説明

ポリスルホン系樹脂溶液組成物、それを用いた積層体及びポリスルホン系樹脂フィルム

【課題】基材表面に塗布したときに、平滑な塗布層を形成し、しかも、安全性の高いポリスルホン系樹脂溶液組成物、それを用いた積層体及びポリスルホン系樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】環状ジエーテル化合物(a)及び環状ケトン類(b)、又は環状ジエーテル化合物(a)、環状ケトン類(b)及び直鎖状ケトン類(c)からなる混合溶媒(A)と、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂(B)とを含むポリスルホン系樹脂溶液組成物であって、各溶媒成分の混合割合(質量比)は、前者の混合溶媒(A)の場合では、(a):(b)=15〜50:85〜50であり、後者の混合溶媒(A)の場合では、(a):(b)+(c)=15〜50:85〜50、かつ(b):(c)=40〜100:60〜0であることを特徴とするポリスルホン系樹脂溶液組成物、それを用いた積層体及びポリスルホン系樹脂フィルムなどを提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリスルホン系樹脂溶液組成物、それを用いた積層体及びポリスルホン系樹脂フィルムに関し、更に詳しくは、基材表面に塗布したときに、平滑な塗布層を形成し、かつ有害な成分を発生させることがないポリスルホン系樹脂溶液組成物、このポリスルホン系樹脂溶液組成物を基材表面に塗布、乾燥して得られた積層体、及びこのポリスルホン系樹脂層を形成した後、基材から前記ポリスルホン系樹脂層を剥離して得られるポリスルホン系樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエーテルスルホン樹脂などのポリスルホン系樹脂を使用する際には、ポリスルホン系樹脂の溶液組成物が用いられ、その溶剤(溶媒)として、強極性の不活性液体[DMSO(ジメチルスルホオキシド)、DMF(ジメチルホルムアミド)]を主体とし、環式脂肪族ケトンと高揮発性脂肪族ケトンを併用した混合溶媒を用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかしながら、この溶液組成物は、コーティング表面の平滑性に劣り、さらに、塗布、乾燥したとき蒸発し、廃棄のため燃焼されたときに、残留有機溶剤成分により、SOやNO等の有害成分を発生する問題がある。
【0003】
また、環境汚染、腐食の恐れのあるハロゲン系溶媒を用いないで、表面性、透明性、均質性等に優れた芳香族ポリエーテルスルホンのキャストフィルムを製造するために、1,3−ジオキソランを60重量%以上含有する溶媒15〜90重量部に対し、10重量部の芳香族ポリエーテルスルホンを溶解させた芳香族ポリエーテルスルホン溶液組成物が提案されている(特許文献2参照。)。
しかしながら、特許文献2に記載の芳香族ポリエーテルスルホン溶液組成物では、溶媒としては、1,3−ジオキソランを60重量%以上含有する溶媒であり、そして単一溶媒、すなわち100重量%の1,3−ジオキソランが好ましいと記載され、この溶媒系では、発火点の低い安全性に劣る1,3−ジオキソランを高含量にて使用するために、高温での乾燥は危険性があり、安全装置などが必要となって、製造装置(設備)が大掛かりなものになり、製品コストが高くなるという問題がある。
【0004】
そのため、基材表面に塗布したときに、平滑な塗布層を形成し、しかも、安全性の高い、ポリエーテルスルホン樹脂などのポリスルホン系樹脂に対する溶液組成物が強く望まれている。
【0005】
【特許文献1】特開昭49−110725公報(特許請求の範囲等)
【特許文献2】特開平7−300559号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、基材表面に塗布したときに、平滑な塗布層を形成し、しかも、安全性の高いポリスルホン系樹脂溶液組成物、それを用いた積層体及びポリスルホン系樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意検討した結果、難溶解性のポリスルホン系樹脂を容易に溶解させ、かつその溶液の安定性が優れて、しかも基材表面に塗布した際には、コーティング表面の平滑性に優れるという、沸点が低く乾燥しやすい溶剤でありながら発火点の高い特定の混合溶媒系を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、環状ジエーテル化合物(a)及び環状ケトン類(b)からなる混合溶媒(A)と、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂(B)とを含むポリスルホン系樹脂溶液組成物であって、
各溶媒成分の混合割合(質量比)は、
(a):(b)=15〜50:85〜50
であることを特徴とするポリスルホン系樹脂溶液組成物が提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、環状ジエーテル化合物(a)、環状ケトン類(b)及び直鎖状ケトン類(c)からなる混合溶媒(A)と、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂(B)とを含むポリスルホン系樹脂溶液組成物であって、
各溶媒成分の混合割合(質量比)は、
(a):(b)+(c)=15〜50:85〜50、かつ
(b):(c)=40〜100:60〜0
であることを特徴とするポリスルホン系樹脂溶液組成物が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、環状ジエーテル化合物(a)は、1,3−ジオキソラン(a)であることを特徴とするポリスルホン系樹脂溶液組成物が提供される。
またさらに、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、ポリスルホン系樹脂(B)の配合量は、混合溶媒(A)100重量部に対して1〜30重量部であることを特徴とするポリスルホン系樹脂溶液組成物が提供される。
【0009】
一方、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明に係るポリスルホン系樹脂溶液組成物を、基材(C)の少なくとも一方の面に塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂層(D)を形成してなることを特徴とする積層体が提供される。
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明に係るポリスルホン系樹脂溶液組成物を、基材(C)の少なくとも一方の面に塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂層(D)を形成した後、基材(C)から前記ポリスルホン系樹脂層(D)を剥離して得られるポリスルホン系樹脂フィルムが提供される。
【0010】
本発明は、上記した如く、環状ジエーテル化合物(a)及び環状ケトン類(b)、又は環状ジエーテル化合物(a)、環状ケトン類(b)及び直鎖状ケトン類(c)からなる混合溶媒(A)と、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂(B)とを含むポリスルホン系樹脂溶液組成物であって、各溶媒成分の混合割合(質量比)は、前者の混合溶媒(A)の場合では、(a):(b)=15〜50:85〜50であり、後者の混合溶媒(A)の場合では、(a):(b)+(c)=15〜50:85〜50、かつ(b):(c)=40〜100:60〜0であることを特徴とするポリスルホン系樹脂溶液組成物などに係るものであるが、その好ましい態様として、次のものが包含される。
【0011】
(1)第1又は2の発明において、ポリスルホン系樹脂(B)は、ポリスルホン樹脂(PSF)、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、又はポリフェニルスルホン樹脂(PPSU)のいずれかであることを特徴とするポリスルホン系樹脂溶液組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリスルホン系樹溶液組成物は、溶液組成物が安定し、液中に未溶解分が残ったり、液が増粘したり、ゲル化することなく、基材表面に塗布したときに、平滑な塗布層を形成し、かつ有害な成分を発生させることがない効果がある。
また、このポリスルホン系樹脂溶液組成物を基材表面に塗布、乾燥して得られた積層体は、表面平滑性に優れ、光学的な特性に優れているので耐熱性光学用フィルムとして利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明のポリスルホン系樹脂溶液組成物、それを用いた積層体及びポリスルホン系樹脂フィルムについて、各項目毎に詳細に説明する。
本発明のポリスルホン系樹脂溶液組成物は、環状ジエーテル化合物(a)及び環状ケトン類(b)、又は環状ジエーテル化合物(a)、環状ケトン類(b)及び直鎖状ケトン類(c)からなる混合溶媒(A)と、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂(B)とを含むポリスルホン系樹脂溶液組成物であって、各溶媒成分の混合割合(質量比)は、前者の混合溶媒(A)の場合では、(a):(b)=15〜50:85〜50であり、後者の混合溶媒(A)の場合では、(a):(b)+(c)=15〜50:85〜50、かつ(b):(c)=40〜100:60〜0であることを特徴とするものである。
【0014】
1.混合溶媒(A)
本発明において、混合溶媒(A)とは、ポリスルホン系樹脂を溶解し、ポリスルホン系樹脂溶解液を作製することができる混合された有機溶剤である。
本発明に係る混合溶媒(A)は、上記したように、15〜50質量%の環状ジエーテル化合物(a)と、85〜50質量%の環状ケトン類(b)と直鎖状ケトン類(c)とからなり、b/cの質量割合が40/60〜100/0の範囲である。
【0015】
(1)環状ジエーテル化合物(a)
本発明において、環状ジエーテル化合物(a)は、具体的には次の化学式(1)で表されるものが好ましく用いられる。
【0016】
【化1】

【0017】
式中、R〜Rは、水素原子又は炭素原子数の置換又は未置換のアルキル基を示す。また、RとR或いはR〜Rの少なくとも2個の基が結合し環を形成しても良い。
【0018】
このアルキル基の置換基としては任意のもので良いが、好ましくは各々炭素原子数1〜4のアルコキシ基、アシル基、アシルオキシ基あるいはヒドロキシル基が挙げられる。また、RとRが、或いはR〜Rの少なくとも2個が結合して形成される環としては、任意のものがあるが、好ましくは5〜6員の芳香環(例えばベンゼン環)又は非芳香環(例えばシクロヘキサン環)が挙げられる。
【0019】
これらの中、R〜Rの何れかが水素原子であるものが好ましく、R〜Rのすべてが水素原子であるもの、すなわち次の化学式(2)で表される1,3−ジオキソラン(a)が特に好ましい。
【0020】
【化2】

【0021】
この1,3−ジオキソランは、溶解性が高く、比較的低沸点であり、かつ安定な高濃度溶液を与える溶媒として好適に用いられる。この溶媒は、ポリエーテルスルホン樹脂などの製膜に非常に優れた溶媒であるが、空気に触れると過酸化物を生じやすい点が唯一の欠点である。
そのため、本発明においては、15〜50質量%の1,3−ジオキソラン(a)に代表される環状ジエーテル化合物(a)と、85〜50質量%の環状ケトン類(b)と直鎖状ケトン類(c)とからなり、b/cの質量割合が40/60〜100/0、好ましくは50/50〜100/0、さらに好ましくは60/40〜100/0の範囲である混合溶媒を用いる。
環状ジエーテル化合物(a)の混合割合は、15〜50質量%であり、好ましくは15〜45質量%、さらに好ましくは20〜45質量%である。混合割合をこの範囲にすることにより、基材表面に塗布したときに、平滑な塗布層を形成し、しかも、安全性の高いポリスルホン系樹脂溶液組成物を作製することができる。
【0022】
本発明において、用いることができる具体的な環状ジエーテル化合物(a)の例を下記に示す。
【0023】
【化3】

【0024】
【化4】

【0025】
【化5】

【0026】
【化6】

【0027】
(2)環状ケトン類(b)
本発明においては、混合溶媒(A)には、前記したように、環状ジエーテル化合物(a)以外に、さらに、環状ケトン類(b)、或いは環状ケトン類(b)と直鎖状ケトン類(c)を含有することが必要となる。
環状ケトン類(b)は、環内にケトン基(−CO−)をもつ環状化合物であり、例えば、シクロブタノン(沸点:100〜102℃)、シクロペンタノン(沸点:130℃)、シクロヘキサノン(沸点:156.7℃)、シクロヘプタノン(沸点:179〜181℃)、メチルシクロヘキサノン(沸点:165〜166℃)、シクロオクタノン(沸点:74℃、@1.6kPa)、シクロノナノン(沸点:93〜95℃、@1.6kPa)、シクロデカノン(沸点:107℃、@1.7kPa)、シクロウンデカノン(沸点:108℃、@1.6kPa)、シクロドデカノン(沸点:125℃、@1.6kPa)、シクロトリデカノン(沸点:138℃、@1.6kPa)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、測定圧力を記載したもの以外は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的な環状ケトン類として、シクロヘキサノンの化学式(3)を以下に示す。
【0028】
【化7】

【0029】
(3)直鎖状ケトン類(c)
本発明において、直鎖状ケトン類(c)とは、沸点が150℃以下の直鎖状ケトンであり、例えば、アセトン(沸点:100〜102℃)、メチルエチルケトン(沸点:100〜102℃)、メチルプロピルケトン(沸点:100〜102℃)、メチルn−ブチルケトン(沸点:100〜102℃))、ジエチルケトン(沸点:101.8℃)、エチル−プロピルケトン(沸点:123.2℃)、ブチル−エチルケトン(沸点:147.3℃)等が例示される。ただし、カッコ内の数値は、103.3kPa(=760mmHg)における沸点であり、これらより1種又は2種以上を用いてもよい。
代表的な直鎖状ケトン類(c)として、メチルエチルケトン(MEK)の化学式(4)を以下に示す。
【0030】
【化8】

【0031】
2.ポリスルホン系樹脂(B)
本発明において、ポリスルホン系樹脂(B)とは、主鎖に芳香環基とその結合基としてスルホン基を有する熱可塑性樹脂であり、ポリスルホン樹脂と、ポリエーテルスルホン樹脂と、ポリフェニルスルホン樹脂に大別される。
ポリスルホン樹脂(PSFと称することもある。)は、代表的には下記の化学式(5)で表されるような構造をもつポリマーであり、1965年に米国ユニオンカーバイド社から発表されたものである。
【0032】
【化9】

【0033】
上記の化学式(5)で表されるポリマーは、原料として、ビスフェノールAのアルカリ金属塩(Na塩)と、ビスフェノールSの塩素化化合物(4,4’−ジクロロジフェニルスルホン)を使用し、脱塩化ナトリウム反応で得られるが、ビスフェノールAを、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−オキシド、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−スルファイド、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−メタン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−フェニルエタン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル−パーフロロプロパン、ハイドロキノン、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニル等で置換することにより、下記の化学式(6)〜(13)で表されるポリマーが得られ、本発明において使用することができる。
【0034】
【化10】

【0035】
【化11】

【0036】
【化12】

【0037】
【化13】

【0038】
【化14】

【0039】
【化15】

【0040】
【化16】

【0041】
【化17】

【0042】
PSFとしては、ユーデル[登録商標、米国アモコ社が製造し、テイジンアモコエンジニアリング(株)が輸入販売]、及びユーデルP−3500(登録商標、日産化学工業(株)の製造販売)などが、市販品として利用できる。
【0043】
また、ポリエーテルスルホン樹脂(PESと略称することもある。)は、代表的には下記の化学式(14)で表されるような構造をもつポリマーである。
【0044】
【化18】

【0045】
PESは、ジフェニルエーテルクロロスルホンのフリーデルクラフツ反応により得られる。
PESとしては、ウルトラゾーンE[登録商標、ドイツBASF社が製造し、三井化学(株)が輸入販売]、レーデル(登録商標)A[米国アモコ社が製造し、テイジンアモコエンジニアリング(株)が輸入販売]、及びスミカエクセル[登録商標、住友化学(株)の製造販売]などが、市販品として利用できる。
【0046】
また、ポリフェニルスルホン樹脂(PPSUと称することもある。)は、代表的には下記の化学式(15)で表されるような構造をもつポリマーである。
【0047】
【化19】

【0048】
PPSUとしては、レーデル(Radel)(登録商標)Rシリーズ(R−5000、R−5500、R−5800など)[米国アモコ社が製造し、テイジンアモコエンジニアリング(株)が輸入販売]などが、市販品として利用できる。
【0049】
3.ポリスルホン系樹脂溶液組成物
本発明のポリスルホン系樹脂溶液組成物は、前記したように、15〜50質量%の環状ジエーテル化合物(a)と、85〜50質量%の環状ケトン類(b)と直鎖状ケトン類(c)とからなり、b/cの質量割合が40/60〜100/0、好ましくは50/50〜100/0、さらに好ましくは60/40〜100/0の範囲である混合溶媒(A)に、上記の少なくとも1種のポリスルホン系樹脂(B)を溶解したものであり、基材(C)、例えば基材フィルムの少なくとも一方の面に、塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂層(D)と基材(C)とからなる積層体、例えば表面保護フィルムを製造するために利用する。
ポリスルホン系樹脂溶液組成物中のポリスルホン系樹脂の配合量は、混合溶媒100重量部に対して、1〜30重量部、好ましくは5〜20重量部である。配合量が、1重量部未満であると、粘度は低くなって塗布しやすくなり、溶液組成物の寿命は長くなるものの、ポリスルホン系樹脂層(塗膜)の厚さが0.1μm未満となり、好ましくなく、一方、30重量部を超えると、粘度が高くなり均一な厚さのポリスルホン系樹脂層(塗膜)が得られず、また溶液組成物の寿命が短くなり、望ましくない。
【0050】
また、ポリスルホン系樹脂溶液組成物には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、滑剤、防カビ剤、防錆剤、レベリング剤等を必要に応じて添加することができる。尚、レベリング剤の例としては、パーフルオロアルキルスルホン酸カルシウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸カリウム塩、パーフルオロアルキルスルホン酸アンモニウム塩、パーフルオロアルキルエチレノキシド、パーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩、フッ素化アルキルエステル等を挙げることができる。
【0051】
ポリスルホン系樹脂層(D)は、ドープ、すなわち環状ジエーテル化合物(a)と環状ケトン類(b)と直鎖状ケトン類(c)とからなる混合溶媒に少なくとも1種のポリスルホン系樹脂を溶解させてなるポリスルホン系樹脂溶液から容易に溶剤キャスト法で0.1〜50μmの薄膜として、基材(C)、好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルム上に積層でき、低コストに高品位の積層体、例えば表面保護フィルムを提供することができる。
【0052】
本発明のポリスルホン系樹脂溶液組成物は、鉄、アルミニウム、銅、亜鉛、チタニウム等の金属板、ガラス板、金属棒、金属部品、コイル等にコーティングし、耐熱性、耐薬品性、耐衝撃性、耐引掻性等に優れた製品とすることができ、それらは、一般産業機械器具部品、電気・電子部品、自動車部品、事務機器部品、厨房器具類、化学・薬品プラントの配管・貯槽等として利用される。また、金属線の表面に被覆し、耐熱性・耐薬品性のワイヤーとして利用できる。また、塗料としても利用できる。
【0053】
4.基材(C)
本発明において、基材(C)とは、フィルム、シート、板、棒、パイプ、コイル、ワイヤー、織布、不織布、紙等であり、積層体の機械的強度を担い、その少なくとも一方の面にポリスルホン系樹脂層(D)を積層させる。
【0054】
基材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリカーボネート、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4メチルペンテン1、ポリスチレン、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリフェニレンスルフィド、ポリ−p−フェニレンテレフタラミド、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアクリレート、ポリアリレート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンオキサイド、ポリアセタール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化三フッ化エチレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリパラキシレン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂等のプラスチックス;鉄、アルミニウム、銅、チタン、スズ、亜鉛等の金属;ガラス、セラミックス、コンクリート、岩石等の無機物;木材、竹等が例示される。
【0055】
基材がフィルムの場合、これらの樹脂フィルムの中で、ポリエチレンテレフタレートフィルムがコストやフィッシュアイや厚薄ムラの問題がなく、腰があるので取扱性に優れ、ポリスルホン系樹脂層(D)との接着性にすぐれ、強い密着強度で積層されることが可能であるので最も好ましい基材フィルムである。樹脂フィルムの原料樹脂は、一種であっても、二種以上を混合してもよい。
【0056】
基材としての樹脂フィルムの厚みは、例えば1〜200μm、好ましくは3〜150μm、更に好ましくは12〜100μm、特に好ましくは20〜80μmである。1μm未満であると、フィルムの腰がなく取扱性が悪く、一方、200μmを超えると、腰が強すぎロール巻きが困難となり、また材料費がかさみ過剰品質となり、コストアップとなり好ましくない。
【0057】
基材フィルムには、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、染料、顔料、滑剤、防カビ剤、防錆剤等を添加してもよい。
また、ポリスルホン系樹脂層(D)との界面の接着性を向上させるために、コロナ放電処理やアンダーコート処理等を行ってもよい。
【0058】
5.ポリスルホン系樹脂層(D)
本発明において、用いられるポリスルホン系樹脂層(D)は、光学用フィルムなどとして使用される。光学用フィルムとして使用する場合は、表面平滑性にすぐれていることが必要である。
また、ポリスルホン系樹脂層(D)は、ドープから容易に溶剤キャスト法で1〜15μmの薄膜としてポリエチレンテレフタレートフィルム上に積層でき、ドライラミネート法に比較し、低コストに高品位の表面保護フィルムを提供することができる。
【0059】
6.積層体及びその製法
本発明に係る積層体は、基材(C)の少なくとも一方の面に、前記のポリスルホン系樹脂層(D)を積層してなるものである。
積層体は、例えば、厚さが1〜200μmの基材フィルムの少なくとも一方の面に、ポリスルホン系樹脂のドープ、すなわち前記のポリスルホン系樹脂溶液を塗布した後、乾燥処理を行い、厚さが0.1〜100μm、好ましくは0.5〜75μm、さらに好ましくは1〜50μmのポリスルホン系樹脂層(D)を積層させることによって製造することができる。これらの積層体は、液晶表示素子用透明電極のベースフィルム等に用いられる表面平滑性および外観の優れた耐熱性光学フィルム等として用いることができる。
【0060】
塗布方法としては、ロールコーティング、スプレーコーティング、ダイコーティング、ナイフコーティング、エアーナイフコーティング、ワイヤーバーコーティング等が利用できる。基材フィルム上に、ポリスルホン系樹脂溶液組成物を塗布する際の溶液温度は、生産コスト上20〜50℃が好ましい。
また、乾燥方法としては、50〜150℃で0.1〜5分乾燥させることが好ましい。
【0061】
7.ポリスルホン系樹脂フィルム
ポリスルホン系樹脂は、被覆材、塗料、接着剤などとしても利用されるが、それらを製造するときには、通常はポリスルホン系樹脂を溶剤(溶媒)に溶かし、溶液組成物を準備し、これを基材表面に塗布、乾燥して、上記の積層体の製品としている。
一方、本発明においては、基材(C)の少なくとも一方の面に、前記のポリスルホン系樹脂層(D)を形成した後、基材(C)から前記ポリスルホン系樹脂層(D)を剥離して、前記の積層体でなく、ポリスルホン系樹脂自体のポリスルホン系樹脂フィルムを得ることもできる。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明のポリスルホン系樹脂溶液組成物を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
1,3−ジオキソラン30重量部とシクロヘキサノン70重量部とを混合した混合溶媒90重量部に、攪拌しながらポリエーテルスルホン樹脂(PES)[住友化学工業(株)製、スミカエクセル(登録商標)PES4100P]10重量部を添加し、8時間攪拌してポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を作製した。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[帝人デュポン(株)製、テトロン(登録商標)S(厚さ50μm)]を基材フィルムとし、上記のポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を、メイヤーバーで、ポリスルホン系樹脂層の乾燥塗膜の厚みが5μmになるようにコート(塗布)した。塗布後、オーブン中で120℃、5分間乾燥させ、塗膜にべたつきがないことを確認し、乾燥終了とした。
評価は、ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物の保存性試験として、ポリエーテルスルホン樹脂溶液を密閉して保存(25℃、24時間)し、溶液が白化や増粘が無ければ合格(○)とした。一方、ポリエーテルスルホン樹脂の未溶解物が残ったり、溶液が白化や増粘が生じれば不合格(×)とした。また、塗膜の状態を目視で評価して、フィッシュアイ等が無ければ良好とした。
評価結果を表1に示す。
【0064】
[実施例2〜4]
実施例2では、1,3−ジオキソラン20重量部とシクロヘキサノン60重量部とメチルエチルケトン20重量部を混合した混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を作製し、また、基材(PET)に塗布し、評価した。その評価結果を表1に示す。
また、実施例3〜4では、表1に示す混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を作製し、また、基材(PET)に塗布し、評価した。その評価結果を表1に示す。
【0065】
[比較例1、2]
比較例1では、1,3−ジオキソラン40重量部とシクロヘキサノン20重量部とオキソラン[又はテトラヒドロフラン(THF)]40重量部を混合した混合溶媒を用いた以外は、また、比較例2では、1,3−ジオキソラン45重量部とシクロヘキサノン35重量部とオキソラン[又はテトラヒドロフラン(THF)]20重量部を混合した混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を作製した。溶液の保存状態は、不合格(×)であったため、基材(PET)に塗布する評価は、実施しなかった。その評価結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
[実施例5〜8]
実施例5では、1,3−ジオキソラン40重量部とシクロヘキサノン40重量部とアセトン20重量部を混合した混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を作製し、また、基材(PET)に塗布し、評価した。その評価結果を表2に示す。
また、実施例6〜8では、表2に示す混合溶媒を用いた以外は、実施例1と同様にして、ポリエーテルスルホン樹脂溶液組成物を作製し、また、基材(PET)に塗布し、評価した。その評価結果を表2に示す。
【0068】
[実施例9]
実施例9は、1,3−ジオキソラン20重量部とシクロヘキサノン40重量部とメチルエチルケトン40重量部を混合した混合溶媒90重量部に、攪拌しながらポリスルホン樹脂(PSF)[ソルベイアドバンスドポリマーズ(株)製、ユーデルP−3500(登録商標)]10重量部を添加し、8時間攪拌してポリスルホン樹脂溶液組成物を作製した。
次いで、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)[帝人デュポン(株)製、テトロン(登録商標)S(厚さ50μm)]を基材フィルムとし、上記のポリスルホン樹脂溶液組成物を、メイヤーバーで、ポリスルホン系樹脂層の乾燥塗膜の厚みが5μmになるようにコート(塗布)した。塗布後、オーブン中で120℃、5分間乾燥させ、塗膜にべたつきがないことを確認し、乾燥終了とした。
評価は、ポリスルホン樹脂溶液組成物の保存性試験として、ポリスルホン樹脂溶液を密閉して保存(25℃、24時間)し、溶液が白化や増粘が無ければ合格(○)とした。一方、ポリスルホン樹脂の未溶解物が残ったり、溶液が白化や増粘が生じれば不合格(×)とした。また、塗膜の状態を目視で評価して、フィッシュアイ等が無ければ良好とした。
評価結果を表2に示す。
【0069】
[実施例10]
実施例10は、1,3−ジオキソラン40重量部とシクロヘキサノン30重量部とメチルエチルケトン30重量部を混合した混合溶媒80重量部に、攪拌しながらポリスルホン樹脂(PSF)[ソルベイアドバンスドポリマーズ(株)製、ユーデルP−3500(登録商標)]20重量部を添加し、8時間攪拌してポリスルホン樹脂溶液組成物を作製し、また、基材(PET)に塗布し、評価した。その評価結果を表2に示す。
【0070】
[比較例3、4]
比較例3では、シクロヘキサノン100重量部の単独溶媒を用いた以外は、また、比較例4では、メチルエチルケトン100重量部の単独溶媒を用いた以外は、実施例9と同様にして、ポリスルホン樹脂溶液組成物を作製した。溶液の保存状態は、いずれも不合格(×)であったため、基材(PET)に塗布する評価は、実施しなかった。その評価結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
表1、2の結果から、明らかなように、15〜50質量%の1,3−ジオキソラン(a)に代表される環状ジエーテル化合物(a)と、85〜50質量%の環状ケトン類(b)と直鎖状ケトン類(c)とからなる混合溶媒(A)に、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂(B)を溶解させたポリスルホン系樹脂溶液組成物は、溶液が白化や増粘が起こらず、溶液の保存状態が良好であり、また、基材(C)の少なくとも一方の面に塗布、乾燥させて、形成した塗膜のポリスルホン系樹脂層(D)も、良好であることが判る。一方、上記の3成分以外の溶媒系を用いた比較例1、2や、環状ケトン類(b)や直鎖状ケトン類(c)の単独溶媒を用いた比較例3、4のポリスルホン系樹脂溶液組成物は、ポリエーテルスルホン樹脂の未溶解物が残ったり、溶液が白化や増粘が生じ、不合格であった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のポリスルホン系樹溶液組成物は、溶液組成物が安定し、液中に未溶解分が残ったり、液が増粘したり、ゲル化することなく、塗布基材表面に塗布したときに、平滑な塗布層を形成し、かつ有害な成分を発生させることがないために、このポリスルホン系樹脂溶液組成物を基材表面に塗布、乾燥して得られた積層体は、表面平滑性に優れ、光学的な特性にすぐれているので耐熱性光学用フィルムなどとして、電子や半導体分野などの各種用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状ジエーテル化合物(a)及び環状ケトン類(b)からなる混合溶媒(A)と、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂(B)とを含むポリスルホン系樹脂溶液組成物であって、
各溶媒成分の混合割合(質量比)は、
(a):(b)=15〜50:85〜50
であることを特徴とするポリスルホン系樹脂溶液組成物。
【請求項2】
環状ジエーテル化合物(a)、環状ケトン類(b)及び直鎖状ケトン類(c)からなる混合溶媒(A)と、少なくとも1種のポリスルホン系樹脂(B)とを含むポリスルホン系樹脂溶液組成物であって、
各溶媒成分の混合割合(質量比)は、
(a):(b)+(c)=15〜50:85〜50、かつ
(b):(c)=40〜100:60〜0
であることを特徴とするポリスルホン系樹脂溶液組成物。
【請求項3】
環状ジエーテル化合物(a)は、1,3−ジオキソラン(a)であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリスルホン系樹脂溶液組成物。
【請求項4】
ポリスルホン系樹脂(B)の配合量は、混合溶媒(A)100重量部に対して1〜30重量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリスルホン系樹脂溶液組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリスルホン系樹脂溶液組成物を、基材(C)の少なくとも一方の面に塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂層(D)を形成してなることを特徴とする積層体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のポリスルホン系樹脂溶液組成物を、基材(C)の少なくとも一方の面に塗布、乾燥させてポリスルホン系樹脂層(D)を形成した後、基材(C)から前記ポリスルホン系樹脂層(D)を剥離して得られるポリスルホン系樹脂フィルム。

【公開番号】特開2006−291056(P2006−291056A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−114363(P2005−114363)
【出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】