説明

ポリフェニレンスルフィドフィルムおよびそれからなるコンデンサ

【課題】
表面突起が均一で粗大突起が少なく、滑り性、走行性が良好な、また、薄いフィルム特にフィルム厚みを10μm以下としたときの絶縁耐圧が高く、絶縁欠陥が少ない、フィルムコンデンサ用誘電体に適した、ポリフェニレンスルフィドフィルムを提供することにある。さらにまた、本発明の目的は、耐はんだ性、周波数特性及び温度特性に優れ、かつ容量及び絶縁耐圧のバラツキの小さいコンデンサを提供することである。
【解決手段】
ポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物から成るフィルムであって、該フィルム中にシロキサン結合が三次元網目状に架橋した構造を持つシリコーンレジンパウダーである平均粒径が0.2μm乃至3μmの球状シリコーンが微粒子として樹脂組成物の総重量に対し0.2乃至10重量%分散されているポリフェニレンスルフィドフィルムである。
さらにまた、本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムをコンデンサの誘導体として用いると、耐はんだ性、周波数特性、温度特性に優れ、かつ容量及び絶縁耐圧のバラツキの小さいコンデンサが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィドフィルム及びその製造方法に関する。本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムは、コンデンサの誘導体のベースフィルムとして特に有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリフェニレンスルフィドフィルムは、優れた耐熱性と耐加水分解性を活かし、種々の電子機器や電子部品分野においてF種絶縁薄膜材料として使用されている。このようなポリフェニレンスルフィドフィルムには、その滑り性を改善するためにしばしば微粒子が配合される。このような微粒子を含むフィルムは、ポリフェニレンスルフィド粉末に固体微粒子をヘンシェルミキサーなどで混合後、2軸押出機等にて固体微粒子を溶融状態で混練、分散させたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を特定の条件下で2軸延伸することにより製造される(特許文献1)。しかしながら、このような方法により製造されたポリフェニレンスルフィドフィルムは固体微粒子の分散が不均一であり、二次凝集物に起因する粗大突起のため均質な表面突起のフィルムが得られず、表面平滑性が悪くなる。その結果、製膜での中間製品巻取時、スリット、蒸着の各工程において悪い平滑性に起因する欠点、キズ、帯電、シワ、粒子の脱落などが生じ、コンデンサ用の誘導体フィルムとしては劣ったものとなる。また、このようなフィルムは表面平滑性が悪いだけでなく、特に10μm以下の薄いフィルムを製造した場合、絶縁欠陥が多くなる。これは、従来の不活性微粒子を配合する方法は、粗粒の発生のため、例えば、2軸延伸製膜時には、添加した粒子の周囲にはボイド(空隙)が形成され、このボイド部分において絶縁耐圧の低下を招くためである。このようなボイドの生成は樹脂中に添加される粒子径が大きいほど大きなボイドになることが知られており、コンデンサ用の誘導体フィルムとしては劣ったものとなる。一方で、フィルムへの微粒子の添加は良好な滑り性、走行性を得るため必要である。必要量の微粒子が添加されていない場合、滑り性、走行性が悪いことに起因するキズ、帯電、シワなどが生じるためフィルム製造条件が極めて限られ、また、上述の欠点に起因してコンデンサ素子の製造も困難になることから好ましくない。このように滑り性が良好でかつ表面平滑性に優れ、さらに絶縁欠陥が少ないポリフェニレンスルフィドフィルムはいまだ知られていない。
【特許文献1】特公平6−27266号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、上述の欠点を解消し、表面突起が均一で粗大突起が少なく、滑り性、走行性が良好な、また、薄いフィルム特にフィルム厚みを10μm以下としたときの絶縁耐圧が高く、絶縁欠陥が少ない、フィルムコンデンサ用誘電体に適した、ポリフェニレンスルフィドフィルム(以下PPSフィルムと略称することがある)を提供することにある。
さらにまた、本発明の目的は、耐はんだ性、周波数特性及び温度特性に優れ、かつ容量及び絶縁耐圧のバラツキの小さいコンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明はポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物から成るフィルムであって、該フィルム中にシロキサン結合が三次元網目状に架橋した構造を持つシリコーンレジンパウダーである平均粒径が0.2μm乃至3μmの球状シリコーンが微粒子として樹脂組成物の総重量に対し0.2乃至10重量%分散されているポリフェニレンスルフィドフィルムである。
上述のように従来のポリフェニレンスルフィドフィルムでは滑り性、走行性の付与のため不活性粒子を添加したことによるボイドが問題となっていた。本願発明者は鋭意検討の結果、シロキサン結合が三次元網目状に架橋した構造を持つシリコーンレジンパウダーを用いることで当該欠点を抑制しコンデンサ用フィルムとして好ましいポリフェニレンスルフィドフィルムを得ることに成功した。
【0005】
ここで当該フィルムに用いるシリコーンレジンパウダーである平均粒径が0.2μm乃至3μmの球状シリコーンが好ましい。平均粒径が0.2μmよりも小さくなると本願発明で目的とする滑り性、走行性の付与の効果が小さくなり好ましくない。一方、平均粒径が3μmよりも大きくなると、上述の問題点である粒子近傍のボイドが大きくなることで絶縁耐圧が低下するため好ましくない。また、本願発明にて狙いとする滑り性、走行性の付与の効果を得るためには該球状シリコーンが微粒子として樹脂組成物の総重量に対し0.2乃至10重量%分散されていることが好ましい。当該微粒子の添加量が0.2重量%未満であると、滑り性、走行性を得るために必要な表面の突起が十分得られないため好ましくない。一方、当該微粒子の添加量が10重量%以上であると滑り性、走行性が必要以上に付与されるため製品の巻ずれを誘発させたり、本願発明にて問題としている粒子に起因するボイドが多数発現するために絶縁耐圧の低下を招くなど好ましくない。
【0006】
さらにまた、本発明は、ポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物から成るフィルムであって、上述の球状シリコーン粒子に加え、該フィルム中に平均粒径が0.05μm乃至5μmの球状シリカ、球状架橋ポリスチレン及び、もしくは、炭酸カルシウムから成る群より選ばれる微粒子が、樹脂組成物に含まれる微粒子の総重量に対し0〜80重量%が分散されていることを特徴とするポリフェニレンスルフィドフィルムである。本願発明のポリフェニレンスルフィドフィルムにおいては、当該フィルムの基本的な特性を決める為には上述のシロキサン結合が三次元網目状に架橋した構造を持つシリコーンレジンパウダーを用いる。しかし、本願発明にて目的とする良好な滑り性、走行性を得つつ絶縁耐圧の低下を防ぐためには、上述の球状シリコーン粒子に加え、平均粒径の異なる微粒子を添加することが好ましい。絶縁耐圧の低下を防ぐことを主眼とし滑り性、走行性の改良を図る場合は上述の球状シリコーン粒子よりも平均粒径が小さな微粒子を添加することが好ましく、その平均粒径は0.05μm以上であることが好ましい。0.05μm未満の微粒子は2次凝集により粗大粒子を形成しやすく、本願発明にて目的とする絶縁耐圧の低下を防ぐことを主眼とし滑り性、走行性の改良を図ることが困難になる。一方、滑り性、走行性の付与を積極的に行う場合は上述の球状シリコーン粒子よりも平均粒径が大きな微粒子を添加することが好ましく、その平均粒径は5μm未満であることが好ましい。5μmを超える微粒子を添加した場合、滑り性、走行性が必要以上に付与されるため製品の巻ずれを誘発させたり、本願発明にて問題としている粒子に起因するボイドが多数発現するために絶縁耐圧の低下を招くなど好ましくない。
【0007】
本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムは、無延伸フィルムであっても、1軸以上の延伸をされたフィルムであってもよいが、延伸配向による絶縁耐圧の向上の効果を得るため、また、コンデンサ用フィルムとして好ましい10μm以下のフィルムを効率的に得るため2軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0008】
本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムは、滑り性及び表面平滑性に優れ、また絶縁欠陥が少ない。さらに、ポリフェニレンスルフィド本来の優れた耐熱性、寸法安定性及び電気特性を有している。従って、本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムをコンデンサの誘導体として用いると、耐はんだ性、周波数特性、温度特性に優れ、かつ容量及び絶縁耐圧のバラツキの小さいコンデンサが得られる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば滑り性、走行性と絶縁耐圧を両立させたコンデンサ用PPSフィルムを得ることができる。その結果、該樹脂組成物を使用したフィルムはフィルム製造時の歩留まり、スリット歩留まり、蒸着時の歩留まりが良く、コンデンサとした場合絶縁耐圧不良率が著しく減少することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、ポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物(以下、PPS樹脂組成物と略称することがある)とは、ポリ−p−フェニレンスルフィドを70重量%以上含む組成物をいう。ポリ−p−フェニレンスルフィドの含有量が70重量%未満では、該組成物から成るフィルムの特徴である耐熱性、周波数特性、温度特性等を損なう。30重量%未満であれば他の樹脂組成物や種々の添加剤等を含むことができる。PPSの溶融粘度は、300℃、剪断速度200sec-1のもとで500乃至12000ポイズの範囲がフィルムの耐熱性、寸法安定性、機械特性及び厚みむらが良好となるので好ましい。なお、該樹脂組成物の溶融粘度は最終的に得られるPPSフィルムの溶融粘度に等しい。
【0011】
さらに、ここで、ポリ−p−フェニレンスルフィド(以下PPSと略称することがある)とは、繰り返し単位の70モル%以上(好ましくは85モル%以上が構造式
【0012】
【化1】

【0013】
で示される構成単位から成る重合体をいう。斯かる成分が70モル%未満ではポリマの結晶性、熱転移温度等が低くなりPPSを主成分とする樹脂組成物から成るフィルムの特徴である耐熱性、寸法安定性、機械的特性等を損なう。繰返し単位の30モル%未満(好ましくは15モル%未満)であれば、他の共重合可能な単位、例えば共重合可能なスルフィド結合を有する単位が含まれていてもよい。
【0014】
本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムは、微粒子を含む。本発明において、微粒子とは、少なくとも350℃の温度では固体の粒子の集合体であり、シロキサン結合が三次元網目状に架橋した構造を持つシリコーンレジンパウダーである球状シリコーンが微粒子として樹脂組成物に対し0.2乃至10重量%分散されていることを特徴とする。
【0015】
更に、本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムは、フィルム表面での傷の発生を抑制し、表面の平滑性、滑り性付与等の点で前記以外の第2の微粒子を含むことが好ましい。斯かる微粒子の例としては、球状シリカ(コロイダルシリカ)、乾式シリカ、湿式シリカ、炭酸カルシウム、等のミネラル類、及び有機高分子粒子 球状架橋ポリスチレン等を挙げることができ、有機物であるか無機物であるかを問わない。これらの微粒子は、単独でも複数組み合わせても用いることができる。
ここで、有機高分子粒子を用いた場合、加熱減量曲線における10%重量減量時温度が350℃(より好ましくは370℃、さらに好ましくは400℃)以上であることが押出し時の発泡等の点で好ましい。10%重量減量時温度の上限は特に限定されないが、通常600℃程度が製造上の限界である。
【0016】
本発明における微粒子のフィルム中の含有量(2種以上の微粒子を含有する場合はその合計量)は、表面平滑性と滑り性のバランスから0.2乃至10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.03乃至5.0重量%、さらに好ましくは0.1乃至2.0重量%である。これら不活性微粒子の添加量はフィルム厚さや、所望する滑り性、走行性レベルで決めるが、一般にフィルムが薄くなるほど単位面積当たりの粒子数が減少するため表面突起数を増やして滑りを良くする方法が考えられるが、このようなフィルムは、例えばコンデンサ誘電体として使用した場合、巻回時の蛇行や端面ずれ、さらにはプレス時のエア抜け性が良くないため不良率が大きくなる。また、粒子径の大きなものは、必要な滑り(突起数)を得るのに総量的に多体積の粒子を添加しなければならず、この添加した粒子に起因するボイドが多数発現するため絶縁耐圧が低い。従来は絶縁耐圧をある程度犠牲にして、滑り性、走行性確保のため比較的粒子の大きなもの用いてきた。ここで本発明では、特定の範囲にある粒子を一定範囲の割合で添加することにより、粒子径の小さなもので良好な滑り(突起数)が得られ、さらに添加した粒子径の大きなものと併用することで良好な走行性も得られた。また粒子径の大きなものは少量添加すれば良好な走行性が得られるため、絶縁耐圧、絶縁欠陥は良好であった。このように、本発明は、上述した特定の粒子形態、粒径分布を持つ2種類の粒子を一定範囲の割合で添加することにより、滑り性、走行性が良好で、また、絶縁耐圧、絶縁欠陥も良好なフィルムを見出したものである。
【0017】
本発明における微粒子は、その平均粒径がフィルム中において0.2μm乃至3μmであり、好ましくは0.5μm乃至1.5μmである。平均粒径が上記範囲よりも小さいと滑り性が悪く、フィルム製造時並びにコンデンサ媒体の製造時においてフィルム表面での傷の発生が多くなるので好ましくない。また、上記範囲よりも大きいとフィルム製造時において、微粒子の脱落により削れものが増加し、特に、10μm以下の薄いフィルムを製造した場合、上記削れものの増加が激しく、フィルムを誘電体としてコンデンサを製造した場合、絶縁耐圧が低下するので好ましくない。
【0018】
本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムは、無配向でも一軸配向であってもよいが、機械的性質や耐熱性等の物理的特性の観点から二軸配向したものが好ましい。ここで、二軸配向フィルムとは、ポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物から成る非晶性フィルムを2軸配向せしめたフィルムであり、X線回折法による結晶化度が25%乃至45%、さらに、広角X線回折で2θ=20乃至21°の結晶ピークについて求めた配向度OFがEnd方向及びEdge方向で0.07乃至0.5、Through方向で0.6乃至1.0の範囲にあることが好ましい。
【0019】
本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムにおいて、3次元表面粗さが下記式(1)、(2)を満足する場合に、フィルム製造時並びにコンデンサの製造時においてフィルム表面での傷の発生がより一層少なく、絶縁耐圧特性がより一層良好となるので特に好ましい。
0.02<SRa<0.06 μm (1)
0.6<SRz<1.3 μm (2)
ただし、SRaはフィルム表面の3次元中心線平均粗さを、SRzはフィルム表面の3次元10点平均粗さを示す。3次元平均表面粗さが上記範囲を満足する場合にはフィルムの取り扱い性がより一層良好となるだけでなく、フィルムの絶縁欠陥が減少し、コンデンサとしたとき、絶縁耐圧不良率が極めて少なくなるので好ましい。ここで、3次元平均表面粗さ、3次元10点平均粗さとは、例えば小坂研究所製 高精度微細表面形状測定器サーフコーダ ET4000Aを用いて、後述する条件下において測定されるもので、速度0.1mm/秒で触針を移動させながら縦倍率20000で測定した粗さ曲線チャート上のi番目の突起山頂のレベルをMi、同じくi番目の突起の左側の谷底のレベルをViとするとき、i番目の突起の高さPiはPi=(Mi−Vi)/Nと定義される。ただし、触針を移動させる方向はフィルムの長手方向に直行する方向となる。
【0020】
本発明のPPSフィルムの中心線平均粗さSRaは、フィルムの取り扱い作業性、コンデンサの誘電体として用いた場合のコンデンサ素子の成形性、アルミニウム薄膜との密着性の観点から0.02μm乃至0.06μmが好ましい。PPSフィルムの中心線平均粗さSRaが0.02μm未満であった場合、フィルムに対して十分な走行性が付与されないためコンデンサ素子の成形性が悪くなり、コンデンサ素子製造時の収率が低下する。また、製膜工程スリットにおいてもキズ、帯電、シワと入った問題が生じやすくなるため製造時の収率が低下する。一方、SRaが0.06μm以上であった場合、十分な易滑性が付与されるため上述の問題は解決されるが、滑り性、走行性が必要以上に付与されるため製品の巻ずれを誘発させたり、本願発明にて問題としている粒子に起因するボイドが多数発現するために絶縁耐圧の低下を招くなど好ましくない。
【0021】
また、本発明のPPSフィルムの中心線平均粗さSRzは、フィルムをロール上に巻き取った際のエア抜け性や粒子に起因して発現するボイドを適正な範囲にするため0.6乃至1.3μmであることが好ましい。
【0022】
本発明はまた、上記のようにして得二軸配向した本発明のPPSフィルムを主たる誘電体とし、金属箔又は金属薄膜を内部電極とし、巻回あるいは積層して成るコンデンサを提供する。
【0023】
ここで、金属箔とは、自己支持性の金属膜であり、その厚さ2μm乃至15μmが好ましい。また、金属化とは真空蒸着等の方法によって形成される自己支持性のない金属薄膜をフィルム上に形成することを言い、その厚さは0.01μm乃至0.5μmが好ましい。金属薄膜の形成方法としては真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ等が挙げられるがこれらに限定されない。また薄膜とする金属としてはアルミニウム、亜鉛、スズ、銅、ニッケル、クロム、鉄、チタン又はこれらの混合物若しくは合金等が挙げられるが、これらのうちアルミニウムが蒸着性、特性の点で好ましい。ただし、耐湿性、セルフヒール性、誘電損失等の特性を向上させる目的で他の金属、非金属が含まれることは差し支えない。
【0024】
金属化によって形成された金属化フィルムの表面抵抗は得られるコンデンサの耐湿性とセルフヒール性の点から0.5Ω乃至10Ωであることが好ましい。
【0025】
本発明のコンデンサの構造は、従来のコンデンサと同じであってよく、例えば上記金属膜を内部電極とし、ポリフェニレンスルフィドフィルムを誘電体として巻回又は積層して成る。金属薄膜を内部電極とし、かつ積層構造を有するコンデンサとは、具体的には、例えば該ポリフェニレンスルフィドフィルムの片面に金属薄膜を内部電極として形成したものの場合は2枚重ねて、該ポリフェニレンスルフィドフィルムの両面に金属薄膜を内部電極として形成したものの場合は金属薄膜を形成していないポリフェニレンスルフィドフィルムと積層してコンデンサ素子を形成し、外部電極及び必要に応じて外装を施してコンデンサとしたものである。
【0026】
また、本発明のコンデンサはポリフェニレンスルフィドフィルムを主たる誘電体としてなるものであるが、全ての誘電体がポリフェニレンスルフィドフィルムである必要は無く、ポリフェニレンスルフィドフィルムの特長である耐熱性、温度特性等を阻害しない範囲であれば他の誘電体、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキサイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド等の樹脂組成物が誘電体として併せて使用される事は差し支えない。
本発明のコンデンサの態様は全く問わない。すなわち、リード付き、リードなし(いわゆるチップコンデンサ)等の周知のタイプのいずれであってもよいし、また、これらに限定されない。また、その外装の方法も樹脂モールド、樹脂ディップ、ケースによるもの、樹脂フィルムによるもの、あるいは表面を薄く樹脂コートしたもの等の実質的に無外装のもの、あるいは全く無外装のもの等のいずれでもよいし、また、これらに限定されない。
【0027】
次に、本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムの製造方法について説明する。
ポリフェニレンスルフィドポリマ自体の製造方法は、この分野において周知であり、いずれの方法をも採用することができる。硫化アルカリとp−ジハロベンゼンを極性溶媒中で高温高圧下に反応させる方法が好ましい。特に、硫化ナトリウムとp−ジクロロベンゼンをN−メチル−2−ピロリドン等のアミド系極性溶媒中で反応させるのが好ましい。この場合、重合度を調整するために、苛性アルカリ、カルボン酸アルカリ金属等のいわゆる重合助剤を添加して230℃乃至280℃で反応させるのが最も好ましい。重合系内の圧力及び重合時間は、使用する助剤の種類や量及び所望する重合度等によって適宜決定される。
【0028】
重合終了後、系を徐冷し、ポリマを析出させた後、水中に投入してできるスラリーをフィルタでろ別後、水洗、乾燥してポリ−p−フェニレンスルフィド粉末を得ることができる。
【0029】
次に、液体に分散された微粒子のスラリーを上記PPS粉末に添加して、ヘンシェルミキサー等のような高速撹拌手段により均一に混合した後得られた混合物を、少なくとも1段のベント孔を有する押出機に供給し、該押出機中で先ず溶融混練後、ベント孔から該液体成分を除去し、適当な口金から押出して、ポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物を得る。
【0030】
ここで、本発明においては、微粒子は、沸点が180℃乃至290℃、好ましくは180℃乃至250℃の液体に分散したスラリー状(以下、微粒子スラリーということがある)にする。この液体の沸点が上記範囲よりも低いと、スラリーを含むポリフェニレンスルフィドを溶融混練する際、微粒子の二次凝集が起こり易く、逆に該液体の沸点が上記範囲よりも高いとスラリーを含むポリフェニレンスルフィドを溶融混練した後、ベント部で該液体を系から除去することが困難になる。該液体の例としては、エチレングリコール、トリエチレングリコール、N−メチルピロリドン及びジフェニルエーテルなどを挙げることができるが、前二者のように、沸点以上の温度でポリフェニレンスルフィドを溶解することのないものが好ましい。ここで、微粒子は、このスラリーの状態における平均粒径3μm以下、好ましくは1.5μm以下になるようにする。このようなスラリーの調製方法は特に限定されないが、該液体に微粒子を添加してボールミル、振動ミル等の分散手段で分散して、必要に応じて濾過して粗大粒子分を除去する方法や、液体中で微粒子を生成、成長させて適当な粒径を有するゾルとし、必要に応じ、溶媒置換、濾過などを行なって目的の液体のスラリーとする方法等がある。見掛け比重の小さい微粒子の粒系の揃ったスラリーを得るという点では後者が好ましい。該スラリー中の微粒子の平均粒径は、スラリー中での二次凝集に対する安定性の点で0.01μm以上であるのが好ましい。また、該スラリー中の固体微粒子の含有量は、10重量%乃至70重量%の範囲が好ましい。
【0031】
本発明のPPSフィルムの製造方法では、PPSの粉末に、上述の微粒子スラリーを添加して、均一に混合した後、押出機に供給する。PPS粉末と微粒子スラリーとの均一混合法としては、ヘンシェルミキサー等のような高速撹拌手段によることが好ましい。また、かかる混合の際、材料の温度をスラリーの分散媒たる上記液体の沸点より50℃以上低く保ち、該液体の揮発を防止するのが好ましい。PPS粉末に対する微粒子スラリーの添加量は、PPSに対する微粒子の重量割合が1%乃至100%となるように調整する。PPS粉末に対する該液体成分の重量割合を、1%乃至80%とするのが好ましい。こうして得られた混合物は、少なくとも1段のベント孔を有する押出機に供給され、該押出機中で先ず溶融混練された後、ベント孔から該液体成分を除去し、適当な口金から押出して樹脂組成物を得る。2段以上のベント孔を有する押出機を使用する場合も、最終のベントはポリマが溶融状態で行なうべきであり、一部のベント孔から、未溶融状態の混合物中の液体成分の一部を除去する場合でも、その割合は、該液体成分の50重量%以下とすることが好ましい。いずれにしても、押出機のシリンダ中で、分散媒である液体、微粒子及び溶融状態のポリマの三者が共存する状態が少なくとも存在することが必要である。このようにして、ポリマ中の液体成分は、最終的に得られる樹脂組成物をベント孔のない押出機で加工した場合に発泡等、液体の気化に伴う欠点の出ない程度にまで除去される。
【0032】
上記方法では、PPS粉末と微粒子とを押出機に供給する前に混合したが、先ず押出機にPPS粉末を供給し、押出機のシリンダの部分で、ポリマの溶解前及び/又は溶解後に微粒子スラリーを押出機に設けられた開口部から強制的に注入することも可能である。この注入は、押出し成形を行ないながら連続的に行なうこともできる。他の製造条件は上述した方法と同様である。
【0033】
また、PPS粉末に添加する微粒子がスラリーではなく粉末であった場合、PPS粉末と微粒子とを押出機に供給する前に混合し溶融押出をして目的の樹脂組成物を得る。この場合、スラリーを用いた場合のようにボールミル、振動ミル等の分散手段で分散させることはできないが、溶融押出の工程中に必要に応じて濾過して粗大粒子分を除去する方法を用いることで本発明目的の微粒子を分散させたPPS樹脂組成物を得ることができる。
【0034】
上記いずれの方法においても、押出機に取り付けた適当な口金から微粒子が分散したPPSを押出して、目的の樹脂組成物を得る。ここで言う樹脂組成物とは、ペレットをはじめ、フィルム、シート、繊維状物、その多各種成形品等、特にその形態を限定しないが、ペレット状にして、そのまま、あるいは別の組成物(例えば、PPSのナチュラルペレット)と混合して、成形品、フィルム、シート、繊維状物等を製造する樹脂原料として用いることが多い。
【0035】
このようにして得られたPPSを主体とする樹脂組成物は、周知の方法(例えば特開昭55-111235号等に記載)によりフィルム、好ましくは2軸延伸フィルムに成形することができる。すなわち、例えば、該樹脂組成物を押出機等に供給して溶融し、Tダイから冷却ドラム上に押出して無配向シートとし、該シートを80℃乃至120℃の温度で縦、横に同時又は逐次2軸にて面積倍率で好ましくは4倍以上に延伸し、さらに180℃以上、融点以下の温度で緊張下で熱処理して中間体を得、次に該中間体を30℃乃至120℃で5秒乃至10秒間熱処理する方法が挙げられるがこれに限定されるものではない。熱処理の時間は、温度によって適宜選定することができる。一般に低温では長時間を要し、高温では短時間になる。熱処理は、フィルム製造ラインで中間体の製造と連続して行なうこともできるし、一旦巻取ってから行なうこともできる。後者では、フィルムを巻き出しながら連続的に行なうこともできるし、ロール状で熱風オーブン等に入れて行なうこともできる。また、該熱処理を、異なる温度で2段階以上にわたって行なうこともできる。以上のようにして本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムを得ることができる。
【0036】
本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムを誘電体とするコンデンサ及び本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムをベースフィルムとする磁気記録媒体は、この分野において周知であり、公知のいずれの方法によっても製造することができる。
次に、本発明に関する各種特性値の測定方法及び下記実施例で採用した効果の評価方法をまとめて記す。
【0037】
[特性の測定、評価法]
(1)フィルム厚み
フィルム厚みは、重量法によって求めた厚みを用いた。測定法は、測定試料の重量を測定し、下記計算式によって求めた。
【0038】
重量法厚みt2(μm)=フィルム重量(g)/(フィルム幅(μm)×フィルム長さ(μm)×密度(g/μm3))
但し、ポリフェニレンスルフィドの密度を1.35×10−12(g/μm3)とする。
【0039】
(2)微粒子の微粒子スラリー中での平均粒径
スラリーもしくは微粒子の粉体をエチレングリコール、トリエチレングリコール、N−メチルピロリドン及びジフェニルエーテルなどで希釈して、光学式粒度分布測定器(堀場製作所製、CAPA500)にかけて測定した。
【0040】
(3)10%加熱減量時温度
島津製作所製の熱重量分析装置TG30M型を用いて、窒素中、昇温速度10℃/分で測定した。なお、試料重量は5mgとした。
【0041】
(4)3次元表面粗さ
小坂研究所製 高精度微細表面形状測定器サーフコーダ ET4000Aを用い、次の条件にて3次元表面粗さを測定した。
【0042】
触針圧 : 20μN
触針先端R: 2μm
X送り早さ: 0.1mm/秒
Xピッチ : 1μm
Yピッチ : 5μm
Z測定倍率: 20000倍
低域カット: 0.25mm
ここで、本測定における3次元表面粗さSRa、SRzとは、JIS B-0610-1994にて規定される2次元の算術平均表面粗さRaをもとに3次元方向に拡張し、曲線についての計算を曲面についての計算に拡張したものである。各測定ライン毎の2次元の算術平均表面粗さRaを求め、全測定ラインの平均値を求めるものではない。
本測定における3次元10点平均粗さSRzも、上記3次元表面粗さSRaと同様にJIS B-0610-1982にて規定される2次元の10点平均粗さRzをもとに3次元方向に拡張し、曲線についての計算を曲面についての計算に拡張したものである。
【0043】
(5)製膜工程安定性
ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造を行った際、フィルムの破断等を生じることなく生産できた時間を製品取得開始から予定量を取得するまでの時間で百分率にし、該フィルムの製膜工程安定性の指標とした。
◎(優):90%以上100%以下
○(良):80%以上90%未満
△(可):70%以上80%未満
×(不可):70%未満。
【0044】
(6)製膜工程スリット収率
ポリフェニレンスルフィドフィルムの製造工程において、該フィルムを中間製品として巻き取った後、製品ロールにスリットしたときの歩留まりを百分率にし、該フィルムの製膜工程スリット収率の指標とした。
◎(優):90%以上100%以下
○(良):80%以上90%未満
△(可):70%以上80%未満
×(不可):70%未満。
【0045】
(7)金属化フィルムの製造法と蒸着工程の安定性
ポリフェニレンスルフィドフィルムの表面粗さを測定した面に表面抵抗が2Ω/□となるようにアルミニウムを真空蒸着して、金属化フィルムを製造した。その際、長手方向に走るマージン部を有するストライプ状に蒸着した(蒸着部の幅8mm、マージン部の幅1mmの繰り返し)。
【0046】
この金属化フィルムを製造した際に、蒸着始めから終わりまでを観察し、該マージンのずれをもって蒸着工程の安定性とすることとした。当該安定性を以下の基準で評価した。
◎(優):0.1mm未満
○(良):0.1〜0.3mm未満
△(可):0.3〜0.6mm未満
×(不可):0.6mm以上
(8)フィルムコンデンサ素子の製造
上記(7)に従って金属化フィルムを製造した後、各蒸着部の中央と各マージン部の中央に刃を入れてスリットし、左もしくは右に0.5mmのマージンを有する全幅4.5mmのテープ状に巻取リールにした。得られたリールの左マージン及び右マージンのもの各1本ずつを、幅方向に蒸着部分がマージン部より0.5mmはみ出すように2枚重ね合わせて巻回し、静電容量約0.5μFおよび50μFの巻回体を得た。素子巻回には皆藤製作所製KAW−4NHBを用いた。この巻回体から芯材を抜いて、そのまま150℃、10kg/cmの温度、圧力で5分間プレスした。この両端面にメタリコンを溶射して外部電極とし、メタリコンにリード線を溶接して巻回型フィルムコンデンサ素子を得た。
【0047】
(9)フィルムコンデンサ素子製造時の加工性(コンデンサ素子製造時収率)
上記(8)によるフィルムコンデンサ素子の製造の際、巻き始めから巻き終わりまでを目視で観察し、しわやずれが発生したものを不合格とし、不合格となったものの数の製造数全体に対する割合を百分率で示し加工性の指標とした(この加工性を以下、素子巻収率と称する)。素子巻収率は高いほど好ましい。
【0048】
フィルムコンデンサ素子製造時の加工性を評価するにあたって、以下の基準で評価した。
◎(優):素子巻収率95%以上100%以下
○(良):素子巻収率90%以上95%未満
△(可):素子巻収率80%以上90%未満
×(不可):素子巻収率80%未満。
【0049】
(10)フィルムの絶縁欠陥個数
しんちゅう製の電極(150mm×200mm、表面粗度2S以下)と、アルミニウム蒸着ポリフェニレンスルフィドフィルムの蒸着面との間に測定フィルム(200mm×250mm)を密着させ、150V/μmの直流電圧を90秒間印加した際の絶縁破壊個数を数えた。
◎(優):絶縁破壊個数 1個/m未満
○(良):絶縁破壊個数 1個/m以上2個/m未満
△(可):絶縁破壊個数 2個/m以上4個/m未満
×(不可):絶縁破壊個数 4個/m以上。
【0050】
(11)コンデンサ絶縁耐圧の評価
同一条件でコンデンサを1000個製造し、個々のコンデンサの絶縁耐圧を測定した。測定にあたって、電圧を100V/秒の割合で昇圧しながら印加し、コンデンサが破壊し10mA以上の電流が流れた時点の電圧を絶縁耐圧とした。測定したコンデンサ絶縁耐圧の平均値、最小値を各コンデンサの特性とした。
上記絶縁耐圧の評価を実施の際、規定の電圧に達しなかったものの割合を算出し、%で示し絶縁耐圧不良率とする。規定の電圧はフィルム厚さ1μm当たり50Vとした。
【0051】
絶縁耐圧不良率を評価するにあたって、以下の基準で評価した。
◎(優):絶縁耐圧不良率5%未満
○(良):絶縁耐圧不良率5%以上 10%未満
△(可):絶縁耐圧不良率10%以上20%未満
×(不可):絶縁耐圧不良率20%以上。
【0052】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例は例示のためにのみ記載されたものであり、いかなる意味においても本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0053】
実施例1
ステンレス製オートクレーブに、硫化ナトリウム32.6kg(250モル、結晶水40重量%を含む)、水酸化ナトリウム100g、安息香酸ナトリウム36.1kg(250モル)、及びN−メチル−2−ピロリドン(以下NMPと略称することがある)79.2kgを仕込み、205℃で脱水した後、1,4−ジクロルベンゼン(以下p-DCBと略称することがある)37.5kg(255モル)及びNMP20.0kgを加え、265℃で4時間反応させた。反応生成物を水洗、乾燥した、p−フェニレンスルフィド100モル%から成り、溶融粘度3300ポイズのポリ−p−フェニレンスルフィド粉末22kgを得た。該操作を繰り返し行うことで、本発明にて必要とする量のポリ−p−フェニレンスルフィド粉末を得た。
【0054】
この粉末を、1段のベント孔を有する異方向回転二軸押出機に供給した。その後該混合物を、310℃で溶融し、ベント部で、溶融状態の樹脂から揮発成分(4−クロロ−N−アニリン、N−メチル−ピロリドン、γ−ブチロラクトンなど)を除去した。その後、溶融ポリマを3φの口金から押出し、急冷後ペレット状に切断してポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た(樹脂A−0とする)。
【0055】
続いて前記ポリ−p−フェニレンスルフィド粉末100重量部に真比重1.3、粒径分布が0.2〜5μmでかつ平均粒子径0.8μmのシロキサン結合が三次元網目状に架橋した構造を持つシリコーンレジンパウダーの粉末を3重量部加え、この混合物を、1段のベント孔を有する異方向回転二軸押出機に供給した。その後該混合物を、310℃で溶融し、ベント部で、溶融状態の樹脂から揮発成分(4−クロロ−N−アニリン、N−メチル−ピロリドン、γ−ブチロラクトンなど)を除去した。その後、溶融ポリマを3φの口金から押出し、急冷後ペレット状に切断して、シリコーンレジンパウダーをポリマに対して3重量%含有した本発明のポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物を得た(樹脂A−1とする)。
【0056】
樹脂A−0を90重量%、樹脂A−1を10重量%混合し、65mm径のエクストルーダによって310℃で溶融し、金属繊維を用いた95%カット孔径8μmのフィルタで濾過した後、長さ800mm、間隙1.5mmの直線状リップを有するTダイから押出し、表面を25℃に保った金属ドラム上にキャストして冷却固化し、厚さ25μmの未延伸フィルムを得た。このフィルムをロール群から成る縦延伸装置によって、フィルム温度100℃、延伸速度30000%/分で3.7倍延伸し、続いて横延伸装置を用いて、温度100℃、延伸速度1000%/分で3.4倍延伸し、さらに同一横延伸装置内の後続する熱処理室で、260℃で10秒間緊張下に熱処理して、厚さ2μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た(フィルムA−1とする)。
【0057】
次に該二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムに、表面抵抗値が2Ωとなるようにアルミニウムを真空蒸着した。その際、長手方向に走るマージン部を有するストライプ状に蒸着した(蒸着部の幅9.0mm、マージン部の幅1.0mmの繰り返し)。次に各蒸着部の中央と各マージン部の中央に刃を入れてスリットし、左又は右に0.5mmのマージンを有する全幅4.5mmのテープ状にして巻き取った。これをリール1とする。
【0058】
得られたリール1の左マージン及び右マージンのもの各1枚づつを重ね合わせて巻回し、静電容量約0.1μFの巻回体を得た。その際、幅方向に蒸着部分がマージン部より0.5mmはみだすように2枚のフィルムをずらして巻回した。
【0059】
この巻回体から芯材を抜いて、そのまま180℃、10kg/cmの温度、圧力で5分間プレスした。これに両端面にメタリコンを溶射して外部電極とし、メタリコンにリード線を溶接して巻回コンデンサを得た。このフィルム及びコンデンサの評価結果を表−1に示す。
【0060】
実施例2
実施例1で用いた前記ポリ−p−フェニレンスルフィド粉末100重量部に真球度1.3でかつ平均粒子径1μmの球状シリカのエチレングリコールスラリー(固形分濃度20%)5重量部加え、ヘンシェルミキサーを用いて50℃で高速攪拌した。
この混合物を、1段のベント孔を有する異方向回転二軸押出機に供給して、310℃で溶融し、ベント部で、溶融状態の樹脂からポリエチレングリコールを除去した。その後、溶融ポリマを3φの口金から押出し、急冷後ペレット状に切断して、球状シリカをポリマに対して10重量%含有した本発明のポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物を得た(樹脂A−2とする)。
この樹脂A−2を20重量%、樹脂A−1を10重量%、樹脂A−0を70重量%混合し、実施例1と同様にして厚さ2μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た(フィルムA−2とする)。
【0061】
このフィルムから実施例1と同様な方法にて巻回コンデンサを得た。このフィルム及びコンデンサの評価結果を表−1に示す。
【0062】
実施例3
実施例1で用いた前記ポリ−p−フェニレンスルフィド粉末100重量部に平均粒子径0.3μmの球状シリカのエチレングリコールスラリー(固形分濃度20%)5重量部加え、ヘンシェルミキサーを用いて50℃で高速攪拌した。
この混合物を、1段のベント孔を有する異方向回転二軸押出機に供給して、310℃で溶融し、ベント部で、溶融状態の樹脂からポリエチレングリコールを除去した。その後、溶融ポリマを3φの口金から押出し、急冷後ペレット状に切断して、球状シリカをポリマに対して10重量%含有した本発明のポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物を得た(樹脂A−3とする)。
この樹脂A−3を20重量%、樹脂A−1を10重量%、樹脂A−0を70重量%混合し、実施例1と同様にして厚さ2μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た(フィルムA−3とする)。
【0063】
このフィルムから実施例1と同様な方法にて巻回コンデンサを得た。このフィルム及びコンデンサの評価結果を表−1に示す。
【0064】
実施例4
実施例1で用いた樹脂A−0を96重量%、樹脂A−1を4重量%混合し、実施例1と同様にして厚さ2μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た(フィルムA−4とする)。
このフィルムから実施例1と同様な方法にて巻回コンデンサを得た。このフィルム及びコンデンサの評価結果を表−1に示す。
【0065】
比較例1
実施例1にて得た単体のポリ−p−フェニレンスルフィド粉末100重量部に真球度1.3でかつ平均粒子径0.8μmの球状シリカのエチレングリコールスラリー(固形分濃度20%)5重量部加え、ヘンシェルミキサーを用いて50℃で高速攪拌した。
この混合物を、1段のベント孔を有する異方向回転二軸押出機に供給して、310℃で溶融し、ベント部で、溶融状態の樹脂からポリエチレングリコールを除去した。その後、溶融ポリマを3φの口金から押出し、急冷後ペレット状に切断して、球状シリカをポリマに対して3.0重量%含有した本発明のポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物を得た(樹脂B−1とする)。
樹脂A−0を90重量%、樹脂B−1を10重量%混合し、以下実施例1と同様にして厚さ2μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た(フィルムB−1とする)。このフィルムから実施例1と同様な方法にて巻回コンデンサを得た。このフィルム及びコンデンサの評価結果を表1に示す。
【0066】
比較例2
実施例2で得た樹脂A−2を20重量%、比較例1で得た樹脂B−1を10重量%、実施例1で得た樹脂A−0を70重量%混合し、実施例1と同様にして厚さ2μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た(フィルムB−2とする)。
このフィルムから実施例1と同様な方法にて巻回コンデンサを得た。
このフィルム及びコンデンサの評価結果を表1に示す。
【0067】
比較例3
実施例2で得た樹脂A−2を40重量%、実施例1で得た樹脂A−0を60重量%混合し、実施例1と同様にして厚さ2μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た(フィルムB−3とする)。
このフィルムから実施例1と同様な方法にて巻回コンデンサを得た。
このフィルム及びコンデンサの評価結果を表1に示す。
【0068】
比較例4
実施例1に記載のポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物の製造方法を用い、ポリ−p−フェニレンスルフィド粉末100重量部に真比重1、粒径分布が0.2〜2μmでかつ平均粒子径0.8μmである球状シリコーンゴムパウダーの表面をシリコーンレジンで被覆したシリコーン複合パウダーの粉末を3重量部加え、この混合物を、1段のベント孔を有する異方向回転二軸押出機に供給した。その後該混合物を、310℃で溶融し、ベント部で、溶融状態の樹脂から揮発成分(4−クロロ−N−アニリン、N−メチル−ピロリドン、γ−ブチロラクトンなど)を除去した。その後、溶融ポリマを3φの口金から押出し、急冷後ペレット状に切断して、シリコーン複合パウダーをポリマに対して3重量%含有した本発明のポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物を得た(樹脂B−4とする)。
【0069】
樹脂A−0を90重量%、樹脂B−4を10重量%混合し、65mm径のエクストルーダによって310℃で溶融し、金属繊維を用いた95%カット孔径8μmのフィルタで濾過した後、長さ800mm、間隙1.5mmの直線状リップを有するTダイから押出し、表面を25℃に保った金属ドラム上にキャストして冷却固化し、厚さ25μmの未延伸フィルムを得た。このフィルムをロール群から成る縦延伸装置によって、フィルム温度100℃、延伸速度30000%/分で3.7倍延伸し、続いて横延伸装置を用いて、温度100℃、延伸速度1000%/分で3.4倍延伸し、さらに同一横延伸装置内の後続する熱処理室で、260℃で10秒間緊張下に熱処理して、厚さ2μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た(フィルムB−4とする)。
【0070】
当該製造に当たっては、シリコーン複合パウダーの劣化物によるフィルムの破断などが生じ、著しく生産性を欠いた。また、採取したフィルムの工程検査を行ったところ、前記シリコーン複合パウダーの劣化物の混入が確認され、本願にて目的とする品位のコンデンサ用二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを採取することができなかった。
【0071】
比較例5
実施例1に記載のポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物の製造方法を用い、ポリ−p−フェニレンスルフィド粉末100重量部に真比重1、粒径分布が1〜10μmでかつ平均粒子径5μmである直鎖状のオルガノポリシロキサンを架橋した構造であるシリコーンゴムパウダーの粉末を3重量部加え、この混合物を、1段のベント孔を有する異方向回転二軸押出機に供給した。その後該混合物を、310℃で溶融し、ベント部で、溶融状態の樹脂から揮発成分(4−クロロ−N−アニリン、N−メチル−ピロリドン、γ−ブチロラクトンなど)を除去した。その後、溶融ポリマを3φの口金から押出し、急冷後ペレット状に切断して、シリコーン複合パウダーをポリマに対して3重量%含有した本発明のポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物を得た(樹脂B−5とする)。
【0072】
樹脂A−0を90重量%、樹脂B−5を10重量%混合し、65mm径のエクストルーダによって310℃で溶融し、金属繊維を用いた95%カット孔径8μmのフィルタで濾過した後、長さ800mm、間隙1.5mmの直線状リップを有するTダイから押出し、表面を25℃に保った金属ドラム上にキャストして冷却固化し、厚さ25μmの未延伸フィルムを得た。このフィルムをロール群から成る縦延伸装置によって、フィルム温度100℃、延伸速度30000%/分で3.7倍延伸し、続いて横延伸装置を用いて、温度100℃、延伸速度1000%/分で3.4倍延伸し、さらに同一横延伸装置内の後続する熱処理室で、260℃で10秒間緊張下に熱処理して、厚さ2μmの二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを得た(フィルムB−5とする)。
【0073】
当該製造に当たっては、シリコーンゴムパウダーの劣化物によるフィルムの破断などが生じ、著しく生産性を欠いた。また、採取したフィルムの工程検査を行ったところ、前記シリコーンゴムパウダーの劣化物の混入が確認され、本願にて目的とする品位のコンデンサ用二軸配向ポリフェニレンスルフィドフィルムを採取することができなかった。
【0074】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、ポリフェニレンスルフィドフィルム及びその製造方法に関する。本発明の目的は、表面突起が均一で粗大突起が少なく、滑り性、走行性が良好な、また、薄いフィルム特にフィルム厚みを10μm以下としたときの絶縁耐圧が高く、絶縁欠陥が少ない、フィルムコンデンサ用誘電体に適した、ポリフェニレンスルフィドフィルムを提供することにある。本発明のポリフェニレンスルフィドフィルムは、コンデンサの誘導体のベースフィルムとして特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィドを主体とする樹脂組成物からなるフィルムであって、シロキサン結合で架橋した構造を持つ平均粒径が0.2μm〜3μmの球状シリコーン微粒子を樹脂組成物の総重量に対し0.2〜10重量%含有することを特徴とするポリフェニレンスルフィドフィルム。
【請求項2】
上記球状シリコーン粒子に加え、平均粒径が0.05μm〜5μmの球状シリカ、球状架橋ポリスチレン、炭酸カルシウムから選ばれる微粒子が少なくとも一種類を、全微粒子の総重量に対し0〜80重量%含有する請求項1記載のポリフェニレンスルフィドフィルム。
【請求項3】
2軸延伸フィルムである請求項1または2に記載のポリフェニレンスルフィドフィルム。
【請求項4】
少なくとも片面のフィルム表面の3次元中心線平均粗さSRa、3次元10点平均粗さSRzが下記(1)、(2)式を満足する請求項1から3のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィドフィルム。
0.02<SRa<0.06 μm (1)
0.6<SRz<1.3 μm (2)
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のポリフェニレンスルフィドフィルムを主たる誘電体とし、金属箔又は金属薄膜を内部電極とするコンデンサ。
【請求項6】
金属薄膜を内部電極とし、かつ積層構造を有する請求項5記載のコンデンサ。

【公開番号】特開2009−62472(P2009−62472A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232348(P2007−232348)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】