説明

ポリグリセロール含有経皮吸収促進剤

【課 題】 経皮吸収製剤に配合される非ステロイド性抗炎症薬の経皮吸収性を促進することができる経皮吸収促進剤、および非ステロイド性抗炎症薬が皮膚に効率的に吸収されるため、薬効を充分に得ることができる経皮吸収型製剤を提供する。
【解決手段】 ポリグリセロールまたはそのエステルを含有する非ステロイド性抗炎症薬の経皮吸収促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非ステロイド性抗炎症薬を経皮投与するための経皮吸収促進剤、および経皮吸収製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、経皮吸収製剤として多種多様の薬物(有効成分)を含む剤型が提案されており、その代表的なものとしては、抗炎症薬を局所投与する貼付剤や、気管支拡張剤を全身系に経皮投与するテープ剤などが使用されている。例えば、インドメタシンなどの非ステロイド性抗炎症薬は、打撲、捻挫、筋肉痛、関節炎などの治療薬として様々な剤形で広く用いられているが、内服では胃腸障害や心機能障害等の重篤な副作用が惹起されるため、このような副作用を防ぐために、液剤、軟膏剤、貼付剤等の外用剤が用いられている。
【0003】
しかしながら、皮膚は、本来体外からの異物の侵入を防ぐためのバリア機能を有するものであるため、経皮吸収製剤中に有効成分を配合しても、充分な経皮吸収が得られず、したがって充分な薬効が得られない場合が多い。非ステロイド性抗炎症薬についても、皮膚からの吸収率が低く、経皮吸収製剤では内服と同等またはそれ以上の治療効果が得られないという問題があった。したがって、有効成分の経皮吸収を促進するための様々な検討がなされている。
【0004】
経皮吸収促進剤として、Azoneのように極めて経皮吸収を促進しつつも毒性が高い化合物、DMSO、エタノー等の有機溶媒、脂肪酸、テルペン化合物、尿素、リン脂質化合物等多くの化合物が検討されている(例えば、非特許文献1を参照)。しかしながら、経皮吸収製剤は皮膚に直接使用するものであるため、安全であることや、良好な使用感も求められる。したがって、優れた経皮吸収促進作用を有するとともに、安全かつ使用感も良好な経皮吸収促進剤の開発が望まれている。特許文献1には、グリセロール若しくはポリグリセロールの脂肪酸エステルを有効成分とする経皮吸収促進剤が開示されている。しかしながら、非ステロイド性抗炎症薬の経皮吸収に特に有効なものとする工夫の余地があった。
【0005】
ポリグリセロールデンドリマー(PGD)は、Haggらによって初めて合成されたデンドリマーであり、分子量分布が極めて小さく、均一な構造を有するという特徴を有している。既に、世代数3〜5のPGDの合成法が確立され(例えば、非特許文献2を参照)、そのナノサイズPG構造によって難水溶性薬物であるパクリタキセル(商品名タキソール)を溶解することが知られている。例えば、PGDの場合、パクリタキセルの溶解性が製薬業界にて使用されているポリエチレングリコール400(PEG400)と比較して著しく向上することが明らかとなっている(例えば、非特許文献3および4を参照)。
【特許文献1】特公平7−64754号公報
【非特許文献1】A.C. Williams, B. W. Barry, Adv. Drug Delivery Rev., 2004 56, 603-618
【非特許文献2】R. Haag et al., J. Am. Chem. Soc., 122, 2954-2955 (2000)
【非特許文献3】T. Ooya et al., Bioconjugate Chem., 15, 1221-1229 (2004)
【非特許文献4】T. Ooya et al., J. Controlled Release, 93, 121-127 (2003)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、経皮吸収製剤に配合される非ステロイド性抗炎症薬の経皮吸収性を促進することができる経皮吸収促進剤、および非ステロイド性抗炎症薬が皮膚に効率的に吸収されるため、薬効を充分に得ることができる経皮吸収型製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記現状に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、グリセロール(グリセリン)が複数結合した直鎖又は環状のポリグリセロール、グリセロールを構成要素としたデンドリマー、およびこれらのエステルが、非ステロイド性抗炎症薬の経皮吸収促進作用を有することを見出した。また、これらのポリグリセロールやそのエステルは、皮膚への刺激が少なく、強烈な臭いもないことから、経皮吸収製剤に配合した場合に、安全で使用感に優れ、かつ薬効の高い経皮吸収製剤とすることができることを見出した。この直鎖又は環状のポリグリセロール、グリセロールを構成要素としたデンドリマー、およびこれらのエステルは公知化合物であり、一部の化合物については、従来より化粧料に配合されたり、油脂固化剤として広く用いられているが、この化合物が非ステロイド性抗炎症薬に対し、顕著な経皮吸収促進作用を有することは知られていなかった。さらに、ポリグリセロールまたはそのエステル、および非ステロイド性抗炎症薬を含有する経皮吸収製剤とすると、非ステロイド性抗炎症薬を効率的に経皮吸収させることができることから、その治療効果を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
なお、経皮吸収製剤とは、皮膚に密着させて用いる製剤であり、皮下組織または血液に有効成分が取り込まれることにより、皮膚やその近くの組織、もしくは全身に作用する製剤をいう。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)ポリグリセロールまたはそのエステルを含有する非ステロイド性抗炎症薬の経皮吸収促進剤、
(2)ポリグリセロールまたはそのエステルが、直鎖状ポリグリセロール、環状ポリグリセロールおよびポリグリセロールデンドリマー、並びにこれらのエステルからなる群より選択される少なくとも1種である上記(1)に記載の経皮吸収促進剤、
(3)非ステロイド性抗炎症薬が、インドメタシン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ピロキシカム、アスピリン、アセトアミノフェン、フェルビナク、プラノプロフェン、メロキシカムおよびケトプロフェン、並びにこれらの薬学上許容できる塩からなる群より選択される少なくとも1種である上記(1)または(2)に記載の経皮吸収促進剤、
(4)ポリグリセロールまたはそのエステル、および非ステロイド性抗炎症薬を含有する経皮吸収製剤、
(5)ポリグリセロールまたはそのエステルが、直鎖状ポリグリセロール、環状ポリグリセロールおよびポリグリセロールデンドリマー、並びにこれらのエステルからなる群より選択される少なくとも1種である上記(4)に記載の経皮吸収製剤、および、
(6)非ステロイド性抗炎症薬が、インドメタシン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ピロキシカム、アスピリン、アセトアミノフェン、フェルビナク、プラノプロフェン、メロキシカムおよびケトプロフェン、並びにこれらの薬学上許容できる塩からなる群より選択される少なくとも1種である上記(4)または(5)に記載の経皮吸収製剤、
に関する。
【0009】
本発明はまた、
(7)ポリグリセロールまたはそのエステルを含有する組成物の、非ステロイド性抗炎症薬用経皮吸収促進剤としての使用、
(8)ポリグリセロールまたはそのエステルを含有する組成物の、非ステロイド性抗炎症薬用経皮吸収促進剤を製造するための使用、
(9)ポリグリセロールまたはそのエステル、および非ステロイド性抗炎症薬を含有する組成物の、経皮吸収製剤としての使用、および、
(10)ポリグリセロールまたはそのエステル、および非ステロイド性抗炎症薬を含有する組成物の、経皮吸収製剤を製造するための使用、
に関する。
【0010】
本発明はまた、
(11)ポリグリセロールまたはそのエステル、および非ステロイド性抗炎症薬を含有する組成物を皮膚に適用して、非ステロイド性抗炎症薬の経皮吸収を促進させる方法、および、
(12)ポリグリセロールまたはそのエステル、および非ステロイド性抗炎症薬を含有する組成物を皮膚に適用して、疼痛、発熱または炎症を治療する方法、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の経皮吸収促進剤により、経皮吸収型製剤の有効成分である非ステロイド性抗炎症薬等を皮膚に効率的に吸収させることができる。本発明の経皮吸収型製剤は、有効成分である非ステロイド性抗炎症薬を皮膚に効率的に吸収させることができるものであるため、非ステロイド性抗炎症薬の高い治療効果を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明について、詳細に説明する。
本発明の経皮吸収促進剤に用いられるポリグリセロールとは、グリセロール(グリセリン)が複数結合した化合物である。ポリグリセロールとしては、直鎖状ポリグリセロール、環状ポリグリセロール、ポリグリセロールデンドリマーが好ましい。中でも、非ステロイド性抗炎症薬の経皮吸収促進作用に優れることから、環状ポリグリセロール、ポリグリセロールデンドリマー、およびこれらのエステルからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、環状ポリグリセロールおよびポリグリセロールデンドリマーからなる群より選択される少なくとも1種が特に好ましい。ポリグリセロールのエステルとしては、該ポリグリセロールと、一般式RCOOHで表わされる(式中、Rは、炭素数6〜20の炭化水素基を表す)脂肪酸とのエステルが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0013】
上記直鎖状ポリグリセロールまたはそのエステルとしては、グリセロールが3〜6個分子結合して形成される直鎖状化合物が好適である。好ましくは、下記一般式(1)で表わされるポリグリセロール(以下、単に「PG」ともいう)(グリセロールの三量体)またはそのエステルである。
【0014】
【化1】

【0015】
上記一般式(1)中、Rは、H(水素原子)またはCOC2n+1を表し、nは通例6〜20であり、好ましくは10〜18、より好ましくは13〜17である。
このようなグリセロール三量体のエステルとしては、例えば、グリセロール三量体のミリスチン酸(C14:一般式(1)のRがCOC1327)エステル、パルミチン酸(C16:一般式(1)のRがCOC1531)エステル、ステアリン酸(C18:一般式(1)のRがCOC1735)エステル、およびアラキジン酸エステル(C20:一般式(1)のRがCOC1939)が好ましく、ステアリン酸エステル、アラキジン酸エステルがより好ましい。
【0016】
上記環状ポリグリセロールとしては、グリセロールが3〜6個分子結合して形成される環状化合物が好適である。また、下記式(2)で表わされる環状ポリグリセロール(グリセロールの三量体)(以下、「環状PG(グリセロールの三量体)」ともいう)がより好ましい。
【0017】
【化2】

【0018】
ポリグリセロールデンドリマーまたはそのエステルとしては、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールをコアとするポリグリセロールデンドリマー(以下、単に「PGD」ともいう)が好適である。このようなデンドリマーの世代数(繰り返し構造の数)は特に限定されず、第一世代〜第八世代のものを用いることができる。好ましくは、第一世代〜第五世代のものであり、より好ましくは、第一世代〜第四世代のものである。
【0019】
2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールをコアとするポリグリセロールデンドリマー第一世代(以下、「PGD−G1」ともいう)は、下記式(3)で表わされる化合物であり、ポリグリセロールデンドリマー第三世代(以下、「PGD−G3」ともいう)は、下記式(4)で表わされる化合物であり、ポリグリセロールデンドリマー(PGD)第四世代(以下、「PGD−G4」ともいう)は、下記式(5)で表わされる化合物である。
【0020】
【化3】

【0021】
【化4】

【0022】
【化5】

【0023】
上記ポリグリセロールまたはそのエステルは、公知の方法(例えば、非特許文献3および4に記載されている方法)により製造したものを用いることができる。
【0024】
上記ポリグリセロールまたはそのエステルは、後述する非ステロイド性抗炎症剤の種類などにより、適宜一種または二種以上を選択して用いることができる。
【0025】
本発明の経皮吸収促進剤は、本発明の効果を奏する限り、ポリグリセロールまたはそのエステル以外の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、ワセリン等の炭化水素類;メタノール、エタノール等の低級アルコール類;セタノール、オレイルアルコール等の高級アルコール類;ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸;メントール、カンフル等のテルペン系化合物;グリセリンや1,3−ブタンジオール等の多価アルコール類;非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等の界面活性剤が挙げられる。このような成分は、ポリグリセロールまたはそのエステルの質量を1として、質量比で0.01〜100含有されることが好ましい。
【0026】
本発明の非ステロイド性抗炎症薬の経皮吸収促進剤に含まれるポリグリセロールまたはそのエステルは、経皮吸収製剤中に含有させることにより、経皮吸収製剤中に配合される有効成分の溶解度を向上させるとともに、その経皮吸収を促進することができるものである。本発明の経皮吸収促進剤および有効成分を含有する経皮吸収製剤は、本発明の好ましい実施形態の1つである。
【0027】
本発明の経皮吸収促進剤が皮膚からの吸収を向上させる対象となる薬物は、非ステロイド性抗炎症薬である。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)とは、抗炎症作用、鎮痛作用および解熱作用を有し、疼痛、発熱および炎症の治療に用いられる薬剤であり、ステロイドではないものをいう。本発明における非ステロイド性抗炎症薬としては、インドメタシン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ピロキシカム、アスピリン、アセトアミノフェン、フェルビナク、プラノプロフェン、メロキシカム、およびケトプロフェン、並びにこれらの薬学上許容できる塩からなる群より選択される1種または2種以上が好ましい。中でも、インドメタシン、ジクロフェナク、ピロキシカム、メロキシカム、およびケトプロフェン、並びにこれらの薬学上許容できる塩からなる群より選択される1種または2種以上がより好ましい。
【0028】
ポリグリセロールまたはそのエステル、および非ステロイド性抗炎症薬を含有する経皮吸収製剤も、本発明の1つである。非ステロイド性抗炎症薬としては、上述したインドメタシン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ピロキシカム、アスピリン、アセトアミノフェン、フェルビナク、プラノプロフェン、メロキシカムおよびケトプロフェン、並びにこれらの薬学上許容できる塩からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0029】
本発明の経皮吸収製剤における、ポリグリセロールまたはそのエステルの配合量としては、ポリグリセロールまたはそのエステルの種類や、非ステロイド性抗炎症薬の種類、剤型などにより適宜設定すればよい。例えば、直鎖状ポリグリセロールまたはそのエステルを用いる場合には、経皮吸収製剤100質量%中、該ポリグリセロールまたはそのエステルが0.001〜5質量%となるようにすることが好ましく、0.01〜2質量%となるようにすることがより好ましい。環状ポリグリセロールまたはそのエステルを用いる場合には、経皮吸収製剤100質量%中、該ポリグリセロールまたはそのエステルが0.001〜5質量%となるようにすることが好ましく、0.01〜2質量%となるようにすることがより好ましい。ポリグリセロールデンドリマーを用いる場合には、経皮吸収製剤100質量%中、該ポリグリセロールまたはそのエステルが0.001〜5質量%となるようにすることが好ましく、0.01〜2質量%となるようにすることがより好ましい。なお、特にインドメタシンとの組み合わせにおいては、ポリグリセロールデンドリマーの配合量は、経皮吸収製剤100質量%中、通例0.3〜4質量%とすることが好ましく、0.5〜2質量%であることがより好ましい。このような配合量とすることにより、非ステロイド性抗炎症薬を効果的に皮膚に吸収させることができる。
【0030】
本発明の経皮吸収製剤における、非ステロイド性抗炎症薬の配合量としては、非ステロイド性抗炎症薬の種類、対象疾患、症状、患者の性別、年齢、剤型などにより適宜設定すればよい。例えば、経皮吸収製剤100質量%中、非ステロイド性抗炎症薬が0.01〜5質量%となるようにすることが好ましく、0.1〜3質量%となるようにすることがより好ましい。
【0031】
本発明の経皮吸収製剤の剤型としては、例えば、テープ剤、パップ剤、軟膏剤、クリーム剤、エアゾール剤、リニメント剤、液剤、ローション剤、プラスター剤、固形状製剤などが挙げられる。
本発明の経皮吸収製剤は、本発明の効果を損なわない範囲で、その剤形に応じて薬理上許容される必要な成分を配合し、公知の方法により調製することができる。
必要に応じて配合される薬理上許容される成分としては、例えば、基剤、界面活性剤、増粘剤、保存剤、pH調整剤、安定化剤、酸化防止剤、刺激軽減剤、充填剤、防腐剤、着色剤、分散剤、香料等が挙げられる。これらの成分はこれらは単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0032】
本発明の経皮吸収製剤は、皮膚に適用すると非ステロイド性抗炎症薬が効果的に皮膚に吸収されることから、疼痛、発熱および炎症の治療に有効である。特に、腰痛症(筋・筋膜性腰痛症、変形性脊椎症、椎間板症、腰椎捻挫)、変形性関節症、肩関節周囲炎、腱・腱鞘炎、腱周囲炎、上腕骨上顆炎(テニス肘等)などの治療に有効である。
【0033】
本発明の経皮吸収製剤の皮膚への適用方法としては、含有する非ステロイド性抗炎症薬の種類、対象疾患、患者の性別、年齢、症状等を考慮して、適当量を患部に1日1回〜数回、剤型に応じて塗布、噴霧または貼付すればよい。
【0034】
(1)ポリグリセロールまたはそのエステルを含有する組成物の、非ステロイド性抗炎症薬用経皮吸収促進剤としての使用、(2)ポリグリセロールまたはそのエステルを含有する組成物の、非ステロイド性抗炎症薬用経皮吸収促進剤を製造するための使用、(3)ポリグリセロールまたはそのエステル、および非ステロイド性抗炎症薬を含有する組成物の、経皮吸収製剤としての使用、および、(4)ポリグリセロールまたはそのエステル、および非ステロイド性抗炎症薬を含有する組成物の、経皮吸収製剤を製造するための使用も、本発明の1つである。非ステロイド性抗炎症薬用経皮吸収促進剤および経皮吸収製剤、並びにその好ましい態様としては、上述したものと同様である。
【0035】
(5)ポリグリセロールまたはそのエステル、および非ステロイド性抗炎症薬を含有する組成物を皮膚に適用して、非ステロイド性抗炎症薬の経皮吸収を促進させる方法、および(6)ポリグリセロールまたはそのエステル、および非ステロイド性抗炎症薬を含有する組成物を皮膚に適用して、疼痛、発熱または炎症を治療する方法も、本発明の1つである。ポリグリセロールまたはそのエステル、および非ステロイド性抗炎症薬を含有する組成物としては、上述した非ステロイド性抗炎症薬の経皮吸収製剤が好適である。組成物(経皮吸収製剤)を皮膚に適用する方法としては、その剤型に応じて、組成物を塗布、噴霧または貼付すればよい。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例及び試験例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0037】
(1)材料および試薬
(1−1)基質
上記式(3)〜(5)で表わされるポリグリセロールデンドリマー(PGD)第一世代(PGD−G1)、第三世代(PGD−G3)、および第四世代(PGD−G4)を、以下の製造方法により合成した。上記一般式(1)においてRが水素原子である直鎖状ポリグリセロール(PG)、上記式(2)で表わされる環状ポリグリセロール(Cyclic PG)、および上記一般式(1)で表わされる直鎖状ポリグリセロール(PG3mer)飽和脂肪酸エステル(脂肪酸のアルキル鎖:C14、C16、C18およびC20;それぞれC14−PG、C16−PG、C18−PGおよびC20−PGともいう)を、以下の製造方法により合成した。
【0038】
(1−2)角質シート
人工培養皮膚(TESTSKINTMLSE-high)は、東洋紡ライフサイエンス事業部より購入した。
【0039】
(2)経皮吸収促進剤の合成方法
(2−1)ポリグリセロールデンドリマー(PGD)の合成
上述したOoyaらの方法(上記非特許文献3:T. Ooya et al., Bioconjugate Chem., 15, 1221-1229 (2004)および非特許文献4:T. Ooya et al., J. Controlled Release, 93, 121-127 (2003)を参照)によりポリグリセロールデンドリマー(PGD)を合成した。
【0040】
(2−2)直鎖状ポリグリセロール(PG)(グリセロールの三量体)の合成
理研ビタミン製1,3−O−ビス(2,3−O−イソプロピリデングリセリル)グリセロール(1,3−O−bis(2,3−O−isopropylideneglyceryl)glycerol)を80%酢酸水溶液で処理し、直鎖状ポリグリセロール(グリセロールの三量体)を得た。
【0041】
(2−3)環状ポリグリセロール(PG)(グリセロールの三量体)の合成
理研ビタミン製1,3−O−ビス(2,3−O−イソプロピリデングリセリル)グリセロール(3.0g、9.36mmol)を2当量のNaHで処理してアルコキシドとした後、1.5当量の臭化ベンジルと反応させ、ベンジルエーテルを収量3.74g、97%の収率で無色油状物質として得た。
【0042】
得られたベンジルエーテル(3.74g、9.12mmol)を、80%酢酸水溶液で処理することで定量的にテトラオール(3.01g)へ変換した後、直ちに、ジクロロメタン中、5当量のトリエチルアミンと触媒量の4−(ジメチルアミノ)ピリジン存在下に、3当量のtert−ブチルクロロジフェニルシランと反応させることで、1級水酸基のみが選択的にシリル化された化合物を、収量5.96g、収率81%で無色油状物質として得た。
【0043】
ジシリルエーテル(64.1g、79.3mmol)を4当量のNaHと室温で処理した後、3当量の臭化ベンジルと反応させると、トリベンジルエーテルが収量76.4g、98%の収率で無色油状物質として得られた。
【0044】
得られたトリベンジルエーテル(12.2g、12.3mmol)をTHF中、3当量のテトラブチルアンモニウムフルオリド(TBAF)で処理して脱シリル化を行い、ジオールを収量6.17g、98%の収率で無色油状物質として得た。得られたジオール(1.0g,1.96mmol)をジクロロメタン中、3当量のトリエチルアミンと触媒量の4−(ジメチルアミノ)ピリジン存在下、1.1当量のp−トルエンスルホニルクロリドと反応させると、環化前駆体のモノトシレートが、収量724mg、収率56%で無色油状物質として得られた。
このモノトシレートのTHF溶液をNaHの還流THF懸濁液に3時間かけて滴下した後、さらに19時間還流させることで、60%の収率で環化体(グリセロールの三量体)を得るに至った。
【0045】
(2−4)直鎖状グリセロール(PG)(グリセロールの三量体)ステアリン酸エステルの合成
0℃に冷却したTHF(60mL)にNaH(449mg)をよく分散させた後、1,2,10,11−O−イソプロピリデン−4,8−ジオキサウンデカン−6−オール(3.00g)を溶解させ、20分間よく撹拌した。その後ベンジルブロミド(1.67mL)を加え20分ほど撹拌後、室温に戻し20時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止させ、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄を行った。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。得られた粗成生物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(容量比)=4:1)で精製し、無色油状物質(3.74g、収率97%)を得た。
【0046】
得られた無色油状物質(3.74g)を80%酢酸(60mL)に溶解させ、8時間撹拌した。減圧下溶媒を留去し、さらに一晩減圧下で酢酸を除去し、無色油状物(3.01g、100%)を得た。
得られた化合物(10.4g)をDMF(300mL)に溶解し、トリエチルアミン(18.4mL)、DMAP(1.93g)を加えて撹拌した。ここにTBDPSCl(17.2mL)を加えて一晩撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止させ、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水酢酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(容量比)=3:1)で精製し、無色油状物(20.5g、収率81%)を得た。
【0047】
得られた無色油状物(5.84g)をTHF(20mL)に溶かし、NaH(782mg)を分散させた0度に冷却したTHF(160mL)とDMF(60mL)の混合溶媒に加えた。激しく20分間撹拌し、ベンジルブロミド(2.58mL)を加えて1時間撹拌を続け、その後室温で16時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止させ、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水酢酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(容量比)=10:1)で精製し、無色油状物(6.06g、収率85%)を得た。
【0048】
得られた化合物(1.00g)をTHF(20mL)に溶解し、1.0MのTBAF/THF溶液(3.04mL)を加え室温で4時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を停止させ、酢酸エチルで抽出し、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水酢酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(容量比)=2:3)で精製し、無色油状物(377mg、収率73%)を得た。
【0049】
得られた油状物(692mg)をピリジン(40mL)に溶解し、DMAP(82.8mg)塩化ステアロイル(961μl)を加え室温で10時間撹拌した。MeOHを加えて反応を停止させ、ジクロロメタンで抽出し、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水酢酸ナトリウムで乾燥させ、減圧下溶媒を留去した。得られた粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(容量比)=7:1)で精製し、更にシリカゲル薄層クロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル(容量比)=5:1)で精製し、白色結晶(740mg、収率52%)を得た。
【0050】
得られた結晶(709mg)をTHF(7mL)とEtOH(7mL)に溶解し、Pd/C(75.0mg)を加え、H雰囲気下室温で一晩撹拌した。触媒を濾過して除き、減圧下溶媒を留去してえられた化合物を酢酸エチルで再結晶し、白色結晶物(428mg、収率78%)を得た。
また、ステアリン酸エステル以外の物質についても同様の手法で製した。
【0051】
実施例1
1.手順
(1)リン酸緩衝液(PBS)調製用の粉末(SIGMA社製)1袋を純水1000mLに溶解して0.1Mリン酸緩衝液(PBS、pH7.4)を調製した。
(2)PBSに各基質を添加した。このとき、PGD−G1、G3、G4、直鎖状PG三量体、および環状PG三量体を1質量%または5質量%溶液(完全に溶解した)とし、C14−PG、C16−PG、C18−PGおよびC20−PGをそれぞれ1質量%縣濁液とした。次いで、所定の薬物の粉末を1mg/mLの濃度となる量を、各溶液中に添加し、一晩攪拌した。また、各々の成分につき、上記経皮吸収促進剤を添加しないものをコントロールとした。
【0052】
(3)角質層シート(培養皮膚)をカッターできれいに取り出し、フランツ型セルに挟んだ(有効拡散面積:0.79cm)。シートが乾燥しないように、すばやく作業を行った。
(4)角質層をセットした後、下部(レシーバー側)にPBSを約5.5mL(1つは約9mL)入れた。
(5)セルに(2)で調製した溶液を1mLずつマイクロピペットで注ぎ、スターラーバーを設置して攪拌するようにして実験を開始した。
【0053】
(6)サンプリングは、経時的にレシーバー側より0.5mLとり、PBSを同量加えた。サンプリングした溶液をマイクロフィルター(0.45μm)を通してHPLC用の瓶に入れ、蓋をシーリングした。サンプリングの時間は、実験開始後0.5、1、1.5、2、3、4、5、6、7、および8時間である。このうち、4時間目および8時間目のデータ(下記(7)により定量した薬物の累積透過量)を表1に示した。
【0054】
(7)角質層を透過した薬物をHPLC(Agilent 1100 series LC-MSD (Hewlett Packard)、カラム:Cosmosil AR-II (Nacalai tesque)、展開溶媒:メタノール:3%アセトニトリル水溶液(容量比)=4:1、流速:0.5mL/分、注入量(Injection volume): 5μL)によって定量した。インドメタシンの検出は、262nmのUV吸収及び質量とから行い、検量線から定量した。ジクロフェナクナトリウムの検出は、移動相にメタノール:0.18%リン酸水溶液(容量比)=7:3を用い、吸収波長λ=266nmで行った。ピロキシカムの検出は、移動相にアセトニトリル:0.18%リン酸水溶液(容量比)(55:45)を用い、吸収波長λ=238nmで行った。メロキシカムの検出は、移動相にアセトニトリル:2%リン酸水溶液(容量比)(60:40)を用い、吸収波長λ=254nmで行った。ケトプロフェンの検出は、移動相にアセトニトリル:0.18%リン酸水溶液(容量比)(55:45)を用い、吸収波長λ=248nmで行った。
【0055】
【表1】

【0056】
以上のデータから、ポリグリセロールまたはそのエステル、特に直鎖状ポリグリセロール、環状ポリグリセロールおよびポリグリセロールデンドリマー、並びにこれらのエステルは非ステロイド性抗炎症薬の経皮吸収を促進することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の経皮吸収促進剤は、非ステロイド性抗炎症薬の溶解度を向上させるとともに皮膚に効率的に吸収させることができるため、経皮吸収製剤中に配合されることにより、非ステロイド性抗炎症薬の薬効を充分に発揮させることができるものである。また、本発明の経皮吸収型製剤は、非ステロイド性抗炎症薬を皮膚に効率的に吸収させることができるため、非ステロイド性抗炎症薬の高い治療効果を得ることができるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリグリセロールまたはそのエステルを含有する非ステロイド性抗炎症薬の経皮吸収促進剤。
【請求項2】
ポリグリセロールまたはそのエステルが、直鎖状ポリグリセロール、環状ポリグリセロールおよびポリグリセロールデンドリマー、並びにこれらのエステルからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の経皮吸収促進剤。
【請求項3】
非ステロイド性抗炎症薬が、インドメタシン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ピロキシカム、アスピリン、アセトアミノフェン、フェルビナク、プラノプロフェン、メロキシカムおよびケトプロフェン、並びにこれらの薬学上許容できる塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1または2に記載の経皮吸収促進剤。
【請求項4】
ポリグリセロールまたはそのエステル、および非ステロイド性抗炎症薬を含有する経皮吸収製剤。
【請求項5】
ポリグリセロールまたはそのエステルが、直鎖状ポリグリセロール、環状ポリグリセロールおよびポリグリセロールデンドリマー、並びにこれらのエステルからなる群より選択される少なくとも1種である請求項4に記載の経皮吸収製剤。
【請求項6】
非ステロイド性抗炎症薬が、インドメタシン、ジクロフェナク、イブプロフェン、ピロキシカム、アスピリン、アセトアミノフェン、フェルビナク、プラノプロフェン、メロキシカムおよびケトプロフェン、並びにこれらの薬学上許容できる塩からなる群より選択される少なくとも1種である請求項4または5に記載の経皮吸収製剤。

【公開番号】特開2009−114094(P2009−114094A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286506(P2007−286506)
【出願日】平成19年11月2日(2007.11.2)
【出願人】(390031093)テイカ製薬株式会社 (38)
【出願人】(000236920)富山県 (197)
【Fターム(参考)】