具体的には、アルキル基、アルコキシ基、アリル基、アリール基などが挙げられる。
【0032】
本発明で使用される有機酸の具体例を以下に示す。
【0033】
<有機スルホン酸>
アルカンスルホン酸類(例えばオクタンスルホン酸、ドデカンスルホン酸)、ベンゼンスルホン酸類(例えばドデシルベンゼンスルホン酸、ジメチルベンゼンスルホン酸、ビフェニルスルホン酸)、ナフタレンスルホン酸類(例えばジノニルナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸)、アントラセンスルホン酸類(例えばアントラセンスルホン酸)、フェナントレンスルホン酸類(例えばフェナントレンスルホン酸)。
【0034】
<有機ホスホン酸、有機リン酸エステル>
アルキルホスホン酸類(例えばオクチルホスホン酸、ドデシルホスホン酸)、リン酸アルキルエステル類(例えばリン酸ビス(ブトキシエチル)エステル、リン酸ジブチルエステル、リン酸ジヘキシルエステル)、フェニルホスホン酸類(例えばオクチルフェニルホスホン酸、ドデシルフェニルホスホン酸)、リン酸アリールエステル類(例えばリン酸フェニルエステル、リン酸(ジメチルフェニル)エステル、リン酸ナフチルエステル)、ナフタレンホスホン酸類(例えばナフタレンホスホン酸)、アントラセンホスホン酸類(例えばアントラセンホスホン酸)、フェナントレンホスホン酸類(例えばフェナントレンホスホン酸)。
【0035】
<カルボン酸>
脂肪族カルボン酸類(例えばデカン酸、ドデカン酸)、安息香酸類(例えばドデシル安息香酸)、ナフタレンカルボン酸類(例えばナフタレンカルボン酸)、アントラセンカルボン酸類(例えばアントラセンカルボン酸)、フェナントレンカルボン酸類(例えばフェナントレンカルボン酸)。
【0036】
これらの有機酸は1種を単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0037】
これらのうちで、長鎖アルキル基(例えば炭素数4〜18)が置換したベンゼンスルホン酸類、ナフタレンスルホン酸類、フェニルホスホン酸類及びリン酸フェニルエステル類などが、酸化アルミニウムナノ粒子に対する吸着能と、得られたポリカーボネート樹脂組成物中での酸化アルミニウムナノ粒子の分散性、ポリカーボネート樹脂組成物の良好な溶融流動性、樹脂の熱分解性の抑制効果、樹脂組成物の機械的物性の観点から好ましく、その中でもドデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸がより好ましい。
【0038】
なお、本発明の目的を大きく損なわない限りにおいて、本発明においては、有機酸を複数併用しても構わない。例えば、炭素数8以上の有機酸の2種以上を併用してもよいし、炭素数8以上の有機酸の1種又は2種以上と炭素数7以下の有機酸の1種又は2種以上とを併用してもよい。炭素数8以上の有機酸と共に、炭素数7以下の有機酸を用いる場合、炭素数8以上の有機酸を用いることによる上述の効果を十分に得るために、炭素数7以下の有機酸の使用量は、全有機酸に対して70モル%以下、さらに50モル%以下、特に30モル%以下、とりわけ10モル%以下であることが好ましい。
【0039】
[酸化アルミニウム]
本発明で用いる酸化アルミニウムは、下記式(I)で示されるものであり、通常、1種もしくは2種以上の混合物からなる。
Al・nHO ……(I)
【0040】
具体的には、上記式(I)において、n=0のものは酸化アルミニウムを表し、δ、γ、θ、α型等の種類がある。n=1のものはベーマイト、nが1を超えて3未満のものはベーマイトとアルミナ水和物の混合物を示し、一般には擬ベーマイトと呼ばれる。n=3のものは水酸化アルミニウム、nが3を超えるとアルミナ水和物を表す。
【0041】
これらの中でも入手の容易さと、粒子の分散性保持、及び屈折率の観点から、ベーマイト、擬ベーマイトが好ましい。
【0042】
本発明で使用する酸化アルミニウム粒子は、繊維状、紡錘状、棒状、針状、筒状、柱状のいずれでもよいが、その粒子サイズは短軸長さが1〜10nmであり、長軸長さが20〜400nmであり、アスペクト比(縦横の寸法比)5以上のナノ粒子であることが好ましい。
【0043】
このような酸化アルミニウムナノ粒子は、例えば前掲の特許文献1、2に開示された方法により製造することができる。
【0044】
なお、本発明において、酸化アルミニウムナノ粒子の粒子サイズは、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察で調べることができ、短軸長さとは棒状、繊維状等の場合はその径の長さ、板状等の場合はその厚みをさし、長軸長さとは棒状、繊維状等の場合はその長さ、板状等の場合は、板面における最大の長さをさし、アスペクト比とは、この長軸長さを短軸長さで除した値である。
【0045】
[酸化アルミニウムの表面処理]
本発明においては、有機酸を酸化アルミニウム表面に作用させることによって、ポリカーボネート樹脂組成物の良好な流動性、透明性、機械的物性、熱安定性が得られる。好ましくは、炭素数8以上の有機酸を酸化アルミニウム表面に作用させることによって、ポリカーボネート樹脂組成物のより一層良好な流動性、透明性、機械的物性、熱安定性が得られる。
有機酸による酸化アルミニウムの表面処理方法としては、例えば、次のような方法を採用することが可能である。
【0046】
<酸化アルミニウムの水分散液に有機酸を加える方法>
酸化アルミニウムの水分散液に有機酸を加えて処理する方法としては、例えば、酸化アルミニウムの水分散液(ゾル)に対して有機酸を滴下する、あるいは撹拌又は静置した状態の有機酸に酸化アルミニウムの水分散液を滴下する方法がある。この際、有機酸はあらかじめ水あるいは各種有機溶媒で希釈してもよいが、有機酸が水あるいは各種有機溶媒に溶解することが好ましい。
【0047】
ここで用いる酸化アルミニウムの水分散液の酸化アルミニウム濃度は特に限定されないが、酸化アルミニウム単体の表面を有効に処理する観点からは、希薄濃度であることが好ましく、酸化アルミニウム水分散液中における酸化アルミニウム濃度は、80重量%以下が好ましく、50重量%以下が特に好ましい。ただし、処理効率の面から、この濃度は通常0.1重量%以上である。
【0048】
有機酸あるいは酸化アルミニウムの水分散液の滴下時の処理温度は、特に限定されないが通常5〜100℃であり、10〜80℃が好ましい。
【0049】
また、滴下終了後、有機酸の酸化アルミニウムに対する吸脱着を利用して、酸化アルミニウム表面処理の状態を最適化(均質に処理する)する目的で、滴下終了後の液を静置するか、或いは攪拌状態を継続することもできる。その際の温度は特に限定されないが5〜100℃が好ましく、時間に関しても特に限定されないが10分〜240時間が好ましい。
【0050】
このような処理を行った後、有機酸で処理した酸化アルミニウムは、各種水減少工程(例えば、加熱による蒸留、凍結乾燥、スプレードライ、スラリードライ、濾過など)を経ることで、固形物として取り出すことができる。
【0051】
酸化アルミニウムの固形物は、粒子同士が可能な限り凝集していない状態、例えば、凍結乾燥、スプレードライ、スラリードライで得られた粉体の状態であることが、得られるポリカーボネート樹脂組成物における酸化アルミニウムの分散性の観点から好ましい。
【0052】
また、有機酸で処理した酸化アルミニウムは、各種溶剤変換工程、例えば、沸点差を利用した蒸留、限外濾過などを経ることで、あるいは、上記の有機酸で処理した酸化アルミニウムの固形物を所望の有機溶媒へと再分散させることで、有機溶媒分散液(ゾル)として取り出すこともできる。
ここで、限外濾過により、有機酸で処理した酸化アルミニウムの固形物を所望の有機溶媒へと再分散させるには、具体的には、酸化アルミニウムの水分散液(ゾル)を限外濾過膜装置系内に循環させ、酸化アルミニウムが透過しないフィルターを介して濾液を回収すると同時に所望の有機溶媒を装置系内に補充する操作により、系内の循環液を徐々に所望の有機溶媒へと変換する方法が挙げられる。
【0053】
<酸化アルミニウムの有機溶媒分散液に有機酸を加える方法>
酸化アルミニウムの有機溶媒分散液に有機酸を加えて処理する方法としては、例えば、酸化アルミニウムの有機溶媒分散液(ゾル)に対して有機酸を滴下する、あるいは撹拌又は静置した状態の有機酸に酸化アルミニウムの有機溶媒分散液を滴下する方法がある。この際、有機酸はあらかじめ水あるいは各種有機溶媒で希釈してもよいが、有機酸が水あるいは各種有機溶媒に溶解することが好ましい。
【0054】
酸化アルミニウムの有機溶媒分散液の調製に用いる有機溶媒としては、後工程で除去可能であるようなものであれば良く、特に制限はないが、次のようなものが挙げられる。
・各種アルコール類、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール等
・各種エーテル類、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン等
・トルエン、キシレン、ヘプタン、オクタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン、アニソール、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、N−メチルピロリドン等
これらは1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。水と有機溶媒との混合液であっても良い。
【0055】
酸化アルミニウムの有機溶媒分散液の酸化アルミニウム濃度は特に限定されないが、酸化アルミニウム単体の表面を有効に処理する観点からは、希薄濃度であることが好ましく、有機溶媒分散液中における酸化アルミニウムの濃度は、80重量%以下が好ましく、50重量%以下が特に好ましい。ただし、処理効率の面から、この濃度は0.1重量%以上である。
【0056】
有機酸あるいは酸化アルミニウムの有機溶媒分散液の滴下時の処理温度は、特に限定されないが通常5〜200℃であり、10〜150℃が好ましい。
【0057】
また、滴下終了後、有機酸の酸化アルミニウムに対する吸脱着を利用して、酸化アルミニウム表面処理の状態を最適化(均質に処理する)する目的で、滴下終了後の液を静置するか、或いは攪拌状態を継続することもできる。その際の温度は特に限定されないが10〜160℃が好ましく、時間に関しても特に限定されないが10分〜240時間が好ましい。
【0058】
このような処理を行った後、有機酸で処理した酸化アルミニウムは、各種有機溶媒減少工程(水系の場合の前記方法が例示できる。)を経ることで、固形物として取り出すことができる。
また、有機酸で処理した酸化アルミニウムは、各種溶媒変換工程(例えば、沸点差を利用した蒸留、限外濾過)を経ることで、あるいは、上記の有機酸で処理した酸化アルミニウムの固形物を所望の有機溶媒へと再分散させることで、新たな有機溶媒による酸化アルミニウムの有機溶媒分散液(ゾル)として取り出すこともできる。
【0059】
<酸化アルミニウムの粉体に有機酸を直接接触させる方法>
酸化アルミニウムの粉体に有機酸を直接作用させて処理する方法としては、例えば、酸化アルミニウムの粉体に対して有機酸を滴下する、あるいは撹拌又は静置した状態の有機酸に酸化アルミニウムの粉体を添加する方法がある。この際、有機酸はあらかじめ水あるいは各種有機溶媒で希釈してもよいが、有機酸が水あるいは各種有機溶媒に溶解することが好ましい。
【0060】
酸化アルミニウム単体の表面を有効に有機酸で処理する観点から、酸化アルミニウムの粉体と有機酸は攪拌下(例えばヘンシェルミキサーなどのミキサー類の使用)で処理されることが好ましく、また、酸化アルミニウムの粉体は、1次粒子同士が可能な限り凝集していない表面積の大きな状態、例えば、凍結乾燥、スプレードライ、スラリードライで得られた粉体の状態であることが好ましく、必要に応じて水などの出発溶媒を適度に残留させて凝集を防いだ湿った状態で用いてもよい。
【0061】
酸化アルミニウムと有機酸との接触温度は特に限定されないが、通常5〜200℃であり、10〜150℃が好ましい。
【0062】
このような処理を行った後、有機酸で処理した酸化アルミニウムの粉体を所望の有機溶媒へと再分散させることで、有機酸で処理した酸化アルミニウムを有機溶媒分散液(ゾル)として取り出すことができる。
【0063】
<有機酸の使用割合>
上述のような有機酸による酸化アルミニウムの表面処理において、酸化アルミニウムに対する有機酸の使用量は、0.01〜200重量%であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂組成物の良好な流動性、透明性、熱安定性と機械的物性の確保の観点からは、0.1〜100重量%が特に好ましい。酸化アルミニウムに対する有機酸の使用量が0.01重量%未満では、ポリカーボネート樹脂組成物の良好な流動性、酸化アルミニウムの分散性(透明性)、ポリカーボネート樹脂の熱安定性(加水分解抑制)に対し十分な効果が得られず、また200重量%を超えると酸化アルミニウム表面に作用していない過剰な有機酸の影響が大きくなり、ポリカーボネート樹脂組成物の機械的物性が低下し、過剰な有機酸によるポリカーボネート樹脂の分解や揮発成分の増大などの理由により滞留熱安定性も問題となる。
【0064】
特に、有機酸の使用量は、後述の如く、酸化アルミニウム100重量部に対する有機酸の割合が5重量部以上となるような量であることが好ましい。この有機酸使用量は更に好ましくは7重量部以上である。酸化アルミニウムに対する有機酸の使用量が少なすぎると、酸化アルミニウムの表面を均質かつ十分に覆うことができず、改質効果が不十分で、ポリカーボネート樹脂組成物の良好な流動性、酸化アルミニウムの分散性(透明性)、ポリカーボネート樹脂の熱安定性(加水分解抑制)に対し十分な効果が得られない、という問題点がある。一方、酸化アルミニウム100重量部に対する有機酸の使用量は200重量部以下であることが好ましい。この有機酸使用量は、更に好ましくは100重量部以下である。酸化アルミニウムに対する有機酸の使用量が多すぎると、酸化アルミニウム表面に作用していない過剰な有機酸の影響が大きくなり、ポリカーボネート樹脂組成物の機械的物性が低下し、過剰な有機酸によるポリカーボネート樹脂の加水分解や成型時の揮発成分の増大(外観不良要因)が発生する、という問題点がある。
【0065】
なお、通常、この酸化アルミニウムの表面処理時の有機酸の使用量は、表面処理後の有機酸に付着した酸化アルミニウム有機酸量に等しく、後述のポリカーボネート樹脂組成物における酸化アルミニウムと有機酸の含有割合と等しくなる。
【0066】
[ポリカーボネート樹脂]
ポリカーボネート(PC)樹脂とは、3価以上の多価フェノール類を共重合成分として含有できる1種以上のビスフェノール類と、ビスアルキルカーボネート、ビスアリールカーボネート、ホスゲン等の炭酸エステル類との反応により製造される共重合体であり、必要に応じて芳香族ポリエステルカーボネート類とするために共重合成分としてテレフタル酸やイソフタル酸などの芳香族ジカルボン酸又はその誘導体(例えば芳香族ジカルボン酸ジエステルや芳香族ジカルボン酸塩化物)を使用して製造されたものであっても良い。
【0067】
ビスフェノール類としては、ビスフェノールA、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールM、ビスフェノールP、ビスフェノールS、ビスフェノールZ(略号はアルドリッチ社試薬カタログを参照)等が例示され、中でもビスフェノールAとビスフェノールZ(中心炭素がシクロヘキサン環に参加しているもの)が好ましく、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0068】
共重合可能な3価フェノール類としては、1,1,1−(4−ヒドロキシフェニル)エタンやフロログルシノールなどが例示できる。
【0069】
ポリカーボネート樹脂は、単独使用でも2種以上のポリマーブレンドとしての併用であってもよく、複数種の単量体の共重合体であってもよい。
【0070】
ポリカーボネート樹脂の製造方法に特に制限は無く、例えば次の(a)〜(d)の方法などの公知のいずれの方法も採用することができる。
(a)ビスフェノール類のアルカリ金属塩と求核攻撃に活性な炭酸エステル誘導体(例えばホスゲン)とを原料とし、生成ポリマーを溶解する有機溶媒(例えば塩化メチレンなど)とアルカリ水との界面にて重縮合反応させる界面重合法
(b)ビスフェノール類と前記求核攻撃に活性な炭酸エステル誘導体とを原料とし、ピリジン等の有機塩基中で重縮合反応させるピリジン法
(c)ビスフェノール類とビスアルキルカーボネートやビスアリールカーボネート等の炭酸エステル(好ましくはジフェニルカーボネート)とを原料とし、溶融重縮合させる溶融重合法
(d)ビスフェノール類と一酸化炭素や二酸化炭素を原料とする製造方法
【0071】
ポリカーボネート樹脂の分子量に特に制限は無く、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが通常10,000〜500,000であることが好ましく、特に機械的物性と溶融流動性の観点から重量平均分子量Mwは好ましくは15,000〜200,000、より好ましくは20,000〜100,000である。
【0072】
また、ポリカーボネート樹脂のガラス転移点Tgは通常120〜220℃であり、耐熱性と溶融流動性の観点から好ましくは130〜200℃、より好ましくは140〜190℃である。
【0073】
[ポリカーボネート樹脂組成物]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上述の有機酸、好ましくは炭素数8以上のスルホン酸と酸化アルミニウムとポリカーボネート樹脂とを含み、上述の有機酸は、好ましくは酸化アルミニウムの表面処理剤として含まれる。
【0074】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物において、酸化アルミニウム、好ましくは上述の有機酸で処理した酸化アルミニウムの含有量は、溶剤を除く、ポリカーボネート樹脂組成物の固形分中の酸化アルミニウムの割合として、通常0.1〜70重量%であり、樹脂組成物の機械的強度や剛性(弾性率)、寸法安定性を高める効果の点でその下限は好ましくは3重量%、更に好ましくは5重量%であり、樹脂組成物の靭性(脆くなく粘り強い性質)と成型可能な流動性を確保する点でその上限は好ましくは67重量%、更に好ましくは60重量%、最も好ましくは50重量%である。
【0075】
なお、上述のポリカーボネート樹脂組成物中の酸化アルミニウム含有量とは、Al換算の含有量であって、正確には後述の実施例の項に示されるような灰分の測定により求められる。即ち、本発明で用いる酸化アルミニウムは、前述の如く、Al・nHOで表され、n=0以上、通常3以下のものの混合物である。従って、このような酸化アルミニウムを用いてポリカーボネート樹脂組成物を調製した場合、使用した酸化アルミニウム量と得られるポリカーボネート樹脂組成物中の酸化アルミニウム量とは、結晶水のnHO分だけ異なるものとなる。従って、本発明においては、酸化アルミニウム含有量は、Al換算の含有量として示す。
【0076】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物中の上述の有機酸の含有量は、前述の理由から、ポリカーボネート樹脂組成物中の酸化アルミニウムに対して0.01〜200重量%、特に0.1〜100重量%であることが好ましく、また、ポリカーボネート樹脂組成物中の酸化アルミニウム100重量部に対する有機酸の含有量は好ましくは5重量部以上、更に好ましくは7重量部以上で、好ましくは200重量部以下、更に好ましくは100重量部以下である。
また、特に酸化アルミニウム1gに対する有機酸の量は、0.1〜2mmolであることが好ましく、0.5〜1.5mmolであることがより好ましい。
なお、このときの酸化アルミニウム量はポリカーボネート樹脂組成物の調製に用いた酸化アルミニウムに値する。
【0077】
なお、本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、更に必要に応じてエラストマーやゴムなどの耐衝撃性改善剤を添加してもよい。耐衝撃性改善剤は、通常、透明樹脂マトリクス中で相分離して存在するので、光散乱による透明性低下を抑制するためには、耐衝撃性改善剤の屈折率を透明樹脂マトリクスの屈折率に極力近づけることが望ましい。更に、ホスファイト系などの熱安定剤(例えばMARK2112の商品名で常用されているトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイトなど)、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、離型剤、顔料、帯電防止剤などの添加剤を添加してもよい。例えば、成形時の熱安定性を向上させるため、イルガノックス1010、同1076(チバガイギー社製)等のヒンダードフェノール系、スミライザーGS、同GM(住友化学社製)に代表される部分アクリル化多価フェノール系、イルガフォス168(チバガイギー社製)やアデカスタブLA−31等のホスファイト系に代表される燐化合物などの安定剤、長鎖脂肪族アルコールや長鎖脂肪族エステル等の添加剤を添加することができる。
【0078】
[ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法としては、次の(1)〜(3)の方法が挙げられる。
【0079】
(1)有機酸と酸化アルミニウム分散液又は粉体とポリカーボネート樹脂とを加熱混合し、溶融混練することにより、酸化アルミニウムが均一に分散した、有機酸を含むポリカーボネート樹脂組成物を得る直接混練法。
(2)酸化アルミニウム分散液を用いる場合はそのまま、酸化アルミニウム粉体を用いる場合は所望の分散媒の分散液とし、この分散液と、有機酸と、ポリカーボネート樹脂のモノマーとを混合して反応溶液を調製し、その後モノマーを重合させることにより、酸化アルミニウムが均一に分散した有機酸を含むポリカーボネート樹脂組成物を得る方法。
(3)酸化アルミニウム分散液を用いる場合はそのまま、酸化アルミニウム粉体を用いる場合は所望の分散媒の分散液とするかもしくは粉体の状態で、ポリカーボネート樹脂を含む有機溶媒と有機酸と前記酸化アルミニウムとを混合攪拌し、溶媒の除去に必要な温度と圧力下にて溶媒のみを留去し、酸化アルミニウムが均一に分散した、有機酸を含むポリカーボネート樹脂組成物を得る方法。
【0080】
(1)の直接混練法の場合、溶融混練に用いる混練機としては、一般的な二軸混練押出機、ラボプラストミル、ロール混練機等、製造スケールに応じて選択使用することができる。また乾式の固体又はガラス転移点近傍の温度状態で強力な剪断を印加し、次いで溶融混練させる形式の混練工程も採用可能である。
【0081】
(2)の方法において、モノマーの重合反応としては、ジヒドロキシ化合物とホスゲンの縮合反応であるホスゲン法、もしくは、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのエステル交換反応であるいわゆるエステル交換法などの方法を採用することができる。
【0082】
(3)の方法において、ポリカーボネート樹脂を含む有機溶媒と有機酸と酸化アルミニウムを混合攪拌した後、溶媒のみを留去する際、溶媒減量とともに、溶液の粘度が上昇するが、攪拌できなくなるまで攪拌を継続することが望ましく、これによりポリカーボネート樹脂組成物中における酸化アルミニウムを凝集させることなく、より均一に分散させることができる。ただし、溶媒の減量には、例えば薄膜蒸発機、ニーダー、スプレードライヤー又はスラリードライヤーなどの攪拌機構のない(又は攪拌効果が微弱な)装置を利用しても良い。
【0083】
上記(1)〜(3)の方法において、ポリカーボネート樹脂と混合する以前に、予め前述の方法で、有機酸で酸化アルミニウムを処理し、その後、ポリカーボネート樹脂と混合すると、有機酸が酸化アルミニウムにより効果的に作用することで、得られるポリカーボネート樹脂組成物中の酸化アルミニウムの分散性が更に向上し、透明性、流動性、熱安定性、寸法安定性などの観点から好ましい。
このように、有機酸で酸化アルミニウムを処理し、その後、ポリカーボネート樹脂と混合するポリカーボネート樹脂組成物の製造方法においては、上述の(1)の方法を適用すると、ポリカーボネート樹脂組成物の生産効率(溶媒除去を必要としない)の観点から好ましく、上述の(3)の方法を採用するのが、ポリカーボネート樹脂組成物中の酸化アルミニウムの分散性の観点から好ましい。
【0084】
また、上記(1)〜(3)の方法において、酸化アルミニウム粉体を経る工程においては、粒子同士が可能な限り凝集していない状態、例えば、凍結乾燥、スプレードライ、スラリードライで得られた粉体の状態であることが、得られるポリカーボネート樹脂組成物における酸化アルミニウムの分散性の観点から好ましい。
【0085】
なお、酸化アルミニウムを酸化アルミニウム分散液としてポリカーボネート樹脂又はポリカーボネート樹脂溶液と混合する場合、酸化アルミニウムの分散液を調製するための分散媒としては、前述の酸化アルミニウムの表面処理の項で酸化アルミニウム分散液の調製に用いる媒体として例示した水及び/又は有機溶媒を用いることができるが、ポリカーボネート樹脂を含む有機溶媒との混合のために、特に有機溶媒を用いることが好ましい。酸化アルミニウム分散液の酸化アルミニウム濃度については、前述の酸化アルミニウムの表面処理の場合と同様に0.1〜80重量%、特に0.1〜50重量%とすることが好ましい。
【0086】
一方、ポリカーボネート樹脂をポリカーボネート樹脂溶液として酸化アルミニウム粉体又は酸化アルミニウム分散液と混合する場合、ポリカーボネート樹脂溶液の調製に用いる有機溶媒としては、ポリカーボネート樹脂を均一に溶解することができ、混合時に副反応等の悪影響を及ぼさないものであれば良く、特に制限はないが、例えばテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサンなどの環状エーテル、ジクロロメタンやクロロホルムなどのハロゲン化アルキル、クロロベンゼンやジクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素、N,N−ジメチルホルムアミドやN−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、シクロヘキサノンなどが挙げられる。これらの有機溶媒は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。この有機溶媒としては、ポリカーボネート樹脂製造時の反応溶媒をそのまま用いることもできる。
また、ポリカーボネート樹脂溶液中のポリカーボネート樹脂濃度は、過度に高いと粘度が高くなり、製造上、取り扱いが難しくなり、過度に低いと続く溶剤除去工程の負荷が大きくなることから、1〜20重量%、特に5〜15重量%であることが好ましい。
【0087】
[ポリカーボネート樹脂組成物の物性]
<酸化アルミニウムの分散状態>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物における酸化アルミニウムの分散状態は、特に限定されないが、酸化アルミニウムの一次粒子がポリカーボネート樹脂中で、実質的に単独で、均一に分散している状態が、ポリカーボネート樹脂組成物の透明性、寸法安定性、機械的物性等の確保の観点から好ましい。
なお、ポリカーボネート樹脂組成物中の酸化アルミニウムの分散状態は、ポリカーボネート樹脂組成物を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察することにより確認することができる。
【0088】
<溶融流動性>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、各種成型(射出成型、プレス成型、射出プレス成型、押し出し成型等)での良好な成型性の点から、溶融流動性が高い(つまり見かけの溶融粘度が低い)ことが好ましい。この見かけの溶融粘度は、具体的には、温度が230℃、剪断速度が500秒−1の条件において通常20000Pa・s以下、好ましくは10000Pa・s以下、更に好ましくは8000Pa・s以下である。なお、この溶融粘度の下限は通常1000Pa・sである。
かかる見かけの溶融粘度の測定は、市販の溶融粘度測定機(例えばキャピログラフやフローテスタ)により、ノズル寸法L/D=8.1/2の条件で測定される。
【0089】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物について、JISK7210法による熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイトの試験方法で、温度280℃、公称荷重2.16Kg、ノズル寸法L/D=8/2の条件で測定されたメルトマスフローレイトは、11g/10min以上であることを特徴とする。本発明のポリカーボネート樹脂組成物のメルトマスフローレイトは、好ましくは15g/10min以上、更に好ましくは20g/10min以上である。なお、メルトマスフローレイトの上限は通常200g/10min以下である。
【0090】
ポリカーボネート樹脂組成物のメルトマスフローレイトが小さすぎると、各種成型(例えば、射出成型、プレス成型、射出プレス成型、押し出し成型等)での成型性が悪く、成型条件が限定され、形状自由度などの面で制限される、という問題点がある。逆にメルトマスフローレイトが大きすぎると、成型時の流動性が高すぎ、制御が効かない、成型品にバリが出る等の成型安定性に問題がある。
【0091】
<破壊応力>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の破壊応力は、8MPa以上であることを特徴とする。この破壊応力は、更には10MPa以上であることが好ましく、15MPa以上であることがよりに好ましい。通常、この破壊応力は高ければ高いほど良いが、その上限は500MPa以下である。破壊応力が小さすぎると、本発明の樹脂組成物単独では、材料としての十分な強度が保てない、といった問題点がある。
【0092】
なお、この破壊応力は、具体的には、樹脂組成物を溶融混練した後、加熱プレス成型して厚さ0.2mmの試験片フィルムを作成し、このフィルムについてJISK7113法記載の2号ダンベル型に切り出し(ただし厚みは0.2mm)、株式会社ORIENTEC社製「STA1225」を用いて、温度23℃、湿度50%RH、引張速度50mm/minの条件で測定される。
【0093】
<線熱膨張係数と弾性率>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の線熱膨張係数と弾性率は、成型品の寸法安定性と機械的強度の観点から、線熱膨張係数は低く、かつ弾性率は高いことが好ましい。
【0094】
線熱膨張係数は、具体的には、ポリカーボネート樹脂組成物を溶融混練した後、底面の直径5mm、長さ10mmの円柱状の試料を成型し、ディラトメーター(ブルカーエイエックス(旧マックサイエンス)社製「TD5000」)を使用し、窒素雰囲気下で、荷重20g、昇温速度5℃/minで測定した30℃〜60℃の範囲の長さ方向の寸法変化で求められ、この値は寸法安定性の観点から、60ppm/K以下であることが好ましく、50ppm/K以下であることがさらに好ましい。なお、線熱膨張係数は、低ければ低いほど好ましいが、通常、その下限は10ppm/Kである。
【0095】
また、弾性率は、具体的には、JISK7171法による曲げ弾性率測定や、樹脂組成物を溶融混練した後、加熱プレス成型して厚さ0.2mmの試験片フィルムを作成し、このフィルムについて40mm×8mmに切り出し、温度23℃、湿度50%RHの条件で、SII社製「DMS」を用いて測定されるが、ポリカーボネート樹脂組成物の機械的強度(剛性)向上の観点からは、後者の測定方法における弾性率値では、その値が2.7GPa以上であることが好ましく、4GPa以上であることがさらに好ましい。この弾性率は高ければ高いほど良いが、通常、その上限は、酸化アルミニウムの弾性率600GPa以下である。
【0096】
この弾性率が小さすぎると、材料としての剛性(機械的強度)が十分でない、といった問題点がある。
【0097】
<ヘイズ値>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物のヘイズ値は、20以下であることが好ましい。このヘイズ値は更には15以下であることが好ましい。通常、このヘイズ値は、低ければ低いほど好ましいが、その下限は0.1以上である。
ヘイズ値が大きすぎると、例えば透明窓材料として視認性が悪く使用できない、といった問題がある。
【0098】
なお、ポリカーボネート樹脂組成物のヘイズ値は、具体的には、樹脂組成物を溶融混練した後、加熱プレス成型して厚さ0.2mmの試験片フィルムを作成し、このフィルムについて、JISK7105の方法で、ヘイズメーター(スガ試験機株式会社製「ヘーズコンピューターHZ−2」)により測定される。
【0099】
<ポリカーボネート樹脂の分子量低下>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物ではまた、有機酸を用いることによる酸化アルミニウムによるポリカーボネート樹脂の加水分解の抑制効果で、用いたポリカーボネート樹脂に対して、酸化アルミニウムと混合してポリカーボネート樹脂組成物としたときのポリカーボネート樹脂の分子量低下を抑制することができる。
【0100】
<物性における有機酸の効果>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、有機酸と、酸化アルミニウムとを含み、JISK7210法による280℃、公称荷重2.16Kg、ノズル寸法L/D=8/2におけるメルトマスフローレイトが11g/10min以上であり、かつ加熱プレス成型により得られる膜厚0.2mmのフィルムについてJISK7113法に従って、温度23℃、湿度50%RH、引張速度50mm/minの条件で測定した破壊応力が8MPa以上であることを特徴とする。
通常、酸化アルミニウムを含むポリカーボネート樹脂組成物では、酸化アルミニウム表面におけるポリカーボネート樹脂の加水分解が起こり、組成物の機械的強度が低下してしまう問題があった。
また、酸化アルミニウム表面間の強い相互作用から流動特性が悪く成形性が低下する問題点があった。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物では、有機酸を用いることで、酸化アルミニウム表面におけるポリカーボネート樹脂の加水分解を抑制し、組成物の機械的強度を維持し、かつ同時に、酸化アルミニウム表面間の相互作用を抑制させ、高流動特性で、成形性の良い組成物を得る事が可能になった。
【0101】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、加熱プレス成型により得られる膜厚0.2mmのフィルムについて測定した、温度23℃、湿度50%RHにおける弾性率が、好ましくは2.7GPa以上である。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物では、有機酸を用いることで、酸化アルミニウムが良分散し、少ない酸化アルミニウム添加量でも効果的に機械的強度(例えば弾性率)を向上させることができる。
【0102】
また、本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、加熱プレス成型により得られる膜厚0.2mmのフィルムについて、JISK7105法により測定したヘイズ値が、好ましくは20以下である。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物では、有機酸を用いることで、酸化アルミニウムが良分散し、このような高い透明性を達成することができる。
【0103】
[ポリカーボネート樹脂組成物の用途]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、透明性、寸法安定性、機械的強度、熱安定性等の優れた特性と、さらには良好な成型性を併せ持つことから、例えば自動車内装材としての計器盤の透明カバーなどに、自動車外装材として窓ガラス(ウィンドウ)やヘッドランプ、サンルーフ及びコンビネーションランプカバー類などに、更には家電や住宅に用いられる透明部材、備品、家具などの分野においてガラス代替材料として有効に用いることができる。
【実施例】
【0104】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。
なお、以下における各種分析測定方法の詳細は次の通りである。
【0105】
(1)重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の測定方法
樹脂組成物の0.1重量%クロロホルム溶液を調製し、不溶分を0.45μmのフィルターで濾過し、可溶分のみをゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)にて分析した。
(GPC分析条件)
装置:東ソー社製HLC−8220GPC
カラム:東ソー社製TSK GEL SUPER HZM−M
カラム温度:40℃
検出器:東ソー社製UV−8220(254nm)
移動層:CHCl3(試薬特級)
較正法:ポリスチレン換算
注入量:0.1重量%×10μL
なお、平均分子量計算は、分子量400のポリスチレンの溶出位置を含むピークの低分子量側極小点で垂直分割したピークの高分子量成分のみを対象にして行った。
【0106】
(2)流動性
樹脂組成物を微量混練機(井元製作所社製「微量混練射出成型機」)のシリンダー中に2g投入し、270℃又は230℃で2分間保持した後、20rpmで5分間混練後、押し出した。投入量の90重量%以上を押し出せた場合を○、5重量%〜90重量%未満を押し出せた場合を△、押出量が投入量の5重量%未満の場合を×とした。
【0107】
(3)線熱膨張係数
樹脂組成物を溶融混練した後、底面の直径5mm、長さ10mmの円柱状の試料を成型し、ディラトメーター(ブルカーエイエックス(旧マックサイエンス)社製「TD5000」)を使用し、窒素雰囲気下で、荷重20g、昇温速度5℃/minで測定した30℃〜60℃の範囲の長さ方向の寸法変化から決定した。試料は計測前に、100℃まで5℃/minで昇温し、室温まで降温させた後に測定した。標準試料は石英を用い、GaとInの溶解温度(軟化温度)に基づき温度補正を行った。
【0108】
(4)弾性率
樹脂組成物を溶融混練した後、加熱プレス成型して厚さ0.2mmの試験片フィルムを作成し、このフィルムから40mm×8mmのサンプルを切り出し、温度23℃、湿度50%RHにおいて、SII社製「DMS」を用いて測定した。
【0109】
(5)ヘイズ(曇価)
樹脂組成物を溶融混練した後、加熱プレス成型して厚さ0.2mmの試験片フィルムを作成し、このフィルムについて、JISK7105の方法で、ヘイズメーター(スガ試験機株式会社製「ヘーズコンピューターHZ−2」)により測定した。
【0110】
(6)灰分
樹脂組成物をセイコーインスツルメンツ製「TG−DTA320」により、白金パン上で、空気中、室温(約23℃)から600℃に10℃/minで昇温し、30分保持したときの重量減少量から残留成分のもとの樹脂組成物に対する重量%として算出した。
【0111】
(7)メルトマスフローレイト
樹脂組成物を溶融混練した後、JISK7210の方法で条件S(280℃、公称荷重2.16Kg)、ノズル寸法L/D=8/2の条件で測定した。
【0112】
(8)破壊応力
樹脂組成物を溶融混練した後、加熱プレス成型して厚さ0.2mmの試験片フィルムを作成し、このフィルムについてJISK7113法記載の2号ダンベル型に切り出し(ただし厚みは0.2mm)、温度23℃、湿度50%RH、引張速度50mm/minにおいて、引っ張り試験機(株式会社ORIENTEC社製「STA1225」)を用いて測定し、フィルムが破断した際の応力値を破壊応力とした。
【0113】
[参考例1:針状ベーマイトの合成]
針状ベーマイトは特開2006−62905号公報の実施例2に開示されている方法で合成した。
すなわち、機械攪拌機を備えたテフロン(登録商標)製ビーカーに塩化アルミニウム六水和物(2.0M,40ml,25℃)を入れ、恒温層で10℃に保ちつつ、攪拌(700rpm)しながら水酸化ナトリウム(5.10M,40ml,25℃)を約6分かけて滴下した。滴下終了後さらに10分間攪拌を続け、攪拌終了後、溶液のpHを測定した(pH=7.08)。溶液を、テフロン(登録商標)ライナーを備えたオートクレーブに入れて密栓し、オイルバスへ移し、180℃で8時間加熱した。その後、前期オートクレーブを流水で冷やし、内容物を遠心分離(30000rpm,30min)して上澄みを除去後、遠心水洗を3回行った。
上記操作を繰り返し、遠心分離した沈殿物を集め、ここへ蒸留水を入れ、機械攪拌することにより水に分散したベーマイト粒子(水ゾル)を得た。
透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて粒子のサイズを調べたところ、長軸長さ約100〜200nm、短軸長さ(径)5〜6nm、アスペクト比16〜40の針状形状であった。
【0114】
[参考例2:ベーマイトの水ゾルからジオキサンゾルへの溶媒交換]
フラスコ内に、参考例1で合成したベーマイト水分散液(ベーマイト濃度10重量%)200gと1,4−ジオキサン800gを入れ、機械攪拌機を用いてフラスコ内を良く攪拌しながら、オイルバスを用いて110℃に加熱させ、水及び1,4−ジオキサンを200g留去した。
続けてフラスコ内に、1,4−ジオキサンを更に200g入れ、同様に攪拌しながら、110℃に加熱し、水及び1,4−ジオキサンを200g留去する操作を7回繰り返した。フラスコ内のゾルの固形分が2重量%になるように1,4−ジオキサンの量を調整し、ベーマイトのジオキサンゾルを得た。
【0115】
[実施例1]
参考例2で得られたベーマイトのジオキサンゾル(ベーマイト濃度2重量%)100gをフラスコ内に入れ、機械攪拌機を用いてフラスコ内を良く攪拌しながら、ドデシルベンゼンスルホン酸(東京化成工業株式会社製)0.34g(1.04mmol)を約5分で添加し、添加終了後、室温で30分攪拌した。このベーマイトゾルとポリカーボネート(三菱化学エンジニアリングプラスチック(株)社製ノバレックス(登録商標)7030A、重量平均分子量6.5×10、数平均分子量1.3×10)の8.7重量%ジクロロメタン溶液50gとを混合し、溶媒を留去させ、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量30重量%、ドデシルベンゼンスルホン酸含有量5重量%)を得た。
この樹脂組成物を120℃、0.8KPaの真空条件で一晩乾燥させた後、微量混練機(株式会社井元製作所製「微量混練射出成型機」)を用い、270℃で2分保温し、その後、同温度で20rpmにて5分間混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は24重量%、GPC分析による重量平均分子量は2.14×10、数平均分子量は0.49×10であった。270℃及び230℃における微量混練機での押し出し性(即ち流動性)は良好であった。
【0116】
[実施例2]
ドデシルベンゼンスルホン酸の代わりにジノニルナフタレンスルホン酸(Aldrich社製)0.5g(1.04mmol)用いた以外は実施例1と同様の方法でゾルを調製し、ポリカーボネート(7030A)の8.7重量%ジクロロメタン溶液47gと混合し、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量30重量%、ジノニルナフタレンスルホン酸含有量7.6重量%)を得た。
この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は30重量%、GPC分析による重量平均分子量は1.94×10、数平均分子量は0.93×10であった。270℃及び230℃における微量混練機での押し出し性(即ち流動性)は良好であった。
【0117】
[実施例3]
実施例1と同様の方法でゾルを調製し、ポリカーボネート(7030A)の8.7重量%ジクロロメタン溶液110gと混合し、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量17重量%、ドデシルベンゼンスルホン酸含有量2.9重量%)を得た。
この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は13重量%、GPC分析による重量平均分子量は3.40×10、数平均分子量は0.78×10であった。270℃及び230℃における微量混練機での押し出し性(即ち流動性)は良好であった。
【0118】
[実施例4]
ドデシルベンゼンスルホン酸(東京化成工業株式会社製)を0.17g(0.52mmol)用いた以外は実施例1と同様の方法でゾルを調製し、ポリカーボネート(7030A)の8.7重量%ジクロロメタン溶液50gと混合し、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量30重量%、ドデシルベンゼンスルホン酸含有量2.6重量%)を得た。
この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は22重量%、GPC分析による重量平均分子量は1.61×10、数平均分子量は0.35×10であった。270℃及び230℃における微量混練機での押し出し性(即ち流動性)は良好であった。
【0119】
[実施例5]
ドデシルベンゼンスルホン酸(東京化成工業株式会社製)を0.68g(2.08mmol)用いた以外は実施例1と同様の方法でゾルを調製し、ポリカーボネート(7030A)の8.7重量%ジクロロメタン溶液46gと混合し、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量30重量%、ドデシルベンゼンスルホン酸含有量10重量%)を得た。
この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は23重量%、GPC分析による重量平均分子量は2.12×10、数平均分子量は0.48×10であった。270℃及び230℃における微量混練機での押し出し性(即ち流動性)は良好であった。
【0120】
[実施例6]
参考例1で得られたベーマイトの水分散液を、ベーマイト濃度が5重量%になるように調整し、その分散液300gをフラスコ内に入れ、機械攪拌機を用いてフラスコ内を良く攪拌しながら、ドデシルベンゼンスルホン酸(東京化成工業株式会社製)2.55g(7.8mmol)を約5分で添加し、添加終了後、室温で30分攪拌した。このベーマイト分散液を凍結乾燥機(東京理化器械株式会社製「DRC−1000/FDU−2100」)内に静置し、あらかじめ大気下、−40℃、3時間の条件で分散液を凍結させ、続いて槽内を真空状態(10Pa以下)とし、−40℃で72時間乾燥後、30℃で3時間乾燥し、水を凍結乾燥により除去して、ドデシルベンゼンスルホン酸処理したベーマイト粉体を得た。
このベーマイト粉体にテトラヒドロフラン200g加え、室温で30分攪拌することで分散液とし、ポリカーボネート(7030A)の8.7重量%ジクロロメタン溶液845gと混合し、溶媒を留去させ、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量16.5重量%、ドデシルベンゼンスルホン酸含有量2.8重量%)を得た。
この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は14重量%、GPC分析による重量平均分子量は3.2×10、数平均分子量は0.6×10であった。270℃及び230℃における微量混練機での押し出し性(即ち流動性)は良好であった。
【0121】
[実施例7]
ドデシルベンゼンスルホン酸を5.10g(15.6mmol)用いた以外は実施例6と同様の方法でゾルを調製し、ポリカーボネート(7030A)の8.7重量%ジクロロメタン溶液816gと混合し、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量16.5重量%、ドデシルベンゼンスルホン酸含有量5.6重量%)を得た。
この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は14重量%、GPC分析による重量平均分子量は3.2×10、数平均分子量は0.9×10であった。270℃及び230℃における微量混練機での押し出し性(即ち流動性)は良好であった。
【0122】
[実施例8]
ドデシルベンゼンスルホン酸を1.28g(3.9mmol)用いた以外は実施例6と同様の方法でゾルを調整し、ポリカーボネート(7030A)の8.7重量%ジクロロメタン溶液860gと混合し、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量16.5重量%、ドデシルベンゼンスルホン酸含有量1.4重量%)を得た。
この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は14重量%、GPC分析による重量平均分子量は3.1×10、数平均分子量は0.5×10であった。270℃及び230℃における微量混練機での押し出し性(即ち流動性)は良好であった。
【0123】
[実施例9]
ドデシルベンゼンスルホン酸を3.60g(11.0mmol)用いた以外は実施例6と同様の凍結乾燥でドデシルベンゼンスルホン酸処理したベーマイト粉体を得た。このベーマイト粉体10.6gとポリカーボネート(7030A)のペレット39.4gをラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製「10C−100」)を用いて、混練温度230℃、混練回転数100rpmで5分溶融混練することで、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量16.5重量%、ドデシルベンゼンスルホン酸含有量4.0重量%)を得た。
この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は14重量%、GPC分析による重量平均分子量は3.6×10、数平均分子量は0.8×10であった。270℃及び230℃における微量混練機での押し出し性(即ち流動性)は良好であった。
【0124】
[比較例1]
ドデシルベンゼンスルホン酸の代わりにp−トルエンスルホン酸一水和物(キシダ化学(株)製)を0.2g(1.04mmol)用いた以外は実施例1と同様の方法でゾルを調製し、ポリカーボネート(7030A)の8.7重量%ジクロロメタン溶液50gと混合し、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量30重量%、p−トルエンスルホン酸含有量3重量%)を得た。
この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は24重量%、GPC分析による重量平均分子量は1.92×10、数平均分子量は0.48×10であった。270℃における微量混練機では押し出しが困難であり、230℃では押し出すことができなかった。
【0125】
[比較例2]
ドデシルベンゼンスルホン酸の代わりにフェニルホスホン酸(東京化成工業社製)を0.18g(1.04mmol)用いた以外は実施例1と同様の方法でゾルを調製し、ポリカーボネート(7030A)の8.7重量%ジクロロメタン溶液50gと混合し、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量30重量%、フェニルホスホン酸含有量2.8重量%)を得た。
この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は22重量%、GPC分析による重量平均分子量は0.55×10、数平均分子量は0.17×10であった。270℃及び230℃における微量混練機では押し出すことができなかった。
【0126】
[比較例3]
ドデシルベンゼンスルホン酸の代わりにリン酸エステル化合物((モノあるいはビス(ブトキシエチル)リン酸、城北化学工業株式会社製、JP506(商品名))を0.40g(1.04mmol)用いた以外は実施例1と同様の方法でゾルを調製し、ポリカーボネート(7030A)の8.7重量%ジクロロメタン溶液49gと混合し、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量30重量%、リン酸エステル化合物含有量6.0重量%)を得た。
この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は24重量%、GPC分析による重量平均分子量は0.88×10、数平均分子量は0.34×10であった。270℃及び230℃における微量混練機での押し出し性(即ち流動性)は良好であった。
【0127】
[比較例4]
ドデシルベンゼンスルホン酸の代わりにp−トルエンスルホン酸一水和物(キシダ化学(株)製)を1.5g(7.8mmol)用いた以外は実施例6と同様の方法でゾルを調製し、ポリカーボネート(7030A)の8.7重量%ジクロロメタン溶液856gと混合し、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量16.5重量%、p−トルエンスルホン酸含有量1.6重量%)を得た。
この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は14重量%、GPC分析による重量平均分子量は3.0×10、数平均分子量は0.6×10であった。270℃における微量混練機では押し出しが困難であり、230℃では押し出すことができなかった。
【0128】
[比較例5]
ドデシルベンゼンスルホン酸の代わりにリン酸エステル化合物(城北化学工業株式会社製、JP506H(商品名))を3.0g(7.8mmol)用いた以外は実施例6と同様の方法でゾルを調製し、ポリカーボネート(7030A)の8.7重量%ジクロロメタン溶液840gと混合して、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量16.5重量%、リン酸エステル化合物含有量3.3重量%)を得た。
この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は14重量%、GPC分析による重量平均分子量は2.3×10、数平均分子量は0.5×10であった。このものは、270℃における微量混練機では押し出しが困難であり、230℃では押し出すことができなかった。
【0129】
[比較例6]
ドデシルベンゼンスルホン酸を0.45g(1.38mmol)用いた以外は実施例6と同様の方法でゾルを調製し、ポリカーボネート(7030A)の8.7重量%ジクロロメタン溶液870gと混合し、ベーマイト/ポリカーボネート樹脂組成物(ベーマイト含有量16.5重量%、ドデシルベンゼンスルホン酸含有量0.50重量%)を得た。この樹脂組成物を実施例1と同様に乾燥後、微量混練して押し出した。
この樹脂組成物の灰分は14重量%、GPC分析による重量平均分子量は2.8×10、数平均分子量は0.5×10であった。このものは、270℃における微量混練機では押し出しが困難であり、230℃では押し出すことができなかった。
【0130】
以上の実施例1〜9及び比較例1〜6における樹脂組成物の内容(樹脂組成物中のAl(アルミニウムナノ粒子)量、有機酸の種類及び使用量)や、樹脂組成物中のポリカーボネート樹脂成分の重量平均分子量及び数平均分子量、樹脂組成物のメルトマスフローレイト、機械的物性の測定結果(流動性、弾性率、破壊応力)、ヘイズ(曇価)、線熱膨張係数を表1にまとめた。
【0131】
【表1】

【0132】
表1より本発明の有機酸で処理した酸化アルミニウムを含むポリカーボネート樹脂組成物は、流動性良く、ポリカーボネート樹脂の分子量低下が少なく、機械的特性、透明性、寸法安定性を兼ね備えていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸と、酸化アルミニウムとを含み、JISK7210法に従って、温度280℃、公称荷重2.16Kg、ノズル寸法L/D=8/2の条件で測定されたメルトマスフローレイトが11g/10min以上であり、かつ加熱プレス成型により得られる膜厚0.2mmのフィルムのJISK7113法記載の2号ダンベル型試験片を、温度23℃、湿度50%RH、引張速度50mm/minの条件で測定した破壊応力が8MPa以上であることを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
加熱プレス成型により得られる膜厚0.2mmのフィルムについて測定した、温度23℃、湿度50%RHにおける弾性率が2.7GPa以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
加熱プレス成型により得られる膜厚0.2mmのフィルムについて、JISK7105法により測定したヘイズ値が20以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
有機酸が、炭素数8以上のスルホン酸であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
有機酸が、芳香環を分子中に含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項6】
酸化アルミニウム100重量部に対する有機酸の含有量が、5重量部以上であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
酸化アルミニウムの含有量が3〜70重量%であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項8】
酸化アルミニウムのアスペクト比が、5以上であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
酸化アルミニウムが、ベーマイト及び擬ベーマイトからなる群より選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1ないし8のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
酸化アルミニウムに、炭素数8以上の有機酸を作用させた後に、ポリカーボネート樹脂と混合することを特徴とするポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
酸化アルミニウムとポリカーボネート樹脂との混合工程において、酸化アルミニウム分散液及び/又はポリカーボネート樹脂溶液を用いることを特徴とする請求項10に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
酸化アルミニウムとポリカーボネート樹脂との混合工程において、酸化アルミニウム粉体とポリカーボネート樹脂を溶融混練することを特徴とする請求項10に記載のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−41001(P2009−41001A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180352(P2008−180352)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】