説明

ポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法及び装置

【課題】ポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法の洗浄工程において、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現する。
【解決手段】ポリマーフイルムをアルカリ溶液でアルカリ鹸化処理する工程と、アルカリ鹸化処理したポリマーフイルムから前記アルカリ溶液を洗い落とす洗浄工程22と、を備えたポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法において、洗浄工程22は、ポリマーフイルムに塗布されたアルカリ溶液を水洗水で洗浄する水洗工程64がポリマーフイルムの進行方向に沿って複数段設けられるとともに、使用した水洗水を再使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法及び装置に係り、特に、長尺状光学補償シートの透明支持体として用いられるセルロースエステルフイルムのアルカリ鹸化後の水洗工程の廃水を再使用して、環境負荷を低減し、低コスト化するアルカリ鹸化方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学フイルムの需要が増加しつつある。この光学フイルムとしては、液晶セルに位相差板として使用される光学補償シートがある。
【0003】
透明支持体上に配向膜および液晶性分子を固定化した光学異方性層を設けた光学補償シートを製造する場合、透明支持体(通常は、セルロースアセテートフイルムに代表されるセルロースエステルフイルム)と配向膜(通常はポリビニルアルコール)との間の良好な密着が必要となる。セルロースエステルフイルムとポリビニルアルコールとの親和性は弱く、この界面での剥がれや割れが発生してしまうため、セルロースエステルフイルム上にゼラチンの下引き層を設けていた。しかしながら、ゼラチン下引き層を塗設する際の塗布液溶媒として、この下引き層とセルロースエステルフイルムの密着を発現させるためにはセルロースエステルフイルムに浸透する溶媒(例えば、ケトン系溶剤など)を用いなければならないため、セルロースエステルフイルムが膨潤し、続く乾燥工程で収縮する過程でフイルムの微細な屈曲が発生する問題があった。この屈曲したフイルム上に配向膜、次いで液晶性分子層を塗設すると、屈曲形状に沿って配向膜と液晶性分子層の厚みムラや液晶性分子の配向ムラが発生し、液晶表示装置の描画品質を劣化させることがわかった。
【0004】
また、ゼラチン下引き層を設けずにセルロースエステルフイルムと親水性材料(例えば配向膜)との密着性を改良する一般的な方法として、フイルムをアルカリ水溶液中に浸漬する、いわゆる鹸化浴処理を行う方法が知られている。この様な鹸化処理方法の詳細は、特開平8−94838号公報に記載されている。しかしながら、この浸漬による鹸化浴処理においては、セルロースエステルフイルムの両面が同時に親水化してしまうため、片面にポリビニルアルコールなどの親水性層を塗設した後にロール状に巻き取ると、表裏が接着してしまう問題が発生する。鹸化浴処理にて、片面のみを親水化する手段としては、目的としない面をラミネートなどの防水加工を施して鹸化処理する方法が挙げられるが、煩雑な工程が増えるばかりでなく、不要な廃棄物が発生するなど、生産性、環境保全の観点で好ましくなかった。
【0005】
このため、配向膜を塗設するポリマーフイルムの片面のみに水または水および有機溶剤のアルカリ溶液を連続塗布し、反応時間の経過後、アルカリ溶液をポリマーフイルムから洗い落とす鹸化方法が提案された(例えば、特許文献1)。特許文献1によれば、アルカリ溶液をポリマーフイルムから洗い落とす方法としては、スプレーノズル等で水洗水をポリマーフイルムに直接吹き付ける水洗工程を多段階で行なっていた。
【特許文献1】特開2003−313326号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、ポリマーフイルムの生産量の増加、及びこれに伴う製造工程のスピードアップにより、洗浄工程における水洗水の使用量が大幅に増加するようになったため、製造コストがアップになるといった問題がある。
【0007】
また、アルカリ鹸化処理では、酸又はアルカリ等を含んだ廃水が大量に排出されるため、その後の廃水処理への負荷が増加し、環境負荷が高くなるといった問題もある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現するポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、ポリマーフイルムをアルカリ溶液でアルカリ鹸化処理する工程と、アルカリ鹸化処理したポリマーフイルムから前記アルカリ溶液を洗い落とす洗浄工程と、を備えたポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法において、前記洗浄工程は、前記ポリマーフイルムに塗布されたアルカリ溶液を水洗水で洗浄する水洗工程が前記ポリマーフイルムの進行方向に沿って複数段設けられるとともに、使用した水洗水を再使用することを特徴とするポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法を提供する。
【0010】
本発明の請求項1によれば、アルカリ鹸化処理したポリマーフイルムからアルカリ溶液を洗い落とす洗浄工程において使用する水洗水を再使用するようにし、これにより、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現することが可能となった。
【0011】
請求項2は請求項1において、前記複数段の水洗工程において、下流側の水洗工程で使用した水洗水を回収し、前記下流側の水洗工程よりも上流側の水洗工程に再使用することを特徴とする。
【0012】
本発明者は、ウエブW表面の汚れ濃度(アルカリ濃度等)は、ウエブWの進行方向に向かって低下することを利用して、ウエブWの進行方向とは反対に、下流側の水洗工程から上流側の水洗工程へ、水洗水を再利用する方法を見出した。
【0013】
すなわち、請求項2によれば、下流側の水洗工程から水洗水を供給し、使用後の水洗水を上流側の水洗工程へ再使用するようにしたので、下流側の汚れ濃度の低い水洗水を、上流側の汚れ濃度の高い水洗工程に再使用することができる。これにより、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現することが可能となった。
【0014】
請求項3は請求項2において、最下流の水洗工程から最上流の水洗工程まで、前記下流側の水洗工程で使用した水洗水を一段上流側の水洗工程の水洗水として順番に使用することを特徴とする。
【0015】
請求項3によれば、最も下流側の水洗工程から水洗水を供給し、一段ずつ上流側の水洗工程へ水洗水を再利用させる構成としたので、各段の水洗工程における水洗水の洗浄能力を低下させることなく、水使用量を低減することができる。したがって、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現することが可能となった。
【0016】
請求項4は請求項1〜3の何れか1において、前記洗浄工程は、前記水洗工程と、該水洗工程の後段においてポリマーフイルム表面に付着した水洗水を除去する水切り工程と、を1組とした水洗・水切り工程を、複数段備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項4によれば、水洗工程でポリマーフイルムに水洗水を吹き付けた後、ポリマーフイルムに付着した水洗水を除去する水切り工程を設け、これにより、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現することが可能となった。
【0018】
請求項5は請求項1〜4の何れか1において、前記複数段の水洗工程において、少なくとも最も上流側の水洗工程が、室温以上に保温されることを特徴とする。
【0019】
請求項5によれば、少なくとも、汚れ濃度(アルカリ濃度等)が最も高いポリマーフイルムの上流側を洗浄する水洗工程の温度を室温以上に保温するようにしたので、汚れが水洗水中に拡散しやすく、洗浄能力を向上させることができる。したがって、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現することができる。なお、請求項5において、水洗水の温度は、37℃であることが好ましい。
【0020】
請求項6は請求項1〜5の何れか1において、前記洗浄工程の後段に、乾燥工程を設けたことを特徴とする。
【0021】
請求項6によれば、洗浄工程後にポリマーフイルムを加熱乾燥させるようにすることで、洗浄工程後でもポリマーフイルム上に残存する汚れ成分や水洗水等を確実に除去させることができる。
【0022】
本発明の請求項7は前記目的を達成するために、ポリマーフイルムをアルカリ溶液でアルカリ鹸化処理するアルカリ鹸化部と、該アルカリ鹸化部で処理したポリマーフイルムから前記アルカリ溶液を洗い落とす洗浄部とを備えたポリマーフイルムのアルカリ鹸化処理装置において、前記洗浄部は、前記ポリマーフイルムの進行方向に沿って複数段設けられ、前記ポリマーフイルムに塗布されたアルカリ溶液を水洗水で洗浄する水洗手段、及び該水洗手段の後段に設けられて前記ポリマーフイルム表面に付着した水洗水を除去する水切り手段を1組とした水洗・水切りユニットと、前記複数段の水洗・水切りユニットにおいて、下流側の水洗・水切りユニットで使用した水洗水を回収し、該下流側よりも上流側の水洗・水切りユニットに供給する水洗水回収・供給手段と、を備えたことを特徴とするポリマーフイルムのアルカリ鹸化処理装置を提供する。
【0023】
本発明の請求項7は、本発明のポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法を装置として構成したものであり、これにより、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現することができる。
【0024】
請求項8は請求項7において、前記複数段の水洗・水切りユニットにおいて、少なくとも最も上流側の前記水洗手段が、温度制御手段を備えたことを特徴とする。
【0025】
請求項8は、請求項5を装置として構成したものであり、これにより、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現することができる。
【0026】
請求項9のポリマーフイルムは、請求項1〜6の何れか1のポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法を用いて製造されたことを特徴とする。
【0027】
請求項10の光学補償フイルムは、請求項1〜6の何れか1のポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法を用いて製造されたことを特徴とする。
【0028】
請求項9及び10によれば、主に、液晶表示装置等の構成材料である光学補償シートやポリマーフイルムの製造方法に本発明を適用することにより、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、添付図面に従って、本発明に係るポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法及び装置の好ましい実施形態について詳説する。
【0031】
図1は、本発明に係るアルカリ鹸化方法が適用されるポリマーフイルムのアルカリ鹸化処理ライン10を説明する図である。
【0032】
図1に示されるように、アルカリ鹸化処理ライン10は、主に、ポリマーフイルム(以下、ウエブWと記す)にアルカリ溶液を塗布するアルカリ溶液塗布部14と、アルカリ溶液を塗布したウエブWの温度を室温以上に維持する温度維持部16と、温度が維持されたウエブWに希釈溶媒又は酸性溶液を塗布して反応を停止させる反応停止部18と、反応を停止したウエブWからアルカリ溶液を洗い落とす洗浄部22と、洗浄後のウエブWを乾燥させる乾燥部24と、から構成される。
【0033】
アルカリ溶液塗布部14は、送り出し機12より送り出されたウエブWの下面に、アルカリ溶液を塗布する図示しない塗布手段を備えている。
【0034】
本実施形態に使用されるウエブW、及びアルカリ液の詳細については、後述する。
【0035】
上記塗布手段としては、ダイコーター(エクストルージョンコーター、スライドコーター)、ロールコーター(順転ロールコーター、逆転ロールコーター、グラビアコーター)、ロッドコーター(細い金属線を巻いたロッド)等、が好ましく使用されるが、少ない塗布量域でも安定に操作できるロッドコーター、グラビアコーター、ブレードコーター、ダイコーターが特に好ましく使用される。なお、塗布手段は、上述の例に限定されず、アルカリ溶液にウエブW全体を浸漬させる方法等であってもよい。
【0036】
アルカリ溶液の塗布量は、その後、水洗除去するため廃液処理を考慮して、極力抑制することが望ましく、1〜100cc/mが好ましく、1〜50cc/mがより好ましい。また、塗布量の変動をウエブWの幅方向および塗布時間に対して30%未満に抑制することが好ましい。
【0037】
アルカリ鹸化反応に必要なアルカリ塗布量は、ウエブWの単位面積当りの鹸化反応サイト数に配向膜との密着を発現させるために必要な鹸化深さを乗じた総鹸化サイト数(=理論アルカリ塗布量)が目安となる。鹸化反応の進行にともなってアルカリが消費され反応速度が低下するため、実際には上述の理論アルカリ塗布量の数倍を塗布することが好ましい。具体的には、理論アルカリ塗布量の2〜20倍であることが好ましく、2〜5倍であることがさらに好ましい。
【0038】
アルカリ溶液の温度は、反応温度(=ウエブWの温度)に等しいことが望ましい。安定な塗布を行うためには、アルカリ溶液の沸点よりも低い温度であることが好ましく、沸点よりも5℃低い温度であることがさらに好ましく、沸点よりも10℃低い温度であることが最も好ましい。
【0039】
温度維持部16は、アルカリ溶液を塗布した後、鹸化反応が終了するまで、ウエブWの温度を室温(約15℃)以上に保つ図示しない加熱手段を備えている。
【0040】
上記加熱手段としては、塗布の反対面への熱風の衝突、加熱ロールによる接触伝熱、マイクロ波による誘導加熱、赤外線ヒーターによる輻射熱加熱等が好ましく利用できる。赤外線ヒーターは、非接触、かつ空気の流れを伴わずに加熱できるため、アルカリ溶液塗布面への影響を最小にできるため好ましい。赤外線ヒーターは、電気式、ガス式、オイル式あるいはスチーム式の遠赤外セラミックヒーターが利用できる。市販の赤外線ヒーター(例えば(株)ノリタケカンパニーリミテド製)を用いてもよい。熱媒体が、オイルまたはスチームを用いるオイル式またはスチーム式の赤外ヒーターは、有機溶剤が共存する雰囲気における防爆の観点で好ましい。
【0041】
ウエブWの温度は、15℃〜150℃、好ましくは25℃〜100℃、さらに好ましくは30℃〜80℃に設定される。また、ウエブWの温度は、アルカリ溶液塗布前に加熱した温度と同じでも異なっていてもよい。ウエブWの温度の検出には、一般に市販されている非接触の赤外線温度計が利用でき、上記温度範囲に制御するために、加熱手段に対してフィードバック制御を行ってもよい。
【0042】
アルカリ溶液を塗布して、洗い落とすまでに上記温度範囲に保持する時間は、後述する搬送速度にもよるが、1秒〜5分に保つことが好ましく、2〜100秒間保つことがより好ましく、3〜50秒間保つことが特に好ましい。
【0043】
ウエブWの搬送速度は、上記アルカリ溶液の組成と塗布方式の組み合わせによって決定される。ウエブWの搬送速度は、一般的に、10〜500m/分が好ましく、20〜300m/分がさらに好ましい。
【0044】
また、ウエブWを、酸素濃度が0〜18%の範囲にある雰囲気下において鹸化処理することが好ましい。酸素濃度は、0〜15%がさらに好ましく、0〜10%が最も好ましい。このように、低酸素濃度下で鹸化塗布液を(アルカリ溶液)を塗布することで、ウエブWの表面特性を制御でき、密着性の高い表面を得ることができる。雰囲気中の酸素以外の気体成分は、不活性ガス(例、窒素、ヘリウム、アルゴン)であることが好ましく、窒素であることが特に好ましい。
【0045】
反応停止部18は、アルカリ溶液とウエブWとの鹸化反応を停止させるために、アルカリ濃度を下げるための希釈溶媒を塗布するバー塗布装置30を備えている。なお、希釈溶媒の塗布方法については、アルカリ溶液の塗布方法と同様である。
【0046】
希釈溶媒は、アルカリ溶液中のアルカリ剤を溶解する溶媒であり、水または有機溶剤と水との混合液が好ましく、水がより好ましい。その他、前述したアルカリ鹸化溶液に用いた有機溶剤が優位に用いることができる。なお、二種類以上の有機溶媒を混合して使用してもよい。
【0047】
希釈溶媒の塗布量は、アルカリ溶液の濃度に応じて決定される。バー塗布装置30の場合は、塗布ビード内の流動が一様でないため、アルカリ溶液と希釈溶媒との混合が発生し、この混合した液が再塗布される。したがって、この場合は希釈溶媒の塗布量によって希釈率を特定することが困難であるため、希釈溶媒塗布後のアルカリ濃度を測定する必要がある。希釈溶媒の塗布量は、元のアルカリ濃度を1.5〜10倍に希釈することが好ましく、2〜5倍に希釈することがさらに好ましい。
【0048】
また、上記希釈溶媒の他に、アルカリによる鹸化反応を迅速に停止するため、酸を用いることもできる。この場合、少ない量でアルカリを中和するため、強酸を用いることが好ましい。また、水洗の容易さを考慮すると、アルカリと中和反応後に生成する塩が水に対する溶解度が高い酸を選定することが好ましく、たとえば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、クロム酸、メタンスルホン酸、クエン酸が好適に使用される。
【0049】
酸溶液の塗布量は、アルカリの種類とアルカリ溶液の濃度に応じて決定され、酸溶液塗布後のpHが4〜9になる様に酸溶液の塗布量が決定されることが好ましく、6〜8になる様に決定されることがより好ましい。
【0050】
洗浄部22は、後に塗布する配向膜ならびに液晶性分子層の塗膜形成や液晶分子の配向に影響を及ぼすことを防止するため、ウエブWの表面に残存するアルカリ溶液を洗浄除去する。
【0051】
まず、本発明の特徴部分である洗浄部22の構成について詳細に説明する。図2は、本発明に係る洗浄部22の構成を説明する模式図である。
【0052】
図2に示されるように、洗浄部22は、主に、水洗水をウエブWへ直接吹き付けてアルカリ溶液を洗い落とす水洗手段64と、水洗手段64によりウエブWの表面に残った水膜を除去する水切り手段66と、を備えた水洗・水切りユニット62が、ウエブWの進行方向に4段設置されている。
【0053】
本実施形態では、上記水洗・水切りユニット62を4段設置する例について説明するが、これに限定されず、タンデムに多く配置される。上記水洗・水切りユニット62は、設置スペースならびに設備コストの観点から、通常は2〜10段、好ましくは2〜5段配置される。
【0054】
上記水洗手段64としては、水洗水を直接ウエブWへ吹き付けるスプレーノズルが好適に使用され、ウエブWの幅方向に配列して、全幅に水流が衝突するように配置される。
【0055】
スプレーノズルとしては、市販のスプレーノズル(例えば、(株)いけうち製、スプレーイングシステムズ社製)を用いてもよい。これにより、ウエブWを連続搬送しながら洗浄できる上、噴流によってウエブW上の水洗水とアルカリ性塗布液との乱流混合が得られ、洗浄効果が向上する。また、上記水洗手段64としては、上述の例に限らず、塗布ヘッド(例、ファウンテンコーター、フロッグマウスコーター)を用いる方法等も使用できる。
【0056】
水洗手段64における水洗水の吹き付け速度は、高い乱流混合が得られ、かつウエブWの搬送安定性を損なわない速度の範囲であり、50〜1000cm/秒が好ましく、100〜700cm/秒がより好ましく、100〜500cm/秒がさらに好ましい。
【0057】
水洗に使用する水洗水の量は、下記に定義される理論希釈率を上回る量である。
【0058】
理論希釈倍率=水洗水の使用量[cc/m]÷アルカリ鹸化溶液の塗布量[cc/m
すなわち、水洗に使用される水の全てがアルカリ性塗布液の希釈混合に寄与したという仮定の理論希釈率を定義する。実際には、完全混合は起こらないので、理論希釈率を上回る水洗水量を使用することとなる。用いたアルカリ性塗布液のアルカリ濃度や副次添加物、溶媒の種類にもよるが、少なくとも100〜1000倍、好ましくは500〜1万倍、さらに好ましくは1000〜十万倍の理論希釈が得られる水洗水を使用する。
【0059】
水洗で一定量の水洗水を用いる場合、一度に全量適用するよりも数回に分割して適用する回分式洗浄方法が好ましい。すなわち、一つの水洗手段64と次の水洗手段64との間には適当な時間(距離)を設けて、拡散によるアルカリ性塗布液の希釈を進行させる。
【0060】
上記水洗水としては、純水であることが好ましい。本実施形態に使用される純水とは、比電気抵抗が少なくとも0.1MΩ以上であり、特にナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどの金属イオンは1ppm未満、クロル、硝酸などのアニオンは0.1ppm未満であることが好ましい。
【0061】
本発明において、洗浄能力の観点から、水洗水の温度は室温以上に維持されることが重要である。水洗水の温度は、高いほど汚れ成分(アルカリ溶液等)を洗浄、及び除去しやすい。したがって、水洗水の温度は、5〜90℃の範囲であることが好ましく、25℃〜80℃の範囲であることがより好ましく、25℃〜60℃の範囲であることがさらに好ましく、37℃に設定されることが最も好ましい。
【0062】
なお、水洗水の温度を調節する温度調節手段65は、水洗手段64、及び水洗水を送液する配管等に設けられる。温度調節手段65としては、各種ヒータ、各種断熱材、保温材、又は洗浄部の全体の雰囲気温度を所定温度に保つ方法等が使用されるが、温度を所定レベルに維持することができれば、他の手段でもよい。
【0063】
また、上記温度調節手段65は、洗浄部22全体に設けられてもよいが、図2に示すように、汚れ濃度(アルカリ濃度等)が最も高いウエブWを洗浄する水洗手段64及びその周辺の配管のみに、設けられてもよい。
【0064】
上記水切り手段66としては、ブレードコーターに用いられるブレード、エアナイフコーターに用いられるエアナイフ、ロッドコーターに用いられるロッド、ロールコーターに用いられるロール等が使用されるが、極限まで水膜厚みを減少させられる点で、エアナイフが好ましく使用される。
【0065】
水切り手段66におけるエアの吹出し量は、ウエブW上の元の水膜厚み、ウエブWの搬送速度にもよるが、通常は10〜500m/秒、好ましくは20〜300m/秒、より好ましくは30〜200m/秒の風速が使用される。
【0066】
搬送するウエブW表面とエアナイフ吹出し口の間隙は、狭いほど水切り能が向上するが、ウエブWと接触して傷付ける可能性が高くなるため、適当な範囲がある。通常は、10μm〜10cm、好ましくは100μm〜5cm、さらに好ましくは500μm〜1cmの間隙をもって、エアナイフを設置する。さらに、エアナイフと対向する様に、ウエブWの水洗面と反対側にバックアップロールを設置して、間隙の設定が安定するとともに、ウエブWのバタツキやシワ、変形などの影響を緩和させてもよい。
【0067】
また、水洗水回収・供給手段68は、ウエブWより跳ね返った水洗水(使用後の水洗水)を回収して、次の水洗手段64へ供給する。
【0068】
上記水洗水回収・供給手段68としては、主に、ウエブWの下側に設けられ、ウエブWより跳ね返った水洗水を回収して溜めるタンク状の水洗水回収部68aと、回収した水洗水を前段の水洗手段64へ供給する配管68bと、送液ポンプ(不図示)と、を備えている。
【0069】
水洗水回収部69aは、ウエブWに吹き付けられて跳ね返った水洗水を回収することができる形状及び大きさのタンク又は受け皿状となっている。この水洗水回収部69aは、送液ポンプ(不図示)を介して前段の水洗手段64と連結された配管68bに連通している。
【0070】
次に、本実施形態における水洗手段64、水切り手段66、及び水洗水回収・供給手段68の配置及び接続状態について説明する。
【0071】
すなわち、ウエブW表面の汚れ濃度(アルカリ濃度)は、ウエブWの進行方向に向かって低下することを利用して、ウエブWの進行方向とは反対に、後段から前段にかけて純度の高い水洗水を供給して、再利用する構成とした。
【0072】
まず、上記の如く4段設けられた水洗手段64…のうち、ウエブWの進行方向とは反対方向に、後段から前段へ向かって、水洗手段64d→水切り手段66d→水洗水回収・供給手段68→水洗手段64c→水切り手段66c→水洗水回収・供給手段68→水洗手段64b→水切り手段66b→水洗水回収・供給手段68→水洗手段64a→水切り手段66a、の順に配置される。
【0073】
先ず、水洗手段64d及び水切り手段66dを経て、ウエブWの水洗に使用した水洗水(ウエブWより跳ね返った水洗水)を回収する水洗水回収部68aが設けられ、水洗水回収部68aと一段前の水洗手段64cとが、配管68bを介して接続される。
【0074】
同様に、水洗手段64c及び水切り手段66cを経て、ウエブWの水洗に使用した水洗水を回収する水洗水回収部68aが設けられ、水洗水回収部68aと一段前の水洗手段64bとが、配管68bを介して接続される。
【0075】
さらに、水洗手段64b及び水切り手段66bを経て、ウエブWの水洗に使用した水洗水を回収する水洗水回収部68aが設けられ、水洗水回収部68aと一段前の水洗手段64aとが、配管68bを介して接続される。
【0076】
そして、水洗手段64a及び水切り手段66aを経て、ウエブWの水洗に使用した水洗水は廃棄される。
【0077】
このように、最下流の水洗工程から最上流の水洗工程まで、下流側の水洗工程で使用した水洗水を一段上流側の水洗工程の水洗水として順番に使用するように構成したので、下流側で使用した汚れ濃度の低い水洗水を上流側の汚れ濃度が高い水洗工程で使用することができる。
【0078】
乾燥部24は、ウエブWに残った洗浄水等を除去する図示しない乾燥手段を備えており、ウエブWをロール状に巻き取る前に、ウエブWを好ましい含水率に調整するために加熱乾燥する。また、これとは逆に、乾燥部24は、設定された湿度を有する風で調湿することもできる。
【0079】
上記乾燥手段としては、クリーン度が高く、ヒータ等で加熱された清浄エアが給気される公知の加熱乾燥手段が使用される。乾燥風の温度は30〜200℃が好ましく、40〜150℃がより好ましく、50〜120℃が特に好ましい。なお、乾燥部24の前段において、エアナイフ等の水切り手段66で充分に水膜が除去される場合は、特に乾燥部24は設けなくても良い。
【0080】
上記の如くアルカリ鹸化処理されたウエブWは、一旦巻き取り機26で巻き取られてもよいし、又は上述した鹸化処理工程の後に連続して機能層の塗設が行われてもよい。いずれにおいても、上記の如く片面に鹸化処理を実施したウエブWをロール状に巻き取っても、鹸化処理面とその反対面との間で貼りついたりすることを防止することができる。
【0081】
次に、本発明のアルカリ鹸化処理に供されるポリマーフイルム(ウエブW)、及びアルカリ溶液について詳細に説明する。
【0082】
次に、図1に示されるポリマーフイルムのアルカリ鹸化処理ライン10を使用したポリマーフイルムのアルカリ鹸化処理の流れについて説明する。
【0083】
先ず、送り出し機12から、ウエブWが送り出される。
【0084】
ウエブWはガイドローラ28によってガイドされてアルカリ溶液塗布部14を経て、ウエブWの表面にアルカリ溶液が塗布される。そして、温度維持部16に搬送され、ウエブWとアルカリ溶液との鹸化反応が行われる。
【0085】
温度維持部16で鹸化反応を経たウエブWは、反応停止部18に搬送される。そして、バー塗布装置30によって、アルカリ鹸化溶液が形成されたウエブW表面に希釈溶媒が塗布され、アルカリ鹸化反応が停止される。
【0086】
その後、ウエブWは、本発明の特徴部である洗浄部22へ搬送される。まず、図2に示されるように、4段設けられた水洗手段64…のうち、ウエブWの進行方向に対して最も後段に設けられた水洗手段64dに水洗水が供給される。
【0087】
水洗手段64dによりウエブWへ吹き付けられた水洗水は、水切り手段66dによってウエブWにエアが吹き付けられて、ウエブW上の水膜が除去される。水洗手段64d、及び水切り手段66dを経て、ウエブWより跳ね返った水洗水は、水洗水回収部68aに回収される。水洗水回収部68aに回収された水洗水は、送液ポンプ(不図示)により配管68bを流通して、前段の水洗手段64cに送液される。
【0088】
水洗手段64cに送液された水洗水は、上述と同様に、ウエブWへ吹き付けられて、水切り手段66cによってエアが吹き付けられてウエブWから除去された後、水洗水回収部68aに回収される。そして、前段の水洗手段64bへ配管68bを介して、送液される。
【0089】
上述の工程が繰り返されて、下流側で使用した汚れ濃度の低い水洗水が、上流側の汚れ濃度が高い水洗工程で使用される。これにより、水洗水は、洗浄能力を低下することなく再使用され、ウエブWが洗浄される。
【0090】
次いで、洗浄された後のウエブWは乾燥部24へ搬送され、加熱乾燥されて水分・溶媒等が除去される。その後、ウエブWは巻き取り機26により巻き取られる。
【0091】
以上のように、本発明のアルカリ鹸化方法の洗浄工程において、水洗水を回収し、再使用することにより、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現することができる。
【0092】
次に、本発明に係る洗浄部22の第二実施形態について説明する。図3は、本発明に係る第二実施形態の洗浄部22の設置例を説明する図である。
【0093】
本実施形態は、後段の2段の水洗・水切りユニット62で使用した水を同時に回収し、前段の2段へ同時に供給するように構成した洗浄部である。
【0094】
すなわち、図3に示されるように、後段の2つの水洗手段64d、64cから同時に水洗水を回収し、前段の2つの水洗手段64b、64aに同時に供給するよう、水洗水回収部68a及び配管68bを接続したこと以外は、第一実施形態と同様に構成される。
【0095】
水洗手段64d、水切り手段66d、水洗手段64c、及び水切り手段66cをそれぞれ経て、ウエブWの水洗に使用した水洗水(ウエブWより跳ね返った水洗水)を同時に回収する水洗水回収部68aが設けられる。また、水洗水回収部68aは、配管68bと接続される。配管68bは、図示しない送液ポンプを介して、前段の2つの水洗手段64b及び水洗手段64aに同時に水洗水を分配供給できるように接続される。
【0096】
次に、本実施形態に係る洗浄部22の作用について説明する。
【0097】
ウエブWの進行方向とは反対に、後段の2つの水洗手段64d、64cに新しい水洗水が分配供給される。次いで、水洗手段64d、64cよりウエブWに水洗水が吹き付けられて、その後、水切り手段66d、66cによりウエブWから跳ね返されて回収された水洗水は、それぞれ水洗水回収部68aに回収される。回収された水洗水は、図示しない送液ポンプにより、配管68bを介して、前段の2つの水洗手段64b、64aに送液される。このように、本発明のアルカリ鹸化方法により、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現することができる。
【0098】
以上、本発明に係る装置の第二実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【0099】
たとえば、本実施形態では、後段の2つの後段の水洗手段64b、64cに新たな水洗水を分配供給し、これらの水洗水を同時に回収し、前段の水洗手段64b、64aへ分配供給する例について述べたが、後段の3つの水洗手段64b、64c、64dに新たな水洗水を分配供給し、これらの水洗水を同時に回収し、前段の水洗手段64aへ供給する構成としてもよい。
【0100】
次に、本発明に係る洗浄部22の第三実施形態について説明する。本実施形態は、水洗水回収部68a内の水洗水の汚れ濃度(アルカリ濃度等)を所定値に維持するための制御手段72を備えた洗浄部である。
【0101】
図4は、本発明に係る第三実施形態の洗浄部22の設置例を説明する図である。
【0102】
すなわち、図4に示されるように、洗浄部22は、第二実施形態の水洗水回収部68aに汚れ濃度(アルカリ濃度等)測定手段69と、測定した汚れ濃度に応じてた希釈水を水洗水回収部68aに供給させる制御を行う制御手段72と、制御手段72の信号に応じて希釈水が供給されるバルブ74と、が設けられたこと以外は、第二実施形態と同様に構成される。
【0103】
測定部59は、水洗水回収部68a内の水洗水の汚れ濃度(アルカリ濃度等)を測定する。この測定部59は、測定信号を電気信号に変換する信号変換部を備えており、この信号変換部により電気信号とされた測定信号は、制御部59へ出力される。なお、測定箇所を複数設けることにより、水洗水回収部68a内の場所による汚れ濃度(アルカリ濃度等)のばらつきを低減し、均一に維持してもよい。
【0104】
制御部59は、水洗水回収部68a内の汚れ濃度(アルカリ濃度等)を予め設定された目標値にするよう、測定信号に基づいて、希釈水のバルブを制御(フィードバック制御)する。なお、希釈水の供給量は、バルブの開度等で調整される。
【0105】
これにより、水洗水回収部68a内の汚れ濃度(アルカリ濃度等)が、ある所定値以下になるように維持されるので、前段の水洗手段64b、64aに使用される水洗水の洗浄能力が低下するなどの不具合が生じない。したがって、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現することができる。
【0106】
以上、本発明に係る装置の第三実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【0107】
たとえば、本実施形態では、後段の2つの水洗手段で使用した水洗水を回収して、汚れ濃度(アルカリ濃度等)を所定値以下に維持し、これを前段の2つの水洗手段に使用する例について述べたが、全段の水洗手段に新たな水洗水を分配供給して、使用した後の水洗水をほぼ全て水洗水回収部68aに回収し、そこで上述と同様に汚れ濃度(アルカリ濃度等)を所定値以下になるように制御して、再び全段の水洗手段に分配供給させる構成としてもよく、種々の形態が採り得る。
【0108】
[ポリマーフイルム(ウエブW)]
本実施形態に使用されるポリマーフイルム(ウエブW)は、光透過率が80%以上であることが好ましい。ウエブWとしては、外力により複屈折が発現しにくいものが好ましい。ウエブWは、エステル結合あるいはアミド結合のような加水分解できる結合(鹸化処理の対象となる結合)を含む。エステル結合が好ましく、エステル結合がポリマーの側鎖に存在していることがさらに好ましい。エステル結合が側鎖に存在しているポリマーとしては、セルロースエステルが代表的である。セルロースの低級脂肪酸エステルがより好ましく、セルロースアセテートがさらに好ましく、酢化度が59.0〜61.5%であるセルロースアセテートが最も好ましい。酢化度とは、セルロース単位質量当たりの結合酢酸量を意味する。酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験法)におけるアセチル化度の測定および計算に従う。
【0109】
セルロースエステルの粘度平均重合度(DP)は、250以上であることが好ましく、290以上であることがさらに好ましい。また、本発明に使用するセルロースエステルは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるMw/Mn(Mwは質量平均分子量、Mnは数平均分子量)の分子量分布が狭いことが好ましい。具体的なMw/Mnの値としては、1.0〜1.7であることが好ましい。
【0110】
ウエブWを光学補償シートに用いる場合、ウエブWは、高いレターデーション値を有することが好ましい。ウエブWのReレターデーション値およびRthレターデーション値は、それぞれ、下記式(I)および(II)で定義される。
【0111】
(I) Re=|nx−ny|×d(II) Rth={(nx+ny)/2−nz}×d式(I)および(II)において、nxは、ウエブW面内の遅相軸方向(屈折率が最大となる方向)の屈折率、nyは、ウエブW面内の進相軸方向(屈折率が最小となる方向)の屈折率、nzは、ウエブWの厚み方向の屈折率、dは、単位をnmとするウエブWの厚みである。ウエブWのReレターデーション値は1〜200nmであり、そして、Rthレターデーション値は70〜400nmであることが好ましい。具体的な値は、測定光の入射方向をウエブW膜面の鉛直方向に対して傾斜させた測定結果より外挿して求める。測定は、エリプソメーター(例えば、M−150、日本分光(株)製)を用いて実施できる。測定波長としては、632.8nm(He−Neレーザー)を採用する。
【0112】
ウエブWのレターデーションを調整するためには延伸のような外力を与える方法が一般的であるが、また光学異方性を調節するためのレターデーション上昇剤が、場合により添加される。セルロースアシレートフイルムのレターデーションを調整するには、芳香族環を少なくとも二つ有する芳香族化合物をレターデーション上昇剤として使用することが好ましい。芳香族化合物は、セルロースアシレート100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲で使用することが好ましい。また、二種類以上の芳香族化合物を併用してもよい。芳香族化合物の芳香族環には、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
【0113】
ソルベントキャスト法によりポリマーフイルムを製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、ポリマー材料を有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフイルムを製造する。有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0114】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。さらに2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0115】
一般的な方法でポリマー溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。ポリマーの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。ポリマーの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。溶液は、常温(0〜40℃)でポリマーと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、ポリマーと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0116】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケット構造の加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶剤中に溶解する。調製したドープは冷却後、容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0117】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にもポリマーを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でポリマーを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られる効果がある。冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にポリマーを撹拌しながら徐々に添加する。ポリマーの量は、この混合物中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。ポリマーの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
【0118】
次に、混合物を−100〜−10℃、好ましくは−80〜−10℃、さらに好ましくは−50〜−20℃、最も好ましくは−50〜−30℃に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、ポリマーと有機溶媒の混合物は固化する。冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。なお、冷却速度とは、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
【0119】
さらに、これを0〜200℃、好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは0〜120℃、最も好ましくは0〜50℃に加温すると、有機溶媒中にポリマーが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよいし、温浴中で加温してもよい。加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。なお、加温速度とは、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
【0120】
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。なお、セルロースアセテート(酢化度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量測定(DSC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保温する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアセテートの酢化度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0121】
調製したポリマー溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりポリマーフイルムを製膜する。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に加工しておくことが好ましい。ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。これにより、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
【0122】
ウエブWには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。
【0123】
さらに、本実施形態におけるウエブWには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。可塑剤の添加量は、セルロースエステルの量の0.1〜25質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましく、3〜15質量%であることが最も好ましい。
【0124】
さらに、本実施形態におけるウエブWには、用途に応じた種々の添加剤(例えば、紫外線防止剤、微粒子、剥離剤、帯電防止剤、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)、赤外吸収剤を等)を加えることができ、それらは固体でもよく油状物でもよい。また、ウエブWが多層から形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。これらの添加剤の使用量は、各素材の添加量は機能が発現する限りにおいて特に限定されないが、ウエブW全組成物中、0.001〜20質量%の範囲で適宜用いられることが好ましい。
【0125】
ウエブWは、さらに延伸処理によりレターデーションを調整することができる。延伸倍率は、3〜100%であることが好ましい。ポリマーフイルムの厚さは、30〜200μmであることが好ましく、40〜120μmであることがさらに好ましい。
【0126】
[アルカリ溶液]
本実施形態に使用されるアルカリ溶液は、水または有機溶剤と水との混合液にアルカリを溶解して調製できる。好ましい有機溶媒は、炭素原子数8以下のアルコール、炭素原子数が6以下のケトン、炭素原子数が6以下のエステル、炭素原子数が6以下の多価アルコールから選ばれる1種または2種以上の有機溶媒である。
【0127】
上記有機溶剤としては、一価アルコール(例、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、フッ素化アルコールなど)、ケトン(例、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、エステル(例、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、多価アルコール(例、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなど)、アミド(例、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例、ジメチルスルホキシド)およびエーテル(例、メチルセルソルブ、エチレングリコールジエチルエーテル)が挙げられる。特に好ましいものは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンである。
【0128】
有機溶剤は、ウエブWを溶解したり膨潤したりしないことが必要である。また、アルカリ鹸化溶液の塗布が容易になるように、アルカリ溶液の液物性の項で記載されるように、表面張力が適度に低い有機溶剤を選択することも望ましい。また、有機溶媒の溶媒中の使用割合は、溶媒の種類、水との混和性(溶解性)、反応温度および反応時間に応じて決定する。短い時間で鹸化反応を完了するためには、高い濃度に溶液を調製することが好ましい。ただし、溶媒濃度が高すぎるとウエブW中の成分(可塑剤など)が抽出され、ウエブWの過度の膨潤が起こる場合があり、適切に選択する。水と有機溶媒の混合比は、3/97〜85/15質量比が好ましい。より好ましくは5/95〜60/40質量比であり、さらに好ましくは15/85〜40/60質量比である。この範囲において、ウエブWの光学特性を損なうことなく容易にウエブW全面が均一に鹸化処理される。
【0129】
アルカリ溶液のアルカリ剤は、無機塩基および有機塩基のいずれも使用できる。低い濃度で鹸化反応をおこすためには強塩基が好ましい。アルカリ金属の水酸化物(例、NaOH、KOH、LiOH)、アミン(例、パーフルオロトリブチルアミン、トリエチルアミン、ジアザビシクロノネン、ジアザビシクロウンデセン等)、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド(アルキル基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等)、および錯塩の遊離塩基(例、[Pt(NH3](OH)4)が好ましく、アルカリ金属の水酸化物がさらに好ましく、NaOHおよびKOHが最も好ましい。
【0130】
アルカリ溶液の濃度は、使用するアルカリの種類、反応温度および反応時間に応じて決定する。短い時間で鹸化反応を完了するためには、高い濃度に溶液を調製することが好ましい。ただし、アルカリ濃度が高すぎるとアルカリ溶液の安定性が損なわれ、長時間塗布において析出する場合もある。アルカリ溶液の濃度は0.1〜5規定(N)であることが好ましく、0.5〜5Nであることがさらに好ましく、0.5〜3Nであることが最も好ましい。
【0131】
本実施形態に使用されるアルカリ溶液は、界面活性剤を含有することもできる。界面活性剤を添加することによって、たとえ有機溶媒がウエブW含有物質を抽出したとしてもアルカリ溶液中に安定に存在させ、後の水洗工程においても抽出物質が析出、固体化しない。
【0132】
上記界面活性剤については、本発明のアルカリ鹸化液に溶解または分散可能なものであれば特に制限はない。ノニオン界面活性剤、イオン性界面活性剤(アニオン、カチオン、両性界面活性剤)等のいずれをも好適に用いることができるが、特にノニオン界面活性剤とアニオン界面活性剤が溶解性と鹸化性能の観点から好ましく用いられる(特開2003−313326参照)。
【0133】
また、上記アルカリ溶液には、アルカリ溶液への界面活性剤、消泡剤の溶解助剤として、上述した有機溶剤以外の有機溶媒、防黴剤、防菌剤、その他添加剤(たとえば、アルカリ液安定化剤(酸化防止剤等)、水溶性化合物(ポリアルキレングリコール類、天然水溶性樹脂等))が添加されてもよい。
【0134】
本実施形態に使用されるアルカリ溶液に用いる水としては、日本国水道法(昭和32年法律第177号)及びそれに基づく水質基準に関する省令(昭和53年8月31日厚生省令第56号)、同国温泉法(昭和23年7月10日法律第125号及びその別表)、及び、WHO規定水道水基準によって規定される水中の混入の状態に於ける各元素やミネラル等への影響、等に基づくものが好ましい。
【0135】
本実施形態に使用されるアルカリ溶液の液物性は、上記で説明の組成物から構成されるが、その表面張力が45mN/m以下であり、且つ粘度が0.8〜20mPa・sであることが好ましい。また、アルカリ溶液の密度は、0.65〜1.05g/cmであることが好ましい。これにより、アルカリ溶液の塗布が搬送速度に応じて安定な塗布操作が容易に行える様になり、且つウエブW表面への液の濡れ性、ウエブW表面に塗布した溶液の保持性、鹸化処理後のウエブW表面からのアルカリ液の除去性が充分に行われる。
【実施例】
【0136】
次に、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0137】
図1に示されるアルカリ鹸化処理ライン10(前半部分)において、セルロースアセテートフイルム(厚さ:100μm、幅:1895mm)の長尺状のウエブWの一方の側に、アルカリ溶液(1規定、KOH溶液)を14cc/m塗布した。次いで、110℃下で約7秒間、アルカリ鹸化処理させた後、アルカリ溶液に純水を3cc/m塗布して、希釈させた。その後、ウエブWに洗浄を行った。ウエブWの搬送速度は、20m/分とした。
【0138】
洗浄部22において、ウエブWを連続して20m/分で搬送しながら、洗浄した。水洗水の温度は、37℃に設定した。
【0139】
実施例1は、図2において、水洗・水切りユニット62を3段に変更して洗浄した場合である。実施例2は、図2の洗浄部22(水洗・水切りユニット62を4段)において、洗浄した場合である。実施例3は、図3の洗浄部22において、洗浄した場合である。比較例1は、図5の従来の洗浄部22において洗浄した場合である。そして、実施例1〜3、及び比較例1において、洗浄部22における水使用量を測定した。
【0140】
実施例1では、従来の水洗水使用量の約50%を削減することができ、実施例2では、従来の水洗水使用量の約75%を削減することができた。また、実施例3では、従来の水洗水使用量の約50%を削減できることができた。
【0141】
なお、このときの各水洗手段64、64間の水洗水の汚れ濃度(アルカリ濃度等)を測定したところ、濃度差は約1/100程度であり、特に、洗浄能力上、問題ないことを確認した。
【0142】
また、水洗水の再使用によるアルカリ溶液残存が、製品の品質(配向性)へ及ぼす影響について確認した。本例では、本発明の洗浄方法(実施例1〜3)を適用して製造された光学補償フイルムの消光度を、以下の方法で測定することにより品質を評価した。
【0143】
(消光度による品質の評価)
消光度による品質の評価には、大塚電子株式会社製の消光度測定装置を使用した。この装置において、測定波長を550nmとし、パラニコル配置の偏光板の透過率を100%とした。そして、クロスニコルに配置した2枚のディスコティツク液晶の配向性の評価を行った。消光度による配向性の評価では、消光度が高いほどアルカリ鹸化溶液の残存による品質劣化があることを意味する。
【0144】
実施例1〜3、及び比較例1の洗浄方法で製造したポリマーフイルムを用いて、消光度を測定した結果、実施例1〜3いずれにおいても、比較例1とほぼ同等で鹸化液の残存による消光度の著しい増加は認められなかった。
【0145】
以上のように、本発明を適用することにより、アルカリ鹸化溶液を洗浄する際に、水洗水を効率的に使用することができ、品質安定性を維持して低コストかつ低環境負荷を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0146】
【図1】本発明に係るアルカリ鹸化処理ラインを示す図である。
【図2】本発明に係る洗浄部の構成を示す模式図である。
【図3】本発明に係る洗浄部の構成を示す模式図である。
【図4】本発明に係る洗浄部の構成を示す模式図である。
【図5】従来の洗浄部の構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0147】
10…アルカリ鹸化処理ライン、12…送り出し機、14…アルカリ溶液塗布部、16…温度維持部、18…反応停止部、30…バー塗布装置、22…洗浄部、24…乾燥部、26…巻き取り機、62…水洗・水切りユニット、64…水洗手段、66…水切り手段、68a…水洗水回収手段、68b…配管、69…測定手段、72…制御手段、74…バルブ(希釈水供給用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーフイルムをアルカリ溶液でアルカリ鹸化処理する工程と、アルカリ鹸化処理したポリマーフイルムから前記アルカリ溶液を洗い落とす洗浄工程と、を備えたポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法において、
前記洗浄工程は、前記ポリマーフイルムに塗布されたアルカリ溶液を水洗水で洗浄する水洗工程が前記ポリマーフイルムの進行方向に沿って複数段設けられるとともに、使用した水洗水を再使用することを特徴とするポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法。
【請求項2】
前記複数段の水洗工程において、下流側の水洗工程で使用した水洗水を回収し、前記下流側の水洗工程よりも上流側の水洗工程に再使用することを特徴とする請求項1のポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法。
【請求項3】
最下流の水洗工程から最上流の水洗工程まで、前記下流側の水洗工程で使用した水洗水を一段上流側の水洗工程の水洗水として順番に使用することを特徴とする請求項2のポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法。
【請求項4】
前記洗浄工程は、前記水洗工程と、該水洗工程の後段においてポリマーフイルム表面に付着した水洗水を除去する水切り工程とを1組とした水洗・水切り工程を、複数段備えたことを特徴とする請求項1〜3の何れか1のポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法。
【請求項5】
前記複数段の水洗工程において、少なくとも最も上流側の水洗工程が、室温以上に保温されることを特徴とする請求項1〜4の何れか1のポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法。
【請求項6】
前記洗浄工程の後段に、乾燥工程を設けたことを特徴とする請求項1〜5の何れか1のポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法。
【請求項7】
ポリマーフイルムをアルカリ溶液でアルカリ鹸化処理するアルカリ鹸化部と、該アルカリ鹸化部で処理したポリマーフイルムから前記アルカリ溶液を洗い落とす洗浄部とを備えたポリマーフイルムのアルカリ鹸化処理装置において、
前記洗浄部は、前記ポリマーフイルムの進行方向に沿って複数段設けられ、前記ポリマーフイルムに塗布されたアルカリ溶液を水洗水で洗浄する水洗手段、及び該水洗手段の後段に設けられて前記ポリマーフイルム表面に付着した水洗水を除去する水切り手段を1組とした水洗・水切りユニットと、
前記複数段の水洗・水切りユニットにおいて、下流側の水洗・水切りユニットで使用した水洗水を回収し、該下流側よりも上流側の水洗・水切りユニットに供給する水洗水回収・供給手段と、を備えたことを特徴とするポリマーフイルムのアルカリ鹸化処理装置。
【請求項8】
前記複数段の水洗・水切りユニットにおいて、少なくとも最も上流側の前記水洗手段が、温度制御手段を備えたことを特徴とする請求項7のポリマーフイルムのアルカリ鹸化処理装置。
【請求項9】
請求項1〜6の何れか1のポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法を用いて製造されたことを特徴とするポリマーフイルム。
【請求項10】
請求項1〜6の何れか1のポリマーフイルムのアルカリ鹸化方法を用いて製造されたことを特徴とする光学補償フイルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−161768(P2007−161768A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−356480(P2005−356480)
【出願日】平成17年12月9日(2005.12.9)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】