説明

ポリテトラフルオロエチレン水性分散液およびその製造方法

【課題】 パーフルオロオクタン酸アンモニウムなどの炭素数8の特定の含フッ素カルボン酸塩(APFO)濃度が低い場合にも、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)水性分散液のこすれ安定性を改良し、増粘を防止し、塗膜のクラック発生を防止し、焼付け後の塗膜の着色が少なく、イオン性不純物等の問題を生じない、優れた特性のPTFE水性分散液を提供する。
【解決手段】 平均粒径が0.1〜0.5μmのPTFE微粒子を55〜70質量%、APFOをPTFEの質量に対して0.0001〜0.02質量%、特定の非イオン系界面活性剤をPTFEの質量に対して1〜20質量%、およびパーフルオロヘキサン酸アンモニウムなどの炭素数5〜7の特定の含フッ素カルボン酸塩をPTFEの質量に対して0.01〜0.3質量%含有することを特徴とするPTFE水性分散液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという。)水性分散液およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乳化重合法によるPTFEは、純水、重合開始剤、パーフルオロオクタン酸アンモニウム等の全炭素数が8個の含フッ素アニオン系界面活性剤(以下、APFOという。)およびパラフィンワックス安定剤の存在下で、テトラフルオロエチレン(以下、TFEという。)モノマーを重合させることにより、PTFE微粒子を含有するPTFE水性乳化重合液として得られる(非特許文献1参照)。
重合後のPTFE水性乳化重合液は、非イオン系界面活性剤を添加してPTFE低濃度水性分散液として使用されたり、濃縮されてPTFE高濃度水性分散液にして使用されたり、または非イオン系界面活性剤、フィラー若しくはその他公知の成分を必要に応じて配合したPTFE水性分散液として使用されたりするが、PTFE水性分散液中のAPFOを除去することは工業的に行なわれていなかった。
このAPFOは自然界で分解されにくいため、製品中の含有量をできるだけ少なくすることが望ましい。
【0003】
APFO含有量を低減する方法としては、たとえば、イオン交換樹脂を用いてAPFO濃度が低減されたPTFE水性分散液を得る方法(特許文献1参照)が提案されているが、実際にAPFO濃度が低減されたPTFE水性分散液は、こすれ安定性が低下する問題があった。PTFE水性分散液にこすれ作用やせん断作用を加えた場合、PTFE微粒子が繊維化して凝集物となり、分散液の均一性が損なわれやすい傾向があるが、APFO濃度を低減したPTFE水性分散液は、こすれ安定性が低下し、送液時のポンプの詰まりや、コーティング加工時の凝集物発生による厚みむらや異物発生が懸念される。
【0004】
また、PTFE水性分散液のぬれ性や厚塗り性が必要な用途では、非イオン系界面活性剤を多く配合することが従来行なわれており、たとえば、PTFE質量に対して6〜12質量%の非イオン系界面活性剤を配合すると、APFO濃度が低い場合には、液が著しく増粘して塗膜厚みが大きくなる問題があった。また、APFO濃度が低い場合には、クラック限界厚(厚く塗った場合にクラックが発生し始める厚み)が低下し、塗膜にクラックが発生しやすくなる問題があった。
【0005】
フッ素原子を含まないアニオン系界面活性剤を添加することにより液の粘度を調整する方法(特許文献2参照)が提案されているが、例示されているような硫黄原子を含むアニオン系界面活性剤であるラウリル硫酸ナトリウムを使用した場合、焼成後の塗膜に黄褐色の着色を生じ、また焼成後の塗膜中に硫酸ナトリウムがイオン性不純物として残留するために、プリント基板等の電子材料用途には好ましいものではなかった。
【0006】
【特許文献1】国際公開WO―00/35971号パンフレット(公表特許2002−532583号公報)
【特許文献2】国際公開WO―03/020836号パンフレット(公表特許2005−501956号公報)
【非特許文献1】ふっ素樹脂ハンドブックP28、里川孝臣編、日刊工業新聞社発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、APFO濃度が低い場合にも、PTFE水性分散液のこすれ安定性を改良し、増粘を防止し、塗膜のクラック発生を防止し、焼付け後の塗膜の着色が少なく、イオン性不純物等の問題を生じない、優れた特性のPTFE水性分散液を提供することを目的とする。また、本発明は、APFO濃度が低いPTFE低濃度水性分散液を原料としても、高いPTFE濃度のPTFE高濃度水性分散液を得ることができるPTFE高濃度水性分散液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前述の課題を克服するために鋭意研究を重ねた結果、特定の含フッ素カルボン酸塩を配合することにより、APFO濃度の低い場合にも、PTFE水性分散液のこすれ安定性が改良され、粘度上昇が防止され、塗膜のクラック発生が防止され、焼付け後の塗膜の着色が少なくなり、イオン性不純物等の問題を生じないことを見出した。また、PTFE低濃度水性分散液に特定の含フッ素カルボン酸塩を加えて濃縮することにより、また、APFO濃度が低いPTFE低濃度水性分散液を原料としても、特定の含フッ素カルボン酸塩を添加し濃縮することにより、高いPTFE濃度のPTFE高濃度水性分散液が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、平均粒径が0.1〜0.5μmのPTFE微粒子を55〜70質量%、一般式(1)で示される含フッ素カルボン酸塩をPTFEの質量に対して0.0001〜0.02質量%、一般式(2)および/または一般式(3)で示される非イオン系界面活性剤をPTFEの質量に対して1〜20質量%、および一般式(4)で示される含フッ素カルボン酸塩をPTFEの質量に対して0.01〜0.3質量%含有することを特徴とするPTFE水性分散液を提供するものである。
【0010】
一般式(1) R−COOX (式中、Rは炭素数7で、水素原子の90〜100%がフッ素原子で置換されたアルキル基(ただし、アルキル基中には1〜2個のエーテル性の酸素原子を含有してもよい。)であり、Xはアンモニウムイオンである。)
一般式(2) R−O−A−H (式中、Rは炭素数8〜18のアルキル基であり、Aはオキシエチレン基数5〜20およびオキシプロピレン基数0〜2より構成されるポリオキシアルキレン鎖である。)
一般式(3) R−C−O−B−H (式中、Rは炭素数4〜12のアルキル基であり、Bはオキシエチレン基数5〜20より構成されるポリオキシエチレン鎖である。)
一般式(4) R−COOY (式中、Rは炭素数4〜6で、水素原子の30〜100%がフッ素原子で置換されたアルキル基(ただし、アルキル基中には1〜2個のエーテル性の酸素原子を含有してもよい。)であり、Yは式{HO(CH4−zで表されるカチオン基であり、前記カチオン基におけるnは2〜4の整数であり、zは0〜4の整数である。)
【0011】
また、本発明は、平均粒径が0.1〜0.5μmのPTFE微粒子を1〜40質量%、一般式(1)で示される含フッ素カルボン酸塩をPTFEの質量に対して0.0001〜0.02質量%、および一般式(2)および/または一般式(3)で示される非イオン系界面活性剤をPTFEの質量に対して1〜20質量%含有するPTFE低濃度水性分散液に、一般式(4)で示される含フッ素カルボン酸塩をPTFEの質量に対して0.01〜0.3質量%添加し、その後PTFE低濃度水性分散液を濃縮し、PTFE濃度が60〜75質量%のPTFE高濃度水性分散液を得ることを特徴とするPTFE水性分散液の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のPTFE水性分散液は、増粘を防止でき、こすれ安定性が良好である。また、PTFE水性分散液を用いて得られた焼付け加工製品は、塗膜のクラックの発生を防止でき、着色やイオン性不純物の問題を生ずることがない。また、本発明のPTFE高濃度水性分散液の製造方法は、APFO濃度を低減したPTFE水性分散液の製造工程において、PTFE高濃度水性分散液を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のPTFE水性分散液に用いるPTFE微粒子は、乳化重合法により得られる平均粒径が0.10〜0.50μmのものを用いることができ、平均粒径0.15〜0.40μmのものが好ましく、0.20〜0.35μmのものが特に好ましい。平均粒径がこの範囲よりも小さいとPTFEの分子量が低くPTFEの機械的物性が低下し、この範囲よりも大きい場合はPTFE微粒子の沈降が速すぎて保存安定性が劣り好ましくない。
PTFEの平均分子量は任意に選ぶことができるが、50万〜3000万の範囲が好ましく、100万〜2500万の範囲が特に好ましい。この範囲よりも小さいとPTFEの機械的物性が低下し、この範囲よりも大きいと工業的に製造することが困難である。
【0014】
なお、平均分子量は、結晶化熱を用い、諏訪ら(Journal of Applied
Polymer Science, 17, 3253(1973))の方法から求められる。
本発明において、PTFEとは、TFEの単独重合物のみでなく、実質的に溶融加工のできない程度の微量のクロロトリフルオロエチレン等のハロゲン化エチレン、ヘキサフルオロプロピレン等のハロゲン化プロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)等のフルオロビニルエーテル等の、TFEと共重合しうる共重合成分に基づく重合単位を含むいわゆる変性PTFEも含まれる。
【0015】
PTFE微粒子は、純水、過酸化物系重合開始剤、APFOおよびパラフィンワックス安定剤の存在下で、TFEモノマーを2〜50気圧の加圧下で注入し重合させることにより、PTFE乳化重合液として得られるものが好ましい。PTFE乳化重合液は、PTFE濃度が1〜40質量%のものが用いられるが、PTFE濃度が10〜40質量%であることが好ましく、15〜35質量%がより好ましく、20〜30質量%が特に好ましい。PTFE濃度が、この範囲より小さいと濃縮のために時間とエネルギーを要し、この範囲より大きいとPTFE微粒子が凝集して製品の歩留まりが低下する場合がある。
【0016】
本発明において使用されるAPFOは一般式(1)で示されるものである。
一般式(1) R−COOX (式中、Rは炭素数7で、水素原子の90〜100%がフッ素原子で置換されたアルキル基(ただし、アルキル基中には1〜2個のエーテル性の酸素原子を含有してもよい。)であり、Xはアンモニウムイオンである。)
一般式(1)のAPFOの具体例としては、C15COONH、HC14COONH、COCOCFCOONH、HCOCOCFCOONH等が挙げられるが、C15COONH(パーフルオロオクタン酸アンモニウム)が最も重合プロセスが安定し好ましい。一般式(1)のAPFOは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
一般式(1)のAPFOは、PTFEの重合時に、PTFEの質量に対して0.05〜1.0質量%を使用することが好ましい。より好ましくはPTFEの質量に対して0.1〜0.5質量%であり、さらに好ましくは0.15〜0.3質量%である。一般式(1)のAPFOの重合時の使用量が、この範囲よりも少ないとPTFE微粒子が凝集して製品の歩留まりが低下し、この範囲よりも多いとPTFEが微粒子として得られにくくなる。
【0017】
本発明で使用される非イオン系界面活性剤は、一般式(2)および/または一般式(3)で示されるものである。
一般式(2) R−O−A−H (式中、Rは炭素数8〜18のアルキル基であり、Aはオキシエチレン基数5〜20およびオキシプロピレン基数0〜2より構成されるポリオキシアルキレン鎖である。)
一般式(3) R−C−O−B−H (式中、Rは炭素数4〜12のアルキル基であり、Bはオキシエチレン基数5〜20より構成されるポリオキシエチレン鎖である。)
【0018】
一般式(2)において、Rのアルキル基は、炭素数が8〜18のものであり、10〜16が好ましく、12〜16が特に好ましい。炭素数がこの範囲より大きい場合には流動温度が高いために取扱いにくく、またPTFE水性分散液を長期間放置した場合にPTFE微粒子が沈降し易く、保存安定性が損なわれやすい。また、炭素数がこの範囲より小さい場合には、PTFE水性分散液の表面張力が高くなり、コーティング時のぬれ性が低下しやすい。
一般式(2)において、親水基であるAはオキシエチレン基数5〜20およびオキシプロピレン基数0〜2より構成されるポリオキシアルキレン鎖である。オキシエチレン基数7〜12およびオキシプロピレン基数0〜2のポリオキシアルキレン鎖が粘度および安定性の点から好ましい。特に親水基A中にオキシプロピレン基数を0.5〜1.5有する場合には泡消え性が良好であり好ましい。
【0019】
一般式(3)において、Rのアルキル基は炭素数が4〜12のものであり、6〜10が好ましく、8〜9のものが特に好ましい。アルキル基の炭素数が、この範囲よりも小さいものを用いるとPTFE水性分散液の表面張力が高くなりぬれ性が低下し、この範囲よりも大きすぎると分散液を長時間放置した場合、PTFE微粒子が沈降しやすく保存安定性が損なわれる。
一般式(3)において、親水基であるBはオキシエチレン基数5〜20から構成されるポリオキシエチレン鎖である。オキシエチレン基数は粘度および安定性の点から6〜16が好ましく、特に好ましくは7〜12である。
【0020】
一般式(2)または一般式(3)の非イオン系界面活性剤は、平均分子量が450〜800であるものが好ましく、500〜750であるものがより好ましく、550〜700であるものが特に好ましい。平均分子量がこの範囲より大きい場合には流動温度が高いために取扱いにくく、またこの範囲より小さい場合にはPTFE水性分散液のコーティング時のぬれ性が低下し好ましくない。
【0021】
一般式(2)の非イオン系界面活性剤の具体例としては、たとえば、C1327-(OC10-OH、C1225-(OC
10-OH、C1021CH(CH)CH-(OC-OH、C1327-(OC-OCH(CH)CH-OH、C1633-(OC10-OH、HC(C11)(C15)-(OC-OH、などの分子構造をもつ非イオン系界面活性剤が挙げられ、市販品ではダウ社製タージトール(登録商標)15Sシリーズ、ライオン社製ライオノール(登録商標)TDシリーズなどが挙げられる。
一般式(3)の非イオン系界面活性剤の具体例としては、たとえば、C17-C-(OC10-OH、C19-C-(OC10-OH、などの分子構造をもつ非イオン系界面活性剤が挙げられ、市販品ではダウ社製トライトン(登録商標)Xシリーズ、日光ケミカル社製ニッコール(登録商標)OPシリーズまたはNPシリーズなどが挙げられる。
【0022】
一般式(2)および/または一般式(3)の非イオン系界面活性剤は、1種単独もしくは2種以上の複数混合して使用することができる。
なお、非イオン系界面活性剤は分子構造の異なる複数物質の混合物であり、非イオン系界面活性剤中のアルキル基の炭素数、ポリオキシアルキレン鎖におけるオキシエチレン基やオキシプロピレン基の数を平均値で扱うものとする。各数値は整数に限らない。
本発明において、一般式(2)および/または一般式(3)の非イオン系界面活性剤は、PTFE水性乳化重合液へ添加してプロセス中の安定性を維持するために使用するほか、濃縮後のPTFE高濃度水性分散液に添加して利用に適した粘度やぬれ性にするために物性を調整するために使用する。
【0023】
本発明において使用するPTFE低濃度水性分散液は、PTFE水性乳化重合液に非イオン系界面活性剤を添加して安定化させたのち、PTFE質量に対するAPFO濃度が0.0001〜0.02質量%になるように、国際公開WO―03/078479号公報に記載される方法、WO−00/35971に示される方法、特開55−120631に示される方法等の公知の方法により、APFO濃度を低減させることにより調製することができる。
PTFE低濃度水性分散液の好ましいAPFO濃度は、PTFE質量に対して0.0001〜0.02質量%である。APFO濃度が、この範囲より少ないAPFO濃度を得ることは工業的に容易でなく、この範囲より多い場合には環境への影響を考慮すると好ましくない。
【0024】
本発明において使用する一般式(4)の含フッ素カルボン酸塩は、以下に示すものである。
一般式(4) R−COOY (式中、Rは炭素数4〜6で、水素原子の30〜100%がフッ素原子で置換されたアルキル基(ただし、アルキル基中には1〜2個のエーテル性の酸素原子を含有してもよい。)であり、Yは式{HO(CH4−zで表されるカチオン基であり、前記カチオン基におけるnは2〜4の整数であり、zは0〜4の整数である。)
一般式(4)におけるRのアルキル基は、直鎖でも分岐していてもよく、1級、2級または3級であってもよい。このアルキル基は、炭素数が4〜6のものであり、炭素数が4〜5のものがより好ましく、炭素数が5のものが特に好ましい。炭素数がこの範囲よりも少ないと、PTFE水性分散液のこすれ安定性改良効果、増粘防止効果、塗膜のクラック防止効果が小さい。また、炭素数がこの範囲よりも大きいと、生物に摂取された場合に個体外に排出されにくく、環境に対する影響がありうる。
【0025】
たとえば、Rの炭素数が7であるパーフルオロオクタン酸アンモニウムの場合、生物個体内での蓄積性が問題視されているが、Rの炭素数が5であるパーフルオロヘキサン酸アンモニウムの生体内蓄積性は非常に小さい。
また、一般式(4)におけるRのアルキル基は、炭素原子に結合しうる水素原子の30%〜100%が置換されたものである。フッ素原子の置換率が30%未満の場合、PTFE水性分散液のこすれ安定性改良効果、増粘防止効果、塗膜のクラック防止効果が小さくなり好ましくない。
Yの具体例としては、アンモニウムイオン、エタノールアミンイオン、ジエタノールアミンイオン、トリエタノールアミンイオンから選択されたカチオン基が好ましく、アンモニウムイオンが乾燥時に揮発しやすく除去が容易であるため特に好ましい。
【0026】
一般式(4)の含フッ素カルボン酸塩は、種々の方法で製造することができる。たとえば相当するカルボン酸クロリドを電解フッ素化し、これを加水分解して得られる含フッ素カルボン酸を、当量または過剰量のアンモニア水、エタノールアミン、ジエタノールアミンおよび/またはトリエタノールアミンで中和し、必要に応じて濃縮・乾燥させて得ることができる。
電解フッ素化の程度を変えることにより、任意のフッ素原子置換率のものを得ることができる。
【0027】
一般式(4)の含フッ素カルボン酸塩の具体例としては、たとえば、CCOONH、C11COONH、HC10COONH、(CF)CF(CH)COONH(COH)、C11COONHOH、HC10COONH(COH)、C13COONH、COCFCOONH、COCOCFCOONH等が挙げられる。
APFO濃度が低いPTFE水性分散液は、特に非イオン性界面活性剤がPTFEの質量に対して6〜12質量%と多く配合された場合に著しく粘度が増し、塗布工程等での使用の際に使いにくいが、一般式(4)に示す含フッ素カルボン酸塩を添加した場合、粘度の増加が抑えられる。
【0028】
一般式(4)の含フッ素カルボン酸塩は熱分解しやすいため、PTFE水性分散液を塗布し、380℃前後で焼付け加工を行なったのちでも、製品の着色の原因になることがなく、また、イオン性不純物が生成せず、製品の品質が向上する。
通常、APFO濃度が低いPTFE水性分散液はこすれ安定性が低くなるが、一般式(4)の含フッ素カルボン酸塩を含有すると、PTFE水性分散液のこすれ安定性が改善され、PTFE水性分散液をポンプで移液する際の凝集物発生を軽減し、ポンプ詰まりを防止し、塗布プロセスにおけるこすれ部での凝集物発生を軽減する効果もある。こすれ安定性が改善される理由は、一般式(4)の含フッ素カルボン酸塩がPTFE微粒子に吸着してアニオン電荷を強め、微粒子同士の接触が防止されるためと考えられる。
また、APFO濃度が低いPTFE水性分散液を厚く塗布した場合にはクラックが発生しやすくなるが、一般式(4)の含フッ素カルボン酸塩を含有すると、クラックを生じにくくなる。
【0029】
一般式(4)に示す含フッ素カルボン酸塩は、PTFE低濃度水性分散液の濃縮工程後に添加してもよいが、濃縮プロセス前に添加してもよい。また、濃縮工程前に添加したのち、濃縮プロセス後に追加添加してもよい。
PTFE低濃度水性分散液の濃縮プロセスにおいて、APFO濃度が低い場合には、PTFE微粒子が濃縮されにくくなる。特にAPFO濃度が200ppm/PTFE以下であると濃縮速度が極端に低下し、濃縮後のPTFE高濃度水性分散液中のPTFE濃度が高いものが得られない問題がある。一般式(4)に示す含フッ素カルボン酸塩を濃縮工程前に添加すると、濃縮工程での濃縮速度を改善する効果が得られるので好ましい。
【0030】
濃縮プロセス前に添加する場合には、PTFE低濃度水性分散液中のAPFOの低減工程前に添加してもよいが、APFOの低減工程後に添加するほうがよい。一般式(4)に示す含フッ素カルボン酸塩の添加は、バッチでの添加処理でもよく、必要に応じてインラインミキサーやスタティックミキサーを使用しながら連続的に添加してもよい。
一般式(4)に示す含フッ素カルボン酸塩を濃縮前に添加する場合、その添加量はPTFE質量に対して0.01〜0.3質量%がよく、好ましくは0.02〜0.25質量%であり、特に好ましくは0.02〜0.20質量%である。この範囲より少ない場合、濃縮速度の向上効果が小さく、PTFE高濃度水性分散液のPTFE濃度が高いものが得られにくくなる。
【0031】
本発明のPTFE水性分散液の製造方法においては、一般式(4)の含フッ素カルボン酸塩を添加した後、PTFE低濃度水性分散液を濃縮する。濃縮は、種々の濃縮プロセスにおいて行うことができる。
濃縮プロセスとしては、たとえば、ふっ素樹脂ハンドブックp32(日刊工業新聞社、里川孝臣編)に記載されるように、遠心沈降法、電気泳動法、相分離法などの公知の方法が利用できる。
【0032】
濃縮時のPTFE水性分散液のpHは、6以上が好ましく、7〜12がより好ましく、7〜10がさらに好ましい。
濃縮プロセスにおいて、APFOの一部は上澄みとともに除去されるが、一般式(4)の含フッ素カルボン酸塩を濃縮プロセス前に添加した場合、より多量のAPFOが上澄みに移行し、上澄みとともに除去される利点もある。
なお、濃縮プロセス前に添加された、一般式(4)に示す含フッ素カルボン酸塩は、濃縮中に一部が上澄みとともに除去されるが、大部分はPTFE微粒子に吸着し、沈降層として得られるPTFE高濃度水性分散液中に残る。
【0033】
本発明において、濃縮プロセスによって得られるPTFE高濃度水性分散液は、PTFE濃度が60〜75質量%であり、63〜72質量%であることがより好ましく、65〜70質量%であることが特に好ましい。PTFE濃度が、この範囲よりも高すぎると、PTFE微粒子の部分凝集を生じやすく製品歩留まりが低下する。また、PTFE濃度が、この範囲よりも低すぎると、PTFE水性分散液の粘度が低くなりすぎ、塗布しにくくなったり、保存安定性が低下する等の問題を生ずる。
【0034】
得られたPTFE高濃度水性分散液は、そのままもしくは水で希釈して、または、さらに安定性向上のためあるいは粘性やぬれ性の適正化のために、追加の非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、各種レベリング剤、防腐剤、着色剤、フィラー、有機溶剤、その他公知の他の成分を必要に応じて添加し、本発明のPTFE水性分散液を得る。また、特に、ポリエチレンオキシドやポリウレタン系の粘性調整剤を併用すると、こすれ安定性を更に改良させる効果があり好ましい。ポリエチレンオキシドやポリウレタン系の粘性調整剤としては、特開2000−198899号公報に記載のものが好ましい。この粘性調整剤の添加量は、通常PTFEの質量に対して0.01〜1質量%が好ましく、0.1〜0.5質量%がより好ましい。
このようにして、PTFE高濃度水性分散液から本発明のPTFE水性分散液を調製することができる。
【0035】
本発明のPTFE水性分散液のPTFE濃度は、PTFE濃度が55〜70質量%であり、58〜68質量%であることがより好ましく、60〜65質量%であることが特に好ましい。PTFE濃度が、この範囲よりも大きいと粘度が高くなりすぎ、この範囲よりも小さいとPTFE微粒子が沈降しやすく保存安定性が低下する。
【0036】
本発明のPTFE水性分散液中の、一般式(2)及び/または一般式(3)で示される非イオン系界面活性剤濃度は、PTFEの質量に対して1〜20質量%であり、2.0〜12.0質量%がより好ましく、3.0〜10.0質量%が特に好ましい。また、特に、PTFE水性分散液に保存安定性や機械的安定性を付与するだけの場合、非イオン系界面活性剤濃度はPTFEの質量に対して2.0〜8.0質量%が好ましく、3.0〜7.0質量%がさらに好ましい。この範囲よりも小さいと保存安定性が低下したり、PTFE微粒子が凝集する場合があり、この範囲よりも大きいと不経済である。また、特に、コーティング時のぬれ性を向上させたり、厚くコーティングした場合のクラックの発生を防止するためには、PTFEの質量に対して6.0〜12.0質量%と多く配合することが好ましく、8.0〜12.0質量%がさらに好ましい。この範囲よりも少ない場合にも、多すぎる場合にもクラックが発生しやすくなる。
【0037】
本発明のPTFE水性分散液の一般式(4)の含フッ素カルボン酸塩濃度は、PTFE質量に対して0.01〜0.3質量%であり、好ましくは0.02〜0.25質量%であり、特に好ましくは0.02〜0.25質量%である。この範囲より少ない場合、濃縮性やこすれ安定性の改良効果、増粘防止効果、塗膜のクラック発生防止効果を得ることができず、この範囲より大きい場合、PTFE水性分散液の粘度が増大し、塗布プロセスでの塗布厚みの制御が困難となる。
また、本発明のPTFE水性分散液中のAPFO濃度は、PTFE質量に対して0.0001〜0.02質量%であり、好ましくは0.001〜0.01質量%であり、特に好ましくは0.002〜0.005質量%である。この範囲より少ないAPFO濃度を得ることは工業的に容易でなく、この範囲より多い場合には環境への影響を考慮すると好ましくない。
【0038】
また、本発明のPTFE水性分散液中のpHは、7〜12がよく、好ましくは8〜11であり、特に好ましくは8.5〜10.5である。pH調整のためにはアンモニア等の焼成工程で除去されうるアルカリ性物質を必要量溶解させることが望ましい。pHがこの範囲より小さいと、一般式(4)に示す含フッ素カルボン酸塩が不安定化し析出する場合がある。また、この範囲より大きいと、アンモニア等の臭気が強くなるほか、皮膚接触時などに人体への影響が大きくなり好ましくない。
また、本発明のPTFE水性分散液は、原因は明らかではないが、こすれ安定性に優れ、ポンプで移液する際の凝集物発生を軽減してポンプ詰まりを改良し、塗布プロセスにおけるこすれ部での凝集物発生を軽減する効果もある。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらは何ら本発明を限定するものではない。
なお、実施例は例1〜5であり、比較例は例6〜10である。
各項目の評価方法は以下に示す。
(A)PTFEの平均分子量:諏訪(J.Appl.Polym.Sci,17,3253(1973)記載)の方法に従い、示差熱分析での潜熱から求めた。
(B)PTFEの平均粒径:PTFE水性乳化重合液を乾燥後、走査型電子顕微鏡を用いて10000倍で写真撮影し、平均値を求めた。
(C)PTFE濃度および界面活性剤濃度:各分散液サンプル約10gを重量既知のアルミ皿に入れ、120℃1時間後の水分乾燥後の重量、および380℃35分間加熱後の界面活性剤分解後の重量を求め、PTFE濃度、およびPTFE質量に対する界面活性剤濃度を算出した。なお本発明でいう界面活性剤濃度はAPFO、含フッ素カルボン酸塩およびその他の熱分解成分を含む数値である。
【0040】
(D)APFO濃度および含フッ素カルボン酸塩濃度:LCMS(質量分析装置付き高速液体クロマトグラフィー)を用い、あらかじめ濃度既知のAPFO水溶液または含フッ素カルボン酸塩水溶液を使用して得られたピーク面積から検量線を作成した。次にPTFE低濃度水性分散液またはPTFE高濃度分散液50gを70℃で16時間乾燥後、APFOおよび含フッ素カルボン酸塩をエタノールで抽出し、LCMSでのピーク面積を測定し、検量線を用いてサンプル中のAPFO濃度または含フッ素カルボン酸塩濃度を求めた。
(E)pH:ガラス電極法によった。
(F)粘度:ブルックフィールド型粘度計でNo.1スピンドルを用い、60回転で測定した。粘度が40mPa・s以下であれば良好であり、40mPa・s超であれば不良とした。
【0041】
(G)クラック限界厚:10cm角で厚み0.5mmの平滑かつ清浄なアルミ板上に2ccのPTFE水性分散液組成物を滴下し、塗布ギャップの片側が0μmであり逆側が200μmであり、塗布厚みが0〜200μmの間で連続的に変化する塗布用アプリケーターを用いて塗布し、120℃で1時間乾燥後、380℃で35分間焼成した。厚く塗布された箇所にクラックが発生し、塗膜が薄くなるにつれて消えるが、このクラックの消える箇所の厚みをパーマスコープで5箇所測定し平均値を求め、クラック限界厚とした。クラック限界厚が20μm以上であれば良好であり、20μm未満は不良とした。
【0042】
(H)こすれ安定性:コールパルマー社製チューブ式ポンプに外径7.9mm内径4.8mmのタイゴン製チューブを装着し、100ccのPTFE水性分散液を入れた200ccビーカーにチューブ両端を入れ、液が乾燥しないようにアルミ箔で開口部を覆った。この装置を用い、室温23℃、送液量毎分200ccにてPTFE水性分散液を時間循環させ、終了後に200メッシュナイロンフィルターで濾過し凝集物を補集し、120℃1時間乾燥後の重量を測定した。なお、この凝集物量がg以下であればこすれ安定性は良好であり、逆に2g以上は不良とした。
(I)塗布テストおよび色の判定:1m当たりの重量が80グラムのガラス繊維布を10cm×5cmの大きさに切断後、400℃1時間カラ焼きし、ビーカーに入れたPTFE水性分散液に浸漬し、引上げ塗布し、120℃10分乾燥後、380℃10分間焼成し、さらにPTFE水性分散液を塗布し乾燥し焼成する操作を6回繰り返し、PTFE加工されたガラス繊維布を作成した。塗布前のガラス繊維布の色相L*、a*、b*をスガ試験機製SMカラーコンピューターで測定し、塗布前のガラス繊維布の色相L0*、a0*、b0*を引いたΔL*、Δa*、Δb*を算出した。黄色の着色を示すΔb*の値が3未満の場合には良好、3以上の場合には不良とした。また、顕微鏡観察し塗膜の全面にクラックが発生した場合には不良とした。
【0043】
(J)導電率:色の判定に用いたPTFE塗布後のガラス繊維布を10倍質量の蒸留水に1週間浸漬し、水の導電率をラコム社製導電率テスターによって測定した。導電率が1μS未満の場合にはイオン成分の溶出が少ないために良好であり、1μS以上の場合には不良とした。
なお、各例で使用した添加剤(a)〜(k)は、表1、表2のそれぞれに対応する符号の添加剤に相当する。各添加剤の化学構造を表3に示す。
【0044】
[例1]
APFOとしてパーフルオロオクタン酸アンモニウムを使用し、生成するPTFEの質量に対して0.25質量%を重合前に添加し、乳化重合法により、平均粒径が0.25μmであり平均分子量が約300万であり、PTFE濃度が29質量%であるPTFE水性乳化重合液を得た。
このPTFE水性乳化重合液に、PTFEに対して5質量%の非イオン系界面活性剤(a)を添加し、弱強塩基型アニオン交換樹脂である三菱化学製ダイアイオン(登録商標)WA−30をPTFEに対して2質量%加えて24時間攪拌を行ない、ナイロン製200メッシュフィルターで濾過してアニオン交換樹脂を除去し、APFO濃度がPTFE質量に対して0.0065質量%に低減されたPTFE低濃度水性分散液を得た。
【0045】
さらに含フッ素カルボン酸塩(d)であるパーフルオロヘキサン酸アンモニウム10質量%水溶液(アズマックス社製パーフルオロヘキサン酸32.4gに、純水286.6g、28質量%アンモニア水12gを加えて水溶液にしたもの)をPTFE質量に対して0.3質量%を加え(これはパーフルオロヘキサン酸アンモニウムとしてPTFE質量に対して0.03質量%に相当する)、電気泳動法により30時間かけて濃縮を行ない、PTFE濃度が約67.2質量%であり、界面活性剤濃度がPTFEの質量に対して2.3質量%であるPTFE高濃度水性分散液を得た。
このPTFE高濃度水性分散液に対し、PTFEに対して7.2質量%の割合の(a)の非イオン系界面活性剤、PTFE質量に対して0.2質量%のポリエチレンオキシド(j)(分子量50万、和光純薬製)、およびPTFEに対して0.05質量%の割合の28質量%アンモニア水を加え、PTFE濃度が約55.9質量%、界面活性剤濃度がPTFEに対して9.5質量%であり、APFO濃度がPTFEの質量に対して0.0046質量%であるPTFE水性分散液を得た。
得られたPTFE水性分散液の粘度、クラック限界厚、こすれ安定性は良好であり、ガラス繊維布への塗布テストでも着色が少なく、溶出テストでの不純物の溶出も少なく、良好であった。
【0046】
[例2]
例1で得られたPTFE高濃度水性分散液に対し、PTFEの質量に対して0.08質量%の含フッ素カルボン酸塩(d)を追加すること以外は例1と同じ工程により、クラック限界厚みやこすれ安定性がさらに良好なPTFE水性分散液を得た。
[例3]
非イオン系界面活性剤として、(a)に代えて(b)を使用し、含フッ素カルボン酸塩(d)をPTFEの質量に対して0.10質量%使用すること以外は例1と同様の工程を用い、PTFE水性分散液を得た。
[例4]
非イオン系界面活性剤として、(a)に代えて(c)を使用し、含フッ素カルボン酸塩として(e)をPTFEの質量に対して0.2質量%使用すること以外は例1と同様の工程を用い、PTFE水性分散液を得た。 含フッ素カルボン酸塩(e)は、アズマックス社製4,5,5,5,テトラフルオロ−4−(トリフロロメチル)ペンタン酸(水素原子のフッ素原子置換率は63%)24.2gに、純水272.7g、エタノールアミン6.1gを加え、10質量%水溶液にしたものを使用した。
【0047】
[例5]
例1のPTFE水性乳化重合液に、PTFEに対して15質量%の非イオン系界面活性剤(a)を添加し、例1と同様に三菱化学製ダイアイオン(登録商標)WA−30をPTFEに対して2質量%加えて24時間攪拌を行ない、APFO濃度がPTFE質量に対して0.0064質量%であるPTFE低濃度水性分散液を得た。さらに含フッ素カルボン酸塩(f)をPTFE質量に対して0.05質量%を加え、10リッター容器中で80℃で24時間放置し、相分離法により濃縮を行ない、PTFE濃度が約67.1質量%であり、界面活性剤濃度がPTFEの質量に対して3.0質量%であるPTFE高濃度水性分散液を得た。
このPTFE高濃度水性分散液に対して、PTFE質量に対して6.5質量%の非イオン系界面活性剤(a)、PTFE質量に対して0.05質量%の含フッ素カルボン酸塩(f)、PTFE質量に対して0.2質量%のポリエチレンオキシド(j)、PTFE質量に対して0.05質量%の28質量%アンモニア水を加え、PTFE水性分散液を得た。
【0048】
[例6]
含フッ素カルボン酸塩(d)を使用しないこと以外は例1と同様の工程を用いて、PTFE高濃度水性分散液を得た。得られたPTFE高濃度水性分散液のPTFE濃度は58.5質量%と低かった。また、配合後のPTFE水性分散液の粘度は高く、クラック限界厚みが小さく、こすれ安定性も低く、好ましくなかった。
[例7]
含フッ素カルボン塩(g)(アズマックス製Sodium Heptafluorobutylate)をPTFE質量に対して0.05質量%添加したこと以外は例1と同様の工程を用いて、PTFE高濃度水性分散液を得た。得られたPTFE高濃度水性分散液のPTFE濃度は61.8質量%と低かった。また、配合後のPTFE水性分散液の粘度は高く、クラック限界厚みが小さく、こすれ安定性も低く、好ましくなかった。また、浸漬水の導電率も高く、イオン性不純物の溶出があり、好ましくなかった。
【0049】
[例8]
フッ素原子を含まないカルボン酸塩(h)(和光純薬製n−ヘキサン酸のアンモニア中和物)をPTFE質量に対して0.10質量%添加した以外は例1と同様の工程を用いて、PTFE高濃度水性分散液を得た。PTFE高濃度水性分散液のPTFE濃度は62.2質量%と低く、また、配合後のPTFE水性分散液の粘度は高く、クラック限界厚みが小さく、こすれ安定性も低く、好ましくなかった。
[例9]
フッ素原子を含まず、硫黄原子を含有するアニオン系界面活性剤(i)(和光純薬製ラウリル硫酸ナトリウム)をPTFE質量に対して0.10質量%添加したこと以外は例1と同様の工程を用い、PTFE水性分散液を得た。このPTFE水性分散液を用いて塗布テストを行なったが、得られた塗布サンプルは茶色い着色が認められ、浸漬水の導電率も大きく、好ましくなかった。
[例10]
含フッ素カルボン酸塩(d)をPTFE質量に対して0.50質量%添加したこと以外は例5と同様の工程を用い、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液は粘度が高く、塗布テスト時のPTFE付着量が多くなり、クラックが発生し、好ましくなかった。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のPTFE水性分散液は、プリント基板等の電子材料用途等のほか、膜構造建築物の屋根材とする用途、調理用品の表面コーティング用途、紡糸してPTFE繊維とする用途、発塵防止用途、電池の活性物質バインダー用途、プラスチックに添加する用途等、多くの用途に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が0.1〜0.5μmのポリテトラフルオロエチレン微粒子を55〜70質量%、一般式(1)で示される含フッ素カルボン酸塩をポリテトラフルオロエチレンの質量に対して0.0001〜0.02質量%、一般式(2)および/または一般式(3)で示される非イオン系界面活性剤をポリテトラフルオロエチレンの質量に対して1〜20質量%、および一般式(4)で示される含フッ素カルボン酸塩をポリテトラフルオロエチレンの質量に対して0.01〜0.3質量%含有することを特徴とするポリテトラフルオロエチレン水性分散液。
一般式(1) R−COOX (式中、Rは炭素数7で、水素原子の90〜100%がフッ素原子で置換されたアルキル基(ただし、アルキル基中には1〜2個のエーテル性の酸素原子を含有してもよい。)であり、Xはアンモニウムイオンである。)
一般式(2) R−O−A−H (式中、Rは炭素数8〜18のアルキル基であり、Aはオキシエチレン基数5〜20およびオキシプロピレン基数0〜2より構成されるポリオキシアルキレン鎖である。)
一般式(3) R−C−O−B−H (式中、Rは炭素数4〜12のアルキル基であり、Bはオキシエチレン基数5〜20より構成されるポリオキシエチレン鎖である。)
一般式(4) R−COOY (式中、Rは炭素数4〜6で、水素原子の30〜100%がフッ素原子で置換されたアルキル基(ただし、アルキル基中には1〜2個のエーテル性の酸素原子を含有してもよい。)であり、Yは式{HO(CH4−zで表されるカチオン基であり、前記カチオン基におけるnは2〜4の整数であり、zは0〜4の整数である。)
【請求項2】
平均粒径が0.1〜0.5μmのポリテトラフルオロエチレン微粒子を1〜40質量%、一般式(1)で示される含フッ素カルボン酸塩をポリテトラフルオロエチレンの質量に対して0.0001〜0.02質量%、および一般式(2)および/または一般式(3)で示される非イオン系界面活性剤をポリテトラフルオロエチレンの質量に対して1〜20質量%含有するポリテトラフルオロエチレン低濃度水性分散液に、一般式(4)で示される含フッ素カルボン酸塩をポリテトラフルオロエチレンの質量に対して0.01〜0.3質量%添加し、その後ポリテトラフルオロエチレン低濃度水性分散液を濃縮し、ポリテトラフルオロエチレン濃度が60〜75質量%のポリテトラフルオロエチレン高濃度水性分散液を得ることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン水性分散液の製造方法。

【公開番号】特開2007−23088(P2007−23088A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203953(P2005−203953)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】