説明

ポリ乳酸を分解可能な細菌株およびそのバリアント、ならびにそれらの使用

本発明は、オクロバクトルム属に属する、ポリ乳酸を分解可能な細菌株に関する。また、本発明は、本発明に係る上記細菌株によって生成されることを特徴とする、ポリ乳酸を分解可能な酵素に関する。また、本発明は、ポリ乳酸を分解可能な上記細菌株および上記酵素の用途に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を分解可能な細菌株およびこれらの細菌株のバリアント、ならびにそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
重合体材料(一般に“プラスチック”とも呼ばれている)は、その多くの物理化学的性質および低い製造費から、多くの応用分野において見受けられる。しかし、数十年にわたるプラスチックの集中的な使用は、分解に対するそれらの抵抗性と相まって、それらに関する廃棄物の処理における今日の主要な問題をもたらしている。プラスチックの世界的な消費量は、2010年までに180000000から258000000メートルトンになると予測されている。
【0003】
廃棄物管理(例えば再生利用の循環法の開発)における多大な試みにもかかわらず、プラスチックの処理には多くの問題が残っており、焼却または埋め立ては、依然としてプラスチックの根本的な除去に対する代替処理に過ぎない。
【0004】
次世代の材料:“生分解性の”プラスチック(エコポリマーまたは他のバイオプラスチック)が、ここ数年の間に市場に現れている。これらは、その形成が環境微生物による処理および分解に適しているまったく特有の種々の材料である。残念ながら、現在、市販されているエコポリマーは、天然の環境では一般的に認められない過剰に補助されている条件においてのみ分解される。
【0005】
エコポリマーのなかでもポリ乳酸(PLA)は最も有望な材料の1つである。ポリ乳酸(PLA)は、天然起源であり、大規模製造の準備のために、過去の数年にわたって商業的に競争力を有している。さらに、ポリ乳酸(PLA)は、その物理化学的性質によって種々の用途に利用され得る。PLAは、生分解可能であり、生体適合性であるという両方の性質を有しているとみなされており、その性質によって、生体組織と接触させる材料の製造のためにPLAを特に利用すること(すなわち生物医学的な利用法(例えば、インプラント、縫合糸、治療上の有益な分子の被膜など)が可能になる。PLA合成は、乳酸の生成から単量体の重合までの多段階の処理によって行われる。基本となる単量体(乳酸)は再生可能な資源(炭水化物)から発酵によって得られ、PLAは“環境維持開発”の観点から未来材料と世界的に考えられている。さらに、2006年におけるPLAの消費量は1年間に約60000メートルトンであったが、工業的に入手可能な乳酸の30%のみがPLAの生産に使用されていた。したがって、この重合体は、開発のための大きな可能性を有している。
【0006】
これらのすべての特性にもかかわらず、PLAを形成している乳酸単量体の間におけるエステル結合の安定性は、この材料の分解性の低下を結果としてもたらす。実際に、PLAは、60℃以上の温度の工業的な堆肥化の条件においてのみ完全に分解される。この処理の間におけるPLA重合体の分解は、非生物的な分解(高温の条件において促進される単量体の間におけるエステル結合の単純な加水分解による)、および第2段階における最終的に無機物化する段階まで残余のオリゴマーを加水分解する微生物による堆肥の生分解(全体が“生物的な”分解から構成されている)の組合せである。このような高温の使用はエネルギーの観点から高コストであるため、この廃棄物を処理する従来の代替法は、依然として、環境の観点から特に有害な焼却または埋め立てのままである。
【0007】
PLAの生分解を改善させるための精製された微生物または酵素の利用が想定されている。数々の研究によって、Fusarium moniliformeおよびPenicillium roqueforti(Torres, A. et al., 1996, Screening of microorganisms for biodegradation of poly(lactic-acid) and lactic acid-containing polymers, vol. 62, 2393-2397)、放線菌(例えばAmycolatopsis sp.)(Pranamuda, H. et al., 1997 Polylactide degradation by an Amycolatopsis sp, vol. 63, 1637-1640)、Saccharothrix waywayandensis (Jarerat, A., and Tokiwa, Y., 2003, Biotechnology Letters 25, 401-404)、Kibdelosporangium aridum(Tomita, K., 1999, Journal of Bioscience and Bioengineering 87, 752-755)、またはPaenibacillus amylolyticus(Teeraphatpornchai, T. et al., 2003, Biotechnology Letters 25, 23-28)による、オリゴマー(約1000Daの分子量)の分解について報告されている。他の研究によって、スタフィロコッカス属またはストレプトミセス属に属する微生物によるPLA分解が示されている(米国特許第5,925,556号および米国特許第6,066,492号)。さらに、エステラーゼ型の酵素(例えば、Rhizopus delemerのリパーゼ)による低分子量(約2000Da)のPLAの分解が、証明されている(Fukuzaki, H., 1989, European Polymer Journal 25, 1019-1026)。また、クリプトコッカス属のS2酵母のクチナーゼ様酵素は、PLAを加水分解し得る(Masaki, K., et al., 2005, Cutinase-Like Enzyme from the Yeast Cryptococcus sp. Strain S-2 Hydrolyzes Polylactic Acid and Other Biodegradable Plastics 71, 7548-7550)。
【0008】
最後に、数々の研究によって、特定の市販のリパーゼ、および特にAlcaligenes sp.由来のリパーゼPLは、20日間(しかし、特定の温度およびpHの条件(55℃、pH8.5))においてPLAを完全に分解可能であることが示されている(Hoshino, A., and Isono, Y. (2002). Degradation of aliphatic polyester films by commercially available lipases with special reference to rapid and complete degradation of poly(L-lactide) film by lipase PL derived from Alcaligenes sp. Biodegradation 13, 141-147)。同様に、市販のプロテーゼは、この能力についてすでに試験されている。市販のプロテアーゼのいくつか(特にバチルス属由来のアルカリプロテアーゼ、および特にサビナーゼ16.0L)は、有効性が認められている。しかし、これらの酵素は、工業的なPLAフィルムを分解し得ない(実験上のフィルムは不定形の表面を有しているので、当該フィルムは、より結晶性の構造を有している工業的なフィルムより分解を受け易い)(Oda, Y. et al., 2000, degradation of Polylactide by Commercial Proteases. Journal of Polymers and the Environment 8, 29-32)。結局のところ、PLA分解の研究に対して最も一般的に使用されている市販の酵素は、Tritirachium album由来のプロテイナーゼKである(Oda, Y. et al., 2000, degradation of Polylactide by Commercial Proteases. Journal of Polymers and the Environment 8, 29-32)。
【0009】
やはり種々の制限がこれらの方法と関連しており、これらの方法は工業的な開発の対象ではない。何よりもまず、多くの場合における有意なPLA分解は、精製された酵素を用いてのみ観察されており、それは、非常に高い生産費を意味しており、相対的に大きくない付加価値(例えば園芸用の鉢)を有して、共通の目的のための使用には一般的に適合しない。次に、使用される微生物の大部分は、研究室株、または通常ではない環境から単離された株のいずれかである。結果として、説明されている酵素活性のほとんどは、天然の環境において最適には至らない条件にある。最後に、試験された微生物および酵素のほとんどは、低分子量のオリゴマーのみを加水分解し得る。これは、巨大な重合体を使用する工業的な処理における微生物および酵素の使用にとって大きな制限である。したがって、新規なPLA分解方法に対する実際の要求がある。
【発明の概要】
【0010】
発明者らは、その業績として、ポリ乳酸を分解する意外な性質を有しているオクロバクテリウム属に属する細菌株を単離している。
【0011】
したがって、本発明の対象は、ポリ乳酸を分解し得ることを特徴とするオクロバクテリウム属に属する細菌株である。
【0012】
また、本発明の対象は、Centre National de la Recherche Scientifiqueの名義において、ブダペスト条約にしたがってCollection Nationale de Cultures de Microorganismesに対して、番号CNCM I-4212を受けて2009年7月23日に寄託されている、オクロバクトルム属に属する細菌株、またはポリ乳酸を分解可能な当該細菌株のバリアントである。
【0013】
また、本発明は、本発明に係る株または当該株のバリアントを含んでいることを特徴とする微生物混合物に関する。
【0014】
また、本発明の対象は、本発明に係る株もしくは当該株のバリアント、または本発明に係る微生物の混合物を含んでいる生成物である。当該生成物は、凍結乾燥されている粉末の形態、当該凍結乾燥されている粉末と必要に応じて栄養素とを含んでいる錠剤の形態、または水性溶液の形態であることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、本発明に係る株または当該株のバリアントによって生成されることを特徴とするポリ乳酸を分解し得る酵素に関する。
【0016】
また、本発明は、ポリ乳酸を分解するための、本発明に係る株もしくは当該株のバリアントの使用、または本発明に記載の上記酵素の使用に関する。
【0017】
また、本発明はポリ乳酸を分解する方法に関する。当該方法は、本発明に係る株もしくは当該株のバリアント、または本発明に係るポリ乳酸を分解し得る酵素と接触することによって分解されるポリ乳酸を接触させる工程を包含していることを特徴とする。
【0018】
〔定義〕
本発明に係る“バリアント”という用語は、
(1)本発明に係る株の天然のバリアント(例えば、選択培地におけるインキュベーション後に、本発明に係る株から自然発生的に得られるバリアント)、または
(2)遺伝子操作(例えば、部位特異的な変異生成またはランダムな変異生成)によって生成される少なくとも1つの変異をそのゲノムに含んでいる株を意味すると意図されている。したがって、(1)の天然のバリアントは、操作者による任意の遺伝子操作なしに、株の天然の変異および適した培地において突然変異したこの株の抽出によってのみ得られる。(2)において、例えばランダムな変異生成法は、変異生成の要因(例えば、放射エネルギー(紫外線、電離放射線、熱)または化学物質(亜硝酸、メタンスルホン酸エチル、Nメチル―Nニトロ―Nニトロドグアニン、Nエチル―Nニトロソウレア、アクリジンオレンジ、硫酸プロフラビンなど))を用いて実施され得る。
【0019】
“変異”という用語は、本発明に係る株のゲノムにおける少なくとも1つのヌクレオチドの付加、欠失または置換を意味している。
【0020】
本発明に係る“CE培地”または“堆肥抽出物”という用語は、本発明に係る細菌およびそのバリアントにとっての培養培地を意味している。当該培養培地は以下の方法にしたがって調製される。
1LのCE培地の調製方法:
100gの堆肥が、qsの1Lの超純水(Millipore社が提供しているMilliQシステム)に対して注ぎ込まれ、16時間(一晩)にわたって攪拌される。混合物は、それから、セルロースフィルター(Whatman、等級4、20〜25μmの孔径)を用いて実施される清澄ろ過の前に、4000gにおいて1時間にわたって遠心分離にかけられる。
固体(または“寒天”)のCE培地を得るために、1.5%(w/v)の寒天が添加され得る。
培地は、それから、120℃(1バール)において20分にわたって乾熱滅菌される。
【0021】
本発明に係る“最少無機培地”という用語は、本発明に係る細菌およびそのバリアントにとっての培養培地を意味している。当該培養培地は、
10mg/LのFeSO・7HO、
200mg/LのMgSO・7HO、
1g/Lの(NHSO
20mg/LのCaC1・2HO、
100mg/LのNaC1、
0.5mg/LのNaMoO・2HO、
0.5mg/LのNaWO
0.5mg/LのMnSO
100mg/Lの酵母エキス、
10.7mMのTris−HCl(pH8)、
qsの超純水(Millipore社が提供しているMilliQシステム)を含んでいる。
培地は、それから、120℃において20分にわたって(1バール)乾熱滅菌される。
【0022】
本発明に係る“ISP2培地”という用語は、本発明に係る細菌およびそのバリアントにとっての培養培地を意味している。当該培養培地は、
4g/Lの酵母エキス、
10g/Lの麦芽エキス、
4g/Lのグルコース、
qsの超純水(Millipore社が提供しているMilliQシステム)を含んでいる。
培地は、それから、120℃において20分にわたって(1バール)乾熱滅菌される。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の対象は、ポリ乳酸を分解可能であることを特徴とするオクロバクテリウム属に属する細菌株である。
【0024】
本発明の対象は、特に、Centre National de la Recherche Scientifiqueの名義において、2009年7月23日付けのブダペスト条約にしたがって、Collection Nationale de Cultures de Microorganismes(CNCM, Institut Pasteur, 25 rue du docteur Roux, F-75724 Paris Cedex 15)に、番号CNCM I-4212を受けて寄託されているオクロバクトルム属に属する細菌株、またはポリ乳酸を分解可能な当該細菌株のバリアントである。
【0025】
発明者らは、ポリ乳酸(PLA)を分解し得る細菌株を庭の堆肥から選択し、性質決定することに実際に成功している。この株をオクロバクテリウム属に分類することが可能であり、したがって、当該株は、Ochrobactrum sp. 37S(番号CNCM I-4212を受けて寄託されている)と名づけられている。
【0026】
オクロバクテリウム属は、種々に汚染された環境の種々のバイオレメディエーション特性のために既に単離されており、これらの株は、例えば、メチルtert−ブチルエーテル、芳香族化合物(特に一部のフェノール化合物の誘導体(例えばノニルフェノールまたは2、4、6トリブロモフェノール))、有機塩素化化合物(例えばエンドスルファン殺虫剤)などといった溶媒を分解し得る。さらに、いくつかの分離株は、重金属を閉じ込め、クロム酸塩および二クロム酸塩の種々の形態を低減させる能力、塩化ビニル(プラスチックPVCの基本となる単量体)の分解能、またはその他に炭化水素分解を促進させ得る乳化エキソポリサッカライドの生成能を示している。しかし、発明者らの知る限り、PLAを分解可能なオクロバクテリウム株について述べている研究はない。
【0027】
本発明に係るオクロバクテリウム属に属する株の大きな利点は、固体条件および液体条件の両方のもとに、単純な培地における高分子量(一般的に、110000から120000Daの間)のPLA重合体を分解可能なことである。さらに、発明者らは、Ochrobactrum sp. 37S株(CNCM I-4212)が、単に堆肥を水に入れることによって生成されるCE培地(堆肥抽出物)に基づいて培養される場合に、PLAを分解する性質を有していることを証明している。
【0028】
したがって、これらのすべての観察は、本発明に係るオクロバクテリウム属に属する株、および特にOchrobactrum sp. 37S株(CNCM I-4212)、ならびにそのバリアントが、特に工業的な堆肥化の条件において、PLA分解の改善を目的とする多くの用途にとって優れた候補物であることを示している。
【0029】
本発明に係るこれらの株およびそれらのバリアントによるポリ乳酸の分解能は、当業者に公知の任意の方法によって評価され得る。特に、本発明に係るこれらの株およびそのバリアントによるポリ乳酸の分解能は、試験Aによって一般的に評価され得る。当該試験Aは以下の工程:
(1)乳化された1g/Lのポリ乳酸を補った無機の最少寒天培地を含んでいるペトリディッシュに、ポリ乳酸の分解能の評価が求められている108〜109CFU/mLの上記株またはバリアントを含んでいる同じ培地における液体培養物を、ストリーキング法によって播種すること、
(2)工程(1)において播種されたペトリディッシュを、22日にわたって37℃の湿式インキュベータ(86〜88%の湿度)においてインキュベートすること、ならびに
(3)ペトリディッシュにおいて増殖しているコロニーの周囲にある半透明の帯域(試験された上記株またはバリアントのポリ乳酸の分解能を示す)の予測される存在を検出することを包含している。
【0030】
“ストリーキング法”は当業者にとって公知である。ストリーキング法は、一般的に、細菌の液体培養物にあらかじめ浸した白金耳を用いてペトリディッシュに播種すること、および寒天培地の表面において前方向および後方向への動作によって筋を付けることである。
【0031】
本発明に係る試験Aの工程(1)に使用されるような、ポリ乳酸を補った無機の最少培地を得るために、110000から120000Daの分子量を有している1g/Lのポリ乳酸は、本発明に係る無機の最少培地において乳化される。乳濁液は、以下の方法で調製される。
まず最初に、乾燥粉末状のPLA(110000〜120000Daの分子量の重合体、Valagro、Poitiers, France)は、1g/Lの最終濃度において所定の培地に加えられる前に、ジクロロメタン(50g/Lのジクロロメタン)に溶解させられる。それから、混合物は、培地におけるPLAの、Ultraturax(登録商標)を用いた分散によって、最高速度(30から40秒間)において均質化される。それから、培地は凝集物の形成を防ぐために直ちに乾熱滅菌される。
最後に、寒天培地を得るために、1.5%(w/v)の寒天が、ポリ乳酸を補った上記無機の最少培地に添加される。それから、乳化された1g/Lのポリ乳酸を補ったこの無機の最少寒天培地はペトリディッシュに注がれる。
【0032】
また、本発明は、本発明に係る株および当該株のバリアントを含んでいることを特徴とする微生物の混合物に関する。特に、この微生物の混合物は、ポリ乳酸を分解する性質を有している他の微生物を含み得る。これらの微生物は一般的に細菌または糸状菌である。さらに、これらの微生物は、Mayumi et al.(Mayumi, D. et al. (2008), Applied Microbiology and Biotechnology 79, 743-750)によって示されているように、低分子量のPLA重合体(20,000Da以下)を分解する性質を有しているフィルミクテス門に属する細菌(Firmus cutis)から選択され得る。当該細菌の例は、桿菌に分類される細菌株、特にBacillus cereus spp.の細菌株またはBacillus clausii spp.の細菌株である。
【0033】
また、本発明に係る株およびそのバリアントならびに本発明に係る微生物は、種々の形態において一般的に調製されている。したがって、本発明はまた、本発明に係る株もしくは当該株のバリアント、または本発明に係る微生物の混合物を含んでいる生成物(または組成物)に関する。当該生成物は、凍結乾燥された粉末の形態、上記凍結乾燥された粉末と必要に応じて栄養素(ビタミン、ミネラルなど)とを含んでいる錠剤の形態、または水性溶液の形態であることを特徴とする。上記水性溶液は、本発明に係る株もしくはそのバリアント、または必要に応じて本発明に係る微生物の混合物の少なくとも1つを、好適な培養培地(例えば、本発明に係る無機の最少培地または本発明に係るCE培地(堆肥抽出物))において培養することによって一般的に得られる。
【0034】
また、本発明は、本発明に係る株または当該株のバリアントによって生成されることを特徴とする、ポリ乳酸を分解可能な酵素に関する。この酵素またはPLA解重合酵素は、当該酵素をコードしている遺伝子のクローニングによって、一般的に性質決定され得る。クローニングによる上記酵素のこの性質決定は、Mayumi, D. et al., 2008, Applied Microbiology and Biotechnology 79, 743-750によって記載の方法から改良されている方法にしたがって、特に実施され得る。上記酵素をコードしている遺伝子のクローニングによる酵素の性質決定は、以下の段階:
(1)完全ISP2培地において培養されたOchrobactrum sp. 37S株(番号CNCM I-4212を受けて寄託されている)から精製されたDNAは、抽出され、酵素Sau3AIを用いて部分的に消化され;
(2)2〜4kbの得られた断片は、それから、酵素BamHIを用いてあらかじめ消化されているプラスミドpUC18(Toyobo, Osaka, Japan)にクローニングされ;
(3)組換えプラスミドは、形質転換によってE. coliの受容株DH5αに挿入され;
(4)形質転換されたE. coliのDH5αの40000クローン(Ochrobactrum sp. 37S株の全ゲノムを統計学的に網羅している)は、1つのディッシュにつき約500クローンの割合において、乳化された1g/LのPLA(110000〜120000Daの分子量)および1.5%の寒天を補ったLB(Luria-Bertani)寒天培地(Akutsu-ShigenoY. et al., 2003, vol. 69, 2498-2504に適応されている培地)が入っているペトリディッシュに播かれ;
(5)プラスミドは、ペトリディッシュにおける半透明の帯域を形成している細菌から抽出され;
(6)酵素(PLA解重合酵素)をコードしている遺伝子は、挿入配列の配列決定および既知の酵素配列との比較(BLAST)によって最終的に同定される、
を包含している。
【0035】
続く酵素の精製段階を容易にするするために、His・Tag(登録商標)ユニットに対応するタグは、pET−24a(+)型の細菌の発現プラスミド(Novagen, Madison, USA)における所定の遺伝子のクローニングの後に、一般的に導入される。酵素は、それから、ニッケルカラム(Pharmacia, Biotech, Upsala, Sweden)に、粗製の酵素抽出物(形質転換された細菌株の超音波処理後に得られる)を通すことによって、一段階において精製され得る。カラムから溶出された画分におけるPLA解重合酵素活性は、それから、Teeraphatpornchai et al.(2003, Biotechnology Letters, 25, 23-28)によって示されているように、PLA乳濁物の濁度の低下を測定することによって決定される。PLA解重合酵素活性を示している画分は、それからプールされ、超遠心分離(YM10 membranes; Millipore, Bedford, USA)によって濃縮される。
【0036】
また、本発明は、ポリ乳酸を分解するための、本発明に係る株もしくは当該株のバリアントの使用、または本発明に係る酵素の使用に関する。
【0037】
また、本発明はポリ乳酸を分解するための方法に関する。当該方法は、本発明に係る株もしくは当該株のバリアント、または本発明に係るポリ乳酸を分解可能な酵素と、分解されてポリ乳酸を接触させることを包含していることを特徴とする。
【0038】
特定の一実施形態において、本発明に係る株もしくは当該株のバリアントと、分解されるポリ乳酸を接触させることによって構成されている上記工程は、本発明に係る株または当該株のバリアントを用いて、分解される上記ポリ乳酸に播種することによって構成されている。
【0039】
したがって、本発明に係る方法は、ポリ乳酸を含んでいる培地、または全体もしくは一部がポリ乳酸から形成されている材料を含んでいる培地におけるポリ乳酸の分解にとって特に好適である。当該材料の例は、一般的に、家庭の廃棄物または産業廃棄物の混合物、有機廃棄物の混合物、特に堆肥、液体肥料、活性化されたヘドロなどである。
【0040】
したがって、ポリ乳酸を分解する本発明に係る方法は、多くの用途、特にポリ乳酸を含んでいる廃棄物の処理する用途を有している。さらに、ポリ乳酸を分解する本発明に係る方法は、従来の焼却処理と異なり、温室効果ガスを生成しないという利点を有している。さらに、本発明に係る方法の大きな利点は、本発明に係る細菌およびそのバリアント、または本発明に係る酵素による、再生可能な有機物質(特に有機酸)へのPLAの変換である。
【0041】
一般的に、ポリ乳酸、または本発明に係る細菌株もしくは当該細菌株のバリアントによって分解されたPLAは、
L立体配座の乳酸のホモ重合体、
D立体配座の乳酸のホモ重合体、
L立体配座の乳酸およびD立体配座の乳酸の共重合体、または
上述の重合体の少なくともいずれか1つおよび他の重合体の共重合体(乳酸が当該共重合体の組成において少なくもと90%を示している)
から選択される。
【0042】
さらに、本発明に係る細菌株もしくはそのバリアントによって分解されるポリ乳酸(すなわちPLA)はまた、上述の通り、全体または一部がポリ乳酸から形成されている材料を一般的に包含している。本発明によれば、部分的にポリ乳酸からなる材料は、一般的に、上述の通りポリ乳酸から部分的に形成されており、少なくとも1つの他の成分(例えば、特に少なくとも1つの他のバイオプラスチック(エコポリマー)または非生分解性のプラスチック)から部分的に形成されている材料である。
【0043】
特定の一実施形態において、本発明に係る細菌株またはそのバリアントによって分解される上記ポリ乳酸は、140000Da未満、特に2000〜140000Daの分子量のポリ乳酸である。より詳細には、本発明に係る細菌株またはそのバリアントによって分解される上記ポリ乳酸は、100000〜130000Da、さらに詳細には110000から120000Daの分子量を有している。
【0044】
本発明の他の局面および利点は、以下の実施例において示されている。当該実施例は、例証であり、本発明の範囲を限定しないとみなされるべきである。
【実施例】
【0045】
〔1.CNCM I-4212株の単離〕
PLAの分解能を有している株は、以下のように庭の堆肥から単離された。
【0046】
PLAのシート(85mm×120mm×1mm、110000から120000Daの分子量、Valagro, Poitiers, France)は、庭の単なる堆肥(Iteuil, Vienne departement (the Vienne county), France)において45日にわたって培養された。それから、PLAシート(バイオフィルム)の表面において成長していた生体物質は、金属の薬さじを用いて掻き取ることによって回収された。
【0047】
それから、100mgのバイオフィルムは、1mLのリン酸緩衝液(0.1M、pH7)に再懸濁された。それから、この250μLの懸濁液は、1g/LのPLA(分子量110000〜120000Daの重合体)の乳濁液を含んでいる液体のCE培地に播種するために使用され、後述の項目3.2.2に記載の通りに調製された。生じた前培養物は、3日にわたって37℃において振盪(200rpm)しながら培養された。
【0048】
それから、上記CE液体培地CE+PLAにおける細菌株の濃縮(増殖)の工程は、5mLの同じ培地における1組の再播種物(10倍希釈)を用いて、同じ条件(3日にわたる37℃における振盪培養)のもとに実施された。
【0049】
最後に、最終的な培養物の分取物が取り出されて、滅菌したmilliQ水の10−5の希釈物として懸濁液を得た。100μLのこの希釈物は、それから、後述の項目3.1.2に記載の通りに調製されたPLA(110000〜120000Daの分子量の重合体)の乳濁物を1g/Lにおいて含んでいるCE寒天培地CEに播かれた。それから、ディッシュは22日にわたって37℃のインキュベータにおいてインキュベートされた。
【0050】
この培地において、PLA分解を反映している半透明な帯域によって囲まれているコロニーが単離された。この株は、回収され、再懸濁され、ストリーキング法を用いて同じ培地に播かれた。
【0051】
〔2.CNCM I-4212株の同定〕
単離された株(項目1.を参照)の増殖は、まず最初に、種々の液体完全培地において試験された。この株は、培地ISP2(酵母エキス4g/L、麦芽エキス10g/L、グルコース4g/L、qsの超純水)における高い増殖能を示し得た。すべてのDNAは、Schafer and Muyzer(Schafer, H., and Muyzer, G. (2001) Methods in Microbiology, vol. 30, ed. J.H. Paul, London: Academic Press, 425-468)によって説明されている通りに、この培地における液体培養物から抽出された。それから、16S RNAをコードしている遺伝子の一部が、特異的なプライマー(配列番号1および配列番号2)を用いて増幅され、配列決定された。
【0052】
性質決定に使用されたプライマの配列は、
341F-GC:5’CGCCCGCCGCGCCCCGCGCCCGTCCCGCCGCCCCCGCCCGCCTACGGGAGGCAGCAG3’(配列番号1)および
907R:5’CCGTCAATTCCTTTRAGTTT3’(配列番号2)である(Muyzer G. et al. (1993), Appl. Environ. Microbiol. 59, 695-700)。
【0053】
データベース(Blast, ch.embnet.org)を用いた得られた配列の比較によって、系統樹の作成の後に、当該株をオクロバクテリウム属に分類することができた。したがって、株CNCM I-4212は、発明者によってOchrobactrum sp. 37Sと名づけられた。
【0054】
〔3.ポリ乳酸の分解〕
(3.1.寒天培地)
110000〜120000Daの分子量を有しているポリ乳酸の、CNCM I-4212株による分解能は、PLAを補った種々の寒天培地において試験された。
【0055】
3.1.1.分子量110000〜120000Daを有しているポリ乳酸を補った無機の最少寒天培地
110000〜120000Daの分子量を有しているポリ乳酸を補った上記無機の最少寒天培地を得るために、110000〜120000Daの分子量を有している1g/Lのポリ乳酸は、本発明に係る無機の最少培地において乳化された。乳濁物は以下の方法によって調製された。
【0056】
乾燥粉末状のPLA(110000〜120000Daの分子量の重合体、Valagro, Poitiers, France)は、まず最初に、1g/Lの最終濃度において所定の培地に添加される前に、ジクロロメタン(50g/Lのジクロロメタン)に溶解させる。それから、混合物は、培地におけるPLAの、Ultraturax(登録商標)を用いた分散によって、最高速度(30から40秒間)において均質化される。それから、培地は、凝集物の形成を防ぐために、直ちに乾熱滅菌(20分間、120℃、1バール)される。寒天培地を得るために、1.5%(w/v)の寒天は、ポリ乳酸を補った上記無機の最少培地に対して最後に添加される。
【0057】
3.1.2.分子量110000〜120000Daを有しているポリ乳酸を補った寒天CE培地
ポリ乳酸を補った上記寒天CE培地を得るために、110000〜120000Daの分子量の1g/Lのポリ乳酸は、項目3.1.1に示されているように、本発明に係るCE培地において乳化された。寒天培地を得るために、1.5%(w/v)の寒天は、ポリ乳酸を補った上記CE培地に添加され、それから、ペトリディッシュに注がれた。
【0058】
3.1.3.播種
項目3.1.1.および3.1.2に記載の通りに準備されたペトリディッシュは、10〜10CFU/mLのCNCM I-4212株を含んでいる液体培養物(CE培地または無機の最少培地)を用いて、ストリーキング法によって播種された。それから、ペトリディッシュは、37℃のインキュベータにおいて22日にわたって培養された。
【0059】
3.1.4.観察
PLA分解は、本発明に係る細菌株のコロニーの周囲における明らかに半透明な帯域の出現を通して、長期にわたって(播種後5日から22日間)評価された。
【0060】
本発明に係る細菌株のコロニーは、使用された培養培地に関係なく、22日にわたる培養の後に、PLA分解を反映している明らかに半透明な帯域に囲まれていた。
【0061】
しかし、ポリ乳酸を補った無機の最少寒天培地における培養は、ポリ乳酸を補った寒天培地CE上において観察されたPLA分解と比べて、PLA分解を促進させ得る。
【0062】
(3.2.液体培地)
また、110000〜120000Daの分子量を有しているポリ乳酸の、CNCM I-4212株による分解能は、液体培地において評価された。
【0063】
3.2.1.分子量110000〜120000Daを有しているポリ乳酸を補った無機の最少液体培地
ポリ乳酸を補った無機の最少液体培地を得るために、110000〜120000Daの分子量有している1g/Lのポリ乳酸は、本発明に係る無機の最少培地において乳化された。
【0064】
3.2.2.分子量110000〜120000Daを有しているポリ乳酸を補った液体CE培地:
ポリ乳酸を補ったCE液体培地を得るために、110000〜120000Daの分子量を有している1g/Lのポリ乳酸は、項目3.1.1.に記載の通りに本発明に係るCE培地において乳化された。
【0065】
3.2.3.播種
項目3.2.1.および3.2.2.に記載の通りに準備された200mLのCE培地または最少無機培地は、約5×10CFUのCNCM I-4212株を用いて播種されたか、または播種されなかった(コントロール)。それから、これらの培地を、150rpmにおいて振盪しながら37℃において30日にわたって培養した。
【0066】
3.2.4.観察
培養が終了(D+30)するとすぐに、PLAは、ジクロロメタンによって培地から抽出された。より詳細には、200mLのジクロロメタンは、200mLの培養液に添加された。強く攪拌することによって均一な相を得た後に、混合物は10分にわたってデカンテーションされ、それから、上部の相を取り出して当該相を1Lのガラスのビーカーに移した。溶媒を完全に蒸発(ドラフトチャンバー(Sorbonne)において3日間)させた後、残余のPLA(分解されなかった)は、ビーカーにおける茶色の堆積物の出現によって評価された。その結果から、残余のPLAは、CNCM I-4212株の存在下において有意に減少していたことが示された。同一の結果が培地と無関係に得られた。
これらの結果は、CNCM I-4212株が、液体条件下、さらに堆肥抽出物である培地CEによって構成されている単純な培地において、高分子量のPLA重合体を分解可能であることを証明している。
【0067】
本発明の説明の全体を通して、先行技術に基づく参照文献について言及されている。これらの参照文献の内容は、参照によって本願の明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸を分解可能であることを特徴とするオクロバクトルム属に属する細菌株。
【請求項2】
Centre National de la Recherche Scientifiqueの名義において、ブダペスト条約にしたがってCollection Nationale de Cultures de Microorganismesに対して、番号CNCM I-4212を受けて2009年7月23日に寄託されている、オクロバクトルム属に属する細菌株、またはポリ乳酸を分解可能な当該細菌株のバリアント。
【請求項3】
請求項1または2に記載の細菌株または当該細菌株のバリアントを含んでいることを特徴とする微生物の混合物。
【請求項4】
請求項1もしくは2に記載の細菌株もしくは当該細菌株のバリアント、または請求項3に記載の微生物の混合物を含んでいる生成物であって、
凍結乾燥されている粉末の形態、当該凍結乾燥されている粉末と必要に応じて栄養素とを含んでいる錠剤の形態、または水性溶液の形態であることを特徴とする生成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の細菌株または当該細菌株のバリアントによって生成されることを特徴とするポリ乳酸を分解可能な酵素。
【請求項6】
ポリ乳酸を分解するための、請求項1もしくは2に記載の細菌株もしくは当該細菌株のバリアントの使用、または請求項5に記載の酵素の使用。
【請求項7】
上記ポリ乳酸が140000Da未満の分子量を有していることを特徴とする請求項6に記載の使用。
【請求項8】
請求項1もしくは2に記載の細菌株もしくは当該細菌株のバリアント、または請求項5に記載のポリ乳酸を分解可能な酵素と、分解されるべきポリ乳酸を接触させる工程を包含していることを特徴とするポリ乳酸を分解する方法。
【請求項9】
上記ポリ乳酸が140000Da未満の分子量を有していることを特徴とする請求項8に記載の方法。

【公表番号】特表2013−506414(P2013−506414A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−531486(P2012−531486)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052076
【国際公開番号】WO2011/039489
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(506066777)サントゥル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティ フィック セーエヌエールエス (22)
【出願人】(512086080)ウニヴェルシテ ドゥ ポワティエ (1)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE POITIERS
【住所又は居所原語表記】15,rue de l’Hotel Dieu,F−86000 Poitiers,France
【Fターム(参考)】