説明

ポリマーネットワーク

本発明は、主成分として式CH=CCHCOO−X−O−COCCH=CH[式中、Xは二官能性基を表す]のジメタクリラートとメルカプタンとから構成されたポリマーネットワークに関する。このジメタクリラート/調節剤−ネットワークは、その特性が、極めて短いポリメタクリラートブロックに基づき、主に基Xの特性により決定される材料である。基Xの種類に応じて、これは極めて柔軟で、フレキシブルか又は高硬質の、強靱の、耐溶剤性のネットワークである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主成分としてジメタクリラートとメルカプタンとから構成されたポリマーネットワークに関する。
【0002】
背景技術
ジメタクリラート、つまり二価のアルコールのメタクリル酸エステル、例えばブタンジオールジメタクリラートは、一般にポリマーの架橋のために使用される。
【0003】
高濃度でも使用されるジアクリラートとは異なり、この立体的に要求の多いジメタクリラートは一般に純粋な形で使用されない。例えばDE 36 16 176では、多価(メタ)アクリラートをベースとする引掻抵抗層の製造の際に、ジメタクリラートの割合は<30%に限定される。
【0004】
ジアクリラートとジメタクリラートとの間の差異は、ラジカル重合の際の連鎖移動作用に関しても生じる。Nie et alは、移動剤としてドデカンチオールの存在でジアクリラート及びジメタクリラートの光重合の際に、特にメタクリラートにおいて分解速度が著しく高まることが観察されたことを示した(Jun Nie et al.著、"Chain Length Dependent Termination in the Polymerization of Highly Crosslinked Multifunktional (Meth) acrylates", Presented at (197) Cure and Degradation Kinetics of Thermosetting Systems (インターネットでもhttp://www.aiche.org/conferences/techprogram/paperdetail.asp?PaperID=1875&DSN=annual99で確認できる))。
【0005】
ジアクリラートは特に高い重合速度に基づき(アクリラートはメタクリラートよりも約40倍早く重合する)広範囲に、例えばUV硬化性塗料の製造の際に使用されるが、純粋な又は高濃度のジメタクリラートの使用はむしろ例外である。これには、例えば、EP 1223182によるメタクリラート基を有するポリエステル又はDE 69801 554によるジメタクリラートが挙げられる。
【0006】
少なくとも2個のチオール基を有するアルキルチオールをベースとするポリマーネットワークは、DE 42 34 256に記載されている。
【0007】
課題及び解決手段
依然として、価値の高いネットワークの構造のためにポリメタクリラートの利点(例えば高い耐光性)を利用するジメタクリラートをベースとするネットワークの必要性が生じている。
【0008】
前記要求を満たすポリマーネットワークが見出された。このポリマーネットワークは、重合した形で
A) 式(1)
(1) CH=CCHCOO−X−O−COCCH=CH
[式中、Xは、場合により置換されたアルカン、エステル、ジメチルシロキサン及びポリプロピレンオキシドのグループからなる二官能性基を表す]のジメタクリラート 60〜100部、
B) (1)と共重合可能なビニル化合物B 40〜0部、
C) メルカプタンRS−H 1〜40部を含有し、その際、ジメタクリラート/メルカプタンのモル比は<10、有利に<5である。
【0009】
このポリマーネットワークは、ジメタクリラートとメルカプタンとを1.5〜4.5の範囲内のモル比で含有するのが有利である。
【0010】
有利なポリマーネットワークは、Xが8〜300、有利に10〜40個の炭素原子を有するアルキリデン基を表すように構成される。例えば、デカンジオールジメタクリラート又はドデカンジオールジメタクリラート又はさらに長鎖のアルキリデンジメタクリラート、例えば約3000のMを有する(ポリ−(−エチレン−コ−1,2−ブチレン)−ジオール−)−ジメタクリラートを挙げることができる。特に有利なポリマーネットワークは、Xが、エステル基を有する二官能性基:
X=−(−A−OCO−B−COO−)−A−、−(−D−COO−)−A−(OCOD−)
[式中、A、B及びDは互いに無関係に、2〜20個の炭素原子を有するアルキリデン基又はアリーリデン基を表し、mは1〜100、nは1〜50を表す]である場合に得られる。
【0011】
例えば、Aは1,2−エチリデン(−CH−CH−)、Bはオクタメチレン又は1,4−フェニレン、Dは1,1−エチリデン又はフェニレンを表す。
【0012】
二官能性基Xの成分として次のものを挙げることができる:乳酸(D=1,1−エチリデン)、テレフタル酸(B=フェニレン)、エチレングリコール(A=エチリデン)、その際、A及びBにより、ジメタクリラート(1)として例えばテレフタル酸−ビス−(2−メタクリロイルオキシエチルエステル)を生じる。
【0013】
エステル基を含有するジメタクリラート(1)とメルカプタンとからなるこの種のポリマーネットワークは、加水分解可能な対象物を構成するために抜群に適している。
【0014】
図1に示されているように、本発明のネットワークは極めて単鎖のポリメタクリラートブロックからなり、前記ブロックはジメタクリラート(1)を介してのみ架橋されている。二官能性基Xのエステル基の加水分解は、従って全体のネットワークの分解を引き起こす。本発明によるネットワークの分解性は、二官能性基Xを構成するエステル基の加水分解感度によって簡単に制御される。
【0015】
他方で図1は、極めて長鎖の、フレキシブルな架橋Xを使用する際に、極めて軟質なポリマーネットワークが製造されることが示されている。この場合、例えばビス−(ヒドロキシアルキル)末端基を有するポリ−(ジメチルシロキサン)のジメタクリラート(例えばM約5600を有する)、又はM2500〜12000を有するポリエチレングリコール−コ−プロピレングリコールのジメタクリル酸エステルが挙げられる。
【0016】
この種の極めて軟質のネットワークは、遮音材料を構成するために適している。Xの成分として純粋なポリエチレングリコールを使用することはあまり有利ではない。
【0017】
本発明による非晶質のポリマーネットワークの大部分は、高い光透過性及びわずかな曇りを特徴とする。
【0018】
図1に示されているように、本発明によるジメタクリラート/調節剤−ネットワークは、その特性が極めて短いポリメタクリラートブロックに基づき、特により大きな二官能性基Xの場合に、基Xの特性により決定される材料である。本発明の場合に、ポリメタクリラート配列は極めて短く、テトラマー、トリマー又はダイマーまでであるため、前記配列は基本的に量的により多い割合のXの結合を構成する成分であるにすぎない。
【0019】
これは、極めて強靱な、耐溶剤性のネットワークの構築を可能にする。この場合、芳香族基、特に結晶化の傾向を示す基を有するネットワークが挙げられる。例えば、ここでは、既に前記したテレフタル酸−ビス−(2−メタクリロイルオキシエチルエステル)が挙げられる。
【0020】
図1から良好に認識できるように、ジメタクリラート(1)と共重合可能なビニルモノマーBのわずかな割合は、ジメタクリラートとメルカプタンとからなる本発明によるネットワークの特性を妨げる影響を及ぼさない。一般に、Bは(メタ)アクリル酸及びその誘導体であり、その際、アルキル基中で1〜18個のC原子を有するメタクリル酸エステルが有利である。このビニルモノマーBは、例えば開始剤の混入を改善するため、又はポリマーネットワークの接着促進剤又は凝集改善剤として利用される。モノマーBとして特に重要であるのは、ジオールHO−X−OHのモノメタクリル酸エステル、つまりCH=CCHCOO−X−OHタイプのエステルである。
【0021】
モノマーBの割合は、<40質量部まで、又は有利に<20、特に有利に<5質量%に限定される。
【0022】
このポリマーネットワークにとって重要なのは、メルカプタンのタイプの重合調節剤である。ここでは、特にSH基を1個だけ有するメルカプタンが挙げられ、例えば、1〜18個のC原子を有するアルカンチオール、例えばブタンチオール、又は特に一般的にチオグリコール酸のエステル、チオ乳酸又は他のSH基含有カルボン酸、例えば2−エチルヘキシル−チオグリコラートが挙げられる。
【0023】
ジメタクリラート対メルカプタンの割合によって、メタクリラートブロックの長さを良好に制御でき、その際有利な場合に各ポリメタクリラート鎖は1個のRS開始基と1個の−H−末端基とを有する一般に、ジメタクリラート対メルカプタンのモル比は<12、有利に<10、特に有利に<5である。
【0024】
本発明によるネットワークは、完全に、つまり>90%まで、有利に>95%までA)、B)及びC)の成分からなるのが有利である。
【0025】
式(1)のジメタクリラートとメルカプタンRS−Hとを、ジメタクリラート/メルカプタンのモル比1.5/1〜10/1でラジカル重合の条件下で重合させる、ジメタクリラートとメルカプタンとからなるネットワークの製造方法が特に有利である。この場合、光開始剤、高エネルギー放射線又は有利に熱による開始剤又はレドックス開始剤が使用される。熱による開始剤の例として次のものが挙げられる:アゾ化合物又はペルオキシド、特にペルオキシエステル、例えばt−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノアート。
【0026】
一般に、前記開始剤は、ジメタクリラートに対して0.01〜5質量%の割合で使用される。この重合温度は、一般に0〜100℃の範囲内である。
【0027】
実施例
実施例1 ジメタクリラート/メルカプタンのモル比=3.9
1,10−デカンジオールジメタクリラート(27.6mmol)8.56gと2−エチルヘキシル−チオグリコラート(7.12mmol)1.45gとからなる混合物中のアゾイソブチロニトリル(AIBN)20mgの溶液を、ガラス型中に注ぎ込み、約20mbarに脱気し、アルゴンで保護し、70℃で加熱庫中で重合させた。
【0028】
良好な強度の高光沢の、ガラス透明の、無欠陥の成形品が得られた。
【0029】
光透過性>90%、曇り<10%。
【0030】
実施例2 ジメタクリラート/メルカプタンのモル比=2.0
1,10−デカンジオールジメタクリラート(24.4mmol)7.56gと2−エチルヘキシル−チオグリコラート(12.2mmol)2.48gとからなる混合物中のAIBN32mgの溶液を、実施例1の場合と同様に重合させた。
【0031】
高光沢の、ガラス透明の、無欠陥の成形品が得られ、前記成形品は曲げることができかつ実施例1の成形品よりも明らかに柔軟である。
【0032】
光透過性>90%、曇り<10%。
【0033】
比較例1 本発明によらない
AIBN20mgの溶液を、1,10−デカンジオールジメタクリラート9.92g中に溶かし、実施例1の場合と同様に重合させた。
【0034】
硬質の、亀裂を有する成形品が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】極めて単鎖のポリメタクリラートブロックを有し、前記ブロックはジメタクリラート(1)を介してのみ架橋されている本発明のネットワークを示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合した形で
A) 式(1)
(1) CH=CCHCOO−X−O−COCCH=CH
[式中、Xは、場合により置換されたアルカン、エステル、ジメチルシロキサン及びポリプロピレンオキシドのグループからなる二官能性基を表す]のジメタクリラート 60〜100部、
B) (1)と共重合可能なビニル化合物B 40〜0部、
C) メルカプタンRS−H 1〜40部を含有するポリマーネットワークにおいて、ジメタクリラート/メルカプタンのモル比は<10であることを特徴とする、ポリマーネットワーク。
【請求項2】
ジメタクリラート/メルカプタンのモル比が1.5〜4.5の範囲内にあることを特徴とする、請求項1記載のポリマーネットワーク。
【請求項3】
Xが8〜300個の炭素原子を有するアルキリデン基を表すことを特徴とする、請求項1又は2記載のポリマーネットワーク。
【請求項4】
X=−(−A−OCO−B−COO−)−A−、−(−D−COO−)−A−(OCOD−)
[式中、A、B及びDは互いに無関係に、2〜20個の炭素原子を有するアルキリデン基又はアリーリデン基を表し、mは1〜100、nは1〜50を表す]を特徴とする、請求項1又は2記載のポリマーネットワーク。
【請求項5】
加水分解可能な対象物を製造のための、請求項4記載のポリマーネットワークの使用。
【請求項6】
遮音材料を製造するための、請求項1から4までのいずれか1項記載のポリマーネットワークの使用。
【請求項7】
式(1)のジメタクリラートとメルカプタンRS−Hとを、ジメタクリラート/メルカプタンのモル比1.5/1〜10/1で、ラジカル重合の条件下で重合させることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載のポリマーネットワークの製造方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−506822(P2007−506822A)
【公表日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527329(P2006−527329)
【出願日】平成16年9月20日(2004.9.20)
【国際出願番号】PCT/EP2004/010518
【国際公開番号】WO2005/030846
【国際公開日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(390009128)レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト (293)
【氏名又は名称原語表記】Roehm GmbH & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】