説明

ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体及びその組成物及びこれを用いたポリイミド多孔質体

【課題】 高い寸法安定性と十分な機械強度を有し、しかも優れた低誘電率の達成が可能なポリイミド多孔質体を形成できるポリイミド前駆体及びその組成物、及びそれを用いたポリイミド多孔質体を提供する。
【解決手段】 テトラカルボン酸二無水物とジアミンが縮合重合してなるポリイミド前駆体分子鎖中に、熱分解温度が350℃以下の有機ポリマー基が導入されている。該有機ポリマー基は、ウレタン結合又はウレア結合を介して、前記ポリイミド前駆体分子鎖中に導入されていることが好ましく、さらにポリアルキレングリコールの反応残基であることが好ましい。また、前記有機ポリマー基は、前記ジアミン又はテトラカルボン酸二無水物とウレタン結合又はウレア結合している連結基に結合していてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低誘電率のポリイミド多孔質体を形成できるポリイミド前駆体、及びその組成物、及びこれを用いて作製したポリイミド多孔質体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド樹脂は、その高い耐熱性、絶縁性、機械的強度、耐溶剤性、寸法安定性等の特性を有することから、電子部品用基材の絶縁膜や半導体素子の層間絶縁膜として広く用いられている。近年、電子部品の高機能化、高集積化に伴い、デバイスの信号転送速度の高速化が要求されており、配線周辺部材にも高速化対応が求められている。絶縁膜として用いられるポリイミド樹脂にも、高速化に対応した電気特性として、低誘電率化、低誘電正接化が要求されている。
【0003】
ポリイミド樹脂膜を低誘電化する方法としては、膜の多孔質化が考えられる。多孔質のポリイミド樹脂膜を得る方法としては、硬化前のポリイミド前駆体(ポリアミック酸)に発泡剤を添加して、硬化時に発泡剤を揮発させることにより発泡体(多孔質体)を得る方法や、ポリイミド前駆体中に有機ポリマーを分散させてなる組成物の皮膜を作製し、作製した皮膜から前記有機ポリマーを分解、あるいは溶剤を用いて抽出除去することにより多孔質化する方法が知られている。
【0004】
例えば、特開2005−115249号公報(特許文献1)には、ポジ型感光性樹脂組成物に用いる多孔質ポリイミド膜についてであるが、沸点又は分解点が200〜450℃の熱分解性基を有するジビニルエーテル化合物をポリイミド前駆体と混合した組成物が開示されている。実施例では、重量平均分子量2000のポリエチレングリコールを熱分解性基とするジビニルエーテルをポリイミド前駆体と混合して感光性層塗布液を調製し、これを塗布、乾燥して形成した感光性層を、露光、現像後、加熱処理すると、ポリイミド前駆体が閉環してイミド化が起こるとともに、熱分解性基が熱分解することで、多孔質のポリイミド感光性層が形成されるというものである(段落番号0016、実施例)。このジビニルエーテル化合物は、ポリイミド前駆体と架橋構造を形成することができ、これによりポリイミド前駆体皮膜の溶解抑制機能が発現されると説明されている(段落番号0016)。
【0005】
実施例で得られた多孔質膜は、10nmの微細な空孔が均一に多数形成された多孔質膜であり、単に熱分解性化合物として分子量2000のポリエチレングリコールを用いて形成したイミド膜(比較例)では、0.8μmと比較的大きな空孔がまばらに形成されていたことと比べて優れたものであったことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−115249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1は、熱分解性を示すポリエチレングリコールを有するジビニルエーテル化合物をポリイミド前駆体と混合することにより、単にポリエチレングリコールをポリイミド前駆体と混合する場合よりも微細な空孔を有する多孔質膜が得られることを開示している(段落番号0017、段落番号0060)。このことは、当該文献1によると、ポリイミド前駆体膜において、ポリエチレングリコールとポリイミド前駆体とを架橋することで、露光、現像工程におけるポリイミド前駆体の溶解が抑制されてナノスケールの空孔を形成できると説明されている(段落番号0016、0050)。
【0008】
しかしながら、特許文献1の方法では、熱分解性を示すポリエチレングリコールとポリイミドとの架橋を、塗膜の形成後に行うため、熱分解性基の分散性は十分とはいえない。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高い寸法安定性と十分な機械強度を有し、しかも優れた低誘電率の達成が可能なポリイミド多孔質体を形成できるポリイミド前駆体及びその組成物、及びそれを用いたポリイミド多孔質体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体は、多孔質ポリイミドの形成に用いられるポリイミド前駆体であって、テトラカルボン酸二無水物とジアミンが縮合重合してなるポリイミド前駆体分子鎖中に、熱分解温度が350℃以下の有機ポリマー基が導入されている。
【0011】
前記有機ポリマー基は、ウレタン結合又はウレア結合を介して、前記ポリイミド前駆体分子鎖中に導入されていることが好ましく、さらにポリアルキレングリコールの反応残基であることが好ましい。また、前記有機ポリマー基は、前記ジアミン又はテトラカルボン酸二無水物とウレタン結合又はウレア結合している連結基に結合していてもよい。さらに、前記有機ポリマー基の重量平均分子量は200〜10000であることが好ましい。
【0012】
本発明のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体の製造方法は特に限定しないが、有機ポリマー基がウレタン結合又はウレア結合を介して、前記ポリイミド前駆体分子鎖中に導入されている場合には、本発明の製造方法で製造することが好ましい。
【0013】
すなわち、本発明のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体の製造方法は、熱分解温度が350℃以下の有機ポリマーとジイソシアネート化合物とを反応させて、イソシアネート修飾有機ポリマーを合成する工程;及び前記イソシアネート修飾有機ポリマー存在下で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの縮合重合を行う工程を含む。
【0014】
本発明の多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物は、上記本発明のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体を含有する。
【0015】
本発明のポリイミド多孔質体は、上記多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物を加熱硬化することにより得られるもので、好ましくは空孔径0.001〜10μm、空孔率10〜60%である。
【0016】
上記本発明のポリイミド多孔質の薄膜を有するプリント配線板も本発明の範囲に含まれる。
【0017】
ここで、「ポリイミド前駆体」とは、加熱処理によりイミド化してポリイミドを形成できるポリマーをいう。「ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体」とは、ポリイミド前駆体分子鎖中に熱分解性の有機ポリマー基が導入されたものであり、単に熱分解性有機ポリマーをポリイミド前駆体に添加、混合、分散させてなるポリイミド前駆体組成物と区別される。また、「有機ポリマー基」とは、有機ポリマー分子鎖末端の反応性官能基が反応した後の反応残部(反応残基)をいい、本明細書において「有機ポリマー基」といえば、特に説明がない限り、本発明のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体に導入されている「熱分解温度が350℃以下の有機ポリマー基」をいう。
【0018】
さらに、本発明にいう「熱分解温度」とは、窒素雰囲気下で室温から10℃/minで昇温したときの質量減少率が50%となるときの温度をいう。例えば、エスアイアイ・ナノテクロノジー株式会社製のTG/DTA(示差熱熱重量同時測定装置)を用いて熱重量を測定することで測定できる。有機ポリマー単独、すなわちポリイミド前駆体との結合形成前の状態の有機ポリマーについて測定される温度である。
【発明の効果】
【0019】
本発明のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体は、熱分解性有機ポリマーがポリイミド前駆体分子鎖中に導入されているので、従来の熱分解性有機ポリマーを単にポリイミド前駆体と混合しただけの組成物とは異なり、熱分解性有機ポリマーがポリマー分子単位で、ポリイミド前駆体分子鎖全体にわたって共重合したポリイミド前駆体が得られる。そして、微分散状態を保持したままでイミド化を進行させることができるので、独立気泡タイプの微細空孔が略均等分布したポリイミド多孔質体を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
〔ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体〕
本発明のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとが縮合重合してなるポリイミド前駆体分子鎖中に、熱分解温度が350℃以下の有機ポリマー基が導入されたものである。
【0021】
前記熱分解温度は、ポリイミド前駆体分子鎖中に導入される前、すなわち有機ポリマー単独の熱分解温度をいう。具体的には、窒素雰囲気下で10℃/minで昇温したときの質量減少率が50%となるときの温度をいい、有機ポリマー単独、すなわちポリイミド前駆体との結合形成前の状態の有機ポリマーについて測定される温度である。
【0022】
前記有機ポリマー基は、熱分解温度350℃以下の有機ポリマーの反応残部(反応残基)に該当する。熱分解性有機ポリマー基は、下記(1)式に示すように、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとが縮合重合してなるポリイミド前駆体部に直接結合することにより、ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体が形成されていてもよいし、下記(2)式に示すように、連結基を介してポリイミド前駆体部に結合していてもよい。尚、(2)式中、X,Yは連結基が反応残基となる連結用化合物の反応性官能基と有機ポリマーの反応性官能基との反応により形成される結合部分(エーテル結合、ウレタン結合、ウレア結合、アミド結合など)を示す。
【0023】
【化1】

【0024】
【化2】

【0025】
有機ポリマー基は、ウレタン結合又はウレア結合を介して、前記ポリイミド前駆体分子鎖中に導入されていることが好ましい。この場合、有機ポリマーがポリイミド前駆体構成モノマーと反応して、ウレタン結合又はウレア結合を形成することにより、直接的に有機ポリマー基がポリイミド前駆体部に結合していてもよいし、連結基となる連結用化合物がポリイミド前駆体構成モノマーと反応して、ウレタン結合又はウレア結合を形成することにより、有機ポリマー基が連結基を介してポリイミド前駆体部に結合していてもよい。
【0026】
以下、ポリイミド前駆体構成モノマーであるテトラカルボン酸二無水物、ジアミン、有機ポリマー基、連結用化合物について、各順に説明する。
【0027】
<テトラカルボン酸二無水物>
テトラカルボン酸二無水物としては、炭素数が2〜27の脂肪族基、炭素数4〜10の環式脂肪族基、単環式芳香族基、縮合多環式芳香族基に結合したテトラカルボン酸の二無水物を用いることができる。具体的には、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ(2,2,2)−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボンキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは1種又は2種以上混合して用いることができる。これらのうち、芳香族テトラカルボン酸二無水物が好ましく用いられ、より好ましくは、ビフェニル骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物が用いられる。
【0028】
<ジアミン化合物>
ジアミン化合物としては、芳香族、脂肪族、又は架橋員により連結された芳香族基にアミノ基が結合した化合物であればよいが、好ましくは芳香族ジアミン、より好ましくはビフェニル骨格を有する芳香族ジアミンが用いられる。
【0029】
上記芳香族ジアミンとしては、2,2’−ジメチル4,4’−ジアミノビフェニル(mTBHG)、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)4,4’−ジアミノビフェニル(TFMB)、2,2’−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン(Bis−A−AF)パラフェニレンジアミン(PPD)、メタフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジヒドロキシ4,4’−ジアミノビフェニル、4、4’−ジヒドロキシ3,3’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2’−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン等が挙げられ、これらは1種又は2種以上組合せて用いてもよい。
【0030】
ジアミン化合物は、テトラカルボン酸二無水物と縮合重合してポリイミド前駆体を形成する化合物であり、テトラカルボン酸二無水物と実質的に等モル比となるように、配合される。
【0031】
<有機ポリマー基>
はじめに、有機ポリマー基の供給源となる熱分解温度350℃以下の有機ポリマーについて説明する。
【0032】
上記熱分解温度とは、窒素雰囲気下で加熱したときの質量減少率が50%となるときの温度をいい、具体的には、窒素雰囲気下で室温から10℃/minで昇温し、質量減少率が50%となるときの温度をいう。例えば、エスアイアイ・ナノテクノジー株式会社製のTG/DTA(示差熱熱重量同時測定装置)を用いて熱重量を測定することにより測定できる。有機ポリマー基の供給源となる有機ポリマーの熱分解温度が350℃を超えると、ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体の熱処理過程での熱分解が困難となり、その結果、ポリイミド樹脂中に十分な空孔を形成することが困難となる。
【0033】
従って、有機ポリマー基の供給源となる有機ポリマーは、熱分解温度が350℃以下の有機ポリマーであって、ポリイミド前駆体分子鎖中に導入されるように、ジアミン、テトラカルボン酸無水物と反応できる反応性官能基(OH基、NH2基、イソシアネート基、エポキシ環など)をポリマー鎖末端に有するもの又は後述する連結用化合物と反応できる反応性官能基をポリマー鎖末端に有するものであればよい。有機ポリマー基はポリイミド前駆体分子鎖中にウレタン結合又はウレア結合を介して導入されることが好ましいことから、ポリイミド前駆体構成モノマーと反応する反応性官能基はイソシアネートであることが好ましい。この場合、イソシアネート基を反応性官能基として有する有機ポリマーに限らず、有機ポリマー末端をイソシアネートで修飾したイソシアネート修飾有機ポリマーであってもよい。入手の点から、イソシアネート修飾有機ポリマーが好ましく用いられる。
【0034】
ここで、イソシアネート修飾有機ポリマーは、有機ポリマーの反応性官能基がイソシアネート化合物と反応することにより、有機ポリマー末端をイソシアネートで修飾したものをいい、このときに用いられるイソシアネート化合物が連結用化合物に該当する。
【0035】
反応性官能基としてイソシアネートを有する有機ポリマーを有機ポリマー基の供給源として用いた場合、ポリイミド前駆体構成モノマーと反応した結果、例えば、下記(3)式に示すように、ウレア結合を形成して、ポリイミド前駆体分子鎖中に導入されることになる。
【0036】
【化3】

【0037】
一方、イソシアネート修飾有機ポリマーを有機ポリマー基の供給源として用いた場合、末端のイソシアネートがポリイミド前駆体構成モノマーと反応した結果形成されるウレタン結合又はウレア結合、及び連結用化合物の反応残基である連結基を介して、有機ポリマー基がポリイミド前駆体分子鎖中に導入されることになる。
【0038】
本発明で用いられる有機ポリマーの具体例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;エポキシ(メタ)アクリレート等のエポキシ含有化合物;ε−カプロラクトン(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらの有機ポリマーは、単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0039】
これらのうち、ポリアルキレングリコールが好ましく用いられる。ポリアルキレングリコールは、後述する連結用化合物との反応により、ポリアルキレングリコールの分子鎖末端をイソシアネート修飾したイソシアネート修飾有機ポリマーを得ることができる。このイソシアネート修飾有機ポリマーがポリイミド前駆体構成モノマーのジアミン又はテトラカルボン酸二無水物と反応して、ウレタン結合又はウレア結合を形成して、ポリイミド前駆体分子鎖中に導入されることになる。
【0040】
熱分解性有機ポリマーの重量平均分子量は、形成しようとする多孔質ポリイミドの空孔の大きさにより適宜選べるが、通常、反応残基となる有機ポリマー基の重量平均分子量として200〜10000であることが好ましく、より好ましくは200〜3000である。重量平均分子量が10000を超えると、熱処理により形成される空孔サイズが大きくなりすぎて、空孔が圧壊しやすくなり、結果として、熱分解性有機ポリマーに対応する空孔サイズが得られず、また空孔率の低下をもたらす原因ともなる。あるいは空孔が圧壊されない場合であっても、高分子量の有機ポリマー基の焼失により空孔サイズが大きくなりすぎると、ポリイミド多孔質膜の耐折り曲げ性などの機械的強度低下の原因となる。尚、有機ポリマー基の重量平均分子量は、その供給源となる有機ポリマーの重量平均分子量と実質的に同等である。
【0041】
以上のような有機ポリマーが、ポリイミド前駆体の構成モノマーであるテトラカルボン酸二無水物及び/又はジアミンと反応した反応残基、あるいは後述するような連結用化合物と反応した反応残基が有機ポリマー基となって、ポリイミド前駆体分子鎖中に導入されることになる。
【0042】
ポリイミド前駆体分子鎖中の有機ポリマー基含有率は、有機ポリマー基の供給源となる有機ポリマーの配合量として、ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体を製造するための原料(すなわち、テトラカルボン酸二無水物、ジアミン化合物、熱分解性有機ポリマー、連結用化合物)の合計重量の10〜60重量%となる量であることが好ましく、より好ましくは20〜50重量%である。10重量%未満では、高空孔率のポリイミド多孔質体を得ることが困難となるため、所望の低誘電率を達成することが困難である。60重量%を超えると得られる多孔質膜の強度が不十分となる。
【0043】
<連結用化合物>
上記(2)式の連結基の供給源となる連結用化合物について、以下に説明する。
連結用化合物としては、熱分解性有機ポリマーの反応性官能基(OH基、エポキシ環、イソシアネート基、アミノ基)及びポリイミド前駆体構成モノマーと反応できる官能基を有する化合物で、好ましくはウレタン結合又はウレア結合を形成できる官能基を、2つ以上有する化合物が用いられる。
【0044】
具体的には、イソシアネートを2つ以上有する化合物が好ましく用いられる。例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、PDI(フェニレンジイソシアネート)、NDI(ナフタレンジイソシアネート)、IPDI(イソホロンジイソシアネート)、HDI(ヘキサメチレンジイソシアネート)、水添MDI、XDI(キシリレンジイルジイソシアネート)、TODI(3,3’−ジメチルビフェニル−4,4’−ジイソシアネート)などが挙げられる。これらのうち、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が好ましく用いられる。このようなイソシアネート化合物は、ジアミンと反応してウレア結合を形成でき、OH基又はエポキシ環と反応してウレタン結合を形成できる。
【0045】
連結用化合物としてジイソシアネート化合物を使用し、有機ポリマーとしてポリアルキレングリコールを用いた場合、形成されるポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体は、下記式(4)に示すようになる。連結用化合物の反応残基である連結基の一端がポリアルキレングリコールの反応残基とウレタン結合を介して連結され、連結基の他端がポリイミド前駆体部とウレタン結合又はウレア結合を介して連結されている。
【0046】
【化4】

【0047】
<ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体>
本発明のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体が、以上のような構成要素から構成されるものである。重量平均分子量は、分子鎖中に導入される有機ポリマー基の種類、ポリイミド前駆体のモノマー構成により異なるが、通常、5,000〜300,000であることが好ましく、より好ましくは10,000〜100,000である。ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体の分子量は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物のモル比を等量から若干量ずらしたり、ピロメリット酸無水物等の末端封止剤を添加したり、少量の水を添加したりすることによっても適宜調整することができる。
【0048】
以上のような構成を有するポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体は、加熱によりイミド化するとともに、ポリイミド前駆体分子鎖中の熱分解性有機ポリマー基が熱分解、揮散して、その部分が空孔となったポリイミド多孔質体となる。得られるポリイミド多孔質体は、有機ポリマー基部分が空孔となった独立気泡タイプの多孔質体で、しかも熱分解性有機ポリマー基に対応する空孔が分散した状態となっている。
【0049】
〔ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体の製造方法〕
以上のような構成を有する本発明のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体の製造方法は、特に限定しないが、ウレタン結合又はウレア結合を介して、有機ポリマー基が導入されているポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体は、以下のようにして合成されることが好ましい。
【0050】
すなわち、本発明の製造方法は、熱分解温度が350℃以下の有機ポリマーとジイソシアネート化合物とを反応させて、イソシアネート修飾有機ポリマーを合成する工程;及び前記イソシアネート修飾有機ポリマー存在下で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの縮合重合を行う工程を含む。
【0051】
本発明の製造方法で用いられる熱分解温度が350℃以下の有機ポリマーは、反応性官能基がジイソシアネート化合物と反応できる官能基であり、具体的にはポリアルキレングリコール、エポキシ基含有ポリマーである。
また、本発明の製造方法で用いられるジイソシアネート化合物は、連結用化合物として用いられるもので、上述の連結用化合物で列挙したようなジイソシアネート化合物が用いられる。好ましくは4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)である。
【0052】
上記有機ポリマーとジイソシアネート化合物が反応することにより、有機ポリマーの両末端がイソシアネートで修飾される。例えば、熱分解性有機ポリマーとしてポリアルキレングリコールを用いた場合には、得られるイソシアネート修飾有機ポリマーは、下記式(5)のような構造を有している。式中、有機ポリマー基は上記有機ポリマーの反応残基であり、連結基はジイソシアネート化合物の反応残基である。ポリアルキレングリコールのOH基とイソシアネート化合物との反応によりウレタン結合が形成されている。
【0053】
【化5】

【0054】
上記有機ポリマーとジイソシアネート化合物との反応は、通常、有機溶媒中で行われる。使用する有機溶媒としては、特に限定しないが、例えば、ポリプロピレングリコールとジイソシアネートを、N,Nジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,Nジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性極性溶媒が好ましく用いられる。
反応条件は、使用する有機ポリマー、ジイソシアネート化合物の種類にもよるが、通常、0〜100℃で2〜24時間反応させることにより、ウレタン又はウレア結合が形成される。
【0055】
次いで、得られたイソシアネート修飾有機ポリマー存在下で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの縮合重合を行う。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの縮合反応中、イソシアネート修飾有機ポリマーとジアミンとの反応も起こる。これにより、イソシアネートとジアミンとの反応により形成されたウレア結合を介して、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との縮合重合により形成されたポリイミド前駆体部と有機ポリマー基とが連結される。すなわち、有機ポリマー基が、ポリイミド前駆体分子鎖中に導入される。
【0056】
本発明の製造方法は、反応性の観点から、まず、イソシアネート修飾有機ポリマーとジアミンとを反応させて、有機ポリマーが分子鎖中に導入されたジアミンを得、次いで、ポリイミド前駆体構成モノマーであるテトラカルボン酸二無水物を添加して、前記ジアミンとテトラカルボン酸二無水物との縮合重合を行うことが好ましい。縮合重合で得られるポリイミド前駆体分子鎖中には、ジアミン分子鎖中に導入されたは有機ポリマーが導入されている。
【0057】
得られたイソシアネート修飾有機ポリマー存在下で行う、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの縮合重合、有機ポリマーが分子鎖中に導入されたジアミンとテトラカルボン酸二無水物との縮合重合は、通常行うテトラカルボン酸二無水物とジアミンの縮合重合と同様の条件で行うことができる。イソシアネート修飾有機ポリマー合成反応で用いたような有機溶媒中、すなわち非プロトン性極性溶媒中で、通常、0〜100℃で2〜24時間反応させることにより、ウレタン又はウレア結合が形成される。
【0058】
イソシアネート修飾有機ポリマー合成工程、縮合重合工程は、連続して行ってもよいし、まずイソシアネート修飾有機ポリマーを合成した後、縮合重合のみを別途行ってもよい。
【0059】
ジアミン類とテトラカルボン酸二無水物との配合比率は、導入される有機ポリマー基の量に応じて、適宜設定する。反応性の観点から、イソシアネート修飾有機ポリマーとテトラカルボン酸二無水物の合計モル数がジアミンのモル数と等しくなるようにすることが好ましい。
【0060】
〔多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物〕
本発明の多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物は、主成分の樹脂として、上記本発明のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体を含む組成物である。具体的には、ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体を樹脂固形分として、有機溶剤に分散させたものである。
【0061】
前記溶媒としては、ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体の反応溶媒がそのまま含まれたものであってもよい。さらには他の有機溶媒を添加したものであってもよい。
【0062】
本発明の多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物には、ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体の他、他のポリマー、他の添加剤などが含有されていてもよい。
【0063】
例えば、光重合性モノマー、光重合開始剤を添加混合して、感光性樹脂組成物を製造することもできる。
上記光重合性モノマーとしては、X線、電子線、紫外線等を照射(露光)することで架橋する光反応性官能基を持つモノマーが用いられ、不飽和二重結合等の光反応性官能基とアミノ基とを含有することが好ましい。具体的には、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−イソプロピルメタクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−ブチルメタクリルアミド、N−ブチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、N−シクロヘキシルメタクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド、N−メチロ−ルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、メタクリロイルモルホリン、アクリロイルピペリジン、メタクリロイルピペリジン、クロトンアミド、N−メチルクロトンアミド、N−イソプロピルクロトンアミド、N−ブチルクロトンアミド、酢酸アリルアミド、プロピオン酸アリルアミドなどが光重合性モノマーとして挙げられるが、これらに限定されない。光重合性モノマーはポリイミド前駆体樹脂のカルボキシル基に対して1〜1.5当量の範囲で配合することが好ましい。また、光反応性官能基とグリシジル基を有する化合物、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アリルグリシジルエーテル、4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル等を上記光重合成モノマーと併用することにより、現像性に優れた感光性樹脂組成物が得られる。
【0064】
また、光重合開始剤としては、i線(波長365nm)吸収タイプとしてはα−アミノケトン型のもの、g線(波長436nm)吸収タイプとしてはチタノセン化合物等のメタロセン系のものがそれぞれ好ましく用いられる。いずれの開始剤も、ポリイミド前駆体樹脂固形分に対して0.1〜10重量%配合することによって良好な現像性が得られる。
【0065】
さらに、必要に応じて添加される添加剤としては、例えば、消泡剤、レベリング剤等の各種界面活性剤を添加することができる。
【0066】
以上のような組成を有する樹脂組成物は、加熱硬化により、ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体がイミド化するとともに、ポリイミド前駆体に導入されていた有機ポリマー基が熱分解、揮散し、有機ポリマー基部分が空孔となったポリイミド多孔質体を得ることができる。
【0067】
〔ポリイミド多孔質体〕
本発明のポリイミド多孔質体は、上記本発明の多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物を加熱処理することにより得られる。
具体的には、基材に、本発明の樹脂組成物を塗布し、溶剤を乾燥させることにより、ポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体皮膜を形成する。次いで、熱処理すると、ポリイミド前駆体のイミド化が起こるとともに、前駆体分子鎖中に導入されていた熱分解性有機ポリマー基が熱分解、焼失して、微細な空孔を有するポリイミド多孔質体が形成される。
【0068】
ポリイミド前駆体皮膜は、特に限定しないが、50〜150℃程度で溶剤を乾燥させることにより形成できる。
【0069】
熱処理は、200〜500℃で1〜24時間加熱することにより行う。熱分解性有機ポリマー基の熱分解、揮散、焼失(多孔質化)のための熱処理条件は、熱分解性有機ポリマー基の熱分解温度に応じて選択される。加熱時間は、熱処理温度に応じて適宜設定すればよいが、400℃を超える高温で長時間加熱すると、ポリイミドが劣化してしまう。従って、通常、200〜400℃で2〜10時間程度の加熱とすることが好ましい。
【0070】
熱処理は、イミド化後、有機ポリマー基の熱分解、あるいはイミド化と有機ポリマー基の熱分解とを同時に行うことが好ましい。本発明のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体は、有機ポリマー基がポリイミド前駆体部に連結された状態でイミド化が進行して硬化するとともに、導入された有機ポリマー基の焼失による空孔形成が進行できるので、導入された有機ポリマー基のサイズ(有機ポリマー基の重量平均分子量)に応じた空孔を形成するとともに、形成された空孔が熱処理中に圧潰することを防止できる。従って、微細な空孔がほぼ均質的に分散した多孔質ポリイミドを得ることができる。
【0071】
感光性樹脂組成物を用いる場合には、多孔質化及びイミド化のための熱処理は、露光・現像後に行う。
【0072】
本発明のポリイミド多孔質体は、ポリイミド前駆体分子鎖中に導入された有機ポリマー基に対応する空孔が形成されているので、微細な空孔がポリイミド中に微分散した独立気泡タイプの多孔質体である。特に、空孔サイズは、有機ポリマーに対応しているので、有機ポリマー形成用化合物の分子量を適宜選択することで、空孔サイズを制御することができ、空孔サイズもほぼ均一とすることができる。また、微細孔が略均等分布した多孔質体が得られるので、空孔率が高い多孔質体であっても、強度低下を抑制でき、ポリイミド構成成分の選択により、高強度な多孔質膜を得ることができる。
【0073】
以上のようにして得られるポリイミド多孔質体は、平均空孔径が、通常、0.001μm〜10μmであり、好ましくは0.01μm〜5μm、さらに好ましくは0.1μm〜1μmである。平均空孔径が0.001μmより小さいと孔の閉塞が起こりやすく十分な低誘電率化の効果が得られにくい。一方、10μmより大きいとポリイミド樹脂の機械的強度、耐熱性または耐溶剤性が損なわれる。
以上のようなサイズの独立気泡を多数構成することで、ポリイミド多孔質膜の低誘電率化を達成できる。
【0074】
多孔質体の空孔率は、特に限定しないが、好ましくは10〜60%、より好ましくは20〜50%である。本発明のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体を利用することにより、空孔率60%程度の多孔質体を形成できるととともに、空孔率60%程度でも、必要十分な強度を確保することができる。一方、有機ポリマー基の含有率を高めすぎても、焼失せずに一部が残存してしまい、60%を超える多孔質体の製造が困難となる傾向にある。なお、上記範囲内の空孔率であれば、ポリイミド前駆体に含まれる有機ポリマー基の含有率により制御できる。
【0075】
以上のような多孔質膜は、1GHzで3.0以下という低誘電率化を達成可能であり、しかもポリイミド樹脂の優れた特性、機械的強度、耐熱性、耐溶剤性も保持できる。
具体的には、また、ポリイミド前駆体の分子骨格に剛直な構造を導入することによって、線熱膨張係数(CTE)が30ppm/K以下とすることができる。樹脂の線熱膨張係数を上記範囲内で調整することにより、金属やシリコンからなる基材及び導体層との熱膨張係数の差を小さくすることが可能となり、ポリイミド層と金属層との間に残留応力が蓄積することにより生じるクラックや層間剥離などの問題を解決できる。
【0076】
ポリイミド多孔質体の応用品も本発明の範囲内に含まれる。
ポリイミド多孔質体の応用品としては、例えば、ポリイミド基材の片面に銅等の金属からなる導体配線を有し、その導体配線上に、ポリイミド多孔質膜をカバーレイフィルム(保護膜)として有する片面フレキシブルプリント配線板を例示できる。
また、ステンレス等の金属箔基材上にポリイミド等の絶縁層を有し、その上に銅等の金属からなる導体配線(回路)を有し、その導体配線上にポリイミド多孔質膜を保護膜として有する回路付きサスペンション基板などを例示できる。
さらに、前記プリント配線板、サスペンション基板において、ポリイミド基材や絶縁層としてのポリイミド膜にも、本発明のポリイミド多孔質体を用いてもよい。
【実施例】
【0077】
本発明を実施するための形態を実施例により説明する。下記実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0078】
〔測定評価方法〕
(1)平均空孔径(μm)
作製したポリイミド樹脂膜の切断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して、平均空孔径を算出した。
【0079】
(2)空孔率(%)
作製したポリイミド樹脂膜の厚み及び重量を測定し、次の式から空孔率を算出した。式中のSは樹脂膜サンプルの面積、Tは膜厚、Wは測定した樹脂の重量、Dはポリイミドの密度を表す。ポリイミドの密度は空孔のないポリイミドフィルムから算出した。
空孔率(%)= 100−100×(W/D)/(S×T)
【0080】
(3)線熱膨張係数(ppm/K)
熱機械分析装置(TMA)により測定した。0℃から150℃までの平均値とする。線熱膨張係数は、銅の線熱膨張係数(18ppm/K)やSUSの線熱膨張係数(17ppm/K)とあうように、これらの値に近いことが好ましい。
【0081】
(4)誘電率
インピーダンスアナライザの容量法により、測定周波数1GHzで測定した。低誘電率膜としては、誘電率3.0以下であることが望まれる。
【0082】
(5)耐折り曲げ性
作製したポリイミド樹脂膜を折り曲げ、特に変化がなければ「○」、裂けるなどの不良が認められた場合を「×」とした。
【0083】
(6)有機ポリマーの熱分解温度
エスアイアイ・ナノテクノジー株式会社製のTG/DTA(示差熱熱重量同時測定装置)を用いて、窒素雰囲気下で室温から10℃/minで昇温し、熱重量を測定した。質量減少率が50%となるときの温度を熱分解温度とした。
【0084】
〔ポリイミド前駆体の合成及びポリイミド多孔質膜の製造〕
(1)ポリイミド前駆体No.1
N−メチルピロリドン(NMP)60gに、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)7.51g(30mmol)を添加し、窒素雰囲気下80℃で攪拌し完全に溶解させた後、重量平均分子量1000のポリエチレングリコール(PEG1000、熱分解温度:350℃)15.0g(15mmol)を20gのNMPに溶かして、1時間かけて徐々に滴下し、その後さらに80℃で3時間攪拌を続けた。その後、p−フェニレンジアミン(PPD)7.02g(65mmol)を加えてさらに2時間反応させ、反応液を40℃まで冷却した後、3,4,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)14.7g(50mmol)とNMP20gを加えて5時間攪拌して、ポリイミド前駆体の組成物を得た。
組成物におけるポリイミド前駆体の固形分は30%であった。
【0085】
厚み40μmの銅箔上に上記で調製したポリイミド前駆体の組成物をスピンコート法によって塗布した後、90℃で30分間加熱乾燥して厚み20μmのポリイミド前駆体の被膜を形成した。次いで、窒素雰囲気下で120℃で1時間、250℃で2時間、370℃で5時間の熱処理を行ってイミド化させ、ポリイミド樹脂膜を作製した。
得られたポリイミド樹脂膜の断面をSEMで観察し、平均空孔径、空孔率を求めた。
さらに、誘電率、熱線膨張係数を上記方法に従って、測定、算出した。結果を表1に示す。
【0086】
(2)ポリイミド前駆体No.2〜7
テトラカルボン酸二無水物の種類及び配合量、ジアミン化合物の種類及び/または配合量、有機ポリマーの種類及び/又は量を表1のように変えた以外は、No.1と同様にして、ポリイミド前駆体を合成した。このポリイミド前駆体の組成物を用いて、No.1と同様にしてポリイミド樹脂膜を作製した。得られたポリイミド樹脂膜の平均空孔径、空孔率、誘電率、線熱膨張係数を上記測定方法に従って測定した結果をあわせて表1に示す。
【0087】
(3)No.8
MDI及びPEG1000を添加しないで、No.1と同様にしてポリイミド前駆体を合成した後、PEG1000を添加して、ポリイミド前駆体組成物を得た。このポリイミド前駆体体の組成物を用いて、No.1と同様にしてポリイミド樹脂膜を作製した。得られたポリイミド樹脂膜の平均空孔径、空孔率、誘電率、線熱膨張係数を上記測定方法に従って測定した結果をあわせて表1に示す。
【0088】
なお、No.2〜8で用いた有機ポリマーは、下記の通りである。
PPG1000:重量平均分子量1000のポリプロピレングリコール、熱分解温度300℃
PPG3000:重量平均分子量3000のポリプロピレングリコール、熱分解温度300℃
PEG20000:重量平均分子量20000のポリプロピレングリコール、熱分解温度350℃
PE3000:重量平均分子量3000のポリエチレン、熱分解温度410℃
また、表1中、PMDAはピロメリット酸2,3無水物、BPDAは2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニルを示す。
【0089】
【表1】

【0090】
No.7は、実質的に多孔質膜が形成されなかった。有機ポリマーとして用いたポリエチレンは、イソシアネート、アミンとの反応性官能基を有しないため、連結用化合物共存下でポリイミド前駆体の合成を行っても、ポリイミド前駆体分子鎖中に導入されなかったと考えられる。しかも、ポリエチレンの熱分解温度は高いため、イミド化のための熱処理(370℃)では分解、焼失できなかったためと考えられる。
【0091】
No.1〜5は、熱分解温度350℃以下のポリアルキレングリコールを用いてイソシアネート修飾有機ポリマーを合成し、当該イソシアネート修飾有機ポリマー存在下で、ポリイミド前駆体を合成した場合である。合成されたポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体を含有する組成物を用いた場合、いずれも、微細な空孔を有する多孔質膜を得ることができ、誘電率も低かった。尚、空孔径は、No.1,2が同程度で、No.3,4、5の順で大きくなっていることから、ポリアルキレングリコールの分子量により、空孔サイズを調節できることがわかる。従って、分子量20000のポリアルキレングリコールを用いたNo5では、空孔径が大きくなり、空孔率がNo.1〜4よりも低いにもかかわらず、耐折り曲げ性が劣っていた。
【0092】
No.4とNo.6を比べると、有機ポリマー(PPG)の分子量が同じであるにもかかわらず、平均空孔径は、No.6の方が大きくなった。これは、有機ポリマーの配合割合が高くなりすぎると、ポリイミド前駆体分子鎖中における有機ポリマーの導入頻度が上がり、熱分解、除去により、有機ポリマー間に介在するイミド部分が圧壊されたりして、空孔が肥大化したのではないかと推察する。
【0093】
No.8は、PEG1000を、ポリイミド前駆体と単に混合しただけの組成物である。ポリイミド前駆体溶液中にPEG1000が分散されているだけの状態であるため、PEG1000の分散性に基づいたポリイミド前駆体膜、ポリイミド多孔質体が形成されることから、有機ポリマー基としてポリイミド前駆体分子鎖中に導入されているNo.2と比べて、得られたポリイミド多孔質体は、平均空孔径が大きく、空孔率も小さかった。その結果、誘電率もNo.2より大きくなり、劣っていた。同じ熱分解温度を有する有機ポリマーであっても、ポリイミド前駆体と単に混合するよりも、ポリイミド前駆体分子鎖中に導入した方が、微細空孔が多数分散されたポリイミド多孔質体が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体を用いることにより、熱分解性有機ポリマーを組成物中で分散させるための特別の工夫等を行わなくても、微細な空孔が略均等分布するようなポリイミド多孔質体を容易に製造できる。従って、各種ポリイミド多孔質体の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質ポリイミドの形成に用いられるポリイミド前駆体であって、
テトラカルボン酸二無水物とジアミンが縮合重合してなるポリイミド前駆体分子鎖中に、熱分解温度が350℃以下の有機ポリマー基が導入されているポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体。
【請求項2】
前記有機ポリマー基は、ウレタン結合又はウレア結合を介して、前記ポリイミド前駆体分子鎖中に導入されている請求項1に記載のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体。
【請求項3】
前記有機ポリマー基は、ポリアルキレングリコールの反応残基である請求項1又は2に記載のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体。
【請求項4】
前記有機ポリマー基の重量平均分子量は200〜10000である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体。
【請求項5】
前記有機ポリマー基は、前記ジアミン又はテトラカルボン酸二無水物とウレタン結合又はウレア結合している連結基に結合している請求項1〜4のいずれかに記載のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体。
【請求項6】
熱分解温度が350℃以下の有機ポリマーとジイソシアネート化合物とを反応させて、イソシアネート修飾有機ポリマーを合成する工程;及び
前記イソシアネート修飾有機ポリマー存在下で、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの縮合重合を行う工程
を含むポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリマー型熱分解性基含有ポリイミド前駆体を含有する多孔質ポリイミド形成用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の樹脂組成物を加熱硬化することにより得られるポリイミド多孔質体。
【請求項9】
空孔径0.001〜10μm、空孔率10〜60%である請求項8に記載のポリイミド多孔質体。
【請求項10】
請求項8又は9に記載のポリイミド多孔質体の薄膜を有するプリント配線板。

【公開番号】特開2011−140580(P2011−140580A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2620(P2010−2620)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】