説明

ポリビニルアルコール並びにポリ酢酸ビニルエマルジョン及びその製造方法

【課題】 酢酸ビニルを重合させる際に好適に用いられるPVAを提供すること及び、このPVAを用いて、低温成膜性に優れたポリ酢酸ビニルエマルジョンを提供することを課題とする。
【解決手段】 ケン化度(X)と表面張力(T)が、一般式(数1)を満足するポリビニルアルコール。及び、このポリビニルアルコールを分散安定剤として、酢酸ビニルを重合して得られたポリ酢酸ビニルエマルジョン。
(数1) 1100.0≧13×X−T≧1093.0

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール(以下、PVAという)並びにポリ酢酸ビニルエマルジョン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ酢酸ビニルエマルジョンは、可塑剤、有機溶剤などの成膜助剤を添加して、木工用、紙加工用、繊維加工用等の接着剤や塗料などに幅広く使用されている。この可塑剤としては、一般にフタル酸エステル類などが使用されるが、環境問題の高まりから安全性の高い可塑剤などへの代替が検討されており、特に、住宅関連に使用される接着剤では可塑剤を含まないポリ酢酸ビニルエマルジョン接着剤が検討されている。しかしながら、可塑剤を含まないポリ酢酸ビニルエマルジョン接着剤は、低温下での成膜性に問題がある。
【0003】
ポリ酢酸ビニルエマルジョンを得る手段としては、PVAの存在下で、エチレン含有量が30〜36質量%であるエチレン−酢酸ビニル共重合樹脂系エマルジョンに酢酸ビニルをシード重合する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−40914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酢酸ビニルを重合させる際に好適に用いられるPVAを提供することを課題とする。また、このPVAを用いて得られる低温成膜性に優れたポリ酢酸ビニルエマルジョンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
PVAのケン化度(X)と表面張力(T)を、一般式(数2)を満足するものとすることによって、酢酸ビニルの重合に適したPVAが得られる。
(数2) 1100.0≧13×X−T≧1093.0
このPVAの存在下で酢酸ビニルを重合することにより、低温成膜性に優れたポリ酢酸ビニルエマルジョンを得ることができる。
ここでいう表面張力とは、0.3質量%に調製した試料(PVA)水溶液を25℃に調節して、20分間静置させた後の、ウィルヘルミ(プレート)法によって測定した表面張力を表すものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、酢酸ビニルを重合させる際に好適に用いられるPVAが得られる。また、得られたPVAを重合の際に存在させることにより、低温成膜性に優れたポリ酢酸ビニルエマルジョンが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
PVAは、そのケン化度(Xモル%)と表面張力(Tdyne/cm2)が、一般式(数3)の条件を満足するものである。
(数3) 1100.0≧13×X−T≧1093.0
【0009】
ここで、式中の「13×X−T」は、PVAのモノマーに対する親和性を表したものである。特に、PVAのケン化度と表面張力をこの範囲に調整することによって、酢酸ビニルを重合させるために最適なPVAが得られる。
【0010】
PVAの13×X−Tの値が1100.0を超える場合には、得られるポリ酢酸ビニルエマルジョンの粘度が高くなりすぎて作業性が著しく低下する。また、1093.0未満では、得られるポリ酢酸ビニルエマルジョンの粒子径が肥大化し、形成皮膜が白化する傾向にあり好ましくない。
【0011】
この条件を満足するPVAは、特に限定するものではないが、PVAの製造時のケン化工程において、換算誘電率が28.0c.g.s.e.s.u.以下、より好ましくは、18.0〜25.0c.g.s.e.s.u.の溶剤の共存下でアルカリケン化を行うことにより得られるものである。
ここで、換算誘電率とは、2種類以上の溶媒を組み合わせて使用する場合に、それぞれの溶媒の質量比と溶媒固有の誘電率から比例計算によって求めた値である。なお、溶媒固有の誘電率は、例えば化学便覧(基礎編)p.1006等に記載がある。
【0012】
換算誘電率が28.0c.g.s.e.s.u.以下の溶媒としては、例えば、酢酸メチル/メタノール=1/1(質量比)の混合溶媒(19.8c.g.s.e.s.u.)、酢酸メチル/メタノール=3/1(質量比)の混合溶媒(13.4c.g.s.e.s.u.)、酢酸メチル/メタノール=1/3(質量比)の混合溶媒(26.2c.g.s.e.s.u.)、酢酸メチル(7.0c.g.s.e.s.u.)、トリクロロエチレン(3.4c.g.s.e.s.u.)、キシレン(2.4c.g.s.e.s.u.)、トルエン(2.4c.g.s.e.s.u.)、ベンゼン(2.3c.g.s.e.s.u.)、アセトン(21.4c.g.s.e.s.u.)、エタノール(24.3c.g.s.e.s.u.)等があり、工業的には酢酸メチルとメタノールの混合溶媒が好適に用いられる。
【0013】
PVAのケン化度は、特に限定するものではないが、得られるエマルジョンの粒子径が肥大化しない、得られるエマルジョンの粘度が高くなりすぎないという観点から、85.0〜90.0モル%の範囲にあるものが好ましく、87.0〜89.0モル%の範囲にあるものがより好ましい。
【0014】
PVAの粘度平均重合度(以下、重合度という)は、特に限定するものではないが、エマルジョンの粘度が高くなりすぎないという観点から、100〜10000のものが好ましく、200〜3000の範囲のものがより好ましく、500〜3000の範囲にあるものが特に好ましくい。
【0015】
酢酸ビニルの重合は、PVAを含む重合系中で、重合開始剤を用いて行われる。
【0016】
PVAの量は、重合の際の重合性や、得られたポリ酢酸ビニルエマルジョンを接着剤としたときの接着性などを考慮して適宜選択できるが、一般には、得られるポリ酢酸ビニルエマルジョンの全樹脂(全固形分)中の含有量として2〜40質量%、好ましくは5〜30質量%、さらに好ましくは8〜25質量%程度がよい。
【0017】
重合系中には、重合性や接着剤としての性能を損なわない範囲で、本発明にかかるPVA以外のPVA(例えば、完全ケン化PVA等)、PVA以外の保護コロイド類や、界面活性剤(非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等)などを添加してもよい。また、重合で用いる単量体は、酢酸ビニルを必須とするが、これに酢酸ビニルと共重合可能な単量体を混合させても構わない。酢酸ビニルと共重合可能な単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸類、(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド類、シアン化ビニル類のほか、イソプレン等のジエン類、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロオレフィン類、プロピオン酸ビニル、安息香酸ビニル等のカルボン酸ビニルエステル類、スチレン、メチルスチレン等の芳香族ビニル類、酢酸アリル、安息香酸アリル等のアリルエステル類等がある。
【0018】
重合開始剤は、特に限定するものではないが、慣用の開始剤、例えば、ベンゾイルパーオキシド等の有機過酸化物、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、アゾビスイソブチロニトリルなどを使用できる。これらの開始剤は、酒石酸、ロンガリット、重亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸などの還元剤と組み合わせて、レドックス系開始剤として用いることもできる。重合開始剤の使用量は、単量体の総量(酢酸ビニル及び酢酸ビニル以外の重合性不飽和単量体)100質量部に対して、例えば0.05〜2質量部程度である。また、レドックス系開始剤を用いる際の還元剤の使用量は、前記開始剤の種類に応じて適宜設定できる。なお、連鎖移動剤として、イソプロパノール、ドデシルメルカプタンなどの少量の有機溶剤を重合系中に添加してもよい。
【0019】
酢酸ビニルの重合において、重合系中への酢酸ビニルの添加方法としては、一括添加、連続添加、間欠添加の何れであってもよいが、反応の制御の容易性などの点から、連続添加又は間欠添加の方法が好ましい。酢酸ビニルは、PVAなどの保護コロイド水溶液と混合、乳化して重合系中に添加してもよい。重合に用いる酢酸ビニルの使用量は、得られるポリ酢酸ビニルエマルジョンの全樹脂(全固形分)に対して、例えば10〜90質量%、好ましくは15〜80質量%、さらに好ましくは40〜75質量%程度である。重合温度は、例えば60〜90℃、好ましくは70〜85℃程度である。
【0020】
得られるポリ酢酸ビニルエマルジョンの粘度は、特に限定するものではないが、作業性の点で30℃におけるBH型粘度計での測定値で1万〜15万mPa・s、好ましくは1万〜10万mPa・s、さらに好ましくは2万〜10万mPa・sに調整して使用される。またチキソ性の尺度である構造粘性指数(SVI)は、特に限定されるものでないが、一般式(数4)により求めたSVIが、−0.45〜−0.85、好ましくは−0.55〜−0.75の範囲であれば流動性と塗布作業性のバランスがよく、好適に用いられる。
(数4) SVI={log(x)−log(y)}/(log2−log20)
【0021】
酢酸ビニルを重合させる際に、重合を促進する目的でシードエマルジョンを添加してもよい。
【0022】
シードエマルジョンの種類は特に制限されないが、ガラス転移点が30℃以下の樹脂またはゴムのエマルジョン(ラテックス)を用いることが好ましく、ガラス転移温度が0℃以下であればさらに好ましい。シードエマルジョンを構成する樹脂またはゴムのガラス転移点が30℃以下であれば、得られるポリ酢酸ビニルエマルジョンを接着剤として利用した場合に、室温でも十分なタック性が発現できたり、接着皮膜に可撓性を付与できたりするなど、多くの利点が得られる。シードエマルジョンとしては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、ポリクロロプレン(CR)、ポリイソプレン(IR)ラテックス、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、(メタ)アクリル重合体等がある。
【0023】
シードエマルジョンの添加量は、得られるポリ酢酸ビニルエマルジョンの全樹脂(全固形分)中に、例えば3〜40質量%、好ましくは5〜30質量%、さらに好ましくは10〜25質量%程度である。
【0024】
本発明により得られるポリ酢酸ビニルエマルジョンは、可塑剤を全く含まない状態であっても優れた低温成膜性を示す。
【0025】
本発明の方法で得られるポリ酢酸ビニルエマルジョンは、そのままで水性接着剤として利用できるが、必要に応じて、セルロース誘導体等の水溶性高分子などを増粘剤として配合したり、充填剤、溶剤、顔料、染料、防腐剤、消泡剤などを添加してもよい。本発明の水性接着剤の好ましい態様では、可塑剤(揮発性可塑剤)を実質的に含まない。ここで、可塑剤を実質的に含まないとは、例えば添加する顔料ペーストなどに可塑剤が含まれており、そのために前記接着剤中に可塑剤が混入すること等を妨げるものではないことを意味する。
【実施例】
【0026】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0027】
実施例1
PVAの製造
還流冷却器、滴下漏斗、攪拌機を備えた重合缶に、酢酸ビニル100質量部、メタノール17.0質量部、及びアゾビスイソブチロニトリル0.02モル%を仕込み、窒素気流下で攪拌しながら沸点下で3.0時間重合を行った。次いで、未反応の酢酸ビニルモノマーを重合系外に除去し、重合体のメタノール溶液(樹脂分35質量%)を得た。得られたメタノール溶液を、酢酸メチル(誘電率7.0c.g.s.e.s.u.)で希釈してケン化溶媒の換算誘電率を23.7c.g.s.e.s.u.に調製し、ニーダーに仕込んで溶液温度を45℃に保ちながら水酸化ナトリウムの3質量%メタノール溶液を加えて中和した。さらに、水酸化ナトリウムの3質量%メタノール溶液をポリマー中の酢酸ビニル単位に対して18ミリモル加えてケン化し、析出物をろ別、メタノール洗浄、熱風乾燥してPVAを得た。得られたPVAのケン化度は88.0モル%、重合度2270であった。
【0028】
表面張力測定
得られたPVAの0.3質量%水溶液を調製し、その水溶液を25℃に調節して、20分間静置した後、ウィルヘルミ(プレート)法表面張力測定装置(協和界面科学株式会社製、CBVP−A3)を用いて、表面張力を測定した。測定に用いたプレートは、幅24mm、厚さ0.3mmの長方形の白金製プレート(界面科学株式会社製)である。試料容器は、内径48mmのガラス製シャーレを用いた。測定の結果、表面張力は45.0、(13×X−T)は1099.0であった。
【0029】
ポリ酢酸ビニルエマルジョンの製造
撹拌機、還流冷却器、滴下槽及び温度計付きの反応容器に水505質量部を入れ、これに、上記の製造方法で得られたPVA55質量部、酒石酸0.7質量部を加えて溶解させ、75℃に保った。PVAが完全に溶解した後、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂エマルジョン(EVAエマルジョン)(電気化学工業(株)製、デンカEVAテックス59、固形分濃度56質量%)を125質量部添加した。この混合液に、触媒(35質量%過酸化水素水1質量部を水22質量部に溶解させた水溶液)と、酢酸ビニルモノマー285質量部とを、別々の滴下槽から2時間かけて連続的に滴下した。滴下終了後、さらに1.5時間撹拌し、重合を完結させて、ポリ酢酸ビニルエマルジョンを得た。
【0030】
粘度測定
得られたポリ酢酸ビニルエマルジョンの30℃における粘度を、BH型粘度計を用いて測定した。測定の結果、粘度は60,200mPa・s(10rpm)であった。
【0031】
構造粘性指数(SVI)
構造粘性指数(SVI)は、一般式(数5)に示すように、BH型粘度計によって測定した30℃でのエマルジョンの粘度から計算して得られる値である。式中のx及びyは、それぞれローター回転数2rpm及び20rpmの時の粘度である。測定の結果、構造粘性指数は−0.63であった。
(数5) SVI={log(x)−log(y)}/(log2−log20)
【0032】
低温成膜性
JIS K 6804:2003(酢酸ビニルエマルジョン木材接着剤)の最低成膜温度測定方法を参考に、得られたエマルジョンを、2℃の雰囲気下で、スライドガラス板上に厚さ0.1〜0.3mmで塗布し、2日間養生して皮膜を形成した。この皮膜の透明性を目視判定して、低温成膜性を目視にて評価した。評価の結果、透明であった。
【0033】
実施例2
PVAの製造
実施例1で、溶液を酢酸メチル(誘電率7.0c.g.s.e.s.u.)で希釈して、ケン化溶媒の換算誘電率を21.6c.g.s.e.s.u.に調製した他は、実施例1と同様にPVAを製造した。得られたPVAは、ケン化度87.7モル%、重合度2270のものであり、その表面張力は42.0、(13×X−T)は1098.1であった。
【0034】
ポリ酢酸ビニルエマルジョンの製造
実施例1におけるPVAを、本実施例で得られたPVAに変更した他は、実施例1と同様にしてポリ酢酸ビニルエマルジョンを製造した。実施例1と同様の方法によって、得られたポリ酢酸ビニルエマルジョンの粘度、構造粘性指数を測定したところ、それぞれ、65,700mPa・s、−0.65であった。実施例1と同様の方法で低温成膜性を評価したところ、乾燥被膜は透明であり、低温成膜性が良好であることがわかった。
【0035】
実施例3
PVAの製造
PVAのケン化度を87.8モル%、重合度を1740に調整した以外は、実施例1と同様の方法によってPVAを製造し、実施例1と同様の方法によって測定した。得られたPVAの表面張力は45.1、(13×X−T)は1096.3であった。
【0036】
ポリ酢酸ビニルエマルジョンの製造
実施例1におけるPVAを、本実施例で得られたPVAに変更した他は、実施例1と同様にしてポリ酢酸ビニルエマルジョンを製造した。実施例1と同様の方法によって、得られたポリ酢酸ビニルエマルジョンの粘度、構造粘性指数を測定したところ、それぞれ、37,900mPa・s、−0.59であった。実施例1と同様の方法で低温成膜性を評価したところ、乾燥被膜は透明であり、低温成膜性が良好であることがわかった。
【0037】
比較例1
PVAの製造
実施例1で、溶液に水を少量添加し、ケン化溶媒の換算誘電率を33.2c.g.s.e.s.u.に調整した他は、実施例1と同様にPVAを製造した。得られたPVAは、ケン化度88.2モル%、重合度2270のものであり、その表面張力は56.1、(13×X−T)は1090.5であった。
【0038】
ポリ酢酸ビニルエマルジョンの製造
実施例1におけるPVAを、本比較例で得られたPVAに変更した他は、実施例1と同様にしてポリ酢酸ビニルエマルジョンを製造した。実施例1と同様の方法によって、得られたポリ酢酸ビニルエマルジョンの粘度、構造粘性指数を測定したところ、それぞれ、36,900mPa・s、−0.40であった。実施例1と同様の方法で低温成膜性を評価したところ、乾燥被膜は白濁して不透明であり、低温成膜性が劣ることがわかった。
【0039】
比較例2
PVAの製造
実施例1で、溶液を酢酸メチル(誘電率7.0c.g.s.e.s.u.)で希釈して、ケン化溶媒の換算誘電率を29.0c.g.s.e.s.u.に調整した他は、実施例1と同様にPVAを製造した。得られたPVAは、ケン化度88.5モル%、重合度2270のものであり、その表面張力は48.5、(13×X−T)は1102.0であった。
【0040】
ポリ酢酸ビニルエマルジョンの製造
実施例1におけるPVAを、本比較例で得られたPVAに変更した他は、実施例1と同様にしてポリ酢酸ビニルエマルジョンを製造した。実施例1と同様の方法によって、得られたポリ酢酸ビニルエマルジョンの粘度、構造粘性指数を測定したところ、それぞれ、48,800mPa・s、−0.42であった。実施例1と同様の方法で低温成膜性を評価したところ、乾燥被膜は白濁して不透明であり、低温成膜性が劣ることがわかった。
【0041】
比較例3
PVAの製造
実施例1で、溶液を酢酸メチル(誘電率7.0c.g.s.e.s.u.)で希釈して、ケン化溶媒の換算誘電率を16.7c.g.s.e.s.u.に調製した他は、実施例1と同様にPVAを製造した。得られたPVAは、ケン化度88.0モル%、重合度2270のものであり、その表面張力は44.5、(13×X−T)は1091.1であった。
【0042】
ポリ酢酸ビニルエマルジョンの製造
実施例1におけるPVAを、本比較例で得られたPVAに変更した他は、実施例1と同様にしてポリ酢酸ビニルエマルジョンを製造した。実施例1と同様の方法によって、得られたポリ酢酸ビニルエマルジョンの粘度、構造粘性指数を測定したところ、それぞれ、157,000mPa・s、−0.68であった。実施例1と同様の方法で低温成膜性を評価したところ、厚みの均一な成膜ができず、低温成膜性が劣ることがわかった。
【0043】
以上の実施例、比較例の結果を表1にまとめた。各実施例で得られたポリ酢酸ビニルエマルジョンは、木工用、紙加工用、繊維加工用等の接着剤や塗料として良好なものであった。
なお、表1には示さなかったが、従来から市販されているPVAである、デンカポバールB24(電気化学工業株式会社製;13×X−T=1092.0)やクラレポバール224E(株式会社クラレ製;13×X−T=1101.6)を使用して得られたポリ酢酸ビニルエマルジョンは、乾燥被膜が白濁して不透明であった。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケン化度(X)と表面張力(T)が、一般式(数1)を満足するポリビニルアルコール。
(数1) 1100.0≧13×X−T≧1093.0
【請求項2】
請求項1記載のポリビニルアルコールを含有するポリ酢酸ビニルエマルジョン。
【請求項3】
請求項1記載のポリビニルアルコールの存在下で重合して得られたポリ酢酸ビニルエマルジョン。
【請求項4】
請求項1記載のポリビニルアルコールとシードエマルジョンの存在下で重合して得られたポリ酢酸ビニルエマルジョン。
【請求項5】
請求項1記載のポリビニルアルコールの存在下で酢酸ビニルを重合することを特徴とするポリ酢酸ビニルエマルジョンの製造方法。
【請求項6】
請求項1記載のポリビニルアルコールとシードエマルジョンの存在下で酢酸ビニルを重合することを特徴とするポリ酢酸ビニルエマルジョンの製造方法。
【請求項7】
請求項3または請求項4記載のポリ酢酸ビニルエマルジョンを含有する接着剤。
【請求項8】
請求項3または請求項4記載のポリ酢酸ビニルエマルジョンを含有する塗料。

【公開番号】特開2006−316099(P2006−316099A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137157(P2005−137157)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】