説明

ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子、及びポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子成形体

【課題】 ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子を型内成形して、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の優れた特性を損なうことなく、安定的に優れた機械的物性を有する発泡粒子成形体を得ることができる発泡粒子を提供することを目的とする。
【解決手段】ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子であって、該発泡粒子1〜3mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第1回加熱のDSC曲線)が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に固有の吸熱ピーク(固有ピーク)と、該固有ピークの高温側に1つ以上の吸熱ピーク(高温ピーク)とを有し、該高温ピークの融解熱量が少なくとも0.5J/gであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子、及びこれを型内成形して得られる発泡粒子成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂は非汚染性素材としてクリーンルームや高性能分析機器の部品等に使用されており、さらには、優れた耐候性も有しており、屋外用の塗料にも使用されている。また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂は難燃性に優れており高度な難燃性を生かした難燃用途に使用されている。
【0003】
特許文献1には、ポリフッ化ビニリデン系樹脂を電子線架橋し、予め樹脂内に練り込んだ化学発泡剤を加熱分解することにより、発泡体を得る方法が開示されているが、シート状発泡体しか得られていない。また、樹脂が架橋されているため、リサイクル性に乏しいという問題がある。特許文献2には架橋構造を有しない熱可塑性フッ素樹脂からなる発泡体が示されているが、同様にシート状発泡体であり形状の自由度は低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−11037号公報
【特許文献2】特開平7−26051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みて為されたものであり、成形金型に合わせた様々な形状のポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡体を得るために、型内成形可能なポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子を提供すること、さらには、該発泡粒子を型内成形してなるポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書において、ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子を「発泡粒子」ということがある。発泡粒子を型内成形して得られるポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子成形体を「発泡粒子成形体」ということがある。また熱流束示差走査熱量測定によるDSC曲線を単に「DSC曲線」ということがある。
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子の熱流束示差走査熱量測定より得られるDSC曲線に、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に固有の吸熱ピーク(以下、固有ピークということがある)と、該固有ピークより高温側にも1つ以上の吸熱ピーク(以下、高温ピークということがある)が現れる結晶構造を有する発泡粒子が良好な成形性を有することを見出し、高温ピークを有する発泡粒子について種々検討し本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、(1)ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子であって、該発泡粒子1〜3mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第1回加熱のDSC曲線)が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に固有の吸熱ピーク(固有ピーク)と、該固有ピークの高温側に1つ以上の吸熱ピーク(高温ピーク)とを有し、該高温ピークの融解熱量が少なくとも0.5J/gであることを特徴とするポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子。
【0009】
(2)前記発泡粒子1〜3mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱した後、10℃/分の冷却速度で200℃から25℃まで冷却し、その後再び10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第2回加熱のDSC曲線)と前記第1回加熱のDSC曲線において、
下記(1)式の条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載のポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子。
(数1)
0.5×B/A−0.06≦D/C≦2×B/A−0.3 (1)
(ただし、Aは第2回加熱のDSC曲線の吸熱ピークの全融解熱量、Bは第2回加熱のDSC曲線における最大面積の吸熱ピークの頂点温度より高温側の融解熱量、Cは第1回加熱のDSC曲線の吸熱ピークの全融解熱量、Dは前記第1回加熱のDSC曲線における前記高温ピークの融解熱量を示す)
【0010】
(3)ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子であって、該発泡粒子1〜3mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第1回加熱のDSC曲線)と、前記第1回加熱した後、10℃/分の冷却速度で200℃から25℃まで冷却し、その後再び10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第2回加熱のDSC曲線)とにおいて、下記(1)式の条件を満たすことを特徴とするポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子。
(数2)
0.5×B/A−0.06≦D/C≦2×B/A−0.3 (1)
(ただし、Aは第2回加熱のDSC曲線の吸熱ピークの全融解熱量、Bは第2回加熱のDSC曲線における最大面積の吸熱ピークの頂点温度より高温側の融解熱量、Cは第1回加熱のDSC曲線の吸熱ピークの全融解熱量、Dは前記第1回加熱のDSC曲線における前記高温ピークの融解熱量を示す)
【0011】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載のポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子を型内成形してなるポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子成形体。
を要旨とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の発泡粒子は、型内成形が可能な発泡粒子であり、ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子成形体を製造することが可能であり、成形金型に合わせた自由な形状のフッ化ビニリデン系樹脂発泡体を提供することができる。
また、得られた発泡粒子の第1回加熱のDSC曲線の融解熱量と、第2回加熱のDSC曲線の融解熱量とが特定の条件を満たす場合には、外観や機械的物性に優れた発泡粒子成形体を提供することができる。
さらに、本発明の発泡粒子成形体は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の優れた耐候性、難燃性といった長所を実質的に保持しつつ、発泡させたことにより軽量化させることが可能であり、且つ従来は得られなかった、様々な形状のポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の発泡粒子の第2回加熱のDSC曲線における、最大面積の吸熱ピークの頂点温度より高温側の融解熱量Bを説明する図である。
【図2】本発明の発泡粒子の第1回加熱のDSC曲線を示す。
【図3】B/A、D/Cの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンを主成分とするものであれば、その組成、合成法に特に制限はなく、例えば、フッ化ビニリデン単独重合体、フッ化ビニリデン-4フッ化エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体、及びこれらの混合物などを使用することができる。その中でも、フッ化ビニリデン-4フッ化エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体又はこれらとフッ化ビニリデン単独重合体との混合物などが好ましい。
ここでフッ化ビニリデンを主成分とするとは、フッ化ビニリデンと他の共重合性単量体との共重合体である場合、共重合体中に占めるフッ化ビニリデン成分が少なくとも50重量%以上、好ましくは70重量%以上含有するものである。
これらのうちで、耐候性、難燃性の性能が求められる場合には、フッ化ビニリデンを主成分とする範囲で、上記フッ化ビニリデン-4フッ化エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-6フッ化プロピレン共重合体における4フッ化エチレン、または6フッ化プロピレンの共重合比率を高くすることが好ましい。
また、発泡粒子を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、無架橋ポリフッ化ビニリデン系樹脂であっても、例えば、従来公知の方法により架橋された架橋ポリフッ化ビニリデン系樹脂であってもよいが、リサイクル性、発泡粒子の生産性などを考慮すると、無架橋ポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましい。
ポリフッ化ビニリデン系樹脂の密度としては、概ね1.7〜1.9g/cmである。
【0015】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂がフッ化ビニリデン単独重合体のみの場合は樹脂融点が高くなり、後述する発泡工程、成形工程において、高い温度が必要とされる。通常、これらの工程には飽和水蒸気が使用され、高温化するために高圧化した水蒸気に耐え得る高価な装置が必要となる。
【0016】
発泡粒子を型内成形するに際しては、発泡粒子を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点を正確に求めることが必要である。該樹脂の融点は、発泡粒子1〜3mgを、熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱した後、10℃/分の冷却速度で200℃から25℃まで冷却し、再度10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱したときのDSC曲線(第2回加熱のDSC曲線)により求めることができる。該第2回加熱のDSC曲線の最大面積の吸熱ピークの頂点温度がポリフッ化ビニリデン系樹脂の融点に相当する。
前記頂点温度が170℃以下であるポリフッ化ビニリデン系樹脂が好ましく、より好ましくは165℃以下であることが望ましい。なお、該頂点温度の下限は特に規定されないが、製品の実用耐熱性を考慮すると120℃以上が好ましく、より好ましくは130℃以上である。
【0017】
また、前記第2回加熱のDSC曲線においては、ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂に固有の吸熱ピークのみが見られる。この固有ピークは前記第1回加熱のDSC曲線にも第2回加熱のDSC曲線にも現われ、ピーク頂点の温度は第1回と第2回で多少異なる場合があるが、通常、その差は5℃未満である。この吸熱ピークは、前記ポリフッ化ビニリデン系樹脂の重合体比率などにより変化するものである。
【0018】
本発明のポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子は、前記発泡粒子1〜3mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱した後、10℃/分の冷却速度で200℃から25℃まで冷却し、その後再び10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第2回加熱のDSC曲線)において、前記第2回加熱のDSC曲線における最大面積の吸熱ピークの頂点温度より高温側の融解熱量Bと全融解熱量Aとが、下記(2)式の条件を満たすことが望ましい。
【0019】
前記2回加熱のDSC曲線において、最大面積の吸熱ピークの頂点温度より低温側の融解熱量成分は、型内成形時の発泡粒子の軟化に影響するものである。一方、高温側の融解熱量成分は型内成形時の発泡粒子の融解に影響する。このため、ポリフッ化ビニリデン樹脂発泡粒子成形体を得る場合には、上記型内成形時の発泡粒子の樹脂特性を考慮して、下記特定範囲の樹脂特性を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂を使用することが好ましい。下記範囲の樹脂特性を有するポリフッ化ビニリデン系樹脂であれば、発泡粒子から比較的容易に発泡粒子成形体を得ることができる。
(数3)
0.16≦B/A≦0.80 (2)
好ましくは、
(数4)
0.16≦B/A≦0.50 (3)
である。
【0020】
ここで、図1に基づいて該頂点温度と、高温側の融解熱量Bの部分面積解析法を説明する。図1の第2回加熱のDSC曲線において、DSC曲線上の80℃に相当する点αと、樹脂の融解終了温度Teに相当するDSC曲線上の点βとを結ぶ直線(α−β)を引く。次に吸熱ピークの頂点をTmとし、この頂点Tmの温度を樹脂融点とする。なお、DSC曲線に複数の吸熱ピークがある場合には、最大面積の吸熱ピークの頂点温度を採用する。
さらに、頂点Tmからグラフの縦軸と平行な直線を引き、前記直線(α−β)と交わる点をδとする。そして、DSC曲線と線分(Tm−δ)と線分(δ−β)によって囲まれる領域をB(融解熱量B)とする。そこで、高温側の融解熱量Bと低温側の融解熱量の各熱量は、上記のように定められた領域の面積に基づいて熱流束示差走査熱量測定装置により算出される。なお、上記測定方法において、ベースラインである直線(α−β)を引くために、DSC曲線上の点αを温度80℃に相当する点とした理由は、80℃に相当する点を始点とし、融解終了温度を終点したベースラインが、吸熱ピークの熱量を再現性良く安定して求める上で好適であるとの発明者らの知見による。
【0021】
一方、本発明の発泡粒子1〜3mgを、熱流束示差走査熱量測定法により10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第1回加熱のDSC曲線)における吸熱ピークは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂に固有の吸熱ピーク(固有ピーク)とは別に、吸熱ピークよりも高温側にも1つ以上の吸熱ピーク(高温ピーク)が認められる(図2)。この高温ピークは、ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子製造時の調整方法に起因して結晶構造が変化することにより現れ、発泡粒子製造時の発泡時や成形時の樹脂特性を左右するものである。
【0022】
さらに、ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子のDSC曲線を測定した場合、0.5J/g未満の高温ピークの融解熱量では、型内成形可能な発泡粒子を得ることはできない。これは、発泡粒子製造時の発泡工程において、高温ピークに起因する結晶成分が少ないために、樹脂粘度が小さく、気泡発生直後に気泡の合一が発生し、また、気泡成長速度が大きくなりすぎ、気泡が破泡してしまうためである。型内成形可能な発泡粒子を得るためには、高温ピークの融解熱量は、少なくとも0.5J/gの融解熱量を有することが必要である。
【0023】
さらに、第1回加熱のDSC曲線に見られる高温ピークは、発泡粒子の二次発泡性、発泡粒子成形体の機械的物性にも影響することから、該高温ピークの融解熱量は、1.0J/g以上であることが好ましく、更には2.0J/g以上であることがより好ましい。該高温ピークの融解熱量の上限は特に規定されないが、高温ピークの融解熱量が大きすぎる場合には、成形性等に影響することがあるので概ね30J/g以下であることが好ましく、さらに好ましくは11J/g以下である。
【0024】
本発明の発泡粒子は、発泡粒子の熱流束示差走査熱量測定によって得られる第1回加熱のDSC曲線において、固有ピークの高温側に、1以上の高温ピークが現れるが、高温ピークが2つ以上現れる場合は、該高温ピークの熱量は、全ての高温ピークの合計熱量を意味する。前記高温ピークは発泡粒子に存在しうるポリフッ化ビニリデン系樹脂の結晶のうち、後述する発泡粒子製造時の保持の操作により形成させ、高温ピークの融解熱量を調整することができる。
【0025】
本発明における発泡粒子の高温ピークの熱量の測定方法を、図2により説明する。発泡粒子1〜3mgを、熱流束示差走査熱量計によって25℃から200℃まで10℃/分の昇温速度で加熱したときに得られるDSC曲線(第1回加熱のDSC曲線)において、ポリフッ化ビニリデン系樹脂固有の頂点温度PTmcを有する固有ピークPcが現れる。また、該固有ピークの高温側の温度領域に頂点温度PTmdを有する1以上の吸熱ピークPdが現れる。該吸熱ピークPdが本発明における高温ピークであり、発泡粒子の高温ピークの融解熱量(D)に相当するのが該吸熱ピークPdの面積である。そこで、前記高温ピークの融解熱量は、高温ピークPdの面積を定めることにより熱流束示差走査熱量計により算出される。なお、前記吸熱ピークPdの面積は、以下のように定めることができる。
【0026】
例えば、図2に示すように、DSC曲線上の80℃に相当する点αと、発泡粒子の融解終了温度Teに相当するDSC曲線上の点βとを結ぶ直線(α−β)を引く。次に固有ピークPcと高温ピークPdとの間の谷部に当たるDSC曲線上の点γからグラフの縦軸と平行な直線を引き、前記直線(α−β)と交わる点をδとする。高温ピークPdの面積は、DSC曲線の高温ピークPdを示すDSC曲線と、線分(δ−β)と、線分(γ−δ)とによって囲まれる部分(図2において斜線を付した部分)の面積として定められる。なお、前記測定方法において、ベースラインである直線(α−β)を引くために、DSC曲線上の点αを温度80℃に対応する点とした理由は、80℃に対応する点を始点とし、融解終了温度を終点したベースラインが、高温ピークの熱量を再現性良く安定して求める上で好適であることによる。
【0027】
本発明において、前記の発泡粒子製造時の保持操作による調整方法にて得られた高温ピークPdは、前記のようにして測定した発泡粒子の第1回加熱のDSC曲線には現れるが、第1回加熱のDSC曲線を得た後、200℃から10℃/分の冷却速度で25℃で冷却し、再び10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱した時に得られる第2回加熱のDSC曲線には現れず、第2回加熱のDSC曲線には固有ピークPcと同様な吸熱ピークしか現れないため、固有ピークPcと高温ピークPdとを、容易に判別できる。
【0028】
さらに、本発明のポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子は、下記(1)式の条件を満たすことが好ましい。下記(1)式の条件を満たす場合には、より良好な外観や機械物性を有する発泡粒子成形体を得ることができる。
(数5)
0.5×B/A−0.06≦D/C≦2×B/A−0.3 (1)
(ただし、Aは第2回加熱のDSC曲線の吸熱ピークの全融解熱量、Bは第2回加熱のDSC曲線における最大面積の吸熱ピークの頂点温度より高温側の融解熱量、Cは第1回加熱のDSC曲線の吸熱ピークの全融解熱量、Dは前記第1回加熱のDSC曲線における前記高温ピークの融解熱量を示す。)
【0029】
前記D/Cの値が、下記(4)式の条件を満たす場合には、発泡粒子の収縮が少なくなり、あるいは外観上良好な型内成形に必要な独立気泡が多くなるため、さらに良好な外観の発泡粒子成形体を得ることができる。
(数6)
D/C≧0.5×B/A−0.06 (4)
【0030】
前記D/Cの値が、下記(5)式の条件を満たす場合には、発泡粒子が成形時の加熱温度において軟化し易く、また軟化する温度範囲が広くなる。さらに、発泡粒子の融解により型形状を維持し易くなるため、さらに良好な外観や機械的物性を有する発泡粒子成形体を得ることができる。
(数7)
D/C≦2×B/A−0.3 (5)
【0031】
前記(1)式は、図3に基づくものであり、X軸にB/Aをプロットし、Y軸にD/Cをプロットした場合に、該プロットが特定範囲に存在する場合に、発泡粒子成形体の成形体外観や機械的物性がさらに良好となることを示すものである。図3は、発泡粒子を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂自体に関連する第2回加熱のDSC曲線のB/Aと、発泡粒子の製造工程で形成される結晶構造に起因する第1回加熱のDSC曲線のD/Cとが、発泡粒子成形体の外観や機械的物性と相互に関連していることを示している。
成形体外観や機械的物性が良好となる範囲は、前記第2回加熱のDSC曲線のB/Aの値が大きくなるほど、前記(1)式の範囲内に規定されるD/Cの範囲が大きくなる傾向にある。一方、B/Aの値が小さい場合には、前記(1)式の範囲内に規定されるD/Cの範囲は小さくなる傾向にある。
前記のような傾向は、B/Aが大きくなるほど、前記第1回加熱のDSC曲線の最大面積の吸熱ピークの頂点温度と高温ピークの頂点温度との差が大きくなり、発泡粒子の樹脂の軟化が始まる温度と高温ピークの結晶の融解による発泡粒子全体の融解が起きる温度との差が大きくなることを意味し、より良好な成形品を得ることができる成形範囲は広がることになる。
【0032】
前記(1)式は、前記のB/Aが大きくなると、良好な外観や機械的物性を有する発泡粒子成形体が得られるD/Cの範囲が広くなるという傾向を、傾きを変えた2本の直線(式(4)、式(5))で囲まれる領域と対応させて表したものである。具体的には、前記範囲としては、傾きの異なる2つの式、式(4)を下限とし、式(5)を上限として囲まれる領域となる。前記式(1)の範囲内にD/Cがある場合には、発泡粒子成形体はさらに外観や機械的物性が良好なものとなる。
【0033】
本発明の発泡粒子の見かけ密度は、発泡体としての特性が確保されれば特に限定されるものではないが、概ね18〜1500g/cmである。好ましくは36〜750g/cm、より好ましくは54〜500g/cmである。該見かけ密度が小さすぎる場合、発泡倍率が比較的高いために、加熱膨張時に十分な膜強度が維持できなくなる虞れがある。見かけ密度が大きすぎる場合には、発泡体としての基本特性が得られない虞がある。
該発泡粒子を型内成形することにより得られる発泡粒子成形体の見かけ密度は、概ね11〜1100g/cmであり、より好ましくは22〜550g/cm、さらに好ましくは33〜400g/cmである。
【0034】
本発明における発泡粒子の見かけ密度及び発泡粒子成形体の見かけ密度は、以下の測定法から算出される。
(i)発泡粒子の見かけ密度の測定
23℃の水の入ったメスシリンダーを用意し、該メスシリンダーに、相対湿度50%、23℃、1atmの条件にて2日放置した約500mlの発泡粒子(発泡粒子群の重量W1)を金網等を使用して沈めて、水位上昇分より読みとられる発泡粒子群の容積V1(L)にてメスシリンダーに入れた発泡粒子群の重量W1(g)を割り算(W1/V1)することにより求める。
(ii)発泡粒子成形体の密度の測定
発泡粒子成形体の成形表皮を有しない部分から50mm×50mm×50mmの試験片を切り出し、その容積V2(L)と重量W2(g)から算出される。
【0035】
本発明の発泡粒子は、平均気泡径が35〜800μmの気泡径を有するものが好ましい。上記範囲の気泡径である場合には、加熱成形時の二次発泡が十分に為され、粒子間の融着性が良好となるため、さらに外観や機械的物性が良好な該発泡粒子の成形体を得ることが可能となる。発泡粒子の平均気泡径は、好ましくは50〜500μm、さらに好ましくは60〜350μmである。
【0036】
発泡粒子の平均気泡径は、先ず、発泡粒子を略2等分に切断し気泡断面を得、該断面を顕微鏡にて撮影した拡大写真に基づき、以下の操作を行うことにより求めることができる。上記気泡断面の拡大写真において、発泡粒子の表面から他方の表面に亘り、且つ気泡断面の中心部を通過する直線を4本、8方方向に引く。続いて、前記4本の直線と交わる気泡の数の総数:N(個)を求める。そして、前記4本の各直線の長さの総和:L(μm)を気泡の数の総数:N(個)にて除する(L/N)ことにより求められる値を発泡粒子の平均気泡径とする。
【0037】
本発明に用いられるポリフッ化ビニリデン系樹脂は、メルトフローレイト(MFR)が好ましくは0.1〜100g/10分、より好ましくは1〜30g/10分の樹脂を50重量%以上含有することが望ましい。上記範囲内であれば、溶融混練により樹脂粒子を得ることが容易となる。なお、メルトフローレイトはASTM D1238の試験条件(温度230℃、荷重5kg)で測定される値である。
【0038】
本発明の発泡粒子を構成するポリフッ化ビニリデン系樹脂は、混練機により混練物が十分均一になるように混合することが重要である。上記の混合は、通常両者の樹脂が溶融する温度に加熱して押出機で混練することが好ましい。前記混練後、混練物を押出機先端に取り付けた口金の小孔から紐状に押出し、これを適宜の長さに切断して、発泡粒子を製造するのに適した大きさの樹脂粒子に造粒される。なお、樹脂粒子の1個当たりの平均重量は、通常0.01〜20.0mgであり、特に0.1〜10.0mgであることが好ましい。
【0039】
本発明の発泡粒子は、ポリフッ化ビニリデン系樹脂以外に、本発明の効果を損なわない範囲内で他のポリマー成分や添加剤を、押出機等の混練手段等により添加させることができる。
【0040】
前記の他のポリマー成分としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状超低密度ポリエチレン、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体である直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、ポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、或いはポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体等のポリスチレン系樹脂、エチレン−プロピレン系ゴム、エチレン−1-ブテンゴム、プロピレン−1-ブテンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン系ゴム、イソプレンゴム、ネオプレンゴム、ニトリルゴムなどのゴム、スチレン−ジエンブロック共重合体やスチレン−ジエンブロック共重合体の水添物などのスチレン系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらのポリマーは、2種以上を組合せて用いることもできる。
【0041】
また、ポリフッ化ビニリデン系樹脂には通常使用される気泡調整剤、帯電防止剤、導電性付与剤、滑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属不活性剤、顔料、染料、結晶核剤、あるいは充填材等の各種の添加剤を所望に応じて適宜配合することができる。上記の気泡調整剤としては、タルク、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム、シリカ、酸化チタン、石膏、ゼオライト、ホウ砂、水酸化アルミニウム、カーボン等の無機物の他、リン酸系核剤、フェノール系核剤、アミン系核剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の有機系核剤が挙げられる。これらの各種添加剤の添加量はその添加目的により異なるが、ポリフッ化ビニリデン系樹脂100重量部に対して好ましくは25重量部以下、より好ましくは15重量部以下、更に好ましくは8重量部以下であり、5重量部以下が特に好ましい。
【0042】
本発明の発泡粒子の製造には、例えば前記の方法等により造粒して得られるポリフッ化ビニリデン系樹脂粒子と発泡剤とを密閉容器内で水等の分散媒体に分散させ、撹拌下に加熱して樹脂粒子を軟化させるとともに樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後、樹脂粒子の軟化温度以上の温度で密閉容器内から低圧域(通常大気圧下)に樹脂粒子を分散媒体と共に放出して発泡させるなど、例えば特公昭49−2183号公報、特公昭56−1344号公報、特公昭62−61227号公報などに記載の公知の発泡方法を適用することができる。
【0043】
また、発泡粒子を得るために密閉容器内の内容物を密閉容器から低圧域に放出する際には、使用した発泡剤あるいは窒素、空気等の無機ガスで密閉容器内に背圧をかけて該容器内の圧力が急激に低下しないようにして、内容物を放出することが、得られる発泡粒子の見かけ密度の均一化の観点から好ましい。発泡粒子の製造に際して樹脂粒子を分散させる分散媒体としては、上記した水に限らず、樹脂粒子を溶解させない溶媒であれば使用することができる。水以外の分散媒体としては、例えばエチレングリコール、グリセリン、メタノール、エタノール等が挙げられるが、通常は水を用いる。
【0044】
また、前記樹脂粒子に発泡剤を含浸させた後、低圧域に放出させずに冷却すると、発泡性樹脂粒子を得ることも可能である。該発泡性樹脂粒子は、後に加熱することにより発泡させて、発泡粒子とすることができる。
【0045】
上記の方法において、分散媒体中には、必要に応じて、樹脂粒子が分散媒体中に均一に分散するように、酸化アルミニウム、第三リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、酸化亜鉛、カオリン、マイカ、タルクなどの難水溶性無機物質等の分散剤、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン界面活性剤等の分散助剤を分散させることが好ましい。発泡粒子を製造する際に分散媒体中に添加される分散剤の量は、樹脂粒子の重量と分散剤の重量との比率(樹脂粒子の重量/分散剤の重量)を20〜2000、更に30〜1000とすることが好ましい。また、分散剤の重量と分散助剤の重量との比率(分散剤の重量/分散助剤の重量)を1〜500、更に5〜100とすることが好ましい。
【0046】
上記方法において用いる発泡剤としては、有機系物理発泡剤や無機系物理発泡剤、或いはこれらの混合物等を用いることができる。有機系物理発泡剤としてはプロパン、ブタン、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、シクロブタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、クロロフロロメタン、トリフロロメタン、1,1−ジフロロエタン、1,1,1,2−テトラフロロエタン、メチルクロライド、エチルクロライド、メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のジアルキルエーテル等が挙げられ、これらは2種以上を混合して用いることができる。また、無機系物理発泡剤としては、窒素、二酸化炭素、アルゴン、空気、水等が挙げられ、これらは2種以上を混合して用いることができる。有機系物理発泡剤と無機系物理発泡剤とを混合して用いる場合、上記した有機系物理発泡剤と無機系物理発泡剤より任意に選択した化合物を組み合わせて用いることができる。なお、無機系物理発泡剤と有機系物理発泡剤とを併用する場合には無機系物理発泡剤が少なくとも30重量%以上含有することが好ましい。
【0047】
前記発泡剤のうち、特に環境対応の点から、無機系物理発泡剤が好ましく、中でも窒素、空気、二酸化炭素、水が好ましい。なお、発泡粒子を得る際に密閉容器内に樹脂粒子と共に分散媒として水を使用する場合には、該樹脂粒子に吸水性樹脂などを混錬したものを使用することにより分散媒である水を効率的に発泡剤として使用することができる。
【0048】
発泡剤の使用量は、目的とする発泡粒子の見かけ密度、ポリフッ化ビニリデン系樹脂の種類、または発泡剤の種類等を考慮して決定するが、通常、樹脂粒子100重量部当たり、有機系物理発泡剤で5〜50重量部、無機系物理発泡剤で0.5〜30重量部を用いることが好ましい。
【0049】
前記の高温ピークを有する発泡粒子は、前記公知の発泡方法において樹脂粒子を密閉容器内で分散媒に分散させて加熱する際に、樹脂粒子の融解終了温度(Te)以上に昇温することなく、樹脂粒子の融点(Tm)よりも15℃低い温度以上、Te未満の範囲内の任意の温度(Ta)で止めて、その温度Taで十分な時間、好ましくは10〜60分程度保持し、その後、(Tm−5℃)〜(Te+5℃)の範囲の任意の温度(Tb)に調節し、その温度で樹脂粒子を密閉容器内から低圧域に放出して発泡させる方法により得ることができる。なお、高温ピークを形成するための上記(Tm−15℃)以上、Te未満の範囲内での保持は、該温度範囲内にて多段階に設定することもできるし、また、該温度範囲内で十分な時間をかけてゆっくりと昇温することにより該高温ピークを形成することも可能である。
【0050】
また、発泡粒子の前記高温ピークの形成、および高温ピークの熱量の大小は、主として、発泡粒子を製造する際の樹脂粒子に対する前記温度Taと前記温度Taにおける保持時間、及び前記温度Tb、並びに(Tm−15℃)以上、(Te+5℃)の範囲内での昇温速度に依存する。発泡粒子の上記高温ピークの熱量は、温度TaまたはTbが上記各々の温度範囲内において低い程、(Tm−15℃)以上、Te未満の範囲内での保持時間が長い程、そして(Tm−15℃)以上、Te未満の範囲内での昇温速度が遅い程、大きくなる傾向を示す。なお、前記昇温速度は通常0.5〜5℃/分が採用される。一方、温度TaまたはTbが前記各々の温度範囲内において高い程、(Tm−15℃)以上、Te未満の範囲内での保持時間が短い程、そして(Tm−15℃)以上、Te未満の範囲内での昇温速度が速い程、Te〜(Te+5℃)の範囲内での昇温速度が遅い程、小さくなる傾向を示す。これらの点を考慮して予備実験を繰り返せば、所望の高温ピーク熱量を示す発泡粒子の製造条件を知ることができる。なお、上述した高温ピークの形成に係る温度範囲は、発泡剤として無機系物理発泡剤を使用した場合の適切な温度範囲である。従って、発泡剤が有機系物理発泡剤に変更された場合には、その種類や使用量に応じてその適切な温度範囲は上記温度範囲よりもそれぞれ低温側に0〜30℃程度シフトすることになる。
【0051】
また、前記した方法によって密閉容器から低圧域に放出されることにより得られたポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子は、該放出後に通常行われる大気圧下での養生工程を経た後、加圧用の密閉容器に入れられ空気などの加圧気体により加圧処理して発泡粒子内の圧力を0.01〜0.6MPa(G)に調整した後、該発泡粒子を該容器内から取り出して、水蒸気や熱風を用いて加熱することにより、より低い見かけ密度の発泡粒子とする(この工程を以下、二段発泡という。)ことができる。
【0052】
本発明の発泡粒子成形体は、必要に応じて上述した二段発泡における操作と同様の発泡粒子内の圧力を高める操作を行い発泡粒子内の圧力を0.01〜0.3MPa(G)に調整した後、加熱及び冷却が可能であって且つ開閉し密閉できる、従来公知の熱可塑性樹脂発泡粒子型内成形用の金型のキャビティー内に発泡粒子を充填し、飽和蒸気圧が0.05〜0.48MPa(G)、好ましくは0.08〜0.42MPa(G)の水蒸気を供給して金型内で発泡粒子を加熱して膨張させ、発泡粒子相互を融着させ、次いで得られた発泡粒子成形体を冷却して、キャビティー内から取り出すバッチ式型内成形法(例えば、特公平4−46217号公報、特公平6−49795号公報等に記載される成形方法)を採用して製造することができる。
【0053】
前記型内成形法における水蒸気加熱の方法としては、一方加熱、逆一方加熱、本加熱などの加熱方法を適宜組み合わせる従来公知の方法を採用できるが、特に、予備加熱、一方加熱、逆一方加熱、本加熱の順に発泡粒子を加熱する方法が好ましい。なお、発泡粒子成形時の上記0.05〜0.48MPa(G)の飽和蒸気圧は、型内成形工程において、金型内に供給される水蒸気の飽和蒸気圧の最大値である。
【0054】
また、本発明の発泡粒子成形体は、発泡粒子を、必要に応じて発泡粒子内の圧力を0.01〜0.3MPa(G)に調整した後、加熱領域と冷却領域とを有する通路内の上下に沿って連続的に移動するベルトと通路によって形成される型内に、発泡粒子を連続的に供給し、加熱領域を通過する際に飽和蒸気圧が0.05〜0.42MPa(G)の水蒸気を型内に供給して発泡粒子を膨張させ、発泡粒子相互を融着させ、その後冷却領域を通過させて冷却し、次いで得られた発泡粒子成形体を型内から連続的に取り出し、適宜長さに順次切断する連続式型内成形法(例えば特開平9−104026号、特開平9−104027号及び特開平10−180888号等に記載される成形方法)により製造することもできる。
【0055】
なお、実際に発泡粒子を型内成形する場合の操作条件として、圧縮充填成形、発泡粒子への内圧付与等の種々の条件を選択することができる。
【実施例】
【0056】
(1)ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子の製造
実施例1〜4
ポリフッ化ビニリデン系樹脂としてフッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン共重合体(アルケマ社製 KYNAR FLEX #2850)を用い、表に記載した気泡調整剤を前記樹脂100重量部に対して1500重量ppm添加すると共に40mmφの単軸押出機にて溶融混練し、得られた混練物を押出機先端に取り付けた口金の小孔からストランド状に押出し、冷却し、ストランド状の樹脂粒子の重量が略1.8mgになるように切断、乾燥して、樹脂粒子を得た。
【0057】
前記樹脂粒子1kgを分散媒である水3.5リットル(L)と共に撹拌機を備えた5Lの密閉容器内に仕込み、更に分散媒中に、分散剤としてカオリン0.3重量部、界面活性剤としてアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.004重量部、及び硫酸アルミニウム0.01重量部を添加し、密閉容器内に発泡剤として炭酸ガスを全圧で0.3MPaとなるまで導入し、撹拌下に表に示す発泡温度にまで昇温した。発泡温度に到達後、さらに炭酸ガスを追加投入し、全圧0.4MPaとし、この温度で15分間保持し、所定の高温ピーク吸熱量が得られるように等温結晶化操作を行った後、内容物を大気圧下に放出して、表に示す発泡粒子を得た。なお、上記気泡調整剤、分散剤、界面活性剤、硫酸アルミニウムおよび発泡剤の使用量を表す重量部は、樹脂粒子100重量部に対する割合である。
【0058】
(2)発泡粒子成形体の製造
前記で得られた発泡粒子を縦150mm×横60mm×厚み50mmの金型に充填し、表に示す成形圧(飽和蒸気圧、表中のスチーム圧の表記はゲージ圧を示す。)の水蒸気加熱により型内成形を行い、発泡粒子成形体を得た。
更に、該発泡粒子成形体を80℃のオーブン中にて12時間養生してポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子成形体を得た。
得られた発泡粒子成形体の密度と、該発泡粒子成形体の評価結果を表1に示した。
【0059】
実施例5〜7
ポリフッ化ビニリデン系樹脂として、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン共重合体(アルケマ社製 KYNAR FLEX #2800)を用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂粒子および発泡粒子、発泡粒子成形体を得た。該発泡粒子成形体の評価を表2に示した。
【0060】
実施例8〜11および比較例1
ポリフッ化ビニリデン系樹脂として、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン共重合体(アルケマ社製 KYNAR FLEX #2800)を用いた以外は、実施例1と同様にして得られた、樹脂粒子および発泡粒子、発泡粒子成形体を得た。該発泡粒子成形体の評価を表3に示した。なお、比較例1の発泡粒子の見掛け密度、及び気泡径は、破泡により正確な測定ができなかった。
【0061】
実施例12〜17
ポリフッ化ビニリデン系樹脂として、フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレン共重合体(ソルベイソレクシス社製 SOLEF21508)を用いた以外は、実施例1と同様にして、樹脂粒子および発泡粒子、発泡粒子成形体を得た。該発泡粒子成形体の評価を表4に示した。だだし、実施例15は、表4に示す条件で二段発泡して成形に供した。
【0062】
得られた発泡粒子成形体の評価を以下に示す。
(1)成形体外観
*1は成形体に収縮が僅かに見られたことを示す。
*2は成形体に融解が僅かに見られたことを示す。
*3は2次発泡が不十分であり、一部表面に平滑でない部分が認められることを示す。
(2)成形体の発泡粒子間の融着
縦150mm×横60mm×厚み50mmの金型で成形した成形体の縦150mm×横60mm表面の一方の面に、カッターナイフで該成形体の長さを2分するように該成形体の厚み方向に約10mmの切り込みを入れた後、切り込み部から該成形体を折り曲げて破断するテストにより、破断面に存在する発泡粒子の個数(n)と材料破壊した発泡粒子の個数(b)の比(b/n)の値を算出する。
発泡粒子間の融着が強固であるほど、破断テストの(b/n)の値は大きくなる。尚、(b/n)の値が大きいほど、発泡粒子間の融着が完全となり、成形体は曲げ強度や引張強度といった機械的物性が良好となるので好ましい。上記発泡粒子の個数(n)は、発泡粒子間で剥離した発泡粒子の個数と、発泡粒子内で材料破壊した発泡粒子の個数(b)の総和である。






【0063】
【表1】

【0064】
【表2】










【0065】
【表3】

【0066】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0067】
非汚染性素材としてクリーンルーム内の断熱材用途、また、耐候性を生かした屋外での断熱、防音、緩衝材、及び、緩衝材用途、さらには難燃性を生かした高度な難燃用途での軟質発泡体として、鉄道車両用途や航空、宇宙分野等での断熱、緩衝材用途に関する。
【符号の説明】
【0068】
B 第2回加熱のDSC曲線における最大面積の吸熱ピークの頂点温度より高温側の融解熱量。
D 第1回加熱のDSC曲線における樹脂の固有ピークより高温側の吸熱ピーク(高温ピーク)の融解熱量。
Tm 第2回加熱のDSC曲線における最大面積の吸熱ピークの頂点温度。
PTmc 第1回加熱のDSC曲線における樹脂の固有ピークの頂点温度。
PTmd 第1回加熱のDSC曲線における高温ピークの頂点温度。
Pc 第1回目加熱のDSC曲線における固有ピーク。
Pd 第1回目加熱のDSC曲線における高温ピーク。
α DSC曲線における樹脂の融解開始温度に相当する点。
β DSC曲線における樹脂の融解終了温度に相当する点。
γ DSC曲線における固有ピークと高温ピークとの間の谷部に当たるDSC曲線上の点。
δ グラフの縦軸と平行な直線と、点αと点βを結ぶ直線との交点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子であって、該発泡粒子1〜3mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第1回加熱のDSC曲線)が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂に固有の吸熱ピーク(固有ピーク)と、該固有ピークの高温側に1つ以上の吸熱ピーク(高温ピーク)とを有し、該高温ピークの融解熱量が少なくとも0.5J/gであることを特徴とするポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子。
【請求項2】
前記発泡粒子1〜3mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱した後、10℃/分の冷却速度で200℃から25℃まで冷却し、その後再び10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第2回加熱のDSC曲線)と前記第1回加熱のDSC曲線において、
下記(1)式の条件を満たすことを特徴とする請求項1に記載のポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子。
(数1)
0.5×B/A−0.06≦D/C≦2×B/A−0.3 (1)
(ただし、Aは第2回加熱のDSC曲線の吸熱ピークの全融解熱量、Bは第2回加熱のDSC曲線における最大面積の吸熱ピークの頂点温度より高温側の融解熱量、Cは第1回加熱のDSC曲線の吸熱ピークの全融解熱量、Dは前記第1回加熱のDSC曲線における前記高温ピークの融解熱量を示す)
【請求項3】
ポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子であって、該発泡粒子1〜3mgを熱流束示差走査熱量測定法により、10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第1回加熱のDSC曲線)と、前記第1回加熱した後、10℃/分の冷却速度で200℃から25℃まで冷却し、その後再び10℃/分の昇温速度で25℃から200℃まで加熱したときに得られるDSC曲線(第2回加熱のDSC曲線)とにおいて、下記(1)式の条件を満たすことを特徴とするポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子。
(数2)
0.5×B/A−0.06≦D/C≦2×B/A−0.3 (1)
(ただし、Aは第2回加熱のDSC曲線の吸熱ピークの全融解熱量、Bは第2回加熱のDSC曲線における最大面積の吸熱ピークの頂点温度より高温側の融解熱量、Cは第1回加熱のDSC曲線の吸熱ピークの全融解熱量、Dは前記第1回加熱のDSC曲線における前記高温ピークの融解熱量を示す)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子を型内成形してなるポリフッ化ビニリデン系樹脂発泡粒子成形体。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2010−209224(P2010−209224A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57134(P2009−57134)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000131810)株式会社ジェイエスピー (245)
【Fターム(参考)】