説明

ポリマーの精製方法およびそれを用いたポリマーの製造方法

【課題】 ポリマーの分子量低下を抑制し、且つ、ポリマーの残留触媒を効果的に低減することが可能なポリマーの精製方法を提供する。
【解決手段】 残留触媒を含むポリマーを、pKa2〜3.9の範囲の有機酸を含有する有機溶媒に接触させる。これによって、前記ポリマーに残留する触媒を低減し、ポリマーの精製を行うことができる。前記有機酸としては、例えば、乳酸等があげられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合反応時に使用した触媒が残留するポリマーの精製方法およびそれを用いたポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療等の医療分野において、乳酸とカプロラクトンとの共重合体等の生体内で吸収される合成ポリマーについて、例えば、培養細胞のscaffold(足場)としての利用が試みられている。
【0003】
他方、合成ポリマーは、一般的に、触媒存在下での重合反応によって合成される。このため、重合反応において使用した触媒が、合成されたポリマー中に残留することがある。しかしながら、前記触媒として、例えば、スズ等の金属や、前記金属を含む化合物が使用されており、その種類によっては、毒性等から人体や環境に影響を及ぼすものもある。特に、前述のような医療分野に使用されるポリマーに関しては、人体への影響が懸念されることから、合成ポリマーに残留する触媒量を低減することは非常に重要な課題となっている。
【0004】
そこで、合成ポリマーにおける残留触媒量を低減する方法として、例えば、前記合成ポリマーを、水性溶媒や、硫酸等を含有する有機溶媒と接触させる方法(特許文献1、特許文献2参照)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3184680号公報
【特許文献2】特許第3622327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、水性溶媒を使用する従来法では、例えば、十分に触媒を除去できないという問題がある。また、塩酸、硝酸、硫酸等の酸を含有する有機溶媒を使用した場合、例えば、触媒を十分に除去できても、それに伴ってポリマーの分子量が著しく低下してしまうことが、本発明者らによって明らかとなった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ポリマーの分子量低下を抑制し、且つ、ポリマーの残留触媒を効果的に低減することが可能なポリマーの精製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のポリマーの精製方法は、残留触媒を含むポリマーの精製方法であって、前記ポリマーを、有機酸含有有機溶媒を含む触媒除去用溶媒に接触させる触媒除去工程を含み、前記有機酸が、pKa2〜3.9の範囲の有機酸であることを特徴とする。
【0009】
本発明のポリマーの製造方法は、本発明のポリマーの精製方法を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の精製方法によれば、ポリマーの分子量の低下を抑制し、且つ、ポリマーの残留触媒を効果的に低減することが可能である。このため、人体や環境への影響を抑制でき、特に、医療分野に使用するポリマーについては、その安全性を十分に向上することができる。また、従来は、残留触媒の低減が困難であったため、ポリマーの合成段階において、可能な限り少量の触媒を使用して重合反応を行うことが余儀なくされていた。このため、例えば、重合反応に長時間を要するという問題があった。しかしながら、本発明によれば、効率良く残留触媒を低減できることから、精製処理を施す処理対象のポリマー(以下、「粗ポリマー」ともいう)における残留触媒量は、特に制限されない。このため、合成段階における使用触媒量も制限されず、触媒量の増加により、重合反応の時間を極めて短時間に短縮できる。したがって、本発明によれば、前述のように、分子量低下の問題を回避しつつ、残留触媒の低減を行うことができ、さらに、本発明の精製方法の確立によって、ポリマーの合成段階における触媒条件の制限も緩和することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、前述のように、残留触媒を含むポリマーの精製方法であって、前記ポリマーを、有機酸を含む触媒除去用溶媒に接触させる触媒除去工程を含み、前記有機酸が、pKa2〜3.9の範囲の有機酸であることを特徴とする。このように触媒除去用溶媒にポリマーを接触させることによって、前記ポリマーに残留する触媒が、前記溶媒中に溶出され、残留触媒を除去することができる。なお、本発明は、このメカニズムに制限されるものではない。
【0012】
本発明において、使用する有機酸は、そのpKaが、2〜3.9であれば特に制限されない。なお、前記pKaを満たす有機酸としては、当業者であれば、技術常識に基づいて具体的な物質をあげることができる。前記有機酸としては、好ましくは、α−ヒドロキシモノカルボン酸があげられ、具体例としては、例えば、乳酸(pKa=3.64)、グリコール酸(pKa=3.65)があげられる。前記有機酸としては、これらの他に、例えば、ピルビン酸(pKa=2.34)、クエン酸(pKa=2.9)、リンゴ酸(pKa=3.23)等があげられる。これらの中でも、特に好ましくは乳酸である。これらの有機酸は、一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0013】
本発明において、前記ポリマーと前記触媒除去用溶媒との接触方法は、特に制限されない。具体的には、例えば、前記ポリマーを前記溶媒に浸漬する方法があげられる。この場合、前記ポリマーの浸漬は、例えば、静置状態で行ってもよいし、攪拌しながら行ってもよい。また、前記接触方法としては、例えば、前記ポリマーを充填したカラムに前記溶媒を流す方法等があげられる。この場合、前記溶媒を前記カラムに循環させてもよい。
【0014】
本発明において、前記ポリマーとは、重合反応により合成されたものを意味する。本発明において、処理対象となるポリマーは、何ら制限されないが、不純物が残留するポリマー(以下、「粗ポリマー」ともいう)、特に、前述のように重合反応に使用された残留触媒の除去を目的とすることから、触媒が残留するポリマーに本発明を適用することが好ましい。特に、触媒の残留が問題となるポリマーへの適用が好ましく、例えば、生分解性ポリマーのように生体内で使用されるポリマー(生体内吸収性ポリマー)や、生体と接触する状態で使用されるポリマー等があげられる。
【0015】
前記触媒としては、例えば、金属や金属化合物があげられ、前記金属としては、例えば、スズ、亜鉛、チタン、ジルコニウム、アンチモン、鉄等があげられる。中でも、スズや、スズを含む金属化合物等は、特に、前述のようにポリマーへの残留が問題となることから、このような触媒を含むポリマーに、本発明を適用することが好ましい。
【0016】
精製処理を施すポリマー(粗ポリマー)における残留触媒量は、前述のように特に制限されない。本発明によれば、例えば、1000wt.ppm程度の残留触媒を含有するポリマーについても、例えば、10wt.ppm以下、好ましくは5wt.ppm以下にまで低減することが可能である。
【0017】
前記ポリマーは、例えば、一種類のモノマーから構成されるホモポリマーでもよいし、二種類以上のモノマーから構成されるコポリマー(共重合体)であってもよい。また、重合反応の種類も何ら制限されず、連鎖重合、逐次重合またはリビング重合;縮合重合または付加重合;ラジカル重合、イオン重合、配位重合;開環重合等、いずれであってもよい。また、前記共重合体の重合形式も何ら制限されず、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれであってもよい。
【0018】
前記ポリマーの具体例としては、例えば、ポリエステルがあげられ、具体例として、例えば、L−ラクチド、D−ラクチド、D,L−ラクチド、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、グリコール酸またはトリメチレンカーボネート、パラジオキサノン等を原料とするポリマーがあげられる。前記ポリマーは、例えば、これらのいずれかのモノマーから合成されるホモポリマーもしくはこれらのコポリマーがあげられる。前記ポリマーは、いずれか一種類のモノマーを含んでもよいし、二種類以上を含んでもよい。
【0019】
前記ポリマーとしては、例えば、生分解性ポリマーである、乳酸とカプロラクトンとの共重合体(以下、「P(LA/CL)」という)が好ましい。P(LA/CL)は、通常、出発原料としてラクチド(乳酸の環状二量体)とカプロラクトンとを用いて、触媒存在下、共重合させることによって合成できる。また、乳酸からラクチドを合成して、同様に触媒存在下、カプロラクトンと共重合させることによっても合成できる。このP(LA/CL)の合成においては、前記触媒として、通常、スズ、亜鉛、チタン、ジルコニウム、アンチモン、鉄等が使用される。このような触媒が高濃度で残留すると、特に医療用具の材料としてP(LA/CL)を使用する際、安全性が問題となる可能性がある。このため、本発明の精製方法は、特に、医療用の材料として有用とされているP(LA/CL)の精製に適用することが好ましい。
【0020】
前記ラクチドとしては、例えば、L−ラクチド、D−ラクチドおよびそれらの混合物(D,L−ラクチド)が使用でき、また、乳酸としては、例えば、L−乳酸、D−乳酸、それらの混合物(D,L−乳酸)が使用できる。前記カプロラクトンとしては、例えば、ε−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、δ−カプロラクトン等があげられる。
【0021】
P(LA/CL)の分子量は、特に制限されず、その用途に応じて適宜決定できる。例えば、生体内で所定期間経過後に分解させる場合は、その所定期間の長さに応じて適宜決定できる。このように生体内で使用する場合、重量平均分子量は、一般的に、1×10〜1×10であり、好ましくは、1×10〜6×10である。
【0022】
本発明において、処理対象のポリマーがP(LA/CL)の場合、前記触媒除去用溶媒における有機酸としては、例えば、乳酸またはグリコール酸が好ましく、特に好ましくは乳酸である。
【0023】
本発明における前記触媒除去用溶媒は、前記有機酸を含有していればよく、前記溶媒の種類は、特に制限されない。前記溶媒としては、例えば、有機溶媒、水性溶媒、または、これらの混合溶媒があげられるが、中でも、有機溶媒を含むことが好ましい。前記有機溶媒を含む溶媒は、例えば、有機溶媒のみからなってもよいし、水性溶媒等をさらに含んでもよい。前記混合溶媒における前記有機溶媒の体積割合は、例えば、有機溶媒が70%以上であり、好ましくは95%以上であり、より好ましくは100%である。
【0024】
前記有機溶媒の種類は、特に制限されないが、例えば、触媒除去工程において、P(LA/CL)が溶解しない溶媒が好ましい。前記有機溶媒としては、特に制限されないが、例えば、イソプロピルアルコール(IPA)、エタノール、メタノール、ブタノール等のアルコール類、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサン、ヘプタン等があげられる。これらの有機溶媒は、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。また、前記水性溶媒としては、例えば、水等があげられる。
【0025】
前記触媒除去用溶媒において、前記有機酸の含有濃度は、特に制限されないが、例えば、0.5〜4mol/Lが好ましく、より好ましくは1〜4mol/Lであり、さらに好ましくは2〜4mol/Lである。本発明においては、例えば、前記触媒除去用溶媒における有機酸の含有濃度を相対的に高く設定することによって、相対的に短い時間で残留触媒を効率的に除去できる。また、前記触媒除去用溶媒における有機酸の含有濃度を相対的に低く設定した場合であっても、例えば、後述するように、触媒除去工程における処理温度を相対的に高く設定することによって、相対的に短い時間で残留触媒を効率的に除去できる。
【0026】
つぎに、本発明の精製方法について、一例をあげて説明する。なお、本発明は、これには制限されない。
【0027】
まず、ポリマーを、前述した触媒除去用溶媒に浸漬する。前記ポリマー(重量)に対する前記溶媒(体積)の比(v/w)は、特に制限されないが、例えば、2以上であり、好ましくは、5以上であり、より好ましくは10以上である。
【0028】
前記ポリマーは、例えば、精製効率を向上できることから、粒子状であることが好ましい。ポリマー粒子の粒径は、特に制限されないが、より好ましくは、1mm以下である。
【0029】
この触媒除去工程において、処理温度は、例えば、下限が、好ましくは35℃以上、より好ましくは40℃以上である。前記処理温度の上限は、例えば、55℃以下であり、好ましくは50℃以下である。前記処理温度の具体例としては、例えば、35〜55℃であり、より好ましくは35〜50℃であり、さらに好ましくは、40〜50℃である。本発明においては、例えば、処理温度を相対的に高く設定することによって、相対的に短い時間で残留触媒の除去を行うことができる。また、処理温度を相対的に低く設定した場合であっても、前述のように、前記触媒除去用溶媒における有機酸の含有割合を相対的に高く設定することで、相対的に短い時間で残留触媒の除去を行うことができる。
【0030】
触媒除去工程における処理時間は、特に制限されず、例えば、前記溶媒における有機酸の含有割合や処理温度等に応じて、適宜決定できる。具体例としては、例えば、0.5〜24時間、好ましくは2〜6時間である。また、触媒除去の効率を向上できることから、例えば、前記溶媒は、適宜、新しいものに交換することが好ましい。
【0031】
触媒除去工程の条件として、具体例を以下に示すが、例示であって、本発明はこれらには限定されない。前記触媒除去用溶媒における有機酸の含有濃度を2.4mol/Lとした場合、例えば、前記ポリマーに対する前記溶媒の比(v/w)10以上、処理温度35〜55℃(例えば、35〜50℃)、処理時間1〜24時間であり、好ましくは、前記ポリマーに対する前記溶媒の比(v/w)10、処理温度40℃、処理時間2〜6時間である。
【0032】
前記触媒除去処理を施したポリマーから、残留する溶媒を除去してもよい。除去の方法としては、特に制限されないが、例えば、ろ過、遠心分離、減圧乾燥等があげられる。十分に溶媒を除去できることから、中でも減圧乾燥が好ましい。
【0033】
以上のような触媒除去処理を施すことによって、残留触媒が低減されたポリマーを得ることができる。最終的に得られるポリマーにおける残留触媒量は、例えば、用途に応じて適宜決定できる。具体的に、例えば、前述のP(LA/CL)のように用途が医療分野である場合、残留触媒量(例えば、残留スズ量)は、例えば、20wt.ppm以下となることが好ましく、より好ましくは、10wt.ppm以下、特に好ましくは、5wt.ppm以下である。本発明によれば、残留触媒量をこれらのレベルにまで十分低減することが可能である。また、前述のように、従来法では、残留触媒が十分に除去できても、それにともなって、ポリマー分子量の著しい低下が危惧されるが、本発明によれば、分子量の低下を十分に抑制した状態で、残留触媒量の低減を実現できる。具体的に、分子量の低下率が、例えば、30%以下となることが好ましく、より好ましくは、20%以下、特に好ましくは、10%以下である。本発明によれば、分子量の低下率をこれらのレベルに維持した上で、前述のようなレベルまで残留触媒量を低減できる。
【0034】
また、本発明の精製方法においては、例えば、さらに、前記ポリマーに残留するモノマーを除去するモノマー除去工程を含んでもよい。ポリマー合成の際、重合反応において、原料であるモノマーの一部が重合されずに、合成ポリマー中に残留する場合がある。他方、前記ポリマーの成形体を、例えば、医療用として生体内や生体と接触させた状態で使用する場合、残留モノマーによる炎症、アレルギー等の副作用の可能性が示唆されている。そこで、前述のような、触媒除去工程に加え、原料モノマーの除去を行うことによって、より安全性に優れるポリマーを提供できる。
【0035】
前記モノマー除去の手段は、特に制限されないが、ポリマーを、さらに、有機溶媒を含む溶媒に接触させる方法があげられる。このモノマー除去工程は、例えば、前記触媒除去工程に先立って行うこともできるが、前記触媒除去工程後のポリマーに対して行うことが好ましい。接触方法は、前述と同様に、特に制限されず、例えば、前記ポリマーを前記溶媒に浸漬することで行える。前記溶媒をポリマーに接触させることによって、例えば、ポリマーに残留する原料モノマーを除去できることから、前記溶媒は、以下、「モノマー除去用溶媒」ともいう。
【0036】
前記モノマー除去用溶媒は、例えば、有機溶媒のみからなってもよいし、水性溶媒等をさらに含んでもよい。前記モノマー除去用溶媒における前記有機溶媒の体積割合は、例えば、有機溶媒が、70%以上であり、好ましくは、95%以上であり、より好ましくは100%である。なお、モノマー除去用溶媒は、前記触媒除去用溶媒とは異なり、前述のような有機酸や無機酸等の酸を含まないことが好ましい。
【0037】
前記有機溶媒としては、特に制限されないが、前述と同様に、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール等の各種アルコール類、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル等のエーテル類等があげられる。これらの有機溶媒は、いずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。また、前記水性溶媒としては、例えば、水等があげられる。
【0038】
前記ポリマー(重量)に対する前記溶媒(体積)の比(v/w)は、特に制限されないが、例えば、2以上であり、好ましくは、5以上であり、より好ましくは10以上である。
【0039】
このモノマー除去工程において、処理温度は、特に制限されないが、例えば、25〜60℃が好ましく、より好ましくは、40〜60℃であり、特に好ましくは60℃である。本発明においては、例えば、モノマー除去工程の処理温度を相対的に高く設定することによって、相対的に短い時間で残留モノマーの除去を効率的に行うことができる。
【0040】
モノマー除去工程における処理時間は、特に制限されず、例えば、処理温度等に応じて、適宜決定することができる。また、原料モノマーの除去効率を向上できることから、例えば、前記モノマー除去用溶媒は、適宜、新しいものに交換することが好ましい。
【0041】
なお、前記触媒除去工程の後、前記モノマー除去工程に先立って、さらに、ポリマーから、前記触媒除去用溶媒に含まれていた有機酸を除去する工程(以下、「有機酸除去工程」ともいう)を有してもよい。ポリマーからの有機酸の除去は、例えば、溶媒に前記触媒除去工程後のポリマーを接触させればよい。なお、接触方法は、前述と同様に特に制限されない。前記溶媒の種類は、特に制限されず、例えば、前記モノマー除去用溶媒と同様のものが使用できる。また、ポリマーに対する重量体積比、処理温度等も、特に制限されず、例えば、前記溶媒が有機酸や無機酸等の酸を含まない以外は、前記触媒除去工程と同様にして行うことができる。処理時間も特に制限されないが、例えば、0.5〜2時間であり、好ましくは1時間である。なお、有機酸除去工程は、任意であり、例えば、前記モノマー除去工程においても、前記触媒除去用溶媒に含まれていた有機酸を除去することができる。
【0042】
つぎに、本発明のポリマーの製造方法は、前記本発明の精製方法を含むことを特徴とする。本発明においては、例えば、重合反応により得られたポリマーについて、本発明の精製方法により残留触媒の低減を行うことがポイントであって、その他の工程や条件については何ら制限されない。
【0043】
また、本発明の精製方法により残留触媒を低減することから、重合反応により得られる粗ポリマー中の残留触媒量は何ら制限されない。このため、精製に先立って行われる重合反応において、使用される触媒量は何ら制限されない。
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
有機酸を含有するIPAにP(LA/CL)を浸漬して精製処理を行い、経時的な残留スズ量の変化と分子量の変化を確認した。なお、実施例においては、最終的な残留スズ量の目的値を、5wt.ppm以下、最終的な分子量の維持率を80%以上に設定して、評価を行った。なお、この設定値は本発明を制限するものではない。
【0046】
(残留スズの定量)
P(LA/CL)を、硫酸と硝酸とによる湿式灰化法で分解した。この分解産物について、ICP発光分光分析装置を用いて残留スズを測定した。このようにして、残量スズの定量を行った(以下、同様)。
【0047】
(重量平均分子量の測定)
P(LA/CL)をクロロホルムに溶解し、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー、移動相:クロロホルム)を用いて、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を測定した(以下、同様)。
【0048】
[実施例1]
乳酸を含む触媒除去用溶媒を用いた触媒除去処理について、浸漬温度および浸漬時間と、残留スズ量および分子量の変化との関係を確認した。
【0049】
(1)浸漬温度
ラクチド(A)とカプロラクトン(B)との原料モル比(A:B)を60:40とし、P(LA/CL)を準備した。前記P(LA/CL)は、残留スズ量約77wt.ppm、分子量(Mw)77,000であった。このP(LA/CL)を粉砕して粒径約1mm程度の粒子に加工した。この粒子状P(LA/CL)3gを、触媒除去用溶媒30mLに投入し、所定温度で1時間攪拌した。前記触媒除去用溶媒として、2.4mol/Lの乳酸を含むIPAを使用した。P(LA/CL)と前記溶媒との比(v/w)は、10である。前記浸漬後の粒子状P(LA/CL)を、70℃で12時間減圧乾燥し、前記P(LA/CL)内の溶媒を除去した。得られた精製P(LA/CL)について、残留スズの定量ならびに分子量の測定を行った。なお、スズについては、未精製P(LA/CL)の残留スズ量を100%とした場合の割合(残留率)%を求めた(以下、同様)。また、分子量については、未精製P(LA/CL)の分子量(Mw0)を100%とした場合の維持率(100×Mw/Mw0 %)を求めた(以下、同様)。これらの結果を、下記表に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
前記表に示すように、特に、処理温度を35℃以上に設定することで、残留スズを格段に優れた効率で除去できることがわかった。
【0052】
(2)乳酸濃度および浸漬時間
ラクチド(A)とカプロラクトン(B)との原料モル比(A:B)を65:35とし、触媒としてオクチル酸スズを使用して、P(LA/CL)を準備した。前記P(LA/CL)は、前記触媒量が20mol.ppm(残留スズ量19.05wt.ppm)、分子量(Mw)が379,000であった。このP(LA/CL)を使用し、乳酸濃度を所定濃度(1.2mol/L、2.4mol/L、3.6mol/L)とし、浸漬時間を処理時間(2、6、12、24時間)とした以外は、前述と同様に精製処理を行った。これらの結果を下記表に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
前記表に示すように、いずれの乳酸濃度によっても、分子量を維持しつつ、残留スズを十分に低減できることがわかった。また、前記表に示すように、乳酸濃度が相対的に高い程、Mw低下率(100−維持率)と比較して、残留スズの除去率(100−残留率)が相対的に大きいことがわかった。また、各乳酸濃度の浸漬時間2時間の結果を比較することによって、前記触媒除去用溶媒における乳酸の濃度が相対的に高い程、相対的に短時間で残留スズを効率良く除去できることがわかった。以上のように、本実施例の方法によれば、短時間で残留スズを低減することが可能である。このため、分子量の低下も十分に抑制できる。
【0055】
[実施例2]
触媒由来の残留スズを大量に含むP(LA/CL)について、触媒除去用溶媒として乳酸含有IPAを用いて残留スズの除去を行った。
【0056】
ラクチド(A)とカプロラクトン(B)との原料モル比(A:B)を68:32とし、触媒としてオクチル酸スズを使用して、P(LA/CL)を準備した。前記P(LA/CL)は、触媒量が100mol.ppm(残留スズ量113.2wt.ppm)、分子量(Mw)が451,000であった。このP(LA/CL)を粉砕して粒径約0.5mm程度の粒子に加工した。この粒子状P(LA/CL)2gを、触媒除去用溶媒20mLに投入し、40℃で1時間攪拌した。前記触媒除去用溶媒としては、所定濃度(2.4mol/L、3.6mol/L)の乳酸を含むIPAを使用した。P(LA/CL)と前記触媒除去用溶媒との比(v/w)は、10である。前記溶媒へのポリマーの浸漬は、1時間毎に前記溶媒を交換し、合計1回〜4回行った。浸漬後の粒子状P(LA/CL)を、70℃で12時間減圧乾燥し、前記P(LA/CL)内の溶媒を除去した。得られた精製P(LA/CL)について、残留スズの定量ならびに分子量の測定を行った。これらの結果を下記表3に示す。
【0057】
【表3】

【0058】
前記表に示すように、残留スズの含有量が大量のP(LA/CL)であっても、乳酸を含有する触媒除去用溶媒への浸漬処理を行うことによって、分子量を十分に維持した状態で、残留スズ量を十分に低い値にまで減少できることがわかった。また、浸漬時において、前記触媒除去用溶媒を交換することによって、より効率良く残留スズを除去できることがわかった。
【0059】
このように、本発明によれば、P(LA/CL)における残留スズ量が非常に高濃度であっても、効率良く残留スズを除去できるため、例えば、精製処理前におけるP(LA/CL)の残留スズ量は、特に問題とならない。このため、P(LA/CL)の合成時における触媒量を増加して、重合時間の短縮化を図ることも可能である。したがって、本発明により、前段階であるP(LA/CL)の合成の条件を緩和し、より効率的な合成の実現が可能となる。
【0060】
[実施例3]
ラクチド(A)とカプロラクトン(B)との原料モル比(A:B)を64.7:35.3とし、P(LA/CL)を準備した。前記P(LA/CL)は、分子量(Mw)176,000、残留スズ量87.1wt.ppm、残留ラクチド1.04wt.%、残留カプロラクトン2.36wt.%であった。このP(LA/CL)を粉砕して粒径約1mm程度の粒子に加工した。この粒子状P(LA/CL)12gを、直径2cm×長さ10cmのカラムに充填し、40℃の触媒除去用溶媒を流速10.5ml/分で6分間流し、その後、24分間循環させた。前記触媒除去用溶媒として、2.4mol/L(20%)乳酸含有IPAを使用した。これを6回繰り返した後、モノマー除去用溶媒として40℃の乳酸未含有IPAを流速16ml/分で4分流し、その後、56分間循環させた。これを6回繰り返した。そして、得られたP(LA/CL)を、70℃で12時間減圧乾燥し、前記P(LA/CL)内の溶媒を除去した。得られた精製P(LA/CL)について、残留スズ、残量ラクチドおよび残量カプロラクトンの定量、および、分子量の測定を行った。
【0061】
その結果、得られたポリマーは、残留ラクチド0.018wt.ppm、残留カプロラクトン0.0017wt.ppm、残留スズ6.5wt.ppmであった。このように、カラムにP(LA/CL)を充填して、各種溶媒を循環させることによっても、分子量の低下を抑制しつつ、スズ、ラクチドおよびカプロラクトンの残留量を十分に低減することができた。
【0062】
[実施例4]
各種有機酸を含むIPAを用いて、P(LA/CL)の精製処理を行い、残留スズ量の変化および分子量の変化を確認した。
【0063】
ラクチド(A)とカプロラクトン(B)との原料モル比(A:B)を60:40とし、P(LA/CL)を準備した。前記P(LA/CL)は、残留スズ量約20wt.ppm、分子量(Mw)210,000であった。このP(LA/CL)を粉砕して粒径約1mm程度の粒子に加工した。この粒子状P(LA/CL)3gを、各種酸を含むIPA溶媒30mLに投入し、40℃で24時間攪拌した。P(LA/CL)と前記溶媒との比(v/w)は、10である。浸漬後の粒子状P(LA/CL)を、70℃で12時間減圧乾燥し、前記P(LA/CL)内の溶媒を除去した。得られた精製P(LA/CL)について、残留スズの定量ならびに分子量の測定を行った。なお、スズについては、未精製P(LA/CL)の残留スズ量を100%とした場合の割合(残留率)%を求めた。また、分子量については、未精製P(LA/CL)の分子量(Mw0)を100%とした場合の維持率(100×Mw/Mw0 %)を求めた。これらの結果を、下記表に示す。
【0064】
【表4】

【0065】
表4に示すように、塩酸を使用した例では、残留スズの低減が十分に行われたが、著しい分子量低下が認められた。また、トリクロロ酢酸およびジクロロ酢酸は、残留スズは低減されたものの、分子量の著しい低下が見られた。また、無機酸であるリン酸、サリチル酸を使用した例では、著しい分子量低下は生じないものの、本来の目的である残留スズの低減が十分に行われなかった。有機酸であり、pKaが3.9を超える安息香酸、酢酸、プロピオン酸を使用した例では、分子量低下は生じないものの、残留スズの低減が十分に行われなかった。一方、有機酸であり、pKaが2から3.9の範囲であるピルビン酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸を使用した例では、分子量を維持しつつ、残留スズの低減が十分に行われた。
【産業上の利用可能性】
【0066】
このように本発明の精製方法によれば、ポリマーの分子量の低下を抑制し、且つ、ポリマーの残留触媒を効果的に低減することが可能である。このため、人体や環境への影響を抑制でき、特に、医療分野に使用するポリマーについては、その安全性を十分に向上することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
残留触媒を含むポリマーの精製方法であって、
前記ポリマーを、有機酸含有有機溶媒を含む触媒除去用溶媒に接触させる触媒除去工程を含み、
前記有機酸が、pKa2〜3.9の範囲の有機酸であることを特徴とする精製方法。
【請求項2】
前記有機酸が、α−ヒドロキシモノカルボン酸である、請求項1記載の精製方法。
【請求項3】
前記α−ヒドロキシモノカルボン酸が、乳酸およびグリコール酸の少なくとも一方である、請求項2記載の精製方法。
【請求項4】
前記有機酸が、ピルビン酸、クエン酸およびリンゴ酸からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項1記載の精製方法。
【請求項5】
前記触媒除去工程における温度条件が、30〜55℃の範囲である、請求項1から4のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項6】
前記触媒除去工程における温度条件が、35〜55℃の範囲である、請求項1から5のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項7】
前記ポリマーに対する前記触媒除去用溶媒の比(v/w)が、2以上である、請求項1から6のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項8】
前記触媒除去用溶媒における前記有機酸の含有濃度が、0.5〜4mol/Lの範囲である、請求項1から7のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項9】
前記触媒除去工程において、前記ポリマーと前記触媒除去用溶媒との接触時間が、1〜24時間の範囲である、請求項1から8のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項10】
前記ポリマーが、粒子状ポリマーである、請求項1から9のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項11】
前記粒子状ポリマーの粒径が、1mm以下である、請求項10記載の精製方法。
【請求項12】
前記有機溶媒が、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサンおよびヘプタンからなる群から選択された少なくとも一つである、請求項1から11のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項13】
前記ポリマーが、生分解性ポリマーである、請求項1から12のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項14】
前記ポリマーが、ポリエステルである、請求項1から13のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項15】
前記ポリマーが、乳酸、グリコール酸、トリメチレンカーボネート、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトンおよびパラジオキサノンからなる群から選択された少なくとも一つを原料とするポリマーである、請求項1から14のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項16】
前記ポリマーが、乳酸とカプロラクトンとの共重合体である、請求項15記載の精製方法。
【請求項17】
前記触媒が、金属または金属化合物である、請求項1から16のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項18】
前記金属が、スズ、チタン、亜鉛、ジルコニウム、アンチモンおよび鉄からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項1から17のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項19】
前記ポリマーと前記溶媒との接触が、前記ポリマーの前記溶媒への浸漬である、請求項1から18のいずれか一項に記載の精製方法。
【請求項20】
ポリマーの製造方法であって、
ポリマーの精製工程を含み、前記精製工程において、請求項1から19のいずれか一項に記載のポリマーの精製方法により精製を行うことを特徴とする製造方法。

【公開番号】特開2009−256668(P2009−256668A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79539(P2009−79539)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】