説明

ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物およびその製造方法

【課題】 高度な難燃性と熱伝導性とを有し、さらに優れた耐衝撃性と柔軟性とを有するポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】 本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂、熱伝導性付与剤および膨張性黒鉛とを含み、前記ポリ乳酸系樹脂が、ポリ乳酸系化合物のセグメントと、アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントとを有し、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量が、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、前記ポリ乳酸系化合物に対する前記アミノ基の配合量が、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ乳酸をはじめとするポリヒドロキシカルボン酸は、比較的優れた成形加工性、靱性、剛性等を有する。中でも、ポリ乳酸は、トウモロコシ等の天然原料から合成することが可能で、優れた成形加工性、生分解性等を有することから環境調和型樹脂として、種々の分野において開発が進められている。
【0003】
しかしながら、ポリ乳酸は、一般的に燃えやすく、例えば、家電製品、OA機器のハウジング、自動車部品等のように、高度な難燃性を要求される用途に使用する場合には、難燃化対策が必要である。例えば、電気製品の筐体にポリ乳酸系樹脂を使用する場合には、米国のUL規格等の難燃規格を満足する必要がある。
【0004】
加えて、ポリ乳酸は、優れた物性を有する一方で、ABS樹脂等の石油を原料とする樹脂に比べ、耐衝撃性、破断曲げ歪および引張破断歪等の柔軟性に劣るため、高度な耐衝撃性が要求される電気・電子機器用の外装材等に使用することは難しい。
【0005】
さらに、近年の電気・電子機器用途では、各種のデバイスから発生する熱を効率よく放熱させるための熱伝導性が要求されるが、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂は、一般的に熱伝導性が十分ではない。このような熱伝導性の乏しい樹脂材料は、電子機器等の部品や筐体材料にこれらを適用した場合、放熱を妨げ、これらの機器や素子における故障や破壊を誘発する可能性がある。
【0006】
耐衝撃性、難燃性等の改善を目的として、ポリ乳酸とシリコーン・乳酸共重合とを含有する生分解性樹脂組成物が提案されている(特許文献1)。しかし、この生分解性樹脂組成物は、シリコーン・乳酸共重合体の作製工程が煩雑である。また、この生分解性樹脂組成物は、難燃性は良好であるものの、従来の電子・電気機器用途で使用されてきた樹脂に比べると耐衝撃性が不充分であり、実用品に適用するには不利である。
【0007】
また、難燃性、耐衝撃性の改善を目的として、ポリ乳酸系樹脂、乳酸系樹脂以外の熱可塑性樹脂、ホスホニトリル酸フェニルエステル、および膨張性黒鉛を含有する樹脂組成物が提案されている(特許文献2)。しかし、この樹脂組成物は、湿熱試験前の初期のアイゾット衝撃強度が低く、家電製品、OA機器のハウジング、自動車部品等の大きな靭性(耐衝撃性)が要求される用途では実用レベルに至らない場合がある。
【0008】
機械強度および熱伝導性の改善を目的として、炭素繊維が混練されたポリ乳酸系樹脂が提案されている(特許文献3)。しかし、このポリ乳酸系樹脂は、低分子量ポリ乳酸を配合することによる機械強度の低下や、ポリ乳酸と親和性の低い有機化合物がブリードする等の問題を生じる場合があり、さらに難燃性を備えていないため、高度な難燃性が必要とされる電気・電子分野等に広く使用することができなかった。
【0009】
また、耐熱性、機械的強度、耐加水分解性、環境親和性の改善を目的として、ポリ乳酸系樹脂、ポリカーボネート樹脂およびアミン基含有鎖拡張剤を含む樹脂組成物が提案されている(特許文献4)。この樹脂組成物では、ポリ乳酸系樹脂をアミノ基含有鎖拡張剤で粘度上昇させ、ポリカーボネート樹脂とのモルフォロジーを制御することで目的の物性を達成するとされている。しかし、この樹脂組成物は、ポリ乳酸系樹脂の特徴である高流動性を阻害しており、薄肉成形に適さない。さらに、この樹脂組成物は、石油由来のポリカーボネート系樹脂が必須成分であることから、環境調和性に劣る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−277575号公報
【特許文献2】特開2008−274224号公報
【特許文献3】特開2005−138458号公報
【特許文献4】特開2009−293031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、高度な難燃性と熱伝導性とを有し、さらに優れた耐衝撃性と柔軟性とを有するポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、
ポリ乳酸系樹脂、熱伝導性付与剤および膨張性黒鉛を含み、
前記ポリ乳酸系樹脂が、
ポリ乳酸系化合物のセグメントと、
アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントとを有し、
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量が、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、
前記ポリ乳酸系化合物に対する前記アミノ基の配合量が、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であることを特徴とする。
【0013】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法は、
アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物と、溶融状態のポリ乳酸系化合物とを混合撹拌し、さらに、熱伝導性付与剤および膨張性黒鉛を混合撹拌する工程を有し、
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量が、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、
前記ポリ乳酸系化合物に対する前記アミノ基の配合量が、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、高度な難燃性と熱伝導性とを有し、さらに優れた耐衝撃性と柔軟性とを有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例におけるポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物のサーモグラフィー(熱伝導性)をステンレスとの比較において示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは、ポリ乳酸系樹脂への高度な難燃性および熱伝導性の付与、優れた耐衝撃性や良好な破断曲げ歪および引張破断歪等の柔軟性の改良について鋭意検討した。その結果、ポリ乳酸系化合物と、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物とを反応させて得られるポリ乳酸系樹脂が、優れた耐衝撃性、良好な破断曲げ歪および引張破断歪等の柔軟性を有することを見出した。また、前記ポリ乳酸系樹脂に熱伝導性付与剤(例えば、炭素繊維、銅めっきアラミド繊維および金属繊維等)および膨張性黒鉛を配合することにより、優れた耐衝撃性、良好な破断曲げ歪および引張破断歪等の柔軟性を維持しつつ、優れた熱伝導性と難燃性が得られることを見出した。
【0017】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物が、特に優れた耐衝撃性等の機械的特性を示す理由としては、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントと、前記ポリ乳酸系化合物のセグメントとの結合により、ポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体が形成されているためと考えられる。このポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体の存在により、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物を用いた成形品に、優れた耐衝撃性や、良好な破断曲げ歪および引張破断歪等の柔軟性を付与することができると考えられる。なお、前記ポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体は、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と、前記ポリ乳酸系化合物のエステル基との反応により生成すると考えられる。また、炭素繊維等の熱伝導性付与剤および膨張性黒鉛は、表面の極性が低いため、極性の高いポリ乳酸系化合物とは馴染みにくいが、ポリシロキサン化合物とは非常に馴染み易い。このため、前記ポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体によって熱伝導性付与剤および膨張性黒鉛の分散が促進され、相分離や界面強度の低下による強度の低下を抑制し、優れた耐衝撃性、破断曲げ歪、引張破断歪を維持しつつ、優れた熱伝導性を有するものとなると考えられる。さらに、この優れた熱伝導性により、燃焼時に膨張性黒鉛の膨張が促進され、効率的に断熱層が形成されるため、高度な難燃性を達成できると考えられる。さらに、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、耐ブリード性にも優れる。本来、ポリ乳酸系化合物とポリシロキサン化合物は相溶性に乏しく、分散性不良やブリードを起こしやすいが、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物では、特定量のアミノ基を有するポリシロキサン化合物とポリ乳酸系化合物との重合反応により、ポリ乳酸系化合物に特定量のポリシロキサン化合物が導入されたポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体が形成されている。このポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体は、ポリ乳酸系樹脂中に良好に分散し、且つ、ポリ乳酸系樹脂界面に良好に結合するシリコーンエラストマー粒子を形成する。このため、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物を用いた成形品に、耐ブリード性を付与することができると考えられる。ただし、これらのメカニズムは推定であり、本発明を何ら限定しない。
【0018】
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントにおいて、アミノ基は、ポリシロキサン化合物の側鎖に結合している。側鎖にアミノ基を有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物は、アミノ基の濃度調整が簡便であり、前記ポリ乳酸系化合物のセグメントとの反応を調整しやすい。また、特にアミノ基がジアミノ基であれば、モノアミノ基よりポリ乳酸系化合物との反応性が高く、好ましい。
【0019】
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量は、前記ポリ乳酸系化合物のセグメントとの反応性を維持しつつ、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の分子量を高くし、製造時において前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の揮発を抑制可能な範囲とすることが必要である。かかる前記アミノ基の含有量は、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、好ましくは、0.01質量%〜1.0質量%の範囲である。前記アミノ基の含有量が0.01質量%以上であれば、前記ポリ乳酸系化合物のセグメントとアミド結合を充分に形成し、効率よく製造することができ、成形品においてポリシロキサンセグメントの分離によるブリードアウトを抑制することができる。前記アミノ基の含有量が2.5質量%以下であれば、製造時における前記ポリ乳酸系化合物の加水分解を抑制すると共に、凝集を抑制し、機械的強度が高く、均一な組成を有する成形品が得られる。
【0020】
前記アミノ基の含有量は、下記数式(I)により求めることができる。

アミノ基の含有量(質量%)=(16/アミノ当量)×100 (I)
アミノ当量:アミノ基1モル当りの前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の質量の平均値(g/mol)

【0021】
また、前記ポリ乳酸系化合物に対する前記アミノ基の配合量は、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であり、好ましくは、50質量ppm〜300質量ppmの範囲である。前記アミノ基の配合量が3質量ppm以上であれば、成形品において前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントに起因する耐衝撃性の向上を図ることができる。前記アミノ基の配合量が300質量ppm以下であれば、製造時において、前記ポリ乳酸系化合物と前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の分散が容易であり、前記ポリ乳酸系樹脂の分子量が著しく低下するのを抑制し、衝撃強度等の機械的強度に優れた成形品を得ることができる。
【0022】
前記アミノ基の配合量は、下記数式(II)により求めることができる。

アミノ基の配合量(質量ppm)=
アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対するアミノ基の含有量(質量%)×
ポリ乳酸系化合物に対するアミノ基含有ポリシロキサン化合物の比率(質量%)×
100 (II)

【0023】
このようなセグメントを構成する前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物としては、特別な手段を用いず、穏やかな条件下で前記ポリ乳酸系化合物のセグメントに容易に結合するものが好ましい。かかるアミノ基含有ポリシロキサン化合物としては、例えば、下記式(1)および下記式(2)で表されるものを挙げることができる。
【化1】

【化2】

前記式(1)および(2)において、
〜R、R4’、R10〜R14およびR10’は、それぞれ、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、−(CHα−NH−C(αは、1〜8の整数)を表し、これらは、ハロゲン原子で全部若しくは一部が置換されていてもよく、R〜R、R4’、R10〜R14およびR10’は同一でも異なっていてもよく、
、R15およびR16は、それぞれ、2価の有機基を表し、R、R15およびR16は同一でも異なっていてもよく、
d’およびh’は、それぞれ、0以上の整数を表し、
eおよびiは、それぞれ、1以上の整数を表す。
【0024】
前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基等が好ましい。前記アルケニル基としては、ビニル基が好ましい。前記アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が好ましい。前記アルキルアリール基としては、ベンジル基等を挙げることができる。前記ハロゲン原子としては、塩素、フッ素、臭素等が挙げられる。かかるハロゲン置換基を有するものとしては、具体的には、クロロメチル基、3,3,3−トリフルオロメチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロオクチル基等を挙げることができる。R〜R、R4’、R10〜R14およびR10’は、特にメチル基、フェニル基であることが好ましい。
【0025】
前記フェニル基は、ポリシロキサン化合物のセグメントの透明性を向上させる機能を有する。前記フェニル基の含有量を調整することにより、前記ポリ乳酸系樹脂の屈折率を調整することができる。前記ポリシロキサン化合物のセグメントの屈折率を前記ポリ乳酸系化合物のセグメントの屈折率と一致させることにより、成形品において均一な屈折率とすることができ、また、成形品に所望の透明度を付与することができる。
【0026】
前記2価の有機基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等のアルキレン基、フェニレン基、トリレン基等のアルキルアリーレン基、−(CH−CH−O)−(bは、1〜50の整数)、−〔CH−CH(CH)−O〕−(cは、1〜50の整数)等のオキシアルキレン基またはポリオキシアルキレン基、−(CH−NHCO−(dは、1〜8の整数)等を挙げることができる。これらのうち、特に、R16がエチレン基、RおよびR15がプロピレン基であることが好ましい。
【0027】
d’、h’、eおよびiは、ポリシロキサン化合物の数平均分子量が後述する範囲となる値であることが好ましい。d’およびh’は、それぞれ、1〜15000の整数であることが好ましく、より好ましくは、1〜400の整数、さらに好ましくは、1〜100の整数である。eおよびiは、それぞれ、1〜15000の範囲であることが好ましく、前記数式(I)で求められるアミノ基含有ポリシロキサン化合物に対するアミノ基の含有量が0.01質量%〜2.5質量%の範囲を満たす整数であることが必要である。
【0028】
前記式(1)および(2)に示すアミノ基含有ポリシロキサン化合物においては、繰返し単位数d’、h’、eおよびiによってそれぞれ繰り返される繰返し単位は、同種の繰返し単位が連続して接続されても、交互に接続されても、また、ランダムに接続されていてもよい。
【0029】
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の数平均分子量は、900〜120000の範囲であることが好ましい。前記数平均分子量が900以上であれば、前記ポリ乳酸系樹脂の製造時において、溶融したポリ乳酸系化合物との混練時の揮発による喪失を抑制することができる。前記数平均分子量が120000以下であれば、分散性がよく均一な成形品を得ることができる。前記数平均分子量は、より好ましくは、900〜20000の範囲であり、さらに好ましくは、900〜8000の範囲である。
【0030】
前記数平均分子量は、例えば、試料のクロロホルム0.1%溶液のGPC(ポリスチレン標準試料で較正)分析により測定した測定値を採用することができる。
【0031】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系組成物において、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントが、エポキシ基を有するエポキシ基含有ポリシロキサン化合物との反応物で構成されるセグメントを含むことが好ましい。これにより、より優れた耐衝撃性、良好な破断曲げ歪および引張破断歪等の柔軟性を有し、耐ブリード性にも優れたポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物を得ることができる。これは、前記ポリシロキサン・ポリ乳酸共重合体中に、より強力なシリコーンエラストマー粒子が形成され、可塑性が付与されるためと考えられる。ただし、このメカニズムは推定であり、本発明を何ら限定しない。かかるセグメントを構成するエポキシ基含有ポリシロキサン化合物としては、具体的には、下記式(12)、下記式(19)、下記式(20)および下記式(21)で表される化合物が好ましい。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

前記式(12)、(19)、(20)および(21)において、
、RおよびR18〜R21は、それぞれ、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、−(CHα−NH−C(αは、1〜8の整数)を表し、これらは、ハロゲン原子で全部若しくは一部が置換されていてもよく、R、RおよびR18〜R21は同一でも異なっていてもよく、
は、2価の有機基を表し、
l’およびn’は、それぞれ、0以上の整数を表し、
mは、1以上の整数を表す。
【0032】
前記アルキル基、前記アルケニル基、前記アリール基、前記アラルキル基、前記アルキルアリール基、および−(CHα−NH−Cは、前記式(1)におけるR等が表すものと同義のものを挙げることができ、前記2価の有機基は、前記式(1)におけるR等が表すものと同義のものを挙げることができる。
【0033】
さらに、前記式(19)および前記式(21)で表されるエポキシ基含有ポリシロキサン化合物のエポキシ基含有量は、2質量%未満であることが好ましい。前記エポキシ基含有量を2質量%未満とすることにより、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物との反応を制御することができ、適度に架橋したエラストマーを形成することにより、機械的特性が改善された成形品を得ることができる。
【0034】
前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物の数平均分子量は、900〜120000の範囲であることが、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の場合と同様の製造上の理由から、好ましい。
【0035】
前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物のエポキシ基含有量は、下記数式(III)により求めることができる。

エポキシ基含有量(質量%)=(43/エポキシ当量)×100 (III)
エポキシ当量:エポキシ基1モル当りのポリシロキサン化合物の質量(g/mol)

【0036】
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントを構成するエポキシ基含有ポリシロキサン化合物の含有量は、前記ポリ乳酸系化合物のセグメントに対し、0質量%〜10質量%の範囲であることが好ましく、0.5質量%〜5質量%の範囲であることがより好ましい。前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物の含有量が10質量%以下であれば、アミノ基と反応せずに残留するエポキシ基含有ポリシロキサン化合物が成形品からブリードアウトするのを抑制することができる。
【0037】
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントとしては、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物の機能を阻害しない範囲において、アミノ基を主鎖の末端に有するポリシロキサン化合物のセグメントを含んでいてもよく、さらに、アミノ基を含有しないポリシロキサン化合物等のセグメントを含んでいてもよい。前記アミノ基を主鎖の末端に有するポリシロキサン化合物および前記アミノ基を含有しないポリシロキサン化合物の含有量は、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物中、0質量%〜5質量%の範囲であることが好ましい。前記アミノ基を主鎖の末端に有するポリシロキサン化合物および前記アミノ基を含有しないポリシロキサン化合物の数平均分子量は、900〜120000の範囲であることが好ましい。
【0038】
前記ポリ乳酸系化合物のセグメントとしては、バイオマス原料から得られるポリ乳酸系化合物の抽出物やこれらの誘導体若しくは変性体、または、バイオマス原料から得られる乳酸系化合物のモノマ−、オリゴマーや、これらの誘導体若しくは変性体を用いて合成される縮重合物の他、バイオマス原料以外を原料として合成されるポリ乳酸系化合物のセグメントを挙げることができる。かかるセグメントを構成するポリ乳酸系化合物としては、例えば、下記式(27)で表される化合物を挙げることができる。
【化7】

前記式(27)において、
17は、炭素数18以下のアルキル基を表し、
aおよびcは、1以上の整数を表し、
b’は、0以上の整数を表す。
【0039】
aは、500〜13000の整数であることが好ましく、より好ましくは、1500〜4000の整数である。b’は、0〜5000の整数であることが好ましい。cは、1〜50の整数であることが好ましい。前記式(27)で表されるポリ乳酸系化合物においては、繰返し単位数aおよびb’によってそれぞれ繰り返される繰返し単位は、同種の繰返し単位が連続して接続されていても、交互に繰り返されていてもよい。前記式(27)で表されるポリ乳酸系化合物としては、具体的には、L−乳酸、D−乳酸およびこれらの誘導体の重合体、さらに、これらを主成分とする共重合体を挙げることができる。かかる共重合体としては、L−乳酸、D−乳酸およびこれらの誘導体と、例えば、グリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンサクシネートテレフタレート、ポリヒドロキシアルカノエート等の1種または2種以上とから得られる共重合体を挙げることができる。これらのうち、石油資源節約という観点からは、植物由来のものを原料とするものが好ましく、耐熱性、成形性の面から、ポリ(L−乳酸)、ポリ(D−乳酸)やこれらの共重合体が、特に好ましい。また、ポリ(L−乳酸)を主体とするポリ乳酸は、D−乳酸成分の比率によってその融点が異なるが、成形品の機械的特性や耐熱性を考慮すると、160℃以上の融点を有するものが好ましい。
【0040】
前記ポリ乳酸系化合物の分子量は、3万〜100万の範囲であることが好ましく、より好ましくは、10万〜30万の範囲である。
【0041】
前記熱伝導性付与剤としては、例えば、炭素繊維、窒化ホウ素、窒化ホウ素繊維、銅めっきアラミド繊維、ステンレス繊維等の金属繊維等が挙げられ、これらの中でも、炭素繊維が特に好ましい。前記熱伝導性付与剤の含有量は、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対し、好ましくは、1質量%〜40質量の範囲であり、より好ましくは、5質量%〜20質量%の範囲である。前記熱伝導性付与剤の含有量が1質量%以上であれば、成形体において十分な熱伝導性を得ることができる。前記熱伝導性付与剤の含有量が40質量%以下であれば、例えば、特に低密度の炭素繊維を含有するポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物においても、体積分率の増加を抑制し、炭素繊維同士の絡み合いによる組成物の溶融粘度の上昇を抑制することができ、優れた成形加工性を有するものとなる。なお、銅めっきアラミド繊維やステンレス繊維は、プラスチックにこれらの繊維を高濃度に配合したコンパウンドが市販されており、本発明における熱伝導性付与剤の添加は、前記コンパウンドを用いて行ってもよい。
【0042】
前記炭素繊維は、X線回折により求めた(002)面の平均層面間隔(d002)が0.3367nm以上0.3440nm未満、C軸方向の結晶子サイズLcが10nm〜35nmの範囲の炭素繊維であることが、より優れた熱伝導性をポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に付与できるため、好ましい。前記X線回折により求めた(002)面の平均層面間隔(d002)とは、炭素の六員環縮合構造を有する網目状の炭素層が積層されたベンゼノイド構造における炭素層面間の距離であり、炭素層面が真平面のグラファイトの場合は、0.3354nmである。
【0043】
前記結晶子とは、一つの固体粒子を構成する単結晶とみなせる単位である。固体を構成する一つの粒子は、複数の結晶子が一体化されて構成されており、結晶子のサイズが大きくなる程、結晶格子数が増加し結晶性が高くなる。また、前記C軸方向とは、ベンゼノイド構造における炭素層面に垂直な方向をいう。
【0044】
前述のとおり、好ましくは、前記平均層面間隔(d002)は、0.3367nm以上0.3440nm未満であり、より好ましくは、0.3390nm以上0.3440nm未満である。前記平均層面間隔(d002)が0.3367nm以上であれば、炭素繊維の過剰な結晶化による剛直化を抑制できるので、樹脂との混練や成形工程での炭素繊維の破損や切断を抑制できる。前記平均層面間隔(d002)が0.3440nm未満であれば、高結晶性のグラファイト構造を形成する上で層間距離が十分に小さく、熱の伝導が良好になるため、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に高い熱伝導性を付与することができる。さらに、0.3367nm以上0.3440nm未満の平均層面間隔(d002)を有する炭素繊維は、その結晶化(黒鉛化)のための処理温度を比較的低温の2500℃以下にできるので、製造エネルギーやコストを低く抑えることができる。
【0045】
前述のとおり、好ましくは、前記結晶子サイズLcは、10nm〜35nmの範囲であり、より好ましくは、10nm〜20nmの範囲である。前記結晶子サイズLcが10nm以上であれば、結晶格子の格子振動による高熱伝導性を得るのに十分なサイズとなり、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に高い熱伝導性を付与することができる。前記結晶子サイズLcが35nm以下であれば、炭素繊維の過剰な結晶化による剛直化を抑制できるので、樹脂との混練や成形工程での炭素繊維の破損や切断を抑制できる。さらに、10nm〜35nmの範囲の結晶子サイズLcを有する炭素繊維は、その結晶化(黒鉛化)のための処理温度を比較的低温の2500℃以下にできるので、製造エネルギーやコストを低く抑えることができる。
【0046】
ここで、前記結晶子サイズLc(nm)は、例えば、広角X線回折法によって求めた値を採用することができる。具体的には、炭素繊維を長さ4cmに切り出し、それを金型とコロジオンのアルコール溶液とを用いて角柱形に固め、試料とする。X線源としてはCuKα(Niフィルタ)を用い、出力は40kV、20mAとする。そして、透過法により得られた面指数(002)のピークの半値幅から、シェルラー(Scherrer)の式、Lc(hkl)=K・λ/β0・cosθBを用いて、結晶サイズを算出する。ここで、Lc(hkl)は、(hkl)面に垂直な方向の結晶の平均サイズであり、Kは、1.0、λは、X線の波長であり、β0は、(βE−β11/2であり、θBは、ブラッグ角であり、βEは、見かけの半値幅(測定値)であり、β1は、1.05×10−2radである。
【0047】
また、前記平均層面間隔(d002)は、例えば、つぎのように求めた値を採用することができる。すなわち、炭素繊維を粉末にし、アルミニウム製試料セルに充填し、グラファイトモノクロメ−タ−により単色化したCuKα線を線源とし、X線回折図形を得る。(002)回折線のピ−ク位置は、重心法(回折線の重心位置を求め、これに対応する2θ値でピ−ク位置を求める方法)により求め、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)回折線(28.466°)を用いて補正し、Braggの公式d002=λ/2・sinθよりd002を算出する。ここで、CuKα線の波長λは、0.15418nmとする。
【0048】
前記炭素繊維の平均繊維長は、成形する成形体中に面配向、すなわち、2次元的なネットワーク構造を形成できる長さが好ましく、0.1mm〜50mmの範囲が好ましい。このような平均繊維長を有する炭素繊維は、前記ポリ乳酸系樹脂のポリシロキサン化合物のセグメントとの馴染みがよく、低い含有量でもポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物中にネットワーク構造を非常に容易に形成することができる。このため、炭素繊維同士が極めて接近した状態、若しくは直接接触した状態となり、熱エネルギーの伝搬ロスを著しく低減し、効率よく熱伝導を行うことができる。また、炭素繊維の平均繊維長が50mm以下であれば、炭素繊維同士の絡み合いによって、樹脂との混合や成形が困難になるのを抑制し、射出成形の際にノズル詰まりを抑制することができる。さらに、成形時に、樹脂の流動方向や面方向に配向し易いため、得られる成形体において従来と比較して異方的な熱伝導性を著しく向上することができる。これは、成形体において炭素繊維同士が、接触あるいは極めて接近した状態を維持して配向し、ネットワーク構造が形成されることにより、炭素繊維間の接触面積、あるいはその熱伝導にかかわる炭素繊維の実効面積が増加して熱抵抗が大幅に低下するためであると考えられる。ただし、このメカニズムは推定であり、本発明を何ら限定しない。
【0049】
前記炭素繊維の平均繊維長は、例えば、顕微鏡法、レーザー回折・散乱法、動的光散乱法等の測定方法により求めた値を採用することができる。
【0050】
前記炭素繊維としては、平均直径が1μm〜50μmの範囲のものを用いることが好ましい。前記平均直径が1μm以上であれば、凝集する傾向が少なく、樹脂との混合において容易に分散させることができる。前記平均直径が50μm以下であれば、樹脂中に均一に分散させることができ、成形体の表面に炭素繊維の凝集体が露出することによる外観不良の発生を抑制することができる。前記炭素繊維の平均直径は、例えば、顕微鏡法により求めることができる。
【0051】
前記炭素繊維は、アスペクト比が2〜50000の範囲であることが好ましく、より好ましくは、10〜50000の範囲である。前記アスペクト比は、前記炭素繊維の平均直径に対する繊維長の比である。
【0052】
前記炭素繊維は、熱伝導率が70W/m・K〜600W/m・Kの範囲であることが好ましい。前記炭素繊維の熱伝導率が前記範囲にあれば、樹脂成分との混練の際の破損を抑制できる柔軟性を有し、且つ、それ自体が十分な熱伝導性を有するため、高熱伝導性を有する樹脂組成物が得られる。また、前記炭素繊維が前記範囲の熱伝導率を有することにより、繊維軸方向に特に優れた熱伝導性を有し、射出成形等で樹脂の流動方向に配向し、得られる成形体において異方的な熱伝導性を備えたものとなり、熱伝導の方向や移動量の制御が可能となる。
【0053】
前記熱伝導率は、例えば、レーザーフラッシュ法、平板熱流計法、温度波熱分析法(TWA法)、温度傾斜法(平板比較法)等の測定方法による測定値を採用することができる。
【0054】
前記炭素繊維としては、ピッチ系、PAN系、アーク放電法 、レーザー蒸発法、CVD法(化学気相成長法)、CCVD法(触媒化学気相成長法)等で合成されたものを用いることができる。これらのうちピッチ系で、さらに黒鉛化処理を行って得られる炭素繊維は、結晶性に優れ、繊維軸方向の熱伝導性に優れており、好ましい。特にメソフェーズ(異方性)ピッチ系および気相で作製されたカーボンチューブ、カーボンナノチューブ、カーボンホーン、カーボンナノホーン等は、繊維軸方向に対して異方的なグラファイト構造を持つため、金属以上の熱伝導率を有しており、等方的なグラファイト構造を有する炭素繊維に比べ、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対してより高い熱伝導性を付与することができる。
【0055】
つぎに、このような炭素繊維の製造方法について例を挙げて説明する。炭素繊維の原料は、黒鉛化が容易な炭化水素化合物、例えば、ナフタレン、フェナントレン等の縮合多環炭化水素化合物や石油、石炭系ピッチの縮合複素環化合物等を用いることができる。特に、石油系ピッチ、石炭系ピッチ、好ましくは光学的異方性ピッチ、すなわち、メソフェーズピッチを用いることによって、高い熱伝導性の高分子組成物および熱伝導性成形体が得られる。メソフェーズピッチとしては、紡糸可能なものであればよいが、メソフェーズ含有量100%のものが、高熱伝導化と、紡糸性、品質の安定性の面からも好ましい。これらの原料を、常法の紡糸方法(例えば、メルトスピニング法、メルトブロー法、遠心紡糸法、渦流紡糸法等)により紡糸してピッチ系炭素繊維を得る。ついで、二酸化窒素や酸素等の酸化性ガス雰囲気中で200〜400℃の比較的低温で熱処理する方法や、硝酸やクロム酸等の酸化性水溶液中で処理する方法、光やγ線等により重合処理する方法等を用いて不融化繊維とする。ついで、前記不融化繊維に対して、炭化ホウ素、酸化ホウ素、窒化ホウ素等のホウ素化合物や、ホウ素単体等の黒鉛化触媒を、例えば、炭素繊維に対して、ホウ素が0.1質量%〜10質量%となるような量を添加して黒鉛化処理を行う。前記黒鉛化処理温度は、1500℃〜2500℃の範囲が好ましい。前記黒鉛化処理温度が1500℃以上であれば、前記結晶子サイズLc、平均層面間隔を有する炭素繊維を実用的な処理時間で作製することができる。前記黒鉛化処理温度が2500℃以下であれば、加熱に投入する余剰のエネルギーの消費を抑制することができる。原料炭素繊維は、そのままで用いてもよいが、必要に応じて、その一部又は全部に表面処理して用いてもよい。
【0056】
前記原料炭素繊維の表面処理としては、具体的には、酸化処理や窒化処理、ニトロ化、スルホン化、あるいはこれらの処理によって表面に導入された官能基若しくは炭素繊維の表面に、金属、金属化合物、有機化合物等を付着あるいは結合させる処理を挙げることができる。前記官能基の具体例としては、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ニトロ基、アミノ基等の酸素含有基や窒素含有基を挙げることができる。このような官能基や化合物が表面の一部に導入された炭素繊維において、前記ポリ乳酸系樹脂との化学的な相互作用が強化されるため、得られる成形体において機械的強度が向上する。
【0057】
また、前記原料炭素繊維の表面処理としては、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に含有される有機化合物と相互作用を有する官能基または化合物を表面に結合若しくは付着させる処理も挙げることができる。このような表面処理を行った炭素繊維は、有機化合物との結合が強化され、成形体において熱伝導性を一層向上させることができる。具体的には、各種カルボン酸等による表面処理を挙げることができる。
【0058】
さらに、前記表面処理として炭素繊維表面の疎水化処理も挙げることができる。前記疎水化処理としては、例えば、不活性ガス雰囲気中で熱処理を行う方法やフッ素化処理等を挙げることができる。このような疎水化処理された炭素繊維は、前記ポリ乳酸系樹脂のポリシロキサン化合物のセグメントとより強い相互作用を示すようになる。また、前記表面処理としてサイジング剤を用いたサイジング処理も挙げることができる。
【0059】
前記炭素繊維として、前記平均繊維長より短い、例えば、5nm以上100μm未満の繊維長を有する炭素繊維、あるいは炭素化合物を用いることもできる。前記繊維長の短い炭素繊維としては、結晶性の高い炭素繊維等の集合体を用いることが好ましい。前記炭素化合物としては、黒鉛や膨張化黒鉛、薄片化黒鉛等を好ましいものとして挙げることができる。前記炭素化合物の平均粒子径としては、1μm〜300μmの範囲が、前記ポリ乳酸系樹脂の成分との混合が容易であることから好ましい。長繊維長の炭素繊維間にランダムな状態で短繊維長の炭素繊維や炭素化合物が存在することにより、得られる成形体において導電性が上昇し、帯電防止性や電磁波遮蔽性をより一層向上させ、熱伝導性の向上を図ることができる。前記短繊維長の炭素繊維および前記炭素化合物の含有量は、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対し、0.5質量%〜20質量%の範囲とすることが好ましい。
【0060】
前記膨張性黒鉛としては、天然リンペン状黒鉛を無機酸と強酸化剤とで処理して黒鉛層間化合物を形成したものに、さらに、アンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和処理したものを用いることが好ましい。なお、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、膨張性黒鉛の機能を妨げない範囲で他の成分を含有してもよい。
【0061】
商業的に入手可能な前記膨張性黒鉛の具体例としては、例えば、東ソー(株)製の「GREP−EG」、エア・ウォーター社製の「モエヘンZ」シリーズ等が挙げられる。前記膨張性黒鉛には、表面処理を施してもよい。前記膨張性黒鉛の層間には硫酸化合物が存在しており、前記ポリ乳酸系樹脂、および、その他の添加剤と溶融混練する際に、黒鉛の破壊が生じ、前記硫酸化合物が表面に露出することによって前記ポリ乳酸系樹脂の分解が生じることがある。この結果、例えば、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物の機械物性の低下が生じることがある。これに対し、前記膨張性黒鉛に表面処理を施すことにより、前記硫酸化合物の表面への露出を抑制し、前記ポリ乳酸系樹脂の分解を最小限に留めることができる。
【0062】
前記膨張性黒鉛の表面処理としては、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の高級脂肪酸、エポキシシラン、ビニルシラン、メタクリルシラン、アミノシラン、アルコキシシラン、イソシアネートシラン等のシランカップリング剤、チタネートカップリング剤、ゾル−ゲルコーティング、シリコーンポリマーコーティング、樹脂コーティング等の表面処理が挙げられる。
【0063】
表面処理剤を用いて前記表面処理を行う場合には、乾式法、湿式法、スプレー方式、インテグラルブレンド方式等の一般的な方法を用いることができる。具体的には、Vブレンダー等を用いて前記膨張性黒鉛を攪拌しながら、表面処理剤を乾燥空気や窒素ガスで噴射させて処理する乾式法、前記膨張性黒鉛を水に分散させてスラリー状態になったところで、表面処理剤を添加し処理する湿式法、前記膨張性黒鉛を高温の炉内で加熱した後、表面処理剤を噴霧して処理するスプレー方式、前記膨張性黒鉛、その他の樹脂材料および表面処理剤を同時に押出機に投入して処理するインテグラルブレンド方式等を用いることができる。
【0064】
なお、乾式法、湿式法、スプレー方式において使用される表面処理剤としては、表面処理剤をそのままの状態で使用してもよいし、表面処理剤を有機溶剤(若しくは水)で希釈して溶液として使用してもよい。
【0065】
前記膨張性黒鉛の配合量としては、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対して、前記膨張性黒鉛を1質量%〜50質量%の範囲で配合することが好ましく、5質量%〜30質量%の範囲で配合することがより好ましい。前記膨張性黒鉛の配合量が1質量%以上であれば、充分な難燃性付与効果を得ることができる。前記膨張性黒鉛の配合量が50質量%以下であれば、機械物性の低下を防止できる。
【0066】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、さらに、難燃化剤を含んでもよい。前記難燃化剤としては公知のものが使用できるが、リン系難燃化剤が好ましく、ホスファゼン誘導体および芳香族縮合型リン酸エステルが難燃効果に優れるのでより好ましい。前記ホスファゼン誘導体としては、例えば、下記式で表される環状シクロホスファゼン化合物が挙げられる。
【化8】

【0067】
nは、3以上の整数を表し、3〜25の範囲であることが好ましく、3〜5の範囲であることがより好ましい。nが3であれば、P(リン元素)とN(窒素元素)とで6員環が形成されており、nが4であれば、PとNとで8員環が形成されており、nが5以上であっても同様である。R19およびR20は、それぞれ、有機基を表し、例えば、置換若しくは無置換のフェノキシ基、置換若しくは無置換のナフトキシ基(例えば、β−ナフトキシ基)である。
【0068】
前記ホスファゼン誘導体としては、例えば、フェノキシ基を有するシクロホスファゼン化合物、シアノフェノキシ基を有するシクロホスファゼン化合物、アミノフェノキシ基を有するシクロホスファゼン化合物、置換若しくは無置換のナフトキシ基を有するシクロホスファゼン化合物等も挙げられる。これらのシクロホスファゼン化合物の中でも、置換若しくは無置換のフェノキシ基または置換若しくは無置換のナフトキシ基を有する、シクロトリホスファゼン、シクロテトラホスファゼンまたはシクロペンタホスファゼンが好ましく、置換若しくは無置換のフェノキシ基を有するシクロトリホスファゼンが特に好ましい。具体的には、例えば、ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン(フェノキシ基は、置換基を有していてもよい)が挙げられる。前記シクロホスファゼン化合物は、酸化により着色の原因となるキノン構造を形成しやすいため、フェノール性水酸基を有しないことが好ましい。前記ホスファゼン誘導体は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0069】
前記芳香族縮合型リン酸エステルとしては、レゾルシノールビスジフェニルホスフェート、ビスフェノールA、ビスジフェニルホスフェート、レゾルシノール−ビス−2,6−キシレニルホスフェート、レゾルシノール−ビス−2,6−ビスジフェニルホスフェート、ビフェノール−ビスフェニルホスフェート、4,4’−ビス(ジフェニルホスホリル)−1,1’−ビフェニル等が挙げられる。
【0070】
前記難燃化剤の含有量は、効果を確認しながら決めることが好ましいが、難燃性、曲げ破断歪、耐衝撃性、耐熱性、および耐ブリード性の観点から、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対し、0.5質量%〜20質量%の範囲が好ましく、1質量%〜15質量%の範囲がより好ましい。
【0071】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、さらに、金属水和物を含んでもよい。前記金属水和物においては、前記ポリ乳酸系樹脂の加水分解を抑制する観点から、金属水和物中のアルカリ金属系物質の含有量が0.2質量%以下であることが好ましい。前記アルカリ金属系物質とは、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属の酸化物または塩化物を指す。前記アルカリ金属系物質の含有量は、例えば、原子吸光法、ICP発光分光分析法等により測定できる。
【0072】
前記金属水和物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドーソナイト、アルミン酸カルシウム、水和石膏、水酸化カルシウム、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ砂、カオリンクレー、炭酸カルシウム等が挙げられ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムが好ましく、水酸化アルミニウムがより好ましい。
【0073】
また、前記金属水和物は、平均粒径10nm以下の粒状体からなるものが好ましく、平均粒径0.1μm〜5μmの粒状体からなるものがより好ましい。なお、前記金属水和物の平均粒径は、例えば、回折・散乱法によって体積基準のメジアン径を測定することにより求めることができる。前記平均粒径を測定可能な市販の装置としては、例えば、コールター社製レーザー回折・光散乱法粒度測定装置LS230等が挙げられる。
【0074】
前記金属水和物には、シランカップリング剤によって表面処理を施してもよい。シランカップリング剤によって表面処理された金属水和物を得る方法は、特に限定されず、例えば、シランカップリング剤を、アセトン、酢酸エチル、トルエン等の溶媒に溶解させた溶液を、アルカリ金属系物質の含有量が0.2質量%以下の金属水和物の表面に噴霧または塗工した後、乾燥して溶媒を除去する方法等が挙げられる。
【0075】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、さらに、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物中で繊維構造(フィブリル状構造)を形成する含フッ素ポリマーを含むことが好ましい。前記含フッ素ポリマーを配合することにより、燃焼時のドリップ現象を防止することが可能となる。
【0076】
前記含フッ素ポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等)、部分フッ素化ポリマー等が挙げられる。また、前記含フッ素ポリマーとして、ファインパウダー状のフルオロポリマー、フルオロポリマーの水性ディスパー、粉体状のフルオロポリマー・アクリロニトリル・スチレン共重合混合物、粉体状のフルオロポリマー・ポリメチルメタクリレート混合物等の様々な形態のフルオロポリマーを用いることもできる。
【0077】
前記含フッ素ポリマーの配合量の下限値は、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対し、好ましくは、0.05質量%以上、より好ましくは、0.1質量%以上である。また、前記含フッ素ポリマーの配合量の上限値は、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対し、好ましくは、5質量%以下、より好ましくは、1質量%以下、さらに好ましくは、0.8質量%以下である。前記含フッ素ポリマーの配合量が0.05質量%以上であると、燃焼時のドリッピング防止効果が安定して得られる。前記含フッ素ポリマーの配合量が0.1質量%以上であると、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物の難燃性が一層良好となる。前記含フッ素ポリマーの配合量が5質量%以下であると、樹脂中に分散しやすいため、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物と均一に混合することが容易となり、難燃性を有する樹脂組成物の安定生産が可能となる。前記含フッ素ポリマーの配合量が1質量%以下であると、難燃性が一層良好となる。前記含フッ素ポリマーの配合量が0.8質量%以下であると、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物の難燃性がより一層良好となる。
【0078】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、その機能を阻害しない範囲において、各種の結晶核剤、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、着色剤、蛍光増白剤、充填材、離型剤、軟化材、帯電防止剤等の添加剤、衝撃性改良剤、金属水酸化物やホウ酸塩等の吸熱剤、メラミン類等の窒素化合物、ハロゲン系難燃剤等を含んでもよい。
【0079】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物が結晶性樹脂を含有する場合、成形品の成形において、流動開始温度が低い非晶質分の結晶化をより促進させるために、結晶核剤を使用することが好ましい。前記結晶核剤は、成形品の成形時にそれ自身が結晶核となり、樹脂の構成分子を規則的な三次元構造に配列させるように作用し、成形品の成形性、成形時間の短縮、機械的強度、耐熱性の向上を図ることができる。さらに、前記結晶核剤は、非晶質分の結晶化が促進されることにより、成形時の金型温度が高い場合であっても成形品の変形が抑制され、成形後の離型を容易にする。金型温度が樹脂のガラス転移温度(Tg)よりも高い場合であっても同様の効果が得られる。
【0080】
前記結晶核剤としては、無機系の結晶核剤および有機系の結晶核剤が挙げられる。前記無機系の結晶核剤としては、例えば、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、窒化硼素、合成珪酸、珪酸塩、シリカ、カオリン、カーボンブラック、亜鉛華、モンモリロナイト、粘土鉱物、塩基性炭酸マグネシウム、石英粉、ガラスファイバー、ガラス粉、ケイ藻土、ドロマイト粉、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アンチモン、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、アルミナ、ケイ酸カルシウム、窒化ホウ素等を使用することができる。前記有機系の結晶核剤としては、例えば、
(1)有機カルボン酸類:オクチル酸、トルイル酸、ヘプタン酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルチミン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、テレフタル酸、テレフタル酸モノメチルエステル、イソフタル酸、イソフタル酸モノメチルエステル、ロジン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、コール酸等、
(2)有機カルボン酸アルカリ金属塩および有機カルボン酸アルカリ土類金属塩:前記有機カルボン酸のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩等、
(3)カルボキシル基の金属塩を有する高分子有機化合物:ポリエチレンの酸化によって得られるカルボキシル基含有ポリエチレン、ポリプロピレンの酸化によって得られるカルボキシル基含有ポリプロピレン、エチレン、プロピレン、ブテン−1等のオレフィン類とアクリル酸またはメタクリル酸との共重合体、スチレンとアクリル酸またはメタクリル酸との共重合体、オレフィン類と無水マレイン酸との共重合体、スチレンと無水マレイン酸との共重合体等の金属塩等、
(4)脂肪族カルボン酸アミド:オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、N−オレイルパルミトアミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N,N’−エチレンビス(ステアロアミド)、N,N’−メチレンビス(ステアロアミド)、メチロール・ステアロアミド、エチレンビスオレイン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスラウリン酸アマイド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アマイド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アマイド、ブチレンビスステアリン酸アマイド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジステアリルアジピン酸アミド、N’−ジステアリルセバシン酸アミド、m−キシリレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド、N,N’−ジステアリルテレフタル酸アミド、N−オレイルオレイン酸アミド、N−ステアリルオレイン酸アミド、N−ステアリルエルカ酸アミド、N−オレイルステアリンアミド、N−ステアリルステアリン酸アミド、N−ブチル−N’−ステアリル尿素、N−プロピル−N’−ステアリル酸尿素、N−アリル−N’−ステアリル尿素、N−フェニル−N’−ステアリル尿素、N−ステアリル−N’−ステアリル尿素、ジメチトール油アマイド、ジメチルラウリン酸アマイド、ジメチルステアリン酸アマイド、N,N’−シクロヘキサンビス(ステアロアミド)、N−ラウロイルーL−グルタミン酸−α,γ−n−ブチルアミド等、
(5)高分子有機化合物:3,3−ジメチルブテン−1,3−メチルブテン−1,3−メチルペンテン−1,3−メチルヘキセン−1,3,5,5−トリメチルヘキセン−1等の炭素数5以上の3位分岐α−オレフィン、並びにビニルシクロペンタン、ビニルシクロヘキサン、ビニルノルボルナン等のビニルシクロアルカンの重合体、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール、ポリグリコール酸、セルロース、セルロースエステル、セルロースエーテル、ポリエステル、ポリカーボネート等、
(6)リン酸または亜リン酸の有機化合物およびそれらの金属塩:リン酸ジフェニル、亜リン酸ジフェニル、リン酸ビス(4−tert−ブチルフェニル)ナトリウム、リン酸メチレン(2,4−tert−ブチルフェニル)ナトリウム等、
(7)ビス(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、ビス(p−エチルベンジリデン)ソルビトール等のソルビトール誘導体、
(8)コレステリルステアレート、コレステリロキシステアラミド等のコレステロール誘導体、
(9)無水チオグリコール酸、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸アミドおよびそれらの金属塩等、
(10)フェニルホスホン酸およびその金属塩等を挙げることができる。
【0081】
これらのうち、ポリエステルの加水分解を促進しない中性物質からなる結晶核剤が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物が加水分解を受けて分子量が低下するのを抑制できるため、好ましい。また、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物のエステル交換反応による低分子量化を抑制するため、カルボキシ基を有する結晶核剤よりもその誘導体であるエステルやアミド化合物の方が好ましく、同様に、ヒドロキシ基を有する結晶核剤よりもその誘導体であるエステルやエーテル化合物の方が好ましい。
【0082】
前記無機系の結晶核剤については、射出成形等において高温溶融状態で樹脂と相溶あるいは微分散し、金型内での成形冷却段階で析出あるいは相分離し、結晶核として作用する、タルク等の層状化合物が好ましい。前記結晶核剤としては、無機系の結晶核剤と有機系の結晶核剤を併用してもよく、複数種を組み合わせて使用することもできる。前記結晶核剤の含有量は、組成物中、0.1質量%〜20質量%の範囲であることが好ましい。
【0083】
熱安定剤および酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール類、リン化合物、ヒンダードアミン、イオウ化合物、銅化合物、アルカリ金属のハロゲン化物、ビタミンE等を挙げることができる。これらは、前記ポリ乳酸系樹脂に対して、0.5質量%以下の範囲で用いることが好ましい。
【0084】
充填材としては、例えば、ガラスビーズ、ガラスフレーク、タルク粉、クレー粉、マイカ、ワラストナイト粉、シリカ粉等を挙げることができる。
【0085】
耐衝撃性改良材としては、柔軟成分を使用することができる。前記柔軟成分としては、例えば、ポリエステルセグメント、ポリエーテルセグメント、ポリヒドロキシカルボン酸セグメント等のポリマーブロック(共重合体)、ポリ乳酸セグメント、芳香族ポリエステルセグメントおよびポリアルキレンエーテルセグメントが互いに結合されてなるブロック共重合物、ポリ乳酸セグメントとポリカプロラクトンセグメントからなるブロック共重合物、不飽和カルボン酸アルキルエステル系単位を主成分とする重合体、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリカブロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキセンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート等の脂肪族ポリエステル、ポリエチレングリコールおよびそのエステル、ポリグリセリン酢酸エステル、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油、エポキシ化亜麻仁油脂肪酸ブチル、アジピン酸系脂肪族ポリエステル、アセチルクエン酸トリブチル、アセチルリシノール酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、アジピン酸ジアルキルエステル、アルキルフタリルアルキルグリコレート等の可塑剤等を挙げることができる。
【0086】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、さらに、必要に応じて他の熱可塑性樹脂、例えば、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、これらのアロイ等を含んでもよい。結晶性を有する熱可性樹脂、例えば、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、これらの前記ポリ乳酸系樹脂とのアロイ等を使用することが好ましい。
【0087】
また、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、さらに、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、シアネート系樹脂、イソシアネート系樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化型ポリイミド、熱硬化型ポリアミド、スチリルピリジン系樹脂、ニトリル末端型樹脂、付加硬化型キノキサリン、付加硬化型ポリキノキサリン樹脂等の熱硬化性樹脂や、リグニン、ヘミセルロース、セルロース等の植物原料を使用した熱硬化性樹脂を含んでもよい。前記熱硬化性樹脂を使用する場合、硬化反応に必要な硬化剤や硬化促進剤を使用することが好ましい。
【0088】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、例えば、つぎのようにして製造することができる。すなわち、まず、前記ポリ乳酸系樹脂、前記炭素繊維、前記膨張性黒鉛および必要に応じて他の添加成分を混合攪拌する。この混合攪拌には、後述のポリ乳酸系樹脂の製造において剪断力を付与する装置と同様の装置を用いることができる。熱伝導性付与剤として、炭素繊維に代えて、または炭素繊維と併用して、銅めっきアラミド繊維やステンレス繊維等を使用する場合、銅めっきアラミド繊維やステンレス繊維等を配合したコンパウンドのペレット(マスターバッチ化ペレット)を用いることができる。前記炭素繊維、前記ペレットおよび前記膨張性黒鉛を、サイドフィード等から供給すれば、前記炭素繊維、前記銅めっきアラミド繊維や前記ステンレス繊維等および前記膨張性黒鉛の破断や粉砕を抑制できる。また、前記ペレットを使用する場合、前記ペレットと前記ポリ乳酸系樹脂のペレットとをドライブレンドし、射出成形をすることで、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物の成形体を得ることができる。前記混合攪拌工程による剪断力を経ないことで、前記銅めっきアラミド繊維や前記ステンレス繊維等の破断や粉砕を大幅に抑制できる。
【0089】
前記ポリ乳酸系樹脂は、例えば、予め製造した前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と、前記ポリ乳酸系化合物とを、前記アミノ基が所定の割合となるような割合で配合し、溶融状態で剪断力を加えつつ混合攪拌して得ることができる。なお、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントが、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と、前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物との反応物で構成される場合は、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物、前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物および前記ポリ乳酸系化合物を同時に配合して混合攪拌してもよいが、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と前記ポリ乳酸系化合物との反応を先行して行い、その後、前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物の反応を行うことが好ましい。溶融したポリ乳酸系化合物とアミノ基含有ポリシロキサン化合物に剪断力を与えるには、例えば、ロール、押出機、ニーダ、還流装置のある回分式混練機等の装置を用いることができる。前記押出機としては、単軸、または多軸でベント付きのものを採用することが、原料の供給、製品の取り出しが容易である点から好ましい。剪断時の温度は、原料のポリ乳酸系化合物の溶融流動温度以上、好ましくは、前記溶融流動温度より10℃以上高く、分解温度以下の温度とすることが好ましい。溶融剪断時間は、例えば、0.1分〜30分の範囲が好ましく、より好ましくは、0.5分〜10分の範囲である。前記溶融剪断時間が0.1分以上であれば、前記ポリ乳酸系化合物と前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物との反応が充分に行われる。前記溶融剪断時間が30分以下であれば、得られるポリ乳酸系樹脂の分解を抑制することができる。
【0090】
前記ポリ乳酸系化合物は、溶融重合法、または、溶融重合法および固相重合法を併用して製造することができる。これらの方法において、前記ポリ乳酸系化合物のメルトフローレートを所定の範囲に調節する方法として、前記メルトフローレートが過大の場合は、少量の鎖長延長剤、例えば、ジイソシアネート化合物、エポキシ化合物、酸無水物等を用いて樹脂の分子量を増大させる方法を使用することができる。また、前記メルトフローレートが過小の場合は、前記メルトフローレートの大きな生分解性ポリエステル樹脂や低分子量化合物と混合する方法を使用することができる。
【0091】
前記ポリ乳酸系樹脂としては、例えば、下記式(3)〜(5)、下記式(8)、下記式(11)および下記式(13)〜(18)で表されるものを挙げることができる。
【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

【化18】

【化19】

前記式(3)〜(5)、(8)、(11)および(13)〜(18)において、
、R、R〜R、R4’10〜R14およびR10’は、それぞれ、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、−(CHα−NH−C(αは、1〜8の整数)を表し、これらは、ハロゲン原子で全部若しくは一部が置換されていてもよく、R、R、R〜R、R4’10〜R14およびR10’は同一でも異なっていてもよく、
、R、R15およびR16は、それぞれ、2価の有機基を表し、R、R、R15およびR16は同一でも異なっていてもよく、
17は、炭素数18以下のアルキル基を表し、
d’、e’、h’、i’、n’およびb’は、それぞれ、0以上の整数を表し、
f、g、j、k、aおよびcは、それぞれ、1以上の整数を表し、
XおよびWは、それぞれ、下記式(6)で示される基を表す。
【化20】

前記式(6)において、
17は、炭素数18以下のアルキル基を表し、
b’は、0以上の整数を表し、
aおよびcは、1以上の整数を表す。
【0092】
これらの式に示すポリ乳酸系樹脂においては、繰返し単位数a、b’、d’、e’、f、g、h’、i’、jおよびkによってそれぞれ繰り返される繰返し単位は、同種の繰返し単位が連続して接続されても、交互に繰り返されてもよい。また、前記式(6)におけるアルキル基としては、メチル基が特に好ましい。
【0093】
本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、未反応の前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物や、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物との反応物を含んでもよい。本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、未反応の前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物や、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物との反応物との親和性が高いため、成形品においてポリシロキサン化合物がブリードせずに、耐衝撃性、柔軟性を向上させることができる。
【0094】
本発明によれば、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物を用いて成形された成形品を得ることができる。前記成形品の成形方法としては、例えば、射出成形、射出・圧縮成形、押出成形、金型成形を使用することができる。製造工程中、または、成形後、結晶化を促進することが、耐衝撃性、機械的強度に優れた成形品が得られることから好ましい。結晶化を促進する方法としては、前記結晶核剤を前記範囲で使用する方法を挙げることができる。
【0095】
このような成形品は、高度な難燃性と熱伝導性とを有し、耐衝撃性に優れ、機械的強度に優れると共に、ブリードによる変質が抑制され、各種、電気、電子、自動車等の部品に好適である。
【実施例】
【0096】
つぎに、本発明の実施例について比較例および参考例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例および比較例により限定および制限されない。本発明の実施例および比較例に使用した各原料の詳細は、下記のとおりである。
【0097】
1.ポリ乳酸系化合物(PLA)
(PLA−1):ユニチカ(株)製のテラマックTE−4000N(融点170℃)
(PLA−2):ユニチカ(株)製のテラマックTP−4000(融点170℃)
【0098】
2.アミノ基含有ポリシロキサン化合物(C)
アミノ基含有ポリシロキサン化合物(C)として使用した側鎖ジアミノ型ポリシロキサン化合物(C1−4)を、表1に示す。なお、アミノ基含有ポリシロキサン化合物は、例えば、シリコーンハンドブック(日刊工業新聞社発行p.165)等の記載に従って製造でき、例えば、アミノアルキルメチルジメトキシシランの加水分解により得られたシロキサンオリゴマ−と環状シロキサンおよび塩基性触媒を用いて合成する。
【表1】

【0099】
3.エポキシ基含有ポリシロキサン化合物(D)
エポキシ基含有ポリシロキサン化合物(D)として使用した両末端エポキシ型ポリシロキサン化合物(D1)を、表2に示す。なお、エポキシ基含有ポリシロキサン化合物は、例えば、シリコーンハンドブック(日刊工業新聞社発行p.164)等の記載に従って製造でき、例えば、Si−H基を有するジメチルポリシロキサンとアリルグリジシルエーテル等の不飽和エポキシ化合物を白金触媒下で付加反応する。
【表2】

【0100】
4.有機系の結晶核剤(E)
有機系の結晶核剤(E)としては、下記2つを用いた。
E−1:伊藤製油(株)製のITOHWAX J−530(N.N’−エチレンビス12ヒドロキシステアリルアミド)
E−2:日産化学工業(株)製のエコプロモート(フェニルホスホン酸亜鉛)
【0101】
5.炭素繊維(F)
炭素繊維(F)としては、繊維長6mmの異方性を有するピッチ系の炭素繊維を用いた。
炭素繊維(F):三菱樹脂(株)製 ダイアリード K6371T
その物性を、表3に示す。
【表3】

【0102】
6.膨張性黒鉛(G)
膨張性黒鉛(G)としては、下記2つを用いた。
G−1:東ソー(株)製の「GREP−EG」
(粒度 48mesh≧65%(300μm目開き))
G−2:エア・ウォーター社製の「モエヘンZ」MZ−600
(粒度 80mesh≧80%(180μm目開き))
【0103】
7.リン系難燃化剤(H)
リン系難燃化剤(H)としては、下記を用いた。
H:大塚化学(株)製の環状フェノキシホスファゼン(SPS−100)
【0104】
8.金属水和物(I)
金属水和物(I)としては、下記を用いた。
I−1:昭和電工(株)製のイソシアネートシランカップリング剤1%処理水酸化アルミニウム(HP−350−ICN*、平均粒子径:3.1μm、組成:Al(OH)(99.94%)、SiO(0.01%)、Fe(0.01%)、NaO(0.04%、アルカリ金属系物質))
I−2:昭和電工(株)製の水酸化アルミニウム(HP−350、平均粒子径:3.2μm、組成:Al(OH)(99.95%)、SiO(0.01%)、Fe(0.01%)、NaO(0.03%、アルカリ金属系物質))
【0105】
9.含フッ素ポリマー(J)
含フッ素ポリマー(J)としては、下記を用いた。
J:ダイキン社製のポリテトラフルオロエチレン(ポリフロンFA−500)
【0106】
10.結晶核剤(K)
結晶核剤(K)としては、下記を用いた。
K:ラインケミー(株)製のポリジイソプロピルフェニルカルボジイミド(スタバクゾールP)
【0107】
11.可塑剤(M)
可塑剤(M)としては、下記を用いた。
M:大八化学工業(株)製のアジピン酸エステル(DAIFATTY−101)
【0108】
12.銅めっきアラミド繊維(Cu)
銅めっきアラミド繊維(Cu)としては、下記を用いた。
Cu:東洋インキ製造(株)製の銅めっきアラミド繊維マスターバッチ(EMI−AGR26156)
【0109】
[実施例1〜41、比較例1〜15および参考例]
ポリ乳酸系化合物と、必要に応じて有機系の結晶核剤(E)、リン系難燃化剤(H)、金属水和物(I)、および含フッ素ポリマー(J)を表5〜表13に示す配合でドライブレンドした混合物を、シリンダー温度が190℃に設定された連続混練押出機(ベルストルフ製のZE40A×40D、L/D=40、スクリュー径φ40)のホッパー口から供給し、さらに、アミノ基含有ポリシロキサン化合物(C1−4)とエポキシ基含有ポリシロキサン化合物(D1)を表5〜表13に示す配合で、ベント口から別々に投入し、さらに炭素繊維(F)、膨張性黒鉛(G)および銅めっきアラミド繊維マスターバッチ(Cu)をサイドフィード口から、1時間当たりの供給量の合計が15〜20kgとなるように供給した。スクリューを150rpmで回転させ、溶融剪断下において混合撹拌した後、押出機のダイス口からストランド状に押出し、それを水中で冷却した後、ペレット状に切断し、ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットを得た。
【0110】
得られたペレットを100℃で5時間乾燥した後、射出成形機(東芝機械製のEC20P−0.4A、成形温度:190℃、金型温度:25℃)を用いて試験片(125×13×1.6mmまたは3.2mm)を成形し、下記の方法により難燃性評価、アイゾット衝撃強度および曲げ歪の評価、並びに熱伝導性評価を行った。その結果を、表5〜表13および図1に示す。
【0111】
[実施例42]
表14の配合のうち、銅めっきアラミド繊維マスターバッチ(Cu)を除いた成分について、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物のペレットの製造方法と同様にして得たペレットを、100℃で5時間乾燥した後、銅めっきアラミド繊維マスターバッチ(Cu)とドライブレンドし、射出成形機(東芝機械製のEC20P−0.4A、成形温度:190℃、金型温度:25℃)を用いて試験片(125×13×1.6mmまたは3.2mm)を成形し、下記の方法により難燃性評価、アイゾット衝撃強度および曲げ歪の評価並びに熱伝導性評価を行った。その結果を、表14に示す。
【0112】
(難燃性評価)
難燃性評価は、射出成形により得た難燃性評価用の試験片(125mm×13mm×1.6mmまたは3.2mm)を温度23℃、湿度50%の恒温室中に48時間放置した後、アンダーライターズ・ラボラトリーズが定めているUL94試験(機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験)に準拠して行った。UL94Vとは、鉛直に保持した所定の大きさの試験片にバーナーの炎を10秒間接炎した後の残炎時間およびドリップ性等から難燃性を評価する方法であり、下記表4に示すクラスに分けられる。
【表4】

【0113】
なお、上記分類以外の燃焼形態をとる場合は、notV−2と分類した。評価結果を、難燃性が良好な方から並べると、V−0、V−1、(V−2またはnotV−2)となる。
【0114】
上記残炎時間とは、着火源を遠ざけた後の、試験片が有炎燃焼を続ける時間の長さであり、t1は、1回目の接炎終了後の前記残炎時間、t2は、2回目の接炎終了後の前記残炎時間、t3は、2回目の接炎終了後のアフターグロー(無炎燃焼)時間である。2回目の接炎は、1回目の接炎後、炎が消えた後、直ちに試験片にバーナーの炎を10秒間接炎することで行なう。また、上記ドリップによる綿の着火とは、試験片の下端から約300mm下にある標識用の綿が、試験片からの滴下(ドリップ)物によって着火されるかどうかによって決定される。なお、試料片が燃え尽きてしまう等して、残炎時間が計測できない場合、表中には「−」と示した。
【0115】
(アイゾット衝撃強度および曲げ歪の評価)
試験片を110℃の恒温室の中で2時間放置し、結晶化させた後、室温まで戻し、アイゾット衝撃強度および曲げ特性を評価した。アイゾット衝撃強度の測定は、JIS K7110に準拠し、試験片のノッチ付けおよび衝撃強度の測定を行った。曲げ特性は、ASTM D790に基づいて万能試験機(インストロン製の5567)を用いて評価した。
【0116】
(熱伝導性評価)
試験片(125mm×13mm×1.6mm)を支持台に固定し、予め80℃に加熱したラバーヒーターで試験片の一部に定常熱を負荷した。ラバーヒーターとの接触部分から試験片全体に熱が拡散していく様子を赤外線サーモトレーサー(NEC三栄製のサーモスキャナTS5304)で測定し、図1に示すサーモグラフィー解析により、面内熱伝導性(面内熱拡散性)を評価した。図1において、左が実際のサーモグラフィー解析画像であり、右がその模式図である。試験片の熱伝導性aを、試験片と同形のステンレス板の熱伝導性bに対する比、a/bの値として、下記基準により評価した。なお、前記比a/bは、前記サーモグラフィー解析において、色(温度)のグラデーションが出るようにスケールを調節し、同じ色(温度)を示す部分同士の高さを比べたものである。図1に示した例では、橙と黄との境界の高さを比べている。
◎:a/bが0.9以上
○:a/bが0.5以上0.9未満
△:a/bが0.3以上0.5未満
×:a/bが0.3未満
【0117】
【表5】

【0118】
【表6】

【0119】
前記表5および表6に示すとおり、実施例1〜6のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、比較例1〜6および参考例1の樹脂組成物に比べ、高度な難燃性と熱伝導性を持ちつつ、良好な衝撃強度および破断曲げ歪を有することがわかった。
【0120】
【表7】

【0121】
前記表7に示すとおり、実施例7〜12のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリシロキサン変性をしていない比較例7〜9のポリ乳酸系樹脂組成物に比べ、高度な難燃性と熱伝導性を持ちつつ、良好な衝撃強度および破断曲げ歪を有することがわかった。
【0122】
【表8】

【0123】
前記表8に示すとおり、実施例13〜15のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、難燃性に優れていることがわかる。粒径の細かい膨張性黒鉛(G−2)を使用する場合には、金属水和物(I)との併用により、高度な難燃性と熱伝導性に加え、良好な衝撃強度および破断曲げ歪が得られることがわかった。
【0124】
【表9】

【0125】
前記表9の実施例16〜18からは、可塑剤(M)を併用することにより、高度な難燃性と熱伝導性を持ちつつ、衝撃強度および破断曲げ歪がさらに改善されることがわかる。また、実施例18のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリシロキサン変性をしていない比較例11のポリ乳酸系樹脂組成物に比べ、優れた難燃性を持ちつつ、良好な熱伝導性、衝撃強度および破断曲げ歪を有していることがわかる。さらにまた、実施例18〜19のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、炭素繊維(F)を含有していない比較例12のポリ乳酸系樹脂組成物に比べ、優れた難燃性を持ちつつ、良好な熱伝導性、衝撃強度および破断曲げ歪を有していることがわかる。そして、実施例18と実施例20を比較すると、粒径の細かい膨張性黒鉛(G−2)を使用する場合には、リン系難燃化剤(H)との併用により、さらに高度な難燃性が得られ、かつ、優れた熱伝導性、良好な衝撃強度および破断曲げ歪が得られることがわかった。
【0126】
【表10】

【0127】
前記表10に示すとおり、実施例21〜22、23〜26のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、高度な難燃性と熱伝導性を持ちつつ、良好な衝撃強度および破断曲げ歪を有する。これらの結果から、可塑剤(M)を併用することにより、高度な難燃性と熱伝導性を持ちつつ、衝撃強度および破断曲げ歪がさらに改善されることがわかった。また、実施例23および実施例26のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、ポリシロキサン変性をしていない比較例13および比較例14のポリ乳酸系樹脂組成物に比べ、優れた難燃性を持ちつつ、良好な熱伝導性、衝撃強度および破断曲げ歪を有していることがわかる。
【0128】
【表11】

【0129】
前記表11に示すとおり、実施例27〜28のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、高度な難燃性と熱伝導性を持ちつつ、良好な衝撃強度および破断曲げ歪を有する。これらの結果から、可塑剤(M)を併用することにより、高度な難燃性と熱伝導性を持ちつつ、衝撃強度および破断曲げ歪がさらに改善されることがわかった。
【0130】
【表12】

【0131】
前記表12に示すとおり、実施例29〜35のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、高度な難燃性と熱伝導性を持ちつつ、良好な衝撃強度および破断曲げ歪を有する。
【0132】
【表13】

【0133】
前記表13に示すとおり、実施例36〜41のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、高度な難燃性と熱伝導性を持ちつつ、良好な衝撃強度および破断曲げ歪を有する。一方、比較例15の、膨張性黒鉛(G−2)を用いていないポリ乳酸系樹脂組成物では、高度な難燃性が得られないことがわかる。
【0134】
【表14】

【0135】
前記表14に示すとおり、実施例42のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、高度な難燃性と熱伝導性を持ちつつ、良好な衝撃強度および破断曲げ歪を有する。
【産業上の利用可能性】
【0136】
以上のように、本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物は、高度な難燃性と熱伝導性とを有し、さらに優れた耐衝撃性と柔軟性とを有するものである。本発明のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物の用途は、特に限定されず、例えば、家電製品、OA機器のハウジング、自動車部品等に広く適用可能である。
【0137】
上記の実施形態の一部または全部は、以下の付記のようにも記載しうるが、以下には限定されない。
【0138】
(付記1)ポリ乳酸系樹脂、熱伝導性付与剤および膨張性黒鉛とを含み、
前記ポリ乳酸系樹脂が、
ポリ乳酸系化合物のセグメントと、
アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントとを有し、
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量が、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、
前記ポリ乳酸系化合物に対する前記アミノ基の配合量が、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であることを特徴とするポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【0139】
(付記2)前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物が、前記式(1)で表される化合物および前記式(2)で表される化合物の少なくとも一方の化合物を含むことを特徴とする付記1に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【0140】
(付記3)前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントが、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と、エポキシ基を有するエポキシ基含有ポリシロキサン化合物との反応物で構成されるセグメントを含むことを特徴とする付記1または付記2に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【0141】
(付記4)前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物が、前記式(12)、前記式(19)、前記式(20)および前記式(21)でそれぞれ表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含み、前記式(19)および(21)で表される化合物のエポキシ基含有量が、2質量%未満であることを特徴とする付記3に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【0142】
(付記5)前記ポリ乳酸系樹脂が、前記式(3)〜(5)、前記式(8)、前記式(11)および前記式(13)〜(18)でそれぞれ表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含むことを特徴とする付記1から4のいずれかに記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【0143】
(付記6)前記式(6)において、R17がメチル基であることを特徴とする付記5に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【0144】
(付記7)さらに、リン系難燃化剤を含み、前記リン系難燃化剤の含有量が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対し、0.5質量%〜20質量%の範囲であることを特徴とする付記1から6のいずれかに記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【0145】
(付記8)さらに、アルカリ金属系物質の含有量が0.2質量%以下である金属水和物を含み、前記金属水和物の含有量が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対し、0.05質量%〜40質量%の範囲であることを特徴とする付記1から7のいずれかに記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【0146】
(付記9)さらに、含フッ素ポリマーを含み、前記含フッ素ポリマーの含有量が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対し、0.05質量%〜5質量%の範囲であることを特徴とする付記1から8のいずれかに記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【0147】
(付記10)さらに、可塑剤を含み、前記可塑剤の含有量が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対し、0.05質量%〜20質量%の範囲であることを特徴とする付記1から9のいずれかに記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【0148】
(付記11)前記熱伝導性付与剤が、炭素繊維および銅めっきアラミド繊維の少なくとも一方である付記1から10のいずれかに記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【0149】
(付記12)付記1から11のいずれかに記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物で成形されたことを特徴とする成形品。
【0150】
(付記13)射出成形、射出・圧縮成形、押出成形および金型成形からなる群から選択される少なくとも一つの成形方法によって成形されることを特徴とする付記12記載の成形品。
【0151】
(付記14)アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物と、溶融状態のポリ乳酸系化合物とを混合撹拌し、さらに、熱伝導性付与剤および膨張性黒鉛を混合撹拌する工程を有し、
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量が、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、
前記ポリ乳酸系化合物に対する前記アミノ基の配合量が、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であることを特徴とするポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法。
【0152】
(付記15)前記熱伝導性付与剤として、炭素繊維および銅めっきアラミド繊維の少なくとも一方を用いる付記14に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法。
【0153】
(付記16)付記14または15に記載の製造方法により製造されることを特徴とするポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸系樹脂、熱伝導性付与剤および膨張性黒鉛を含み、
前記ポリ乳酸系樹脂が、
ポリ乳酸系化合物のセグメントと、
アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントとを有し、
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量が、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、
前記ポリ乳酸系化合物に対する前記アミノ基の配合量が、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であることを特徴とするポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項2】
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物が、下記式(1)で表される化合物および下記式(2)で表される化合物の少なくとも一方の化合物を含むことを特徴とする請求項1記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【化1】

【化2】

前記式(1)および(2)において、
〜R、R4’、R10〜R14およびR10’は、それぞれ、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、−(CHα−NH−C(αは、1〜8の整数)を表し、これらは、ハロゲン原子で全部若しくは一部が置換されていてもよく、R〜R、R4’、R10〜R14およびR10’は同一でも異なっていてもよく、
、R15およびR16は、それぞれ、2価の有機基を表し、R、R15およびR16は同一でも異なっていてもよく、
d’およびh’は、それぞれ、0以上の整数を表し、
eおよびiは、それぞれ、1以上の整数を表す。
【請求項3】
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物のセグメントが、前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物と、エポキシ基を有するエポキシ基含有ポリシロキサン化合物との反応物で構成されるセグメントを含むことを特徴とする請求項1または2記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項4】
前記エポキシ基含有ポリシロキサン化合物が、下記式(12)、下記式(19)、下記式(20)および下記式(21)でそれぞれ表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含み、前記式(19)および(21)で表される化合物のエポキシ基含有量が、2質量%未満であることを特徴とする請求項3記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

前記式(12)、(19)、(20)および(21)において、
、RおよびR18〜R21は、それぞれ、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、−(CHα−NH−C(αは、1〜8の整数)を表し、これらは、ハロゲン原子で全部若しくは一部が置換されていてもよく、R、R、R18〜R21は同一でも異なっていてもよく、
は、2価の有機基を表し、
l’およびn’は、それぞれ、0以上の整数を表し、
mは、1以上の整数を表す。
【請求項5】
前記ポリ乳酸系樹脂が、下記式(3)〜(5)、下記式(8)、下記式(11)および下記式(13)〜(18)でそれぞれ表される化合物からなる群から選択される少なくとも一種の化合物を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【化17】

前記式(3)〜(5)、(8)、(11)および(13)〜(18)において、
、R、R〜R、R4’10〜R14およびR10’は、それぞれ、炭素数18以下のアルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基、アルキルアリール基、−(CHα−NH−C(αは、1〜8の整数)を表し、これらは、ハロゲン原子で全部若しくは一部が置換されていてもよく、R、R、R〜R、R4’10〜R14およびR10’は同一でも異なっていてもよく、
、R、R15およびR16は、それぞれ、2価の有機基を表し、R、R、R15およびR16は同一でも異なっていてもよく、
17は、炭素数18以下のアルキル基を表し、
d’、e’、h’、i’、n’およびb’は、それぞれ、0以上の整数を表し、
f、g、j、k、aおよびcは、それぞれ、1以上の整数を表し、
XおよびWは、それぞれ、下記式(6)で示される基を表す。
【化18】

前記式(6)において、
17は、炭素数18以下のアルキル基を表し、
b´は、0以上の整数を表し、
aおよびcは、それぞれ、1以上の整数を表す。
【請求項6】
さらに、リン系難燃化剤を含み、
前記リン系難燃化剤の含有量が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対し、0.5質量%〜20質量%の範囲であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、アルカリ金属系物質の含有量が0.2質量%以下である金属水和物を含み、
前記金属水和物の含有量が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対し、0.05質量%〜40質量%の範囲であることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項8】
さらに、含フッ素ポリマーを含み、
前記含フッ素ポリマーの含有量が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対し、0.05質量%〜5質量%の範囲であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項9】
さらに、可塑剤を含み、
前記可塑剤の含有量が、前記ポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物に対し、0.05質量%〜20質量%の範囲であることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載のポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物。
【請求項10】
アミノ基を側鎖に有するアミノ基含有ポリシロキサン化合物と、溶融状態のポリ乳酸系化合物とを混合撹拌し、さらに、熱伝導性付与剤および膨張性黒鉛を混合撹拌する工程を有し、
前記アミノ基含有ポリシロキサン化合物に対する前記アミノ基の含有量が、0.01質量%〜2.5質量%の範囲であり、
前記ポリ乳酸系化合物に対する前記アミノ基の配合量が、3質量ppm〜300質量ppmの範囲であることを特徴とするポリシロキサン変性ポリ乳酸系樹脂組成物の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2012−72351(P2012−72351A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95518(P2011−95518)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】