説明

ポリチエニレンビニレン熱電変換材料

【課題】加工が容易であり、かつ、高い熱電特性を有する熱電変換材料を含む熱電変換素子を提供する。
【解決手段】下記式(1)


(式中、R1及びR2は各々独立に、水素、アルコキシまたはアルキル基である)により表される繰り返し単位を含むポリチエニレンビニレンを含み、ドーパントによりドーピングされた熱電変換材料を有する熱電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機熱電変換素子に関し、特に、ポリチエニレンビニレン熱電変換材料を含む熱電変換素子及び該熱電変換材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱電発電やペルチェ素子のような熱電変換素子には、高い熱電変換効率、耐久性、さらに、安価で効率よく、製造されることが求められている。具体的には、無機材料による熱電材料、たとえば、BiTe、SiGe、PbTe又はコバルト酸化物が提案されており、精力的に研究されている。幾つかの無機材料は実用的な性能を示すことが見いだされているが、それらの中には、複雑な製造工程や、毒性などの問題があるものもある。
【0003】
導電性高分子のような有機熱電材料は加工性や安全性が高いが、無機材料と比較して熱電変換性能は低いと考えられている。特許文献1(特開2000−323758号公報)及び特許文献2(特開2001−326393号公報)には、熱電変換材料として使用可能な導電性高分子としてポリアニリンが記載されている。特許文献3(特開2002−100815号公報)は熱電変換材料として、分子構造の伸びたポリアニリンを有機溶剤に溶解させ、基板上にスピンコートすることによって薄膜を形成することが記載されているが、実際の素子製造を考えると、その製造プロセスは複雑である。特許文献4(特開2003−322638号公報)には、熱電変換材料としてポリ(3−アルキルチオフェン)が開示されている。ヨウ素でドープすることにより、ゼーベック係数と導電性を上げ、結果として熱電変換特性を改善できることが記載されている。特許文献5(特開2003−332639号公報)には、熱電変換材料としてポリフェニレンビニレン及びアルコキシ置換ポリフェニレンビニレンを開示されている。硫酸でドープしたポリフェニレンビニレンとヨウ素ドープしたアルコキシ置換体は比較的高い熱電変換性能を示している。しかし、硫酸ドープは、取扱が難しく、大気中での安定性に欠ける。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、加工が容易であり、かつ、熱電変換素子として使用可能な熱電特性を示しうる高分子熱電変換材料を使用した熱電変換素子とその材料の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
有機熱電変換素子、ポリチエニレンビニレン熱電変換材料を含む熱電変換素子、及びこの熱電変換材料の製造方法が提供される。
【0006】
ドーパントでドープされた熱電変換材料を含む熱電変換素子が提供される。この熱電変換材料は下記式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2は各々独立に、水素、アルコキシまたはアルキル基である)
により表されるチエニレンビニレン単位を含むポリチエニレンビニレンを含む。
【0007】
熱電変換材料の製造方法も提供される。この方法は、ポリチエニレンビニレン前駆体を有機溶剤に溶解し、前駆体溶液を形成することを含む。このポリチエニレンビニレン前駆体は下記式(3)
【化2】

(式中、R1及びR2は各々独立に水素、アルコキシまたはアルキル基であり、R3はアルコキシ基である)
により表される少なくとも2つの単位を有する。この方法はさらに、前駆体溶液をキャスティングする工程と、キャスティングされた前駆体溶液を乾燥して、前駆体成形体を得る工程と、前駆体成形体を加熱し、熱分解させて、ポリチエニレンビニレン成形体を得る工程と、及び、ポリチエニレンビニレン成形体にドーピング材をドーピングし、ポリチエニレンビニレンを含む熱電変換材料を得る工程を含む。
【発明を実施するための形態】
【0008】
特に示さない限り、大きさ、量、及び物性を表す数字はすべて「約」を伴うものと理解されたい。従って、特に示さない限り、明細書中の数値は近似値である。
【0009】
数値範囲の最後は、その範囲を含むすべての数字を含む(例えば、1〜5は1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、及び5を含む)。
【0010】
熱電変換材料を含む熱電変換素子、及びその材料の製造方法が開示される。1態様において、熱電変換材料を含む熱電変換素子が提供される。この熱電変換材料は、下記式(1)
【化3】

(式中、R1及びR2は各々独立に、水素、アルコキシまたはアルキル基である)
により表される複数のチエニレンビニレン単位を含むポリチエニレンビニレンを含む。このポリチエニレンビニレンはドーパントによりドープされる。他の態様において、ポリチエニレンビニレン単位は、下記式(2)
【化4】

により表されるフェニレンビニレン単位を含むことができる。
【0011】
別の態様において、熱電変換材料の製造方法が提供される。この方法は、ポリチエニレンビニレン前駆体を有機溶剤に溶解し、前駆体溶液を形成することを含む。このポリチエニレンビニレン前駆体は下記式(3)
【化5】

(式中、R1及びR2は各々独立に水素、アルコキシまたはアルキル基であり、R3はアルコキシ基である)
により表される繰返し単位を有する。この方法は、前駆体溶液をキャスティングする工程と、キャスティングされた前駆体溶液を乾燥して、前駆体成形体を得る工程と、前駆体成形体を加熱し、熱分解させて、ポリチエニレンビニレン成形体を得る工程と、及び、ポリチエニレンビニレン成形体にドーピング材をドーピングし、ポリチエニレンビニレンを含む熱電変換材料を得る工程、をさらに含む。
【0012】
本発明の熱電変換素子は、前駆体ポリマー状態で可とう性を有し、熱分解後は、実用可能な熱電特性を発現できる高分子熱電変換材料を有するため、加工性と実用性を提供できる。また、本発明の熱電変換材料の製造方法によれば、本発明の熱電変換素子に使用可能な熱電変換材料を提供できる。
【0013】
本発明において、熱電変換材料は、下記式(1)
【化6】

(式中、R1及びR2は各々独立に、水素、アルコキシまたはアルキル基である)
により表されるチエニレンビニレン単位を含むポリチエニレンビニレンを含む。上記繰返し単位を含むポリマーはポリチエニレンビニレンとして用いることができる。ポリチレニレンビニレンを形成する前駆体を用いることもできる。前駆体は下記式(3)で表すことができる。
【化7】

【0014】
このポリチエニレンビニレンは、下記式(2)
【化8】

により表されるフェニレンビニレン単位をさらに含む共重合体であることもできる。
【0015】
上記式(1)及び(2)の単位を含むコモノマーは、製造時の前駆体ポリマーの加工性を向上させることができる。
【0016】
上記式(1)及び(3)において、R1及びR2は各々独立に、水素、アルコキシまたはアルキル基である。導電性の観点から、R1及びR2は好ましくは水素である。また、R1及びR2はアルコキシまたはアルキル基である場合、好ましくは、炭素数が3個以内の低級アルコキシまたはアルキル基、たとえば、メチル、エチル、n−プロピルまたはイソプロピル基が使用できる。また、Rはアルコキシ基であり、このアルコキシ基は、後述のとおり、前駆体ポリマーを製造する際の溶媒としてのアルコールによって決まる。すなわち、メタノールを溶媒として使用する際には、Rはメトキシ基であり、エタノールを用いる際には、Rはエトキシ基となる。
【0017】
本発明に用いるポリチエニレンビニレンはJournal of Chemical Society, Communication, 1448 (1987)に記載される方法によって製造することができ、具体的には、以下のとおりに製造できる。
【0018】
まず、2,5−チエニレンジメチルビス(テトラハイドロチオフェニウムクロリド)をメタノール/水混合物などの適切な溶媒中に溶解させる。また、チエニレンビニレンとフェニレンビニレンとの共重合の場合には、P―キシリレン ビス(テトラハイドロチオフェニウムクロリド)を加える。このモノマー溶液を低温(たとえば、−30℃程度)に冷却し、攪拌を行う。このモノマー溶液に、モノマーとほぼ同一の当量で水酸化ナトリウムやテトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの塩基性物質を添加し、低温で攪拌を継続することで重合反応を行う。その後、塩酸などの酸を滴下することで重合を停止し、室温までゆっくりと戻す。以上の操作により、沈殿物が形成し、下記の構造を含む前駆体ポリマーが得られる。
【化9】

【0019】
上記式(4)において、Meはメチルであり、溶媒のメタノールに由来するものである。このため、溶媒に応じて変更可能である。上記の前駆体ポリマーを回収し、乾燥させ、前駆体ポリマー固体を得る。
【0020】
次に、前駆体ポリマー固体をN−メチルピロリドンなどの適切な溶媒に溶解させ、溶液をキャスト、乾燥し、前駆体成形体(たとえば、フィルム)を形成する。得られた前駆体成形物は可とう性を有するため、使用用途に合わせた変形やカットによる加工が容易に可能である。
【0021】
得られた前駆体成形体を窒素雰囲気などの不活性雰囲気下に、高温で数時間加熱することで熱分解を行い、ポリチエニレンビニレンを得る。このポリマーに対して、ヨウ素などのドーパントによってドーピングを行い、ポリチエニレンビニレンからなる熱電変換材料が得られる。熱分解は、大体、200℃程度の温度で行うことができる。しかし、HClガスなどの酸触媒の存在下では120℃未満の温度で熱分解を行うことができる。熱分解温度を下げられるため、導電性の低下を招くカルボニル基の生成を抑制することができる。なお、酸触媒としては、塩酸(HCl)、酢酸、ギ酸などのプロトン酸を用いることができる。
【0022】
また、熱分解を行う前に、前駆体ポリマーのフィルムを延伸することで熱電変換材料の出力因子Pを改良することができる。延伸は、たとえば、延伸比(延伸後のフィルムの長さL1/延伸前の寸法Lo)として1.5〜10程度で行うことができる。なお、上述したように、延伸により出力因子Pを効果的に改善するには、延伸による分子配向の改善が見られるよう、前駆体ポリマーの重量平均分子量が約3×10以上、あるいは約6×10以上であることが好ましい。
【0023】
ドーパントとしてはヨウ素等のハロゲン、PF5等のルイス酸、FeCl3等のハロゲン化物が挙げられる。ドーピング量は繰り返しユニットに対してドーパントが0.5モル以上加えることができる。
【0024】
ポリチエニレンビニレンの分子量は、特に限定されないが、重量平均分子量として表記して、たとえば、10,000〜1,000,000である。これは、ポリチエニレンビニレンホモポリマーの重合度で表記すると、約8〜800である。重合度が低すぎると、材料の強度が充分でなく、一方、重合度が高すぎると、前駆体ポリマーの状態での加工性が悪くなることがある。
【0025】
なお延伸による熱電特性の改善を図るには、延伸による分子配向性の改善がみられる重合度が約50以上、あるいは重合度が約100以上であることが望ましい。
【0026】
なお、ポリチエニレンビニレンの分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン標品を用いて測定されるものである。詳細には、下記の実施例に記載されるとおりに測定される。
【0027】
熱電変換材料の熱電変換性能は出力因子Pで評価することができる。出力因子Pは材料の導電率σ(S/cm)と、材料の温度差あたりの起電力、すなわち、ゼーベック係数S(V/K)によって決まり、以下の関係を有する。
P=S2×σ (Wm-1-2
【0028】
本発明のポリチエニレンビニレン熱電変換材料は出力因子Pが10×10−8Wm-1-2以上を達成することができ、場合により、100×10−8Wm-1-2以上を達成することができる。
【0029】
本発明の熱電変換素子は、例えば、本発明の熱電変換材料と、半導体熱電変換材料例えばビスマスセレン、アルミドープ酸化亜鉛、あるいは金属例えば白金、パラジウムを電気的かつ物理的に接合させた素子を基本ユニットとする。接合方法としては、例えば、導電性ペーストによる接着、あるいは蒸着やスパッタ等でコーティングする方法を使用できる。また、所望の出力を得るため、基本ユニットを複数直列に接続させたものを熱電変換素子として使用することもできる。接合点間に温度差をかけた場合には、熱起電力を発生し熱電発電素子となり、一方、この素子に電流を流した場合には接合点間で熱移動が起こり、ペルチェ冷却素子となる。なお、本発明の熱電変換素子は、本発明の熱電変換材料を使用することを最小条件とし、その他の構成については限定されない。熱電変換素子に使用する熱電変換材料は、フィルム状に加工したものを使用してもよいが、その形状も限定されるものではない。種々の変形が可能である。また、熱電変換材料表面に保護材や封止材を積層する等、他の材料との複合も可能である。
【実施例】
【0030】
以下において、本発明を実施例を用いて説明するが、本発明の範囲はそれによって限定されない。
実施例1
ポリチエニレンビニレン(PTV)は以下の方法で作製した。2,5−チエニレンジメチルビス(テトラハイドロチオフェニウムクロリド)(2,5-thienylene dimethyl-bis(tetrahydrothiophenium chloride)5.28gをメタノール49.2mlと水9.6mlの混合溶媒に溶解させ、窒素ガス置換を行った。この溶液を−30℃に冷却、攪拌しているところに、モノマーと当量のNaOHを溶解させた水溶液15mlを滴下した。この際、モノマー濃度は0.2M、メタノールと水の体積比は2:1となっている。更に、−30℃、窒素気流下で2時間攪拌をおこなった。その後、塩酸を用い溶液を中和させることで反応を終了させた後、攪拌をしながら、溶液温度を室温まで徐々に戻した。得られた黄色の沈殿物を回収し、吸引ろ過をしながら水で洗浄した後、得られた固体を乾燥させて前駆体ポリマーを得た。収率は26.1%であった。
【0031】
得られたPTV前駆体ポリマーについてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分子量測定を行った。GPCの測定は、前駆体粉末をN−メチルピロリドン(NMP)に溶解させ、0.1wt%溶液を作成し、溶離液として10mM NaBF4のNMP溶液を用い、室温で屈折率変化を観測することにより行った。結果、前駆体ポリマーの分子量はポリスチレン換算で、重量平均分子量3.0×105、多分散度8.7であった。よって重合度は250であった。
【0032】
NMPに溶解させたPTV前駆体ポリマーを、容器にキャストして減圧下で乾燥することでPTV前駆体ポリマーフィルムを得た。さらに、これを窒素気流下200℃で5時間熱分解させることで、PTVフィルムを得た。赤外吸収測定により、前駆体ポリマーのメトキシ基由来の1087cm-1のピークが熱分解後に消失し、919cm-1のトランス−ビニレンC−H伸縮振動ピークが観測されたことより、PTVが生成したことを確認した。
【0033】
PTVフィルムにヨウ素ドープを行い、導電性を発現させた。この導電性フィルム表面中央に間隔をあけて2つの熱電対(Pt/PtRh)、またフィルム両端に電極(Pt)をカーボンペーストで接着し、測定用素子を作製した。この測定試料の長さ方向にヒーターにより温度差(約5K)を発生させ、その時の起電力と温度差を測定した。求めた測定値より、温度差あたりの起電力、即ち、ゼーベック係数を求めた。同時に四端子法によって導電率を測定した。求めたゼーベック係数Sと導電率σより、次式を用いて出力因子Pを算出した。
P=S2σ
結果を表1に示す。
【0034】
実施例2
実施例1で得られたPTV前駆体ポリマーフィルムを2倍に延伸し、これを窒素気流下200℃で5時間分解をおこなうことで、2倍延伸PTVフィルムを得た。実施例1と同様にヨウ素ドープしたPTVフィルムについて熱電特性を測定した。結果を表1に示す。
表1の結果より、実施例1と2の比較により、延伸による熱電性能の向上が確認された。
【0035】
実施例3
実施例1と同様に前駆体ポリマーを経るルートで合成した。具体的には、以下の手順で合成した。モノマーである2,5−チエニレンジメチルビス(テトラハイドロチオフェニウムクロリド)(2,5-thienylene dimethyl-bis(tetrahydrothiophenium chloride)5.37gをメタノール113mlと水23mlの混合溶媒に溶解させ、窒素ガス置換を行った。この溶液を−30℃に冷却、攪拌しているところに、モノマーの1.1当量のNaOHを溶解させた水溶液15mlを滴下した。この際、モノマー濃度は0.1M、メタノールと水の体積比は3:1となっている。更に、−30℃、窒素気流下で4時間攪拌をおこなった。その後、塩酸を用い溶液を中和させることで反応を終了させた後、攪拌をしながら、溶液温度を室温まで徐々に戻した。得られた黄色の沈殿物を回収し、吸引ろ過をしながら水で洗浄した後、得られた固体を乾燥させて前駆体ポリマーを得た。収率は17.6 %であった。
【0036】
得られたPTV前駆体ポリマーについてGPCによる分子量測定を行った。GPCの測定は、前駆体粉末をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ0.1wt%溶液を作成し、溶離液としてTHFを用い、室温で溶液の254nmの吸光度を測定することで行った。結果、前駆体ポリマーの分子量はポリスチレン換算で、重量平均分子量7.6x104、多分散度4.4であった。よって重合度は、120であった。
【0037】
実施例1と同様にしてPTV前駆体ポリマーフィルムを得た。さらに、これを窒素気流下200℃で10時間熱分解させることで、PTVフィルムを得た。実施例1と同様にヨウ素ドープしたPTVフィルムについて熱電特性を測定した。結果を表1に示す。
【0038】
実施例4
実施例3で得られたPTV前駆体ポリマーフィルムを2倍に延伸し、これを窒素気流下200℃で10時間分解をおこなうことで、2倍延伸PTVフィルムを得た。実施例1と同様にヨウ素ドープしたPTVフィルムについて熱電特性を測定した。結果を表1に示す。
【0039】
実施例5
実施例3で得られたPTV前駆体ポリマーフィルムを3倍に延伸し、これを窒素気流下200℃で10時間分解をおこなうことで、3倍延伸PTVフィルムを得た。実施例1と同様にヨウ素ドープしたPTVフィルムについて熱電特性を測定した。結果を表1に示す。実施例3、4、また5の比較により、延伸による熱電特性の向上が確認された。
【0040】
実施例6
実施例3で得られたPTV前駆体ポリマーフィルムについて、Synthetic Metal, 36 (1990) 95に記載の熱分解方法、すなわちHClガスを少量含む窒素ガス気流下100℃で4時間熱分解させることで、PTVフィルムを得た。実施例1と同様にヨウ素ドープしたPTVフィルムについて熱電特性を測定した。結果を表1に示す。実施例3と6の比較により、より適切な熱分解条件による熱電特性の向上が確認された。
【0041】
実施例7
実施例3で得られたPTV前駆体ポリマーフィルムを2倍に延伸し、実施例6と同様の方法で熱分解させることで、PTVフィルムを得た。実施例1と同様にヨウ素ドープしたPTVフィルムについて熱電特性を測定した。結果を表1に示す。実施例6と7の比較により、延伸による熱電特性の向上が確認された。
【0042】
実施例8
実施例1と同様に前駆体ポリマーを経るルートで合成した。具体的には、以下の手順で合成した。モノマーである2,5−チエニレンジメチルビス(テトラチハイドロオフェニウムクロリド)(2,5-thienylene dimethyl-bis(tetrahydrothiophenium chloride)5.88gをメタノール123mlと水5mlの混合溶媒に溶解させ、窒素ガス置換を行った。この溶液を−30℃に冷却、攪拌しているところに、モノマーの1.1当量のNaOHを溶解させた水溶液36mlを滴下した。この際、モノマー濃度は0.1M、メタノールと水の体積比は3:1となっている。更に、−30℃、窒素気流下で6時間攪拌をおこなった。その後、塩酸を用い溶液を中和させることで反応を終了させた後、攪拌をしながら、溶液温度を室温まで徐々に戻した。得られた黄色の沈殿物を回収し、吸引ろ過をしながら水で洗浄した後、得られた固体を乾燥させて前駆体ポリマーを得た。収率は19.1%であった。得られたPTV前駆体ポリマーについてGPCによる分子量測定を行った。GPCの測定は、前駆体粉末をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させ0.1wt%溶液を作成し、溶離液としてTHFを用い、室温で溶液の254nmの吸光度を測定することで行った。結果、前駆体ポリマーの分子量はポリスチレン換算で、重量平均分子量1.3×104、多分散度2.7であった。よって重合度は30であった。実施例1と同様にしてPTV前駆体ポリマーフィルムを得た。さらに、これを実施例5と同様の方法で熱分解させることで、PTVフィルムを得た。実施例1と同様にヨウ素ドープしたPTVフィルムについて熱電特性を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
実施例9
実施例8で得られたPTV前駆体ポリマーフィルムを6倍に延伸し、実施例6と同様の方法で熱分解させることで、PTVフィルムを得た。実施例1と同様にヨウ素ドープしたPTVフィルムについて熱電特性を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
実施例8と9の結果を、前記実施例における高分子量PTVでの延伸効果と比較すると、低分子量PTVに延伸処理を施しても、熱電特性向上はより小さいことが確認できた。よって、実施例8で得られたPTV前駆体より低分子量のものについては、延伸処理がほとんど期待できないと推測できる。
【0045】
【表1】

上記の熱電変換材料を使用した熱電変換素子は、熱電発電やペルチェ素子として使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2は各々独立に水素、アルコキシまたはアルキル基である)により表されるチエニレンビニレン単位を含むポリチエニレンビニレンを含み、ドーパントによりドーピングされた熱電変換材料を有する熱電変換素子。
【請求項2】
前記熱電変換材料は、出力因子Pが10×10-8Wm-1-2以上である、熱電変換素子。
【請求項3】
前記熱電変換材料の前記ポリチエニレンビニレンの重合度は8〜800である、請求項1又は2に記載の熱電変換素子。
【請求項4】
前記熱電変換材料の前記ポリチエニレンビニレンの重合度は50以上であり、延伸され、フィルム状に加工されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
【請求項5】
前記熱電変換材料の前記ポリチエニレンビニレンは、
さらに、下記式(2)
【化2】

により表されるフェニレンビニレン単位を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱電変換素子。
【請求項6】
前記熱電変換材料の前記出力因子Pは、100×10-8Wm-1-2以上である、請求項2に記載の熱電変換素子。
【請求項7】
下記式(3)
【化3】

(式中、R1及びR2は各々独立に水素、アルコキシまたはアルキル基であり、R3はアルコキシ基である)により表される単位を含むポリチエニレンビニレン前駆体を有機溶剤に溶解し、前駆体溶液を形成する工程と、
前記前駆体溶液をキャスティングする工程と、
キャスティングされた前記前駆体溶液を乾燥して、前駆体成形体を得る工程と、
前記前駆体成形体を加熱し、熱分解させて、ポリチエニレンビニレン成形体を得る工程と、及び、
前記ポリチエニレンビニレン成形体にドーピング材をドーピングし、ポリチエニレンビニレンを含む熱電変換材料を得る工程
を含む、熱電変換材料の製造方法。
【請求項8】
前記前駆体成形体を加熱する際に、酸触媒の存在下に120℃未満の温度で加熱を行う、請求項7に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項9】
前記前駆体成形体はフィルムの形態であり、該フィルムを延伸することを更に含む、請求項7又は8に記載の熱電変換材料の製造方法。
【請求項10】
前記前駆体成形体はフィルムの形態であり、重量平均分子量が3×104以上である請求項9に記載の熱電変換材料の製造方法。

【公表番号】特表2010−539708(P2010−539708A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524948(P2010−524948)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【国際出願番号】PCT/US2008/075745
【国際公開番号】WO2009/035990
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】