説明

ポリマー套管

【課題】ポリマー套管の大径化を抑えつつ運転電圧の高電圧化を図る。
【解決手段】ポリマー套管1は、中心に配設される導体引出棒2と、導体引出棒の外周に設けられる硬質の絶縁体3と、絶縁体の外周に設けられ外周に多数の襞部が長手方向に離間して形成されたポリマー被覆体4とを備えている。導体引出棒の下端部は絶縁体の下端部から貫通され、絶縁体の下端部近傍であってポリマー被覆体の下端部に対応する部位には、外表面に高圧側から低圧側に向かって滑らかに拡径するテーパ部33aを備える大径部33が設けられ、大径部とポリマー被覆体との界面には酸化亜鉛層または高誘電率層で構成される電界緩和層5が設けられ、絶縁体の大径部には筒状の遮蔽金具6が導体引出棒と同心状に埋設され、電界緩和層は遮蔽金具に電気的に接触している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ポリマー套管に係わり、特に、エポキシブッシング等の絶縁体とシリコーンゴム等のポリマー被覆体との界面に電界緩和層を備えたポリマー套管に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、套管の軽量化、スリム化、縮小化、套管種類の共通化および作業工程の簡略化などを図る観点から、エポキシブッシング等の絶縁体の表面にシリコーンゴム等のポリマー被覆体を直接モールドした固体絶縁構造(完全乾式)のポリマー套管が使用されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
しかしながら、このような構成のポリマー套管においては、電界が高くなるとポリマー套管の外表面においてコロナ放電が発生し、当該コロナ放電が長期間に亘って生じた場合にはポリマー被覆体が化学的な侵食を受け劣化(エロージョン)するという難点がある。
【0004】
かかるコロナ放電の発生を防止するためには、ポリマー套管の気中表面の電界強度を下げる必要があるところ、このような電界強度を下げる方法としては、(イ)絶縁体とポリマー被覆体との界面に電界緩和層を設ける方法(例えば、特許文献2)や、(ロ)ポリマー被覆体の外径を太くする方法が知られている(例えば、特許文献3)。
【0005】
しかしながら、(イ)の方法においては、従来の電圧仕様(66/77kV)であれば運転電圧においては発熱が生じないものの、運転電圧が例えば154kV程度にまで上昇すると当該運転電圧で電界緩和層がスイッチングにより発熱し、劣化の問題が無視できなくなるという難点がある。
【0006】
ここで、上記の発熱現象は、電界緩和層の電圧―電流特性に起因するものと解されている。すなわち、図4に示すように、電界緩和層の電圧―電流特性は非線形で66〜77kV程度の運転電圧(図中A部)では殆ど電流が流れないものの、運転電圧が154kV程度(図中B部)を越えると電界が集中する部分において、電界緩和層に大電流が流れ、当該電流により、すなわち図5に示すように、ポリマー套管の遮蔽金具400近傍の電界緩和層において発熱が生じるものと解される。なお、図5中、符号100は導体引出棒、200は絶縁体、300はポリマー被覆体、310はポリマー被覆体の襞部、500は電界緩和層を示している。
【0007】
一方、(ロ)の方法においては、気中表面(ポリマー被覆体300の襞部310の部分)の電界強度をある程度は下げることができるものの、(イ)の方法によるものと同等の電界強度とするためには、ポリマー被覆体300の外径を必要以上に大径化しなければならず、このため、(ロ)の方法においては、ポリマー被覆体300の外径がより大径化することで気中終端の表面積の増大により塩害特性の低下を招き、また、より多くの絶縁材料を要することでケーブル終端接続部の重量アップやコストアップを招くという難点がある。
【0008】
【特許文献1】特開2003−303632
【特許文献2】特開2005−117806
【特許文献3】特開2002−157932
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の難点を解決するためになされたもので、ポリマー套管の大径化を抑えつつ運転電圧の高電圧化を図ることができるポリマー套管を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様であるポリマー套管は、中心に配設される導体引出棒と、導体引出棒の外周に設けられる硬質の絶縁体と、絶縁体の外周に設けられ外周に多数の襞部が長手方向に離間して形成されたポリマー被覆体とを備え、導体引出棒の下端部は絶縁体の下端部から貫通され、絶縁体の下端部近傍であってポリマー被覆体の下端部に対応する部位には、外表面に高圧側から低圧側に向かって滑らかに拡径するテーパ部を備える大径部が設けられ、大径部とポリマー被覆体との界面には酸化亜鉛層または高誘電率層で構成される電界緩和層が設けられ、絶縁体の大径部には筒状の遮蔽金具が導体引出棒と同心状に埋設され、電界緩和層は遮蔽金具に電気的に接触しているものである。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様であるポリマー套管において、テーパ部には、滑らかな湾曲凸面形状を呈するような加工が施されているものである。
【0012】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様であるポリマー套管において、電界緩和層は大径部の外周にモールドにより一体的に形成されているものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のポリマー套管によれば、次のような効果がある。
【0014】
第1に、絶縁体の電界が集中する遮蔽金具付近に、すなわち絶縁体の下端部近傍であって導体引出棒の導体挿入孔よりも上方部位に大径部を設け、当該大径部とポリマー被覆体との界面に電界緩和層を設けることで、ポリマー套管の気中表面の電界強度を下げることができ、かつ電界緩和層の発熱を抑えることができる。従って、本発明のポリマー套管を用いたーブル終端接続部によれば、ポリマー套管の大型化を抑えつつ運転電圧の高電圧化を図ることができる。
【0015】
第2に、前述の絶縁体の大径部の外表面に高圧側から低圧側に向かって緩やかに拡径するテーパ部を設けることで、電界の集中を緩和することができる。
【0016】
第3に、前述のテーパ部の外表面に曲面加工、すなわち滑らかな湾曲凸面形状を呈するような加工を施すことで、より一層電界の集中を緩和することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のポリマー套管の好ましい実施の形態例について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、導体引出棒、絶縁体(大径絶縁体、小径絶縁体および大径部を含む)および遮蔽金具(円筒部および漏斗状部を含む)および電界緩和層の「先端部」とは、高圧側をいい、図中では上方向に相当し、また、導体引出棒、絶縁体、遮蔽金具および電界緩和層の「下端部」とは、低圧側をいい、図中では下方向に相当する。
【0018】
図1は、本発明のポリマー套管を用いた154kV級のCVケーブルの気中終端接続部の一部断面図を示している。
【0019】
同図において、本発明のポリマー套管1は、中心に配設され、下端部に導体挿入孔2aを有する導体引出棒2と、導体引出棒2の外周に設けられた硬質の絶縁体3と、絶縁体3の外周に設けられたポリマー被覆体4とを備えている。ここで、導体引出棒2は銅などの通電に適した金属製の棒体で形成され、絶縁体3は機械的強度の高い材料、例えばエポキシ樹脂やFRPなどの硬質プラスチック樹脂で形成されている。また、ポリマー被覆体4は電気絶縁性能に優れた材料、例えばシリコーンポリマーなどの高分子絶縁材料で形成されている。なお、これらの絶縁体3、ポリマー被覆体4および後述する電界緩和層5はモールドにより一体的に形成されている。
【0020】
絶縁体3は、導体引出棒2の導体挿入孔2aの外周に、導体挿入孔2aの下方部位から後述する遮蔽金具6の下端部に跨って設けられる大径絶縁体31と、導体引出棒2の外周に、その先端部近傍から後述する遮蔽金具6の上端部近傍に跨って設けられる小径絶縁体32と、大径絶縁体31と小径絶縁体32との連設部分に設けられる大径部33とを備えており、大径絶縁体31の下端部には後述するケーブル端末部7のストレスコーン71を受容する漏斗状のテーパ内周面を有する受容口31aが導体挿入孔2aと連通するようにかつ導体挿入孔2aと同心状に設けられている。また、大径部33の外表面には、それ自身の先端部側(高圧側)から下端部側(低圧側)に向かって滑らかに拡径するテーパ部33aが設けられている。この実施例では、当該テーパ部33aの外表面は、大径部33の上端部側から下端部側に至る部分に曲面加工が施されることで滑らかな湾曲凸面形状を呈している。また、大径絶縁体31の外径は小径絶縁体32の外径の1.5〜1.7倍とされ、さらに、大径部33の下端部側の外径は大径絶縁体31の外径と略同径とされ、大径部33の上端部側の外径は小径絶縁体32の外径と略同径とされている。なお、大径絶縁体31と大径部33の軸方向の長さはそれぞれ絶縁体3の軸方向の長さの1/5程度とされ、小径絶縁体32の軸方向の長さは絶縁体3の軸方向の長さの3/5程度とされている。
【0021】
符号6は、絶縁体3の大径部33に導体引出棒2を囲繞し導体引出棒2と同心状に埋設された筒状の遮蔽金具を示しており、当該遮蔽金具6は、大径絶縁体31と大径部33との連設部にそれ自身の外表面のみを露出する如くして埋設される円筒部61と、円筒部61の上端部に円筒部61と同心状に連設されそれ自身の上端部を小径絶縁体32側に向けて大径部33に当該大径部33と同心状に埋設される先細り状の漏斗状部62と、円筒部61の下端部に円筒部61と同心状に連設され大径絶縁体31の上端部位置から径方向外方に向けて延出される環状のフランジ部63とを備えている。ここで、円筒部61の内径は大径絶縁体31の外径と略同径とされている。
【0022】
ポリマー被覆体4は、大径部33の下端部から小径絶縁体32の先端部に至る外周に設けられ、それ自身の外周部には多数個の襞部4aがポリマー被覆体4の長手方向に沿って離間して形成されている。また、大径部33とポリマー被覆体4との界面には電界緩和層5が設けられ当該電界緩和層5の下端部側は遮蔽金具6を構成する円筒部61の上端部と電気的に接触している。
ここで、電界緩和層5は、例えばエラストマー材料に酸化亜鉛粉末を充填したZnO層やカーボンブラック等の導電性フィラーを充填したゴム等の比誘電率が10以上の高誘電率層で形成されている。
【0023】
次に、本発明のポリマー套管1を用いたケーブル終端接続部について説明する。
【0024】
図1において、先ず、導体引出棒2の導体挿入孔2aの奥部にはその奥壁に突設された円柱状のボス2bに径方向に伸縮するチューリップコンタクト型の導体接続子2cが装着されている。また、遮蔽金具6を構成するフランジ部63の外周縁部の下端面には環状の底部金具8が締付ボルトBを介して固定されており、当該底部金具8は、その下面側に配設した支持碍子9を介して支持架台10に取り付けられている。これにより、ポリマー套管1は、支持碍子9を介して支持架台10に固定されていることになる。さらに、ケーブル端末を段剥処理して露出させたケーブル絶縁体72の外周にはストレスコーン71が装着されるとともに、ケーブル導体73の先端部には導体接続子2cにプラグイン接続し得る弾丸状の導体端子74が取り付けられている。ここで、ストレスコーン71は、エチレンプロピレンゴム(EPゴム)等のゴム状弾性を有するプレモールド絶縁体などから成り、このストレスコーン71の先端部には受容口31aの内壁面に装着される先細り状のコーン状部が設けられている。
【0025】
このような構成のケーブル端末部7は、その先端部がポリマー套管1の受容口31aに向けて挿入され、次いで予めケーブル端末部7側に配設した押し金具75が受容口31a側に向けて押圧される。これにより、導体端子74が導体接続子2cにプラグイン接続されるとともに、ストレスコーン71のコーン状部が受容口31aの内壁面に押し付けられ、ひいては、受容口31aの内壁面とコーン状部の外周面間における界面の絶縁性能が確保される。
【0026】
なお、図1中、符号76はケーブル遮蔽層、77はシール部、78は押し金具フランジ、79は接地線、80はスプリング、81は保護金具、82はアダプタを示している。
【0027】
図2は、本発明のケーブル終端接続部における電界解析図を示している。同図より、本発明のケーブル終端接続部は、従来のケーブル終端接続部(図5参照)と対比して明らかなように、ポリマー套管1の外表面における電界が遮蔽金具6の近傍において均一化され、電界の集中が緩和されていることが判る。
【0028】
以上のように、電界が集中する遮蔽金具6付近の絶縁体3の外径を大径化し、大径化させた絶縁体(大径部33)とポリマー被覆体4との界面に電界緩和層5を設けた本発明のケーブル終端接続部によれば、ポリマー套管1の気中表面の電界強度を下げることができる上電界緩和層5の発熱を抑えることができ、すなわち図3に示すように、本発明のケーブル終端接続部(実施例)におけるスイッチング電圧(図中C部)が従来のケーブル終端接続部(比較例)におけるスイッチング電圧(図中B部)よりも高くなることで電界緩和層5の発熱を抑えることができる。さらに、絶縁体3の大径部33の外表面に高圧側から低圧側に向かって緩やかに拡径するテーパ部33aを設けることで、電界の集中を緩和することができ、さらに、必要に応じて当該テーパ部33aの外表面に曲面加工(滑らかな湾曲凸面形状を呈するような加工)を施すことで、より一層電界の集中を緩和することができる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
前述の実施例においては、図面に示した特定の実施の形態をもって本発明を説明しているが、本発明はこれらの実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、次のようにしてもよい。
【0030】
第1に、前述の実施例においては、電界緩和層5が大径部33とポリマー被覆体4との界面に設けられているが、当該電界緩和層5は小径絶縁体の外周に跨って設けてもよく、あるいは界面全長に亘って設けてもよい。
【0031】
第2に、導体引出棒2の外周に設けられる絶縁体3は、導体引出棒2と別体で設けてもよい。
【0032】
第3に、前述の実施例においては、気中終端接続部について説明しているが、本発明はこれに限定されず、例えば貫通ブッシングなどの気中部分等に適用してもよい。
【0033】
第4に、導体引出棒2は銅で形成したものに限定されず、例えば、銅合金製、アルミニウムまたはアルミニウム合金製の何れかで形成してもよい。
【0034】
第5に、前述の実施例においては、運転電圧が154kV級のものについて説明しているが、本発明はこれに限定されず、154kVよりも低い電圧若しくはこれより高い電圧に適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明のケーブル終端接続部の一部断面図。
【図2】本発明のケーブル終端接続部における電界解析図。
【図3】本発明のケーブル終端接続部における電圧−電流特性図。
【図4】従来のケーブル終端接続部における電圧−電流特性図。
【図5】従来のケーブル終端接続部における電界解析図。
【符号の説明】
【0036】
1・・・ポリマー套管
2・・・導体引出棒
2a・・・導体挿入孔
3・・・絶縁体
33・・・大径部
33a・・・テーパ部
4・・・ポリマー被覆体
4a・・・襞部
5・・・電界緩和層
6・・・遮蔽金具
7・・・ケーブル端末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心に配設される導体引出棒と、
前記導体引出棒の外周に設けられる硬質の絶縁体と、
前記絶縁体の外周に設けられ外周に多数の襞部が長手方向に離間して形成されたポリマー被覆体とを備え、
前記導体引出棒の下端部は前記絶縁体の下端部から貫通され
前記絶縁体の下端部近傍であって前記ポリマー被覆体の下端部に対応する部位には、外表面に高圧側から低圧側に向かって滑らかに拡径するテーパ部を備える大径部が設けられ、
前記大径部と前記ポリマー被覆体との界面には酸化亜鉛層または高誘電率層で構成される電界緩和層が設けられ、
前記絶縁体の大径部には筒状の遮蔽金具が前記導体引出棒と同心状に埋設され、
前記電界緩和層は前記遮蔽金具に電気的に接触していることを特徴とするポリマー套管。
【請求項2】
前記テーパ部には、滑らかな湾曲凸面形状を呈するような加工が施されていることを特徴とする請求項1記載のポリマー套管。
【請求項3】
前記電界緩和層は前記大径部の外周にモールドにより一体的に形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載のポリマー套管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−136619(P2010−136619A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286081(P2009−286081)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【分割の表示】特願2007−164902(P2007−164902)の分割
【原出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】