説明

ポリビニルアルコール系フィルムおよびその製造方法

【課題】偏光膜の大面積化、高精細化に対応する、複屈折率の低いポリビニルアルコール系フィルム、更には偏光性能に優れ、色ムラのない偏光膜を得るポリビニルアルコール系フィルム、およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】キャスト法により製造される幅3m以上のポリビニルアルコール系フィルムであり、リターデーションが15nm以下で、かつ幅方向の端部のリターデーションと中央部のリターデーションの差が、5nm以下であるポリビニルアルコール系フィルムであり、好ましくは、(A)加熱されたポリビニルアルコール系フィルムを50℃以下に冷却する工程、および(B)冷却した該ポリビニルアルコール系フィルムをロールに巻き取る前に50〜100℃に加熱する工程により、ポリビニルアルコール系フィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系フィルムおよびその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、複屈折率の低いポリビニルアルコール系フィルムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアルコール系フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂を水などの溶媒に溶解して原液を調製したのち、溶液流延法(キャスティング法)により製膜して、金属加熱ロールなどを使用して乾燥することにより製造される。このようにして得られるポリビニルアルコール系フィルムは、透明性や染色性に優れたフィルムとして多くの用途に利用されており、その有用な用途の一つに偏光膜があげられる。かかる偏光膜は液晶ディスプレイの基本構成要素として用いられており、近年では高品位で高信頼性の要求される機器へとその使用が拡大されている。
【0003】
このような中、液晶テレビなどの画面の大型化に伴い、従来品より一段と偏光性能、とくに偏光性能の面内均一性に優れた偏光膜が要望されている。面内均一性を達成するためには、偏光膜の原反となるポリビニルアルコール系フィルムに複屈折があってはならず、かかる対策として、キャスティング用基材から剥離するときのフィルムの含水率を10重量%未満に設定して製造されたポリビニルアルコール系フィルムを用いることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
ところで、金型内で射出成形される成形体においても、型内で重合硬化される成形体においても、またキャストドラム上で乾燥製膜されるフィルムにおいても、収縮しようとする樹脂の内部には、なんらかの応力ひずみが発生する。この応力ひずみは光学的にはリターデーションとして観測され、キャスト法により製造される厚さ数十μmのポリビニルアルコール系フィルムにおいては、通常数十nmのリターデーションが発生している。ポリビニルアルコール系フィルムから偏光膜を製造する時に問題になるのは、このリターデーションの面内ムラである。通常、面内ムラは幅方向に発生しやすく、応力が集中するフィルム端部でリターデーションが大きく、中央部で小さい傾向となる。近年、生産性の点からポリビニルアルコール系フィルムは幅3m以上に幅広化しており、幅方向の端部のリターデーションと中央部のリターデーションの差が問題となっていた。この差が5nmを超えるようなフィルムは、近年の大面積化、高精細化を考慮した偏光膜の製造に用いる原反としては不充分である。
【0005】
上記特許文献1に開示された技術では、実施例で得られるポリビニルアルコール系フィルムのリターデーションの最低値が15nmを超えており、リターデーションムラも5nmを超えている。なにより幅3m以上のフィルムに対応できず、フィルムの低複屈折化がまだまだ不充分であった。このように、従来のポリビニルアルコール系フィルムは、偏光膜の大面積化および高精細化に対応するものではなく、複屈折率の低いポリビニルアルコール系フィルムが必要とされていた。
【0006】
【特許文献1】特開平6−138319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、偏光膜の大面積化、高精細化に対応する、複屈折率の低いポリビニルアルコール系フィルム、更には偏光性能に優れ、色ムラのない偏光膜を得るポリビニルアルコール系フィルムおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、キャスト法により製造される幅3m以上のポリビニルアルコール系フィルムであり、リターデーションが15nm以下で、かつ幅方向の端部のリターデーションと中央部のリターデーションの差が、5nm以下であるポリビニルアルコール系フィルムに関する。
【0009】
さらに、本発明では、重量平均分子量120000〜300000のポリビニルアルコール系樹脂を用いことが好ましく、また、フィルムの厚みが30〜70μmであることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、
(A)加熱されたポリビニルアルコール系フィルムを50℃以下に冷却する工程、および(B)冷却した該ポリビニルアルコール系フィルムをロールに巻き取る前に50〜100℃に加熱する工程
を含む前記ポリビニルアルコール系フィルムの製造方法に関する。
【0011】
前記製造方法において、工程(A)の冷却が、10〜40℃の送風によりなされることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、偏光膜の原反フィルムを得るために用いるポリビニルアルコール系フィルムに関する。
【0013】
さらに、本発明は、前記ポリビニルアルコール系フィルムからなる偏光膜、さらには偏光板に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法により得られるポリビニルアルコール系フィルムは、複屈折率が低いため、大面積化および高精細化が可能な偏光性能の面内均一性に優れ、色ムラのない偏光膜の製造に、好ましく用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、キャスト法により製造される幅3m以上のポリビニルアルコール系フィルムであり、リターデーションが15nm以下、好ましくは12nm以下、より好ましくは10nm以下で、かつ幅方向の端部のリターデーションと中央部のリターデーションの差が、5nm以下、好ましくは4nm以下、より好ましくは3nm以下である。リターデーション値が15nmをこえるとフィルムの複屈折率が高く、大面積化、高精細化を考慮した偏光膜の製造に用いる原反として不充分であり、フィルム幅方向の端部のリターデーションと中央部のリターデーションの差が5nmをこえると、フィルムの複屈折率ムラが大きく、大面積化、高精細化を考慮した偏光膜の製造に用いる原反として不充分である。
【0016】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法は、ポリビニルアルコール系樹脂を用いてポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調製し、この水溶液をエンドレスベルト又はドラム型ロール、好ましくはドラム型ロールに流延して製膜したのち、乾燥させ、必要に応じて熱処理するなどして製造されるものであり、その後、下記の工程、即ち、
(A)加熱されたポリビニルアルコール系フィルムを50℃以下に冷却する工程、および(B)冷却した該ポリビニルアルコール系フィルムをロールに巻き取る前に50〜100℃に加熱する工程
により製造される。
【0017】
以下、前記工程(A)および工程(B)からなる製造方法について説明する。
【0018】
ポリビニルアルコール系フィルムの製造に用いられるポリビニルアルコール系樹脂は、通常、酢酸ビニルを重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化して製造される。本発明のフィルムにおいては、そのような樹脂に限定されず、酢酸ビニルと、少量の酢酸ビニルと共重合可能な成分との共重合体をケン化して得られる樹脂を用いることもできる。酢酸ビニルと共重合可能な成分としては、たとえば、不飽和カルボン酸や、その塩、エステル、アミドまたはニトリルなど;エチレン、プロピレン、n−ブテン、イソブテンなどの炭素数2〜30のオレフィン類;ビニルエーテル類;不飽和スルホン酸塩などを用いることができる。
【0019】
また、ポリビニルアルコール系樹脂として、側鎖に1,2−グリコール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂を用いることも好ましく、かかる側鎖に1,2−グリコール結合を有するポリビニルアルコール系樹脂は、例えば、(ア)酢酸ビニルと3,4−ジアセトキシ−1−ブテンとの共重合体をケン化する方法、(イ)酢酸ビニルとビニルエチレンカーボネートとの共重合体をケン化および脱炭酸する方法、(ウ)酢酸ビニルと2,2−ジアルキル−4−ビニル−1,3−ジオキソランとの共重合体をケン化および脱ケタール化する方法、(エ)酢酸ビニルとグリセリンモノアリルエーテルとの共重合体をケン化する方法、等により得られる。
【0020】
ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、好ましくは120000〜300000、より好ましくは130000〜260000、さらに好ましくは135000〜200000であり、偏光膜の偏光度向上の点で特に好ましくは140000〜180000である。重量平均分子量が120000未満では、ポリビニルアルコール系樹脂を光学フィルムとする場合に充分な光学性能が得られず、300000をこえると、フィルムを偏光膜とする場合に延伸が困難となり、工業的な生産が難しく好ましくない。なお、ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、GPC−LALLS法により測定される重量平均分子量である。
【0021】
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、好ましくは97〜100モル%、より好ましくは98〜100モル%、さらに好ましくは99〜100モル%である。ケン化度が97モル%未満ではポリビニルアルコール系樹脂を光学フィルムとする場合に充分な光学性能が得られず好ましくない。
【0022】
本発明の製造方法においては、まず、ポリビニルアルコール系樹脂の含水率を調整して得られるポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを水に溶解して、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調製する。ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の調製方法は、とくに限定されず、たとえば、多軸押出機を用いて調製してもよく、また、上下循環流発生型撹拌翼を備えた溶解缶において、缶中に水蒸気を吹き込んで含水ポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを溶解させて水溶液を調製することもできる。ポリビニルアルコール系樹脂水溶液には、ポリビニルアルコール系樹脂以外に、必要に応じて、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどの一般的に使用される可塑剤や、ノニオン性、アニオン性またはカチオン性の界面活性剤を含有させることが、機械特性や生産性の点より好ましい。
【0023】
このようにして得られるポリビニルアルコール系樹脂水溶液の濃度は、好ましくは15〜60重量%、より好ましくは17〜55重量%、さらに好ましくは20〜50重量%である。濃度が15重量%未満では乾燥負荷が大きくなるため生産能力に劣り、60重量%をこえると粘度が高くなりすぎて均一な溶解ができず、好ましくない。
【0024】
次に、得られたポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、脱泡処理される。脱泡方法としては、静置脱泡や多軸押出機による脱泡などの方法があげられる。多軸押出機としては、ベントを有した多軸押出機であれば、とくに限定されないが、通常はベントを有した2軸押出機が用いられる。
【0025】
脱泡処理ののち、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、一定量ずつT型スリットダイに導入され、その後、流延されて、キャスティング法により製膜される。
【0026】
T型スリットダイ出口の樹脂温度は80〜100℃であることが好ましく、より好ましくは85〜98℃である。T型スリットダイ出口の樹脂温度が80℃未満では流動不良となり、100℃をこえると発泡して好ましくない。
【0027】
ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の流延に際しては、ドラム型ロールまたはエンドレスベルトで行なわれるが、幅広化や長尺化、膜厚の均一性などの点からドラム型ロールで行うことが好ましい。
【0028】
ドラム型ロールの直径は、好ましくは2000〜5000mm、より好ましくは2400〜4500mm、特に好ましくは2800〜4000mmである。ドラム型ロールの直径が2000mm未満では、乾燥長が不足し速度が出ず、5000mmをこえると設備製造上困難となり好ましくない。ドラム型ロールの幅は、好ましくは1000〜5000mm、より好ましくは2000〜4500mm、とくに好ましくは3000〜4300mmである。ドラム型ロールの幅が1000mm未満では、生産性に劣り、5000mmをこえると輸送性に劣ることとなり好ましくない。ドラム型ロールの回転速度は5〜30m/分であることが好ましく、6〜20m/分であることがより好ましい。回転速度が5m/分未満では、生産性に劣り、30m/分をこえると乾燥が不足することとなり好ましくない。また、ドラム型ロールの表面温度は70〜99℃であることが好ましく、75〜97℃であることがより好ましい。表面温度が70℃未満では乾燥不良となり、99℃をこえると発泡して好ましくない。
【0029】
ドラム型ロールにより製膜された膜は、続いて乾燥される。乾燥方法はとくに限定されず、たとえば、膜の表面と裏面とを複数の乾燥ロールに交互に通過させることにより行なうことができる。乾燥ロールの直径は、好ましくは100〜1000mm、より好ましくは150〜900mm、特に好ましくは200〜800mmである。乾燥ロールの直径が100mm未満では莫大な本数が必要となり、1000mmをこえるとフィルム搬送が不安定となり、好ましくない。乾燥ロールの本数は、通常2〜30本である。乾燥ロールの表面温度は、とくに限定されないが、60〜100℃、さらには65〜90℃であることが好ましい。表面温度が60℃未満では乾燥不良となり、100℃をこえると乾燥しすぎることとなり、外観不良を招き好ましくない。
【0030】
乾燥後、得られたフィルムは、必要に応じて熱処理される。熱処理方法はとくに限定されず、たとえば、フローティング法やロールによる接触加熱法により行なうことができる。
【0031】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法においては、前述のようにして乾燥処理や熱処理により加熱されたフィルムを、50℃以下に冷却する(工程(A))。
【0032】
冷却方法は、とくに限定されず、たとえば、送風による方法(フローティング法)やロールを用いる方法などにより冷却することができるが、急激な温度低下による複屈折の増大を回避するため、とくに送風による方法が好ましく、10〜40℃の送風による方法がより好ましい。冷却は、結露が生じる温度以上で、かつ分子鎖の再配列が起こる温度以下で行なわれる。すなわち、冷却温度は、50℃以下、好ましくは10〜40℃、さらに好ましくは20〜35℃である。冷却時間はとくに限定されないが、フィルム内部への伝熱を考慮すると5秒以上であり、生産性を落とさない3分以下であることが好ましい。より好ましくは8秒〜2分、さらに好ましくは10秒〜1分である。
【0033】
工程(A)において冷却されたポリビニルアルコール系フィルムは、ロールに巻き取られる前に50〜100℃に加熱される(工程(B))。
【0034】
加熱方法は、とくに限定されず、たとえば、送風による方法(フローティング法)やロールを用いる方法などにより加熱することができるが、急激な温度上昇に伴う複屈折の増大を回避するため、とくに温風で加熱することが好ましい。加熱は、分子鎖が再配列を起こす温度以上で、かつ結晶化が起こり新たな応力ひずみが発生する温度以下で行なわれる。すなわち、加熱温度は、50〜100℃が好ましく、より好ましくは60〜90℃、さらに好ましくは70〜80℃である。加熱時間はとくに限定されないが、フィルム内部への伝熱を考慮すると5秒以上であり、生産性を落とさない3分以下であることが好ましい。より好ましくは8秒〜2分、さらに好ましくは10秒〜1分である。また、冷却工程(工程(A))と加熱工程(工程(B))の間の時間、たとえば、冷却温度に達してから次の加熱温度に達するまでの時間は、生産性を考慮し、3分以内が好ましい。
【0035】
製膜工程で樹脂の内部に生じる応力ひずみは、適度な熱処理により、好ましくは熱処理を数回に渡り繰り返すことにより、低減される。したがって、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法においては、冷却工程(工程(A))と加熱工程(工程(B))からなるヒートサイクルを、少なくとも1回以上、好ましくは2〜5回、より好ましくは3〜4回実施することが好ましい。ヒートサイクルによるこの応力緩和現象は、高分子を構成する分子鎖が再配列し、ひずみのない安定な状態に落ち着いていくため、また、高分子内部の自由体積が、ひずみを緩和するように再配置されるためと予想される。
【0036】
次に、本発明のポリビニルアルコール系フィルムを用いた本発明の偏光膜の製造方法について説明する。
【0037】
偏光膜の製造に用いられるポリビニルアルコール系フィルムの膜厚は、好ましくは30〜100μm、さらに好ましくは30〜90μmであり、偏光性能の向上の点で特に好ましくは30〜70μmである。膜厚が30μm未満では延伸が難しく、100μmをこえると膜厚精度が低下して好ましくない。
【0038】
本発明の偏光膜は、通常の染色、延伸、ホウ酸架橋および熱処理などの工程を経て製造される。偏光膜の製造方法としては、ポリビニルアルコール系フィルムを延伸してヨウ素または二色性染料の溶液に浸漬し染色したのち、ホウ素化合物処理する方法、延伸と染色を同時に行なったのち、ホウ素化合物処理する方法、ヨウ素または二色性染料により染色して延伸したのち、ホウ素化合物処理する方法、染色したのち、ホウ素化合物の溶液中で延伸する方法などがあり、適宜選択して用いることができる。このように、ポリビニルアルコール系フィルム(未延伸フィルム)は、延伸と染色、さらにホウ素化合物処理を別々に行なっても同時に行なってもよいが、染色工程、ホウ素化合物処理工程の少なくとも一方の工程中に一軸延伸を実施することが、生産性の点より望ましい。
【0039】
延伸は一軸方向に3〜10倍、好ましくは4〜7倍延伸することが望ましい。この際、延伸方向の直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度、またはそれ以上の延伸)を行なっても差し支えない。延伸時の温度は、40〜170℃から選ぶのが望ましい。さらに、延伸倍率は最終的に前記範囲に設定されればよく、延伸操作は一段階のみならず、製造工程の任意の範囲の段階に実施すればよい。
【0040】
フィルムへの染色は、フィルムにヨウ素または二色性染料を含有する液体を接触させることによって行なわれる。通常は、ヨウ素−ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は0.1〜2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は10〜50g/L、ヨウ化カリウム/ヨウ素の重量比は20〜100が適当である。染色時間は30〜500秒程度が実用的である。処理浴の温度は5〜50℃が好ましい。水溶液には、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させても差し支えない。接触手段としては浸漬、塗布、噴霧などの任意の手段が適用できる。
【0041】
染色処理されたフィルムは、ついでホウ素化合物によって処理される。ホウ素化合物としてはホウ酸、ホウ砂が実用的である。ホウ素化合物は水溶液または水−有機溶媒混合液の形で濃度0.5〜2モル/L程度で用いられ、液中には少量のヨウ化カリウムを共存させるのが実用上望ましい。処理法は浸漬法が望ましいが、もちろん塗布法、噴霧法も実施可能である。処理時の温度は50〜70℃程度、処理時間は5〜20分程度が好ましく、また必要に応じて処理中に延伸操作を行なってもよい。
【0042】
このようにして得られる偏光膜は、その片面または両面に光学的に等方性の高分子フィルムまたはシートを保護膜として積層接着して、偏光板として用いることもできる。保護膜としては、たとえば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ−4−メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイド、シクロ系ないしはノルボルネン系ポリオレフィンなどのフィルムまたはシートがあげられる。
【0043】
また、偏光膜には、薄膜化を目的として、上記保護膜の代わりに、その方面または両面にウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂などの硬化性樹脂を塗布し、積層させることもできる。
【0044】
偏光膜(少なくとも片面に保護膜あるいは硬化性樹脂を積層させたものを含む)は、その一方の表面に必要に応じて、透明な感圧性接着剤層が通常知られている方法で形成されて、実用に供される場合もある。感圧性接着剤層としては、アクリル酸エステル、たとえば、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸2−エチルヘキシルなどとα−モノオレフィンカルボン酸、たとえばアクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、メタクリル酸、クロトン酸などとの共重合物(アクリルニトリル、酢酸ビニル、スチロールのようなビニル単量体を添加したものも含む。)を主体とするものが、偏光フィルムの偏光特性を阻害することがないのでとくに好ましいが、これに限定されることなく、透明性を有する感圧性接着剤であれば使用可能で、たとえばポリビニルエーテル系、ゴム系などでもよい。
【0045】
本発明の偏光膜は、偏光性能の面内均一性に優れており、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、パソコン、携帯情報端末機、自動車や機械類の計器類などの液晶表示装置、サングラス、防目メガネ、立体メガネ、表示素子(CRT、LCDなど)用反射低減層、医療機器、建築材料、玩具などに好ましく用いられる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中「部」、「%」とあるのは特に断りのない限り重量基準である。
【0047】
重量平均分子量の測定は以下の通りである。
【0048】
GPC−LALLS法により、以下の条件で測定する。
【0049】
1)GPC
装置:Waters製244型ゲル浸透クロマトグラフ
カラム:東ソー(株)製TSK−gel−GMPWXL(内径8mm、長さ30cm、2本)
溶媒:0.1M−トリス緩衝液(pH7.9)
流速:0.5ml/分
温度:23℃
試料濃度:0.040%
ろ過:東ソー(株)製0.45μmマイショリディスクW−25−5
注入量:0.2ml
検出感度(示差屈折率検出器):4倍
【0050】
2)LALLS
装置:Chromatrix製KMX−6型低角度レーザー光散乱光度計
温度:23℃
波長:633nm
第2ビリアル係数×濃度:0mol/g
屈折率濃度変化(dn/dc):0.159ml/g
フィルター:MILLIPORE製0.45μmフィルターHAWP01300
ゲイン:800mV
【0051】
実施例1
500Lのタンクに18℃の水200kgを入れ、撹拌しながら、重量平均分子量142000、ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂40kgを加え、15分間撹拌を続けた。その後、一旦水を抜いたのち、さらに水200kgを加え15分間撹拌した。得られたスラリーを脱水し、含水率43重量%のポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキを得た。
【0052】
得られたポリビニルアルコール系樹脂ウェットケーキ70kgを溶解缶に入れ、可塑剤としてグリセリン4.2kg、剥離剤としてポリオキシエチレンラウリルアミン42g、水10kgを加えた。缶底から水蒸気を吹き込み、撹拌しながら150℃まで昇温し、均一に溶解したのち、濃度調整により濃度25重量%のポリビニルアルコール系樹脂水溶液を得た。
【0053】
次に、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液(液温147℃)を、ギアポンプ1より2軸押出機に供給し、脱泡したのち、ギアポンプ2より排出した。排出されたポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、T型スリットダイよりドラム型ロールに流延して製膜した。かかる流延製膜の条件は下記の通りである。
ドラム型ロール
直径:3200mm、幅:4200mm、回転速度:10m/分、表面温度:90℃、T型スリットダイ出口の樹脂温度:95℃
【0054】
得られた膜の水分率は20重量%であった。この膜の表面と裏面とを下記の条件にて乾燥ロールに交互に通過させながら乾燥を行なった。
乾燥ロール
直径:320mm、幅:4200mm、本数:10本、回転速度:10m/分、表面温度:70℃
【0055】
その後、さらに熱処理(条件:フローティングドライヤー(120℃、長さ6m、搬送速度10m/分))を行なった。
【0056】
熱処理により得られたフィルムのリターデーション値は30nmであった。このフィルムの表面と裏面とを、下記の条件にて4本のロールに交互に通過させながらヒートサイクルを行なった。
第一冷却ロール
直径:1000mm、幅:4200mm、回転速度:10m/分、表面温度:25℃、冷却時間:11秒
第一加熱ロール
直径:1000mm、幅:4200mm、回転速度:10m/分、表面温度:70℃、加熱時間:11秒
第二冷却ロール
直径:1000mm、幅:4200mm、回転速度:10m/分、表面温度:25℃、冷却時間:11秒
第二加熱ロール
直径:1000mm、幅:4200mm、回転速度:10m/分、表面温度:70℃、加熱時間:11秒
【0057】
得られたポリビニルアルコール系フィルム(F−1)(幅4000mm、厚さ50μm)を20℃の冷風で20秒冷却した後、リターデーション値を測定した。
【0058】
リターデーションは、得られたフィルムを幅(TD)4000mm×流れ(MD)50mmに切断して短冊サンプルを作製し、「KOBRA−21SDH」(王子計測機器(株)製、測定波長590nm)を用いて、幅方向に100mmピッチで全幅にわたって測定することにより求めた(始点および終点はフィルム端部より50mm内側)。リターデーションの平均値は、測定した40点の平均値である。また、端部と中央部の差は、始点〜20点目、もしくは21点目〜終点のうち、よりリターデーション差が大きい側の数値である。測定の結果、リターデーションの平均値は12nmであり、端部と中央部の差は4nmであった。
【0059】
得られたポリビニルアルコール系フィルムを用いて下記の通り偏光膜を製造し、下記の通り光線透過率、偏光度および色ムラを評価した。
【0060】
〔偏光膜の製造〕
得られたポリビニルアルコール系フィルムを、ヨウ素0.2g/L、ヨウ化カリウム15g/Lよりなる水溶液中に30℃にて240秒浸漬し、ついでホウ酸60g/L、ヨウ化カリウム30g/Lの組成の水溶液(55℃)に浸漬するとともに、同時に6倍に一軸延伸しつつ5分間にわたってホウ酸処理を行なった。その後、乾燥して偏光膜を得た。得られた偏光膜の光学特性を表1に示す。
【0061】
(偏光膜の光線透過率)
高速多波長複屈折測定装置(大塚電子(株)製:RETS−2000 波長:550nm)を用いて測定する。
【0062】
(偏光度)
下記式(1)に従って算出した。
〔(H11−H1)/(H11+H1)〕1/2 ・・・(1)
11:2枚の偏光膜を、その配向方向が同一方向になる様に重ね合わせた状態で測定した550nmにおける光線透過率
1:2枚の偏光膜を、配向方向が互いに直交する方向になる様に重ね合わせた状態で測定した550nmにおける光線透過率
【0063】
(色ムラ)
偏光膜をクロスニコル状態の2枚の偏光板(単体透過率43.5%、偏光度99.9%)の間に45°の角度で挟んだ後に、表面照度14000ルックスのライトボックスを用いて、透過モードで光学的色ムラを観察し、以下の基準で評価した。
○・・・色ムラなし
×・・・色ムラあり
【0064】
実施例2
下記の条件にて、フローティング方式でヒートサイクルを行なう以外は実施例1と同様にしてポリビニルアルコール系フィルム(F−2)(幅4000mm、厚さ50μm)を得た。このフィルムのリターデーションの平均値は10nmであり、端部と中央部の差は3nmであった。
第一冷却室:20℃、30秒、長さ5m
第一加熱室:70℃、30秒、長さ5m
【0065】
得られたポリビニルアルコール系フィルムを用いて、実施例1と同様に偏光膜を製造し、評価した。
【0066】
実施例3
下記4点を変更する以外は実施例1と同様にして、ポリビニルアルコール系フィルム(F−3)(幅4000mm、厚さ75μm)を得た。このフィルムのリターデーションの平均値は15nmであり、端部と中央部の差は5nmであった。
・ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の濃度:30重量%
・キャスティングドラムの回転速度:8m/分
・ヒートサイクル工程の速度:8m/分
・偏光膜製造の延伸倍率:4倍
【0067】
得られたポリビニルアルコール系フィルムを用いて、実施例1と同様に偏光膜を製造し、評価した。
【0068】
比較例1
ヒートサイクルを行わない以外は実施例1と同様にしてポリビニルアルコール系フィルム(F′−1)(幅4000mm、厚さ50μm)を得た。このフィルムのリターデーションの平均値は30nmであり、端部と中央部の差は20nmであった。
【0069】
得られたポリビニルアルコール系フィルムを用いて、実施例1と同様に偏光膜を製造し、評価した。
【0070】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャスト法により製造される幅3m以上のポリビニルアルコール系フィルムであり、リターデーションが15nm以下で、かつ幅方向の端部のリターデーションと中央部のリターデーションの差が、5nm以下であることを特徴とするポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項2】
重量平均分子量120000〜300000のポリビニルアルコール系樹脂を用いてなることを特徴とする請求項1記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項3】
フィルムの厚みが30〜70μmであることを特徴とする請求項1または2記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項4】
(A)加熱されたポリビニルアルコール系フィルムを50℃以下に冷却する工程、および(B)冷却した該ポリビニルアルコール系フィルムをロールに巻き取る前に50〜100℃に加熱する工程
を含むことを特徴とする請求項1、2または3記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項5】
工程(A)の冷却が、10〜40℃の送風によりなされることを特徴とする請求項4記載のポリビニルアルコール系フィルムの製造方法。
【請求項6】
偏光膜の原反フィルムを得るために用いることを特徴とする請求項1、2または3記載のポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項7】
請求項1、2、3または6記載のポリビニルアルコール系フィルムからなることを特徴とする偏光膜。
【請求項8】
請求項7記載の偏光膜の少なくとも片面に保護膜を設けてなることを特徴とする偏光板。

【公開番号】特開2006−291173(P2006−291173A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31079(P2006−31079)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】