説明

ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物

【課題】高い弾性率を維持しつつ衝撃強度及び、破断伸度に優れ,コネクター等に好適なポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、芳香族ポリエステルブロック及び脂肪族ポリエーテルブロックからなる、ポリエステル・エーテル型の熱可塑性エラストマー(B)1〜30重量部が配合されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、該脂肪族ポリエーテルブロックが、重量平均分子量400〜6000のポリアルキレンエーテルグリコールを構成単位とし、(B)の25〜80重量%を占め、また、該樹脂組成物の透過型電子顕微鏡による観察結果は、(A)が海、(B)が島である、いわゆる海島構造を示し、かつ、ポリアルキレンエーテルグリコール成分を含む島部分の平均直径が0.05〜0.30μmであることを特徴とする樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い弾性率を維持しつつ、衝撃強度及び引張伸度に優れた、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性ポリブチレンテレフタレート樹脂(以下、PBT樹脂と略記することがある)は、機械的性質、電気的性質、その他物理的・化学的特性に優れ、かつ、加工性が良好であ、エンジニアリングプラスチックとして、自動車、電気・電子部品等の広汎な用途に使用されている。しかし、低温下において機械的強度が劣るという問題があり、例えば低温で曲げ変形を加えたときに、その歪量が小さい段階で破損するというトラブルが生じることがある。具体的には、ランス等のスナップ特性により端子を固定するコネクターにおいては、低温時にランス部分が破損する等のトラブルが発生し、用途や成形品の形状等がかなり制限されたものとなっているのが、現状である。
【0003】
上述した低温における機械的強度の問題を改善するために、PBT樹脂に柔軟性の良好な樹脂、特に熱可塑性エラストマーを配合することが行われている。例えば、PBT樹脂との相溶性の点から、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとのアロイ化が、これまでにも種々検討されている。
【0004】
特許文献1には、(1)PBT樹脂等の熱可塑性芳香族ポリエステル、及び(2)150℃を超える再結晶温度を有するポリエステルブロックコポリマー、好ましくは芳香族ポリエステルブロックおよび脂肪族ポリエステルブロックを含む熱可塑性エラストマー、である第2ポリマーを含んでなり、第2ポリマー(2)と芳香族ポリエステル(1)の重量比が、0.05:1〜0.35:1であるポリマー組成物が示されている。また、特許文献2には、ポリエステル型又はポリエーテル型の柔軟成分を含む、熱可塑性ポリエステルエラストマー100〜20重量%と、PBT樹脂0〜80重量%からなるポリエステル(混合物)に、無機充填剤を配合した樹脂組成物と、金属等の部品とをインサート成形して成るインサート成形品が、高低温衝撃性(耐ヒートショック性)を向上させることが開示されている。
【0005】
しかし、ポリエステル系熱可塑性エラストマーとのアロイ化により衝撃強度は向上するが、弾性率は低下し、コネクターの嵌合強度を充分に発揮できない心配があり、特に自動車用コネクターのように高温時の弾性率の維持も重要な用途においては、低弾性率化はコネクターの嵌合に不安を発生しかねない。
【0006】
【特許文献1】特表平11−504365号公報
【特許文献2】特開平9−262863号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、高い弾性率を維持しつつ衝撃強度及び、破断伸度に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を提供することにより、例えば、ランス等のスナップ特性により端子を固定するコネクターにおいては、低温時にランス部分が破損する等のトラブルの発生を防止し、同時に高温時のコネクターの嵌合強度の低下を防止する効果が大きい、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物、及びこれから得られる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定構造のポリエステル系エラストマーを配合し、特別なモルフォロジー構造をとるように分散させたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、高い弾性率を維持しつつ、衝撃強度及び引張伸びに優れていることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、芳香族ポリエステルブロック及び脂肪族ポリエーテルブロックからなる、ポリエステル・エーテル型の熱可塑性エラストマー(B)1〜30重量部が配合されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、該脂肪族ポリエーテルブロックが、重量平均分子量400〜6000のポリアルキレンエーテルグリコールを構成単位とし、(B)の25〜80重量%を占め、また、該樹脂組成物の透過型電子顕微鏡による観察結果は、(A)が海、(B)が島である、いわゆる海島構造を示し、かつ、ポリアルキレンエーテルグリコール成分を含む島部分の平均直径が0.05〜0.30μmであることを特徴とする樹脂組成物に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い弾性率を維持しつつ、衝撃強度及び引張伸びに優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が得られ、自動車、OA機器、精密機械等の各種部品への適用が可能となる。特に、本発明の樹脂組成物により得られるランス形状付きコネクターは、低温度でのランスの破損トラブル等が低減され、同時に高温でのコネクターの嵌合強度が維持されることにより、品質の向上を図ることができる。従って、本発明の樹脂組成物は、自動車用部品の用途に好ましく適用でき、更には、コネクター用途に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂
本発明に使用される(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)は、テレフタル酸と1,4−ブタンジオールを主成分とするポリエステル樹脂であり、テレフタル酸が全ジカルボン酸成分の50モル%以上を占め、1,4−ブタンジオールが全ジオール成分の50重量%以上を占めるポリエステル樹脂をいう。中でも、テレフタル酸が、全ジカルボン酸成分の80モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上を占めることがさらに好ましい。1,4−ブタンジオールは、全ジオール成分の80モル%以上を占めることが好ましく、95モル%以上占めることがさらに好ましい。
【0013】
本発明の樹脂組成物の耐加水分解性の観点からは、(A)PBT樹脂の末端カルボキシル基量は、30eq/ton以下であることが好ましく、更に好ましくは25eq/ton以下であり、特に好ましくは20eq/ton以下である。末端カルボキシル基量は、PBT樹脂を有機溶媒に溶解し、水酸化アルカリ溶液を用いて滴定することにより求めることができる。PBT樹脂の末端カルボキシル基量を30eq/ton以下とすることにより、理由は定かではないが、後述するポリエステル・エーテル型の熱可塑性エラストマー(B)が配合された相乗効果により、低温における曲げ特性を向上させることができる。また、耐加水分解性を著しく高め、成形滞留安定性及び熱老化安定性を向上させることができる。
【0014】
PBT樹脂中のカルボキシル基は、加水分解に対して自己触媒として作用するので、30eq/tonを超える量の末端カルボキシル基が存在すると、早期に加水分解が始まり、連鎖的に加水分解が進行し、PBT樹脂の重合度が急速に低下する。本発明の樹脂組成物においては、末端カルボキシル基量が30eq/ton以下のPBT樹脂を使用することにより、高温、高湿の条件下においても、早期の加水分解及び酸化劣化の進行が抑制され、コネクター等の自動車用部品に好ましく適用できる。
【0015】
本発明において、(A)PBT樹脂の固有粘度η(A)は、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定した値で、通常0.50〜3.0dl/gであり、好ましくは0.6 〜2.0dl/gであり、更に好ましくは0.7〜1.5dl/gである。固有粘度が、下限値より小さいと機械的強度が低下する傾向があり、上限値より大きいと、樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、流動性が低下して、成形性が低下する傾向がある。2種類以上のPBT樹脂を併用してもよいが、その場合には、併用したPBT樹脂全体の固有粘度が、上述した範囲内であるのがよい。
【0016】
(B)ポリエステル・エーテル型の熱可塑性エラストマー
本発明に用いる(B)成分としてのポリエステル・エステル型の熱可塑性エラストマーは、ハードセグメントが芳香族ポリエステルブロック(b−1)で、ソフトセグメントが脂肪族ポリエーテルブロック(b−2)で構成されるポリエステル・エーテル型のブロック共重合体であって、脂肪族ポリエーテルブロック(b−2)が、主としてポリアルキレンエーテルグリコールからなるものである。
【0017】
(b−1) 芳香族ポリエステルブロック
本発明における芳香族ポリエステルブロック(b−1)を構成するジカルボン酸成分としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4−又は2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられ、またジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール;4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2−ビス(4’−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等の芳香族ジオールが挙げられる。これらの成分はそれぞれ一種又は二種以上を含有していてもよいし、ハロゲン等の置換基を有してもよい。
【0018】
これらの中でテレフタル酸とテトラメチレングリコールからなるブロックが、相溶性及び耐熱性等の観点より好ましい。これらの中でテレフタル酸とテトラメチレングリコールから主としてなり、具体的には、ジカルボン酸成分中のテレフタル酸が50モル%以上、更には70モル%以上であるのが好ましく、ジオール成分中のテトラメチレングリコールが50モル%以上、更には70モル%以上であるのが好ましい。
【0019】
(b−2) 脂肪族ポリエーテルブロック
脂肪族ポリエーテルブロック(b−2)の主成分であるポリアルキレンエーテルグリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレンエーテルグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのブロック又はランダム共重合体、エチレンオキシドとテトラヒドロフランとのブロック又はランダム共重合体等の炭素数1〜8、好ましくは炭素数2〜6のポリアルキレンエーテルグリコールが挙げられ、中でもポリテトラメチレンエーテルグリコールが好ましい。ここで、ポリアルキレンエーテルグリコールが、脂肪族ポリエーテルブロック(b−2)の主成分であるとは、ポリアルキレンエーテルグリコールが、脂肪族ポリエーテルブロック(b−2)中で、50モル%以上、更には70モル%以上、特には90モル%以上であることを言う。
【0020】
また、ポリアルキレンエーテルグリコールの重量平均分子量は、400〜6,000、更には500〜4,000、特には600〜3,000であるのが好ましく、この分子量が下限未満では、ポリエーテルブロックの性質の発現が低下し、また上限を超えると、ポリブチレンテレフタレートとの混和性が低下して好ましくない。(B)成分である熱可塑性エラストマー全体の中のポリアルキレンエーテルグリコール構成単位の含有量は25〜80重量%であり、好ましくは30〜70重量%、より好ましくは40〜60重量%である。この含有量が25重量%未満の場合は、PBT樹脂組成物の低温での曲げ特性が低下し、また、耐加水分解性も低下する。一方、80重量%を超えた場合には、PBT樹脂との親和性が低下し、機械特性が低下する。更に、本発明のPBT樹脂組成物全体における、ポリアルキレンエーテルグリコール構成単位の含有量は、通常0.1〜30重量%であり、好ましくは0.5〜20重量%、より好ましくは0.8〜10重量%である。0.1重量%未満であると衝撃強度や引張伸度が不十分であり、30重量%を超えると弾性率が低下する。
【0021】
(B)ポリエステル・エーテル型の熱可塑性エラストマーは、ジカルボン酸又はそのエステル形成性誘導体と低分子量グリコール又はそのエステル形成性誘導体とからポリエステルオリゴマーを生成し、このポリエステルオリゴマーに、所定分子量のポリアルキレンエーテルグリコールを所定量混合し、錫触媒等で共重合することにより製造することができる。
【0022】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物
本発明組成物における、(B)ポリエステル・エーテル型の熱可塑性エラストマーの配合量は、(A)PBT樹脂100重量部に対して、1〜30重量部であり、更には1.5〜20重量部であり、特には2〜10重量部であるのが好ましい。(B)成分の配合量が1重量部よりも少ないと、衝撃強度等の機械的強度や低温での曲げ歪改善効果は少なく、ランスの低温度での折損防止効果が低下し、一方、30重量部を超えると、弾性率が低下するため、高温時におけるコネクター嵌合強度が低下する。
【0023】
本発明において使用される(B)ポリエステル・エーテル型の熱可塑性エラストマーの固有粘度η(B)は、1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定した場合、通常0.50〜3.0dl/gであり、好ましくは 0.6〜2.5dl/gであり、更に好ましくは0.7〜2.0dl/gである。固有粘度が、下限値より小さくても、上限値より大きくても、いずれの場合もPBT樹脂との混和性が低下し、機械的性質が発揮されなくなる。
【0024】
本発明においては、(B)ポリエステル・エーテル型の熱可塑性エラストマーの固有粘度に対する、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度の比[η(A)/η(B)]が、通常 0.3 〜3.0、更には0.5〜2.0、特には0.7〜1.5であるのが好ましい。これらの固有粘度の比[η(A)/η(B)]が、下限値より小さくてもまた上限値より大きくてもポリブチレンテレフタレートとの混和性が低下し、機械強度(引張強度、曲げ強度、曲げ歪)が低下する傾向がある。
【0025】
本発明の目的を達成するためには、(A)と(B)成分からなる樹脂組成物が海島構造を形成し、(A)が海、(B)が島構造を形成し、透過型電子顕微鏡による観察でポリアルキレンエーテルグリコール成分を含む島部分の平均直径が所定範囲内であることが必要である。このようなモルフォロジー構造をとるために種々の手段があるが、二軸押出機を使用した代表的な一例を後に示す。
【0026】
ポリアルキレンエーテルグリコール成分を含む島部分の平均直径の測定は、後記実施例の項に詳細に説明されているように、透過型電子顕微鏡及び適当な画像処理ソフトを用いてされるが、その平均直径は0.05〜0.30μmの範囲である。さらに0.08〜0.25μmの範囲であることが好ましい。平均直径が上限値より大きいと本発明の目的である高い弾性率を維持しつつ衝撃強度及び引張伸びに優れた特性を得ることができない。また下限値より小さいと、本発明の目標を達成できない。なお0.05μmという数値は透過型電子顕微鏡観察での島部分の粒子としての観察限界でもあり、海島構造を有しているのか、均一構造を有しているのか不明となる数値である。
【0027】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)とポリエステル・エーテル型の熱可塑性エラストマー(B)の配合には、二軸押出機が使用される。使用される二軸押出機は、少なくとも原料供給口とベント孔を有する二軸押出機であれば、各種のものを使用することができる。スクリューの回転は、同一方向でも、異方向のものでもよいが、同方向噛み合い型二軸押出機が好ましい。
【0028】
原料供給口から、主原料であるポリブチレンテレフタレート樹脂(A)と熱可塑性エラストマー(B)を供給し、それより下流のベント孔から、水分等の低揮発成分を除去する。エラストマーの分散を改善し、島部分の平均直径を所定の範囲にするためには、押出機のスクリュー構成に、逆のニーディングディスク又は逆ネジ構造のスクリュー等を少なくとも1つ、好ましくは2つ以上用い、溶融樹脂の充満領域を1つ又は2つ以上作ること及びスクリュー回転を高速にすることにより高せん断応力を付与させて、ポリエステル系熱可塑性エラストマーの分散を向上させる必要がある。
【0029】
具体的な押出条件としては、バレルとダイスの設定温度は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の場合は、230℃〜290℃、好ましくは240℃〜280℃である。スクリューの回転数は通常100〜700rpmから選定され、スクリュー構成との関連で決定される。しかし、本発明の目的を達成するためには高速回転数の方が好ましく、250〜600rpmの範囲から選ばれる。また、さらに押出機には、更に他成分の供給口や、減圧でき大気に開放されたベント口を設けてもよい。
【0030】
成形品
また、成形品を得るために、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じ、上記以外の樹脂添加剤を配合することができる。かかる樹脂添加剤としては、特に限定されるものではなく、例えばリン系やイオウ系等の酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、エポキシ化合物等の耐加水分解防止剤等の各種安定剤、滑剤、離型剤、触媒失活剤、結晶核剤、結晶化促進剤、紫外線吸収剤、染顔料等の着色剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、耐衝撃改良剤、強化充填剤、無機充填剤、難燃剤、難燃助剤等の公知の樹脂添加剤が挙げられる。
【0031】
更に必要あれば、他の熱可塑性樹脂を配合することができる。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸エステル、ABS樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド等の熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は2種以上を組み合わせて用いてもよい。樹脂添加剤でき他の樹脂の供給位置は特に限定されるものではなく、最初の熱可塑性樹脂と同じ供給口から添加してもよいし、他の供給口から添加してもよい。
【0032】
上述の本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から通常の成形方法、すなわち射出成形、押出成形、圧縮成形、中空成形等でコネクター等の電気電子部品、自動車電装部品や機械分野、医療分野等の各種樹脂成形品を得ることができる。特に好ましい成形方法は、流動性の良さから、射出成形又は押出成形である。射出又は押出成形に当たっては、樹脂温度を230〜290℃、さらに好ましくは240〜280℃にコントロールするのが、ポリブチレンテレフタレートの劣化を防ぎ、本発明の目的を達成するのに好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「重量部」を示す。
【0034】
[原材料]
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)
(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、固有粘度1.0dl/g、末端カルボキシル基量20eq/ton)
(B)熱可塑性エラストマー(PTMG共重合ポリブチレンテレフタレート)
(B1)ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTとする)をハードセグメントとし、重量平均分子量1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(以下、PTMGとする)をソフトセグメントとするポリエステル・エーテル型のブロック共重合体(PTMGの含有量50重量%、固有粘度1.7dl/g)
(B2)PBTをハードセグメントとし、重量平均分子量2000のPTMGをソフトセグメントとするポリエステル・エーテル型のブロック共重合体(PTMGの含有量65重量%、固有粘度2.0dl/g)
(B3)PBTをハードセグメントとし、重量平均分子量1000のPTMGをソフトセグメントとするポリエステル・エーテル型のブロック共重合体(PTMGの含有量10重量%、固有粘度1.15dl/g)
【0035】
[成形品の性能評価法]
(1)引張試験
ISO527に準拠して測定した。引張強度及び引張伸びの単位は、それぞれMPa及び%である
(2)曲げ試験
ISO178に準拠して測定した。強度及び弾性率の単位はいずれもMPaである。(3)シャルピー衝撃試験
ISO179に準拠して測定した(ノッチ加工有)。
【0036】
[透過型電子顕微鏡観察による島成分の平均直径測定]
[超薄切片]
試料ペレット中央部のストランド方向に直交する面より切片を切り出した。この切片より、試料冷却装置(クライオユニット)を装着したウルトラミクロトーム(Leica社、 Ultracut UCT)で、ダイヤモンドナイフを用いて、該直交面を表面とする超薄切片を作成した。設定した切削条件は、試料室温度−105℃、試料厚さ100nmである。
【0037】
[染色]
超薄切片を銅製のグリッド上に積載した後、該切片の表面を四酸化ルテニウムの蒸気にさらして、四酸化ルテニウムで染色した。この染色により、ポリブチレンテレフタレートは灰色の海、ポリアルキレンエーテルグリコールを含む成分は暗色の島として、透過型電子顕微鏡観察される(添付図2参照)。
【0038】
[電子顕微鏡写真撮影条件]
染色された超薄切片を、透過型電子顕微鏡(日本電子1200EXII型)、加速電圧100kVで観察した。観察時の倍率設定は5000倍とし、フジフィルム製電子顕微鏡用フィルムFG(寸法:5.9×8.2cm)に画像を記録した。記録された画像の範囲は概ね12×16μmである。
【0039】
[画像処理]
上記TEM観察により得られた、画像を記録したネガフィルムを、フィルムスキャナー(ミノルタ製:Dimage Scan Multi F−3000型)でデジタル化した。デジタル化は564dpiで行い、概ね1240×1800ピクセルのモノクロ画像ファイルが得られた。
得られたモノクロ画像は、Adobe社製 Photoshop Ver.7.0を用いコントラストを調整した後、Media Cybernetics社製 Image−Pro Plus Ver.4.5.1を用いて、ポリアルキレンエーテルグリコール成分を含む島部分の平均直径を計測した。ここで得られる平均直径とは、島部分の外周の2点を結び、かつ重心を通る径を2度刻みに測定した平均値である。
計測に当たり、画面上の長さは撮影時に各画像に記録されているスケールに基づいて較正した。計測は直径が0.05μm以上の島について行った。
【0040】
[実施例1〜4、比較例1〜4]
表1に記載の配合割合となるよう各成分を混合し、バレル径37mmのベント付き二軸押出機(東芝機械(株)TEM37BS)を用いて、図1に示すスクリュー構成にて、250℃のシリンダー温度の設定で通常の回転数であるスクリュー回転数200rpmと、高せん断応力が発揮される高速回転の400rpmで各成分を溶融混練し、ストランド状に押し出してPBT樹脂組成物のペレットを得た。図1中、2つの28/7Lが逆のニーディングディスクであり、高速回転数では、これら2ディスク間の領域で溶融樹脂が充満し、高いせん断応力を受けた。
得られたペレットから、住友重機械(株)製射出成型機(型式SG−75SYCAP−MIII)を使用して、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、ISO試験片を成形し、上記の試験方法により性能評価を行った。結果を表−1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
1) 比較例2及び4に示されるように、PTMG含有量が10%(本発明の範囲外)の熱可塑性エラストマーを使用したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物においては、均一構造(又は島部分が検出限界以下の海島構造)が観察された。このような均一構造においては、引張伸びは高いが、曲げ弾性率及び衝撃強度が低く、3つの特性のいずれも高いものを求める本発明の目的を達成できなかった。
2) 比較例1及び3に示されるように、PTMG含有量は本発明の範囲内であっても、高せん断応力の発揮できないスクリュー回転速度で製造したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物においては、海島構造は観察された。しかし、PTMGを含む島部分の平均直径が0.34〜0.36μm(本発明の範囲外)と大きく、このようなものの曲げ弾性率は、上述の均一構造の比較例2及び4より高くはあったが、引張伸び及び衝撃強度が低く、やはり本発明の目的を達成できなかった。
3) 実施例のように、PTMG含有量が25〜80重量%の本発明の範囲内の熱可塑性エラストマーを使用し、高せん断応力の発揮できるスクリュー回転速度で製造したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物においては、海島構造は観察された。もちろん、島部分の平均直径も0.12〜0.14μmで本発明の範囲内にある。このものの曲げ弾性率、引張伸び、衝撃強度は、同一の(A)、(B)組成の比較例に比べも優れており、本発明の目的が達成された。
【0043】
[産業上の利用の可能性]
本発明により、高い弾性率を維持しつつ、衝撃強度及び引張伸びに優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が得られるため、自動車、OA機器、精密機械等の各種部品への適用が可能となる。特に、本発明の樹脂組成物により得られるランス形状付きコネクターは、低温度でのランスの破損トラブル等が低減され、同時に高温でのコネクターの嵌合強度が維持されることにより、品質の向上を図ることができる。従って、本発明の樹脂組成物は、自動車用部品の用途に好ましく適用でき、更には、コネクター用途に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】実験に使用した二軸押出機のスクリュー構成図
【図2】実施例1のペレットのモルフォロジーを示す電子顕微鏡観察写真
【図3】比較例1のペレットのモルフォロジーを示す電子顕微鏡観察写真
【図4】比較例2のペレットのモルフォロジーを示す電子顕微鏡観察写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート樹脂(A)100重量部に対して、芳香族ポリエステルブロック及び脂肪族ポリエーテルブロックからなる、ポリエステル・エーテル型の熱可塑性エラストマー(B)1〜30重量部が配合されたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物において、該脂肪族ポリエーテルブロックが、重量平均分子量400〜6000のポリアルキレンエーテルグリコールを構成単位とし、(B)の25〜80重量%を占め、また、該樹脂組成物の透過型電子顕微鏡による観察結果は、(A)が海、(B)が島である、いわゆる海島構造を示し、かつ、ポリアルキレンエーテルグリコール成分を含む島部分の平均直径が0.05〜0.30μmであることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
(A)100重量部に対して、(B)1.5〜20重量部が配合された請求項1記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
(A)中の末端カルボキシル基量が、30eq/ton以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
(A)の固有粘度(1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定:η(A)と表示)が、0.50〜3.0dl/gであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
(B)の固有粘度(1,1,2,2−テトラクロロエタン/フェノール=1/1(重量比)の混合溶媒を用いて、温度30℃で測定:η(B)と表示)が、0.50〜3.0dl/gであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
(B)の固有粘度に対する、(A)の固有粘度の比[η(A)/η(B)]が、0.3〜3.0であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
(A)と(B)との配合は、二軸押出機を使用して行い、該押出機のスクリュー構成に、逆のニーディングディスク又は逆ネジ構造のスクリューを少なくとも1つ以上用いて溶融樹脂の充満領域を1ヶ所以上作ることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項8】
押出機のバレルとダイスの設定温度は230℃〜290℃、かつ、スクリューの回転数は250〜600rpmから選定されることを特徴とする請求項7に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−298993(P2006−298993A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119295(P2005−119295)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(594137579)三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社 (609)
【Fターム(参考)】