説明

ポリマーフィルム、位相差フィルム、偏光板、および液晶表示装置

【課題】製造工程で発煙や油汚染あるいは異物故障がなく、製造工程で流延速度を低下させることなく剥ぎ取り性と乾燥速度を高めることができ、またハンドリング性にも優れ、比較的容易な操作によって得られるポリマーフィルムを提供する。
【解決手段】ポリマーと高分子量可塑剤を含むポリマーフィルムであって、該高分子量可塑剤が、
少なくとも、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを原料として得られる重縮合物であり、数平均分子量が700〜10000である脂肪族高分子量可塑剤(PA)と、
少なくとも、脂肪族ジオールおよび少なくとも一種の芳香環を有するジオールのうち少なくとも1種と、少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸とを原料として得られる重縮合物であり、数平均分子量が700〜10000である芳香族高分子量可塑剤(PB)と、
を含む混合物からなり、該脂肪族高分子量可塑剤(PA)および該芳香族高分子量可塑剤(PB)の合計の含有量が、該ポリマーに対して2〜30質量%であり、かつ該脂肪族高分子量可塑剤(PA)と該芳香族高分子量可塑剤(PB)との質量比が1/9〜9/1であるポリマーフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフィルム、位相差フィルム、偏光板、および液晶表示装置に関する。より詳細には、製造時に発煙や油汚染を生じさせずに、面状に優れ耳切りやロール汚れ、寸度、偏光板耐久性やフィルム耐久性にも優れ、光学特性の発現性を容易に制御することができるポリマーフィルムに関する。さらに本発明は、該ポリマーとして好適なセルロースエステルフィルムとそれを利用した位相差フィルム、偏光板および液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン化銀写真感光材料、位相差フィルム、偏光板および画像表示装置には、セルロースエステル、ポリエステル、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ビニルポリマー、および、ポリイミド等に代表されるポリマーフィルムが用いられている。これらのポリマーからは、平面性や均一性の点でより優れたフィルムを製造することができるため、光学用途のフィルムとして広く採用されている。例えば、適切な透湿度を有するセルロースエステルフィルムは、最も一般的なポリビニルアルコール(PVA)/ヨウ素からなる偏光膜とオンラインで直接貼り合わせることが可能である。そのため、セルロースエステル、特にセルロースアセテートは偏光板の保護フィルムとして広く採用されている。
【0003】
透明ポリマーフィルムを、位相差フィルム、位相差フィルムの支持体、偏光板の保護フィルム、および液晶表示装置のような光学用途に使用する場合、その光学異方性の制御は、表示装置の性能(例えば、視認性)を決定する上で非常に重要な要素となる。一方、光学用途に用いる透明ポリマーフィルムを製造する方法としては、面状が良好な溶液製膜法で行われているが、近年溶融製膜法も利用されている。溶液製膜法の場合には、製造する際には高速製膜適性を付与する目的で、可塑剤を添加することが好ましい。これは、可塑剤を添加することによって、溶液製膜時の乾燥の際に溶媒を短時間で揮発させることができ、ポリマーフィルム中の残留溶媒量を低減させることができるためである。
【0004】
しかしながら、通常用いられている可塑剤(例えば、トリフェニルフォスフェート、エチルフタリルエチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、アセチルクエン酸トリブチレート、など)を含む透明ポリマーフィルムは、製造工程中に過酷な条件で処理しようとすると望ましくない現象が生じたり、フィルムに悪影響が及んだりすることがある。例えば、透明ポリマーフィルムを高温で処理しようとすると発煙が生じたり、油分で汚染されたりすることがある。このため、可塑剤を用いた透明ポリマーフィルムに対する製造条件や処理条件には自ずと制約があった。一方、高分子量の可塑剤を写真用トリアセチルセルロースエステルフィルムに使用することは知られているが、該素材では高温での処理を施して光学用途に適用できることは、想像することが困難であり、素材の所有すべき特性は不明であった(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、写真フィルムにおいて、モノ塩基酸で封止された二塩基酸−グリコール(1-8ユニット)の直鎖状エステル系可塑剤を含有したセルロースエステル支持体に写真乳剤を付与したセルロースエステル支持体の写真フィルムが開示されており、カール解消に好ましいことが記述されている(例えば、特許文献2参照)。この形態を、光学用途に適用することは何ら問題ないが、所望の光学特性特に高位相差板に適用するにはその異方性発現性が不十分であり、また光学用途用フィルムとしての製造上で好ましい態様の記載はみられない。一方、ポリエチレングリコールと脂肪族二塩基酸とからなるポリエステルのうち、平均分子量700〜4000の範囲のポリエステルを含有する酢酸セルロース成型体が開示されており、可塑化効果、難揮発性、帯電防止性の向上が記述されている(例えば、特許文献3参照)。この方法においても、光学用途として位相差フィルムに適用するにはその異方性発現性が不十分であり、高い光学異方性を要求するVA、OCB用液晶表示装置などへの展開は困難であった。
【0006】
次に酢化度58%以上のTACにメチレンクロライド可溶ポリウレタン樹脂を添加したことを特徴とするTAC皮膜が記載されており、可塑化効果、難揮発性、帯電防止性に有効であるとの記載がある(例えば、特許文献4参照)。しかし、ポリウレタン樹脂を混合したセルロースエステルフィルムは、光に長時間当たったときに黄変することが問題となり、光学用途への使用は困難である。更にフタル酸系ポリエステルを含有することを特徴とするセルロース誘導体樹脂組成物について、セルロースエステルフィルムの良好な可塑剤である旨の記載が見られる(例えば、特許文献5参照)。しかしながら、該素材は芳香族基の成分が多量となり、セルロースエステルフィルムを作製する際に、溶液流延の場合に有機溶媒への溶解性が不十分であったり、フタル酸系ポリエステルがフィルム表面にブリードアウトして、良好な面状のフィルムを作製することが困難であった。
【0007】
また、半結晶性脂肪族-芳香族コポリエステルを用いることで、成形又は押出加工によりプラスチック製品、繊維又はフィルムに成形するのに適したセルロースエステルと脂肪族ポリエステル又は脂肪族-芳香族コポリエステルを含むブレンドの提供の記載がある(特許文献6参照)。これらの素材は、押し出し成型に関しては利用しうるものであるが、光学用途には押し出しフィルムは面状の観点で劣るものであり、該技術を光学用途に展開することは困難であった。一方、多分岐状ポリエステル高分子も開示されており、硬度と耐脆性を両立でき、耐湿性及び耐久性に優れたセルロースエステルフィルムを提供している(例えば、特許文献7参照)が、有効な効果を得るためには多量添加を必要とすることが判明し、面状が悪く十分な添加が困難であり実用性に劣るものであった。
【0008】
さらに、炭素数の平均が2〜3.5であるグリコールと炭素数の平均が4〜5.5である(無水)二塩基酸とから得られるポリエステルポリオールを含有するセルロースエステルを用いて製膜後、延伸して製造されたセルロースエステルフィルムにおいて、面内レターデーション値が30〜200nmで、厚さ方向のレターデーション値が70〜400nmの範囲にあることを特徴とする延伸セルロースエステルフィルムが開示されている(例えば、特許文献8参照)。しかし該技術では、セルロースエステルフィルムを延伸する際に高温度で実施されるため、素材の揮散が見られ工程汚染を引き起こすことが判明し実用には困難であることが判明した。
【0009】
次に、分子量が300以上1500未満である芳香族末端エステルが記載されており、光学性能が安定し湿度安定性が高いと同時に、製膜時切り粉の発生等による異物故障がない生産性の高いセルロースフィルムを得ることが可能であり、該セルロースエステルフィルムを用いることにより耐久性の高い偏光板、液晶表示装置が得られるとの技術が開示されている(例えば、特許文献9参照)。しかし、該素材は低沸点揮発分を多く含有することが問題であり、セルロースエステルフィルムの製膜時に工程を著しく汚染するため、実用化に適さないものであることが判明した。また、特定のジカルボン酸(芳香族ジカルボン酸/脂肪族ジカルボン酸/脂環式ジカルボン酸)と、脂肪族ジオール/ポリアルキレンエーテル/脂環式ジオールからなる、約10℃未満のガラス転移温度を有するコポリエステル組成物が開示されているが(例えば、特許文献10参照)、該素材を本発明のポリマーであるセルロースエステルに適用しても、セルロースエステルへの相溶性は改善されずブリードアウトの著しく悪いものであった。
【0010】
また、セルロースエステルと両末端にベンゼンカルボン酸またはフェノール残基を有し脂肪族環状グリコールおよび脂肪族環状二塩基酸を有するエステル系可塑剤とを含有することを特徴とするセルロースエステルフィルムが公開されており(例えば、特許文献11参照)、湿度変動耐久性が優れ、膜厚の低下(薄膜化)によって物性的に劣化しないセルロースエステルフィルムを提供する旨の記載があるが、セルロースエステルフィルムを作製する際に、セルロースエステルとの相溶性が悪くブリードアウトを容易に生じ、面状の観点で適用できないものであった。更に、芳香族末端封止アルキルポリエステルをセルロースエステルと配合して透明性の低下や白濁を起こさない高分子のセルロースエステル用改質剤を提供することが開示されている(例えば、特許文献12参照)が、セルロースエステルフィルムを作製する際に、セルロースエステルとの相溶性が悪くブリードアウトを容易に生じ、面状の観点で適用できないものであった。
【0011】
また、ポリエステルに特定の可塑剤(芳香族環含有多価カルボン酸エステル)を併用することが開示されている(例えば、特許文献13参照)。この技術によると、偏光度耐久性に優れかつ光漏れ防止性に優れる位相差板を得ることが出来る旨の記載がある。確かにこれらの改良は見られるものの、特定の可塑剤併用効果による改良レベルは小さいことが見受けられたのみならず、特定の可塑剤の工程での揮散性不良による工程汚染が著しく、製造適性に欠けるものであった。
【0012】
また、エチレン性不飽和モノマーを重合し重量平均分子量が500以上10,000未満でポリマーを含有したセルロースエステルフィルムが開示され、製造中にウェブから析出物または揮発物が発生しにくく、また保留性や透湿度が小さく、高温多湿の環境下でも伸縮性の非常に小さく、更に高温多湿の状態でも偏光子を劣化させない良質の偏光板を提供する、ことが開示されている(例えば、特許文献14参照)。確かに、この素材により特性の改良は見られるが、セルロースエステルへの溶解性が不十分であり、有効な効果を得るためには多量添加を必要とするが、セルロースエステルフィルムへの多量添加は困難であり、実用性に劣るものであった。
【0013】
更には、スチレン/無水マレイン酸コポリマーとセルロースエステルとを有することを特徴とする偏光板保護フィルムの記載があり、湿度変動によるレターデーション値変動を抑制し、コントラストムラの発生のないセルロースエステルフィルムを使用した偏光板保護フィルム及びその製造方法が開示されており、該偏光板保護フィルムを用いた表示品位が安定した偏光板、液晶表示装置を提供することが可能と記載されている(例えば、特許文献15参照)。しかしながら、該素材は反応性の無水酸を含有しており、セルロースエステルフィルムの回収性が困難であり、長時間保存した場合に膜質の変化や光学特性の変化を伴う危険性があることから、実用化には向かないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平5‐197073号公報
【特許文献2】米国特許第3054673号明細書
【特許文献3】特公昭43‐016305号公報
【特許文献4】特公昭44‐032672号公報
【特許文献5】特開昭61‐276836号公報
【特許文献6】米国特許第5559171号明細書
【特許文献7】特開2005‐314613号公報
【特許文献8】特開2006‐064803号公報
【特許文献9】特開2006‐342227号公報
【特許文献10】特表2007‐515545号公報
【特許文献11】特開2007‐086254号公報
【特許文献12】特開2007‐269850号公報
【特許文献13】特開2007‐003679号公報
【特許文献14】特開2003‐012859号公報
【特許文献15】特開2007‐304376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
このように、従来は製膜工程でのポリマー、特にセルロースエステルへの溶解性が不十分であり、製膜流延工程やその後の機能付与工程における可塑剤汚染やフィルム面状への悪影響を発生させることなく、所望の光学用フィルムを得る実用的な方法は見出せていなかった。
したがって、本発明の目的は前述のような従来技術の課題を解決して、製造工程で発煙や油汚染あるいは異物故障がなく、製造工程で流延速度を低下させることなく剥ぎ取り性と乾燥速度を高めることができ、またハンドリング性にも優れ、比較的容易な操作によって得られるポリマーフィルムを提供することである。また、そのようなポリマーフィルムを用いた位相差フィルム、優れた偏光板や液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、特定の条件を満たす可塑剤を使用することによって従来技術の課題を解決しうることを見出した。すなわち、以下の手段により上記課題を解決するに至った。
【0017】
1. ポリマーと高分子量可塑剤を含むポリマーフィルムであって、該高分子量可塑剤が、
少なくとも、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを原料として得られる重縮合物であり、数平均分子量が700〜10000である脂肪族高分子量可塑剤(PA)と、
少なくとも、脂肪族ジオールおよび少なくとも一種の芳香環を有するジオールのうち少なくとも1種と、少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸とを原料として得られる重縮合物であり、数平均分子量が700〜10000である芳香族高分子量可塑剤(PB)と、
を含む混合物からなり、該脂肪族高分子量可塑剤(PA)および該芳香族高分子量可塑剤(PB)の合計の含有量が、該ポリマーに対して2〜30質量%であり、かつ該脂肪族高分子量可塑剤(PA)と該芳香族高分子量可塑剤(PB)との質量比が1/9〜9/1であるポリマーフィルム。
2. 前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)に用いられる脂肪族ジカルボン酸が少なくとも1種の炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸であり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸が少なくとも1種の炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸であり、前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)および前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる脂肪族ジオールが炭素数2〜20の脂肪族ジオールまたは炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールであり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる芳香族環含有ジオールが炭素数6〜20の芳香族環含有ジオールである上記1に記載のポリマーフィルム。
3. 前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)に用いられる脂肪族ジカルボン酸が、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸またはフマル酸であり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸が、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸である上記1または2に記載のポリマーフィルム。
4. 前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)および前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる脂肪族ジオールが、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジシクロヘキシルジオールまたはジシクロヘキシルジメタノールであり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる少なくとも一種の芳香環を有するジオールが、ビスフェノールA、1,4−ジヒドロキシベンゼンまたはベンゼン−1,4−ジメタノールである上記1〜3のいずれかに記載のポリマーフィルム。
5. 前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)および芳香族高分子量可塑剤(PB)が、さらに炭素数1〜22の脂肪族基を含有する脂肪族モノカルボン酸、または脂肪族モノアルコールを用いて得られ、また炭素数6〜20の芳香族環含有基、炭素数2〜22の脂肪族カルボニル基、および炭素数7〜20の芳香族カルボニル基から選ばれた少なくとも一種を含有する芳香環含有モノカルボン酸または芳香環含有モノアルコールを用いて得られた上記1〜4のいずれかに記載のポリマーフィルム。
6. 前記脂肪族モノカルボン酸が、酢酸であり、脂肪族モノアルコールがエチルヘキサノールであり、芳香環含有モノカルボン酸が安息香酸である上記5に記載のポリマーフィルム。
7. 前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)および前記芳香族高分子量可塑剤(PB)の混合比率(質量比)が2/8〜8/2であり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる芳香環を有するジカルボン酸が全ジカルボン酸の25〜100モル%である上記1〜6のいずれかに記載のポリマーフィルム。
8. 前記高分子量可塑剤中の数平均分子量が500以下の成分の含有量が10質量%以下である上記1〜7のいずれかに記載のポリマーフィルム。
9. 前記高分子量可塑剤を空気中で140℃、60分間加熱した場合の質量減少率が1%以下である上記1〜8のいずれかに記載のポリマーフィルム。
10. 溶液製膜方法または溶融製膜方法で作製され、その膜厚が20〜200μmであるポリエステルフィルムである上記1〜9のいずれかに記載のポリマーフィルム。
11. 面内のレターデーション(Re)が0〜300nmであり、厚さ方向のレターデーション(Rth)が−200〜+300nmである上記1〜10のいずれかに記載のポリマーフィルム。
12. ポリマーフィルムを製膜中または製膜後に3%〜400%延伸し、その面内のレターデーション(Re)が30〜200nmであり、厚さ方向のレターデーション(Rth)が−50〜+250nmである上記1〜11のいずれかに記載のポリマーフィルム。
13. 上記1〜12のいずれかに記載のポリマーフィルムを用いた位相差フィルム。
14. 上記1〜12のいずれかに記載のポリマーフィルムまたは上記13に記載の位相差フィルムのうち少なくとも1枚を有する偏光板。
15. 上記1〜12のいずれかに記載のポリマーフィルム、上記13に記載の位相差フィルムまたは上記14に記載の偏光板のうち少なくとも1枚を有する液晶表示装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明のポリマーフィルムは、製膜流延時の可塑剤とポリマー、特にセルロースエステルの相溶性が良好でかつ面状に優れ、製造工程で発煙や油汚染、異物故障がなく、製造工程で流延速度を低下させることなく剥ぎ取り性と乾燥速度を高めることができる。またハンドリング性にも優れ、比較的容易な操作によって得られ、光学フィルムとして、レターデーションの発現性を調整できる。更に透湿度を低減化させ偏光板形態での耐久性に優れ、かつ寸法変化が小さいポリマーフィルムを提供することが出来る。また、そのようなポリマーフィルムを用いた位相差フィルム、優れた偏光板や液晶表示装置を提供することを可能とするものである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下において、本発明のポリマーフィルムについて詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0020】
本発明のポリマーフィルムは、ポリマーと高分子量可塑剤を含むポリマーフィルムであって、該高分子量可塑剤が、
少なくとも、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを原料として得られる重縮合物であり、数平均分子量が700〜10000である脂肪族高分子量可塑剤(PA)と、
少なくとも、脂肪族ジオールおよび少なくとも一種の芳香環を有するジオール(芳香族ジオール)のうち少なくとも1種と、少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸(芳香族ジカルボン酸)とを原料として得られる重縮合物であり、数平均分子量が700〜10000である芳香族高分子量可塑剤(PB)と、
を含む混合物からなり、該脂肪族高分子量可塑剤(PA)および該芳香族高分子量可塑剤(PB)の合計の含有量が、該ポリマーに対して2〜30質量%であり、かつ該脂肪族高分子量可塑剤(PA)と該芳香族高分子量可塑剤(PB)との質量比が1/9〜9/1であるポリマーフィルムである。
【0021】
《ポリマーフィルムおよびその製造方法》
[ポリマー]
まず、本発明のポリマーフィルムに使用することができるポリマーについて説明する。
本発明のポリマーフィルムの構成要素となるポリマーとしては、セルロースエステル(例えば、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルローストリプロピオネート、セルロースジアセテート)、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ノルボルネン系ポリマー)、ビニルポリマー(例えば、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニルなど)、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアミド、ポリイミド、シクロオレフィンコポリマー、ポリノルボルネン等の光学用途等に用いることができるポリマーフィルムを構成しうるポリマーを挙げることができる。前記ポリマーは、適切な透湿度を達成するために、主鎖もしくは側鎖に水酸基、アミド、イミドまたはエステル等の親水的な構造を有することが好ましい。本発明では、共重合体を用いてもよいし、ポリマー混合物を用いてもよい。前記ポリマーとしては、セルロースエステル、ビニルポリマー(例えば、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステルなど)がより好ましい。前記ポリマーとしては、セルロースエステルがさらに好ましい。
【0022】
本発明のポリマーフィルムを製造する場合において、原材料となる前記ポリマーは、粉末や粒子状のものを使用することができ、またペレット化したものも用いることができる。前記ポリマーの含水率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以下であることが最も好ましい。また、前記含水率は場合により0.2質量%以下であることが好ましい。前記ポリマーの含水率が好ましい範囲内にない場合には、前記ポリマーを乾燥風や加熱などにより乾燥してから使用することが好ましい。これらのポリマーは単独で用いてもよいし、2種類以上のポリマーを併用してもよい。
【0023】
前記ポリマーの好ましい素材であるセルロースエステルとしては、セルロースエステル化合物、および、セルロースを原料として生物的或いは化学的に官能基を導入して得られるエステル置換セルロース骨格を有する化合物が挙げられる。なお、本発明のポリマーフィルムの主成分としてのポリマーとしては、上述のセルロースエステルを用いることが好ましい。ここで、「主成分としてのポリマー」とは、単一のポリマーからなる場合には、そのポリマーのことを示し、複数のポリマーからなる場合には、構成するポリマーのうち、最も質量分率の高いポリマーのことを示す。
【0024】
前記セルロースエステルは、セルロースと酸とのエステルである。前記エステルを構成する酸としては、有機酸が好ましく、カルボン酸がより好ましく、炭素原子数が2〜22の脂肪酸及び芳香族酸がさらに好ましく、炭素原子数が2〜6の低級脂肪酸および炭素原子数が7〜13の芳香族酸がより好ましく、炭素原子数が2〜4の低級脂肪酸および炭素原子数が8の芳香族酸が特に好ましい。
前記セルロースエステルは、好ましくはセルロースとカルボン酸とのエステルであり、セルロースを構成するグルコース単位の2位、3位および6位に存在するヒドロキシル基の水素原子の全部または一部が、アシル基で置換されていることが好ましい。前記アシル基の例としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、ジシクロヘキシルカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、およびシンナモイル基が挙げられる。前記アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ピバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基が好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ベンゾイル基が特に好ましい。セルロースエステルは、セルロースと複数の酸とのエステルであってもよい。また、セルロースエステルは、複数のアシル基で置換されていてもよい。
【0025】
更に好ましいセルロースエステルについて記述する。すなわち、セルロースの水酸基に置換されているアセチル基(炭素数2)の置換度をSAとし、セルロースの水酸基に置換されている炭素数3以上のアシル基の置換度をSBとしたとき、SAおよびSBを調整することにより、本発明のポリマーフィルムの光学特性(面内レターデーション(Re)の発現性、厚さ方向のレターデーション(Rth)の発現性、およびそれらの湿度依存性の調整を行なうことができる。本発明のポリマーフィルムに求める光学特性により、適宜、SA+SBを調整することとなるが、好ましくは2.00≦SA+SB≦3.00、より好ましくは2.20≦SA+SB≦2.95であり、さらに好ましくは2.30≦SA+SB≦2.95であり、特に好ましくは2.45≦SA+SB≦2.94である。また、SA、SBは0〜3であれば特に限定されない。特に、SBとして好ましいのは0〜1である。
【0026】
セルロースエステルは公知の方法により合成することができる。例えば、セルロースエステルの合成方法について、基本的な原理は、右田伸彦他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。前記セルロースエステルの重合度は、粘度平均重合度で150〜500が好ましく、200〜400がより好ましく、220〜350がさらに好ましい。前記粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)の記載に従って測定することができる。前記粘度平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも記載がある。セルロースエステルの原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁にも記載がある。
【0027】
[高分子量可塑剤]
本発明のポリマーフィルムに用いられる高分子量可塑剤は、少なくとも脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを含む混合物から得られる重縮合物であり、数平均分子量が700〜10000である脂肪族高分子量可塑剤(PA)と、少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸と、脂肪族ジオールおよび芳香族環含有ジオールのうち少なくとも1種とを含む混合物から得られる重縮合物であり、数平均分子量が700〜10000である芳香族高分子量可塑剤(PB)とを少なくとも含む混合物からなり、かつ該脂肪族高分子量可塑剤(PA)と該芳香族高分子量可塑剤(PB)との質量比が1/9〜9/1である。
【0028】
溶液流延において、可塑剤は溶媒の揮発速度を速めかつ残留溶媒量を低減するために必須な素材であり、また、溶融製膜法においても、可塑剤は着色や膜強度劣化を防止するために有用な素材である。さらに、ポリマーフィルムに本発明にかかる高分子量可塑剤を添加することで、機械的性質向上、柔軟性付与、耐吸水性付与、水分透過率低減等のフィルム改質の観点で、有用な効果を示す。また本発明においては、後述する実施例で示すように、製造工程でのハンドリング特性の改良に非常に有効である。さらに、本発明の高分子可塑剤混合物は、光学特性を任意にコントロールできる特性を有するものである。
【0029】
ここで、本発明における高分子量可塑剤は、その数平均分子量が700〜10000であるが、好ましくは数平均分子量800〜8000であり、更に好ましくは数平均分子量850〜5000であり、特に好ましくは数平均分子量900〜3500である。
数平均分子量が700未満では、その成分として数平均分子量が500以下の成分を多量含有し製造時にその低分子量成分が工程内に揮散して、製造機を汚染する問題を発生する。一方、数平均分子量が10000より大きくなると、セルロースエステルなどのポリマーとの相溶性が著しく悪化し、これらの高分子量可塑剤がセルロースエステルフィルムなどのポリマーフィルムからブリードアウトしてしまい、フィルムの面状を著しく悪化する。高分子量可塑剤中の数平均分子量が500以下の成分の含有量は10質量%以下であることが好ましい。また、高分子量可塑剤は、140℃、60分間加熱したときの質量減少率は、1%以下であることが好ましい。
【0030】
また、本発明の高分子量可塑剤は使用する環境温度あるいは湿度下で、液体であっても固体であっても良い。好ましくは、融点が−100℃〜250℃であり、更に好ましくは融点が−100℃〜200℃であり、融点が−100℃〜150℃であることが特に好ましい。
【0031】
また、高分子量可塑剤の色味は少ないほど良好であり特に無色であることが好ましい。高分子量可塑剤は熱的にはより高温において安定であることが好ましく、分解開始温度が150℃以上が好ましく、200℃以上がさらに好ましい。添加量は光学物性・機械物性に悪影響がなければ良く、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択される。本発明のポリマーフィルムにおける高分子量可塑剤の含有量は、ポリマー量に対して2〜30質量%、好ましくは3〜25質量%であり、5〜25質量%が特に好ましい。
以下、本発明に用いられる高分子量可塑剤について、その具体例を挙げながら詳細に説明する。
【0032】
まず、数平均分子量が700〜10000であって、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールおよび場合により脂肪族モノカルボン酸または脂肪族モノアルコールから得られる重縮合物である脂肪族高分子量可塑剤(PA)について記述する。
脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数2〜20のアルキレンジカルボン酸が好ましく場合により環形成してもよく、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸または1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。これらの中でも好ましい脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。特に好ましくは、コハク酸、アジピン酸である。
脂肪族ジカルボン酸は1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0033】
脂肪族高分子量可塑剤(PA)に使用される脂肪族ジオールについては、炭素数2〜20の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールが好ましく、これらは環状構造を形成していてもよい。まず、炭素原子2〜20の脂肪族ジオールとしては、アルキルジオールまたは脂肪族環状式ジオール類を挙げることができ、例えば1,2−エタンジオール(エタンジオール、エチレングリコールともいう)、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0034】
好ましい脂肪族ジオールとしては、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールであり、特に好ましくはエタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールである。エタンジオールが最も好ましい。
【0035】
また脂肪族高分子量可塑剤(PA)に使用される炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールとしては、好ましくは、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレンエーテルグリコールおよびポリプロピレンエーテルグリコールならびにこれらの組み合わせを挙げることができる。その平均重合度は、特に限定されないが好ましくは2〜20であり、より好ましくは2〜10であり、更には2〜5であり、特に好ましくは2〜4である。これらの例としては、典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類として、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics)レジンおよびニアックス(Niax)レジンが挙げられる。
脂肪族ジオールは1種のみ用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0036】
さらに、脂肪族高分子量可塑剤(PA)においては、場合により脂肪族モノカルボン酸または脂肪族モノアルコールを併用して、ポリエステル末端をアルキル基で封止した脂肪族高分子量可塑剤であることも好ましい。これは、末端を疎水性官能基で保護することにより、高温高湿での経時劣化に対して有効であり、エステル基の加水分解を遅延させる役割を示すことが要因となっている。このことから、本発明のポリエステル可塑剤の両末端がカルボン酸やOH基とならないように、脂肪族モノアルコール残基や脂肪族モノカルボン酸残基で保護することが好ましい。
【0037】
その場合、脂肪族モノアルコール残基としては炭素数1〜30の置換、無置換の脂肪族モノアルコール残基が好ましく、より好ましくは炭素数が1〜22の置換、無置換の脂肪族モノアルコール残基であり、環状構造を含んでいてもよい。このような脂肪族モノアルコール残基を形成するために用いられる脂肪族モノアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどが挙げられる。これらはそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。
【0038】
また、脂肪族モノカルボン酸残基で封止する場合は、脂肪族モノカルボン酸残基として、炭素数1〜30の置換、無置換の脂肪族モノカルボン酸残基が好ましく、より好ましくは炭素数が1〜22の置換、無置換の脂肪族モノカルボン酸残基である。好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸、シクロヘキシルカルボン酸、ジシクロヘキシルカルボン酸などが挙げられ、これらはそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。これらの中でも、好ましくは酢酸、プロピオン酸、オレイン酸、シクロヘキシルカルボン酸であり、特に好ましくは酢酸、プロピオン酸である。
【0039】
本発明では、前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)に用いられる脂肪族ジカルボン酸が少なくとも1種の炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸であり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる芳香族ジカルボン酸が少なくとも1種の炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸であり、前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)および前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる脂肪族ジオールが炭素数2〜20の脂肪族ジオールまたは炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールであり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる芳香族環含有ジオールが炭素数6〜20の芳香族環含有ジオールであることが好ましい。
また、前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)に用いられる脂肪族ジカルボン酸が、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸またはフマル酸であり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる芳香族ジカルボン酸がフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸であることが好ましい。
また、前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)および前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる脂肪族ジオールが、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジシクロヘキシルジオールまたはジシクロヘキシルジメタノールであり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる芳香族環含有ジオールがビスフェノールA、1,4−ジヒドロキシベンゼンまたはベンゼン−1,4−ジメタノールであることが好ましい。
また、前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)および芳香族高分子量可塑剤(PB)が、炭素数1〜22の脂肪族基を含有する脂肪族モノカルボン酸、または脂肪族モノアルコールを用いて得られ、また炭素数6〜20の芳香族環含有基、炭素数2〜22の脂肪族カルボニル基、および炭素数7〜20の芳香族カルボニル基から選ばれた少なくとも一種を含有する芳香環含有モノカルボン酸または芳香環含有モノアルコールを用いて得られることが好ましい。
また、前記脂肪族モノカルボン酸が、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ヘキサン酸、オクタン酸、シクロヘキシルカルボン酸またはジシクロヘキシルカルボン酸であり、脂肪族モノアルコールがメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノールまたはトリデカノールであり、芳香環含有モノカルボン酸が安息香酸、フェニル酢酸または桂皮酸であることがより好ましい。
【0040】
以下に、数平均分子量が700〜10000であって脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオール、および場合により脂肪族モノカルボン酸または脂肪族モノアルコールからなる繰り返し単位を有する脂肪族高分子量可塑剤(PA)について、その具体的な例を記載するがこれらに限定されるものではない。
【0041】
PA-1:エタンジオール/コハク酸(1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量1100)
PA-2:1,3−プロパンジオール/グルタル酸(1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量1500)
PA-3:1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量900)
PA-4:1,3−プロパンジオール/エチレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量1500)
【0042】
PA-5:2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量1400)
PA-6:エタンジオール/コハク酸/アジピン酸(2/1/1モル比)からなる縮合物の両末端のアセチルエステル化体(数平均分子量1000)
PA-7:1,4−シクロヘキサンジオール/コハク酸(1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量1800)
【0043】
PA-8:1,3−プロパンジオール/コハク酸(1/1モル比)からなる縮合物の両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1200)
PA-9:1,3−プロパンジオール/グルタル酸(1/1モル比)からなる縮合物の両末端のシクロヘキシルエステル化体(数平均分子量1500)
PA-10:エタンジオール/コハク酸(1/1モル比)からなる縮合物の両末端のアセチルエステル化体(数平均分子量3000)
PA-11:1,3−プロパンジオール/エチレングリコール/アジピン酸(1/1/2モル比)からなる縮合物の両末端のイソノニルエステル化体(数平均分子量1500)
【0044】
PA-12:2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)からなる縮合物の両末端のプロピルエステル化体(数平均分子量1300)
PA-13:2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)からなる縮合物の両末端のアセチルエステル化体(数平均分子量1700)
【0045】
PA-14:2−メチル−1,3−プロパンジオール/アジピン酸(1/1モル比)からなる縮合物の両末端のイソノニルエステル化体(数平均分子量1500)
PA-15:1,4−ブタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)からなる縮合物の両末端のブチルエステル化体(数平均分子量1100)
PA-16:ポリ(平均重合度5)プロピレンエーテルグリコール/コハク酸(1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量2800)
【0046】
PA-17:ポリ(平均重合度3)エチレンエーテルグリコール/グルタル酸(1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量2300)
PA-18:ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/アジピン酸(1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量2200)
PA-19:ポリ(平均重合度5)プロピレンエーテルグリコール/コハク酸(1/1モル比)からなる縮合物の両末端ブチルエステル化体(数平均分子量1900)
【0047】
PA-20:ポリ(平均重合度3)エチレンエーテルグリコール/グルタル酸(1/1モル比)からなる縮合物の両末端2−エチルヘキシルエステル化体(数平均分子量2500)
PA-21:ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/アジピン酸(1/1モル比)からなる縮合物の両末端アセチルエステル化体(数平均分子量1500)
PA-22:ポリ(平均重合度4)プロピレンエーテルグリコール/フタル酸(1/1モル比)からなる縮合物の両末端プロピオニルエステル化体(数平均分子量1900)
PA-23:エタンジオール/アジピン酸(1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量1000)
【0048】
これらの前述した具体例は、数平均分子量500以下の存在量は10質量%以下であることを確認した。また、熱天秤法ですべて200℃、10分間加熱したときの質量減少率は、5%以下であった。また140℃、60分間加熱したときの質量減少率は、1%以下であることも確認した。なお、数平均分子量10000以上の成分は、存在を認めないものであった。
【0049】
次に、数平均分子量が700〜10000であって少なくとも一種の芳香環を含有するジカルボン酸と脂肪族ジオールあるいは芳香族環含有ジオールおよび場合により脂肪族ジカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族モノアルコール、芳香環含有モノカルボン酸あるいは芳香環含有モノアルコールからなる重縮合物である芳香族高分子量可塑剤(PB)について記述する。ここで、芳香環を含有するジカルボン酸は脂肪族ジカルボン酸と併用される場合は、ジカルボン酸の全モル数に対して少なくとも10〜100モル%であればよいが、好ましくは25〜100モル%であり、更に好ましくは33〜100モル%であり、特に好ましくは40〜100モル%である。
芳香環を含有するジカルボン酸のうち、炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸が好ましく用いられる。炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸等がある。これらの中でも好ましい芳香環を含有するジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸であり、特にはフタル酸、テレフタル酸である。また、芳香族高分子量可塑剤(PB)に場合により併用される脂肪族ジカルボン酸は、前述した脂肪族高分子可塑剤(PA)で記載した脂肪族ジカルボン酸を同様に利用できる。
【0050】
芳香族高分子量可塑剤(PB)に使用される脂肪族ジオールについても同様に、前述した脂肪族高分子可塑剤(PA)で記載した脂肪族ジオールを利用でき、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールも同様に使用できる。
次に、芳香族高分子量可塑剤(PB)ではジオールとして芳香族環含有ジオールも使用できる。好ましい該芳香族環含有ジオールとしては、炭素数6〜20の芳香族ジオールから選ばれる少なくとも1種類以上のジオールであり、ビスフェノールA、1,2−ヒドロキシベンゼン、1,3−ジヒドロキシベンゼン、1,4−ジヒドロキシベンゼン、ベンゼン−1,4−ジメタノールが挙げられ、好ましくはビスフェノールA、1,4−ジヒドロキシベンゼン、ベンゼン−1,4−ジメタノールである。
【0051】
さらに芳香族高分子量可塑剤(PB)においては、場合により脂肪族モノカルボン酸、脂肪族モノアルコール、芳香環含有モノカルボン酸あるいは芳香環含有モノアルコールを使用することも好ましい。その場合、脂肪族モノカルボン酸、脂肪族モノアルコールについては、前述した脂肪族高分子可塑剤(PA)で記載した脂肪族モノカルボン酸、脂肪族モノアルコールを利用でき、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールも同様に使用できる。
【0052】
あるいは芳香環含有モノアルコールについては、炭素数6〜20の芳香族環含有基、炭素数2〜22の脂肪族カルボニル基、および炭素数7〜20の芳香族カルボニル基から選ばれた少なくとも一種を含有することが好ましく、例えばフェノール、クレゾール、ベンジルアルコール、フェニルエタノール、フェネチルアルコール、1−ナフチルアルコールなどであり、好ましくはベンジルアルコール、フェニルエタノールが挙げられる。
また、芳香環含有モノカルボン酸については、炭素数6〜20の芳香族環含有基、炭素数2〜22の脂肪族カルボニル基、および炭素数7〜20の芳香族カルボニル基から選ばれた少なくとも一種を含有することが好ましく、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−tert−アミル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、n−プロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸、フェニル酢酸、桂皮酸等があり、好ましくは安息香酸、フェニル酢酸、桂皮酸である。これらはそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。
【0053】
以上記述した芳香族高分子量可塑剤(PB)の具体的な例を以下に記載するが、これらに限定されるものではない。
PB-1:コハク酸/フタル酸/エタンジオール/(1/1/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量900)
PB-2:グルタル酸/イソフタル酸/1,3−プロパンジオール(1/1/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量1300)
PB-3:アジピン酸/テレフタル酸/1,2−プロパンジオール(1/1/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量1200)
PB-4:コハク酸/テレフタル酸/エタンジオール/1,4−シクロヘキサンジメタノール(1/1/1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量3000)
【0054】
PB-5:コハク酸/グルタル酸/アジピン酸/テレフタル酸/イソフタル酸/エタンジオール/1,2−プロパンジオール(1/1/1/1/1/3/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量2500)
PB-6:コハク酸/アジピン酸/テレフタル酸/エタンジオール/1,2−プロパンジオール(1/1/1/2/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量2800)
PB-7:コハク酸/アジピン酸/1,4−ナフタレンジカルボン酸/エタンジオール/1,2−プロパンジオール(1/1/1/2/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量2000)
PB-8:コハク酸/テレフタル酸/ポリ(平均重合度5)プロピレンエーテルグリコール/1,2−プロパンジオール(2/1/1/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量2500)
【0055】
PB-9:コハク酸/テレフタル酸/ポリ(平均重合度3)エチレンエーテルグリコール/1,2−プロパンジオール(1/3/2/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量3500)
PB-10:コハク酸/テレフタル酸/エタンジオール/(1/1/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量2100)の両末端のアセチルエステル化体
PB-11:グルタル酸/イソフタル酸/1,3−プロパンジオール(1/1/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量1500)の両末端のシクロヘキシルエステル化体
PB-12:アジピン酸/テレフタル酸/1,2−プロパンジオール(1/1/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量2500)の両末端の2−エチルヘキシルエステル化体
【0056】
PB-13:コハク酸/テレフタル酸/エタンジオール/1,4−シクロヘキサンジメタノール(1/1/1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量3000)の両末端のイソノニルエステル化体
PB-14:コハク酸/グルタル酸/アジピン酸/テレフタル酸/イソフタル酸/エタンジオール/1,2−プロパンジオール(1/1/1/1/1/3/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量3000)の両末端のプロピルエステル化体
PB-15:コハク酸/アジピン酸/テレフタル酸/エタンジオール/1,2−プロパンジオール(1/1/1/2/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量3000)の両末端の2−エチルヘキシルエステル化体
PB-16:コハク酸/アジピン酸/1,4−ナフタレンジカルボン酸/エタンジオール/1,2−プロパンジオール(1/1/1/2/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量3000)の両末端の安息香酸エステル化体
【0057】
PB-17:コハク酸/テレフタル酸/ポリ(平均重合度5)プロピレンエーテルグリコール/1,2−プロパンジオール(2/1/1/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量3500)の両末端の2−エチルヘキシルエステル化体
PB-18:コハク酸/テレフタル酸/ポリ(平均重合度4)エチレンエーテルグリコール/1,2−プロパンジオール(1/3/2/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量2500)の両末端の2−エチルヘキシルエステル化体
PB-19:コハク酸/フタル酸/エタンジオール/(1/1/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量2500)の両末端のアセチルエステル化体
PB-20:コハク酸/イソフタル酸/フタル酸/テレフタル酸/エタンジオール/1,3−プロパンジオール(1/1/1/1/2/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量1300)の両末端のアセチルエステル化体
【0058】
PB-21:アジピン酸/テレフタル酸/1,2−プロパンジオール(1/1/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量900)の両末端のベンゾイルエステル化体
PB-22:コハク酸/テレフタル酸/エタンジオール/1,4−シクロヘキサンジメタノール(1/1/1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量3000)の両末端のプロピオニルエステル化体
【0059】
PB-23:コハク酸/グルタル酸/アジピン酸/テレフタル酸/イソフタル酸/エタンジオール/1,2−プロパンジオール(1/1/1/1/2/3/3モル比)からなる縮合物(数平均分子量2500)の両末端のシクロヘキサンカルボニルエステル化体
PB-24:コハク酸/テレフタル酸/ポリ(平均重合度3)エチレンエーテルグリコール/1,2−プロパンジオール(1/3/2/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量2500)の両末端のアセチルエステル化体
PB-25:コハク酸/ビスフェノールA(1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量2000)
PB-26:コハク酸/テレフタル酸/エタンジオール/ビスフェノールA(2/1/1/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量2500)
【0060】
PB-27:コハク酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ビスフェノールA/プロパンジオール(1/2/2/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量1900)
PB-28:コハク酸/アジピン酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ビスフェノールA/ジエチレングリコール(1/1/2/2/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量2500)
PB-29:コハク酸/テレフタル酸/エタンジオール/ビスフェノールA(1/2/1/2モル比)からなる縮合物(数平均分子量2500)の両末端の2−エチルヘキシルエステル化体
PB-30:コハク酸/2,6−ナフタレンジカルボン酸/ビスフェノールA/プロパンジオール(1/2/2/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量2300)の両末端の2−エチルヘキシルエステル化体
PB-31:コハク酸/ビスフェノールA(1/1モル比)からなる縮合物(数平均分子量2200)の両末端のアセチルエステル化体
PB-32:コハク酸/アジピン酸/フタル酸/テレフタル酸/エタンジオール/(5/5/1/9/20モル比)からなる縮合物(数平均分子量800)の両末端のアセチルエステル化体
PB-33:アジピン酸/フタル酸/テレフタル酸/エタンジオール/(10/5/1/9/20モル比)からなる縮合物(数平均分子量800)の両末端のアセチルエステル化体
PB-34:アジピン酸/フタル酸/テレフタル酸/エタンジオール/(5/2/3/10モル比)からなる縮合物(数平均分子量1000)の両末端のアセチルエステル化体
PB-35:コハク酸/アジピン酸/フタル酸/エタンジオール/(1/1/2/4モル比)からなる縮合物(数平均分子量1000)の両末端のアセチルエステル化体
【0061】
これらの前述した具体例は、数平均分子量500以下の存在量は10質量%以下であることを確認した。また、熱天秤法ですべて200℃、10分間加熱したときの質量減少率は、5%以下であった。また140℃、60分間加熱したときの質量減少率は、1%以下であることも確認した。なお、数平均分子量10000以上の成分は、存在を認めないものであった。
【0062】
かかる本発明の高分子量可塑剤の合成は、常法により上記ジカルボン酸とジオール、必要に応じて末端封止用のモノアルコールまたはモノカルボン酸とのポリエステル化反応、またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステル系可塑剤については、村井孝一編者「可塑剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
【0063】
本発明における脂肪族高分子量可塑剤(PA)と芳香族高分子量可塑剤(PB)のポリマーに対する添加量は、その総和がポリマーに対して2〜30質量%であり、4〜25質量%が好ましく、特には5〜22質量%が好ましい。2質量%未満であると、疎水化または可塑化が不十分という観点で好ましくない。30質量%を超えるとブリードアウトの発生という観点で好ましくない。
また脂肪族高分子量可塑剤(PA)および芳香族高分子量可塑剤(PB)の質量比率(PA/PB)が1/9〜9/1であり、2/8〜8/2であることが好ましく、4/6〜8/2であることがより好ましく、5/5〜8/2であることが特に好ましい。
ポリマーフィルムが異なる組成の2層以上から構成される場合、(PA)と(PB)が異なる層に別々に存在し、ポリマーフィルム全体のポリマーに対し(PA)と(PB)の質量比率(PA/PB)が1/9〜9/1であってもよい。
(PA)と(PB)の質量比率が1/9〜9/1の範囲外であるとセルロースエステルとの相溶性がやや不十分となりロール汚れや耳切り状態がやや悪化する、寸度や偏光板耐久性の悪化を伴うという観点から好ましくない。
【0064】
本発明では、前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)および前記芳香族高分子量可塑剤(PB)の混合比率(質量比)が2/8〜8/2であり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる芳香環を有するジカルボン酸が全ジカルボン酸の25〜100モル%であることが好ましい。
【0065】
(その他の高分子系可塑剤)
本発明においては、脂肪族高分子量可塑剤(PA)と芳香族高分子量可塑剤(PB)だけでなく、その他の高分子系可塑剤も使用し得るものである。該高分子系可塑剤としては、ポリエステルポリウレタン系可塑剤、脂肪族炭化水素系ポリマー、脂環式炭化水素系ポリマー、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル等のアクリル系ポリマー(エステル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、tert−ノニル基、ドデシル基、トリデシル基、ステアリル基、オレイル基、ベンジル基、フェニル基など)、ポリビニルイソブチルエーテル、ポリN−ビニルピロリドン等のビニル系ポリマー、ポリスチレンおよびその共重合体(例えば、無水マレイン酸共重合体)、ポリ4−ヒドロキシスチレン等のスチレン系ポリマー、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリウレア、フェノール−ホルムアルデヒド縮合物、尿素−ホルムアルデヒド縮合物、酢酸ビニル、等が挙げられる。
【0066】
これらの中でも、特にアクリル系ポリマーを併用することも好ましい。本発明においては、アクリル系ポリマーはアクリル酸またはメタクリル酸アルキルエステル等のモノマーから合成されるホモポリマーまたはコポリマーが好ましい。
芳香環を持たないアクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル(i−、n−)、アクリル酸ブチル(n−、i、s−、t−)、アクリル酸ペンチル(n−、i−、s−)、アクリル酸ヘキシル(n、i−)、アクリル酸ヘプチル(n−、i−)、アクリル酸オクチル(n−、i−)、アクリル酸ノニル(n−、i−)、アクリル酸ミリスチル(n−、i−)、アクリル酸(2−エチルヘシル)、アクリル酸(ε−カプロラクトン)、アクリル酸(2−ヒドロキシエチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(3−ヒドロキシプロピル)、アクリル酸(4−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−ヒドロキシブチル)、アクリル酸(2−メトキシエチル)、アクリル酸(2−エトキシエチル)等、または上記アクリル酸エステルをメタクリル酸エステルに変えたものを挙げることができる。また、芳香族環を有するアクリル系ポリマーに用いるアクリルモノマーとしては、ベンジルアクリレート、フェニルアクリレートなどを挙げることが出来る。
【0067】
また、前記アクリル系ポリマーがコポリマーの場合は、X(親水基を有するモノマー成分)及びY(親水基を持たないモノマー成分)からなり、X:Y(モル比)が1:1〜1:99が好ましい。アクリル系ポリマーの含有量は、セルロースエステルに対して1〜20質量%であることが好ましい。これらのアクリルポリマーは、特開2003−12859号公報に記載されている方法を参考にして合成することができる。
【0068】
[ポリマー溶液]
本発明のポリマーフィルムは、例えば、上記ポリマーや各種添加剤を含有するポリマー溶液から溶液流延製膜方法や溶融製膜方法によって作製することができる。以下において、溶液流延製膜方法に用いることができるポリマー溶液について説明する。
【0069】
(溶媒)
本発明の溶液製膜の作製に用いられるポリマー溶液(好ましくはセルロースエステル溶液)の主溶媒としては、該ポリマーの良溶媒である有機溶媒を好ましく用いることができる。このような有機溶媒としては、沸点が80℃以下の有機溶媒が乾燥負荷低減の観点からより好ましい。前記有機溶媒の沸点は、10〜80℃であることがさらに好ましく、20〜60℃であることが特に好ましい。また、場合により沸点が30〜45℃である有機溶媒も前記主溶媒として好適に用いることができる。
【0070】
このような主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げられ、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記主溶媒は、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれかを二つ以上有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。なお、本発明のポリマーフィルムの作製に用いられるポリマー溶液(好ましくはセルロースエステル溶液)の主溶媒とは、単一の溶媒からなる場合には、その溶媒のことを示し、複数の溶媒からなる場合には、構成する溶媒のうち、最も質量分率の高い溶媒のことを示す。主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素を好適に挙げることができる。
【0071】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテートなどが挙げられる。前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。
【0072】
前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどが挙げられる。
【0073】
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなどが挙げられる。好ましくは炭素数1〜4のアルコールであり、より好ましくはメタノール、エタノールまたはブタノールであり、最も好ましくはメタノール、ブタノールである。前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。
前記2種類以上の官能基を有する有機溶媒としては、例えば、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルアセトアセテートなどが挙げられる。
【0074】
本発明の透明ポリマーフィルムを構成するポリマーが水酸基やエステル、ケトン等の水素結合性の官能基を含む場合、全溶媒中に5〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%のアルコールを含有することが流延支持体からの剥離荷重低減の観点から好ましい。水素結合性の官能基を含むポリマーには、セルロースエステルが含まれる。
アルコール含有量を調整することによって、本発明の製造方法により製造される透明ポリマーフィルムのReやRthの発現性を調整しやすくすることができる。具体的には、アルコール含有量を上げることによって、熱処理温度を比較的低く設定したり、ReやRthの到達範囲をより大きくしたりすることが可能となる。
【0075】
また、本発明のポリマーフィルムの作製に用いられる前記ポリマー溶液は、乾燥過程初期においてハロゲン化炭化水素とともに揮発する割合が小さく、次第に濃縮される沸点が95℃以上であり、且つ、セルロースエステルの貧溶媒である有機溶媒を1〜15質量%、より好ましくは1.5〜13質量%、さらに好ましくは2〜10質量%含有することが好ましい。また、本発明においては、水を少量含有させることも溶液粘度や乾燥時のウェットフィルム状態の膜強度を高めたり、ドラム法流延時のドープ強度を高めるのに有効であり、例えば溶液全体に対して0.1〜5質量%含有させても良く、より好ましくは0.1〜3質量%含有させてもよく、特に0.2〜2質量%含有させてもよい。
【0076】
本発明のポリマーフィルムの作製に用いられるポリマー溶液の溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合わせの例を以下に挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、比率の数値は、質量部を意味する。
(1)ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール=80/10/5/5
(2)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/水=80/18/1/1
(3)ジクロロメタン/エタノール=90/10
(4)ジクロロメタン/アセトン/メタノール/プロパノール=80/5/5/10
【0077】
(5)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン=80/8/10/2
(6)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール=80/10/5/5
(7)ジクロロメタン/エタノール/水=90/9.5/0.5
(8)ジクロロメタン/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/ブタノール=68/10/10/7/5
(9)ジクロロメタン/シクロペンタノン/メタノール/ペンタノール=80/2/15/3
【0078】
(10)ジクロロメタン/メチルアセテート/エタノール/ブタノール=70/12/15/3
(11)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール=80/5/5/10
(12)ジクロロメタン/酢酸メチル/アセトン/メタノール/ペンタノール=50/20/15/5/10
(13)ジクロロメタン/1,3−ジオキソラン/メタノール/ブタノール=70/15/5/10
(14)ジクロロメタン/酢酸メチル/エタノール=65/25/10
(15)ジクロロメタン/酢酸メチル/アセトン//エタノール=50/30/10/10
【0079】
(16)ジクロロメタン/酢酸メチル/メタノール=50/40/10
(17)ジクロロメタン/アセトン/エチルアセテート/ブタノール/ヘキサン=69/10/10/10/1
(18)ジクロロメタン/メチルアセテート/メタノール/イソブチルアルコール=65/15/10/10
(19)ジクロロメタン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール=85/7/3/5
【0080】
(20)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール=83/15/2
(21)ジクロロメタン=100
(22)アセトン/エタノール/ブタノール=80/15/5
(23)メチルアセテート/アセトン/メタノール/ブタノール=75/10/10/5
(24)1,3−ジオキソラン=100
【0081】
(25)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/水=80/18/1.5/0.5
(26)ジクロロメタン/アセトン/メタノール/ブタノール/水=87/5/5/2.5/0.5
(27)ジクロロメタン/メタノール=92/8
(28)ジクロロメタン/メタノール=90/10
(29)ジクロロメタン/メタノール=87/13
(30)ジクロロメタン/エタノール/ブタノール=90/9/1
【0082】
また、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒とした場合の詳細な記載は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載があり、適宜、使用することができる。これらの代表的な溶剤を下記に記載する。
(31)酢酸メチル/アセトン/メタノール/ブタノール=80/10/5/5
(32)酢酸メチル/メチルエチルケトン/メタノール/エタノール=80/10/5/5
(33)酢酸メチル/シクロペンタノン/アセトン/メタノール/エタノール=60/15/15/5/5
(34)酢酸メチル/ジクロロメタン/メタノール/エタノール=70/20/5/5
(35)アセトン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール=65/20/10/5
(36)アセトン/ジクロロメタン/メタノール=90/5/5
(37)1、3−ジオキソラン/塩化メチレン/メタノール/ブタノール=70/15/10/5
【0083】
(溶液濃度)
調製する前記ポリマー溶液中のポリマーおよび高分子量可塑剤を含む添加剤との総量の濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましく、15〜30質量%が最も好ましい。前記濃度は、溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整することができる。また予め低濃度(例えば4〜10質量%)の溶液を調製した後に、溶媒を蒸発させる等によって濃縮してもよい。さらに、予め高濃度の溶液を調製後に、希釈してもよい。
【0084】
(添加剤)
本発明のポリマーフィルムの作製に用いられる前記ポリマー溶液は、各調製工程において用途に応じた各種の液体または固体の添加剤を更に含むことができる。前記添加剤の例としては、紫外線吸収剤(0.001〜1質量%)、平均粒子サイズが5〜3000nmである微粒子粉体(0.001〜1質量%)、フッ素系界面活性剤(0.001〜1質量%)、剥離剤(0.0001〜1質量%)、劣化防止剤(0.0001〜1質量%)、光学異方性制御剤(0.01〜10質量%)、赤外線吸収剤(0.001〜1質量%)が含まれる。ただし、( )内はポリマー100質量部に対する添加量である。
【0085】
前記光学異方性制御剤は、分子量3000以下の有機化合物であり、好ましくは疎水部と親水部とを併せ持つ化合物である。これらの化合物は、ポリマー鎖間で配向することにより、レターデーション値を変化させる。さらに、これらの化合物は、本発明で特に好ましく用いられるセルロースエステルと併用することで、フィルムの疎水性を向上させ、レターデーションの湿度変化を低減させることができる。
また、前記紫外線吸収剤や前記赤外線吸収剤を併用することで、効果的にレターデーションの波長依存性を制御することもできる。本発明のポリマーフィルムに用いられる添加剤は、いずれも乾燥過程での揮散が実質的にないものが好ましい。前記光学異方性制御剤のうち、本発明においては、目的とする光学特性(Re、Rth値)に応じて、光学異方性制御剤を好ましく用いることができる。Rthを上昇させる効果のある添加剤としては、具体的には、特開2005−104148号公報の33〜34頁に記載の可塑剤や、特開2005−104148号公報の38〜89頁に記載の光学異方性のコントロール剤などが挙げられる。
【0086】
(ポリマー溶液の調製)
前記ポリマー溶液の調製は、例えば、特開昭58−127737号公報、同61−106628号公報、特開平2−276830号公報、同4−259511号公報、同5−163301号公報、同9−95544号公報、同10−45950号公報、同10−95854号公報、同11−71463号公報、同11−302388号公報、同11−322946号公報、同11−322947号公報、同11−323017号公報、特開2000−53784号公報、同2000−273184号公報、同2000−273239号公報に記載されている調製方法に準じて行なうことができる。具体的には、ポリマーと溶媒とを混合攪拌し膨潤させ、場合により冷却や加熱等を実施して溶解させた後、これをろ過してポリマー溶液を得る。
【0087】
本発明においては、ポリマーの溶媒への溶解性を向上させるため、ポリマーと溶媒の混合物を冷却および/または加熱する工程を含んでもよい。溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、ポリマーとしてセルロースエステルを用いて、ポリマーと溶媒の混合物を冷却する場合、混合物を−100〜10℃に冷却することが好ましい。また、冷却工程より前の工程に−10〜39℃で膨潤させる工程を含み、冷却より後の工程に0〜39℃に加温する工程を含むことが好ましい。
【0088】
溶媒としてハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースエステルと溶媒の混合物を加熱する場合、下記(a)または(b)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースエステルを溶解する工程を含むことが好ましい。
(a)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜39℃に加温する。
(b)−10〜39℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜39℃に冷却する。
さらに、溶媒として非ハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースエステルと溶媒の混合物を冷却する場合、混合物を−100〜−10℃に冷却する工程を含むことが好ましい。また、冷却工程より前の工程に−10〜55℃で膨潤させる工程を含み、冷却より後の工程に0〜57℃に加温する工程を含むことが好ましい。
【0089】
溶媒として非ハロゲン系有機溶媒を用い、セルロースエステルと溶媒の混合物を加熱する場合、下記(c)または(d)より選択される1以上の方法で溶媒中にセルロースエステルを溶解する工程を含むことが好ましい。
(c)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0〜57℃に加温する。
(d)−10〜55℃で膨潤させ、得られた混合物を0.2〜30MPaで40〜240℃に加熱し、加熱した混合物を0〜57℃に冷却する。
【0090】
[ポリマーフィルムの製膜]
本発明のポリマーフィルムは、上記のポリマー溶液を用いて溶液流延製膜方法により製造することができる。溶液流延製膜方法の実施に際しては、従来の方法に従い、従来の装置を用いることができる。具体的には、溶解機(釜)で調製されたドープ(ポリマー溶液)を、ろ過後、貯蔵釜で一旦貯蔵し、ドープに含まれている泡を脱泡して最終調製することができる。ドープは30℃に保温し、ドープ排出口から、例えば回転数によって高精度に定量送液できる加圧型定量ギアポンプを通して加圧型ダイに送り、ドープを加圧型ダイの口金(スリット)からエンドレスに走行している流延部の金属支持体の上に均一に流延する(流延工程)。次いで、金属支持体がほぼ一周した剥離点で、生乾きのドープ膜(ウェブとも呼ぶ)を金属支持体から剥離し、続いて乾燥ゾーンへ搬送し、ロール群で搬送しながら乾燥を終了する。溶液流延製膜方法の流延工程、乾燥工程の詳細については、特開2005−104148号公報の120〜146頁にも記載があり、適宜本発明にも適用することができる。
【0091】
また、本発明のポリマーフィルムは、上記のポリマー溶液を用いずに溶融流延製膜方法により製造することができる。溶融流延製膜方法は、ポリマーを加熱して溶融したものを支持体上に流延し、冷却してフィルムを形成する方法である。ポリマーの融点、もしくはポリマーと各種添加剤の混合物の融点が、これらの分解温度よりも低くかつ延伸温度よりも高い場合には、溶融流延製膜方法を採用することが可能である。溶融流延製膜方法については、特開2000−352620号公報などに記載がある。
【0092】
本発明の透明ポリマーフィルムのレターデーションを制御する際には、ポリマーフィルムにかかる力学的な履歴、すなわち製膜過程においてポリマーウェブに与えられる外力を制御しておくことが好ましい。具体的には、製造される透明ポリマーフィルムが、大きなReを示す場合は、ポリマーウェブを、好ましくは0.1%以上300%未満、より好ましくは0.5〜200%、さらに好ましくは1〜100%延伸する。
【0093】
なお、ポリマーフィルムを搬送しながら作製する場合には、当該搬送方向へ延伸することが好ましい。この延伸の際にポリマーウェブの残留溶媒量は、下記式に基づいて算出されるもので2〜1000%とする。残留溶媒量は、10〜200%であることが好ましく、30〜150%であることがより好ましく、40〜100%であることがさらに好ましい。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
[式中、Mは、延伸ゾーンに挿入される直前のポリマーフィルムの質量、Nは、延伸ゾーンに挿入される直前のポリマーフィルムを110℃で3時間乾燥させたときの質量を表す]
【0094】
残留溶媒量が5%以上の状態で延伸すればヘイズが大きくなりにくく、残留溶媒量が1000%以下の状態で延伸すればポリマー鎖に加えられる外力が伝わりやすく、前記溶媒を含有した状態で実施されるポリマーウェブ延伸によるレターデーション発現性調整の効果が大きくなる傾向がある。なお、ポリマーウェブの残留溶媒量は、前記ポリマー溶液の濃度、金属支持体の温度や速度、乾燥風の温度や風量、乾燥雰囲気中の溶媒ガス濃度等を変更することにより、適宜調整することができる。
【0095】
この乾燥終了したフィルム中の残留溶剤量は0〜2質量%が好ましく、より好ましくは0〜1質量%であり、特に好ましくは0〜0.5質量%である。ポリマーフィルムの好ましい幅は0.5〜5mであり、より好ましくは0.7〜3mである。フィルムの好ましい巻長は300〜30000mであり、より好ましくは500〜10000mであり、さらに好ましくは1000〜7000mである。
【0096】
製膜した本発明のポリマーフィルムは膜厚80μm換算の透湿度については、0.1g/(m2・day)以上であることが好ましく、1〜1500g/(m2・day)であることがより好ましく、2〜1000g/(m2・day)であることがさらに好ましく、3〜800g/(m2・day)であることが特に好ましい。本発明のフィルムを、80μm換算で100g/(m2・day)以上の透湿度を有するものにするには、ポリマーの親疎水性を適切に制御するか、フィルムの密度を低下させることが好ましい。
【0097】
前者の方法として、例えば、ポリマー主鎖の親疎水性を適切に制御し、さらに疎水的もしくは親水的な側鎖を導入する方法などが挙げられ、後者の方法として、例えば、ポリマー主鎖に側鎖を導入する、製膜時に用いる溶媒の種類を選択する、製膜時の乾燥速度を制御する、などの方法が挙げられる。
【0098】
本発明における透湿度は、塩化カルシウムを入れたカップを評価するフィルムで蓋をして密閉したものを、40℃・相対湿度90%の条件で24時間放置した際の調湿前後の質量変化(g/(m2・day))から評価した値である。なお、透湿度は、温度の上昇に伴い上昇し、また、湿度の上昇に伴い上昇するが、各条件によらず、フィルム間における透湿度の大小関係は不変である。
【0099】
そのため、本発明においては40℃・相対湿度90%における前記質量変化の値を基準とする。また、透湿度は膜厚の上昇に伴い低下し、膜厚の低下に伴い上昇するため、まず実測した透湿度に実測した膜厚を乗じ、それを80で割った値を本発明における「膜厚80μm換算の透湿度」とした。
【0100】
《ポリマーフィルム》
(ポリマーフィルムの光学的特徴)
上記の本発明の製造方法によれば、レターデーションが制御された透明ポリマーフィルムを得ることができる。具体的には、本発明にかかる製造方法によれば、レターデーションが良好に発現した透明ポリマーフィルムを得ることができる。
【0101】
(レターデーション)
本明細書において、Re、Rth(単位;nm)は次の方法に従って求めたものである。まず、フィルムを25℃、相対湿度60%にて24時間調湿後、プリズムカップラー(MODEL2010 Prism Coupler:Metricon製)を用い、25℃、相対湿度60%において、532nmの固体レーザーを用いて下記式(a)で表される平均屈折率(n)を求める。
式(a): n=(nTE×2+nTM)/3
[式中、nTEはフィルム平面方向の偏光で測定した屈折率であり、nTMはフィルム面法線方向の偏光で測定した屈折率である。]
【0102】
本明細書において、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λ(単位;nm)における面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。Re(λ)はKOBRA 21ADHまたはWR(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。
測定されるフィルムが一軸または二軸の屈折率楕円体で表されるものである場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から−50°から+50°まで10°ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
【0103】
上記において、λに関する記載が特になく、Re、Rthのみ記載されている場合は、波長590nmの光を用いて測定した値のことを表す。また、法線方向から面内の遅相軸を回転軸として、ある傾斜角度にレターデーションの値がゼロとなる方向をもつフィルムの場合には、その傾斜角度より大きい傾斜角度でのレターデーション値はその符号を負に変更した後、KOBRA 21ADHまたはWRが算出する。なお、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の傾斜した2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率および入力された膜厚値を基に、以下の式(b)および式(c)よりRthを算出することもできる。
【0104】
【数1】

【0105】
[式中、Re(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。また、nxは面内における遅相軸方向の屈折率を表し、nyは面内においてnxに直交する方向の屈折率を表し、nzはnxおよびnyに直交する方向の屈折率を表し、dはフィルムの膜厚を表す。]
式(c): Rth=((nx+ny)/2−nz)×d
測定されるフィルムが一軸や二軸の屈折率楕円体で表現できないもの、いわゆる光学軸(optic axis)がないフィルムの場合には、以下の方法によりRth(λ)は算出される。
【0106】
Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHまたはWRにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−50度から+50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて11点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率および入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHまたはWRが算出する。
これら平均屈折率と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHまたはWRはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)がさらに算出される。
【0107】
本発明のポリマーフィルムは、590nmでの面内のレターデーション(Re)が0〜300nmであり、厚さ方向のレターデーション(Rth)が−200〜+300nmであることが好ましい。
また、本発明のポリマーフィルムは製膜中または製膜後に3%〜400%延伸した場合、その面内のレターデーション(Re)が30〜200nmであり、厚さ方向のレターデーション(Rth)が−50〜+250nmであることが好ましい。
【0108】
本発明において、相対湿度がH(単位;%)であるときの面内方向および膜厚方向のレターデーション値:Re(H%)およびRth(H%)は、フィルムを25℃、相対湿度H%にて24時間調湿後、25℃、相対湿度H%において、前記方法と同様にして、相対湿度H%における測定波長が590nmであるときのレターデーション値を測定、算出したものである。
【0109】
(湿度依存性)
本発明のポリマーフィルムの湿度を変化させた場合のレターデーション値は、以下の関係式を満たすことが好ましい。
|Re(10%)−Re(85%)|<10、且つ、
|Rth(10%)−Rth(85%)|<40
また以下の関係式を満たすことがより好ましい。
|Re(10%)−Re(85%)|<8、且つ、
|Rth(10%)−Rth(85%)|<35
また以下の関係式を満たすことがさらに好ましい。
|Re(10%)−Re(85%)|<5、且つ、
|Rth(10%)−Rth(85%)|<25
【0110】
(遅相軸)
本発明のポリマーフィルムは、製造時の搬送方向とフィルムのReの遅相軸のなす角度θが0±10°もしくは90±10°であることが好ましく、0±5°もしくは90±5°であることがより好ましく、0±3°もしくは90±3°であることがさらに好ましく、場合により、0±1°もしくは90±1°であることが好ましく、90±1°であることが最も好ましい。
【0111】
(膜厚)
本発明のポリマーフィルムの膜厚は20μm〜200μmが好ましく、30μm〜160μmがより好ましく、40μm〜120μmがさらに好ましい。膜厚が20μm以上であれば偏光板等に加工する際のハンドリング性や偏光板のカール抑制の点で好ましい。また、本発明のポリマーフィルムの膜厚むらは、搬送方向および幅方向のいずれも0〜2%であることが好ましく、0〜1.5%がさらに好ましく、0〜1%であることが特に好ましい。
【0112】
(ポリマーフィルムの構成)
本発明のポリマーフィルムは単層構造であっても複数層から構成されていても良いが、単層構造であることが好ましい。ここで、「単層構造」のフィルムとは、複数のフィルム材が貼り合わされているものではなく、一枚のポリマーフィルムを意味する。そして、複数のポリマー溶液から、逐次流延方式や共流延方式を用いて一枚のポリマーフィルムを製造する場合も含む。この場合、添加剤の種類や配合量、ポリマーの分子量分布やポリマーの種類等を適宜調整することによって厚み方向に分布を有するようなポリマーフィルムを得ることができる。また、それらの一枚のフィルム中に光学異方性部、防眩部、ガスバリア部、耐湿性部などの各種機能性部を有するものも含む。
【0113】
(表面処理)
本発明のポリマーフィルムには、適宜、表面処理を行なうことにより、各機能層(例えば、下塗層、バック層、光学異方性層)の接着を改善することが可能となる。前記表面処理には、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、鹸化処理(酸鹸化処理、アルカリ鹸化処理)が含まれ、特にグロー放電処理およびアルカリ鹸化処理が好ましい。ここでいう「グロー放電処理」とは、プラズマ励起性気体存在下でフィルム表面にプラズマ処理を施す処理である。これらの表面処理方法の詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載があり、適宜、使用することができる。
【0114】
フィルム表面と機能層の接着性を改善するため、表面処理に加えて、或いは表面処理に代えて、本発明の透明ポリマーフィルム上に下塗層(接着層)を設けることもできる。前記下塗層については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載があり、これらを適宜、使用することができる。また、セルロースエステルフィルム上に設けられる機能性層について、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に記載があり、これに記載のものを適宜、本発明の透明ポリマーフィルム上に使用することができる。
【0115】
《位相差フィルム》
本発明のポリマーフィルムは、位相差フィルムとして用いることができ、特に有用である。なお、「位相差フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差板、光学補償フィルム、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、位相差フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。本発明の透明ポリマーフィルムを用いることで、Re値およびRth値を自在に制御した位相差フィルムを容易に作製することができる。
【0116】
また、本発明のポリマーフィルムを複数枚積層したり、本発明のポリマーフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して位相差フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。また、場合により、本発明のポリマーフィルムを位相差フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて位相差フィルムとして使用することもできる。本発明の位相差フィルムに適用される光学異方性層は、例えば、液晶性化合物を含有する組成物から形成してもよいし、複屈折を持つポリマーフィルムから形成してもよいし、本発明のポリマーフィルムから形成してもよい。
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物または棒状液晶性化合物が好ましい。
【0117】
(ディスコティック液晶性化合物)
本発明において前記液晶性化合物として使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(例えば、C.Destrade et al.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,vol.71,page 111(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page 1794(1985);J.Zhang et.al.,J.Am.Chem.Soc.,vol.116,page 2655(1994))に記載の化合物が含まれる。
【0118】
前記光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。また、ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284号公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基の間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子については、特開2001−4387号公報に開示されている。
【0119】
(棒状液晶性化合物)
本発明において前記液晶性化合物として使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が含まれる。また、前記棒状液晶性化合物としては、以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
【0120】
前記光学異方性層において、棒状液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。本発明に使用可能な重合性棒状液晶性化合物の例は、例えば、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4,683,327号明細書、同5,622,648号明細書、同5,770,107号明細書、国際公開第95/22586号パンフレット、同95/24455号パンフレット、同97/00600号パンフレット、同98/23580号パンフレット、同98/52905号パンフレット、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、および特開2001−328973号公報等に記載の化合物が含まれる。
【0121】
《偏光板》
本発明のポリマーフィルムまたは位相差フィルムは、偏光板(本発明の偏光板)の保護フィルムとして用いることができる。本発明の偏光板は、偏光膜とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(透明ポリマーフィルム)からなり、本発明のポリマーフィルムまたは位相差フィルムは少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができる。
本発明のポリマーフィルムを前記偏光板保護フィルムとして用いる場合、本発明のポリマーフィルムには前記表面処理(特開平6−94915号公報、同6−118232号公報にも記載)を施して親水化しておくことが好ましく、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、または、アルカリ鹸化処理などを施すことが好ましい。特に、本発明のポリマーフィルムを構成するポリマーがセルロースアシレートの場合には、前記表面処理としてはアルカリ鹸化処理が最も好ましく用いられる。
【0122】
また、前記偏光膜としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光膜を用いる場合、接着剤を用いて偏光膜の両面に本発明の透明ポリマーフィルムの表面処理面を直接貼り合わせることができる。本発明の製造方法においては、このように前記ポリマーフィルムが偏光膜と直接貼合されていることが好ましい。前記接着剤としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例えば、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例えば、ポリブチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
【0123】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明の透明ポリマーフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれに用いてもよいが、本発明の透明ポリマーフィルムは、液晶表示装置における偏光膜と液晶層(液晶セル)の間に配置される保護フィルムとして、特に有利に用いることができる。また、前記偏光膜を挟んで本発明の透明ポリマーフィルムの反対側に配置される保護フィルムには、透明ハードコート層、防眩層、反射防止層などを設けることができ、特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムとして好ましく用いられる。
【0124】
《液晶表示装置》
本発明のポリマーフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらのモードのうち、本発明のポリマーフィルム、位相差フィルムおよび偏光板は特にVAモードおよびIPSモードの液晶表示装置に好ましく用いられる。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
【0125】
(TN型液晶表示装置)
本発明のポリマーフィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号および特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0126】
(STN型液晶表示装置)
本発明のポリマーフィルムは、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(Δn)とセルギャップ(d)の積(Δnd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0127】
(VA型液晶表示装置)
本発明のポリマーフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体として特に有利に用いられる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。これらの態様において本発明のポリマーフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラスの良化に寄与する。
【0128】
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明のポリマーフィルムは、IPSモードおよびECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置の位相差フィルムや位相差フィルムの支持体、または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。これらの態様において本発明のポリマーフィルムを用いた偏光板は視野角拡大、コントラスの良化に寄与する。
【0129】
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明のポリマーフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置或いはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が位相差フィルムの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムの光学的性質も、光学的異方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体の配置により決定される。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、特開平9−197397号公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.38(1999)p.2837)に記載がある。
【0130】
(反射型液晶表示装置)
本発明のポリマーフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の位相差フィルムとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる位相差フィルムについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0131】
(その他の液晶表示装置)
本発明のポリマーフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の位相差フィルムの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されている特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID 98 Digest 1089(1998))に記載がある。
【0132】
(ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム)
本発明のポリマーフィルムは、場合により、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへ適用してもよい。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明の透明ポリマーフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れか或いは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明のポリマーフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【実施例】
【0133】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
なお、実施例において用いた特性の測定法および評価法は以下の通りである。
【0134】
(置換度)
セルロースエステルのアシル置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83−91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
【0135】
(ガラス転移温度Tg)
DSC(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製)の測定パンに試料を20mg入れた。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃〜250℃まで昇温した後、30℃まで−10℃/分で冷却した。この後、再度30℃〜250℃まで昇温してベースラインが低温側から偏奇し始める温度をTgとした。
【0136】
(重量平均分子量、数平均分子量)
樹脂試料をTHFに溶解し0.5質量%のサンプル溶液を調製し、GPCを用いて下記条件で重量平均分子量および数平均分子量を測定した。なお、検量線はポリスチレン(TSK標準ポリスレン:分子量1050、5970、18100、37900、190000、706000)を用いて作成した。カラムは、TSK GEL Super HZ4000、TSK GEL Super HZ2000、TSK GEL Super HZM−M、TSK Guard Column Super HZ−L(何れも東ソー株式会社製)を用いた。カラム温度は40℃とし、溶離液としてTHFを用い、流量を1ml/分とし、検出器として屈折率計(RI)を用いて測定した。
【0137】
(レターデーション)
幅方向5点(中央部、端部(両端からそれぞれ全幅の5%の位置)、および中央部と端部の中間部2点)を長手方向に100mごとにサンプリングし、2cm□の大きさのサンプルを取り出し、前述の方法に従って評価したレターデーション値の各点の平均値を求め、それぞれRe、Rth、Re(10%)、Re(85%)、Rth(10%)、Rth(85%)とし、下記式(VIII)および(IX)からΔReおよびΔRthを算出した。なお、レターデーションはλ=590nmにて測定した。
式(VIII): ΔRe=|Re(10%)−Re(85%)|
式(IX): ΔRth=|Rth(10%)−Rth(85%)|
【0138】
[遅相軸バラツキ]
上記のレターデーション測定と同様にして取り出した各サンプルの遅相軸の向きについて、搬送方向もしくはそれと直交する方向からのズレ(単位;°、−45〜+45°の値をとりうる)の最大値と最小値の差を、遅相軸バラツキとした。
【0139】
(偏光度)
後述する[実施例7]に記載の偏光板の作製と評価に従って、それぞれのフィルムから作製した2枚の偏光板を吸収軸を平行に重ね合わせた場合の透過率(Tp)、および吸収軸を直交させて重ね合わせた場合の透過率(Tc)を測定し、下記式で表される偏光度(P)を算出した。
偏光度P=((Tp−Tc)/(Tp+Tc))0.5
ここで、透過率は下記の方法で算出した。
島津分光光度計UV−3100PCにて、透過率を測定し、10nmおきに求めた分光透過率τ(λ)から以下の式に従い算出した。式中、P(λ)は標準光C光源の分光分布、y(λ)は2度視野X,Y,Z系に基づく等色関数である。
【0140】
【数2】

【0141】
(偏光板耐久性)
上記で得られた、2枚の偏光板を60℃、90%RHで500時間経時させて、2枚を直交させ(クロスニコル)その初期からの透過率の上昇分を評価した。数字が大きいほど、経時での偏光板耐久性が悪化したことを示すものである。
【0142】
(透湿度)
透湿度は、塩化カルシウムを入れたカップにフィルムサンプルで蓋をし、且つ密閉したものを、60℃・相対湿度95%の条件で24時間放置した際の調湿前後の質量変化(g/(m2・day))から評価した値である。
【0143】
(フィルムの面状)
透明ポリマーフィルムの表面を目視により観察し、次の評価尺度に従って評価した。
A:フィルムの面状が良好で、光学フィルムとして好ましく適用できる。
B:フィルムに若干のうねりが確認されるが、光学フィルムとして好ましく適用できる。
C:フィルムに相当の面積に亘りうねりが生じるか、部分的に白濁しており、光学フィルムとしては適用できない。
D:フィルムに著しいうねりが生じるか、全面が白濁しており、光学フィルムとしては適用できない。
【0144】
(寸度)
試料30mm×120mmを、40℃、95%RH及び、60℃、90%RHでそれぞれ24時間調湿し、自動ピンゲージ(新東科学(株))にて、両端に6mmφの穴を100mm間隔に開け、間隔の原寸(L1)を最小目盛り1/1000mmまで測定した。さらに、90℃、5%RHにて24時間、120時間熱処理して、パンチ間隔の寸法(L2)を測定した。そして、寸度={(L1−L2)/L1}×100で求めた。
【0145】
(フィルム耐久性)
試料30mm×120mmを、60℃、95%RHでそれぞれ1500間経時した後、25℃にてフィルムの状態を目視で観察した。以下の評価基準に従って、フィルム耐久性を判断した。
A:フィルムに異状は認められなかった。
B:フィルムエッジ部に、微かなひび割れが認められた。
C:フィルムに、かなりのひび割れが認められた。
D:フィルムに、全面のひび割れが認められた。
【0146】
(ヘイズ)
フィルムの幅方向5点(フィルムの中央部、端部(両端からそれぞれ全幅の5%の位置)、および中央部と端部の中間部2点)をサンプリングし、JIS−K7136に準じて評価した各点の平均値を算出し、ヘイズ値を求めた。測定器はヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)を用いた。
【0147】
〔実施例1:透明ポリマーフィルムP101〜130の作製と評価〕
(1)ポリマー溶液の調製
(ポリマー)
各フィルムの製造において、ポリマーとして表1に記載のセルロースエステルを使用した。各ポリマーは110℃に加熱して乾燥し、含水率を0.5質量%以下とした後、20質量部を使用した。
含水率は、ポリマーフィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))にてカールフィッシャー法で測定した。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出した。
【0148】
(溶媒)
各フィルムの製造において、ジクロロメタン/メタノール/ブタノール(80/19/1質量部)の混合溶媒を使用した。なお、溶媒の含水率は、いずれも0.2質量%以下であった。
【0149】
(ポリマー溶液(以下、ドープと称する場合もある)の調製 )
攪拌羽根を有する4000L容積のステンレス製溶解タンクにて前記複数の溶媒を混合して混合溶媒とし、各種添加剤(後述)を添加してよく攪拌・分散しつつ、後述のポリマーA(セルローストリアセテート-A)を徐々に添加し、全体が2000kgになるように調整した。なお、溶媒は、すべてその含水率が0.2質量%以下のものを使用した。分散タンクにポリマーの粉末を投入して、ディゾルバータイプの偏芯攪拌軸を5m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec)の周速で回転させ、中心軸にアンカー翼を有する軸を周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec)で攪拌させながら、30分間分散した。分散の開始温度は20℃であり、最終到達温度は35℃となった。分散終了後、高速攪拌は停止し、アンカー翼の周速を0.5m/secとしてさらに100分間攪拌し、ポリマーフレークを膨潤させた。膨潤終了までは窒素ガスでタンク内を0.12MPaになるように加圧した。この際のタンク内の酸素濃度は2vol%未満であり防爆上で問題のない状態を保った。またドープ中の水分量は0.5質量%以下であることを確認した(0.3質量%)。
また、ポリマーAの濃度は20質量%とした。
【0150】
使用したポリマーA(セルローストリアセテート−AまたはセルロースエステルAともいう)は置換度2.85、粘度平均重合度305、含水率0.15質量%、メチレンクロライド溶液中6質量%の粘度295mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.5mmである粉体であり、残存酢酸量が0.01質量%以下であり、Caが0.001質量%、Mgは0.004質量%であり、Kは2ppm、Naは1ppmであり、Feは0.5ppm、硫黄(硫酸基として存在)は22ppm、であった。数平均分子量(Mn)は9.1万、重量平均分子量(Mw)は27.3万であり、Mw/Mnは3.1であった。また6位アセチル基の置換度は0.95であり全アセチル基中の33.3%であった。また、アセトン抽出分は8質量%、重量平均分子量と数平均分子量の比は3.1であり、分布の均一なものであった。また、ジクロロメタン/メタノール(90/10質量部)を用いて作製した膜厚80μmフィルムのイエローネスインデックスは0.3であり、ヘイズは0.08、透過率は93.5%であり、Tgは163℃、結晶化発熱量は6.8J/gであった。安息角35度、嵩密度0.55g/cm3、タップ密度0.63g/cm3、圧縮度13%の物性を有するものであった。更に、塩化メチレン/メタノール(92/8、および80/20質量比)の各混合溶媒にセルロースエステルAを、室温(25℃)で溶解させた溶液20kgを、平均口径10μmで直径10cm、厚さ1mmのセルロースエステルのろ紙を通過させ、しかる後にそれぞれの溶媒でろ紙をよく洗浄し、SUSフィルターの増加質量を測定したところ、その質量増加率は塩化メチレン/メタノール(92/8質量比)の場合は0.05%であり、塩化メチレン/メタノール(80/20質量比)の場合は0.09%であった。ここで、上記評価は以下の通りとした。安息角は、直径8cmの円板上に漏斗を介して注入して形成させた円錐状の斜辺と水平とのなす角度を測定して求めた。嵩密度は、セイシン企業製タップデンサーKYT−4000を用いて、シリンダー容量100cm3を用いてタップする前の嵩密度(A)を測定した。また、タップ密度はセイシン企業製タップデンサーKYT−4000を用いて、シリンダー容量100cm3を用いて、ストローク10mm、タップ回数200回のときの嵩密度(P)を測定した。更に、圧縮度は上記で得られた嵩密度A及びPの値から(P−A)/P×100で算出した(単位は%)。
なお、セルロースエステルB〜Eについては、後述した。
【0151】
(添加剤)
可塑剤:種類およびその含有量を表1に記載(セルロースエステルまたは環状ポリオレフィンに対する質量%、なおここで用いた本発明の高分子量可塑剤は、分子量500以下の成分は10質量%以下であった。)
UV吸収剤a:2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン0.4質量部(セルロースエステルまたは環状ポリオレフィンに対する質量%)
UV吸収剤b:アデカスタブLA−31(株式会社ADEKA製品) 0.4質量部(セルロースエステルまたは環状ポリオレフィンに対する質量%)
【0152】
UV吸収剤c:2(2’−ヒドロキシ−3’,5‘−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール0.4質量部(セルロースエステルまたは環状ポリオレフィンに対する質量%)
1225OCHCHO−P(=O)−(OK)(剥離剤):0.02質量部(セルロースエステルまたは環状ポリオレフィンに対する質量%)
クエン酸モノエチルエステルおよびクエン酸ジエチルエステル混合物(剥離剤):0.02質量部(セルロースエステルまたは環状ポリオレフィンに対する質量%)
微粒子:二酸化ケイ素(粒径20nm、モース硬度 約7)0.05質量部(セルロースエステルまたは環状ポリオレフィンに対する質量%)
【0153】
(溶解・濾過工程)
膨潤した溶液をタンクから、ジャケット付配管で50℃まで加熱し、更に1.2MPaの加圧下で90℃まで加熱して完全に溶解させた。加熱時間は15分とした。次に36℃まで温度を下げ、公称孔径8μmの濾材を通過させドープを得た。この際、濾過1次圧は1.3MPa、2次圧は1.0MPaとした。高温にさらされるフィルター、ハウジング、及び配管はハステロイ(登録商標)合金製で耐食性の優れたものを利用し、保温加熱用の熱媒を流通させるジャケットを有する物を使用した。
【0154】
(濃縮・濾過)
このようにして得られた濃縮前ドープを80℃で常圧のタンク内でフラッシュさせて、蒸発した溶剤を凝縮器で回収分離した。フラッシュ後のドープの固形分濃度は、24.8質量%となった。なお、凝縮された溶剤は調製工程の溶剤として再利用すべく回収工程に回された(回収は蒸留工程と脱水工程などにより実施されるものである)。フラッシュタンクでは、中心軸にアンカー翼を有する軸を周速0.5m/secで回転させることにより攪拌して脱泡を行った。タンク内のドープの温度は25℃であり、タンク内の平均滞留時間は50分であった。
【0155】
次に、ドープに弱い超音波照射することによって泡抜きを実施した。その後、1.3MPaに加圧した状態で、最初に、公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルターを通過させ、ついで同じく10μmの焼結繊維フィルターを通過させた。それぞれの一次圧は、1.4MPa、1.1MPaであり、二次圧は1.0MPa、0.7MPaであった。ろ過後のドープ温度は、36℃に調整して2000Lのステンレス製のストックタンク内に貯蔵した。ストックタンクでは、中心軸にアンカー翼を有する軸を周速0.3m/secで常時回転させることにより攪拌した。なお、濃縮前ドープからドープを調製する際に、ドープ接液部には、腐食などの問題は全く生じなかった。
【0156】
(2)フィルム作製
(流延工程)
続いてストックタンク内のドープを1次増圧用のギアポンプで高精度ギアポンプの1次側圧力が0.8MPaになるようにインバーターモーターによりフィードバック制御を行い送液した。高精度ギアポンプは容積効率99.3%、吐出量の変動率0.4%以下の性能であった。また、吐出圧力は1.4MPaであった。
【0157】
流延ダイは、幅が1.6mであり共流延用に調整したフィードブロックを装備して、主流のほかに両面にそれぞれ積層して3層構造のフィルムを成形できるようにした装置を用いた。以下の説明において、主流から形成される層を中間層と称し、支持体面側の層を支持体面と称し、反対側の面をエアー面と称する。なお、ドープの送液流路は、中間層用,支持体面用,エアー面用の3流路を用いた。なお、本フィルムの製造では中間層用の流路のみを利用した。
【0158】
そして、完成したポリマーフィルムの膜厚が80μmとなるように、ダイ突出口のポリマードープの流量を調整して流延を行った。ドープの温度を36℃に調整するため、流延ダイにジャケットを設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を36℃とした。
ダイ、フィードブロック、配管は、すべて作業工程中は36℃に保温した。ダイはコートハンガータイプのダイであり、厚み調整ボルトが20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。このヒートボルトは予め設定したプログラムにより高精度ギアポンプの送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、製膜工程内に設置した赤外線厚み計のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものである。流延エッジ部20mmを除いたフィルムで50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が2μm/m以下となるように調整した。また、ダイの1次側には減圧するためのチャンバーを設置した。この減圧チャンバーの減圧度は流延ビードの前後で1Pa〜5000Paの圧力差を印加できるようになっていて、流延スピードに応じて調整が可能なものである。その際に、ビードの長さが2mm〜50mmになるような圧力差に設定した。
【0159】
(流延ダイ)
ダイの材質は、オーステナイト相とフェライト相の混合組成を持つ2相系ステンレス鋼であり、熱膨張率が2×10−5(℃−1)以下の素材であり、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有する素材を使用した。流延ダイおよびフィードブロックの接液面の仕上げ精度は、表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは自動調整により0.5mm〜3.5mmまで調整可能であった。本フィルムの製造では、1.5mmで実施した。ダイリップ先端の接液部の角部分について、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工した。ダイ内部での剪断速度は1(sec−1)〜5000(sec−1)の範囲であった。
【0160】
また、流延ダイのリップ先端には、硬化膜が設けられているものを用いた。タングステン・カーバイド(WC)、Al23、TiN、Cr23などがあり、特に好ましくはWCであり、本発明では溶射法によりWCコーティングを形成したものを用いた。また、ドープを可溶化する溶剤である混合溶媒(ジクロロメタン/メタノール/ブタノール(83/15/2質量部))をビード端部とスリットの気液界面に片側で0.5ml/分で供給した。更に減圧チャンバーの温度を一定にするために、ジャケットを取り付け35℃に調整された伝熱媒体を供給した。エッジ吸引風量は、1L/分〜100L/分の範囲で調整可能なものを用い、本フィルムの製造では30L/分〜40L/分の範囲で適宜調整した。
【0161】
(金属支持体)
支持体として長さが100mのステンレス製のエンドレスバンドを利用した。バンドの厚みは1.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下に研磨し、材質はSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有するものとした。バンドの全体の厚みムラは0.5%以下であった。バンドは2個のドラムにより駆動するタイプを用い、その際のバンドのテンションは1.5×104kg/mに調整し、バンドとドラムの相対速度差が0.01m/分以下となるものであった。また、バンド駆動の速度変動は0.5%以下であった。また1回転の巾方向の蛇行は1.5mm以下に制限するようにバンドに両端位置を検出して制御した。また、流延ダイ直下における支持体表面のドラム回転に伴う上下方向の位置変動は200μm以下にした。支持体は、風圧振動抑制手段を有したケーシング内に設置されている。この支持体上にダイからドープを流延した。流延直前の支持体中央部の表面温度は15℃であった。両端の温度差は6℃以下であった。金属支持体の表面欠陥はあってはならないものであり、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m以下、10μm以下のピンホールは2個/m以下である支持体を使用した。
【0162】
(流延乾燥)
前記流延ダイ及び支持体などが設けられている流延室の温度は、35℃に保った。バンド上に流延されたドープは、最初に平行流の乾燥風を送り乾燥した。乾燥する際の乾燥風からのドープへの総括伝熱係数は24kcal/m2・hr・℃であった。乾燥風の温度はバンド上部の上流側を130℃とし、下流側を135℃とした。また、バンド下部は、65℃とした。それぞれのガスの飽和温度は、いずれも−8℃付近であった。支持体上での乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。また、流延室内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)を設け、その出口温度は、−10℃に設定した。
【0163】
流延後5秒間は遮風装置により乾燥風が直接ドープに当たらないようにして流延ダイ直近の静圧変動を±1Pa以下に抑制した。ドープ中の溶剤比率が乾量基準で45質量%になった時点で流延支持体からフィルムとして剥離した。この時の剥離テンションは8kgf/mであり、支持体速度に対して剥ぎ取り速度(剥取りロールドロー)は100.1%〜110%の範囲で適切に剥ぎ取れるように設定した。また、剥ぎ取ったフィルムの表面温度は14℃であった。支持体上での乾燥速度は平均62質量%乾量基準溶剤/分であった。乾燥して発生した溶剤ガスは凝縮装置に導き、−10℃で液化し、回収して仕込み用の溶剤として再利用した。溶剤を除去した乾燥風は再度加熱して乾燥風として再利用した。その際に、溶剤に含まれる水分量を0.5%以下に調整して再使用した。
剥ぎ取ったフィルムを多数のローラーが設けられている渡り部で搬送した。渡り部は3本のローラーを備えており、また渡り部の温度は40℃に保持した。渡り部のローラーで搬送している際に、フィルムに16N〜160Nのテンションを付与した。
【0164】
(テンター搬送・乾燥工程条件)
剥ぎ取られたフィルムは、クリップを有したテンターで両端を固定しながらテンターの乾燥ゾーン内を搬送し、乾燥風により乾燥した。クリップには、20℃の伝熱媒体を供給して冷却した。テンターの駆動はチェーンで行い、そのスプロケットの速度変動は0.5%以下であった。また、テンター内を3ゾーンに分け、それぞれのゾーンの乾燥風温度を上流側から90℃、100℃、110℃とした。乾燥風のガス組成は−10℃の飽和ガス濃度とした。テンター内での平均乾燥速度は120質量%(乾量基準溶剤)/分であった。テンターの出口ではフィルム内の残留溶剤の量は10質量%以下となるように調整し、本フィルムの製造では7質量%となるように乾燥ゾーンの条件を調整した。テンター内では搬送しつつ幅方向に延伸も行った。なお、テンターに搬送された際の幅を100%としたときの拡幅量を103%とした。剥取ローラーからテンター入口に至る延伸率(テンター駆動ドロー)は、102%とした。テンター内の延伸率はテンター噛み込み部から10mm以上離れた部分における実質延伸率の差異が10%以下であり、かつ20mm離れた任意の2点の延伸率差異は、5%以下であった。
【0165】
ベース端のうちテンターで固定している長さの比率は90%とした。また、テンタークリップの温度は50℃を超えないように冷却しつつ搬送した。テンター部分で蒸発した溶剤は−10℃の温度で凝縮させ液化して回収した。凝縮回収用に凝縮器(コンデンサ)を設け、その出口温度は−8℃に設定した。溶剤に含まれる水分を0.5質量%以下に調整して再使用した。
そして、テンター出口から30秒以内に両端の耳切りを行った。NT型カッターにより両側50mmの耳をカットした。テンター部の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。後述するローラー搬送ゾーンで高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥ゾーンでフィルムを予備加熱した。
【0166】
(後乾燥工程条件)
前述した方法で得られた耳切り後のポリマーフィルムを、ローラー搬送ゾーンで高温乾燥した。ローラー搬送ゾーンを4区画に分割して、上流側から120℃,130℃,130℃,130℃の乾燥風を給気した。このとき、フィルムのローラー搬送テンションは100N/巾として、最終的に残留溶剤量が0.3質量%になるまでの約10分間、乾燥した。該ローラーのラップ角度は、90度および180度を用いた。該ローラーの材質はアルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラーの表面形状はフラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。ローラーの回転による振れは全て50μm以下であった。また、テンション100N/巾でのローラー撓みは0.5mm以下となるように選定した。
【0167】
搬送中のフィルム帯電圧は、常時−3kV〜3kVの範囲となるように工程中に強制除電装置(除電バー)を設置した。又巻取り部では、帯電が−1.5kV〜1.5kVになるように、除電バーだけでなく、イオン風除電も設置した。
乾燥されたフィルムを第1調湿室に搬送した。ローラー搬送ゾーンと第1調湿室の間の渡り部には、110℃の乾燥風を給気した。第1調湿室には、温度50℃,露点が20℃の空気を給気した。さらに、フィルムのカールの発生を抑制する第2調湿室にフィルムを搬送した。第2調湿室では、フィルムに直接90℃、湿度70%の空気をあてた。
【0168】
(後処理、巻取り条件)
乾燥後のポリマーフィルムは、30℃以下に冷却して両端耳切りを行った。耳切りはフィルム端部をスリットする装置をフィルムの左右両端部に、2基ずつ設置して(片側当たりスリット装置数は2基)、フィルム端部をスリットした。ここで、スリット装置は、円盤状の回転上刃と、ロール状の回転下刃とから構成されており、回転上刃の材質は超鋼鋼材であり、回転上刃の直径が200mm、及び切断箇所の刃の厚みが0.5mmであった。ロール状の回転下刃の材質は超鋼鋼材であり、回転下刃のロール径が100mmであった。
【0169】
そして、スリットされたフィルム断面の表面粗さ(算術平均粗さ:Ra)を測定したところ、0.2μmであった。また、スリットされたフィルム断面は、比較的平滑であり、切り粉もなかった。また、上記セルロースエステルフィルムの製膜において、搬送中におけるフィルムの破断は全く無かった。
ここで、フィルム断面の表面粗さの測定は、ZYGO社製の表面粗さ測定器(NewView5010)を用い、対物レンズ50倍、及びイメージズーム1.3倍の装置条件で測定した。またこの場合、測定条件は、Mesure Cntrlキーで適宜設定し、測定したデータは、Analyze Cntrlキーを適宜設定して、データ処理を行なった。
【0170】
こうして、幅1500mm、及び膜厚80μmのセルロースエステルフィルムを得て、巻取り機により巻き取った。また、スリットされたセルロースエステルフィルムのフィルム端部から20mm幅の箇所の寸法変化率を測定した。ここで、寸法変化率の評価は、セルロースエステルフィルムの製造直後の寸法(幅手方向長さ)に対し、温度90℃、相対湿度5%の環境下に120時間保持した後に変化した寸法(幅手方向長さ)の百分率をとって評価した。その結果、セルロースエステルフィルム端部から20mm幅の箇所の寸法変化率は、−0.13%であり問題はなかった。
さらにフィルムの両端にナーリングを行った。ナーリングは片側からエンボス加工を行なうことで付与し、ナーリングする幅は10mmであり、最大高さは平均厚みよりも平均12μm高くなるように押し圧を設定した。
【0171】
そして、フィルムを巻取り室に搬送した。巻取り室は、室内温度25℃、湿度60%に保持した。このようにして得られたポリマーフィルムの製品幅は、1500mmとなった。巻き芯の径は169mm、巻き始めテンションは390N/巾であり、巻き終わりが250N/巾になるようなテンションパターンとした。巻取り全長は3250mであった。巻取りの際のオシレート周期を400mとし、オシレート幅を±5mmとした。また、巻取りロールに対するプレスロールの押し圧を50N/巾に設定した。巻取り時のフィルムの温度は25℃、含水量は0.8質量%、残留溶剤量は0.2質量%であった。全工程を通して平均乾燥速度は20質量%(乾量基準溶剤)/分であった。また巻き緩み、シワもなく、10Gでの衝撃テストにおいても巻きずれが生じなかった。また、ロール外観も良好であった。以上の工程を経て、ポリマーフィルム試料を製膜した。フィルム試料のロールを25℃、相対湿度55%の貯蔵ラックに1ヶ月間保管して、さらに上記と同様に検査した結果、いずれも有意な変化は認められなかった。さらにロール内において接着も認められなかった。また、フィルム試料を製膜した後に、金属支持体であるエンドレスベルト上にはドープから形成された流延膜の剥げ残りは全く見られなかった。
【0172】
(3)ポリマーフィルムの評価
作製した各ポリマーフィルムを以下に示す各種の観点で評価し、その結果を表1に示した。
【0173】
(ロール汚れの評価)
A:金属支持体上に、汚れ物質は全く認められなかった。
B:金属支持体上に、汚れ物質が微かに認められた。
C:金属支持体上に、汚れ物質がかなり認められた。
D:金属支持体上に、汚れ物質が全面に認められた。
【0174】
(耳切り状態の評価)
A:耳切り幅は200mm以内であり、ルーペで5倍拡大したフィルムの耳切りエッジ部に傷は見られなかった。
B:耳切り幅は200mm以内であり、ルーペで5倍拡大したフィルムの耳切りエッジ部に小さい傷が認められた。
C:耳切り幅は250mm以上であり、ルーペで5倍拡大したフィルムの耳切りエッジ部に小さい傷が認められた。
D:耳切り幅は250mm以上であり、ルーペで5倍拡大したフィルムの耳切りエッジ部に多数の傷が認められた。
【0175】
(加熱泣き出しの評価)
10cm四方のフィルムを、25℃、60%RHの環境で2時間調湿した後、230℃の恒温槽にて10分加熱した。この加熱フィルムを取り出し、25℃、60%RHの環境下に2時間放置した後、フィルム表面の状態を目視で観察した。
A:フィルム表面に、泣き出し物質は見られなかった。
B:フィルム表面に、微かに泣き出し物質が見られた。
C:フィルム表面に、かなりの泣き出し物質が見られた。
D:フィルム表面に、全面に泣き出し物質が見られた。
【0176】
【表1】

【0177】
【表2】

【0178】
表1に示したように、可塑剤を使用しない比較用フィルムP101は、耳切り状態、透湿度、寸度が悪く、偏光板耐久性が著しく悪く、光学用フィルムとして大きく劣るものである。更に、本発明にかかる脂肪族系高分子可塑剤または芳香族系高分子可塑剤のどちらか一方のみを添加した比較フィルムP102〜比較フィルムP105も同様に、寸度や偏光板耐久性が劣るものであり、本発明の目的を達成することは出来なかった。また、低分子可塑剤である一般のポリマーに使用される比較可塑剤−AおよびBを用いた比較フィルムP116〜フィルムP119は、ロール汚れ、加熱泣き出し、フィルム耐久性の全てを満足させることはできなかった。また、芳香族系高分子量可塑剤であるが分子量が小さい比較フィルムP120〜P122はロール汚れや加熱泣き出しが悪く、光学用フィルムとして使用できないものであった。さらに、脂肪族系高分子量可塑剤あるいは芳香族系高分子量可塑剤ではあるが、その数平均分子量が小さく本発明の範囲外である比較用可塑剤D、E、Fを用いたフィルムP123〜126は、面状、ロール汚れ、加熱泣き出しの全てを満足させることはできなかった。一方、脂肪族系高分子量可塑剤ではあるが、その数平均分子量が大きく本発明の範囲外である比較用可塑剤Gを用いたフィルムP127も、面状、ロール汚れ、耳切り、寸度などを満足することができないものであった。また、本発明の脂肪族系高分子量可塑剤および芳香族系高分子量可塑剤を使用しているが、その混合比が本発明の範囲外であるフィルムP128およびP129は、寸度、偏光板耐久性で見劣りするものであり実用上問題となるレベルと判断されるものであった。また、本発明の脂肪族系高分子量可塑剤および芳香族系高分子量可塑剤を使用しているが、その添加量が本発明の範囲外であるフィルムP130は、特性上で問題となるものであった。これに対して、本発明のフィルムP106〜フィルムP115は、面状、ロール汚れ、耳切り状態、ヘイズ、透湿度、寸度、加熱泣き出しおよびフィルム耐久性の全て満足するものであり、光学用フィルムとして優れたものであった。更に、本発明のフィルムは遅相軸バラツキは、全て0.2°以下であり優れた遅相軸バラツキレベルであった。また、本発明のフィルムはΔReはすべて8nm以下であり、ΔRthはすべて35nm以下であり実用上で問題のないものであった。
【0179】
下記表2に各可塑剤の数平均分子量と140℃、60分間の加熱減量(%)の値を示す。なお、加熱減量は、下記式で求められる。
加熱減量(%)={(加熱前の質量)−(加熱後の質量)}/(加熱前の質量)×100
本発明における可塑剤は加熱減量が1%未満となり、製造時の工程汚染の低減が可能であることがわかる。
【0180】
【表3】

【0181】
〔実施例2:透明ポリマーフィルムP201〜204の作製と評価〕
セルロースエステルAをセルロースエステルB〜Eに変更する以外は実施例1におけるポリマーフィルムP106の作製と全く同様にして、本発明のポリマーフィルムP201〜204を作製した。表1に記載したように、これらのフィルムはロール汚れ、耳切り状態、加熱泣き出しを全て満足するものであり、Rthの湿度依存性(ΔRth)も小さく、優れた特性を有する光学フィルムであった。
ここで、セルロースエステルB〜Eについて、下記に記述する。
【0182】
セルロースエステルBはセルローストリアセテートであり、置換度2.49、粘度平均重合度280、含水率0.2質量%、メチレンクロライド溶液中6質量%の粘度260mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.4mmである粉体、残存酢酸量0.02質量%以下、Caが5ppm、Mgは40ppm、Kは3ppm、Naは2ppmであり、Feは0.5ppm、硫黄(硫酸基として存在)は29ppm、Kは11ppm、Naは5ppmであり、さらにFeは0.4ppmであった。数平均分子量(Mn)は8.4万、重量平均分子量(Mw)は23.8万であり、Mw/Mnは2.8であった。また、6位アセチル基の置換度は0.85であり6位置換度の総和は全アセチル中の34%、イエローネスインデックスは0.4、ヘイズは0.07、透明度は92.7%、Tgは152℃、結晶化発熱量は3.1J/gであった。また、安息角38度、嵩密度0.55g/cm3、タップ密度0.60g/cm3、圧縮度8%の物性を有するものであった。更に、塩化メチレン/メタノール(92/8、および80/20質量比)の各混合溶媒にセルロースエステルBを、室温(25℃)で溶解させた溶液20kgを、平均口径10μmで厚さ1mmのろ紙を通過させ、しかる後にそれぞれの溶媒でろ紙をよく洗浄し、SUSフィルターの増加質量を測定したところ、その質量増加率は塩化メチレン/メタノール(92/8質量比)の場合は0.05%であり、塩化メチレン/メタノール(80/20質量比)の場合は0.09%であった。
【0183】
セルロースエステルCはセルロースアセテートプロピオネートであり、アセチル置換度1.90、プロピオネート置換度0.75で全置換度は2.65、粘度平均重合度260、含水率0.1質量%、メチレンクロライド溶液中6質量%の粘度245mPa・s、平均粒子径0.9mmであって標準偏差0.4mmである粉体、残存酢酸量は80ppmおよびプロピオン酸量は70ppm、Caが12ppm、Mgは50ppm、Kは3ppm、Naは2ppmであり、Feは2ppm、硫黄は28ppm、その他の金属類の総量は2ppm以下であり、6位アセチル基及びプロピオニル基はそれぞれ0.70と0.25であり6位置換度の総和は全置換基の36%、重量平均分子量(Mw)は22万であり数平均分子量(Mn)は6.9万であり、その比(Mw/Mn)は3.2、イエローネスインデックスは0.8、ヘイズは0.2、透明度は93.0%、Tgは146℃、結晶化発熱量は3.3J/gであった。安息角33度、嵩密度0.35g/cm3、タップ密度0.40g/cm3、圧縮度25%の物性を有するものであった。更に、塩化メチレン/メタノール(92/8、および80/20質量比)の各混合溶媒にセルロースエステルCを、室温(25℃)で溶解させた溶液20kgを、平均口径10μmで厚さ1mmのろ紙を通過させ、しかる後にそれぞれの溶媒でろ紙をよく洗浄し、SUSフィルターの増加質量を測定したところ、その質量増加率は塩化メチレン/メタノール(92/8質量比)の場合は0.05%であり、塩化メチレン/メタノール(80/20質量比)の場合は0.09%であった。
【0184】
セルロースエステルDはセルロースアセテートブチレートであり、アセチル置換度1.69、ブチレート置換度1.25で全置換度は2.94、粘度平均重合度300、含水率0.1質量%、メチレンクロライド溶液中6質量%の粘度225mPa・s、平均粒子径1.0mmであって標準偏差0.4mmである粉体、残存酢酸量は100ppm、ブタン酸量は50ppm、Caが3ppm、Mgは30ppm、Kは1ppm、Naは3ppmであり、Feは0.9ppm、硫黄(硫酸基として存在)は28ppmであり、6位アセチル基及びプロピオニル基はそれぞれ0.51と0.45であり6位置換基の総和は全置換基の33%、重量平均分子量は22万であり、数平均分子量は6.8万であり、その比(Mw/Mn)は3.2であり、イエローネスインデックスは0.9、ヘイズは0.5、透明度は92.9%、Tgは153℃、結晶化発熱量は3.9J/gであった。
【0185】
セルロースエステルEはセルロースアセテートベンゾエートであり、アセチル置換度1.89であり、ベンゾイル置換度0.98で全置換度は2.87、粘度平均重合度290、含水率0.4質量%、メチレンクロライド溶液中6質量%の粘度320mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.4mmである粉体、残存酢酸量と安息香酸は共に0.03質量%以下、Caが2ppm、Mgは30ppm、Kは4ppm、Naは9ppmであり、Feは0.5ppm、硫黄(硫酸基として存在)は21ppmであった。数平均分子量(Mn)は6.8万、重量平均分子量(Mw)は19.4万であり、Mw/Mnは2.9であった。6位アセチル基と安息香酸基はそれぞれ0.82と0.06であり全置換基の33%、イエローネスインデックスは0.5、ヘイズは0.6、透明度は93.4%、Tgは133℃、結晶化発熱量は5.2J/gであった。
【0186】
〔実施例3:透明ポリマーフィルムP301の作製と評価〕
下記の添加剤TA-1を3質量%(対ポリマー)更に添加した以外は実施例1におけるポリマーフィルムP111の作製と、可塑剤PA−13をPA−6に置き換えた以外は全く同様にして、本発明のポリマーフィルムP301を作製した。表1に記載したように、フィルムP301はロール汚れ、耳切り状態、加熱泣き出しを全て満足するものであり、優れた特性を有する光学フィルムであった。
【0187】
【化1】

【0188】
〔実施例4:透明ポリマーフィルムP401の作製と評価〕
前記<(1)ポリマー溶液の調製>により調製した溶液を用い、以下のフィルム作製方法に従った製膜工程でフィルムを作製した以外は、実施例1における本発明のポリマーフィルムP106と全く同様にしてフィルムP401(本発明)を得た。
【0189】
(フィルムP401の製膜工程)
前記ポリマー溶液を30℃に加温し、流延ギーサーを通して直径3mのドラムである鏡面ステンレス支持体上に流延した。支持体の表面温度は−5℃に設定し、塗布幅は1470mmとした。流延部全体の空間温度は、15℃に設定した。そして、流延部の終点部から50cm手前で、流延して回転してきたセルロースエステルフィルムをドラムから剥ぎ取った後、両端をピンテンターでクリップした。剥ぎ取り直後のセルロースエステルェブの残留溶媒量、および支持体速度に対する剥ぎ取り速度(剥ぎ取りロールドロー)、およびセルロースエステルェブの膜面温度は3℃であった。
【0190】
ピンテンターで保持されたセルロースエステルェブは、乾燥ゾーンに搬送した。初めの乾燥では45℃の乾燥風を送風した。次に110℃で10分、さらに140℃で18分乾燥し、巻き取り直前に両端(全幅の各5%)を耳切りした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、3000mのロール状に巻き取った。このようにして得た透明フィルムの幅は各水準とも1.45mであり、膜厚は40μmであった。表1に記載したように、これらのフィルムはロール汚れ、耳切り状態、加熱泣き出しを全て満足するものであり、Rthの湿度依存性(ΔRth)も小さい優れた特性を有するものであった。
【0191】
〔実施例5:延伸ポリマーフィルムP501および502の作製と評価〕
実施例3で作製したポリマーフィルムP301を、さらに下記の方法により延伸してフィルム501および502を得た。すなわち、フィルムP301の両端をテンタークリップで把持した後、加熱ゾーン内で搬送方向と直交する方向に延伸した(フィルムP501)。加熱ゾーンの温度は170℃とし、20%延伸して本発明のフィルムP501を得た。なお、延伸倍率は、フィルムの搬送方向と平行な方向に一定間隔の標線を入れ、その間隔を延伸前後で計測し、下記式から求めた。
延伸倍率(%)=100×(延伸後の標線の間隔−延伸前の標線の間隔)/延伸前の標線の間隔
このようにして再延伸して得られたポリマーフィルムP501は、膜厚が65μmであり、Reが58nmであり、Rthは115nmであった。このフィルムは、ロール汚れ、耳切り状態、加熱泣き出しを全て満足するものであり、Rthの湿度依存性(ΔRth)も28nmと小さい優れた特性を有するものであり、有用な位相差フィルムとして応用できるものである。
また、添加剤TA-1の添加量を6質量%にし、可塑剤の種類を表1に記載の2種に変更し、過熱ゾーンの温度を175℃とし、28%延伸した以外は、フィルムP501と全く同様にして、延伸した本発明のフィルムP502を得た。得られたフィルムP502は、膜厚が55μmであり、Reが65nmであり、Rthは190nmであった。このフィルムは、ロール汚れ、耳切り状態、加熱泣き出しを全て満足するものであり、Rthの湿度依存性(ΔRth)も26nmと小さく、優れた特性を有するものであった。
【0192】
〔実施例6:積層位相差フィルムの作製と評価〕
本発明のポリマーフィルムは、位相差フィルムとしてそのまま使用することができるが、ここでは、粘着剤を用いてフィルムをロールツーロールで貼り合わせることにより、Rth/Re比を制御した位相差フィルムを作製した。フジタックTD80UF(富士フィルム(株)製)と実施例5で作製した本発明のフィルムP501とを粘着剤(ポリ(メチルアクリレート/ブチルアクリレート/ヒドロキシエチルアクリレート)とトルエンジイソシアネートおよびジグリシジルエチレングリコールからなる)を用いてロールツーロールで貼り合せて、Re=63nm、Rth=158nmの偏光板位相差フィルムを作製した。また、この位相差フィルムのReの遅相軸は、フィルムの幅方向に観測され、偏光板としては優れた面状であった。
【0193】
〔実施例7:偏光板の作製と評価〕
(1)フィルムのケン化
本発明のポリマーフィルムP106を、55℃に保った1.5mol/LのNaOH水溶液(ケン化液)に2分間浸漬した後、フィルムを水洗し、その後、25℃の0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、さらに水洗浴を30秒流水下で通して、フィルムを中性にした状態にした。そして、エアナイフによる水切りを3回繰り返し、水を落とした後に70℃の乾燥ゾーンに15秒間滞留させて乾燥し、ケン化処理したフィルムを作製した。得られたフィルムは面状も優れたものであり、光学特性などもケン化前の特性をほぼ維持したものであった。
【0194】
(2)偏光膜の作製
特開2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を調製した。
(3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、前記ケン化処理したフィルム(2枚)を、フィルムの鹸化面を偏光膜側に配置し、これらで前記偏光膜を挟んだ後、PVA((株)クラレ製、PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とフィルムの長手方向とが直交するように貼り合わせて、偏光板7001を調製した。
他の試料についても、ポリマーフィルムP106の偏光板を作製したときと同様にして、表1にその偏光板耐久性の評価結果を記載した。
【0195】
(4)偏光板の評価
(初期偏光度)
前記偏光板の偏光度を下記方法で算出した。初期偏光度、経時偏光度1および経時偏光度2は、全て99.99%であり、優れた偏光板特性を示した。
(経時偏光度1)
前記偏光板の一方のフィルム側を粘着剤でガラス板に貼り合わせ、60℃・相対湿度95%の条件で500時間放置し、放置後の偏光度(経時偏光度)を前述の方法で算出した。経時後の偏光度低下は、0.02%以下であり優れた耐久性特性であった。
(経時偏光度2)
前記偏光板の一方のフィルム側を粘着剤でガラス板に貼り合わせ、90℃・相対湿度0%の条件で500時間放置し、放置後の偏光度(経時偏光度)を前述の方法で算出したところ、偏光度の低下は0.02%以下であり実用上問題にならないレベルであった。
【0196】
〔実施例8:透明ポリマーフィルムP801およびP802の作製と評価〕
フィルム膜厚を60μmおよび40μmとなるようにした以外は実施例1の本発明のポリマーフィルムP106の作製と同様にして、ポリマーフィルムP801およびP802を製造した。これらのフィルムは、表1に示すようにロール汚れ、耳切り状態、加熱泣き出しを全て満足するものであり、優れた特性を有するものであり、有用な位相差フィルムとして応用できるものである。
【0197】
〔実施例9:偏光板の作製と評価〕
実施例7におけるポリマーフィルムP106を実施例8で作製したP801及びP802に変更する以外は、実施例7と同様にして、偏光板901及び偏光板902を作製した。実施例7の(4)偏光板の評価方法に従って、その評価を行ったところ実施例7と同様に優れた偏光板であることが確認できた。すなわち、初期偏光度、経時偏光度1および経時偏光度2は、全て99.99%であり、優れた偏光板特性を示した。
【0198】
〔実施例10:VA液晶表示装置(1枚型)の作製と評価〕
実施例5で作製した本発明のポリマーフィルムP502を、特開2007-272100号公報の実施例1に記載のフィルム1の代りに使用する以外は、特開2007-272100号公報の実施例1に従って、偏光板の作製、VAパネルへの実装を実施し(1枚型)、VA液晶表示装置を作製した。本発明のポリマーフィルムを用いた場合でも、優れた視野角であり、色ずれやパネルのソリや周辺部光漏れなどのないものであった。以上からも本発明のフィルムは、液晶表示装置への適用においても優れたものであることが実証された。
【0199】
〔実施例11:VA液晶表示装置(2枚型)の作製と評価〕
実施例5で作製した本発明のポリマーフィルムP501を、特開2007-272100号公報の実施例3に記載のフィルム31の代りに使用する以外は、特開2007-272100号公報の実施例3に従って、偏光板の作製、VAパネルへの実装を実施し(2枚型)、VA液晶表示装置を作製した。本発明のポリマーフィルムを用いた場合でも、優れた視野角であり、色ずれやパネルのソリや周辺部光漏れなどのないものであった。以上からも本発明のフィルムは、液晶表示装置への適用においても優れたものであることが実証された。
【0200】
〔実施例12:OCB液晶表示装置の作製と評価〕
実施例5で作製した本発明のポリマーフィルムP502を、特開2007-264259号公報の実施例8に記載のセルロースアシレートフィルムの代りに使用する以外は、特開2007-264259号公報の実施例8に従って、偏光板の作製、視野角補償フィルム付きOCBパネルへの実装を実施し、OCB液晶表示装置を作製した。本発明のポリマーフィルムを用いた場合でも、優れた視野角であり、色ずれやパネルのソリや周辺部光漏れなどのないものであった。以上からも本発明のフィルムは、液晶表示装置への適用においても優れたものであることが実証された。
【0201】
〔実施例13:透明ポリマーフィルムP1316、1321〜1324の作製と評価〕
溶媒をメチレンクロライド/酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/ブタノール(45/40/5/5/3/2質量比)に変更する以外は実施例1のP106、および実施例2のP201〜P204の作製と全く同様にして、本発明のポリマーフィルムP1316、1321〜1324を作製した。これらのフィルムはロール汚れ、耳切り状態、加熱泣き出しを全て満足するものであり、ヘイズ、寸度も小さく偏光板耐久性やフィルム耐久性も優れた特性を有するものであり、光学特性も優れたものであった。
【0202】
〔実施例14:透明ポリマーフィルムP1416、1421〜1424の作製と評価〕
ポリマーフィルムP111をポリマーフィルムP1316、1321〜1324に変更する以外は、実施例3と全く同様にして、添加剤TA-1を含有した本発明のポリマーフィルムP1416、1421〜1424を作製した。これらのフィルムはロール汚れ、耳切り状態、加熱泣き出しを全て満足するものであり、ヘイズ、寸度も小さく、偏光板耐久性やフィルム耐久性も優れた特性を有するものであり、光学特性も優れたものであった。
【0203】
〔実施例15:延伸ポリマーフィルムP1516、1521〜1524の作製と評価〕
ポリマーフィルムP301を、ポリマーフィルムP1416、1421〜1424に変更する以外は、実施例5と全く同様にして、延伸処理した本発明のポリマーフィルムP1516、1521〜1524を作製した。得られたポリマーフィルムP1516、1521〜1524は、膜厚がほぼ55μmであり、Re/Rthはそれぞれ68nm/125nm、75nm/130nm、60nm/115nm、45nm/105nm、80nm/60nmであった。また、これらのフィルムはロール汚れ、耳切り状態、加熱泣き出しを全て満足するものであり、ヘイズ、寸度も小さく、偏光板耐久性やフィルム耐久性も優れた特性を有するものであり、優れた延伸フィルムを得ることが出来た。
【0204】
〔実施例16:液晶表示装置の作製と評価〕
実施例15で作製した本発明のポリマーフィルムP1516、1521〜1524それぞれを、特開2007-272100号公報の実施例1に記載のフィルム1の代りに使用する以外は、特開2007-272100号公報の実施例1に従って、偏光板の作製、VAパネルへの実装を実施し(1枚型)、VA液晶表示装置を作製した。本発明の実施例フィルムを用いた場合でも、優れた視野角であり色ずれやパネルのソリや周辺部光漏れなどのないものであった。以上からも本発明のフィルムは、液晶表示装置への適用においても優れたものであることが実証された。
【0205】
[実施例17]
セルロースエステルAを下記の<環状ポリオレフィン重合体P−1>に変更する以外は実施例1におけるポリマーフィルムP106の作製と全く同様にして、本発明のポリマーフィルムP1701を作製した。表1に記載したように、これらのフィルムはロール汚れ、耳切り状態、加熱泣き出しを全て満足するものであり、Rthの湿度依存性(ΔRth)も小さく、優れた特性を有する光学フィルムであった。
【0206】
<環状ポリオレフィン重合体P−1の合成>
精製トルエン100質量部とノルボルネンカルボン酸メチルエステル100質量部を反応釜に投入した。次いでトルエン中に溶解したエチルヘキサノエート−Ni25mmol%(対モノマー質量)、トリ(ペンタフルオロフェニル)ボロン0.225mol%(対モノマー質量)及びトルエンに溶解したトリエチルアルミニウム0.25mol%(対モノマー質量)を反応釜に投入した。室温で攪拌しながら18時間反応させた。反応終了後過剰のエタノール中に反応混合物を投入し、重合物沈殿を生成させた。沈殿を精製し得られた環状ポリオレフィン重合体(P−1)を真空乾燥で65℃24時間乾燥した。
【0207】
得られた重合体をテトラヒドロフランに溶解し、ゲルパーエミションクロマトグラフィーによる分子量を測定したところ、ポリスチレン換算の数平均分子量は79,000、重量平均分子量は205,000であった。得られた重合体をアッベの屈折計で測定した屈折率は1.52であった。
【0208】
[実施例18]
ポリマーフィルムP106において、可塑剤PA−6を12質量%、PB−10を3質量%(PA/PB比=8/2)とした以外は同様にして、ポリマーフィルムP1801を作製し、評価した。表3に示したようにP1801は、面状・ロール汚れ・耳きり状態すべてが「A」評価であった。
【0209】
[実施例19]
ポリマーフィルムP106において、高分子可塑剤である可塑剤PA−23を7.5質量%、PB−32を7.5質量%とした以外は同様にして、ポリマーフィルムP1901を作製し、評価した。また高分子可塑剤である可塑剤PA−23を7.5質量%、PB−33を7.5質量%とした以外は同様にして、ポリマーフィルムP1902を作製し、評価した。表3に示したようにP1901およびP1902はいずれも、面状・ロール汚れ・耳きり状態すべてが「A」評価であり、その他の性能も表1のポリマーフィルムP106と同様に好ましいものであった。
【0210】
[実施例20]
ポリマーフィルムP501において、高分子可塑剤を可塑剤PA−23を7.5質量%、PB−32を7.5質量%とした以外は同様にして、ポリマーフィルムP2001を作製し、評価した。得られた延伸フィルムは膜厚60μm、Reが55nmであり、Rthが112nmである以外はポリマーフィルムP501同様、面状・ロール汚れ・耳きり状態すべてが「A」評価であり、好ましい性能であった。
【0211】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと高分子量可塑剤を含むポリマーフィルムであって、該高分子量可塑剤が、
少なくとも、脂肪族ジカルボン酸と脂肪族ジオールとを原料として得られる重縮合物であり、数平均分子量が700〜10000である脂肪族高分子量可塑剤(PA)と、
少なくとも、脂肪族ジオールおよび少なくとも一種の芳香環を有するジオールのうち少なくとも1種と、少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸とを原料として得られる重縮合物であり、数平均分子量が700〜10000である芳香族高分子量可塑剤(PB)と、
を含む混合物からなり、該脂肪族高分子量可塑剤(PA)および該芳香族高分子量可塑剤(PB)の合計の含有量が、該ポリマーに対して2〜30質量%であり、かつ該脂肪族高分子量可塑剤(PA)と該芳香族高分子量可塑剤(PB)との質量比が1/9〜9/1であるポリマーフィルム。
【請求項2】
前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)に用いられる脂肪族ジカルボン酸が少なくとも1種の炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸であり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸が少なくとも1種の炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸であり、前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)および前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる脂肪族ジオールが炭素数2〜20の脂肪族ジオールまたは炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールであり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる芳香族環含有ジオールが炭素数6〜20の芳香族環含有ジオールである請求項1に記載のポリマーフィルム。
【請求項3】
前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)に用いられる脂肪族ジカルボン酸が、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、マレイン酸またはフマル酸であり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる少なくとも一種の芳香環を有するジカルボン酸が、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸または2,6−ナフタレンジカルボン酸である請求項1または2に記載のポリマーフィルム。
【請求項4】
前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)および前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる脂肪族ジオールが、エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジシクロヘキシルジオールまたはジシクロヘキシルジメタノールであり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる少なくとも一種の芳香環を有するジオールが、ビスフェノールA、1,4−ジヒドロキシベンゼンまたはベンゼン−1,4−ジメタノールである請求項1〜3のいずれかに記載のポリマーフィルム。
【請求項5】
前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)および芳香族高分子量可塑剤(PB)が、さらに炭素数1〜22の脂肪族基を含有する脂肪族モノカルボン酸、または脂肪族モノアルコールを用いて得られ、また炭素数6〜20の芳香族環含有基、炭素数2〜22の脂肪族カルボニル基、および炭素数7〜20の芳香族カルボニル基から選ばれた少なくとも一種を含有する芳香環含有モノカルボン酸または芳香環含有モノアルコールを用いて得られた請求項1〜4のいずれかに記載のポリマーフィルム。
【請求項6】
前記脂肪族モノカルボン酸が、酢酸であり、脂肪族モノアルコールがエチルヘキサノールであり、芳香環含有モノカルボン酸が安息香酸である請求項5に記載のポリマーフィルム。
【請求項7】
前記脂肪族高分子量可塑剤(PA)および前記芳香族高分子量可塑剤(PB)の混合比率(質量比)が2/8〜8/2であり、前記芳香族高分子量可塑剤(PB)に用いられる芳香環を有するジカルボン酸が全ジカルボン酸の25〜100モル%である請求項1〜6のいずれかに記載のポリマーフィルム。
【請求項8】
前記高分子量可塑剤中の数平均分子量が500以下の成分の含有量が10質量%以下である請求項1〜7のいずれかに記載のポリマーフィルム。
【請求項9】
前記高分子量可塑剤を空気中で140℃、60分間加熱した場合の質量減少率が1%以下である請求項1〜8のいずれかに記載のポリマーフィルム。
【請求項10】
溶液製膜方法または溶融製膜方法で作製され、その膜厚が20〜200μmであるポリエステルフィルムである請求項1〜9のいずれかに記載のポリマーフィルム。
【請求項11】
面内のレターデーション(Re)が0〜300nmであり、厚さ方向のレターデーション(Rth)が−200〜+300nmである請求項1〜10のいずれかに記載のポリマーフィルム。
【請求項12】
ポリマーフィルムを製膜中または製膜後に3%〜400%延伸し、その面内のレターデーション(Re)が30〜200nmであり、厚さ方向のレターデーション(Rth)が−50〜+250nmである請求項1〜11のいずれかに記載のポリマーフィルム。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のポリマーフィルムを用いた位相差フィルム。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載のポリマーフィルムまたは請求項13に記載の位相差フィルムのうち少なくとも1枚を有する偏光板。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載のポリマーフィルム、請求項13に記載の位相差フィルムまたは請求項14に記載の偏光板のうち少なくとも1枚を有する液晶表示装置。

【公開番号】特開2009−299014(P2009−299014A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75186(P2009−75186)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】