説明

ポリプロピレン系樹脂組成物及びその製造法。

【課題】結晶性と透明性に優れた安価なポリプロピレン系樹脂組成物とその製造法を提供するものである。
【解決手段】
ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、下記構造の直鎖状脂肪族ジカルボン酸化合物0.01〜0.5質量部、ソルビトール系結晶核剤及び/又はリン系結晶核剤0〜0.25質量部を特定の分散度条件で混錬することにより上記課題が解決される。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶化が速く透明性に優れた安価なポリプロピレン系樹脂組成物とその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン系樹脂は、優れた成形加工性、機械的、電気的、光学的特性を有する安価な材料としてフイルム成形、シート成形、ブロー成形、射出成形され自動車部品、家電部品、家庭用品、包装材料など各用途に極めて多量に使用されている。
ポリプロピレン系樹脂は、結晶性樹脂のためその特性は結晶構造に大きく依存する。樹脂の結晶構造は、一次構造(分子量・分子量分布、共重合組成、立体規則性など)に起因する高次構造(分子鎖の絡み合い、分子配向、ラメラ構造、球晶、相構造など)で決まる。一次構造は重合技術(触媒、共重合、プロセスなど)、高次構造はアロイ化技術(混錬技術、相溶化技術など)・加工技術(延伸、加工条件など)・添加剤技術(結晶核剤、結晶化促進剤、安定剤など)等で制御されポリプロピレン系樹脂の多様な特性が発現される。中でも、結晶核剤や安定剤など添加剤による改質は重合技術に比べ簡便なため広く利用されている。
【0003】
ポリプロピレン系樹脂の結晶核剤として、例えば、プラスチック、43巻(11号)、113頁、1992年に記載してあるように、ソルビトール系結晶核剤(特開昭58−129036号公報など)、リン酸塩系結晶核剤(特開昭53−117044号公報など)、有機カルボン酸及びその金属塩結晶核剤(特開昭58−80329号公報、特開昭60−88049号公報、特開平03−220208号公報)、ロジン系結晶核剤、ポリマー系結晶核剤(特開昭59−138710号公報、特開平07−228630号公報)や無機化合物(タルクなど)等が広く知られている。ソルビトール系結晶核剤やリン酸塩系結晶核剤は、結晶化も速く透明性という面で優れ、市場で広く使用されているが臭いや価格面で問題があり、より一層結晶性、透明性に優れた安価な結晶核剤の開発が望まれている。
【0004】
有機カルボン酸及びその金属塩は結晶核剤として古くから知られているが透明性の効果に乏しく、有機カルボン酸に至ってはポリプロピレン樹脂を劣化すると考えられ(特公昭55−12460号公報、特開昭58−1736号公報)殆ど検討されていない。特開平9−59444号公報、国際公開番号WO97/19135号公報、特開2002−179860号公報等には、結晶核剤(結晶促進剤)として有機ジカルボン酸であるマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン2酸等などが記載されている。しかしながら、それらは他の多くの公知の有機カルボン酸化合物の一例として記載されているに過ぎず、特定の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸化合物が、結晶性と透明性の付与に優れた効果を発揮することを示唆していない。
【先行技術文献】
【0005】
【特許文献】
【特許文献1】特開昭58−129036号公報
【特許文献2】特開昭53−117044号公報
【特許文献3】特開昭58−80329号公報
【特許文献4】特開昭60−88049号公報
【特許文献5】特開昭59−138710号公報
【特許文献6】特公昭55−12460号公報
【特許文献7】特開昭58−1736号公報
【特許文献8】特開平09−59444号公報
【特許文献9】国際公開WO97/19135号公報
【特許文献10】特開2002−179860号公報
【非特許文献】
【非特許文献1】石山正信著、プラスチック、43巻(11号)、113頁、1992年
【発明の概要】

【本発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、結晶性と透明性に優れた安価なポリプロピレン系樹脂組成物とその製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記目的を達成するべく鋭意研究を行った結果、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、下記構造の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸化合物0.01〜0.5質量部、更にソルビトール系結晶核剤あるいは/又はリン酸塩系結晶核剤0〜0.25質量部を配合し、特定の条件で混錬することにより上記課題が解決されることを知って本発明に至った。
【化1】

【発明の効果】
【0008】
(1)ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、特定の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸を0.01〜0.5質量部、ソルビトール系結晶核剤あるいは/又はリン酸塩系結晶核剤0〜0.25質量部を配合することによりポリプロピレン系樹脂組成物の結晶性と透明性を大幅に改良することができる。(2)該ポリプロピレン系樹脂組成物は特定の条件で混錬することにより製造される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いられるポリプロピレン系樹脂は、プロピレン単独重合体またはプロピレンとエチレンおよび/又はα−オレフィンとの共重合体、プロピレンとエチレンおよび/又はα−オレフィンとの共重合体の少なくとも1種とプロピレン単独重合体との混合物などであって結晶性の重合体である。
【0010】
プロピレン共重合体としては、プロピレンユニットの特徴を損なわないためプロピレンを75質量%、特に90質量%以上含有しているものが好ましい。共重合形態としてはブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。共重合可能なモノマーとしてはエチレンの外、ブテン−1、イソブテン、ペンテン−1、3−メチル−ブテン−1、ヘキセン−1、4−メチル−ペンテン−1、3,4−ジメチル−ブテン−1、ヘプテン−1、3−メチル−ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1などの炭素数2または4〜10のα−オレフィン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、酢酸ビニル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸、スチレンなどのビニル系モノマー、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、1,4−ヘキサジエンなどのジエンモノマ−などの1種または2種以上があげられる。これらのうちエチレンおよびα−オレフィンがコストの点から好ましく、特に、エチレン、ブテン−1、イソブテン、ペンテン−1およびヘキセン−1がポリプロピレン系樹脂の特徴である剛性、耐熱性などが保持されるので好ましい。プロピレンとエチレンあるいは/又はα−オレフィンとの共重合体の少なくとも1種とプロピレン単独重合体とを混合するときの割合は、プロピレン単独重合体の物性を損なわないということからプロピレン単独重合体が75〜99質量%であることが好ましい。
【0011】
これらポリプロピレン系樹脂の重合には、三塩化チタン固体成分とハロゲン含有有機アルミニウム化合物からなる触媒、有機アルミニウム化合物とチタン、マグネシウム、ハロゲン及び電子供与性化合物を必修とする固体成分とからなる触媒等の所謂チーグラ−ナッタ触媒、メタロセン錯体と有機アルミニウムオキシ化合物、ルイス酸、アニオン性化合物、あるいは粘土鉱物からなる所謂メトロセン触媒が用いられる。
【0012】
又、本発明のポリプロピレン系樹脂には、必要に応じて、さらに他の樹脂を本発明の効果を損なわない量配合してもよい。他の樹脂とは、たとえばポリエチレン、エチレンと酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、無水マレイン酸またはスチレンなどのビニル系モノマーとの共重合体、プロピレン含量が75質量%未満のエチレン/プロピレン共重合体、プロピレン含量が75質量%未満のエチレン/プロピレン/ジエン系3元共重合体、(水素化)スチレン/ブタジエンランダム共重合体、(水素化)スチレン/ブタジエン/スチレンブロック共重合体、ポリブテン、ポリペンテン、アイオノマー、ポリメチルペンテン、エチレン/環状オレフィン共重合体、ポリイソブテン、ポリブタジエン、ポリイソプレン等である。
【0013】
本発明のポリプロピレン系樹脂のメルトフローインデックス(MFR)はJIS K7210試験法に準拠して測定した値が0.1g/10分以上、100g/10分以下の範囲であることが好ましい。更には、1g/10分以上、75g/10分以下の範囲であることが好ましい。MFR値が0.1g/10分未満では、成形体において透明性の発現が弱く、又MFR値が100g/10分を超えると成形体の機械的強度が低く実用性がない。
【0014】
次に、本発明の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸化合物とは、下記構造を有する。
【化2】

具体的には、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン2酸、テトラデカン2酸、エイコサン2酸などであるが、特に、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン2酸が好ましい。更に、入手の容易性からコハク酸、アジピン酸、ドデカン2酸が特に好ましい。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
本発明の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸化合物の配合量は、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して0.01〜0.5質量部、好ましくは0.02〜0.4質量部である。この配合量が0.01質量部未満では結晶性と透明性の改良効果が不十分である。又0.5質量部を越えて配合しても効果は飽和する一方で着色などの不都合な現象が現れ好ましくない。
【0016】
次に、本発明のソルビトール系結晶核剤とは、具体例としては、1,3,2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3−ベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3−ベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−n−プロピルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−t−プロピルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−n−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−s−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−t−ブチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(2′,4′−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−メトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−エトキシベンジリデン)ソルビトール、1,3−ベンジリデン−2−4−p−クロルベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−ベンジリデンソルビト−ル、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−メチルベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチルベンジリデン−2,4−p−クロルベンジリデンソルビトールおよび1,3,2,4−ジ(p−クロルベンジリデン)ソルビトールなどを挙げることができる。中でも、1,3,2,4−ジベンジリデンソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3−p−クロルベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデンソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−クロルベンジリデン)ソルビトールが好ましい。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
また、本発明のリン酸塩系結晶核剤とは、その具体例として、ナトリウム−2,2′−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2′−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム−2,2′−メチレン−ビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム−2,2′−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2′−エチリデン−ビス(4−i−プロピル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム−2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム−2,2′−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム−ビス[2,2′−チオビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェ−ト]、カルシウム−ビス[2,2′−チオビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、カルシウム−ビス[2,2′−チオビス−(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム−ビス[2,2′−チオビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム−ビス[2,2′−チオビス−(4−t−オクチルフェニル)フォスフェート]、ナトリウム−2,2′−ブチリデン−ビス(4,6−ジ−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2′−ブチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2′−t−オクチルメチレン−ビス(4,6−ジ−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2′−t−オクチルメチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム−ビス−(2,2′−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート)、マグネシウム−ビス[2,2′−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、バリウム−ビス[2,2′−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ナトリウム−2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2′−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム(4,4′−ジメチル−5,6′−ジ−t−ブチル−2,2′−ビフェニル)フォスフェート、カルシウム−ビス[(4,4′−ジメチル−6,6′−ジ−t−ブチル−2,2′−ビフェニル)フォスフェート]、ナトリウム−2,2′−エチリデン−ビス(4−m−ブチル−6−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2′−メチレン−ビス(4,6−ジ−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−2,2′−メチレン−ビス(4,6−ジ−エチルフェニル)フォスフェート、カリウム−2,2′−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム−ビス[2,2′−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、マグネシウム−ビス[2,2′−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、バリウム−ビス[2,2′−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、アルミニウム−トリス[2,2′−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]およびアルミニウム−トリス[2,2′−エチリデン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート]、ナトリウム−ビス(4−t−ブチルフェニル)フォスフェ−ト、ナトリウム−ビス(4−メチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−ビス(4−エチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−ビス(4−i−プロピルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−ビス(4−t−オクチルフェニル)フォスフェート、カリウム−ビス(4−t−ブチルフェニル)フォスフェート、カルシウム−ビス(4−t−ブチルフェニル)フォスフェート、マグネシウム−ビス(4−t−ブチルフェニル)フォスフェート、リチウム−ビス(4−t−ブチルフェニル)フォスフェート、アルミニウム−ビス(4−t−ブチルフェニル)フォスフェートなどをあげることができる。中でも、ナトリウム−2,2′−メチレン−ビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、ナトリウム−ビス(4−t−ブチルフェニル)フォスフェートが好ましい。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合せて用いることができる。
【0018】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、構成成分であるポリプロピレン系樹脂及び直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸、ソルビトール系結晶核剤、リン酸塩系結晶核剤をドライブレンド後、通常樹脂組成物の製造に用いられるバンバリーミキサー、ニーダー、単軸押出機、2軸押出機等の一般的な装置を用いて溶融混錬して製造される。中でも単軸押出機、2軸押出機を使用して製造することが好ましい。
【0019】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、優れた透明性を得るためにポリプロピレン系樹脂の融点(Tm)+20℃高い温度以上、直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸化合物の熱分解開始温度(Td)以下、好ましくは融点より25℃以上、熱分解開始温度より10℃以上低い温度で、下記式に定義される混錬度(M)を満足する条件で混錬される。
【数1】

ここで、Lは原料添加部を基点として押出機のダイ方向の押出機長(mm)、Dは押出機バレル内径(mm)、Qは吐出量(Kg/時間)、Nはスクリュー回転数(rpm)である。Mの範囲は10×10≦M≦300×10、好ましくは12×10≦M≦250×10、更に好ましくは15×10≦M≦200×10である。Mが10×10未満では直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸の分散が不十分で良好な結晶化と透明性が達成されない。又、300×10を越えるとポリプロピレン系樹脂の着色や劣化が生じ好ましくない。
【0020】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂及び直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸、ソルビトール系結晶核剤、リン酸塩系結晶核剤の他に各種酸化防止剤、中和剤を添加することが望ましい。好ましい酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤あるいは/又はリン系酸化防止剤をあげることができる。中和剤としてはステアリン酸カルシウムなどをあげることができる。
【0021】
本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は必要に応じて、更に他の公知の結晶核剤、帯電防止剤、耐候・光安定剤、坑菌剤、分散剤、着色剤、導電材(導電カーボンなど)、難燃剤(水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウムなど)、滑剤、強化剤(ガラス繊維、カ−ボン繊維、ウイスカ−など)、充填剤(タルク、マイカなど)等などを含むことができる。本発明のポリプロピレン系樹脂組成物は射出成形、押出成形、圧縮成形等の各種成形法を用いて各種器具、容器、フイルム、シート、フィラメント等などに成形される。
次に、実施例を通して本発明を説明するが、本発明はそれら実施例によって何等制限されるものではない。
【実施例】
【0022】
試験片の作成:温度200℃、圧力0.3Paで3分間熱プレスした後、直ちに20℃の冷却プレスに移し圧力0.5Pa下で急冷して70×70×1mmの試験片を作成した。
特性値の測定:(1)メルトフローインデックス(MFR):東洋精機社製メルトインデクサーを用い、JIS K7210(230℃、21.2N)に準拠して測定した(単位;g/10分)。(2)熱分解開始温度(Td):セイコーインスツルメント社製TG/DTA6200を用い、昇温速度10℃/分、空気中での減量開始温度を測定した(単位、℃)。(3)融点(Tm)、結晶化温度(Tc)及びhp/w値:セイコーインスルメント社製DSC6200を用い、50℃から20℃/分で昇温したときの吸熱ピ−ク温度をTm、200℃で3分保持した後20℃/分で降温した場合の発熱ピ−ク温度をTcとして測定した。また、発熱曲線(結晶化)のピ−ク高さをhp、高さの1/2位置における半価幅をwとしてhp/w値を算出した。Tcが高く、hp/wが大きいほど結晶性(速度が速い)が良いと判断される。(5)ヘイズ:JIS K6714に準拠して測定した(単位、%)。
【0023】
〔実施例1〜6、比較例1〜9〕
直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸種類:ポリプロピレン系樹脂として日本ポリプロピレン社製、MG3F(プロピレン/エチレンランダムコポリマー、MFR=10.2、融点=147℃)100質量部と、本発明の各種直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸0.25質量部をドライブレンド、15mmΦ二軸押出機(テクノベル社製、KZW15−30)を用い、混錬温度190℃、スクリュウ回転数200rpmで混錬、水冷後ペレット化した。また、本発明に該当しない有機ジカルボン酸と現在市場で使用されているソルビトール系結晶核剤、リン酸塩系結晶核剤を用い同様の実験を行った。吐出量Q、Tc、hp/Q、ヘイズを表1に纏めた。
【表1】

実施例1〜6と比較例1〜9の結果から、本発明の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸がポリプロピレン系樹脂の結晶性、透明性に対して優れた効果を発揮することが理解される。かかる直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸の作用機構の詳細は不明であるが、偶数個のアルキレン構造と該ジカルボン酸の分子間に発生する末端カルボニル基間の水素結合により形成される分子鎖の直線性がポリプロピレン系樹脂の結晶化を促進しているものと推定される。直線性のない奇数個のアルキレンの場合、側鎖を有する場合、不飽和構造を有する場合(比較例)は結晶化も促進されず透明性も付与されない。この事実は、先行特許に記載されている公知結晶核剤としての多くの有機カルボン酸化合物が全てポリプロピレン系樹脂の結晶性と透明性に効果ありとすることは事実でないことを示している。特定の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸のみがポリプロピレン系樹脂の結晶性と透明性に効果がありとする本発明の進歩性が理解される。
【0024】
〔実施例7〜10、比較例10〜13〕
直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸の配合量:ポリプロピレン樹脂としてMG3F、100質量部に対して、直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としてADIとDDAの配合量を変更して、他は実施例1と同様の実験を行った。結果を表2に纏めた。配合量が0.01質量部未満では結晶性、透明性への効果は少なく、一方0.5質量部を超えて配合しても結晶性、透明性は飽和、かえって着色が認められた。
【表2】

【0025】
〔実施例11、2、5、12、比較例14〜16〕
混錬温度:ポリプロピレン樹脂としてMG3F、100質量部に対して、直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としてADI(Td=205℃)、DDA(Td=225℃)各0.25質量部を用いて、混錬温度160℃、210℃、230℃で実施例2、5と同様の実験を行った。結果を表3に纏めた。混錬温度がポリプロピレン系樹脂の融点+20℃より低い(実施例14)と溶融混錬が十分に行われずペレット形状も悪くシートの透明性が発現しない。直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸の熱分解開始温度以上(比較例15,16)では分解物による着色が発生、透明性も良好でない。
【表3】

【0026】
〔実施例13、2,14、5、比較例17〜20〕
分散度:ポリプロピレン樹脂としてMG3F、100質量部に対して、直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸としてADI、DDA各0.25質量部を表4に示すように配合、混錬温度190℃でスクリュー回転数、吐出量を変えて混錬した。結果を表4に纏めた。分散度が10×10≦M≦300×10の範囲で良好な結晶性と透明度を達成することが理解される。比較例18,20は着色(赤味)、特に比較例18は激しく着色した。
【表4】

【0027】
〔実施例15〜17〕
結晶核剤併用:ポリプロピレン樹脂としてMG3F、100質量部に対して、直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸SUC、ADI、0.15質量部、ソルビトール系結晶核剤GMD(新日本理化社製)、リン酸塩系結晶核剤NA11(アデカ社製)、0.10質量部を表5のように配合、混錬温度190℃、スクリュー回転数200rpmで混錬した。結果を表5に纏めた。実施例1、2と比較して、本特許の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸にソルビトール系結晶核剤やリン酸塩系結晶核剤を併用するとよりシ−トの透明性が改良されることが理解される。尚、Tcは若干低下するがhp/Q値は大きくなる。
【表5】

【0028】
〔実施例18、比較例21〕
ポリプロピレン系樹脂として、日本ポリプロピレン社製MA3(ホモポリプロピレン、MFR=10.1、融点=157℃)を使用する他は実施例5、比較例1と同様の実験を行った。実施例18のTc=130℃、hp/Q=4.0、ヘイズは38%であった。一方、比較例21のTc=113℃、hp/Q=3.5、ヘイズは87%であった。ポリプロピレン系樹脂がホモポリプロピレン樹脂であっても、直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸DDAは優れた結晶性と透明性を付与する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリプロピレン系樹脂100質量部に対して、下記構造の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸化合物0.01〜0.5質量部、ソルビトール系結晶核剤及び/又はリン酸塩系結晶核剤0〜0.25質量部を配合したポリプロピレン系樹脂組成物。
【化1】

【請求項2】
請求項1記載の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸化合物がコハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン2酸であるポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2記載の直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸化合物がコハク酸、アジピン酸、ドデカン2酸であるポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1記載のソルビトール系結晶核剤が1,3,2,4−ジベンジリデンソルビト−ル、1,3,2,4−ジ(p−メチルベンジリデン)ソルビトール、1,3,2,4−ジ(p−エチルベンジリデン)ソルビト−ルであるポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1記載のリン酸塩系結晶核剤がナトリウム2,2′−メチレンビス(4,6−ジ−ブチルフェニル)ホォスフェ−ト、ナトリウムジ(4−t−ブチルフェニル)ホォスフェ−トであるポリプロピレン系樹脂組成物
【請求項6】
請求項1のポリプロピレン系樹脂組成物を製造するにあたり、ポリプロピレン系樹脂の融点(Tm)+20℃以上高い温度、直鎖状飽和脂肪族ジカルボン酸化合物の熱分解開始温度(Td)未満の混錬温度で分散度Mが10×10以上、300×10未満の条件で混錬されるポリプロピレン系樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2010−242049(P2010−242049A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112315(P2009−112315)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(596046509)エムアンドエス研究開発株式会社 (9)
【Fターム(参考)】