説明

ポリフェノールを配合してなる経口投与用又は外用組成物、並びにその用途

【課題】イチゴ由来のポリフェノールを用いて、優れた効果を示す経口投与用又は外用組成物を提供する。
【解決手段】イチゴの熱水抽出物を、芳香族系合成吸着剤を用いる吸着クロマトグラフィーに、負荷し、カラムを通過した画分及び水で溶出した画分を除去し、次いで5〜60%エタノール水溶液で溶出した画分を含有する経口投与用又は外用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イチゴ由来のポリフェノールを配合してなる経口投与用又は外用組成物、特に食品組成物、医薬組成物及び化粧品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
イチゴには、ビタミンC、エラグ酸、アントシアニン、ケルセチン、ケンフェロール、クエン酸、リンゴ酸などが含まれており、特許文献1には、イチゴ由来のアントシアニジンを含有する肥満防止改善組成物が記載されており、抽出物の調製方法について、イチゴを4℃の水で抽出して得られた抽出物を芳香族系合成吸着剤である合成吸着樹脂(HP20)が充填されたカラムに通液することにより、色素成分をカラムに吸着させ、次いで、このカラムに水を通液して洗浄後、70%エタノール水溶液を通液することにより、カラムに吸着された色素成分を溶出して得られた溶液から溶媒を除去することにより、アントシアニジン系化合物(色素成分)を90%以上の高純度で含有する抽出物が得られたことが記載されている。
【0003】
また、ペクチンは、食物繊維成分として健康食品に配合されることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−153240号公報、請求項1、2及び段落0033〜0037
【特許文献2】特開2007−330124号公報、請求項9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者が、イチゴの熱水抽出物からポリフェノールを得る方法について鋭意研究を重ねた結果、ポリフェノールは芳香族系合成吸着剤に吸着し、5〜60%エタノール水溶液によって溶離する画分から得られること、更にはエタノール濃度により、得られる成分の組成及び活性が異なることを見出した。
【0006】
本発明は、イチゴ由来のポリフェノールを用いて、安全性が高く、かつ優れた効果を示す組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、以下のとおりである。
(1)イチゴの熱水抽出物を、芳香族系合成吸着剤を用いる吸着クロマトグラフィーに、負荷し、カラムを通過した画分及び水で溶出した画分を除去し、次いで5〜60%エタノール水溶液で溶出した画分を含有する経口投与用又は外用組成物。
(2)カラムを通過した画分及び水で溶出した画分を除去し、次いで5〜15%エタノール水溶液で溶出した画分を含有する前記(1)に記載の組成物。
(3)カラムを通過した画分、水で溶出した画分及び40%未満のエタノール水溶液で溶出した画分を除去し、次いで40〜60%エタノール水溶液で溶出した画分を含有する前記(1)に記載の組成物。
(4)更に、増粘多糖類を含有する前記(1)〜(3)のいずれかに記載の組成物。
(5)イチゴ由来のポリフェノール、及び増粘多糖類を配合してなる組成物。
(6)食品組成物、医薬組成物又は化粧品組成物ある前記(1)〜(5)のいずれかに記載の組成物。
(7)抗肥満用組成物である前記(6)に記載の組成物。
(8)抗炎症用組成物である前記(6)に記載の組成物。
(9)メラニン産生阻害用組成物である前記(6)に記載の組成物。
(10)増粘多糖類がイチゴ由来のペクチンである前記(4)〜(9)のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の組成物は、安全性が高く、かつ優れた効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は検体投与開始後の増加体重の推移を示す図である。
【図2】図2は肝臓重量の測定結果を示す図である。
【図3】図3は脾臓重量の測定結果を示す図である。
【図4】図4はOVA−IgEの測定結果を示す図である。
【図5】図5はOVA−IgG1の測定結果を示す図である。
【図6】図6はIL−6産生量を示す図である。
【図7】図7はIL−8産生量を示す図である。
【図8】図8はHMVII細胞を用いたメラニン産生阻害試験の結果を示す図である。
【図9】図9はB16F1細胞を用いたメラニン産生阻害試験の結果を示す図である
【図10】図10はチロシナーゼ活性阻害試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明において、ポリフェノールの原料となるイチゴ(学名:Fragaria L.)の種類としては、特に制限はないが、好ましくはオランダイチゴ(学名:Fragaria ananassa、英名:garden strawberry)が挙げられ、その品種としては、例えばトチオトメ、ダナー、アイベリー、あまおう、ももいちご、あきひめ、さがほのか、あすかルビー、豊の香、宝交早生、福羽、女峰、久留米49号、栃の峰、好ましくはトチオトメが挙げられる。イチゴの部分としては、例えば果実、葉、茎、根、好ましくは果実が挙げられる。
【0011】
本発明において、イチゴ由来のポリフェノールとしては、好ましくは、イチゴの熱水抽出物を、芳香族系合成吸着剤を用いる吸着クロマトグラフィーに、負荷し、カラムを通過した画分及び水で溶出した画分を除去し、次いで5〜60%エタノール水溶液で溶出した画分を用いる。
【0012】
本発明の組成物を化粧品組成物等の外用組成物として用いる場合には、メラニン産生阻害活性、チロシナーゼ阻害活性の点から、前記画分として、カラムを通過した画分及び水で溶出した画分を除去し、次いで5〜15%エタノール水溶液で溶出した画分を用いることが好ましい。一方、経口投与用組成物として用いる場合には、活性の点から、一般には、前記画分として、カラムを通過した画分、水で溶出した画分及び40%未満のエタノール水溶液で溶出した画分を除去し、次いで40〜60%エタノール水溶液で溶出した画分を用いることが好ましい。
前記画分は、そのまま、又は更に精製して、イチゴ由来のポリフェノールとして用いることができる。
【0013】
イチゴからポリフェノールを抽出するために用いる抽出溶媒としては、ポリフェノール及びペクチンの収穫量向上の点で、熱水(90〜100℃の水)を用いることが好ましい。
【0014】
本発明に用いる芳香族系合成吸着剤は、イオン交換基を有しない、多孔性構造を有する合成物質で、疎水性相互作用により、主に有機物の分離精製に使用されるものであり、種々のものが知られており、例えば、特許第2784627号公報、特許第3527661号公報、特許第3891746号公報に記載されているものが挙げられる。具体的には、スチレンとジビニルベンゼンを重合して製造された芳香族系合成吸着剤が挙げられ、市販品としては、ダイヤイオンTMHP20、同HP21、セパビーズTMSP825L、同SP850、同SP700、同SP70(以上、三菱化学(株)製又は日本錬水(株)製)、アンバーライトTMXAD2、同XAD4、同XAD16(米国、ロームアンドハース社製)が挙げられる。
【0015】
本発明の組成物においては、イチゴ由来のポリフェノールに加えて、更に増粘多糖類を併用することにより、肥満作用等の効果が増強される。
増粘多糖類としては、特に制限はないが、例えばペクチン、アラビアゴム、グアーガム、プルラン、アルギン酸ナトリウム、好ましくはペクチン、アラビアゴムが挙げられる。ペクチンとしては、特に制限はないが、イチゴ由来のペクチンが好ましい。
【0016】
また、イチゴの熱水抽出物を、芳香族系合成吸着剤を用いる吸着クロマトグラフィーに、負荷し、カラムを通過した画分及び水で溶出した画分をエタノール水溶液、好ましくは60〜80%エタノール水溶液に溶解し、析出した不溶物を60〜80%エタノール水溶液で濾過洗浄したものをそのまま、又は更に精製して、イチゴ由来のペクチンとして用いることができる。
【0017】
本発明の組成物において、イチゴ由来のポリフェノールと増粘多糖類を併用する場合、イチゴ由来のポリフェノールと増粘多糖類との質量比は、通常1:0.6〜1:2が望ましい。
【0018】
本発明の組成物は、抗肥満作用、インターロイキン8産生阻害作用及びメラニン産生阻害作用を有し、抗肥満用、抗炎症用又はメラニン産生阻害用の食品組成物、医薬組成物又は化粧品組成物として用いることができる。
【0019】
本発明の組成物は、イチゴ由来のポリフェノール、更に必要に応じて増粘多糖類を公知の食品用担体、医薬用担体又は化粧品用担体と組合せて製剤化することができる。本発明の組成物は、経口投与用に用いる場合、一般には錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤等の医薬組成物として、また食品、チューインガム、飲料等に添加して、一般食品、又はいわゆる特定保健用食品として用いることができる。
【0020】
本発明の組成物の投与量は、患者の年令、体重、疾患の程度、投与経路により異なるが、イチゴ由来のポリフェノールとして通常1日50〜500mgであり、増粘多糖類として通常1日50〜500mgであり、投与回数は、通常、1日1〜3回である。
【0021】
本発明の組成物は、例えばデンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等の賦形剤を用いて常法に従って製造される。本発明の組成物には、適宜前記賦形剤の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を使用することができる。
【0022】
結合剤の具体例としては、結晶セルロース、結晶セルロース・カルメロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルメロースナトリウム、エチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、アルファー化デンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、プルラン、ポリビニルピロリドン、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS、メタクリル酸コポリマーL、メタクリル酸コポリマー、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、寒天、ゼラチン、白色セラック、トラガント、精製白糖、マクロゴールが挙げられる。
【0023】
崩壊剤の具体例としては、結晶セルロース、メチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、部分アルファー化デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、トラガントが挙げられる。
【0024】
界面活性剤の具体例としては、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリオキシル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、セスキオレイン酸ソルビタン、トリオレイン酸ソルビタン、モノステアリン酸ソルビタン、モノパルミチン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、ポリソルベート、モノステアリン酸グリセリン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウロマクロゴールが挙げられる。
【0025】
滑沢剤の具体例としては、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、タルク、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、ショ糖脂肪酸エステル、ロウ類、水素添加植物油、ポリエチレングリコールが挙げられる。
【0026】
流動性促進剤の具体例としては、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムが挙げられる。
【0027】
また、本発明の組成物は、液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤、エリキシル剤として投与する場合には、矯味矯臭剤、着色剤を含有してもよい。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(製造例1)イチゴ熱水抽出物の調製及び分画
(1)抽出液の調製
イチゴ(トチオトメ;以下同様)の果実の絞りカス1.4kgに蒸留水2.7Lを加え、オートクレーブ中、90℃で60分間処理することにより抽出を行った。冷却後、濾液と残渣とに分離して減圧濾過を行い、残渣や容器を洗浄した蒸留水を含めて4.7Lの抽出液を得た。
【0029】
(2)分画
前記(1)で得られた熱水抽出液4.7LをダイヤイオンTM HP20(日本錬水(株))カラムクロマトグラフィー(直径9.0cm×長さ19cm)に付し、水6.0L、10%エタノール水溶液3.6L、50%エタノール水溶液3.6L、100%エタノール3.6Lの順で溶出させ、減圧濃縮することにより、以下の極性画分(水溶出〜エタノール溶出画分)を得た。水溶出画分80.7g、10%エタノール水溶液溶出画分1.92g、50%エタノール水溶液溶出画分3.83g、100%エタノール溶出画分0.18g。
【0030】
前記50%エタノール水溶液溶出画分又は10%エタノール水溶液溶出画分の凍結乾燥品をイチゴポリフェノールとして用いた。
一方、前記水溶出画分の凍結乾燥品80.7gを70%エタノール水溶液に溶解し、析出した不溶物を70%エタノール水溶液で濾過洗浄し、凍結乾燥したものをイチゴペクチンとして用いた。
【0031】
(製造例2)イチゴ熱水抽出物の調製
イチゴの果実の絞りカス304gに蒸留水1.8Lを加え、オートクレーブ中、90℃で60分間処理することにより抽出を行った。冷却後、濾液と残渣とに分離して減圧濾過を行い、残渣や容器を洗浄した蒸留水を含めて抽出液を得た。得られた抽出液を凍結乾燥した。
イチゴ絞りカスの含水率及び抽出効率(イチゴ絞りカス100gに対して600mLの蒸留水を加えて1回抽出した場合の値)を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
(製造例3)イチゴ熱水抽出物の調製
イチゴの果実の絞りカス0.8kgに1%クエン酸水溶液2.4Lを加え、オートクレーブ中、90℃で60分間処理することにより抽出を行った。冷却後、濾液と残渣とに分離して減圧濾過を行い、抽出液を得た。
【0034】
(試験例1)ポリフェノールの定量
Folin-Denis法を用いて被検試料中のポリフェノールを定量した。被検試料を水又はエタノールを少量加えた水に溶かし、熱水抽出物(製造例2で得た凍結乾燥品)及び製造例1で得た水溶出画分は200μg/mLに、製造例1で得た10%エタノール水溶液溶出画分及び50%エタノール水溶液溶出画分は50μg/mLに調製した。調製液1.0mLにフォーリン試薬1.0mLを加えて混和し、3分間以上経った後に10%炭酸ナトリウム水溶液1.0mLを加えてよく混和した。遮光状態で1時間静置の後、760nmの吸光度を測定した。これとは別に、フォーリン試薬の代わりに水を用いて同様の操作を行ったものを各被検試料のブランクとし、測定値より差し引いた。
【0035】
また、ポリフェノール濃度が高すぎても低すぎても誤差が大きいため、吸光度が0.3〜0.5の範囲になかった水溶出画分及び50%エタノール水溶液溶出画分はそれぞれ1500μg/mL、20μg/mLに調製して再度測定した。
【0036】
なお、値はクロロゲン酸を標準物質として予め作成した検量線より算出した。
ポリフェノール含有量(%)=[検量線からの算出値(μg/mL)/被検試料濃度(μg/mL)]×100
結果を表2に示す。
【0037】
【表2】

【0038】
(実施例1)抗肥満試験
(目的)
(1)イチゴポリフェノール及びペクチンなどの増粘多糖類の抗肥満効果に対する相互作用の検証
(2)イチゴ熱水抽出物の抗肥満効果の有無の検討
【0039】
(方法)
(1)被検試料
(a)イチゴ熱水抽出物
(i)酵素処理なしイチゴを0.5%クエン酸水溶液に懸濁し、90℃で60分加熱後、濾過した。
(ii)酵素処理イチゴを90℃で60分加熱後、濾過した。
(b)イチゴポリフェノール
製造例1(2)で得た50%エタノール水溶液溶出画分を用いた。
(c)イチゴペクチン
製造例1(2)で得たペクチンを用いた。
(d)リンゴペクチン及びアラビアゴム
ペクチンリンゴ由来(和光純薬工業)及びアラビアゴム(ナカライテスク)を購入して用いた。
(2)動物及び飼育
ICR/Kwlマウス(雄性、5週齢)を高脂肪・高カロリー飼料(日本クレア社製Quick Fat)で飼育した。
(3)投与方法
飼育8日目に投与を開始した。連続経口強制投与を14回実施した。
(4)試験区
以下の6群について各群10個体使用した。
(a)コントロール群:水
(b)酵素処理なしイチゴ熱水抽出物:1000mg/kg
(c)酵素処理イチゴ熱水抽出物:1000mg/kg
(d)イチゴポリフェノール+リンゴペクチン:各100mg/kg
(e)イチゴポリフェノール+アラビアゴム:100mg/kg、800mg/kg
(f)イチゴポリフェノール+イチゴペクチン:各100mg/kg
(5)測定
摂餌量、摂水量及び体重を毎日測定した。
(6)解剖及び生化学試験
解剖の前日から絶食させた。エーテル麻酔下で心臓から全身血を採取し、遠心後、血清を−80℃で保存した。また、肝臓を摘出し、重量を測定した。血液成分として、総コレステロール、HDL−コレステロール、トリグリセリド及び血糖値を測定した。
(7)統計処理
分散分析(ANOVA)を実施後、ポストフック検定によりp<0.05を有意差ありとした。
【0040】
(結論)
イチゴポリフェノールと増粘多糖類(ペクチン及びアラビアゴム)の投与により非常に強い抗肥満作用が認められた。
(1)体重の推移
イチゴポリフェノール+増粘多糖類投与群において有意に体重増加が抑制された。イチゴポリフェノール+増粘多糖類投与群において、投与開始4〜5日後でコントロールに対して有意に体重増加が抑制された。酵素処理なしイチゴ熱水抽出物においても体重増加の抑制傾向がみられた。酵素処理イチゴにおいては体重増加を抑制する傾向はなかった。結果を図1に示す。
(2)肥満パラメーター
イチゴポリフェノール+増粘多糖類投与群において肝臓重量が有意に低下した。結果を図2に示す。
【0041】
(考察)
イチゴポリフェノールと増粘多糖類を同時に摂取させると抗肥満効果があることが明らかになった。そのメカニズムに関しては、増粘多糖類によりイチゴポリフェノールが体内により多く吸収され、抗肥満効果を発現している可能性が高いと考えられた。
【0042】
(実施例2)抗アレルギー試験
(目的)
イチゴポリフェノールに抗アレルギー作用があるか否かの検討
【0043】
(方法)
(1)被検試料
(a)イチゴポリフェノール
製造例1(2)で得た50%エタノール水溶液溶出画分を用いた。
(b)イチゴペクチン
製造例1(2)で得たペクチンを用いた。
(2)動物及び飼育
BALB/cマウス(雄性、5週齢)をラット・マウス・ハムスター用餌料CRF−1で飼育した。
(3)群分け、初期免疫及び二次感作
(a)飼育開始から6日後及び10日後に1個体あたり0.2mLの0.1mg/mL OVA−アラム溶液(0.2mg/mL OVAとアラムゲルを等量混合した溶液)を腹腔内投与(OVA20μg/マウス)した。
(b)飼育開始から18日後から7日間、被検試料投与の1時間後及び2時間後に34mg/mLのOVAを1個体あたり10μL経鼻感作した。
(c)実験群
(i)無感作コントロール
(ii)コントロール(蒸留水を経口投与)
(iii)イチゴポリフェノール100mg/kg+イチゴペクチン60mg/kg
(iv)イチゴポリフェノール200mg/kg+イチゴペクチン60mg/kg
(ii)、(iii)、(iv)の経口投与を飼育開始6日目から毎日実施した。
(4)解剖及び生化学試験
飼育開始から27日後にエーテル麻酔下で心臓から採血した(EDTAを使用)。血清のOVA特異的IgE及びIgG1を測定した。脾臓を摘出し重量を測定した。
(5)統計処理
データはすべて平均値±標準誤差で表した。Thompson検定により有意水準5%未満の場合データを棄却した。Thompson検定により棄却した個体に関してその他の項目も分析しなかった。無感作コントロールとコントロール間でt検定を実施した。有意水準は5%未満とした。コントロールとサンプル間で分散分析(ANOVA)を実施した。有意水準は5%未満とした。ANOVAで有意差が出た場合は、Dunnett検定を実施した。
【0044】
(結果)
イチゴポリフェノール投与群で、脾臓重量が明らかに低い値になる傾向が認められた。イチゴポリフェノール100mg/kg投与群で、OVA−IgEがやや低い値になる傾向が認められた。イチゴポリフェノール100mg/kg投与群で、OVA−IgG1が明らかに低い値になる傾向が認められた。
一方、イチゴポリフェノール200mg/kg投与群においてはOVA−IgEがやや高い値になる傾向であり、またOVA−IgG1に関しても100mg/kg投与群より高い値になる傾向が認められた。
脾臓重量の測定結果を図3に、OVA−IgEの測定結果を図4に、OVA−IgG1の測定結果を図5に示す。
【0045】
(結論)
イチゴポリフェノールに抗アレルギー作用がある可能性があることが推定されたが、その効果には至適用量が存在すると考えられた。
【0046】
(実施例3)サイトカイン産生試験
(概要)
正常ヒト表皮角化細胞(normal human epidermal keratinocyte)に刺激物質であるホルボール 12−ミリステート 13−アセテート(Phorbol 12-myristate 13-acetate;PMA)とイチゴ由来分画物を作用させてインターロイキン1β,6,8(IL−1β,IL−6,IL−8)の3種のサイトカインの産生量を測定し、被検試料の抗炎症効果などを評価した。
【0047】
(材料及び方法)
(1)細胞
アジア人由来正常ヒト表皮角化細胞(NHEK DSファーマバイオメディカル(株))は、正常ヒト表皮角化細胞用無血清培地(DSファーマバイオメディカル(株))で3継代以上培養したものを用いた。
(2)被検試料及び試薬
被検試料は製造例1(2)で得た10%エタノール水溶液溶出画分を凍結乾燥して用いた。
細胞刺激物質としてホルボール 12−ミリステート 13−アセテート(Phorbol 12-myristate 13-acetate;PMA;Sigma−Aldrich)を用い、生存率の評価にMTT試薬(ナカライテスク(株))とSDS−HCl試薬を用いた。また、サイトカインの産生能の評価には、READY−SET−GO! Human Interleukin−1beta(eBioscience)、READY−SET−GO! Human Interleukin−6(eBioscience)、IL−8/NAP−1 Immunoassay Kit(Biosource)を用いた。
(3)方法
(a)細胞生存試験(毒性試験)
フラスコで培養したNHEKを5.0×10cells/mLに調製し、96well plateに200μL播種した(最終濃度1.0×10cells/well)。37℃で24時間培養し、100ng/mLに調製したPMA25μL(最終濃度10ng/mL)と100,1000μg/mLに調製した被検試料25μL(最終濃度10,100μg/mL)を添加した。48時間培養後、培地を回収してEnzyme Linked−Immuno−Sorbent Assay(ELISA)用に−80℃で保存した。細胞に新しい培地80μLとMTT試薬20μLを加えて3〜5時間培養し、SDS−HCl試薬150μLを加えた。18〜20時間培養後に570nmの吸光度を測定した。
(b)サイトカイン産生量の測定 Enzyme Linked Immuno Sorbent Assay(ELISA)
−80℃で保存していた培地は、ELISA法を用いてサイトカイン量を測定した。
(i)Biosource(IL−8)pre−coated type
解凍した培地をStandard Diluent Bufferで3倍希釈し、標準液と共にIL−8抗体加工された96well plateに50μL添加し、更にBiotin Conjugate 50μLを添加して90分間室温で反応させた。wellの溶液を除き、Wash Bufferで4回洗浄した後、Streptavidin−HRP Working Solution 100μLを添加し、30分間反応させた。wellの溶液を除き、Wash Bufferで5回洗浄した後、Stabilized Chromogen 100μLを添加して、10〜15分間反応させた。Stop Solution 100μLを添加して反応を停止させ、450nmの吸光度を測定した。標準液の吸光度より検量線を作成し、IL−8の産生量を算出した。
(ii)eBioscience(IL−1β,6)non−coated type
96well maxisorp plateに、Coating Bufferで希釈したCapture Antibodyを100μL添加し、4℃で1晩培養した。wellの溶液を除き、Wash Bufferで5回洗浄した後、Assay Diluent 200μLを添加し、1時間室温で反応させた。wellの溶液を除き、Wash Bufferで5回洗浄した後、解凍して10倍,5倍に希釈した培地を標準液と共に100μL添加し、2時間室温で反応させた。wellの溶液を除き、Wash Bufferで5回洗浄した後、Detection Antibody 100μLを添加し、1時間室温で反応させた。wellの溶液を除き、Wash Bufferで5回洗浄した後、Avidin−HRP100μLを添加し、30分間室温で反応させた。wellの溶液を除き、Wash Bufferで7回洗浄した後、Substrate Solution 100μLを添加し、10〜15分間反応させた。Stop Solution 100μLを添加して反応を停止させ、450,570nmの吸光度を測定した。標準液の吸光度より検量線を作成し、IL−1β,6の産生量をそれぞれ算出した。
【0048】
(結果)
(1)サイトカイン産生量
測定したサイトカイン産生量は、細胞上清の希釈率をかけて産生量(pg/mL)で記載し、同細胞数で比較するために、その値に細胞生存試験の結果を算入してコントロール値を100としたものを記載した。これでPMAと被検試料の両方のサイトカイン産生への影響を検討した。
(a)インターロイキン1β
IL−1βは産生量が少なく、細胞上清を10倍希釈した今回の方法では検出できなかった。
(b)インターロイキン6
同細胞数で比較すると、PMA(+)条件下でわずかなIL−6の産生が見られた(表3及び図6)。また、PMA(−),(+)の両方で被検試料による産生が見られた。
【0049】
【表3】

【0050】
(c)インターロイキン8
IL−1β,6に比べて20倍以上のIL−8の産生量が見られた(表4及び図7)。また、PMAの添加により顕著なIL−8の産生が見られた。被検試料は濃度に依存して産生阻害を示した。
【0051】
【表4】

【0052】
(考察)
今回検討した3種のサイトカインでは、IL−6は被検試料の添加により少量産生されたが、IL−8産生量に比べてごく僅かであることより、炎症作用は弱いものであると考えられた。反対に、IL−8は被検試料の添加により顕著な産生阻害を示した。この活性はPMA(−),(+)のどちらの条件下でも見られるため、抗炎症又は消炎作用が高いと思われた。
【0053】
(実施例4)メラニン産生阻害試験
(概要)
ヒト由来メラノーマ細胞HMVII細胞にイチゴ由来物質を作用させ、メラニンの産生量を陰性対照と比較してその産生阻害性(美白効果)を検討した。
【0054】
(材料及び方法)
(1)細胞
ヒト由来メラノーマ細胞HMVIIは、10%FBSを含むHam F−12培地(日水製薬)に0.5%ペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco)を添加した培養液で3継代以上培養したものを用いた。
(2)被検試料
被検試料は製造例1(1)で得た熱水抽出物と製造例1(2)で得た10%エタノール水溶液溶出画分及び50%エタノール水溶液溶出画分を凍結乾燥して用いた。
(3)方法
(a)メラニン産生量
10%FBS入りHam F−12培地で培養したヒト由来細胞HMVIIを24well plateに最終濃度1.0×10cells/well(播種濃度1.04×10cells/mL)を960μL播種し、COインキュベーターで24時間培養した。最終濃度100ng/mL(添加濃度5.0μg/mL)に調整したメラニン産生ホルモン(α−MSH)と10μg/mL(500μg/mL)又は100μg/mL(5000μg/mL)に調整した被検試料をそれぞれ20μL添加し、72時間培養した。培地を除き、PBSで洗った後、トリプシンEDTA溶液100μLを加えて細胞をプレートから剥がし、1N水酸化ナトリウム水溶液900μLを加えた。室温で20〜24時間静置して細胞を融解した後、475nmの吸光度でメラニンを測定した。
(b)細胞生存率
被検試料による細胞生存率(増殖率)への影響を補正するため、MTT法でコントロールを基準とした生存率を算出し、メラニン測定値に算入した。96well plateに2.0×10cells/well(1.25×10cells/mL)を160μL播種し、24時間培養した。最終濃度100ng/mL(1.0μg/mL)に調整したメラニン産生ホルモン(α−MSH)と10μg/mL(100μg/mL)又は100μg/mL(1000μg/mL)に調整した被検試料を各20μL添加し、72時間培養した。古い培地を除き、新しい培地80μLとMTT試薬20μLを加えて3〜5時間培養した。SDS−HCl試薬150μLを加えて更に18〜20時間培養した後、570nmの吸光度を測定した。
【0055】
(結果)
MTT試験結果より、HMVII細胞にイチゴ熱水抽出物及びその分画物を添加すると、そのほとんどで生存率が上昇し、増殖活性があることが分かった。このため、メラニン産生量を実測値で比較した場合にサンプル値がコントロール値を上回っていても、生存率で補正するとコントロールを下回り、メラニン産生阻害活性があることが分かった(表5及び図8)。
【0056】
【表5】

【0057】
(実施例5)メラニン産生阻害試験
(概要)
マウス由来メラノーマ細胞B16F1細胞にイチゴ由来物質を作用させ、メラニンの産生量を陰性対照と比較してその産生阻害性(美白効果)を検討した。
【0058】
(材料及び方法)
(1)細胞
マウス由来メラノーマ細胞B16F1は、10%FBSを含むダルベッコ変法イーグル(D−MEM)培地(日水製薬)に0.5%ペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco)を添加した培養液で3継代以上培養したものを用いた。
(2)被検試料
被検試料は製造例1(1)で得た熱水抽出物と製造例1(2)で得た10%エタノール水溶液溶出画分及び50%エタノール水溶液溶出画分を凍結乾燥して用いた。
(3)方法
(a)メラニン産生量
10%FBS入りD−MEM培地で培養したマウス由来細胞B16F1を24well plateに最終濃度1.0×10cells/well(播種濃度1.04×10cells/mL)を960μL播種し、COインキュベーター内で24時間培養した。最終濃度100ng/mL(添加濃度5.0μg/mL)に調整したメラニン産生ホルモン(α−MSH)と10μg/mL(500μg/mL)又は100μg/mL(5000μg/mL)に調整した被検試料をそれぞれ20μL添加し、72時間培養した。培地を除き、PBSで洗った後、トリプシンEDTA溶液100μLを加えて細胞をプレートから剥がし、1N水酸化ナトリウム水溶液900μLを加えた。室温で20〜24時間静置して細胞を融解した後、475nmの吸光度でメラニン含量を測定した。
(b)細胞生存率
被検試料による細胞生存率(増殖率)への影響を補正するため、MTT法でコントロールを基準とした生存率を算出し、メラニン測定値に算入した。96well plateに2.0×10cells/well(1.25×10cells/mL)を160μL播種し、24時間培養した。最終濃度100ng/mL(1.0μg/mL)に調整したメラニン産生ホルモン(α−MSH)と10μg/mL(100μg/mL)又は100μg/mL(1000μg/mL)に調整した被検試料を各20μL添加し、72時間培養した。古い培地を除き、新しい培地80μLとMTT試薬20μLを加えて3〜5時間培養した。SDS−HCl試薬150μLを加えて更に18〜20時間培養した後、570nmの吸光度を測定した。
【0059】
(結果)
MTT試験結果より、B16F1細胞にイチゴ熱水抽出物及びその分画物を添加すると、いずれのサンプルにおいても陽性対照と同程度のメラニン産生阻害活性が認められた(表6及び図9)。
【0060】
【表6】

【0061】
(実施例6)チロシナーゼ活性阻害試験
(概要)
細胞内でメラニンが産生される際にチロシナーゼを介する生化学反応を、被検試料が阻害するかを試験管内で評価した。
【0062】
(材料及び方法)
(1)被検試料
被検試料は製造例1(1)で得た熱水抽出物と製造例1(2)で得た10%エタノール水溶液溶出画分及び50%エタノール水溶液溶出画分を凍結乾燥して用いた。
(2)方法
最終濃度0.03%にリン酸バッファーで調整した基質ドパ溶液0.5mLにリン酸バッファーで調製した被検試料溶液0.5mLを加え、氷冷しておく。最終濃度45U/mLにリン酸バッファーで調整したチロシナーゼ溶液を0.5mL加え、25℃で5分間インキュベートした後、475nmの吸光度を測定した。吸光度の差からチロシナーゼの反応率(活性)を算出した。また、被検試料の色の影響を避けるため、チロシナーゼ溶液の代わりにリン酸バッファーを加えたものを測定し吸光度の補正を行った。
【0063】
(結果)
熱水抽出物と50%エタノール水溶液溶出画分は実施例5においてメラニン産生の抑制作用を示すのに対し、両者ともまったくチロシナーゼの阻害作用を示さなかった。この事実は、一般的にチロシナーゼの阻害作用によりメラニンの産生が抑制されるという認識を覆すものであり、新たな作用機序による美白剤の可能性を示唆している。一方、10%エタノール溶液溶出画分は弱いチロシナーゼ阻害活性を示した(表7及び図10)。実施例5に記すように、同画分はメラニン産生抑制作用も示したので、同画分には弱いチロシナーゼの阻害作用と同時にチロシナーゼの阻害以外の作用機序によるメラニン産生抑制作用も併せ持つことが示唆された。
【0064】
【表7】

【符号の説明】
【0065】
PP:ポリフェノール
PC:ペクチン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イチゴの熱水抽出物を、芳香族系合成吸着剤を用いる吸着クロマトグラフィーに、負荷し、カラムを通過した画分及び水で溶出した画分を除去し、次いで5〜60%エタノール水溶液で溶出した画分を含有する経口投与用又は外用組成物。
【請求項2】
カラムを通過した画分及び水で溶出した画分を除去し、次いで5〜15%エタノール水溶液で溶出した画分を含有する請求項1記載の組成物。
【請求項3】
カラムを通過した画分、水で溶出した画分及び40%未満のエタノール水溶液で溶出した画分を除去し、次いで40〜60%エタノール水溶液で溶出した画分を含有する請求項1記載の組成物。
【請求項4】
更に、増粘多糖類を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
イチゴ由来のポリフェノール、及び増粘多糖類を配合してなる組成物。
【請求項6】
食品組成物、医薬組成物又は化粧品組成物ある請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
抗肥満用組成物である請求項6記載の組成物。
【請求項8】
抗炎症用組成物である請求項6記載の組成物。
【請求項9】
メラニン産生阻害用組成物である請求項6記載の組成物。
【請求項10】
増粘多糖類がイチゴ由来のペクチンである請求項4〜9のいずれか1項に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−26207(P2011−26207A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170353(P2009−170353)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【出願人】(509205652)株式会社 バイオセラピー開発研究センター (2)
【Fターム(参考)】