説明

ポリシロキサン化合物とその製造方法、高分子電解質膜、膜電極接合体および燃料電池

【課題】ポリシロキサン化合物とその製造方法、高分子電解質膜、膜電極接合体および燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明は、ポリシロキサン化合物とその製造方法、高分子電解質膜、膜電極接合体および燃料電池に係り、さらに具体的には、スルホン酸基含有有機高分子シロキサン化合物及びこれを含む高分子電解質膜、膜電極接合体および燃料電池に関する。スルホン酸基含有有機高分子シロキサン化合物により、液体との接触によるスウェリングを抑制して寸法安定性に優れるだけでなく、メタノールクロスオーバーを顕著に低下させる、もしくは、メタノールクロスオーバーの犠牲なしにイオン伝導度を高く維持することが可能な、優秀な性能の高分子電解質膜を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシロキサン化合物とその製造方法、高分子電解質膜、膜電極接合体および燃料電池に係り、さらに具体的には、スウェリングを減らすことによってメタノールクロスオーバーを抑制しつつ、寸法安定性に優れ、かつイオン伝導度を高く維持させることができるポリシロキサン化合物とその製造方法、高分子電解質膜、膜電極接合体および燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、メタノール、エタノール、天然ガスのような炭化水素系の物質内に含まれている水素および酸素の化学エネルギーを直接電気エネルギーに転換する電気化学装置である。燃料電池のエネルギー転換工程は、非常に効率的で、かつ環境にやさしいため、去る数十年間注目されており、多様な種類の燃料電池が試みられている。
【0003】
燃料電池は、使用される電解質の種類によって、リン酸型燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩型燃料電池(MCFC)、固体酸化物型燃料電池(SOFC)、高分子電解質型燃料電池(PEMFC)、及びアルカリ型燃料電池(AFC)などに分類される。これらそれぞれの燃料電池は、根本的に同じ原理によって作動するが、使用される燃料の種類、運転温度、触媒、電解質などが互いに異なる。このうち、PEMFCは、小規模据置型発電装備だけでなく、輸送システムにも最も有望であることが知られている。これは、PEMFCが有する低温作動、高出力密度、迅速な始動、及び出力要求の変化に対する機敏な応答のような長所に起因する。
【0004】
PEMFCの核心部は、膜電極接合体(MEA)である。MEAは、通常、高分子電解質膜と、その両面に付着されてそれぞれカソード及びアノードの役割を行う2個の電極とで構成される。
【0005】
高分子電解質膜は、酸化剤と還元剤との直接接触を防止する隔離膜の役割及び二つの電極を電気的に絶縁する役割だけでなく、プロトン伝導体の役割も担当する。したがって、優秀な高分子電解質膜は、(1)高いプロトン伝導度、(2)高い電気絶縁性、(3)低い反応物透過性、(4)燃料電池運転条件で優れた熱的、化学的、機械的安定性、及び(5)低コストなどの条件を備えなければならない。
【0006】
上記のような条件を満足するために、多様な高分子電解質膜が開発され、ナフィオン(Nafion)膜のような高フッ化ポリスルホン酸膜は、優れた耐久性及び性能により現在標準的な地位を占めている。しかし、ナフィオン膜は、作動のために十分に加湿させる必要があり、水分の損失を防止するために80℃以下で使われなければならないという短所がある。
【0007】
また、直接メタノール燃料電池(DMFC)の場合、メタノール水溶液が燃料としてアノードに供給されるが、未反応メタノール水溶液のうち一部は、高分子電解質膜に浸透する。高分子電解質膜に浸透したメタノール水溶液は、電解質膜にスウェリング現象を起こしながら広がってカソード触媒層まで伝えられる。このような現象を「メタノールクロスオーバー」というが、水素イオンと酸素とによる電気化学的還元が進められねばならないカソードでメタノールの直接酸化を起こすので、カソードの電位を落とし、その結果、電池の性能を深刻に低下させうる。
【0008】
このような問題は、メタノールだけでなく、他の極性有機燃料を含む液体燃料を使用する燃料電池に共通する問題である。
【0009】
このような理由で、メタノール、エタノールのような極性有機液体燃料のクロスオーバーを遮断するための努力が活発に進められており、無機物を利用したナノ複合素材を利用し物理的に遮断する方法など、さまざまな方法が試みられている。
【0010】
【特許文献1】特開2004−346316号公報
【特許文献2】特開2004−346133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、メタノールクロスオーバーを減らしつつ、十分に優秀なイオン伝導度を有する高分子電解質膜は、依然として得られておらず、これらの領域で補完及び改善の余地がある。
【0012】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、メタノールクロスオーバーを顕著に低下させる、もしくは、メタノールクロスオーバーの犠牲なしにイオン伝導度を向上させることができ、高分子電解質膜の寸法安定性を改善が可能な、新規かつ改良されたポリシロキサン化合物とその製造方法、高分子電解質膜、膜電極接合体および燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、下記化学式1のポリシロキサン化合物が提供される。
【0014】
【化1】

【0015】
上記の化学式1において、Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアリール基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アセトキシ基、アルキル基、アリール基または−O−Si(OR)基(ここで、Rは炭素数1〜3のアルキル基である)であり、Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基またはアセトキシ基であり、Yは、一つ以上のスルホン酸基を有する炭素数1〜15の炭化水素基であり、pは、1または2の整数であり、mは、0〜200の整数であり、nは、1〜200の整数である。
【0016】
上記のYは、下記化学式2であってもよい。ここで、下記化学式2において、pは、1〜5の整数である。
【0017】

【化2】

【0018】
上記のYは、下記化学式3であってもよい。ここで、下記化学式3において、pは、1〜5の整数である。
【0019】
【化3】

【0020】
上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、下記化学式4の化合物と下記化学式5の化合物とを、酸または塩基触媒下で加水分解及び縮重合する段階を含むポリシロキサン化合物の製造方法が提供される。
【0021】
【化4】

【0022】
【化5】

【0023】
ここで、上記の化学式4および化学式5において、Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアリール基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アセトキシ基、アルキル基、アリール基または−O−Si(OR)基(ここで、Rは炭素数1〜3のアルキル基である)であり、Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基またはアセトキシ基であり、Zは、スルホン酸基、または、酸化によってスルホン酸基に変換可能な硫黄原子を有する炭素数1〜15の炭化水素基であり、rは、1〜3の整数であり、qは、1〜400の整数である。
【0024】
本発明に係るポリシロキサン化合物の製造方法は、上記の加水分解及び縮重合する段階の生成物を酸化してスルホン化する段階を更に含んでもよい。
【0025】
上記の化学式4の化合物のヒドロキシ基と上記化学式5の化合物とは、1:0.2〜1:3のモル比で添加されてもよい。
【0026】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、上記のポリシロキサン化合物を含む高分子電解質膜が提供される。
【0027】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、触媒層と拡散層とを備えるカソードと、触媒層と拡散層とを備えるアノードと、カソードとアノードとの間に配設される高分子電解質膜と、を備える膜電極接合体において、当該高分子電解質膜は、上記のポリシロキサン化合物を含むことを特徴とする膜電極接合体が提供される。
【0028】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、触媒層と拡散層とを備えるカソードと、触媒層と拡散層とを備えるアノードと、カソードとアノードとの間に配設される高分子電解質膜と、を備える燃料電池において、当該高分子電解質膜は、上記のポリシロキサン化合物を含むことを特徴とする燃料電池が提供される。
【0029】
本発明に係るスルホン酸基含有炭化水素基を側鎖に有するポリシロキサン化合物を利用すれば、寸法安定性に優れるだけでなく、イオン伝導度の犠牲なしにメタノールクロスオーバーを顕著に減少させるか、メタノールクロスオーバーの犠牲なしにイオン伝導度を高めることが可能な高分子電解質膜を提供することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、スルホン酸置換された基を側鎖に有するポリシロキサン化合物を提供することによって、液体との接触によるスウェリングを抑制して、寸法安定性に優れるだけでなく、メタノールクロスオーバーを顕著に減少させるか、メタノールクロスオーバーの犠牲なしにイオン伝導度を高く維持する優秀な性能の高分子電解質膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0032】
本発明は、下記化学式1のポリシロキサン化合物を提供する。
【0033】
【化6】

【0034】
上記の化学式1において、Rは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアリール基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アセトキシ基、アルキル基、アリール基または−O−Si(OR)基(ここで、Rは炭素数1〜3のアルキル基である)であり、Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基またはアセトキシ基であり、Yは、一つ以上のスルホン酸基を有する炭素数1〜15の炭化水素基であり、pは、1または2の整数であり、mは、0〜200の整数であり、nは、1〜200の整数である。
【0035】
上記の化学式1において、Xは、加水分解性を有する置換基であれば特別に限定されないが、一般的に、アルコキシ基、アリールオキシ基またはハロゲン等を挙げることができる。アルコキシ基の炭素数は、例えば、1〜10、望ましくは6以下、さらに望ましくは4以下である。アリールオキシ基の炭素数は、例えば、6〜12である。
【0036】
アルコキシ基、アリールオキシ基の炭素数が大き過ぎれば、加水分解生成物の分子量が大きくなって除去が困難になる。また、溶媒として水を利用した場合に、水との相溶性が悪くなる。したがって、炭素数は低いことが望ましく、かつアルコキシ基であることが望ましい。アルコキシ基の具体的な例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロパノキシ基、ブトキシ基、メトキシメチル基、エトキシエチル基、メトキシエチル基、エトキシエチル基、フェノキシ基などを挙げることができるが、このうちメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが望ましい。
【0037】
上記の加水分解性置換基は、例えば、塩素、臭素、ヨウ素から選択されたハロゲン類に置換されていても良い。
【0038】
上記の化学式1において、Yは、一つ以上のスルホン酸基を有する炭素数1〜15の炭化水素基であって、望ましくは、下記化学式2または3の構造を有する置換基である。ここで、下記の化学式2および化学式3において、pは、1〜5の整数である。
【0039】
【化7】

【0040】
【化8】

【0041】
このような炭化水素基の例としては、例えば、一つ以上のスルホン酸基に核置換されたフェニル基、トリル基、ナフチル基、メチルナフチル基などの芳香族基や、ベンジル基、ナフチルメチル基などの芳香族置換アルキル基などや、一つ以上のスルホン酸基に置換されたメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、直鎖または分枝鎖のペンチル基、直鎖または分枝鎖のヘキシル基、直鎖または分枝鎖のヘプチル基、直鎖または分枝鎖のオクチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、エチルシクロヘキシル基などを挙げることができる。また、このような芳香族炭化水素基または飽和及び不飽和脂肪族炭化水素基(脂環族化合物を含む)は、スルホン酸基の以外の所にハロゲン原子、アルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシ基などの置換基を有する炭化水素基であってもよい。
【0042】
上記の化学式1において、mは、例えば、0〜200であり、望ましくは0〜100である。また、前記式において、nは、1〜200であり、望ましくは1〜100である。
【0043】
本発明に係る化学式1のポリシロキサン化合物は、下記化学式4の化合物と下記化学式5の化合物とを、酸または塩基触媒下で加水分解及び縮重合する段階と、必要に応じて生成物を酸化させてスルホン化する段階とを含む方法により製造することが可能である。
【0044】
【化9】

【0045】
【化10】

【0046】
は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアリール基であり、Rは、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アセトキシ基、アルキル基、アリール基または−O−Si(OR)基(ここで、Rは炭素数1〜3のアルキル基である)であり、Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基またはアセトキシ基であり、Zは、スルホン酸基を有するか、酸化によってスルホン酸基に変換可能な硫黄原子を有する炭素数1〜15の炭化水素基であり、rは、1〜3の整数であり、qは、1〜400の整数である。
【0047】
上記の化学式5において、Zは、酸化によってスルホン酸基に変換可能な硫黄原子を有する炭素数1〜15の炭化水素であれば、特別に限定されない。一般的に、酸化数が5以下である硫黄原子を含む炭素数1〜15の炭化水素基であり、具体的には、メルカプト基、亜硫酸基などを含む炭化水素基であり、このうち、メルカプト基を含む置換基が望ましい。
【0048】
上記の化学式において、炭化水素基の種類としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基、アルケニレン基、アラルキレン基、及びアルキニレン基を挙げることができ、望ましくは、アルキレン基及びアラルキレン基である。このような基は、硫黄原子の酸化反応に影響を及ぼさない置換基を含んでいても良い。アルキレン基としては、炭素数4以下が望ましく、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基及びブチレン基などが望ましい。アラルキレン基としては、炭素数15以下が望ましく、例えば、フェニルエチレン基などが望ましい。
【0049】
酸化によってスルホン酸基に変換可能な硫黄原子含有炭化水素基としては、例えば、メルカプトアルキル基やメルカプトアリール基を挙げることができ、メルカプトアルキル基としては、例えば、メルカプトメチル基、2−メルカプトエチル基、3−メルカプトプロピル基などを挙げることができる。メルカプトアリール基としては、例えば、メルカプトフェニル基や、メチル基やエチル基などがベンゼン環に置換されたアルキルメルカプトフェニル基などを挙げることができる。
【0050】
上記の化学式4の化合物は、下記反応式1に示すように、ポリヒドロシラン化合物を水とパラジウム触媒とを使用して製造できる。
【0051】
【化11】

【0052】
ここで、上記の反応式1において、R、R及びqは、上で定義した通りである。
【0053】
本発明による製造方法において、上記の化学式4の化合物と化学式5の化合物は、化学式4のヒドロキシと化学式5の化合物とを1:0.5〜1:1.5のモル比で反応させてもよい。
【0054】
化学式4の化合物と化学式5の化合物とを加水分解及び縮重合反応させる場合に使用される酸または塩基触媒は、特別に制限されず、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、アンモニア水、KOH、NaOHなどを挙げることができる。
【0055】
化学式4の化合物と化学式5の化合物とを加水分解及び縮重合反応させる場合に使用される溶媒としては、溶質に対して不活性であれば限定されない。一般的に、水及び/または有機溶媒が使われ、反応物質によってそれぞれ適切に選択することができる。
【0056】
有機溶媒としては、例えば、アルコール類、グリコール誘導体、炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類など、1種または2種以上を混合して使用できる。有機溶媒は、例えば、炭素数1以上10以下であり、8以下が望ましく、6以下がさらに望ましい。
【0057】
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブチルアルコール、オクタノール、n−プロピルアルコール、アセチルアセトンアルコールなどを挙げることができる。
【0058】
グリコール誘導体としては、例えば、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールn−プロピルエーテル、エチレングリコールn−ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどを挙げることができる。
【0059】
炭化水素類としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどを挙げることができる。
【0060】
エステル類としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセト酢酸エチルなどを挙げることができる。
【0061】
ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトンなどを挙げることができる。
【0062】
エーテル類としては、例えば、エチルエーテル、ブチルエーテル、2−α−メトキシエタノール、2−α−エトキシエタノール、ジオキサン、テトラヒドロフランなどを挙げることができる。
【0063】
上記の加水分解及び縮重合反応により得られた生成物のうち、メルカプト基を有する生成物は、メルカプト基を酸化させて本発明による化学式1のスルホン酸基含有ポリシロキサン化合物を得る。
【0064】
このときに使用される酸化剤は、特別に制限されないが、過酸化水素が特に望ましい。
【0065】
酸化段階で使用されうる溶媒としては、水及び/または有機溶媒を使用でき、このような有機溶媒のうち、スルホン酸基に対する溶解性が高く、かつ水との低い相分離性のために、アルコール類が望ましい。アルコール類の炭素数は、水との相溶性や、後の溶媒の便利な除去を考慮して炭素数1以上6以下が望ましく、4以下がさらに望ましく、2以下がさらに一層望ましい。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールまたはブタノールが望ましく、メタノールまたはエタノールがさらに望ましい。
【0066】
以下では、上記化学式1のポリシロキサン化合物を含む高分子電解質膜について、詳細に説明する。しかし、上記の高分子電解質膜は、本発明のスルホン酸基含有ポリシロキサン化合物を含む限り、いずれも本発明の範囲に含まれ、後述する具現例に限定されない。
【0067】
上記高分子電解質膜は、上述のような本発明に係る化学式1のポリシロキサン化合物だけででも製造することができる。
【0068】
高分子電解質膜の一具現例は、本発明に係るポリシロキサン化合物と他の高分子とが相互浸透(Interpenetration:IPN)された構造であってもよい。本発明に係るポリシロキサン化合物とIPN構造をなす他の高分子は、本発明に係るポリシロキサン化合物の物性のうち補完しようとする物性を考慮して選択される。例えば、イオン伝導度をさらに向上させる必要がある場合には、イオン伝導度に優れた高分子を利用することが可能である。
【0069】
また、上記の高分子電解質膜の他の一具現例として、例えば、リン酸のようなイオン伝導性物質を含浸させることができる。イオン伝導性物質を含浸させる方法は、当業界に周知の方法により、例えば、リン酸溶液に本発明に係るスルホン化イオン伝導性架橋共重合体を浸漬させる方法であってもよい。
【0070】
上記高分子電解質膜の他の一具現例として、例えば、本発明に係るポリシロキサン化合物からなる高分子膜と他の高分子膜とを複数の層に積層させることができる。本発明に係るポリシロキサン化合物からなる高分子膜に積層される高分子膜は、補完しようとする物性によって高分子電解質膜として従来に知られた材料から適切に選択される。
【0071】
本発明に係る高分子電解質膜は、主鎖中のケイ素原子に結合されたヒドロキシ基と、主鎖中のケイ素原子に置換されたスルホン酸基含有炭化水素基を有するシロキサン基の加水分解性基との間の稠密化によって、メタノールクロスオーバーを抑制し、ヒドロキシ基によって含湿量を増加させてイオン伝導度を向上させ、スルホン酸基によってイオン伝導度がさらに向上する。
【0072】
ヒドロキシ基を有する線形ポリシロキサン化合物の繰り返し単位のうち一部にスルホン酸基含有シロキサン化合物が置換されることによって、繰り返し単位内にあるケイ素原子が直接スルホン酸基に置換された場合とは異なり、未反応ヒドロキシとの重合によって膜が緻密になることでメタノールクロスオーバー抑制能力が向上する。さらに、未反応ヒドロキシ自体の親水性により、膜内部の水分の含有量を増加させることが可能であり、イオン伝導度の向上に寄与できるという点から効果的である。
【0073】
以下では、上記化学式1のポリシロキサン化合物を含む膜電極接合体について、詳細に説明する。
【0074】
本発明は、触媒層と拡散層とを備えるカソードと、触媒層と拡散層とを備えるアノードと、カソードとアノードとの間に位置する高分子電解質膜と、を備える膜電極接合体において、上記高分子電解質膜が本発明に係るポリシロキサン化合物を含むことを特徴とする膜電極接合体を提供する。
【0075】
触媒層と拡散層とを備えるカソード及びアノードは、燃料電池分野に周知のものであってもよい。また、高分子電解質膜は、本発明に係るポリシロキサン化合物を含む。本発明に係る高分子電解質膜は、単独で使われてもよく、イオン伝導性を有する他の膜と共に用いられてもよい。
【0076】
以下では、本発明に係るポリシロキサン化合物を含む燃料電池について、詳細に説明する。
【0077】
本発明は、触媒層と拡散層とを備えるカソードと、触媒層と拡散層とを備えるアノードと、カソードとアノードとの間に位置する高分子電解質膜と、を備える燃料電池において、上記高分子電解質膜が本発明の化学式1のポリシロキサン化合物を含むことを特徴とする燃料電池を提供する。
【0078】
本発明による燃料電池は、カソード、アノード、及びこれらの間に配設された高分子電解質膜を備える。
【0079】
上記のカソード及びアノードは、ガス拡散層と触媒層とから構成される。
【0080】
触媒層は、関連反応(水素の酸化及び酸素の還元)を触媒的に補助する、いわゆる金属触媒を含むものであって、例えば、白金、ルテニウム、オスミウム、白金−オスミウム合金、白金−パラジウム合金、または白金−M合金(Mは、Ga、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、及びZnのうちから選択された1種以上の遷移金属である)のうちから選択された1種以上の触媒を含むことが望ましい。その中でも、白金、ルテニウム、オスミウム、白金−ルテニウム合金、白金−オスミウム合金、白金−パラジウム合金、白金−コバルト合金、及び白金−ニッケルのうちから選択された1種以上の触媒を含むことがさらに望ましい。
【0081】
また、金属触媒としては、一般的に担体に支持されたものが使われる。担体としては、例えば、アセチレンブラック、黒鉛のような炭素を使用してもよく、アルミナ、シリカなどの無機物微粒子を使用してもよい。担体に担持された貴金属を触媒として使用する場合には、商用化された市販されているものを使用してもよく、担体に貴金属を担持させて製造して使用してもよい。
【0082】
ガス拡散層としては、例えば、カーボン紙やカーボンクロスが用いられるが、これに限定されるものではない。ガス拡散層は、燃料電池用の電極を支持する役割を行うと共に、触媒層に反応ガスを拡散させて触媒層に反応ガスが容易に接近できるようにする役割を行う。また、このガス拡散層は、カーボン紙やカーボンクロスをポリテトラフルオロエチレンのようなフッ素系の樹脂で撥水処理したものを使用することが、燃料電池の駆動時に発生する水によってガス拡散効率が低下することを防止できるので望ましい。
【0083】
また、電極は、ガス拡散層と触媒層との間にガス拡散層のガス拡散効果をさらに増進させるために、微細多孔層をさらに備えてもよい。微細多孔層は、例えば、炭素粉末、カーボンブラック、活性炭素、アセチレンブラックなどの導電性物質、ポリテトラフルオロエチレンのようなバインダー、及び必要に応じてアイオノマーを含む組成物を塗布して形成される。
【0084】
本発明の燃料電池は、リン酸型、高分子電解質型、またはアルカリ型燃料電池であり、特に、直接メタノール燃料電池であることが望ましい。
【0085】
以下に、上述した高分子電解質膜を利用した本発明の一製造例による燃料電池のうち、直接メタノール燃料電池について、図1を参照して次のように説明する。
【0086】
直接メタノール電池(DMFC)は、燃料が供給されるアノード32、酸化剤が供給されるカソード30、及びアノード32とカソード30との間に位置し、上記の過程によって製造された高分子電解質膜41を備える。一般的に、アノード32は、アノード拡散層22とアノード触媒層33とからなり、カソード30は、カソード拡散層23とカソード触媒層31とからなる。
【0087】
分離板40は、アノードに燃料を供給するための流路を備えており、アノードから発生した電子を外部回路または隣接する単位電池に伝えるための電子伝導体の役割を行う。分離板50は、カソードに酸化剤を供給するための流路を備えており、外部回路または隣接する単位電池から供給された電子をカソードに伝えるための電子伝導体の役割を行う。DMFCにおいて、アノードに供給される燃料としては、主にメタノール水溶液が使われ、カソードに供給される酸化剤としては、主に空気が使われる。
【0088】
アノードの拡散層22を介してアノードの触媒層33に伝えられたメタノール水溶液は、電子、水素イオン、二酸化炭素などに分解される。水素イオンは、高分子電解質膜41を介してカソード触媒層31に伝えられ、電子は、外部回路に伝えられ、二酸化炭素は、外部に排出される。カソード触媒層31では、高分子電解質膜41を介して伝えられた水素イオン、外部回路から供給された電子、そしてカソード拡散層32を介して伝えられた空気中の酸素が反応して水を生成する。触媒層と拡散層とを備えるカソード及びアノードは、燃料電池分野に周知のものであってもよい。また、高分子電解質膜は、本発明に係るポリシロキサン化合物を含む。高分子電解質膜は、単独で使われてもよく、イオン伝導性を有する他の膜と共に用いられてもよい。
【0089】
このような燃料電池の製造は、各種文献に公知されている一般的な方法を利用できるので、本明細書では、それに関する詳細な説明を省略する。
【実施例】
【0090】
以下、具体的な実施例及び比較例を挙げて本発明の構成及び効果をさらに詳細に説明するが、これら実施例は、単に本発明をさらに明確に理解させるためのものに過ぎず、本発明の範囲を限定しようとするものではない。
【0091】
<製造例1:ヒドロキシ置換されたポリメチルヒドロシロキサンの製造>
ポリメチルヒドロシロキサン(Aldrich社製、トリメチルシリル末端、平均分子量約5000、nは約80)10gをフラスコに投入し、テトラヒドロフラン100mlを入れて希釈した後、10質量%のPd/C(palladium/charcoal)を200mg添加した。次いで、蒸溜水177.mmol(3.20ml)を添加し、この過程で発生した水素ガスを除去した。常温で15時間反応を進めた後、反応液をセライトおよびMgSOを通じて濾過し、濾液を0.1torr程度の減圧下に置いて揮発性物質を除去することで、質量比10%の置換されたポリメチルヒドロシロキサン溶液を得た。生成物のヒドロキシ置換は、IRスペクトルから確認することができた。
【0092】
<製造例2:スルホン化されたフェネチルトリメトキシシランの製造>
40のバイアルにフェネチルトリメトキシシラン11.3gを入れて撹拌しつつ、クロロスルホン酸5.8gを徐々に滴加した後、これを常温で3時間撹拌した。これを塩化メチレンで洗浄してスルホン化されたフェネチルトリメトキシシランを製造した。
【0093】
<製造例3:SPEEK(反応式2においてm1=0.8、n1=0.2、k1=1)の製造>
【化12】

【0094】
ディーンスターク装置が設置された250mlの3口フラスコに化合物(J)10.812g(47.36mmol)、化合物(K)8.267g(37.88mmol)、化合物(L)4.0g(9.47mmol)及び無水KCO 8.5gを投入し、溶媒としてジメチルスルホキシド(DMSO)120ml及びトルエン60mlを混合した。
【0095】
上記の混合物を、窒素雰囲気下、140℃で4時間還流させて、生成された水を除去した後、トルエンを除去した。反応温度を180℃に上げた後、その温度で16時間重合した。常温に温度を冷やした後、反応溶液をメタノール内に沈殿させ、無機物を除去するために沈殿された共重合体を熱い蒸溜水で3回洗浄した。形成された共重合体を100℃で24時間乾燥した。
【0096】
上記の共重合体(ナトリウム塩形態)をジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた後、希塩酸を入れて24時間反応させ、この溶液をメタノール及び水の混合物に沈殿させて水素イオンに置換された伝導性共重合体を製造した。
【0097】
<実施例1>
【化13】

【0098】
40mlのバイアルに上記の製造例1で得たヒドロキシ置換されたポリメチルヒドロシロキサン溶液5.7gを撹拌しつつ、製造例2で得たスルホン化されたフェネチルトリメトキシシラン2.57gを入れた後、蒸溜水0.27gを徐々に滴加した。次いで、60℃の恒温槽で5時間加水分解及び縮重合反応させて、スルホン化されたフェネチルトリメトキシシランが置換されたポリシロキサン化合物を製造した。
【0099】
上記のように製造したポリシロキサン化合物10質量%と、製造例3で合成したスルホン化されたポリ(エーテルエーテルケトン)(SPEEK)90質量%とを、NMP(N−メチルピロリドン)に完全に溶解させた後にキャスティングして、熱板で80℃及び120℃でそれぞれ2時間乾燥して高分子電解質膜を製造し、24時間の間乾燥膜を蒸溜水に浸漬させた。
【0100】
<実施例2>
【化14】

【0101】
40mlバイアルに上記製造例1で得たヒドロキシ置換されたポリメチルヒドロシロキサン溶液5.7gを撹拌しつつ、3−メルカプトプロピルメトキシシラン1.47gを入れた後、0.01Nの塩酸水溶液0.27gを徐々に滴加した。次いで、60℃恒温槽で5時間加水分解及び縮重合反応させて、3−メルカプトプロピルメトキシシランが置換されたポリシロキサン化合物を製造した。
【0102】
上記のように製造したポリシロキサン化合物10質量%と、製造例3で合成したスルホン化されたポリ(エーテルエーテルケトン)90質量%とを、NMPに完全に溶解させた後にキャスティングして、熱板で80℃及び120℃でそれぞれ2時間乾燥して高分子電解質膜を製造し、これを80℃過酸化水素水に3時間浸漬させた後、これを蒸溜水で洗浄した後、24時間の間に洗浄膜を蒸溜水に浸漬させた。
【0103】
<比較例1>
上記の製造例3で合成したスルホン化されたポリ(エーテルエーテルケトン)(SPEEK)のみを高分子電解質材料として使用することを除いては、実施例1と同じ方法により高分子電解質膜を得た。
【0104】
<比較例2>
SPEEK90質量%に10質量%のSiO(日本化学工業(株)製、粒子サイズ10〜20nm)を混合したものを高分子電解質膜材料として使用することを除いては、実施例1と同じ方法により高分子電解質膜を得た。
【0105】
<比較例3>
ナフィオン117フィルム(デュポン社製)を蒸溜水に24時間浸漬させた。
【0106】
上記のように製造した高分子フィルムのプロトン伝導度及びメタノール透過度を、常温で測定し、その結果を下記表1に整理した。
【0107】
【表1】

【0108】
上記の表1から分かるように、本発明によるポリシロキサン化合物を使用した実施例1及び実施例2は、従来のナフィオン高分子を使用した比較例3に比べてメタノール透過度が顕著に減少したことが分かる。また、プロトン伝導度は、従来のスルホン酸置換されたポリ(エーテルエーテル)ケトンと、ポリ(エーテルエーテル)ケトン及びシリカが混合されたものとを使用した場合より優れていることが分かる。
【0109】
また、特性値においても本発明によるポリシロキサン化合物を使用した場合が比較例に比べて優れていることが分かる。
【0110】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、電源関連の技術分野に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の一実施例による直接メタノール燃料電池の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0113】
22 アノード拡散層
23 カソード拡散層
30 カソード
31 カソード触媒層
32 アノード
33 アノード触媒層
40,50 分離板
41 高分子電解質膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1のポリシロキサン化合物。
【化1】

前記化学式1において、
は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアリール基であり、
は、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アセトキシ基、アルキル基、アリール基または−O−Si(OR)基(ここで、Rは炭素数1〜3のアルキル基である)であり、
Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基またはアセトキシ基であり、
Yは、一つ以上のスルホン酸基を有する炭素数1〜15の炭化水素基であり、
pは、1または2の整数であり、
mは、0〜200の整数であり、
nは、1〜200の整数である。
【請求項2】
前記Yは、下記化学式2であることを特徴とする、請求項1に記載のポリシロキサン化合物。
ここで、下記化学式2において、pは、1〜5の整数である。
【化2】

【請求項3】
前記Yは、下記化学式3であることを特徴とする、請求項1に記載のポリシロキサン化合物。
ここで、下記化学式3において、pは、1〜5の整数である。
【化3】

【請求項4】
下記化学式4の化合物と下記化学式5の化合物とを、酸または塩基触媒下で加水分解及び縮重合する段階を含むことを特徴とする、ポリシロキサン化合物の製造方法。
【化4】

【化5】

ここで、上記の化学式4および化学式5において、
は、それぞれ独立して水素原子、アルキル基またはアリール基であり、
は、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基、アセトキシ基、アルキル基、アリール基または−O−Si(OR)基(ここで、Rは炭素数1〜3のアルキル基である)であり、
Xは、ハロゲン、ヒドロキシ基、アルコキシ基またはアセトキシ基であり、
Zは、スルホン酸基、または、酸化によってスルホン酸基に変換可能な硫黄原子を有する炭素数1〜15の炭化水素基であり、
rは、1〜3の整数であり、
qは、1〜400の整数である。
【請求項5】
前記加水分解及び縮重合する段階の生成物を酸化してスルホン化する段階を更に含むことを特徴とする、請求項4に記載のポリシロキサン化合物の製造方法。
【請求項6】
前記化学式4の化合物のヒドロキシ基と前記化学式5の化合物とは、1:0.2〜1:3のモル比で添加されることを特徴とする、請求項4または5に記載のポリシロキサン化合物の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載のポリシロキサン化合物を含むことを特徴とする、高分子電解質膜。
【請求項8】
触媒層と拡散層とを備えるカソードと、触媒層と拡散層とを備えるアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に配設される高分子電解質膜と、を備える膜電極接合体において、
前記高分子電解質膜は、請求項1〜3のいずれかに記載のポリシロキサン化合物を含むことを特徴とする、膜電極接合体。
【請求項9】
触媒層と拡散層とを備えるカソードと、触媒層と拡散層とを備えるアノードと、前記カソードと前記アノードとの間に配設される高分子電解質膜と、を備える燃料電池において、
前記高分子電解質膜は、請求項1〜3のいずれかに記載のポリシロキサン化合物を含むことを特徴とする、燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2007−224299(P2007−224299A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31821(P2007−31821)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】